(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】状態推定システム及び状態推定方法
(51)【国際特許分類】
C12M 1/02 20060101AFI20241016BHJP
C12N 1/00 20060101ALI20241016BHJP
G01N 27/62 20210101ALI20241016BHJP
C12Q 1/686 20180101ALN20241016BHJP
C12Q 1/6869 20180101ALN20241016BHJP
C12M 1/34 20060101ALN20241016BHJP
【FI】
C12M1/02
C12N1/00 B
G01N27/62 B
C12Q1/686 Z
C12Q1/6869 Z
C12M1/34 D
(21)【出願番号】P 2023529621
(86)(22)【出願日】2022-03-30
(86)【国際出願番号】 JP2022016221
(87)【国際公開番号】W WO2022264640
(87)【国際公開日】2022-12-22
【審査請求日】2024-02-15
(31)【優先権主張番号】P 2021102070
(32)【優先日】2021-06-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】520495869
【氏名又は名称】エピストラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002675
【氏名又は名称】弁理士法人ドライト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小澤 陽介
(72)【発明者】
【氏名】都築 拓
【審査官】福間 信子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/031545(WO,A1)
【文献】特開2018-117567(JP,A)
【文献】国際公開第2020/039683(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/069378(WO,A1)
【文献】特開2021-043600(JP,A)
【文献】国際公開第2021/049044(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M
C12N
C12Q
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
培地と、前記培地により培養される培養物と、前記培地から抽出される培地抽出物と、前記培養物から抽出される培養抽出物と、のうち、いずれかを生体試料及び対象生体試料とし、
培養プロセスを開始する前及び/又は培養プロセスで使用している途中であるある時点における複数の前記生体試料と、前記時点における、前記生体試料と同じ種類の少なくとも1個の前記対象生体試料と、の特性を測定する測定部と、
前記測定部を介して取得した前記複数の生体試料の特性値を少なくとも含む入力データについて分布を特徴づけた特徴量抽出モデルを記憶するデータベースと、
前記特徴量抽出モデルに基づいて、
前記測定部を介して取得した前記対象生体試料の
特性値を少なくとも含む入力データから、前記培養物の培養状態を推定す
る、状態推定部と、
前記状態推定部により得られた前記培養状態の推定結果に基づいて前記培地に添加する添加物を推定する測定対象最適化推定部と、
を備
え、
前記測定部が測定する前記特性値は、質量分析装置から得られるマススペクトル、顕微鏡装置から得られる画像データ、ラマン分光装置から得られるラマンスペクトル、クロマトグラフィーから得られるクロマトグラム、デジタルPCR測定装置から得られる特定物質の量、核磁気共鳴装置から得られる分析データ、抗体定量キットから得られる特定抗原の量、及び、核酸配列決定装置から得られる遺伝子配列分析データ、のうち、いずれか1種以上であり、
前記培養状態とは、前記培養物の収量、前記培養物の品質、前記培地抽出物の収量、又は、前記培養抽出物の品質、であり、
前記測定対象最適化推定部は、前記特徴量抽出モデルにおいて状態推定空間に定義された主成分ベクトルと、複数種類の前記添加物をそれぞれ前記測定部により測定することで得られる各添加物測定ベクトルと、の類似度をそれぞれ計算し、前記主成分ベクトルと前記類似度が高い前記添加物測定ベクトルの前記添加物を推定する、
培地の状態推定システム。
【請求項2】
前記状態推定部は、
前記培養プロセスで定められた培養期間を経過し、培養を終了した前
記培養状態を推定する、
請求項
1に記載の状態推定システム。
【請求項3】
前記状態推定部は、
前記培養プロセスにより培養している培養途中の前
記培養状態を推定する、
請求項
1に記載の状態推定システム。
【請求項4】
前記測定部は、
前記培養プロセスで使用している途中の前記複数の生体試料及び前記対象生体試料の特性を時系列に測定し、
前記状態推定部は、
前記特性値が前記入力データであり、前記特性値の測定時期ごとに前記複数の生体試料の前記特性値の分布を特徴づけた前記特徴量抽出モデルに基づいて、前記特性値の測定時期ごとに前記対象生体試料の前記特性値から、前
記培養状態を推定す
る、
請求項1~
3のいずれか1項に記載の状態推定システム。
【請求項5】
前記状態推定部により得られた前記培養状態の推定結
果に基づいて、前記対象生体試料の状態を判定する判定部を有する、
請求項1~
4のいずれか1項に記載の状態推定システム。
【請求項6】
前記判定部は、
前記状態推定部により得られた前記培養状態の推定結
果に基づいて、前記対象生体試料の異常の有無を判定する、
請求項
5に記載の状態推定システム。
【請求項7】
前記状態推定部は、
前記複数の生体試料の前記特性値と、前記生体試料を用いた培養プロセスの培養条件に関する培養パラメータと、を前記入力データとして用い、前記特性値及び前記培養パラメータの分布を特徴づけた前記特徴量抽出モデルに基づいて、前記対象生体試料の前記入力データから、前記培養状態を推定す
る、
請求項1~
3のいずれか1項に記載の状態推定システム。
【請求項8】
前記状態推定部により得られた前記培養状態の推定結
果に基づいて、前記培養パラメータの適正を判定する判定部を有する、
請求項
7に記載の状態推定システム。
【請求項9】
前記状態推定部は、
前記培養物の育種のために、前記特徴量抽出モデルに基づいて前記入力データから前記培養物の培養状態を推定する、
請求項1~
8のいずれか1項に記載の状態推定システム。
【請求項10】
培地と、前記培地により培養される培養物と、前記培地から抽出される培地抽出物と、前記培養物から抽出される培養抽出物と、のうち、いずれかを生体試料及び対象生体試料とし、
培養プロセスを開始する前及び/又は培養プロセスで使用している途中であるある時点における複数の前記生体試料と、前記時点における、前記生体試料と同じ種類の少なくとも1個の前記対象生体試料と、の特性を測定部で測定する測定ステップと、
前記測定部を介して取得した前記複数の生体試料の特性値を少なくとも含む入力データについて分布を特徴づけた特徴量抽出モデルをデータベースに記憶する記憶ステップと、
前記特徴量抽出モデルに基づいて、
前記測定部を介して取得した前記対象生体試料の
特性値を少なくとも含む入力データから、前記培養物の培養状態を状態推定部により推定す
る、状態推定ステップと、
前記状態推定部により得られた前記培養状態の推定結果に基づいて前記培地に添加する添加物を推定する測定対象最適化推定ステップと、
を含
み、
前記測定部が測定する前記特性値は、質量分析装置から得られるマススペクトル、顕微鏡装置から得られる画像データ、ラマン分光装置から得られるラマンスペクトル、クロマトグラフィーから得られるクロマトグラム、デジタルPCR測定装置から得られる特定物質の量、核磁気共鳴装置から得られる分析データ、抗体定量キットから得られる特定抗原の量、及び、核酸配列決定装置から得られる遺伝子配列分析データ、のうち、いずれか1種以上であり、
前記培養状態とは、前記培養物の収量、前記培養物の品質、前記培地抽出物の収量、又は、前記培養抽出物の品質、であり、
測定対象最適化推定部が、前記特徴量抽出モデルにおいて状態推定空間に定義された主成分ベクトルと、複数種類の前記添加物をそれぞれ前記測定部により測定することで得られる各添加物測定ベクトルと、の類似度をそれぞれ計算し、前記主成分ベクトルと前記類似度が高い前記添加物測定ベクトルの前記添加物を推定する、
培地の状態推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、状態推定システム及び状態推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞培養に用いられる培地、試料及び試薬等として、天然培地等の生物由来の原材料が広く用いられるが、生物由来の原材料には、ロット差やバッチ差があることが知られている。これは、細胞培養の品質のばらつきの直接的な原因となり、バイオ生産や研究開発、検査のプロセスでは、全く同一の条件によってプロセスを実行しても、その実行結果が大きく異なるという現象が往々にして発生する。
【0003】
培地を使用して細胞培養を実施する前に、培地の状態を解析することは、培地を用いたバイオ生産や研究開発の効率を高める上で重要であり、例えば、特許文献1に示すように、分光分析法を用いて培地の成分を解析する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、分光分析法を用いて培地の成分を単に測定するだけでは、その測定結果から、培地等の生体試料を用いて最終的に所望するバイオ生産や研究開発の結果が得られるか否かを事前に判断することは難しく、実際に生体試料を用いたバイオ生産や研究開発を最後まで行い、最終的に所望する結果が得られる生体試料であるかを確認する必要がある。そのため、生体試料を用いたバイオ生産及び研究開発において所望する結果を得ることができる生体試料であるか否かの判断に時間を要することから、当該判断に要する時間を短縮化し、生体試料を用いたバイオ生産や研究開発の効率を高めることが望まれている。
【0006】
そこで、本発明は、生体試料を用いたバイオ生産及び研究開発の効率を高めることができる状態推定システム及び状態推定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る状態推定システムは、培地と、前記培地により培養される培養物と、前記培地から抽出される培地抽出物と、前記培養物から抽出される培養抽出物と、のうち、いずれかを生体試料及び対象生体試料とし、ある時点における複数の前記生体試料と、前記時点における、前記生体試料と同じ種類の少なくとも1個の前記対象生体試料と、の特性を測定する測定部と、前記測定部を介して取得した前記複数の生体試料の特性値を少なくとも含む入力データについて分布を特徴づけた特徴量抽出モデルを記憶するデータベースと、前記特徴量抽出モデルに基づいて、前記対象生体試料の前記入力データから、前記培養物の培養状態を推定するか、又は、前記培養物が予め定めた培養状態となる培養時間を推定する状態推定部と、を備える。
【0008】
また、本発明に係る状態推定方法は、培地と、前記培地により培養される培養物と、前記培地から抽出される培地抽出物と、前記培養物から抽出される培養抽出物と、のうち、いずれかを生体試料及び対象生体試料とし、ある時点における複数の前記生体試料と、前記時点における、前記生体試料と同じ種類の少なくとも1個の前記対象生体試料と、の特性を測定部で測定する測定ステップと、前記測定部を介して取得した前記複数の生体試料の特性値を少なくとも含む入力データについて分布を特徴づけた特徴量抽出モデルをデータベースに記憶する記憶ステップと、前記特徴量抽出モデルに基づいて、前記対象生体試料の前記入力データから、前記培養物の培養状態を状態推定部により推定するか、又は、前記培養物が予め定めた培養状態となる培養時間を状態推定部により推定する状態推定ステップと、を含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、対象生体試料を用いたバイオ生産及び研究開発において所望する培養状態を得ることができるか否かを、事前に推定できるので、この推定結果を目安にして、対象生体試料の適正判断に要する時間を短縮化し得る。これにより、生体試料を用いたバイオ生産や研究開発の効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】状態推定システムの構成を示すブロック図である。
【
図2】培地の特性の測定時期と、培養物の培養状態の測定時期とを説明するための概略図である。
【
図3】質量分析装置から得られたマススペクトルの例と、当該マススペクトルから生成した測定ベクトルの例と、を示すグラフである。
【
図4】各サンプルを用いて大腸菌を培養したときの培養結果を示した表である。
【
図5】他のサンプルを用いて大腸菌を培養したときの培養結果と、状態推定システムにより予測した状態推定結果とを示した表である。
【
図6】実際の培養結果と、状態推定結果との関係を示すグラフである。
【
図8】添加物の測定ベクトルと主成分ベクトルとの間の内積を示す表である。
【
図10】培地の特性の測定時期に関する他の実施形態を説明するための概略図である。
【
図11】培養物の培養状態の測定時期に関する他の実施形態を説明するための概略図である。
【
図12】他の状態推定システムの構成(2)を示すブロック図である。
【
図13】培養物Aが培養によって培養物B、培養物C又は目的対象外細胞に分化誘導する例を説明するための概略図である。
【
図14】第4実施形態に係る状態推定システムの構成を示すブロック図である。
【
図15】分取部において培養物Aを選別する方法を説明するための概略図である。
【
図16】16Aは、培養物Aが培養によって培養物E又は目的対象外細胞に分化誘導する例を説明するための概略図であり、16Bは、培養物Aが培養によって培養物D又は目的対象外細胞に分化誘導し、さらに培養物Dが培養によって培養物E又は目的対象外細胞に分化誘導する例を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下図面について本発明の一実施の形態を詳述する。以下の説明において、同一の構成要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0012】
(1)第1実施形態
(1―1)状態推定システムの構成
図1は、本実施形態に係る状態推定システム1aの構成を示すブロック図である。なお、第1実施形態では、生体試料の一例として培地の例を示す。また、第1実施形態は、後述する測定部2として、質量分析装置を適用した例である。本実施形態に係る状態推定システム1aは、細胞培養実験に使用される培地の状態や培養物の培養状態を、特徴量を規定した特徴量抽出モデルに基づいて推定するものであり、測定部2と演算処理部3aとデータベース4と通知部5とを有する。
【0013】
なお、本実施形態において「培養状態」とは、例えば、培養プロセスに使用した培地に含まれる、培地単位体積あたりの培養物の収量の状態や、培養物の品質の状態を示す。培養物の収量としては、培養した培養物から抽出した培養抽出物の収量や培養した培養物が分泌した培地中の成分の収量も含まれる。培養抽出物の収量とは、例えば、培養物が大腸菌の場合、大腸菌から抽出した有用タンパク質(例えば、酵素)の収量等がある。培養した培養物が分泌した培地中の成分の収量とは、例えば、培養物がCHO細胞の場合、培地から抽出したバイオ医薬品(例えば、抗体)の収量等がある。本実施形態では、培養プロセスに使用した培地に含まれる、培地単位体積あたりの培養物の収量の状態を培養状態として主に説明する。
【0014】
なお、培養物の品質とは、培養物の機能性を示すものであり、例えば、培養物が細胞の場合、目的の疾患に対して、培養している細胞がどの程度の治療効果(機能)を持つか等を品質として指標で示したり、或いは、当該細胞の分化状態を品質として指標で示したもの等が該当する。また、生体試料の培養状態としての、培養物の品質には、培養した培養物から抽出した培養抽出物の品質や、培養した培養物が分泌した培地中の成分の品質も含まれる。培養抽出物の品質とは、例えば、培養物が大腸菌の場合、大腸菌から抽出した有用タンパク質(例えば、酵素)が、どの程度反応効率が良いか(機能性があるか)を品質として指標で示したもの等がある。培養物が分泌した培地中の成分の品質とは、例えば、培養物がCHO細胞の場合、培地から抽出したバイオ医薬品(例えば、抗体)が、目的とした機能をどの程度持つか等を品質として指標で示したものが該当する。
【0015】
本実施形態に係る測定部2は、質量分析装置であり、培地を質量分析することによりマススペクトルを得る。なお、本実施形態においては、測定部として、質量分析装置を適用する場合について述べるが、本発明はこれに限らず、例えば、インピーダンスセンサや、顕微鏡装置、ラマン分光装置、クロマトグラフィー、デジタルPCR測定装置、核磁気共鳴 (Nuclear Magnetic Resonance)装置、抗体定量キット、核酸配列決定装置を測定部として適用してもよい。これらインピーダンスセンサや顕微鏡装置等を測定部として適用した例については後述する。
【0016】
ここで、測定部2としての質量分析装置は、マトリックスや溶媒等を混合した培地に、レーザ光を照射することによりイオンを生成させ、当該イオンをイオン検出器により検出して、イオン検出器からの検出信号に基づいてマススペクトルを生成する。
【0017】
質量分析装置としては、例えば、EI(Electron Ionization、電子イオン化)法、CI(Chemical Ionization、化学イオン化)法、FAB(Fast Atom Bombardment、高速原子衝撃)法、MALDI(Matrix Assisted Laser Desorption Ionization、マトリックス支援レーザ脱離イオン化)法、又は、ESI(Electro Spray Ionization、エレクトロスプレーイオン化)法等のイオン源を用いた質量分析装置を適用してもよい。また、質量分析装置としては、磁場セクター型、四重極型、イオントラップ型、又は、飛行時間型等の質量分離部(アナライザ)を用いた質量分析装置や、電子増倍管又はマイクロチャンネルプレート等のイオン検出器を用いた質量分析装置等を適用してもよい。
【0018】
本明細書において、「培地」とは、細胞、微生物又はウイルス(以下、単に培養物と称する)の育成に用いられる栄養分を含み、かつ、培養物の生育環境を提供する、培養物を培養するための培地である。本実施形態に係る培地は、各種培養物を培養するために使用される公知の培地を使用することが可能であり、培養物の種類によって適宜決定される。例えば、培地としては、緩衝溶液中に、無機塩、炭水化物、アミノ酸、ビタミン、タンパク質、ペプチド、脂肪酸、脂質、血清等を含有させたものが挙げられる。
【0019】
ここで「細胞」は、培地により培養可能なものであれば特に限定されるものではなく、例えば、昆虫細胞、動物細胞、ヒト細胞、植物細胞が挙げられ、また、心筋細胞、神経幹細胞、間葉系幹細胞、胚性幹細胞、肝細胞、角膜幹細胞、膵島細胞、腫瘍細胞、iPS細胞、ES細胞、血球細胞等が挙げられる。具体的には、293T細胞が挙げられる。「細胞」には、細胞の集合体である細胞組織も含み、例えば、人工肉、網膜組織、心筋シート、多細胞生物組織(例えば、胎児、植物等)等も含まれる。また、「微生物」は、細菌、菌類、微細藻類、原生動物、酵母等が挙げられる。「細菌」には、大腸菌、古細菌(例えば、高度高熱菌)、枯草菌、シアノバクテリア等が挙げられる。
【0020】
本明細書では、ロット差やバッチ差等に起因して成分に差がある可能性があるロット毎あるいはバッチ毎の培地をそれぞれ1つの培地と称する。このような培地が複数あるとき、すなわち、異なる複数のロットから準備された培地、あるいは異なる複数のバッチから準備された培地を、「複数の培地」と称する。
【0021】
本実施形態に係る状態推定システム1aは、例えば、複数の培地を測定部2により質量分析を行い、得られた質量分析データに基づいて特徴量抽出モデルを生成する。なお、ここで、質量分析データとは、測定部2により培地を質量分析したときに測定されるマススペクトルや、当該マススペクトルから生成された測定ベクトル(後述する)を示し、培地の特性値となり得るものである。状態推定システム1aは、その後、成分が未知の培地について測定部2で質量分析を行い、その結果得られた質量分析データと、上記の特徴量抽出モデルと、に基づいて、成分が未知の培地を用いたときの培養物の培養状態を推定することができる。このように、生成した特徴量抽出モデルを用いて、培養物の培養状態を推定する生体試料を「対象生体試料」と称する。なお、本実施形態では、生体試料の一例として培地を適用した場合について以下説明するが、生成した特徴量抽出モデルを用いて、培養物の培養状態を推定する培地を「対象培地」と称する。
【0022】
