(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】イブプロフェンエステル誘導体およびその乳状製剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/265 20060101AFI20241016BHJP
A61K 9/107 20060101ALI20241016BHJP
A61K 47/24 20060101ALI20241016BHJP
A61K 47/14 20170101ALI20241016BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20241016BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20241016BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20241016BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20241016BHJP
A61K 47/18 20170101ALI20241016BHJP
A61K 47/44 20170101ALI20241016BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20241016BHJP
A61P 25/06 20060101ALI20241016BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20241016BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241016BHJP
C07C 69/96 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
A61K31/265
A61K9/107
A61K47/24
A61K47/14
A61K47/12
A61K47/02
A61K47/26
A61K47/10
A61K47/18
A61K47/44
A61P19/02
A61P25/06
A61P29/00
A61P29/00 101
A61P43/00 123
C07C69/96 Z
(21)【出願番号】P 2021577867
(86)(22)【出願日】2021-06-29
(86)【国際出願番号】 CN2021102989
(87)【国際公開番号】W WO2023272472
(87)【国際公開日】2023-01-05
【審査請求日】2022-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】520099508
【氏名又は名称】南京海融医薬科技股▲フン▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100122437
【氏名又は名称】大宅 一宏
(74)【代理人】
【識別番号】100209495
【氏名又は名称】佐藤 さおり
(72)【発明者】
【氏名】叶海
(72)【発明者】
【氏名】周文亮
(72)【発明者】
【氏名】王佳琳
(72)【発明者】
【氏名】徐穎
(72)【発明者】
【氏名】閔涛
(72)【発明者】
【氏名】呂田
(72)【発明者】
【氏名】陳星燃
【審査官】石田 傑
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-112944(JP,A)
【文献】特表2014-523911(JP,A)
【文献】国際公開第2011/017634(WO,A2)
【文献】特表2020-509005(JP,A)
【文献】国際公開第2022/033202(WO,A1)
【文献】BEN-SHABAT, S. et al.,Synthesis of Pendent Carbonate Ester Groups onto Aliphatic Polycarbonates,Journal of Bioactive and Compatible Polymers,2006年,Vol. 21, No. 5,pp. 385-397
【文献】YAO, Y. et al.,Synthesis of Cefpodoxime Proxetil,Chinese Journal of Pharmaceuticals,2008年,Vol.39, No.2,pp.90-92
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)活性成分としての構造式
N9(S)で示される化合物、
またはその医薬的に許容される
塩と、
【化1】
(b)乳化剤と、
(c)油と、
を含む、イブプロフェンエステル誘導体を含む乳状製剤
であって、
前記乳状製剤の総重量を100%として、活性成分の質量%は0.1%~10%であり、
前記乳化剤は卵黄レシチンおよび/または大豆レシチンから選ばれ、質量%が1.2%~10%であり、
前記油は、ゴマ油、中鎖トリグリセリド、大豆油、ヒマワリ油、落花生油から選ばれる1種または複数種であり、質量%が0.5%~5%である、イブプロフェンエステル誘導体を含む乳状製剤。
【請求項2】
前記乳状製剤の総重量を100%として、活性成分の質量%は5%~10%である、請求項1に記載のイブプロフェンエステル誘導体を含む乳状製剤。
【請求項3】
前記乳状製剤は安定剤を更に含み、前記安定剤はオレイン酸または/およびオレイン酸ナトリウムから選ばれ、質量%が0.01%~1%である、請求項
1に記載のイブプロフェンエステル誘導体を含む乳状製剤。
【請求項4】
前記乳状製剤は等浸透圧調整剤を更に含み、前記等浸透圧調整剤は、ショ糖、グルコース、ソルビトール、キシリトール、塩化ナトリウム、グリセリンから選ばれる1種または複数種である、請求項
1に記載のイブプロフェンエステル誘導体を含む乳状製剤。
【請求項5】
前記乳状製剤はpH調整剤を更に含み、前記pH調整剤は、枸櫞酸、塩酸、クエン酸、フマル酸、リジン、酒石酸、ヒスチジン、枸櫞酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、クエン酸ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウムから選ばれる1種または複数種である、請求項
