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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】除染システム
(51)【国際特許分類】
   A61L 2/18 20060101AFI20241016BHJP
   B05B 17/06 20060101ALI20241016BHJP
   A61L 101/22 20060101ALN20241016BHJP
【FI】
A61L2/18 102
B05B17/06
A61L101:22
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021555968
(86)(22)【出願日】2020-10-21
(86)【国際出願番号】 JP2020039556
(87)【国際公開番号】W WO2021095465
(87)【国際公開日】2021-05-20
【審査請求日】2023-07-27
(31)【優先権主張番号】P 2019206606
(32)【優先日】2019-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020078816
(32)【優先日】2020-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】599053643
【氏名又は名称】株式会社エアレックス
(74)【代理人】
【識別番号】100121784
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 稔
(72)【発明者】
【氏名】川崎 康司
(72)【発明者】
【氏名】宋 軍
(72)【発明者】
【氏名】北野 司
(72)【発明者】
【氏名】郭 志強
(72)【発明者】
【氏名】二村 はるか
(72)【発明者】
【氏名】矢崎 至洋
(72)【発明者】
【氏名】角田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】益留 純
【審査官】葛谷 光平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/009376(WO,A1)
【文献】特開2012-087968(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107716430(CN,A)
【文献】欧州特許出願公開第3181242(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 2/18
B05B 17/06
A61L 101/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
除染液をミスト化して除染用ミストを発生するミスト発生手段と、除染対象室の内部に前記除染用ミストを放出するミスト放出口と、放出された前記除染用ミストを分散・拡散するミスト分散・拡散手段とを備え、
前記ミスト放出口は、前記除染対象室の内部側壁面に開口して前記除染用ミストを前記除染対象室の内部に放出し、
前記ミスト分散・拡散手段は、前記除染対象室の内部側壁面の前記ミスト放出口の下部近傍又はミスト放出方向の側面近傍に配置した振動盤を具備し、当該振動盤を超音波振動させて盤面から垂直方向に超音波による音響流を発生させ、前記ミスト放出口から放出された前記除染用ミストに対して後方又は側面から音響放射圧による押圧を間欠作動又は強弱作動させることにより、当該除染用ミストを前記除染対象室の内部全域に隈なく分散・拡散させることを特徴とする除染システム。
【請求項2】
前記ミスト発生手段は、除染液を貯留して除染液供給配管を介して供給する除染液供給装置と、圧縮空気を発生して空気供給配管を介して供給する圧縮空気供給装置とを具備して、供給された除染液と圧縮空気とから前記除染用ミストを発生することを特徴とする請求項1に記載の除染システム。
【請求項3】
前記ミスト発生手段は、1次ミスト発生手段と2次ミスト発生手段とからなり、
前記1次ミスト発生手段は、除染液を貯留して除染液供給配管を介して供給する除染液供給装置と、圧縮空気を発生して空気供給配管を介して供給する圧縮空気供給装置とを具備して、供給された除染液と圧縮空気とから1次ミストを発生し、1次ミスト供給配管を介して前記2次ミスト発生手段に供給し、
前記2次ミスト発生手段は、供給された前記1次ミストを気液分離する1次ミスト受容器と、超音波霧化装置とを具備して、気液分離した除染液を微細で霧化した2次ミストに変換して前記ミスト放出口に供給し、
前記ミスト放出口は、前記2次ミストを前記除染用ミストとして前記除染対象室の内部に放出することを特徴とする請求項1に記載の除染システム。
【請求項4】
前記除染対象室の内部に供給された前記除染用ミストは、前記振動盤から発生する超音波振動により更に微細化することを特徴とする請求項1~3のいずれか1つに記載の除染システム。
【請求項5】
複数の除染対象室に対して、前記除染液供給装置と前記圧縮空気供給装置とを具備する前記1次ミスト発生手段を共有とし、
各除染対象室に対して、それぞれ、前記2次ミスト発生手段と前記ミスト放出口と前記ミスト分散・拡散手段とを備えていることを特徴とする請求項3に記載の除染システム。
【請求項6】
前記除染液供給装置と前記圧縮空気供給装置と前記1次ミスト発生手段とは、前記1次ミスト供給配管を介して除染対象室から離隔した位置に配置し、
前記2次ミスト発生手段は、前記1次ミスト供給配管を介して対応の除染対象室の近傍又は室内に配置することにより、
除染対象室に対して前記1次ミスト供給配管の搬送距離は、対応の前記除染液供給配管の搬送距離よりも長いことを特徴とする請求項5に記載の除染システム。
【請求項7】
前記超音波霧化装置は、圧電振動子と当該圧電振動子の振動により気液分離した除染液を霧化する複数の微細孔が表裏を貫通して設けられた多孔振動板とを備え、
前記多孔振動板の表面を前記ミスト放出口として前記除染対象室の内部に向け、裏面を前記1次ミスト受容器の内部に向けて配置され、
前記1次ミスト受容器に供給された1次ミストは、前記1次ミスト供給配管から前記多孔振動板の裏面に向けて吐出されて気液分離し、分離した除染液が当該多孔振動板の裏面から表面に移動する際に霧化して当該表面を前記ミスト放出口として前記除染対象室の内部に放出されることを特徴とする請求項3、5及び6のいずれか1つに記載の除染システム。
【請求項8】
前記超音波霧化装置は、圧電振動子と当該圧電振動子の振動により気液分離した除染液を霧化する複数の微細孔が表裏を貫通して設けられた多孔振動板とを備え、
前記多孔振動板の表面を前記ミスト放出口として前記除染対象室の内部に向け、裏面を前記1次ミスト受容器の内部下端部に設けられた液溜りに向けて配置され、
前記1次ミスト受容器に供給された1次ミストは、前記1次ミスト供給配管から前記1次ミスト受容器の内部に放出されて気液分離し、分離した除染液が当該1次ミスト受容器の前記液溜りに回収された後に、前記多孔振動板の裏面から表面に移動する際に霧化して当該表面を前記ミスト放出口として前記除染対象室の内部に放出されることを特徴とする請求項3、5及び6のいずれか1つに記載の除染システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アイソレーター、RABS、無菌室などや、それらに付随するパスルーム、パスボックスなどの室内に除染用ミストを発生させて除染を行う除染システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
医薬品或いは食品などを製造する製造現場、或いは、手術室などの医療現場においては、室内の無菌状態を維持することが重要である。特に医薬品製造の作業室である無菌室の除染においては、GMP(Good Manufacturing Practice)に即した高度な除染バリデーションを完了させる必要がある。
【0003】
近年、無菌環境が要求される作業室(以下、除染対象室という)の除染には、過酸化水素ガスが広く採用されている。この過酸化水素ガスは、強力な滅菌効果を有し、安価で入手しやすく、且つ、最終的には酸素と水に分解する環境に優しい除染ガスとして有効である。
【0004】
なお、過酸化水素ガスによる除染効果は、除染対象部位の表面に凝縮する過酸化水素水の凝縮膜によるものであることが下記特許文献1で示された。従って、除染対象室の除染効果の完璧を図るには、過酸化水素ガスの供給量を多くして発生する過酸化水素水の凝縮膜を厚く或いは高濃度にすればよい。
【0005】
ところで、除染対象室に過剰量の過酸化水素ガスを供給すると過度な凝縮が起こり、除染対象室の内部に設置されている各種製造設備や精密測定機器或いは除染対象室の壁面などが、発生した高濃度の過酸化水素水の凝縮膜により腐食されるという不具合が生じる。また、過酸化水素ガスによる除染の後には、除染対象室の内部に残留した過酸化水素ガスや凝縮膜を清浄空気で除去するエアレーションを行う。しかし、過剰量の過酸化水素ガスを供給した場合には、除染対象室の壁面などに発生した高濃度の過酸化水素水の凝縮膜を除去するエアレーションに多くに時間を要するという問題があった。
【0006】
一方、除染対象室に供給する過酸化水素ガスの量が少ないと凝縮が不十分となり、充分な除染効果が得られないという問題があった。このようなことから、過酸化水素ガスに代えて過酸化水素水をミストの状態(以下「過酸化水素ミスト」という)で除染対象室に供給することが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特公昭61-4543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、過酸化水素ミストは液体の微粒子であるので、気体の過酸化水素ガスに比べ分散・拡散する性質が弱い。つまり、除染対象室に適正量と考えられる少量の過酸化水素ミストを供給した場合には、除染対象室の内部に均一に分散・拡散させることが難しく除染されない部分が生じるという問題がある。一方、除染対象室に過剰量の過酸化水素ミストを供給した場合には、大粒の粒子が発生して除染対象室の床面に落下し結露を発生させる。このような結露が発生した結果、除染対象室の壁面などが腐食されるという問題がある。また、この場合にも結露を除去するエアレーションに多くに時間を要するという問題がある。
【0009】
そこで、本発明は、上記の諸問題に対処して、除染対象室の内部に供給した過酸化水素ミストを更に微細化して分散・拡散させることにより、除染対象室に対する適正量の過酸化水素ミストの供給で除染効果の完璧を図ると共に、エアレーションなどの作業時間を短縮して除染作業の効率化を図ることのできる除染システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題の解決にあたり、本発明者らは、除染対象室の内部に供給した過酸化水素ミストに対して、超音波による音響流を作用させて更に微細化すると共に、音響放射圧による押圧で過酸化水素ミストを分散・拡散できることを見出し本発明の完成に至った。
【0011】
即ち、本発明に係る除染システム(100~500)は、請求項1の記載によれば、
除染液をミスト化して除染用ミストを発生するミスト発生手段(M1~M11)と、除染対象室(R1~R4)の内部に前記除染用ミストを放出するミスト放出口(X1~X4)と、放出された前記除染用ミストを分散・拡散するミスト分散・拡散手段(D1~D5)とを備え、
前記ミスト放出口は、前記除染対象室の内部側壁面に開口して前記除染用ミストを前記除染対象室の内部に放出し、
