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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】杭施工方法、管杭及び杭構造
(51)【国際特許分類】
   E02D 7/26 20060101AFI20241016BHJP
   E02D 7/02 20060101ALI20241016BHJP
   E02D 7/20 20060101ALI20241016BHJP
   E02D 7/22 20060101ALI20241016BHJP
   E02D 5/24 20060101ALI20241016BHJP
   E02D 5/48 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
E02D7/26
E02D7/02
E02D7/20
E02D7/22
E02D5/24
E02D5/48
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2024012797
(22)【出願日】2024-01-31
【審査請求日】2024-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000198787
【氏名又は名称】積水ハウス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】弁理士法人あーく事務所
(72)【発明者】
【氏名】平野 成志
(72)【発明者】
【氏名】村島 正憲
(72)【発明者】
【氏名】岡田 勝彦
(72)【発明者】
【氏名】武野 航大
【審査官】五十幡 直子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-251519(JP,A)
【文献】特公昭49-40964(JP,B2)
【文献】特開昭63-233117(JP,A)
【文献】特開2018-172879(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/22~5/80
E02D 7/00~13/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記[工程1]~[工程6]を含む杭施工方法。
[工程1]中空の直管の周壁に、前記直管の材長方向に延びて前記周壁を内外方向に貫通する複数本のスリットを形成することにより、当該部分の周壁を易拡径部とし、前記直管の先端を閉塞した管杭を準備する。
[工程2]前記管杭を、圧入又は打込みによって地盤の所定深さまで埋設する。
[工程3]前記管杭の頭部に沈降防止具を取り付けて、前記沈降防止具を地盤表面に当接させる。
[工程4]前記管杭の内部に砕石を投入して、少なくとも前記易拡径部の高さまで充填する。
[工程5]前記管杭の上方から加圧装置を用いて前記砕石に加圧することにより、前記易拡径部を径外方向に膨出変形させる。
[工程6]前記砕石への加圧を停止し、前記加圧装置を除去して、前記沈降防止具を取り外す。
【請求項2】
請求項1に記載された杭施工方法の[工程2]において、
前記管杭を一定方向に回転圧入しながら埋設する
ことを特徴とする杭施工方法。
【請求項3】
請求項2に記載された杭施工方法において、
[工程1]で準備される前記管杭は、前記易拡径部の材軸直交断面に表れる前記スリットの貫通方向が、前記管杭の径方向に対して所定角度、傾斜するように形成されており、
[工程2]では、前記スリットの貫通方向における内側が前記管杭の回転方向において先行する向きに前記管杭を回転させる
ことを特徴とする杭施工方法。
【請求項4】
中空の直管からなる管杭であって、
先端が閉塞された前記直管の周壁に、前記直管の材長方向に延びて前記周壁を内外方向に貫通する複数本のスリットが形成されてなる易拡径部が設けられ、
前記易拡径部は、その材軸直交断面に表れる前記スリットの貫通方向が、前記直管の径方向に対して所定角度、傾斜するように形成されている
ことを特徴とする管杭。
【請求項5】
請求項4に記載された管杭において、
前記易拡径部が、材軸方向に所定の間隔を設けて複数箇所に設けられている
ことを特徴とする管杭。
【請求項6】
先端が閉塞された中空の直管からなる管杭の周壁に、前記管杭の材長方向に延びて前記周壁を内外方向に貫通する複数本のスリットが形成されてなる易拡径部が設けられ、
