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特許7572001発泡充填材の充填検査方法及び発泡充填材の充填検査装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】発泡充填材の充填検査方法及び発泡充填材の充填検査装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 25/72 20060101AFI20241016BHJP
   G01N 25/18 20060101ALI20241016BHJP
   G01J 5/48 20220101ALI20241016BHJP
【FI】
G01N25/72 K
G01N25/18 D
G01J5/48 C
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021051821
(22)【出願日】2021-03-25
(65)【公開番号】P2022149596
(43)【公開日】2022-10-07
【審査請求日】2024-02-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(73)【特許権者】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 薫平
(72)【発明者】
【氏名】高橋 和也
(72)【発明者】
【氏名】河合 功介
(72)【発明者】
【氏名】阪上 隆英
(72)【発明者】
【氏名】塩澤 大輝
【審査官】鴨志田 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-034082(JP,A)
【文献】特開2007-147284(JP,A)
【文献】特開平01-068649(JP,A)
【文献】国際公開第2015/002068(WO,A1)
【文献】欧州特許出願公開第03690431(EP,A1)
【文献】中国特許出願公開第111830078(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 25/00- 25/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
板材で形成された中空構造体の内部に発泡性材料を注入して形成された発泡充填材の前記中空構造体における充填範囲を検査する発泡充填材の充填検査方法において、
前記発泡性材料の注入開始から前記発泡性材料の発泡終了までの間、前記板材の外表面の温度を赤外線カメラで時系列的に測定する工程と、
前記赤外線カメラによる測定結果に基づいて前記外表面の温度上昇速度を算出する工程と、
前記外表面において、算出された温度上昇速度が、予め設定された閾値以上となった領域を前記発泡充填材の充填範囲として検出する工程と、を含むことを特徴とする発泡充填材の充填検査方法。
【請求項2】
前記閾値は、前記発泡性材料を注入する前の前記板材の温度に基づいて設定されることを特徴とする請求項1に記載の充填検査方法。
【請求項3】
前記閾値は、所定の閾値情報に基づき、前記板材の温度が低い場合に前記閾値が高くなるように設定されることを特徴とする請求項2に記載の充填検査方法。
【請求項4】
前記閾値は、前記板材の板厚に基づいて設定されることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の充填検査方法。
【請求項5】
板材で形成された中空構造体の内部に発泡性材料を注入して形成された発泡充填材の前記中空構造体における充填範囲を検査する発泡充填材の充填検査装置において、
前記発泡性材料の注入開始から前記発泡性材料の発泡終了までの間、前記板材の外表面温度を時系列的に測定する赤外線カメラと、
前記赤外線カメラによる測定結果に基づいて前記外表面の温度上昇速度を算出する算出部と、
