(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)およびニコチンアミドリボシド(NR)の新規用途
(51)【国際特許分類】
A61K 31/706 20060101AFI20241016BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20241016BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
A61K31/706
A61P29/00
A61P27/02
(21)【出願番号】P 2021527709
(86)(22)【出願日】2020-06-24
(86)【国際出願番号】 JP2020024916
(87)【国際公開番号】W WO2020262497
(87)【国際公開日】2020-12-30
【審査請求日】2023-05-23
(31)【優先権主張番号】P 2019117642
(32)【優先日】2019-06-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2019年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、老化メカニズムの解明・制御プロジェクト、「個体・臓器老化研究拠点」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000199175
【氏名又は名称】千寿製薬株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100118371
【氏名又は名称】▲駒▼谷 剛志
(72)【発明者】
【氏名】土居 雅夫
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 毅
(72)【発明者】
【氏名】町田 麻実子
【審査官】高橋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第09844561(US,B2)
【文献】特表2018-535956(JP,A)
【文献】特表2008-542296(JP,A)
【文献】国際公開第2020/054795(WO,A1)
【文献】MILLS, K.F. et al.,Long-Term Administration of Nicotinamide Mononucleotide Mitigates Age-Associated Physiological Decli,Cell Metabolism,2016年,Vol.24,pp.795-806
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイボーム腺の機能を改善するための、ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)および/またはニコチンアミドリボシド(NR)を含む組成物。
【請求項2】
マイボーム腺の腺房細胞数を増加させるための、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
マイボーム腺からの脂質分泌を増加させるための、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)および/またはニコチンアミドリボシド(NR)を含む、マイボーム腺機能不全を処置または予防するための組成物。
【請求項5】
前記マイボーム腺機能不全がマイボーム腺脂分泌減少を伴う、請求項
4に記載の組成物。
【請求項6】
前記マイボーム腺機能不全が炎症性疾患を伴う、請求項
4に記載の組成物。
【請求項7】
前記炎症性疾患が、マイボーム腺炎、(点状)表層角膜炎、眼瞼炎からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項
6に記載の組成物。
【請求項8】
前記マイボーム腺機能不全が導管内脂質過剰蓄積を伴う、請求項
4に記載の組成物。
【請求項9】
前記マイボーム腺機能不全が眼不快感、異物感、及び/又は圧迫感を伴う、請求項
4に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)およびニコチンアミドリボシド(NR)の新規用途に関する。1つの例として、Hsd3b6またはそのホモログの活性に関連する疾患、障害または症状を治療または予防するためのNMNまたはNRを含む組成物、またはそれを用いる方法に関する。とりわけ、本開示は、マイボーム腺の機能を改善するためのNMNまたはNRを含む組成物、またはそれを用いる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニコチンアミドホスホリボシルトランスフェラーゼ(NAMPT)の酵素反応産物であるニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)や、ニコチンアミドリボシド(NR)などの酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)中間代謝産物について、寿命延長効果を発揮する可能性が示唆されており、サプリメントとしての開発が進められている。しかしながら、NMNおよびNRの活性の作用機序については、現在もまだ完全には理解されていない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本開示においては、Hsd3b6またはそのホモログの活性の改善のための、ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)および/またはニコチンアミドリボシド(NR)の使用、またはそれらを含む組成物が提供される。Hsd3b6またはそのホモログの活性の改善により、Hsd3b6またはそのホモログの活性に関連する疾患、障害または症状の治療または予防が提供され得る。
【0004】
本開示においては、とりわけ、マイボーム腺の機能を改善するための、ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)および/またはニコチンアミドリボシド(NR)の使用、またはそれらを含む組成物が提供される。組成物は、対象の眼に投与されることを特徴とし得る。マイボーム腺の機能の改善として、例えば、マイボーム腺の腺房細胞数を増加させること、またはマイボーム腺からの脂質分泌を増加させることなどが挙げられる。一実施形態においては、マイボーム腺の機能不全を伴う疾患の処置または予防のための組成物が提供され得る。また他の実施形態においては、本開示の組成物は、マイボーム腺組織萎縮の改善効果を示し、マイボーム腺から分泌される脂質に影響するステロイドの合成酵素活性を亢進させることができる。また本開示の組成物は、マイボーム腺から分泌される脂質組成を正常化させることができるため、マイボーム腺における脂質を正常化できることが理解される。さらに本開示の組成物は、マイボーム腺の脂質産生を促進することが知られているテストステロン産生を促進させることができる。テストステロンなどの性ホルモンはマイボーム腺の脂質産生に影響するため、本開示の組成物は、マイボーム腺組織における脂質成分組成を正常化できることが理解される。
【0005】
例えば、本開示の好ましい実施形態において、以下の項目が提供される。
(項目A1) Hsd3b6またはそのホモログの活性の改善のための、ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)および/またはニコチンアミドリボシド(NR)を含む組成物。
(項目A1-2) Hsd3b6またはそのホモログの活性に関連する疾患、障害または症状を治療または予防するための、ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)および/またはニコチンアミドリボシド(NR)を含む組成物。
(項目A1-3) 前記Hsd3b6またはそのホモログの活性に関連する疾患が、マイボーム腺機能不全、ステロイドホルモン(例えば、テストステロンおよびエストロゲンなど)の低下による疾患、更年期障害、骨粗鬆症、生活習慣病、加齢性腺機能低下症および心筋梗塞からなる群から選択される、前記項目のいずれかに記載の組成物。
(項目A2) 前記組成物は、対象の眼に投与されることを特徴とする、前記項目のいずれかに記載の組成物。
(項目A3) マイボーム腺の機能を改善するための、ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)および/またはニコチンアミドリボシド(NR)を含む組成物。
