(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】表示装置
(51)【国際特許分類】
G02B 30/56 20200101AFI20241016BHJP
H04N 13/302 20180101ALI20241016BHJP
【FI】
G02B30/56
H04N13/302
(21)【出願番号】P 2021087518
(22)【出願日】2021-05-25
【審査請求日】2024-01-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000010098
【氏名又は名称】アルプスアルパイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098497
【氏名又は名称】片寄 恭三
(74)【代理人】
【識別番号】100099748
【氏名又は名称】佐藤 克志
(74)【代理人】
【識別番号】100103171
【氏名又は名称】雨貝 正彦
(74)【代理人】
【識別番号】100105784
【氏名又は名称】橘 和之
(72)【発明者】
【氏名】引地 和哉
(72)【発明者】
【氏名】安次嶺 勉成
【審査官】弓指 洋平
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-031925(JP,A)
【文献】特開2013-190448(JP,A)
【文献】特開2017-146564(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0285904(US,A1)
【文献】国際公開第2016/199917(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 27/00ー30/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
再帰反射を利用して空中像を表示可能な表示装置であって、
画像を表示可能なディスプレイと、
前記ディスプレイから出射される光を反射するビームスプリッターと、
前記ビームスプリッターからの光を入射光と同一方向に反射する再帰反射部材と、
前記
ディスプレイの傾斜角を可変する第1の可変手段と、
前記ビームスプリッターの傾斜角を可変する第2の可変手段と、
前記空中像を垂直方向から観察したとき、ユーザーの視界に前記ディスプレイの画像が入り込まないように前記第1および第2の可動手段を制御する制御手段と、
を有する表示装置。
【請求項2】
表示装置はさらに、前記ディスプレイ、前記ビームスプリッターおよび前記再帰反射部材を配置するハウジングを有し、
前記ハウジングの基準面に対する前記ディスプレイの傾斜角をΔDisplay、
前記ハウジングの基準面に対する空中像の傾斜角をΔAerial、前記空中像と前記ディスプレイとの成す角をΔθとしたとき、
前記制御手段は、前記第1および第2の可変手段
に、
Δθ=180-(ΔAerial+ΔDisplay)≧90度、
を満足させる、請求項1に記載の表示装置。
【請求項3】
前記ハウジングの基準面と直交する面に対する前記ビームスプリッターの傾斜角をΔBSとしたとき、
前記制御手段は、前記第1および第2の可変手段
に、
ΔAerial=ΔBS×2+ΔDisplay
を満足させる、請求項2に記載の表示装置。
【請求項4】
再帰反射を利用して空中像を表示可能な表示装置であって、
画像を表示可能なディスプレイと、
前記ディスプレイから出射される光を反射するビームスプリッターと、
前記ビームスプリッターからの光を入射光と同一方向に反射する再帰反射部材と、
前記ディスプレイの傾斜角を可変する第1の可変手段と、
前記ビームスプリッターの傾斜角を可変する第2の可変手段とを有し、
前記第1の可変手段は、前記第2の可変手段と連動する機構を含む、表示装置。
【請求項5】
表示装置はさらに、前記ディスプレイ、前記ビームスプリッターおよび前記再帰反射部材を配置するハウジングを有し、
前記ハウジングの基準面に対する前記ディスプレイの傾斜角をΔDisplay、前記ハウジングの基準面に対する空中像の傾斜角をΔAerial、前記空中像と前記ディスプレイとの成す角をΔθとしたとき、前記機構は、前記第1および第2の可変手段に、
Δθ=180-(ΔAerial+ΔDisplay)≧90度、
を満足させる、請求項4に記載の表示装置。
【請求項6】
前記制御手段は、ユーザーの視点を算出し、算出した視点に基づき空中像を観察するときの最適角を推定し、推定した最適角に基づき前記第1および第2の可変手段を制御する、請求項
1に記載の表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再帰反射を利用して空中に像を表示する表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
