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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】抗原特異的制御性T細胞調製方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0783 20100101AFI20241016BHJP
   C12N 5/0784 20100101ALI20241016BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
C12N5/0783
C12N5/0784
C12N5/10
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018559596
(86)(22)【出願日】2017-12-27
(86)【国際出願番号】 JP2017047014
(87)【国際公開番号】W WO2018124207
(87)【国際公開日】2018-07-05
【審査請求日】2020-12-23
【審判番号】
【審判請求日】2023-01-31
(31)【優先権主張番号】P 2016254095
(32)【優先日】2016-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】520109139
【氏名又は名称】リバーセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(72)【発明者】
【氏名】河本 宏
(72)【発明者】
【氏名】坂口 志文
(72)【発明者】
【氏名】増田 喬子
(72)【発明者】
【氏名】廣田 圭司
(72)【発明者】
【氏名】上堀 淳二
【合議体】
【審判長】上條 肇
【審判官】小金井 悟
【審判官】高堀 栄二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/037544(WO,A1)
【文献】特開2014-506447(JP,A)
【文献】工藤浩也ほか,細胞治療による免疫寛容の誘導,今日の移植,2012年,Vol.25,No.4,p.293-300
【文献】ZHANG,Q.et al.,Generation and characterization of regulatory dendritic cells derived from murine induced pluripotent stem cells.,SCIENTIFIC REPORTS,2014年,Vol.4,No.3979,p.1-8
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移植ドナーとHLAクラスII分子が一定以上一致する体細胞ドナー由来の体細胞から樹立されたiPS細胞を準備する工程、ここで移植ドナーと体細胞ドナーは別個体である、
iPS細胞から樹状細胞を誘導する工程、および
移植レシピエントから取得された制御性T細胞を、誘導された樹状細胞と共培養する工程
を含む、移植レシピエントにおいて移植ドナーの組織に対する免疫寛容を誘導するための抗原特異的制御性T細胞を誘導する方法。
【請求項2】
樹状細胞と移植レシピエントから取得された制御性T細胞を共培養する前に、樹状細胞に免疫寛容の対象とする臓器の細胞由来のタンパク質を取込ませることによって抗原を感作させる工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
制御性T細胞と樹状細胞の共培養において、共培養開始時における樹状細胞:制御性T細胞の比を1:1~20:1とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
制御性T細胞と樹状細胞の共培養を約1~2週間実施する、請求項1~3いずれかに記載の方法。
【請求項5】
制御性T細胞と樹状細胞の共培養をラパマイシンの存在下で行う、請求項1~4いずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、免疫寛容を誘導するために用いられる抗原特異的制御性T細胞を誘導する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
制御性T細胞は、末梢のCD4陽性T細胞に含まれる、自己免疫反応を抑制する細胞集団として発見された。現在では制御性T細胞は自己免疫反応のみでなく、腫瘍免疫、移植免疫、アレルギー、感染に対する免疫反応をも抑制することが知られている。例えば、抗原特異的な制御性T細胞が皮膚移植片の拒絶反応を特異的に抑制できることが非特許文献1に示されている。
【0003】
体外で抗原特異的な制御性T細胞を誘導し、これを臓器移植の拒絶反応の抑制に用いるアイディアが、非特許文献2に示されている。現在自己免疫疾患、臓器移植の拒絶、移植片対宿主病(GVHD)、アレルギーなどの治療において、患者由来の抗原特異的制御性T細胞を体外で選択的に増幅して投与する治療法が検討されている。
【0004】
体外での抗原特異的制御性T細胞の増幅には、患者由来の制御性T細胞を同じ患者の単球由来の樹状細胞または移植ドナーの単球由来の樹状細胞と共培養する方法が一般的に想定されている。かかる方法を採用するにあたり、患者やドナーから十分な量の単球を調製することが困難であり、患者への負担が大きかった。
【0005】
生体肝移植における制御性T細胞を用いた免疫寛容の誘導する臨床試驗が行われている(非特許文献3)。この方法で用いられる細胞は制御性T細胞ではなく「制御性T細胞」と名付けられた副刺激分子を阻害した状態でT細胞と樹状細胞を混合培養して得られたアナジー状態のT細胞である(特許文献1)。
【0006】
ES細胞やiPS細胞などの多能性幹細胞から樹状細胞を製造する方法は知られている(例えば特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2016-520081号公報
【文献】特表2014-506447号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】Nagahama K, Sakaguchi S et al. Differential control of allo-antigen-specific regulatory T cells and effector T cells by anti-CD4 and other agents in establishing transplantation tolerance. Int Immunol. 21:379, 2009.
【文献】Takasato F, Yoshimura A, et al. Prevention of allogeneic cardiac graft rejection by transfer of ex vivo expanded antigen-specific regulatory T-cells. PLoS One. 9(2): e87722, 2014.
