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特許7572002回転角度検出方法、回転角度検出プログラム、及び、回転角度検出装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】回転角度検出方法、回転角度検出プログラム、及び、回転角度検出装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 7/06 20060101AFI20241016BHJP
【FI】
H02P7/06 G
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021069936
(22)【出願日】2021-04-16
(65)【公開番号】P2022164441
(43)【公開日】2022-10-27
【審査請求日】2024-01-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000010098
【氏名又は名称】アルプスアルパイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】都 軍安
(72)【発明者】
【氏名】▲陳▼ ▲埼▼▲亭▼
(72)【発明者】
【氏名】木村 渉
(72)【発明者】
【氏名】前田 亮
【審査官】三島木 英宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-189102(JP,A)
【文献】特開2005-323488(JP,A)
【文献】特開2008-286608(JP,A)
【文献】特開昭52-041335(JP,A)
【文献】特開平05-161371(JP,A)
【文献】国際公開第2018/207680(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0379308(US,A1)
【文献】国際公開第2018/123453(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機に流れる電流を測定する電流測定処理と、
前記電流測定処理によって測定される電流値に基づいて、前記電動機の回転角度を求める回転角度検出処理と
を含む回転角度検出方法であって、
前記回転角度検出処理では、前記電動機が惰性回転を行っているときに前記電流測定処理によって測定される逆方向電流の電流値の極性が反転して絶対値がピーク値を取った時点の所定時間経過後から、前記電流測定処理によって測定される電流値がゼロになるまでに前記電流測定処理によって測定される電流値に基づいて、前記電動機の電流の減衰の時定数を求め、当該求めた時定数に基づいて前記惰性回転における前記回転角度を求める、回転角度検出方法。
【請求項2】
前記回転角度検出処理では、前記所定時間経過後の時点t3、前記電流測定処理によって測定される電流値がゼロになる時点tend、前記時点t3と前記時点tendとの間のある時点t4、前記時点t3から前記時点tendまでに前記電流測定処理によって測定される電流値の第1電流積分値、及び、前記時点t4から前記時点tendまでに前記電流測定処理によって測定される電流値の第2電流積分値に基づいて、前記電流の減衰の時定数τを求める、請求項1に記載の回転角度検出方法。
【請求項3】
前記回転角度検出処理では、前記第1電流積分値をSi3+Si4、前記第2電流積分値をSi4とするとき、次式(1)に基づいて前記電流の減衰の時定数τを求める、請求項2に記載の回転角度検出方法。
【数1】
【請求項4】
前記回転角度検出処理では、前記所定時間経過後の時点t3において前記電流測定処理によって測定される電流値i3と、前記時点t3から前記電流測定処理によって測定される電流値がゼロになる時点tendまでに前記電流測定処理によって測定される電流値の第1電流積分値とに基づいて、前記電流の減衰の時定数τを求める、請求項1に記載の回転角度検出方法。
【請求項5】
前記回転角度検出処理では、前記第1電流積分値をSi3+Si4とするとき、次式(2)に基づいて、前記電流の減衰の時定数τを求める、請求項4に記載の回転角度検出方法。
【数2】
【請求項6】
前記回転角度検出処理では、前記電動機の駆動がオフにされる時点t0の直前の角速度ω0、前記電動機の駆動が前記時点t0でオフにされてから前記電流測定処理によって測定される電流値の極性が反転する時点t1、及び、前記電流の減衰の時定数τに基づいて前記惰性回転における前記回転角度を求める、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の回転角度検出方法。
【請求項7】
