(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】標的核酸の検出方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6813 20180101AFI20241016BHJP
C12Q 1/34 20060101ALI20241016BHJP
C12Q 1/6876 20180101ALI20241016BHJP
【FI】
C12Q1/6813 Z ZNA
C12Q1/34
C12Q1/6876 Z
(21)【出願番号】P 2020066984
(22)【出願日】2020-04-02
【審査請求日】2023-03-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(74)【代理人】
【識別番号】100176773
【氏名又は名称】坂西 俊明
(72)【発明者】
【氏名】牧野 洋一
(72)【発明者】
【氏名】石野 良純
(72)【発明者】
【氏名】石野 園子
【審査官】北村 悠美子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/026884(WO,A1)
【文献】特許第6846763(JP,B1)
【文献】flap structure-specific endonuclease [Thermococcus kodakarensis KOD1], GenBank: BAD85470.1 [online],2018年,検索日2021年4月14日, <https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/BAD85470.1>
【文献】fen1 FLAP endonuclease-1 [Pyrococcus abyssi GE5], GenBank: CAB49654.1 [online],2015年,検索日2021年4月14日, <https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/CAB49654.1>
【文献】Flap endonuclease 1, UniProt: O27670 [online],2003年,検索日2021年4月14日, <https://www.uniprot.org/uniprot/O27670.txt?version=117>
【文献】牧野 洋一 他,生体分子のデジタル計測技術開発,日本印刷学会誌,2017年,Vol.54, No.6, pp.377-382
【文献】flap endonuclease-1 [Thermococcus gorgonarius], NCBI Reference Sequence: WP_088884722.1 [online],2017年,検索日2021年4月14日, <https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/1214773564?sat=49&satkey=24386714>
【文献】flap endonuclease-1 [Pyrococcus horikoshii], NCBI Reference Sequence: WP_010885498.1 [online],2019年,検索日2021年4月14日, <https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/499187958?sat=49&satkey=24352886>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12Q 1/00-3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的核酸と第一核酸と第二核酸とにより形成される第一開裂構造の第一フラップを切断すること、
第三核酸と切断された第一フラップと第四核酸とにより形成される第二開裂構造の第二フラップを切断すること、
切断された第二フラップを検出することで標的核酸の存在を検出することを含み、
前記第一フラップを切断すること、及び前記第二フラップを切断することが、フラップエンドヌクレアーゼで前記第一フラップ及び前記第二フラップを切断することにより行われ、
前記フラップエンドヌクレアーゼは、サーモコッカス・コダカレンシス(Thermococcus kodakarensis)KOD1株、パイロコッカス・アビシ(Pyrococcus abyssi)GE5株、及びメタノサーモバクター・サームオートトロフィカス(Methanothermobacter Thermautotrophicus)Delta H株からなる群より選択される菌のフラップエンドヌクレアーゼのアミノ酸配列との配列同一性が96%以上であるアミノ酸配列を有
し、
前記サーモコッカス・コダカレンシス(Thermococcus kodakarensis)KOD1株のフラップエンドヌクレアーゼのアミノ酸配列が、配列番号12で示されるアミノ酸配列であり、
前記パイロコッカス・アビシ(Pyrococcus abyssi)GE5株のフラップエンドヌクレアーゼのアミノ酸配列が、配列番号13で示されるアミノ酸配列であり、
前記メタノサーモバクター・サームオートトロフィカス(Methanothermobacter Thermautotrophicus)Delta H株のフラップエンドヌクレアーゼのアミノ酸配列が、配列番号14で示されるアミノ酸配列であり、
前記フラップエンドヌクレアーゼは、配列番号15で示されるアミノ酸配列からなるフラップエンドヌクレアーゼよりも高いS/N比を示すものである、標的核酸の検出方法。
【請求項2】
前記標的核酸がDNAである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第一フラップを切断すること、及び前記第二フラップを切断することが、pH7.5以上9.0以下の条件下で行われる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記第一フラップを切断すること、及び前記第二フラップを切断することが、温度55℃以上70℃以下の条件下で行われる、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記第一フラップを切断すること、及び前記第二フラップを切断することが、水性溶媒中で行われ、前記水性溶媒がMg
2+を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記水性溶媒中のMg
2+濃度が2.5mM以上20mM以下である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記第一フラップを切断すること、及び前記第二フラップを切断することが、水性溶媒中で行われ、前記水性溶媒中のK
