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特許7572029液液混相流路を形成・消滅させる方法及びそのためのモジュール
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】液液混相流路を形成・消滅させる方法及びそのためのモジュール
(51)【国際特許分類】
   B01J 19/00 20060101AFI20241016BHJP
   B81B 1/00 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
B01J19/00 321
B01J19/00 311A
B81B1/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020123843
(22)【出願日】2020-07-20
(65)【公開番号】P2022020380
(43)【公開日】2022-02-01
【審査請求日】2023-03-14
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度から令和元年度、原子力システム研究開発事業(文部科学省受託事業)、 産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】505374783
【氏名又は名称】国立研究開発法人日本原子力研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110001922
【氏名又は名称】弁理士法人日峯国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長縄 弘親
(72)【発明者】
【氏名】永野 哲志
【審査官】塩谷 領大
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-123907(JP,A)
【文献】特開2015-139718(JP,A)
【文献】国際公開第2011/010587(WO,A1)
【文献】特開2008-289975(JP,A)
【文献】特開2010-082531(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 19/00
B81B 1/00
B01D 11/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中央部位の内部に2つの混じり合わない軽液相と重液相が界面を成して存在し、液滴噴出によって両液相の液液混相を発生させると共に、その液液混相を水平方向に発達させるところの前記中央部位と、前記中央部位で水平方向に発達させられた液液混相が導かれる先に、縦向きに配置された狭小通路とさらにその先に配置された拡張部位が形成されている容器を用いて、前記軽液相と前記重液相中にひとつながり液液混相を形成し、消滅させる方法であって、
前記軽液相又は前記重液相をそれぞれ前記重液相又は前記軽液相の中に液滴として噴出させ、
その噴流を前記界面に衝突させることで、前記軽液相又は前記重液相の液滴の周囲にそれぞれ前記重液相又は前記軽液相を伴った液滴を、前記軽液相又は前記重液相中に形成させて、前記界面を起点にして前記界面の上方及び下方に液滴の積層を成長させ、
成長によって積層された前記軽液相又は前記重液相の液滴同士の間が、それぞれ前記重液相または前記軽液相で満たされた、ひとつながりの液液混相流路を形成させ、
形成された液液混相流路を水平方向に導き、
その後、水平方向に導かれた液液混相流路を、前記狭小通路とその先に配置された拡張部位に導くことによって、前記液液混相流路を消滅させることを特徴とする液液混相流路を形成・消滅させる方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、前記中央部位の上方及び下方にも、前記中央部位と連続した狭小通路とその先に配置された拡張部位を備えた容器を用いることを特徴とする液液混相流路を形成・消滅させる方法。
【請求項3】
中央部位の内部に2つの混じり合わない軽液相と重液相が界面を成して設置されている状態から、前記界面の上下に対抗して設けられたノズルからの液滴噴出によって両液相の液液混相を発生させ、その液液混相を水平方向に発達させるところの中央部位を有し、前記中央部位で水平方向に発達させられた液液混相が導かれる先に、縦向きに配置された狭小通路とさらにその先に配置された拡張部位を備えている容器から構成された、前記軽液相と前記重液相中にひとつながり液液混相流路を形成・消滅させるためのモジュール。
【請求項4】
請求項3のモジュールにおいて、前記中央部位の上方及び下方にも、前記中央部位と連続した狭小通路とその先に配置された拡張部位を備えている容器から成ることを特徴とする液液混相流路を形成し、消滅させるためのモジュール。
【請求項5】
請求項3のモジュールにおいて、前記中央部位内の前記ノズルが釣鐘形状ノズルであって、前記中央部位の内壁面と前記釣鐘形状ノズルの外面によって狭小通路が形成され、その後方にある前記中央部位の本体によって拡張部位が形成されている容器から成ることを特徴とする液液混相流路を形成し、消滅させるためのモジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴噴出で生じる微小液滴が密に積層した液液混相(2つの液相が混じり合った相)の中において、極めて高い密度(密集度)で形成される、ひとつながりの3次元的網目構造を成すマイクロ流路群に関する。以下の説明では、微小液滴の間に形成される、流動的で柔軟に形を変えられるマイクロ流路を“やわらかい”と表現し、ソフトマイクロ流路と称する。ソフトマイクロ流路は、例えば汎用ポンプ等による送液のみで自然に発生し、単純な容器形状の変化だけで自然に完全消滅するので、極めてシンプルな仕組みで種々の化学反応をモジュール化でき、連続フローにより、その発生と消滅を容易に制御できる点において出没自在でもある。また、樹脂、金属などに刻まれる、従来の“かたい”マイクロ流路(ハードマイクロ流路と称する)とは異なり、固体の混入・析出や気体の発生に影響されず、複雑な反応系や大量処理、大規模・大量生産にも対応できる変幻自在なマイクロ流体デバイスとして、あらゆる化学プラントに利用可能である。
【背景技術】
【0002】
マイクロ流路から成るマイクロ流体デバイスは、多数の反応器を含むリアクターとして、気液系、液液系、固液系などでの合成、抽出、吸収、吸着などの化学反応に利用できる。マイクロ流体デバイスでは、単位体積あたりの接触面積を大きくできるので、反応速度論的な優位性がある。また、逐次的に起こる反応に対して、不安定な中間体を連続フロー式で次の段階に即座に送ることができ、熱容量が小さいので、急速な加熱・冷却が可能である。さらに、混合時のむらが生じない、精密な反応制御が可能といった利点もある。
【0003】
実際、マイクロ流体デバイスは、極微量試料の分析・センシング、少量有機合成を高効率かつ迅速に行うデバイスとして極めて有効であり、lab-on-a-chip、ウェアラブル・マイクロデバイスなど、微小システムとしての技術革新をもたらしている。その一方、大量処理・大量生産を目的とする化学プラントのような大型システムに対する応用は進んでいない。
【0004】
スケールアップの代わりに反応器の数を増やして並列化するナンバリングアップは、ラボ用装置の条件のままで大型化できるメリットがある。しかしながら、ナンバリングアップに際して流路の数が大幅に増加することで、固体の混入又は析出による流路の狭窄・閉塞、気体の発生による流路内容物の一挙流失の影響が顕著化する。たとえば、流路閉塞の問題を解決するため、閉塞が起こりにくい流路形状(環状スリット、深溝流路など)、対流渦による迅速混合に基づく閉塞抑制などが提案されているが、根本的な解決手段にはなっていない(特許文献1乃至3まで)。
【0005】
よって、固体の混入・析出による流路狭窄・閉塞を監視・診断し、気体の発生による流路内容物の一挙流失を抑制・制御する必要があり、そのための技術開発が進められているが(特許文献4乃至6まで)、コスト面での負荷増大は避けられない。また、高性能ゆえに高価な超低脈動ポンプの使用、分岐点での正確な流量制御の困難さといった実用上の問題点も、技術面、コスト面の両方からの制約と限界を生み出している。これらは、流路が微細であるがゆえの本質的かつ必然的な課題である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-192834号公報