前記外表面において、前記算出部により算出された温度上昇速度が、予め設定された閾値以上となった領域を検出する検出部と、を備えたことを特徴とする発泡充填材の充填検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板材で形成された中空構造体の内部に充填された発泡充填材の充填範囲を検査する発泡充填材の充填検査方法及び発泡充填材の充填検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両では、車体の軽量化を図りつつ車体の衝突性能を向上させるために、板材で形成された中空の車体骨格部材、例えば車体のサイドフレームやピラー等、の内部に、発泡ウレタン等の発泡充填材を充填する技術が採用されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、フランジ部を有する第1の板材と、フランジ部を有する第2の板材とを備え、第1及び第2の板材のフランジ部同士を接合することで中空に形成された車体骨格部材が記載されており、車体骨格部材の内部に液状の発泡性材料を注入して、内部で発泡させることにより、車体骨格部材の内部を発泡充填材で充填することが記載されている。
【0004】
このように、車体骨格部材の内部に軽量の発泡充填材を充填することで、車体の重量増加を抑えながら、車体骨格部材の強度を高めて、車体の衝突安全性能を向上することができる。
【0005】
車体骨格部材の強度は、発泡充填材がどの範囲まで充填されているかによって変化する。それ故、製造ライン上で車体骨格部材の強度品質を確保できるように、車体骨格部材における発泡充填材の充填範囲を非破壊で検査する方法が求められていた。
【0006】
発泡充填材の充填範囲を非破壊で検査する方法として、特許文献2には、発泡性材料が発泡する際に発生する熱を利用して発泡充填材の充填範囲を検査する方法が記載されている。
【0007】
この方法では、車体骨格部材の外部に赤外線カメラを設置し、この赤外線カメラによって、車体骨格部材を形成している板材の外表面温度を測定する。具体的には、車体骨格部材は、内部に発泡性材料が注入されて発泡反応が開始すると、発泡に伴う発熱によって、発泡充填材と接触している部位の板材の温度が高くなる。一方、板材が発泡充填材に接触していない非接触部位では、発泡充填材から熱が供給されないため、板材の温度が低くなる。特許文献2では、赤外線カメラによってこの温度差を検出することで、車体骨格部材内の発泡充填材の充填範囲を検査することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2013-203266号公報
【文献】特許第4017717号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献2に記載の方法では、車体骨格部材が熱伝達率の高い板材で形成されている場合に、非接触部位においても板材の温度が高くなってしまい、充填範囲を適切に検査することができないという問題があった。すなわち、車体骨格部材が熱伝達率の高い板材で形成されている場合、板材が発泡充填材に接触していない部位においても、板材内の熱移動によって、発泡充填材と接触して高温になった部位から熱が移動し、非接触部位の温度が高くなってしまう。従来の検査方法では、このような状況に対応できないことから、車体骨格部材が熱伝導率の高い板材で形成されている場合であっても、発泡充填材の充填範囲を検査できる方法が求められていた。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、板材で形成された中空構造体の内部に存在する発泡充填材の充填範囲を検査する発泡充填材の充填検査方法及び発泡充填材の充填検査装置において、板材の熱伝達率が高い場合であっても充填範囲を検査可能な充填検査方法及び充填検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の一実施形態は、板材で形成された中空構造体の内部に発泡性材料を注入して形成された発泡充填材の前記中空構造体における充填範囲を検査する発泡充填材の充填検査方法において、前記発泡性材料の注入開始から前記発泡性材料の発泡終了までの間、前記板材の外表面の温度を赤外線カメラで時系列的に測定する工程と、前記赤外線カメラによる測定結果に基づいて前記外表面の温度上昇速度を算出する工程と、前記外表面において、算出された温度上昇速度が、予め設定された閾値以上となった領域を前記発泡充填材の充填範囲として検出する工程と、を含むことを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、板材で形成された中空構造体に液状の発泡性材料を注入すると、発泡性材料が発泡して中空構造体内に発泡充填材が充填される。