前記管杭が地盤内に埋設され、
前記管杭の内部に砕石が充填され、
前記砕石が加圧されることにより、前記易拡径部が前記地盤内で径外方向に膨出変形している
ことを特徴とする杭構造。
【請求項7】
請求項6に記載された杭構造において、
前記易拡径部は、その材軸直交断面に表れる前記スリットの貫通方向が、前記直管の径方向に対して所定角度、傾斜するように形成されている
ことを特徴とする杭構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願が開示する発明は、鋼管その他の中空直管からなる管杭を地盤に埋設して支持力を得るための杭施工方法と、該方法に利用する管杭、さらに該方法によって施工される杭構造に関する。
【背景技術】
【0002】
住宅その他の中小規模建物の建築工事に際しては、十分な地盤支持力を得るために、小口径(φ100mm~200mm程度)の鋼管杭による杭施工方法がよく採用される。小口径鋼管杭による杭施工方法としては、
(1)杭先端に螺旋状の撹拌翼を取り付けた鋼管杭を回転させて地盤を掘削しながら貫入し、杭先端を硬質層へ到達させることで支持力を得る杭施工方法
(2)撹拌翼のない直管を回転させずに、又は回転させながら地盤に圧入して、その周面の摩擦抵抗により支持力を得る杭施工方法
が代表的である。
【0003】
前記(1)の杭施工方法は、鋼管杭の回転貫入に大型の施工機械を要し、地盤によっては杭先端を深部の硬質層まで到達させる必要があるので、杭長が大きくなって施工費が高額になることが多い。また、撹拌翼の回転によって地盤内の土壌が乱れるため、周面摩擦力が得られない。
【0004】
一方、前記(2)の杭施工方法は、前記(1)の杭施工方法に比べると簡便かつ安価に施工できるが、地盤が軟弱な場合は十分な周面摩擦力が得られず、また、地盤の浅部に岩等の障害物あると施工が困難になることもある。
【0005】
そこで、直管状の鋼管杭を地盤に圧入した後、その内部から鋼管杭の周面を径外方向に押し拡げて周面摩擦力を増大させる施工方法が提案されている。例えば特許文献1~4等には、予め先端部分又は中間部分の周壁にスリットを形成した鋼管杭を地盤に圧入した後、その鋼管杭の内部に機械的な拡径装置を挿入したり、膨張性材料を充填したりして、スリットが形成された部分を拡径させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭55-009953号公報
【文献】特開昭57-108314号公報
【文献】特開昭63-233117号公報
【文献】特開2014-070478号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本願が開示する発明は、前述のような、周壁にスリットを形成した鋼管杭等を地盤に圧入して内側から拡径する杭施工方法に関して、従来よりも簡便で安価に施工し得る拡径手段を採用した杭施工方法と、該方法に好適に利用し得る管杭、さらに該方法によって施工される杭構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述の目的を達成するために本願が採用した杭施工方法は、下記[工程1]~[工程6]を含むものとして特徴付けられる。
[工程1]中空の直管の周壁に、前記直管の材長方向に延びて前記周壁を内外方向に貫通する複数本のスリットを形成することにより、当該部分の周壁を易拡径部とし、前記直管の先端を閉塞した管杭を準備する。
[工程2]前記管杭を、圧入又は打込みによって地盤の所定深さまで埋設する。
[工程3]前記管杭の頭部に沈降防止具を取り付けて、前記沈降防止具を地盤表面に当接させる。
[工程4]前記管杭の内部に砕石を投入して、少なくとも前記易拡径部の高さまで充填する。
[工程5]前記管杭の上方から加圧装置を用いて前記砕石に加圧することにより、前記易拡径部を径外方向に膨出変形させる。
[工程6]前記砕石への加圧を停止し、前記加圧装置を除去して、前記沈降防止具を取り外す。
【0009】
なお、本杭施工方法では、前記[工程1]~[工程6]に続けて、以下の[工程7]及び[工程8]を実施してもよい。
[工程7]前記管杭の頭部を所定の高さに調整する。
[工程8]前記調整後の管杭の上に建物の基礎を施工する。
【0010】
さらに、本願が採用した杭施工方法は、前述の[工程2]において、前記管杭を一定方向に回転圧入しながら埋設する、ものとして特徴付けられる。