+濃度が0mM以上100mM以下である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記第一フラップを切断すること、及び前記第二フラップを切断することが、水性溶媒中で行われ、前記水性溶媒中のトリスヒドロキシメチルアミノメタン濃度が0mM超300mM以下である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記第一フラップを切断すること、及び前記第二フラップを切断することが、水性溶媒中で行われ、前記水性溶媒中の前記フラップエンドヌクレアーゼ濃度が0.5μM以上8μM以下である、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記第一フラップを切断すること、及び前記第二フラップを切断することが、水性溶媒中で行われ、前記水性溶媒の容積が10aL以上10μL以下である、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記第三核酸と前記第四核酸とが、リンカー分子によって結合されている、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記切断された第二フラップを蛍光を検出することにより検出する、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の方法に使用するためのキットであって、
前記第三核酸と、前記第四核酸と、前記フラップエンドヌクレアーゼと、前記標的核酸の塩基配列に応じて第一核酸及び第二核酸の塩基配列を設計する指針を示す説明書と、を含む、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標的核酸の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
標的核酸の検出による各種診断方法が知られている。そのような診断方法として、例えば、一塩基多型(SNP)解析による体質診断、体細胞変異解析による薬剤(例えば、抗癌剤)の効果及び副作用の予測診断、ウイルスのDNA又はRNAの検出による感染症の診断等がある。これらの診断用途では、標的核酸の存在比が低い場合が多いため、標的核酸を高精度で定量解析できる方法が必要である。標的核酸を高精度で定量解析する手法として、例えば、デジタル計測を利用した方法が知られている。
【0003】
デジタル計測は、標的核酸等の生体分子を確率的に1分子以下になるように希釈し、多数の微小な反応容器に分配し、各反応容器を2値化(検出反応に伴う信号がある/ない)することで、反応容器に検出対象が入っているかいないかをカウントする定量方法である。デジタル計測では、1分子の生体分子を検出することも可能であり、高精度な定量測定を行うことができる。例えば、非特許文献1には、ICA(Invasive Cleavage Assay)法をデジタル計測と組み合わせた標的核酸の検出方法が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】日本印刷学会誌,2017年,第54巻第6号,pp.377-382
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
デジタル計測は、各反応容器を2値化(検出反応に伴う信号がある/ない)することに基づいているため、より高精度な定量測定を行うためには、シグナル/ノイズ比(S/N比)の向上が求められる。そこで、本発明は、S/N比が向上した標的核酸の検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、標的核酸と第一核酸と第二核酸とにより形成される第一開裂構造の第一フラップを切断すること、第三核酸と切断された第一フラップと第四核酸とにより形成される第二開裂構造の第二フラップを切断すること、切断された第二フラップを検出することで標的核酸の存在を検出することを含み、上記第一フラップを切断すること、及び上記第二フラップを切断することが、フラップエンドヌクレアーゼで上記第一フラップ及び上記第二フラップを切断することにより行われ、上記フラップエンドヌクレアーゼは、サーモコッカス・コダカレンシス(Thermococcus kodakarensis)KOD1株、パイロコッカス・アビシ(Pyrococcus abyssi)GE5株、及びメタノサーモバクター・サームオートトロフィカス(Methanothermobacter Thermautotrophicus)Delta H株からなる群より選択される菌のフラップエンドヌクレアーゼのアミノ酸配列との配列同一性が96%以上であるアミノ酸配列を有する、標的核酸の検出方法に関する。
【0007】
本発明に係る検出方法は、第一フラップの切断、及び第二フラップの切断が、特定のフラップエンドヌクレアーゼにより行われるため、従来法よりもS/N比が向上している。
【0008】
上記検出方法において、標的核酸はDNAであってよい。
【0009】
上記検出方法において、上記第一フラップを切断すること、及び上記第二フラップを切断することが、pH7.5以上9.0以下の条件下で行われることが好ましい。pHがこの範囲内にあると、S/N比の向上効果がより顕著になる。
【0010】
上記検出方法において、上記第一フラップを切断すること、及び上記第二フラップを切断することが、温度55℃以上70℃以下の条件下で行われることが好ましい。温度がこの範囲内にあると、S/N比の向上効果がより顕著になる。
【0011】
上記検出方法において、上記第一フラップを切断すること、及び上記第二フラップを切断することが、水性溶媒中で行われ、上記水性溶媒がMg2+を含むことが好ましい。また、水性溶媒中のMg2+濃度が2.5mM以上20mM以下であることがより好ましい。これにより、S/N比の向上効果がより顕著になる。
【0012】
上記検出方法において、上記第一フラップを切断すること、及び上記第二フラップを切断することが、水性溶媒中で行われ、上記水性溶媒中のK+濃度が0mM以上100mM以下であることが好ましい。これにより、S/N比の向上効果がより顕著になる。
【0013】
上記検出方法において、上記第一フラップを切断すること、及び上記第二フラップを切断することが、水性溶媒中で行われ、上記水性溶媒中のトリスヒドロキシメチルアミノメタン濃度が0mM超300mM以下であることが好ましい。これにより、S/N比の向上効果がより顕著になる。
【0014】
上記検出方法において、上記第一フラップを切断すること、及び上記第二フラップを切断することが、水性溶媒中で行われ、上記水性溶媒中の上記フラップエンドヌクレアーゼ濃度が0.5μM以上8μM以下であってよい。これにより、充分なS/N比の向上効果を達成できる。
【0015】
上記検出方法において、上記第一フラップを切断すること、及び上記第二フラップを切断することが、水性溶媒中で行われ、上記水性溶媒の容積が10aL以上10μL以下であることが好ましい。これにより、S/N比の向上効果がより顕著になる。