1に記載のイブプロフェンエステル誘導体を含む乳状製剤。
【請求項6】
前記乳状製剤は乳化助剤を更に含み、前記乳化助剤は、Kolliphor
(登録商標) HS15、ポリソルベート80、エタノール、プロピレングリコー
ルから選ばれる1種または複数種である、請求項1に記載のイブプロフェンエステル誘導体を含む乳状製剤。
【請求項7】
前記乳状製剤は脂肪エマルジョン注射剤またはナノエマルジョン注射剤であり、乳状製剤の平均粒径サイズは10~550nmの範囲にある
、請求項
1に記載のイブプロフェンエステル誘導体を含む乳状製剤。
【請求項8】
前記乳状製剤は脂肪エマルジョン注射剤またはナノエマルジョン注射剤であり、乳状製剤の平均粒径サイズは50~350nmの範囲にある、請求項7に記載のイブプロフェンエステル誘導体を含む乳状製剤。
【請求項9】
前記乳状製剤は脂肪エマルジョン注射剤またはナノエマルジョン注射剤であり、乳状製剤の平均粒径サイズは50~200nmの範囲にある、請求項7に記載のイブプロフェンエステル誘導体を含む乳状製剤。
【請求項10】
前記乳状製剤は脂肪エマルジョン注射剤またはナノエマルジョン注射剤であり、乳状製剤の平均粒径サイズは50~150nmの範囲にある、請求項7に記載のイブプロフェンエステル誘導体を含む乳状製剤。
【請求項11】
(1)油相の調製:油にイブプロフェンエステル誘導体、乳化剤、安定剤を入れ、高速せん断して均一に混合させるステップと、
(2)水相の調製:注射用水に等浸透圧調整剤、安定剤を加え、必要に応じて、pH調整剤、乳化助剤を加え、撹拌して溶解させるステップと、
(3)初期エマルジョンの調製:ステップ(1)における油相をステップ(2)における水相に加え、水浴で保温しながら高速せん断して分散させ、初期エマルジョンを形成するステップと、
(4)最終エマルジョンの調製:ステップ(3)で得られた初期エマルジョンを高圧均質化し、最終エマルジョンを取得するステップと、
(5)窒素を充填し、ポッティングし、滅菌して取得するステップと、
を含む、請求項
1~6のいずれか1項に記載のイブプロフェンエステル誘導体を含む乳状製剤の調製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、薬物製剤の分野に属し、具体的には、イブプロフェンエステル誘導体およびその乳状製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
イブプロフェン(Ibuprofen)は、アリールプロピオン酸系非ステロイド抗炎症剤であり、最初に1968年にイギリスで発売され、非選択的シクロオキシゲナーゼ阻害剤であり、シクロオキシゲナーゼを抑制し、プロスタグランジンの合成を低減することにより鎮痛、抗炎症の作用を発揮し、視床下部にある体温調節中枢により解熱作用を発揮する。その消炎、鎮痛、解熱効果が良く、有害反応が小さいため、最も安全な非ステロイド抗炎症剤(NSAID)の1つであると考えられ、現在、既に臨床で広く使用されている。ここで、イブプロフェンの最初の痛みおよび発熱を治療する静脈注射製剤であるイブプロフェン注射液は、Cumberland Pharmaceuticals有限公司により開発され、2009年に承認されて発売された。
【0003】
しかし、イブプロフェン注射液は臨床応用でいくつかの問題が存在する。
【0004】
1、イブプロフェン化合物自体が一定の血管刺激性を有するため、臨床応用の前に、4mg/mL以下に希釈する必要があるが、該低い投与量の投与濃度でも患者に静脈炎が発生したという報告が依然としてあり、患者コンプライアンスは悪い。
【0005】
2、イブプロフェン注射液は、アルギニンを可溶化剤として使用し、臨床応用で配合して希釈する時、イブプロフェンが析出しやすく、臨床応用の安全性に不利である。
【0006】
3、臨床応用において、イブプロフェン注射液は、輸液の投与方式だけを採用することができ、且つ、輸液時に30min以上が必要となり、静脈内急速投与を採用することができず、その解熱の臨床応用を大きく制限する。
【0007】
4、市販イブプロフェン注射液のpHは高く、アルカリ性の環境で、モルヒネ塩酸塩を代表とするオピオイド系薬剤がPCA併用で析出しやすいため、オピオイド系薬剤と併用してオピオイド系薬剤の使用量を低減する作用の実現を制限する。
【0008】
イブプロフェンの構造には1つのキラル炭素原子が含まれ、市場における常用のイブプロフェンはラセミイブプロフェンであり、ラセミイブプロフェンには50%のR-イブプロフェンおよび50%のデキスイブプロフェン(即ち、S-イブプロフェン)が含まれている。研究により、R-イブプロフェンの抗炎症解熱鎮痛の作用が弱く、デキスイブプロフェンはR-イブプロフェンより抗炎症活性が28倍強いことが分かった。最近の研究により、ラセミイブプロフェンの半分の投与量のデキスイブプロフェンであれば、前者と同じ臨床治療効果を得ることができ、毒副作用を効果的に低減することができることが分かった。現在、中国国内では、複社の製薬会社のデキスイブプロフェン塩注射液が臨床許可証明書を申し込んでいるが、臨床に合格して販売されている成熟した注射剤は未だにない。該注射液は、ラセミ化合物の代わりに活性右旋性体を使用することにより薬物仕様および使用量を低減するが、血管刺激性が大きく臨床応用で析出しやいという安全性問題を根本的に解決するものではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本願は、イブプロフェンエステル誘導体およびその乳状製剤を提供する。
【0010】
本願は、ラセミイブプロフェンまたはS-イブプロフェンのカルボキシル基を誘導体化し、化合物N9およびその右旋性鏡像異性体N9(S)を取得し、ひいては乳状製剤を作製することにより、従来のイブプロフェン/デキスイブプロフェン注射液の臨床応用において存在するいくつかの安全性および患者コンプライアンスの問題を克服し、血管刺激性を低減し、臨床応用方法を増加し、臨床応用における製剤の安定性を向上させる等の目的を達成する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
態様1において、本願は、構造式(1)で示される化合物、そのラセミ体、立体異性体、医薬的に許容される塩もしくは溶媒和物、またはその医薬的に許容される塩の溶媒和物であるイブプロフェンエステル誘導体を提供する。
