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特許7571901磁気粘弾性エラストマー組成物およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】磁気粘弾性エラストマー組成物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 75/04 20060101AFI20241016BHJP
   C08K 3/01 20180101ALI20241016BHJP
   C08K 5/10 20060101ALI20241016BHJP
   C08G 18/08 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
C08L75/04
C08K3/01
C08K5/10
C08G18/08 038
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2023577249
(86)(22)【出願日】2023-05-11
(86)【国際出願番号】 JP2023017760
(87)【国際公開番号】W WO2024014100
(87)【国際公開日】2024-01-18
【審査請求日】2023-12-13
(31)【優先権主張番号】P 2022111738
(32)【優先日】2022-07-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【弁理士】
【氏名又は名称】式見 真行
(74)【代理人】
【識別番号】100206324
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 明子
(72)【発明者】
【氏名】兵井 香乃
【審査官】今井 督
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-210311(JP,A)
【文献】特開平04-198292(JP,A)
【文献】国際公開第2014/112216(WO,A1)
【文献】KIMURA Yukio et al.,Effect of Plasticizer on the Magnetoelastic Behavior for Magnetic Polyurethane Elastomers,Chemistry Letters,2015年,Vol. 44, No. 2,p. 177-178,doi.org/10.1246/cl.140932
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 75/00- 75/16
C08K 3/00- 13/08
C08G 18/00- 18/87
CAplus/Registry(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂(A)、磁性粉(B)および可塑剤を含み、
前記樹脂(A)は、ウレタン樹脂(A1)を含み、
前記ウレタン樹脂(A1)は、ポリオール(x)とポリイソシアネート(y)との反応物を含み、
前記ポリオール(x)は、数平均分子量4,000以上のトリオール(x1)、及び、ジオール(x2)を含み、
前記トリオール(x1)は、ポリプロピレングリコール(トリオール型)を含み、
前記ジオール(x2)は、ポリエーテルジオールを含み、
前記ポリエーテルジオールは、ポリプロピレングリコール(ジオール型)を含み、
前記可塑剤(C)は、芳香族ジカルボン酸系可塑剤を含み
前記ウレタン樹脂(A1)の平均架橋点間分子量は、9,500以上27,000以下である、磁気粘弾性エラストマー組成物(ただし、前記ポリエーテルジオールが芳香環を含む場合を除く)。
【請求項2】
前記磁性粉(B)の含有率は、前記樹脂(A)と前記磁性粉(B)の合計100体積%中、25体積%以上55体積%以下である、請求項1に記載の磁気粘弾性エラストマー組成物。
【請求項3】
磁性粉(B)の共存下、ポリオール(x)とポリイソシアネート(y)とを反応させて、ウレタン樹脂(A1)を含む磁気粘弾性エラストマー組成物を得ることを含み、
前記ポリオール(x)とポリイソシアネート(y)との反応は、磁場強度0mT超の磁場下で実施され、
前記ポリオール(x)は、数平均分子量4,000以上のトリオール(x1)、及び、ジオール(x2)を含み、
前記トリオール(x1)は、ポリプロピレングリコール(トリオール型)を含み、
前記ジオール(x2)は、ポリエーテルジオールを含み、
前記ポリエーテルジオールは、ポリプロピレングリコール(ジオール型)を含み、
前記ウレタン樹脂(A1)の平均架橋点間分子量は、9,500以上27,000以下である、磁気粘弾性エラストマー組成物の製造方法(ただし、前記ポリエーテルジオールが芳香環を含む場合を除く)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、磁気粘弾性エラストマー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
防振・制振材やエネルギー伝達材料に用いられ得る材料として、樹脂材料に磁性体を分散させた磁気応答性材料が知られている。
【0003】
かかる磁気応答性材料として、特許文献1には、ポリオール化合物とポリイソシアネート化合物との反応物、および磁性粒子を含むポリウレタンエラストマー組成物が記載され、ポリオール化合物としてビスフェノールAのプロピレンオキシド付加物を用いることなどが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-210311号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のポリウレタンエラストマー組成物では、磁場を印加した場合における貯蔵弾性率の変化が、磁場を印加しない場合における貯蔵弾性率と比較して、十分に満足できるものではなかった。
【0006】
本開示は、磁場を印加しない場合における貯蔵弾性率に対して、磁場を印加した場合における貯蔵弾性率の変化が大きい磁気粘弾性エラストマー組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の磁気粘弾性エラストマー組成物は、
樹脂(A)および磁性粉(B)を含み、
前記樹脂(A)は、ウレタン樹脂(A1)を含み、
前記ウレタン樹脂(A1)は、ポリオール(x)とポリイソシアネート(y)との反応物を含み、
前記ポリオール(x)は、数平均分子量4,000以上のトリオール(x1)を含む。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、磁場を印加しない場合における貯蔵弾性率に対して、磁場を印加した場合における貯蔵弾性率の変化が大きい磁気粘弾性エラストマー組成物を提供しうる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示の磁気粘弾性エラストマー組成物は、