測定部2は、複数の培地に対してそれぞれ質量分析を行い、得られたマススペクトルを演算処理部3a及びデータベース4に出力する。データベース4は、測定部2から、複数の培地のマススペクトル(質量分析データ)が入力されると、各培地のマススペクトルと、当該マススペクトルを測定した日時とを対応付けて保存する。また、データベース4には、当該培地の素性(素性とは、例えば、培地の組成(スペック情報)、型番、ロット番号、製造年月日、入荷年月日、過去の使用履歴等)の情報が保存される他、培養プロセスの培養温度、培養時間、培地のpH、培地の撹拌速度等の、培養条件に関するパラメータ(以下、培養パラメータとも称する)の情報も、質量分析データに対応付けられて保存される。さらに、データベース4には、演算処理部3aにより生成された特徴量抽出モデル等の各種データも保存される。
【0023】
演算処理部3aは、状態推定部10a、判定部12及び測定対象最適化推定部14を有する。状態推定部10aは、測定部2又はデータベース4から、複数の培地のマススペクトルが入力される。
【0024】
本実施形態に係る状態推定部10aでは、ある時点において測定部2を介して得られた複数の培地の質量分析データや、当該培地を用いて培養物を実際に培養したときの培養物の培養状態の結果(以下、培養結果とも称する)を用いて、例えば、多変量解析を行い特徴量抽出モデルを生成する。このような、特徴量抽出モデルでは、培地を用いて培養物を培養したときの培養結果に影響を与える、培地の成分を解析することができる。
【0025】
特徴量抽出モデルは、教師あり学習の場合、対象培地の質量分析データを入力とし、対象培地によって培養物の培養をこのまま続けたと仮定したときに最終的に得られる将来的な培養状態の推定結果(以下、状態推定結果とも称する)を出力とする、回帰モデル等を適用することが望ましい。また、教師あり学習により特徴量抽出モデルを生成する際には、複数の培地の質量分析データと、これら培地を用いたときの培養結果と、の対応関係を学習させ、培養結果から質量分析データの分布を特徴づけることが望ましい。
【0026】
なお、その他の特徴量抽出モデルの教師あり学習としては、例えば、複数の培地の質量分析データと、これら培地を用いたときの各培養結果と、当該培養結果が所望する結果であるか否かを示す正解ラベル(例えば、所望する培養結果であるか否かを示す正解率)と、を用い、培地の質量分析データ及びその培養結果を学習させる際に正解ラベルを付して学習させ、質量分析データの分布を特徴づけるようにしてもよい。
【0027】
特徴量抽出モデルとしては、例えば、主成分分析(PCA;Principal Component Analysis)や、部分的最小二乗法(PLS;Partial Least Squares)、多項式回帰、ガウス過程回帰、Random Forest Regression等の種々の特徴量抽出モデルを適用することができる。また、特徴量抽出モデルとしては、例えば、培地の特性値(質量分析データ)及び培養結果を機械学習して生成される機械学習モデルを適用してもよい。
【0028】
機械学習モデルとしては、例えば、ニューラルネットワーク(例えば、CNN(Convolutional Neural Network:畳み込みニューラルネットワーク)や、BNN(Bayesian Neural Network:ベイズニューラルネットワーク))等を適用することができる。また、特徴量抽出モデルには、上記のような教師あり学習の他に、教師なし学習であってもよい。教師なし学習により特徴量抽出モデルを生成する場合の詳細については後述するが、教師なし学習により特徴量抽出モデルを生成する際には、複数の培地の質量分析データを用い、これら複数の質量分析データの分布を特徴づける学習をさせることが望ましい。
【0029】
判定部12は、状態推定部10aにより得られた、培養物の培養状態の推定結果(状態推定結果)に基づいて、対象培地の状態を判定するものである。本実施形態に係る判定部12は、特徴量抽出モデルにおいて主成分ベクトル(特徴量)を定義した状態推定空間に、良好な培地と不良な培地との間を段階的に識別可能な識別値を設定し、対象培地の質量分析データを、当該状態推定空間に射影し、識別値を目安に対象培地の状態を推定する(状態判定処理)。
【0030】
なお、ここでは、培地を用いて培養物を培養したときに最終的に得られた培地単位体積あたりの培養物の質量が、予め設定した所定の最適設定値(以下、良好判定値と称する)以上となる培地を「良好な培地」と称し、当該質量が当該良好判定値よりも低い所定の設定値(以下、不良判定値と称する)以下となる培地を「不良な培地」と称する。
【0031】
また、判定部12は、特徴量抽出モデルにおいて主成分ベクトルを定義した状態推定空間に異常判定の閾値を設定するようにしてもよい(異常判定処理)。これにより、判定部12は、対象培地の質量分析データを当該状態推定空間に射影することにより得られる状態推定ベクトルが、閾値を超えていなければ、良好な培養結果が得られる対象培地であると判定し、一方、閾値未満であれば、不良な培養結果が得られる対象培地であると判定し得る。
【0032】
なお、本明細書では、培地のロット差やバッチ差等に起因して、培地の特性が、求められた基準に満たない培地を異常な培地と称し、培地の特性が、求められた基準を満たす培地を正常な培地と称する。
【0033】
測定対象最適化推定部14は、状態推定部10aで得られた状態推定結果に基づいて、所望の培養状態が得られる対象培地とするために、対象培地に添加する添加物を推定する(測定対象最適化推定処理)。これにより、作業者等は、状態推定部10aにおいて所望する培養状態が得られないと推定された対象培地であっても、当該対象培地に適切な添加物を添加して、所望する培養状態が得られる対象培地に補正できる。
【0034】
測定対象最適化推定部14は、所望する培養結果を得るためにはどのような添加物を対象培地に添加すればよいかを推定すると、得られた添加物の推定結果を後述する通知部5に出力する。測定対象最適化推定部14で得られた、添加物の推定結果は、当該通知部5を介して作業者等に提示される。これにより、作業者等は、状態推定システム1aにより提示された添加物(推定添加物)を、対象培地に添加することで、性能を向上させた対象培地にて培養プロセスを実行し得、所望の培養結果を得ることを試みることできる。
【0035】
通知部5は、例えば、状態推定部10aでの状態推定結果や判定結果等を表示部に表示させて作業者等に視覚により認識させる表示装置の他、作業者等宛に電子メールを送信して当該状態推定結果や判定結果等を通知する送信装置、作業者等に当該状態推定結果や判定結果等を音声により通知する放音装置等を適用できる。なお、作業者等とは、状態推定システム1aの操作者、培養実験の実験者、又は、任意に定められた管理者等である。
【0036】
また、通知部5は、演算処理部3aによって生成された特徴量抽出モデルや、測定部2における測定結果(マススペクトルや測定ベクトル)、測定対象最適化推定部14により得られた推定添加物の結果についても、通知装置や送信装置等で作業者等にその内容を把握させ得る。
【0037】
次に、上述した、状態推定部10a、判定部12及び測定対象最適化推定部14、について順に説明する。
【0038】
(1-2)状態推定部
次に、状態推定部10aにおける状態推定処理について説明する。ここでは、一例として、PLS回帰により特徴量抽出モデルを生成する例について説明する。なお、状態推定部10aにより推定する、培養物の培養状態としては、上述したように、培養プロセスで得られる培養物の品質(機能性)でもよいが、ここでは、一例として、培養プロセスで得られる培養物の収量とした場合について主に説明する。
【0039】
ここで、
図2は、状態推定部10aにより特徴量抽出モデルを生成するにあたり取得する、複数の培地の質量分析データと、培養物の培養状態と、を測定する時期を示した概略図である。
図2においてSは培養プロセスの開始時期を示し、Fは培養プロセスで予め定められた培養期間を経過した終了時期を示す。なお、「培養プロセスの開示時期S」とは、所定の培養パラメータを定めた培養条件で培地により培養物を培養し始めたときを示し、「培養プロセスの終了時期F」とは、当該培地による培養物の培養を終えたときを示す。本実施形態に係る状態推定システム1aでは、
図2に示すように、培養プロセスの開始前(開示時期S前)に、複数の培地の質量分析データを、測定部2を介して取得する(Sa1)。また、状態推定システム1aでは、培養プロセスの終了後(終了時期F後)に、各培地によって培養物をそれぞれ実際に培養した後の培養物の収量を調べ、当該培養物の培養状態を測定する(Fa1)。
【0040】
状態推定部10aでは、このようにして得られた、培養プロセスの開始前(培養使用前)の培地における質量分析データと、培養プロセスの終了後(培養使用後)の培地に含まれる培養物の収量(すなわち、培養結果)と、の間の関連性を特徴づけて、成分が未知の培養使用前の対象培地について測定した質量分析データから、当該対象培地を培養プロセスに用いた際に将来的に得られる培養物の収量(培養物の培養状態)を推定するものである。これにより、培養プロセスを開始する前に、所望する培養状態が得られる対象培地であるか否かを推定し得る。
【0041】
このように、対象培地を培養プロセスに用いた際に培養物がどのような培養状態になるかを、培養プロセスを開始する前に予め推定することは、例えば、バイオ医薬品製造等のように、初期培地にロット差等によるばらつきがあるような場合において、培養プロセスの成否をいち早く検知するために重要なものとなる。また、培地を起因とした培養失敗の原因を予め特定し、その内容に応じて、所望する培養結果が得られるように培地を補正する等の対応を図ることで、歩留まりと品質とを安定化させることができる。さらに、状態推定システム1aで得られた状態推定結果を利用することで、培養が失敗することを未然に抑制できることから、培養の失敗による多大な経済的ダメージが生じることを防止できる。
【0042】
本実施形態では、例えば、酵母抽出物を添加した培地を用いて、培養物として大腸菌を培養する例について説明する。このような大腸菌の培養においては、同じ培地に対してそれぞれ酵母抽出物を同量加えても、酵母抽出物のロットに依存して、大腸菌の増殖性能に差があることがある。
【0043】
この場合、状態推定システム1aでは、異なる酵母抽出物を添加した各培地の質量分析データと、これら異なる酵母抽出物を添加した培地を用いてそれぞれ大腸菌を培養したときの培養結果と、の間の関連性を発見し、これら培地間の機能の差を明確に検知できるように、特徴量抽出モデルを構築する。状態推定システム1aでは、このような特徴量抽出モデルを利用することで、成分が未知の対象培地について、大腸菌の増殖性能と関連のある、培地内の酵母抽出物の状態を推定することができる。
【0044】
本実施形態では、例えば、異なる複数のロットから複数種類の酵母抽出物水溶液(培地)について測定部2により質量分析を行い、各酵母抽出物水溶液に関する質量分析のマススペクトルを得る。
図3の3A、3B及び3Cは、異なる種類の培地(酵母抽出物水溶液)をそれぞれ質量分析して得られたマススペクトルの一例を示す。
【0045】
図3の3A、3B及び3Cでは、横軸をm/zとし、縦軸を信号強度としている。横軸のm/zは、質量分析装置の一次的な測定結果から直接読み取ることのできる測定値であり、一般的には「イオンの質量を統一原子質量単位(=ダルトン)で割って得られた無次元量をさらにイオンの電荷数の絶対値で割って得られる無次元量」と定義されている。マススペクトルにおけるピーク強度は、分析対象物(培地)のイオン化により生成した各m/zを持つイオンの量に対応する。
【0046】
本実施形態に係る状態推定部10aは、質量分析によるマススペクトルを測定部2又はデータベース4から受け取ると、マススペクトルに対して標準化と粗視化とを行い、信号強度の情報量を減らした測定ベクトルを生成する。具体的には、標準化として、マススペクトルの信号強度の最大ピーク強度が100となるように各ピーク強度を補正する。また、粗視化として、マススペクトルの横軸m/zを所定次元(ここでは30次元)に分割して、次元毎に信号強度の平均を取り、最大ピーク強度100に対するピーク強度を次元毎に示した測定ベクトルを得る。本実施形態では、マススペクトルから得られた測定ベクトルが、質量分析データであり、対象培地の特性値として用いる。
【0047】
図3の3D、3E及び3Fは、測定ベクトルの例を示したものであり、3Dは、3Aのマススペクトルから生成した測定ベクトルを示し、3Eは、3Bのマススペクトルから生成した測定ベクトルを示し、3Fは、3Cのマススペクトルから生成した測定ベクトルを示す。
【0048】
なお、
図3の3D、3E及び3Fでは、質量分析によるマススペクトルの横軸m/zを所定次元数に分割し、次元毎に信号強度の最大ピーク強度を100として規定し、各次元内でそれぞれ最大値と最小値とを減算して、最大ピーク強度100に対するピーク強度を次元毎に求めた例を示している。
【0049】
データベース4には、状態推定部10aにより生成された測定ベクトルも保存される。また、データベース4には、例えば、培養結果として、
図4に示すように、実際に培地を使用して培養物である大腸菌を培養したときの最終的な培養結果が保存されている。
図4では、培養結果を得た培地をサンプル0,1,2,…と表記し、各培地毎にそれぞれ実際の培養結果を示している。また、
図4に示す「train」は、データの属性が、特徴量抽出モデルを生成するためのサンプルデータであることを示すものである。
【0050】
この場合、各培地を用いて、同一の大腸菌の培養を実際にそれぞれ行い、大腸菌の培養後の培養液から大腸菌を回収して、培地単位体積あたりの大腸菌の乾燥質量(以下、単に質量又は収量とも称する)(g/L)を測定して培養結果を得る。このようにして得られた、各培地を用いて大腸菌をそれぞれ実際に培養したときの培養結果(実態結果)が、各培地の測定ベクトルと対応付けてデータベース4に保存される。
【0051】
状態推定部10aは、複数の培地の測定ベクトル(すなわち、質量分析データであり培地の特性値)を説明変数とし、各培地を用いて大腸菌(培養物)をそれぞれ培養したときに最終的に培養結果として得られた、培地単位体積あたりの大腸菌の質量(収量)(g/L)を目的変数としてPLS回帰を行う。PLS回帰は、測定ベクトルにおける物質含有量と、大腸菌の収量との間の共分散を最大化するように、測定ベクトルの主成分ベクトル(基底)を選定する手法である。
【0052】
これにより、状態推定部10aは、培地単位体積あたりの大腸菌の収量が大きく良好な培養結果を得る、という目的に対して、関連性の高い多次元(例えば、30次元)の主成分ベクトル(教師あり基底)を抽出して特徴量抽出モデルを得る。特徴量抽出モデルでは、得られた主成分ベクトルに基づいて、培養結果の違いに最も寄与した培地の成分を特定することができる。
【0053】
次に、このように、培地の質量分析データの分布を特徴づけた特徴量抽出モデルを利用して、成分が未知の対象培地内の酵母抽出物の状態を推定する場合について説明する。状態推定システム1aでは、状態を推定したい、成分が未知の対象培地について、培養プロセスの開始前に、測定部2で質量分析を行い、マススペクトルを得る。状態推定部10aは、状態を推定したい対象培地のマススペクトルから質量分析データとして測定ベクトルを生成する。状態推定部10aは、得られた測定ベクトルを、特徴量抽出モデルの状態推定空間に定義した主成分ベクトルに対して正規化して射影することで、対象培地に関する状態推定ベクトル(以下、状態推定結果とも称する)を得る。
【0054】
状態推定結果である状態推定ベクトルの値は、各酵母抽出物を用いて培養を行ったとしたときに予測される、培養液単位体積あたりの大腸菌の質量(すなわち、培養プロセスの終了後における培養物の培養状態)を示しており、状態推定ベクトルが正の方向に向かえば向かうほど、培養結果として期待される大腸菌の収量が大きくなることを示すものである。
【0055】
このように、状態推定部10aは、成分が未知の対象培地に対して大まかに、将来的にその対象培地で大腸菌を培養したときに想定される、大腸菌の収量の推定値(以下、状態推定結果とも称する)を出力することができる。
【0056】
なお、状態推定部10aで得られた状態推定結果は、データベース4に保存されるとともに、通知部5を介して作業者等に提示される。このように、状態推定システム1aでは、状態推定部10aにより出力した状態推定結果を、後述する判定部12による、対象培地の状態判定を行わずに、直接、通知部5を介して作業者等に提示することもできる。かくして、状態推定システム1aでは、培養物の培養状態を推定した状態推定結果に基づいて、良好な培養結果が得られる対象培地であるか否かを、作業者等が当該対象培地を実際に培養に用いる前に推定させることができる。
【0057】
ここで、
図5は、成分が異なる5種類の対象培地(酵母抽出物水溶液)を用いて、同一の大腸菌の培養を実際にそれぞれ行い、大腸菌の培養後の培養液から大腸菌を回収して、培地単位体積あたりの大腸菌の乾燥質量(g/L)を測定した、実際の培養結果(実験結果)と、上述した状態推定システム1aにおいて事前に生成した特徴量抽出モデルを用いて、5種類の対象培地の各測定ベクトルから求めた状態推定結果(培養使用後の対象培地に含まれる培地単位体積あたりの大腸菌の推定収量結果)と、を示した表である。
【0058】
なお、
図5では、未知の成分の対象培地をサンプル0,1,2,3,4と表記している。また、
図5に示す「test」は、データの属性が、生成した特徴量抽出モデルを用いて、未知の成分の対象培地を解析するためのサンプルデータであることを示すものである。
【0059】
図5に示すように、状態推定システム1aにより得られた状態推定結果は、実際の培養結果に近いものであることから、これら状態推定結果を作業者等に提示することにより、作業者等に対して、実際に対象培地を用いた培養プロセスを行わせることなく、対象培地を使用したときに得られるであろう培養結果を予測させることができる。
【0060】
なお、
図6は、
図5に示した、状態推定結果と、参考のために掲載した実際の培養結果(実態結果)との関係を示したグラフである。
図6の横軸は実際の培養結果(実態結果)を示し、縦軸は状態推定結果を示す。
図6からも、大まかな傾向として、状態推定システム1aにおいて得られた状態推定結果は、実際の培養結果を予測できていることが示されている。
【0061】
(1-3)判定部
次に、判定部12における判定処理について説明する。判定部12は、状態推定部10aにより得られた状態推定結果に基づいて、対象培地の状態を判定するものである。
【0062】
判定部12における判定処理としては、培養使用前の対象培地について後述する異常判定を行わずに、対象培地の状態が培養物を培養するのに適した状態にあるかを単に段階的に判定した状態判定処理と、培養使用前の対象培地について培養物を培養するのに適しない異常な状態にあるか否かを判定する異常判定処理と、がある。
【0063】
判定部12は、状態判定処理を行う場合、状態判定処理に先立って、特徴量抽出モデルにおいて特徴量として主成分ベクトル(教師あり基底)を定義した状態推定空間に、良好な培地と不良な培地との間を段階的に識別可能な識別値を設定する。また、この識別値には、例えば、培養物の培養に培地を使用した際に得られる培養結果を基準に、培地の状態について良好度を段階的に表した識別表示を対応付けるようにしてもよい。
【0064】
なお、状態推定空間に対する識別値の設定は、作業者等によって任意に数値設定してもよく、状態推定空間に定義された主成分ベクトルを、所定間隔で自動的に区分けしてゆき、識別値を自動的に設定してもよい。判定部12は、対象培地の質量分析データ(測定ベクトル)を状態推定空間に射影して得られた状態推定ベクトルの値と、識別値とから、対象培地の状態を判定する。
【0065】
判定部12は、特徴量抽出モデルの状態推定空間に、ある異常判定のためのルールに基づいて、当該異常判定の閾値を設定するようにしてもよい。この場合、閾値の設定は、作業者等によって、所望する培養結果を考慮して状態推定空間に設定するようにしてもよい。例えば、閾値を超えていなければ基準値以上の良好な培養結果が得られ、閾値を超えると基準値未満の不良な培養結果となるように、閾値の設定がなされる。
【0066】
判定部12は、対象培地の質量分析データを、主成分ベクトルを定義した状態推定空間に射影して得られた状態推定ベクトルの値と、閾値とから、対象培地の異常の有無を判定する。また、上記の閾値を複数段階で区分するように設定することで、対象培地の異常の程度を判定するようにしてもよい。
【0067】
通知部5は、状態判定処理による対象培地の判定結果が入力されることで、培養使用前の対象培地の状態を識別値に基づいて判定した判定結果を、作業者等に通知する。また、通知部5は、異常判定処理による異常の有無、又は、異常の程度の判定結果が入力されることで、異常の有無又は異常の程度を、作業者等に通知する。
【0068】
なお、例えば、異常ありの場合、通知部5から、対象培地の特性値及びエラーコード等を含む、異常があることを示す情報を作業者等に通知するようにしてもよく、異常なしの場合、異常なしの通知を通知部5から作業者等に通知するようにしてもよい。また、特に異常があったときにのみ作業者等への通知を行うようにしてもよく、また、異常がある場合にのみ点灯するような表示部を設けて異常があったときにのみ表示するようにしてもよい。