再帰反射を用いた空中表示(Aerial Imaging by Retro-Reflection:AIRR)が知られている(例えば、特許文献1、2、3、4)。また、特許文献5は、ビームスプリッターとディスプレイを可動させ、空中像の平面像を良好に観察することができる表示装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-107165号公報
【文献】特開2018-81138号公報
【文献】特開2019-66833号公報
【文献】特開2019-101055号公報
【文献】特開2013-190448号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
AIRR表示装置をデスク型とした場合、その機能として可動する空中像(または空中映像)が重要である。空中像を可動させることで、ユーザーが空中像を観察することができる視野角を広げ、ユーザーの身体的制限を大幅に改善することが期待できる。特許文献5の表示装置は、ビームスプリッターとディスプレイを可動させて空中像を制御しているが、空中像の観察中の視界にディスプレイ本体が入ってしまうことに対する対策が何ら講じられていない。
【0005】
空中像とディスプレイとが重なると、空中像にディスプレイの映像が入り込み、空中像の特徴である映像の浮遊感が損われてしまう。
図1は、従来のデスク型の表示装置の構成を示す概略断面図である。表示装置10は、画像を表示可能な画面を有するディスプレイ(光源)20と、ビームスプリッター30と、再帰反射部材40と、ハウジングに設置された透明なガラス等のテーブル50とを含む。
【0006】
ディスプレイ20から出射された光は、その一部がビームスプリッター30で反射され、その反射光が凹状の再帰反射部材40に入射し、その入射光は、再帰反射部材40によって入射光と同一方向に反射され、その反射光の一部がビームスプリッター30、テーブル50を透過し、再結像することで空中像60が表示される。空中像60は、ビームスプリッター30の面に関しディスプレイ20と対称の位置に生成される。ユーザーが観察できる空中像60は、ユーザーの視点Uからビームスプリッター30を介して再帰反射部材40を見ることができる範囲に限られる。
【0007】
図示するように、ユーザーの視点Uからの視界にディスプレイ20が入り込んでしまうと、ユーザーには、空中像60とディスプレイ20の画像22とが重なって観察され、空中像60の浮遊感が損なわれてしまう。
【0008】
本発明は、このような従来の課題を解決し、空中像にディスプレイの画像が入り込むのを防止する機能を備えた表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る表示装置は、再帰反射を利用して空中像を表示可能なものであって、画像を表示可能なディスプレイと、前記ディスプレイから出射される光を反射するビームスプリッターと、前記ビームスプリッターからの光を入射光と同一方向に反射する再帰反射部材と、前記ディプレイの傾斜角を可変する第1の可変手段と、前記ビームスプリッターの傾斜角を可変する第2の可変手段とを有する。
【0010】
ある態様では、前記ディスプレイの傾斜角をΔDisplay、前記ビームスプリッターに関し前記ディスプレイと対称の位置に生成される空中像の傾斜角をΔAerial、前記空中像と前記ディスプレイとの成す角をΔθとしたとき、前記第1および第2の可変手段は、Δθ=180-(ΔAerial+ΔDisplay)≧90度を満足させる。ある態様では、前記ビームスプリッターの傾斜角をΔBSとしたとき、前記第1および第2の可変手段は、ΔAerial=ΔBS×2+ΔDisplayを満足させる。ある態様では、前記第1の可変手段は、前記第2の可変手段と連動する機構を含む。ある態様では、表示装置はさらに、前記空中像を垂直方向から観察したとき、ユーザーの視界に前記ディスプレイの画像が入り込まないように前記第1および第2の可動手段を制御する制御手段を含む。ある態様では、前記制御手段は、ユーザーの視点を算出し、算出した視点に基づき空中像を観察するときの最適角を推定し、推定した最適角に基づき前記第1および第2の可変手段を制御する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ビームスプリッターおよびディスプレイを可動するようにしたので、空中像の可動域を拡張することができ、これにより、種々のユーザーのアイポイントから浮遊感のある空中像を観察させることができる。特に、空中像の角度依存性の高いビームスプリッターを可変することで、ディスプレイの可動を抑制しつつ空中像の可動域を広げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】従来の表示装置の構成を示す概略断面図である。