樹脂(A)および磁性粉(B)を含み、
前記樹脂(A)は、ウレタン樹脂(A1)を含み、
前記ウレタン樹脂(A1)は、ポリオール(x)とポリイソシアネート(y)との反応物を含み、
前記ポリオール(x)は、数平均分子量4,000以上のトリオール(x1)を含む。
【0010】
本開示の磁気粘弾性エラストマー組成物は、磁場を印加しない場合における貯蔵弾性率に対して、磁場を印加した場合における貯蔵弾性率の変化が大きい。すなわち、本開示の磁気粘弾性エラストマー組成物について、磁場下で測定した弾性率は、磁場強度0A/mの条件下(以下、「ゼロ磁場下」ともいう)で測定した弾性率に対する変化率(以下、「磁場下の弾性率変化率」ともいう)が大きい。特定の理論に限定して解釈されるべきではないが、粘弾性エラストマーは、弾性と粘性とを併せ持つ材料と理解され得る。そして、弾性は架橋点(分岐点)に由来し得、粘性は隣合う2つの架橋点の間の分子鎖に由来し得ると考えられる。本開示の磁気粘弾性エラストマー組成物は、一定以上の数平均分子量のトリオール(x1)を原料として用いるウレタン樹脂(A1)を含むことから、かかるトリオール(x1)により、磁気粘弾性エラストマー組成物中に架橋点が導入され、且つ、該架橋点に結合する分子鎖の分子量が一定以上に制御されている。そのため、磁場を印加した場合に、磁気粘弾性エラストマー組成物に含まれる磁性粉(B)が制約なく配向変化し得、良好な弾性率変化が得られると考えられる。
【0011】
本開示において、粘弾性エラストマーは、粘性と弾性とを併せ持つ材料を意味し、一定のひずみを与えたときの応力緩和(応力の時間変化)の緩和時間に基づいて判別できる。緩和時間が観測の時間スケールに対して十分短ければ粘性体、長ければ弾性体、同等のスケールであれば粘弾性体と理解される。
また、本開示において、磁気粘弾性エラストマーは、磁性粒子を含む粘弾性エラストマーを表し、好ましくは、粘弾性エラストマー内部に磁性粒子を分散固定した複合材料を表す。磁気粘弾性エラストマーは、外部磁場に応答して、見掛けの弾性率や減衰特性が可逆に変化する。
【0012】
また、本開示において、磁気粘弾性エラストマーは、磁性粉を含む粘弾性エラストマーを意味する。磁場強度0A/mにおいて測定した貯蔵弾性率をG’とし、0A/mより大きい磁場強度において、磁場の向きと回転式粘弾性測定装置の回転軸とが平行になるようにして測定した貯蔵弾性率をG’とした場合、磁気粘弾性エラストマーは、G’が、少なくともG’より大きい材料と理解され得る。
【0013】
[樹脂(A)]
樹脂(A)は、ウレタン樹脂(A1)を含む。
【0014】
[ウレタン樹脂(A1)]
上記ウレタン樹脂(A1)は、ポリオール(x)とポリイソシアネート(y)との反応物を含む。ポリオール(x)に含まれる水酸基と、ポリイソシアネート(y)に含まれるイソシアネート基とが反応することにより、ウレタン結合が形成され、ウレタン樹脂となりうる。上記ウレタン樹脂(A1)は、ポリオール(x)とポリイソシアネート(y)の反応物と、鎖伸長剤(z1)および/または末端停止剤(z2)との反応物であってもよく、これらの反応物は全てウレタン樹脂(A1)の技術的範囲に含まれる。
【0015】
上記ポリオール(x)は、1分子中に2個以上の水酸基を有する化合物を意味し、数平均分子量4,000以上のトリオール(x1)を含む。
【0016】
上記トリオール(x1)は、1分子中に3個の水酸基を有する。トリオール(x1)に含まれる各水酸基は、後述するジイソシアネート(y)のイソシアネート基と反応してウレタン結合を形成するため、トリオール(x1)には、1つの原子に3つの分子鎖が結合している分岐点(架橋点)が含まれることとなる。
【0017】
上記トリオール(x1)における架橋点(分岐点)は、活性水素原子を3個以上有する化合物(開始剤)により導入され得、かかる開始剤としては、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメリット酸、ジエチレントリアミン等が挙げられる。
【0018】
上記トリオール(x1)の数平均分子量は、4,000以上であり、好ましくは4,000以上15,000以下、より好ましくは4,000以上10,000以下、さらに好ましくは4,000以上8,000以下である。上記トリオール(x1)の数平均分子量が上記範囲にあることで、架橋点に結合する分子鎖の分子量が一定以上となり得る。その結果、磁場強度を変化させた場合において、磁性粉(B)の配向が制約なく変化し得、磁気粘弾性エラストマー組成物の弾性率変化が良好になると考えられる。
【0019】
本開示において、数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ法により、ポリスチレンを標準試料とした換算値として測定できる。
【0020】
上記トリオール(x1)は、例えば、ポリエーテルトリオール、ポリエステルトリオール、ポリカーボネートトリオール、ポリオレフィントリオール、ポリアクリルトリオール等であってよく、ポリエーテルトリオールであることが好ましい。
【0021】
上記ポリエーテルトリオールは、代表的には、エーテル結合を含む単位を繰り返し単位として有するポリマーのトリオールと理解され得、該繰り返し単位は、好ましくはオキシアルキレン単位を含む。かかるエーテル結合を含む単位としては、オキシエチレン単位、オキシプロピレン単位、オキシテトラメチレン単位等の炭素数2~4のオキシアルキレン単位が挙げられ、とりわけ、オキシプロピレン単位、オキシテトラメチレン単位等が挙げられる。上記ポリエーテルポリオールは、1種のオキシアルキレン単位を含むホモポリマーであってよく、2種以上のオキシアルキレン単位を含むコポリマーであってもよい。上記ポリーエーテルポリオールとしては、ポリエチレントリオール、ポリプロピレントリオール、ポリテトラメチレンエーテルトリオール、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレントリオール等が挙げられる。
【0022】
上記オキシアルキレン単位は、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、テトラヒドロフラン等の環状エーテルの開環重合により形成され得る。
【0023】
上記ポリエステルトリオールは、代表的には、エステル結合を含む単位を繰り返し単位として有するポリマーのトリオールと理解され得る。上記エステル結合を含む単位は、ジオールとジカルボン酸との反応、または、環状エステル化合物の開環重合により形成され得る。上記ポリエステルポリオールは、1種の繰り返し単位を含むホモポリマーであってよく、2種以上の繰り返し単位を含むコポリマーであってもよい。
【0024】