前記ミスト分散・拡散手段は、前記除染対象室の内部側壁面の前記ミスト放出口の下部近傍又はミスト放出方向の側面近傍に配置した振動盤を具備し、当該振動盤を超音波振動させて盤面から垂直方向に超音波による音響流を発生させ、前記ミスト放出口から放出された前記除染用ミストに対して後方又は側面から音響放射圧による押圧を間欠作動又は強弱作動させることにより、当該除染用ミストを前記除染対象室の内部全域に隈なく分散・拡散させることを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、請求項2の記載によると、請求項1に記載の除染システムにおいて、
前記ミスト発生手段は、除染液を貯留して除染液供給配管(LL2)を介して供給する除染液供給装置(20)と、圧縮空気を発生して空気供給配管(AL2)を介して供給する圧縮空気供給装置(10)とを具備して、供給された除染液と圧縮空気とから前記除染用ミストを発生することを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、請求項3の記載によると、請求項1に記載の除染システムにおいて、
前記ミスト発生手段は、1次ミスト発生手段(M1,M3,M4,M7)と2次ミスト発生手段(M2,M5,M6,M8~M11)とからなり、
前記1次ミスト発生手段は、除染液を貯留して除染液供給配管(LL1,LL3~LL5)を介して供給する除染液供給装置(20)と、圧縮空気を発生して空気供給配管(AL1,AL3~AL5)を介して供給する圧縮空気供給装置(10)とを具備して、供給された除染液と圧縮空気とから1次ミストを発生し、1次ミスト供給配管(ML1~ML4)を介して前記2次ミスト発生手段に供給し、
前記2次ミスト発生手段は、供給された前記1次ミストを気液分離する1次ミスト受容器(MR1~MR5)と、超音波霧化装置(A1~A5)とを具備して、気液分離した除染液を微細で霧化した2次ミストに変換して前記ミスト放出口に供給し、
前記ミスト放出口は、前記2次ミストを前記除染用ミストとして前記除染対象室の内部に放出することを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、請求項4の記載によると、請求項1~3のいずれか1つに記載の除染システムにおいて、
前記除染対象室の内部に供給された前記除染用ミストは、前記振動盤から発生する超音波振動により更に微細化することを特徴とする。
【0015】
また、本発明は、請求項5の記載によると、請求項3に記載の除染システムにおいて、
複数の除染対象室に対して、前記除染液供給装置と前記圧縮空気供給装置とを具備する前記1次ミスト発生手段を共有とし、
各除染対象室に対して、それぞれ、前記2次ミスト発生手段と前記ミスト放出口と前記ミスト分散・拡散手段とを備えていることを特徴とする。
【0016】
また、本発明は、請求項6の記載によると、請求項5に記載の除染システムにおいて、
前記除染液供給装置と前記圧縮空気供給装置と前記1次ミスト発生手段とは、前記1次ミスト供給配管を介して除染対象室から離隔した位置に配置し、
前記2次ミスト発生手段は、前記1次ミスト供給配管を介して対応の除染対象室の近傍又は室内に配置することにより、
除染対象室に対して前記1次ミスト供給配管の搬送距離は、対応の前記除染液供給配管の搬送距離よりも長いことを特徴とする。
【0017】
また、本発明は、請求項7の記載によると、請求項3、5及び6のいずれか1つに記載の除染システムにおいて、
前記超音波霧化装置は、圧電振動子(A1-3,A2-3)と当該圧電振動子の振動により気液分離した除染液を霧化する複数の微細孔が表裏を貫通して設けられた多孔振動板(A1-2,A2-2)とを備え、
前記多孔振動板の表面を前記ミスト放出口として前記除染対象室の内部に向け、裏面を前記1次ミスト受容器の内部に向けて配置され、
前記1次ミスト受容器に供給された1次ミストは、前記1次ミスト供給配管から前記多孔振動板の裏面に向けて吐出されて気液分離し、分離した除染液が当該多孔振動板の裏面から表面に移動する際に霧化して当該表面を前記ミスト放出口として前記除染対象室の内部に放出されることを特徴とする。
【0018】
また、本発明は、請求項8の記載によると、請求項3、5及び6のいずれか1つに記載の除染システムにおいて、
前記超音波霧化装置は、圧電振動子(A1-3,A2-3)と当該圧電振動子の振動により気液分離した除染液を霧化する複数の微細孔が表裏を貫通して設けられた多孔振動板(A1-2,A2-2)とを備え、
前記多孔振動板の表面を前記ミスト放出口として前記除染対象室の内部に向け、裏面を前記1次ミスト受容器の内部下端部に設けられた液溜り(MR1-2,MR2-2)に向けて配置され、
前記1次ミスト受容器に供給された1次ミストは、前記1次ミスト供給配管から前記1次ミスト受容器の内部に放出されて気液分離し、分離した除染液が当該1次ミスト受容器の前記液溜りに回収された後に、前記多孔振動板の裏面から表面に移動する際に霧化して当該表面を前記ミスト放出口として前記除染対象室の内部に放出されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
上記構成によれば、本発明に係る除染システムは、ミスト発生手段とミスト放出口とミスト分散・拡散手段とを備えている。ミスト発生手段は、除染液をミスト化して除染用ミストを発生する。ミスト放出口は、除染対象室の内部側壁面に開口して除染用ミストを除染対象室の内部に放出する。ミスト分散・拡散手段は、除染対象室の内部側壁面のミスト放出口の下部近傍又はミスト放出方向の側面近傍に具備した振動盤を超音波振動させて音響流を発生させ、ミスト放出口から放出された除染用ミストに対して後方又は側面から音響放射圧による押圧を間欠作動又は強弱作動させる。このことにより、当該除染用ミストを除染対象室の内部全域に隈なく分散・拡散させることができる。
【0020】
また、上記構成によれば、ミスト発生手段は、除染液供給装置と圧縮空気供給装置とを具備している。除染液供給装置は、除染液を貯留して除染液供給配管を介して供給する。圧縮空気供給装置は、圧縮空気を発生して空気供給配管を介して供給する。ここで、ミスト発生手段は、供給された除染液と圧縮空気とから除染用ミストを発生する。このことにより、上記作用効果をより具体的に発揮することができる。
【0021】
また、上記構成によれば、除染システムは、1次ミスト発生手段と2次ミスト発生手段とからなる。1次ミスト発生手段は、除染液供給装置と圧縮空気供給装置とを具備している。除染液供給装置は、除染液供給配管を介して貯留した除染液を供給する。圧縮空気供給装置は、空気供給配管を介して発生させた圧縮空気を供給する。ここで、1次ミスト発生手段は、供給された除染液と圧縮空気とから1次ミストを発生し、1次ミスト供給配管を介して2次ミスト発生手段に供給する。
【0022】
2次ミスト発生手段は、1次ミスト受容器と超音波霧化装置とを具備している。1次ミスト受容器は、供給された1次ミストを気液分離する。超音波霧化装置は、気液分離した除染液を微細で霧化した2次ミストに変換してミスト放出口に供給する。ミスト放出口は、2次ミストを除染用ミストとして除染対象室の内部に放出する。このことにより、上記作用効果を更に効果的に発揮することができる。
【0023】
また、上記構成によれば、除染対象室の内部に供給された除染用ミストは、振動盤から発生する超音波振動により更に微細化される。このことにより、上記作用効果をより効果的に発揮することができる。
【0024】
また、上記構成によれば、除染システムは、複数の除染対象室に対して、除染液供給装置と圧縮空気供給装置とを具備する1次ミスト発生手段を共有する。一方、各除染対象室に対して、それぞれ、2次ミスト発生手段とミスト放出口とミスト分散・拡散手段とを備えている。
【0025】
また、上記構成によれば、除染液供給装置と圧縮空気供給装置と1次ミスト発生手段とは、1次ミスト供給配管を介して除染対象室から離隔した位置に配置されている。一方、2次ミスト発生手段は、1次ミスト供給配管を介して対応の除染対象室の近傍又は室内に配置されている。このことにより、除染対象室に対して1次ミスト供給配管の搬送距離は、対応の除染液供給配管の搬送距離よりも長い。
【0026】
また、上記構成によれば、超音波霧化装置は、圧電振動子と当該圧電振動子の振動により気液分離した除染液を霧化する複数の微細孔が表裏を貫通して設けられた多孔振動板とを備えている。また、多孔振動板の表面をミスト放出口として除染対象室の内部に向け、裏面を1次ミスト受容器の内部に向けて配置されている。この状態において、1次ミスト受容器に供給された1次ミストは、1次ミスト供給配管から多孔振動板の裏面に向けて吐出されて気液分離する。分離した除染液は、多孔振動板の裏面から表面に移動する際に霧化して当該表面をミスト放出口として除染対象室の内部に放出される。
【0027】
また、上記構成によれば、超音波霧化装置は、圧電振動子と当該圧電振動子の振動により気液分離した除染液を霧化する複数の微細孔が表裏を貫通して設けられた多孔振動板とを備えている。また、多孔振動板の表面をミスト放出口として除染対象室の内部に向け、裏面を前記1次ミスト受容器の内部下端部に設けられた液溜りに向けて配置されている。この状態において、1次ミスト受容器に供給された1次ミストは、1次ミスト供給配管から1次ミスト受容器の内部に放出されて気液分離し、分離した除染液は、1次ミスト受容器の液溜りに回収された後に、多孔振動板の裏面から表面に移動する際に霧化して当該表面をミスト放出口として除染対象室の内部に放出される。
【0028】
よって、本発明によれば、除染対象室の内部に供給した過酸化水素ミストを更に微細化して分散・拡散させることにより、除染対象室に対する適正量の過酸化水素ミストの供給で除染効果の完璧を図ると共に、エアレーションなどの作業時間を短縮して除染作業の効率化を図ることのできる除染システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明に係る除染システムの第1実施形態を示す概略構成図である。
図2】第1実施形態で使用する2次ミスト発生装置の外観斜視図である。
図3図2の2次ミスト発生装置の構造を示す(A)除染対象室側から見た正面図、(B)右側面から見た断面図である。
図4】第1実施形態で使用するミスト分散・拡散装置の外観斜視図である。
図5図1の除染システムにおける過酸化水素ミストの分散・拡散の状態を示すイメージ図である。
図6】本発明に係る除染システムの第2実施形態を示す概略構成図である。
図7】本発明に係る除染システムの第3実施形態を示す概略構成図(A)平面図である。
図8】本発明に係る除染システムの第3実施形態を示す概略構成図(B)正面図である。
図9】本発明に係る除染システムの第3実施形態を示す概略構成図(C)側面図である。
図10】本発明に係る除染システムの第4実施形態を示す概略構成図である。
図11】第4実施形態において2次ミスト発生装置とミスト分散・拡散装置との組み合わせの第1の例を示す斜視図である。
図12図11の2次ミスト発生装置を除染対象室内の側面から見た右側面図である。
図13図11の2次ミスト発生装置を除染対象室内の正面から見た断面図である。
図14】第4実施形態において2次ミスト発生装置とミスト分散・拡散装置との組み合わせの第2の例を示す斜視図である。
図15】第4実施形態において2次ミスト発生装置とミスト分散・拡散装置との組み合わせの第3の例を示す斜視図である。
図16】第4実施形態において2次ミスト発生装置とミスト分散・拡散装置との組み合わせの第4の例を示す斜視図である。
図17図10の除染システムにおける過酸化水素ミストの分散・拡散の状態を示すイメージ図である。
図18】本発明に係る除染システムの第5実施形態を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】