【
図2】本発明の実施例に係る表示装置の概略断面図である。
【
図3】本発明の実施例に係る表示装置のビームスプリッターとディスプレイとを可動させたときの空中像の可動を説明する図である。
【
図4】本発明の実施例に係る表示装置のビームスプリッターとディスプレイを連結して可動する角度調整機構の一構成例を示す図である。
【
図5】本発明の他の実施例に係る車載表示装置の構成例を示すブロック図である。
【
図6】本発明の実施例に係る表示装置の実証例を説明する図である。
【
図7】本発明の実施例に係る表示装置の実証例を説明する図である。
【
図8】本発明の実施例に係る表示装置の実証例を説明する図である。
【
図9】本発明の実施例に係る表示装置の実証例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の表示装置は、特殊なメガネ等をかけなくても3次元空間内に再帰反射を用いた空中像または空中映像を表示する。以下の実施例の説明で参照される図面は、発明の理解を容易にするために誇大した表示を含んでおり、実際の製品の形状やスケールをそのまま表したものではないことに留意すべきである。
【実施例】
【0014】
次に、本発明の実施例について詳細に説明する。
図2は、本発明の実施例に係る表示装置の構成を示す概略断面図である。本実施例の表示装置100は、光源としてのディスプレイ110と、ビームスプリッター120と、再帰反射部材130と、デスクを構成するハウジング(筐体)の頂部に配置されたテーブル140とを含んで構成される。本実施例の表示装置100は、ビームスプリッター120およびディスプレイ110を可動させることができ、これにより、空中像150が表示される位置または角度を変化させることができる。
【0015】
ディスプレイ110は、画像または映像を表示するための画面112を含み、当該画面112から一定の出射角または放射角で光を出射する。ディスプレイ110は、特に限定されないが、例えば、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、投射型プロジェクター、発光ダイオウード、レーザーダイオードなどを用いることができる。
【0016】
ディスプレイ110は、ハウジングの基準面Pに対して画面112の傾斜角が変化するように、その端部を支点として回転可能である。基準面Pは、例えば、鉛直面である。ディスプレイ110の傾斜角を可変する機構は、特に限定されないが、例えば、モーターによりディスプレイ110を回転させるようにしてもよいし、リンク機構などを用いて回転させるようにしてもよい。ここで、基準面Pとディスプレイ110の主面(画面112)との成す角をΔDisplayとする。
【0017】
テーブル140は、例えば、デスク型のハウジングの頂部に配置される。テーブル140は、ガラスまたはプラスチック等の透明が板状の部材であり、その主面が基準面Pに対して概ね90度となるように固定される。
【0018】
テーブル140の下方にビームスプリッター120が配置される。ビームスプリッター120は、入射光を反射光と透過光に分離する半透明な光学部材であり、ディスプレイ110の画面112から出射された光の一部を再帰反射部材に向けて反射する。なお、ビームスプリッター120は、反射光量と透過光量とが等しいハーフミラーであってもよい。
【0019】
ビームスプリッター120は、基準面Pに対して主面の傾斜角が変化するように、その端部を支点として回転可能である。ビームスプリッター120の傾斜角を可変する機構は、特に限定されないが、例えば、モーターによりビームスプリッター120を回転させるようにしてもよいし、リンク機構などを用いて回転させるようにしてもよい。ここで、テーブル140の主面とビームスプリッター120の主面との成す角をΔBSとする。
【0020】
ディスプレイ110の下方に再帰反射部材130が配置される。再帰反射部材130は、入射光と同じ方向に光を反射する光学部材であり、その構成は、特に限定されないが、例えば、三角錐型再帰反射素子、フルキューブコーナー型再帰反射素子などのプリズム型再帰反射素子やビーズ型再帰反射素子によって構成される。再帰反射部材130は、例えば、凹面鏡のよう構成され、ビームスプリッター120から入射した光をビームスプリッター120に向けて反射する。
【0021】
空中像150は、ビームスプリッター120の主面に関し、ディスプレイ110と対称の位置に生成される。ここで、空中像150の主面と基準面Pとの成す角をΔAerialとし、空中像150の主面とディスプレイ110の主面とが成す角をΔθとする。
