IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東レ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-分離膜エレメント 図1
  • 特許-分離膜エレメント 図2
  • 特許-分離膜エレメント 図3
  • 特許-分離膜エレメント 図4
  • 特許-分離膜エレメント 図5
  • 特許-分離膜エレメント 図6
  • 特許-分離膜エレメント 図7
  • 特許-分離膜エレメント 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】分離膜エレメント
(51)【国際特許分類】
   B01D 63/10 20060101AFI20241016BHJP
   B01D 63/00 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
B01D63/10
B01D63/00 510
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2023561236
(86)(22)【出願日】2023-09-26
(86)【国際出願番号】 JP2023035035
(87)【国際公開番号】W WO2024095643
(87)【国際公開日】2024-05-10
【審査請求日】2024-04-15
(31)【優先権主張番号】P 2022174183
(32)【優先日】2022-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】誉田 剛士
(72)【発明者】
【氏名】花田 茂久
(72)【発明者】
【氏名】高木 健太朗
(72)【発明者】
【氏名】谷口 秀
(72)【発明者】
【氏名】吉冨 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】西岡 琢治
(72)【発明者】
【氏名】宮下 雅臣
(72)【発明者】
【氏名】小野 楓佳
【審査官】相田 元
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-184984(JP,A)
【文献】特開2022-024469(JP,A)
【文献】国際公開第2021/039846(WO,A1)
【文献】特開2019-214040(JP,A)
【文献】特開2021-090952(JP,A)
【文献】特開2015-009182(JP,A)
【文献】国際公開第2007/052529(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/221103(WO,A1)
【文献】特表2018-523566(JP,A)
【文献】特表2020-519439(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
B01D 61/00-71/82
C02F 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
集水管、供給側の面と透過側の面とを有する分離膜、前記供給側の面に配置された供給側流路材、および前記透過側の面に配置された透過側流路材を備え、
前記分離膜、前記供給側流路材および前記透過側流路材が、前記集水管の周りに巻回された分離膜エレメントであって、
前記供給側流路材は、一方向に並んだ、繊維状物Aから構成される複数の繊維状列X、および前記繊維状列Xとは異なる方向に並んだ、繊維状物Bから構成される複数の繊維状列Yとが互いに立体交差して交点を形成したネット形状であり、
前記供給側流路材の交点部以外の繊維状物の糸径が交点部の糸径に比べて小さく、
供給水の流れ方向に平行かつ前記供給側流路材の平面方向に対して垂直な平面において、前記繊維状物AおよびBの少なくともいずれかの交点部以外の切断面と前記分離膜との距離が最小となる前記切断面の外周上の点をP、Pよりも供給水の流れ下流側において、前記分離膜との距離と同じ側の距離が最大となる前記切断面の外周上の点をQとし、Pと前記分離膜の距離をL、Qと前記分離膜の距離をL、PからQへの仰角をθ[°]としたとき、前記供給側流路材の交点部以外の繊維状物の50%以上の部分において、θ×(1-L/L>15の関係を満たし、かつ前記切断面においてPとQを結ぶ外周のうち、分離膜面に近い側の外周lと、分離膜面から遠い側の外周lを凸包する線分l’によって形成される図形の面積に対する前記切断面の面積の割合をαとすると、α≧70%であり、かつLが前記供給側流路の厚みDの15%以下であることを特徴とする、分離膜エレメント。
【請求項2】
θ×(1-L/L>20かつθ>43°の関係を満たすことを特徴とする、請求項1に記載の分離膜エレメント。
【請求項3】
θ×(1-L/L>24かつθ>46°の関係を満たすことを特徴とする、請求項1に記載の分離膜エレメント。
【請求項4】
前記切断面において、前記供給側流路材の厚み方向の最大幅をW、前記切断面の厚み方向の中心を通り前記供給水の流れ方向と平行な直線と、前記供給側流路の厚み方向の中心を通り前記供給水の流れ方向と平行な直線との距離をWとしたとき、W-W/2≧0の関係を満たすことを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の分離膜エレメント。
【請求項5】
前記切断面の供給水の流れ方向後部において、突起物を持つことを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載の分離膜エレメント。
【請求項6】
α≧90%であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の分離膜エレメント。
【請求項7】