本発明において「ミスト」とは、広義に解釈するものであって、微細化して空気中に浮遊する除染剤の液滴の状態、除染剤のガスと液滴が混在した状態、除染剤がガスと液滴との間で凝縮と蒸発との相変化を繰り返している状態などを含むものとする。また、粒径に関しても、場合によって細かく区分されるミスト・フォグ・液滴などを含んで広義に解釈する。
【0031】
よって、本発明に係るミストにおいては、場合によってミスト(10μm以下と定義される場合もある)或いはフォグ(5μm以下と定義される場合もある)と呼ばれるもの、及び、それ以上の粒径を有するものも含むものとする。なお、本発明においては、超音波振動の作用により、ミスト・フォグ・液滴などの3μm~10μm或いはそれ以上の液滴であっても、3μm以下の超微細粒子に均一化されて高度な除染効果を発揮するものと考えられる。
【0032】
以下、本発明に係る除染システムを各実施形態に基づいて説明する。なお、本発明は、下記に示す各実施形態に限定されるものではない。
【0033】
《第1実施形態》
本第1実施形態においては、1室の除染対象室に対して本発明に係る除染システムを配置した場合について説明する。また、本第1実施形態においては、過酸化水素ミスト発生手段として1次ミスト発生手段及び2次ミスト発生手段を併用し、微細で霧化した2次ミストを除染用ミストとして除染対象室の内部に放出する場合について説明する。
【0034】
図1は、本発明に係る除染システムの第1実施形態を示す概略構成図である。図1においては、1台のアイソレーター(容積:4m)を除染対象室として、1組の過酸化水素ミスト発生装置(本第1実施形態においては、1次ミスト発生装置及び2次ミスト発生装置の組合せ)により除染用ミストを放出する。また、アイソレーターの内部の装置、例えば、循環ファン、HEPAフィルタ、整流板などを省略し、除染対象空間のみを記載している。なお、本第1実施形態においては、アイソレーターを除染対象室とするが、これに限るものではなく、RABS、無菌室、パスルーム、パスボックスなどであってもよく、これらの組合せであってもよい。また、除染対象室の数も1室から複数の何室であってもよい。
【0035】
図1において、除染対象室R1に配置した除染システム100は、1次ミスト発生装置M1、2次ミスト発生装置M2、ミスト放出口X1、及び、ミスト分散・拡散装置D1を備えている。
【0036】
1次ミスト発生装置M1は、空気圧縮機10、過酸化水素水タンク20、及び、1次ミストを発生するエジェクタE1を有している。
【0037】
空気圧縮機10は、過酸化水素水を搬送するためのキャリアガスとしての圧縮空気を発生するための圧縮空気発生手段として作用する。なお、本第1実施形態においては、この空気圧縮機10は、除染対象室R1から離れた位置に配置されている。
【0038】
過酸化水素水タンク20は、除染用ミストとしての過酸化水素ミストの発生源である過酸化水素水を貯留するための除染液供給手段として作用する。なお、本第1実施形態においては、この過酸化水素水タンク20は、除染対象室R1から離れた位置で空気圧縮機10の近傍に配置されている。ここで、過酸化水素水タンク20に貯留される過酸化水素水の濃度は特に限定するものではないが、一般に、危険物などの取扱いを考慮して30~35重量%のものを使用することが好ましい。また、過酸化水素水タンク20は、内部の過酸化水素水の残量を検知する秤量器21と、残量を制御する制御装置(図示せず)を備えている。
【0039】
エジェクタE1は、過酸化水素水を圧縮空気中に気液混合して1次ミストを発生する。このエジェクタE1は、除染対象室R1から離れた位置で空気圧縮機10及び過酸化水素水タンク20の近傍に配置されている。
【0040】
また、図1において、除染システム100は、空気圧縮機10とエジェクタE1とを連通する空気供給配管AL1と、過酸化水素水タンク20とエジェクタE1とを連通する除染液供給配管LL1と、エジェクタE1と2次ミスト発生装置M2とを連通する1次ミスト供給配管ML1とを備えている。
【0041】
空気供給配管AL1は、空気圧縮機10の吐出口とエジェクタE1の駆動流路(図示しない)とを連通する。空気供給配管AL1の管路には、それぞれ、圧縮空気の供給を制御する開閉弁(図持せず)が設けられている。ここで、空気供給配管AL1の材質及び管径については特に限定するものではないが、一般に、内径1~10mmのステンレス管であることが好ましい。なお、図1には示していないが、空気圧縮機10と空気供給配管AL1の間の管路には、エアドライヤ、エアレギュレータ、オートドレン、オイルミストセパレータ、その他のフィルタなどを設けるようにしてもよい。
【0042】
除染液供給配管LL1は、過酸化水素水タンク20の供給口とエジェクタE1の吸引流路(図示しない)とを連通する。除染液供給配管LL1の管路には、それぞれ、過酸化水素水の供給を制御するチューブポンプP1が設けられている。ここで、除染液供給配管LL1の材質及び管径については、過酸化水素水に使用可能なものであれば特に限定するものではないが、一般に、内径1~10mmのステンレス管であることが好ましい。
【0043】
1次ミスト供給配管ML1は、エジェクタE1の吐出流路と超音波霧化装置(後述する)を具備する2次ミスト発生装置M2とを連通する。1次ミスト供給配管ML1は、空気圧縮機10及び過酸化水素水タンク20の近傍から除染対象室R1の奥壁面の上部中央に配置された2次ミスト発生装置M2の位置まで長い距離を配管されている。ここで、1次ミスト供給配管ML1の材質及び管径については、単位時間当りに必要な量の過酸化水素ミストを長い距離搬送することのできるものであることが好ましく、一般に、内径1~10mmのステンレス管であることが好ましい。
【0044】
図1から分かるように、1次ミスト供給配管ML1の搬送距離は、空気供給配管AL1の搬送距離又は除染液供給配管LL1の搬送距離よりも長い距離となる。この1次ミスト供給配管ML1による1次ミストの搬送距離は、特に限定するものではないが、通常、3~100m程度は搬送することができる。一方、空気供給配管AL1の搬送距離又は除染液供給配管LL1の搬送距離は短くすることができる。
【0045】
本第1実施形態において、1次ミストは、圧縮空気と過酸化水素水との混合気液であり密度の高い状態にあり搬送速度も速いので、1次ミスト供給配管ML1には小口径の配管を用いることができる。従って、除染対象室R1に長い距離の1次ミスト供給配管ML1を配置することができる。このことにより、大口径のダクトなどの大掛かりな設備を必要としない。
【0046】
また、1次ミスト中の過酸化水素水は液体の状態にあるので、凝縮を防止するために1次ミスト供給配管ML1を保温する必要がない。従って、除染対象室R1に長い距離の配管を配置する場合であっても、凝縮防止のヒーターなどの大掛かりな設備を必要としない。
【0047】
このように、除染液供給配管LL1の搬送距離を短くすることで、エジェクタE1への過酸化水素水の供給量を正確に把握することができる。このことにより、2次ミスト発生装置M2に供給された過酸化水素水の量を正確に把握することができ、除染対象室R1に放出された過酸化水素ミストの量が明確になる。一方、1次ミスト中の過酸化水素水は液体の状態にあり凝縮することがないので、1次ミスト供給配管ML1の搬送距離を長くして過酸化水素水を遠くまで正確に搬送することができる。更に、圧縮空気により1次ミスト供給配管ML1中の過酸化水素水を完全に搬送することができるので配管中にデッド液が残留することがない。
【0048】
2次ミスト発生装置M2は、除染対象室R1の奥壁面の上部中央(外壁側)に配置され、除染対象室R1の内壁側に開口するミスト放出口X1を介して除染対象室R1の内部に2次ミストを放出する。また、2次ミスト発生装置M2は、ミスト受容器と超音波霧化装置とから構成され、エジェクタE1から搬送されてくる過酸化水素水を含む1次ミストを受容して2次ミストに変換する。ミスト受容器と超音波霧化装置の構造と機能については後述する。
【0049】
ミスト分散・拡散装置D1は、除染対象室R1の奥壁面の上部中央に開口するミスト放出口X1の直下に左右対称に奥壁面に沿って横方向に長く配置され、2次ミスト発生装置M2から除染対象室R1の内部に放出された過酸化水素ミスト(2次ミスト)を除染対象室R1の内部に均一に分散・拡散させる。このミスト分散・拡散装置D1の構造と機能については後述する。
【0050】
このように、2次ミスト発生装置M2及びミスト分散・拡散装置D1は、除染対象室R1の上部に配置することが好ましい。過酸化水素ミストは、微細なミストといえども液滴であるため自重による落下を利用して下方への均一な分散・拡散を図ることができる。
【0051】
なお、ミスト分散・拡散装置D1の位置は、ミスト放出口X1の直下に限定するものではなくミスト放出口X1の下部近傍であればよい。ミスト放出口X1からの距離は特に限定するものではなく、例えば、0~800mm、好ましくは、0~300mmであってもよい。ミスト分散・拡散装置D1がミスト放出口X1の下部近傍(直下を含む)にあることにより、除染対象室R1の内部に放出されて重力により下方に落下する傾向のある過酸化水素ミストがより効率よく分散・拡散することができる。
【0052】
なお、本第1実施形態においては、2次ミスト発生装置M2とミスト分散・拡散装置D1が除染対象室R1の奥壁面の上部中央に配置されている。なお、2次ミスト発生装置M2及びミスト分散・拡散装置D1の位置は、これに限るものではなく、他の壁面に配置してもよい。この場合においても、除染対象室R1の内部への過酸化水素ミストの均一な分散・拡散を考慮した位置に配置することが好ましい。なお、他の配置については後述の第3実施形態で説明する。
【0053】
また、除染対象室の容積が大きい場合には、複数の過酸化水素ミスト発生装置及びこれに付随した複数のミスト分散・拡散装置を配置する。このことにより、除染対象室の内部への過酸化水素ミストの均一な分散・拡散を図ることができ、除染効率が高くなるからである。
【0054】
次に、2次ミスト発生装置M2について説明する。図2は、本第1実施形態で使用する2次ミスト発生装置の外観斜視図である。図2において、2次ミスト発生装置M2は、ミスト受容器MR1と超音波霧化装置A1とから構成されて2次ミストを発生させる。ミスト受容器MR1は、エジェクタE1から搬送されてくる過酸化水素水を含む1次ミストを受容して気液分離する。また、このミスト受容器MR1は、気液分離した過酸化水素水を超音波霧化装置A1に供給すると共に、気液分離した空気を外部に放出する。ミスト受容器MR1の正面にはミスト放出口X1が設けられている。
【0055】
超音波霧化装置A1は、ミスト受容器MR1から気液分離した過酸化水素水を受取り、微細な過酸化水素ミスト(2次ミスト)を発生して除染対象室R1の内部に放出する。なお、本第1実施形態においては、超音波霧化装置A1の振動盤(後述する)がミスト放出口X1を兼ねている。
【0056】
ここで、本第1実施形態で使用する2次ミスト発生装置M2の1例を説明する。図3は、2次ミスト発生装置の構造を示している。(A)は除染対象室側から見た正面図、(B)は右側面から見た断面図である。
【0057】
ミスト受容器MR1は、正面内部が半紡錘形の断面をした内部空間S1を構成し、半紡錘形の幅が集束する正面下端部に対応して外壁面に開口する開口部S1-2には、超音波霧化装置A1が取り付けられている。この内部空間S1の下端部は、気液分離した少量の除染液の液溜りMR1-2の機能を有するために幅が集束している。また、ミスト受容器MR1の背面下端部(超音波霧化装置A1に対向する位置)には、1次ミスト供給配管ML1の末端がミスト受容器MR1の内部に向けて連通している。ミスト受容器MR1の背面内部の上端部には、空気抜きMR1-3が開口している。なお、この空気抜きMR1-3の経路には、過酸化水素を分解するためのフィルタMH1を設けるようにしてもよい。また、ミスト受容器MR1の内部中央の1次ミスト供給配管ML1の末端と空気抜きMR1-3との間に邪魔板MR1-4が設けられている。
