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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】天井構造
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/98 20060101AFI20241016BHJP
   E04B 1/82 20060101ALI20241016BHJP
   E04B 1/84 20060101ALI20241016BHJP
   E04B 9/00 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
E04B1/98 E
E04B1/82 M
E04B1/84 A
E04B9/00 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021037021
(22)【出願日】2021-03-09
(65)【公開番号】P2022137500
(43)【公開日】2022-09-22
【審査請求日】2024-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】313012349
【氏名又は名称】旭ファイバーグラス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100180415
【弁理士】
【氏名又は名称】荒井 滋人
(74)【代理人】
【識別番号】100097205
【弁理士】
【氏名又は名称】樋口 正樹
(72)【発明者】
【氏名】板谷 透
(72)【発明者】
【氏名】志村 貴文
【審査官】須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-148108(JP,A)
【文献】特開2019-060147(JP,A)
【文献】特開2014-037678(JP,A)
【文献】特開2018-123669(JP,A)
【文献】特開平08-189126(JP,A)
【文献】特開2014-205970(JP,A)
【文献】特開2017-227062(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 9/00
E04B 1/62-1/99
E04B 5/43
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
階上の床面に対して空間を存して配されている階下の天井面を形成する天井板と、
該天井板に載置されている衝撃音低減材と、
該衝撃音低減材を形成する袋状の袋体と、
該袋体に収容されている低減材料体とを備えた天井構造において、
前記衝撃音低減材の前記天井板1mに対する重量である施工重量は5kg/m以上11kg/m以下であり、
前記天井板の面積を100%としたときに前記衝撃音低減材が占める面積の割合である占有面積が55%以上95%以下であり、
前記低減材料体は無機繊維を50wt%以上含み、
前記低減材料体の嵩密度は50kg/m以上200kg/m以下であることを特徴とする天井構造。
【請求項2】
前記階上の床面を含む板形状のスラブと、
該スラブに対して吊り下げられて平行に並んで配されている複数本の野縁受けと、
該野縁受けの下側に取付けられていて前記野縁受けと直交方向に間隔を存して平行に配されている複数本の野縁とをさらに備え、
前記野縁受け及び前記野縁にて平面視にて格子形状が形成されていて、
前記衝撃音低減材は、格子内に配されていることを特徴とする請求項1に記載の天井構造。
【請求項3】
前記低減材料体は、平均繊維径が2μm以上6μm以下のグラスウールであることを特徴とする請求項1に記載の天井構造。
【請求項4】
前記袋体の通気度は20cc/(cm・s)以下であることを特徴とする請求項1に記載の天井構造。
【請求項5】
前記袋体の摩擦係数は0.1以上0.6以下であることを特徴とする請求項1に記載の天井構造。
【請求項6】
前記衝撃音低減材と前記天井板との間には、補助具が介在されていて、