発泡性材料は、発泡する際に熱を発生するが、発泡充填材が板材に接触している部位では、熱源である発泡充填材から板材に直接熱が供給され、板材の外表面の温度上昇速度が高くなる。一方、発泡充填材が板材に接触していない部位では、板材内の熱伝達によって温度が上昇するが、接触部位に比べて熱伝熱距離が長く、伝熱損失が大きくなるため、温度上昇速度が低くなる。そのため、中空構造体内に発泡充填材を充填する際に、赤外線カメラによって板材の外表面の温度を測定し、測定結果から板材の外表面の温度上昇速度を算出して、この温度上昇速度と、実験等により予め設定された温度上昇速度の閾値とから、温度上昇速度の高い領域を検出することで、板材の熱伝達率が高い場合であっても発泡充填材の充填範囲を検出することが可能となる。
【0013】
また、本発明の一実施形態は、前記充填検査方法において、前記閾値は、前記発泡性材料を注入する前の前記板材の温度に基づいて設定されることを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、板材の内部の熱移動の速度は、板材に発泡充填材が接触している接触部位と、板材に発泡充填材が接触していない非接触部位との間の温度差に比例し、温度差が大きくなると熱移動速度が速くなるため、板材の温度によって閾値を変えることでより正確な検査を実施することができる。
【0015】
また、本発明の一実施形態は、前記充填検査方法において、所定の閾値情報と、前記発泡性材料を注入する前に前記赤外線カメラによって測定された前記板材の温度とに基づいて、前記閾値を設定する工程を含むことを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、赤外線カメラを用いて発泡性材料を注入する前の板材の温度を測定することができ、この測定結果から板材の温度に応じた適切な閾値を設定することができる。
【0017】
また、本発明の一実施形態は、前記充填検査方法において、前記閾値は、前記板材の板厚に基づいて設定されることを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、板材の板厚が大きくなると、熱容量の増加に伴って充填材接触部位の板材の温度上昇が小さくなり、充填材接触部位の温度上昇速度が小さくなる。また、充填材接触部位と非接触部位との温度差が小さくなることで、充填材接触部位から非接触部位への板材内の熱の移動も遅くなり、判定に用いるべき温度上昇の閾値が変化する。例えば板厚が数ミリの範囲では、板厚が小さいものと比べて板厚が大きいものの方が、接触部位および非接触部位双方の温度上昇速度が遅くなる。そのため、板厚に応じて適切な閾値を設定することでより精度の高い検査を実施することができる。
【0019】
また、本発明の一実施形態は、板材で形成された中空構造体の内部に発泡性材料を注入して形成された発泡充填材の前記中空構造体における充填範囲を検査する発泡体の充填検査装置において、前記発泡性材料の注入開始から前記発泡性材料の発泡終了までの間、前記板材の外表面温度を時系列的に測定する赤外線カメラと、前記赤外線カメラによる測定結果に基づいて前記外表面の温度上昇速度を算出する算出部と、前記外表面において、前記算出部により算出された温度上昇速度が、予め設定された閾値以上となった領域を検出する検出部と、を備えたことを特徴とする。
【0020】
この構成によれば、中空構造体内に発泡充填材を充填する際に、赤外線カメラによって板材の外表面の温度を測定し、算出部によって温度測定結果から板材の外表面の温度上昇速度を算出することができる。この温度上昇速度と、実験等により得られた温度上昇速度の閾値とから、検出部によって温度上昇速度の高い領域、すなわち発泡充填材の充填範囲を検出することで、板材の熱伝達率が高い場合であっても発泡充填材の充填範囲を検出することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る発泡充填材の充填検査方法及び発泡充填材の充填検査装置によれば、板材の熱伝達率が高い場合であっても該板材で形成された中空構造体の内部に存在する発泡充填材の充填範囲を非破壊で検査することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一実施形態に係る発泡充填材の充填検査装置の概略説明図である。