(項目A4) マイボーム腺の腺房細胞数を増加させるための、前記項目のいずれかに記載の組成物。
(項目A5) マイボーム腺からの脂質分泌を増加させるための、前記項目のいずれかに記載の組成物。
(項目A6) マイボーム腺の機能不全を伴う疾患の処置または予防のための、前記項目のいずれかに記載の組成物。
(項目A6-1) ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)および/またはニコチンアミドリボシド(NR)を含む、マイボーム腺機能不全を処置または予防するための組成物。
(項目A6-2) 前記マイボーム腺機能不全がマイボーム腺脂分泌減少を伴う、前記項目のいずれかに記載の組成物。
(項目A6-3) 前記マイボーム腺機能不全が炎症性疾患を伴う、前記項目のいずれかに記載の組成物。
(項目A6-4) 前記炎症性疾患が、マイボーム腺炎、(点状)表層角膜炎、眼瞼炎からなる群より選択される少なくとも1種を含む、前記項目のいずれかに記載の組成物。
(項目A6-5) 前記マイボーム腺機能不全が導管内脂質過剰蓄積を伴う、前記項目のいずれかに記載の組成物。
(項目A6-6) 前記マイボーム腺機能不全が眼不快感、異物感、及び/又は圧迫感を伴う、前記項目のいずれかに記載の組成物。
(項目A7) 前記マイボーム腺の機能不全を伴う疾患が、マイボーム腺炎、後部眼瞼炎、角膜炎、結膜炎、マイボーム腺炎角結膜上皮症、眼類天疱瘡、シェーグレン症候群、Stevens-Johnson症候群、移植片対宿主病(GVHD)、および視機能障害からなる群から選択される、前記項目のいずれかに記載の組成物。
(項目B1) 被験体のHsd3b6またはそのホモログの活性を改善するか、Hsd3b6またはそのホモログの活性に関連する疾患、障害または症状を治療または予防する方法。
(項目B2) 前記被験体にニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)および/またはニコチンアミドリボシド(NR)を投与する工程を含む、項目B1に記載の方法。
(項目B3) さらに、前記被験体のHsd3b6またはそのホモログの活性を測定する工程を含む、項目B1またはB2に記載の方法。
(項目B4) 前記被験体のHsd3b6またはそのホモログの活性を測定し、当該活性が低下している場合に、NMNおよび/またはNRを投与する工程を含む、項目B1~B3のいずれかに記載の方法。
(項目C1) 被験体のマイボーム腺の機能を改善するため、またはマイボーム腺の機能不全を伴う疾患、障害または症状を治療または予防する方法。
(項目C2) 前記被験体にニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)および/またはニコチンアミドリボシド(NR)を投与する工程を含む、項目C1に記載の方法。
(項目C3) さらに、前記被験体のマイボーム腺機能を確認する工程を含む、項目C1またはC2に記載の方法。
(項目C4) 前記被験体のマイボーム腺機能を確認し、当該機能が低下している場合に、NMNおよび/またはNRを投与する工程を含む、項目C1~C3のいずれかに記載の方法。
(項目C5) 前記マイボーム腺機能は、細隙灯検査、Meibography、Confocal microscopy、DR-1、マイボライン、マイボメトリー、Lipid chemistry、蒸発量、BUT、または自覚症状質問表によって確認される、項目C4に記載の方法。
(項目C6) 前記マイボーム腺の機能不全を伴う疾患、障害または症状が、マイボーム腺炎、後部眼瞼炎、角膜炎、結膜炎、マイボーム腺炎角結膜上皮症、眼類天疱瘡、シェーグレン症候群、Stevens-Johnson症候群、移植片対宿主病(GVHD)、および視機能障害からなる群から選択される、項目C1~C5のいずれかに記載の方法。
(項目C7) マイボーム腺の腺房細胞数を増加させるための、項目C1~C6のいずれかに記載の方法。
(項目C8) マイボーム腺からの脂質分泌を増加させるための、項目C1~C6のいずれかに記載の方法。
(項目C9) マイボーム腺におけるテストステロン生成を増強するための、項目C1~C6のいずれかに記載の方法。
(項目D1) マイボーム腺の機能を改善する組成物を製造するための、ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)および/またはニコチンアミドリボシド(NR)の使用。
(項目D2) 前記組成物がマイボーム腺の腺房細胞数を増加させるためのものである、項目D1に記載の使用。
(項目D3) 前記組成物がマイボーム腺からの脂質分泌を増加させるためのものである、項目D1に記載の使用。
(項目D4) 前記組成物がマイボーム腺の機能不全を伴う疾患の処置または予防のためのものである、項目D1~D3のいずれか1項に記載の使用。
(項目D5) 前記マイボーム腺の機能不全を伴う疾患が、マイボーム腺炎、後部眼瞼炎、角膜炎、結膜炎、マイボーム腺炎角結膜上皮症、眼類天疱瘡、シェーグレン症候群、Stevens-Johnson症候群、移植片対宿主病(GVHD)、および視機能障害からなる群から選択される、D4に記載の使用。
(項目D6) 前記組成物がマイボーム腺におけるテストステロン生成を増強するためのものである、項目D1~D5のいずれか1項に記載の使用。
(項目E1) マイボーム腺機能不全を処置または予防する組成物を製造するための、ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)および/またはニコチンアミドリボシド(NR)の使用。
(項目E2) 前記マイボーム腺機能不全がマイボーム腺脂分泌減少を伴う、項目E1に記載の使用。
(項目E3) 前記マイボーム腺機能不全が炎症性疾患を伴う、項目E1に記載の使用。
(項目E4) 前記炎症性疾患が、マイボーム腺炎、(点状)表層角膜炎、眼瞼炎からなる群より選択される少なくとも1種を含む、項目E3に記載の使用。
(項目E5) 前記マイボーム腺機能不全が導管内脂質過剰蓄積を伴う、項目E1に記載の使用。
(項目E6) 前記マイボーム腺機能不全が眼不快感、異物感、及び/又は圧迫感を伴う、項目E1に記載の使用。
(項目F1) 被験体のHsd3b6またはそのホモログの活性を改善するか、Hsd3b6またはそのホモログの活性に関連する疾患、障害または症状の治療または予防における使用のための、ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)および/またはニコチンアミドリボシド(NR)。
(項目G1) マイボーム腺の機能を改善するため、またはマイボーム腺の機能不全を伴う疾患、障害または症状の治療または予防における使用のための、ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)および/またはニコチンアミドリボシド(NR)。
(項目G2) 前記マイボーム腺の機能不全を伴う疾患、障害または症状が、マイボーム腺炎、後部眼瞼炎、角膜炎、結膜炎、マイボーム腺炎角結膜上皮症、眼類天疱瘡、シェーグレン症候群、Stevens-Johnson症候群、移植片対宿主病(GVHD)、および視機能障害からなる群から選択される、項目G1に記載のニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)および/またはニコチンアミドリボシド(NR)。
(項目H1) ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)および/またはニコチンアミドリボシド(NR)を含む、マイボーム腺におけるテストステロン生成を増強するための組成物。
(項目H2) 前記組成物は、対象の眼に投与されることを特徴とする、項目H1に記載の組成物。
(項目I1) 被験体のマイボーム腺におけるテストステロン生成を増強するための方法。
(項目I2) 前記被験体にニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)および/またはニコチンアミドリボシド(NR)を投与する工程を含む、項目I1に記載の方法。
(項目J1) マイボーム腺におけるテストステロン生成を増強するためのニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)および/またはニコチンアミドリボシド(NR)。