前記衝撃音低減材は前記補助具を介して前記天井板に載置されていることを特徴とする請求項1に記載の天井構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、階上から階下への衝撃音の低減を図ることができる天井構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、階上における床から階下における天井への衝撃音の伝達が問題となっている。このような階下への衝撃音の低減を図るため、階下の天井に対して粒状物質(粒状の多孔質材料)を充填した袋状の衝撃音低減材が配されている(例えば特許文献1及び特許文献2参照)。特許文献1では、天井板の振動をこの衝撃音低減材にて吸収し、階下への伝達を防止するものとしている。
【0003】
特許文献2では、粒状物質を防音材として、袋に充填せずとも効果があるとしている。この防音材としては中実樹脂成形品、発泡樹脂成形品、中空樹脂成形品、これらの樹脂成形品の粉砕物、木片、木粉を接着剤で固めた木粉ペレット、炭等が例として掲げられている。また、防音材として多孔質が好ましい旨記載され、樹脂としてもポリスチレンが好ましい旨記載されている。
【0004】
ここで、衝撃音低減材は制振体としての役割を果たして防音を図るものであるとして、この衝撃音低減材の重量と衝撃音の低減量との関係が着目されている(例えば特許文献3参照)。特許文献3では、天井板と衝撃音低減材との重量比を少なくすることでコスト低減、設置工事の容易化を図っている。
【0005】
しかしながら、天井板の制振のみを防止するのみでは、いわゆる重量床衝撃音である63Hz近辺の衝撃音を低減することができるのみで、天井板の振動を伴わないで伝わる125Hz~1000Hz近辺のいわゆる軽量床衝撃音に対してはそれほど衝撃音低減効果として有効ではない。例えば特許文献2では重量床衝撃音の周波数近辺を検証し、特許文献3では実施例においても軽量床衝撃音の範囲では衝撃音の低減量は減少傾向になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平8-189126号公報
【文献】特開2014-205970号公報
【文献】特開2017-227062号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術を考慮したものであり、重量床衝撃音であっても軽量床衝撃音であっても階上の衝撃音が階下に伝達される際にこれを低減することができる天井構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するため、本発明では、階上の床面に対して空間を存して配されている階下の天井面を形成する天井板と、該天井板に載置されている衝撃音低減材と、該衝撃音低減材を形成する袋状の袋体と、該袋体に収容されている低減材料体とを備えた天井構造において、前記衝撃音低減材の前記天井板1mに対する重量である施工重量は5kg/m以上11kg/m以下であり、前記天井板の面積を100%としたときに前記衝撃音低減材が占める面積の割合である占有面積が55%以上95%以下であり、前記低減材料体は無機繊維を50wt%以上含み、前記低減材料体の嵩密度は50kg/m以上200kg/m以下であることを特徴とする天井構造を提供する。
【0009】
好ましくは、前記階上の床面を含む板形状のスラブと、該スラブに対して吊り下げられて平行に並んで配されている複数本の野縁受けと、該野縁受けの下側に取付けられていて前記野縁受けと直交方向に間隔を存して平行に配されている複数本の野縁とをさらに備え、前記野縁受け及び前記野縁にて平面視にて格子形状が形成されていて、前記衝撃音低減材は、格子内に配されている。
【0010】
好ましくは、前記低減材料体は、平均繊維径が2μm以上6μm以下のグラスウールである。
【0011】
好ましくは、前記袋体の通気度は20cc/(cm・s)以下である。
【0012】
好ましくは、前記袋体の摩擦係数は0.1以上0.6以下である。
【0013】