【0069】
(1-4)測定対象最適化推定部
次に、測定対象最適化推定部14における測定対象最適化推定処理について説明する。測定対象最適化推定部14は、状態推定部10aにおいて、培養プロセスの開始前の対象培地の質量分析データから、特徴量抽出モデルに基づいて培養物の培養状態の推定結果(状態推定結果)が得られると、状態推定部10aから当該状態推定結果を受け取る。測定対象最適化推定部14は、状態推定部10aで得られた状態推定結果を解析し、培養使用前の対象培地に添加することで、培養使用後の対象培地に含まれる培地単位体積あたりの培養物の収量を最大化できる、添加物を推定する。測定対象最適化推定部14は、作業者等に対して、推定した当該添加物(推定添加物とも称する)を対象培地に添加させることによって、培養プロセスに用いる対象培地の成分を補正させるものである。
【0070】
なお、本実施形態では、対象培地の成分を補正する添加物として、培養使用後の対象培地に含まれる培地単位体積あたりの培養物の収量を最大化させる添加物を一例に説明するが、本発明はこれに限らない。例えば、培養使用後の対象培地に含まれる培養物の品質を改善(例えば、培養物を所望する分化状態にする等)させる添加物であってもよい。
【0071】
このように、本実施形態では、適切な種類の添加物を対象培地に加えることで対象培地の組成を変え、実際に対象培地を培養プロセスに用いる前に、培養使用後の対象培地に含まれる培地単位体積あたりの培養物の収量(培養状態)を改善させることができる。
【0072】
ここでは、予め選定した3種類の添加物のうち、いずれか1種の添加物を対象培地に添加することにより培養状態を改善させる場合について説明する。この場合、状態推定システム1aは、3種類の添加物について測定部2により質量分析を行い、マススペクトルを得、状態推定部10aにより当該マススペクトルの情報量を減らした添加物測定ベクトルを取得する。
【0073】
図7は、3種類の添加物に関する添加物測定ベクトルの例を示すグラフであり、
図7の7Aは第1の添加物の添加物測定ベクトルを示し、
図7の7Bは第2の添加物の添加物測定ベクトルを示し、
図7の7Cは第3の添加物の添加物測定ベクトルを示す。状態推定部10aにて得られた3種類の添加物測定ベクトルはデータベース4に保存される。
【0074】
測定対象最適化推定部14は、複数種類の添加物に関する質量分析データである添加物測定ベクトルと、特徴量抽出モデルにおいて状態推定空間に定義された主成分ベクトルとの関連性(類似度)を計算する。測定対象最適化推定部14は、3種類の添加物の中から、特徴量抽出モデルの基底と関連性が最も大きい添加物測定ベクトルの添加物を、対象培地に添加する最適な添加物として推定する。このように、特徴量抽出モデルの基底と関連性が最も大きい添加物測定ベクトルの添加物を、培養使用前の対象培地に添加させることにより、培養結果を改善させることができる。
【0075】
ここで、特徴量抽出モデルの基底と関連性が大きい添加物測定ベクトルの添加物とは、特徴量抽出モデルにおいて状態推定空間に定義された主成分ベクトルと類似度が高い添加物測定ベクトルを有する添加物である。本実施形態において、特徴量抽出モデルの主成分ベクトルと添加物測定ベクトルとの類似度は、特徴量抽出モデルの主成分ベクトルと添加物測定ベクトルとの間の内積を算出することにより求める。
【0076】
なお、特徴量抽出モデルに複数の主成分ベクトルがある場合には、例えば、固有値が最も大きい主成分ベクトルを選定し、選定した主成分ベクトルと添加物測定ベクトルとの間の内積を算出するようにしてもよい。また、主成分ベクトル毎に添加物測定ベクトルとの内積を算出し、算出した内積を加算した合算値を求めるようにしてもよい。この場合、添加物測定ベクトル毎に求めた合算値のうち、最も大きい値の合算値の添加物を補正候補の添加物として選定する。
【0077】
図8は、特徴量抽出モデルの主成分ベクトルと3種類の添加物測定ベクトルとの間の内積の一例をまとめた表である。
図8では、第1の添加物を「additive0」と表記し、第2の添加物を「additive1」と表記し、第3の添加物を「additive2」と表記している。ここでは、第3の添加物「additive2」が、特徴量抽出モデルの主成分ベクトルとの間の内積が最も大きく、特徴量抽出モデルの主成分ベクトルと関連性が最も大きい添加物測定ベクトルを有する。
【0078】
このように、測定対象最適化推定部14は、特徴量抽出モデルの主成分ベクトルと添加物測定ベクトルとの類似度として、特徴量抽出モデルの主成分ベクトルと添加物測定ベクトルとの間の内積を算出し、当該内積が最も大きい添加物を選択する。測定対象最適化推定部14は、当該選択した添加物を補正候補の添加物としてその名称等の添加物情報を通知部5に出力する。通知部5は、測定対象最適化推定部14から受け取った添加物情報を表示等することによりその内容を作業者等に通知する。
【0079】
ここで、
図9は、
図5に示した5種類の対象培地(サンプル0~4)に、
図7に示す添加物測定ベクトルを有する3種類の添加物を添加して、それぞれ添加物で組成を補正した対象培地を用いて実際に大腸菌を培養し、培養使用後の各対象培地に含まれる培地単位体積あたりの大腸菌の収量の結果の一例を示すものである。
【0080】
図9の属性は、サンプルとして用意した各対象培地に添加物を添加して成分を補正したものであることを示し、例えば、「corrected(additive2)」は、第3の添加物をサンプルに添加したものであることを示し、「corrected(additive1)」は、第2の添加物をサンプルに添加したものであることを示し、「corrected(additive0)」は、第1の添加物をサンプルに添加したものであることを示す。
【0081】
この例では、特徴量抽出モデルの主成分ベクトルと関連性が最も大きい添加物測定ベクトルを有する第3の添加物(additive2)を対象培地に添加することで、培養使用後の各対象培地に含まれる培地単位体積あたりの大腸菌の収量が増えて、改善幅が他の添加物よりも大きくなっている。
【0082】
以上のように、状態推定システム1aでは、状態推定部10aにおいて対象培地では所望する培養状態が得られないと推定されても、最適な添加物を当該対象培地に添加させて培養状態を改善できる補正手法を、作業者等に対して提示し得る。これにより、作業者は、測定対象最適化推定部14で推定した最適な添加物を、対象培地に添加することで、性能を向上させた対象培地にて培養プロセスを実行し得、所望の培養状態を得ることができる。
【0083】
なお、上述した実施形態では、特徴量抽出モデルにおいて状態推定空間に定義された主成分ベクトルと、複数種類の添加物測定ベクトルと、の類似度をそれぞれ計算し、当該主成分ベクトルと類似度が高い添加物測定ベクトルの添加物を測定対象最適化推定部14により特定する場合について説明したが、本発明はこれに限らない。例えば、状態推定部10aにより得られるであろう培養状態の推定結果に対して1つ又は複数の添加物の情報を予め対応付けておき、特徴量抽出モデルに基づいて対象培地の質量分析データから培養状態の推定結果が得られると、当該推定結果に予め対応付けた1つ又は複数の添加物を、対象培地に添加する最適な添加物として推定するようにしてもよい。
【0084】
(1-5)作用及び効果
以上の構成において、状態推定システム1aは、複数の培地及び少なくとも1個の対象培地の質量分析データを特性値(入力データ)として測定する測定部2と、複数の培地の特性値(入力データ)の分布を特徴づける特徴量抽出モデルに基づいて、対象培地の特性値から、培養物の培養状態を推定する状態推定部10aと、を設けるようにした。このように、状態推定システム1aでは、対象培地を用いたバイオ生産及び研究開発において所望する培養状態を得ることができるか否かを、事前に推定できるので、対象培地の適正判断に要する時間を短縮化し得る。これにより、培地を用いたバイオ生産や研究開発の効率を高めることができる。
【0085】
(1-6)教師なしによる特徴量抽出モデルの生成
上述した実施形態においては、複数の生体試料の特性値(質量分析データ)の分布を特徴づける特徴量抽出モデルとして、培地単位体積あたりの培養物の収量が大きく良好な培養状態を得る、という目的に対して、関連性の高い多次元(例えば、30次元)の主成分ベクトル(教師あり基底)を抽出して特徴量抽出モデルを得る場合について説明した。
【0086】
ここでは、例えば、複数の培地の質量分析データを用いてPCA(主成分分析)処理を行い、質量分析データの分布を特徴づける多次元の主成分ベクトル(教師なし基底)を抽出して特徴量抽出モデルを得る状態推定システム1aについて説明する。なお、特徴量抽出モデルに基づいて得られた状態推定結果を利用し、測定対象最適化推定部14にて行われる測定対象最適化推定処理については、上述した実施形態と同じであるため、ここではその説明は省略する。
【0087】
この場合、測定部2によって複数の培地の質量分析を行い、得られた複数の質量分析データを用いて、例えば、多変量解析を行い、培地間の差を明確に検知できるような特徴量抽出モデルを構築する。具体的には、状態推定部10aは、質量分析によるマススペクトルを測定部2又はデータベース4から受け取ると、マススペクトルに対して標準化と粗視化とを行い、信号強度の情報量を減らした測定ベクトルを、質量分析データとして生成する。状態推定部10aは、複数の培地の測定ベクトルに対してPCA処理を行うことで、質量分析データの分布を特徴づける主成分ベクトル(教師なし基底)を特徴量として抽出して特徴量抽出モデルを生成する。
【0088】
状態推定システム1aでは、その後、成分が未知の対象培地の質量分析データを得ると、この対象培地の質量分析データと特徴量抽出モデルとに基づいて、成分が未知の対象培地が、過去の培地と比較してどの培地と類似性が高いのか推定することができる。
【0089】
このように、PCA処理により生成した特徴量抽出モデルにおいても、判定部12において、ある異常判定のためのルールに基づいて、特徴量抽出モデルの状態推定空間に異常判定の閾値を設定することができる。この場合、閾値は、主成分ベクトルを定義した状態推定空間に複数の培地の各質量分析データを射影した時、単にその分布に関連する量として定義づけられる。
【0090】
例えば、質量分析データを基に抽出された複数の主成分ベクトルを定義した状態推定空間に、各培地の質量分析データを射影した時の点群の平均をμとしたとき、異常の閾値は当該μからの、マハラノビス距離に関連する量として与えることができる。
【0091】
具体的には、例えば、質量分析データを射影した点群を正常群と異常群とに分類して、正常群の質量分析データをある1次元空間に射影してその分布を正規分布に近似したときの分布の平均値をμ、正規分布の標準偏差の絶対値をσとしたとき、μ±3σを閾値に設定することができる。すなわち、ある培地の質量分析データを上記1次元空間に射影し、その座標が、μから3σ以上離れていた時は、その培地は異常と判断されるように閾値を設定することができる。
【0092】
判定部12は、前記設定した閾値と、状態推定部10aから取得した、対象培地の質量分析データを、状態推定空間内に射影したときの座標xと、を用いて、異常の有無の判別を行う。一例としては、上記座標xと、上記正常群の分布の平均値μの間の距離が、上記正常群の分布のマハラノビス距離に換算して3以上離れていた場合、異常ありと判定する。そうでなければ異常なしと判定する。
【0093】
また、上記の閾値を複数段階で区分するように設定することで、対象培地の異常の程度を判定するようにしてもよい。一例としては、上記座標xと上記正常群の分布の平均値μとの間の距離が、上記正常群の分布のマハラノビス距離に換算して2以上3未満であった場合は異常の程度が小さいと判定し、3以上であった場合には異常の程度が大きいと判定するようにしても良い。判定部12は、対象培地の異常の有無又は異常の程度の判定結果を出力する。
【0094】
(1-7)生体試料の特性の測定時期に関する他の実施形態
(1-7-1)培養プロセス開始後の培養プロセス中における、培地の特性を測定する場合
上述した実施形態においては、培養プロセスを開始する前に、測定部2によって培地の質量分析を行い、質量分析データを得る場合について説明したが、本発明はこれに限らない。上述した実施形態において、例えば、
図10の10Aに示すように、培養プロセスを開始した後、培養プロセスで使用している途中の培地について測定部2により質量分析を行い、質量分析データを得るようにしてもよい。
【0095】
この場合、状態推定システム1aでは、
図10の10Aに示すように、培養プロセスを行っている途中の、ある時点Sa2(
図10のSは、
図2と同様、培養プロセスの開示時期を示す)において、測定部2によって複数の培地の質量分析を行い、質量分析データを取得する。このようにして、状態推定システム1aでは、培養プロセスにより現在、培養物を培養している複数の培地に関して、培養開始から所定期間を経過したある時点Sa2における質量分析データが蓄積されてゆく。
【0096】
そして、所定の培養プロセスにおいて、当初予定していた培養期間の終了時期まで培養物を培養し、各培地による培養物の培養を終了すると、培地に含まれている培養終了後の培養物を回収し、培養プロセスによって培養し終えた培養物の収量を測定する(Fa1)。このようにして、培養後の培養物の状態をそれぞれ測定し、培地毎に実際の培養結果を得る。
【0097】
状態推定システム1aでは、培地毎に得られた培養物の収量(実際の培養結果)が作業者等によって入力されると、当該培養状態の結果をデータベース4に保存する。この際、データベース4には、培養プロセス中のある時点Sa2で測定された各培地の質量分析データに、その培地により得られた最終的な培養結果が対応付けられて保存される。
【0098】
この実施形態に係る状態推定部10aでは、培養プロセス中のある時点Sa2で測定された各培地の質量分析データと、その培地により得られた最終的な培養状態とをサンプルデータとしてデータベース4から読み出して特徴量抽出モデルを生成する。
【0099】
この特徴量抽出モデルは、所定の培養プロセスによって培養物の培養を開始してからある時点Sa2(例えば、培養開始から10日目)における対象培地の質量分析データを入力とし、当該対象培地によって培養物の培養をこのまま続けたと仮定したときに最終的に得られる将来的な培養状態の推定値を出力とする。
【0100】
なお、ここでの特徴量抽出モデルとしては、上述した実施形態と同様に、例えば、PCAや、PLS、多項式回帰、ガウス過程回帰、Random Forest Regression等の種々の特徴量抽出モデル、培養途中の培地の特性値(質量分析データ)及びその培養結果を機械学習して生成される特徴量抽出モデル等を適用することができる。教師あり学習により特徴量抽出モデルを生成する際には、複数の培地の質量分析データと、これら培地を用いたときの培養結果と、の対応関係を学習させ、培養結果から質量分析データの分布を特徴づけることが望ましい。
【0101】
例えば、教師あり学習の場合、状態推定部10aでは、培養プロセスにより培養物を培養している途中の培地の質量分析データを説明変数とし、この培養プロセスで得られた実際の最終的な培養状態(培養終了時に当該培地に含まれる培養物の収量)を目的変数として、質量分析データと培養状態との間の相関や逆相関等の特徴ある関係性を示した特徴量抽出モデルを予め生成しておく。
【0102】
また、この場合も、特徴量抽出モデルとしては、上述したように、教師あり学習の他に、教師なし学習を適用してもよい。教師なし学習により特徴量抽出モデルを生成する際には、複数の培地の質量分析データのみを用い、これら複数の質量分析データの分布を特徴づける学習をさせることが望ましい。
【0103】
これにより、状態推定システム1aでは、その後、培養結果が未知の対象培地を用いて培養プロセスを行っている途中に、特徴量抽出モデルを利用して、対象培地により最終的に得られるであろう将来的な培養結果を、培養プロセスを終える前に培養途中で推定することが可能となる。
【0104】
例えば、細胞培養を分化誘導し、目的の細胞を得る一連の培養プロセスでは目的の細胞を得るまでに長い時間が必要となる。特に未分化のヒト幹細胞を分化誘導し、目的の細胞を得る一連の培養プロセスは通常約3ヶ月以上もの時間がかかる。このような培養プロセスにおいて、例えば、培地の成分や培養温度等の各種パラメータを逐次最適化して最適な培養結果(すなわち、目的の細胞)を得ようとする際、培養プロセスの終了を待って、得られた実際の培養結果を解析してその都度次のパラメータ(用いる培地の成分や培養温度等)を決定する方式が考えられる。
【0105】
しかしながら、この方式では、例えば、培養開始から培養終了までの培養プロセスの1サイクルが約3ヶ月の場合、1年間に高々4サイクル程度しか行うことができず、4サイクルで培養プロセスの各パラメータを試行錯誤することになると時間効率が悪い。
【0106】
これに対して、この実施形態に係る状態推定システム1aでは、特徴量抽出モデルに基づいて、培養プロセスの途中で対象培地により最終的に得られるであろう培養状態の推定結果が得られることから、当該推定結果を培養途中で作業者等に提示することにより、培養プロセスの終了を待たずに、得られた推定結果をもとに培養プロセスの各種パラメータ(用いる培地の成分や培養温度等)を必要に応じて変更し、新たな培養プロセスを行わせることができる。このように、培養プロセスの終了を待たずに、現在行っている培養プロセスの途中で、所望の培養結果が得られるように培養プロセスのパラメータを試行錯誤した新たな培養プロセスを開始し得、時間効率よくパラメータ最適化を進めることができる。
【0107】
なお、上述した「(1-2)状態推定部」は、培養プロセスの開始前の培地の質量分析データを用いているが、当該質量分析データを、培養プロセスの途中で得られた培地の質量分析データに置き換えることで、この実施形態においても適用することができる。また、同様に、「(1-3)判定部」及び「(1-4)測定対象最適化推定部」についても、培養プロセスの開始前の培地の質量分析データを、培養プロセスの途中で得られた培地の質量分析データに置き換えて適用することもできる。
【0108】
例えば、判定部12は、状態推定部10aにおいて、培養プロセス中の培地の質量分析データから得られた状態推定結果に基づいて、対象培地の状態を判定する。また、測定対象最適化推定部14は、状態推定部10aにおいて、培養プロセス中の培地の質量分析データから得られた状態推定結果に基づいて、所望の培養状態が得られる対象培地とするために、対象培地に添加する添加物を推定する(測定対象最適化推定処理)。
【0109】
(1-7-2)培養プロセス中に培地の特性を複数回測定する場合
上述した実施形態においては、培養プロセスを開始する前、及び、培養プロセス中のいずれかに、測定部2によって培地の質量分析を行い、質量分析データを得る場合について説明したが、本発明はこれに限らない。上述した実施形態では、例えば、
図10の10Bに示すように、培養プロセスを開始する前のある時点Sa1と、培養プロセス中のある時点Sa2,Sa3とにおいて、それぞれ培地について測定部2により質量分析を行い、質量分析データを複数回得るようにしてもよい。また、培養プロセスを開始する前に測定部2によって培地の質量分析を行わずに、培養プロセス中のある時点Sa2,Sa3でのみそれぞれ培地について測定部2により質量分析を行い、質量分析データを複数回得るようにしてもよい。すなわち、培養プロセスの開始から10日目の培地の質量分析データと、培養プロセスの開始から20日目の培地の質量分析データ等、培養開始から、時系列にある間隔で複数回、培地の質量分析データを測定するようにしてもよい。
【0110】
この場合、状態推定システム1aでは、
図10の10Bに示すように、培養プロセスを開始する前のある時点Sa1と、培養プロセスを行っている途中のある時点Sa2,Sa3とにおいて、それぞれ測定部2によって複数の培地の質量分析を行い、質量分析データを取得する。また、状態推定システム1aでは、培養プロセスの終了後に、各培地によってそれぞれ実際に培養した後の培養物の培養状態(培養物の収量や品質)を測定する(Fa1)。
【0111】
状態推定部10aでは、このようにして得られた、培養プロセスの開始前のある時点Sa1の培地における質量分析データと、培養プロセスの開始後のある時点Sa2,Sa3の培地における各質量分析データと、に基づいてそれぞれ別々に特徴量抽出モデルを生成する。すなわち、状態推定部10aは、例えば、教師あり学習の場合、培養プロセスの開始前の培地における質量分析データを説明変数とし、培養プロセスの終了後(培養使用後)の培地に含まれる培養物の培養状態を目的変数として、質量分析データと培養状態との間の関連性を示す特徴量抽出モデルを生成する。状態推定部10aは、その後、成分が未知の対象培地について培養プロセスの開始前に測定した質量分析データを得ると、この質量分析データから、当該特徴量抽出モデルに基づいて、当該対象培地を培養プロセスに用いた際に将来的に得られる培養物の培養状態(培養物の収量や品質)を推定する。
【0112】