【文献】「生体肝移植における制御性T細胞を用いた免疫寛容の誘導法の開発」UMIN試験ID:UMIN000015789(https://upload.umin.ac.jp/cgi-open-bin/ctr/ctr_view.cgi?recptno=R000018372)上記特許文献及び非特許文献は引用により本願に含まれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本願は、抗原特異的制御性T細胞を体外において誘導する方法を提供することを目的とする。本願はまた、誘導された抗原特異的制御性T細胞を用いて、対象において免疫寛容を誘導する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願は、対象から取得された制御性T細胞を、iPS細胞由来の樹状細胞と共培養する工程を含む、免疫寛容誘導用制御性T細胞の製造方法を提供する。本願の方法により得られる制御性T細胞は、対象における自己免疫疾患、臓器移植の拒絶、移植片対宿主病(GVHD)、アレルギーなどの治療のために有用である。
【0011】
本願の第1の態様においては、対象とHLAクラスII分子が一定以上一致する体細胞ドナーの体細胞から樹立されたiPS細胞を準備する工程、
当該iPS細胞から樹状細胞を誘導する工程、
当該樹状細胞に免疫寛容を誘導したい抗原を感作させる工程、
および対象から取得された制御性T細胞と抗原提示樹状細胞と共培養する工程を含む、対象において免疫寛容を誘導するための抗原特異的制御性T細胞を誘導する方法を提供する。
【0012】
本願の第2の態様においては、移植ドナーとHLAクラスII分子が一定以上一致する体細胞ドナー由来の体細胞から樹立されたiPS細胞を準備する工程、
iPS細胞から樹状細胞を誘導する工程、および
移植レシピエントから取得された制御性T細胞を、誘導された樹状細胞と共培養する工程を含む、移植レシピエントにおいて移植組織に対する免疫寛容を誘導するための抗原特異的制御性T細胞を誘導する方法を提供する。
【0013】
本願の第3の態様においは、移植レシピエントとHLAクラスII分子が一定以上一致する体細胞ドナー由来の体細胞から樹立されたiPS細胞を準備する工程、
iPS細胞から樹状細胞を誘導する工程、
樹状細胞に移植ドナーに由来する抗原を感作させる工程、および
移植レシピエントから取得された制御性T細胞を、誘導された抗原提示樹状細胞と共培養する工程
を含む、移植レシピエントにおいて移植ドナーの組織に対する免疫寛容を誘導するための抗原特異的制御性T細胞を誘導する方法を提供する。
【0014】
本願の第4の態様においては、移植レシピエントとHLAクラスII分子が一定以上一致する体細胞ドナー由来の体細胞から樹立されたiPS細胞を準備する工程、
iPS細胞から樹状細胞を誘導する工程、および
移植ドナーから取得された制御性T細胞を、誘導された樹状細胞と共培養する工程
を含む、移植レシピエントにおいて移植ドナー由来T細胞による移植レシピエントの組織に対する免疫寛容を誘導するための抗原特異的制御性T細胞を誘導する方法。
【0015】
本願の第5の態様においては、移植ドナーとHLAクラスII分子が一定以上一致する体細胞ドナー由来の体細胞から樹立されたiPS細胞を準備する工程、
iPS細胞から樹状細胞を誘導する工程、
樹状細胞に、移植レシピエントに由来する抗原を感作させる工程、および
移植ドナーから取得された制御性T細胞を、抗原提示樹状細胞と共培養する工程
を含む、移植レシピエントにおいて移植ドナー由来T細胞による移植レシピエントの組織に対する免疫寛容を誘導するための抗原特異的制御性T細胞を誘導する方法を提供する。
【発明の効果】
【0016】
iPS細胞由来の樹状細胞を用いることによって、抗原提示細胞である樹状細胞を量産することが可能となり、抗原特異的な制御性T細胞を安定的かつ大量に作製することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例1の概略図
図2】実施例1にて行った各実験において増殖した細胞の割合を示す図。
図3】実施例2の結果を示す。ハプロタイプホモのiPS細胞由来の樹状細胞と共培養した、iPS細胞とハプロタイプが全く合致しない健常人ボランティアの制御性T細胞を共培養したところ、Foxp3を発現する制御性T細胞が増殖した。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本願明細書および請求の範囲において、「体細胞ドナー」とは、iPS細胞を樹立するための材料となる体細胞を提供するドナーである。
【0019】
本願の第1の態様において、体細胞ドナーは対象とHLAクラスII分子が一定以上一致している必要がある。「HLAクラスII分子が一定以上一致する」とは、HLAクラスIIの3種類(DR、DP、DQ分子)のうち標的とする抗原を提示できる分子が一致する必要がある。iPS細胞はその由来する体細胞のHLA分子を有している。また、iPS細胞を樹状細胞へ分化誘導しても当該HLA分子が引き継がれる。ひとつのT細胞は1種類のHLA分子のみを認識することから、体細胞ドナーのHLAクラスII分子がひとつでも患者と一致していれば、当該体細胞ドナーの体細胞からiPS細胞を樹立し、当該iPS細胞から誘導された樹状細胞を用いることにより、当該HLAクラスII分子に結合した抗原対して反応する制御性T細胞を増殖が可能となる。なお、対象とHLAクラスIIのひとつのみ一致で他は不一致である場合、異なるHLAに対して反応するいわゆるアロ反応性の制御性T細胞が増殖し、必要な細胞を得る効率が低くなる可能性があることから、HLAクラスIIの3分子が全て一致しているものが望ましい。体細胞ドナーは免疫寛容を誘導する対象本人であってもよい。