【文献】特許第4867000号公報
【文献】特開2019-13911号公報
【文献】特許第5376602号公報
【文献】特許第5564723号公報
【文献】特開2007-222849号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
マイクロメートルオーダー(1mm以下)の径を持つ微小流路は、マイクロ流路と呼ばれ、混合・抽出・分離などの化学操作を集積して、反応の迅速化、デバイスの小型化、システムの多機能化などを可能にすることから、化学、バイオ、医療、環境など、様々な分野で利用されている。一方、マイクロ流路は、固形成分による狭窄や目詰まり(閉塞)を起こしやすく、気体が発生する反応によって流路の内容物が一気に押し出されるといった問題がある。特に、大量処理、大規模・大量生産を目的として、反応器の数を増やして並列に配置(ナンバリングアップ)し、容量を増大させる場合、多数の流路の中のいずれかにおいて狭窄・閉塞が発生すると、全体が機能しなくなることがある。
【0008】
よって、常に流路の狭窄・閉塞を監視・診断し、気体の発生を抑制・制御する必要がある。また、流路への反応液の付着、汚れによる狭窄・閉塞を防止するために、定期的な洗浄が必要であり、それに伴う解体・洗浄・組立に係る作業は避けられない。
【0009】
従来のハードマイクロ流路では、前述の流路の狭窄・閉塞、気体発生による内容物の一挙流失という問題に加えて、高価な超低脈動ポンプが必要であること、分岐点での正確な流量制御の困難さといった問題もあり、技術面、コスト面の両方に関わる多くの問題を抱えている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、液滴噴出で生じる微小液滴が密に積層した液液混相(2つの液相が混じり合った相)の中で形成されるマイクロ流路に関するものである。流動性のある液体の中に刻まれるマイクロ流路であり、その点において、流動性のない固体(樹脂・金属など)に刻まれる従来のマイクロ流路とは異なる。液体中のマイクロ流路は、流動的で柔軟であることから、“ソフトマイクロ流路”と称し、従来の固体を母材とするマイクロ流路は、ソフトマイクロ流路と対照させて“ハードマイクロ流路”と称する。
【0011】
ソフトマイクロ流路は、密に積層・充填された微小液滴の間に形成される、ひとつながりの3次元的網目構造を成す高密度なマイクロ流路の集合体(ソフトマイクロ流路群と称する)であり、従来の樹脂・金属などに刻まれるハードマイクロ流路とは異なり、流動的で柔軟に形を変えられるため、固体の混入・析出や気体の発生に影響されない。よって、流路閉塞を監視・診断したり気体発生を抑制・制御したりするシステムを必要とせず、流路の洗浄に係る作業(解体・洗浄・組立)も不要となる。
【0012】
大量処理、大規模・大量生産を目的として行うナンバリングアップでは、流路を分岐させて並列に配置した多数の反応器に同時に送液することで、処理量、生産量を増大させる。従来のハードマイクロ流路では、この分岐点での正確な流量制御の困難さが問題になるが、密に積層・充填された微小液滴の間に形成される網目状のソフトマイクロ流路群(ソフトマイクロ流路の集合体)は、いわば、生来の理想的分岐構造を有している。すなわち、液滴の集積によって形成される流路群は、密集した分岐流路の群であって、全方向に対して3次元的に発達させることができる。
【0013】
このように、ソフトマイクロ流路は、従来のハードマイクロ流路の特徴・長所を持ったまま、ハードマイクロ流路が長年抱えている全ての問題を解決できる。特に、ナンバリングアップにおいて顕著化する固体の混入・析出による流路の狭窄・閉塞、気体の発生による内容物の一挙流失、分岐点での流量制御の困難さなどの問題は、監視・診断システムなどの導入の必要から大幅なコスト増加をもたらす原因でもあるため、これらの問題が解消される意義は大きい。
【0014】
加えて、ソフトマイクロ流路は、微細加工を必要とせず、極めてシンプルな仕組みを使った簡便な方法によって形成される点に特徴があり、圧倒的な低コストを実現できる。すなわち、単純な構造の容器にポンプ送液するだけで、必要な場所に、求める形状・サイズでもって、3次元的網目構造を成し極めて高い密度(密集度)で形成されるソフトマイクロ流路群を生じさせることが可能であり、流路洗浄が不要なので、メンテナンス・フリーに近い。また、ソフトマイクロ流路は極めて高密度で形成されるため、大容量での処理能力を実現できる。
【0015】
ソフトマイクロ流路は、その流動性・柔軟性(やわらかさ)以外にも、これを形成する方法・仕組みが極めてシンプルで、かつ出没自在であるという点に大きな特徴がある。すなわち、ソフトマイクロ流路は、汎用ポンプによる送液だけで自然に発生し、単純な容器形状の変化だけで自然に完全消滅するので、極めてシンプルな仕組みで、その発生と消滅を容易に制御できる点において出没自在である。
【0016】
別の言い方をすると、送液だけで自然に発生するソフトマイクロ流路の場合、母材に流路を刻む必要はない。すなわち、微細加工を施した従来のモジュールとは異なり、ソフトマイクロ流路のモジュールは、微小液滴を発生させるノズルとシンプルな形状の容器のみで成立する。また、目的とする化学反応を終えた後には、マイクロ流路そのものを消滅させることができるため、反応後の物質を一瞬にして回収できる。たとえば、1つの化学反応を終えるごとにソフトマイクロ流路群を消滅させ、マイクロ流路内の流体を即座に集合・回収しながら次のソフトマイクロ流路群に送り込むことができる。このような、ソフトマイクロ流路に独特の出没自在な性質は、複数の化学反応を組み合わせたモジュール型デバイスを構築する際に極めて有効である。なお、ソフトマイクロ流路の流路長及び流路径は、液滴サイズ及び液滴の密度(密集度)に依存する。また、異なる粒径を持つ液滴を集積させて流路を形成させることも可能である。すなわち、異なる粒径を持つ液滴を発生させ、集積させることで、より複雑な流路設計も可能である。
【0017】
出没自在というソフトマイクロ流路の特徴は、網目状のソフトマイクロ流路群を内包する液液混相の性質に対応している。すなわち、微小液滴のノズル噴出よって液液混相の状態に到達すれば、その内部においてソフトマイクロ流路群が形成され、液液混相の状態が解消して2液相に分相すれば、ソフトマイクロ流路群も消滅する。
【0018】
液滴噴出で発生させた液液混相は、鉛直方向に断面積が増大した容器を通過させると、液液混相を構成している液滴の線速度の減速によって液滴同士の合一が進行し、迅速かつ完全に消滅して重液相(多くの場合、水相)と軽液相(多くの場合、油相)に分相する。すなわち、乳濁状態に至るファインな液液混相の発生と消滅を、鉛直方向に断面積を増大させただけの極めてシンプルな容器構造によって自在に制御できる。
【0019】
一方、断面積が減少した容器を通過させても、分相は起こらない。断面積の減少によって液滴の線速度が増加するため、逆に、液滴同士の合一は抑制される。すなわち、液滴噴出で発生させた液液混相を断面積が減少する容器部位に導いた後、断面積が増大する容器部位に誘導すれば、液液混相の発生・消滅をより鋭敏かつ精密に制御することができ、かつ液液混相を消滅させるための容器部位を小さくできるので、反応器全体の体積を大幅に減らせる。
【0020】
また、液液混相は、流体であるがゆえに、その大きさや形状を自由に設計できる。すなわち、ソフトマイクロ流路群の大きさや形状は、液液混相を発生させる容器によって決まる。
【0021】
微小液滴の密な積層によって生じるソフトマイクロ流路は、微小液滴を成す液相の中に、別の液相の通り道として自然に刻まれた網目状の流路とみなせる。すなわち、従来のハードマイクロ流路の母材が樹脂・金属などの固相(固体)であるのに対して、ソフトマイクロ流路の母材は微小液滴を成す液相(液体)である。固相とは異なり、液相には多くの物質が溶解し得るため、ソフトマイクロ流路では、母材を反応物質の保持、供給、又は生成物質の回収のための場として活用できる。この点も、従来のハードマイクロ流路が持ち得ないソフトマイクロ流路の特徴である。
【0022】