また、状態推定部10aは、同様にして、培養プロセスの開始後のある時点Sa2の培地における各質量分析データと、培養プロセスの終了後(培養使用後)の培地に含まれる培養物の培養状態と、の間の関連性を示す特徴量抽出モデルを生成し、同様に、培養プロセスの開始後のある時点Sa3の培地における各質量分析データと、培養プロセスの終了後(培養使用後)の培地に含まれる培養物の培養状態と、の間の関連性を示す特徴量抽出モデルを生成する。状態推定部10aは、成分が未知の培養使用中の対象培地について、それぞれのある時点(Sa2,Sa3)で測定した質量分析データから、該当するある時点Sa2,Sa3の特徴量抽出モデルに基づいて、当該対象培地を培養プロセスに用いた際に将来的に得られる培養物の培養状態(培養物の収量や品質)をそれぞれ推定する。
【0113】
このように、培養プロセスを開始する前のある時点Sa1と、培養プロセス中のある時点Sa2,Sa3との各時点でそれぞれ対象培地について測定部2により質量分析を行い、経時変化する対象培地の質量分析データから、ある時点Sa1,Sa2,Sa3に対応する特徴量抽出モデルを基に、逐次、培養プロセスの終了後における培養物の培養状態を推定しながら培養プロセスを実行することができる。
【0114】
なお、ここでは、教師あり学習によって各特徴量抽出モデルをそれぞれ生成する場合について述べたが、本発明はこれに限らず、上述した「(1-6)教師なしによる特徴量抽出モデルの生成」に従って、教師なし学習によって各特徴量抽出モデルをそれぞれ生成するようにしてもよい。
【0115】
(1-8)培養プロセス終了前の培養途中における培養物の培養状態を推定する他の実施形態
上述した実施形態においては、培養プロセスを終了した後(終了時期F後)に、培地に含まれる培養物の培養状態(例えば、対象培地に含まれる培地単位体積あたりの培養物の収量)を推定する場合について説明したが、本発明はこれに限らない。上述した実施形態において、例えば、
図11の11Aに示すように、培養プロセスが終了する前の培養途中のある時点Fa2における培養物の培養状態を推定するようにしてもよい。
【0116】
この場合、状態推定システム1aでは、
図11の11Aに示すように、培養プロセスを開始する前のある時点Sa1において測定部2によって複数の培地の質量分析を行い、質量分析データを取得する。また、状態推定システム1aでは、培養プロセスが終了する前のある時点Fa2において、各培地によって実際に培養している途中の培養物の培養状態(培養物の収量や品質)を測定する。
【0117】
状態推定部10aでは、このようにして得られた、培養プロセスの開始前の培地における質量分析データと、培養途中における培養物の培養状態とに基づいて、教師あり学習により特徴量抽出モデルを生成する。すなわち、状態推定部10aは、培養プロセスの開始前の培地における質量分析データを説明変数とし、培養プロセスの終了前におけるある時点Fa2で培地に含まれる培養物の培養状態を目的変数として、質量分析データと培養状態との間の関連性を示す特徴量抽出モデルを生成する。状態推定部10aは、その後、成分が未知の対象培地について培養プロセスの開始前に測定した質量分析データを得ると、当該質量分析データから、当該特徴量抽出モデルに基づいて、当該対象培地を培養プロセスに用いた際に将来的に得られる、培養途中での培養物の培養状態(培養物の収量や品質)を推定することができる。
【0118】
なお、上述した「(1-2)状態推定部」は、培養プロセスの終了後における培養物の培養状態の測定結果を用いているが、当該培養状態の測定結果を、培養プロセス中に得た培養途中における培養物の培養状態の測定結果に置き換えることで、この「(1-8)培養プロセス終了前の培養途中における培養物の培養状態を推定する他の実施形態」においても適用することができる。また、同様に、「(1-3)判定部」及び「(1-4)測定対象最適化推定部」についても、培養プロセスの終了後における培養物の培養状態の測定結果を、培養プロセスの途中で得られた、培養物の培養状態の測定結果に置き換えて適用することができる。
【0119】
また、ここでは、
図11の11Aに示すように、培養プロセスを開始する前のある時点Sa1において測定部2によって複数の培地の質量分析を行い、質量分析データを取得する場合について述べたが、本発明はこれに限らない。この実施形態においても、例えば、
図11の11Bに示すように、培養プロセスを行っている途中の、ある時点Sa2において、測定部2によって複数の培地の質量分析を行い、質量分析データを取得するようにしてもよい。
【0120】
この場合、状態推定部10aでは、培養プロセスを行っている途中のある時点Sa2の培地における質量分析データを説明変数とし、培養プロセスの終了前におけるある時点Fa2で培地に含まれる培養物の培養状態を目的変数として、質量分析データと培養状態との間の関連性を特徴づける特徴量抽出モデルを生成する。状態推定部10aは、その後、成分が未知の対象培地について培養プロセスを行っている途中のある時点Sa2で測定した質量分析データを得ると、当該質量分析データから、当該特徴量抽出モデルに基づいて、当該対象培地を培養プロセスに用いた際に将来的に得られる、培養途中のある時点Fa2での培養物の培養状態(培養物の収量や品質)を推定することができる。
【0121】
さらに、この実施形態においても、
図11の11Cに示すように、培養プロセスを開始する前のある時点Sa1と、培養プロセス中のある時点Sa2,Sa3と、におけるそれぞれの培地について測定部2により質量分析を行い、質量分析データを複数回得るようにしてもよい。また、培養プロセスを開始する前に測定部2によって培地の質量分析を行わずに、培養プロセス中のある時点Sa2,Sa3でのみそれぞれ培地について測定部2により質量分析を行い、質量分析データを複数回得るようにしてもよい。
【0122】
状態推定部10aは、培養プロセスの開始前の培地における質量分析データを説明変数とし、培養プロセスが終了する前のある時点Fa2において、培地に含まれる培養物の培養状態を目的変数として、質量分析データと培養状態との間の関連性を特徴づける特徴量抽出モデルを生成する。状態推定部10aは、その後、成分が未知の対象培地について培養プロセスの開始前に測定した質量分析データを得ると、この質量分析データから、当該特徴量抽出モデルに基づいて、当該対象培地を培養プロセスに用いた際に将来的に得られる、培養途中のある時点Fa2での培養物の培養状態(培養物の収量や品質)を推定することができる。
【0123】
また、状態推定部10aは、培養プロセスの開始後のある時点Sa2の培地における各質量分析データと、培養プロセスが終了する前のある時点Fa2において、培地に含まれる培養物の培養状態と、の間の関連性を特徴づける特徴量抽モデルを生成し、同様に、培養プロセスの開始後のある時点Sa3の培地における各質量分析データと、培養プロセスが終了する前のある時点Fa2において、培地に含まれる培養物の培養状態と、の間の関連性を特徴づける特徴量抽出モデルを生成する。状態推定部10aは、その後、成分が未知の培養使用中の対象培地について、ある時点(Sa2,Sa3)でそれぞれ測定した質量分析データを得ると、当該質量分析データから、該当するある時点Sa2,Sa3の特徴量抽出モデルに基づいて、当該対象培地を培養プロセスに用いた際に将来的に得られる、培養途中のある時点Fa2での培養物の培養状態(培養物の収量や品質)をそれぞれ推定することができる。
【0124】
(1-9)培養パラメータの最適化推定処理
次に、培養パラメータの最適化推定処理を行う、他の実施形態に係る状態推定システムについて説明する。
図12は、他の実施形態に係る状態推定システム1cの構成を示すブロック図である。状態推定システム1cは、上述した
図1の状態推定システム1aとは演算処理部3cの構成が異なるものであり、ここでは、この演算処理部3cに着目して以下説明し、測定部2やデータベース4、通知部5の説明については重複するため省略する。
【0125】
ここで、例えば、培養物となる細胞を培地により培養する際に、当該細胞を、ある特定の培養状態に到達させるための培養条件を検討する状況が生じることがある。例えば、CHO細胞の連続培養において、初期培地に細胞を投入した後、細胞がある一定数まで増殖するCHO細胞の連続培養において、初期培地にCHO細胞を投入した後、CHO細胞をある一定数まで増殖させるための最適な培養条件を検討することが必要となる。この際、所望の培養状態が得られるように培養プロセスの培養条件に関するパラメータ(培養パラメータ)を試行錯誤し、その都度、新たな培養プロセスを一から開始すると、最適な培養条件の特定に時間を要する。そのため、時間的に効率よく培養パラメータの最適化を進めることが望まれる。
【0126】
本実施形態に係る、
図12の状態推定システム1cは、培養プロセスの培養温度、培養時間、培地のpH、培地の撹拌速度等の、培養条件に関するパラメータ(培養パラメータ)について、所望する培養状態が得られるであろう培養パラメータを演算処理部3cで推定し得、その推定結果を、通知部5を介して作業者等に提示し得るものである。これにより、所望の培養状態が得られる最適な培養パラメータによって、培養プロセスを行うことができる。
【0127】
本実施形態に係る演算処理部3cは、状態推定部10cと判定部12と培養パラメータ最適化推定部15とを有する。演算処理部3cにおいて培養パラメータ最適化推定処理を行う場合には、状態推定部10cにおいて培養パラメータ推定用の特徴量抽出モデルを生成する必要があり、以下これについて説明する。
【0128】
(1-9-1)培養パラメータ推定用の特徴量抽出モデルの生成
例えば、培養物を培養する際の培養温度、培養時間、培地のpH、培地の撹拌速度等の基準となる培養パラメータのセットを決める。また、この基準となる培養パラメータからの培養パラメータの補正候補値△aを複数決める。具体的には、培養温度の補正候補値△aとは、例えば、+2℃や-1℃等であり、培養時間の補正候補値△aとは、例えば、+30分や-30分等であり、培地のpHの補正候補値△aとは、+0.1や-0.2等であり、培地の撹拌速度の補正候補値△aとは、例えば、+1s-1や-1s-1等である。
【0129】
ここでは、一例として、20個の培地に対して、培養物としてCHO細胞を加え、ある培養パラメータaで培養物(CHO細胞)の培養を開始する場合について説明する。培養開始から3時間経過した時点で、上澄を取り、質量分析装置である測定部2によって、各培地についてそれぞれ質量分析を行い、マススペクトルを得る。そして、培養開始から3時間経過した時点で、培養物の植継と分注を行うものとする。
【0130】
ここでは、20個の培地の培養液をそれぞれ4分割し、それぞれ別の培養容器に移し入れる。各培養容器それぞれに対して、別の4つの培養パラメータ(a+△a0(ここでは、△a0=0)),(a+△a1),(a+△a2),(a+△a3)をそれぞれ設定し、この培養パラメータ(a+△a0),(a+△a1),(a+△a2),(a+△a3)でそれぞれ培養を継続する。なお、ここで、△a1,△a2,△a3は、培養パラメータのそれぞれ異なる補正候補値を示し、例えば、培養パラメータを培養温度とした場合、基準とした培養温度からの上昇温度又は下降温度を示す。
【0131】
そして、各培養パラメータ(a+△a0),(a+△a1),(a+△a2),(a+△a3)でそれぞれ培養プロセスを行ったときの、実際の培地単位体積あたりの培養物の収量(培養状態)を得、これを実態結果としてデータベース4に保存する。これにより、20個の培地の全てに対してそれぞれ4つの培養パラメータ(a+△a0),(a+△a1),(a+△a2),(a+△a3)で培養した、20×4=80種類の学習用の実態結果を得る。
【0132】
そして、培地の質量分析データと、基準となる培養パラメータaと、培養パラメータの補正候補値△a0,△a1,△a2,△a3と、培養パラメータ(a+△a0),(a+△a1),(a+△a2),(a+△a3)で実際に培養物を培養したときの培養物の培養状態を示す実態結果と、を対応付け、これをそれぞれデータセットとしてデータベース4に保存する。
【0133】
次に、状態推定部10cは、データベース4に保存されているこれらデータセットを読み出し、質量分析データと、基準となる補正前の培養パラメータaと、培養パラメータaの補正候補値△a0,△a1,△a2,△a3と、を入力データとして、この入力データの分布を特徴づける培養パラメータ推定用の特徴量抽出モデルを生成する。具体的には、培養開始から3時間後の培養物に対して、基準の培養パラメータにどのような補正を加えたら、所望の培養状態が得られるかを推定する培養パラメータ推定用の特徴量抽出モデルを生成する。
【0134】
なお、ここでは、質量分析データと、基準となる補正前の培養パラメータaと、培養パラメータaの補正候補値(△a0,△a1,△a2,△a3)とを説明変数として用いて、培養パラメータ推定用の特徴量抽出モデルを生成するが、本発明はこれに限らず、質量分析データと培養パラメータ(a+△a0),(a+△a1),(a+△a2),(a+△a3)とを説明変数として用いて、培養パラメータ推定用の特徴量抽出モデルを生成してもよい。また、培養パラメータ推定用の特徴量抽出モデルは、上述した「(1―1)状態推定システムの構成」にて説明したように、例えば、PCAや、PLS、多項式回帰、ガウス過程回帰、畳み込みニューラルネットワーク、ベイズニューラルネットワーク等の種々の特徴量抽出モデルを適用できることは同じである。
【0135】
例えば、ここでは、状態推定部10cは、測定部2によって得られた培地の質量分析データと、基準となる補正前の培養パラメータaと、補正候補値△a0,△a1,△a1,△a1とを入力(説明変数)とし、培養使用後の培地に含まれる培養物の培養状態(ここでは収量)を出力(目的変数)とする、培養パラメータ推定用の特徴量抽出モデルをニューラルネットワーク等によって生成する。
【0136】
このようにして、状態推定システム1cでは、培地の質量分析データと、培養プロセスで設定する培養パラメータ(a+△a0),(a+△a1),(a+△a2),(a+△a3)とによる入力データについて、培養プロセスで培養した培養物の培養状態から、当該入力データの分布を特徴づけた、培養パラメータ推定用の特徴量抽出モデルを生成する。
【0137】
(1-9-2)培養パラメータ推定用の特徴量抽出モデルの適用
状態推定システム1cは、測定部2を介して、成分が未知の対象培地の質量分析データを得ると、培養パラメータ最適化推定部15により、予め設定した範囲内で培養パラメータの補正候補値△aをランダムに選定してゆき、複数の補正候補値△aを状態推定部10cに出力する。なお、ここでは、培養パラメータの補正候補値△aについて、培養パラメータ最適化推定部15でランダムに生成した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、例えば、データベース4に予め保存しておいた複数の補正候補値△aを適用してもよく、また、作業者等が選択した補正候補値△aであってよい。
【0138】
状態推定部10cは、測定部2を介して得られた対象培地の質量分析データと、培養パラメータaと、培養パラメータの複数の補正候補値△aと、を入力データとして上述した培養パラメータ推定用の特徴量抽出モデルに入力して解析することにより、培養に使用した培地に含まれる培養物の培養状態(収量)を推定する。
【0139】
状態推定部10cは、補正候補値△aを変えてそれぞれ得られた複数の推定結果を培養パラメータ最適化推定部15に出力する。培養パラメータ最適化推定部15は、状態推定部10cで得られた複数の推定結果のうち、予め設定されていた最適な培養状態の結果に最も近い推定結果を選定し、選定した推定結果で設定されている培養パラメータaの補正候補値△aを特定する。
【0140】
培養パラメータ最適化推定部15は、特定した補正候補値△aを通知部5に出力し、通知部5を介して当該補正候補値△aを作業者等に提示し得る。このように、培養パラメータ最適化推定部15で得られた補正候補値△aを、通知部5を介して作業者等に提示することで、作業者等は補正候補値△aを基に培養パラメータを補正することができ、最適な培養条件(培養パラメータ)で培養物を培養させることができる。
【0141】
(1-9-3)作用及び効果
以上の構成において、状態推定システム1cは、測定部2で測定した複数の培地の特性値及び複数の培養パラメータを入力データとし、この入力データの分布を特徴づける、培養パラメータ推定用の特徴量抽出モデルに基づいて、対象培地の特性値及び培養パラメータから、培養物の培養状態を状態推定部10cで推定するようにした。このように、状態推定システム1cでは、対象培地を用いたバイオ生産及び研究開発において所望する培養状態を得ることができるか否かを、事前に推定できるので、対象培地の適正判断に要する時間を短縮化し得る。これにより、培地を用いたバイオ生産や研究開発の効率を高めることができる。
【0142】
また、これに加えて、この状態推定システム1cは、状態推定部10cにより得られた培養状態の推定結果に基づいて、最適な培養状態が得られる、培養パラメータaの補正候補値△aを特定する。これにより、状態推定システム1cでは、得られた培養パラメータの補正候補値△aを基に作業者等に対して培養パラメータを補正させることができ、最適な培養状態を得ることができる。
【0143】
また、この実施形態においては、例えば、状態推定部10cで得られた推定結果を判定部12に出力し、判定部12において当該推定結果に基づき培養パラメータを判定するようにしてもよい。この場合、上述した「(1-3)判定部」にて説明した、状態判定処理又は異常判定処理により、当該推定結果に基づいて培養パラメータを判定する。例えば、判定部12は、状態判定処理を行う場合、状態判定処理に先立って、培養パラメータ推定用の特徴量抽出モデルにおいて特徴量として主成分ベクトルを定義した状態推定空間に、良好な推定結果と不良な推定結果との間を段階的に識別可能な識別値を設定する。判定部12は、対象培地の質量分析データ及び培養パラメータを状態推定空間に射影して得られた状態推定ベクトルの値と近い識別値を選定し、選定した識別値から推定結果を識別して培養パラメータの適正を判定する。
【0144】
また、判定部12は、異常判定処理として、培養パラメータ推定用の特徴量抽出モデルの状態推定空間に、ある異常判定のためのルールに基づいて、当該異常判定の閾値を設定するようにしてもよい。判定部12は、対象培地の質量分析データ及び培養パラメータを、主成分ベクトルを定義した状態推定空間に射影して得られた状態推定ベクトルの値と、閾値とから、推定結果を識別し、培養パラメータの異常の有無を判定する。また、上記の閾値を複数段階で区分するように設定することで、培養パラメータの異常の程度を判定するようにしてもよい。
【0145】
(1-10)培養時間を推定する状態推定システム
上述した実施形態においては、特徴量抽出モデルに基づいて培養物の培養状態を推定する状態推定システム1a,1cについてそれぞれ説明したが、本発明はこれに限らず、培養プロセスで培養している培養物が予め設定した培養状態になるまでの培養時間を、特徴量抽出モデルに基づいて推定する状態推定システムとしてもよい。
【0146】
なお、この場合、上述した「(1)第1実施形態」にて説明した、「(1―1)状態推定システムの構成」、「(1-2)状態推定部」、「(1-3)判定部」、「(1-4)測定対象最適化推定部」、「(1-5)作用及び効果」、「(1-6)教師なしによる特徴量抽出モデルの生成」、「(1-7)培地の特性の測定時期に関する他の実施形態」及び「(1-9)培養パラメータの最適化推定処理」の各項目内において、目的変数等になる「培養物の培養状態(収量)」を「培養物が予め設定した培養状態になるまでの培養時間」に置き換える変えることで、これら各項目の処理を実行することができる。
【0147】
(1-10―1)
図1に示す状態推定システムについて
例えば、
図1に示す状態推定システム1aを、培養時間を推定する状態推定システム1aとした場合、状態推定部10aでは、教師あり学習の場合、ある時点において測定部2により得られた複数の培地の質量分析データを説明変数とし、当該培地を用いて培養物を実際に培養したときに培養物が所望の培養状態となる培養時間を目的変数として用いて特徴量抽出モデルを生成する。このような、特徴量抽出モデルでは、培地を用いて培養物を培養したときに培養物が所望の培養状態となる培養時間(以下、単に培養時間とも称する)に影響を与える、培地の成分を解析することができる。
【0148】
特徴量抽出モデルは、教師あり学習の場合、対象培地の質量分析データを入力とし、対象培地によって培養物の培養をこのまま続けたと仮定したときに培養物が所望の培養状態となるまでにかかる培養時間の推測結果(以下、時間推定結果とも称する)を出力とする、回帰モデル等を適用することが望ましい。また、教師あり学習により特徴量抽出モデルを生成する際には、複数の培地の質量分析データと、これら培地を用いたときに培養物が所望の培養状態となる培養時間と、の対応関係を学習させ、培養時間から質量分析データの分布を特徴づけることが望ましい。
【0149】
なお、その他の特徴量抽出モデルの教師あり学習としては、例えば、複数の培地の質量分析データと、これら培地を用いたときに得られる各培養時間と、当該培養時間が所望する結果であるか否かを示す正解ラベル(例えば、所望する培養時間であるか否かを示す正解率)と、を用い、培地の質量分析データ及びその培養時間を学習させる際に正解ラベルを付して学習させ、質量分析データの分布を特徴づけるようにしてもよい。