【0020】
現在日本ではiPS細胞ストックプロジェクトが強力に推進されている。このプロジェクトでは、HLAハプロタイプホモiPS細胞が作製され、ハプロタイプとして頻度の高いものから順次ストックされる。ストックされたハプロタイプホモiPS細胞を研究機関/医療機関に配布し、広く再生医療で使用するというプロジェクトである。本願の第1の態様において、患者がHLAハプロタイプヘテロ接合性である場合、その一方のHLAをホモで有するドナーから得られたiPS細胞を用いることができる。かかるiPS細胞は例えばiPS細胞ストックプロジェクト、あるいはその他のiPS細胞バンクにドナーのHLAその他の情報とともに保存されているiPS細胞より、当該情報に基づいて適したものを選択して用いればよい。
【0021】
樹状細胞に提示させる抗原としては、当該抗原に対する免疫寛容を誘導したい抗原であれば特に限定されず、自己免疫疾患やアレルギー性疾患の原因となる抗原が例示される。抗原としては、タンパク質抗原、ペプチド抗原、非ペプチド抗原、例えば、リン脂質、複合炭水化物など(例えば、ミコール酸及びリポアラビノマンナンなどの細菌性膜構成要素)が例示されるが、これらに限定されない。
【0022】
本願の第1の態様は、自己免疫疾患、アレルギー性疾患などの治療のために特定の抗原に対する免疫寛容を誘導するための制御性T細胞を調製する方法である。樹状細胞は免疫寛容を誘導する対象と同一のHLAクラスII分子と共に抗原を提示し、対象由来の制御性T細胞をこの抗原提示細胞と共に培養することによって、抗原特異的な制御性T細胞が選択的に増幅される。
【0023】
本願の第2および第3の態様においては、主に他家移植の場合の移植片に対する移植レシピエントの免疫系による攻撃を抑制することを目的とする抗原特異的制御性T細胞を調製する。
【0024】
第2の態様は、移植片に発現するレシピエントとの不一致HLAに対してレシピエントT細胞が直接起こす反応を抑制するものであり、移植片ドナー(他家)に対するアロ反応性の制御性T細胞を調製する。臓器移植の拒絶反応の多くは、移植臓器が患者と異なるHLA分子を発現している場合に、そのHLA分子に対して患者のT細胞が直接反応する形で生じることが知られている。体細胞は常態ではHLAクラスIのみ発現しているが、一旦炎症が生じ、インターフェロンなどが近傍で産生されるとHLAクラスII分子を発現するようになる。患者の制御性T細胞の中から、移植臓器の発現しているクラスIIに反応できる細胞を増幅して投与すると、移植臓器で生じる拒絶反応を抑制する働きが期待される。
【0025】
第2の態様において、体細胞ドナーは移植ドナーとHLAクラスII分子が一定以上一致している必要がある。第2の態様において「移植ドナーとHLAクラスII分子が一定以上一致する」とは、移植ドナーのHLAクラスII分子が移植レシピエントと不一致である場合には、当該不一致の分子のうち体細胞ドナーは移植ドナーが有しているHLAクラスII分子を少なくとも有していることを意味する。好ましくは、体細胞ドナーは移植ドナーのHLAクラスIIと全てを一致するHLAクラスIIのハプロタイプをホモまたはヘテロで有している。体細胞ドナーは移植ドナーと同一人であってもよい。また、iPS細胞から分化誘導した組織または細胞を移植に用いる場合には、同じiPS細胞を用いればよい。
【0026】
第2の態様においては、移植ドナーのHLAクラスII分子をターゲットとする免疫寛容が誘導される。
【0027】
本願の第3の態様は、レシピエントの免疫系が異物である移植片に対して自身の樹状細胞への抗原提示を介して起こす拒絶反応を抑制する制御性T細胞を調製する方法である。第3の態様においては、第1の態様と同様、体細胞ドナーは治療対象である移植レシピエントとHLAクラスII分子が一定以上一致している必要がある。第3の態様において「HLAクラスII分子が一定以上一致」の意味するところは第1の態様と同じである。「移植片由来の抗原」としては、移植ドナーとレシピエント間で組織適合抗原に不一致がある場合の移植ドナー側のHLAや、マイナー組織適合抗原が例示される。
【0028】
本願の第4および第5の態様は、主に骨髄移植後のGVHDの予防あるいは治療に有用な制御性T細胞を誘導する方法である。
【0029】
第4の態様は、移植片に発現するHLAと不一致であるレシピエントの体細胞に発現するHLAに対して、移植片中のドナーT細胞が直接起こす反応を抑制する、移植レシピエント(他家)に対するアロ反応性の移植ドナー由来制御性T細胞を誘導する方法である。第4の態様において、体細胞ドナーは治療対象である移植レシピエントとHLAクラスII分子が一定以上一致している必要がある。第4の態様において体細胞ドナーが「移植レシピエントとHLAクラスII分子が一定以上一致」するとは、移植レシピエントのHLAクラスII分子が移植ドナーと不一致である場合に、当該不一致の分子のうち体細胞ドナーが移植レシピエント側の有するHLAクラスII分子を少なくとも有していることを意味する。好ましくは、体細胞ドナーは移植レシピエントのHLAクラスIIと全て一致するHLAクラスIIのハプロタイプをホモまたはヘテロで有している。体細胞ドナーは移植レシピエントと同一人であってもよい。
【0030】
第5の態様は、移植片に含まれる免疫細胞が異物であるレシピエントに対して、移植片由来の樹状細胞への抗原提示を介して起こすGVHDを抑制する制御性T細胞を調製する方法である。第5の態様においては、体細胞ドナーは移植ドナーとHLAクラスII分子が一定以上一致する。第5の態様において「HLAクラスII分子が一定以上一致する」の意味するところは第1の態様と同じである。
【0031】
