(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】土壌改良剤の製法
(51)【国際特許分類】
C09K 17/32 20060101AFI20241016BHJP
C05F 11/00 20060101ALI20241016BHJP
C07G 1/00 20110101ALI20241016BHJP
C08H 7/00 20110101ALI20241016BHJP
【FI】
C09K17/32 H
C05F11/00
C07G1/00
C08H7/00
(21)【出願番号】P 2022086775
(22)【出願日】2022-05-27
【審査請求日】2023-03-10
(73)【特許権者】
【識別番号】594101307
【氏名又は名称】協和化成株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100080746
【氏名又は名称】中谷 武嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100217881
【氏名又は名称】中谷 由美
(72)【発明者】
【氏名】仮屋 勲一
(72)【発明者】
【氏名】上條 岳巳
(72)【発明者】
【氏名】森川 裕介
(72)【発明者】
【氏名】天野 良彦
(72)【発明者】
【氏名】水野 正浩
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-125262(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第113016950(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 17/00-17/52
C05B 1/00-21/00
C05C 1/00-13/00
C05D 1/00-11/00
C05F 1/00-17/993
C05G 1/00- 5/40
C08H 7/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オガクズに含まれるリグニンを、リン酸を含む溶媒で可溶化してリグニン様物質とし、該リグニン様物質に、
酸化酵素として、Pestalotiopsis属由来の産生酵素、又は、Irpex 由来の産生酵素を、作用させて最終生成物とし、該最終生成物を固液分離して、リグニン様物質溶液と固形物残渣に分離し、該固形物残渣を乾燥させる乾燥工程を経て土壌改良剤を作成することを特徴とする土壌改良剤の製法。
【請求項2】
上記固形物残渣を乾燥させる加熱温度を、90℃以上 110℃以下に設定した請求項1記載の土壌改良剤の製法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌改良剤の製法に関する。
【背景技術】
【0002】
我が国には再生可能なエネルギーとして豊富な森林資源がある。この自然の恵みは多面的な機能がある。従って、自然の個々の技術的利用の立場においても、広い範囲で全体の関連に資するものでなければならない。
【0003】
この前提で、本発明者は、森林が蓄積する化学エネルギーの技術的利用を考えた。物質的力の拡大は、自然科学の原理的な関連で進めた。材料は廃棄物系バイオマスであるオガクズのリグニン(木材成分の30%を占める)に注目した。リグニンは、難溶性であり、反応性を高めるためには、可溶化する必要がある。
【0004】
従来、リグニンを可溶化する方法として、リグニンを水及びアルコール溶媒中、固体酸触媒存在下で分解反応させる方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。しかし、特許文献1記載の方法により得られた可溶化リグニンを土壌改良剤として用いた場合、リグニンの反応性が低く、リグニンの特性を十分に発揮させることができない。そこで、オガクズに含まれるリグニンを、リン酸を含む溶媒で可溶化してリグニン様物質とし、リグニン様物質(可溶化リグニン)に酸化酵素を作用させて最終生成物とし、最終生成物を固液分離して、リグニン様物質溶液と固形物残渣に分離し、リグニン様物質溶液を土壌改良剤として利用することを考えた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、固形物残渣は廃棄しており、この固形物残渣中に含まれる可溶性のリグニン様物質が無駄となっていた。そこで、固形物残渣中の可溶性リグニン様物質を活用する土壌改良剤の製法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る土壌改良剤の製法は、オガクズに含まれるリグニンを、リン酸を含む溶媒で可溶化してリグニン様物質とし、該リグニン様物質に、酸化酵素として、Pestalotiopsis属由来の産生酵素、又は、Irpex 由来の産生酵素を、作用させて最終生成物とし、該最終生成物を固液分離して、リグニン様物質溶液と固形物残渣に分離し、該固形物残渣を乾燥させる乾燥工程を経て土壌改良剤を作成する方法である。
【0008】
また、上記固形物残渣を乾燥させる加熱温度を、90℃以上 110℃以下に設定した方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、固形物残渣中のリグニン様物質をさらに有効利用することができる。かつ、オガクズの固形物残渣は、土中の微生物によって分解され易く、優れた土壌改良剤(堆肥)として有効活用できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施の一形態について説明する。オガクズに含まれるリグニンを、リン酸を含む溶媒で可溶化してリグニン様物質とする。オガクズとしては、例えば、杉材のオガクズが挙げられる。リン酸は、例えば、オルトリン酸(H3 PO4 )である。リグニン様物質とは、リグニンが一部分解したり、可溶化したものをいう。リグニン様物質は、土壌改良効果(植物生長促進効果)を有する。