【0150】
特徴量抽出モデルとしては、例えば、PCAや、PLS、多項式回帰、ガウス過程回帰、Random Forest Regression等の種々の特徴量抽出モデルを適用することができる。また、特徴量抽出モデルとしては、例えば、培地の特性値(質量分析データ)及び培養時間の結果を機械学習して生成される機械学習モデルを適用してもよい。
【0151】
機械学習モデルとしては、例えば、ニューラルネットワーク(例えば、CNN(畳み込みニューラルネットワーク)や、BNN(ベイズニューラルネットワーク))等を適用することができる。また、特徴量抽出モデルには、上記のような教師あり学習の他に、教師なし学習であってもよい。教師なし学習により特徴量抽出モデルを生成する場合の詳細については後述するが、教師なし学習により特徴量抽出モデルを生成する際には、複数の培地の質量分析データを用い、これら複数の質量分析データの分布を特徴づける学習をさせることが望ましい。
【0152】
判定部12は、状態推定部10aにより得られた、培養物が所望の培養状態になるまでかかる培養時間の推定結果(時間推定結果)に基づいて、対象培地の状態を判定するものである。判定部12は、特徴量抽出モデルにおいて主成分ベクトル(特徴量)を定義した状態推定空間に、良好な培地と不良な培地との間を段階的に識別可能な識別値を設定し、対象培地の質量分析データを、当該状態推定空間に射影し、識別値を目安に、対象培地が所望する培養時間を達成できる状態にあるかを推定する(状態判定処理)。
【0153】
なお、ここでは、培地を用いて培養物を培養したときに得られる培地単位体積あたりの培養物の質量が所定の最適設定値(良好判定値)以上になるまでかかる培養時間が、予め設定した任意の時間以内となる培地を「良好な培地」と称し、当該培養時間が任意の時間を超える培地を「不良な培地」と称する。
【0154】
判定部12は、特徴量抽出モデルの状態推定空間に、ある異常判定のためのルールに基づいて、当該異常判定の閾値を設定するようにしてもよい。この場合、閾値の設定は、作業者等によって、所望する培養時間を考慮して状態推定空間に設定するようにしてもよい。例えば、閾値を超えていなければ、培養時間が短く良好な培養時間が得られる培地であると判定し得、一方、閾値を超えると培養時間が長く不良な培養時間となる培地であると判定し得るように、閾値の設定がなされる。
【0155】
判定部12は、対象培地の質量分析データを、主成分ベクトルを定義した状態推定空間に射影して得られた状態推定ベクトルの値と閾値とから、培養時間の観点から対象培地の異常の有無を判定する。また、上記の閾値を複数段階で区分するように設定することで、対象培地の異常の程度を判定するようにしてもよい。
【0156】
また、測定対象最適化推定部14では、状態推定部10aにおいて、培養プロセスの開始前の対象培地の質量分析データから、特徴量抽出モデルに基づいて培養物の培養時間の推定結果(時間推定結果)が得られると、状態推定部10aから当該時間推定結果を受け取る。測定対象最適化推定部14は、状態推定部10aで得られた時間推定結果を解析し、培養使用前の対象培地に添加することで、例えば、培養物の培養時間が短縮化できる、添加物を推定する。測定対象最適化推定部14は、作業者等に対して、推定した当該添加物(推定添加物とも称する)を対象培地に添加させることによって、培養プロセスに用いる対象培地の成分を補正させるものである。
【0157】
この場合、測定対象最適化推定部14は、上述した「(1-4)測定対象最適化推定部」に従って、複数種類の添加物に関する質量分析データである添加物測定ベクトルと、特徴量抽出モデルにおいて状態推定空間に定義された主成分ベクトルとの関連性(類似度)を計算する。測定対象最適化推定部14は、3種類の添加物の中から、特徴量抽出モデルの基底と関連性が最も大きい添加物測定ベクトルの添加物を、対象培地に添加する最適な添加物として推定する。このように、特徴量抽出モデルの基底と関連性が最も大きい添加物測定ベクトルの添加物を、培養使用前の対象培地に添加させることにより、培養時間を改善させることができる。
【0158】
ここで、特徴量抽出モデルの基底と関連性が大きい添加物測定ベクトルの添加物とは、特徴量抽出モデルにおいて状態推定空間に定義された主成分ベクトルと類似度が高い添加物測定ベクトルを有する添加物である。本実施形態において、特徴量抽出モデルの主成分ベクトルと添加物測定ベクトルとの類似度は、特徴量抽出モデルの主成分ベクトルと添加物測定ベクトルとの間の内積を算出することにより求めてもよく、特徴量抽出モデルに複数の主成分ベクトルがある場合には、例えば、固有値が最も大きい主成分ベクトルを選定し、選定した主成分ベクトルと添加物測定ベクトルとの間の内積を算出するようにしてもよい。
【0159】
なお、上述した実施形態では、特徴量抽出モデルにおいて状態推定空間に定義された主成分ベクトルと、複数種類の添加物測定ベクトルと、の類似度をそれぞれ計算し、当該主成分ベクトルと類似度が高い添加物測定ベクトルの添加物を測定対象最適化推定部14により特定する場合について説明したが、本発明はこれに限らない。例えば、状態推定部10aにより得られるであろう培養時間の推定結果に対して1つ又は複数の添加物の情報を予め対応付けておき、特徴量抽出モデルに基づいて対象培地の質量分析データから培養時間の推定結果が得られると、当該推定結果に予め対応付けた1つ又は複数の添加物を、対象培地に添加する最適な添加物として推定するようにしてもよい。
【0160】
(1-10―2)
図12に示す状態推定システムについて
また、
図12に示す状態推定システム1cは培養パラメータの最適化推定処理を行うものであるが、この状態推定システム1cにおいても、上述した「(1-9)培養パラメータの最適化推定処理」に従い、培養時間の推定結果に基づいて、最適な培養パラメータを推定するようにしてもよい。この場合、上述した「(1-9-1)培養パラメータ推定用の特徴量抽出モデルの生成」では、培地の質量分析データと、基準となる培養パラメータaと、培養パラメータの補正候補値△a0,△a1,△a2,△a3と、培養パラメータ(a+△a0),(a+△a1),(a+△a2),(a+△a3)で実際に培養物を培養したときに培養物が所望の培養状態となるまでにかかる培養時間を示す実態結果と、を対応付け、これをそれぞれデータセットとしてデータベース4に保存する。
【0161】
状態推定部10cは、データベース4に保存されているこれらデータセットを読み出し、質量分析データと、基準となる補正前の培養パラメータaと、培養パラメータaの補正候補値△a0,△a1,△a2,△a3と、を入力データとして、この入力データの分布を特徴づける培養パラメータ推定用の特徴量抽出モデルを生成する。具体的には、培養開始から3時間後の培養物に対して、基準の培養パラメータにどのような補正を加えたら、所望の培養時間となるかを推定する培養パラメータ推定用の特徴量抽出モデルを生成する。
【0162】
また、「(1-9-2)培養パラメータ推定用の特徴量抽出モデルの適用」では、状態推定部10cにおいて、測定部2を介して測定した対象培地の質量分析データと、培養パラメータaと、培養パラメータの複数の補正候補値△aと、を入力データとして上述した培養パラメータ推定用の特徴量抽出モデルに入力して解析することにより、培養物が所望の培養状態(収量)となるまでにかかる培養時間を推定する。
【0163】
培養パラメータ最適化推定部15は、状態推定部10cで得られた複数の推定結果のうち、例えば、最も培養時間が短い推定結果を選定し、選定した推定結果で設定されている培養パラメータaの補正候補値△aを特定する。このように、培養パラメータ最適化推定部15で得られた補正候補値△aを、通知部5を介して作業者等に提示することで、作業者等は補正候補値△aを基に培養パラメータを補正し得、培養時間を短縮化することができる。
【0164】
また、この実施形態においても、例えば、状態推定部10cで得られた時間推定結果を判定部12に出力し、判定部12において当該時間推定結果に基づき培養パラメータを判定するようにしてもよい。この場合、上述した「(1-3)判定部」にて説明した、状態判定処理又は異常判定処理により、当該時間推定結果に基づいて培養パラメータを判定する。なお、状態判定処理又は異常判定処理については、上述した「(1-3)判定部」にて説明していることから、説明の重複を避けるためその説明は省略する。
【0165】
(1-11)その他
なお、上述した実施形態においては、生体試料及び対象生体試料として、培地を適用した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、例えば、培地と、培地により培養される培養物と、培地から抽出される培地抽出物と、培養物から抽出される培養抽出物とのうち、いずれかを生体試料及び対象生体試料として適用してもよい。
【0166】
例えば、細胞等の培養物を生体試料及び対象生体試料とした場合には、測定部2によって、ある時点における複数の培養物及び少なくとも1個の対象となる対象培養物について質量分析を行い、質量分析データを測定する。状態推定部10aは、複数の培養物の特性値である質量分析データの分布を特徴づける特徴量抽出モデルに基づいて、対象培養物の特性値から、将来的な対象培養物の培養状態を推定する。また、状態推定部10cにおいても、同様に、培地の特性値に替えて、培養物、培地抽出物又は培養抽出物の特性値を用いるようにしてもよい。
【0167】
なお、培地から抽出される培地抽出物とは、例えば、元々の培地原料に含まれる物質の他、それらを培養物が代謝することで生成された、目的物質や副産物を含む微生物や細胞の代謝物(例えば、抗体、タンパク質、糖質、アミノ酸、脂質)があり、また、元々の培地原料に含まれる物質が時間経過によって変性(例えば、メイラード反応)することで得られた物質等である。培地抽出物を生体試料及び対象生体試料とした場合には、測定部2によって、ある時点における複数の培地抽出物及び少なくとも1個の対象となる対象培地抽出物について質量分析を行い、質量分析データを測定する。状態推定部10aは、複数の培地抽出物の特性値である質量分析データの分布を特徴づける特徴量抽出モデルに基づいて、対象培地抽出物の特性値から、将来的な培養物の培養状態を推定する。
【0168】
培養物から抽出される培養抽出物とは、例えば、培養物の内部、若しくはそれ自身を構成する物質等であり、より具体的には、培地原料を代謝して、培養物にその代謝物(例えば、抗体、タンパク質、糖質、アミノ酸、脂質等)や、培地原料に元々含まれている物質を、培養物が体内に取り込んで蓄積した物(例えば、重金属)がある。培養抽出物を生体試料及び対象生体試料とした場合には、測定部2によって、ある時点における複数の培養抽出物及び少なくとも1個の対象となる対象培養抽出物について質量分析を行い、質量分析データを測定する。状態推定部10aは、複数の培養抽出物の特性値である質量分析データの分布を特徴づける特徴量抽出モデルに基づいて、対象培養抽出物の特性値から、将来的な培養物の培養状態を推定する。
【0169】
(2)第2実施形態
上述した第1実施形態においては、複数の生体試料及び対象生体試料の特性を測定する測定部として、例えば、複数の生体試料及び対象生体試料の質量分析データを測定する質量分析装置を適用した場合について述べたが、第2実施形態では、複数の生体試料及び対象生体試料の外見を測定する顕微鏡装置を適用する場合について以下説明する。
【0170】
(2-1)第2実施形態に係る状態推定部及び判定部の概要
この場合、
図1に示す状態推定システム1aでは、測定部2として、CCD(Charge Coupled Device)カメラ等の撮像装置を備えた顕微鏡装置(例えば、蛍光顕微鏡装置)を適用する。顕微鏡装置である測定部2は、培地内における培養物の外見状態を当該培養物の特性として測定するために当該培養物を撮像し、培養物の画像データを取得する。なお、第2実施形態では、生体試料が培養物であり、培養物として、例えば、細胞培養実験に使用される細胞を一例に説明する。
【0171】
例えば、細胞培養実験においては、未分化状態の細胞を、培地を用いて所定の培養プロセスにより培養し、培養させた細胞を得る。そして、培養した細胞を、例えば、免疫染色によって染色し、当該細胞から発する光の発現状態を顕微鏡装置により観察することで、細胞の分化状態を特定することができる。この場合、顕微鏡装置としては、測定対象である培養物から発する蛍光を撮像可能な蛍光顕微鏡装置を用いることが望ましい。
なお、実際に培養した細胞の分化状態は、例えば、質量分析装置によって細胞からの代謝物を分析することで当該細胞の分化状態を特定することができ、また、RNAシーケンシング(RNA-Seq)によって、培養後の細胞における遺伝子の発現状態を計測、解析することで当該細胞の分化状態を推定することができる。
【0172】
第2実施形態に係る状態推定システム1aでは、未分化の対象細胞を測定部2により撮像することにより画像データを得、この画像データを特徴量抽出モデルの入力として用い、当該対象細胞の画像データから特徴量抽出モデルに基づいて当該未分化の対象細胞の将来的な培養状態(分化状態)を分化状態となる前に推定するものである。第2実施形態に係る状態推定システム1aは、顕微鏡装置である測定部2と、演算処理部3aと、データベース4と、通知部5とを有しており、主に、上述した第1実施形態で説明した、培地の「質量分析データ」に変えて、測定部2で取得した培養物の「画像データ」を用いる点で相違している。
【0173】
第2実施形態では、例えば、未分化の複数の細胞を測定部2によりそれぞれ撮像し、得られた複数の画像データに基づいて特徴量抽出モデルを生成する。状態推定システム1aは、その後、状態が未知の未分化の対象細胞を測定部2で撮像し、その結果得られた画像データと、上記の特徴量抽出モデルと、に基づいて、対象細胞を将来的に培養したときの分化状態(培養状態)を推定することができる。このように、予め生成した特徴量抽出モデルを用いて、培養状態を推定する生体試料を「対象生体試料」と称する。なお、第2実施形態では、生体試料の一例として細胞(培養物)を適用した場合について以下説明するが、予め生成した特徴量抽出モデルを用いて、培養状態を推定する細胞を「対象培養物」又は「対象細胞」と称する。
【0174】
この場合、測定部2は、複数の培地内にそれぞれ含まれる未分化の各細胞を撮像して、得られた複数の画像データを演算処理部3a及びデータベース4に出力する。データベース4は、測定部2から画像データが入力されると、各画像データと、当該画像データを得た日時とを対応付けて保存する。また、データベース4には、撮像した細胞の素性(素性とは、例えば、細胞の種類(スペック情報)、型番、ロット番号、製造年月日、入荷年月日、過去の使用履歴等)の情報が保存される他、培養プロセスの培養温度、培養時間、培地のpH、培地の撹拌速度等の、培養条件に関するパラメータ(すなわち、培養パラメータ)の情報も、画像データに対応付けられて保存される。
【0175】
また、測定部2により撮像した細胞を、所定の培養プロセスにより培地を用いて実際に培養する。そして、例えば、培養した細胞を染色物質により染色し、顕微鏡装置によって撮像することにより得られる画像データを基に、実際に培養した細胞の分化状態を確認する。
【0176】
第2実施形態に係る状態推定部10aでは、ある時点において測定部2により得られた、未分化の複数の細胞の画像データと、培地を用いて当該細胞をそれぞれ実際に培養したときの細胞の分化状態、すなわち培養状態の結果(培養結果)と、を用いて、例えば、多変量解析を行い、特徴量抽出モデルを生成する。このような、特徴量抽出モデルでは、培地を用いて細胞を培養したときに培養結果に影響を与える恐れがある、細胞の外見的特徴を解析することができる。
【0177】
特徴量抽出モデルは、教師あり学習の場合、対象細胞の画像データを入力とし、培地によって対象細胞の培養をこのまま続けたと仮定したときに最終的に得られる将来的な培養状態の推定結果(状態推定結果)を出力とする、回帰モデル等を適用することが望ましい。また、教師あり学習により特徴量抽出モデルを生成する際には、複数の細胞の画像データと、これら細胞の培養状態(分化状態)と、の対応関係を学習させ、培養状態から画像データの細胞の外見的特徴の分布を特徴づけることが望ましい。
【0178】
なお、その他の特徴量抽出モデルの教師あり学習としては、例えば、複数の細胞の画像データと、各細胞の培養状態と、当該培養状態が所望する結果であるか否かを示す正解ラベル(例えば、所望する培養状態であるか否かを示す正解率)と、を用い、細胞の画像データ及びその培養状態を学習させる際に正解ラベルを付して学習させ、画像データの細胞の外見的特徴の分布を特徴づけるようにしてもよい。
【0179】
第2実施形態に係る特徴量抽出モデルは、第1実施形態と同様に、例えば、主成分分析(PCA;Principal Component Analysis)や、部分的最小二乗法(PLS;Partial Least Squares)、多項式回帰、ガウス過程回帰、Random Forest Regression等の種々の特徴量抽出モデルを適用することができる。また、特徴量抽出モデルとしては、例えば、細胞の特性値(画像データ)、及び、その細胞の培養結果を機械学習して生成される機械学習モデルを適用してもよい。
【0180】
機械学習モデルとしては、例えば、ニューラルネットワーク(例えば、CNN(畳み込みニューラルネットワーク)や、BNN(ベイズニューラルネットワーク))等を適用することができる。
【0181】
なお、教師あり学習により特徴量抽出モデルを生成する際は、例えば、実際に培養した各細胞の分化状態をそれぞれ指標で示したデータを目的変数として適用することが望ましい。また、実際に培養した各細胞を染色物質により染色し、顕微鏡装置である測定部2により撮像することにより得られた画像データ内の各細胞の特徴的な状態自体(すなわち、実際に培養した細胞の分化状態を「指標」で示さず、当該細胞を撮像した画像データそのもの)を目的変数として適用してもよい。
【0182】
また、特徴量抽出モデルには、上記のような教師あり学習の他に、教師なし学習であってもよい。教師なし学習をさせる特徴量抽出モデルを生成する際には、複数の細胞の画像データを用い、これら複数の画像データにおける各細胞の外見について分布を特徴づける学習をさせることが望ましい。
【0183】
このような第2実施形態では、上述した「(1)第1実施形態」にて説明した、「(1―1)状態推定システムの構成」、「(1-2)状態推定部」、「(1-3)判定部」、「(1-5)作用及び効果」、「(1-6)教師なしによる特徴量抽出モデルの生成」、「(1-7)生体試料の特性の測定時期に関する他の実施形態」、「(1-8)培養プロセス終了前の培養途中における培養物の培養状態を推定する他の実施形態」、「(1-9)培養パラメータの最適化推定処理」、「(1-10)培養時間を推定する状態推定システム」及び「(1-11)その他」の各項目内において、測定部2を介して取得する「質量分析データ」(あるいは、測定ベクトル)を「画像データ」とすることで、これら各項目の処理を適用することができる。
【0184】
第2実施形態は、上述したように、「(1)第1実施形態」において「質量分析データ」(測定ベクトル)を「画像データ」に置き換えることで各処理を説明することができるため、各項目についてそれぞれ詳細な説明は重複となるため省略し、概略についてのみ以下説明する。
【0185】
例えば、第2実施形態において上述した「(1-3)判定部」では、判定部12によって、状態推定部10aにより得られた状態推定結果に基づいて、対象細胞の状態を判定する。判定部12における判定処理としては、培養した対象細胞が適した培養状態にあるかを単に段階的に判定した状態判定処理と、培養した対象細胞が所望する分化状態にない等、異常な培養状態にあるか否かを判定する異常判定処理と、がある。
【0186】
判定部12は、特徴量抽出モデルとして回帰モデルを適用して状態判定処理を行う場合、状態判定処理に先立って、例えば、特徴量抽出モデルにおいて特徴量として主成分ベクトル(教師あり基底)を定義した状態推定空間に、良好な細胞と不良な細胞との間を段階的に識別可能な識別値を設定する。また、この識別値には、例えば、培地を使用して細胞を培養したときの培養結果を基準に、細胞の分化状態について良好度を段階的に表した識別表示を対応付けるようにしてもよい。
【0187】
なお、状態推定空間に対する識別値の設定は、上述した第1実施形態と同様、作業者等によって任意に数値設定してもよく、状態推定空間に定義された主成分ベクトルを、所定間隔で自動的に区分けしてゆき、識別値を自動的に設定してもよい。判定部12は、対象細胞の画像データを状態推定空間に射影して得られた状態推定ベクトルの値と、識別値とから、対象細胞の状態を判定する。
【0188】
判定部12は、特徴量抽出モデルの状態推定空間に、ある異常判定のためのルールに基づいて、当該異常判定の閾値を設定するようにしてもよい。この場合、閾値の設定は、作業者等によって、所望する培養結果を考慮して状態推定空間に設定するようにしもよい。例えば、閾値を超えていなければ基準値以上の良好な培養結果が得られ、閾値を超えると基準値未満の不良な培養結果が得られるというように、閾値の設定がなされる。