第5の態様において「移植レシピエント由来の抗原」としては、組織適合抗原の一部が移植ドナーとレシピエント間で不一致である場合の移植レシピエント側のHLAや、マイナー組織適合抗原が例示される。
【0032】
iPS細胞は、特定の初期化因子を、体細胞に作用させることによって作製することができる、ES細胞とほぼ同等の特性を有する体細胞由来の人工の幹細胞である(K. Takahashi and S. Yamanaka (2006) Cell, 126:663-676; K. Takahashi et al. (2007), Cell, 131:861-872; J. Yu et al. (2007), Science, 318:1917-1920; Nakagawa, M.ら,Nat. Biotechnol. 26:101-106 (2008);国際公開WO 2007/069666)。初期化因子は、ES細胞に特異的に発現している遺伝子、その遺伝子産物もしくはnon-cording RNAまたはES細胞の未分化維持に重要な役割を果たす遺伝子、その遺伝子産物もしくはnon-coding RNA、あるいは低分子化合物によって構成されてもよい。初期化因子に含まれる遺伝子として、例えば、Oct3/4、Sox2、Sox1、Sox3、Sox15、Sox17、Klf4、Klf2、c-Myc、N-Myc、L-Myc、Nanog、Lin28、Fbx15、ERas、ECAT15-2、Tcl1、beta-catenin、Lin28b、Sall1、Sall4、Esrrb、Nr5a2、Tbx3またはGlis1等が例示され、これらの初期化因子は、単独で用いても良く、組み合わせて用いても良い。初期化因子の組み合わせとしては、WO2007/069666、WO2008/118820、WO2009/007852、WO2009/032194、WO2009/058413、WO2009/057831、WO2009/075119、WO2009/079007、WO2009/091659、WO2009/101084、WO2009/101407、WO2009/102983、WO2009/114949、WO2009/117439、WO2009/126250、WO2009/126251、WO2009/126655、WO2009/157593、WO2010/009015、WO2010/033906、WO2010/033920、WO2010/042800、WO2010/050626、WO 2010/056831、WO2010/068955、WO2010/098419、WO2010/102267、WO 2010/111409、WO 2010/111422、WO2010/115050、WO2010/124290、WO2010/147395、WO2010/147612、Huangfu D, et al. (2008), Nat. Biotechnol., 26: 795-797、Shi Y, et al. (2008), Cell Stem Cell, 2: 525-528、Eminli S, et al. (2008), Stem Cells. 26:2467-2474、Huangfu D, et al. (2008), Nat Biotechnol. 26:1269-1275、Shi Y, et al. (2008), Cell Stem Cell, 3, 568-574、Zhao Y, et al. (2008), Cell Stem Cell, 3:475-479、Marson A, (2008), Cell Stem Cell, 3, 132-135、Feng B, et al. (2009), Nat Cell Biol. 11:197-203、R.L. Judson et al., (2009), Nat. Biotechnol., 27:459-461、Lyssiotis CA, et al. (2009), Proc Natl Acad Sci U S A. 106:8912-8917、Kim JB, et al. (2009), Nature. 461:649-643、Ichida JK, et al. (2009), Cell Stem Cell. 5:491-503、Heng JC, et al. (2010), Cell Stem Cell. 6:167-74、Han J, et al. (2010), Nature. 463:1096-100、Mali P, et al. (2010), Stem Cells. 28:713-720、Maekawa M, et al. (2011), Nature. 474:225-9.に記載の組み合わせが例示されるがこれらに限定されない。初期化因子は、その形態に応じた公知の方法にて体細胞へ接触、または体細胞内へ導入し、その上で体細胞を培養することによってiPS細胞へと誘導することが可能である。(本段落で引用した文献は引用により本願に包含される。)
【0033】
本願においてiPS細胞樹立のための体細胞には、胎児の体細胞、新生児の体細胞、および成熟した健全なもしくは疾患性の体細胞のいずれも包含されるし、また、初代培養細胞、継代細胞、および株化細胞のいずれも包含される。具体的には、体細胞は、例えば神経幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、歯髄幹細胞等の組織幹細胞(体性幹細胞)、組織前駆細胞、リンパ球、上皮細胞、内皮細胞、筋肉細胞、線維芽細胞(皮膚細胞等)、毛細胞、肝細胞、胃粘膜細胞、腸細胞、脾細胞、膵細胞(膵外分泌細胞等)、脳細胞、肺細胞、腎細胞および脂肪細胞等の分化した細胞などが例示される。
【0034】