【0011】
この杭施工方法において、[工程1]で準備される前記管杭は、前記易拡径部の材軸直交断面に表れる前記スリットの貫通方向が、前記管杭の径方向に対して所定角度、傾斜するように形成されており、[工程2]では、前記スリットの貫通方向における内側が前記管杭の回転方向において先行する向きに前記管杭を回転させる、ように施工するのが好ましい。
【0012】
また、本願が開示する管杭の発明は、中空の直管からなる管杭であって、先端が閉塞された前記直管の周壁に、前記直管の材長方向に延びて前記周壁を内外方向に貫通する複数本のスリットが形成されてなる易拡径部が設けられ、前記易拡径部は、その材軸直交断面に表れる前記スリットの貫通方向が、前記直管の径方向に対して所定角度、傾斜するように形成されている、ものとして特徴付けられる。
【0013】
さらに、その管杭は、前記易拡径部が、材軸方向に所定の間隔を設けて複数箇所に設けられている、ものとすることもできる。
【0014】
また、本願が開示する杭構造の発明は、先端が閉塞された中空の直管からなる管杭の周壁に、前記管杭の材長方向に延びて前記周壁を内外方向に貫通する複数本のスリットが形成されてなる易拡径部が設けられ、前記管杭が地盤内に埋設され、前記管杭の内部に砕石が充填され、前記砕石が加圧されることにより、前記易拡径部が前記地盤内で径外方向に膨出変形している、ものとして特徴付けられる。
【0015】
さらに、前記易拡径部は、その材軸直交断面に表れる前記スリットの貫通方向が、前記直管の径方向に対して所定角度、傾斜するように形成されている、もとして特徴付けられる。
【発明の効果】
【0016】
前述のように構成される杭施工方法によれば、管杭を地盤に圧入又は打込みにより埋設することで、地盤の障害物による影響を小さくすることができる。そして、管杭の内部に充填した砕石を管杭の頭部側から加圧するという簡便な工程で、管杭に形成した易拡径部を径外方向に膨出変形させ、地盤に対する管杭の周面摩擦力を増大させて、優れた支持力を得ることができる。
【0017】
また、前述のように構成される管杭を使用すれば、管杭を地盤に回転圧入する際、周壁に形成したスリットから管杭の内部に周囲の土砂が入り込むのを防ぐことができる。
【0018】
また、前述のように構成される杭構造によれば、地盤に対する管杭の周面摩擦力が増大して、優れた支持力を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本願が開示する杭施工方法における[工程1]から[工程4]までの施工方法を示す説明図であり、(ア)~(ウ)は外観図、(エ)は断面図である。
図2】同じく、[工程5]から[工程7]までの施工方法を示す説明図であり、(オ)及び(カ)は断面図、(キ)及び(ク)は半断面・半外観図である。
図3】同じく、[工程8]の施工方法を示す説明図であり、(ケ)~(サ)は半断面・半外観図である。
図4】本願が開示する発明の一実施形態に係る管杭の、易拡径部の材軸直交断面図である。
図5】前記管杭の頭部と、その頭部に取り付けられるアタッチメントの一例を示す斜視図である。
図6】前記管杭の頭部に取り付ける沈降防止具の一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本願が開示する発明の実施形態について説明する。
【0021】
[管杭]
この杭施工方法では、中空円形断面の小口径鋼管等を管杭として使用する。建築・土木工事の支柱、足場、杭等に用いられる鋼管の仕様は日本工業規格(JIS)G3444:2015「一般構造用炭素鋼鋼管」に規定されており、「小口径鋼管杭」とは通常、外径101.6mm~267.4mmの鋼管杭を用いる杭施工方法をいうが、この杭施工方法は、目安として外径139.8mm、肉厚4.5mm程度から、外径267.4mm、肉厚6.0mm程度までの鋼管を使用することを想定している。
【0022】
ただし、本願が開示する発明は、鋼管のサイズを前記範囲内に限定するものではない。また、鋼管以外の金属管も使用可能である。十分な剛性を有して、適度の塑性変形を生じる管材であれば、繊維強化プラスチック(FRP)や炭素繊維強化プラスチック(CFRP)等からなる樹脂管を使用することもできる。後述する易拡径部には塑性変形し易い管材を使用し、その他の一般部には剛性の高い同径の管材を使用して、それらを適所で継ぎ合わせてもよい。本明細書及び特許請求の範囲では、それらの中空管材を包括して「直管」と呼ぶ。