マイクロ流路を刻むための母材を反応物質の保持、供給、又は生成物質の回収の場として活用できる点は、ソフトマイクロ流路の長所と言えるが、系を複雑にする点において、短所にもなり得る。そのような場合には、フッ素含有化合物以外の物質(酸素などの一部の気体を除く)をほとんど溶解しないフルオラス溶媒(不活性で低毒性のフッ素系溶媒)が有効である。すなわち、フルオラス溶媒の微小液滴(母材)は、フッ素含有化合物以外の物質に対しては、反応場になりにくい。
【0023】
また、フルオラス溶媒は、細胞にダメージを与えず、酸素の溶解度が高いことから高効率に酸素を供給できる点において、フルオラス溶媒を母材とするソフトマイクロ流路は、細胞培養など、バイオ分野での利用が見込まれる。
【0024】
以上に示したように、ソフトマイクロ流路は、マイクロ流路デバイスを化学プラントなどの大型システムに適用する際の技術面での課題の全てを解決すると同時に、圧倒的な低コストとメンテナンス・フリーを実現できる。
【0025】
より具体的には、本出願に含まれる発明の一つである、液液混相流路を形成・消滅させる方法は、中央部位の内部に2つの混じり合わない軽液相と重液相が界面を成して存在し、液滴噴出によって両液相の液液混相を発生させると共に、その液液混相を水平方向に発達させるところの前記中央部位と、前記中央部位で水平方向に発達させられた液液混相が導かれる先に、縦向きに配置された狭小通路とさらにその先に配置された拡張部位が形成されている容器を用いて、前記軽液相と前記重液相中にひとつながり液液混相流路を形成し、消滅させる方法であって、
前記軽液相又は前記重液相をそれぞれ前記重液相又は前記軽液相の中に液滴として噴出させ、その噴流を前記界面に衝突させることで、前記軽液相又は前記重液相の液滴の周囲にそれぞれ前記重液相又は前記軽液相を伴った液滴を、前記軽液相又は前記重液相中に形成させて、前記界面を起点にして前記界面の上方及び下方に液滴の積層を成長させ、成長によって積層された前記軽液相又は前記重液相の液滴同士の間が、それぞれ前記重液相または前記軽液相で満たされた、ひとつながりの液液混相流路を形成させ、形成された液液混相流路を水平方向に導き、その後、水平方向に導かれた液液混相流路を、前記狭小通路とその先に配置された拡張部位に導くことによって、前記液液混相流路を消滅させることを特徴としている。
【0026】
本発明のより効率的な方法においては、さらに、前記容器の中央部位の鉛直上方及び下方にも、前記中央部位に連続して、狭小通路とその先に拡張部位を配置した容器を用いることが望ましい。
【0027】
本発明のさらなる観点にかかる、上述の方法を実施するためのモジュールは、中央部位の内部に2つの混じり合わない軽液相と重液相が界面を成して存在しており、前記界面の上下に対抗して設けられたノズルからの液滴噴出によって両液相の液液混相を発生させ、その液液混相を水平方向に発達させるところの中央部位を有し、前記中央部位で水平方向に発達させられた液液混相が導かれる先に、縦向きに配置された狭小通路とさらにその先に配置された拡張部位を備えている容器から構成された、前記軽液相と前記重液相中にひとつながり液液混相流路を形成・消滅させるためのモジュール。
【発明の効果】
【0028】
本発明のソフトマイクロ流路は、液体ゆえの流動性と柔軟性から、従来のハードマイクロ流路(樹脂や金属に刻む流路)で問題となる、固体による流路の狭窄・閉塞、気体の発生による内容物の一挙流失が起こらない。また、生来、理想的な分岐構造(ひとつながりの3次元的網目構造)を持つことから、分岐点での流量制御の難しさなど、ハードマイクロ流路のナンバリングアップにおける問題も生じない。すなわち、マイクロ流路デバイスを化学プラントなどの大型システムに適用する際の技術面での課題の全てを解決できる。
【0029】
同時に、ソフトマイクロ流路は、圧倒的な低コストとメンテナンス・フリーを実現するものである。すなわち、ソフトマイクロ流路は、汎用ポンプによる送液だけで自然に発生し、単純な容器形状の変化だけで自然に完全消滅するので、極めてシンプルな仕組みで、その発生と消滅を容易に制御できる点において出没自在である。よって、圧倒的な低コストを実現できるとともに、メンテナンスのための流路洗浄を要しない。また、液液混相内部において縦横無尽に発生するソフトマイクロ流路は、極めて高密度で形成されるため、大容量での処理能力を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】第1液体が軽液相、第2液体が重液相の時の液液混相成長の模式図。
図2】第1液体が重液相、第2液体が軽液相の時の液液混相成長の模式図。
図3】上端及び下端で液液混相を消滅させる基本的な仕組み。
図4図3からの変化形(中央部位を六角形の形状に変えたもの)。
図5図3からの変化形(中央部位を十字の形状に変えたもの)。
図6図3からの変化形(狭小通路の断面積を2段階で減少させたもの)。
図7図3からの変化形(狭小通路の形状をメガホン状に変えたもの)。
図8図3からの変化形(釣鐘形状ノズルにより狭小通路を成形したもの)。
図9(a)】図8に示す仕組みの2つの密閉容器を結合させた構造。
図9(b)】図8に示す仕組みの2つの非密閉容器を結合させた構造。
図10】ノズルを設置した筒状部位の中央付近から水平に液液混相を導く基本的な仕組み。
図11】ノズルを設置した筒状部位の上方から水平に液液混相を導く基本的な仕組み。
図12】ノズルを設置した筒状部位の下方から水平に液液混相を導く基本的な仕組み。
図13(a)】図10からの変化形(軽液相の相分離部を中央付近に配置したもの)。
図13(b)】図10からの変化形(重液相の相分離部を中央付近に配置したもの)。
図13(c)】図10からの変化形(ノズルを設置した筒状部位の上下に両方の相分離部を配置したもの)。
図14(a)】図3からの変化形(上方狭小通路を斜めに配置したもの)。
図14(b)】図3からの変化形(上方狭小通路を斜めと鉛直を結合させた形状にしたもの)。
図15図3からの変化形(上方狭小通路を液液混相発生部の中央付近から斜めに配置したもの)。
図16】重液相と軽液相を対向接触させながら水平に液液混相を伸長させる基本的な仕組み。
図17図16からの変化形(両方の相分離部を水平部位に配置したもの)。
図18図16からの変化形(釣鐘形状ノズルにより狭小通路を成形したもの)。
図19(a)】図16からの変化形(両方の相分離部を水平部位の上下から斜めに外側に配置したもの)
図19(b)】図16からの変化形(両方の相分離部を水平部位の側方から斜めに外側に配置したもの)
図20図16からの変化形(2種類の重液相を異なる位置から導入できるようにしたもの)
図21図18に示す仕組みの2つの密閉容器を結合させた構造。
図22】線間密着したらせん形の容器で水平に近い向きで液液混相を伸長させる基本的な仕組み。
図23(a)】十字形状の中央部位から左右に液液混相を伸長させた両先端に高さを揃えた狭小通路を配置した仕組み。
図23(b)】十字形状の中央部位から左右に液液混相を伸長させた両先端に高さを揃えない狭小通路を配置した仕組み。
図23(c)】図23(b)の変化形(釣鐘形状ノズルにより狭小通路を成形したもの)。
図24図23(b)を中核反応器として6箇所の相分離部に枝反応器を設置したモジュールの例。
図25】周囲に重液相を伴った軽液相の液滴が液液界面を起点にして上方に積層していく様子。
図26】周囲に軽液相を伴った重液相の液滴が液液界面を起点にして下方に積層していく様子。
図27】密に充填されることで六角形に近い形状を成す液滴が積層した様子と液滴の周辺に形成されるマイクロ流路群。
図28】液滴に間に形成された3次元的網目構造を成すひとつながりのマイクロ流路群の模式図。
図29図3に示す仕組みでの2液相設置と液液混相発生の模式図。
図30図4に示す仕組みでの2液相設置と液液混相発生の模式図。
図31図5に示す仕組みでの2液相設置と液液混相発生の模式図。
図32図6に示す仕組みでの2液相設置と液液混相発生の模式図。
図33図7に示す仕組みでの2液相設置と液液混相発生の模式図。
図34図8に示す仕組みでの2液相設置と液液混相発生の模式図。
図35図10に示す仕組みでの2液相設置と液液混相発生の模式図。
図36図11に示す仕組みでの2液相設置と液液混相発生の模式図。
図37図12に示す仕組みでの2液相設置と液液混相発生の模式図。
図38(a)】図13(a)に示す仕組みでの2液相設置と液液混相発生の模式図。
図38(b)】図13(b)に示す仕組みでの2液相設置と液液混相発生の模式図。