iPS細胞から樹状細胞を誘導するには、ES細胞やiPS細胞等の多能性幹細胞から樹状細胞を誘導するための公知の方法のいずれを用いてもよい。例えば、サイトカインを添加した培養液で胚様体を形成させ誘導する方法(Zhan X, et al, Lancet. 2004, 364, 163-71)や異種由来のストローマ細胞上で培養する方法(Senju S, et al, Stem Cells. 2007, 25, 2720-9))が挙げられる。また特許文献1に記載のiPS細胞をフィーダー細胞のない条件下で、BMP4、VEGFおよび種々の造血因子を含み血清を含まない培養中、培養液を適宜交換しながら接着培養と浮遊培養を行う方法もある。さらには、本願実施例において採用した、iPS細胞をGM-CSFおよびM-CSFを添加した培地にて培養して単球へと分化させ、次いで2-メルカプトエタノール、GM-CSFおよびIL-4を含有する培地にて培養して未熟樹状細胞を得、さらに2-メルカプトエタノール、IL-1β、IL-6、TNFαおよびPGE2の存在下で培養して成熟樹状細胞を得る方法が例示される。(本段落で引用した文献は引用により本願に包含される。)
【0035】
iPS細胞から誘導された樹状細胞を、制御性T細胞と共に培養する。制御性T細胞は、免疫寛容を誘導する対象から取得されたものを用いる。移植の場合は移植レシピエントから取得されたものである。制御性T細胞を取得するには対象の末梢血より制御性T細胞を単離しても、末梢のナイーブCD4陽性T細胞から末梢型制御性T細胞を誘導してもよい。対象の末梢血より制御性T細胞を単離するには、例えばセルソーターによりCD45RA陽性CD25陽性分画を取り出せばよい。
【0036】
末梢のナイーブCD4陽性T細胞から末梢型制御性T細胞を誘導する方法としては公知の方法のいずれを用いてもよく、例えばTGFβの存在下で当該細胞を培養することが挙げられる。
【0037】
本願の第1、第3および第5の態様においては、樹状細胞に抗原を感作させたものを用いる。インビトロで樹状細胞へ抗原を感作させるには、誘導された樹状細胞と抗原を接触させればよく、特に制限は無い。本願の第2および第4の態様においては、移植ドナーのHLAクラスII分子に特異的に反応する制御性T細胞を調製するものであり、その他の抗原による感作は行わない。
【0038】
本願の第2および第3の態様においては、主に臓器移植後の拒絶反応を対象とし、移植ドナーのHLA分子あるいはマイナー組織適合抗原をターゲットとする免疫寛容が誘導される。
【0039】
本願の第4および第5の態様においては、主に骨髄移植後のGVHDを対象とし、移植レシピエントのHLA分子あるいはマイナー組織適合抗原をターゲットとする免疫寛容が誘導される。
【0040】
本願明細書および請求の範囲において「抗原特異的制御性T細胞」は、特定のHLAクラスII分子に特異的な制御性T細胞及び特定のHLAクラスII分子に結合したその他の抗原に特異的な制御性T細胞のいずれをも含むものとする。
【0041】
本願発明の方法においては、免疫寛容を誘導する対象から取得された制御性T細胞と、樹状細胞を共培養する。培養は、動物細胞培養用基礎培地にIL-2を添加した培地にて行えばよい。
【0042】
動物細胞培養用基礎培地としては、市販の培地から適宜選択すればよく、例えば、MEM Zinc Option培地、IMEM Zinc Option培地、IMDM培地、Medium 199培地、Eagle's Minimum Essential Medium(EMEM)培地、αMEM培地、Dulbecco's modified Eagle's Medium(DMEM)培地、Ham's F12培地、RPMI 1640培地、Fischer's培地、およびこれらの混合培地などが包含される。基礎培地には、血清(例えば、ウシ胎児血清(FBS))が含有されていてもよいし、または無血清でもよい。必要に応じて、例えば、アルブミン、トランスフェリン、KnockOut Serum Replacement(KSR)(ES細胞培養時の血清代替物)(Invitrogen)、N2サプリメント(Invitrogen)、B27サプリメント(Invitrogen)、脂肪酸、インスリン、コラーゲン前駆体、微量元素、2-メルカプトエタノール、3'-チオールグリセロールなどの1つ以上の血清代替物を含んでもよいし、脂質、アミノ酸、L-グルタミン、GlutaMAX(Invitrogen)、非必須アミノ酸(NEAA)、ビタミン、増殖因子、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類、およびこれらの同等物などの1つ以上の物質も含有しうる。
【0043】
培地中のIL-2の濃度は1~50U/mL、好ましくは5~40U/mL例えば約20U/mLとすればよい。培地にはさらに、ラパマイシンを添加してもよい。ラパマイシンを添加する場合、その濃度は0.5ng/mL~100ng/mL、好ましくは1~30ng/mL、例えば約10ng/mLとすればよい。
【0044】
本明細書および請求の範囲で「約」という場合、数値の±20%、または±10%の値まで含むものとする。
【0045】
共培養開始時における樹状細胞:制御性T細胞の比は1:1~20:1の範囲、例えば約10:1とするのが好ましい。細胞の混合物は一般的な動物細胞の培養条件、例えば5%CO、37℃にて約5日~約3週間、例えば約1~2週間培養する。なお対象から制御性T細胞を単離する際に、少量であっても制御性T細胞以外の細胞が混入する場合には、共培養の期間を比較的短期間、例えば1週間程度としてもよい。
【0046】