前記回転角度検出処理では、次式(3)に基づいて、前記電動機の前記惰性回転における前記回転角度を求める、請求項6に記載の回転角度検出方法。
【数3】
【請求項8】
電動機に流れる電流を測定する電流測定処理と、
前記電流測定処理によって測定される電流値に基づいて、前記電動機の回転角度を求める回転角度検出処理と
を含む処理をコンピュータに実行させる回転角度検出プログラムであって、
前記回転角度検出処理では、前記電動機が惰性回転を行っているときに前記電流測定処理によって測定される逆方向電流の電流値の極性が反転して絶対値がピーク値を取った時点の所定時間経過後から、前記電流測定処理によって測定される電流値がゼロになるまでに前記電流測定処理によって測定される電流値に基づいて、前記電動機の電流の減衰の時定数を求め、当該求めた時定数に基づいて前記惰性回転における前記回転角度を求める、回転角度検出プログラム。
【請求項9】
電動機に流れる電流を測定する電流測定部と、
前記電流測定部によって測定される電流値に基づいて、前記電動機の回転角度を求める回転角度検出部と
を含み、
前記回転角度検出部は、前記電動機が惰性回転を行っているときに前記電流測定部によって測定される逆方向電流の電流値の極性が反転して絶対値がピーク値を取った時点の所定時間経過後から、前記電流測定部によって測定される電流値がゼロになるまでに前記電流測定部によって測定される電流値に基づいて、前記電動機の電流の減衰の時定数を求め、当該求めた時定数に基づいて前記惰性回転における前記回転角度を求める、回転角度検出装置。
【請求項10】
前記電動機は、パワーウィンドウの駆動機構を駆動する電動機である、請求項9に記載の回転角度検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転角度検出方法、回転角度検出プログラム、及び、回転角度検出装置、に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、整流子を備えた電動機の回転に関する情報を取得する装置であって、前記電動機の端子間電圧と前記電動機を流れる電流とに基づいて前記電動機の回転角度を算出する回転角度算出部と、前記電動機を流れる電流に含まれるリップル成分に基づいて第1信号を生成する第1信号生成部と、前記第1信号と前記回転角度とに基づいて前記電動機が所定角度だけ回転したことを表す第2信号として疑似リップル信号を生成する第2信号生成部と、前記第2信号生成部の出力に基づいて前記電動機の回転に関する情報を算出する回転情報算出部と、を含む装置がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2018-123453号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来の装置では、電動機への電源供給を停止した後の惰性回転を行う期間においては、電流の減衰に伴ってリップル成分を検出できなくなるため、角度誤差が大きくなる傾向がある。
【0005】
そこで、電動機が惰性回転を行っているときに高精度に電動機の回転角度を求めることができる回転角度検出方法、回転角度検出プログラム、及び、回転角度検出装置、を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施形態の電動機に流れる電流を測定する電流測定処理と、前記電流測定処理によって測定される電流値に基づいて、前記電動機の回転角度を求める回転角度検出処理とを含む回転角度検出方法であって、前記回転角度検出処理では、前記電動機が惰性回転を行っているときに前記電流測定処理によって測定される逆方向電流の電流値の極性が反転して絶対値がピーク値を取った時点の所定時間経過後から、前記電流測定処理によって測定される電流値がゼロになるまでに前記電流測定処理によって測定される電流値に基づいて、前記電動機の電流の減衰の時定数を求め、当該求めた時定数に基づいて前記惰性回転における前記回転角度を求める。
【発明の効果】
【0007】
電動機が惰性回転を行っているときに高精度に電動機の回転角度を求めることができる回転角度検出方法、回転角度検出プログラム、及び、回転角度検出装置、を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態の回転角度検出装置100を示す図である。
図2】DCモータ10と駆動回路20の接続状態を示す図である。
図3】DCモータ10をオフにする前後の電流iと角速度ωの時間変化を示す図である。
図4】DCモータ10が惰性回転を行う期間におけるDCモータ10の角速度ωと電流iを示す図である。
