(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】運転支援装置
(51)【国際特許分類】
B60W 50/12 20120101AFI20241016BHJP
B60W 30/08 20120101ALI20241016BHJP
B60W 40/08 20120101ALI20241016BHJP
F02D 29/02 20060101ALI20241016BHJP
B60T 7/12 20060101ALN20241016BHJP
【FI】
B60W50/12
B60W30/08
B60W40/08
F02D29/02 311B
B60T7/12 A
(21)【出願番号】P 2020001798
(22)【出願日】2020-01-09
【審査請求日】2022-02-14
【審判番号】
【審判請求日】2023-08-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】弁理士法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】新保 祐人
(72)【発明者】
【氏名】星川 佑磨
(72)【発明者】
【氏名】川崎 聡史
(72)【発明者】
【氏名】村上 了太
【合議体】
【審判長】山本 信平
【審判官】河端 賢
【審判官】倉橋 紀夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-129228(JP,A)
【文献】特開2019-84984(JP,A)
【文献】特開2014-91349(JP,A)
【文献】特開2010-23769(JP,A)
【文献】特開2016-13807(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 50/12
B60W 30/08
B60W 40/08
F02D 29/02
B60T 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の自動停止条件が成立したと判定したときに自車両に制動力を付与して前記自車両を自動的に停止させる自動ブレーキ制御を実施する自動ブレーキ手段と、
前記自動ブレーキ手段によって停止した状態にある前記自車両が前進も後進もしないように前記自車両に制動力を付与することにより前記自車両を停止状態に保持する停止保持制御を実施する停止保持手段と、
前記停止保持手段によって前記停止保持制御が実施されている場合に、前記停止保持制御の実施されている時間が設定時間に到達したとの所定の停止保持解除条件が成立したときに前記停止保持制御を終了させて前記自車両の停止保持状態を解除する停止保持解除手段と
を備えた運転支援装置において、
前記ドライバーがブレーキペダルを踏む意図を有しながら誤ってアクセルペダルを踏み込んでしまう操作である誤踏み操作が発生しているか否かを判定する誤踏み判定手段と、
前記所定の停止保持解除条件が成立
して前記停止保持制御を終了した時点で、前記誤踏み判定手段によって前記誤踏み操作が発生していると判定されていることを条件として、前記自車両で発生させる駆動力をアクセル操作量に対応した駆動力よりも低い駆動力に制限する駆動力抑制制御を実施する駆動力抑制手段と
を備えた運転支援装置。
【請求項2】
請求項1記載の運転支援装置において、
前記駆動力抑制手段は、前記所定の停止保持解除条件が成立
して前記停止保持制御を終了した時点で、前記誤踏み判定手段によって前記誤踏み操作が発生していると判定されており、かつ、アクセル操作量が所定の閾値以上であることを条件として前記駆動力抑制制御を実施するように構成された運転支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動ブレーキによって自車両を停止させ、停止した自車両を停止状態に保持する運転支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動ブレーキによって自車両を強制的に停止させる技術が知られている。例えば、カメラセンサおよびレーダセンサ等の前方センサによって自車両が衝突する可能性の高い障害物が検知された場合に、ブレーキ装置に供給される作動油の油圧(ブレーキ油圧)を高めることにより自動ブレーキを作動させて自車両を停止させる衝突回避支援装置が知られている。こうした衝突回避支援装置は、自動ブレーキによって自車両を停止させた後も、所定時間のあいだ(例えば、2秒間)は、ブレーキ油圧を高い油圧に維持する停止保持制御を実施することにより、自車両を停止状態に保持する。