培養終了後、樹状細胞と制御性T細胞の混合培養物を適当な媒体へ分散させて対象へ投与する。好ましくは、制御性T細胞培養物から樹状細胞を除いた上で投与する。細胞を精製するには公知のいずれの方法を用いてもよく、セルソーターで分離しても、マイクロビーズを用いて分離してもよい。精製は細胞を分散させるための媒体としては、例えば生理的食塩水やPBSが例示される。患者への投与は経静脈的に行えばよい。投与量は限定的ではないが、一回の投与につき10-10細胞/個体で、1回ないし複数回、患者へ静脈投与することが例示される。
【0047】
本願の第1の態様において得られる制御性T細胞は、自己免疫疾患やアレルギーの治療に有用である。対象となる疾患としては特に限定されないが、I型糖尿病またはインスリン依存性糖尿病、全身性ループス、クローン病、心筋症、溶血性貧血、線維筋痛、グレーブス病、潰瘍性大腸炎、血管炎、多発性硬化症、重症筋無力症、筋炎、好中球減少症、乾癬、慢性疲労症候群、若年性関節炎、若年性糖尿病、強皮症、乾癬性関節炎、シェーグレン症候群、リウマチ熱、慢性関節リウマチ、サルコイドーシス、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、橋本病、複合性結合織疾患、間質性膀胱炎、悪性貧血、白質脳炎、円形脱毛症、強直性脊椎炎、原発性胆汁性肝硬変、抗GBM腎炎、抗TBM腎炎、抗リン脂質症候群、リウマチ性多発筋痛、多発性筋炎、自己免疫性アジソン病、慢性活動性肝炎、尋常性白斑、自己免疫性高脂血症、自己免疫性心筋炎、側頭動脈炎、自己免疫性甲状腺疾患、軸索型および神経性ニューロパシー、ベーチェット病、水疱性類天疱瘡、アレルギー性喘息、アトピー性皮膚炎、骨関節炎、シャーガス病、ブドウ膜炎、慢性炎症性脱髄性多発性根神経障害(CIDP)、瘢痕性類天疱瘡/良性粘膜類天疱瘡、コーガン症候群、先天性心ブロック、コクサッキー心筋炎、脱髄性ニューロパシー、皮膚筋炎、円板状ルーパス、レンズ抗原性ブドウ膜炎、結節性多発動脈炎、ドレスラー症候群、本態性混合性クリオグロブリン血症、エヴァンズ症候群、グッドパスチャー症候群、アレルギー性鼻炎、ギラン・バレー症候群、低γグロブリン血症、封入体筋炎、小水疱水疱性皮膚症、ヴェゲナー肉芽腫症、メニエール病、ランバート-イートン症候群、モーレン潰瘍、非典型的セリアック病、眼球瘢痕性類天疱瘡、尋常性天疱瘡、静脈周囲性脳脊髄炎、心膜切開後症候群、強膜炎、精子および睾丸自己免疫、全身強直症候群、亜急性細菌性心内膜炎(SBE)、交感性眼炎、横断性脊髄炎および壊死性ミエロパシー、多腺性自己免疫性症候群1型、多腺性自己免疫性症候群2型、悪性貧血、子宮内膜症などが例示される。
【0048】
本願の第2の態様は、あらゆる他家移植において移植組織に対する免疫寛容を誘導するために有用である。本願の第2の態様においては、制御性T細胞を移植と同時に投与しても、拒絶反応が生じた際に投与してもよい。投与量は限定的ではないが、一回の投与につき10-10細胞/個体で、1回ないし複数回、患者へ静脈投与することが例示される。
【実施例1】
【0049】
アロ由来iPS細胞から誘導した樹状細胞と制御性T細胞の共培養によるアロ反応性制御性T細胞の作製
材料:
iPS細胞:京都大学ウィルス・再生医科学研究所、再生免疫学分野(日本国京都府京都市)にて健常人ボランティア(健常人A)の末梢血から作製されたものを用いた。
制御性T細胞(Treg):京都大学ウィルス・再生医科学研究所、再生免疫学分野(日本国京都府京都市)にて健常人ボランティア(健常人B)の末梢血よりFACSAriaにてCD25陽性CD45RA陽性分画として単離した細胞を用いた。
単球:京都大学ウィルス・再生医科学研究所、再生免疫学分野(日本国京都府京都市)にて健常人ボランティア(健常人C)の末梢血からMACSを用いてCD14陽性分画として単離した細胞を用いた。
【0050】
1) iPS細胞から単球を経て樹状細胞への分化誘導
各培地の組成を下記に示す。
【表1】
*ペニシリン/ストレプトマイシン溶液の組成はペニシリン10000U/mL、ストレプトマイシン10000μg/mLであるため、最終濃度はそれぞれ100U/mL, 100μg/mLとなる。
【0051】
【表2】
*ペニシリン/ストレプトマイシン溶液の組成はペニシリン10000U/mL,ストレプトマイシン10000μg/mLであるため、最終濃度はそれぞれ100U/mL, 100μg/mLとなる。
【表3】
*ペニシリン/ストレプトマイシン溶液の組成はペニシリン10000U/mL、ストレプトマイシン10000μg/mLであるため、最終濃度はそれぞれ100U/mL, 100μg/mLとなる。
【0052】
【表4】
*ペニシリン/ストレプトマイシン溶液の組成はペニシリン10000U/mL、ストレプトマイシン10000μg/mLであるため、最終濃度はそれぞれ100U/mL, 100μg/mLとなる。
【0053】
A.OP細胞の準備
0.1% ゼラチン/PBS溶液6mlを10cm培養ディッシュに入れ、37℃で30分以上静置した。コンフルエントになったOP9細胞をトリプシン/EDTA溶液で剥がし、1/4相当量をゼラチンコートした10cm培養ディッシュに播種した。培地はmedium Aを10mlとなるように加えた。
4日後に播種したOP9細胞培養ディッシュに新たにmedium Aを10ml加え、全量が20mlとなるようにした。
【0054】
B.iPS細胞からの血球前駆細胞誘導
Day 0 (iPS細胞播種)
共培養に使用するOP9細胞の培地を吸引し、新しいmedium Aに交換した。またヒトiPS細胞培養ディッシュの培地も同様に吸引し、新しいmedium Aを10ml加えた。解離液を用いてヒトiPS細胞を浮遊させ、10ml ピペットでピペッティングすることでiPS細胞を切断してiPS細胞塊とした。このiPS細胞塊を目視でおおよそ600個になるようにOP9細胞上に播種した。