【0058】
超音波霧化装置A1は、気液分離した除染液(過酸化水素水)を霧化する複数の微細孔(図示せず)が表裏を貫通して設けられた略円板状の多孔振動板A1-2と、この多孔振動板A1-2を膜振動させる略円環板状に形成された圧電振動子A1-3と、この圧電振動子A1-3の振動を制御する制御装置(図示せず)とから構成されている。多孔振動板A1-2は、圧電振動子A1-3の内孔部を覆うように圧電振動子A1-3に貼り合わされている。
【0059】
また、多孔振動板A1は、その表面を除染対象室の内部に向け、裏面をミスト受容器MR1の内部に向けて取り付けられており、多孔振動板A1-2の複数の微細孔が除染対象室の内部とミスト受容器MR1の内部とを貫通している。本第1実施形態においては、多孔振動板A1-2の表面がミスト放出口X1を兼ねている。なお、図3においては、多孔振動板A1-2の表面から水平方向に向けて過酸化水素ミストを放出するように配設されているが、これに限るものではなく、下方に向けて或いは配設位置によっては上方に向けて放出するようにしてもよい。
【0060】
この状態において、1次ミストが1次ミスト供給配管ML1を介してミスト受容器MR1の内部に放出される。ミスト受容器MR1の内部では多孔振動板A1-2の裏面と1次ミスト供給配管ML1の末端とが対向している。このことにより、放出された1次ミストは、直接、多孔振動板A1-2の裏面に吐出されて気液分離される。この気液分離された除染液は、超音波振動する多孔振動板A1-2の複数の微細孔を介して微細な2次ミスト(過酸化水素ミスト)となって、除染対象室の内部に放出され除染効果を発揮する。なお、多孔振動板A1-2の裏面で気液分離した除染液の一部が液溜りMR1-2に留保されることがあっても、これらは極少量であり多孔振動板A1-2の複数の微細孔を介して微細な2次ミストとなって、除染対象室の内部に放出される。一方、気液分離された空気は、空気抜きMR1-3から外部に放出される。
【0061】
このように、超音波霧化装置A1に供給する除染液の量を必要最小限に精度よく制御できるので、複数の除染対象室に対して各室ごとに長い距離の配管を設置した場合でも、除染液の残留を回避して効率的な除染を行うことができる。更に、このように各室ごとに正確な量の過酸化水素ミストを供給できるので、除染液が欠乏して超音波霧化装置A1の心臓部である超音波振動子に故障が発生することがない。また、必要最小限の除染液の量で十分な除染効果を得ることができ、除染液の効率的利用を図ることができる。
【0062】
ここで、多孔振動板A1-2の微細孔の孔径及び穴数は、特に限定するものではなく、超音波霧化効果と過酸化水素ミストの十分な供給量を確保できるものであればよい。なお、通常は4~11μm程度の孔径を有するものであるが、細菌の芽胞のサイズより小さいもの(例えば、0.5~3μm程度)の孔径を選択すれば、フィルタ効果を発揮して細菌によって除染液が汚染することがない。
【0063】
次に、このようにして放出された過酸化水素ミストを除染対象室の内部に分散・拡散するミスト分散・拡散装置D1について説明する。図4は、本第1実施形態で使用するミスト分散・拡散装置の外観斜視図である。図4において、ミスト分散・拡散装置D1は、超音波振動盤D1aを有している。超音波振動盤D1aは、超音波霧化装置A1から放出される過酸化水素ミストに対して、放出方向の下部後方から超音波振動による音響放射圧を作用させるように配置されている(図1参照)。
【0064】
ここで、超音波振動盤D1aの構造と作用について説明する。図4において、超音波振動盤D1aは、基盤と複数の送波器とを具備している。本第1実施形態においては、基盤U1を使用し、送波器として超音波発信器U1aを使用した。本第1実施形態においては、基盤U1の盤上に105個の超音波発信器U1aをそれらの振動面の送波方向(図示正面やや左方向)を統一して配置されている。なお、超音波発信器の個数は、特に限定するものではない。
【0065】
本第1実施形態においては、超指向性の超音波発信器U1aを使用した。具体的には、周波数40KHz付近の超音波を送波する周波数変調方式の超音波発信器(DC12V、50mA)を使用した。なお、超音波発信器の種類、大きさと構造、出力等に関しては、特に限定するものではない。また、本発明においては、超音波振動盤に関しては超音波発信器に限るものではなく、超音波の発生機構、周波数域及び出力等について特に限定するものではない。
【0066】
本第1実施形態において、複数(105個)の超音波発信器U1aの振動面の送波方向を統一すると共にこれらの送波器を同位相で作動させることにより、各超音波発信器U1aの正面方向の超音波が互いに強め合うと共に、各超音波発信器U1aの横方向の超音波が互いに打ち消し合うようになる。その結果、基盤U1に配置された超音波発信器U1aが超音波振動すると、各振動面から垂直方向に空気中を進行する指向性の強い音響流が発生する。なお、本第1実施形態においては、制御装置(図示せず)により超音波発信器U1aの周波数、出力、発信時間を制御すると共に、超音波の発信を間欠作動又は強弱作動させることにより、過酸化水素ミストに作用する音響放射圧による押圧を変化させることが重要である(詳細は後述する)。
【0067】
次に、本第1実施形態に係る除染システム100を使用して除染対象室R1を除染する除染方法について説明する。ここでは、図2図3で説明した2次ミスト発生装置M2及び図4で説明したミスト分散・拡散装置D1を除染対象室R1の奥壁面の上部中央に配置している(図1参照)。
【0068】
本第1実施形態においては、まず、除染対象室R1に単位時間当りに放出すべき過酸化水素ミストの量を算出する。この除染用ミスト放出量から、除染対象室R1に対応するエジェクタE1に対して、除染液供給配管LL1を介して過酸化水素水タンク20から供給する過酸化水素水の量を算出する。なお、除染前の除染対象室R1は温度調節機及び湿度調節機を用いて所定の条件に設定しておくことが好ましい。
【0069】
次に、除染操作を開始する。まず、空気供給配管AL1の開閉弁(図示せず)を開放し、空気圧縮機10から空気供給配管AL1を介してエジェクタE1の駆動流路に圧縮空気を供給する。ここで、エジェクタE1に供給される圧縮空気は、特に限定するものではないが、それぞれ、吐出圧力が0.05MPa以上であって、空気流量が0.5~20NL/minであることが好ましい。この空気流量は、除染対象室R1に供給する過酸化水素水の濃度と量、及び、除染対象室R1への距離に応じて適宜設定するようにすればよい。
【0070】
次に、除染液供給配管LL1のチューブポンプP1を作動し、過酸化水素水タンク20から除染液供給配管LL1を介してエジェクタE1の吸引流路に過酸化水素水を供給する。なお、この過酸化水素水の供給量は、エジェクタE1に対して上述のようにして計算した量に対応する。ここで、エジェクタE1に供給される過酸化水素水の濃度は、特に限定するものではないが、一般に流通している30~35重量%のものをそのまま使用してもよく、又は、これらを濃縮或いは希釈して使用するようにしてもよい。また、エジェクタE1に供給される過酸化水素水は、それぞれ、流量が0.5~10g/minに調整するようにしてもよい。
【0071】
なお、過酸化水素水の量が上記範囲であることにより、且つ、圧縮空気の量が上記範囲であることにより、1次ミスト供給配管ML1を介して過酸化水素水を混合した1次ミストを長い距離でも搬送することができる。
【0072】
上述の操作により、エジェクタE1において過酸化水素水と圧縮空気が1次ミスト化し、エジェクタE1の吐出流路から1次ミスト供給配管ML1を介して2次ミスト発生装置M2を構成するミスト受容器MR1に供給される。
【0073】
ミスト受容器MR1においては、1次ミストが気液分離して過酸化水素水と空気が分離される。ミスト受容器MR1で気液分離した過酸化水素水は、ミスト受容器MR1から除染対象室R1の内部の超音波霧化装置A1に供給される。なお、上述のように、超音波霧化装置A1の多孔振動板A1-2は、ミスト放出口X1を兼ねている。この段階において、超音波霧化装置A1の圧電振動子A1-3が作動を開始する。このことにより、超音波霧化装置A1で発生した微細な過酸化水素ミストが除染対象室R1の内部に放出される。このとき、過酸化水素ミストは、除染対象室R1の奥壁面の上部中央に開口するミスト放出口X1から奥壁面に垂直に水平方向に放出される。
【0074】
ここで、ミスト分散・拡散装置D1が有する制御装置(図示せず)により、超音波振動盤D1aの作動が所定のプログラムに応じて変化する。すなわち、過酸化水素ミストに対して下部後方から作用する音響放射圧の出力をON⇔OFFと変化させて間欠作動させ、又は、強⇔弱と変化させて強弱作動させる。同時に、発信時間・停止時間の調整も行う。このことにより、除染対象室R1の奥壁面の上部中央から奥壁面に垂直に水平方向に放出された過酸化水素ミストに音響放射圧による押圧が変化しながら作用する。このことにより、過酸化水素ミストの分散方向と拡散方向が所定のプログラムに応じて変化する。
【0075】
図5は、本第1実施形態の除染システムにおける過酸化水素ミストの分散・拡散の状態を示すイメージ図である。図5において、まず、2次ミスト発生装置M2の超音波霧化装置A1から放出された過酸化水素ミスト(H-Mist)は、ミスト分散・拡散装置D1の超音波振動盤D1aの変化する作動によって除染対象室R1の水平方向に均一に分散・拡散する。また、この際に過酸化水素水ミストは、音響放射圧の作用により更に微細化が進み、除染対象室R1の内部に分散・拡散する。
【0076】
次に、超音波振動盤D1aの変化する作動によって除染対象室R1の水平方向に均一に分散・拡散している過酸化水素ミストは、非常に微細な液滴からなるミストであって、自重により緩やかに落下する。よって、過酸化水素ミストは、除染対象室R1の垂直方向にも均一に分散・拡散する。
【0077】
なお、本第1実施形態においては、超音波振動による音響放射圧の作用により、過酸化水素水ミストの微細化が更に進み、ミスト・フォグ・液滴などの3μm~10μm或いはそれ以上の液滴であっても、3μm以下の超微細粒子に均一化されて高度な除染効果を発揮するものと考えられる。また、過酸化水素ミストは、超音波振動の作用で微細化され粒径が小さく表面積が大きくなることから、ミストの蒸発効率が高く蒸発と凝縮とを繰り返しているものと考えられる。また、高度に微細化されたミストであり、除染対象室R1の内壁面に均一且つ薄層の凝縮膜を形成する。これらのことにより、除染対象室R1の内部には過酸化水素の3μm以下の超微細粒子と過酸化水素ガスとが相変化しながら共存して高度な除染環境を発現するものと考えられる。
【0078】
このようにして、所定の時間、過酸化水素ミストを放出しながら音響放射圧を作用させる。所定の時間を経過した段階で、除染液供給配管LL1のチューブポンプP1を停止し、過酸化水素水の供給を止める。この段階では、空気供給配管AL1を介してエジェクタE1に圧縮空気が供給された状態にあり、1次ミスト供給配管ML1中の残余の過酸化水素水が全てミスト受容器MR1に送られる。このことにより、除染対象室R1に対して、それぞれ、所定量の過酸化水素ミストが正確に放出される。超音波霧化装置A1に供給された過酸化水素水が全てミスト化した段階において、超音波霧化装置A1及びミスト分散・拡散装置D1は作動を停止する。
【0079】