好ましくは、前記衝撃音低減材と前記天井板との間には、補助具が介在されていて、前記衝撃音低減材は前記補助具を介して前記天井板に載置されている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、天井構造における衝撃音低減材の施工重量が5kg/m以上11kg/m以下であるため、低減材料体として多孔質体を用いることに比べて軽量化が可能になっている。また低減材料体を無機繊維とすることで、粒状物よりも振動しやすいため、天井板の振動を吸収するような制振効果も発揮できる。また、袋体に収容された低減材料体の嵩密度を50kg/m以上200kg/m以下とすることで、振動をさらに受けて動きやすくなっている。占有面積については、55%を下回ると軽量床衝撃音の低減効果が低下することが分かっている。これらの数値による限定の範囲内のものが効率的に重量床衝撃音及び軽量床衝撃音を低減させることを確認している。なお、無機繊維を上記嵩密度で充填するためには必然的に袋の体積が大きくなり、結果として占有面積を大きくすることができるようになっている。
【0015】
また、低減材料体が格子内、すなわち野縁受けと野縁で形成された格子面の内部であって、できるだけ中心側(格子内の中央)に配されることで、最も振動して音を発する天井板の箇所に低減材料体が配されることになり、効率的に制振効果・床衝撃音低減効果を得ることができる。
【0016】
また、低減材料体を平均繊維径2μm以上6μm以下と、比較的細いグラスウールとすることで、床衝撃を繊維の振動に変換しやすく、結果として、重量床衝撃音・軽量床衝撃音ともに低減効果が高まる。平均繊維径2μm未満の無機繊維は床衝撃音低減効果が高いが、特殊で高価であるため好ましくない。一方、平均繊維径が6μmを超えると、床衝撃を繊維の振動に変換しにくくなり、結果として床衝撃音低減効果が少なくなるため好ましくない。
【0017】
また、袋体の通気度は20cc/(cm・s)以下、より好ましくは非通気である。通気度が高く(通気抵抗が低く)なるにつれ、遮音性(音響透過損失低減レベル)が悪化していく。その結果、軽量床衝撃音レベルの低減効果が低下していく。衝撃音低減材の占有面積とあわせ、袋の通気度は軽量床衝撃音の低減効果に与える影響が高い。
【0018】
また、無機繊維を封入する袋の静摩擦係数は0.1以上0.6以下である。これは、収容された低減材料体が滑りやすいということになる。これにより、低減材料体が振動しやすくなり、衝撃音低減効果が増大する。
【0019】
また、補助具が衝撃音低減材と天井板との間に介在していることで、予め野縁間に架け渡された補助具に衝撃音低減材を載置し、その後天井板を下方から野縁に対して取付けるので、施工が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明に係る天井構造の概略断面図である。
図2】本発明に係る天井構造の概略平面図である。
図3】本発明に係る天井構造の概略斜視図である。
図4】本発明に係る別の天井構造の概略断面図である。
図5】本発明に係る別の天井構造の概略斜視図である。
図6】本発明に係るさらに別の天井構造の概略斜視図である。
図7】実験における実施例及び比較例の各パラメータを示す表である。
図8】実験結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1から図3に示すように、本発明に係る天井構造1は、階上の床面2を含む板形状のスラブ3に対して空間4を存して配されている天井板5を備えている。天井板5は、階下の天井面をその下面に形成している。この天井板5には、衝撃音低減材6が複数個載置されている。スラブ3からは吊りボルト7が鉛直下方に向けて取付けられている。この吊りボルト7は折り曲げられた板材からなるハンガー8に螺着している。このハンガー8には野縁受け9が取付けられている。すなわち、野縁受け9はスラブ3に対して吊りボルト7及びハンガー8を介して吊り下げられて取付けられている。野縁受け9は長尺で有り、複数本が平行に並んで配されている。
【0022】
この野縁受け9の下側には、野縁10が取付けられている。野縁10は野縁受け9に対して直交方向に複数本が間隔を存して平行に配されている。したがって、平面視にて、野縁受け9と野縁10で格子形状が形成されている。衝撃音低減材6は、この格子内に配されている。ここで、衝撃音低減材6は袋状の袋体とその内部に収容されている低減材料体とで形成されている。
【0023】
衝撃音低減材6は、天井板1mに対してその重量が5kg以上11kg以下、すなわち施工重量は5kg/m以上11kg/m以下である。このため、低減材料体として多孔質体を用いることに比べて軽量化が可能になっている。また、天井板5の面積を100%としたときに衝撃音低減材6が占める面積の割合である占有面積は55%以上95%以下である。占有面積については、55%を下回ると軽量床衝撃音の低減効果が低下することが分かっている。