図5】回転角度検出部133Bが回転角度を検出する処理を表すフローチャートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の回転角度検出方法、回転角度検出プログラム、及び、回転角度検出装置を適用した実施形態について説明する。
【0010】
<実施形態>
図1は、実施形態の回転角度検出装置100を示す図である。回転角度検出装置100が回転角度を検出する電動機は、車両のパワーウィンドウを駆動する電動機に限られないが、ここでは、一例として、実施形態の回転角度検出装置100をパワーウィンドウの電動機の回転角度検出装置として用いる形態について説明する。
【0011】
図1には、回転角度検出装置100の他に、DC(Direct Current)モータ10、抵抗器15、駆動回路20、直流電源30、パワーウィンドウ50、及び駆動機構51を示す。
【0012】
DCモータ10は、端子11、12を有し、端子11、12に接続される駆動回路20によって駆動される。抵抗器15は、DCモータ10の端子12に接続されており、DCモータ10の電流を検出するために用いられる。駆動回路20は、直流電源30から供給される直流電力でDCモータ10を駆動する。駆動回路20は、図示しない駆動制御部によって制御されることによってDCモータ10を駆動するが、ここでは駆動制御部を省略する。
【0013】
パワーウィンドウ50は、車両のパワーウィンドウであり、DCモータ10のロータ(回転子)から駆動機構51を介して伝達される駆動力によって開閉される。駆動機構51は、車両のドアパネルの内部等に設けられ、DCモータ10のロータの回転力をパワーウィンドウ50の上下方向の駆動力に変換するレギュレータ等の機械的な機構である。
【0014】
回転角度検出装置100は、フィルタ回路110、IC(Integrated Circuit)チップ120、及び、マイクロコンピュータ130を含む。
【0015】
フィルタ回路110は、LPF(Low Pass Filter)111、112を有する。LPF111にはDCモータ10の端子11、12の間の電圧が入力され、電圧に含まれる周波数の高いノイズ等を除去してマイクロコンピュータ130に出力する。LPF112には抵抗器15の両端間の電圧がDCモータ10の電流を表す電圧として入力され、電圧に含まれる周波数の高いノイズ等を除去してマイクロコンピュータ130に出力する。
【0016】
ICチップ120は、BPF(Band Pass Filter)121とリップル検出部122を有する。BPF121には抵抗器15の両端間の電圧がDCモータ10の電流を表す電圧として入力され、電圧に含まれる周波数の高いノイズと周波数の低いノイズ等を除去してリップル検出部122に出力する。リップル検出部122は、BPF121から入力される電流を表すデータに含まれるリップルを検出し、パルスに変換してマイクロコンピュータ130に出力する。
【0017】
マイクロコンピュータ130は、A/D(Analog to Digital)コンバータ131、132、及び処理部133を有する。マイクロコンピュータ130は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、入出力インターフェース、及び内部バス等を含むコンピュータによって実現される。A/Dコンバータ131、132と処理部133は、マイクロコンピュータ130が実行するプログラムの機能(ファンクション)を機能ブロックとして示したものである。
【0018】
A/Dコンバータ131は、LPF111の出力をデジタル信号に変換して処理部133に出力する。LPF111の出力は、DCモータ10の電圧を表すため、A/Dコンバータ131の出力は、DCモータ10の電圧値を表すデジタルデータである。
【0019】
A/Dコンバータ132は、LPF112の出力をデジタル信号に変換して処理部133に出力する。LPF112の出力は、DCモータ10の電流を表す信号であるため、A/Dコンバータ132の出力は、DCモータ10の電流値を表すデジタルデータである。
【0020】
処理部133は、電流測定部133A、回転角度検出部133B、及びメモリ133Cを有する。電流測定部133A、回転角度検出部133Bは、マイクロコンピュータ130が実行するプログラムの機能(ファンクション)を機能ブロックとして示したものである。また、メモリ133Cは、マイクロコンピュータ130のメモリを機能ブロックとして表したものである。
【0021】
電流測定部133Aは、A/Dコンバータ132の出力に基づき、DCモータ10に流れる電流を測定する電流測定処理を行う。電流測定部133Aは、測定した電流値を表すデータを回転角度検出部133Bに出力する。
【0022】