ヒトiPS細胞1クローンあたり2枚以上のディッシュを用い、継代するときには細胞を一度一つに合わせてから同じ枚数に再分配することでディッシュ間のばらつきを減らした。
【0055】
Day 1 (培地交換)
ヒトiPS細胞塊が接着し分化し始めているかどうかを確認し、培地を新しいmedium A 20mlに交換した。
【0056】
Day 5 (培地半量交換)
半量分の培地を新しいmedium A 10mlに交換した。
【0057】
Day 9 (培地交換)
半量分の培地を新しいmedium A 10mlに交換した。
【0058】
Day 13 (誘導した中胚葉細胞をOP9細胞上からOP9/DLL1細胞上へ移しかえ)
培地を吸引し、HBSS(+Mg+Ca)で細胞表面上の培地を洗い流した。その後250U collagenase IV/HBSS(+Mg+Ca) 溶液10mlを加え、37℃で45分間培養した。
Collagenase溶液を吸引し、PBS(-)10mlで洗い流した。その後5mlの0.05%トリプシン/EDTA溶液を加え、37℃で20分培養した。培養後、細胞が膜状に剥がれてくる。接着細胞同士を離すため、膜状の培養細胞をピペッティングにより物理的に細かくした。ここに新しいmedium Aを20ml加え、さらに37℃で45分間培養した。培養後、浮遊細胞を含む上清を、100μmのメッシュを通して回収した。4℃、1200rpmで7分間遠心し、ペレットを10mlのmedium Bに懸濁させた。このうち1/10をFACS解析用にとりわけ、残りの細胞を新たに用意したOP9/DLL1細胞上に播種した。複数枚のディッシュから得た細胞をプールした場合、元々の枚数と同じ枚数になるように再分配して細胞を播き直した。
【0059】
得られた細胞に造血前駆細胞が含まれているかどうかを確かめるために抗CD34抗体、抗CD43抗体を用いてFACS解析した。CD34lowCD43細胞分画に十分な細胞数が確認できたことから、造血前駆細胞が誘導されていると確認した(図1)。
【0060】
C.血球前駆細胞からの単球分化誘導
次いでCD34lowCD43細胞分画を含む全培養細胞を細胞培養用10cm dish上に播種した。
【0061】
全ての期間において培養中に死細胞が多くみられる。そのため培養期間中に分化段階を確認するためにFACS解析を行うが、FACS解析時にはPI (Propidium Iodide)、7-AADなどを用い、死細胞除去したうえで解析を行った。
【0062】
Day 14 (細胞の継代)
穏やかに複数回ピペッティングし、浮遊細胞を100μmのメッシュを通して50mlコニカルチューブに回収した。4℃、1200rpmで7分間遠心し、ペレットを10mlのmedium Bに懸濁させた。これらの細胞を新たに用意した細胞培養用10cm dish上に播種した。
【0063】
Day 18 (培地交換)
全ての細胞を、穏やかに複数回ピペッティングし、100μmのメッシュを通して50mlコニカルチューブに回収した。4℃、1200rpmで7分間遠心し、ペレットを10mlのmedium Bに懸濁させ、新たに用意した細胞培養用10cm dish上に播種した。
【0064】
D.単球からの樹状細胞分化誘導
Day 21 単球(CD14+細胞)が確認された。未熟樹状細胞への分化誘導を行った。
全ての細胞を、穏やかに複数回ピペッティングし、100μmのメッシュを通して50mlコニカルチューブに回収した。細胞数を数えた後、4℃、1200rpmで7分間遠心し、ペレットをmedium Cに懸濁させた。このとき、5x105個/mlとなるように調整し、24穴プレートに1ml/wellとなるように播種した。
【0065】
Day 23 (培地交換)
全ての細胞を、穏やかに複数回ピペッティングし、100μmのメッシュを通して50mlコニカルチューブに回収した。4℃、1200rpmで7分間遠心し、ペレットをmedium Cに懸濁し、24穴プレートに再度播種した。
【0066】
Day 25 (培地交換)
全ての細胞を、穏やかに複数回ピペッティングし、100μmのメッシュを通して50mlコニカルチューブに回収した。4℃、1200rpmで7分間遠心し、ペレットをmedium Cに懸濁し、24穴プレートに再度播種した。
【0067】
Day 27 未熟樹状細胞の確認。
目視によって未熟樹状細胞が生成していることを確認した。成熟樹状細胞への分化誘導を開始した。全ての細胞を、穏やかに複数回ピペッティングし、100μmのメッシュを通して50mlコニカルチューブに回収した。4℃、1200rpmで7分間遠心し、ペレットをmedium Dに懸濁し、24穴プレートに再度播種した。
【0068】
Day 28 成熟樹状細胞の確認。
目視によって成熟樹状細胞が生成していることを確認した。全ての細胞を回収し、RPMI1640/10% FCS mediumで2回洗ったあと以下の実験に用いた。
【0069】
2) アロ反応性制御性T細胞の選択的増幅
健常人Bの末梢血単核球(PBMC)からCD4CD45RACD25highの集団をフローサイトメーターにより分離し、制御性T細胞集団として用いた。
健常人Aから樹立したiPS細胞由来の成熟樹状細胞(A由来成熟樹状細胞)と、健常人Bから分離した制御性T細胞(Bの制御性T細胞)を共培養した。
U底96ウエルのプレートを用い、1ウエルあたり、A由来成熟樹状細胞が1.0×10個、Bの制御性T細胞が1.0×10個となるように混合した。(樹状細胞:制御性T細胞=10:1)
混合された細胞を20 U/ml IL-2を添加した培地中でさらに2週間、5%CO,37℃にて培養を行った。
2週間の共培養で制御性T細胞は30~50倍に増殖した。