【0003】
また、特許文献1に提案された支援装置(従来装置と呼ぶ)は、自動ブレーキによって自車両が停止した時点から所定時間を超えて自車両を停止状態に保持することが望ましいと判定した場合、停止保持制御を継続させ、その後、ドライバーの操作(例えば、アクセルペダル操作、ブレーキペダル操作など)を検知したタイミングで停止保持制御を終了する。例えば、自車両が交差点の手前で停止している状況、および、自車両が当該自車両の進行方向と交差する車両を検出して停止している状況等においては、自車両を所定時間を超えて停止状態に保持することが望ましいと判定されて停止保持制御が継続される。そして、ドライバーの操作を検知したタイミングで停止保持制御が終了される。これにより、自車両の停止保持状態が解除される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
しかしながら、従来装置においては、ドライバーがブレーキペダルを踏む意図を有しながら誤ってアクセルペダルを踏み込んでしまう操作である誤踏み操作が発生したケースについて考慮されていない。アクセルペダルの急激な踏み込み操作は、誤踏み操作であると推定できる。例えば、ドライバーが誤踏み操作を行った場合、自車両が障害物に急接近して自動ブレーキ制御が開始されることがある。
【0006】
こうしたケースでは、ドライバーはパニック状態に陥っている可能性が高い。このため、ドライバーは、自動ブレーキ制御によって自車両が停止してもアクセルペダルをそのまま強く踏み続けてしまうおそれがある。従来装置では、自動ブレーキ制御が実施されて自車両が停止すると、停止保持制御が実施され、停止保持制御が開始されてから所定時間経過すると、あるいは、ドライバーの操作が検知されると、停止保持制御が終了される。このため、ドライバーが誤ってアクセルペダルを強く踏み続けていた場合には、停止保持制御の終了にあわせて自車両が急発進してしまう。この場合、自車両は、自動ブレーキ制御によって衝突回避できた障害物に向かって再度急接近して、障害物と衝突してしまう可能性がある。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、停止保持制御を終了したときに、ドライバーの誤踏み操作によって自車両が急発進しないようにすることを目的とする。
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の運転支援装置の特徴は、
所定の自動停止条件が成立したと判定したときに自車両に制動力を付与して前記自車両を自動的に停止させる自動ブレーキ制御を実施する自動ブレーキ手段(11,13,S11)と、
前記自動ブレーキ手段によって停止した状態にある前記自車両が前進も後進もしないように前記自車両に制動力を付与することにより前記自車両を停止状態に保持する停止保持制御を実施する停止保持手段(14,S14)と、
前記停止保持手段によって前記停止保持制御が実施されている場合に、前記停止保持制御の実施されている時間が設定時間に到達したとの所定の停止保持解除条件が成立したときに前記停止保持制御を終了させて前記自車両の停止保持状態を解除する停止保持解除手段(15,S16)と
を備えた運転支援装置において、
前記ドライバーがブレーキペダルを踏む意図を有しながら誤ってアクセルペダルを踏み込んでしまう操作である誤踏み操作が発生しているか否かを判定する誤踏み判定手段(16)と、
前記所定の停止保持解除条件が成立して前記停止保持制御を終了した時点で、前記誤踏み判定手段によって前記誤踏み操作が発生していると判定されていることを条件として、前記自車両で発生させる駆動力をアクセル操作量に対応した駆動力よりも低い駆動力に制限する駆動力抑制制御を実施する駆動力抑制手段(17,S17,S18)と
を備えたことにある。
【0009】
本発明の運転支援装置は、自動ブレーキ手段と、停止保持手段と、停止保持解除手段とを備えている。自動ブレーキ手段は、所定の自動停止条件が成立したと判定したときに自車両に制動力を付与して自車両を自動的に停止させる自動ブレーキ制御を実施する。例えば、自動ブレーキ手段は、自車両に衝突する可能性の高い障害物を検知した場合に、ドライバーのブレーキペダル操作を要することなく、ブレーキ装置を作動させて(制動力を発生させて)自車両を停止させる。