【0012】
【0013】
本願の実施形態によれば、構造式(1)で示される化合物は、その右旋性鏡像異性体(1位の炭素がS配置の異性体)から選ばれ、その構造は以下のとおりである。
【0014】
【0015】
本願の実施形態によれば、構造式(1)で示される化合物の右旋性鏡像異性体N9(S)は、以下の化合物N9(S)AとN9(S)Bとの任意比での混合物である。
【0016】
【0017】
態様2において、本願は、化合物1と構造式(2)で示される化合物とを反応させるステップを含む、構造式(1)で示される化合物、そのラセミ体、立体異性体、医薬的に許容される塩もしくは溶媒和物、または医薬的に許容される塩の溶媒和物の調製方法を提供する。
【0018】
【0019】
(ただし、Xは、塩素、臭素、またはヨウ素であり、化合物1は、ラセミな、S配置またはR配置のイブプロフェンであり、即ち、(±)-2-(4-イソブチルフェニル)プロピオン酸、(S)-2-(4-イソブチルフェニル)プロピオン酸、または(R)-2-(4-イソブチルフェニル)プロピオン酸である。)
【0020】
本願の実施形態によれば、上記構造式(1)で示される化合物の調製方法は、酸結合剤の存在下で行われる。
【0021】
本願の実施形態によれば、反応温度は-5~80℃であってもよく、反応時間は0.5~24hであってもよく、使用される酸結合剤は、NaOH、KOH、K2CO3、KHCO3、Na2CO3、NaHCO3のような無機塩基、またはトリエチルアミン、ピリジン、DMAP、DIEA、DBUのような有機塩基のうちの1種、2種または複数種であってもよく、反応溶剤は、アセトン、ジクロロメタン、トリクロロメタン、四塩化炭素、テトラヒドロフラン、トルエン、酢酸エチル、アセトニトリル、DMF、DMAc、またはエチルエーテルのうちの1種、2種または複数種であってもよい。
【0022】
態様3において、本願は、
【0023】
【0024】
ステップ1:トリホスゲンとn-プロピオンアルデヒドとを氷塩浴で反応させ、ピリジンをアルカリとし、ジクロロメタンを溶剤とし、最終的に減圧下で蒸留によりM01を取得することと、
ステップ2:M01とエタノールとを氷浴で反応させ、ピリジンをアルカリとし、ジクロロメタンを溶剤とし、最終的に減圧下で蒸留によりM02を取得することと、
ステップ3:M02をNaI、TBAB、塩化カルシウムと混合して加熱反応させ、トルエンを溶剤とし、最終的に減圧下で蒸留によりM03を取得することと、
ステップ4:M03とイブプロフェンとを室温で反応させ、トリエチルアミンをアルカリとし、酢酸エチルを溶剤とし、最終的に減圧下で蒸留によりN9を取得することと、
を含む、構造式(2)で示されるハロゲン化有機カーボネート(Xはヨウ素である)の調製方法を更に提供する。
【0025】
態様4において、本願は、上記構造式(1)で示される化合物、そのラセミ体、立体異性体、医薬的に許容される塩もしくは溶媒和物、またはその医薬的に許容される塩の溶媒和物の、薬剤の調製における使用を提供する。
【0026】
本願の実施形態によれば、前記薬剤は、関節リウマチ、腰痛症、偏頭痛、神経痛、肩関節周囲炎、変形性膝関節症のうちの1種以上の疾患の治療、頸肩腕症候群の消炎および/または鎮痛、手術後、外傷後、または抜歯後の鎮痛および/または消炎、急性上気道炎の解熱および/または鎮痛に用いられる。
【0027】
本願の実施形態によれば、前記薬剤は非ステロイド性抗炎症薬剤である。
【0028】
態様5において、本願は、
(a)構造式(1)で示される化合物N9、そのラセミ体、立体異性体、医薬的に許容される塩もしくは溶媒和物、またはその医薬的に許容される塩の溶媒和物と、
【0029】
【0030】
(b)乳化剤と、
(c)油と、
を含む、イブプロフェンエステル誘導体を含む乳状製剤を更に提供する。
【0031】
本願の実施形態によれば、前記乳状製剤の総重量を100%として、活性成分の質量%は0.1%~10%であり、5%~10%であることが好ましい。
【0032】
本願の実施形態によれば、構造式(1)で示される化合物は、その右旋性鏡像異性体(1位の炭素がS配置の異性体)から選ばれ、その構造は以下のとおりである。
【0033】
【0034】
本願に適用される乳化剤は、大豆レシチン、卵黄レシチン、水素添加レシチン、飽和および不飽和C12~18脂肪酸アシルホスファチジルコリンのうちの1種、2種または複数種の組み合わせのようなレシチンおよびその誘導体、卵黄レシチンおよび/または大豆リン脂質から選ばれる。
【0035】
本願の実施形態によれば、前記乳化剤は、卵黄レシチンまたは/および大豆レシチンから選ばれ、質量%が0.5%~15%であり、1.2%~10%であることが好ましい。
【0036】
本願に適用される油は注射可能な油脂であり、大豆油、サフラワー油、綿実油、オリーブ油、ゴマ油、ヤシ油、ヒマシ油、サジー油、月見草油、トウモロコシ油、ブルセアンチン(Brucea javanicaseed oil)、シソ油、ブドウ種子油、ツバキ油、パーム油、落花生油、中鎖油(中鎖トリグリセリド)、長鎖トリグリセリド、オレイン酸エチル、アセチル化モノグリセリド、プロピレングリコールジエステル、リノール酸グリセリル、またはポリエチレングリコールラウリン酸グリセリル、あるいはそのうちの2種以上の組み合わせから選ばれる。
【0037】
本願の実施形態によれば、前記油は、ゴマ油、中鎖トリグリセリド、大豆油、ヒマワリ油、落花生油から選ばれる1種または複数種であり、質量%が0.1%~15%であり、0.5%~5%であることが好ましい。
【0038】
本願の実施形態によれば、前記乳状製剤は安定剤を更に含み、前記安定剤はオレイン酸または/およびオレイン酸ナトリウムから選ばれ、質量%が0.01%~1%である。
【0039】
本願の実施形態によれば、前記乳状製剤は等浸透圧調整剤を更に含み、前記等浸透圧調整剤は、ショ糖、グルコース、ソルビトール、キシリトール、塩化ナトリウム、グリセリンから選ばれる1種または複数種である。
【0040】
本願の実施形態によれば、前記乳状製剤はpH調整剤を更に含み、前記pH調整剤は、枸櫞酸、塩酸、クエン酸、フマル酸、リジン、酒石酸、ヒスチジン、枸櫞酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、クエン酸ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウムから選ばれる1種または複数種である。