【0189】
判定部12は、対象細胞の画像データを特徴量抽出モデルに取り込み、画像データから抽出した特徴量を、主成分ベクトルを定義した状態推定空間に射影して得られた状態推定ベクトルの値と、閾値とから、対象細胞の異常の有無を判定する。また、上記の閾値を複数段階で区分するように設定することで、対象細胞の異常の程度を判定するようにしてもよい。
【0190】
通知部5は上述した第1実施形態と同様に、状態判定処理による対象細胞の判定結果が入力されることで、培養使用前の対象細胞の状態を識別値に基づいて判定した判定結果を、作業者等に通知する。また、通知部5は、異常判定処理による異常の有無、又は、異常の程度の判定結果が入力されることで、異常の有無又は異常の程度を、作業者等に通知する。
【0191】
以上の構成において、第2実施形態に係る状態推定システム1aは、複数の培養物及び少なくとも1個の対象培養物の画像データを特性値(入力データ)として測定する測定部2と、複数の培養物の特性値(入力データ)の分布を特徴づける特徴量抽出モデルに基づいて、対象培養物の特性値から、対象培養物の培養状態を推定する状態推定部10aと、を設けるようにした。このように、状態推定システム1aでは、対象培地を用いたバイオ生産及び研究開発において所望する培養状態を得ることができるか否かを、事前に推定できるので、対象培地の適正判断に要する時間を短縮化し得る。これにより、培地を用いたバイオ生産や研究開発の効率を高めることができる。
【0192】
(2-2)第2実施形態に係る、教師なしによる特徴量抽出モデルの生成
例えば、複数の細胞の画像データを用いてPCA(主成分分析)処理を行い、画像データの細胞の外見的状態の分布を特徴づける多次元の主成分ベクトル(教師なし基底)を抽出して特徴量抽出モデルを得る状態推定システム1aについて説明する。
【0193】
この場合、測定部2によって複数の細胞の画像データを得、得られた複数の画像データを用いて、例えば、多変量解析を行い、細胞間の差を明確に検知できるような特徴量抽出モデルを構築する。具体的には、状態推定部10aは、画像データを測定部2又はデータベース4から受け取ると、画像データに対してPCA処理を行うことで、画像データの分布を特徴づける主成分ベクトル(教師なし基底)を特徴量として抽出して特徴量抽出モデルを生成する。
【0194】
状態推定システム1aでは、その後、未知の対象細胞の画像データを得ると、この対象細胞の画像データと特徴量抽出モデルとに基づいて、未知の対象細胞が、過去の細胞と比較してどの細胞と類似性が高いのか推定することができる。
【0195】
このように、PCA処理により生成した特徴量抽出モデルでも、判定部12において、ある異常判定のためのルールに基づいて、特徴量抽出モデルの状態推定空間に異常判定の閾値を設定することができる。この場合、閾値は、主成分ベクトルを定義した状態推定空間に複数の細胞の各画像データを射影した時、単にその分布に関連する量として定義づける。
【0196】
例えば、判定部12は、状態推定空間に設定した閾値と、対象細胞の画像データを状態推定空間内に射影したときの座標xと、を用いて、異常の有無の判別を行うこができる。また、上記の閾値を複数段階で区分するように設定することで、対象細胞の異常の程度を判定するようにしてもよい。判定部12は、解析の異常の有無又は異常の程度の判定結果を通知部5に出力する。これにより、通知部5は、作業者等に対して判定部12の判定結果を提示し得る。
【0197】
(2-3)生体試料の特性の測定時期に関する他の実施形態
(2-3-1)培養プロセス開始後の培養プロセス中における、細胞の特性を測定する場合
【0198】
上述した第2実施形態においては、培養プロセスを開始する前に、測定部2によって細胞の画像データを得る場合について説明したが、本発明はこれに限らない。第2実施形態においても、例えば、
図10の10Aに示すように、培養プロセスを開始した後、培養プロセスで培養している途中の細胞について測定部2により撮像し、画像データを得るようにしてもよい。
【0199】
この場合、状態推定システム1aでは、
図10の10Aに示すように、培養プロセスを行っている途中の、ある時点Sa2において、測定部2によって複数の細胞を撮像し、細胞の画像データを取得する。このようにして、状態推定システム1aでは、培養プロセスにより現在培養している複数の細胞に関して、培養開始から所定期間経過したある時点Sa2における画像データが蓄積されてゆく。
【0200】
そして、所定の培養プロセスにおいて、当初予定していた培養終了時期まで培養物の細胞を培養し、細胞の培養を終了すると、培地に含まれている培養終了後の細胞を染色し、細胞から発する光を測定して当該細胞から発する光の発現状態から細胞の分化状態を確認する(Fa1)。このようにして、培養後の細胞の状態をそれぞれ測定し、細胞毎に実際の培養結果を得る。
【0201】
状態推定システム1aでは、細胞毎に得られた細胞の分化状態を示す指標(実際の培養結果)が作業者等によって入力されると、当該培養状態の結果をデータベース4に保存する。この際、データベース4には、培養プロセス中のある時点Sa2で測定された各細胞の画像データに、その細胞を培養したときに得られた最終的な培養結果が対応付けられて保存される。
【0202】
第2実施形態に係る状態推定部10aでは、培養プロセス中のある時点Sa2で測定された各細胞の画像データと、当該細胞の最終的な培養状態とをサンプルデータとしてデータベース4から読み出して特徴量抽出モデルを生成する。
【0203】
この特徴量抽出モデルは、所定の培養プロセスによって対象細胞の培養を開始してからある時点Sa2(例えば、培養開始から10日目)における対象細胞の画像データを入力とし、当該対象細胞の培養をこのまま続けたと仮定したときに最終的に得られる将来的な対象細胞の培養状態の推定値を出力とする。
【0204】
なお、ここでの特徴量抽出モデルとしては、上述した実施形態と同様に、例えば、PCAや、PLS、多項式回帰、ガウス過程回帰、Random Forest Regression等の種々の特徴量抽出モデル、培養途中の細胞の特性値(画像データ)及びその培養結果を機械学習して生成される特徴量抽出モデル等を適用することができる。教師あり学習をさせる特徴量抽出モデルを生成する際には、複数の細胞の画像データと、これら細胞の培養結果と、の対応関係を学習させ、培養結果から画像データの分布を特徴づけることが望ましい。また、この場合も、特徴量抽出モデルとしては、上述したように、教師あり学習の他に、教師なし学習を適用してもよい。教師なし学習をさせる特徴量抽出モデルを生成する際には、複数の細胞の画像データのみを用い、これら複数の画像データの細胞について分布を特徴づける学習をさせることが望ましい。
【0205】
ここで、状態推定部10aは、例えば、教師あり学習の場合、培養プロセスにより培養している途中の細胞の画像データを説明変数とし、この培養プロセスで得られた実際の最終的な培養状態(培養終了時における当該細胞の分化状態)を目的変数として、画像データと培養状態との間の相関や逆相関等の特徴ある関係性を示した特徴量抽出モデルを予め生成しておく。
【0206】
これにより、状態推定システム1aでは、その後、未分化の対象細胞を培養プロセスで培養している途中に、特徴量抽出モデルを利用して、培養により最終的に得られるであろう対象細胞の将来的な培養結果を、培養プロセスを終える前に培養途中で推定することが可能となる。
【0207】
例えば、培養より細胞を分化誘導し、目的の細胞を得る一連の培養プロセスでは目的の細胞を得るまでに長い時間が必要となる。特に未分化のヒト幹細胞を分化誘導し、目的の細胞を得る一連の培養プロセスは通常約3ヶ月以上もの時間がかかる。このような培養プロセスにおいて、例えば、培地の成分や培養温度等の各種パラメータを逐次最適化して最適な培養結果(すなわち、目的の細胞)を得ようとする際、培養プロセスの終了を待って、得られた実際の培養結果を解析してその都度次のパラメータ(用いる培地の成分や培養温度等)を決定する方式が考えられる。
【0208】
しかしながら、この方式では、例えば、培養開始から培養終了までの培養プロセスの1サイクルが約3ヶ月の場合、1年間に高々4サイクル程度しか行うことができず、4サイクルで培養プロセスの各パラメータを試行錯誤することになると時間効率が悪い。
【0209】
これに対して、第2実施形態に係る状態推定システム1aでも、特徴量抽出モデルに基づいて、培養プロセスの途中で最終的に得られるであろう培養状態の推定結果が得られることから、当該推定結果を培養途中で作業者等に提示することにより、培養プロセスの終了を待たずに、得られた推定結果をもとに培養プロセスの各種パラメータ(用いる培地の成分や培養温度等)を必要に応じて変更したり、培養物(対象細胞)を変更したり、新たな培養プロセスを行わせることができる。このように、培養プロセスの終了を待たずに、現在行っている培養プロセスの途中で、所望の培養結果が得られるように培養プロセスのパラメータや培養物を試行錯誤した新たな培養プロセスを開始し得、時間効率よくパラメータ最適化を進めることができる。
【0210】
なお、この場合、判定部12は、状態推定部10aにおいて、培養プロセス中の細胞の画像データから得られた状態推定結果に基づいて、対象細胞の状態を判定する。
【0211】
(2-3-2)培養プロセス中に細胞の特性を複数回測定する場合
第2実施形態でも、上述した第1実施形態と同様に、例えば、
図10の10Bに示すように、培養プロセスを開始する前のある時点Sa1と、培養プロセス中のある時点Sa2,Sa3とにおいて、それぞれ細胞を測定部2により撮像し、画像データを複数回得るようにしてもよい。また、培養プロセスを開始する前に測定部2によって細胞を撮像せずに、培養プロセス中のある時点Sa2,Sa3でのみそれぞれ細胞について測定部2により撮像し、当該細胞の画像データを複数回得るようにしてもよい。すなわち、培養プロセスの開始から10日目の細胞の画像データと、培養プロセスの開始から20日目の細胞の画像データ等、培養開始から、時系列にある間隔で複数回、細胞の画像データを得るようにしてもよい。
【0212】
この場合、状態推定システム1aでは、
図10の10Bに示すように、培養プロセスを開始する前のある時点Sa1と、培養プロセスを行っている途中のある時点Sa2,Sa3とにおいて、それぞれ測定部2によって複数の細胞を撮像し、画像データを取得する。また、状態推定システム1aでは、培養プロセスの終了後に、培地によってそれぞれ実際に培養した後の対象細胞の培養状態(培養物の分化状態)を測定する(Fa1)。
【0213】
状態推定部10aでは、このようにして得られた、培養プロセスの開始前のある時点Sa1の細胞の画像データと、培養プロセスの開始後のある時点Sa2,Sa3の細胞の各画像データと、に基づいてそれぞれ別々に特徴量抽出モデルを生成する。すなわち、状態推定部10aは、例えば、教師あり学習の場合、培養プロセスの開始前の細胞の画像データを説明変数とし、培養プロセスの終了後の細胞の分化状態を目的変数として、画像データと培養状態との間の関連性を示す特徴量抽出モデルを生成する。状態推定部10aは、その後、未分化状態の対象細胞について培養プロセスの開始前に画像データを得ると、この画像から、当該特徴量抽出モデルに基づいて、当該対象細胞を培養プロセスにより培養したときに将来的に得られる対象細胞の培養状態(対象細胞の分化状態)を推定する。
【0214】
また、状態推定部10aは、同様にして、培養プロセスの開始後のある時点Sa2の細胞の画像データと、培養プロセスの終了後の細胞の培養状態と、の間の関連性を示す特徴量抽出モデルを生成し、同様に、培養プロセスの開始後のある時点Sa3の細胞の画像データと、培養プロセスの終了後の細胞の培養状態と、の間の関連性を示す特徴量抽出モデルを生成する。状態推定部10aは、未分化状態の培養使用中の対象細胞について、それぞれのある時点(Sa2,Sa3)で取得した画像データから、該当するある時点Sa2,Sa3の特徴量抽出モデルに基づいて、当該対象細胞を培養プロセスにより培養したときに将来的に得られる対象細胞の培養状態(対象細胞の分化状態)をそれぞれ推定する。
【0215】
このように、培養プロセスを開始する前のある時点Sa1と、培養プロセス中のある時点Sa2,Sa3との各時点でそれぞれ対象細胞を測定部2により撮像し、経時変化する対象細胞の画像データから、ある時点Sa1,Sa2,Sa3に対応する特徴量抽出モデルを基に、逐次、培養プロセスの終了後における対象細胞の培養状態を推定しながら培養プロセスを実行することができる。
【0216】
なお、ここでは、教師あり学習によって各特徴量抽出モデルをそれぞれ生成する場合について述べたが、本発明はこれに限らず、上述した「(2-2)教師なしによる特徴量抽出モデルの生成」に従って、教師なし学習によって各特徴量抽出モデルをそれぞれ生成するようにしてもよい。
【0217】
(2-3-3)培養プロセス終了前の培養途中における細胞の培養状態を推定する他の実施形態
上述した第2実施形態においては、培養プロセスを終了した後(終了時期F後)に、培地に含まれる対象細胞の培養状態(例えば、対象細胞の分化状態)を推定する場合について説明したが、本発明はこれに限らない。上述した第2実施形態でも、例えば、
図11の11Aに示すように、培養プロセスが終了する前の培養途中のある時点Fa2における対象細胞の培養状態を推定するようにしてもよい。
【0218】
この場合、状態推定システム1aでは、
図11の11Aに示すように、培養プロセスを開始する前のある時点Sa1において測定部2によって複数の細胞を撮像し、画像データを取得する。また、状態推定システム1aでは、培養プロセスが終了する前のある時点Fa2において、実際に培養している途中の細胞の培養状態(その時点における細胞の分化状態)を測定する。
【0219】
状態推定部10aでは、このようにして得られた、培養プロセスの開始前の未分化の細胞の画像データと、培養途中における細胞の培養状態とに基づいて、教師あり学習により特徴量抽出モデルを生成する。すなわち、状態推定部10aは、培養プロセスの開始前の細胞の画像データを説明変数とし、培養プロセスの終了前におけるある時点Fa2での細胞の培養状態を目的変数として、画像データと培養状態との間の関連性を特徴づける特徴量抽出モデルを生成する。状態推定部10aは、その後、未分化状態の対象細胞について培養プロセスの開始前に画像データを得ると、当該画像データから、当該特徴量抽出モデルに基づいて、培養プロセスにより培養することで将来的に得られる、培養途中での対象細胞の培養状態(対象細胞の分化状態)を推定することができる。
【0220】
なお、教師あり学習により特徴量抽出モデルを生成する際は、例えば、培養プロセスの終了前におけるある時点Fa2まで実際に培養した各細胞の分化状態をそれぞれ指標で示したデータを目的変数として適用することが望ましい。また、当該時点Fa2まで実際に培養した各細胞を染色物質により染色し、顕微鏡装置である測定部2により撮像することにより得られた画像データ内の各細胞の特徴的な状態自体(すなわち、実際に培養した細胞の分化状態を「指標」で示さず、当該細胞を撮像した画像データそのもの)を目的変数として適用してもよい。
【0221】
また、ここでは、
図11の11Aに示すように、培養プロセスを開始する前のある時点Sa1において測定部2によって複数の未分化状態の細胞を撮像し、画像データを取得する場合について述べたが、本発明はこれに限らない。この第2実施形態でも、例えば、
図11の11Bに示すように、培養プロセスを行っている途中の、ある時点Sa2において、測定部2によって複数の細胞を撮像し、画像データを取得するようにしてもよい。
【0222】
この場合、状態推定部10aでは、培養プロセスを行っている途中のある時点Sa2の細胞の画像データを説明変数とし、培養プロセスの終了前におけるある時点Fa2での細胞の培養状態を目的変数として、画像データと培養状態との間の関連性を特徴づける特徴量抽出モデルを生成する。状態推定部10aは、その後、培養プロセスを行っている途中のある時点Sa2で対象細胞を撮像した画像データを得ると、当該画像データから、当該特徴量抽出モデルに基づいて、将来的に得られる、培養途中のある時点Fa2での対象細胞の培養状態(対象細胞の分化状態)を推定することができる。
【0223】
さらに、この第2実施形態においても、
図11の11Cに示すように、培養プロセスを開始する前のある時点Sa1と、培養プロセス中のある時点Sa2,Sa3と、におけるそれぞれの細胞を測定部2により撮像し、画像データを複数回得るようにしてもよい。また、培養プロセスを開始する前に測定部2によって細胞を撮像せずに、培養プロセス中のある時点Sa2,Sa3でのみそれぞれ細胞を測定部2により撮像し、画像データを複数回得るようにしてもよい。
【0224】
状態推定部10aは、例えば、培養プロセスの開始前の細胞の画像データを説明変数とし、培養プロセスが終了する前のある時点Fa2において、培地に含まれる細胞の培養状態を目的変数として、画像データと培養状態との間の関連性を特徴づける特徴量抽出モデルを生成する。状態推定部10aは、その後、培養プロセスの開始前の未分化の対象細胞の画像データを得ると、この画像データから、当該特徴量抽出モデルに基づいて、将来的に得られる、培養途中のある時点Fa2での対象細胞の培養状態(対象細胞の分化状態)を推定することができる。
【0225】
また、状態推定部10aは、培養プロセスの開始後のある時点Sa2の細胞の画像データと、培養プロセスが終了する前のある時点Fa2において、培地に含まれる細胞の培養状態と、の間の関連性を特徴づける特徴量抽出モデルを生成し、同様に、培養プロセスの開始後のある時点Sa3の細胞の画像データと、培養プロセスが終了する前のある時点Fa2において、培地に含まれる細胞の培養状態と、の間の関連性を特徴づける特徴量抽出モデルを生成する。状態推定部10aは、その後、培養中の対象細胞について、ある時点(Sa2,Sa3)でそれぞれ画像データを得ると、当該画像データから、該当するある時点Sa2,Sa3の特徴量抽出モデルに基づいて、将来的に得られる、培養途中のある時点Fa2での対象細胞の培養状態(対象細胞の分化状態)をそれぞれ推定することができる。
【0226】
なお、「(1-9)培養パラメータの最適化推定処理」及び「(1-10)培養時間を推定する状態推定システム」の各項目内においても、上述したように、測定部2を介して取得する「質量分析データ」(あるいは、測定ベクトル)を「画像データ」とすることで、これら各項目の処理を適用することができる。
【0227】
例えば、「(1-9)培養パラメータの最適化推定処理」では、状態推定部10cによって、複数の培養物の画像データと、培養物を用いた培養プロセスの培養条件に関する培養パラメータと、を入力データとして用い、画像データ及び培養パラメータの分布を特徴づけた培養パラメータ推定用の特徴量抽出モデルを生成する。
【0228】
より具体的には、状態推定部10cは、測定部2によって得られた細胞の画像データと、基準となる補正前の培養パラメータaと、補正候補値△a0,△a1,△a1,△a1とを入力(説明変数)とし、培養後における細胞の培養状態(ここでは分化状態)を出力(目的変数)とする、培養パラメータ推定用の特徴量抽出モデルをニューラルネットワーク等によって生成する。
【0229】
状態推定部10cは、測定部2を介して得られた対象細胞の画像データと、培養パラメータaと、培養パラメータの複数の補正候補値△aと、を入力データとして上述した培養パラメータ推定用の特徴量抽出モデルに入力して解析することにより、対象細胞の培養状態(分化状態)を推定する。
【0230】
状態推定部10cは、補正候補値△aを変えてそれぞれ得られた複数の推定結果を培養パラメータ最適化推定部15に出力する。培養パラメータ最適化推定部15は、状態推定部10cで得られた複数の推定結果のうち、予め設定されていた最適な培養状態の結果に最も近い推定結果を選定し、選定した推定結果で設定されている培養パラメータaの補正候補値△aを特定する。
【0231】
また、「(1-10)培養時間を推定する状態推定システム」では、例えば、教師あり学習の場合、状態推定部10aによって、ある時点において測定部2により得られた複数の細胞の画像データを説明変数とし、培養プロセスにより細胞を実際に培養したときに培養物が所望の培養状態となる培養時間を目的変数として用いて特徴量抽出モデルを生成する。このような、特徴量抽出モデルでは、培地を用いて培養物を培養したときに培養物が所望の培養状態となる培養時間(以下、単に培養時間とも称する)に影響を与える、細胞の外見的特徴を解析することができる。
【0232】
なお、第2実施形態においても、その他の特徴量抽出モデルの教師あり学習としては、例えば、複数の細胞の画像データと、これら細胞の各培養時間と、当該培養時間が所望する結果であるか否かを示す正解ラベル(例えば、所望する培養時間であるか否かを示す正解率)と、を用い、細胞の画像データ及びその培養時間を学習させる際に正解ラベルを付して学習させ、質量分析データの分布を特徴づけるようにしてもよい。
【0233】