図38(c)】図13(c)に示す仕組みでの2液相設置と液液混相発生の模式図。
図39(a)】図14(a)に示す仕組みでの2液相設置と液液混相発生の模式図。
図39(b)】図14(b)に示す仕組みでの2液相設置と液液混相発生の模式図。
図40図15に示す仕組みでの2液相設置と液液混相発生の模式図。
図41図16に示す仕組みでの2液相設置と液液混相発生の模式図。
図42図17に示す仕組みでの2液相設置と液液混相発生の模式図。
図43図18に示す仕組みでの2液相設置と液液混相発生の模式図。
図44(a)】図19(a)に示す仕組みでの2液相設置と液液混相発生の模式図。
図44(b)】図19(b)に示す仕組みでの2液相設置と液液混相発生の模式図。
図45図20に示す仕組みでの2液相設置と液液混相発生の模式図。
図46図22に示す仕組みでの2液相設置と液液混相発生の模式図。
図47(a)】図23(a)に示す仕組みでの2液相設置と液液混相発生の模式図。
図47(b)】図23(b)に示す仕組みでの2液相設置と液液混相発生の模式図。
図47(c)】図23(c)に示す仕組みでの2液相設置と液液混相発生の模式図。
図48】狭小通路を持たない図16に類似の仕組み。
図49図48に示す仕組みでの2液相設置と液液混相発生の模式図。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明は、2つの混じり合わない液体が界面を成して存在する2液相系において液液混相マイクロ流路を形成させる方法、及び液液混相マイクロ流路の形成と消滅を制御する方法並びにそのためのモジュールを提供するものである。
【0032】
マイクロメートルサイズの径を持つマイクロ流路は、混合・抽出・分離などの化学操作を集積しモジュール化することで、反応の迅速化、デバイスの小型化、システムの多機能化などを可能にする。実際、マイクロ流路を利用したマイクロ流体デバイスは、極微量試料の分析・センシング、高効率で迅速な少量有機合成などに対するデバイスとして極めて有効であり、lab-on-a-chip、ウェアラブル・マイクロデバイスなど、化学、バイオ、医療、環境など、様々な分野における微小システムとして、技術革新をもたらしている。
【0033】
一方、従来の樹脂・金属などに刻まれるマイクロ流路は、固体の混入・析出による狭窄や目詰まり(閉塞)を起こしやすく、気体の発生によって流路の内容物が一気に押し出されるといった問題がある。特に、大量処理、大規模・大量生産を目的として、反応器の数を増やして並列に配置(ナンバリングアップ)し、容量を増大させる場合、多数の流路の中のいずれかにおいて狭窄・閉塞が発生したり、内容物が流出したりすると、全体が機能しなくなることがある。また、分岐点での正確な流量制御が難しいことも実用上の課題である。よって、化学プラントのような大型システムに対するマイクロ流路の応用は進んでいない。
【0034】
本発明の液液混相マイクロ流路は、前述の従来のマイクロ流路が持つ問題点の全てを解消するものである。加えて、液液混相マイクロ流路は、その発生と消滅を容易に制御できる点において出没自在であり、さらに、その発生・消滅制御の仕組みが極めてシンプルであることから、圧倒的な低コストとメンテナンス・フリーを実現できる。
【0035】
本発明の液液混相マイクロ流路は、2つの混じり合わない液体が界面を成して存在する2液相系において、第1液体を第2液体の相の中に液滴として噴出させ、その噴流を前記界面に衝突させることで生じる。この液滴噴出によって、前記第1液体の液滴が、その周囲に前記第2液体を伴いながら前記第1液体の相の中に取り込まれ、前記界面を起点にして密に積層して成長する液液混相の中で、3次元的網目構造を成すひとつながりの流路群が高密度で発生する。すなわち、積層された前記第1液体の液滴同士の間が前記第2液体で満たされたひとつながりの流路群を形成される。
【0036】
前記第1液体が軽液相(2つの液相のうち、より比重が小さい方の液相)である場合、軽液相の液滴は、その周辺に重液相の液膜を伴うことで、バルク軽液相よりも重くなる。また、前記第1液体が重液相(2つの液相のうち、より比重が大きい方の液相)である場合、重液相の液滴は、その周辺に軽液相の液膜を伴うことで、バルク重液相よりも軽くなる。このように、液膜を伴うことで浮力又は重力が減少することが、界面からの液滴積層の原動力となっている。
【0037】
図1に、前記第1液体(液滴として噴出される液体)を軽液相とした場合に、液液界面(重液相と軽液相の間の界面)から液液混相が成長していく様子を模式的に示す。このように、液液界面から上方に向けて積み重なる液滴の周辺に、3次元的網目構造を成すひとつながりの高密度な流路群が、第2液体(重液相)の流路として形成される。また、液滴の積層がさらに進行すると、もとの界面の位置(両相を設置した時の界面位置)から下方に向かっても密集した液滴層が成長する。すなわち、高密度な流路群を有する液液混相は、液液界面から上方及び下方に向かって発達する。
【0038】
液液界面から上方及び下方に向かって発達した液液混相には、第2液体(重液相)の流路群が形成されるので、たとえば、その上方から、送液によって第2液体(重液相)を導入すると、形成された流路群に第2液体(重液相)の流れが生じ、第2液体(重液相)のマイクロ流路として機能するようになる。
【0039】
図2に、前記第1液体(液滴として噴出される液体)を重液相とした場合に、液液界面から液液混相が成長していく様子を模式的に示す。このように、液液界面から下方に向けて積み重なる液滴の周辺に、3次元的網目構造を成すひとつながりの高密度な流路群が、第2液体(軽液相)の流路として形成されている。また、液滴の積層がさらに進行すると、もとの界面の位置(両相を設置した時の界面位置)から上方に向かっても密集した液滴層が成長する。すなわち、高密度な流路群を有する液液混相は、液液界面から上方及び下方に向かって発達する。
【0040】
液液界面から上方及び下方に向かって発達した液液混相には、第2液体(軽液相)の流路群が形成されるので、たとえば、その下方から、送液によって第2液体(軽液相)を導入すると、形成された流路群に第2液体(軽液相)の流れが生じ、第2液体(軽液相)のマイクロ流路として機能するようになる。
【0041】
上述の各液滴の大きさは、後述する実施例で得られた幾つかの例では、径が0.02mmから0.7mmであった。また、各液滴間の間隔すなわちマイクロ流路の幅は、2μmから200μmであった。なお、液滴の噴出は、細管又は細孔を有するノズルを用いて行うことが好ましいが、その限りではない。また、細管又は細孔を有するノズルを使用する場合、該細管又は細孔は、分岐がなく、内径が一定の直線状であることが好ましいが、その限りではない。
【0042】
このようにして液体中で形成されるマイクロ流路(ソフトマイクロ流路と称する)は、従来の樹脂・金属などの固体に刻まれるマイクロ流路(ハードマイクロ流路と称する)と同様に、液液抽出反応、触媒反応、錯形成反応、吸着反応、イオン交換反応、有機合成反応、自己組織化反応など、多種多様な化学反応に対するマイクロ流体デバイスに利用できる。たとえば、マイクロ流路の特徴の1つとして、液液抽出反応において撹拌翼による機械撹拌と比較すると、水相と油相の接触効率の指標となる比界面積が大幅に増大する。
【0043】
前記ソフトマイクロ流路は、その形成と消滅をシンプルな仕組みで自在に制御することができる。具体的には、ソフトマイクロ流路群が形成されている液液混相が通過する部分の断面積を変化させるだけで、必要な場所でマイクロ流路を形成させ、かつマイクロ流路を形成させたくない場所では消滅させることができる。
【0044】
すなわち、液液混相が伸長する方向の先に、断面積が増大した部位を設置することで、液液混相を相分離させることができ、同時に前記ソフトマイクロ流路は消滅する。
【0045】
液滴噴出で発生させた液液混相は、鉛直方向に断面積が増大した部位を通過させると、液液混相を構成している液滴の線速度の減速によって液滴同士の合一が進行し、迅速かつ完全に消滅して、重液相と軽液相に分相する。すなわち、乳濁状態に至るファインな液液混相の発生と消滅を、鉛直方向に断面積を増大させただけの極めてシンプルな容器形状によって自在に制御できる。
【0046】