(項目J2) 対象の眼に投与されることを特徴とする、項目J1に記載のニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)および/またはニコチンアミドリボシド(NR)。
(項目K1) マイボーム腺におけるテストステロン生成を増強するための医薬を製造するための、ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)および/またはニコチンアミドリボシド(NR)の使用。
(項目K2) 対象の眼に投与されることを特徴とする、項目K1に記載の使用。
【0006】
本開示において、上記1または複数の特徴は、明示された組み合わせに加え、さらに組み合わせて提供されうることが意図される。本開示のなおさらなる実施形態および利点は、必要に応じて以下の詳細な説明を読んで理解すれば、当業者に認識される。
【発明の効果】
【0007】
本開示により、Hsd3b6またはそのホモログの活性を改善するか、Hsd3b6またはそのホモログの活性に関連する疾患、障害または症状を治療または予防するための組成物、またはそのための方法が提供される。とりわけ、本開示において、マイボーム腺の機能を改善するための組成物、またはそのための方法が提供され得る。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、加齢に伴うマイボーム腺組織の萎縮を示す図である。左および中は、それぞれ6ヶ月齢および24ヶ月齢マウスの眼瞼の染色写真であり、右は、6ヶ月齢マウスおよび24ヶ月齢マウスの染色面積の平均を比較する棒グラフである。
【
図2】
図2は、Hsd3b6をノックアウト(KO)した2ヶ月齢マウスのマイボーム腺組織の変化(マイボーム腺の大きさおよび分泌導管の数)を示す図である。上の行は雄マウス、下の行は雌マウスでの結果を示す。
【
図3】
図3は、1.5年齢野生型マウスへのNMNもしくはNRの2週間の点眼によるマイボーム腺におけるHsd3b6酵素活性の変化およびマイボーム腺基底細胞の細胞増殖活性を示す図である。
【
図4】
図4は、1.75年齢野生型マウスへのNMNもしくはNRの3か月間の点眼によるマイボーム腺組織への影響を示す図である。左眼(無処置)および右眼(点眼)の眼瞼の代表的な染色写真と、各個体における染色面積(右眼/左眼)を示すグラフである。
【
図5】
図5は、野生型(WT)およびHsd3b6ノックアウト(KO)の2ヶ月齢の雄マウスの性腺摘除後および偽手術後のマイボーム腺組織におけるテストステロン含有量を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示を説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用されるすべての専門用語および科学技術用語は、本開示の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0010】
(定義)
本明細書において、「約」とは、特に断らない限り、後に続く数値の±10%を意味する。
【0011】
本明細書において「被験体」とは、本開示の治療および予防するための医薬または方法の投与(移植)対象を指し、被験体としては、哺乳動物(例えば、ヒト、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ウシ、ウマ、ヒツジ、サル等)があげられるが、霊長類が好ましく、特にヒトが好ましい。
【0012】
本明細書において「または」は、文章中に列挙されている事項の「少なくとも1つ以上」を採用できるときに使用される。「もしくは」も同様である。本明細書において「2つの値」の「範囲内」と明記した場合、その範囲には2つの値自体も含む。
【0013】
本明細書において、「治療」とは、疾患若しくは症状の治癒又は或いは症状の抑制を意味する。「予防」(prophylaxis)とは、疾患又は症状の発現を未然に防ぐことを意味し、この概念には、疾患又は症状の発現を遅延させることや、疾患又は症状の発現を最小化することも包含される。
【0014】
本明細書において「誘導体」とは、そのコア構造が親化合物のそれと同じかまたはよく似ているが、異なる官能基または付加的な官能基などの化学的または物理的修飾を有するような化合物を指す。誘導体は、親化合物と同一または類似の生物学的活性を有する。
【0015】
本明細書において、「薬学的に許容され得る塩」とは、比較的非毒性の、本開示の化合物の無機または有機の酸付加塩をいう。これらの塩は、化合物の最終的な単離および精製の間に一時的に、またはその遊離塩基型で精製された化合物を適切な有機もしくは無機の酸と別々に反応させること、およびそのように形成された塩を単離することによって調製することができる。
【0016】
本開示の化合物の薬学的に許容され得る塩基性塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩;アンモニウム塩;トリメチルアミン塩、トリエチルアミン塩、ジシクロヘキシルアミン塩、エタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩、プロカイン塩、メグルミン塩、ジエタノールアミン塩またはエチレンジアミン塩等の脂肪族アミン塩;N,N-ジベンジルエチレンジアミン、ベネタミン塩等のアラルキルアミン塩;ピリジン塩、ピコリン塩、キノリン塩、イソキノリン塩等のヘテロ環芳香族アミン塩;テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアモニウム塩、ベンジルトリメチルアンモニウム塩、ベンジルトリエチルアンモニウム塩、ベンジルトリブチルアンモニウム塩、メチルトリオクチルアンモニウム塩、テトラブチルアンモニウム塩等の第4級アンモニウム塩;アルギニン塩、リジン塩等の塩基性アミノ酸塩等が挙げられる。
【0017】
本開示の化合物の薬学的に許容され得る酸性塩としては、例えば、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、過塩素酸塩等の無機酸塩;酢酸塩、プロピオン酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、フマール酸塩、酒石酸塩、リンゴ酸塩、クエン酸塩、アスコルビン酸塩等の有機酸塩;メタンスルホン酸塩、イセチオン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩等のスルホン酸塩;アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩等の酸性アミノ酸塩等が挙げられる。
【0018】
本明細書において、「溶媒和物」とは、本開示の化合物またはその薬学的に許容される塩の溶媒和物を意味し、例えば有機溶媒との溶媒和物(例えば、アルコール(エタノールなど)和物)、水和物等を包含する。水和物を形成する時は、任意の数の水分子と配位していてもよい。水和物としては、1水和物、2水和物等を挙げることができる。
【0019】
本明細書において、「ホモログ」とは、共通の祖先に由来するアミノ酸配列または塩基配列を有するタンパク質または遺伝子を指す。あるホモログが種分化によるものである場合、それらはオーソログという。また、ある生物種において遺伝子重複によって新たに生じたホモログはパラログという。
【0020】
(有効成分)
ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)は以下の構造
【化1】
を有する化合物であり、リボースとニコチンアミドに由来するヌクレオチドである。NAD+(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)の生化学的前駆体として知られている。
【0021】
ニコチンアミドリボシド(NR)は、以下の構造
【化2】
を有する化合物であり、リボースとニコチンアミドとの結合体である。NMNにおいてヌクレオチドがリボースに置換されたものともいえる。
【0022】
本開示において、NMNおよび/またはNRを含む組成物、またはNMNおよび/またはNRを使用(例えば、投与)することを包含する方法が提供され得る。NMNおよび/またはNRは、それらの誘導体、および/またはそれらの薬学的に許容され得る塩として使用してもよい。本明細書の実施例において、NMNおよびNRは、Hsd3b6酵素活性(またはそのホモログ、例えば、HSD3B1の酵素活性)を改善し得ることが示されている。また、本明細書の実施例において、NMNおよびNRは、マイボーム腺組織を回復させ得ることが示されている。1つの実施形態では、組成物は、NMNを含み得る。1つの実施形態では、組成物は、NRを含み得る。