【0024】
低減材料体は無機繊維を50wt%以上含んでいる。無機繊維は粒状物よりも振動しやすいため、天井板5の振動を吸収するような制振効果が発揮できる。また、低減材料体の嵩密度は50kg/m以上200kg/m以下である。この嵩密度の値によっても、振動をさらに受けて動きやすくなっている。なお、無機繊維をこの範囲の嵩密度で充填するためには必然的に袋の体積が大きくなり、結果として占有面積を大きくすることができるようになっている。低減材料体としては、無機繊維を50wt%以上含んでいれば、その他は多孔質の材料体でもよい。
【0025】
低減材料体が格子内、すなわち野縁受け9と野縁10とで形成された格子面の中心側に配されることで、最も振動する天井板5の箇所に低減材料体が配されることになり、効率的に制振効果を得ることができる。
【0026】
ここで、低減材料体を構成する無機繊維については、平均繊維径が2μm以上6μm以下のグラスウールであることが好ましい。低減材料体として平均繊維径2μm以上6μm以下の比較的細いグラスウールを含ませることで、床衝撃を繊維の振動に変換しやすく、結果として、重量床衝撃音・軽量床衝撃音ともに低減効果が高まる。平均繊維径2μm未満の無機繊維は床衝撃音低減効果が高いが、特殊で高価であるため好ましくない。一方、平均繊維径が6μmを超えると、床衝撃を繊維の振動に変換しにくくなり、結果として床衝撃音低減効果が少なくなるため好ましくない。ただし、無機繊維としてはグラスウールの他、ロックウール、長繊維ガラス、バサルトファイバー、炭素繊維等を用いることもできる。また、無機繊維は1種だけでなく、混合して使用しても構わない。
【0027】
袋体の通気度は20cc/(cm・s)以下、より好ましくは袋体は非通気(通気度ゼロ)である。通気度が高く(通気抵抗が低く)なるにつれ、遮音性(音響透過損失低減レベル)が悪化していく。その結果、軽量床衝撃音レベルの低減効果が低下していく。吸音材である無機繊維の繊維径および衝撃音低減材の占有面積とあわせ、袋の通気度は軽量床衝撃音の低減効果に与える影響が高い。なお、この通気度は袋体をフラジール形通気性試験機でJIS L 1096「一般織物試験方法」により測定できる。
【0028】
また、袋体の摩擦係数は0.1以上0.6以下である。これは、収容された低減材料体が滑りやすいということになる。これにより、低減材料体が振動しやすくなり、衝撃音低減効果が増大する。
【0029】
袋体の材質は、樹脂製フィルム、紙、布、金属箔、金属蒸着フィルム、ゴムシート、発泡シート等を用いることができ、袋体の上面と下面の素材を変えてもよい。なお、衝撃音低減材6として用いる場合は、袋体を施工した時の少なくとも上面が上述した通気度であり、袋内部の摩擦係数が上述した範囲の値を備えていればよい。袋体の下面は通気度20cc/(cm・s)を超える不織布や布、紙、縫製シート、ワリフ、などであっても良い。また、予め衝撃音低減材6を圧縮梱包して施工現場に持ち込み、現場で圧縮を解いて所定の嵩密度になるよう厚みを復元させて施工しても良い。さらには、無機繊維の粉砕物と袋を施工現場に持ち込み、その場で袋詰めして施工することもできる。
【0030】
ここで、衝撃音低減材6と天井板5との間には、補助具11が介在されている。換言すれば、衝撃音低減材6は補助具11を介して天井板5に載置されている(図1では、図の理解を優先して補助具11と天井板5との間に間隙を設けているが、実際は接している)。図1図3の例では、補助具として長尺のテープを用いたものを示している。
【0031】
このテープからなる補助具11は、隣り合う野縁10間に掛け渡されていて、天井板5が設置されるまでの間、衝撃音低減材6を格子内に保持しておくためのものである。従って、天井板5が設置されていない間はテープにより衝撃音低減材6は保持されていて、自重により野縁10よりも下側に位置している場合があるが、天井板5を設置する際に衝撃音低減材6は天井板5に接して持ち上げられる。このように補助具11を用いることで、施工効率が向上する。
【0032】