【0041】
本願の実施形態によれば、前記乳状製剤は乳化助剤を更に含み、前記乳化助剤は、Kolliphor HS15、ポリソルベート80、エタノール、プロピレングリコール等の小分子アルコール系から選ばれる1種または複数種である。
【0042】
本願の実施形態によれば、本願に係る乳状製剤の平均粒径サイズは10~1000nmの範囲にあり、例えば、10~800nmの範囲、10~550nmの範囲、50~350nmの範囲、50~200nmの範囲、50~150nmの範囲等にある。
【0043】
態様6において、本願は、
(1)油相の調製:油にイブプロフェンエステル誘導体、乳化剤、安定剤を入れ、高速せん断して均一に混合させるステップと、
(2)水相の調製:注射用水に等浸透圧調整剤、安定剤を加え、必要に応じて、pH調整剤、乳化助剤を加え、撹拌して溶解させるステップと、
(3)初期エマルジョンの調製:ステップ(1)における油相をステップ(2)における水相に加え、水浴で保温しながら高速せん断して分散させ、初期エマルジョンを形成するステップと、
(4)最終エマルジョンの調製:ステップ(3)で得られた初期エマルジョンを高圧均質化し、最終エマルジョンを取得するステップと、
(5)窒素を充填し、ポッティングし、滅菌してイブプロフェンエステル誘導体を含む乳状製剤を取得するステップと、
を含む、イブプロフェンエステル誘導体を含む乳状製剤の調製方法を更に提供する。
【0044】
本願の実施形態によれば、本願に係る乳状製剤は脂肪エマルジョン注射剤またはナノエマルジョン注射剤である。
【0045】
ここで、脂肪エマルジョン注射剤の調製は以下の方法を採用することができる。
【0046】
処方量の油相および水相をそれぞれ秤量し、高速分散機で油相をせん断分散し、水相を磁気撹拌して均一に混合させる。水相を60~65℃の水浴で保温し、高速分散機による15000rpm回転数のせん断で油相を水相に加え、完全に加えた後、高速せん断し続け、初期エマルジョンを取得する。初期エマルジョンを800~860bar間の圧力で3サイクル均質化し、異なる乳化剤で調製される最終エマルジョンを取得し、得られた最終エマルジョンを121℃で12min滅菌する。調製された脂肪エマルジョン注射剤の平均粒径は100~550nmの範囲にあり、150~300nmの範囲にあることがより好ましい。
【0047】
ここで、ナノエマルジョン注射剤の調製は以下の方法を採用することができる。
【0048】
処方量の油相および水相をそれぞれ秤量し、高速分散機で油相をせん断分散し、水相を磁気撹拌して均一に混合させる。水相を60~65℃の水浴で保温し、高速分散機による20000rpm回転数のせん断で水相を油相に加え、完全に加えた後、高速せん断し続け、初期エマルジョンを取得する。初期エマルジョンを800~860bar間の圧力で3サイクル均質化し、異なる乳化剤で調製される最終エマルジョンを取得し、得られた最終エマルジョンを121℃で12min滅菌するか、または孔径0.22μmの濾過膜で濾過して滅菌する。調製されたナノエマルジョン注射剤の平均粒径は50~200nmの範囲にあり、50~150nmの範囲にあることがより好ましい。
【0049】
本願で調製される乳状製剤は、静脈内、動脈内、皮下、腹膜内または筋肉内注射あるいは輸液を含む非経口投与方式で投与されるか、または鞘内もしくは脳室内のような頭蓋内に投与されることが好ましい。1回の投与量が大きい形式で非経口投与してもよいし、連続灌流ポンプのようなものにより投与してもよい。あるいは、鞘内または脳室内のような頭蓋内に投与されてもよい。注射剤の常用容器として、ガラスアンプル、バイヤル、プラスチックアンプル、プレフィルドシリンジ等がある。
【発明の効果】
【0050】
本願は、以下のような有益な効果を有する。
【0051】
1、本願は、ラセミイブプロフェンのカルボキシル基を誘導体化し、化合物N9およびその右旋性鏡像異性体N9(S)を取得することにより、イブプロフェン注射液の半減期が短く、安定性が悪く、刺激性および配合で析出しやすい等の面に存在する問題を克服する。本願に係る化合物は、in vitro・in vivo血漿試験により、良好な薬物動態的性質を有し、且つ、化合物自体の理化学的安定性が高く、例えば、高温試験(60℃で5~10日間放置する)において化合物の純度がほぼ一定であることが分かった。
【0052】
2、イブプロフェンの主な薬理活性はデキスイブプロフェンに由来し、本願は、デキスイブプロフェンを原料として(1S)配置のデキスイブプロフェンエステル誘導体N9(S)を指向的合成し、人体内で代謝した副生成物はプロピオンアルデヒドおよびエタノールであり、副生成物の毒性が小さいとともに、速い代謝速度を有する。また、研究により、N9(S)はN9(R)より血漿中の加水分解速度が速く、より多くのデキスイブプロフェンを生成することができると発見した。本分野では、R-イブプロフェンによる抗炎症解熱鎮痛の作用が弱く、デキスイブプロフェン(S配置)はR-イブプロフェン(R配置)より薬効が28倍強く、且つ、R-イブプロフェンは、胃腸管毒性、水ナトリウム貯留、腎臓の灌流低下およびアレルギー反応等の様々な有害反応を引き起こすことができることが知られている。従って、S配置のイブプロフェンエステル誘導体である本願に係る構造式(1)で示される化合物の右旋性鏡像異性体を研究して調製することは、重要な意義がある。
【0053】
3、本願は、活性成分の理化学的性質を研究し、そのin vitro・in vivo代謝試験を総合的に考慮し、その製剤の処方を更に研究することにより、効率的で安全かつ安定したイブプロフェンエステル誘導体を含む乳状製剤を取得し、本願の実験方法を採用することにより、良好な粒径分布を有する脂肪エマルジョン注射剤およびナノエマルジョン注射剤を調製することができる。従来のイブプロフェン等の非ステロイド抗炎症剤による消化管粘膜への損傷を回避し、薬剤のバイオアベイラビリティを向上させる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【
図1】本願に係る化合物N9(S)の水素スペクトルである。
【