上記ポリエステルトリオールの原料であるジオールとしては、代表的には、分子量が50以上300以下の低分子量のジオールを用いてよく、具体的には、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチルペンタン-1,5-ジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等の直鎖状または分枝鎖状の脂肪族ジオール;ビスフェノールA、ビスフェノールF等のビスフェノール化合物;該ビスフェノール化合物のアルキレンオキシド付加物;シクロヘキサンジメタノール等の脂環式ジオール等が挙げられる。上記ビスフェノール化合物のアルキレンオキシド付加物は、ビスフェノール化合物に環状エーテルを開環重合させることにより形成され得、かかる環状エーテルとしては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、テトラヒドロフラン等が挙げられる。
【0025】
上記ポリエステルトリオールの原料であるジカルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸;フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸;該脂肪族ジカルボン酸または芳香族ジカルボン酸の無水物;脂肪族ジカルボン酸または芳香族ジカルボン酸のエステル化物等が挙げられる。該脂肪族ジカルボン酸または芳香族ジカルボン酸のエステル化物は、脂肪族ジカルボン酸または芳香族ジカルボン酸にアルコールを反応させることにより形成され得、かかるアルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の炭素数1~4の脂肪族アルコール等が挙げられる。
【0026】
上記ポリカーボネートトリオールは、カーボネート結合(-O-CO-O-)を含む単位を繰り返し単位として有するポリマーのトリオールと理解され得る。上記カーボネート結合(-O-CO-O-)を含む単位は、炭酸エステルとジオールとの反応、ホスゲンとジオールとの反応等により形成され得る。上記ポリカーボネートポリオールは、1種の繰り返し単位を含むホモポリマーであってよく、2種以上の繰り返し単位を含むコポリマーであってもよい。
【0027】
上記ポリカーボネートトリオールの原料である炭酸エステルとしては、メチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルカーボネート、ジエチルカーボネート、シクロヘキシルカーボネート、ジシクロヘキシルカーボネート、ジフェニルカーボネート等が挙げられる。
【0028】
上記ポリカーボネートトリオールの原料であるジオールとしては、代表的には、分子量が50以上300以下の低分子量のジオール、または、数平均分子量が300超の高分子量のジオールを用いてよい。
【0029】
上記低分子量のジオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチルペンタン-1,5-ジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等の直鎖状または分枝鎖状の脂肪族ジオール;ビスフェノールA、ビスフェノールF等のビスフェノール化合物;該ビスフェノール化合物のアルキレンオキシド付加物;シクロヘキサンジメタノール等の脂環式ジオール等が挙げられる。上記ビスフェノール化合物のアルキレンオキシド付加物は、ビスフェノール化合物に環状エーテルを開環重合させることにより形成され得、かかる環状エーテルとしては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、テトラヒドロフラン等が挙げられる。
【0030】
上記高分子量のジオールとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリエーテルジオール;ポリヘキサメチレンアジペート等のポリエステルジオール等が挙げられる。上記高分子量のジオールの数平均分子量は、300超であり、好ましくは400以上5,000以下、より好ましくは400以上2,000以下である。
【0031】
上記ポリオレフィントリオールは、2価の炭化水素基からなる単位を繰り返し単位として有するポリマーのトリオールと理解され得る。上記2価の炭化水素基からなる単位は、アルケン、ジエンの重合により形成され得る。上記ポリオレフィントリオールは、1種の繰り返し単位を含むホモポリマーであってよく、2種以上の繰り返し単位を含むコポリマーであってもよい。
【0032】
上記ポリオレフィントリオールの原料であるアルケンとしては、エチレン、プロピレン、イソブテン等が挙げられ、上記ポリオレフィントリオールの原料であるジエンとしては、ブタジエン、イソプレン等が挙げられる。
【0033】
上記ポリアクリルトリオールは、(メタ)アクリル単量体に由来する単位を繰り返し単位として有するポリマーのトリオールと理解され得る。上記ポリアクリルトリオールは、1種の繰り返し単位を含むホモポリマーであってよく、2種以上の繰り返し単位を含むコポリマーであってもよい。
【0034】
上記(メタ)アクリル単量体としては、水酸基を有する(メタ)アクリル単量体と、その他の(メタ)アクリル単量体および/またはその他のビニル単量体とを含み得る。
【0035】
上記水酸基を有する(メタ)アクリル単量体としては、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル等が挙げられる。
上記その他の(メタ)アクリル単量体としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ウンデシル、(メタ)アクリル酸ドデシル等の(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸、マレイン酸、イタコン酸等の不飽和カルボン酸;無置換の(メタ)アクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-メチレンビス(メタ)アクリルアミド、ダイアセトン(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド単量体等が挙げられる。
上記その他のビニル単量体としては、スチレン、メチルスチレン等が挙げられる。
【0036】
上記ポリオール(x)に含まれるトリオール(x1)の含有率は、例えば3質量%以上であり、好ましくは3質量%以上70質量%以下、より好ましくは5質量%以上60質量%以下、さらに好ましくは7質量%以上55質量%以下である。
【0037】
上記ポリオール(x)は、ジオール(x2)を含むことが好ましい。ジオール(x2)は、1分子中に水酸基を2個有する化合物を意味する。ポリオール(x)としてジオールを含むことで、架橋点に結合する分子鎖の分子量を制御することがより容易となりうる。
【0038】