次に、空気供給配管AL1の開閉弁を閉鎖し、圧縮空気の供給を止める。その後、室内の過酸化水素ミストを排出し室内をエアレーションして除染操作を終了する。なお、上記各操作は、マイクロコンピュータによる自動制御により行うことが好ましい。
【0080】
このように、除染対象室R1の内壁面に均一且つ薄層で形成された凝縮膜が再蒸発と凝縮とを繰り返すことにより、除染ミスト中の除染剤濃度を上げることが可能で、少量の除染剤で効率の良い除染を可能にする。また、少量の除染剤で効率よく除染できるのと共に結露を防止することができるので、除染後のエアレーションの効率も向上し除染操作の短時間化も可能である。
【0081】
ここで、本第1実施形態において、超微細な過酸化水素ミストが水平方向及び垂直方向に均一に分散・拡散する状態を確認した。具体的には、本第1実施形態の除染対象室R1であるアイソレーター(容積:W3×1D×1.3H=4m)に対して、図1に示す位置に1台の2次ミスト発生装置M2、及び、1台のミスト分散・拡散装置D1を配置した。この時の除染基準を15g/mとして計画し、1組の過酸化水素ミスト発生装置(本第1実施形態においては、1次ミスト発生装置M1及び2次ミスト発生装置M2の組合せ)から除染対象室R1の内部に放出する過酸化水素水(35重量%)の量を2g/minとして30分間投入した。
【0082】
また、アイソレーターの底壁面の要所位置に複数の凝縮センサーSDM(本発明者が開発したものであって、詳細は日本特許第3809176号参照)を設置して、凝縮膜の厚みを測定してSDV値(除染に最適な凝縮膜の形成を確認する値)を確認した。その結果、過酸化水素ミストが2次ミスト発生装置M2とミスト分散・拡散装置D1の作用による水平方向及び垂直方向への分散・拡散が十分に達成できていることを確認した。一方、比較例として、ミスト分散・拡散装置D1の作動を停止して2次ミスト発生装置M2からの過酸化水素ミストの放出のみを行った結果、水平方向への分散・拡散が不十分であり、充分な除染ができない個所が複数認められた。また、2次ミスト発生装置M2からの放出方向にある底壁面に部分的な凝縮を認めた。
【0083】
《第2実施形態》
本第2実施形態においては、上記第1実施形態と同様に1室の除染対象室に対して本発明に係る除染システムを配置した場合について説明する。なお、本第2実施形態においては、過酸化水素ミスト発生手段として単一のミスト発生手段のみを使用し、微細なミストを除染用ミストとして除染対象室の内部に放出する場合について説明する。
【0084】
本第2実施形態においては、上記第1実施形態で使用した2次ミスト発生装置M2(超音波霧化装置A1を含む)を使用せずに、過酸化水素水を直接ミスト化して除染対象室の内部に放出する。従って、発生するミストの粒径は小さくすることが好ましい。なお、ミスト発生装置としては、液状の過酸化水素水を微細なミストにできるものであれば、その構造はどのようなものでもよい。
【0085】
例えば、液体を直接ミスト化する一流体スプレーノズル、ピエゾ高圧噴射装置、浸漬型超音波霧化装置、円盤型霧化装置、円盤メッシュ型霧化装置などであってもよい。また、高圧空気などで液体をミスト化するエジェクタや二流体スプレーノズルなどであってもよい。なお、本第2実施形態においては、高圧空気で除染剤をミスト化するエジェクタを使用して説明する。
【0086】
図6は、本発明に係る除染システムの第2実施形態を示す概略構成図である。図2においては、上記第1実施形態と同様に1台のアイソレーター(容積:4m)を除染対象室として、過酸化水素ミスト発生装置(本実施形態においては、単一のミスト発生装置のみを使用)により除染用ミストを放出する。また、アイソレーターの内部の装置、例えば、循環ファン、HEPAフィルタ、整流板などを省略し、除染対象空間のみを記載している。
【0087】
図6において、除染対象室R2に配置した除染システム200は、ミスト発生装置M3、ミスト放出口X2、及び、ミスト分散・拡散装置D2を備えている。
【0088】
ミスト発生装置M3は、空気圧縮機10、過酸化水素水タンク20、及び、ミストを発生するエジェクタE2を有している。
【0089】
空気圧縮機10及び過酸化水素水タンク20の構成と構造は、上記第1実施形態と同様であり、ここでは説明を省略する。エジェクタE2は、上記第1実施形態とは異なり、除染対象室R2の奥壁面の上部中央(外壁側)に配置され、除染対象室R2の内壁側に開口するミスト放出口X2を介して除染対象室R2の内部にミストを放出する。
【0090】
また、図6において、除染システム200は、空気圧縮機10とエジェクタE2とを連通する空気供給配管AL2と、過酸化水素水タンク20とエジェクタE2とを連通する除染液供給配管LL2とを備えている。なお、空気供給配管AL2及び除染液供給配管LL2の構成と構造は、上記第1実施形態と同様であり、ここでは説明を省略する。
【0091】
ミスト分散・拡散装置D2は、除染対象室R2の奥壁面の上部中央に開口するミスト放出口X2の直下に左右対称に奥壁面に沿って横方向に長く配置され、ミスト発生装置M3から除染対象室R2の内部に放出された過酸化水素ミストを除染対象室R2の内部に均一に分散・拡散させる。このミスト分散・拡散装置D1の構造と機能については、上記第1実施形態と同様であり、ここでは説明を省略する。
【0092】
このように、ミスト発生装置M3及びミスト分散・拡散装置D2は、除染対象室R2の上部に配置することが好ましい。過酸化水素ミストは、微細なミストといえども液滴であるため自重による落下を利用して下方への均一な分散・拡散を図ることができる。
【0093】
なお、ミスト分散・拡散装置D2の位置は、ミスト放出口X2の直下に限定するものではなくミスト放出口X2の下部近傍であればよい。ミスト放出口X2からの距離は特に限定するものではなく、例えば、0~800mm、好ましくは、0~300mmであってもよい。ミスト分散・拡散装置D2がミスト放出口X2の下部近傍(直下を含む)にあることにより、除染対象室R2の内部に放出されて重力により下方に落下する傾向のある過酸化水素ミストがより効率よく分散・拡散することができる。
【0094】
なお、本第2実施形態においては、ミスト発生装置M3とミスト分散・拡散装置D2が除染対象室R2の奥壁面の上部中央に配置されている。なお、ミスト発生装置M3及びミスト分散・拡散装置D2の位置は、これに限るものではなく、他の壁面に配置してもよい。この場合においても、除染対象室R2の内部への過酸化水素ミストの均一な分散・拡散を考慮した位置に配置することが好ましい。
【0095】
また、除染対象室の容積が大きい場合には、複数の過酸化水素ミスト発生装置及びこれに付随した複数のミスト分散・拡散装置を配置する。このことにより、除染対象室の内部への過酸化水素ミストの均一な分散・拡散を図ることができ、除染効率が高くなるからである。
【0096】
本第2実施形態においても、上記第1実施形態と同様にミスト分散・拡散装置D2の超音波振動盤は、エジェクタE2から放出される過酸化水素ミストに対して、放出方向の下部後方から超音波振動による音響放射圧を作用させるように配置されている(図6参照)。従って、本第2実施形態における過酸化水素ミストの制御方法は、上記第1実施形態と同様であり、ここでは説明を省略する。また、本第2実施形態における過酸化水素ミストの分散・拡散の状態を示すイメージ図も上記第1実施形態と同様である(図5参照)。
【0097】
《第3実施形態》
本第3実施形態においては、容積の大きな1室の除染対象室に対して本発明に係る除染システムを配置した場合について説明する。また、本第3実施形態においては、過酸化水素ミスト発生手段として1台の1次ミスト発生手段及び2台の2次ミスト発生手段を併用し、微細で霧化した2次ミストを除染用ミストとして除染対象室の内部に2か所から放出する場合について説明する。
【0098】
図7は、本発明に係る除染システムの第3実施形態を示す概略構成図の(A)平面図である。また、図8は、概略構成図の(B)正面図であって一部破断線により室内の状態を示している。同様に、図9は、概略構成図の(C)側面図であって一部破断線により室内の状態を示している。図7~9においては、1台のアイソレーター(容積:8m)を除染対象室として、過酸化水素ミスト発生装置(本第3実施形態においては、1台の1次ミスト発生装置及び2台の2次ミスト発生装置の組合せ)により除染用ミストを放出する。また、アイソレーターの内部の装置、例えば、循環ファン、HEPAフィルタ、整流板などを省略し、除染対象空間のみを記載している。
【0099】
図7~9において、除染対象室R3に配置した除染システム300は、1台の1次ミスト発生装置M4、2台の2次ミスト発生装置M5、M6、2つのミスト放出口X3、X4、及び、2台のミスト分散・拡散装置D3、D4を備えている。
【0100】
1次ミスト発生装置M4は、空気圧縮機10、過酸化水素水タンク20、及び、1次ミストを発生する2台のエジェクタE3、E4を有している。
【0101】
空気圧縮機10、過酸化水素水タンク20及び2台のエジェクタE3、E4の構成と構造は、上記第1実施形態と同様であり、ここでは説明を省略する。なお、2台のエジェクタE3、E4は、それぞれ2台の2次ミスト発生装置M5、M6に対して1次ミストを供給する。また、2台のエジェクタE3、E4は、除染対象室R3から離れた位置で空気圧縮機10及び過酸化水素水タンク20の近傍に配置されている。
【0102】
また、図7~9において、除染システム300は、空気圧縮機10と2台のエジェクタE3、E4とをそれぞれ連通する2本の空気供給配管AL3、AL4、過酸化水素水タンク20と2台のエジェクタE3、E4とをそれぞれ連通する2本の除染液供給配管LL3、LL4、及び、2台のエジェクタE3、E4と2次ミスト発生装置M5、M6とをそれぞれ連通する2本の1次ミスト供給配管ML2、ML3とを備えている。なお、2本の空気供給配管AL3、AL4、2本の除染液供給配管LL3、LL4、及び、2本の1次ミスト供給配管ML2、ML3の構成と構造は、上記第1実施形態と同様であり、ここでは説明を省略する。
【0103】
図7~9から分かるように、2本の1次ミスト供給配管ML2、ML3の搬送距離は、2本の空気供給配管AL3、AL4の搬送距離又は2本の除染液供給配管LL3、LL4の搬送距離よりも長い距離となる。これら2本の1次ミスト供給配管ML2、ML3による1次ミストの搬送距離は、特に限定するものではないが、通常、3~100m程度は搬送することができる。一方、2本の空気供給配管AL3、AL4の搬送距離又は2本の除染液供給配管LL3、LL4の搬送距離は短くすることができる。
【0104】
本第3実施形態において、1次ミストは、圧縮空気と過酸化水素水との混合気液であり密度の高い状態にあり搬送速度も速いので、2本の1次ミスト供給配管ML2、ML3には小口径の配管を用いることができる。従って、除染対象室R3に長い距離の1次ミスト供給配管ML2、ML3を配置することができる。このことにより、大口径のダクトなどの大掛かりな設備を必要としない。
【0105】
また、1次ミスト中の過酸化水素水は液体の状態にあるので、凝縮を防止するために2本の1次ミスト供給配管ML2、ML3をそれぞれ保温する必要がない。従って、除染対象室R3に長い距離の配管を配置する場合であっても、凝縮防止のヒーターなどの大掛かりな設備を必要としない。
【0106】
このように、2本の除染液供給配管LL3、LL4の搬送距離を短くすることで、2台のエジェクタE3、E4への過酸化水素水の供給量を正確に把握することができる。このことにより、2台の2次ミスト発生装置M5、M6にそれぞれ供給された過酸化水素水の量を正確に把握することができ、除染対象室R3に放出された過酸化水素ミストの量が明確になる。一方、1次ミスト中の過酸化水素水は液体の状態にあり凝縮することがないので、2本の1次ミスト供給配管ML2、ML3の搬送距離を長くして過酸化水素水を遠くまで正確に搬送することができる。更に、圧縮空気により2本の1次ミスト供給配管ML2、ML3中の過酸化水素水をそれぞれ完全に搬送することができるので配管中にデッド液が残留することがない。