一方で、液液混相が通過する部分の断面積を減少させても相分離は起こらず、逆に、液液混相での液滴積層が安定化し、ソフトマイクロ流路群の形成が促進される。すなわち、液液混相を、いったん狭小した通路(狭小通路と称する)に導いた後、さらに、前記狭小通路よりも断面積が増大した部位(拡張部位と称する)に導くことで、液滴の線速度の変化が増幅されるため、より効率的かつ効果的にソフトマイクロ流路の発生と消滅を制御することができる。断面積が減少した狭小通路を液液混相が通過する際、液液混相中の液滴の線速度が一様に増加することで、液滴同士の合一は抑制される。すなわち、液滴噴出で発生させた液液混相を断面積が減少する狭小通路に導いた後、該狭小通路よりも断面積が増大する拡張部位に導けば、液液混相、ひいてはソフトマイクロ流路群の発生・消滅を、より鋭敏かつ精密に制御することができ、かつ液液混相を消滅させるための仕組みの容器体積を小さくできる。液液混相が通過する場所の断面積を大きくするだけの方法では、その場所の容器体積を大きくせざるを得ないので、必然的に反応器全体での体積が大きくなる。
【0047】
液滴の積層によって発生する液液混相は、容器の形状に合わせて上下前後左右及びこれらの斜め方向(90度又は180度から任意の角度を成す方向)というように、あらゆる方向に伸長するが、その伸長する先で鉛直方向に断面積を増大させると相分離して消滅する。一方、液液混相が伸長する先で鉛直方向に断面積を減少させても該液液混相は消滅しない。
【0048】
また、液液混相が水平方向に伸長する先で、横向きの流れのまま(上下への方向転換なく)、断面積を増大させても十分な相分離は起こらず、該液液混相は消滅しない。すなわち、十分に液液混相を消滅させるには、該液液混相中の液滴に対して働く浮力の方向(鉛直上向き)又は重力の方向(鉛直下向き)と液液混相が移行する方向が反対になっている必要がある。
【0049】
このような現象を利用して液液混相流路群の形成・消滅を制御する仕組みの例を図3から図23(c)までに示すが、この限りではない。
【0050】
図3に、鉛直上方若しくは下方又はその両方に液滴を噴出して液液混相を発達させ、その上端及び下端で該液液混相を消滅させる基本的な仕組み(基本型と称する)を示す。中央に位置する筒状部位(中央部位と称する)の上方及び下方のそれぞれに対して縦向きで狭小通路を配置し、その先は再び断面積が増大する拡張部位を設置している。なお、中央部位、狭小通路、及び拡張部位の形状に制限はなく、たとえば、円柱、四角柱など、任意の形状を選択できる。また、一定の断面積を有する中央部位の上方には重液相用ノズル、下方には軽液相用ノズルが設置され、それぞれのノズルはポンプに接続されている。なお、液液混相が消滅することで相分離した重液相は下方から、軽液相は上方から排出されるようになっている。
【0051】
さらに、図3の仕組みのバリエーション(変化形)の例を、以下、図4図5図6図7、及び図8に示すが、この限りではない。なお、これらの図は、上下左右のみを考慮したバリエーションである。実際には、上下左右に加えて前後を考慮し、さらにはこれらの斜め方向も考慮したバリエーションも存在するが、左右と前後、及びこれらの斜め方向は、水平という点において、液液混相の発生・消滅に係る原理に違いがないことから、特に例示はしない。
【0052】
図4は中央部位を六角形の形状にしたもの、図5は中央部位を十字の形状にしたものであり、このような形状に合わせて液液混相を発生させられる。前述したように、液液混相は、容器の形状に合わせて上下前後左右及びこれらの斜め方向(90度又は180度から任意の角度を成す方向)というように、あらゆる方向に伸長させられるため、前記中央部位がいかなる形状であっても、その形状に合わせて液液混相が生じる。
【0053】
狭小通路の断面積は、段階的に減少させることができる。図6は、その例として、狭小通路の断面積を2段階で減少させたもので、図3(基本型)と比べると、液液混相を発生させる場所(液液混相発生部と称する)に対する液液混相を相分離によって消滅させる場所(相分離部と称する)の体積比をより小さくできる。また、図7に示すような、狭小通路の形状をメガホン状にして、相分離部に向けて断面積が小さくなるようにした構造でも、図6と同様に、液液混相発生部に対する相分離部の体積比をより小さくできる。
【0054】
図8は、図3(基本型)のバリエーション(変化形)の中で最もシンプルな形状であり、容器自体は一定の断面積を持つ単純な筒である。図8の仕組みでは、釣鐘形状のノズルと器壁の間に意図的に成形された縦向きの狭小通路を利用して、図3と同じ原理で液液混相を消滅させることができる。なお、前記釣鐘形状ノズルの断面は円形に限らない。すなわち、前記釣鐘形状ノズルの形状は、液液混相発生部の容器形状に合わせて、器壁面との間の狭小通路として機能するように意図して決定する。
【0055】
図8の形状は、そのシンプルさゆえに、複数個を一体化した仕組みを構築しやすい。図9(a)は、2つの塔を結合させた構造で、たとえば、液液抽出(溶媒抽出)における正抽出と逆抽出を同時進行させる仕組みとして利用できる。なお、図9(a)は密閉容器の仕組みであり、重液相の導入・排出を正抽出塔と逆抽出塔とで同時進行させることはできないので、正抽出を行うときには逆抽出塔に重液相を導入するためのバルブを閉じておくか、重液相を逆抽出塔内のみで閉じた循環状態にしておく必要がある。すなわち、重液相の導入・排出を両塔で同時進行させると、塔内の圧力バランスが崩れ、2液相の体積比を維持できない。一方、図9(b)のように、非密閉容器の仕組みにすることも可能である。この場合、重液相の導入・排出を正抽出塔と逆抽出塔とで同時進行させることができるが、ポンプの数が増えるとともに、重液相の排出口の位置を高くする必要がある。
【0056】
前述したように、液液混相が水平方向に伸長する先で、横向きの流れのまま(上下への方向転換なく)、断面積を増大させても十分な相分離は起こらない。しかしながら、その水平方向に伸長する先で、縦向きで配置又は成形された狭小通路に液液混相を導くことによって、十分に相分離させる(液液混相を消滅させる)ことができる。図10図11、及び図12に、水平方向、すなわち、水平面における前後左右及びこれらの斜め方向のうちのいずれか1つの方向に液液混相を発達させ、その端で該液液混相を消滅させる3つの仕組みを示す。これら3つの横型の仕組みに対しても、図3に示す縦型の仕組み(基本型)と同様なバリエーション(変化形)がそれぞれに対して存在するが、その限りではない。また、液液混相を発達させる横向きの部位が水平面から傾斜していても(勾配を持っていても)、図10図11、及び図12に示す仕組みと同様な仕組みを構築できる。
【0057】
液液混相を発生させる仕組みは、図10図11、及び図12で共通であり、いずれも鉛直上方若しくは下方又はその両方に液滴を噴出して液液混相を発生させる。この点は、図3乃至図8までに示した仕組みと同様でもある。図10は、ノズル(重液相用ノズルと軽液相用ノズル)を設置した筒状部位の中央付近から水平方向に液液混相の流れを導き、その流れの先に縦向きで配置された狭小通路において液液混相を消滅させる仕組みである。同じように、図11は、ノズルを設置した筒状部位の上方から、図12は、ノズルを設置した筒状部位の下方から水平方向に液液混相の流れを導き、縦向きで配置された狭小通路に至らしめる仕組みである。
【0058】
また、図10に示す構造において、重液相が相分離されて集まる場所(重液相の相分離部)と軽液相が相分離されて集まる場所(軽液相の相分離部)は、必ずしも近接している必要はないので、たとえば、図13(a)、図13(b)、及び図13(c)のような仕組みにもできる。なお、図13(c)については、基本型である図3の中央部位の形状のバリエーション(変化形)とみなすこともできる。すなわち、図3の中央部位を水平面のいずれか1つの方向のみに伸長させた形状である。
【0059】
また、液液混相の流れを斜め方向(90度又は180度から任意の角度を成す方向)に導くこともできる。シンプルな例として、図14(a)、図14(b)、及び図15に、図3(基本型)からの変化形を示すが、この限りではない。図14(a)及び図14(b)では、液液混相を斜め方向に導く狭小通路が、液液混相発生部の上方に設置されていて、その先に相分離後(液液混相の消滅後)の軽液相が集まる。なお、図14(b)では、斜め方向の狭小通路が相分離部に近い位置で鉛直方向になる。また、図15では、液液混相を斜め方向に導く狭小通路が、液液混相発生部の中央付近に設置されていて、その先に相分離後(液液混相の消滅後)の軽液相が集まる。