【0010】
停止保持手段は、自動ブレーキ手段によって停止した状態にある自車両が前進も後進もしないように自車両に制動力を付与することにより自車両を停止状態に保持する停止保持制御を実施する。これにより、自車両は、停止状態に保持される。停止保持解除手段は、停止保持手段によって停止保持制御が実施されている場合に、所定の停止保持解除条件が成立したときに停止保持制御を終了させて自車両の停止保持状態を解除する。
【0011】
自車両の停止保持状態を解除するときに、ドライバーが誤ってアクセルペダルを踏み込んでいると、停止保持状態の解除に合わせて自車両が急発進してしまう。そこで、本発明は、誤踏み判定手段と駆動力抑制手段とを備えている。誤踏み判定手段は、ドライバーがブレーキペダルを踏む意図を有しながら誤ってアクセルペダルを踏み込んでしまう操作である誤踏み操作が発生しているか否かを判定する。例えば、誤踏み判定手段は、誤踏み操作が行われていると推定される場合に成立する誤踏み判定条件が成立するか否かを判定する。例えば、アクセルペダルの急激な踏み込み操作は、誤踏み操作と推定することができる。従って、例えば、アクセルペダルの踏込量、および、踏込速度に基づいて、誤踏み操作が発生しているか否かについて判定することができる。
【0012】
駆動力抑制手段は、所定の停止保持解除条件が成立して前記停止保持制御を終了した時点で、誤踏み判定手段によって誤踏み操作が発生していると判定されていることを条件として、自車両で発生させる駆動力をアクセル操作量に対応した駆動力よりも低い駆動力に制限する駆動力抑制制御を実施する。
【0013】
これにより、ドライバーが自身の意図に反して誤ってアクセルペダルを踏み込んでいる状況で、停止保持解除条件が成立しても、自車両で発生させる駆動力がアクセル操作量に対応した駆動力よりも低い駆動力に制限されるため、自車両の急発進を防止することができる。
【0014】
本発明の一側面の特徴は、
前記駆動力抑制手段は、前記所定の停止保持解除条件が成立して前記停止保持制御を終了した時点で、前記誤踏み判定手段によって前記誤踏み操作が発生していると判定されており、かつ、アクセル操作量が所定の閾値以上であることを条件として(S17)前記駆動力抑制制御を実施するように構成されたことにある。
【0015】
本発明の一側面においては、駆動力抑制手段が駆動力抑制制御を実施する条件として、誤踏み操作が発生していると判定されていることに加えて、アクセル操作量が所定の閾値以上であることが規定されている。この閾値は、アクセルペダルが深く踏み込まれているか否かを判定できる閾値とすることができる。従って、本発明の一側面によれば、ドライバーのアクセル操作状況を一層適正に把握して、駆動力抑制制御を実施することができる。
【0016】
上記説明においては、発明の理解を助けるために、実施形態に対応する発明の構成要件に対して、実施形態で用いた符号を括弧書きで添えているが、発明の各構成要件は、前記符号によって規定される実施形態に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態に係る運転支援装置の概略構成図である。
【
図2】PCS制御ルーチンを表すフローチャートである。
【
図3】誤踏み判定ルーチンを表すフローチャートである。
【
図4】誤踏み判定解除ルーチンを表すフローチャートである。
【
図5】目標駆動力マップ(ドライバー要求駆動力および特定状況目標駆動力)を表すグラフである。
【
図6】目標駆動力マップ(ドライバー要求駆動力および特定状況目標駆動力)を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態に係る運転支援装置について図面を参照しながら説明する。
【0019】
本発明の実施形態に係る運転支援装置は、車両(以下において、他の車両と区別するために、「自車両」と呼ぶ。)に適用され、
図1に示すように、運転支援ECU10、ブレーキECU20、エンジンECU30、および、メータECU40を備えている。
【0020】