前記供給側流路材が斜交ネットであることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の分離膜エレメント。
【請求項8】
前記供給側流路材の供給水の流れ方向の交点間隔が前記供給側流路材の厚みの5倍以上10倍以下であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の分離膜エレメント。
【請求項9】
前記供給側流路材の供給水の流れ方向の交点間隔が前記供給側流路材の厚みの5倍以上7倍以下であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の分離膜エレメント。
【請求項10】
前記供給側流路材の供給水の流れ方向の交点間隔が前記供給側流路材の厚みの8倍以上10倍以下であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の分離膜エレメント。
【請求項11】
請求項1~3のいずれか1項に記載の分離膜エレメントを用いた液体のろ過方法。
【請求項12】
請求項1~3のいずれか1項に記載の分離膜エレメントを用いた液体分離装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不純物を含む種々の液体から不純物を分離するため、特に海水の淡水化、かん水の脱塩、超純水の製造または排水処理などに用いるための分離膜エレメントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
海水およびかん水などに含まれるイオン性物質を除くための技術においては、近年、省エネルギーおよび省資源のためのプロセスとして、分離膜エレメントによる分離法の利用が拡大している。分離膜エレメントによる分離法に使用される分離膜は、その孔径や分離機能の点から、精密ろ過膜、限外ろ過膜、ナノろ過膜、逆浸透膜および正浸透膜に分類される。これらの膜は、例えば海水、かん水および有害物を含んだ水などからの飲料水の製造、工業用超純水の製造、並びに排水処理および有価物の回収などに用いられており、目的とする分離成分及び分離性能によって使い分けられている。
【0003】
分離膜エレメントとしては様々な形態があるが、分離膜の一方の面に原水を供給し、他方の面から透過流体を得る点では共通している。分離膜エレメントは、束ねられた多数の分離膜を備えることで、1個の分離膜エレメントあたりの膜面積が大きくなるように、つまり1個の分離膜エレメントあたりに得られる透過流体の量が大きくなるように形成されている。分離膜エレメントとしては、用途や目的にあわせて、スパイラル型、中空糸型、プレート・アンド・フレーム型、回転平膜型、平膜集積型などの各種の形状が提案されている。
【0004】
例えば、逆浸透ろ過には、スパイラル型分離膜エレメントが広く用いられる。スパイラル型分離膜エレメントは、集水管と、集水管の周囲に巻き付けられた分離膜ユニットとを備える。分離膜ユニットは、供給水としての原水(つまり被処理水)を分離膜表面へ供給する供給側流路材、原水に含まれる成分を分離する分離膜、及び分離膜を透過し供給側流体から分離された透過流体を集水管へと導くための透過側流路材が積層されることで形成される。スパイラル型分離膜エレメントは、原水に圧力を付与することができるので、透過流体を多く取り出すことができる点で好ましく用いられている。
【0005】
分離膜エレメント性能を高めるためには供給側流路の圧力損失を下げつつ、膜面で供給水中の溶存塩が濃縮されることにより膜面塩濃度が局所的に高くなる、濃度分極現象をできるだけ抑制できるほうが、分離膜エレメントへの印加圧力をロスすることなく濾過へ使用できる点で好ましい。そこで、供給側流路材による分離膜エレメントの性能向上が提案されている。
【0006】
具体的には、特許文献1では、供給側流路材中の繊維状物の交点と交点の間の繊維が細く、供給水の流れ面に垂直方向の糸径よりも、平行方向の糸径が大きい断面部分を有することで、圧力損失を低減させたネットが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】日本国特開2007-117949号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記した分離膜エレメントは、分離膜面に供給水流れの低速領域が局所的に発生しやすいため、濃度分極現象を十分に抑制しているとはいえず、印加圧力をロスする場合があった。そこで本発明は、供給側流路の圧力損失及び濃度分極を抑制することで、印加圧力のロスを抑制可能な分離膜エレメントを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明およびその好ましい態様は、以下の構成からなる。
【0010】
[1] 集水管、供給側の面と透過側の面とを有する分離膜、前記供給側の面に配置された供給側流路材、および前記透過側の面に配置された透過側流路材を備え、前記分離膜、前記供給側流路材および前記透過側流路材が、前記集水管の周りに巻回された分離膜エレメントであって、前記供給側流路材は、一方向に並んだ、繊維状物Aから構成される複数の繊維状列X、および前記繊維状列Xとは異なる方向に並んだ、繊維状物Bから構成される複数の繊維状列Yとが互いに立体交差して交点を形成したネット形状であり、前記供給側流路材の交点部以外の繊維状物の糸径が交点部の糸径に比べて小さく、供給水の流れ方向に平行かつ前記供給側流路材の平面方向に対して垂直な平面において、前記繊維状物AおよびBの少なくともいずれかの交点部以外の切断面と前記分離膜との距離が最小となる前記切断面の外周上の点をP、Pよりも供給水の流れ下流側において、前記分離膜との距離と同じ側の距離が最大となる前記切断面の外周上の点をQとし、Pと前記分離膜の距離をL、Qと前記分離膜の距離をL、PからQへの仰角をθ[°]としたとき、前記供給側流路材の交点部以外の繊維状物の50%以上の部分において、θ×(1-L/L>15の関係を満たし、かつ前記切断面においてPとQを結ぶ外周のうち、分離膜面に近い側の外周lと、分離膜面から遠い側の外周lを凸包する線分l’によって形成される図形の面積に対する前記切断面の面積の割合をαとすると、α≧70%であり、かつLが前記供給側流路の厚みDの15%以下であることを特徴とする、分離膜エレメント。