【0060】
図10図11図12図13(a)、図13(b)、及び図13(c)に示す仕組みでは、水平方向において、重液相と軽液相で流れの向きが一致している。一方、液液混相を水平方向に発展させる方法として、重液相と軽液相で流れの向きを対向させることも可能である。その例として、図16図17図18図19(a)、及び図19(b)に、重液相と軽液相を対向接触させながら水平方向に液液混相を発生させる仕組みの例を示すが、この限りではない。前述したように、図3に示す基本型のバリエーション(変化形)では、中央部位の形状を自由に設定することができるが(たとえば、図4では六角形、図5では十字)、図16乃至図19(b)までは、図4図5と同様に、図3のバリエーションとみなすこともできる。すなわち、図16乃至図19(b)までに示す仕組みは、図3に示す基本型の中央部位の形状として、水平横長を基本にした形状を設定した仕組みともみなせる。
【0061】
図16は、基本型である図3の変化形であり、液液混相を発生させる場所(液液混相発生部)の上下に両相を相分離させる場所(相分離部)を配している。図17は、相分離部の位置を、図16に示すような上下から左右に変更した形状である。図18は、図3のバリエーション(変化形)の中で最もシンプルな図8の変化形である。また、液液混相は、斜め方向に導くこともできるので、たとえば、図19(a)及び図19(b)に示すような仕組みが可能である。なお、両相の流れを対向させながら水平方向に液液混相を発生させる仕組みは、以上の限りではない。
【0062】
水平方向での重液相と軽液相の向流接触(対向接触)は、循環流が発生しやすい鉛直方向での両相の向流接触と比較して、理論段数がより大きくなる傾向がある。たとえば、図16乃至図19(b)までの仕組みのいずれかを液液抽出(溶媒抽出)に用いる場合、より理論段数が大きいことから、元素間の分離において、より大きな分離係数が得られる。
【0063】
水平方向での重液相と軽液相の向流接触(対向接触)させる仕組みでは、2種類の重液相を別の位置から導入しながら、軽液相と液液混相を発生させることも可能である。たとえば、図20に示す仕組みでは、重液相1を処理対象液(処理対象の水相)、重液相2を洗浄液(共抽出された元素を洗浄除去するための水相)とすることで、より効率的かつ効果的に元素分離を行うことができる。
【0064】
また、図18の形状は、そのシンプルさゆえに、複数個を一体化した仕組みを構築しやすい。たとえば、図21は、2個の密閉容器を互い違いに結合させた構造の例である。たとえば、図9(a)に示す2塔結合の場合と同様に、液液抽出(溶媒抽出)における正抽出と逆抽出を同時進行させる仕組みとして利用できる。また、図9(b)と同様に、非密閉容器を結合させることもできる。
【0065】
水平方向(水平面における前後左右及びこれらの斜め方向のうちのいずれか)に限らず、水平面から傾斜(勾配)を持たせた形状であっても、図16乃至図19(b)までに示す仕組みと同様な仕組みを構築できる。すなわち、水平面から傾斜した(勾配を持った)形状であっても、図3の中央部位のバリエーション(変化形)とみなせる。
【0066】
また、水平面から傾斜した筒状形状を、つながったままの状態でらせん形に積み上げて配置することも可能であり、前述と同様に、図3の中央部位の変化とみなせる。特に、図22に示すような線間密着したらせん形では、液液混相が水平に近い向きで伸長する部分の全長を著しく長くすることができるので、理論段数を大幅に増大できる。また、らせん形は鉛直方向に積み上がるため、省スペースでもある。なお、図22は、液液混相が発生する場所(液液混相発生部)に釣鐘形状ノズルを適用した例であるが、この限りではない。
【0067】
液液混相は、上下前後左右及びこれらの斜め方向というように、あらゆる方向に発達させることができ、液液混相及びこれが内包するソフトマイクロ流路群が相分離によって消滅する場所(相分離部)の数も自由に設定することができる。たとえば、図5のように中央部位を十字の形状にして、その水平方向(前後左右及びこれらの斜め方向)に発達した液液混相の流れの先に縦向きで配置された狭小通路を設けることができる。その例として、十字形状から左右に発達した液液混相の流れの両端に狭小通路を配置した仕組みを、図23(a)、図23(b)、及び図23(c)に示すが、その限りではない。なお、これらの図は、相分離部の数を6箇所にした例である。
【0068】
図23(a)は、3箇所ある重液相に対する相分離部の高さと、同じく3箇所ある軽液相に対する相分離部の高さを、それぞれに対して同じにした仕組みである。また、図23(b)は、重液相に対する相分離部、軽液相に対する相分離部のいずれに対しても、3箇所の位置を異なる高さにした仕組みである。図23(c)は、図23(b)と同様な仕組みにおいて、釣鐘形状ノズルと器壁の間の狭小通路を相分離に利用した仕組みである。
【0069】
たとえば、図23(b)を中核反応器として、6箇所の相分離部に重液相用の枝反応器及び軽液相用の枝反応器を設置した図24のようなモジュールが可能である。1箇所の相分離部に対して複数個の枝反応器を設置することも可能である。
【0070】
以上に示したような仕組みに基づいて、液液混相中で形成されるひとつながりのソフトマイクロ流路群(ソフトマイクロ流路の集合体)を自由に組み合せることで、多種多様な反応器モジュールにできる。すなわち、ソフトマイクロ流路が形成されている場所と形成されていない場所を制御することで、個々のソフトマイクロ流路群に対して特定の機能を持たせることが可能である。
【0071】
以下、実施例により、本発明の示す液液混相流路群を形成させる方法、及び液液混相流路群の形成・消滅を制御する方法とそのモジュールについての具体例を示すが、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0072】
液液界面から上方への液滴の積層。
【0073】
重液相としてイオン交換水(純水)、軽液相としてアルカンを主成分とする溶媒(商品名D70)を用いて、液液界面から上方に向かって液滴を積層させる実験を行った。下端の閉じた縦長円筒容器(横:縦=1:5)に同体積の重液相(純水)と軽液相(D70)を設置し、該容器の下方から、複数の細管を有するノズルを介してのポンプ送液により軽液相の微小液滴を噴出させ、その噴流を液液界面に衝突させた。
【0074】
その結果、図1に模式的に示すように、軽液相の液滴が、その周囲に重液相を伴いながら軽液相の中に取り込まれ、液液界面を起点にして上方に積層していくことがわかった。図1のDの状態に至ったときの様子を図25に示す。複数の細管を有するノズルの代わりに複数の細孔を有するノズルを用いた場合も、同様な現象が観測された。また、細管又は細孔の内径は1mm以下が好ましく、1mmを超えると、多くの場合、液滴が積層する現象が起こらなかった。なお、この現象が起こるか否かを決定づける液滴のサイズは、重液相と軽液相の種類とその組み合わせに依存した。また、液滴の積層がさらに進行すると、もとの界面の位置(両相を設置した時の界面位置)から下方に向かっても密集した液滴層が成長し、最終的に円筒容器全体に広がった。
【実施例2】
【0075】
液液界面から下方への液滴の積層。
【0076】
重液相として純水、軽液相としてD70を用いて、液液界面から下方に向かって液滴を積層させる実験を行った。実施例1と同様に、下端の閉じた縦長円筒容器(横:縦=1:5)に同体積の重液相(純水)と軽液相(D70)を設置し、該容器の上方から、複数の細管を有するノズルを介してのポンプ送液により重液相の微小液滴を噴出させ、その噴流を液液界面に衝突させた。
【0077】
その結果、図2に模式的に示すように、重液相の液滴が、その周囲に軽液相を伴いながら重液相の中に取り込まれ、液液界面を起点にして下方に積層していくことがわかった。図2のDの状態に至ったときの様子を図26に示す。複数の細管を有するノズルの代わりに複数の細孔を有するノズルを用いた場合も、同様な現象が観測された。また、細管又は細孔の内径は1mm以下が好ましく、1mmを超えると、多くの場合、液滴が積層する現象が起こらなかった。なお、この現象が起こるか否かを決定づける液滴のサイズは、重液相と軽液相の種類とその組み合わせに依存した。また、液滴の積層がさらに進行すると、もとの界面の位置(両相を設置した時の界面位置)から上方に向かっても密集した液滴層が成長し、最終的に円筒容器全体に広がった。