図2】本願に係る化合物N9(S)の質量分析スペクトルである。
【
図3】本願に係る化合物N9(S)のヒト血漿中での分解の液相クロマトグラムである。
【
図4】デキスイブプロフェンおよびデキスイブプロフェンエステル誘導体N9(S)の注射溶液の血中濃度-時間曲線である。
【
図5】デキスイブプロフェン、デキスイブプロフェンエステル誘導体N9(S)、側鎖キラル化合物N9(S)A、N9(S)Bの注射溶液の血中濃度-時間曲線である。
【
図6】デキスイブプロフェン誘導体N9(S)のPEG400可溶化液、乳状注射液、およびデキスイブプロフェンアルギニン塩溶液の血中濃度-時間曲線である。
【
図7】本願に係る脂肪エマルジョン製剤の滅菌前後の粒度分布図である。
【
図8】本願に係る脂肪エマルジョン製剤の滅菌前後のZeta電位測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0055】
以下、具体的な実施例及び図面を参照しながら本願について更に詳細に説明するが、以下の実施例は、説明するためのものに過ぎず、限定するものではなく、これによって本願の保護範囲を限定することはできない。特に断りのない限り、使用される原料はいずれも市販または自作で入手することができる。
【0056】
本願に係る主な検出方法は以下のとおりである。
【0057】
一、pHの測定:
pH測定法(中国薬典2020版通則0631)に従って測定する。
【0058】
二、粒度、Zeta電位の測定:
約20μLの本製品の乳状注射液を10mLの濾過された精製水で希釈し、振とうして均一に混合させ、供試品混合物を取得する。粒度および粒度分布測定法(中国薬典2020版通則0982第三法)に従って、レイリー散乱理論に基づく動的光散乱光学粒度分析装置PSS Nicomp Z3000を採用し、光学強度300KHz、屈折角90°、屈折率1.333、粘度0.933cp、時間5minというパラメータで粒度およびZeta電位の検出を行う。粒径のガウス分布図を記録し、平均粒径、PI、Zeta電位等のデータを分析する。
【0059】
実施例1:化合物N9の合成
【0060】
【0061】
ステップ1において、トリホスゲン(1000.0g、3.37mol)を秤量して5Lの三つ口反応フラスコに入れ、2Lの無水ジクロロメタンを加え、反応フラスコをN2で3回置換し、反応フラスコを-35℃の低温恒温反応浴に移して撹拌し続けた。反応液温度を-15℃未満であるように制御し、Py(45.2g、0.57mol)を秤量して反応フラスコに滴下した。反応液温度を-15℃未満であるように制御し、n-プロピオンアルデヒド(460.2g、7.92mol)を秤量して反応フラスコに滴下し、滴下が終了した後、低温恒温反応浴温度を-2℃に設定し、一晩保温した。直接蒸留して無色油状物を910.0g取得し、収率が73.2%であった。
【0062】
ステップ2において、M01(910.0g、5.80mol)を秤量して乾燥した三つ口反応フラスコに入れ、10mLの無水DCMを加えて撹拌し続け、エタノール(400.2g、8.68mol)を秤量して上記反応フラスコに加え、反応フラスコを低温恒温反応浴に移して撹拌し続け、トリエチルアミン(720.0g、7.88mmol)を秤量して上記反応容器に加え、滴下が終了した後、反応フラスコを室温に移して一晩過ごした。吸引濾過し、濾過ケーキを500mL×2のジクロロメタンで洗浄し、濾液を5%のKHSO4でpH=3~4となるまで洗浄し、その後、1.5L×2の水で洗浄し、更に、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで2h乾燥した。減圧下で濃縮して無色油状物を取得し、蒸留により800.0gの無色油状物を取得し、収率が83.1%であった。
【0063】
ステップ3において、M02(800.0g、4.8mol)、CaCl2(319.6g、2.9mol)、TBAB(46.4g、50.8mmol)を秤量して5Lの三つ口反応フラスコに入れ、3.2Lのトルエンを加え、水浴が70℃に昇温してから、NaI(1438.6g、9.6mmol)を加えて1h反応させた。吸引濾過し、濾液を1Lの水で洗浄し、1.6Lの5%のチオ硫酸ナトリウム水溶液を加えて洗浄し、800mLの水で2回洗浄し、800mLの飽和食塩水で洗浄し、適量の無水硫酸ナトリウムで乾燥し、濃縮して黄色油状物を取得し、蒸留により淡黄色油状物を720.2g取得した。
【0064】
ステップ4において、イブプロフェン(508.8g、2.47mol)を秤量して乾燥した一つ口反応フラスコに入れ、10mLの酢酸エチルを加えて撹拌溶解し、1-ヨードプロピルエチルカーボネート(720.2g、2.79mol)を加え、氷浴下で希釈されたトリエチルアミン(345.24g、3.4mol)をゆっくりと滴下し、反応を30℃に移して一晩反応させた。吸引濾過し、600mLの水を加えて洗浄し、600mLの飽和食塩水で洗浄し、乾燥して濃縮した。蒸留により、513.4gの淡黄色油状物であるN9を取得した。
【0065】
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 7.19-7.07(m, 4H), 6.65-6.59(m, 1H), 4.24-4.09(m, 2H), 3.73-3.68(m, 1H), 2.45-2.43(m, 2H), 1.89-1.68(m, 3H), 1.51-1.48(m, 3H), 1.33-1.23 (m, 3H), 0.94-0.75(m, 9H)。
ESI-MS m/z =359.2, [M+Na]+.
【0066】
実施例2:化合物N9(S)の合成
【0067】
【0068】
実験方法は実施例1と同じであり、区別は、イブプロフェンをS-イブプロフェンに置き換えることであった。
【0069】
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 7.19-7.07(m, 4H), 6.65-6.59(m, 1H), 4.24-4.09(m, 2H), 3.73-3.68(m, 1H), 2.45-2.43(m, 2H), 1.89-1.68(m, 3H), 1.51-1.48(m, 3H), 1.33-1.23 (m, 3H), 0.94-0.75(m, 9H)。
ESI-MS m/z =359.2, [M+Na]+.