[2] θ×(1-L/L>20かつθ>43°の関係を満たすことを特徴とする、上記[1]に記載の分離膜エレメント。
[3] θ×(1-L/L>24かつθ>46°の関係を満たすことを特徴とする、上記[1]に記載の分離膜エレメント。
[4] 前記切断面において、前記供給側流路材の厚み方向の最大幅をW、前記切断面の厚み方向の中心を通り前記供給水の流れ方向と平行な直線と、前記供給側流路の厚み方向の中心を通り前記供給水の流れ方向と平行な直線との距離をWとしたとき、W-W/2≧0の関係を満たすことを特徴とする、上記[1]~[3]のいずれかに記載の分離膜エレメント。
[5] 前記切断面の供給水の流れ方向後部において、突起物を持つことを特徴とする、上記[1]~[4]のいずれかに記載の分離膜エレメント。
[6] α≧90%であることを特徴とする、上記[1]~[5]のいずれかに記載の分離膜エレメント。
[7] 前記供給側流路材が斜交ネットであることを特徴とする、上記[1]~[6]のいずれかに記載の分離膜エレメント。
[8] 前記供給側流路材の供給水の流れ方向の交点間隔が前記供給側流路材の厚みの5倍以上10倍以下であることを特徴とする、上記[1]~[7]のいずれかに記載の分離膜エレメント。
[9] 前記供給側流路材の供給水の流れ方向の交点間隔が前記供給側流路材の厚みの5倍以上7倍以下であることを特徴とする、上記[1]~[7]のいずれかに記載の分離膜エレメント。
[10] 前記供給側流路材の供給水の流れ方向の交点間隔が前記供給側流路材の厚みの8倍以上10倍以下であることを特徴とする、上記[1]~[7]のいずれかに記載の分離膜エレメント。
[11] 上記[1]~[10]のいずれかに記載の分離膜エレメントを用いた液体のろ過方法。
[12] 上記[1]~[10]のいずれかに記載の分離膜エレメントを用いた液体分離装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明によって、分離膜面に供給水の渦を形成し、膜面濃度分極を抑制しつつ、供給水流路の圧力損失を抑制できるため、造水量、脱塩率に優れた分離膜エレメントを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、分離膜エレメントの一例を示す一部展開斜視図である。
図2図2は、実施形態の供給側流路材の一例を示す平面図である。
図3図3は、実施形態の供給側流路材の一例を示す断面図である。
図4図4は、供給側流路材の一例を示す断面図である。
図5図5は、実施形態の供給側流路材の一例を示す断面図である。
図6図6(a)~(e)は、実施形態の供給側流路材の例を示す供給水の流れ方向に平行かつ前記供給側流路材の平面方向に対して垂直な平面断面図である。
図7図7(f)~(k)は、実施形態以外の供給側流路材の例を示す供給水の流れ方向に平行かつ前記供給側流路材の平面方向に対して垂直な平面断面図である。
図8図8(l)~(o)は、実施形態以外の供給側流路材の例を示す供給水の流れ方向に平行かつ前記供給側流路材の平面方向に対して垂直な平面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0014】
<分離膜エレメント>
本実施形態の分離膜エレメントは、少なくとも集水管と、分離膜と、供給側流路材と、透過側流路材とを備える。
【0015】
図1に示すスパイラル型分離膜エレメント1では、供給側の流路を形成する供給側流路材2として、高分子製のネットが使用されている。また、透過側流路材4として、分離膜3の落ち込みを防ぎ、かつ透過側の流路を形成させる目的で、供給側流路材2よりも間隔が細かいトリコットが使用されている。透過側流路材4と該透過側流路材4の両面に重ね合わせて封筒状に接着された分離膜3とにより、封筒状膜5が形成される。封筒状膜5の内側が透過側流路を構成している。供給側流路材2と交互に積層された封筒状膜5は、開口部側の所定部分を集水管6の外周面に接着しスパイラル状に巻囲される。図1に示すx軸の方向が集水管6の長手方向である。またy軸の方向が集水管6の長手方向と垂直な方向である。
【0016】
スパイラル型分離膜エレメント1では、一方の側面から、供給水7が供給され、供給水7は、集水管6と平行に流れながら、透過水8と濃縮水9とに徐々に分離される。透過水8は、供給水7が供給される反対の側面からスパイラル型分離膜エレメント1の外部へと出ていく。
【0017】
この方式においては、供給水7がスパイラル型分離膜エレメント1の一方の側面から他方の側面へ流れるため必然的に膜に接している距離が十分にあり、それにより供給水7が、透過水8と濃縮水9とに十分に分離されるという特徴がある。また、分離膜エレメントとしては様々な形態があるが、分離膜の一方の面に供給水を供給し、他方の面から透過水を得る点では共通している。本実施形態の分離膜エレメントとしては、用途や目的に合わせて、スパイラル型以外にも、プレート・アンド・フレーム型や平膜集積型等の平膜を使用する各種形状の分離膜エレメントに採用することができる。
【0018】
<供給側流路>
(供給側流路材)
分離膜エレメントにおいて、膜面濃度分極を抑制するためには、繊維状物後方の膜面に供給水の渦(流れ)を生み出すことが重要である。滞留箇所を減らすことで塩濃度の上昇が抑制されるからである。
【0019】