回転角度検出部133Bは、A/Dコンバータ131の出力(電圧値)と、電流測定部133Aの出力(電流値)と、リップル検出部122から入力されるパルスとに基づいて、DCモータ10の惰性回転の期間における回転角度を求める回転角度検出処理を行う。DCモータ10の惰性回転とは、駆動回路20からDCモータ10に電圧が印加されてDCモータ10が駆動されている状態(DCモータ10がオンの状態)から、電圧の印加が遮断されて(DCモータ10がオフにされて)、DCモータ10のロータがイナーシャによって惰性で回転することをいう。DCモータ10が惰性回転を行うのは、図示しない駆動制御部が駆動回路20を制御して、駆動回路20からDCモータ10に印加される電圧が遮断されたときである。
【0023】
回転角度検出部133Bは、DCモータ10の惰性回転の期間におけるDCモータ10のロータの回転角度を求める。DCモータ10のロータの回転角度は、DCモータ10の回転角度と同義である。なお、具体的な回転角度の求め方については、図2乃至図5を用いて後述する。
【0024】
メモリ133Cは、電流測定部133A及び回転角度検出部133Bが処理を実行する際に利用するプログラム及びデータ、A/Dコンバータ131の出力(電圧値)、電流測定部133Aの出力(電流値)、及び、リップル検出部122から入力されるパルスのデータ等を格納する。
【0025】
次に、図2を用いて、DCモータ10と駆動回路20の接続状態について説明する。図2は、DCモータ10と駆動回路20の接続状態を示す図である。駆動回路20は、2つのスイッチ21、22を有する。図2(A)にはDCモータ10をオンにする駆動回路20の接続状態を示す。
【0026】
DCモータ10をオンにするには、スイッチ21、22を切り替えてDCモータ10を直流電源30に接続すればよい。また、図2(B)にはDCモータ10をオフにする駆動回路20の接続状態を示す。DCモータ10をオフにするには、スイッチ21、22を切り替えてDCモータ10を直流電源30から切り離せばよい。一例として、DCモータ10をオフにする状態では、DCモータ10の両端子はともに直流電源30の負端子に接続される。これは、DCモータ10がショート(短絡)された状態である。
【0027】
次に、直流モータの理論によってDCモータ10について成立する回路方程式について説明する。DCモータ10について直流モータの理論より、次の式(1)、(2)が成立する。LはDCモータ10のインダクタンス、RはDCモータ10の抵抗、JはDCモータ10のロータのイナーシャ、KeはDCモータ10の逆起電力定数、KtはDCモータ10のトルク定数、KvはDCモータ10の粘性摩擦係数、FはDCモータ10の負荷、uは駆動回路20からDCモータ10に印加される駆動電圧、iは図1の電流測定部133Aで測定されるDCモータ10に流れる電流である。電流iは、電流測定部133AがA/Dコンバータ132の出力を測定して得る電流値であり、時系列的に並べると電流波形を表す。
【0028】
【数1】
【0029】
【数2】
【0030】
DCモータ10をオフにすると、図2(B)に示すようにDCモータ10の端子11、12がショートされるため、DCモータ10の駆動電圧u(t)=0になり、DCモータ10は惰性回転を開始する。また、インダクタンスLのエネルギ放電の完了時に電流iの変化分(di/dt)がゼロであるとすると、式(1)より電流iとDCモータ10の角速度ωとの間に式(3)で表される比例的な関係が成立する。角速度ωはDCモータ10の回転子(ロータ)の角速度である。
【0031】
【数3】
【0032】
式(3)を式(2)に代入し、DCモータ10の端子11、12がショートされた状態における負荷Fをゼロと仮定して微分方程式を解くと、角速度は次式(4)で表すことができる。ここで、ω0はDCモータ10が惰性回転を開始したときの角速度であり、τはDCモータ10の角速度ωの減衰の時定数である。
【0033】
【数4】
【0034】
また、DCモータ10の角速度ωの減衰の時定数τは、次式(5)で表すことができる。
【0035】
【数5】
【0036】
式(5)から分かるように、時定数τは多くのパラメータの変動の影響を受ける。ところで、式(3)と式(4)から分かるように、DCモータ10の惰性回転の角速度ωは指数カーブで減衰し、電流iも同じ指数カーブで減衰することになる。すなわち、DCモータ10の電流iの減衰の時定数は、DCモータ10の角速度の減衰の時定数τと等しい。
【0037】
図3は、DCモータ10をオフにする前後の電流iと角速度ωの時間変化を示す図である。図3(A)には、DCモータ10をオフにする前後の電流iと角速度ωの時間変化をそのまま示す。DCモータ10をオフにするとDCモータ10は惰性で回転し、角速度ωは指数カーブで減衰し、一定期間経過後に電流iも同じ指数カーブで減衰する。電流iが角速度ωに対して遅れるのは、逆起電力による電流として流れるからである。逆起電力による電流は、DCモータ10がオンのときに流れる電流とは逆方向に流れる逆方向電流である。