これらのECUは、マイクロコンピュータを主要部として備える電気制御装置(Electronic Control Unit)であり、図示しないCAN(Controller Area Network)を介して相互に情報を送信可能および受信可能に接続されている。本明細書において、マイクロコンピュータは、CPU、ROM、RAM、不揮発性メモリおよびインターフェースI/F等を含む。CPUはROMに格納されたインストラクション(プログラム、ルーチン)を実行することにより各種機能を実現するようになっている。これらのECUは、幾つか又は全部が一つのECUに統合されてもよい。
【0021】
運転支援ECU10は、ドライバーの運転支援を行う中枢となる制御装置であって、衝突回避支援制御を実施する。この衝突回避支援制御は、自車両の前方に障害物が検知された場合に、ドライバーに対して注意喚起を行い、衝突の可能性が更に高くなった場合に、自動ブレーキによって、自車両と障害物との衝突を回避する制御である。衝突回避支援制御は、一般に、PCS制御(プリクラッシュセーフティ制御)と呼ばれているため、以下、衝突回避支援制御をPCS制御と呼ぶ。
【0022】
運転支援ECU10は、前方カメラセンサ50、前方レーダセンサ60、車両状態センサ70、操作状態センサ80、および、ブザー90に接続されている。
【0023】
前方カメラセンサ50は、車室内のフロントウインドの上部に配設され、自車両の前方の風景を撮影する。前方カメラセンサ50は、撮影された画像に基づいて、道路の白線、および、自車両の前方に存在する立体物を認識し、それらの情報(白線情報、立体物情報)を所定の周期で運転支援ECU10に供給する。白線情報は、白線の形状、および、自車両と白線との相対的な位置関係などを表す情報である。立体物情報は、自車両の前方に検知された立体物の種類、立体物の大きさ、および、立体物の自車両に対する相対的な位置関係などを表す情報である。尚、立体物の種類の認識については、例えば、パターンマッチングなどの機械学習によって実現される。
【0024】
前方レーダセンサ60は、車体のフロント中央部に設けられ、自車両の前方領域に存在する立体物を検知する。前方レーダセンサ60は、ミリ波帯の電波(以下、「ミリ波」と称呼する。)を放射し、放射範囲内に存在する立体物(例えば、他車両、歩行者、自転車、建造物など)によって反射されたミリ波(即ち、反射波)を受信する。前方レーダセンサ60は、送信したミリ波と受信した反射波との位相差、反射波の減衰レベル及びミリ波を送信してから反射波を受信するまでの時間等に基づいて、自車両と立体物との距離、自車両と立体物との相対速度、自車両に対する立体物の相対位置(方向)等を演算し、それらの演算結果を表す情報(立体物情報)を所定の周期で運転支援ECU10に供給する。
【0025】
運転支援ECU10は、前方カメラセンサ50から供給される立体物情報と前方レーダセンサ60から供給される立体物情報とを合成して、精度の高い立体物情報を取得する。
【0026】
以下、前方カメラセンサ50と前方レーダセンサ60とをあわせて前方センサと呼び、前方カメラセンサ50および前方レーダセンサ60から得られる自車両の前方の情報を前方センサ情報と呼ぶ。
【0027】
車両状態センサ70は、例えば、車両の走行速度を検知する車速センサ、車両の前後方向の加速度を検知する前後加速度センサ、車両の横方向の加速度を検知する横加速度センサ、および、車両のヨーレートを検知するヨーレートセンサなどである。
【0028】
操作状態センサ80は、ドライバーの行った操作(運転操作)を検知するセンサあるいはスイッチである。操作状態センサ80は、アクセルペダルの踏込量(アクセル開度)を検知するアクセル操作量センサ、ブレーキペダルの踏込量を検知するブレーキ操作量センサ、ブレーキペダルの操作の有無を検知するブレーキスイッチ、操舵角を検知する操舵角センサ、操舵トルクを検知する操舵トルクセンサ、ウインカーの作動状態を検知するウインカースイッチ、および、変速機のシフトポジションを検知するシフトポジションセンサなどである。
【0029】
車両状態センサ70、および、操作状態センサ80によって検知された情報(センサ情報と呼ぶ)は、図示しないCANを介して所定の周期で運転支援ECU10に供給される。
【0030】
ブザー90は、運転支援ECU10から出力されるブザー駆動信号によって鳴動する。運転支援ECU10は、ドライバーに対して注意喚起を行う場合に、ブザー90にブザー駆動信号出力してブザー90を鳴動させる。これによって、ドライバーへの注意喚起を行うことができる。
【0031】