そこで、本実施形態の供給側流路材は、図2に示す通り、一方向に並んだ、繊維状物21(繊維状物A)から構成される複数の繊維状列X、および前記繊維状列Xとは異なる方向に並んだ、繊維状物22(繊維状物B)から構成される複数の繊維状列Yとが互いに立体交差して交点を形成したネット形状であり、供給側流路材の交点部以外の繊維状物の糸径が交点部の糸径に比べて小さいことを特徴とする。
【0020】
また、供給水の流れ方向と平行方向かつ交点部を通らず、かつ前記供給側流路材の平面方向に対して垂直方向な任意の平面10での前記繊維状物21または22の切断面において、図3に示す通り、前記繊維状物21および22の少なくともいずれかの交点部以外の切断面と前記分離膜との距離が最小となる前記切断面の外周上の点をP、点Pよりも供給水の流れ下流側において、前記分離膜との距離と同じ側の距離が最大となる前記切断面の外周上の点をQとし、点Pと前記分離膜の距離をL、点Qと前記分離膜の距離をL、点Pから点Qへの仰角をθ[°]としたとき、前記供給側流路材の交点部以外の繊維状物の50%以上の部分において、θ×(1-L/L>15の関係を満たすことを特徴とする。
【0021】
一般的に、拡がり角φにて管径がDからDへと漸次的に変化する円管を進む流体の漸拡損失係数は、「演習で学ぶ「流体の力学」入門 第2版」(2018)によると、7.5°<φ<35°の範囲において、φ1.22(1-D/Dに比例する。
【0022】
本願においては経験的にφの範囲は特に限定せずに、φ(1-D/Dに比例すると近似する。漸拡損失係数が大きいほど、膜面からの流れの剥離を促進し、繊維状物後方の膜面に渦を形成させやすくなる。つまり、膜面の低速領域が減少し、濃度分極を抑制することが可能となる。(1-L/L≦1であることから、θ≦15°であれば、θ×(1-L/L≦15となるため、上記関係を満たさなくなる。
【0023】
一方で、θ>15°であれば、L/Lの値が律速で上記関係を満たすかどうかが決定される。繊維状物後方の膜面に渦を形成させやすくするためには、θの値は20°以上であることが好ましく、45°以上であることがより好ましい。
【0024】
また、θ×(1-L/L>20かつθ>43°の関係を満たすことが好ましく、θ×(1-L/L>24かつθ>46°の関係を満たすことがより好ましい。繊維状物後方の膜面に渦をより形成させやすく、より高い濃度分極を抑制する効果が得られ、優れた造水量と除去率が得られる。
【0025】
圧力損失による透過水量の低下を抑制するために、供給側流路中心線に近い側の繊維状物断面周面には欠けが無い形状が好ましいため、前記切断面において点Pと点Qを結ぶ外周のうち、分離膜面に近い側の外周lと、分離膜面から遠い側の外周lを凸包する線分l’によって形成される図形の面積に対する前記切断面の面積の割合をαとすると、α≧70%であることを特徴とする。より好ましくは、α≧90%である。なお、本明細書において、「凸包する線分」とは、与えられた形状を凹みのないように覆った図形の外周である。具体的には、図4に示すように、外周lにおいて、外接線を引くことのできる任意の点Rに対して、前記外接線が点R以外で前記外周と点Sで交差する場合、線分RSと前記外周で形成される図形をAとしたとき、この操作を全ての点Rに対して実施して得られるAの和集合の外周のうち、外周lと重ならない部分を線分l’として得ることができる。
【0026】
(供給側流路材の形態)
供給側流路材を構成する繊維状物21及び繊維状物22は集水管に対して平行ではない(斜交である)ことが好ましい。繊維状物が集水管に対して斜交であることで、繊維状物近傍の分離膜面の膜面塩濃度上昇が抑えられ、濃度分極を抑制することができ、好ましい。
【0027】
(供給側流路材の厚み)
供給側流路材の厚みDは、繊維状列に平行な縦断面を観察し、最も厚い部分の厚みを測定した値である。本実施形態において、交点部は交点部以外よりも太径の繊維で構成されているため、供給側流路材の厚みは交点部の厚みと同義である。
【0028】
本実施形態において、供給側流路材の平均厚さは、好ましくは0.30mm以上4.0mm以下、より好ましくは0.45mm以上2.0mm以下である。供給側流路材の平均厚さがこの範囲であれば、圧力損失が大きくなりすぎず、膜面や供給側流路材に堆積し得るファウラントなどの物質が詰まりにくい十分な供給側流路を確保でき、供給水中の不純物や、微生物などのファウラントによる供給側流路の閉塞を抑制し、ポンプの必要動力を大きくすることなく、長期にわたり安定的に分離膜エレメントの運転を行うことが可能となる。この範囲よりも供給側流路材が薄くなると、圧力損失が大きくなったり、ファウリングが進行しやすくなる原因になる。この範囲よりも供給側流路材が厚くなると、決まった外径の分離膜エレメントに搭載可能な分離膜の面積が極端に減り、分離膜エレメントとして十分な透水性能を示さなくなる。
【0029】
なお、供給側流路材の厚みの測定には市販のマイクロスコープやX線CT測定装置を用いて、繊維状列に平行な縦断面を観察し、その距離を測定することで求めることができ、測定モードを用いて交点部または供給側流路材の厚みを任意の30カ所測定して、その平均値とすることができる。
【0030】
また、供給側流路材の厚さのばらつきは、供給側流路材の平均厚さの0.85倍以上1.15倍以下であることが好ましい。供給側流路材の厚さのばらつきがこの範囲であれば、分離膜エレメントに均一に供給水を供給できるため、分離膜の性能を均一に発揮させることができる。
【0031】
(供給側流路材と分離膜の距離)
供給側流路材と分離膜の距離Lは、図2に示したように、供給側流路材を供給水の流れ方向と平行方向かつ供給側流路材の平面方向に対して垂直方向な平面のうち、交点部を通らない任意の平面10で切断し、切断面と垂直な方向から見たときの繊維状物と分離膜の間隙を指す。このとき、距離Lは供給側流路の厚みの15%以下であることを特徴とする。
【0032】
また、距離Lは供給側流路の厚みの10%以下であることが好ましく、より好ましくは、2%以上8%以下、更に好ましくは5%以上7%以下である。距離Lがこの範囲であれば、膜面に渦状の流れを効率良く形成して膜面塩濃度分極を抑制することが可能となる。