【0038】
ここで、図3(A)における電流iの波形を-K倍して角速度ωに重ねると、図3(B)に示すように、惰性回転の期間では電流iが角速度ωに重なる。DCモータ10の電流iの減衰の時定数は、DCモータ10の角速度の減衰の時定数τと等しいからである。このため、回転角度検出装置100では、DCモータ10の角速度の減衰の時定数τの代わりにDCモータ10の電流iの減衰の時定数τを利用して、電流iから角速度ωを求め、求めた角速度ωに基づいてDCモータ10の惰性回転の期間における回転角度を検出する。すなわち、回転角度検出装置100は、DCモータ10の惰性回転の期間における電流iに基づいて求まる電流iの減衰の時定数τをDCモータ10の惰性回転の期間における角速度の減衰の時定数τとして推定して用いることで、DCモータ10の惰性回転の期間における回転角度を検出する。
【0039】
次に、図4を用いてDCモータ10の電流iに基づいて角速度ωを検出する方法について説明する。図4は、DCモータ10が惰性回転を行う期間におけるDCモータ10の角速度ωと電流iを示す図である。図4には図3(B)における惰性回転の期間を拡大して示す。すなわち、図4に示す電流iは、図3(A)における電流iの波形を-K倍した波形で表されている。
【0040】
以下では、図4に示すように角速度ωの波形と重ねるために-K倍した電流iの波形を用いて電流積分値等を計算する方法について説明するが、実際の計算では電流iを-K倍しなくてよい。このため、計算方法を説明するにあたっては、電流iをそのまま用いて説明する。
【0041】
図4において、時点t0は、DCモータ10をオフ(電源をオフ)にした時点であり、DCモータ10が惰性回転を始める時点である。時点t0における角速度ω0は、電源オフ直前のDCモータ10の角速度である。角速度ω0は、リップル検出部122から入力されるパルスに基づいて算出可能である。なお、DCモータ10の電源がオフにされると、駆動回路20は図2(B)の接続状態になる。
【0042】
ここでは、DCモータ10が惰性回転を始める時点t0から、DCモータ10の電流iがゼロになる時点tendまでの期間を用いて説明する。電流iがゼロになるときは、DCモータ10の回転が止まるときであると考えられるため、時点tendにおけるDCモータ10の角速度ωendはゼロになると考えられる。
【0043】
時点t1は、電流iの極性が反転する時点である。時点t1は、図4に示す-K倍した電流-Kiの値が負から正に反転する(極性が反転する)時点であり、実際の電流iの値が正から負に反転する(極性が反転する)時点である。このため、時点t1における電流値i1はゼロである。
【0044】
DCモータ10をオフにすると、逆起電力によってDCモータ10がオンのときとは逆方向の電流が流れる。時点t1は、逆起電力による逆方向の電流によって電流iの極性が反転する時点である。また、時点t1における角速度ω1は、角速度ω0と等しいものとして取り扱う。DCモータ10がオフにされてから、逆起電力によって電流iの極性が反転する時点t1までは、DCモータ10のロータに逆起電力によって発生する逆方向の電流iに起因したブレーキが殆どかからないからである。
【0045】
時点t2は、電流-Kiが最大値を取る(電流iがピーク値を取る)時点である。すなわち、時点t2は、実際の電流iの絶対値がピーク値を取る時点である。さらに換言すれば、時点t2は、実際の電流iが最小値を取る時点である。時点t2における電流値i2は、実際の電流iの最小値であり、絶対値のピーク値である。電流iは変動があるため、電流測定部133Aによって測定される電流iが所定範囲に入ったときに、回転角度検出部133Bは電流iの絶対値がピーク値を取ったと判定すればよい。時点t2における角速度ω2は、時点t1における角速度ω1よりも減衰している。逆方向の電流iに起因したブレーキがかかっているからである。
【0046】
時点t3は、時点t2から所定時間ΔTが経過後(所定時間経過後)の時点である。所定時間ΔTは、電流-Kiが最大値を取ってから、電流-Kiの値の振れ幅がある程度落ち着くまでに要すると考えられる時間(期間)である。実際の電流iで言えば、所定時間ΔTは、電流iの絶対値がピーク値を取ってから、電流iの値の振れ幅がある程度落ち着くまでに要すると考えられる時間(期間)である。所定時間ΔTは、一例として、時点t2から、電流iがゼロになる時点tendまでの所要時間の1/10程度である。所定時間ΔTを表すデータは、予めメモリ133Cに格納しておけばよい。
【0047】