培地中にIL-2が存在するだけで制御性T細胞が活性化することが知られている。IL-2が制御性T細胞の挙動に与える影響を排除するために、次項の抑制能測定実験に使用する前日に培地をIL-2を含まないものに交換し、IL-2非存在下で1日培養したのちに実験に用いた。
【0070】
3)アロ反応性制御性T細胞の抑制能の評価
仮想ドナー:健常人A
仮想レシピエント:健常人B
第三者:健常人Cとして下記試験をデザインした。実験の概要を図1に示す。
【0071】
上記2)で得た健常人B由来の抑制性T細胞から誘導した健常人Aに対するアロ反応性制御性T細胞による抑制効果を測定するため、アロ混合リンパ球抑制アッセイを行った。
まずresponder細胞として健常人B末梢血より単離したCD4CD45RACD25nega分画に含まれる細胞(制御性T細胞を含まないCD4T細胞)をCellTrace Violet (CTV)で標識した。上記2で得た健常人B由来の、健常人Aに対するアロ反応性を誘導した制御性T細胞をCFSEでラベルした。
Stimulator細胞として健常人Aの末梢血に含まれる単球から誘導した成熟樹状細胞、および健常人Cの末梢血に含まれる単球から誘導した成熟樹状細胞を用いた。
U底96-well plate を用い、1ウエルあたり、responder細胞を1.0×10個、stimulator細胞を1.0×10個、アロ反応性制御性T細胞を0.66×10個となるように混合した。コントロール群として、アロ反応性制御性T細胞を添加せず、responder細胞とstimulator細胞のみのウエルをおいた。実験の概要を図1に示す。
4日間の培養後、responder細胞の数をフローサイトメーターを用いて解析し、その増殖の程度を調べた。具体的には、アロ反応性制御性T細胞を含まない(CFSE)分画でのCD4陽性responder細胞のCTV強度の減弱を指標に解析を行った。コントロール群の細胞増殖率を100%とし、アロ反応性制御性T細胞を加えた際の抑制効果を算出した。結果を図2に示す。
【0072】
実験1および2はコントロールであり、Stimulatorとして添加したA単球由来の樹状細胞、C単球由来の樹状細胞に対するCD4T細胞の増殖が確認された。増殖した細胞はそれぞれ62.0%および48.4%であった。
【0073】
実験3は本願の方法であり、Aの末梢血から作製されたiPSから誘導された樹状細胞とBより取得された制御性T細胞とを共培養して得られた制御性T細胞を、StimulatorがA単球由来の樹状細胞である系に添加した場合、CD4T細胞の増殖が抑えられることを確認した。増殖した細胞は34.6%であり、コントロールである実験1における増殖細胞数を100とすると56.0%であった。
【0074】
実験4では、Aの末梢血から作製されたiPSから誘導された樹状細胞とBより取得された制御性T細胞とを共培養して得られた制御性T細胞を、Cの単球由来の樹状細胞をStimulatorとする系に添加した。添加した制御性T細胞はAに対する特異性を有していることが期待され、Cの単球由来のStimulatorに対するB由来の制御性T細胞を含まないCD4T細胞の増殖に対しては抑制作用を示さないものと予測される。
実験4において増殖した細胞は42.5%であり、コントロールである実験2の増殖細胞数を100とすると、88.0%であった。実験3と比べ、増殖への影響は非常に低いものであった。
【実施例2】
【0075】
HLAホモiPS細胞から誘導した樹状細胞と制御性T細胞の共培養によるアロ反応性制御性T細胞の作製
材料:
HLAホモiPS細胞:京都大学iPS細胞研究所CiRA(日本国京都府京都市)にて作製されたものを用いた。(D)
制御性T細胞(Treg):京都大学ウィルス・再生医科学研究所、再生免疫学分野(日本国京都府京都市)にて健常人ボランティア(健常人E)の末梢血よりFACSAriaにてCD25陽性CD45RA陽性分画として単離した細胞を用いた。
HLAホモiPS細胞(D)のHLAハプロタイプは、健常人EのHLAハプロタイプのいずれとも一致しない。
【0076】
1)iPS細胞から単球を経て樹状細胞への分化誘導
実施例1と同様にして、iPS細胞から樹状細胞を誘導した。
【0077】
2) アロ反応性制御性T細胞の選択的増幅
健常人Eの末梢血単核球(PBMC)からCD4CD45RACD25highの集団をフローサイトメーターにより分離し、制御性T細胞集団として用いた。
京都大学iPS細胞研究所より譲渡されたHLAホモiPS細胞由来の成熟樹状細胞(D由来成熟樹状細胞)と、健常人Eから分離した制御性T細胞(Eの制御性T細胞)を共培養した。
【0078】
U底96ウエルのプレートを用い、1ウエルあたり、D由来成熟樹状細胞が1.0×10個、Eの制御性T細胞が1.0×10個となるように混合した。(樹状細胞:制御性T細胞=10:1)
混合された細胞を20U/ml IL-2、10nMラパマイシンを添加した培地中でさらに2週間、5%CO,37℃にて培養を行った。
2週間の共培養で制御性T細胞は30~50倍に増殖した。その後、さらに制御性T細胞を増殖させるためanti-CD3/CD28 beadsと共培養を1週間、5%CO,37℃にて培養を行った。培地は、樹状細胞との共培養と同様の培地を使用した。
得られた細胞におけるFoxp3の発現を調べた。結果を図3に示す。増殖したアロ抗原特異的制御性T細胞は、安定的にFoxp3を発現していた。
培地中にラパマイシンを存在させることでFoxp3を発現する制御性T細胞以外のCD4T細胞の増殖を抑制することができた。
【符号の説明】
【0079】
moDC:単球由来の成熟樹状細胞、CD4T:cell 制御性T細胞を含まないCD4陽性T細胞、iPS DC:iPS細胞由来の成熟樹状細胞、Treg:制御性T細胞
図1
図2
図3