なお、図4及び図5に示すように、補助具11としては専用の治具を用意してもよい。治具は、両端が野縁10の上側に引っ掛けられるような耳部11aを有し、断面略C字形状を有している。耳部11aを隣り合う野縁10の両方に引っ掛けることで治具は支持される。治具の凹み部分に衝撃音低減材6を載せることで、衝撃音低減材6は保持される。そして、天井板5を設置する際に治具の底面と天井板5とが接して持ち上げられ、耳部11aは野縁10から少し浮いた状態となる。したがって衝撃音低減材6の重みは直接天井板5に伝わっている(衝撃音低減材6の全荷重は天井板5にかかっている)。補助具11としては、上述したテープや治具の他、先端にフックがついた紐のようなものでもよい。また補助具11が予め衝撃音低減材6に備わっていてもよい。
【0033】
上述したような数値による限定の範囲内の衝撃音低減材6を用いた天井構造1が効率的に重量床衝撃音及び軽量床衝撃音を低減させることを実験にて確認した。実験の条件は以下の通りである。
【0034】
上下面積が20mの残響室(スラブ3の厚み200mm)の1階天井に、野縁受け9と野縁10で格子を組んだ天井下地を吊りボルト7で吊り下げて、床と天井板(石膏ボード)5の間隔が200mmとなるよう設置した。吊りボルト7の間隔は900mm、野縁受け9の間隔は900mmでこれに直行するように格子状に300mm間隔で野縁10を取り付けた。なお、天井板5と壁との隙間はマスキングテープで目止めした。
【0035】
実験では補助具11としてテープ及び治具を用いた。テープを使用する場合は、隣り合う野縁10間にテープを貼って、その上に衝撃音低減材6を載せた。その後、天井板5を押し当てて衝撃音低減材6を押し上げながら、天井板5を野縁10にビスで固定した。治具を使用する場合は、野縁10の高さ40mmに対して高さを100mmとした鉄製の治具を使用した。治具の重さは300gである。また、治具の裏全面には、両面テープを貼りつけ、治具が天井板5や野縁10などに接触したときに異音が発生しない様にした。
【0036】
重量衝撃音の計測は、建築物の床衝撃音遮断性能の測定方法-第1部:標準軽量衝撃源による方法JIS A1418-1(2000)に記載の通り行い、軽量衝撃音の計測は、建築物の床衝撃音遮断性能の測定方法-第2部:標準重量衝撃源による方法JIS A1418-2(2000)に記載の通り行った。重量衝撃音の計測及び軽量衝撃音の計測とも、2階建て構造で1階及び2階とも残響室である試験室で行った。2階の床の面積は5×4=20m、スラブ厚みは200mmである。軽量床衝撃音の発生源はタッピングマシン(軽量床衝撃音発生器)(JIS A1418-1)を使用し、重量衝撃音の発生はバングマシン(重量床衝撃音発生器)(JIS A1418-2)を使用した。これらを用いて直接コンクリートスラブを叩いた。1階(受音側)の容積は60mである。
【0037】
実験では、2階の床5か所に衝撃を与え、1階の直下で騒音計を使用して衝撃音レベルを測定した。各測定点におけるマイクロフォンの高さは、1400mm、1200mm、1800mm、2000mm、1000mmとした。
【0038】
軽量床衝撃音は、各測定点で125Hz~2000Hzの各周波数に対してn=5で衝撃音レベルを測定し、その平均値を算出した。重量床衝撃音試験は、各測定点で63Hz~500Hzの各周波数に対してn=5で衝撃音レベルを測定し、その平均値を算出した。なお、軽量衝撃音の測定後、同じ施工状況で重量衝撃音の測定を行っている。
【0039】
衝撃音低減レベルについては、衝撃音低減材6を非設置の場合をブランクとし、ブランクの各周波数の衝撃音の値から、衝撃音低減材6を使用した時の値を差し引いた値とした。つまり、衝撃音低減レベルの数値が大きい方が衝撃音の低減量が多いということになる。
【0040】
実験は、本発明に係る天井構造1の要件を備えた実施例1~実施例6を用意し、要件を備えないものとして比較例1~比較例7を用意した。
【0041】
評価は以下の観点で行った。
・軽量性/施工性
衝撃音低減材6の重量が6kg以下であれば○とした。施工性は難なく天井裏に挿入できれば〇とした。衝撃音低減材6を天井裏に載せる際に、野縁10や野縁受け9に引っかかって挿入しにくかったり、垂れ下がって天井板5を施工しにくい場合は×とした。
【0042】
・重量床衝撃音
63Hz~500Hzの衝撃音低減レベルが2dB以上であれば〇とした。低減レベルが2dB未満の場合は×とした。
・63Hz低減
重量床衝撃音について、重要な周波数である63Hzについては別個に評価として示した。衝撃音低減レベルが3.5dB以上あれば○とした。