ブレーキECU20は、ブレーキアクチュエータ21に接続されている。ブレーキアクチュエータ21は、ブレーキペダルの踏力によって作動油を加圧する図示しないマスタシリンダと、左右前後輪に設けられる摩擦ブレーキ機構22との間の油圧回路に設けられる。摩擦ブレーキ機構22は、車輪に固定されるブレーキディスク22aと、車体に固定されるブレーキキャリパ22bとを備える。ブレーキアクチュエータ21は、ブレーキECU20からの指示に応じてブレーキキャリパ22bに内蔵されたホイールシリンダに供給する油圧を調整し、その油圧によりホイールシリンダを作動させることによりブレーキパッドをブレーキディスク22aに押し付けて摩擦制動力を発生させる。
【0032】
ブレーキECU20は、ブレーキ操作量センサによって検知されたブレーキペダルの操作量に基づいてドライバー要求減速度を設定し、自車両がドライバー要求減速度で減速するようにブレーキアクチュエータ21の作動を制御する。また、ブレーキECU20は、運転支援ECU10から送信されたPCSブレーキ指令を受信した場合には、PCSブレーキ指令に含まれる情報であるPCS要求減速度で自車両が減速するようにブレーキアクチュエータ21の作動を制御する。
【0033】
尚、ブレーキECU20は、PCSブレーキ指令を受信している場合にブレーキペダルが操作された場合、ドライバー要求減速度とPCS要求減速度とのうち、より絶対値が大きいほうの要求減速度を最終的な要求減速度として採用する。ブレーキECU20は、最終的な要求減速度で自車両が減速するようにブレーキアクチュエータ21の作動を制御する。即ち、ブレーキECU20は、ブレーキオーバーライド制御を実施する。
【0034】
エンジンECU30は、エンジンアクチュエータ31に接続されている。エンジンアクチュエータ31はエンジン32(内燃機関)の運転状態を変更するためのアクチュエータであり、例えば、スロットル弁の開度を変更するスロットル弁アクチュエータを含む。エンジンECU30は、エンジンアクチュエータ31を制御することによりエンジン32が発生するトルクを調整する。このエンジンが発生するトルクは、駆動機構を介して駆動輪に車両の駆動力として伝達される。尚、本明細書においては、エンジンが発生するトルクは、車両の駆動力に等しいものとして説明する。
【0035】
エンジンECU30は、アクセル操作量センサによって検知されたアクセルペダルの踏込量(アクセル操作量、あるいは、アクセル開度と呼ぶこともある)と車速センサによって検知された車速とに基づいてドライバー要求駆動力(=ドライバー要求トルク)を設定し、エンジン32がドライバー要求駆動力を出力するようにエンジンアクチュエータ31の作動を制御する。エンジンECU30は、アクセル操作量とドライバー要求駆動力との関係を車速ごとに規定したマップを参照して、ドライバー要求駆動力を求める。ドライバー要求駆動力は、アクセル操作量が大きいほど大きな値に設定される。また、ドライバー要求駆動力は、車速が低いほど大きな値に設定される。
【0036】
また、エンジンECU30は、運転支援ECU10から送信された出力制限指令を受信した場合には、ドライバー要求駆動力を目標値とした駆動力制御を実施せずに、その出力制限指令に含まれる目標駆動力情報に基づいて、エンジン32の発生する駆動力(駆動トルク)が、目標駆動力情報で表される目標駆動力に追従するようにエンジンアクチュエータ31の作動を制御する。
【0037】
尚、車両が電気自動車の場合、エンジンアクチュエータ31は電動モータの駆動装置であり、車両がハイブリッド車両である場合、エンジンアクチュエータ31は上記エンジンアクチュエータ及び電動モータの駆動装置である。
【0038】
メータECU40は、表示器41、および、ストップランプ42に接続されている。メータECU40は、運転支援ECU10からの指示に従って、表示器41に運転支援に係る表示を表示させることができる。また、メータECU40は、運転支援ECU10あるいはブレーキECU20からの指示に従って、ストップランプ42を点灯させることができる。
【0039】
<PCS制御>
次に、自動ブレーキが実施されるPCS制御について説明する。運転支援ECU10は、その機能に着目すると、衝突判定部11、報知部12、自動ブレーキ部13、停止保持部14、停止保持解除部15、誤踏み判定部16、および、駆動力抑制部17を備えている。
【0040】