【0022】
ユーザーが観察できる空中像150は、ユーザーの視点Uからビームスプリッター120を介して再帰反射部材130を見ることができる範囲に限られる。また、ユーザーにとって空中像150を観察するための最適な角度または方向は、空中像150を真上から見る方向であり、つまり空中像150の主面と直角の方向である。この視点の方向から見た視界にディスプレイ110が入り込むと、空中像150にディスプレイ110の画像または映像が入り込み、空中像150の浮遊感が失われる。
【0023】
本実施例では、ユーザーの視界にディスプレイ110が入り込まないようにするため、空中像150とディスプレイ110との成す角Δθを90度以上にする。
このときの関係を数式(1)に示す。
Δθ=180-(ΔAerial+ΔDisplay)≧90°・・・(1)
Δθが90度以上であれば、ユーザーは、ディスプレイ110の画面112の画像を見ることができない。
【0024】
数式(1)満たすためにΔDisplayを最小限に抑える。目的は、ΔAerialの可動域を広げることなので、そのためにはビームスプリッター120を可動するのが有効である。ビームスプリッター120を可動させたときのΔAerial、ΔBS、ΔDisplayとの関係を数式(2)に示す。
ΔAerial=ΔBS×2+ΔDisplay・・・(2)
【0025】
数式(2)に示すように、ディスプレイ110の可動よりもビームスプリッター120の可動がより空中像150の可動を大きくすることができ、ΔBS×2の分、ΔDisplayの可動を抑えることができる。ビームスプリッター120を可動させることで、ディスプレイ110の可動を最小限に抑えつつ、空中像150の可動域を広げ、数式(1)を実現させることができる。ディスプレイ110の可動を抑えることは、ハウジングの省スペース化にもつながる。
【0026】
図3に、ディスプレイ110とビームスプリッター120を可動させたときの空中像150の可動域を例示する。
図3(A)、(B)は、ディスプレイの傾斜角を比較的小さくした状態でビームスプリッター120を可動させたときの空中像150を示している。この場合、Δθが90度以上であり、空中像150の可動は適度である。
図3(C)、(D)は、
図3(A)、(B)のときよりもディスプレイの傾斜角を大きくした状態でビームスプリッター120を可動させたときの空中像150を示している。空中像150がテーブル140に向けてかなり傾斜し、Δθが90度未満となる。この場合、空中像150の可動は過多である。
【0027】
図4(A)に、本実施例の角度調整機構の一例を示す。角度調整機構160は、ディスプレイ110とビームスプリッター120とを連結する伸縮自在のリンク170を含む。リンク170の一方の端部は、ディスプレイ110の側部に沿って形成された溝内に回転可能にかつ摺動可能に接続され、他方の端部は、ビームスプリッター120の側部に沿って形成された溝内に回転可能にかつ摺動可能に接続される。角度調整機構200は、数式(2)に示す関係を満足するようにディスプレイ110およびビームスプリッター120の双方を連動して回転させ、ΔBSとΔDisplayを調整し、空中像150を可動させる。
【0028】
一例として空中像150の可動範囲(ΔAerial)は、
図4(E)の表に示すように0°~60°を想定する。この表は、数式(2)に従い、ΔAerialを設定するときのビームスプリッター120の傾斜角(ΔBS)とディスプレイ110の傾斜角(ΔDisplay)の関係を例示している。また、
図4(A)~
図4(D)は、当該表に規定するΔBS、ΔDisplayに従い、ΔAerial=0°、ΔAerial=10°、ΔAerial=30°、ΔAerial=60°を設定した例を示している。例えば、ΔAerialを60°に設定する場合、ΔBS=15°、ΔDisplay=30°に調整される。
これらの例において、
図4(D)に示すΔAerial=60°のとき、数式(1)に規定するΔθ≧90°の条件を満足する。すなわち、
Δθ=180-(60°+30°)=90°・・・(1)
【0029】
なお、
図4(E)の表に規定するΔBS、ΔDisplayの傾斜角は一例であり、これ以外の傾斜角であってもよい。例えば、ΔAerialを30°にする場合、数式(2)に従い、ΔBS=10°、ΔDisplay=10°にしてもよいし、ΔAerialを50°にする場合、ΔBS=20°、ΔDisplay=10°にしてもよい。また、上記実施例では、角度調整機構160がビームスプリッター120とディスプレイ110とを連動させる例を示したが、これは一例であり、角度調整機構160は、ビームスプリッター120とディスプレイ110とをそれぞれ別個に独立した機構で回転ないし移動をさせるようにしてもよい。
【0030】