【実施例3】
【0078】
液液混相の中で形成されるマイクロ流路群。
【0079】
図27に、実施例1に示す方法に基づいて液滴を積層させることで生じる液液混相の中で形成される、3次元的網目構造を成すひとつながりの高密度な流路群の拡大図を示す。良好に液滴が積層して密に充?される場合、図27に示すように、液滴は六角形に近い形状を成すことがわかった。図28に模式的に示すように、軽液相(D70)の液滴に間には、3次元的網目構造を成す重液相(純水)のひとつながりのマイクロ流路群が形成されている。
【実施例4】
【0080】
液液混相マイクロ流路での流れの発生。
【0081】
実施例1に示す方法で縦長円筒容器の下方から軽液相(D70)の微小液滴を噴出させると同時に、該容器の上方からポンプ送液により重液相(純水)を導入すると、液液混相マイクロ流路における重液相の流れ(流体の速い動き)が高速度カメラによって観測された。また、重液相の送液速度を増加させると、それに応じて、前記マイクロ流路での純水の流速も増加した。さらに、重液相の送液速度の増加により、もとの界面の位置(両相を設置した時の界面位置)から下方に向かう液滴積層の成長が促進された。同様に、実施例2に示す方法で縦長円筒容器の上方から重液相(純水)の微小液滴を噴出させると同時に、該容器の下方からポンプ送液により軽液相(D70)を導入すると、液液混相マイクロ流路における軽液相の流れ(流体の速い動き)が高速度カメラによって観測された。また、軽液相の送液速度を増加させると、それに応じて、前記マイクロ流路でのD70の流速も増加した。さらに、軽液相の送液速度の増加により、もとの界面の位置(両相を設置した時の界面位置)から上方に向かう液滴積層の成長が促進された。
【実施例5】
【0082】
撹拌翼回転による機械撹拌で生じる液液混相との比較。
【0083】
実施例1と同じ円筒容器に同体積の重液相(純水)と軽液相(D70)を設置し、回転軸の先に取り付けた撹拌翼を2液相の間の界面に配置して機械撹拌することで生じる液液混相を、実施例1に示す液滴噴出に基づいて液滴を積層させることで生じる液液混相と比較した。
【0084】
その結果、機械撹拌で生じる液液混相は、撹拌翼の翼部位付近で液滴の密集度が高く、該翼部位から上下に遠ざかるに従って液滴の密集度が低くなるのに対して、液滴噴出で生じた液液混相は、液液界面を起点にして液滴の密集度が急激に高まり、さらに上方に向かって密集度は増加することがわかった。また、液滴の積層は、もとの界面の位置(重液相と軽液相の設置時の界面位置)から下方に向かっても成長し、最終的に円筒容器全体に広がった。
【0085】
また、高速度カメラ観測によって得られた液滴の粒径とその分布に基づいて液液混相全体に対して比界面積を比較した結果、液滴噴出で生じた液液混相では、撹拌翼による機械撹拌の5倍以上の値が観測された。なお、液滴噴出と機械撹拌との比界面積での比較は、発生する液液混相の体積がほぼ同じになるように、液滴噴出及び機械攪拌での送液速度と機械撹拌での撹拌翼回転速度を調整しながら行った。機械撹拌の場合、液滴噴出と比べると分相性(相分離の度合い)に劣るが、分相の良し悪しは考慮せず、液液混相での液滴の密集度が最大になる条件を選択した。
【0086】
以上から、液滴噴出によって生じる液液混相では、機械撹拌で生じる液液混相の場合よりも格段に大きな比界面積が得られることが明らかになり、液液混相内で形成されるソフトマイクロ流路の効果が示された。
【実施例6】
【0087】
液液混相(ソフトマイクロ流路群)の発生・消滅の制御。
【0088】
実施例1乃至実施例5までに示したように、液滴噴出で発生させた液液混相の内部には、ひとつながりの3次元的網目構造を成すソフトマイクロ流路群が極めて高い密度(密集度)で形成される。液体ゆえの流動性と柔軟性を持ち、生来の理想的な分岐構造を有するソフトマイクロ流路群は、以下に示すような、液滴を噴出させるだけの極めてシンプルな仕組みによって、その発生と消滅を自在に制御できることがわかった。
【0089】
図3乃至図23(c)までの仕組みについて、重液相としてイオン交換水(純水)、塩素化炭化水素、又はフルオラス溶媒、軽液相としてアルカン、芳香族、アルコール、ケトン、エーテル、リン酸エステル、アミン、アミド、又は純水(フルオラス溶媒が重液相のとき)を用いて、液液混相(ソフトマイクロ流路群)の発生と消滅を観測した。溶媒の選択・組み合わせ、pH、イオン強度などの条件、液滴噴出のためのノズルの種類・構造などの違いにより、液液混相での液滴の密集度は変化したが、液液混相の発生・消滅の領域には差がなかった。以下に、図3乃至図23(c)までに示す仕組みについて、液液混相の発生領域及びその消滅領域を示す。なお、複数個を結合させた図9(a)、図9(b)、及び図21に示す仕組みについては、単体の場合と違いはなかった。
【0090】
図29から図34までは、図3に示す基本的な仕組み(基本型)及びその変化形(図3から図8まで)に対して、重液相と軽液相を設置した準備状態(左:A)と液液混相が発生した稼働状態(右:B)を示す。中央部位がいかなる形状であっても、液液混相は相分離部(重液相分離部及び軽液相分離部)に至ると消滅した。また、狭小通路の断面積が相分離部に向けて段階的に小さくなる場合(図32)若しくはメガホン状に小さくなる場合(図33)、又は釣鐘形状ノズルと器壁の間に縦向きの狭小通路が成形されている場合(図34)のいずれにおいても、狭小通路の形状の影響を受けることなく、液液混相は相分離部に至ると消滅した。
【0091】
図35から図38(c)までは、重液相用と軽液相用の両方のノズルを設置した筒状部位から生じた液液混相が水平方向に伸長する先で、縦向きで配置又は成形された狭小通路に液液混相を導くことによって相分離させる仕組み(図10から図13(c)まで)に対して、重液相と軽液相を設置した準備状態(A)と液液混相が発生した稼働状態(B)を示す。
【0092】
図35は、ノズル設置部位の中央付近から水平方向に液液混相の流れを導く仕組み(図10の仕組み)での結果である。液液混相の流れが縦向きで配置又は成形された狭小通路を通過し、その上下に設置された相分離部に至ることで、液液混相は消滅した。図36は、ノズル設置部位の上方から水平方向に液液混相の流れを導く仕組み(図11の仕組み)での結果である。図11では、重液相の相分離部(重液相分離部)に至る狭小通路のみが設置され、軽液相の相分離部(軽液液相分離部)に至る狭小通路は存在しない。この場合、液液混相の流れが水平方向に移行する水平部位において、軽液相の相分離が起こった。すなわち、図36に示すように、水平部位において、液液混相発生部と軽液相分離部が共存することがわかった。図37は、ノズル設置部位の下方から水平方向に液液混相の流れを導く仕組み(図12の仕組み)での結果である。図12では、軽液相の相分離部(軽液相分離部)に至る狭小通路のみが設置され、重液相の相分離部(重液相分離部)に至る狭小通路は存在しない。この場合、液液混相の流れが水平方向に移行する水平部位において、重液相の相分離が起こった。すなわち、図37に示すように、水平部位において、液液混相発生部と重液相分離部が共存することがわかった。
【0093】
図38(a)、図38(b)、及び図38(c)は、図10のバリエーション(変化形)である図13(a)、図13(b)、及び図13(c)に示す仕組みでの結果である。図38(a)は、軽液相分離部及びそこに至る狭小通路を水平部位に配置した仕組みでの結果あり、図38(b)は、重液相分離部及びそこに至る狭小通路を水平部位に配置した仕組みでの結果ある。また、図38(c)は、軽液相分離部及びそこに至る狭小通路をノズル設置部位の上方に、重液相分離部及びそこに至る狭小通路をノズル設置部位の下方に設置した仕組みでの結果である。いずれの場合も、図35と同様に、液液混相の流れが狭小通路を通過し、その上方及び下方に設置された相分離部に至ることで、液液混相は消滅した。
【0094】
図39(a)、図39(b)、及び図40は、図3のバリエーション(変化形)であって上方狭小通路が斜め方向(90度又は180度から任意の角度を成す方向)を成す例である図14(a)、図14(b)、及び図15に示す仕組みでの結果である。いずれの場合も、図29と同様に、狭小通路が斜め方向に設置されている場合においても、液液混相の流れが狭小通路を通過し、その上方及び下方に設置された相分離部に至ることで、液液混相は消滅した。
【0095】