【0016】
上記検出方法において、上記第三核酸と上記第四核酸は、リンカー分子によって結合されていてもよい。
【0017】
上記検出方法は、上記切断された第二フラップを蛍光を検出することにより検出するものであってよい。
【0018】
本発明はまた、上述の本発明に係る検出方法に使用するためのキットであって、上記第三核酸と、上記第四核酸と、上記フラップエンドヌクレアーゼと、上記標的核酸の塩基配列に応じて第一核酸及び第二核酸の塩基配列を設計する指針を示す説明書と、を含む、キットにも関する。
【0019】
本発明は更に、サーモコッカス・コダカレンシス(Thermococcus kodakarensis)KOD1株、パイロコッカス・アビシ(Pyrococcus abyssi)GE5株、及びメタノサーモバクター・サームオートトロフィカス(Methanothermobacter Thermautotrophicus)Delta H株からなる群より選択される菌のフラップエンドヌクレアーゼのアミノ酸配列との配列同一性が96%以上であるアミノ酸配列をコードする核酸配列と、上記核酸配列に作動可能に連結された1又は複数の調節配列とを有する、発現ベクターにも関する。
【0020】
上記発現ベクターは、上述の本発明に係る検出方法に好適に使用できるフラップエンドヌクレアーゼを調製するために使用することができる。また、上記発現ベクターは、プラスミドであってよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、S/N比が向上した標的核酸の検出方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図2】試験例3の評価系の概要を示す説明図である。
【
図3】試験例3における、蛍光強度のリアルタイム測定の結果の一例を示すグラフである。
【
図4】試験例4における、蛍光強度のリアルタイム測定の結果を示すグラフである。
【
図5】試験例4における、蛍光強度のリアルタイム測定の結果を示すグラフである。
【
図6】試験例4における、蛍光強度のリアルタイム測定の結果を示すグラフである。
【
図7】試験例4における、蛍光強度のリアルタイム測定の結果を示すグラフである。
【
図8】試験例4における、蛍光強度のリアルタイム測定の結果を示すグラフである。
【
図9】試験例4における、蛍光強度のリアルタイム測定の結果を示すグラフである。
【
図10】試験例4における、蛍光強度のリアルタイム測定の結果を示すグラフである。
【
図11】試験例4における、蛍光強度のリアルタイム測定の結果を示すグラフである。
【
図12】試験例4における、蛍光強度のリアルタイム測定の結果を示すグラフである。
【
図13】試験例4における、蛍光強度のリアルタイム測定の結果を示すグラフである。
【
図14】試験例5における、デジタル計測の結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0024】
本実施形態に係る標的核酸の検出方法は、標的核酸と第一核酸と第二核酸とにより形成される第一開裂構造の第一フラップを切断すること(第一フラップ切断ステップ)、第三核酸と切断された第一フラップと第四核酸とにより形成される第二開裂構造の第二フラップを切断すること(第二フラップ切断ステップ)、切断された第二フラップを検出することで標的核酸の存在を検出すること(検出ステップ)を含む。ここで、第一フラップの切断、及び第二フラップの切断は、特定のフラップエンドヌクレアーゼにより行われる。
【0025】
本明細書において「開裂構造」とは、標的核酸と、当該標的核酸の隣接する第1の領域及び第2の領域のそれぞれにハイブリダイズ可能な2つの核酸とから形成される構造であり、標的核酸の第1の領域に一方の核酸(例えば、第一核酸)の3’側の部分配列がハイブリダイズし、標的核酸の第1の領域の3’側に隣接する第2の領域に他方の核酸(例えば、第二核酸)がハイブリダイズし、第1の領域にハイブリダイズする核酸(例えば、第一核酸)の5’側の残りの配列が1本鎖で突き出しフラップを形成している構造を意味する。開裂構造の具体例としては、
図1に示す構造が挙げられる。
【0026】
本実施形態に係る検出方法で使用するフラップエンドヌクレアーゼ(以下、「FEN」又は「FENタンパク質」とも記載する。)は、サーモコッカス・コダカレンシス(Thermococcus kodakarensis)KOD1株、パイロコッカス・アビシ(Pyrococcus abyssi)GE5株、及びメタノサーモバクター・サームオートトロフィカス(Methanothermobacter Thermautotrophicus)Delta H株からなる群より選択される菌のフラップエンドヌクレアーゼのアミノ酸配列との配列同一性が96%以上であるアミノ酸配列を有するものであればよい。このようなFENを使用することによって、従来法よりも向上したS/N比を達成することができる。
【0027】
本実施形態に係る検出方法で使用するFENは、開裂構造を認識し、フラップの根本(三つの核酸が重なる部位の3’側のホスホジエステル結合)を切断し、フラップ(核酸)を遊離させる活性を有するものであればよい。
【0028】
なお、サーモコッカス・コダカレンシスKOD1株、パイロコッカス・アビシGE5株及びメタノサーモバクター・サームオートトロフィカスDelta H株は、国立研究開発法人理化学研究所バイオリソース研究センター(RIKEN BRC)より入手可能である。
【0029】
本実施形態に係る検出方法で使用するFENは、そのアミノ酸配列が、上述した菌株が有するFENのアミノ酸配列と96%以上の配列同一性を有するものであればよい。また、当該FENは、開裂構造を認識し、フラップの根本(三つの核酸が重なる部位の3’側のホスホジエステル結合)を切断し、フラップ(核酸)を遊離させる活性を有するものである。
【0030】
本明細書において、「配列同一性」とは、当該技術分野において公知の数学的アルゴリズムを用いて2つのアミノ酸配列をアラインさせた場合の最適なアラインメント(好ましくは、該アルゴリズムは最適なアラインメントのために配列の一方又は両方へのギャップの導入を考慮し得るものである。)における、オーバーラップする全アミノ酸配列に対する同一アミノ酸残基の割合(%)を意味する。アラインメントの作成には、例えば、NCBI BLAST(National Center for Biotechnology Information Basic Local Alignment Search Tool)を用いることができる。
【0031】
本実施形態に係る検出方法で使用するFENは、そのアミノ酸配列が、上述した菌株が有するFENのアミノ酸配列との配列同一性が、96%以上であってよく、97%以上であってよく、98%以上であってよく、99%以上であってよく、99.1%以上であってよく、99.2%以上であってよく、99.3%以上であってよく、99.4%以上であってよく、99.5%以上であってよく、99.6%以上であってよく、99.7%以上であってよく、99.8%以上であってよく、99.9%以上であってよく、100%であってもよい。