次に、本実施例の他の実施例について説明する。
図5は、本実施例の表示装置の構成を示すブロック図である。表示装置200は、ユーザーからの入力を受け取る入力部210、撮像部220、座席情報取得部230、記憶部240、表示部250、ビームスプリッター駆動部260、ディスプレイ駆動部270、音声出力部280および制御部290を含んで構成される。
【0031】
本実施例の表示装置200は、例えば、車両に搭載される。撮像部220は、車内空間を撮像し、撮像した画像データを制御部290に提供する。座席情報取得部230は、車両に関する情報を取得する。座席情報は、例えば、座席のシート位置、背もたれの傾斜角などを含む。記憶部240は、表示装置200に必要な種々のデータやアプリケーションソフトウエア等を格納する。例えば、ディスプレイ110に表示するための画像データや音声出力部280から出力する音声データなどを格納する。
【0032】
表示部250は、
図2に示すようなディスプレイ110、ビームスプリッター120、再帰反射部材130、テーブル140等を含む。ビームスプリッター駆動部260は、ビームスプリッター120の傾斜角を可変する。例えば、ビームスプリッター駆動部260は、ビームスプリッター120に接続されたモーターを駆動し、その傾斜角を可変する。ディスプレイ駆動部270は、ディスプレイ110の傾斜角を可変する。例えば、ディスプレイ駆動部270は、ディスプレイに接続されたモーターを駆動し、その傾斜角を可変する。音声出力部280は、例えば、表示部150が表示する画像に対応する音声を出力する。制御部290は、表示部250が表示する画像を制御したり、ビームスプリッター駆動部260やディスプレイ駆動部270を制御する。
【0033】
ある態様では、制御部290は、ユーザーの視点から観察するときの空中像の最適角を推定し、推定した最適角に基づきビームスプリッター駆動部260およびディスプレイ駆動部270を制御し、Δθ≧90°を実現する。
【0034】
空中像の最適角を推定するために、制御部290は、撮像部220で撮像された画像データを解析してユーザーの視点(三次元座標位置)を算出する。視点(アイポイント)は、左右の眼の中心位置とする。また、初期設定されたディスプレイ110の取り付け位置(高さや、角度(ΔDisplay)等)や、ビームスプリッター120の取り付け位置は既知とする。制御部290は、ビームスプリッターの主面に関し対称となる位置に空中像150が生成されること鑑み、算出された視点から空中像150を垂直方向に見るための空中像150の最適角(ΔAerial)を推定する。そして、推定された最適角に基づき数式(1)、(2)を満足するようにビームスプリッター120およびディスプレイ110を回転させる角度を算出し、算出された角度に従いビームスプリッター駆動部260およびディスプレイ駆動部270を制御する。
【0035】
例えば、空中像の最適角(ΔAerial)として40°が推定されたとき、制御部290は、数式(2)または
図4(E)の表によりΔBS=10°、ΔDisplay=20°を算出し、算出した値に基づきビームスプリッター駆動部260およびディスプレイ駆動部270の駆動を制御する。
【0036】
また、ユーザーの視点を算出する別の方法として、制御部290は、座席情報取得部230から取得された座席情報と、記憶部240に予め用意された標準的な身体情報(例えば、座高、シートに着座したときの頭部の高さなど)とを用いてユーザーの視点を算出するようにしてもよい。
【0037】
このように本実施例によれば、ユーザーの視点を算出し、算出した視点から空中像の最適角(ΔAerial)を推定し、推定した最適角に基づきビームスプリッター120およびディスプレイ110を回転させる角度を算出することで、ユーザーは、何ら操作することなく自動的にΔBSおよびΔDisplayの調整を行うことができる。その結果、ユーザーは、浮遊感のある空中像を観察することができる。
【0038】
上記実施例では、ΔBSおよびΔDisplayを自動的に調整するようにしたが、これに限らず、例えば、ユーザーは、ΔBSまたはΔDisplayを調整するための指示を入力部210から入力するようにしてもよい。
【0039】