上記ジオール(x2)は、分子量が50以上300以下の低分子量のジオールであってよく、数平均分子量300超の高分子量のジオールであってもよく、一態様において、高分子量のジオールが好ましく、ポリエーテルジオールであることがより好ましい。
【0039】
上記低分子量のジオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチルペンタン-1,5-ジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等の直鎖状または分枝鎖状の脂肪族ジオール;ビスフェノールA、ビスフェノールF等のビスフェノール化合物;該ビスフェノール化合物の環状エーテル付加物;シクロヘキサンジメタノール等の脂環式ジオール等が挙げられる。上記ビスフェノール化合物のアルキレンオキシド付加物は、ビスフェノール化合物に環状エーテルを開環重合させることにより形成され得、かかる環状エーテルとしては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、テトラヒドロフラン等が挙げられる。
【0040】
上記高分子量のジオールとしては、ポリエーテルジオール、ポリエステルジオール、ポリカーボネートジオール、ポリオレフィンジオール、ポリアクリルジオール等が挙げられる。
【0041】
上記ポリエーテルジオールは、代表的には、上記エーテル結合を含む単位を繰り返し単位として有するポリマーのジオールと理解され得、該繰り返し単位は、好ましくはオキシアルキレン単位を含む。かかるオキシアルキレン単位としては、オキシエチレン単位、オキシプロピレン単位、オキシテトラメチレン単位等の炭素数2~4のオキシアルキレン単位が挙げられ、とりわけ、オキシプロピレン単位、オキシテトラメチレン単位等が挙げられる。上記ポリエーテルポリオールは、1種のオキシアルキレン単位を含むホモポリマーであってよく、2種以上のオキシアルキレン単位を含むコポリマーであってもよい。上記ポリーエーテルポリオールとしては、ポリエチレントリオール、ポリプロピレントリオール、ポリテトラメチレンエーテルトリオール、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレントリオール等が挙げられる。
【0042】
上記オキシアルキレン単位は、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、テトラヒドロフラン等の環状エーテルの開環重合により形成され得る。
【0043】
上記ポリエステルジオールは、代表的には、上記エステル結合を含む単位を繰り返し単位として有するポリマーのジオールと理解され得る。
【0044】
上記ポリカーボネートジオールは、代表的には、上記カーボネート結合(-O-CO-O-)を含む単位を繰り返し単位として有するポリマーのジオールと理解され得る。
【0045】
上記ポリオレフィンジオールは、代表的には、上記2価の炭化水素基からなる単位を繰り返し単位として有するポリマーのジオールと理解され得る。
【0046】
上記ポリアクリルジオールは、代表的には、上記(メタ)アクリル単量体に由来する単位を繰り返し単位として有するポリマーのジオールと理解され得る。
【0047】
上記高分子量のジオールの数平均分子量は、300超であり、好ましくは400以上5,000以下、より好ましくは400以上3,000以下である。
【0048】
上記ジオール(x2)の含有量は、上記トリオール(x1)100質量部に対して、好ましくは50質量部以上2,000質量部以下、より好ましくは60質量部以上1,500質量部以下、さらに好ましくは70質量部以上1,200質量部以下である。
【0049】
好ましい態様において、上記ポリオール(x)は、トリオール(x1)およびジオール(x2)を含む。上記ポリオール(x)100質量%中、上記トリオール(x1)および上記ジオール(x2)の合計の含有率は、例えば80質量%以上100質量%以下、好ましくは90質量%以上100質量%以下、より好ましくは95質量%以上100質量%以下である。
【0050】
上記ポリオール(x)は、上記トリオール(x1)および上記ジオール(x2)以外に、その他のポリオール(x3)を含んでいてもよい。かかるその他のポリオール(x3)には、分子量4,000未満のトリオール、1分子中に水酸基を4個以上有するトリオール等が含まれ得る。
【0051】
上記ポリイソシアネート(y)は、1分子中に2個以上のイソシアネート基を有する化合物を表す。1分子のポリイソシアネート(y)に含まれるイソシアネート基の個数は、代表的には2~4個であり、とりわけ2~3個でありうる。
【0052】
上記ポリイソシアネート(y)としては、脂肪族ポリイソシアネート、芳香族ポリイソシアネート、脂環式ポリイソシアネート等が挙げられる。
【0053】
上記脂肪族ポリイソシアネートとしては、テトラメチレンジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0054】
上記芳香族ポリイソシアネートとしては、1,3-及び1,4-フェニレンジイソシアネート、1-メチル-2,4-フェニレンジイソシアネート、1-メチル-2,6-フェニレンジイソシアネート、1-メチル-2,5-フェニレンジイソシアネート、1-メチル-2,6-フェニレンジイソシアネート、1-メチル-3,5-フェニレンジイソシアネート、1-エチル-2,4-フェニレンジイソシアネート、1-イソプロピル-2,4-フェニレンジイソシアネート、1,3-ジメチル-2,4-フェニレンジイソシアネート、1,3-ジメチル-4,6-フェニレンジイソシアネート、1,4-ジメチル-2,5-フェニレンジイソシアネート、ジエチルベンゼンジイソシアネート、ジイソプロピルベンゼンジイソシアネート、1-メチル-3,5-ジエチルベンゼンジイソシアネート、3-メチル-1,5-ジエチルベンゼン-2,4-ジイソシアネート、1,3,5-トリエチルベンゼン-2,4-ジイソシアネート、ナフタレン-1,4-ジイソシアネート、ナフタレン-1,5-ジイソシアネート、1-メチル-ナフタレン-1,5-ジイソシアネート、ナフタレン-2,6-ジイソシアネート、ナフタレン-2,7-ジイソシアネート、1,1-ジナフチル-2,2’-ジイソシアネート、ビフェニル-2,4’-ジイソシアネート、ビフェニル-4,4’-ジイソシアネート、3,3’-ジメチルビフェニル-4,4’-ジイソシアネート、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、ジフェニルメタン-2,2’-ジイソシアネート、ジフェニルメタン-2,4-ジイソシアネート、トルエンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0055】