図3のバリエーション(変化形)であって、両相の流れを対向させながら水平方向に液液混相を発生させる仕組みである図16図17、及び図18の仕組みでの結果を図41図42、及び図43に示す。このような仕組みに対しても、前述の他の仕組みと同様に、液液混相の流れが狭小通路を通過し、その上方及び下方に設置された相分離部に至ることで、液液混相は消滅した。
【0096】
また、図19(a)及び図19(b)に示すような、液液混相を斜め方向に導いて、その先に設置した相分離部で液液混相を消滅させる仕組みでの結果を、図44(a)及び図44(b)に図示する。このような仕組みにおいても、狭小通路を斜めに設置した他の仕組みと同様に、その斜めの狭小通路を液液混相の流れが通過し、該狭小通路の上方及び下方に設置された相分離部に至ることで、液液混相は消滅した。
【0097】
図20に示すような、2種類の重液相を別の位置から導入しながら水平方向で軽液相と向流接触(対向接触)させることで液液混相を発生させる仕組みでの結果を、図45に図示する。重液相の導入位置が複数になっても、前述の他の仕組みと同様に、液液混相の流れが狭小通路を通過し、その上方及び下方に設置された相分離部に至ることで、液液混相は消滅した。
【0098】
図22に示すような、線間密着したらせん形状で重液相と軽液相を向流接触(対向接触)させることで液液混相を発生させる仕組みでの結果を、図46に図示する。このように、中央部位がらせん形状の場合も、液液混相の流れが狭小通路(図46では釣鐘形状ノズルと器壁の間の狭小通路)を通過し、その上方及び下方に位置する相分離部に至ることで、液液混相は消滅した。
【0099】
図47(a)、図47(b)、及び図47(c)は、複数の相分離部を有する容器構造の例として挙げた図23(a)、図23(b)、及び図23(c)に示す仕組みでの結果である。相分離部の数が増えても、液液混相の流れが狭小通路を通過し、その上方及び下方に位置する相分離部に至ることで液液混相が消滅するという現象は共通であり、相分離部の位置する高さは、同じである必要がないこともわかった。
【実施例7】
【0100】
狭小通路を持たない仕組みでの液液混相の発生・消滅の制御。
【0101】
図48に示すような狭小通路を持たない仕組みであっても、重液相と軽液相で流れの向きを対向させながら液液混相を水平方向に発展させることは可能であった。液液混相の発生領域及びその消滅領域を図49に示す。ただし、狭小通路を持つ仕組み(たとえば、図16)と比較すると、液液混相の発生・消滅の制御に対する鋭敏さ及び精密さにおいて劣ることがわかった。また、図48からわかるように、図16と比べると、液液混相が相分離して消滅する場所(相分離部)の体積が大きくなってしまうことも必然であった。
【0102】
なお、狭小通路を持たない仕組みは、図3乃至図23(c)までに示す全ての仕組みに適用できるが、いずれの場合も、狭小通路を持つ仕組みとの比較において、前述と同様であった。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本願発明の液液混相流路群を形成させる方法、及び該液液混相流路群の形成・消滅を制御する方法とそのモジュールを利用することで、固体の混入・析出による流路の閉塞・狭窄、及び気体の発生による流路内容物の流失・流出が起こらない、新たなマイクロ流路(ソフトマイクロ流路と称する)を様々な化学反応に対して適用することができる。ソフトマイクロ流路は、従来のマイクロ流路と同様に、液液抽出反応、触媒反応、錯形成反応、吸着反応、イオン交換反応、有機合成反応、自己組織化反応など、多種多様な化学反応に対して適用し、マイクロリアクター(マイクロ流体デバイス)として利用できる。従来のマイクロリアクターにおいて、固体の混入・析出、気体の発生によって生じる前記問題点は、マイクロリアクターを大量処理、大規模・大量生産に用いようとする場合には致命的である。すなわち、多数の流路を持つ大型システムのいずれかにおいて流路の閉塞・狭窄などが発生すると、システム全体が機能しなくなることがある。ソフトマイクロ流路の登場によって、これらの問題点が刷新されれば、マイクロリアクター技術の大型システムへの応用が飛躍的に進むと期待できる。
【0104】
液体中で生じるソフトマイクロ流路は、従来の固体(樹脂・金属など)に刻まれるマイクロ流路(ハードマイクロ流路と称する)とは異なり、流動的で柔軟であるがゆえに、ハードマイクロ流路が必然的に有する前述の問題点を解決できる。なお、従来のハードマイクロ流路の問題点は、特に、マイクロリアクターを大型化する際に反応器の数を増やして並列に配置するナンバリングアップにおいて顕著になる。ソフトマイクロ流路は、液滴の集積によって生じる液液混相において、液滴同士の間に形成されるマイクロメートルサイズの径を持つ流路であって、密集した分岐流路の群を成し、全方向に対して3次元的に発達する。ハードマイクロ流路を用いたマイクロリアクターのナンバリングアップでは、流路を分岐させて並列に配置した多数の反応器に同時に送液するため、分岐点における流量変化や固形成分による目詰まりが問題になるが、立体網目状に自然発生するソフトマイクロ流路では、このような問題が生じない。
【0105】
なお、ソフトマイクロ流路の流路長及び流路径は、液滴サイズ及び液滴の密度(密集度)に依存し、異なる粒径を持つ液滴を計画的に発生・集積させて流路を形成すれば、より複雑な流路設計も可能になる。ただし、ソフトマイクロ流路の場合は、ハードマイクロ流路のように個々の流路に対して設計を行うのではなく、密集した分岐流路群という、いわば、マイクロ流路の塊に対する設計である。
【0106】
前記ソフトマイクロ流路の塊(ソフトマイクロ流路群と称する)は、極めてシンプルな仕組みによって簡単に自然発生させることができる。ソフトマイクロ流路を刻むのに、従来のハードマイクロ流路のような精密な微細加工技術は不要であり、圧倒的に低いコストで簡便に、密集した立体網目状のマイクロ流路群を形成させることができる。しかも、この立体網目状マイクロ流路群は、容器形状の変化を利用して簡単に自然消滅させられる。すなわち、ソフトマイクロ流路群が発生する場所と消滅する場所を自在に設計できる。このことは同時に、事実上のメンテナンス・フリーの実現を意味する。微細な流路を清掃する必要はなく、流路自体を解消すれば固形成分等を極めて簡便に除去できるからである。
【0107】
ソフトマイクロ流路群から成るマイクロ流体デバイスのモジュールは、高性能な超低脈動ポンプは不要で微細加工も要しない極めてシンプルな仕組みゆえの低イニシャルコスト、仕組みの簡便さに加えて流路の閉塞・狭窄や流路内容物の流失・流出を監視するシステムを要しない低ランニングコスト、事実上のメンテナンス・フリーゆえの低メンテナンスコストを具現化する。すなわち、ソフトマイクロ流路は、従来のハードマイクロ流路との比較において、イニシャル、ランニング、メンテナンスの全てに対して、圧倒的な低コストを実現する。
【0108】
また、ソフトマイクロ流路が刻まれる液体母材(液滴)も化学反応の場として機能する。たとえば、この母材に反応生成物を回収できれば、全ての母材を相分離によって一気に集めながら別の反応器に移行し、そこで反応生成物を取り出せば効率的である。また、必要に応じて、母材を反応場にしない方法もある。このように、ケースバイケースで母材(液滴)となる液体の種類を選択すれば、ソフトマイクロ流路の産業上の利用可能性はさらに高まる。
【符号の説明】
【0109】
1:液液混相発生部
2:軽液相分離部
3:重液相分離部
4:狭小通路
5:中央部位
6:釣鐘形状ノズル
7:水平部位
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9(a)】
図9(b)】
図10
図11
図12
図13(a)】
図13(b)】
図13(c)】
図14(a)】
図14(b)】
図15
図16
図17
図18
図19(a)】
図19(b)】
図20
図21
図22
図23(a)】
図23(b)】
図23(c)】
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34
図35
図36
図37
図38(a)】
図38(b)】
図38(c)】
図39(a)】
図39(b)】
図40
図41
図42
図43
図44(a)】
図44(b)】
図45
図46
図47(a)】
図47(b)】
図47(c)】
図48
図49