上記実施例では、ビームスプリッター120と再帰反射部材130とを用いて空中像150を生成する例を示したが、ビームスプリッター120の代わりに偏光ビームスプリッターを用い、再帰反射部材130の上面側にλ/4板を配置するようにしてもよい。偏光ビームスプリッターは、ディスプレイ110からの光を反射し、λ/4板は、偏光ビームスプリッターで反射された光を入射し、入射した光に位相差π/2(90度)を与えて透過させる。再帰反射部材130は、λ/4板を透過した光を入射光と同じ方向に反射する。再帰反射部材130で反射された光は、再びλ/4板を透過するとき、位相差π/2を与えられる。このため、λ/4板を透過した光は、λ/4板に入射したときの光と位相差πを有する。例えば、λ/4板に入射した光が直線偏光であれば、λ/4板を透過したとき円偏光(または楕円偏光)となり、この円偏光は、再帰反射部材130で奇数回再帰反射されたとき、逆方向の円偏光となり、この逆方向の円偏光がλ/4板を透過したとき、元の直線偏光とは180度異なる方向の直線偏光となる。こうして、λ/4板を透過した光が偏光ビームスプリッターに入射されると、その大部分が偏光ビームスプリッターを透過し、透過した光が結像し、空中像が形成される。
【0040】
次に、本実施例の表示装置における具体的な実証例について説明する。観察者の対象身長を130cm~190cmとする。130cmは、小学生の平均身長であり、190cmは、大人の大部分の身長をカバーする。
図6に、大人と小学生の平均座高を示す。また、アイポイント(視点)は、アイポイント=座高-10cmで定義される。
図6に、大人と小学生のアイポイントを示す。
【0041】
次に、人間工学に基づくデスク、椅子の最適値の算出方法は、次のようになる。
椅子の座面の高さ=身長×0.25-1
デスクの高さ=(身長×0.25-1)+(身長×0.183-1)
例えば、日本人成人の平均身長は約165cmであり、この場合、椅子の座面高さは39cm、デスクの高さは68cmである。
【0042】
図7は、アイポイントから空中像の最適角(ΔAerial)の算出例を示す図である。図示するように、平均成人の座高=89cm、椅子の座面高さ=39cm、椅子の接地面からのアイポイントの高さ=118cm、デスクの高さ68cm、デスクと観察者との間の必要最低距離=45cmとしたとき、空中像の最適角は、次式によって算出される。
ΔAerial=cos(アイポイント-空中像の水平距離/アイポイント-空中像の実距離)
当該数式により、アイポイントの高さ118cmのときのΔAerialは、48度である。
ちなみに、アイポイントの高さが最大値である130cmの場合、ΔAerialは53度、最小値である100cmの場合、ΔAerialは35度である。
【0043】
空中像の最適角がΔAerial=48°の場合、数式(1)のΔθ=180°-(48°+48°)=84°となり、Δθ<90°になる。ここでは、ビームスプリッター120が水平であり(ΔBS=0°)、ビームスプリッター120の主面に関し対称であるディスプレイ110のΔDisplayは48°である。この状態では、ユーザーの視界にディスプレイ110の映像が入り込んでしまう。
【0044】
そこで、本実施例では、
図4(E)の表を参照し、最適角に最も近いΔAerial=50を参照し、ビームスプリッター120の角度をΔBS=15°、ディスプレイ110の角度をΔDisplay=20°に調整する。これにより、数式(1)のΔθ≒180°-(20°+48°)≒112°となり、Δθ>90°とすることができる。
【0045】
図8は、座席の背もたれを傾斜させたときの空中像の最適角(ΔAerial)の算出例を示す図である。図示するように、平均成人の座高=89cm、椅子の座面高さ=39cm、背もたれの傾斜角=45°、デスクの高さ=68cm、デスクと観察者との間の必要最低距離=45cmとしたとき、空中像の最適角は、次式によって算出される。
ΔAerial=cos(100.85/104.36)=15°
【0046】
背もたれを傾斜させた場合には、空中像の最適角が小さくなるため、空中像の可動域としては、
図9に示すように0°~20°の範囲も必要になる。この場合、ビームスプリッター120を可動させなくても、ユーザーの視界にはディスプレイ110の映像が入り込まない。
【0047】
このように本実施例の表示装置によれば、ΔAerialの角度依存性が高いビームスプリッター120を可動することにより、ディスプレイのみを可動とする場合と比較して空中像の可動域を広げることができる。また、ディスプレイの可動を最小限とすることでハウジングの省スペース化を図ることも期待することができる。また、アイポイントの異なる子供から大人まで、あるいは身体的特徴の異なるユーザーにとって、ディスプレイの映像が入り込まない、浮遊感のある空中像を観察することができる。
【0048】
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は、特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の要旨の範囲において、種々の変形、変更が可能である。
【符号の説明】
【0049】
100:表示装置 110:ディスプレイ
120:ビームスプリッター 130:再帰反射部材
140:テーブル 150:空中像
160:角度調整機構 170:リンク