【0012】
リグニン様物質に酸化酵素を作用させて最終生成物とする。酸化酵素は、例えば、Pestalotiopsis属(例えば、Pestalotiopsis sp.AN-7)由来の産生酵素、Irpex 由来の産生酵素が挙げられる。酸化酵素を作用させることにより、還元電位を高めて導電性を高めることができる。
【0013】
最終生成物を固液分離して、リグニン様物質溶液(木材抽出リグニン液)と固形物残渣に分離する。固液分離は、例えば、濾過により行う。固形物残渣(抽出残渣)はつぶつぶの形状(数mm以下)で処理後もオガクズの原形をとどめている。外見の色彩は、リグニン様物質が抽出されるので褐色の度合いは低下する。固形物残渣(乾物)は約半分のリグニン様物質溶液を含む。
【0014】
固形物残渣を乾燥工程を経て、土壌改良剤を作成する。すなわち、固形物残渣を加熱により乾燥させる。具体的には、固形物残渣は90℃以上 110℃以下で加熱して水分を飛ばし乾燥状態にする。特に、 100℃以上 108℃以下で加熱するのが好ましい。加熱温度が90℃未満の場合、十分に乾燥させることができない。加熱温度が 110℃を超える場合、加熱するのが困難である。
【0015】
次に、必要に応じて、粉砕して粉末状とする。具体的には、粉砕機にかけ10メッシュ以上40メッシュ以下となるよう粉砕する。特に、20メッシュ以上30メッシュ以下に粉砕するのが好ましい。10メッシュ未満に粉砕する場合、十分にリグニン様物質の効果を得ることができない。40メッシュを超えるように粉砕する場合、粉砕するのが困難である。この粉末成分の化学組成は杉樹齢、部位などで違いはあるがセルロース系成分、リグニン、微量成分とリグニン様物質(可溶性リグニン)である。
【0016】
本発明に係わる固形物残渣の活性物質は、酵素溶媒でオガクズから溶解状態で抽出されるリグニン様物質である。乾燥工程で粉末となり一定の密度で固形物残渣に活性成分が含まれる。
【0017】
粉末化されたリグニン様物質は水溶媒で容易に可溶化し、植物生長促進効果としてその特異性を発揮する。すなわち、土壌に吸着されている陽イオンを根の表面に運ぶ。植物は、根の広がりで土の粒子の水分に溶けている養分は吸収できるが、根系の発達具合、植物の種類による形態の違いなどで届かないところは吸収できない。このような差をリグニン様物質の静電効果が働いて補っている。粘土質の土壌は陰電気を帯びている。この粘土に吸着されたK+ ,Ca2+,Ma2+,Na+ 等の陽イオン(電荷)にリグニン様物質の静電効果が働いて根の表面に運ばれる。
【0018】
粉末は溶解過程が問題になるが、オガクズとリン酸を含む溶媒とを攪拌してリグニンを可溶化した段階でかなり大きな相互作用が働いてさまざまな形態の水和が起こっており、溶質が高分子のものでも水で代表されるプロトンイオン化溶媒であれば特段の問題はない。灌水で容易に溶解する。
【実施例】
【0019】
以下、実施例を示し、本発明を具体的に説明する。
【0020】
本発明によって製造された土壌改良剤(粉末)を、培養土に重量比で1%濃度に混合し下記植物の生育反応をみた。
図1~
図5のいずれに於ても、左側の植物が粉末欠除の場合を示し、中央の植物と右側の植物が粉末施用の場合を示す。
【0021】
実施例1
C4植物のトウモロコシの生育状況を観察した。
図1に示すように、粉末施用の場合、生育初期から葉身が直立した。
【0022】
実施例2
トマトの生育状況を観察した。
図2に示すように、粉末施用の場合、バランスよく葉茎が伸びた。
【0023】
実施例3
オクラの生育状況を観察した。
図3に示すように、粉末施用の場合、初期から、粉末欠除よりもよく成長した。
【0024】
実施例4
ナスの生育状況を観察した。
図4に示すように、粉末施用の場合、粉末欠除よりも順調に生育した。
【0025】
実施例5
セロリの生育状況を観察した。
図5に示すように、粉末施用の場合、葉身が直立し伸長した。
【0026】
以上より、植物の前半の栄養成長期は、特段の抑制もなく、広範囲に影響を持っていることが推察される。すなわち、粉末施用の場合、植物が、有意差をもってよく成長した。
【0027】
なお、本発明は、設計変更可能であって、例えば、固形物残渣を加熱する際、送風を同時に行うも好ましい。
【0028】
以上のように、本発明は、オガクズに含まれるリグニンを、リン酸を含む溶媒で可溶化してリグニン様物質とし、リグニン様物質に、酸化酵素として、Pestalotiopsis属由来の産生酵素、又は、Irpex 由来の産生酵素を、作用させて最終生成物とし、最終生成物を固液分離して、リグニン様物質溶液と固形物残渣に分離し、固形物残渣を乾燥させる乾燥工程を経て土壌改良剤を作成するので、固形物残渣を有効利用することができる。そして、土壌改良効果(植物生長促進効果)を得ることができる。また、水やりや降雨等により給水された際、リグニン様物質が土中に溶出する(放出される)ので、オガクズの固形物残渣は、土中の微生物によって分解され易く、優れた土壌改良剤(堆肥)として有効活用できる。
【0029】
また、上記固形物残渣を乾燥させる加熱温度を、90℃以上 110℃以下に設定したので、容易かつ適切に固形物残渣を乾燥することができる。