【0023】
NMNおよび/またはNRは、さらなる有効成分と組み合わせて使用されてもよい。さらなる有効成分としては、抗炎症剤、抗菌薬、栄養剤、抗酸化剤などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0024】
(疾患)
本開示において、NMNおよびNRによるHsd3b6またはそのホモログの活性の改善のための組成物または方法が提供され得る。Hsd3b6は、概日時計によって直接的に制御され、この遺伝子の産物は、アルドステロン生産経路の重要な要素である。加えて、Hsd3b6またはそのホモログの活性に関連する疾患、障害または症状を治療または予防するための組成物または方法が提供され得る。Hsd3b6またはそのホモログの活性に関連する疾患としては、マイボーム腺機能不全、ステロイドホルモン(例えば、テストステロンおよびエストロゲンなど)の低下による疾患、更年期障害、骨粗鬆症、生活習慣病、加齢性腺機能低下症および心筋梗塞などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0025】
とりわけ、本開示においては、NMNおよびNRによるマイボーム腺の機能を改善するための組成物または方法が提供され得る。マイボーム腺(Meibomian gland)は、まぶたの縁にある皮脂腺の一つであり、目の涙液膜の蒸発を防ぎ、涙が頬にこぼれ落ちるのを防止し、閉じたまぶた内を気密にする働きを持つ油性物質(皮脂)を分泌する。マイボーム腺は、瞼板腺(tarsal gland)とも称される。マイボーム腺機能不全(MGD)はその機能がびまん性に異常をきたした状態で、慢性の眼不快感を伴うと定義され、その原因はマイボーム脂質の変性やうっ滞・慢性感染や炎症導管上皮の過角化といわれている。本開示の実施例において、NMNおよびNRが、マイボーム腺におけるHsd3b6活性を回復させ得ること、また、マイボーム腺の大きさを増大させ得ることが実証されている。マイボーム腺の機能の改善としては、例えば、マイボーム腺の腺房細胞数を増加させること、マイボーム腺からの脂質分泌を増加させること、あるいはマイボーム腺の機能不全を伴う疾患を処置または予防することが挙げられる。
【0026】
本開示の1つの実施形態では、NMNおよびNRによるマイボーム腺の機能不全を伴う疾患の処置または予防のための組成物または方法が提供され得る。例えば、ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)および/またはニコチンアミドリボシド(NR)を含む、マイボーム腺機能不全を処置または予防するための組成物が提供され得る。マイボーム腺機能不全は、マイボーム腺脂分泌減少を伴い得る。マイボーム腺機能不全は、炎症性疾患を伴い得る。炎症性疾患としては、例えば、マイボーム腺炎、(点状)表層角膜炎、眼瞼炎からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。マイボーム腺機能不全は、導管内脂質過剰蓄積を伴い得る。マイボーム腺機能不全は、眼不快感、異物感、及び/又は圧迫感を伴い得る。マイボーム腺の機能不全を伴う疾患として、例えば、マイボーム腺炎、後部眼瞼炎、角膜炎、結膜炎、マイボーム腺炎角結膜上皮症、視機能障害、アンドロゲン欠乏症、アトピー性皮膚炎、前立腺肥大症、眼類天疱瘡、円盤状ルプス(エリテマトーデス)、Ectodermaldysplasia症候群(無汗性外胚葉形成不全)、骨髄移植、高血圧、閉経、Parkinson病、尋常性乾癬、Rosacea(酒さ)、シェーグレン症候群、Stevens-Johnson症候群、中毒性表皮壊死症、Tuner症候群、移植片対宿主病(GVHD)、および薬物治療(レチノイド、抗アンドロゲン、抗うつ薬、抗ヒスタミン薬、閉経後のエストロゲン治療)による副作用からなる群から選択されるものが挙げられるが、これらに限定されない。本開示の組成物は、マイボーム腺の機能自体を改善し得るため、上記の疾患のいずれにも有効に使用し得ることが理解され得る。
【0027】
本開示の他の実施形態では、マイボーム腺から分泌される脂質組成を正常化させ、マイボーム腺における脂質を正常化させるための組成物または方法が提供され得る。本開示の組成物は、マイボーム腺組織萎縮の改善効果を示し、マイボーム腺から分泌される脂質に影響するステロイドの合成酵素活性を亢進させることができるため、マイボーム腺における脂質の正常化に資することが理解される。マイボーム腺における脂質成分の測定方法は特に限定されるものではなく、マイボーム腺における脂質成分を評価し得るものであれば、本分野において周知の種々の手法を採用し得る。
【0028】
本開示の一実施形態では、本開示の組成物は、Hsd3b6酵素活性を上昇させることから、マイボーム腺の脂質産生を促進することが知られているテストステロン産生を促進させることができる。テストステロンなどの性ホルモンはマイボーム腺における脂質産生に影響するため、本開示の組成物はHsd3b6酵素活性の亢進を介してテストステロンを含む性ホルモンの産生を促進することにより、マイボーム腺組織における脂質成分組成の正常化に資することが理解される。
【0029】
(製剤)
本開示の組成物は、適切な剤形に製剤化され得る。例えば、本開示における組成物は、眼科用組成物である場合に、眼注射液、眼軟膏、点眼剤または眼灌流液として提供され得る。組成物は、エアゾール、液剤、エキス剤、エリキシル剤、カプセル剤、顆粒剤、丸剤、軟膏、散剤、錠剤、溶液、懸濁液、エマルジョン等の任意の剤形に製剤化することができる。組成物は、当技術分野で公知の任意の薬学的に許容される添加物および/または賦形剤を含んでよい。添加剤としては、張度調整剤、緩衝剤、防腐剤、共溶媒、および増粘剤が挙げられるがこれらに限定されない。例えば、眼科用組成物は、水性の溶媒(例えば、水)に有効成分を溶解させた液剤の形態で提供され得る。
【0030】
本開示の組成物は、当業者によって決定される任意の適切な経路によって投与することができ、限定されるものではないが、眼注射、局所適用(眼への適用を含む)、点眼、静脈注射、点滴、経口、非経口、経皮などから選択される投与経路による投与に適するように製剤化され得る。
【0031】
等張化剤としては、グルコース、トレハロース、ラクトース、フルクトース、マンニトール、キシリトール、ソルビトール等の糖類、グリセリン、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール等の多価アルコール類、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム等の無機塩類等が挙げられ、その配合量は、組成物全量に対して0~5重量%が好ましい。
【0032】
キレート剤としては、エデト酸二ナトリウム、エデト酸カルシウム二ナトリウム、エデト酸三ナトリウム、エデト酸四ナトリウム、エデト酸カルシウム等のエデト酸塩類、エチレンジアミン四酢酸塩、ニトリロ三酢酸又はその塩、ヘキサメタリン酸ソーダ、クエン酸等が挙げられ、その配合量は、組成物全量に対して0~0.2重量%が好ましい。
【0033】
安定化剤としては、亜硫酸水素ナトリウム等が挙げられ、その配合量は、組成物全量に対して0~1重量%が好ましい。
【0034】
pH調節剤としては、塩酸、炭酸、酢酸、クエン酸等の酸が挙げられ、さらに水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物、炭酸ナトリウムなどのアルカリ金属炭酸塩又は炭酸水素塩、酢酸ナトリウムなどのアルカリ金属酢酸塩、クエン酸ナトリウムなどのアルカリ金属クエン酸塩、トロメタモール等の塩基等が挙げられ、その配合量は、組成物全量に対して0~20重量%が好ましい。
【0035】
防腐剤としては、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル等のパラオキシ安息香酸エステル、グルコン酸クロルヘキシジン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化セチルピリジニウム等の第4級アンモニウム塩、アルキルポリアミノエチルグリシン、クロロブタノール、ポリクォード、ポリヘキサメチレンビグアニド、クロルヘキシジン等が挙げられ、その配合量は、組成物全量に対して0~0.2重量%が好ましい。
【0036】
抗酸化剤としては、亜硫酸水素ナトリウム、乾燥亜硫酸ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、濃縮混合トコフェロール等が挙げられ、その配合量は、組成物全量に対して0~0.4重量%が好ましい。