【0032】
本実施形態に係る検出方法で使用するFENタンパク質は、上述した菌株から抽出又は精製して単離したものであってもよく、上述した菌株からFENタンパク質をコードする遺伝子をクローニングし、異種タンパク質発現系(組換えタンパク質発現系)で発現させたものを抽出又は精製して単離したものであってもよい。また、上述した菌株を使用することなく、上述した菌株が有するFENタンパク質のアミノ酸配列に基づいて当該アミノ酸配列をコードする遺伝子を化学合成等により製造し、異種タンパク質発現系(組換えタンパク質発現系)で発現させたものを抽出又は精製して単離したものであってもよい。異種タンパク質発現系でFENタンパク質を発現させる場合、上述した配列同一性の範囲内となるようにアミノ酸配列を改変した遺伝子を用いてもよい。なお、上述した菌株が有するFENタンパク質のアミノ酸配列等の情報は、配列データベース(例えば、GenBank、NCBI)から入手することができる。
【0033】
第一フラップ切断ステップは、標的核酸と第一核酸と第二核酸とにより形成される第一開裂構造の第一フラップを切断するステップである。
【0034】
第一核酸及び第二核酸は、標的核酸の第1の領域、及び第1の領域の3’側に隣接する第2の領域のそれぞれにハイブリダイズ可能なように設計される。このとき、第一核酸は、3’側の部分配列が標的核酸の第1の領域にハイブリダイズし、5’側の残りの配列が1本鎖で突き出しフラップを形成するように設計される。また、フラップの配列は、第四核酸の第2の領域にハイブリダイズするように設計される。第二核酸は、標的核酸の第2の領域にハイブリダイズするように設計される。標的核酸の第1の領域及び第2の領域は、標的核酸を特異的に検出できる塩基配列を有するように設計される。例えば、SNP解析に応用する場合、第1の領域と第2の領域の結合部分、すなわち三つの核酸が重なる部位にSNP部位がくるように設計することが好ましい。
【0035】
第一開裂構造は、標的核酸の第1の領域に第一核酸の3’側の部分配列がハイブリダイズし、標的核酸の第1の領域の3’側に隣接する第2の領域に第二核酸がハイブリダイズし、第一核酸の5’側の残りの配列が1本鎖で突き出し第一フラップを形成している構造である。第一フラップ切断ステップでは、FENがこの第一開裂構造を認識し、第一フラップの根本(三つの核酸が重なる部位の3’側のホスホジエステル結合)を切断し、第一フラップ(核酸)を遊離させる。
【0036】
第一フラップ切断ステップは、反応液のpHが7.5以上9.0以下の条件下で行われることが好ましい。pHがこの範囲内にあると、S/N比の向上効果がより顕著になる。良好なS/N比に加えて、より短時間での検出が可能になるという観点から、反応液のpHは、8.0以上9.0以下の範囲内であることが好ましく、8.2以上8.8以下の範囲内であることがより好ましく、8.4以上8.6以下の範囲内であることが更に好ましい。
【0037】
第一フラップ切断ステップは、反応液の温度が55℃以上75℃以下の条件下で行われることが好ましく、55℃以上70℃以下の条件下で行われることがより好ましい。温度がこの範囲内にあると、S/N比の向上効果がより顕著になる。良好なS/N比に加えて、標的核酸の濃度が低い場合であってもより短時間での検出が可能になるという観点から、反応液の温度は、例えば、60℃以上であってよく、65℃以下であってよい。反応液の温度が60℃以上65℃以下であると、的核酸の濃度が低い場合であってもより短時間での検出が可能になるという効果がより顕著に奏される。
【0038】
第一フラップ切断ステップは、Mg2+を含む水性媒体中で行われることが好ましい。S/N比の向上効果がより顕著になるという観点から、反応液(水性媒体)中のMg2+濃度は、1mM以上20mM以下の範囲内であることが好ましく、2.5mM以上20mM以下の範囲内であることがより好ましい。良好なS/N比に加えて、より短時間での検出が可能になるという観点から、反応液(水性媒体)中のMg2+濃度は、5mM以上10mM以下の範囲内であることが更に好ましい。反応液(水性媒体)中のMg2+濃度は、例えば、塩化マグネシウム等のマグネシウム塩を反応液に添加することで調整することができる。
【0039】
第一フラップ切断ステップは、K+濃度が0mM以上100mM以下である水性媒体中で行われることが好ましい。これにより、S/N比の向上効果がより顕著になる。なお、上記範囲内であれば、反応液(水性媒体)中のK+濃度が0mMであってもS/N比及び立ち上がりの早さに大きな差異はないことから、K+は必ずしも添加する必要はなく、反応液をより簡素にできる観点からは、K+濃度が0mMであることがより好ましい。反応液(水性媒体)中のK+濃度は、例えば、塩化カリウム等のカリウム塩を反応液に添加することで調整することができる。
【0040】
第一フラップ切断ステップは、任意の緩衝液中で行ってよい。緩衝液としては、例えば、Tris緩衝液、Bis-Tris緩衝液、MOPS緩衝液等を使用できる。S/N比の向上効果がより顕著になるという観点から、第一フラップ切断ステップは、トリスヒドロキシメチルアミノメタン濃度が0mM超300mM以下である水性溶媒中で行われることが好ましい。S/N比の向上効果がより顕著になることに加え、より短時間での検出が可能になるという観点から、反応液(水性媒体)中のトリスヒドロキシメチルアミノメタン濃度は、5mM以上300mM以下の範囲内であることがより好ましい。
【0041】
第一フラップ切断ステップは、反応液(水性媒体)中のフラップエンドヌクレアーゼ濃度が0.5μM以上8μM以下であってよい。これにより、充分なS/N比の向上効果を達成できる。
【0042】
第一フラップ切断ステップは、反応液(水性溶媒)の容積が10aL以上10μL以下となるように実施することが好ましい。これにより、S/N比の向上効果がより顕著になる。
【0043】
反応液中の第一核酸及び第二核酸の濃度は、例えば、それぞれ1nM以上10μM以下の範囲内で適宜設定してよい。
【0044】
第一フラップ切断ステップで切断された第一フラップは、第三核酸及び第四核酸と第二開裂構造を形成する。
【0045】
第二フラップ切断ステップは、第三核酸と切断された第一フラップと第四核酸とにより形成される第二開裂構造の第二フラップを切断するステップである。
【0046】
第三核酸は、第四核酸の第1の領域にハイブリダイズ可能なように設計される。このとき、第三核酸は、3’側の部分配列が第四核酸の第1の領域にハイブリダイズし、5’側の残りの配列が1本鎖で突き出しフラップを形成するように設計される。また、第一フラップは、第四核酸の第1の領域の3’側に隣接する第2の領域にハイブリダイズするように設計されている。
【0047】