【0107】
なお、本第3実施形態においては、2台のミスト分散・拡散装置D3、D4は、それぞれ除染対象室R3の側壁面の上部角部の対角位置に開口するミスト放出口X3、X4のミスト放出方向の側壁面下部近傍壁面に横方向に長く配置され、1次ミスト発生装置M4から除染対象室R3の内部に放出された過酸化水素ミスト(2次ミスト)を除染対象室R3の内部に均一に分散・拡散させる。これらの2台のミスト分散・拡散装置D3、D4の構造と機能については、上記第1実施形態と同様であり、ここでは説明を省略する。
【0108】
なお、本第3実施形態においても、2台のミスト分散・拡散装置D3、D4が有する制御装置(図示せず)により、各超音波振動盤の作動が所定のプログラムに応じて変化する。すなわち、過酸化水素ミストに対して下部側面から作用する音響放射圧の出力をON⇔OFFと変化させて間欠作動させ、又は、強⇔弱と変化させて強弱作動させる。同時に、発信時間・停止時間の調整も行う。このことにより、除染対象室R1の側壁面の上方角部から側壁面に沿って水平方向に放出された過酸化水素ミストに音響放射圧による押圧が変化しながら作用する。このことにより、過酸化水素ミストの分散方向と拡散方向が所定のプログラムに応じて変化する。
【0109】
このように、2台の2次ミスト発生装置M5、M6及び2台のミスト分散・拡散装置D3、D4は、除染対象室R3の上部の対角位置に配置することが好ましい。過酸化水素ミストは、微細なミストといえども液滴であるため自重による落下を利用して下方への均一な分散・拡散を図ることができる。
【0110】
なお、2台のミスト分散・拡散装置D3、D4の位置は、それぞれ対応するミスト放出口X3、X4のミスト放出方向の側壁面下部近傍であれば、特に限定するものではない。なお、ミスト放出口X3、X4からの横方向の距離(放出方向への距離)は、大きく離れない方が好ましい。一方、ミスト放出口X3、X4からの下方距離は、例えば、0~800mm、好ましくは、0~300mmであってもよい。2台のミスト分散・拡散装置D3、D4がミスト放出口X3、X4のミスト放出方向の下部近傍(直下を含む)にあることにより、除染対象室R3の内部に放出されて重力により下方に落下する傾向のある過酸化水素ミストがより効率よく分散・拡散することができる。
【0111】
《第4実施形態》
本第4実施形態においては、上記第1実施形態と同様に1室の除染対象室に対して本発明に係る除染システムを配置した場合について説明する。また、本第4実施形態においては、上記第1実施形態と同様に過酸化水素ミスト発生手段として1次ミスト発生手段及び2次ミスト発生手段を併用し、微細で霧化した2次ミストを除染用ミストとして除染対象室の内部に放出する。なお、本第4実施形態においては、過酸化水素ミスト発生装置とミスト分散・拡散装置の配置が上記第1実施形態と異なっている。
【0112】
図10は、本発明に係る除染システムの第4実施形態を示す概略構成図である。図10においては、上記第1実施形態と同様に1台のアイソレーター(容積:4m)を除染対象室として、1組の過酸化水素ミスト発生装置(本第4実施形態においては、1次ミスト発生装置及び2次ミスト発生装置の組合せ)により除染用ミストを放出する。また、アイソレーターの内部の装置、例えば、循環ファン、HEPAフィルタ、整流板などを省略し、除染対象空間のみを記載している。
【0113】
図10において、除染対象室R4に配置した除染システム400は、1次ミスト発生装置M7、2次ミスト発生装置M8、及び、ミスト分散・拡散装置D5を備えている。1次ミスト発生装置M7は、空気圧縮機10、過酸化水素水タンク20、及び、1次ミストを発生するエジェクタE5を有している。なお、図10において、除染対象室R4は、1台の1次ミスト発生装置M7、1台の2次ミスト発生装置M8、及び、2台1対のミスト分散・拡散装置D5a、D5bを有している。
【0114】
空気圧縮機10、過酸化水素水タンク20及びエジェクタE5の構成と構造は、上記第1実施形態と同様であり、ここでは説明を省略する。また、図10において、除染システム400は、空気圧縮機10とエジェクタE5とを連通する空気供給配管AL5と、過酸化水素水タンク20とエジェクタE5とを連通する除染液供給配管LL5とを備えている。なお、空気供給配管AL5及び除染液供給配管LL5の構成と構造は、上記第1実施形態と同様であり、ここでは説明を省略する。
【0115】
2次ミスト発生装置M8は、ミスト受容器と超音波霧化装置とから構成され、エジェクタE5から搬送されてくる過酸化水素水を含む1次ミストを受容して2次ミストに変換し、除染対象室R4の内部に放出する。ミスト受容器と超音波霧化装置の構造と機能については後述する。また、ミスト分散・拡散装置D5(図10においては「D5a及びD5b」をいう)は、2次ミスト発生装置M8の左右に対称に配置され、2次ミスト発生装置M8から除染対象室R4の内部に放出された過酸化水素ミスト(2次ミスト)を除染対象室R4の内部に均一に分散・拡散させる。このミスト分散・拡散装置D5の構造と機能については後述する。
【0116】
本第4実施形態の図10においては、2次ミスト発生装置M8及びミスト分散・拡散装置D5は、除染対象室R4の1壁面の上部中央に配置されている。なお、2次ミスト発生装置M8及びミスト分散・拡散装置D5の位置は、これに限るものではなく、他の壁面に配置してもよい。この場合においても、除染対象室R4の内部への過酸化水素ミストの均一な分散・拡散を考慮した位置に配置することが好ましい。
【0117】
1次ミスト供給配管ML4は、エジェクタE5の吐出流路と超音波霧化装置A2を構成するミスト受容器MR2とを連通する。1次ミスト供給配管ML4は、空気圧縮機10及び過酸化水素水タンク20の近傍から除染対象室R4の1壁面の上部中央に配置された2次ミスト発生装置M8の位置まで長い距離を配管されている。ここで、1次ミスト供給配管ML4の材質と管径、及び、搬送距離等については、上記第1実施形態と同様である。
【0118】
次に、2次ミスト発生装置M8及びミスト分散・拡散装置D5について説明する。図11は、本第4実施形態において2次ミスト発生装置とミスト分散・拡散装置との組み合わせの第1の例を示す斜視図である。まず、2次ミスト発生装置M8について説明する。なお、ミスト分散・拡散装置D5については後述する。
【0119】
図11において、2次ミスト発生装置M8は、ミスト受容器MR2と2台の超音波霧化装置A2(1)、A2(2)とから構成されて、2次ミスト発生手段として作用する。ミスト受容器MR2は、エジェクタE5から搬送されてくる過酸化水素水を含む1次ミストを受容して気液分離する1次ミスト受容器として作用する。また、このミスト受容器MR2は、気液分離した過酸化水素水を超音波霧化装置A2(1)、A2(2)に供給すると共に、気液分離した空気を外部に放出する。
【0120】
超音波霧化装置A2(1)、A2(2)は、2次ミスト発生装置M8の相対する2面(図10においては左右両側面)に、それぞれ1台ずつ設けられている。これらの超音波霧化装置A2(1)、A2(2)は、ミスト受容器MR2から気液分離した過酸化水素水を受取り、微細な過酸化水素ミスト(2次ミスト)を発生して除染対象室R4の内部に放出する。なお、超音波霧化装置A2(1)、A2(2)は、配置された面から垂直方向(図10の奥壁面に沿って水平に左右両方向)に過酸化水素ミストを放出する。
【0121】
ここで、本第4実施形態で使用する2次ミスト発生装置M8の1例を説明する。図12は、本第4実施形態で使用する2次ミスト発生装置を除染対象室内の側面から見た右側面図である。図13は、本第4実施形態で使用する2次ミスト発生装置を除染対象室内の正面から見た断面図である。
【0122】
図12及び図13において、ミスト受容器MR2は、側面内部が半紡錘形の断面をした2つの内部空間S2(1)、S2(2)を構成し、半紡錘形の幅が集束する側面下端部に対応して外壁面に開口する開口部S2-2(1)、S2-2(2)には、超音波霧化装置A2(1)、A2(2)が取り付けられている。この内部空間の下端部は、気液分離した少量の除染液の液溜りMR2-2(1)、MR2-2(2)の機能を有するために幅が集束している。また、ミスト受容器MR2の背面中央部(超音波霧化装置A2に対向する位置)には、1次ミスト供給配管ML4の末端がミスト受容器MR2の内部に向けて連通し、内部で左右2方向に分かれてML4(1)、ML4(2)となり、それぞれ超音波霧化装置A2(1)、A2(2)の背面(除染対象室の外部)に向かって開口している。
【0123】
ミスト受容器MR2の2つの内部空間S2(1)、S2(2)の背面の上端部には、空気抜きMR2-3(1)、MR2-3(2)が開口している。なお、この空気抜きMR2-3(1)、MR2-3(2)の経路には、過酸化水素を分解するためのフィルタMH2を設けるようにしてもよい。また、ミスト受容器MR2の2つの内部空間S2(1)、S2(2)の1次ミスト供給配管ML4の末端ML4(1)、ML4(2)と空気抜きMR2-3(1)、MR2-3(2)との間には、それぞれ邪魔板MR2-4(1)、MR2-4(2)が設けられている。
【0124】
超音波霧化装置A2(1)、A2(2)は、気液分離した除染液(過酸化水素水)を霧化する複数の微細孔(図示はイメージ)が表裏を貫通して設けられた略円板状の多孔振動板A2-2(1)、A2-2(2)と、この多孔振動板A2-2(1)、A2-2(2)を膜振動させる略円環板状に形成された圧電振動子A2-3(1)、A2-3(2)と、この圧電振動子A2-3(1)、A2-3(2)の振動を制御する制御装置(図示せず)とから構成されている。多孔振動板A2-2(1)、A2-2(2)は、圧電振動子A2-3(1)、A2-3(2)の内孔部を覆うように圧電振動子A2-3(1)、A2-3(2)に貼り合わされている。
【0125】
また、多孔振動板A2-2(1)、A2-2(2)は、その表面を除染対象室の内部に向け、裏面をミスト受容器MR2の内部空間S2(1)、S2(2)の液溜りMR2-2(1)、MR2-2(2)に向けて取り付けられている。このことにより、多孔振動板A2-2(1)、A2-2(2)の複数の微細孔が除染対象室R4の内部とミスト受容器MR2の内部空間S2(1)、S2(2)とを貫通している。なお、図11においては、超音波霧化装置A2(1)、A2(2)の多孔振動板A2-2(1)、A2-2(2)の表面から水平方向、且つ、ミスト分散・拡散装置D5a、D5bの表面に沿って過酸化水素ミストを放出するように配置されている。
【0126】
この状態において、1次ミストが1次ミスト供給配管ML4の末端ML1(1)、ML1(2)を介してミスト受容器MR1の内部に放出される。ミスト受容器MR1の内部では多孔振動板A1-2(1)、A1-2(2)の裏面と1次ミスト供給配管ML4の末端ML4(1)、ML4(2)とが対向している。このことにより、放出された1次ミストは、直接、多孔振動板A2-2(1)、A2-2(2)の裏面に吐出されて気液分離される。
【0127】
この気液分離された除染液は、超音波振動する多孔振動板A2-2(1)、A2-2(2)の複数の微細孔を介して微細な過酸化水素ミスト(2次ミスト)となって、除染対象室R4の内部に放出される。なお、多孔振動板A2-2(1)、A2-2(2)の裏面で気液分離した除染液の一部が液溜りMR2-2(1)、MR2-2(2)に留保されることがあっても、これらは極少量であり多孔振動板A2-2(1)、A2-2(2)の複数の微細孔を介して微細な2次ミストとなって、除染対象室の内部に放出される。一方、気液分離された空気は、空気抜きMR2-3(1)、MR2-3(2)から外部に放出される。なお、多孔振動板A1-2(1)、A1-2(2)の微細孔の孔径及び穴数等については、上記第1実施形態と同様であり説明を省略する。