【0037】
溶解補助剤としては、安息香酸ナトリウム、グリセリン、D-ソルビトール、ブドウ糖、プロピレングリコール、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、マクロゴール、D-マンニトール等が挙げられ、その配合量は、組成物全量に対して0~3重量%が好ましい。
【0038】
粘稠化剤としては、ポリエチレングリコール、メチルセルロース、エチルセルロース、カルメロースナトリウム、キサンタンガム、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール等が挙げられ、その配合量は、組成物全量に対して0~70重量%が望ましい。
【0039】
点眼剤を調製する場合、例えば、所望の上記成分を滅菌精製水、生理食塩水、緩衝液(例えば、ホウ酸緩衝液、リン酸緩衝液など。)等の水性溶剤、又は綿実油、大豆油、ゴマ油、落花生油等の植物油等の非水性溶剤に溶解又は懸濁させ、所定の浸透圧に調整し、濾過滅菌等の滅菌処理を施すことにより行うことができる。
【0040】
尚、眼軟膏剤を調製する場合は、前記各種の成分の他に、軟膏基剤を含むことができる。前記軟膏基剤としては、特に限定されないが、ワセリン、流動パラフィン、ポリエチレン等の油性基剤;油相と水相とを界面活性剤等により乳化させた乳剤性基剤;ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール等からなる水溶性基剤等が挙げられる。
【0041】
本開示の組成物または治療剤もしくは予防剤はキットとして提供することができる。特定の実施形態では、本開示は、本開示の組成物または医薬の1以上の成分が充填された、1以上の容器を含む、薬剤パックまたはキットを提供する。場合によって、このような容器に付随して、医薬または生物学的製品の製造、使用または販売を規制する政府機関によって規定された形で、政府機関による、ヒト投与のための製造、使用または販売の認可を示す情報を示すことも可能である。
【0042】
本明細書において「キット」とは、通常2つ以上の区画に分けて、提供されるべき部分(例えば、治療薬、予防薬、それらの各々の成分、説明書など)が提供されるユニットをいう。安定性等のため、混合されて提供されるべきでなく、使用直前に混合して使用することが好ましいような組成物の提供を目的とするときに、このキットの形態は好ましい。そのようなキットは、好ましくは、提供される部分(例えば、治療薬、予防薬)をどのように使用するか、あるいは、試薬をどのように処理すべきかを記載する指示書または説明書を備えていることが有利である。本明細書においてキットが試薬キットとして使用される場合、キットには、通常、治療薬、予防薬等の使い方などを記載した指示書などが含まれる。
【0043】
本明細書において「指示書」は、本開示を使用する方法を医師または他の使用者に対する説明を記載したものである。この指示書は、本開示の検出方法、診断薬の使い方、または医薬などを投与することを指示する文言が記載されている。また、指示書には、投与部位として、眼への投与(例えば、点眼、眼軟膏または注入などによる)することを指示する文言が記載されていてもよい。この指示書は、本開示が実施される国の監督官庁(例えば、日本であれば厚生労働省、米国であれば食品医薬品局(FDA)など)が規定した様式に従って作成され、その監督官庁により承認を受けた旨が明記される。指示書は、いわゆる添付文書(package insert)であり、通常は紙媒体で提供されるが、それに限定されず、例えば、電子媒体(例えば、インターネットで提供されるホームページ、電子メール)のような形態でも提供され得る。
【0044】
1つの実施形態では、ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)を含む点眼剤であって、ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)が、0.001μg/ml以上、0.01μg/ml以上、0.1μg/ml以上、1μg/ml以上、10μg/ml以上、100μg/ml以上、200μg/ml以上、500μg/ml以上、1mg/ml以上、2mg/ml以上、5mg/ml以上、10mg/ml以上、または50mg/ml以上の濃度で含まれる、点眼剤が提供され得る。
【0045】
1つの実施形態では、ニコチンアミドリボシド(NR)を含む点眼剤であって、ニコチンアミドリボシド(NR)が、0.001μg/ml以上、0.01μg/ml以上、0.1μg/ml以上、1μg/ml以上、10μg/ml以上、100μg/ml以上、200μg/ml以上、500μg/ml以上、1mg/ml以上、2mg/ml以上、5mg/ml以上、10mg/ml以上、または50mg/ml以上の濃度で含まれる、点眼剤が提供され得る。
【0046】
1つの実施形態では、ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)を含む眼軟膏であって、ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)が、0.001μg/ml以上、0.01μg/ml以上、0.1μg/ml以上、1μg/ml以上、2μg/ml以上、5μg/ml以上、10μg/ml以上、50μg/ml以上、100μg/ml以上、200μg/ml以上、または500μg/ml以上の濃度で含まれる、眼軟膏が提供され得る。
【0047】
1つの実施形態では、ニコチンアミドリボシド(NR)を含む眼軟膏であって、ニコチンアミドリボシド(NR)が、0.001μg/ml以上、0.01μg/ml以上、0.1μg/ml以上、1μg/ml以上、2μg/ml以上、5μg/ml以上、10μg/ml以上、50μg/ml以上、100μg/ml以上、200μg/ml以上、または500μg/ml以上の濃度で含まれる、眼軟膏が提供され得る。
【0048】
剤形に応じて所定量以上の濃度を有する製剤を使用することは、眼球上ではなく眼瞼裏に存在するマイボーム腺への送達に関して有利となり得る。
【0049】
(用量)
1つの実施形態において、本開示の利用法としては、例えば点眼剤が挙げられるが、これに限定されず、眼軟膏、前房内への注射、徐放剤への含浸、結膜下注射、全身投与(内服、静脈注射)などの投与形態(投与方法および剤型)も挙げることができる。
【0050】
本開示で使用されるNMNまたはNRの濃度は、通常約0.001~1000μM(μmol/l)、好ましくは約0.01~300μM、より好ましくは約0.03~100μM、さらに好ましくは約0.1~約30μMであり、他の濃度範囲としては、例えば、通常、0.01nM~100μM、約0.1nM~100μM、約0.001~100μM、約0.01~75μM、約0.05~50μM、約1~10μM、約0.01~10μM、約0.05~10μM、約0.075~10μM、約0.1~10μM、約0.5~10μM、約0.75~10μM、約1.0~10μM、約1.25~10μM、約1.5~10μM、約1.75~10μM、約2.0~10μM、約2.5~10μM、約3.0~10μM、約4.0~10μM、約5.0~10μM、約6.0~10μM、約7.0~10μM、約8.0~10μM、約9.0~10μM、約0.01~50μM、約0.05~5.0μM、約0.075~5.0μM、約0.1~5.0μM、約0.5~5.0μM、約0.75~5.0μM、約1.0~5.0μM、約1.25~5.0μM、約1.5~5.0μM、約1.75~5.0μM、約2.0~5.0μM、約2.5~5.0μM、約3.0~5.0μM、約4.0~5.0μM、約0.01~3.0μM、約0.05~3.0μM、約0.075~3.0μM、約0.1~3.0μM、約0.5~3.0μM、約0.75~3.0μM、約1.0~3.0μM、約1.25~3.0μM、約1.5~3.0μM、約1.75~3.0μM、約2.0~3.0μM、約0.01~1.0μM、約0.05~1.0μM、約0.075~1.0μM、約0.1~1.0μM、約0.5~1.0μM、約0.75~1.0μM、約0.09~35μM、または約0.09~3.2μMであり、より好ましくは、約0.01~10μM、約0.1~3μM、または約0.1~1.0μMを挙げることができるがこれらに限定されない。
【0051】