前述したように惰性回転の開始から一定期間経過後、電流iが角速度ωと同じ指数カーブで減衰することから式(4)より、時点t3以降における電流iは、時点t3における電流値i3を用いて次式(6)で表すことができる。
【0048】
【数6】
【0049】
また、図4における時点t3と、電流iがゼロになる時点tendとの間のある時点をt4とする。また、時点t3から時点t4までの電流iの電流積分値をSi3、時点t4から時点tendまでの電流iの電流積分値をSi4とする。
【0050】
回転角度検出部133Bは、時点t3から時点t4を経て時点tendに至るまでの電流iの電流積分値Si3+Si4と、時点t4から時点tendまでの電流iの電流積分値Si4とを求める。電流積分値Si3+Si4は、第1電流積分値の一例であり、電流積分値Si4は、第2電流積分値の一例である。
【0051】
電流積分値Si3+Si4と電流積分値Si4は、それぞれ次式(7)、(8)で求めることができる。
【0052】
【数7】
【0053】
【数8】
【0054】
式(7)及び式(8)によって実現される電流iの積分処理は、フィルタ処理に相当するフィルタ効果を奏するため、電流iに含まれるリップル成分を除去する効果がある。
【0055】
時点t4は、次式(9)で表すことができる。式(9)のKrは、1未満(Kr<1)の調整係数である。
【0056】
【数9】
【0057】
時点t4は、時点t3と時点tendとの間であれば、どのような時点であってもよいが、後述する電流積分値Si3、Si4を利用した計算の都合上、電流積分値Si4が小さくなりすぎないようにするために時点tendまでにある程度の期間があり、また、電流積分値Si3と電流積分値Si4とが等しくならないように設定されることが好ましい。
【0058】
DCモータ10の電流iの減衰の時定数τは、式(7)及び式(8)より、次式(10)のように求めることができる。DCモータ10の電流iの減衰の時定数τは、DCモータ10の角速度の減衰の時定数と等しいため、DCモータ10の角速度の減衰の時定数の代わりに求められる。
【0059】
【数10】
【0060】
式(10)における自然対数は、(Si3+Si4)/Si4という割り算処理を含むため、抵抗15、LPF112及びA/Dコンバータ132等の回路に含まれるものに由来する、A/Dコンバータ132等の電流の測定誤差を低減する効果が得られる。
【0061】
また、DCモータ10の電流iの減衰の時定数τは、式(10)の代わりに、式(7)から直接的に次式(11)のように求めてもよい。
【0062】
【数11】
【0063】
式(11)を用いて時定数τを計算すると、式(10)を用いて時定数τを計算する場合よりも計算回数が少なく簡単で済むが、電流i3を利用するため、式(10)を用いて計算する時定数τよりもリップル成分や測定誤差の影響を受けやすい。このため、式(10)と式(11)のどちらを用いるかは、回転角度検出装置100の用途等によって決めればよい。
【0064】
時点t0でDCモータ10の電源をオフにした後に、駆動回路20のスイッチ21、22の接点の切り替えが完了するまでの時間が短いが、時点t1で電流iが反転するまでの間は、上述のようにDCモータ10がオンのときの同じ速度で回転していると仮定すると、DCモータ10の回転角度を次のように求めることができる。
【0065】
ここでは、電源をオフにする時点t0から時点tendまでの期間を期間(1)、(2)に分けて計算する。期間(1)は、時点t0から時点t1までの期間である。期間(2)は、時点t1から時点tendまでの期間である。
【0066】
期間(1)では、DCモータ10のロータに逆起電力によって発生する電流iに起因したブレーキが殆どかからない。このため、期間(1)におけるDCモータ10の角速度ωの平均は電源をオフにする直前の角速度ω0と同等であり、DCモータ10は等速回転していると考えることができる。角速度ω0は、電源をオフにする直前にリップル検出部122から入力されるパルスに基づいて算出することができる。期間(1)においてDCモータ10が回転する回転角度θ1は、次式(12)によって求めることができる。
【0067】
【数12】
【0068】
また、期間(2)では、DCモータ10の角速度は減衰するが、期間(2)の始点である時点t1での角速度ω1は、時点t1の直前までの角速度ω0と等しいと考えることができる。このため、期間(2)においてDCモータ10が回転する回転角度θ2は、式(4)より次式(13)によって求めることができる。
【0069】
【数13】
【0070】
以上より、DCモータ10の電源をオフにした時点t0から電流iがゼロになる時点tendまでの期間におけるDCモータ10の回転角度θは、期間(1)における回転角度θ1と期間(2)における回転角度θ2との合計の角度として、次式(14)で求めることができる。