【0128】
次に、このようにして放出された過酸化水素ミストを除染対象室の内部に分散・拡散するミスト分散・拡散装置D5a、D5bについて説明する。図11において、2次ミスト発生装置M8を中央にして、その左右に2台1対のミスト分散・拡散装置D5a、D5bが配置されている。2台のミスト分散・拡散装置D5a、D5bは、それぞれ同様の超音波振動盤D5-2a、D5-2bを有している。
【0129】
一方の超音波振動盤D5-2aは、超音波霧化装置A2(1)から水平に図示右方向に放出される過酸化水素ミストに対して、放出方向の側面から超音波振動による音響放射圧を作用させるように配置されている。また、他方の超音波振動盤D5-2bは、超音波霧化装置A2(2)から水平に図示左方向に放出される過酸化水素ミストに対して、放出方向の側面から超音波振動による音響放射圧を作用させるように配置されている。なお、超音波振動盤D5-2a、D5-2bの構造と作用については、上記第1実施形態と同様であり説明を省略する。
【0130】
また、2次ミスト発生装置とミスト分散・拡散装置との組み合わせは、上記の例(図11)に限るものではなく、以下に他の例を説明する。図14は、2次ミスト発生装置とミスト分散・拡散装置との組み合わせの第2の例を示す斜視図である。図14においては、2次ミスト発生装置M9に対して、図示右側に1台のミスト分散・拡散装置D6が配置されている。2次ミスト発生装置M9は、ミスト受容器MR3と1台の超音波霧化装置A3とから構成されて、2次ミスト発生手段として作用する。なお、ミスト受容器MR3の構造と作用は、上述のミスト受容器MR2とほぼ同様である。また、超音波霧化装置A3の構造と作用は、上述の超音波霧化装置A2(1)と同様である。
【0131】
ミスト分散・拡散装置D6は、上述したミスト分散・拡散装置D5aと同様の超音波振動盤D6-2を有している。超音波振動盤D6-2は、超音波霧化装置A3から水平に図示右方向に放出される過酸化水素ミストに対して、放出方向の側面から超音波振動による音響放射圧を作用させるように配置されている。なお、超音波振動盤D6-2の構造と作用については、上記第1実施形態と同様であり説明を省略する。
【0132】
このように、図14においては、2次ミスト発生装置M9の一方の面にのみミスト分散・拡散装置D6が配置されている。従って、2次ミスト発生装置M9及びミスト分散・拡散装置D6は、除染対象室の壁面の上部中央に配置するのではなく、上部角部に配置することが好ましい。なお、この場合においても、制御装置(図示せず)により超音波振動盤D6-2の超音波発信器U6-2の周波数、出力、発信時間を制御すると共に、超音波の発信を間欠作動又は強弱作動させることにより、過酸化水素ミストに作用する音響放射圧による押圧を変化させる。
【0133】
また、図15は、2次ミスト発生装置とミスト分散・拡散装置との組み合わせの第3の例を示す斜視図である。図15において、2次ミスト発生装置M10に対して、ミスト分散・拡散装置D7(図15においては「D7a、D7b、D7c、D7d」をいう)は、2次ミスト発生装置M10の左右対称に各2台ずつ配置されている。
【0134】
なお、2次ミスト発生装置M10の図示右側には、ミスト分散・拡散装置D7a、D7cが図示上下に各面をやや対向させるように傾斜して配置されている。一方、2次ミスト発生装置M10の図示左側には、ミスト分散・拡散装置D7b、D7dが図示上下に各面をやや対向させるように傾斜して配置されている。
【0135】
2次ミスト発生装置M10は、ミスト受容器MR4と2台の超音波霧化装置A4(1)、A4(2)とから構成されて、2次ミスト発生手段として作用する。なお、ミスト受容器MR4及び超音波霧化装置A4(1)、A4(2)の構造と作用は、上述のミスト受容器MR2及び超音波霧化装置A2(1)、A2(2)と同様である。
【0136】
ミスト分散・拡散装置D7a~D7dは、上述したミスト分散・拡散装置D5a、D5bと同様の超音波振動盤D7-2a~D7-2dを有している。なお、超音波振動盤D7-2a~D7-2dの構造と作用については、上記第1実施形態と同様であり説明を省略する。
【0137】
これらの超音波振動盤D7-2a~D7-2dは、それぞれ超音波霧化装置A4(1)、A4(2)から水平に図示左右両方向(除染対象室の壁面に沿った方向)に放出される過酸化水素ミストに対して、超音波振動による音響放射圧を作用させるように配置されている。なお、超音波振動盤D7-2a、D7-2cは、超音波霧化装置A4(1)から図示右方向に放出される過酸化水素ミストの横方向の上下からやや角度をもって過酸化水素ミストを挟むように超音波振動による音響放射圧を作用させるように配置されている。このことにより、過酸化水素ミストは、上下方向から音響放射圧の作用を受けてより強力に指向性を高め、遠くまで早く届けられる。
【0138】
同様に、超音波振動盤D7-2b、D7-2dは、超音波霧化装置A4(2)から図示左方向に放出される過酸化水素ミストの横方向の上下からやや角度をもって過酸化水素ミストを挟むように超音波振動による音響放射圧を作用させるように配置されている。このことにより、過酸化水素ミストは、上下及び横方向から音響放射圧の作用を受けてより強力に指向性を高め、遠くまで早く届けられる。
【0139】
このように、図15においては、2次ミスト発生装置M10の左右両方向に角度をもって4台のミスト分散・拡散装置D7a~D7dが配置されている。従って、2次ミスト発生装置M10及びミスト分散・拡散装置D7a~D7dは、除染対象室の壁面の上部中央に配置することが好ましい。なお、この場合においても、制御装置(図示せず)により超音波振動盤D7-2a~D7-2dの超音波発信器U7-2a~U7-2dの周波数、出力、発信時間を制御すると共に、超音波の発信を間欠作動又は強弱作動させることにより、過酸化水素ミストに作用する音響放射圧による押圧を変化させる。
【0140】
また、図16は、2次ミスト発生装置とミスト分散・拡散装置との組み合わせの第4の例を示す斜視図である。図16において、2次ミスト発生装置M11に対して、ミスト分散・拡散装置D8(図16においては「D8a、D8b、D8c、D8d」をいう)は、2次ミスト発生装置M11の左右対称に各2台ずつ配置されている。左右の各2台は、背面合わせの状態で配置されている。具体的には、図16の2次ミスト発生装置M11及びミスト分散・拡散装置D8a~D8dは、図11の2次ミスト発生装置M8及びミスト分散・拡散装置D5a、D5bを2台背面合わせの状態にしたものと同様の構造を有する。
【0141】
2次ミスト発生装置M11は、2台のミスト受容器MR5(1)、MR5(2)と4台の超音波霧化装置A5(1)~A5(4)(図16においてA5(3)とA5(4)は、A5(1)とA5(2)の背面にあり表示されていない)とから構成されて、2次ミスト発生手段として作用する。なお、ミスト受容器MR5(1)、MR5(2)及び超音波霧化装置A5(1)~A5(4)の構造と作用は、上述のミスト受容器MR2及び超音波霧化装置A2(1)、A2(2)と同様である。
【0142】
ミスト分散・拡散装置D8a~D8dは、上述したミスト分散・拡散装置D5a、D5bと同様の超音波振動盤D8-2a~D8-2dを有している。なお、超音波振動盤D8-2a~D8-2dの構造と作用は、については、上記第1実施形態と同様であり説明を省略する。
【0143】
これらの超音波振動盤D8-2a~D8-2dは、それぞれ超音波霧化装置A5(1)~A5(4))から水平に図示左右両方向に放出される過酸化水素ミストに対して、超音波振動による音響放射圧を作用させるように配置されている。なお、超音波振動盤D8-2aは、超音波霧化装置A5(1)から図示表側右方向に放出される過酸化水素ミストの横方向から超音波振動による音響放射圧を作用させるように配置されている。また、超音波振動盤D8-2bは、超音波霧化装置A5(2)から図示表側左方向に放出される過酸化水素ミストの横方向から超音波振動による音響放射圧を作用させるように配置されている。
【0144】
一方、超音波振動盤D8-2cは、超音波霧化装置A5(3)(図16においてA5(1)の背面にあり表示されていない)から図示裏側右方向に放出される過酸化水素ミストの横方向から超音波振動による音響放射圧を作用させるように配置されている。また、超音波振動盤D8-2dは、超音波霧化装置A5(4)(図16においてA5(2)の背面にあり表示されていない)から図示裏側左方向に放出される過酸化水素ミストの横方向から超音波振動による音響放射圧を作用させるように配置されている。
【0145】
このように、図16においては、2次ミスト発生装置M11の左右両方向にそれぞれ背面合わせに4台のミスト分散・拡散装置D8a~D8dが配置されている。従って、2次ミスト発生装置M11及びミスト分散・拡散装置D8a~D8dは、除染対象室の壁面の上部中央に配置するよりも、天井壁の中央付近に配置することが好ましい。このことにより、2次ミスト発生装置M11から放出される4本の過酸化水素ミストは、除染対象室の中央から四方全域に均一に分散・拡散される。なお、この場合においても、制御装置(図示せず)により超音波振動盤D8-2a~D8-2dの超音波発信器U8-2a~U8-2dの周波数、出力、発信時間を制御すると共に、超音波の発信を間欠作動又は強弱作動させることにより、過酸化水素ミストに作用する音響放射圧による押圧を変化させる。
【0146】
本第4実施形態に係る除染システム400を使用して除染対象室R1を除染する除染方法については、図11で説明した2次ミスト発生装置M8と2台1対のミスト分散・拡散装置D5a、D5bとを除染対象室R4の壁面の上部中央に配置して行った(図10参照)。なお、除染対象室R4の広さ及び単位時間当りに放出すべき過酸化水素ミストの量は、上記第1実施形態と同様であり、また除染効果についても同様の良好な結果を得た。よって、ここでは除染方法及び除染結果の詳細について説明を省略する。
【0147】
《第5実施形態》
本第5実施形態においては、複数の除染対象室に対して本発明に係る除染システムを配置した場合について説明する。図18は、本発明に係る除染システムの第5実施形態を示す概略構成図である。図18に示すように、除染システム500は、広さの異なるn室(nは正の整数)からなるアイソレーターを除染対象室R1~Rnとしている。各除染対象室は、それぞれ、独立した空間を有して、室内上部に循環ファンF1~Fn、HEPAフィルタH1~Hn、及び、整流板B1~Bnを備えている。
【0148】
なお、本第5実施形態においては、n室からなるアイソレーターを除染対象室とするが、これに限るものではなく、RABS、無菌室、パスルーム、パスボックスなどであってもよく、これらの組合せであってもよい。また、除染対象室の数も1室から複数の何室であってもよい。
【0149】
図18において、除染システム500は、除染対象室R1~Rnの各室に共通の空気圧縮機10と過酸化水素水タンク20とを有している。また、除染対象室R1~Rnは、それぞれ、過酸化水素ミスト発生装置M1~Mn+1(1次ミスト発生装置の単独、又は、1次ミスト発生装置及び2次ミスト発生装置の組合せ)と、ミスト分散・拡散装置D1~Dnとを備えている。
【0150】