第二開裂構造は、第四核酸の第1の領域に第三核酸の3’側の部分配列がハイブリダイズし、第四核酸の第1の領域の3’側に隣接する第2の領域に第一フラップがハイブリダイズし、第三核酸の5’側の残りの配列が1本鎖で突き出し第二フラップを形成している構造である。第二フラップ切断ステップでは、FENがこの第二開裂構造を認識し、第二フラップの根本(三つの核酸が重なる部位の3’側のホスホジエステル結合)を切断し、第二フラップ(核酸)を遊離させる。
【0048】
第三核酸及び第四核酸は、それぞれ別の核酸分子として構成していてもよく、リンカー分子によって結合されていてもよい。リンカー分子としては、例えば、核酸(すなわち、第三核酸及び第四核酸が核酸であるリンカーを介して結合することにより、一分子の核酸として構成される)、鎖状分子により構成されるスペーサー等が挙げられる。
【0049】
第三核酸は、検出ステップでの検出方法に応じて、標識が付されていてもよい。標識としては、例えば、蛍光色素、放射性核種、発光物質、燐光性物質、レドックス分子等が挙げられる。標識方法は、本技術分野の常法に従えばよい。蛍光色素で標識する場合は、例えば、第三核酸のフラップに相当する部位に蛍光色素を結合させ、第三核酸の3’側の部分配列に相当する部位に蛍光色素の種類に応じた消光分子を結合させてもよい。これにより、第二開裂構造の状態ではFRETにより蛍光色素からの蛍光が検出されず、第二フラップが遊離したときに蛍光色素からの蛍光が検出されるようになるため、より簡便に検出することができる。
【0050】
第二フラップ切断ステップにおける好ましい反応条件は、第一フラップ切断ステップで説明した反応条件と同様の条件を挙げることができる。
【0051】
反応液中の第三核酸及び第四核酸の濃度は、例えば、それぞれ1nM以上10μM以下の範囲内で適宜設定してよい。
【0052】
第一フラップ切断ステップと、第二フラップ切断ステップは、異なる反応容器で実施してもよく、同じ反応容器で実施してもよい。操作がより簡便になることから、第一フラップ切断ステップと、第二フラップ切断ステップは、同じ反応容器で実施することが好ましい。この場合、反応液には、予め第三核酸及び第四核酸を含ませておけばよい。
【0053】
検出ステップは、切断された第二フラップを検出することで標的核酸の存在を検出するステップである。検出ステップは、例えば、電気泳動により第二フラップに対応するサイズのバンドを検出する方法、第二フラップが標識を有する場合は、その標識に応じて蛍光検出又は放射能検出等により検出する方法等により実施することができる。
【0054】
本実施形態に係る標的核酸の検出方法は、S/N比が向上しているため、デジタル計測に好適に応用することができる。
【0055】
本実施形態に係るキットは、上述の本発明に係る検出方法に使用するためのキットであって、上記第三核酸と、上記第四核酸と、上記フラップエンドヌクレアーゼと、上記標的核酸の塩基配列に応じて第一核酸及び第二核酸の塩基配列を設計する指針を示す説明書と、を含む。第一核酸、第二核酸、第三核酸及び第四核酸の具体的態様は、上述したとおりである。
【0056】
本発明はまた、サーモコッカス・コダカレンシス(Thermococcus kodakarensis)KOD1株、パイロコッカス・アビシ(Pyrococcus abyssi)GE5株、及びメタノサーモバクター・サームオートトロフィカス(Methanothermobacter Thermautotrophicus)Delta H株からなる群より選択される菌のフラップエンドヌクレアーゼのアミノ酸配列との配列同一性が96%以上であるアミノ酸配列をコードする核酸配列と、上記核酸配列に作動可能に連結された1又は複数の調節配列とを有する、発現ベクターにも関する。
【0057】
本実施形態に係る発現ベクターによれば、上述した本発明に係る検出方法に好適に使用することができるFENタンパク質を生産することができる。
【0058】
調節配列は、宿主におけるFENタンパク質の発現を制御する配列(例えば、プロモーター、エンハンサー、リボソーム結合配列、転写終結配列等)であり、宿主の種類に応じて適宜選択することができる。発現ベクターの種類は、プラスミドベクター、ウイルスベクター、コスミドベクター、フォスミドベクター、人工染色体ベクター等、宿主の種類に応じて適宜選択することができる。
【実施例】
【0059】
以下、本発明を試験例に基づいてより具体的に説明する。ただし、本発明は、以下の試験例に限定されるものではない。
【0060】
〔試験例1:FENタンパク質の調製〕
表1に示す様々な種のフラップエンドヌクレアーゼ(FEN)タンパク質をコードする遺伝子をPCR法又は化学合成により取得し、取得した遺伝子を大腸菌用の発現ベクター(pET21a)に組み換えた。化学合成により取得した遺伝子の場合は、C末端にヒスチジン6残基を付与するように遺伝子を合成した。なお、試験No.1(略称Afu)のFENタンパク質は、従来ICA法に使用されていた酵素である(特表2001-518805号公報参照)。
【0061】
【0062】
構築した発現ベクターで大腸菌(BL21-CodonPlus(DE3))を形質転換した。形質転換後の大腸菌を100μg/mLのアンピシリン及び35μg/mLのクロラムフェニコールを含むLB培地に播種し、OD600が約0.5になるまで37℃で培養した。次いで、1M IPTGを終濃度が0.5mMとなるように添加し、25℃で16時間培養して、FENタンパク質を大量発現させた。
【0063】
培養した大腸菌(培地1L)を遠心分離により回収し、緩衝液(25mL)に再懸濁した。再懸濁した大腸菌を超音波破砕した後、遠心分離して上清を回収した。次いで、回収した上清を80℃で20分間加熱した後、遠心分離して上清を回収した。次いで、回収した上清にポリエチレンイミンを添加した後、遠心分離して上清を回収した。回収した上清に硫酸アンモニウムを80%飽和となるように添加し、形成された沈殿を回収した。得られた沈殿を硫酸アンモニウムを含む緩衝液に再懸濁し、不溶物を除去した後、疎水性相互作用クロマトグラフィーにより分画し、目的とするFENタンパク質を含む画分を回収した。回収した画分を緩衝液で透析した後、FENタンパク質をヘパリンアフィニティクロマトグラフィーにより更に精製した。C末端にヒスチジン残基を有するタンパク質の場合は、培養した大腸菌(培地1L)を遠心分離により回収し、緩衝液(25mL)に再懸濁した。再懸濁した大腸菌を超音波破砕した後、遠心分離して上清を回収した。次いで、回収した上清を60~80℃で20分間加熱した後、遠心分離して上清を回収した。次いで、回収した上清をTALONメタルアフィニティーレジン(クロンテック社)に添加し、イミダゾールを含む緩衝液を用いて、固定化金属アフィニティークロマトグラフィーにより分画し、目的とするFENタンパク質を含む画分を回収した。
【0064】
なお、試験No.7(略称Sso)及び試験No.8(略称Sto)のFENタンパク質は、上記の精製過程において凝集沈殿してしまい、精製ができなかったため、以降の検討から除外した。
【0065】