【0043】
・軽量床衝撃音
125Hz~2000Hzの衝撃音低減レベルが1.3dB以上であれば〇とした。低減レベルが1.3dB未満の場合は×とした。
・125Hz低減
軽量床衝撃音について、重要な周波数である125Hzについては別個に評価として示した。衝撃音低減レベルが3dB以上あれば○とした。
【0044】
・判定
全て○の場合は○とし、一つでも×があれば×とした。
【0045】
以下、実施例及び比較例について説明する。なお、実施例の各パラメータは図7に示し、実験結果は図8に示す。
・実施例1
平均繊維径3μmで密度36kg/mのグラスウール(表中はGWと表記)をスクリーンサイズ10mmの粉砕機で粉砕し、寸法750mm×450mmで厚みが100μmのポリエチレン製の袋に総重量2kgとなるよう詰め込み、袋の口をテープで閉じた。グラスウールを詰めた後の袋の大きさ(縦・横)は袋の規格サイズではなく、実測値を使用した。厚みは、袋の中央、袋の四隅から中心に向かって100mmの位置で測定した。すなわち、低減材料体がグラスウールということである。
【0046】
実施例1では、寸法730mm×430mm×厚み82mmであり、充填された無機繊維の嵩密度は70kg/mであった。天井下地の野縁受け中央の野縁間にあらかじめテープを2本300mm間隔で貼っておき、その上に衝撃音低減材を載せた。テープに乗せた後の衝撃音低減材の大きさは700mm×300mmであり、寸法1.82m×0.91mの天井板の面積に対して、占有面積76%であった。衝撃音低減材は、20mに対して60個載せて、施工重量が6g/mであった。袋は2kgと軽く施工性が良く、重量床衝撃音、軽量床衝撃音ともに良い性能となった。なお、図でいえば実施例1は図1図3の例である。
【0047】
・実施例2
実施例1ではテープを使用して衝撃音低減材を施工したが、実施例2では治具を使用して衝撃音低減材の長さ700mmで幅が300mmとなるよう施工した。それ以外の条件は実施例1と同じ条件で試験した。
【0048】
実施例1と比べて治具を使用した実施例2の方が、重量床衝撃音低減レベルが若干良くなった。治具を使用することで衝撃音低減材の全荷重が石膏ボードにかかり、振動を効率よく低減できたと考えられる。実施例1および実施例2の結果から、施工方法によらず、本発明の衝撃音低減材を使用すれば良好な床衝撃音低減効果が得られることが分かる。なお、図でいえば実施例2は図4及び図5である。
【0049】
・実施例3
実施例2で使用したグラスウールの平均繊維径を5.5μmとし、粉砕前の密度を24kg/mとしたことの他は、すべて実施例2と同じ条件である。グラスウールの平均繊維径を5.5μmにすると、実施例2と比べると重量床衝撃音低減レベルおよび軽量床衝撃音低減レベルの両方の性能が若干低下したが、良好な性能であった。
【0050】
・実施例4
実施例4では低減材料体を、平均繊維径3μmで密度36kg/mのグラスウールをスクリーンサイズ10mmの粉砕機で粉砕したもの60重量%と、平均繊維径9μmのEガラス組成の長繊維ガラス(表中にはGFと表記)を30mmにカットし解繊して密度80kg/mとしたもの40重量%とを混合したものとした。
【0051】
また、実施例2では20mの天井に対して床衝撃音低減材を60個施工したが、実施例4では90個施工した。施工後の床衝撃音低減材の寸法は長さ850mm、幅300mmであり、石膏ボードの面積を100%としたときの占有割合は92%であった。それ以外の条件は実施例2と同じ条件で試験した。
【0052】
実施例4の衝撃音低減材は2kgと軽量で施工性は良好であり、実施例2と比べて衝撃音低減材を1.5倍の重量にしたことで、重量床衝撃音と軽量床衝撃音の両方で性能が改善した。更には、重量床衝撃音の63Hzの衝撃音低減レベルを5dB以上とすることができた。これらのことから、平均繊維径が細くなるよう長繊維ガラスを混合しても良いこと、衝撃音低減材の施工重量が重いほど性能改善できることが分かる。
【0053】
さらに、実施例4では実施例2と比べて軽量床衝撃音の低減効果も高まっている。実施例4の衝撃音低減材は天井板の面積に対する占有割合(専有面積)が大きい為、音響透過損失が高まったものと考えられる。したがって、軽量床衝撃音の低減レベルを高めるためには、衝撃音低減材の占有面積を大きくすることが重要であることが分かる。