【0071】
【数14】
【0072】
このように、回転角度検出装置100は、DCモータ10が惰性回転を行う期間における回転角度θを求めることができる。ここで、図5を用いて、回転角度検出部133Bが回転角度を検出する処理について説明する。図5は、回転角度検出部133Bが回転角度を検出する処理を表すフローチャートを示す図である。図5に示す処理は、実施形態の回転角度検出プログラムを処理部133が実行することによって実現される処理であり、実施形態の回転角度検出方法によって実現される処理である。より具体的には、前提として電流測定部133AがDCモータ10の電流iを測定する電流測定処理を実行し、回転角度検出部133Bが以下に示す回転角度検出処理を実行する。
【0073】
回転角度検出部133Bは、処理がスタートすると、DCモータ10の電源がオフにされたかどうかを判定する(ステップS1)。具体的な一例として、回路角度検出部133Bは、図示しない駆動制御部が駆動回路20に出力する電源オフの制御指令を検出することにより、DCモータ10の電源オフを検出し、この時点をt0とする。なお、回転角度検出部133Bは、一例として、A/Dコンバータ131から入力されるDCモータ10の電圧値がゼロ(又はゼロに近い所定値以下)になった場合に、DCモータ10の電源がオフにされたと判定してもよい。
【0074】
回転角度検出部133Bは、DCモータ10の電源がオフになる直前にリップル検出部122によって変換されたパルスに基づいて、DCモータ10の電源がオフになる直前の角速度ω0を算出する(ステップS2)。
【0075】
回転角度検出部133Bは、時点t0から電流iがゼロになるまで(時点tendまで)、電流測定部133Aによって測定される電流iと時刻(時点)をメモリ133Cに記録する(ステップS3)。具体的な一例として、回転角度検出部133Bは、周期タスク(マイクロコンピュータ130のタイマ等を利用して一定周期毎に起動されるタスク)の動作毎に、時点t0からの経過時間と、その時点の電流値とをペアでメモリ133Cに順次記録する。ステップS3では、電流iの極性が反転する時点t1、電流iがピークになる時点t2も記録される。具体的な一例として、回転角度検出部133Bは、メモリ133Cに記録した経過時間と電流値とのペアデータを時点t0から順次チェックし、電流値がゼロ又は電流値の極性が反転した時点の経過時間をt1としてメモリ133Cに記録する。また、回転角度検出部133Bは、全データの電流値のうち、最小の電流値に対応する経過時間をt2としてメモリ133Cに記録する。
【0076】
回転角度検出部133Bは、式(9)で時点t4を算出するとともに、電流積分値Si3+Si4と電流積分値Si4をそれぞれ次式(7)、(8)に基づいて求める(ステップS4)。なお、時点t3は、時点t2に所定時間ΔTを加算することで求まる。回転角度検出部133Bは、時点t3、時点t4、電流積分値Si3+Si4、電流積分値Si4をメモリ133Cに格納する。
【0077】
回転角度検出部133Bは、式(10)に基づいてDCモータ10の電流iの減衰の時定数τを求める(ステップS5)。また、回転角度検出部133Bは、式(11)を使用して時点数τを求めてもよい。また、回転角度検出部133Bは、式(11)で使用する電流i3は、時点t3のときの電流値をメモリ133Cから電流i3として取り出せばよい。
【0078】
回転角度検出部133Bは、式(14)に基づいて、DCモータ10の電源をオフにした時点t0から電流iがゼロになる時点tendまでの期間におけるDCモータ10の回転角度θを求める(ステップS6)。以上で一連の処理が終了する(エンド)。
【0079】
以上のように、DCモータ10が惰性回転を行う期間における回転角度θを非常に簡単に求めることができる。また、時定数τは、式(10)によって惰性回転の期間にリアルタイムで求めることができるため、従来手法におけるパラメータ誤差の問題や、角度累積誤差の問題を解消することができ、非常に高い精度で回転角度を検出することができる。また、例えば、パワーウィンドウ50を含むシステムにおける回転角度の精度を大きく向上させることができ、個体差、環境変化、経年変化への対応能力を大幅に改善することができる。
【0080】
したがって、DCモータ10が惰性回転を行っているときに高精度にDCモータ10の回転角度を求めることができる回転角度検出方法、回転角度検出プログラム、及び、回転角度検出装置100を提供することができる。
【0081】