特徴量抽出モデルとしては、例えば、PCAや、PLS、多項式回帰、ガウス過程回帰、Random Forest Regression等の種々の特徴量抽出モデルを適用することができる。また、特徴量抽出モデルとしては、例えば、培地の特性値(質量分析データ)及び培養時間の結果を機械学習して生成される機械学習モデルを適用してもよい。
【0234】
機械学習モデルとしては、例えば、ニューラルネットワーク(例えば、CNN(畳み込みニューラルネットワーク)や、BNN(ベイズニューラルネットワーク))等を適用することができる。また、特徴量抽出モデルには、上記のような教師あり学習の他に、教師なし学習であってもよい。教師なし学習により特徴量抽出モデルを生成する場合の詳細については後述するが、教師なし学習により特徴量抽出モデルを生成する際には、複数の細胞の画像データを用い、これら複数の画像データの分布を特徴づける学習をさせることが望ましい。
【0235】
また、上述した「(1-10―2)
図12に示す状態推定システムについて」では、質量分析データを用い、培養時間の推定結果に基づいて、最適な培養パラメータを推定しているが、これについても「質量分析データ」を「画像データ」として適用することが可能であることは言うまでもない。
【0236】
すなわち、この場合、状態推定部10cは、測定部2を介して測定した対象細胞の画像データと、培養パラメータaと、培養パラメータの複数の補正候補値△aと、を入力データとして培養パラメータ推定用の特徴量抽出モデルに入力して解析することにより、培養物が所望の培養状態(分化状態)となるまでかかる培養時間を推定することができる。
【0237】
(3)第3実施形態
上述した第1実施形態においては、複数の生体試料及び対象生体試料の特性を測定する測定部として、例えば、複数の生体試料及び対象生体試料の質量分析データを測定する質量分析装置を適用した場合について述べたが、第3実施形態では、複数の生体試料及び対象生体試料のインピーダンスを測定する測定装置を適用する場合について、以下概略を説明する。
【0238】
この場合、例えば、状態推定システム1aでは、培地と、前記培地により培養される培養物対象と、前記培地から抽出される培地抽出物と、前記培養物対象から抽出される培養対象抽出物と、のうち、いずれかを生体試料及び対象生体試料とし、ある時点における複数の生体試料と、当該時点における、生体試料と同じ種類の少なくとも1個の対象生体試料と、のインピーダンスを特性値として測定部2で測定する。
【0239】
状態推定システム1aでは、測定部2を介して取得した複数の生体試料のインピーダンスを入力データとし、この入力データの分布を特徴づけた特徴量抽出回帰モデルを生成し、これをデータベース4に記憶する。そして、状態推定システム1aでは、状態推定部10aによって、上記の特徴量抽出モデルに基づいて、対象生体試料のインピーダンスから、培養物の培養状態を推定する。
【0240】
このような第3実施形態では、上述した「(1)第1実施形態」にて説明した、「(1―1)状態推定システムの構成」、「(1-2)状態推定部」、「(1-3)判定部」、「(1-4)測定対象最適化推定部」、「(1-5)作用及び効果」、「(1-6)教師なしによる特徴量抽出モデルの生成」、「(1-7)生体試料の特性の測定時期に関する他の実施形態」、「(1-8)培養プロセス終了前の培養途中における培養物の培養状態を推定する他の実施形態」、「(1-9)培養パラメータの最適化推定処理」及び「(1-10)培養時間を推定する状態推定システム」の各項目内において、測定部2を介して取得する「質量分析データ」(あるいは、測定ベクトル)を「インピーダンス」とすることで、これら各項目の処理を適用することができる。
【0241】
例えば、上述した「(1-4)測定対象最適化推定部」では、状態推定部10aにおいて、培養プロセスの開始前の対象培地のインピーダンスから、特徴量抽出モデルに基づいて培養物の培養状態の推定結果(状態推定結果)が得られると、状態推定部10aから測定対象最適化推定部14に当該状態推定結果が出力される。
【0242】
測定対象最適化推定部14は、状態推定部10aで得られた状態推定結果を解析し、培養使用前の対象培地に添加することで、培養使用後の対象培地に含まれる培地単位体積あたりの培養物の収量を最大化できる、添加物を推定する。測定対象最適化推定部14は、作業者等に対して、推定した当該添加物(推定添加物とも称する)を対象培地に添加させることによって、培養プロセスに用いる対象培地の成分を補正させるものである。
【0243】
また、「(1-9)培養パラメータの最適化推定処理」では、例えば、複数の生体試料のインピーダンスと、生体試料を用いた培養プロセスの培養条件に関する培養パラメータと、を入力データとして用い、特性値としてのインピーダンス及び培養パラメータの分布を特徴づけた特徴量抽出モデルに基づいて、対象生体試料の当該入力データから、培養状態を推定する。
【0244】
さらに、「(1-10)培養時間を推定する状態推定システム」では、状態推定システム1aにおいて、測定部2を介して取得した複数の生体試料のインピーダンスを入力データとし、この入力データの分布を特徴づけた特徴量抽出回帰モデルを生成し、これをデータベース4に記憶する。そして、状態推定システム1aでは、状態推定部10aによって、上記の特徴量抽出モデルに基づいて、対象生体試料のインピーダンスから、培養物が予め定めた培養状態となる培養時間を推定する。
【0245】
なお、その他、測定部としては、ラマン分光装置、クロマトグラフィー、デジタルPCR測定装置、核磁気共鳴装置、抗体定量法を用いる抗体定量キット、及び、核酸配列決定装置を適用してもよい。核酸配列決定装置としては、例えば、サンガーシーケンス、次世代シーケンシング(Next Generation Sequencing:NGS)等の公知のDNA配列決定方法を用いた核酸配列決定装置が挙げられ得るが、これらに限定されない。
また、第4実施形態にて説明するフローサイトメータを測定部2として適用してもよい。
【0246】
この場合、ラマン分光装置から得られるラマンスペクトル、クロマトグラフィーから得られるクロマトグラム、デジタルPCR測定装置から得られる特定物質の量、核磁気共鳴装置から得られる分析データ、抗体定量キットから得られる特定抗原の量、及び、核酸配列決定装置から得られる遺伝子配列分析データのうち、いずれかについても、上述した「(1)第1実施形態」にて説明した、「(1―1)状態推定システムの構成」、「(1-2)状態推定部」、「(1-3)判定部」、「(1-4)測定対象最適化推定部」、「(1-5)作用及び効果」、「(1-6)教師なしによる特徴量抽出モデルの生成」、「(1-7)生体試料の特性の測定時期に関する他の実施形態」、「(1-8)培養プロセス終了前の培養途中における培養物の培養状態を推定する他の実施形態」、「(1-9)培養パラメータの最適化推定処理」、「(1-10)培養時間を推定する状態推定システム」及び「(1-11)その他」の各項目内において、測定部2を介して取得する「質量分析データ」(あるいは、測定ベクトル)を、例えば「ラマンスペクトル」、「遺伝子配列分析データ」等にすることで、これら各項目の処理を適用することができる。
【0247】
以上、実施形態においては、状態推定部として、例えば、培養終了前のある時点の培地の入力データから、特徴量抽出モデルに基づいて、培養物の収量を推定するか、又は、培養物が予め定めた収量となる培養時間を推定する、状態推定部について、主に述べたが、上述したように、本発明は、「培養物の収量」に限定されるものではなく、「培養物の品質」や、「培養物から抽出した培養抽出物の収量(品質)」、「培養した培養物が分泌した培地中の成分の収量(品質)」を、「培養物の培養状態」として適用できる。
【0248】
例えば、培養終了前のある時点の培地や培養物から得た入力データから、特徴量抽出モデルに基づいて、培養物の品質を推定するか、又は、培養物が予め定めた品質となる培養時間を推定する、状態推定部であってもよい。
【0249】
また、培養終了前のある時点の培地や培養物から得た入力データから、特徴量抽出モデルに基づいて、培養物から抽出した培養抽出物の収量(品質)を推定するか、又は、培養抽出物が予め定めた収量(品質)となる培養時間を推定する、状態推定部であってもよい。さらに、培養終了前のある時点の培地や培養物から得た入力データから、特徴量抽出モデルに基づいて、培養した培養物が分泌した培地中の成分の収量(品質)を推定するか、又は、当該培養物が分泌した培地中の成分が予め定め収量(品質)となる培養時間を推定する、状態推定部であってもよい。
【0250】
(4)第4実施形態
(4-1)第4実施形態に係る状態推定システム
次に、第4実施形態について説明する。第4実施形態に係る状態推定システムは、ある時点の培養物の特性値を測定部で測定した測定結果を入力データとし、当該入力データから特徴量抽出モデルに基づいて、当該培養物を培養プロセスに従って培養したときに得られる複数種類の培養状態のうちから、将来いずれの培養状態になるかを推定する。そして、状態推定システムは、推定した培養物の培養状態の種類に応じて、ある時点の培養物に対して次に行う処理工程を決定する。
【0251】
ここで、
図13は、第4実施形態に係る状態推定システムにおいて推定する、培養物Aの培養状態の種類を説明するための概略図であり、培養物Aが培養によって培養物B、培養物C又は目的対象外細胞に分化誘導する例を示す。ここでは、ステップS10に示す培養物A(例えば、ヒトiPS細胞(以下、単にiPS細胞と称する))を、所定のサイトカインを含む培地で培養すると、培養物Aの状態や品質、培地の品質等の影響により、培養物Aが沿軸中胚葉細胞の培養物B(ステップS11)に分化誘導されるか、培養物Aが側板中胚葉細胞の培養物C(ステップS12)に分化誘導されるか、あるいは、培養物Aが、例えば、その他別の細胞、死んだ細胞、状態が粗悪な細胞等の目的対象外細胞(ステップS13)になるかの3通りの培養状態になる場合を一例に説明する。
【0252】
また、第4実施形態では、培養物Aを培養物Bに分化誘導するための最適な培養条件と、培養物Aを培養物Cに分化誘導するための最適な培養条件とが、それぞれ異なる培養条件であるとする。第4実施形態に係る状態推定システムでは、培養物Aの推定結果に基づいて、培養物Bに分化誘導する最適な培養条件で培養物Aを培養する処理工程と、培養物Cに分化誘導する最適な培養条で培養物Aを培養する処理工程と、培養物Aを廃棄する処理工程とのうちからいずれかを適宜選択し、培養物Aの将来的な培養状態に応じた最適な処理工程を実行する。ここで、培養条件とは、例えば、培地の種類や品質の他に、培養プロセスの培養温度、培養時間、培地のpH、培地の撹拌速度等の、培養条件に関する各種パラメータ(培養パラメータ)も含まれる。
【0253】
図1と同一構成について同一符号を付して示す
図14は、第4実施形態に係る状態推定システム1dの構成を示すブロック図である。第4実施形態では、生体試料の一例として培養物の例を示す。また、第4実施形態は、測定部2として、フローサイトメトリー法を用いたフローサイトメータを適用した例を示す。
【0254】
測定部2は、例えば、培養開始前や培養開始直後等の培養が終了してない、ある時点の培養物Aを液体に懸濁させ、培養物Aが一列になるように流路内に液体を流しつつ、1つ1つの培養物Aに対してそれぞれレーザ光を当てて反射した散乱光や蛍光等の反射光を測定する。測定部2は、反射光の測定結果を分析することにより培養物Aごとにそれぞれ特性値を得、培養物Aごとに測定した特性値を示す分析データを、各培養物Aの入力データとして生成する。
【0255】
第4実施形態に係る状態推定システム1dは、例えば、ある時点における複数の培養物Aを測定部2によりそれぞれ測定し、得られた分析データに基づいて特徴量抽出モデルを生成する。なお、ここで、分析データとは、測定部2であるフローサイトメータにより培養物Aを分析したときに測定される、反射光の強度や、散乱光の強度、蛍光の強度等であり、培養物Aの特性値となり得るものである。状態推定システム1dは、特徴量抽出モデルを得ると、実際にはどのような培養状態に分化誘導されるか未確定の培養物Aについて、測定部2で測定し、得られた分析データと、上記の特徴量抽出モデルと、に基づいて、現時点で将来的な培養状態が未確定の培養物Aをこのまま培養し続けたときに将来的にどのような培養状態になるかを推定することができる。なお、このように、生成した特徴量抽出モデルを用いて、培養状態を推定する培養物Aを「対象培養物」と称する。
【0256】
フローサイトメータである測定部2は、複数の培養物Aの各特性値を測定し、得られた測定結果を演算処理部3d及びデータベース4に出力する。演算処理部3dは、状態推定部10a、測定対象最適化推定部14及び次工程決定部22を有する。なお、測定対象最適化推定部14については、上述した実施形態と同様であるため、ここでは説明を省略し、以下、状態推定部10aと次工程決定部22とに着目して説明する。この場合、状態推定部10aには、特徴量抽出モデルを生成する際、測定部2又はデータベース4から、フローサイトメータ(測定部2)による複数の培養物Aの測定結果がそれぞれ分析データとして入力される。
【0257】
そして、本実施形態に係る状態推定部10aでは、ある時点において測定部2により測定した複数の培養物Aの分析データと、所定の培地を用いて各培養物Aをそれぞれ実際に培養したときの培養状態の結果(以下、培養結果とも称する)とを用いて、例えば、多変量解析等を行い、特徴量抽出モデルを生成する。本実施形態では、培養物Aを培養したときの培養状態として、培養物Bとなる場合と、培養物Cとなる場合と、目的対象外細胞となる場合との複数の状態があるため、ここでは、一例として、培養状態ごとにそれぞれ培養状態を推定するための特徴量抽出モデルを生成する例について説明する。なお、1つの特徴量抽出モデルに基づいて複数種類の培養状態を推定する例については後述する。
【0258】
すなわち、状態推定部10aは、培養物Aを培養して培養物Bになるかを推定する培養物B用の特徴量抽出モデルと、培養物Aを培養して培養物Cになるかを推定する培養物C用の特徴量抽出モデルと、培養物Aを培養して目的対象外細胞になるかを推定する目的対象外細胞用の特徴量抽出モデルと、をそれぞれ生成する。このような、特徴量抽出モデルは、培地を用いて培養物Aを培養したときの培養結果に影響を与える、培養物Aの状態や品質等を解析することができる。
【0259】
培養物Aを培養した培養結果ごとにそれぞれ生成される特徴量抽出モデルは、教師あり学習により生成してもよく、教師なし学習により生成してもよい。例えば、教師あり学習により生成する特徴量抽出モデルとしては、ある時点の対象培養物Aを測定部2で測定した結果得られる分析データを入力とし、対象培養物Aの培養をこのまま続けたと仮定したときに最終的に得られる将来的な培養状態を推定する状態推定結果を出力とする、回帰モデル等を適用することが望ましい。
【0260】
この場合、例えば、状態推定部10aにおいて、教師あり学習によって、培養物B用の特徴量抽出モデルを生成する際には、ある時点の複数の培養物Aを測定部2でそれぞれ測定して得られた、複数の分析データと、これら各培養物Aを実際に培養して培養物Bになった培養結果と、の対応関係を学習させ、培養物Bになったときの培養結果から分析データの分布を特徴づける。
【0261】
また、同様にして、状態推定部10aにおいて、教師あり学習によって、培養物C用の特徴量抽出モデルを生成する際には、ある時点の複数の培養物Aを測定部2でそれぞれ測定して得られた、複数の分析データと、これら各培養物Aを実際に培養して培養物Cになった培養結果と、の対応関係を学習させ、培養物Cになったときの培養結果から分析データの分布を特徴づける。
【0262】
さらに、同様にして、状態推定部10aにおいて、教師あり学習によって、目的対象外細胞用の特徴量抽出モデルを生成する際には、ある時点の複数の培養物Aを測定部2でそれぞれ測定して得られた、複数の分析データと、これら各培養物Aを実際に培養して目的対象外細胞になった培養結果と、の対応関係を学習させ、目的対象外細胞になったときの培養結果から分析データの分布を特徴づける。
【0263】
なお、その他、培養物B用の特徴量抽出モデルの教師あり学習としては、例えば、複数の培養物Aの分析データと、これら培養物Aをそれぞれ実際に培養して得られた各培養結果と、当該培養結果が所望する培養物Bになっているか否かを示す正解ラベル(例えば、所望する培養物Bになっているか否かを示す正解率)と、を用い、培養物Aの分析データ及びその培養結果を学習させる際に、培養物Aが培養物Bになった正解ラベルを付して学習させ、分析データの分布を特徴づけるようにしてもよい。
【0264】
この場合、培養物C用(又は目的対象外細胞用)の特徴量抽出モデルの教師あり学習も同様にして、複数の培養物Aの分析データと、これら培養物Aをそれぞれ実際に培養して得られた各培養結果と、当該培養結果が所望する培養物C(又は目的対象外細胞)になっているか否かを示す正解ラベル(例えば、所望する培養物B(又は目的対象外細胞)になっているか否かを示す正解率)と、を用い、培養物Aの分析データ及びその培養結果を学習させる際に、培養物Aが培養物C(又は目的対象外細胞)になった正解ラベルを付して学習させ、分析データの分布を特徴づける。
【0265】
特徴量抽出モデルとしては、例えば、主成分分析(PCA)や、部分的最小二乗法(PLS)、多項式回帰、ガウス過程回帰、Random Forest Regression等の種々の特徴量抽出モデルを適用することができる。また、特徴量抽出モデルとしては、例えば、培養物Aの特性値(フローサイトメータによる分析データ)及び培養結果を機械学習して生成される機械学習モデルを適用してもよい。
【0266】
機械学習モデルとしては、上述した実施形態と同様に、上記の多項式回帰、ガウス過程回帰、及び、Random Forest Regressionの他に、例えば、ニューラルネットワーク(CNNやBNN)等を適用することができる。培養物B用、培養物C用及び目的対象外細胞用の各特徴量抽出モデルを教師なし学習により生成する際には、上述した実施形態と同様に、複数の培養物Aの分析データを用い、これら複数の分析データの分布を、培養物B、培養物C又は目的対象外細胞となった培養結果ごとに特徴づける学習をさせることが望ましい。
【0267】
具体的には、状態推定部10aは、教師なし学習による特徴量抽出モデルを生成する場合、培養により培養物Bとなった複数の培養物Aの分析データ群の分布と、培養により培養物Cとなった複数の培養物Aの分析データ群の分布とを、例えば、多次元ガウス分布で近似する。上記処理によって生成した多次元ガウス分布の分布中心との状態推定空間内におけるマハラノビス距離に応じて閾値演算を行うことによって、目的対象外細胞とそれ以外(ここでは、培養物B及び培養物C)を識別する特徴量抽出モデルを構築することができる。次に、培養により培養物Bとなった複数の培養物Aの分析データ群の状態推定空間内における分布と、培養により培養物Cとなった複数の培養物Aの分析データ群の状態推定空間内における分布を、例えば、k-means法によりクラスタリングすることによって、培養物Bに対応するクラスタと培養物Cに対応するクラスタを得ることができ、これは培養物Bと培養物Cを識別する特徴量抽出モデルである。
【0268】
状態推定部10aは、対象培養物Aの将来的な培養状態を推定する際、対象培養物Aの分析データを培養物B用の特徴量抽出モデルに入力し、対象培養物Aをこのまま培養し続けたときに将来的に対象培養物Aの培養状態が培養物Bになるか否かを、当該培養物B用の特徴量抽出モデルに基づいて推定した推定結果を出力する。また、同様にして、状態推定部10aは、例えば、対象培養物Aの分析データを培養物C用の特徴量抽出モデルにも入力し、対象培養物Aをこのまま培養し続けたときに将来的に対象培養物Aの培養状態が培養物Cになるか否かを、当該培養物C用の特徴量抽出モデルに基づいて推定した推定結果を出力する。さらに、状態推定部10aは、例えば、対象培養物Aの分析データを目的対象外細胞用の特徴量抽出モデルに入力し、対象培養物Aをこのまま培養し続けたときに将来的に対象培養物Aの培養状態が目的対象外細胞になるか否かを、当該目的対象外細胞用の特徴量抽出モデルに基づいて推定した推定結果を出力する。
【0269】
状態推定部10aは、培養物B用の特徴量抽出モデルから得られた推定結果と、培養物C用の特徴量抽出モデルから得られた推定結果と、目的対象外細胞用の特徴量抽出モデルから得られた推定結果とのうち、推定結果で得られた正解率が最も高い推定結果を、対象培養物Aを培養し続けたときの将来的な培養状態であるとの推定結果として選定する。
【0270】
なお、上述した第4実施形態では、培養物B用、培養物C用及び目的対象外細胞用の特徴量抽出モデルをそれぞれ生成して、各特徴量抽出モデルに入力データを入力して特徴量抽出モデルごとにそれぞれ推定結果を得るようにした場合について説明したが、本発明はこれに限らない。例えば、1つの特徴量抽出モデルを生成して、当該特徴量抽出モデルに入力データを入力して1つの特徴量抽出モデルに基づいて培養物Aの将来的な培養状態を推定した推定結果を得ることが望ましい。
【0271】