【0023】
図1図3は、本願が開示する杭施工方法を工程順に示す説明図である。以下、これらの図面を参照しつつ工程順に説明する。なお、これら各図は模式的に表現したものであり、管杭の太さ、長さ、その他の細部は、紙面サイズに合わせて適宜、デフォルメされている。
【0024】
[工程1]~[工程2]
この杭施工方法では、現場施工に先立って、前述のような直管の先端近傍部分又は中間部分の周壁に易拡径部11を形成した管杭1を準備する。易拡径部11は、管杭1の材長方向に延びて管杭1の周壁を内外方向に貫通するスリット12を、管杭1の周方向に一定間隔で複数本、形成した部位である。図1(ア)に例示した管杭1では、その材長方向における中間部分に、適宜の間隔を設けて、二か所の易拡径部11が設けられている。それぞれの易拡径部11には、管杭1の材軸と平行に延びる4本のスリット12が、互いの長さを揃え、管杭1の材軸直交断面における中心角を90度ずつ離隔させるように配置されている(図4参照)。ただし、スリット12の本数は4本に限られるものではなく、管杭1の周壁の圧縮強度を損なわずに周方向にバランスよく拡径させ得る範囲内で、2本~12本程度(より好ましくは4本~8本程度)を目安に選択することができる。また、一本の管杭1の材長方向に設ける易拡径部11は、二か所に限定されることはなく、一か所又は三か所以上であってもよい。また、複数か所の易拡径部11に、異なる本数のスリット12が形成されていてもよい。
【0025】
スリット12の寸法は、管杭1を構成する直管の材質、管径、肉厚等に応じて適宜、選択されるが、長さは概ね管径の2倍~5倍、幅は5mm~12mm程度が目安となる。一か所の易拡径部11において周方向に並ぶ複数本のスリット12は、全て同じ長さ及び幅に形成されるのが好ましい。ただし、本数が多い場合は、長いスリット12と短いスリット12とを交互に配置するような形態も選択可能である。
【0026】
また、スリット12は必ずしも管杭1の材軸と平行に形成されなくてもよく、概ね管杭1の材長方向に延びていれば、材軸に対して若干傾斜していてもよい。傾斜する場合でも、一か所の易拡径部11において周方向に並ぶ複数本のスリット12は、等間隔で互いに平行に配置されることが好ましい。
【0027】
さらに、この発明では、次の[工程2]において管杭1を回転させながら地盤に圧入することを想定しているので、その回転時にスリット12から内部に土砂が入ることを防ぐため、スリット12が管杭1の周壁を斜めに貫通するように形成される。すなわち、図4に示すように、易拡径部11の材軸直交断面に表れる各スリット12の貫通方向が全て、管杭1の径方向ではなく、径方向に対して所定角度α(例示形態では略50度)、傾斜するように形成されている。この傾斜角度αも、管杭1を構成する直管の材質、管径、肉厚等に応じ、30度~60度くらいの範囲を目安として設定することができる。そして、[工程2]では、スリット12の貫通方向における内側が管杭1の回転方向において先行する向きに、管杭1を回転させる。
【0028】
管杭1を地盤に圧入する際には、図示しない杭打機のヘッドに、例えば図5に示すような略筒型のアタッチメント2を取り付けて管杭1の頭部に被せ、管杭1の側面に設けた連結突起13をアタッチメント2の係合溝21に係合させるなどしてセットする。管杭1の先端(下端)は、予め尖り先状のキャップ14を装着するなどして、土砂が内部に入らないように閉塞しておく。そして、基本的には管杭1を回転させながら、地盤内に圧入する。回転の向きは前述(図4)の通りである。土壌が軟質で、管杭1を回転させなくても圧入できる場合は、無回転で打ち込んでもよい。
【0029】
図1(イ)に示すように、管杭1の頭部が設計地盤面GL付近まで達したら、圧入を停止して、管杭1の頭部からアタッチメント2を取り外す。なお、管杭1の頭部が設計地盤面GLに達するまでに所定値以上の支持力が発現すれば、そこで管杭1の圧入を停止し、管杭1の余剰部分を切除してもよい。
【0030】
[工程3]~[工程4]