【0033】
距離Lの測定は、分離膜エレメントを直接X線CTを用いて観察して測定する。供給水の流れ方向と平行方向かつ交点部Pを通らない任意の平面を少なくとも10箇所切り出し、それぞれの平面で距離Lを測定し、それらの平均値として求めた。
【0034】
(供給側流路材と供給側流路中心線の距離)
図5は、図2において平面10で切断した繊維状物21の断面方向から見た図であるが、供給側流路材と供給側流路中心線の距離とは、Wを二等分し、かつ供給水の流れ方向に平行な直線と、供給側流路中心線11との距離Wから、Wの半分の長さを引いた、W-W/2で表される。供給側流路中心線とは、分離膜間距離を二等分し、かつ供給水の流れ方向に平行な直線のことである。W-W/2≧0であること、つまり供給側流路中心線11上に繊維状物が存在しないことで、供給水の圧力損失を抑制することができ、好ましい。より好ましくは、W-W/2>0である。
【0035】
(交点部間隔)
本実施形態では、図2に示す、供給側流路材2の供給水流れ方向(原水流れ方向)に対して垂直方向の交点部間隔(交点部周期)cが3mm以上5mm以下の範囲であることが好ましく、更に好ましくは3.5mm以上4.5mm以下の範囲である。供給側流路材の供給水流れ方向に対して垂直方向の交点部間隔cがこの範囲であれば、分離膜エレメントの作製時に分離膜が供給側流路材の空隙部分に落ち込む現象を抑制でき、特に供給水流入端面部分の流路を安定に形成することが可能となる。
【0036】
また、供給側流路材の供給水流れ方向に対して平行方向の交点部間隔dは供給側流路材の厚みDの5倍以上10倍以下の範囲であることが好ましく、更に好ましくは、5倍以上7倍以下、または8倍以上10倍以下の範囲である。供給側流路材の供給水流れ方向に対して平行方向の交点部間隔dがこの範囲であれば、供給水の乱流強度と圧力損失のバランスを両立できるため、分離膜エレメントの脱塩率および造水性の向上が可能となる。dがDの5倍以上7倍以下であれば、供給水の乱流強度が特に高まり、8倍以上10倍以下であれば圧力損失を特に低減させることが可能となる。用途に求められる特性に応じて適切に交点部間隔dを選択することができる。
【0037】
交点部間隔の測定方法としては、供給側流路材を厚み方向の上部(すなわち、供給側流路材の平面)から観察し、例えばマイクロスコープにより距離を測定することができる。
【0038】
(供給水流れ方向と繊維状物との角度)
供給側流路材を平面から観察したとき、供給水流れ方向(すなわち集水管の長手方向)と繊維状物との角度が大きくなるにつれて乱流強度が増すものの、圧力損失が増す傾向にある。よって、前記角度は10°以上50°以下が好ましく、20°以上45°以下が更に好ましい。
【0039】
(繊維の断面形状)
図6(a)~(e)は、本実施形態の供給側流路材の例を示す供給水流れ方向に平行かつ前記供給側流路材の平面方向に対して垂直な平面断面図である。供給水流れ方向は左から右とするが、左右対称の形状(図6(a)~(c))については供給水流れ方向が右から左となっても問題ない。供給側流路材の繊維の長手方向に垂直な断面における断面形状としては、θ>15°であることが必要であり、例えば図6に示すような真円、縦楕円、紡錘形をベースとした形状が挙げられる。また、図6(d)に示すように、供給水流れ方向後部に突起物を持つことで、膜面からの流れの剥離をより促進し、繊維状物後方の膜面に渦を形成させやすくなる。また、分離膜面との間に滞留箇所を生じさせにくくするために、外周l上の全ての点における接線の傾きが分離膜に対して常に-20°以上であることが好ましい。
【0040】
図7(f)~(k)、図8(l)~(o)は、本実施形態以外の供給側流路材の例を示す供給水流れ方向に平行かつ前記供給側流路材の平面方向に対して垂直な平面断面図である。供給水流れ方向は左から右とするが、左右対称の形状(図7(f)、(g)、図8(l))については供給水流れ方向が右から左となっても問題ない。図7(f)~(h)、(i)、(k)は図6(a)~(e)と同様の断面形状であるが、L/Lが大きくなるため、θ×(1-L/L≦15となるケースとなっている。一方で、図8(l)に示すようにθ≦15°となる横楕円形状では、L/Lの値に関わらず、θ×(1-L/L≦15となるため、本実施形態の範囲から外れる。
【0041】
(素材)
供給側流路材の素材は特に限定されないが、成形性の観点から熱可塑性樹脂が好ましく、特にポリエチレンおよびポリプロピレンは分離膜の表面を傷つけにくく、また安価であるので好適である。また、供給側流路材は、繊維状物21と繊維状物22が同じ素材で形成されても構わないし、異なる素材で形成されていても構わない。
【0042】
(製造方法)
ネット状の供給側流路材の成形は、一般的に内側と外側の2つの円周上に多数の孔を配置した内側と外側の2つの口金を逆方向に回転させながら、押出機から溶融させた樹脂を供給して、樹脂が口金から出る時または出た直後に内側と外側の口金から出る糸を溶融状態で交差させて溶融し網状構造を形成する。この段階ではネットは筒状の形状を取る。その後筒状のネットは冷却固化により厚みや糸径、交点部間隔を決定後、切開されてシート状ネットとして引き取られる。口金の孔の寸法や形状が供給側流路材の厚みや繊維状物の形状を決定し、口金の孔の間隔や、口金の回線速度と搬送速度のバランスで交点部間隔や供給水流れ方向と繊維状物との角度が決定する。また、適宜シート状ネットを加熱しながら延伸することで、交点の糸径を維持させたまま、交点間の糸径のみを細くすることも可能である。素材、加熱温度、延伸方向、延伸倍率によって、交点と交点間の糸径の比率や、1本の繊維状物内での糸径変化を制御することができる。
【0043】