図2】充填検査装置の構成を示すブロック図および充填検査方法のフローチャートである。
図3】中空構造体における熱移動の様子を説明する断面図である。
図4】板材内の温度差と熱移動速度との関係を示すグラフである。
図5】中空構造体における発泡充填材の充填状況及び温度状況の変化を示す図である。
図6】充填部及び非充填部のそれぞれについて、板材の外表面温度の時間変化を示すグラフであって、板材の初期温度が、標準温度の場合と標準温度よりも低温の場合とを比較したグラフである。
図7】充填部及び非充填部のそれぞれについて、板材の外表面温度の時間変化を示すグラフであり、板材の板厚が薄い場合と厚い場合とを比較したグラフである。
図8】(A)は表示装置に表示された中空構造体内の発泡充填材の充填範囲の検出結果の画像データであり、(B)は中空構造体内の発泡充填材の充填範囲を示す写真データである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1は、本発明の一実施形態に係る発泡充填材の充填検査装置10の概略説明図であり、図2は、充填検査装置の構成を示すブロック図および充填検査方法のフローチャートである。充填検査装置10は、板材で形成された中空構造体30の内部に充填された発泡充填材40の充填範囲を非破壊で検査する装置である。
【0024】
充填検査装置10は、発泡性材料14を供給する材料供給装置12と、赤外線カメラ16と、表示装置18と、制御・演算装置20(以下、単に「制御装置20」とも称する。)と、を備える。制御装置20は、図2に示すように、閾値設定部22と、温度上昇速度算出部24と、充填範囲検出部26と、判断部28と、を備える。なお、図2の右方に記載したブロック図では、赤外線カメラ16で計測するデータ、並びに、制御装置20で演算するデータ及び予め設定しておくデータを、図2の左方に記載した充填検査方法のフローチャートに従って示している。
【0025】
中空構造体30は、中空閉断面を有するように板材で中空状に形成された筒状体又は箱状体である。中空構造体30を形成する板材は、例えば、鋼板やアルミニウム合金板などの金属板、樹脂板、石膏板などを用いることができる。本実施形態では2枚の鋼板である第1の板材32及び第2の板材34によって中空構造体30を形成している。
【0026】
第1の板材32及び第2の板材34は、それぞれ、一方向に長く延びる断面ハット形状を有しており、第1の板材32の両側部のフランジ部33A,33Bと第2の板材34の両側部のフランジ部35A,35Bとをそれぞれ溶接38及び接着剤により接合することで筒状に形成されている。各板材32,34の板厚は適宜設定することができ、本実施形態では、第1の板材32と第2の板材34の板厚が等しくなっている。また、図3に示すように、本実施形態では中空構造体30の底部が仕切用の第3の板材36で閉塞されている。
【0027】
中空構造体30の内部に充填される発泡充填材40は、液状の発泡性材料14を中空構造体30に注入して、中空構造体30内で発泡させることにより形成される。
【0028】
発泡性材料14は、ノズル部13が中空構造体30内に臨むように設置された材料供給装置12により、中空構造体30内に注入される。発泡性材料14は、その成分である第1液及び第2液を混合することで発熱を伴う発泡反応が開始する2液混合型の発泡性樹脂材料である。第1液及び第2液は、材料供給装置12のノズル部13で混合され、ノズル部13から中空構造体30内に供給された発泡性材料14は、中空構造体30内で発泡する。
【0029】
赤外線カメラ16は、物体が放射する赤外線を検出して、対象物の温度を測定するものである。赤外線カメラ16は、中空構造体30を形成する板材の外表面の温度を検出可能な位置、特に、外表面において予め規定された発泡充填材40の充填領域を検出可能な位置に設置される。本実施形態では、赤外線カメラ16が、第1の板材32の外表面32aの温度を検出可能となるように設置されている。
【0030】
制御装置20は、中央処理装置(CPU)や特定用途向け集積回路(ASIC)等の情報処理手段、RAMやROM等の記憶手段、入出力インターフェイス等を有して構成される。制御装置20は、材料供給装置12、赤外線カメラ16及び表示装置18に有線又は無線で接続されており、これらの作動を制御する。表示装置18は、情報を視覚的に表示可能なスクリーン19を有し、制御装置20は、赤外線カメラ16から取得したデータを解析して、解析結果をスクリーン19に表示する。