点眼剤として用いられる場合は、涙液などでの希釈も考慮し、毒性にも気を付けながら、上記有効濃度の約1~10000倍、好ましくは約100~10000倍、例えば、約1000倍を基準として製剤濃度を決定することができ、これらを上回る濃度を設定することも可能である。例えば、約0.01μM(μmol/l)~1000mM(mmol/l)、0.03μM~1000mM、約0.1μM~300mM、約0.3μM~300mM、約1μM~100mM、約3μM~100mM、約10μM~100mM、約30μM~100mM、約0.1μM~30mM、約0.3μM~30mM、約1μM~30mM、約3μM~30mM、約1μM~10mM、約3μM~10mM、約10μM~1mM、約30μM~1mM、約10μM~10mM、約30μM~10mM、約100μM~10mM、約300μM~10mM、約10μM~100mM、約30μM~300mM、約100μM~300mM、約300μM~300mMであり、約1mM~10mM、約1mM~100mMであり得、これらの上限下限は適宜組み合わせて設定されることができる。
【0052】
特定の疾患、障害または状態の治療に有効な本開示の医薬の有効量は、障害または状態の性質によって変動しうるが、当業者は本明細書の記載に基づき標準的臨床技術によって決定可能である。さらに、必要に応じて、in vitroアッセイを使用して、最適投薬量範囲を同定するのを補助することも可能である。配合物に使用しようとする正確な用量はまた、投与経路、および疾患または障害の重大性によっても変動しうるため、担当医の判断および各患者の状況に従って、決定すべきである。しかし、投与量は特に限定されないが、例えば、1回あたり0.001、1、5、10、15、100、または1000mg/kg体重であってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。投与間隔は特に限定されないが、例えば、1、7、14、21、または28日あたりに1、2または4回投与してもよく、それらいずれか2つの値の範囲あたりに1、2または4回投与してもよい。投与量、投与回数、投与間隔、投与期間、投与方法は、患者の年齢や体重、症状、投与形態、対象臓器等により、適宜選択してもよい。例えば、本開示の組成物は、点眼剤として使用され得る。また治療薬は、治療有効量、または所望の作用を発揮する有効量の有効成分を含むことが好ましい。有効用量は、in vitroまたは動物モデル試験系から得られる用量-反応曲線から推定可能である。
【0053】
所定量以上の有効成分を投与することは、眼球上ではなく眼瞼裏に存在するマイボーム腺への送達に関して有利となり得る。
【0054】
(治療方法および予防方法)
本開示において、Hsd3b6またはそのホモログの活性を改善するか、Hsd3b6またはそのホモログの活性に関連する疾患、障害または症状を治療または予防する方法が提供され得る。方法は、被験体にニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)および/またはニコチンアミドリボシド(NR)を投与することを含み得る。
【0055】
方法は、必要に応じて、被験体のHsd3b6またはそのホモログの活性を測定することを含んでよい。一実施形態では、被験体のHsd3b6またはそのホモログの活性を測定し、当該活性が低下している場合に、NMNおよび/またはNRを投与する、方法が提供され得る。
【0056】
本開示において、マイボーム腺の機能を改善するため、またはマイボーム腺機能不全を伴う疾患障害または症状を治療または予防する方法が提供され得る。方法は、被験体にニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)および/またはニコチンアミドリボシド(NR)を投与することを含み得る。
【0057】
本開示において、マイボーム腺においてテストステロン生成を増強する方法が提供され得る。方法は、被験体にニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)および/またはニコチンアミドリボシド(NR)を投与することを含み得る。
【0058】
方法は、必要に応じて、被験体のマイボーム腺機能を確認することを含んでよい。一実施形態では、被験体のマイボーム腺機能を確認し、当該機能が低下している場合に、NMNおよび/またはNRを投与する、方法が提供され得る。マイボーム腺機能は、例えば、細隙灯検査、Meibography、Confocal microscopy、DR-1、マイボライン、マイボメトリー、Lipid chemistry、蒸発量、BUT、自覚症状質問表などによって確認を行うことができる。
【0059】
(一般技術)
本明細書において用いられる分子生物学的手法、生化学的手法、微生物学的手法は、当該分野において周知であり慣用されるものであり、例えば、Sambrook J.et al.(1989).Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harborおよびその3rd Ed.(2001); Ausubel, F.M.(1987).Current Protocols in Molecular Biology, Greene Pub. Associates and Wiley-Interscience; Ausubel, F.M.(1989).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology, Greene Pub. Associates and Wiley-Interscience; Innis, M. A.(1990).PCR Protocols: A Guide to Methods and Applications, Academic Press; Ausubel, F.M.(1992).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology, Greene Pub. Associates; Ausubel, F.M.(1995).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology, Greene Pub. Associates; Innis ,M.A. et al.(1995).PCR Strategies, Academic Press; Ausubel, F.M.(1999).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology, Wiley, and annual updates; Sninsky, J.J.et al.(1999).PCR Applications: Protocols for Functional Genomics, Academic Press、Gait, M.J.(1985).Oligonucleotide Synthesis: A Practical Approach, IRL Press; Gait, M.J.(1990).Oligonucleotide Synthesis: A Practical Approach, IRL Press; Eckstein, F.(1991).Oligonucleotides and Analogues: A Practical Approach, IRL Press; Adams, R.L. et al.(1992).The Biochemistry of the Nucleic Acids, Chapman & Hall; Shabarova, Z. et al.(1994).Advanced Organic Chemistry of Nucleic Acids, Weinheim; Blackburn, G.M. et al.(1996).Nucleic Acids in Chemistry and Biology, Oxford University Press; Hermanson, G.T.(I996).Bioconjugate Techniques, Academic Press、別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997などに記載されている。これらは本明細書において関連する部分(全部であり得る)が参考として援用される。
【0060】
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
【0061】