本実施形態のように、繊維状物21もしくは繊維状物22に太径部と細径部が存在し、繊維状物21もしくは繊維状物22の細径部ともう一方の繊維状物と交点を形成する供給側流路材を製造するには、多数の孔を配置した内側と外側の2つの口金を逆方向に回転させながら、所定の樹脂吐出圧で樹脂を供給し、網状構造を有する筒状ネットを成形し、冷却固化させた後に加熱炉内で縦延伸次いで横延伸を逐次で行う方法を採用することができる。
【0044】
なお、本実施形態のネットを製造する方法はこれらに限定されず、エンボス加工やインプリント加工、プレス法などにより交点部間の繊維状物を圧縮変形させる方法、金型に溶融樹脂を流延し取り出す方法、3Dプリンターを用いて製造しても構わない。
【0045】
<透過側流路>
(透過側流路材)
封筒状膜5において、分離膜3は透過側の面を対向させて重ね合わされており、分離膜3同士の間には透過側流路材4が配置され、透過側流路材4によって透過側流路が形成される。透過側流路材の材料としては限定されず、トリコットや不織布、突起物を固着させた多孔性シート、凹凸成形し、穿孔加工を施したフィルム、凹凸不織布を用いることができる。また、透過側流路材として機能する突起物を分離膜の透過側に固着させてもよい。
【0046】
<分離膜リーフの形成>
分離膜リーフは、供給側の面が内側を向くように分離膜を折りたたむことで形成されてもよいし、別々の2枚の分離膜を、供給側の面が向かい合うようにして重ね合わせ、分離膜の周囲を封止することで形成されてもよい。
【0047】
なお、「封止」する方法としては、接着剤またはホットメルトなどによる接着、加熱またはレーザなどによる融着、およびゴム製シートを挟みこむ方法が挙げられる。接着による封止は、最も簡便で効果が高いために特に好ましい。
【0048】
<分離膜エレメントの利用>
分離膜エレメントは、直列または並列に接続して圧力容器に収納されることで、分離膜モジュールとして使用されてもよい。
【0049】
また、上記の分離膜エレメント、分離膜モジュールは、それらに流体を供給するポンプや、その流体を前処理する装置などと組み合わせて、流体分離装置を構成することができる。この分離装置を用いることにより、例えば供給水を飲料水などの透過水と膜を透過しなかった濃縮水とに分離して、目的にあった水を得ることができる。
【0050】
流体分離装置の操作圧力は高い方が除去率は向上するが、運転に必要なエネルギーも増加すること、また、分離膜エレメントの供給流路、透過流路の保持性を考慮すると、分離膜モジュールに供給水を透過する際の操作圧力は、0.2MPa以上6MPa以下が好ましい。
【0051】
供給水温度は、高くなると塩除去率が低下するが、低くなるに従い膜透過流束も減少するので、5℃以上45℃以下が好ましい。
【0052】
また、原水のpHが中性領域にある場合、原水が海水などの高塩濃度の液体であっても、マグネシウムなどのスケールの発生が抑制され、また、膜の劣化も抑制される。
【0053】
(供給水)
本実施形態の分離膜エレメントへの供給水は特に限定されず、予め処理された水道水でもよく、海水やかん水、下廃水のように溶液中の不純物が多いものでもよい。例えば、水処理に使用する場合、原水(供給水)としては、海水、かん水、排水等の500mg/L以上100g/L以下のTDS(Total Dissolved Solids:総溶解固形分)を含有する液状混合物が挙げられる。一般に、TDSは総溶解固形分量を指し、「質量÷体積」で表されるが、1Lを1kgと見なして「質量比」で表されることもある。定義によれば、0.45μmのフィルターで濾過した溶液を39.5~40.5℃の温度で蒸発させ残留物の重さから算出できるが、より簡便には実用塩分(S)から換算する。
【実施例
【0054】
以下に実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。
【0055】
(供給側流路材の厚み測定)
形状測定システム(例えば、キーエンス社製高精度形状測定システム「KS-1100」)を用い、供給側流路材の繊維状列に平行な縦断面を倍率20倍で観察し、供給側流路材の厚みを30カ所計測し、その平均値を算出した。
【0056】
(供給側流路材の断面糸径)
供給側流路材を供給水の流れ方向と平行方向かつ交点部を通らない任意の平面10で切断し、形状測定システム(例えば、キーエンス社製高精度形状測定システム「KS-1100」)を用いて切断面と垂直な方向から観察し、Wの計測を行った。
【0057】
任意の平面10を少なくとも10箇所切り出し、それぞれの平面でWを測定し、それらの平均値として求めた。
【0058】
(供給側流路材と供給側流路中心線の距離)
分離膜エレメントを集水管長手方向に垂直な方向に、端部から6インチの位置から12インチの位置でカットし、6インチの長さの円筒状サンプルを切り出した。流路構造を崩さないために、エレメントのカット面の両側から接着剤を全面に塗布し、エレメントの端部から接着剤をわずかに含浸させた。円筒状サンプルを60度の中心角を持つ扇形を底面に持つ柱体にカットし、観察サンプルを得た。その後、扇状サンプルの重量変化がなくなるまで、40℃に設定した真空オーブンで乾燥させた。GE社製X線CT測定装置Phoenix v |tome| x m300を用い、管電流100μA、管電圧150kV、解像度19.8μmの条件でスキャンし、3D像を得た。その後、VOLUMEGRAPHICS社製VGSTUDIO MAXで解析を行い、Wの計測を行った。任意の平面10を少なくとも10箇所切り出し、それぞれの平面でWを測定し、それらの平均値として求めた。
【0059】
(供給側流路材と分離膜の距離、θ、α)