【0031】
制御装置20の閾値設定部22には、中空構造体30を形成している板材の温度上昇速度閾値に関する情報(以下、温度上昇速度閾値情報とも称する)が格納されている。この温度上昇速度閾値は、発泡充填材40の充填範囲と非充填範囲とを検出する際に使用される。以下、この温度上昇速度閾値に関し、発泡性材料14の発泡に伴う第1及び第2の板材32,34の温度上昇速度について説明する。
【0032】
図3に示すように、中空構造体30内に注入された発泡性材料14は、発泡する際に高温の熱を発生する。第1及び第2の板材32,34において、発泡充填材40が接触している接触部位46では、黒塗矢印で示すように、熱源である発泡充填材40から直接熱が供給される。この接触部位46では、熱源から外表面32a,34aまでの間の距離が短く、伝熱損失が少ないため、外表面32a,34aにおける温度上昇速度が高くなる。一方、第1及び第2の板材32,34において、発泡充填材40が接触していない非接触部位48では、白抜き矢印で示すように、各板材32,34内の熱伝達によって外表面32a,34aの温度が上昇し、時間の経過により接触部位46とほぼ等しい温度に到達する。しかしながら、この非接触部位48では、接触部位46に比べて熱源から外表面32a,34aまでの熱伝熱距離が長く、その間の伝熱損失が大きくなるため、接触部位46よりも外表面32a,34aの温度上昇速度が低くなる。閾値設定部22に格納される温度上層速度閾値は、このように発泡充填材40の発熱によって各板材32,34の温度上昇速度が高くなる領域、すなわち発泡充填材40が充填されている領域と、各板材32,34の温度上昇速度の低い領域、すなわち発泡充填材40が充填されていない領域とを区分する閾値であり、この温度上昇速度閾値は、例えば、事前の実験結果や、第1及び第2の板材32,34並びに発泡性材料14の物性に基づく計算式などで得ることができる。具体的には、図5に示すように、充填部(A部およびB部)と非充填部(C部)では、外表面の温度が結果として概ね同等になり、温度のみでは区別ができない状態になったとしても(図中「温度状況」)、温度上昇速度に差があり(図中「温度変化」)、充填部の温度上昇速度は非充填部よりも速いことから、温度上昇速度の閾値を設けて判定を行うことで、充填範囲を高精度に判定可能となる(図中「閾値判定後」の黒塗り部)。
【0033】
なお、図5の「充填状況」は、時間t1、t2、t3及びt4(t1~t4は図5の「温度変化」のグラフ上の各時間であり、t4は発泡終了時間である。)における、中空構造体30内の発泡充填材40の充填状況を画像で示している。図5の「温度状況」は、時間t1、t2、t3及びt4における、中空構造体30の板材32の外表面の温度状況を画像で示しており、黒色が低温、白色が高温を示している。図5の「温度変化」は、中空構造体30において図5にて一点鎖線で示すA部、実線で示すB部、二点鎖線で示すC部、及び破線で示すD部について、板材32の外表面温度の時間変化を示したグラフである。図5の「閾値判定後」は、時間t1、t2、t3及びt4について、温度上昇速度の閾値を用いた充填範囲の判定結果の画像を示している。
【0034】
本実施形態では、閾値設定部22に、赤外線カメラ16により温度測定される第1の板材32に対する温度上昇速度閾値の情報が格納されている。温度上昇速度閾値は、中空構造体30内に発泡性材料14が注入される前の第1の板材32の温度(初期温度)や、第1の板材32の板厚によって適宜変更することができる。本実施形態では、第1の板材32の温度及び板厚に応じた温度上昇速度閾値データが、閾値設定部22に予め格納されている。
【0035】
次に、第1の板材32の初期温度と温度上昇速度閾値との関係について説明する。図3に示す例において、第1の板材32の内部の熱移動の速度は、接触部位46と、非接触部位48との間の温度差に比例する。具体的には、図4に示すように、第1の板材32内の熱移動速度は温度差の2乗に比例し、温度差が大きくなると熱移動速度が速くなる。本実施形態では、発泡性材料14の注入時の温度が一定に管理されるのに対し、中空構造体30は、発泡充填材40の充填作業前の周辺環境に応じて初期温度が変化する。それ故、接触部位46と非接触部位48との間の温度差は、第1の板材32の初期温度が低いほど大きくなり、熱が伝達しやすくなる。具体的には、図6に示すように、初期温度が高い場合と低い場合では、充填材接触部の温度上昇速度はおおむね同程度なのに対し、非接触部の温度上昇速度は初期温度が低い場合に顕著に大きくなり、初期温度が高い場合の閾値をそのまま適用すると、非接触部位を接触部位と判定してしまい、検査精度の低下を招いてしまう。そのため、本実施形態では、第1の板材32の初期温度が低い場合に温度上昇速度閾値が高くなるように、第1の板材32の温度に応じた温度上昇速度閾値を設定している。