【0054】
一方、実施例4では袋の中に平均繊維径9μmの長繊維ガラスを40重量%充填したので、衝撃を受け揺れやすい平均繊維径3μmの無機繊維(グラスウール)の充填量が少なくなったため、施工重量を増やした割には重量床衝撃音の63Hzの低減効果が少なくなった。また、実施例4は袋の大きさが大きく重い為、実施例1や実施例2と比べて、施工にやや時間が長くなった。本結果より施工性の面で、天井に無理なく施工できる床衝撃音低減材の最大重量は11kg/m程度であると考えた。63Hzの重量床衝撃音を大きく改善したい場合は、無機繊維の少なくとも平均繊維径を6μm以下にする必要があるといえる。なお、図でいえば実施例4は図6である。図示したように、格子が埋まるくらいに衝撃音低減材が敷き詰められている。
【0055】
・実施例5
実施例1で使用したグラスウールを60重量%、硫酸バリウム(表中はBaSOと表記)を40重量%混合し、実施例1で使用したポリエチレン製の袋に充てんして総量を3kgとした。硫酸バリウムは比重が重いため衝撃音低減材を重くしやすい。また、また粒が細かく、グラスウールの繊維と絡みやすく扱いやすかった。得られた衝撃音低減材に封入されたグラスウールと硫酸バリウムの混合体の嵩密度は120kg/mであった。施工した袋の数は40個、施工重量は6kg/mである。それ以外の条件は実施例1と同じにして実験を行った。
【0056】
結果として、グラスウールの一部を硫酸バリウムにして繊維材料が減ったため重量床衝撃音と軽量床衝撃音はやや悪化したが、平均繊維径3μmのグラスウールを50重量%以上含むため比較的良い性能にできた。本結果より、無機繊維の含有比率50重量%を下回らない範囲で、一部を無機粉末・粒状物に変えても良いことが分かる。
【0057】
・実施例6
平均繊維径3μmで密度64kg/mのグラスウールをスクリーンサイズ6mmの粉砕機で粉砕したもの40重量%と、平均繊維径4.5μm密度30kg/mのロックウール(表中にはRWと表記)60重量%とを混合して無機繊維複合品を作製した。
【0058】
グラスウールとロックウールの混合物が封入された袋の厚みを圧縮し、嵩密度180kg/mとした。施工した袋の数は40個、施工重量は6kg/mである。
【0059】
結果として、ロックウールを主成分としても重量床衝撃音、軽量床衝撃音ともに良い性能になることが分かった。重量床衝撃音試験は、63Hzの性能が実施例2と比べてやや劣っていたが、その他の周波数はほぼ同じ性能であった。軽量床衝撃音試験は、125Hzの性能が実施例2と比べてやや劣るが、その他の周波数の性能はほぼ同じであった。若干の性能低下した理由として、無機繊維の嵩密度が高くなると床衝撃を受けた時に振動しにくくなり、結果として床衝撃音の低減効果が低くなったと考えらえる。本結果より袋に封入された無機繊維の嵩密度は200kg/m以下でないと効果が少なくなることがわかる。
【0060】
・比較例1
平均繊維径3μmで嵩密度100kg/mのグラスウールであって、寸法800mm×300mm、厚み70mmの平板状のグラスウール(表中にはグラスウール平板と表記)を、テープを使用して施工した。実施例1および実施例2と同じ6kg/mとなるよう、20mの天井に施工した。施工後のグラスウールは石膏ボードの面積100%に対する占有面積は87%であった。
【0061】
平均繊維径が細くて吸音性が高いグラスウールを使用した場合、軽量床衝撃音に対してはある程度の低減効果があったが、重量床衝撃音の低減効果はほとんどなかった。このことから、重量床衝撃音低減材は平均繊維径が細ければ良いというわけではなく、微細な繊維状物、粒子、粉体が振動することが重要なことが分かる。
【0062】
・比較例2
低減材料体を無機の粒体流体とし、実施例1と同じようにテープの上に載せて施工した。施工重量は7.2kg/mとした。袋のサイズは長さ450mmで幅450mmであるが、幅300mmの野縁の間に収まるように施工した。結果として、占有面積は24%となった。
【0063】
比較例2は実施例1と比べて重量床衝撃音の低減効果はやや低くなり、軽量床衝撃音の低減効果は極端に低下した。重量床衝撃音の低減効果がやや低下した原因は、無機の粒体は繊維径が細い繊維材料を主成分とした実施例1と比べると床衝撃を受けて振動しにくいことが挙げられる。この結果から、重量床衝撃音の低減効果を持たせるためには、繊維状の物質が主成分でなければならないことが分かる。繊維状物質のなかでも、比重が重く、不燃性である無機繊維が好ましく、更には、繊維が細く吸音性の高いグラスウールやロックウールなどの無機繊維が好ましいといえる。