【0070】
試験例1:化合物の高温安定性についての研究
試験方案:適量の本願で調製される化合物N9をバイヤルに入れ、高温(60℃)条件で遮光して放置し、それぞれ0日目、5日目、10日目にサンプリングし、化合物の純度および関連物質(イブプロフェン)の変化状況を考察し、結果は、以下の表に示すとおりであった。
【0071】
【0072】
試験の結果により、本願に係る化合物は、高温(60℃)条件で遮光して10日間放置した後、純度が98%以上であり、安定性が良好であることが分かった。
【0073】
試験例2:本願に係る化合物のヒト血漿中の代謝についての研究
プロドラッグは、in vivo酵素分解による放出された原薬により治療効果を発揮するため、プロドラッグの血漿中の代謝速度および生成速度は、治療効果を効果的に発揮できるか否か、半減期を延長できるか否かに密に関連する。本願は、in vitro人体血漿代謝モデルを構築することにより、化合物N9およびその異性体の変換特性について評価し、実験方案は以下のとおりであった。
【0074】
(1)40mMの化合物N9、N9(S)、N9(R)の純アセトニトリル原液をそれぞれ調製し、40mMのイブプロフェンの純アセトニトリル原液を調製した。
【0075】
(2)25μLのイブプロフェン原液を取って1mLのヒト血漿中で混合させ、30s旋回させ、200μLサンプリングして800μLのアセトニトリルに入れてタンパク質を沈降させ、1min旋回させて反応を終了し、イブプロフェンコントロールとし、40mMの化合物N9、N9(S)、N9(R)原液をそれぞれ200倍に希釈してプロドラッグコントロールとした。
【0076】
(3)100μLの化合物N9、N9(S)、N9(R)の純アセトニトリル原液を取ってそれぞれ4mLのヒト血漿中に入れて混合させ、30s旋回させ、37℃の恒温振とうバスヒータに置いて200rpmで振とうした。
【0077】
(4)異なる時点(0、15、30、60、120min)において200μLサンプリングし、各時点で3回サンプリングし、800μLのアセトニトリルに入れてタンパク質を沈降させ、1min旋回させて反応を終了し、同じ方法でブランク血漿コントロールを作製した。
【0078】
(5)12000rpm、4℃で10min遠心し、上清を取り、(濾過膜を介して)30μLのサンプルを注入し、ピーク面積の変化を記録した。
【0079】
(6)化合物N9、N9(S)、N9(R)の加水分解速度を観察して分析した。化合物N9、N9(S)、N9(R)を血漿で120min代謝した後、実験結果は以下の表に示すとおりであった。
【0080】
【0081】
試験の結果により、化合物N9のS配置の異性体N9(S)の代謝速度は、ラセミ体N9の代謝速度より速く、即ち、デキスイブプロフェンエステルプロドラッグは、ラセミイブプロフェンエステルプロドラッグより、血漿中の加水分解速度が速く、in vitroヒト血漿中で従来のラセミイブプロフェンエステルプロドラッグより速やかに活性代謝物に変換してその薬理活性作用を発揮することができることが分かった。
【0082】
同時に、発明者は、研究により、化合物N9(S)が2つのピークを含むことを意外にも発見し、
図3に示すように、デキスイブプロフェンエステル誘導体化合物N9(S)は、主鎖であるイブプロフェンにキラル中心が存在することに加え、側鎖である連結部にも1つのキラル中心が存在し、且つ、ヒト血漿中のカルボキシルエステラーゼのN9(S)における2つの異性体に対する加水分解速度が異なることを意味する。
【0083】
試験例3:本願に係る化合物のラット体内での薬物動態学研究
本願に係るデキスイブプロフェンエステル誘導体N9(S)(PEG400による可溶化)およびデキスイブプロフェン(アルギニン塩溶液)を、等モル量でラットに尾静脈注射で投与した後、投与してからの5、10、15、30、60、120、240、360、480および720minに、眼底静脈から採血してヘパリンで処理されたキュベットに入れた。全血を8000rpmで5min遠心し、血漿サンプルを分取して-80℃で保存し、血漿中のデキスイブプロフェン(IBU)の濃度を分析測定した。ラットの血漿中のデキスイブプロフェンと時間との変化関係を考察し、
図4は、デキスイブプロフェンおよびデキスイブプロフェンエステル誘導体N9(S)の注射溶液の血中濃度-時間曲線であり、薬物動態学ソフトウェアの分析により得られた薬物動態学的パラメータは、以下の表に示すとおりであった。
【0084】
供試品薬液の調製:ラットの尾静脈投与の体積はいずれも0.25mL/100gであった。
【0085】
検体であるデキスイブプロフェン:20mg/mLのデキスイブプロフェンを含むデキスイブプロフェンアルギニン塩溶液を調製し、ピペットマンで200μLを取って10mLのEP管に入れ、ディスペンサーで4800μLの生理塩水を取って管に加え、旋回させて均一に混合させ、濃度0.8mg/mL、体積5mLの投与溶液を取得した。
【0086】
検体であるN9:20mgのデキスイブプロフェンエステル誘導体N9を秤量して15mLのEP管に入れ、ディスペンサーで10mLのPEG400を取って管に入れ、旋回させて均一に混合させ、濃度2mg/mLの化合物のPEG溶液を取得した。ピペットマンで3250μLのN9 PEG溶液を取って10mLのEP管に入れ、ディスペンサーで1750μLの生理塩水を取って管に加え、旋回させて均一に混合させ、濃度1.3mg/mL、体積5mLの投与溶液を調製した。
【0087】
【0088】
【0089】
試験の結果により、デキスイブプロフェンエステル系誘導体プロドラッグN9がラット体内でデキスイブプロフェンに変換した後の血中濃度-時間曲線は、デキスイブプロフェン塩溶液を直接注射した後の血中濃度-時間曲線とほぼ一致し、AUC0-tは顕著な差がなく、該エステル系プロドラッグは、ラット体内で速やかに代謝して抗炎症活性を有するデキスイブプロフェンとなることができ、ラット体内での暴露量全体が一致することが分かった。薬物動態学的パラメータにより、注射系製剤でデキスイブプロフェン塩の代わりにエステル系プロドラッグを使用することにより、デキスイブプロフェンの半減期および平均滞留時間を延長し、その除去速度を低減し、見掛け分布容積を増大することができることを示した。従って、本願は、臨床応用において、同じ薬効を達成した上で、薬剤のin vivo作用時間を延長した。
【0090】
試験例4:
デキスイブプロフェン誘導体化合物N9(S)は、主鎖であるイブプロフェンにキラル中心が存在することに加え、側鎖である連結部にも1つのキラル中心が存在するため、デキスイブプロフェン誘導体化合物N9(S)の側鎖ラセミ化合物、側鎖キラル化合物であるN9(S)A、N9(S)BのPEG400可溶化液、およびデキスイブプロフェン(アルギニン塩水溶液)を等モル量で尾静脈投与した後、ラットの血漿中のデキスイブプロフェンの生成と時間との変化関係をモニタリングして比較することにより、主鎖が右旋性であり、2つのエステル側鎖が異性化することによる薬物動態学(プロドラッグ変換)の区別を考察し、薬物動態学ソフトウェアの分析により、
図5は、デキスイブプロフェン、デキスイブプロフェンエステル誘導体N9(S)、側鎖キラル化合物N9(S)A、N9(S)Bの注射溶液の血中濃度-時間曲線であった。
【0091】
供試品溶液の調製方法:デキスイブプロフェン誘導体化合物N9(S)、側鎖異性体N9(S)A、側鎖異性体N9(S)Bをそれぞれ20mg秤量して15mLのEP管に入れ、ディスペンサーで10mLのPEG400を取って管にそれぞれ加え、旋回させて均一に混合させ、濃度2mg/mLの化合物のPEG溶液を調製した。ピペットマンで3250μLの供試化合物のPEG溶液を取って10mLのEP管に入れ、ディスペンサーで1750μLの生理塩水を取って管に加え、旋回させて均一に混合させ、濃度1.3mg/mL、体積5mLの投与溶液を調製した。
【0092】
デキスイブプロフェンの調製方法:20mg/mLのデキスイブプロフェンを含むデキスイブプロフェンアルギニン塩溶液を調製し、ピペットマンで200μLを取って10mLのEP管に入れ、ディスペンサーで4800μLの生理塩水を取って管に加え、旋回させて均一に混合させ、濃度0.8mg/mL、体積5mLの投与溶液を取得した。
【0093】
【0094】
化合物N9(S)AおよびN9(S)Bは、化合物N9(S)を逆相C18カラムを通過させて分取・分離することにより得られ、具体的な構造式は以下のとおりである。
【0095】
【0096】
薬物動態学研究の結果により、デキスイブプロフェンの3つの供試化合物は等モル投与量で、いずれも速やかに代謝できることが分かった。
【0097】
試験例5:
PEGで可溶化された、乳状注射液(後続の実施例9を参照)を担体とするデキスイブプロフェンエステル誘導体N9(S)およびデキスイブプロフェンアルギニン塩注射液をそれぞれ用いて等モル投与量で尾静脈投与した後、ラットの血漿中でデキスイブプロフェンに変換した薬物動態学的区別を、薬物動態学ソフトウェアで分析し、
図6は、デキスイブプロフェン誘導体N9(S)のPEG400可溶化液、乳状注射液、およびデキスイブプロフェンアルギニン塩溶液の血中濃度-時間曲線であった。
【0098】
【0099】
備考:上記検体は、デキスイブプロフェンエステル誘導体のPEG生理塩水溶液を投与濃度に応じて現場で調製して現場で使用するほか、乳状注射液およびアルギニン塩溶液はいずれも生理塩水で必要な投与体積に希釈された。
【0100】
N9(S)(PEG生理塩水)の供試品溶液の調製方法:20mgのデキスイブプロフェン誘導体化合物N9(S)を秤量して15mLEP管に入れ、ディスペンサーで10mLのPEG400を取って管に加え、旋回させて均一に混合させ、濃度2mg/mLの化合物のPEG溶液を調製した。ピペットマンで3250μLの供試化合物のPEG溶液を取って10mLのEP管に入れ、ディスペンサーで1750μLの生理塩水を取って管に加え、旋回させて均一に混合させ、濃度1.3mg/mL、体積5mLの投与溶液を調製した。
【0101】
N9(S)(乳状注射液)の供試品溶液の調製方法:N9(S)化合物の含有量が60mg/mLである215μLの乳状注射液を取って15mLのEP管に入れ、ディスペンサーで10mLの生理塩水を取って管に加え、濃度1.3mg/mL、体積5mLの投与溶液を調製した。
【0102】
デキスイブプロフェンアルギニン塩溶液の調製方法:20mg/mLのデキスイブプロフェンを含むデキスイブプロフェンアルギニン塩溶液を取って、ピペットマンで200μLを取って10mLのEP管に入れ、ディスペンサーで4800μLの生理塩水を取って管に加え、旋回させて均一に混合させ、濃度0.8mg/mL、体積5mLの投与溶液を取得した。
【0103】
薬物動態学研究の結果により、デキスイブプロフェンエステル誘導体N9(S)のPEG400可溶化液、乳状注射液、およびデキスイブプロフェンアルギニン塩溶液を等モルの投与量でラットに尾静脈注射した後、in vivoのデキスイブプロフェンの血中濃度-時間曲線はほぼ一致し、乳状注射液の剤形がプロドラッグの放出および抗炎症活性物への変換に明らかな影響がないことを示した。
【0104】
試験例6:油相の選別
異なる油を用いて乳状注射液を調製し、処方組成は以下の表に示すとおりであった。
【0105】
【0106】
ここで、油は、落花生油、中鎖トリグリセリド、コメ油、ヒマシ油、ヒマワリ油、ゴマ油、ヒマワリ油、ツバキ油、トウモロコシ胚芽油、大豆油から選ばれた。
【0107】
実験方法:
処方量の油相および水相をそれぞれ秤量し、高速分散機で油相を10minせん断し、水相を磁気撹拌して均一に混合させた。水相を65℃の水浴で保温し、高速分散機による15000rpm回転数のせん断で油相を水相に入れ、完全に加えた後、10min高速せん断し続け、初期エマルジョンを取得した。初期エマルジョンを800~860bar間の圧力で3サイクル均質化し、異なる油で調製された最終エマルジョンを取得し、得られた最終エマルジョンを121℃で12min滅菌した。それらの平均粒径、Zeta電位およびPIを測定した。
【0108】
【0109】
上記試験の結果により、実施例1、2、5、6、9が低い平均粒径、絶対値がより大きいZeta電位およびより低いPI値を有するため、本願に係る脂肪乳剤の好ましい油相は、ゴマ油、中鎖トリグリセリド、大豆油、ヒマワリ油、落花生油であることが分かった。現在臨床で広く使用された薬剤担持乳状注射液、ナノエマルジョンは、大豆油を油相として添加することが多いことを考慮して、後続の実施例は、大豆油を油相とすることの、乳状注射液の製剤安定性に対する影響のみを考察する。
【0110】
試験例7:乳化剤の選別
異なる乳化剤で乳状注射液を調製し、処方組成は以下の表に示すとおりであった。
【0111】
【0112】
ここで、乳化剤は、天然卵黄レシチン、水素添加卵黄レシチン、天然大豆レシチン、水素添加大豆レシチン、スフィンゴミエリン、ホスファチジルコリンから選ばれる。
【0113】
実験方法:
処方量の油相および水相をそれぞれ秤量し、IKA T10高速分散機で油相を10minせん断し、水相を磁気撹拌して均一に混合させた。水相を65℃の水浴で保温し、IKA T25高速分散機による15000rpm回転数のせん断で油相を水相に入れ、完全に加えた後、10min高速せん断し続け、初期エマルジョンを取得した。初期エマルジョンを800~860bar間の圧力で3サイクル均質化し、異なる乳化剤で調製された最終エマルジョンを取得し、得られた最終エマルジョンを121℃で12min滅菌した。それらの平均粒径、Zeta電位およびPIを測定した。
【0114】
【0115】
上記試験の結果により、実施例10、12がより低い平均粒径、絶対値がより大きいZeta電位およびより低いPI値を有するため、本願に係る脂肪乳剤の好ましい乳化剤は卵黄レシチンおよび天然大豆レシチンであることが分かった。現在臨床で広く使用された薬剤担持乳状注射液、ナノエマルジョンは、天然卵黄レシチンを乳化剤として添加することが多いことを考慮して、後続の実施例は、天然卵黄レシチンを乳化剤とすることの、乳状注射液の製剤安定性に対する影響のみを考察する。
【0116】
試験例8:乳化剤の使用量の選別
異なる使用量の乳化剤を用いて乳状注射液を調製し、処方組成は以下の表に示すとおりであった。
【0117】
【0118】
ここで、乳化剤は天然卵黄レシチンを選択し、使用量は0.5%~15%から選ばれた。
【0119】
実施例16~18 実験方法:
処方量の油相および水相をそれぞれ秤量し、IKA T10高速分散機で油相を10minせん断し、水相を磁気撹拌して均一に混合させた。水相を65℃の水浴で保温し、IKA T25高速分散機による15000rpm回転数のせん断で油相を水相に入れ、完全に加えた後、10min高速せん断し続け、初期エマルジョンを取得した。初期エマルジョンを800~860bar間の圧力で3サイクル均質化し、異なる乳化剤で調製された最終エマルジョンを取得し、得られた最終エマルジョンを121℃で12min滅菌した。それらの平均粒径、Zeta電位およびPIを測定した。
【0120】
【0121】
実施例19~20 実験方法:
処方量の油相および水相をそれぞれ秤量し、IKA T10高速分散機で油相を10minせん断し、水相を磁気撹拌して均一に混合させた。水相を60℃の水浴で保温し、IKA T25高速分散機による20000rpm回転数のせん断で水相を油相に加え、完全に加えた後、3min高速せん断し続け、初期エマルジョンを取得した。初期エマルジョンを800~860bar間の圧力で3サイクル均質化し、異なる乳化剤で調製された最終エマルジョンを取得し、得られた最終エマルジョンを121℃で12min滅菌するか、または孔径0.22μmの濾過膜で濾過して滅菌した。それらの平均粒径、Zeta電位およびPIを測定した。
【0122】
【0123】
上記試験の結果により、実施例17、18、19がより低い平均粒径および高いZeta電位を有するため、本願に係る天然卵黄レシチンの使用量は1.2%~10%であることが好ましいことを示した。
【0124】
試験例9:大豆油の使用量の選別
異なる使用量の乳化剤を用いて乳状注射液を調製し、処方組成は以下の表に示すとおりであった。
【0125】
【0126】
ここで、大豆油の使用量は0%~15%から選ばれた。
【0127】
実施例21~22 実験方法:
処方量の油相および水相をそれぞれ秤量し、IKA T10高速分散機で油相を10minせん断し、水相を磁気撹拌して均一に混合させた。水相を60℃の水浴で保温し、IKA T25高速分散機による20000rpm回転数のせん断で水相を油相に加え、完全に加えた後、3min高速せん断し続け、初期エマルジョンを取得した。初期エマルジョンを800~860bar間の圧力で3サイクル均質化し、異なる乳化剤で調製された最終エマルジョンを取得し、得られた最終エマルジョンを121℃で12min滅菌するか、または孔径0.22μmの濾過膜で濾過して滅菌した。それらの平均粒径、Zeta電位およびPIを測定した。
【0128】
【0129】
実施例23~25 実験方法:
処方量の油相および水相をそれぞれ秤量し、IKA T10高速分散機で油相を10minせん断し、水相を磁気撹拌して均一に混合させた。水相を65℃の水浴で保温し、IKA T25高速分散機による15000rpm回転数のせん断で油相を水相に入れ、完全に加えた後、10min高速せん断し続け、初期エマルジョンを取得した。初期エマルジョンを800~860bar間の圧力で3サイクル均質化し、異なる乳化剤で調製された最終エマルジョンを取得し、得られた最終エマルジョンを121℃で12min滅菌した。それらの平均粒径、Zeta電位およびPIを測定した。
【0130】
【0131】
上記試験の結果により、実施例21、22、23がより低い平均粒径および高いZeta電位を有するため、本願に係る大豆油の使用量は0.5%~5%であることが好ましいことを示した。
【0132】
実施例27~40
異なる割合のAPI(N9(S))、油、乳化剤、安定剤、乳化助剤、等浸透圧調整剤、pH調整剤を用いて乳状注射液を調製し、処方組成は以下の表に示すとおりであった。
【0133】
【0134】
試験方法:
(1)油相の調製:油中に活性成分N9(S)、乳化剤、安定剤を加え、高速せん断して均一に混合させて、取得した。
【0135】
(2)水相の調製:注射用水に等浸透圧調整剤、安定剤を加え、必要に応じて、pH調整剤、乳化助剤を加え、撹拌して溶解させて、取得した。
【0136】
(3)処方量の油相および水相をそれぞれ秤量し、IKA T10高速分散機で油相を10minせん断し、水相を磁気撹拌して均一に混合させた。水相を65℃の水浴で保温し、IKA T25高速分散機による15000rpm回転数のせん断で油相を水相に入れ、完全に加えた後、10min高速せん断し続け、初期エマルジョンを取得し、pH調整剤溶液でpHを4.0~9.0の範囲内に調整した。
【0137】
(4)初期エマルジョンを800~860bar間の圧力で3サイクル均質化し、最終エマルジョンを取得した。完成品乳状注射液を25℃で安定的に保存し、0日目、30日目に外観性状を観察し、代表的なものを顕微鏡で観察し、結果は以下の表に示すとおりであった。
【0138】
1、上記実施例は、いずれも対応するpH調整剤でpHを4.0~9.0程度に調整した。
【0139】
2、上記実施例は、いずれも注射用水で100mLに補充した。
【0140】
【0141】
結論:実施例30を除き、各実施例は、いずれも保存条件で良好な外観形状を保持した。これにより、脂肪エマルジョンの薬含有量は0.1%~10%から選択することができ、また、安定剤、乳化助剤、等浸透圧調整剤、pH調整剤のそれぞれは処方でいずれもパフォーマンスが良好であることが分かった。