回転角度検出装置100は、DCモータ10の惰性回転の期間における電流に基づいて電流iの減衰の時定数τを求め、求めた時定数τをDCモータ10の惰性回転の期間における角速度の減衰の時定数τとして推定して、DCモータ10の回転角度を求めるので、電流iに基づいて簡単にDCモータ10の回転角度検出することができる。
【0082】
また、回転角度検出装置100が検出する回転角度θに基づいてパワーウィンドウ50の開閉量を算出することができる。例えば、パワーウィンドウ50を全開と全閉との間の位置で止めた場合に、パワーウィンドウ50の開閉量を高精度に求めることができる。パワーウィンドウ50は、挟み込み防止機構を備えることが義務づけられており、パワーウィンドウ50を全開と全閉との間の位置で止めてから次に開閉させる際には、パワーウィンドウ50が止まっていた位置を正確に検出する必要がある。
【0083】
また、回転角度検出装置100は、ホールIC等の高額な装置を用いてパワーウィンドウ50の開閉量を検出することなく、DCモータ10の回転角度を非常に高精度に検出できるため、製造コストを大幅に低減することができる。
【0084】
また、時点t3、時点t4、時点tend、電流積分値Si3+Si4、及び、電流積分値Si4に基づいて電流iの減衰の時定数τが求められる。よって、電流iの時間的な変化に基づいて、角速度ωの減衰の時定数τの代わりに利用可能な電流iの減衰の時定数τを簡単に求めることができる。また、電流積分値を求めるための積分処理はフィルタ処理に相当するため、電流iに含まれるリップル成分を除去できる効果があり、DCモータ10の回転角度を非常に高精度に検出することができる。
【0085】
また、式(10)に基づいて電流iの減衰の時定数τを求めることができるので、処理部133が実行するプログラムに式(10)を組み込むことによって、角速度ωの減衰の時定数τの代わりに利用可能な電流iの減衰の時定数τを簡単に求めることができる。また、積分処理のフィルタ効果を利用して、処理部133が実行するプログラムに従って電流iに含まれるリップル成分を除去して、DCモータ10の回転角度を非常に高精度に検出することができる。また、式(10)における自然対数は電流積分値の割り算処理を含むため、抵抗15、LPF112及びA/Dコンバータ132等の回路に含まれるものに由来する、A/Dコンバータ132等の電流の測定誤差を低減して、DCモータ10の回転角度を非常に高精度に検出することができる。
【0086】
また、時点t3と、時点t3から時点tendまでに電流測定部133Aによって測定される電流値の電流積分値Si3+Si4とに基づいて、電流iの減衰の時定数τを求めるので、角速度ωの減衰の時定数τの代わりに利用可能な電流iの減衰の時定数τを少ない計算回数でより簡単に求めることができる。また、電流積分値を求めるための積分処理はフィルタ処理に相当するため、電流iに含まれるリップル成分を除去できる効果があり、DCモータ10の回転角度を高精度に検出することができる。
【0087】
また、式(11)に基づいて、電流iの減衰の時定数τを求めることができるので、処理部133が実行するプログラムに式(11)を組み込むことによって、角速度ωの減衰の時定数τの代わりに利用可能な電流iの減衰の時定数τを簡単に求めることができる。
【0088】
また、DCモータ10の駆動がオフにされる時点t0の直前の角速度ω0、時点t1、及び、DCモータ10の電流iの減衰の時定数τに基づいてDCモータ10の惰性回転における回転角度を求めるので、角速度ωの減衰の時定数τの代わりに利用可能な電流iの減衰の時定数τを用いて、DCモータ10の惰性回転における回転角度を求めることができる。
【0089】
また、式(14)に基づいて、DCモータ10の惰性回転における回転角度を求めるので、処理部133が実行するプログラムに式(14)を組み込むことによって、角速度ωの減衰の時定数τの代わりに利用可能な電流iの減衰の時定数τを用いて、DCモータ10の惰性回転における回転角度を求めることができる。
【0090】
以上、本発明の例示的な実施形態の回転角度検出方法、回転角度検出プログラム、及び、回転角度検出装置、について説明したが、本発明は、具体的に開示された実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形や変更が可能である。
【符号の説明】
【0091】
10 DCモータ
11、12 端子
15 抵抗器
20 駆動回路
30 直流電源
50 パワーウィンドウ
51 駆動機構
100 回転角度検出装置
110 フィルタ回路
111、112 LPF
120 ICチップ
121 BPF
122 リップル検出部
130 マイクロコンピュータ
131、132 A/Dコンバータ
133 処理部
133A 電流測定部
133B 回転角度検出部
133C メモリ
図1
図2
図3
図4
図5