衝突判定部11は、前方センサから供給される前方センサ情報と、車両状態センサ70によって検知される車両状態とに基づいて、自車両が前方の立体物に衝突するか否かについて判定する。例えば、衝突判定部11は、立体物が現状の移動状態(立体物が静止物の場合は停止状態)を維持し、かつ、自車両が現状の走行状態を維持した場合に、自車両が立体物に衝突するか否かについて判定する。衝突判定部11は、その判定結果に基づいて、自車両が立体物に衝突すると判定した場合に、その立体物を障害物であると認定する。
【0041】
衝突判定部11は、障害物を検知した場合、自車両が障害物に衝突するまでの予測時間である衝突予測時間TTCを演算する。この衝突予測時間TTCは、障害物と自車両とのあいだの距離dと、障害物に対する自車両の相対速度Vrとに基づいて、次式(1)によって演算される。
TTC=d/Vr ・・・(1)
【0042】
この衝突予測時間TTCは、自車両が障害物に衝突する可能性の高さを表す指標として用いられ、その値が小さいほど、自車両が障害物に衝突する可能性(危険性)が高くなる。
【0043】
本実施形態におけるPCS制御では、衝突予測時間TTCに基づいて、自車両が障害物に衝突する可能性のレベルが2段階に分けられ、初期の第1段階では、報知部12が、ブザー90および表示器41を使ってドライバーに警告を与える。自車両が障害物に衝突する可能性のレベルが第1段階よりも高くなった第2段階では、自動ブレーキ部13が、ブレーキ制御(自動ブレーキ制御)を実施して、衝突回避支援を行う。
【0044】
この場合、衝突判定部11は、衝突予測時間TTCが警報用閾値TTCw以下にまで低下したときに、自車両が障害物に衝突する可能性のレベルが第1段階に到達したと判定し、衝突予測時間TTCが更に低下して作動用閾値TTCa(<TTCw)以下になると、自車両が障害物に衝突する可能性のレベルが第2段階に到達したと判定する。本実施形態においては、自車両が障害物に衝突する可能性のレベルが第2段階に到達したとき、予め設定された自動停止条件が成立したと判定される。
【0045】
自動ブレーキ部13は、自車両が障害物に衝突する可能性のレベルが第2段階に到達したと判定された場合、ブレーキECU20に対してPCSブレーキ指令を送信する。このPCSブレーキ指令は、PCS要求減速度Gpcsを表す情報を含んでいる。
【0046】
PCS要求減速度Gpcsは、以下のように演算することができる。例えば、障害物が停止している場合を例に挙げれば、現時点における、自車両の速度(=相対速度)をV、自車両の減速度をa(<0)、車両停止までの時間をtとすれば、
自車両が停止するまでの走行距離Xは、次式(2)にて表すことができる。
X=V・t+(1/2)・a・t2 ・・・(2)
また、車両停止までの時間tは、次式(3)にて表すことができる。
t=-V/a ・・・(3)
従って、(2)式に(3)式を代入することにより、自車両が停止するまでの走行距離Xは、次式(4)にて表すことができる。
X=-V2/2a ・・・(4)
障害物に対して距離βだけ手前で車両を停止させるためには、この走行距離Xを、前方センサによって検出されている距離dから距離βだけ引いた距離(d-β)に設定して、減速度aを計算すればよい。尚、障害物が走行している場合には、障害物との相対速度、相対減速度を用いて計算すればよい。
【0047】
PCS要求減速度Gpcsは、このように計算した減速度aが適用される。尚、PCS要求減速度Gpcsには、上限値Gmaxが設定されており、演算されたPCS要求減速度Gpcsが上限値Gmaxを越える場合には、PCS要求減速度Gpcsは、上限値Gmaxに設定される。
【0048】
ブレーキECU20は、PCSブレーキ指令を受信すると、PCS要求減速度Gpcsが得られるようにブレーキアクチュエータ21を制御する。これにより、ドライバーのブレーキペダル操作を要することなく、左右前後輪に摩擦制動力を発生させて、強制的に自車両を減速させることができる。
【0049】
このように、PCSブレーキ指令によって左右前後輪に摩擦制動力を発生させて自車両を減速させる制御が自動ブレーキ制御である。
【0050】
自動ブレーキ部13は、自動ブレーキ制御によって衝突予測時間TTCが終了閾値TTCbよりも大きくなった(TTC>TTCb)か否かを判定する。この終了閾値TTCbは、作動用閾値TTCaよりも大きな値に設定されている。従って、自動ブレーキ部13は、自車両と障害物との衝突の可能性が低くなったか否か(衝突を回避できたか否か)を監視する。自動ブレーキ部13は、自車両と障害物との衝突の可能性が低くなったと判定すると、PCSブレーキ指令の送信を終了する。これにより、自動ブレーキ制御が終了し、同時にPCS制御が終了する。