【0036】
次に、第1の板材32の板厚と温度上昇速度閾値との関係について説明する。第1の板材32の板厚が大きくなると、第1の板材32内で、発泡充填材40に対する接触部位46の温度上昇が小さくなり、温度上昇速度も小さくなる。また、接触部位46の温度上昇が低下するのに伴い、非接触部位48への熱移動量が小さくなり、非接触部位48の温度上昇速度も小さくなる。具体的には、図7に示すように、第1の板材32の板厚が厚い場合には、第1の板材32の板厚が薄い場合と比べて、充填材接触部位および非接触部位ともに温度上昇速度が小さくなるため、第1の板材32の板厚が薄い場合と同じ閾値を用いて判定すると、接触部位を非接触部位と判定してしまい、検査精度の低下を招いてしまう。そのため、本実施形態では、このような板厚の範囲において、第1の板材32の板厚が大きい場合に温度上昇速度閾値が低くなるように、第1の板材32の温度上昇速度閾値を設定している。
【0037】
このように、本実施形態の閾値設定部22には、第1の板材32の初期温度や板厚に応じて決定される温度上昇速度閾値のデータが記憶されている。制御装置20の閾値設定部22は、赤外線カメラ16によって測定された第1の板材32の初期温度や、予め登録された第1の板材32の板厚情報に基づいて、閾値設定部22に格納された温度上昇速度閾値に関する情報から、検査対象となる中空構造体30の温度上昇速度閾値を設定する。
【0038】
制御装置20の温度上昇速度算出部24は、赤外線カメラ16により取得された第1の板材32の時系列的な温度測定結果に基づき、第1の板材32の外表面32aの各部位の温度上昇速度を算出する。
【0039】
充填範囲検出部26は、温度上昇速度算出部24が算出した外表面32aの各部位の温度上昇速度と、閾値設定部22が設定した温度上昇速度閾値とから発泡充填材40の充填範囲を検出する。本実施形態では、赤外線カメラ16による第1の板材32の外表面32aの撮像データにおいて、温度上昇速度算出部24が算出した温度上昇速度が、設定された温度上昇速度閾値以上となった部位に着色を施し、温度上昇速度閾値未満の部位と色分けすることにより、発泡充填材40の充填範囲を検出している。
【0040】
判断部28は、充填範囲検出部26によって検出された発泡充填材40の充填範囲が、閾値設定部22に記憶された所定の充填範囲を満たしているか否かを判断し、満たしている場合には、適正な充填範囲であると判断し、満たしていない場合には不適正と判断する。
【0041】
次に、図2を用いて、上述した充填検査装置10による発泡充填材40の充填検査方法について説明する。
【0042】
まず、中空構造体30を検査位置にセットした状態で、第1の板材32の外表面32aの初期温度を赤外線カメラ16で測定する(ステップS11)。
【0043】
初期温度が測定されると、制御装置20の閾値設定部22は、制御装置20に入力された第1の板材32の板厚と、ステップS11で測定した第1の板材32の初期温度とに基づいて、予め格納された温度上昇速度閾値データから、当該中空構造体30の充填検査に用いる温度上昇速度閾値を設定する(ステップS12)。また、材料供給装置12により、中空構造体30内へ発泡性材料14を注入するとともに、赤外線カメラ16によって第1の板材32の外表面32aの温度を時系列的に測定する(ステップS13)。なお、ステップS12とステップS13とは同時に実施されてもよい。
【0044】
材料供給装置12は、中空構造体30内に所定量の発泡性材料14が注入されると、発泡性材料14の注入を終了する(ステップS14)。赤外線カメラ16は、発泡性材料14の注入開始から発泡性材料14の発泡終了までの間、第1の板材32の外表面32aの温度を時系列的に測定し、発泡性材料14の発泡が終了すると、第1の板材32の温度測定を終了する(ステップS15)。
【0045】