脂環式ポリイソシアネートとしては、1,3-シクロペンチレンジイソシアネート、1,3-シクロヘキシレンジイソシアネート、1,4-シクロヘキシレンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアナートメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(イソシアナートメチル)シクロヘキサン、リジンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、2,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、2,2’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、3,3’-ジメチル-4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等が挙げられる。
【0056】
上記ウレタン樹脂(A1)を製造する際、ポリイソシアネート(y)に含まれるイソシアネート基とポリオール(x)に含まれる水酸基とのモル比[NCO/OH]は、例えば0.1以上5以下、好ましくは0.3以上3以下、より好ましくは0.4以上1.5以下であり得る。
【0057】
上記鎖伸長剤(z1)は、1分子中に活性水素原子を2個以上有する化合物であり、代表的には、上記ポリオール(x)とポリイソシアネート(y)との反応物にさらに反応させるために用いられる。ポリオール(x)とポリイソシアネート(y)との反応物に鎖伸長剤(z1)をさらに反応させることにより、高分子量のウレタン樹脂を得ることが容易となる。
【0058】
上記鎖伸長剤(z1)としては、アミノ基を有する鎖伸長剤、水酸基を有する鎖伸長剤が挙げられる。
【0059】
上記アミノ基を有する鎖伸長剤としては、エチレンジアミン、1,2-プロパンジアミン、1,6-ヘキサメチレンジアミン、ピペラジン、2-メチルピペラジン、2,5-ジメチルピペラジン、イソホロンジアミン、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジアミン、3,3’-ジメチル-4,4’-ジシクロヘキシルメタンジアミン、1,2-シクロヘキサンジアミン、1,4-シクロヘキサンジアミン、アミノエチルエタノールアミン、ヒドラジン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン等が挙げられる。
【0060】
上記水酸基を有する鎖伸長剤としては、エチレングリコール、ジエチレンリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ヘキサメチレングリコール、サッカロース、メチレングリコール、グリセリン、ソルビトール等の脂肪族ポリオール;ビスフェノールA、4,4’-ジヒドロキシジフェニル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、水素添加ビスフェノールA、ハイドロキノン等の芳香族ポリオール;水等が挙げられる。
【0061】
上記鎖伸長剤(z1)を含む場合、ポリイソシアネート(y)に含まれるイソシアネート基と、ポリオール(x)に含まれる水酸基および鎖伸長剤(z1)に含まれる活性水素原子の合計とのモル比[NCO/(H+OH)]は、例えば0.1以上5以下、好ましくは0.3以上3以下、より好ましくは0.4以上1以下であり得る。
【0062】
上記末端停止剤(z2)は、1分子中に活性水素原子を1個有する化合物であり、代表的には、上記ポリオール(x)とポリイソシアネート(y)と必要に応じて用いられる鎖伸長剤(z1)との反応物にさらに反応させるために用いられる。
【0063】
上記末端停止剤としては、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、ウンデカノール等のアルコール;ジブチルアミン等のアミンが挙げられる。
【0064】
上記末端停止剤(z1)は、上記ポリオール(x)および上記ポリイソシアネート(y)の反応物100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上20質量部以下、より好ましくは0.1質量部以上10質量部以下であり得る。
【0065】
上記ウレタン樹脂(A1)の平均架橋点間分子量は、好ましくは9,300以上30,000以下、より好ましくは9,500以上27,000以下、さらに好ましくは9,500以上20,000以下、いっそう好ましくは9,500以上12,000以下であり得る。平均架橋点間分子量は、隣合う2つの架橋点(分岐点)の間の分子鎖の分子量の平均値と理解され得る。特定の理論に限定して解釈されるべきではないが、ウレタン樹脂(A1)における架橋点間分子量がかかる範囲にあることで、磁場を印加した場合に、磁性粉(B)が制約なく配向変化し得、良好な弾性率変化が得られると考えられる。
【0066】
上記平均架橋点間分子量は、上記トリオール(x1)の数平均分子量、上記ジオール(x2)を用いる場合、ジオール(x2)の数平均分子量、上記トリオール(x1)と上記ジオール(x2)の使用量等により制御され得る。
【0067】
一態様において、上記平均架橋点間分子量は、ポリオール(x)に含まれるi官能のポリオールの数平均分子量をMとし、ポリオール(x)の全量におけるi官能のポリオールのモル分率をCとした場合、以下の式(1)に基づいて算出され得る。
【0068】
【数1】
【0069】
すなわち、ポリオールの数平均分子量をポリオールの官能基数で割って得られる数の2倍の値をポリオール1分子の長さと仮定し、ポリオールの官能基数から2を差し引いた値をポリオールに含まれる架橋点の数と仮定した場合、上記式(1)では、ポリオールの長さの合計を架橋点の合計で除していることとなる。
【0070】
古典ゴム論によれば、不純物を含まない架橋ゴムにおいて、架橋ゴムの架橋点間分子量は、該架橋ゴムの弾性率と相関していると考えられている。すなわち、架橋ゴムの架橋点間分子量をMc、架橋ゴムのポアソン比をμ、架橋ゴムの密度をρ(g/m)、気体定数をR(J/(K・mol))、温度をT(K)とすると、架橋ゴムの弾性率E(Pa)は、以下の式で表される。
【0071】
【数2】
【0072】
すなわち、不純物を含まない架橋ゴムでは、架橋点間分子量が大きいほど、架橋ゴムの弾性率は小さくなる。
【0073】
本開示の磁気粘弾性エラストマー組成物は、ウレタン樹脂(A1)に加えて磁性粉(B)を含み、上記ウレタン樹脂(A1)の平均架橋点間分子量と、磁気粘弾性エラストマー組成物の弾性率との関係は、必ずしも上記式にはあてはまらないと考えられるが、本開示では、ウレタン樹脂(A1)の製造に用いられるトリオール(x1)の数平均分子量を4,000以上とすることで、良好な弾性率変化が得られることを確認しており、注目される。
【0074】