【0051】
自動ブレーキ制御によって自車両が停止した場合には、自動ブレーキ部13に代わって停止保持部14がブレーキECU20を制御する。停止保持部14は、自動ブレーキ制御によって自車両が停止したことを確認すると、自車両が停止状態に保持されるように(自車両が前進も後進もしないように)、停止保持指令をブレーキECU20に送信する。ブレーキECU20は、停止保持指令を受信すると、ブレーキアクチュエータ21を制御して、停止保持用に設定された油圧を、左右前後輪の摩擦ブレーキ機構22のホイールシリンダに供給する。これにより、自車両の停止状態が保持される。以下、自車両の停止状態を保持することを停止保持と呼び、自車両の停止状態を保持する制動力制御を停止保持制御と呼ぶ。
【0052】
尚、自動ブレーキ部13は自動ブレーキ制御の実施中にエンジンECU30に対して、出力制限指令を送信する。同様に、停止保持部14は停止保持制御の実施中にエンジンECU30に対して、出力制限指令を送信する。この出力制限指令は、自動ブレーキ制御、および、停止保持制御を邪魔しないような目標駆動力(例えば、アクセル開度0%相当の目標駆動力)を指定した指令である。また、ブレーキECU20は、自動ブレーキ制御の実施中、および、停止保持制御の実施中、メータECU40に対して、ストップランプ42の点灯指令を送信する。
【0053】
停止保持解除部15は、予め設定された解除条件が成立するか否かを判定し、解除条件が成立すると、ブレーキECU20に停止保持解除指令を送信するとともに、エンジンECU30に出力制限解除指令を送信する。ブレーキECU20は、停止保持解除指令を受信すると、それまで行っていた停止保持用のブレーキアクチュエータ21の制御を終了する。従って、自車両の停止保持が解除され(即ち、停止保持制御が解除され)、PCS制御が終了する。
【0054】
また、エンジンECU30は、出力制限解除指令を受信すると、エンジン出力制限を終了して、通常の駆動力制御、つまり、アクセル操作量および車速に応じたドライバー要求駆動力を発生させる駆動力制御を実施する。これにより、自車両は、通常の状態に戻されて、アクセルペダル操作およびブレーキペダル操作に応じた加減速運動が可能な状態となる。
【0055】
尚、停止保持の解除条件が成立したときに、後述する駆動力抑制部17からエンジンECU30に出力制限指令が送信されるケースがある。このケースでは、駆動力抑制部17の送信する出力制限指令で指定される目標駆動力が、ドライバー要求駆動力よりも優先される。従って、エンジンECU30は、駆動力抑制部17から送信された出力制限指令で指定される目標駆動力に従ってエンジンアクチュエータ31の作動を制御する。
【0056】
停止保持の解除条件は、以下のように設定されている。
・停止保持制御の実施されている継続時間tが設定時間trefに到達すること。
この設定時間trefは、例えば、2秒である。
【0057】
また、停止保持解除部15は、停止保持の解除条件が成立したときに、停止保持解除信号を駆動力抑制部17に供給する。
【0058】
<誤踏み操作>
ドライバーがブレーキペダルを踏む意図を有しながら誤ってアクセルペダルを踏み込んでしまう操作を「誤踏み操作」と呼ぶ。アクセルペダルの急激な踏み込み操作は、誤踏み操作であると推定できる。ドライバーが誤踏み操作を行った場合、自車両が障害物に急接近して自動ブレーキ制御が開始されることがある。
【0059】
こうしたケースでは、ドライバーはパニック状態に陥っている可能性が高い。このため、ドライバーは、自動ブレーキ制御によって自車両が停止してもアクセルペダルをそのまま強く踏み続けてしまうおそれがある。このため、停止保持が解除されるときになっても、まだドライバーがアクセルペダルを踏み続けていると、停止保持の解除に合わせて自車両が急発進してしまう。この場合、自車両は、自動ブレーキ制御によって衝突回避できた障害物に向かって再接近して、障害物と衝突してしまう可能性がある。
【0060】
そこで、運転支援ECU10は、こうした課題を解決するために、誤踏み判定部16と駆動力抑制部17とを備えている。
【0061】