精製された各FENタンパク質は、紫外線吸収を測定し、波長280nmのモル吸光係数より濃度を算出した。また、精製された各FENタンパク質をSDS-PAGEで解析したところ、予想されるサイズの単一バンドが確認された。また、一部マイナーバンドが検出されるものもあったが、非特異的なヌクレアーゼ活性がないことを確認した。
【0066】
〔試験例2:フラップ切断活性の評価〕
試験例1で精製したFENタンパク質のフラップ切断活性を評価した。開裂構造は、標的核酸(5’-GGTGATCGTTCGCTACATGTCGTCAGGATTCCAGGCAG-3’:配列番号1)、第一核酸(5’-FITC-AGACACATGGTATGTAGCGAACGATCACC-3’:配列番号2)及び第二核酸(5’-CTGCCTGGAATCCTGACGAC-3’:配列番号3)により形成した。当該開裂構造では、第一核酸の5’側の部分配列(5’端から下線を付したTまでの11塩基)がフラップとして1本鎖で突き出している。
【0067】
切断反応は、50mM Tris-HCl(pH7.6)、2.5mM MgCl2、10nM 基質DNA(上記の標的核酸、第一核酸及び第二核酸の等モル混合物)、0.5μM FENタンパク質の組成で反応溶液を調製し、当該反応溶液を55℃で10分間インキュベートすることで行った。
【0068】
反応終了後、8M尿素を含む12%ポリアクリルアミドゲルで電気泳動した。次いで、イメージアナライザ(Typhoon Trio+,GE Healthcare社製)を用いて、未切断の開裂構造(38塩基の位置のバンド)及び切断されたフラップ(11塩基の位置のバンド)の蛍光強度を測定した。測定された蛍光強度から、下記式に従って、フラップ切断活性を算出した。結果を表2に示す。
フラップ切断活性=(11塩基の位置のバンドの蛍光強度)/{(11塩基の位置のバンドの蛍光強度)+(38塩基の位置のバンドの蛍光強度)}×100(%)
【0069】
【0070】
表2に示すとおり、試験No.13(略称Pogun)及び試験No.15(略称Clagu)以外のFENタンパク質には、充分なフラップ切断活性が認められた。
【0071】
〔試験例3:2段階フラップ切断活性の評価〕
試験例2でフラップ切断活性が認められたFENタンパク質に対し、ICA法で通常採用されている2段階のフラップ切断反応におけるフラップ切断活性を評価した。評価系の概要は
図2に示すとおりである。
図2に示す評価系は、アレルプローブを蛍光標識することで、FENタンパク質による1段階目のフラップ切断反応(第一開裂構造の第一フラップを切断する反応)を検出可能にした点以外は、ICA法で一般に用いられる反応系と同等である。
【0072】
図2に示す評価系では、標的核酸(塩基配列:5’-GGTGATCGTTCGCTACATGTCGTCAGGATTCCAGGCAG-3’:配列番号4)と、第一核酸及び第二核酸にそれぞれ相当するアレルプローブ(塩基配列:5’-FAM-AGACACATGGTATGTAGCGAACGATCACC-BHQ1-3’:配列番号5)及びインベーダーオリゴヌクレオチド(塩基配列:5’-CTGCCTGGAATCCTGACGAC-3’:配列番号6)とから、第一開裂構造が形成される。アレルプローブの5’端及び3’端には、それぞれ蛍光分子(FAM)及び消光分子(BHQ1:チミン残基にブラックホールクエンチャーが修飾されたもの。)が結合されており、FENタンパク質により第一フラップが切断されると(1段階目のフラップ切断反応)、FAMの緑色蛍光が検出されるようになる。切断された第一フラップは、リンカー分子(ここでは、検出用核酸の塩基配列の一部)によって結合した第三核酸及び第四核酸に相当する検出用核酸(塩基配列:5’-RedmondRed-TCT-EclipseQuencher-TCGGCCTTTTGGCCGAGAGACTCCGCGTCCGT-3’:配列番号7)と第二開裂構造を形成する。検出用核酸の5’端には蛍光分子(RedmondRED)が結合されており、検出用核酸の5’末端から3残基目と4残基目の間には、消光分子(Eclipse Quencher)が挿入されており、FENタンパク質により第二フラップが切断されると(2段階目のフラップ切断反応)RedmondREDの赤色蛍光が検出されるようになる。
【0073】
試験No.1(略称Afu)、試験No.3(略称Mth)、試験No.4(略称Pab)、試験No.6(略称Tko)及び試験No.25(略称Pfu)のFENタンパク質に対して、2段階のフラップ切断反応を評価した。2段階のフラップ切断反応は、1μM アレルプローブ(第一核酸)、1μM インベーダーオリゴヌクレオチド(第二核酸)、4μM 検出用核酸(第三核酸及び第四核酸)、50mM Tris-HCl(pH8.5)、0.05v/v% Tween20、20mM MgCl2、0.086mg/mL又は0.1mg/mL FENタンパク質、0M、1.5pM、100nM又は1μM 標的核酸の組成で反応溶液を調製し、LightCycler480(登録商標)(Roche Diagnostics製)を使用してリアルタイムで蛍光強度を測定しながら、65℃で60分間インキュベートすることで行った。
【0074】
蛍光強度のリアルタイム測定の結果の一例を
図3に示す。
図3は、試験No.6(略称Tko)のFENタンパク質を使用したときの測定結果である。
図3(A)は、緑色蛍光(遊離した第一フラップからの蛍光)の測定結果を示すグラフである。
図3(B)は、赤色蛍光(遊離した第二フラップからの蛍光)の測定結果を示すグラフである。
【0075】
図3に示すとおり、標的核酸の濃度に応じて、緑色蛍光及び赤色蛍光共に増加する傾向が確認できる。なお、標的核酸の濃度が100nM及び1μMの場合は、標的核酸濃度が高いため、蛍光強度が飽和していると考えられる。また、標的核酸の濃度が1.5pMの場合、緑色蛍光と比べて赤色蛍光の方がバックグラウンド(標的核酸の濃度が0Mの場合)との差が大きくなっているが、これは、遊離した第一フラップが繰り返し検出用核酸と第二開裂構造を形成することによりシグナル(遊離した第二フラップ)の増幅が生じているためである。
【0076】
反応開始から30分後の時点での標的核酸の濃度が1.5pMの場合の赤色蛍光強度(シグナル)と標的核酸の濃度が0Mの場合の赤色蛍光強度(ノイズ)との比からS/N比を算出した。結果を表3に示す。
【0077】
【0078】
表3に示すとおり、試験No.3(略称Mth)、試験No.4(略称Pab)及び試験No.6(略称Tko)のFENタンパク質は、従来使用されていた試験No.1(略称Afu)のFENタンパク質よりも高いS/N比を示した。一方、試験No.25(略称Pfu)のFENタンパク質は、従来使用されていた試験No.1(略称Afu)のFENタンパク質よりもS/N比が低かった。
【0079】