例えば、状態推定部10aは、1つの特徴量抽出モデルを教師あり学習により生成する場合、ある時点の複数の培養物Aを測定部2でそれぞれ測定して得られた、複数の分析データと、これら各培養物Aを実際に培養して培養物B、培養物C又は目的対象外細胞になった培養結果と、の対応関係を学習させ、これら培養結果から分析データの分布を特徴づける1つの特徴量抽出モデルを生成する。
【0272】
また、状態推定部10aは、例えば、1つの特徴量抽出モデルを教師なし学習により生成する場合には、培養物Bになる培養物Aの分析データと、培養物Cになる培養物Aの分析データと、目的対象外細胞になる培養物Aの分析データとをk-means法によりクラスタリングし、特徴量を定義した状態推定空間においてこれら複数の分析データについてラベルなしで分類の最適化を行った後、得られたクラスタに対して培養物B、培養物C及び目的対象外胞のラベル付け(段階的に識別可能な直線や曲線等の識別値の付与)が作業者等により行われることで特徴量抽出モデルを生成する。これにより、状態推定部10aは、対象培養物Aの分析データを、当該特徴量抽出モデルの状態推定空間に射影し、対象培養物Aを培養し続けたときに将来的に対象培養物Aの培養状態が培養物B、培養物C又は目的対象外細胞になるのかを、識別値(ラベル等)を目安に推定できる。
【0273】
状態推定部10aは、対象培養物Aの将来的な培養状態を推定した推定結果が得られると、これを次工程決定部22に出力する。次工程決定部22は、対象培養物Aを培養物Bに分化誘導するのに最適な培養条件で対象培養物Aを培養する処理工程(以下、培養物B用処理工程とも称する)と、対象培養物Aを培養物Cに分化誘導するのに最適な培養条件で対象培養物Aを培養する処理工程(以下、培養物C用処理工程とも称する)と、対象培養物Aを廃棄する処理工程(以下、廃棄処理工程とも称する)とのうち、対象培養物Aの推定結果に基づいていずれかの処理工程を決定し、次工程情報として分取部25に出力する。
【0274】
具体的には、次工程決定部22は、対象培養物Aの将来的な培養状態が培養物Bであるとの推定結果を状態推定部10aから受け取ると、培養物B用処理工程を決定し、一方、対象培養物Aの将来的な培養状態が培養物Cであるとの推定結果を状態推定部10aから受け取ると、培養物C用処理工程を決定する。また、次工程決定部22は、対象培養物Aの将来的な培養状態が目的対象外細胞であるとの推定結果を状態推定部10aから受け取ると、廃棄処理工程を決定する。
【0275】
分取部25は、次工程決定部22から受け取った次工程情報に基づいて、対象培養物Aを自動的に分取し、第1培養部26a、第2培養部26b又は廃棄部27のいずれかに当該対象培養物Aを送出する構成を有する。分取部25には、
図15に示すように、主流路35と、副流路38a,38bと、分岐流路37a,37b,37cとが形成された基板30が設けられている。
【0276】
基板30に形成された主流路35は、上流側が測定部2であるフローサイトメータの流路に連通されており、一列に並んだ複数の培養物Aを含有した液体40が当該フローサイトメータの流路から流入される構成を有する。フローサイトメータの流路から主流路35内に流入される液体40の流速は、図示しないシリンジポンプ、ロータリーポンプ、遠心ポンプ、又は、空気圧ポンプ等によって制御される。
【0277】
主流路35には、分岐流路37a,37b,37cが下流側に連通され、副流路38a,38bの一端がフローサイトメータの流路と分岐流路37a,37b,37cとの間に連通されている。副流路38a,38bは、主流路35の流通方向に対して直交するようにして、互いに対向するように配置されている。副流路38a,38bは、主流路35への制御用液体の流入を制御することにより、主流路35内の液体40の流通方向を調整し、液体40内に含有した各培養物Aを、それぞれ最適な分岐流路37a,37b,37cに流出させる。なお、副流路38a,38bから主流路35への制御用液体の流入は、副流路38a,38bに設けられた、シリンジポンプ、ロータリーポンプ、遠心ポンプ、又は、空気圧ポンプ等の流体制御部38によって制御される。
【0278】
ここで、分岐流路37aの下流は、培養物B用処理工程を実行する第1培養部26aに連通し、分岐流路37bの下流は、培養物C用処理工程を実行する第2培養部26bに連通し、分岐流路37cの下流は、廃棄処理工程を実行する廃棄部27に連通している。
【0279】
分取部25は、次工程決定部22から次工程情報を流体制御部38が受け取り、次工程情報に応じて流体制御部38により副流路38a,38bから主流路35への制御用液体の流入を調整し、次工程情報を得た対象培養物Aを次工程情報に対応した分岐流路37a,37b,37cに流出させる。
【0280】
例えば、分取部25は、次工程決定部22から培養物B用処理工程が決定された対象培養物Aが主流路35内を流通する際、流体制御部38によって副流路38a,38bから主流路35への液体の流入を制御し、当該対象培養物Aを分岐流路37aに導き、当該分岐流路37aを介して第1培養部26aへと案内する。これにより、培養物B用処理工程が決定された対象培養物Aは、第1培養部26aにより、培養物Bに分化誘導するのに最適な培養条件で培養される。
【0281】
また、分取部25は、次工程決定部22から培養物C用処理工程が決定された対象培養物Aが主流路35内を流通する際、流体制御部38によって副流路38a,38bから主流路35への液体の流入を制御し、当該対象培養物Aを分岐流路37bに導き、当該分岐流路37bを介して第2培養部26bへと案内する。これにより、培養物C用処理工程が決定された対象培養物Aは、第2培養部26bにより、培養物Cに分化誘導するのに最適な培養条件で培養される。
【0282】
分取部25は、次工程決定部22から廃棄処理工程が決定された対象培養物Aが主流路35内を流通する際、流体制御部38によって副流路38a,38bから主流路35への液体の流入を制御し、当該対象培養物Aを分岐流路37cに導き、当該分岐流路37cを介して廃棄部27へと案内する。これにより、廃棄処理工程が決定された対象培養物Aは、廃棄部27により廃棄される。
【0283】
(4-2)作用及び効果
以上の構成において、第4実施形態に係る状態推定システム1dでは、測定部2で測定した複数の培養物Aの特性値を入力データとし、この入力データの分布を特徴づける特徴量抽出モデルに基づいて、対象培養物Aの特性値から、将来的に培養物Aを培養したときに複数種類の培養状態のうちいずれの培養状態(培養物B、培養物C又は目的対象外細胞)になるかを状態推定部10aで推定するようにした。このように、状態推定システム1dでも、上述した実施形態と同様に、対象培養物Aから所望する培養状態を得ることができるか否かを、事前に推定できるので、対象培養物Aの適正判断に要する時間を短縮化し得る。これにより、培養物Aを用いたバイオ生産や研究開発の効率を高めることができる。
【0284】
また、これに加えて、第4実施形態に係る状態推定システム1dでは、培養物Aを培養する際に、将来的に特定の培養状態になるであろう培養物Aだけを早い段階で分別し、分別した培養物Aだけを特定の培養状態にするのに最適な培養条件で培養を進めることができる。
【0285】
例えば、iPS細胞の分化誘導培養を行い、目的の細胞(例えば、網膜や、神経、赤血球、心筋等)を得ようとする場合には、iPS細胞を培養物Aとし、上述した状態推定システム1dを用いることで、iPS細胞を培養したときに目的の細胞になるか否かを、iPS細胞を実際に培養することなく事前に推定することができる。また、iPS細胞から、中胚葉細胞、心筋前駆細胞を順次介して、目的の細胞としてiPS細胞由来心筋細胞を培養によって得る場合には、上述した状態推定システム1dを用いることで、iPS細胞が培養によって、まずは中胚葉細胞になるか否かを、iPS細胞の培養前や培養途中で早期に推定することができるので、iPS細胞の適正判断に要する時間を大幅に短縮化し得る。
【0286】
そのため、状態推定システム1dでは、iPS細胞を培養して目的の細胞であるiPS細胞由来心筋細胞を生産する際、将来的に目的の細胞を高確率で生産できるiPS細胞と、培養しても目的の細胞を生産できない可能性があるiPS細胞とを分別し得、将来的に目的の細胞を高確率で生産できるiPS細胞だけを分取して培養を続けることができるので、その分、余分な培養作業を省いて効率的に培養作業を行うことができる。
(4-3)他の実施形態
なお、上述した第4実施形態においては、培養物Aの測定結果から特徴量抽出モデルに基づいて、培養物Aを培養して得られる細胞(培養物B、培養物C)を、培養物Aの将来的な培養状態として推定するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らない。例えば、培養物Aの測定結果から特徴量抽出モデルに基づいて、培養物Aを培養して得られる赤血球、白血球、血小板等の様々な血液細胞、又は、細胞以外の物質や成分等を、培養物Aの将来的な培養状態として推定するようにしてもよい。
【0287】
なお、上述した実施形態では、特徴量抽出モデルを生成する一例として、例えば、測定部2による培養物Aの測定結果と、培養物Aを培養したときに培養物B、培養物C又は目的対象外細胞になったとの培養結果とを利用して特徴量抽出モデルを生成した場合について説明したが、本発明はこれに限らず、培養物Aを培養したときに目的対象外細胞になったときの培養結果を用いずに、培養物B及び培養物Cになったときの培養結果のみを用いて当該特徴量抽出モデルを生成してもよい。この場合、測定部2により対象培養物Aの特性値を測定した測定結果を入力データとし、当該入力データから特徴量抽出モデルに基づいて対象培養物Aの将来的な培養状態を推定する際、培養物Aが培養物B及び培養物Cにならないとの推定結果を、培養物Aが目的対象外細胞になるとの推定結果として出力する。
【0288】
また、上述した実施形態では、測定部2による対象培養物Aの測定結果を入力データとし、当該入力データから特徴量抽出モデルに基づいて、対象培養物Aを培養したときの培養状態として培養物B、培養物C又は目的対象外細胞になるか否かを推定するようにしたが、本発明はこれに限らない。対象培養物Aを培養したときの培養状態として、例えば、特徴量抽出モデルの状態推定空間において培養物B及び培養物Cを規定する識別値(直線や曲線等)を設定する他、目的対象外細胞をさらに細分化した識別値を規定し、対象培養物Aが、目的対象外細胞のうち、死んだ細胞(状態が粗悪な細胞)等と、その他の細胞とに分化誘導する可能性を区別して推定した推定結果を、特徴量抽出モデルに基づいて得るようにしてもよい。
【0289】
上記のように、目的対象外細胞のうち、死んだ細胞(状態が粗悪な細胞)等と、その他の細胞とに分化誘導する可能性を区別した推定結果を、測定部2による対象培養物Aの測定結果(入力データ)から得られる特徴量抽出モデルは、上述した培養物B及び培養物C等と同様にして、教師あり学習や教師なし学習により生成すればよい。
【0290】
また、上述した第4実施形態においては、測定部2による対象培養物Aの測定結果から、特徴量抽出モデルに基づいて、培養物Aを培養したときの培養状態を推定する際に、例えば、局所外れ値因子法等に基づいて特徴量抽出モデルの状態推定空間において対象培養物Aの異常検知を行いつつ、対象培養物Aの将来的な培養状態(培養物B、培養物C及び目的対象外細胞)を推定するようにしてもよい。
【0291】
また、上述した第4実施形態においては、
図13に示すように、培養物Aを培養すると、培養物B、培養物C及び目的対象外細胞の3つのうち、いずれかに分化誘導する場合について述べたが、本発明はこれに限らない。例えば、
図16の16Aに示すように、培養物Aを培養すると(ステップS10)、ステップS15に示す培養物E(例えば、赤血球)、又は、ステップS13に示す目的対象外細胞(赤血球、白血球、血小板などのさまざまな血液細胞)に分化誘導される場合や、その他、4つ以上の細胞等に分化誘導される場合に適用してもよい。
【0292】
また、その他、例えば、
図16の16Bに示すように、培養物Aを培養してゆくと、培養物Dを介して培養物Eに多段的に分化誘導する場合についても、第4実施形態に係る状態推定システム1dを適用してもよい。この場合、
図16の16Bでは、ステップS10に示す培養物A(例えば、ヒトiPS細胞(iPS細胞))を、所定のサイトカインを含む培地で培養すると、培養物Aの状態等の影響により、培養物Aが血液前駆細胞の培養物D(ステップS15)に分化誘導されるか、あるいは、その他別の細胞や、死んだ細胞、状態が粗悪な細胞等のような目的対象外細胞(ステップS13)になるかの2通りの培養状態になる例を示す。また、この例では、その後、さらに得られた培養物Dを培養すると、培養物E(赤血球)に分化誘導されるか、あるいは、その他別の細胞や、死んだ細胞、状態が粗悪な細胞等の目的対象外細胞(ステップS13)になるかの2通りの培養状態になる例を示す。
【0293】
このような場合、状態推定システム1dでは、例えば、培養物Aを培養して培養物Dになるか、培養物Aを培養して目的対象外細胞になるかを推定する第1の特徴量抽出モデルを状態推定部10aによって生成する。さらに、状態推定システム1dでは、培養物Dを培養して培養物Eになるか、培養物Dを培養して目的対象外細胞になるかを推定する第2の特徴量抽出モデルを状態推定部10aによって生成する。
【0294】
なお、ここでの特徴量抽出モデルの生成は上述した説明と同様に生成することから、ここではその説明は省略する。また、特徴量抽出モデルとしては、上述したように、培養物Aを培養して培養物Dになるかを推定する培養物D用の特徴量抽出モデルと、培養物Aを培養して目的対象外細胞になるかを推定する特徴量抽出モデルと、培養物Dを培養して培養物Eになるかを推定する培養物E用の特徴量抽出モデルと、培養物Dを培養して目的対象外細胞になるかを推定する特徴量抽出モデルとをそれぞれ個別に生成するようにしてもよい。
【0295】
フローサイトメータである測定部2は、複数の対象培養物Aの各特性値を測定し、得られた測定結果を分析データとして得る。状態推定部10aは、対象培養物Aの分析データを第1の特徴量抽出モデルに入力し、対象培養物Aをこのまま培養し続けたときに将来的に対象培養物Aの培養状態が培養物D又は目的対象外細胞になるか否かを、第1の特徴量抽出モデルに基づいて推定した推定結果を得る。
【0296】
状態推定部10aは、対象培養物Aごとにそれぞれ将来的な培養状態を推定した推定結果が得られると、これを次工程決定部22に出力する。次工程決定部22は、対象培養物Aを培養物Dに分化誘導するのに最適な培養条件で対象培養物Aを培養する処理工程(以下、培養物D用処理工程とも称する)と、対象培養物Aを廃棄する処理工程(以下、第1廃棄処理工程とも称する)とのうち、対象培養物Aの推定結果に基づいて対応した処理工程を決定し、次工程情報として分取部25に出力する。
【0297】
分取部25は、次工程決定部22から受け取った次工程情報に基づいて、対象培養物Aを自動的に分取し、培養物D用処理工程の次工程情報を得た対象培養物Aだけを第1培養部26aに選定して送出する。なお、分取部25は、目的対象外細胞になるとの推定結果を基に第1廃棄処理工程の次工程情報を得た対象培養物Aを廃棄部27に送出し、当該廃棄部27において対象培養物Aを廃棄させる。
【0298】
次いで、フローサイトメータである測定部2は、第1培養部26aで対象培養物Aを培養して得られた培養物Dを対象培養物Dとし、各対象培養物Dの特性値をそれぞれ測定して、得られた測定結果を分析データとして得る。状態推定部10aは、対象培養物Dの分析データを第2の特徴量抽出モデルにそれぞれ入力し、対象培養物Dをこのまま培養し続けたときに将来的に対象培養物Dの培養状態が培養物E又は目的対象外細胞になるか否かを、当該第2の特徴量抽出モデルに基づいて推定する。
【0299】
状態推定部10aは、対象培養物Dごとにそれぞれ将来的な培養状態を推定した推定結果が得られると、これを次工程決定部22に出力する。次工程決定部22は、対象培養物Dを培養物Eに分化誘導するのに最適な培養条件で対象培養物Dを培養する処理工程(以下、培養物E用処理工程とも称する)と、対象培養物Dを廃棄する処理工程(以下、第2廃棄処理工程とも称する)とのうち、対象培養物Dの推定結果に基づいて対応した処理工程を決定し、次工程情報として分取部25に出力する。
【0300】
分取部25は、次工程決定部22から受け取った次工程情報に基づいて、対象培養物Dを自動的に分取し、培養物E用処理工程の次工程情報を得た対象培養物Dだけを第2培養部26bに選定して送出する。なお、分取部25は、目的対象外細胞になるとの推定結果を基に第2廃棄処理工程の次工程情報を得た対象培養物Dを廃棄部27に送出し、当該廃棄部27において対象培養物Dを廃棄させる。
【0301】
(4-3)その他
なお、上述した第1実施形態から第4実施形態に係る状態推定システム1a,1c,1dでは、培養物の育種のために、特徴量抽出モデルに基づいて、測定部で得られた入力データから培養物の培養状態を推定するようにしてもよい。
【0302】
この場合、例えば、
図16の16Bに示す例では、状態推定ステップにより培養物Dになるとの推定結果が得られた対象培養物Aを分取し(分取ステップ)、第1培養部で培養して培養物Dとし(培養ステップ)、得られた培養物Dに変異を誘発する変異原を加えたり、遺伝子操作を加えたりする等して培養物D´(図示せず)を得る(変異ステップ)。そして、培養物D´の将来的な培養状態を推定する特徴量抽出モデルを生成しておき、当該特徴量抽出モデルを使用して培養物D´の培養状態を推定する(状態推定ステップ)。このように、状態推定システム1a,1c,1dでは、状態推定ステップ、分取ステップ、培養ステップ、変異ステップを繰り返すことで、培養物の培養状態を選定して変異させてゆき、選定した培養物(例えば、変異した培養物だけでなる培養物群や、変異した培養物と変異していない培養物との両方を含む状態の培養物群)を培養してゆくことで新たな機能等を改変した培養物を得ることも可能であり、培養物の育種を行うことも可能となる。
【0303】
また、上記の育種については、上記の変異ステップは必ずしも行う必要はなく、公知の育種のプロセスに従って、例えば、特徴量抽出モデルの推定結果に基づいて将来的な培養状態を推定した数種の対象培養物Aを分取して、上記の培養ステップ、状態推定ステップ、分取ステップ等を繰り返し行ってもよい。また、その他の育種として、特徴量抽出モデルの推定結果に基づいて培養状態を推定した対象培養物Aを培養して突然変異が生じた培養物D´´等を分取して、上記の培養ステップ、状態推定ステップ、分取ステップを繰り返し行ってもよい。さらに、特徴量抽出モデルの推定結果に基づいて将来的に突然変異の培養状態となり得る対象培養物Aを分取し、上記の培養ステップ、状態推定ステップ、分取ステップ等を繰り返し行ってもよい。
【0304】
また、上述した第4実施形態においては、測定部としてフローサイトメータを適用し、フローサイトメータから得られる分析データを入力データとして用いた場合について述べたが、本発明はこれに限らず、例えば、測定部として質量分析装置、顕微鏡装置、ラマン分光装置、クロマトグラフィー、デジタルPCR測定装置、核磁気共鳴装置、抗体定量キット及び核酸配列決定装置を適用してもよい。この場合、入力データとしては、質量分析装置から得られるマススペクトル、顕微鏡装置から得られる画像データ、ラマン分光装置から得られるラマンスペクトル、クロマトグラフィーから得られるクロマトグラム、デジタルPCR測定装置から得られる特定物質の量、核磁気共鳴装置から得られる分析データ、抗体定量キットから得られる特定抗原の量、及び、核酸配列決定装置から得られる遺伝子配列分析データを入力データとして適用できる。
【0305】
また、上述した第4実施形態においては、測定部2を介して取得した複数の培養物の特性値を少なくとも含む入力データとして、フローサイトメータにより取得した複数の培養物の分析データを入力データとし、当該入力データを用いて特徴量抽出モデルの生成や、特徴量抽出モデルにより推定結果を得る場合について説明したが、本発明はこれに限らない。例えば、フローサイトメータにより取得した複数の培養物の分析データに加えて、当該培養物の培養プロセスの培養温度、培養時間、培地のpH、培地の撹拌速度等の、培養条件に関するパラメータ(培養パラメータ)を含んだ入力データを用いて特徴量抽出モデルの生成や、特徴量抽出モデルにより推定結果を得るようにしてもよい。
【0306】
また、上述した質量分析装置から得られるマススペクトル、顕微鏡装置から得られる画像データ、ラマン分光装置から得られるラマンスペクトル、クロマトグラフィーから得られるクロマトグラム、デジタルPCR測定装置から得られる特定物質の量、核磁気共鳴装置から得られる分析データ、抗体定量キットから得られる特定抗原の量、及び、核酸配列決定装置から得られる遺伝子配列分析データを入力データとして用いる場合も同様に、これらに加えて、培養条件に関するパラメータ(培養パラメータ)を含んだ入力データとしてもよく、当該入力データを用いて特徴量抽出モデルの生成や、特徴量抽出モデルにより推定結果を得るようにしてもよい。
【符号の説明】
【0307】
1a、1c、1d 状態推定システム
2 測定部
10a、10c 状態推定部
12 判定部
14 測定対象最適化推定部
15 培養パラメータ最適化推定部