続いて図1(ウ)に示すように、管杭1の頭部に沈降防止具3を取り付ける、この沈降防止具3は、図6に拡大して示すように、前述の[工程2]で使用したアタッチメント2に類似した、管杭1の頭部に被さる中空の筒部31を有して、その筒部31の下部には、管杭1の連結突起13に係合可能な係合溝32が形成されている。そして、筒部31の中間部には、径外方向に張り出す鍔状の押え板33が結合されており、この押え板33が設計地盤面GLに当接するように、沈降防止具3を管杭1にセットする。なお、前述の[工程2]において、管杭1の余剰部分を切除した場合は、沈降防止具3の係合溝32を管杭1の連結突起13に係合させることができなくなるので、ボルト・ナット接合等によって沈降防止具3を管杭1に連結してもよい。
【0031】
続いて図1(エ)に示すように、沈降防止具3の上面開口から管杭1の内部に砕石4を投入する。管杭1の内径が小さい場合は、沈降防止具3の上面開口に漏斗状の投入補助具5を取り付けてもよい。投入する砕石4としては、最大粒径30mm程度のクラッシャーラン(C-30)、又はコンクリート廃材等を混ぜた再生砕石(RC-30)等を好適に使用することができる。ただし、これらに限らず、粒度調整砕石や天然玉石の他、加圧に耐える材料であれば、高炉スラグ等も利用可能である。本明細書及び特許請求の範囲では、それらをまとめて「砕石」と称している。砕石4は、管杭1の頭部近傍(次の[工程5]で加圧装置が届く位置)まで充填する。
【0032】
[工程5]
続いて図2(オ)~(カ)に示すように、管杭1に充填した砕石4の天面に、管杭1の上方から加圧装置を用いて加圧する。加圧装置としては、管杭1の内径よりも小径のハンマー6を、例えば杭打機のヘッドに連結したもの等を使用する。管杭1の頭部に取り付けた沈降防止具3は、この加圧によって管杭1全体が沈降することを防いで、管杭1の易拡径部11に圧力を集中させる作用をなす。そして、この加圧により、スリット12を形成した易拡径部11が径外方向に膨出変形して、地盤に対する管杭1の周面摩擦が増大する。
【0033】
なお、例えば管杭1の全長が大きくて、複数か所の易拡径部11が設けられている場合は、管杭1の頭部近傍まで一度に砕石4を投入せず、まず下段の易拡径部11の高さまで砕石を投入して加圧し、下段の易拡径部11を膨出変形させた後、砕石を追加投入して再度、加圧することにより、上段の易拡径部11を膨出変形させる、という施工手順を採用することも可能である。
【0034】
[工程6]~[工程7]
加圧によって砕石4の天面がある程度、沈降したら、易拡径部11が膨出変形したものと判断して加圧を停止し、加圧装置を除去して、沈降防止具3も取り外す。そして、図2(キ)に示すように、基礎底面レベルに合わせて管杭1の頭部の周囲を掘削し、管杭1の頭部を切断するなどして調整する。さらに必要があれば、図2(ク)に示すように、掘削した箇所を埋め戻す。
【0035】
[工程8]
これ以降は建物の基礎工事となる。図3(ケ)~(サ)に示すように、高さを調整した管杭1の頭部周辺を再度、根伐りして、その上に適宜の工法で建物の基礎7を施工する。
【0036】
このように、回転圧入又は打込みによって地盤に埋設した管杭1の内部に砕石4を充填し、その上方から砕石4に加圧して易拡径部11を膨出変形させる、という杭施工方法は、複雑な拡径装置や大掛かりな重機を使用する従来の方法に比べてはるかに簡便であり、費用も少なく済む。セメントミルクやモルタル等の流動性材料を使用しない、いわゆる「乾式」の工法であるから、施工スケジュール(段取り)面での制約が少なく、施工現場の管理も容易である。かくして、建物の杭工事における施工性を大幅に改善することができる。
【0037】
なお、本願が開示する発明の技術的範囲は、例示した実施形態によって限定的に解釈されるべきものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて概念的に解釈されるべきものである。特許請求の範囲および明細書において使用している構成要素の名称は、発明を具体的に理解し易くするための便宜的なものであって、その名称が当該構成要素の概念や性状を必要以上に限定するものではない。本願が開示する発明の実施に際しては、特許請求の範囲において具体的に特定していない構成要素の詳細な形状、寸法、構造、材質、数量、他要素との結合形態、相対的な位置関係等を、例示形態と実質的に均等な動作原理を利用する範囲内で、あるいは例示形態と実質的に同等程度以上の作用効果が得られる範囲内で、適宜、改変することができる。
【0038】
例えば、前述の実施形態では、管杭の圧入前に管杭の先端にキャップを装着する工程を例示したが、管杭の先端を閉塞する工程は、スリットの加工と並行して実施されてもよいし、適宜の閉塞部材によって予め先端が閉塞された直管にスリットを加工するようにしてもよい。