上記ウレタン樹脂(A1)は、上記ポリオール(x)、ポリイソシアネート(y)および必要に応じて用いる鎖伸長剤(z1)、末端停止剤(z2)を反応させることにより製造され得る。かかる反応は、無溶剤下または反応溶剤の存在下で実施され得る。反応温度は、50~150℃であってよい。上記反応溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン溶剤;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル等の酢酸エステル溶剤;アセトニトリル等のニトリル溶剤;ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン等のアミド溶剤等が挙げられる。
【0075】
樹脂(A)に含まれるウレタン樹脂(A1)の含有率は、好ましくは80質量%以上100質量%以下、より好ましくは90質量%以上100質量%以下、さらに好ましくは95質量%以上100質量%以下でありうる。
【0076】
磁気粘弾性エラストマー組成物に含まれるウレタン樹脂(A1)の含有率は、磁気粘弾性エラストマー組成物中、例えば1質量%以上50質量%以下、好ましくは2質量%以上30質量%以下、より好ましくは3質量%以上20質量%以下であり得る。
【0077】
[その他の樹脂(A2)]
上記樹脂(A)は、上記ウレタン樹脂(A1)に加えて、その他の樹脂(A2)をさらに含んでいてもよい。かかる樹脂(A2)としては、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、シリコーン樹脂等が挙げられる。
【0078】
[磁性粉(B)]
上記磁性粉(B)は、外部磁場の変化に応答して、その磁気モーメントの向き又は大きさが変化し得る磁性体の粉末を表す。上記磁性体は、代表的には、強磁性体であり得、好ましくは、軟磁性体であり得る。
【0079】
上記磁性体は、例えば、Fe、または、Feを含む合金もしくは酸化物であり得;好ましくは、Fe、または、Feと、B、C、N、O、Na、Mg、Al、Si、P、S、Cl、K、Ti、V、Cr、Mn、Co、Ni、Cu、Zn、As、Sr、Zr、Nb、Mo、Pd、Sn、Ba、La、TaおよびBiからなる群より選択される少なくとも1種とを含む合金もしくは酸化物であり得;より好ましくは、Fe、または、Feと、B、Al、Si、Cr、CoおよびNiからなる群より選択される少なくとも1種とを含む合金であり得る。
【0080】
かかる磁性体としては、Fe;マンガン亜鉛フェライト、ニッケル亜鉛フェライト、銅亜鉛フェライト、ナトリウムフェライト等のソフトフェライト;FeNi合金、FeCo合金、FeSi合金、FeSiCr合金、FeSiAl合金およびFeSiBCr合金等の合金が挙げられる。
【0081】
上記磁性体の保磁力は、100A/m以下であることが好ましく、下限は0A/m以上であり得る。
【0082】
上記磁性体の飽和磁束密度は、好ましくは0.1T以上3T以下、より好ましくは0.5T以上2.5T以下、さらに好ましくは0.7T以上2.3T以下であってよい。
【0083】
0.002Tの磁場下で測定した上記磁性体の透磁率は、好ましくは0.0001H/m以上1H/m以下、より好ましくは0.0005H/m以上0.1H/m以下、さらに好ましくは0.001H/m以上0.01H/m以下であってよい。
【0084】
上記磁性体の保磁力、飽和磁束密度および透磁率は、バルクとして測定した保磁力、飽和磁束密度および透磁率を表し、代表的には試料振動式磁束計により測定され得る。
【0085】
上記磁性粉(B)の形状は、例えば、球状、扁平状、針状等であってよく、代表的には球状であり得る。
【0086】
上記磁性粉(B)は、その表面に絶縁被膜を有する粉末であってもよい。かかる絶縁被膜としては、無機ガラス被膜、有機高分子被膜、有機-無機ハイブリット被膜、および、金属アルコキシドのゾル-ゲル反応により形成される無機系絶縁被膜が挙げられる。
【0087】
本開示の磁気粘弾性エラストマー組成物における、磁性粉(B)の含有率は、上記樹脂(A)と磁性粉(B)の合計100体積%中、好ましくは25体積%以上55体積%以下、より好ましくは35体積%以上50体積%以下、さらに好ましくは40体積%以上45体積%以下である。磁性粉(B)の含有率がかかる範囲にあることで、磁場の変化に応答した弾性率変化が良好となりうる。
磁性粉(B)の含有率は、磁気粘弾性エラストマに熱(500℃以上)をかけて有機成分を飛ばし、残った磁性粉の重量を測定することにより測定できる。
【0088】
本開示の磁気粘弾性エラストマー組成物における、上記樹脂(A)と磁性粉(B)の合計の含有率は、好ましくは60質量%以上100質量%以下、より好ましくは70質量%以上100質量%以下、さらに好ましくは75質量%以上100質量%以下である。
【0089】
[可塑剤(C)]
本開示の磁気粘弾性エラストマー組成物は、上記樹脂(A)および上記磁性粉(B)に加えて、可塑剤(C)をさらに含んでいてもよい。
【0090】
可塑剤(C)としては、芳香族ジカルボン酸系可塑剤、脂肪族ジカルボン酸系可塑剤、リン酸系可塑剤、トリメリット酸系可塑剤等が挙げられる。
【0091】
上記芳香族ジカルボン酸系可塑剤としては、フタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル、フタル酸ジイソノニル、フタル酸ジイソデシル、フタル酸ジウンデシル、フタル酸ジトリデシル等のフタル酸ジエステル;イソフタル酸ジオクチル、イソフタル酸ジ-2-エチルヘキシル等のイソフタル酸ジエステル;テレフタル酸ジオクチル、テレフタル酸ジ-2-エチルヘキシル等のテレフタル酸ジエステル等が挙げられる。
上記脂肪族ジカルボン酸系可塑剤としては、アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ジ-2-エチルヘキシル、アジピン酸イソノニル、アジピン酸ジイソデシル等のアジピン酸ジエステル;セバシン酸ジオクチル、セバシン酸ジ-2-エチルヘキシル、セバシン酸ジイソノニル等のセバシン酸ジエステル等が挙げられる。
上記リン酸系可塑剤としては、リン酸トリオクチル、リン酸トリ-2-エチルヘキシル、リン酸トリクレジル等のリン酸エステ等が挙げられる。
上記トリメリット酸系可塑剤としては、トリメリット酸トリオクチル、トリメリット酸トリ-2-エチルヘキシル等のトリメリット酸トリエステル;ピロメリット酸テトラオクチル、ピロメリット酸テトラ-2-エチルヘキシル等のピロメリット酸テトラエステル等が挙げられる。
【0092】
上記可塑剤(C)は、好ましくは芳香族ジカルボン酸系可塑剤を含み、より好ましくはフタル酸ジエステルを含み、特に好ましくはフタル酸ジオクチルまたはフタル酸ジ-2-エチルヘキシルを含む。
【0093】
本開示の磁気粘弾性エラストマー組成物における可塑剤(C)の含有量は、上記樹脂(A)と磁性粉(B)の合計100質量部に対して、好ましくは0質量部以上40質量部以下、より好ましくは5質量部以上35質量部以下、さらに好ましくは10質量部以上33質量部以下である。可塑剤(C)の含有率がかかる範囲にあることで、磁気粘弾性エラストマー組成物が適度な粘性を有し、磁場の変化に応じた磁性粉(B)の配向変化が良好となりうる。