上記以外のFENタンパク質及び試験No.6(略称Tko)のFENタンパク質に対して、以下の条件で2段階のフラップ切断反応を評価した。2段階のフラップ切断反応は、1μM アレルプローブ(第一核酸)、1μM インベーダーオリゴヌクレオチド(第二核酸)、2μM 検出用核酸(第三核酸及び第四核酸)、50mM Tris-HCl(pH8.5)、0.05v/v% Tween20、2.5mM MgCl2、1.16μM(試験No.10のみ)又は7.74μM FENタンパク質、0M、1.5pM、30pM又は100pM 標的核酸の組成で反応溶液を調製し、LightCycler480(登録商標)(Roche Diagnostics製)を使用してリアルタイムで蛍光強度を測定しながら、65℃で60分間インキュベートすることで行った。
【0080】
反応開始から30分後の時点での標的核酸の濃度が1.5pMの場合の赤色蛍光強度(シグナル)と標的核酸の濃度が0Mの場合の赤色蛍光強度(ノイズ)との比からS/N比を算出した。結果を表4に示す。
【0081】
【0082】
試験No.9~試験No.24及び試験No.26~試験No.29のFENタンパク質には、高いS/N比を示すものはなかった。
【0083】
〔試験例4:フラップ切断反応の反応条件の検討〕
試験No.3(略称Mth)及び試験No.6(略称Tko)のFENタンパク質を使用して、試験例3と同様の評価系で、フラップ切断反応の反応条件の検討を行った。
【0084】
<pH>
反応液組成は、pHをpH7.5、pH8.0、pH8.5又はpH9.0に調整した50mM Tris-HClをベースに、1μM アレルプローブ(第一核酸)、1μM インベーダーオリゴヌクレオチド(第二核酸)、2μM 検出用核酸(第三核酸及び第四核酸)、0.05v/v% Tween20、2.5mM MgCl2、0.5μM FENタンパク質、0M、100pM又は1nM 標的核酸を含む組成とした。反応液量は、10μLとした。反応溶液を調製した後、LightCycler480(登録商標)(Roche Diagnostics製)を使用してリアルタイムで蛍光強度を測定しながら、67℃で60分間インキュベートしてフラップ切断反応を行った。なお、pHの検討には、試験No.6(略称Tko)のFENタンパク質のみを使用した。
【0085】
反応開始から30分後の時点での標的核酸の濃度が100pMの場合の赤色蛍光強度(シグナル)と標的核酸の濃度が0Mの場合の赤色蛍光強度(ノイズ)との比からS/N比を算出した。結果を表5に示す。また、
図4に蛍光強度のリアルタイム測定の結果(グラフ)を示す。グラフの縦軸は蛍光強度を示し、横軸は反応開始からの時間(分)を示す、
図4(A)~(D)は、試験No.6(略称Tko)のFENタンパク質を使用してpH7.5、pH8.0、pH8.5又はpH9.0で測定した結果を示す。
【0086】
【0087】
図4及び表5に示すとおり、反応液のpHが7.5以上9.0以下の範囲内で良好なS/N比が認められた。また、pH8.5付近では、良好なS/N比に加えて、赤色蛍光強度の立ち上がりがより早くなる効果が認められた。赤色蛍光強度の立ち上がりが早いほど、より短時間での検出が可能になる。
【0088】
<温度>
反応液組成は、1μM アレルプローブ(第一核酸)、1μM インベーダーオリゴヌクレオチド(第二核酸)、2μM 検出用核酸(第三核酸及び第四核酸)、50mM Tris-HCl(pH8.5)、0.05v/v% Tween20、2.5mM MgCl2、0.5μM FENタンパク質、0M、30pM又は1nM 標的核酸とした。反応液量は、10μLとした。反応溶液を調製した後、LightCycler480(登録商標)(Roche Diagnostics製)を使用してリアルタイムで蛍光強度を測定しながら、55℃、60℃、65℃、67℃又は70℃で60分間インキュベートしてフラップ切断反応を行った。
【0089】
反応開始から30分後の時点での標的核酸の濃度が30pM又は1nMの場合の赤色蛍光強度(シグナル)と標的核酸の濃度が0Mの場合の赤色蛍光強度(ノイズ)との比からS/N比を算出した。結果を表6に示す。また、
図5~
図8に蛍光強度のリアルタイム測定の結果(グラフ)を示す。グラフの縦軸は蛍光強度を示し、横軸は反応開始からの時間(分)を示す、
図5(A)~(E)は、試験No.6(略称Tko)のFENタンパク質を使用して、標的核酸の濃度30pMで55℃、60℃、65℃、67℃又は70℃で測定した結果を示す。
図6(A)~(E)は、試験No.6(略称Tko)のFENタンパク質を使用して、標的核酸の濃度1nMで55℃、60℃、65℃、67℃又は70℃で測定した結果を示す。
図7(A)~(E)は、試験No.3(略称Mth)のFENタンパク質を使用して、標的核酸の濃度30pMで55℃、60℃、65℃、67℃又は70℃で測定した結果を示す。
図8(A)~(E)は、試験No.3(略称Mth)のFENタンパク質を使用して、標的核酸の濃度1nMで55℃、60℃、65℃、67℃又は70℃で測定した結果を示す。
【0090】
【0091】
図5~8及び表6に示すとおり、反応液の温度が55℃以上70℃以下の範囲内で良好なS/N比が認められた。また、試験No.6(略称Tko)のFENタンパク質では、温度が60℃以上70℃以下の範囲内では、良好なS/N比に加えて、標的核酸の濃度が低い場合でも、赤色蛍光強度の立ち上がりがより早くなる効果が認められた。同様の効果が、試験No.3(略称Mth)のFENタンパク質では、温度が55℃以上65℃以下の範囲内で認められた。
【0092】
<Mg2+イオン濃度>
反応液組成は、1μM アレルプローブ(第一核酸)、1μM インベーダーオリゴヌクレオチド(第二核酸)、2μM 検出用核酸(第三核酸及び第四核酸)、50mM Tris-HCl(pH8.5)、0.05v/v% Tween20、1mM、2.5mM、5mM、10mM又は20mM MgCl2、0.5μM FENタンパク質、0M、100pM又は1nM 標的核酸とした。反応液量は、10μLとした。反応溶液を調製した後、LightCycler480(登録商標)(Roche Diagnostics製)を使用してリアルタイムで蛍光強度を測定しながら、67℃で60分間インキュベートしてフラップ切断反応を行った。なお、Mg2+イオン濃度の検討には、試験No.6(略称Tko)のFENタンパク質のみを使用した。
【0093】
反応開始から30分後の時点での標的核酸の濃度が100pMの場合の赤色蛍光強度(シグナル)と標的核酸の濃度が0Mの場合の赤色蛍光強度(ノイズ)との比からS/N比を算出した。結果を表7に示す。また、
図9に蛍光強度のリアルタイム測定の結果(グラフ)を示す。グラフの縦軸は蛍光強度を示し、横軸は反応開始からの時間(分)を示す、
図9(A)~(E)は、試験No.6(略称Tko)のFENタンパク質を使用してMg
2+濃度1mM、2.5mM、5mM、10mM又は20mMで測定した結果を示す。
【0094】
【0095】
図9及び表7に示すとおり、反応液中のMg
2+濃度が1mM以上20mM以下の範囲内(好ましくは、2.5mM以上20mM以下の範囲内)で良好なS/N比が認められた。また、Mg