なお、図18においては、全ての除染対象室R1~Rnに対して1台の1次ミスト発生装置M1(但し、各室に対してエジェクタE1~Enを有する)、及び、除染対象室R1に対して2台の2次ミスト発生装置M2(1)、M2(2)と2台のミスト分散・拡散装置D1(1)、D1(2)を有している。一方、除染対象室Rnは、1台の2次ミスト発生装置Mn+1を有している。これは、各除染対象室の内部容積に対応させたものである。
【0151】
空気圧縮機10は、過酸化水素水を搬送するためのキャリアガスとしての圧縮空気を発生するための圧縮空気発生手段として作用する。この空気圧縮機10は、除染対象室R1~Rnから離れた位置に配置されている。
【0152】
過酸化水素水タンク20は、除染用ミストとしての過酸化水素ミストの発生源である過酸化水素水を貯留するための除染液供給手段として作用する。この過酸化水素水タンク20は、除染対象室R1~Rnから離れた位置で空気圧縮機10の近傍に配置されている。ここで、過酸化水素水タンク20に貯留される過酸化水素水の濃度は特に限定するものではないが、一般に、危険物などの取扱いを考慮して30~35重量%のものを使用することが好ましい。また、過酸化水素水タンク20は、内部の過酸化水素水の残量を検知する秤量器21と、残量を制御する制御装置(図示せず)を備えている。
【0153】
1次ミスト発生装置M1のエジェクタE1~Enは、過酸化水素水を圧縮空気中に気液混合して1次ミストを発生するための1次ミスト発生手段として作用する。このエジェクタE1~Enは、除染対象室R1~Rnから離れた位置で空気圧縮機10及び過酸化水素水タンク20の近傍に配置されている。
【0154】
2次ミスト発生装置M2~Mn+1は、ミスト受容器MR1~MRnと超音波霧化装置A1~An(共に図18に示していないが、構造は上記第1実施形態と同様である)とから構成されている。ミスト受容器MR1~MRnは、エジェクタE1~Enから搬送されてくる過酸化水素水を含む1次ミストを受容して気液分離する1次ミスト受容器として作用する。また、このミスト受容器MR1~MRnは、気液分離した過酸化水素水を超音波霧化装置A1~Anに供給すると共に、気液分離した空気を外部に放出する。このミスト受容器MR1~MRnの構造についても上記第1実施形態と同様である。
【0155】
本第5実施形態の図18においては、2次ミスト発生装置M2~Mn+1は、除染対象室R1~Rnの作業領域上方(整流板B1~Bnの直下)に配置されている。
【0156】
超音波霧化装置A1~Anは、ミスト受容器MR1~MRnから気液分離した過酸化水素水を受取り、微細な2次ミストを発生して除染対象室R1~Rnの内部に放出する。この超音波霧化装置A1~Anは、ミスト受容器MR1~MRnと一体になって2次ミスト発生手段として作用する2次ミスト発生装置M2~Mn+1を構成する。なお、この超音波霧化装置A1~Anの構造についても上記第1実施形態と同様である。
【0157】
ミスト分散・拡散装置D1~Dnは、2次ミスト発生装置M2~Mn+1の下部近傍配置されている。ミスト分散・拡散装置D1~Dnは、上記第1実施形態と同様の超音波振動盤を有して、超音波霧化装置A1~Anから水平に放出される過酸化水素ミストに対して、放出口の下部から超音波振動による音響放射圧を作用させる。なお、ミスト分散・拡散装置D1~Dnの構造と作用効果は上記第1実施形態と同様である。
【0158】
なお、最も広い除染対象室R1には、上述のように、2台のエジェクタE1(1)、E1(2)、2台の2次ミスト発生装置M2(1)、M2(2)、及び、2台のミスト分散・拡散装置D1(1)、D1(2)が配置されている。これは、除染対象室R1の容積が大きく、2か所から過酸化水素ミストを放出することにより除染効率が高くなるからである。また、除染対象室の広さによっては、1室に更に多くの2次ミスト発生装置とミスト分散・拡散装置を設けるようにしてもよい。なお、このように1室に複数の2次ミスト発生装置とミスト分散・拡散装置を設ける場合でも、1次ミスト供給配管は小口径であり設備費の点で問題となることはない。
【0159】
また、図18において、除染システム500は、空気圧縮機10とエジェクタE1~Enとを連通する空気供給配管AL1~ALnと、過酸化水素水タンク20とエジェクタE1~Enとを連通する除染液供給配管LL1~LLnと、エジェクタE1~Enとミスト受容器MR1~MRnとを連通する1次ミスト供給配管ML1~MLnとを備えている。
【0160】
空気供給配管AL1~ALnは、空気圧縮機10の吐出口とエジェクタE1~Enの駆動流路(図示しない)とを連通する。空気供給配管AL1~ALnの管路には、それぞれ、圧縮空気の供給を制御する開閉弁(図持せず)が設けられている。ここで、空気供給配管AL1~ALnの材質及び管径については特に限定するものではないが、上記第1実施形態と同様に、内径1~10mmのステンレス管であることが好ましい。なお、図18には示していないが、空気圧縮機10と空気供給配管AL1~ALnの間の管路には、エアドライヤ、エアレギュレータ、オートドレン、オイルミストセパレータ、その他のフィルタなどを設けるようにしてもよい。
【0161】
除染液供給配管LL1~LLnは、過酸化水素水タンク20の供給口とエジェクタE1~Enの吸引流路(図示しない)とを連通する。除染液供給配管LL1~LLnの管路には、それぞれ、過酸化水素水の供給を制御するチューブポンプP1~Pnが設けられている。ここで、除染液供給配管LL1~LLnの材質及び管径については、過酸化水素水に使用可能なものであれば特に限定するものではないが、上記第1実施形態と同様に、内径1~10mmのステンレス管であることが好ましい。
【0162】
1次ミスト供給配管ML1~MLnは、エジェクタE1~Enの吐出流路と超音波霧化装置A1~Anを構成するミスト受容器MR1~MRnとを連通する。1次ミスト供給配管ML1~MLnは、空気圧縮機10及び過酸化水素水タンク20の近傍から除染対象室R1~Rnの上壁内側に配置された2次ミスト発生装置M2~Mn+1の位置まで長い距離を配管されている。ここで、1次ミスト供給配管ML1~MLnの材質及び管径については、単位時間当りに必要な量の過酸化水素ミストを長い距離搬送することのできるものであることが好ましく、上記第1実施形態と同様に、内径1~10mmのステンレス管であることが好ましい。
【0163】
このように、除染対象室R1~Rnに対して、それぞれ、空気供給配管AL1~ALnと除染液供給配管LL1~LLnと1次ミスト供給配管ML1~MLnとを配置することにより、除染対象室ごとに、別個に過酸化水素ミストを放出することができ、各室ごとに正確な除染を行うことができる。
【0164】
また、図18から分かるように、1次ミスト供給配管ML1~MLnの搬送距離は、空気供給配管AL1~ALnの搬送距離又は除染液供給配管LL1~LLnの搬送距離よりも長い距離となる。この1次ミスト供給配管ML1~MLnによる1次ミストの搬送距離は、特に限定するものではないが、通常、3~100m程度は搬送することができる。一方、空気供給配管AL1~ALnの搬送距離又は除染液供給配管LL1~LLnの搬送距離は短くすることができる。
【0165】
本第5実施形態において、1次ミストは、圧縮空気と過酸化水素水との混合気液であり密度の高い状態にあり搬送速度も速いので、1次ミスト供給配管ML1~MLnには小口径の配管を用いることができる。従って、除染対象室ごとに長い距離の1次ミスト供給配管ML1~MLnを配置することができる。このことにより、大口径のダクトなどの大掛かりな設備を必要としない。
【0166】
また、1次ミスト中の過酸化水素水は液体の状態にあるので、凝縮を防止するために1次ミスト供給配管ML1~MLnを保温する必要がない。従って、除染対象室ごとに長い距離の配管を配置する場合であっても、凝縮防止のヒーターなどの大掛かりな設備を必要としない。
【0167】
このように、除染液供給配管LL1~LLnの搬送距離を短くすることで、エジェクタE1~Enへの過酸化水素水の供給量を正確に把握することができる。このことにより、除染対象室ごとにミスト受容器MR1~MRnに供給された過酸化水素水の量を正確に把握することができ、当該除染対象室に放出された過酸化水素ミストの量が明確になる。一方、1次ミスト中の過酸化水素水は液体の状態にあり凝縮することがないので、1次ミスト供給配管ML1~MLnの搬送距離を長くして過酸化水素水を遠くまで正確に搬送することができる。更に、圧縮空気により1次ミスト供給配管ML1~MLn中の過酸化水素水を完全に搬送することができるので配管中にデッド液が残留することがない。
【0168】
なお、本第5実施形態に係る除染システム500を使用して除染対象室R1~Rnを除染する除染方法については、各除染対象室R1~Rnについて上記第1実施形態で説明した内容と同様であり、ここでは省略する。
【0169】
以上のように上記各実施形態から明らかなように、本発明においては、除染対象室の内部に供給した過酸化水素ミストを更に微細化して分散・拡散させることにより、除染対象室に対する適正量の過酸化水素ミストの供給で除染効果の完璧を図ると共に、エアレーションなどの作業時間を短縮して除染作業の効率化を図ることのできる除染システムを提供することができる。
【0170】
なお、本発明の実施にあたり、上記各実施形態に限らず次のような種々の変形例が挙げられる。
(1)上記各実施形態においては、圧縮空気発生手段として空気圧縮機を採用するが、これに限定されるものではなく、高圧空気ボンベなど、その他の手段を採用するようにしてもよい。
(2)上記各実施形態においては、1次ミスト発生手段としてエジェクタを採用するが、これに限定されるものではなく、二流体スプレーノズルなどの気液ポンプなど、その他の気液混合手段を採用するようにしてもよい。
(3)上記各実施形態においては、除染液供給配管の管路にチューブポンプを採用するが、これに限定されるものではなく、他のどのようなポンプ或いは給液手段を採用するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0171】
100,200,300,400,500…除染システム、
10…空気圧縮機、AL1~ALn…空気供給配管、
20…過酸化水素水タンク、21…秤量器、LL1~LLn…除染液供給配管、
P1~Pn…チューブポンプ、E1~En…エジェクタ、
ML1~MLn…1次ミスト供給配管、
M1~Mn…過酸化水素ミスト発生装置(1次ミスト発生装置,2次ミスト発生装置)、
MR1~MRn…ミスト受容器、MR1-2,MR2-2…液溜り、
MR1-3,MR2-3…空気抜き、MR1-4,MR2-4…邪魔板、
S1,S2…内部空間、S1-2,S2-2…開口部、
MH1,MH2…過酸化水素分解フィルタ、
A1~An…超音波霧化装置、A1-2,A2-2…多孔振動板、
A1-3,A2-3…圧電振動子、
D1~Dn,D5a,D5b,D7a~D7d,D8a~D8d…ミスト分散・拡散装置、
D1a,D5-2a,D5-2b,D6-2,D7-2a~D7-2d,D8-2a~D8-2d…超音波振動盤、
U1,U5a,U5b,U6,U7a~U7d,U8a~U8d…基盤、
U1a,U5-2a,U5-2b,U6-2,U7-2a~U7-2d,U8-2a~U8-2d…超音波発信器、
R1~Rn…除染対象室、F1~Fn…循環ファン、H1~Hn…HEPAフィルタ、
B1~Bn…整流板、
R1~R4…除染対象室、X1~X5…ミスト放出口。
なお、1室に装置が2台ある場合には、各符号に(1),(2)を付して使い分けるようにした。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図10
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図15
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