【0094】
本開示の磁気粘弾性エラストマー組成物における、上記樹脂(A)と磁性粉(B)と可塑剤(C)の合計の含有率は、好ましくは80質量%以上100質量%以下、より好ましくは90質量%以上100質量%以下、さらに好ましくは95質量%以上100質量%以下である。
【0095】
[添加剤(D)]
本開示の磁気粘弾性エラストマー組成物は、上記樹脂(A)、磁性粉(B)および必要に応じて用いる可塑剤(C)に加えて、その他の添加剤(D)を含んでいてもよい。かかる添加剤(D)としては、ウレタン化触媒、酸化防止剤、光安定剤、耐衝撃剤、帯電防止剤、難燃剤、防腐剤、紫外線吸収剤、粘度調整剤、着色剤等が挙げられる。
【0096】
上記ウレタン化触媒は、ポリオール(x)およびポリイソシアネート(y)の反応に用いられ、オクチル酸錫、ジブチル錫ジクロライド、ジブチル錫オキシド、ジブチル錫ジラウレート等の錫系化合物;ジブチルチタニウムジクロライド、テトラブチルチタネート、ブトキシチタニウムトリクロライド等のチタン系化合物;ナフテン酸亜鉛、2-エチルヘキサン酸亜鉛等の亜鉛系化合物;トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、1,8-ジアザビシクロ-(5,4,0)-ウンデセン-7等の第3級アミン等が挙げられる。
上記ウレタン化触媒は、上記ウレタン樹脂(A1)100質量部に対して、1質量部以上10質量部以下であってよい。
【0097】
[組成物の製造方法]
本開示の磁気粘弾性エラストマー組成物は、樹脂(A)および磁性粉(B)を混合することにより製造され得る。樹脂(A)および磁性粉(B)の混合は、例えば、樹脂(A)と磁性粉(B)とをそのまま混合することを含み得、樹脂(A)の原料と磁性粉とを混合した後、樹脂(A)の原料を反応させて樹脂(A)とすることも含み得る。樹脂(A)及び磁性粉(B)を混合するに際し、必要に応じて用いるウレタン化触媒、可塑剤(C)および添加剤(D)を適宜共存させてよい。
【0098】
代表的には、本開示の磁気粘弾性エラストマー組成物は、上記ポリオール(x)、ポリイソシアネート(y)および磁性粉(B)を混合した後、加熱してポリオール(x)とポリイソシアネート(y)との反応物を得ることにより製造され得る。加熱温度は、50~150℃であってよく、加熱時間は、30分~20時間であってよい。また、上記加熱は、無溶媒下または反応溶媒の存在下で実施してよい。かかる反応溶媒としては、トルエン、アセトン、n-メチルピロリドン等が挙げられる。
【0099】
ポリオール(x)、ポリイソシアネート(y)および磁性粉(B)の混合順序は特に限定されない。例えば、ポリオール(x)、ポリイソシアネート(y)および磁性粉(B)を同時に混合してもよく、ポリオール(x)と磁性粉(B)とを混合した後、かかる混合物とポリイソシアネート(y)とを混合してもよい。ポリオール(x)、ポリイソシアネート(y)および磁性粉(B)を混合するに際し、必要に応じて用いるウレタン化触媒、樹脂(A2)、可塑剤(C)および添加剤(D)を適宜共存させてよい。
【0100】
好ましい態様において、本開示の磁気粘弾性エラストマー組成物の製造方法は、
磁性粉(B)の共存下、ポリオール(x)とポリイソシアネート(y)とを反応させて、磁気粘弾性エラストマー組成物を得ることを含み、
上記ポリオール(x)とポリイソシアネート(y)との反応は、磁場強度0mT超の磁場下で実施され、
上記ポリオール(x)は、数平均分子量4,000以上のトリオール(x1)を含む。
【0101】
かかる製造方法によれば、ポリオール(x)とポリイソシアネート(y)との反応により樹脂(A)が形成する際に、磁場が印加されているため、得られる磁気粘弾性エラストマー組成物において、磁性粉(B)が印加された磁場の磁力線に沿って配列され得る。かかる磁性粉(B)の配向は、磁気粘弾性エラストマー組成物形成後に磁場を解除しても維持され得る。そして、再度磁性粉(B)の配列方向に沿って磁場を印加すると、磁性粉(B)が配列していない場合と比較して、磁性粉(B)の相互作用がより強められ得、より高い弾性率が得られると考えられる。一方、磁場が存在しない場合、通常は磁性粉(B)間の相互作用は生じないため、エラストマーとしての柔軟性は維持され得る。その結果、磁性粉(B)が配向している磁気粘弾性エラストマー組成物では、磁場を印加した場合における貯蔵弾性率の変化が、磁場を印加しない場合における貯蔵弾性率と比較して、さらに大きくなり得る。
【0102】
上記ポリオール(x)とポリイソシアネート(y)とを反応させる際の磁場強度は、好ましくは10mT以上であり、より好ましくは10mT以上400mT以下、さらに好ましくは20mT以上350mT以下、いっそう好ましくは100mT以上350mT以下であり得る。
【0103】
[組成物の特性]
磁気粘弾性エラストマー組成物は、粘性と弾性とを有する。
ゼロ磁場下で測定した、磁気粘弾性エラストマー組成物の貯蔵弾性率G’は、好ましくは1,000Pa以上20,000Pa以下、より好ましくは1,000Pa以上10,000Pa以下、さらに好ましくは1,000Pa以上5,000Pa以下であり得る。磁気粘弾性エラストマー組成物の貯蔵弾性率がかかる範囲にあることで、磁場印加時の弾性率変化が良好になり得る。
【0104】
本開示の磁気粘弾性エラストマー組成物は、磁場を印加した場合、磁場を印加しない場合と比較して、貯蔵弾性率が増加し得る。具体的には、一態様において、磁場強度120,000A/mの条件下において、磁場の向きと回転式粘弾性測定装置の回転軸とが平行になるようにして測定した貯蔵弾性率G’は、好ましくは400,000Pa以上、より好ましくは800,000Pa以上、さらに好ましくは1,000,000Pa以上であり得る。別の態様において、磁場強度120,000A/mの条件下において、磁場の向きと回転式粘弾性測定装置の回転軸とが平行になるようにして測定した貯蔵弾性率G’は、好ましくは40,000Pa以上、より好ましくは80,000Pa以上、さらに好ましくは100,000Pa以上であり得る。磁場を印加した場合における貯蔵弾性率がかかる範囲にあることで、磁気粘弾性エラストマー組成物を通過する粗密波、特に音波や超音波の伝播速度が高められ得る。
【0105】
磁場の印加による貯蔵弾性率の変化率(以下、単に「磁場による貯蔵弾性率変化率」ともいう)をG’/G’とした場合、本開示の磁気粘弾性エラストマー組成物の磁場による貯蔵弾性率変化率は、好ましくは5以上、より好ましくは20以上、さらに好ましくは40以上であり、例えば300以下、さらに200以下、あるいは150以下であってもよい。磁場による貯蔵弾性率変化率がかかる範囲にあることで、磁気粘弾性エラストマー組成物を通過する粗密波、特に音波や超音波を高度に偏向させ得る。さらに、磁気粘弾性エラストマー組成物の貯蔵弾性率が上記範囲にあり、且つ、磁場による貯蔵弾性率変化率がかかる範囲にあることで、印加する磁場の強度により広い範囲の弾性率を再現することができ、音波又は超音波を変更させるために好ましく用いられ得る。