以上、本開示を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本開示を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本開示を限定する目的で提供したのではない。従って、本開示の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例】
【0062】
以下に、本開示の例を記載する。該当する場合生物試料等の取り扱いは、厚生労働省、文部科学省等において規定される基準を遵守し、該当する場合はヘルシンキ宣言またはその宣言に基づき作成された倫理規定に基づいて行った。
【0063】
(実施例1:加齢に伴うマイボーム腺組織の萎縮・Hsd3b6 KOにおけるマイボーム腺組織)
[概要]
本実施例では、加齢に伴うマイボーム腺組織の萎縮、およびHsd3b6 KOマウスにおけるマイボーム腺組織の変化を実証する。
【0064】
[材料および方法]
(1)Whole mount meibomian glands Herxheimer’s stainingプロトコル
マウスにおけるマイボーム腺組織の染色は以下のプロトコルに従い行った。
【0065】
染色液100mLあたりの調整法として、Sudan IVを100% エタノールに飽和させるように溶かしたStock solutionの瓶を事前に静置しておき、なるべくその上清の部分を70mL、10% NaOHを20mL、超純水を10mLを混ぜ、5分転がし、遠心して粉を沈殿させた。その上清を0.45μmのフィルターでfiltrationして染色液として使用した。
【0066】
マウスを頸椎脱臼し、マイボーム腺を含む頭部の皮膚をサンプリングした。4%のパラホルムアルデヒドに押しピンで平らになるように浸け、24時間で4℃、rotatorを用いて固定した。マイボーム腺の周囲をトリミングし、50%エタノールに10分で室温、rotatorを用いて浸け、その後70%エタノールに20分浸け、染色液にfalcon tubeのなかで24時間、室温でrotatorを用いて浸けた。その後70% エタノールに10分浸け、数回洗浄操作を繰り返し、マイボーム腺が綺麗に染まっているのを確認した。80%アミノアルコール3.75mLとglycerin 8.25mLを混ぜたamino alcohol in glycerinに24時間浸けた。スライドガラスに乗せ、glycerin jellyで封入した。glycerin jellyはゼラチン10g、超純水 60ml、glycerin 70mlでまず、ゼラチンと超純水を先に混ぜ、ゼラチンを膨らませ、1時間ほど経ったら加熱をしながらglycerinを加えて混ぜることで作製した。
【0067】
(2)マイボーム腺Sudan IV染色のエリア解析
染色後のエリア解析は、PhotoshopおよびImageJを用い、染色像と見比べながら色の強さの閾値を決定し、所定の閾値以上の部分の面積に基づき行った。
【0068】
(3)マウス
マウスのHsd3b6遺伝子の開始コドンを含むExon 2領域をloxPで挟みこんだfloxedマウスを作製し、これをCAG-Cre transgenicマウスと交配することによってHsd3b6が発現できなくなったHsd3b6 KOマウスを作製した。
【0069】
湿度40~60%、室温25℃、12時間明12時間暗サイクルの自由摂食・摂水環境のNormal condition(通常湿度条件)下で2カ月齢のマウスを10日間飼育した後に試験を行った。
【0070】
24ヶ月齢のマウスはC57BL/6Jマウス78週齢(18ヵ月齢)の雄性マウスを株式会社オリエンタルバイオサービスより購入したものをNormal condition(通常湿度条件)にて6カ月飼育したものである。6ヵ月齢のC57BL/6Jマウスは6週齢のマウスを購入して6ヵ月齢までNormal condition(通常湿度条件)にて飼育したものである。
【0071】
[結果]
6ヶ月齢のマウスと、24ヶ月齢のマウスにおいて、上述のプロトコルに従ってマイボーム腺組織を染色し、染色された面積を比較した。結果は、
図1において示される。加齢により、マイボーム腺組織が萎縮し、マイボーム腺機能不全(MGD)が進行していることが認められた(N=7)。
【0072】
2カ月齢のHsd3b6 KOマウスと、野生型マウスのマイボーム腺組織の大きさおよび分泌導管の数について、
図2に示される。老齢マウスと同様に、Hsd3b6 KOマウスもマイボーム腺萎縮を示すことが認められた。分泌導管の数は遺伝子型による差はないため、マイボーム腺萎縮は導管の発生過程の異常ではないことが認められた。
【0073】
(実施例2:1.5年齢野生型マウスへのNMNもしくはNRの2週間の点眼実験)
[概要]
本実施例では、1.5年齢野生型マウスへのNMNもしくはNRの2週間の点眼によるマイボーム腺におけるHsd3b6酵素活性、およびマイボーム腺腺房基底細胞における細胞増殖活性の変化を実証する。
【0074】
[材料および方法]
(1)点眼実験の概要は以下のとおりであった。
【表1】
【0075】
(2)マイボーム腺Hsd3b6酵素活性測定
マウスにおけるマイボーム腺Hsd3b6酵素活性測定は以下のプロトコルに従い行った。
【0076】
〇事前準備
ハンクス平衡塩溶液(HBSS)を1時間以上95% CO2/5% O2でバブリングした。2mLチューブに200μLずつ分注し、95% CO2/5% O2を満たした状態で蓋をした。37℃の水浴でHBSSを温めておき、反応用インキュベーターを37℃に温め、中にmicro tube mixerを設置した。
【0077】
〇測定機器の立ち上げ
Flow液体シンチレーションカウンター(Perkin Elmer, Radiomatic 625TR)の主電源をONにし、HPLC(Waters, 2795 Separations Module)の主電源をONにしてセットアップを行った。移動相Aを水、移動相Bをアセトニトリルに置換した。カラム(関東化学, リクロカート250-4 リクロスフェア100RP-18 粒子径5μm 4mm I.D.×250mm)を装着したら、40%アセトニトリル(ACN)(Aが60%、Bが40%)を0.7mL/minで流しておき、このときカラムオーブンの温度を40℃に設定した。
【0078】
○3H-pregnenoloneの精製
2mLチューブに入った40%ACN 1mLに3H-DHEAを加え、タッピングした。HPLCのホルダーにエッペンをセッティングし、シングル投与を選択した。22分過ぎに出てくる夾雑物のピークは回収せず、夾雑物のピークが23分位で下がると、次は3H-DHEAのピークが現れるのでピークの値の1/3位のc.p.m.になった時点でガラススピッツに回収を開始し、4分の回収により、合計で2.5mL程度が回収された。Voltexでガラススピッツ内の液を撹拌し、25μLを液体シンチレーションカウンターにかけ、25μLをクリアゾル3mLに加えた。噴き出し口からN2がわずかに出ていることを確認して、タイテックのインキュベーターでガラススピッツ内の液を75℃で窒素乾固した。
【0079】
○基質の調製
窒素乾固させておいた3H-DHEAを、室温まで冷ましたら1μL/4,000c.p.m.(25μLを液体シンチレーションカウンターで測った値)のpropylene glycolを加え、5分ボルテックスして3H-DHEAを溶かした。
【0080】
PBSを4μL/4,000c.p.m.加え、ボルテックスし、10μLを液体シンチレーションカウンターにかけて、40万c.p.m.を超えていることを確認した。PBS:プロピレングリコール=4:1で希釈し、40万c.p.m./10μLのhot溶液(1)、87μM DHEA in 10% EtOH/90% D-PBS(2)、1mM Dutasteride in 50% DMSO/50% DW(3)、1mM Fadrozole in 50%DMSO/50% DW(4)を調製し、(1):(2):(3):(4)=5:5:1:1の割合で混合したものを基質の溶液とした。使用前に37℃の水浴で温めた。
【0081】
○酵素反応&抽出
片目上瞼のマイボーム腺を切り出し、マイボーム腺が露出している側を上にして薬包紙に乗せ、tissue chopperで200μm厚に刻んだ。刻んだマイボーム腺をHBSSに移し、基質溶液を軽くボルテックスしてから24μLをHBSS中に加え、ピペッティングした。
【0082】
37℃のインキュベーター内に設置したmicro tube mixerで揺らしながら30分インキュベートし、30分経ったら、室温、700gで1分遠心し、マイボーム腺組織を沈殿させた。HBSSを全量取り、2mLの酢酸エチルを分注しておいた試験管に移した。10秒ボルテックスし、反応を止めたらすぐに氷上に移した。
【0083】