分離膜エレメントを集水管長手方向に垂直な方向に、端部から6インチの位置から12インチの位置でカットし、6インチの長さの円筒状サンプルを切り出した。流路構造を崩さないために、エレメントのカット面の両側から接着剤を全面に塗布し、エレメントの端部から接着剤をわずかに含浸させた。円筒状サンプルを60度の中心角を持つ扇形を底面に持つ柱体にカットし、観察サンプルを得た。その後、扇状サンプルの重量変化がなくなるまで、40℃に設定した真空オーブンで乾燥させた。GE社製X線CT測定装置Phoenix v |tome| x m300を用い、管電流100μA、管電圧150kV、解像度19.8μmの条件でスキャンし、3D像を得た。その後、VOLUMEGRAPHICS社製VGSTUDIO MAXで解析を行い、距離L、L及び点Pから点Qに向けた仰角θの計測を行った。任意の平面10を少なくとも10箇所切り出し、それぞれの平面で距離L、L及び仰角θ測定し、それらの平均値として求めた。また、得られた繊維状物の断面図に対し、ImageJ ver.1.45(開発元:Wayne Rasband、National Institutes of Health、NIH)を用いることでαを計測し、10箇所の平均値として求めた。
【0060】
(交点部間隔)
形状測定システム(例えば、キーエンス社製高精度形状測定システム「KS-1100」)を用い、ネット状サンプルを厚み方向上部から倍率20倍で観察し、供給側流路材の供給水流れ方向に対して垂直方向の交点部間隔と供給側流路材の供給水流れ方向に対して平行方向の交点部間隔について、任意の交点部間隔を30カ所測定し、その平均値を算出した。
【0061】
<実施例>
(供給側流路材Sの作製)
ポリプロピレンを材料として、多数の小さい孔を配置した内側と外側の2つの口金を逆方向に回転させながら、押出機から溶融させた樹脂を所定の吐出圧で供給して、網状構造を有する筒状ネットを成形した。冷却固化させた後に加熱炉内で縦延伸次いで横延伸を逐次で行う方法により、表1に示す供給側流路材を作製した。なお、口金の孔の形状、寸法や、押出機からの溶融樹脂吐出圧、引き取り速度、縦延伸・横延伸倍率、加熱炉内温度を変更し、最終的に表1の供給側流路材形状となるよう構造制御を行った。
【0062】
(供給側流路材Tの作製)
ポリプロピレンを材料として、多数の孔を配置した内側と外側の2つの口金を逆方向に回転させながら、押出機から溶融させた樹脂を供給して、網状構造を有する筒状ネットを成形し、繊維形状が寸胴であるネットを製造した。なお、口金の孔の形状、寸法や、押出機からの溶融樹脂吐出圧、引き取り速度を変更し、最終的に表3の供給側流路材形状となるよう構造制御を行った。
【0063】
(分離膜Uの作製)
ポリエチレンテレフタレート繊維からなる不織布(繊度:1デシテックス、厚み:約90μm、通気度:1cc/cm/sec、密度0.80g/cm)上にポリスルホンの16.0質量%のDMF溶液を180μmの厚みで室温(25℃)にてキャストし、ただちに純水中に浸漬して5分間放置し、80℃の温水で1分間浸漬することによって繊維補強ポリスルホン支持膜からなる、多孔性支持層(厚さ130μm)ロールを作製した。
【0064】
その後、多孔性支持膜のポリスルホンからなる層の表面をm-PDAの1.5質量%およびε-カプロラクタム1.0質量%を含む水溶液中に2分間浸漬してから、垂直方向にゆっくりと引き上げた。更に、エアーノズルから窒素を吹き付けることで、支持膜表面から余分な水溶液を取り除いた。
【0065】
その後、トリメシン酸クロリド0.08質量%を含むn-デカン溶液を、膜の表面が完全に濡れるように塗布してから、1分間静置した。その後、膜から余分な溶液をエアブローで除去し、80℃の熱水で1分間洗浄して、分離膜Uの複合分離膜ロールを得た。
【0066】
(分離膜Vの作製)
ポリエチレンテレフタレート繊維からなる不織布(繊度:1デシテックス、厚み:約90μm、通気度:1cc/cm/sec、密度0.80g/cm)上にポリスルホンの16.0質量%のDMF溶液を180μmの厚みで室温(25℃)にてキャストし、ただちに純水中に浸漬して5分間放置し、80℃の温水で1分間浸漬することによって繊維補強ポリスルホン支持膜からなる、多孔性支持層(厚さ130μm)ロールを作製した。
【0067】
その後、多孔性支持膜のポリスルホンからなる層の表面をm-PDAの3.0質量%およびε-カプロラクタム2.0質量%を含む水溶液中に2分間浸漬してから、垂直方向にゆっくりと引き上げた。更に、エアーノズルから窒素を吹き付けることで、支持膜表面から余分な水溶液を取り除いた。
【0068】
その後、トリメシン酸クロリド0.15質量%を含むn-デカン溶液を、膜の表面が完全に濡れるように塗布してから、1分間静置した。その後、膜から余分な溶液をエアブローで除去し、80℃の熱水で1分間洗浄して、分離膜Vの複合分離膜ロールを得た。
【0069】
(スパイラル型分離膜エレメントの作製)
分離膜U又はVを、分離膜エレメントでの有効面積が8mとなるように折り畳み断裁加工し、表1に示すポリプロピレン製ネット(厚み:0.8mm)を供給水側流路材として挟み込んで分離膜リーフを作製した。
【0070】
得られた分離膜リーフの透過側面に透過側流路材として表1に示すトリコット(厚み:0.26mm)を積層し、リーフ接着剤を塗布して、PVC(ポリ塩化ビニル)製集水管(幅:1016mm、径:19mm、孔数23個×直線状1列)にスパイラル状に巻き付け、巻囲体の外周面をテープで固定後、両端のエッジカットと端板取り付けを行い、一方の側面から供給水が供給され濃縮水が排出される、直径が4インチの分離膜エレメントを作製した。
【0071】
(造水量)
下記条件で2時間運転した後に1分間のサンプリングを行い、1日あたりの透水量(ガロン)を造水量(GPD(ガロン/日))として表した。
【0072】
(条件A)
分離膜Uを用いて作製した分離膜エレメントを圧力容器に入れて、供給水として、温度25℃、濃度2000mg/Lの食塩水、pH7.0のNaCl水溶液を用い、運転圧力1.55MPa、回収率15%とした。
【0073】
(条件B)
分離膜Vを用いて作製した分離膜エレメントを圧力容器に入れて、供給水として、温度25℃、濃度32000mg/Lの食塩水、pH7.0のNaCl水溶液を用い、運転圧力5.52MPa、回収率8%とした。