2+濃度が5mM以上10mM以下の範囲内では、良好なS/N比に加えて、赤色蛍光強度の立ち上がりがより早くなる効果が認められた。
【0096】
<K+イオン濃度>
反応液組成は、1μM アレルプローブ(第一核酸)、1μM インベーダーオリゴヌクレオチド(第二核酸)、2μM 検出用核酸(第三核酸及び第四核酸)、50mM Tris-HCl(pH8.5)、0.05v/v% Tween20、2.5mM MgCl2、0mM、25mM、50mM、100mM又は200mM KCl、0.5μM FENタンパク質、0M、1nM又は10nM 標的核酸とした。反応液量は、10μLとした。反応溶液を調製した後、LightCycler480(登録商標)(Roche Diagnostics製)を使用してリアルタイムで蛍光強度を測定しながら、67℃で60分間インキュベートしてフラップ切断反応を行った。
【0097】
反応開始から30分後の時点での標的核酸の濃度が1nMの場合の赤色蛍光強度(シグナル)と標的核酸の濃度が0Mの場合の赤色蛍光強度(ノイズ)との比からS/N比を算出した。結果を表8に示す。また、
図10~11に蛍光強度のリアルタイム測定の結果(グラフ)を示す。グラフの縦軸は蛍光強度を示し、横軸は反応開始からの時間(分)を示す、
図10(A)~(E)は、試験No.6(略称Tko)のFENタンパク質を使用してK
+濃度0mM、25mM、50mM、100mM又は200mMで測定した結果を示す。
図11(A)~(E)は、試験No.3(略称Mth)のFENタンパク質を使用してK
+濃度0mM、25mM、50mM、100mM又は200mMで測定した結果を示す。
【0098】
【0099】
図10~11及び表8に示すとおり、反応液中のK
+濃度が100mM以下の範囲内で良好なS/N比が認められた。また、当該範囲内でS/N比及び立ち上がりの早さに大きな差異はないことから、K
+は必ずしも必要がない(0mMでよい)ことが分かる。
【0100】
<Tris(トリスヒドロキシメチルアミノメタン)濃度>
反応液組成は、1μM アレルプローブ(第一核酸)、1μM インベーダーオリゴヌクレオチド(第二核酸)、2μM 検出用核酸(第三核酸及び第四核酸)、5mM、20mM、50mM、100mM、200mM、300mM、400mM又は500mM Tris-HCl(pH8.5)、0.05v/v% Tween20、5mM MgCl2、0.5μM FENタンパク質、0M、100pM又は1nM 標的核酸とした。反応液量は、10μLとした。反応溶液を調製した後、LightCycler480(登録商標)(Roche Diagnostics製)を使用してリアルタイムで蛍光強度を測定しながら、67℃で60分間インキュベートしてフラップ切断反応を行った。
【0101】
反応開始から30分後の時点での標的核酸の濃度が100pMの場合の赤色蛍光強度(シグナル)と標的核酸の濃度が0Mの場合の赤色蛍光強度(ノイズ)との比からS/N比を算出した。結果を表9に示す。また、
図12~13に蛍光強度のリアルタイム測定の結果(グラフ)を示す。グラフの縦軸は蛍光強度を示し、横軸は反応開始からの時間(分)を示す、
図12(A)~(H)は、試験No.6(略称Tko)のFENタンパク質を使用してTris濃度5mM、20mM、50mM、100mM、200mM、300mM、400mM又は500mMで測定した結果を示す。
図13(A)~(H)は、試験No.3(略称Mth)のFENタンパク質を使用してTris濃度5mM、20mM、50mM、100mM、200mM、300mM、400mM又は500mMで測定した結果を示す。
【0102】
【0103】
図12~13及び表9に示すとおり、反応液中のTris濃度が300mM以下の範囲内(好ましくは、5mM以上300mM以下の範囲内)で良好なS/N比が認められた。また、赤色蛍光強度の立ち上がりも早かった。
【0104】
〔試験例5:デジタル計測への応用〕
試験No.1(略称Afu)及び試験No.6(略称Tko)のFENタンパク質を使用して、デジタル計測による標的核酸の検出効率を評価した。
【0105】
複数のマイクロウェルを有する平板状の透明なシクロオレフィンポリマー(COP)製の基板と、COP製のカバー部材とを貼り合わせ、マイクロ流体デバイスを作製した。カバー部材は、貼り合わされたときにマイクロウェルが形成されている領域を挟むように注入口と排出口を有し、周縁部に盛り上がった50μmの段差があるものを用いた。マイクロ流体デバイスの各ウェルは、円筒形に形成した。各ウェルの直径(開口径)は10μm、ウェルの深さは15μmに設計した。基板及びカバー部材は、熱可塑性樹脂を用いて射出成形で作製した。段差の端部と基板とを接触させ、接触部分をレーザー溶着した。
【0106】
試薬1として、150aM ターゲットDNAオリゴ(ファスマック社製:標的核酸:5’-CCGAAGGGCATGAGCTGCATGATGAGCTGCACGGTGGAGGTGAGGCAGATGCCCAG-3’:配列番号8)、0.5μM アレルプローブ(ファスマック社製:第一核酸:5’-ACGGACGCGGAGTGCAGCTCATGCCC-3’:配列番号9)、1μM インベーダーオリゴ(ファスマック社製:第二核酸:5’-CCACCGTGCARCTCATCAA-3’:配列番号10)、4μM FRET Cassette(RedmondRED-Eclipse Quanrure)(つくばオリゴサービス社製:第三核酸及び第四核酸:5’-Redmond Red-TCT-Eclipse Quencher-TCGGCCTTTTGGCCGAGAGACTCCGCGTCCGT-3’:配列番号11)、FENタンパク質(略称Tko又は略称Afu)、50mM Tris-HCl(pH8.5)、20mM MgCl2、0.05v/v% Tween20を含む水溶液を調製した。また、封止液として、フッ素系オイル(FC40、SIGMA社製)を使用した。
【0107】
まず、上記で調製した試薬1(20μL)をピペットを用いてマイクロ流体デバイスの注入口に送液して、マイクロウェル及び流路を試薬1で満たした。その後、フッ素系オイル(150μL)をマイクロ流体デバイスの注入口に送液して、流路内の試薬1を置換し、試薬1をマイクロウェル内に封止した。余剰の試薬1及びフッ素系オイルは、排出口から排出された。
【0108】
マイクロ流体デバイスをホットプレート上に載せ、ホットプレート温度を67℃に加熱して、25分間反応を行った。その後、蛍光顕微鏡(BZ-X700、キーエンス社製)でマイクロ流体デバイスの観察を行った。結果を
図14に示す。
【0109】
事前の予備実験から、投入した標的核酸量(150aM)から予想される輝点数は(1ウェル/13513ウェル)であった。
図14に示すとおり、試験No.6(略称Tko)のFENタンパク質の結果は、予想値とほぼ一致した。一方、試験No.1(略称Afu)のFENタンパク質の結果は、予想値を大幅に上回り、そのうちの大半はぼんやりとした輝度のもの(副反応)であった。
【配列表】