【0039】
また、前述の実施形態では、[工程2]における管杭の埋設方法として回転圧入を例示したが、管杭の埋設方法はこれに限定されず、その他の圧入又は打込みの方法で埋設してもよい。例えば、予め地盤を所定深さまで掘削した後に、造成した掘削孔に管杭を挿入する埋設方法でもよい。
【0040】
また、本明細書に開示した実施形態その他の事項は、以下の付記に示す技術的思想として把握することもできる。
【0041】
(付記1)
下記[工程1]~[工程6]を含む杭施工方法。
[工程1]中空の直管の周壁に、前記直管の材長方向に延びて前記周壁を内外方向に貫通する複数本のスリットを形成することにより、当該部分の周壁を易拡径部とし、前記直管の先端を閉塞した管杭を準備する。
[工程2]前記管杭を、圧入又は打込みによって地盤の所定深さまで埋設する。
[工程3]前記管杭の頭部に沈降防止具を取り付けて、前記沈降防止具を地盤表面に当接させる。
[工程4]前記管杭の内部に砕石を投入して、少なくとも前記易拡径部の高さまで充填する。
[工程5]前記管杭の上方から加圧装置を用いて前記砕石に加圧することにより、前記易拡径部を径外方向に膨出変形させる。
[工程6]前記砕石への加圧を停止し、前記加圧装置を除去して、前記沈降防止具を取り外す。
【0042】
(付記2)
付記1に記載された杭施工方法の[工程2]において、
前記管杭を一定方向に回転圧入しながら埋設する
ことを特徴とする杭施工方法。
【0043】
(付記3)
付記2に記載された杭施工方法において、
[工程1]で準備される前記管杭は、前記易拡径部の材軸直交断面に表れる前記スリットの貫通方向が、前記管杭の径方向に対して所定角度、傾斜するように形成されており、
[工程2]では、前記スリットの貫通方向における内側が前記管杭の回転方向において先行する向きに前記管杭を回転させる
ことを特徴とする杭施工方法。
【0044】
(付記4)
中空の直管からなる管杭であって、
前記直管の周壁に、前記直管の材長方向に延びて前記周壁を内外方向に貫通する複数本のスリットが形成されてなる易拡径部が設けられ、
前記易拡径部は、その材軸直交断面に表れる前記スリットの貫通方向が、前記直管の径方向に対して所定角度、傾斜するように形成されている
ことを特徴とする管杭。
【0045】
(付記5)
付記4に記載された管杭において、
前記易拡径部が、材軸方向に所定の間隔を設けて複数箇所に設けられている
ことを特徴とする管杭。
【0046】
(付記6)
先端が閉塞された中空の直管からなる管杭の周壁に、前記管杭の材長方向に延びて前記周壁を内外方向に貫通する複数本のスリットが形成されてなる易拡径部が設けられ、
前記管杭が地盤内に埋設され、
前記管杭の内部に砕石が充填され、
前記砕石が加圧されることにより、前記易拡径部が前記地盤内で径外方向に膨出変形している
ことを特徴とする杭構造。
【0047】
(付記7)
付記6に記載された杭構造において、
前記易拡径部は、その材軸直交断面に表れる前記スリットの貫通方向が、前記直管の径方向に対して所定角度、傾斜するように形成されている
ことを特徴とする杭構造。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本願が開示する発明は、小規模ないし中規模の建物等の建築工事に際して地盤支持力を得るための技術として、広く利用する事ができる。
【符号の説明】
【0049】
1 杭管
11 易拡径部
12 スリット
13 連結突起
14 キャップ
2 アタッチメント
21 係合溝
3 沈降防止具
31 筒部
32 係合溝
33 押え板
4 砕石
5 投入補助具
6 ハンマー
7 基礎
【要約】
【課題】周壁にスリットを形成した管杭を地盤に圧入して内側から拡径する、従来よりも簡便で安価な杭施工方法と、該方法に利用し得る管杭を提供する。
【解決手段】中空の直管からなる管杭1の周壁に、材長方向に延びるスリット12を複数本、形成して易拡径部11とし、その先端を閉塞した管杭1を準備する。その管杭1を圧入又は打込みによって地盤内の所定深さまで埋設し、その頭部に鍔状の沈降防止具3を取り付けて地盤表面に当接させる。管杭1の内部に砕石4を投入して、管杭1の上方から加圧することにより、易拡径部11を径外方向に膨出変形させて、地盤内での周面摩擦力を増大させる。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6