制御装置20の温度上昇速度算出部24は、赤外線カメラ16が測定した時系列的な温度測定結果に基づいて、第1の板材32の外表面32aの温度上昇速度を算出する(ステップS16)。一例として、赤外線カメラ16は、1秒につき50枚の温度測定データを取得し、温度上昇速度算出部24は、1枚ごとに温度上昇速度を測定する。
【0046】
制御装置20の充填範囲検出部26は、温度上昇速度算出部24が算出した温度上昇速度と、閾値設定部22が設定した温度上昇速度閾値とに基づき、第1の板材32の外表面32aにおいて、算出された温度上昇速度が、設定された温度上昇速度閾値以上となった領域を発泡充填材40の充填範囲として検出する(ステップS17)。
【0047】
図8(A)は、表示装置18に表示された、充填範囲検出部26による中空構造体30内の発泡充填材40の充填範囲の検出結果を示す画像データであり、図8(B)は、中空構造体30内の発泡充填材40の充填範囲を示す写真データである。図8(A)と図8(B)とは、中空構造体30の同一の範囲を示しており、図8(B)では、充填検査装置10による充填範囲の検査後、中空構造体30から第1の板材32を取外して発泡充填材40の充填範囲を視認できるようにした、中空構造値30の内部写真を示している。図8(A)において、白色の線50は、充填検査装置10が検出した発泡充填材40の充填範囲の上端の境界線を示している。
【0048】
図8に示すように、充填範囲検出部26によって検出された発泡充填材40の充填範囲、すなわち、図8(A)において符号40で示された黒色塗りつぶしの範囲は、図8(B)に示す発泡充填材40の充填範囲とほぼ一致している。ここで、図8(B)で斜線を付した発泡充填材40の上端部、具体的には界面張力によって、発泡充填材40の中央部が盛り上がり、両側部が各板材32,34に接触していない上端部の領域では、発泡充填材40が各板材32,34と非接触になることから、充填範囲として検出されない。しかしながら、このように充填が十分でない領域は、中空構造体30の強度強化に寄与しないため、このような領域を非充填範囲として排除することで、発泡充填材40によって強化された中空構造体30の強度品質をより適切に担保することができる。
【0049】
次のステップS18では、充填範囲検出部26が検出した発泡充填材40の充填範囲から発泡充填材40の充填範囲が適正であるか否かを判断する。本実施形態では、制御装置20の判断部28が、検出された発泡充填材40の充填範囲と、閾値設定部22に記憶された所定の充填範囲とを比較し、検出された充填範囲が適正であるか否かを判断する。判断結果は、表示装置18に表示させることができる。なお、これに代えて、表示装置18に表示された充填範囲を検出結果に基づいて、作業者が、適正な充填範囲であるか否かを判断してもよい。
【0050】
上述したように、本実施形態の充填検査装置10及び充填検査方法によれば、中空構造体30内に発泡充填材40を充填する際に、赤外線カメラ16によって第1の板材32の外表面32aの温度を測定し、測定結果から得られた温度上昇速度と、予め設定された温度上昇速度の閾値とから、温度上昇速度の高い領域を検出することで、中空構造体30を形成している各板材32,34の熱伝達率が高い場合であっても発泡充填材40の充填範囲を非破壊で検査することができる。
【0051】
また、基準となる温度上昇速度閾値を第1の板材32の初期温度や、板厚によって適宜変更することで、より精度の高い検査を実施することが可能となる。
【0052】
なお、本発明は上述した実施の形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0053】
例えば、発泡性材料14の注入時に第1の板材32の温度がほぼ一定になるように管理されている場合、中空構造体30に発泡充填材40を充填する量産工程において、第1の板材32の初期温度を測定することなく、温度上昇速度閾値を予め設定した値とすることができる。
【符号の説明】
【0054】
10 充填検査装置
12 材料供給装置
14 発泡性材料
16 赤外線カメラ
18 表示装置
30 中空構造体
32 第1の板材
34 第2の板材
20 制御装置
22 閾値設定部
24 温度上昇速度算出部(算出部)
26 充填範囲検出部(検出部)
28 判断部
40 発泡充填材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8