【0106】
本開示の磁気粘弾性エラストマー組成物は、磁場の印加により貯蔵弾性率が増加し得、音波、超音波、振動波等の粗密波の伝播方向を変化させる(粗密波を偏向させる)ために好適に用いられ得る。粗密波の伝播速度c(m/s)は、伝播媒体の弾性率の平方根に比例し、具体的には、密度をρ(kg/m)、体積弾性率をκ(Pa)としたとき、以下の式(2)で表される。
【0107】
【数3】
【0108】
そのため、弾性率が高い場合は粗密波の伝播速度が大きく、弾性率が低い場合は、粗密波の伝播速度が小さい。特定の理論に限定して解釈されるべきではないが、本開示の磁気粘弾性エラストマー組成物に磁場を印加した場合、貯蔵弾性率の増加は磁場の向きと相関し、代表的には、磁場の向きと平行な方向の貯蔵弾性率が増加する。そのため、磁場の印加により貯蔵弾性率に異方性が生じる結果、粗密波の伝播方向が変化しうることになると考えられる。
【0109】
本開示の磁気粘弾性エラストマー組成物は、好ましくは、音波または超音波を偏向させるために用いられ、特に、スピーカ等の音響デバイス;超音波センサ等の超音波デバイスに好適に用いられる。また、本開示の磁気粘弾性エラストマー組成物は、弾性率の変化を利用した触覚フィードバックデバイスに用いることが出来る。
【0110】
本開示は、以下を含む。
[1]
樹脂(A)および磁性粉(B)を含み、
前記樹脂(A)は、ウレタン樹脂(A1)を含み、
前記ウレタン樹脂(A1)は、ポリオール(x)とポリイソシアネート(y)との反応物を含み、
前記ポリオール(x)は、数平均分子量4,000以上のトリオール(x1)を含む、磁気粘弾性エラストマー組成物。
[2]
前記ウレタン樹脂(A1)の平均架橋点間分子量は、9,500以上27,000以下である、[1]に記載の磁気粘弾性エラストマー組成物。
[3]
前記磁性粉(B)の含有率は、前記樹脂(A)と前記磁性粉(B)の合計100体積%中、25体積%以上55体積%以下である、[1]または[2]に記載の磁気粘弾性エラストマー組成物。
[4]
可塑剤(C)をさらに含み、前記可塑剤(C)は、芳香族ジカルボン酸系可塑剤を含む、[1]~[3]のいずれか1つに記載の磁気粘弾性エラストマー組成物。
[5]
磁性粉(B)の共存下、ポリオール(x)とポリイソシアネート(y)とを反応させて、磁気粘弾性エラストマー組成物を得ることを含み、
前記ポリオール(x)とポリイソシアネート(y)との反応は、磁場強度0mT超の磁場下で実施され、
前記ポリオール(x)は、数平均分子量4,000以上のトリオール(x1)を含む、磁気粘弾性エラストマー組成物の製造方法。
[6]
磁性粉(B)の共存下、ポリオール(x)とポリイソシアネート(y)とを反応させて得られ、
前記ポリオール(x)とポリイソシアネート(y)との反応は、磁場強度0mT超の磁場下で実施され、
前記ポリオール(x)は、数平均分子量4,000以上のトリオール(x1)を含む、磁気粘弾性エラストマー組成物。
【実施例
【0111】
以下の実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0112】
(実験例1)
反応容器に、数平均分子量3,000のポリプロピレントリオールを1.64質量部、数平均分子量3,000のポリプロピレンジオールを3.39質量部、ポリイソシアネート(y)として、トリレンジイソシアネートを0.45質量部、磁性粉(B)として、粒径3μmのFeSiCr粉を70.9質量部、可塑剤(C)として、フタル酸ジオクチルを22.8質量部入れ、混合した。次いで、該混合物にウレタン化触媒として、オクチル酸スズを0.4質量部添加し、さらに混合した後、脱泡撹拌機を用い、2,000rpmで390秒間撹拌して、ペーストを得た。ホットプレートを用い、得られたペーストを75℃で2時間加熱し、熱硬化させて、磁気粘弾性エラストマー(MRE)組成物を得た。
【0113】
(実験例2~9)
トリオールおよびジオールの数平均分子量(Mn)および使用量、磁性粉(B)および可塑剤(C)の使用量を、表1、2に示す通りに変更したこと以外は、実験例1と同様にして、磁気粘弾性エラストマー組成物を得た。
【0114】
(実験例10~14)
反応容器に、数平均分子量4,000のポリプロピレントリオールを2.07質量部、数平均分子量3,000のポリプロピレンジオールを3.63質量部、ポリイソシアネート(y)として、トリレンジイソシアネートを0.45質量部、磁性粉(B)として、粒径3μmのFeSiCr粉を70.9質量部、可塑剤(C)として、フタル酸ジオクチルを22.8質量部入れ、混合した。次いで、該混合物にウレタン化触媒として、オクチル酸スズを0.4質量部添加し、さらに混合した後、脱泡撹拌機を用い、2,000rpmで390秒間撹拌して、ペーストを得た。ホットプレートを用い、表2に示す条件で磁場を印加しながら、得られたペーストを75℃で2時間加熱し、熱硬化させて、磁気粘弾性エラストマー(MRE)組成物を得た。
【0115】
実験例1~14の磁気粘弾性エラストマー組成物について、以下の測定を実施した。
【0116】
[貯蔵弾性率の測定方法]
磁気粘弾性エラストマー組成物を直径2cm、厚さ1mmの円盤状に成形し、試料とした。次いで、粘弾性測定装置(Anton Paar社製、型式:MCR301)に試料をセットし、磁場発生装置(Anton Paar社製、型式:PS-MRD)を用いて、磁場を印加しない場合及び磁場を印加した場合の貯蔵弾性率を測定した。粘弾性測定装置の回転軸と、磁場の向きとは、平行となるようにして、測定を実施した。
(粘弾性測定時の条件)
測定温度:25℃
端子から試料に加えられる荷重:0.3N
周波数:1Hz
ひずみ:0.01%
磁場を印加する際の磁場強度:150mT
【0117】
結果を表1、2に示す。なお、表1、2の実験例1~17のうち、本発明の比較例に該当するものに記号「*」を付して示し、それ以外は本発明の実施例に該当する。
【0118】
【表1】
【0119】
実験例2~6、8~9は、本開示の実施例であり、磁場を印加した場合における貯蔵弾性率の変化が、磁場を印加しない場合における貯蔵弾性率と比較して、大きかった。
実験例1、7は、数平均分子量4,000以上のトリオールを含まない例であり、磁場を印加した場合の貯蔵弾性率の変化が、十分に満足できるものではなかった。
【0120】
【表2】
【0121】
実施例10~14は、ポリオール(x)とポリイソシアネート(y)との反応を磁場強度20~500mTの磁場下で実施した例であり、得られた磁気粘弾性エラストマー組成物は、磁場印加時の貯蔵弾性率が高く、弾性率変化が良好であった。樹脂(A)単体の貯蔵弾性率は、3.0kPaであり、本開示の磁気粘弾性エラストマー組成物は、かかる柔軟性の高い樹脂(A)を含むため、磁性粉(B)の配列変化が妨げられにくく、高い弾性率変化が得られると考えられる。