【0074】
(除去率(TDS除去率))
造水量の測定における1分間の運転で用いた供給水およびサンプリングした透過水について、TDS濃度を伝導率測定により求め、下記式からTDS除去率を算出した。
【0075】
TDS除去率(%)=100×{1-(透過水中のTDS濃度/供給水中のTDS濃度)}
(エレメント差圧)
分離膜エレメントを装填する円筒状圧力容器の上流側(供給水側)と下流側(濃縮水側)を長野計器製差圧計(型式DG16)を介して配管で接続し、運転中のエレメント差圧を計測した。運転条件は、供給水流量は9L/分、運転圧力は1.0MPaとし、供給水には逆浸透膜処理水を用いた。また、エレメント内部の気泡が抜けた後は透過水配管のコックを閉じ、実質的に膜ろ過が行えない状態、つまり供給水が全量濃縮水として排出される状態で運転を行いエレメント差圧(kPa)の測定を行った。
【0076】
(実施例1)
作製した分離膜エレメントを圧力容器に入れて、上述の条件で評価したところ、結果は表1の通りであった。なお、θ、L、L、W、W、α、dは繊維状物21および22で同じ値であった。また、Dの値と供給側流路の厚みが等しくなった。
【0077】
(実施例2~13)
供給側流路材を表1、2の通りにした以外は全て実施例1と同様にして、分離膜エレメントを作製した。なお、θ、L、L、W、W、α、dは繊維状物21および22で同じ値であった。また、Dの値と供給側流路の厚みが等しくなった。
【0078】
分離膜エレメントを圧力容器に入れて、実施例1と同条件で各性能を評価したところ、結果は表1、2の通りであった。
【0079】
<比較例>
(比較例1~6)
供給側流路材を表3の通りにした以外は全て実施例1と同様にして、分離膜エレメントを作製した。なお、θ、L、L、W、W、α、dは繊維状物21および22で同じ値であった。また、Dの値と供給側流路の厚みが等しくなった。
【0080】
分離膜エレメントを圧力容器に入れて、上述の条件で各性能を評価したところ、結果は表3の通りであった。
【0081】
【表1】
【0082】
【表2】
【0083】
【表3】
【0084】
表1~3に示す結果から明らかなように、実施例1~13の分離膜エレメントは、優れた分離性能を備えていた。
【0085】
一方、比較例1では、実施例3と比較して繊維状物の断面形状が異なり、θ×(1-L/L≦15となったため、実施例3と比較して造水量、除去率が低下した。比較例2では、実施例3と比較して、供給側流路材の交点部以外の繊維状物の糸径と交点部の糸径が等しくなったため(L=0)、実施例3と比較して造水量、除去率が低下した。比較例3、5では、実施例3と比較して、θ×(1-L/L>15かつα≧70%かつL/D≦0.15を満たす繊維状物の割合が50%未満であったため、実施例3と比較して造水量、除去率が低下した。比較例4では、実施例3と比較して、αが70%未満であったため、実施例3と比較して圧力損失が増大し、造水量、除去率が低下した。比較例6では、実施例3と比較して、距離Lが厚みDの15%より大きくなったため、実施例3と比較して造水量、除去率が低下した。
【0086】
以上、各種の実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。また、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上記実施の形態における各構成要素を任意に組み合わせてもよい。
【0087】
なお、本出願は、2022年10月31日出願の日本特許出願(特願2022-174183)に基づくものであり、その内容は本出願の中に参照として援用される。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明の膜エレメントは、特にかん水や海水の脱塩やRO浄水器としての活用に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0089】
1 スパイラル型分離膜エレメント
2 供給側流路材
21 繊維状物(繊維状物A)
22 繊維状物(繊維状物B)
3 分離膜
4 透過側流路材
5 封筒状膜
6 集水管
7 供給水
8 透過水
9 濃縮水
10 供給水の流れ方向と平行方向かつ供給側流路材の平面方向に対して垂直方向な平面のうち、交点部Pを通らない任意の平面
11 供給側流路中心線
c 供給側流路材の供給水流れ方向に対して垂直方向の交点部間隔
d 供給側流路材の供給水流れ方向に対して平行方向の交点部間隔
交点部厚み
平面10において繊維状物21または22と繊維状物が近い側の分離膜との距離の最小値
平面10において繊維状物21または22と繊維状物が近い側の分離膜との距離の最大値
P 平面10において、繊維状物21または22と繊維状物が近い側の分離膜との距離が最小となる前記繊維状物の外周上の点
Q 点Pよりも供給水下流側において、繊維状物21また22と繊維状物が近い側の分離膜との距離が最大となる繊維状物の外周上の点
θ 点Pから点Qに向けた仰角
W1 供給水流れ方向に平行かつ供給側流路材の平面方向に対して垂直な平面での繊維状物21または22の切断面における、供給水流れ方向に垂直な方向の糸幅
W2 供給水流れ方向に平行かつ供給側流路材の平面方向に対して垂直な平面での繊維状物21または22の切断面において、切断面の厚み方向の中心を通る、供給水の流れ方向と平行な直線と供給側流路の厚み方向の中心を通る、供給水の流れ方向と平行な直線との距離
切断面において点Pと点Qを結ぶ外周のうち、分離膜面に近い側の外周
切断面において点Pと点Qを結ぶ外周のうち、分離膜面から遠い側の外周
’ 外周lを凸包する線分
α 外周lと線分l’によって形成される図形の面積に対する切断面の面積の割合
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8