マイボーム腺が残った2mLチューブに、37℃に温めたHBSSを200μL加え、基質溶液を軽くボルテックスしてから24μLをHBSS中に加え、ピペッティングした。100mM NAD+ in D-PBSを2μL加え、37℃のインキュベーター内に設置したmicro tube mixerで揺らしながら30分インキュベートした。室温、700gで1分遠心し、マイボーム腺組織を沈殿させ、HBSSを全量取り、2mLの酢酸エチルを分注しておいた試験管に移した。10秒ボルテックスし、反応を止めたらすぐに氷上に移した。
【0084】
○ステロイド抽出
室温、1,500rpmで10分遠心し、上層にある酢酸エチルの層を1.6mL回収し、75℃で窒素乾固した。液が蒸発しきったら、40% ACNを500μL加えて、3分ボルテックスした。2mLチューブに取り付けたMILLIPORE Ultra free-MCに液を移し、室温、12,000gで2分遠心した。ガラススピッツを500μLの40% ACNで共洗いし、2分ボルテックスした。同じカラムのフィルターを通して、室温、12,000gで4分遠心した。Eluteをタッピングで混ぜて10μLをクリアゾル3mLに加えて液体シンチレーションカウンターにかけた(回収率の測定)。
【0085】
○測定
カラムを初期条件で平衡化(ベースラインと圧力が安定するまで)した。測定するサンプル数のサンプルセットを作成した。1本目は分析が安定しないため40% ACNをサンプルとして流した。測定する2mLチューブの蓋を開け、薄く伸ばしたパラフィルムをかぶせ、HPLCにセットした。連続分析をStartした。
HPLCの条件(3H-DHEA)
流速:0.7mL/min カラム温度:40℃
グラジエント
0~30min:40~50% ACN(0.3%/min)
30~35min:70% ACN
35~40min:100% ACN
40~50min:100~40% ACN(6%/min)
50~60min:40% ACN
【0086】
○解析
ProFSAでクロマトグラムを開き、SDA(スムージング機能)levelを8にして、スムージングを行った。Find PeaksとLocate Peaksでピークを表示させ、Report PreviewをコピーしてWordに貼り付け、データを取り出し、以下の式で酵素活性を導き出した。
【数1】
【0087】
(3)BrdU取り込み染色による細胞増殖アッセイ
マウスから眼瞼組織を採集する30分前にBrdU(100 mg/kg体重、Sigma-Aldrich)を腹腔内に注射した。マイボーム腺を含む眼瞼を4%PFAで固定し、パラフィン包埋した。5μmの厚さの切片を10mMクエン酸ナトリウム緩衝液(pH6.0)中で2.5分間加圧処理することにより抗原を賦活化した。切片を抗BrdU抗体(1:1,000希釈;RocklandInc.)を用いて4℃で24時間インキュベートした後、Dako社の2次抗体 Envision+System-HRP Labelled PolymerAnti-Rabbitを用いて3,3'-diaminobenzidine(DAB)により免疫反応を可視化した。各組織切片において、マイボーム腺の基底細胞層のBrdU陽性細胞を20倍の倍率にて撮影したデジタル顕微写真上でカウントした。マイボーム腺腺房の外周長をImageJソフトウェアで計測し、BrdU陽性細胞の総数をこの外周長にてノーマライズした。なお1個体あたり16切片を用いてBrdU陽性細胞数のカウントを行った。
【0088】
[結果]
NMN、NR、およびその溶媒液(Vehicle, リン酸緩衝生理食塩水)点眼によるマイボーム腺におけるHsd3b6酵素活性の変化、およびマイボーム腺基底細胞におけるBrdU陽性細胞数の変化が
図3に示される。NMN点眼により、Hsd3b6酵素活性とBrdU陽性細胞数が有意に上昇した。NR点眼群についても同様のHsd3b6酵素活性の上昇が見られるとともに、BrdU陽性細胞数が有意に上昇した。すなわち、NMN、NRの点眼により、マイボーム腺局所でのHsd3b6酵素活性が上昇するとともに、マイボーム腺基底細胞の細胞増殖活性が増加することがわかる。
【0089】
(実施例3:1.75年齢野生型マウスへのNMNもしくはNRの3か月間の点眼実験)
[概要]
本実施例では、1.75年齢野生型マウスへのNMNもしくはNRの3か月間の点眼によるマイボーム腺腺組織容量への影響を実証する。
【0090】
[材料および方法]
(1)点眼実験の概要は以下のとおりであった。
【表2】
【0091】
(2)マウスにおけるマイボーム腺組織の染色は実施例1の手法と同じくWhole mount meibomian glands Herxheimer’s stainingプロトコルにより行った。
【0092】
[結果]
NMN、NR、およびその溶媒液(Vehicle, リン酸緩衝生理食塩水)点眼によるマイボーム腺腺容量の変化が
図4に示される。NMN点眼群、NR点眼群、どちらにおいても、マイボーム腺腺容量の有意な増大が認められた。
【0093】
(実施例4:1.75年齢野生型マウスへのNMNもしくはNRの3か月間の点眼実験)
[概要]
本実施例では、1.75年齢野生型マウスへのNMNもしくはNRの3か月間の点眼によるマイボーム腺における脂質成分への影響を実証する。
【0094】
[材料および方法]
(1)点眼実験については実施例3と同様に行う。
(2)マウスマイボーム腺からの脂質採取及び脂質解析
安楽死させたマウスの眼瞼から、マイボーム腺を採取する。各動物の片眼から採取した2つのマイボーム腺を、それぞれ、脂質抽出用の1mLのクロロホルム:メタノール=2:1(v/v)溶媒混合物を含むガラスバイアルに入れ、脂質の抽出を行う。抽出液を新しいバイアルに入れ替える。抽出液は、窒素下で溶液を蒸発させ、-20℃以下で数か月保管できる。その後、適切な溶媒に溶かし、APCI法により脂質組成を分析する。
【0095】
[結果]
NMN、または、NR点眼群は、対照であるVehicle(リン酸緩衝生理食塩水)点眼群に比べて、マイボーム腺における脂質成分が正常化している。
【0096】
(実施例5:マイボーム腺におけるテストステロンの定量)
[材料および方法]
眼瞼から切除したマイボーム腺をメタノール/水(75:25、v/v)でホモジナイズしたのち、ホモジネートに含まれるステロイドをIsoluteSLE+カートリッジ(Biotage社)を用いてジクロロメタンへ抽出し、窒素下で蒸発させたのち、残渣を得た。この残渣を10mg/mL濃度のAmplifex Keto試薬(SCIEX社)を含むメタノール/5%酢酸溶液50μLに溶かし室温で1時間インキュベートしたあと、液体クロマトグラフィーエレクトロスプレーイオン化タンデム質量分析装置(QTRAP 4500 LC-MS/MS System;SCIEX社)を用いた質量分析によりテストステロン濃度を求め(誘導体SRMトランジション:403→164)、摘出したマイボーム腺の湿重量によりノーマライズした。
【0097】
[結果]
野生型およびHsd3b6欠損マウスのマイボーム腺組織におけるテストステロン量が
図5に示される。野生型マウスに比べHsd3b6を欠損するマウスではマイボーム腺局所に含まれるテストステロンが約50%減少した。またさらに、性腺(精巣)を摘除したHsd3b6ノックアウトマウスでは、マイボーム腺局所に検出されるテストステロンは10%以下に減少した。このことから、マイボーム腺組織においては精巣から供給される循環テストステロンのみならず、それと同程度のマイボーム腺局所のテストステロン産生の寄与があることがわかる。
【0098】
NMNまたはNRを点眼することにより、Hsd3b6酵素活性を上昇させることから、マイボーム腺の脂質産生を促進することが知られているテストステロン産生が促進し、マイボーム腺組織における脂質成分組成は正常化されるものと考えられる。
【0099】
(注記)
以上のように、本開示の好ましい実施形態を用いて本開示を例示してきたが、本開示は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願及び他の文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。本願は、日本国特許庁に2019年6月25日に出願された特願2019-117642に対して優先権主張をするものであり、その内容はその全体があたかも本願の内容を構成するのと同様に参考として援用される。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本開示は、医療、医薬品、ヘルスケア、生物学、生化学等の分野において利用可能である。