【0064】
また、軽量床衝撃音の低減効果が著しく低下した原因は、床衝撃音低減材の大きさが小さく、石膏ボードの面積に対する占有割合が24%と低い為、音響透過を防ぐことができなかったと考えられる。
【0065】
・比較例3
実施例1で施工した袋の個数は60個であったがこれを45個に減らし、衝撃音低減材の施工重量を4.5kg/mとしたことの他は、実施例1と同じ条件で試験を行った。
【0066】
衝撃音低減材の施工重量が減ったため、実施例1と比べて重量床衝撃音と軽量床衝撃音の両方の低減効果が減った。衝撃音低減材は少なくとも5kg/m以上ないと、特に重要衝撃音の低減効果が低いことが分かる。
【0067】
・比較例4
施工後の衝撃音低減材の袋の寸法を縦500mm、横300mmと小さくし、専有面積を54%としたことの他は実施例1と同じ条件で試験を行った。
【0068】
結果として、重量床衝撃音の低減効果は高くて良好であったが、軽量床衝撃音の低減効果が実施例1と比べて低下した。この結果から、軽量床衝撃音の低減効果を高くするには、衝撃音低減材の専有面積が55%以上なければならないことが分かる。
【0069】
・比較例5
実施例1の衝撃音低減材を押しつぶして空気を追い出して封をして、袋内部のグラスウールの嵩密度を212kg/mとしたこと以外は、すべて実施例1と同じ条件で試験を行った。
【0070】
結果として、重量床衝撃音の低減レベル、特に63Hzの床衝撃音低減効果が極端に悪化した。また、軽量衝撃音の低減レベルもやや悪化した。
【0071】
この結果から、衝撃音低減材の内部の無機繊維の嵩密度が非常に重要であることが分かる。嵩密度が200kg/mを超えると、無機繊維の粉砕物や繊維そのものが揺れるのを妨げるため、床衝撃音低減効果が低下する。
【0072】
なお、無機繊維の嵩密度は軽いほうが好ましいが、軽すぎると袋の体積が大きくなりすぎて施工しにくくなったり、数が多くて施工時間が長くなったりして好ましくない。したがって、本発明では施工性の面から、嵩密度の下限値を50kg/mと設定した。
【0073】
・比較例6
実施例3で使用した平均繊維径9μmで密度80kg/mのEガラス組成の長繊維ガラスを袋に入れ、嵩密度180kg/mとなるよう袋の厚みを圧縮して封をしたことの他は、実施例1と同じ条件で試験を行った。
【0074】
試験の結果、重量床衝撃音の低減効果が低下した。本結果より、袋内部の無機繊維の平均繊維径は細くなければ、床衝撃を受けた時に繊維の振動や揺れがスムーズでなくなり、重量床衝撃音低減レベルが悪くなることが分かる。無機繊維の平均繊維径の好ましい範囲は、2~6μmである。
【0075】
・比較例7
実施例5ではグラスウール60重量%と硫酸バリウム40重量%の混合物を使用したが、比較例7では、グラスウール40重量%と硫酸バリウム60重量%の混合物を使用した。得られた床衝撃音低減材の重量は2kgであり、封入されたグラスウールと硫酸バリウムの混合体の嵩密度は140kg/mであった。床衝撃音低減材は治具を使用して施工し、それ以外の条件は実施例5と同じにして試験を行った。
【0076】
硫酸バリウムを主成分とした比較例7は、重量床衝撃音・軽量床衝撃音ともに低減効果が悪化した。本結果より、床衝撃音低減材の無機繊維は主成分である必要があり、その含有比率は50重量%以上必要であることが分かる。
【0077】
以上より、本発明によれば、特定の袋に無機繊維を適切な量と嵩密度になるよう充填し、天井の面積に適切な量を載せることで、重量床衝撃音だけでなく軽量床衝撃音もあわせて低減する効果が得られることが分かった。また、無機繊維を使用して床衝撃音の低減レベルが改善される分、床衝撃音低減材を軽量化でき施工性が比較的簡便となる。
【符号の説明】
【0078】
1:天井構造、2:床面、3:スラブ、4:空間、5:天井板、6:衝撃音低減材、7:吊りボルト、8:ハンガー、9:野縁受け、10:野縁、11:補助具、11a:耳部
図1
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図8