誤踏み判定部16は、予め設定された誤踏み判定条件を記憶しており、この誤踏み判定条件が成立した場合に、ドライバーの誤踏み操作が発生したと判定する(推定する)。誤踏み判定部16は、ドライバーの誤踏み操作が発生しているか否かを表す誤踏み判定結果を駆動力抑制部17に供給する。また、誤踏み判定部16は、ドライバーの誤踏み操作が発生していると判定されている間、ブザー90を鳴動させるとともに、メータECU40に誤踏み検知信号を送信する。メータECU40は、誤踏み検知信号を受信しているあいだ、表示器41に注意喚起表示(例えば、アクセルペダルが踏まれていることを知らせる表示)を表示する。
【0062】
駆動力抑制部17は、停止保持解除部15から停止保持解除信号が供給されたとき、つまり、停止保持の解除条件が成立したとき、誤踏み判定部16から供給される誤踏み判定結果を読み込む。駆動力抑制部17は、ドライバーの誤踏み操作が発生していると判定されている場合であって、依然として、アクセルペダルが深く踏み込まれている場合には、エンジン32で発生させる駆動力をアクセル操作量に対応したドライバー要求駆動力よりも低い駆動力に制限するために、エンジンECU30に対して出力制限指令を送信する。
【0063】
<誤踏み判定部>
ここで、誤踏み判定部16の処理について説明する。
【0064】
誤踏み判定部16は、以下の誤踏み判定条件E1~E3に基づいて、誤踏み操作が発生したか否かについて判定する。
E1.アクセル踏込速度判定が「ON」となってからの経過時間が設定時間(例えば、0.5秒)以内である。アクセル踏込速度判定については、後述する。
E2.自動ブレーキ作動中判定フラグFが「0」である。
E3.アクセル踏込量APが閾値APa以上である(AP≧APa)。ただし、閾値APaは、後述する閾値APbより大きな値である。
【0065】
誤踏み判定部16は、誤踏み判定条件E1~E3が全て成立した場合(AND条件の成立時)に、誤踏み操作が発生したと判定する。以下、誤踏み操作が発生したと判定されていることを表す誤踏み判定結果を「誤踏み判定:ON」と呼び、誤踏み操作が発生したと判定されていないことを表す誤踏み判定結果を「誤踏み判定:OFF」と呼ぶ。
【0066】
誤踏み判定条件E1における「アクセル踏込速度判定」は、以下の踏込速度判定条件E1-1,E1-2,E1-3,E1-4の全てが成立した場合(AND条件)に「ON」とされ、そのうちの一つでも成立しない場合に「OFF」とされる。
E1-1.アクセル踏込量APが閾値APb以上である(AP≧APb)。
E1-2.アクセル踏込速度APVが閾値APVc以上である(APV≧APVc)。
E1-3.ブレーキスイッチがオフしている継続時間Tboffが閾値Tx秒以上である(Tboff≧Tx)。
E1-4.ウインカーが作動していない継続時間Twoffが閾値Ty秒以上である(Twoff≧Ty)。
【0067】
アクセル踏込量APは、アクセル操作量センサによって検知されるアクセルペダルの踏込量を表し、アクセル踏込速度APVは、単位時間あたりのアクセル踏込量APの変化量を表す。
【0068】
閾値APbは、誤踏み操作を判定するためのアクセル踏込量の閾値であり、閾値APVcは、誤踏み操作を判定するためのアクセル踏込速度の閾値である。これらの閾値は、アクセルペダルの急激な踏み込み操作を検知できる値に設定される。従って、踏込速度判定条件E1-1,E1-2によって、ドライバーのアクセルペダルの急激な踏み込み操作を検知することができる。
【0069】
踏込速度判定条件E1-3は、ドライバーがブレーキペダルの操作を解除した時点からブレーキペダルの操作が行われていない状態が継続している時間Tboffの下限を設定するものである。例えば、ドライバーがブレーキペダルを長期間において操作していない状況では、ドライバーがアクセルペダルとブレーキペダルとを正確に区別できていない可能性がある。つまり、ドライバーがブレーキペダルの操作を解除した時点からの経過時間が長い状況において、踏込速度判定条件E1-1およびE1-2が成立した場合は、誤踏み操作が行われた可能性が高い。こうした理由から、踏込速度判定条件E1-3が設けられている。
【0070】
踏込速度判定条件E1-4は、ウインカーが作動していない継続時間Twoffの下限を設定するものである。例えば、左右のウインカーの何れかがオン状態(点滅状態)である状況から共にオフ状態(消灯状態)である状況に変化した時点の直後では、車両が先行車両を追い越している途中である可能性、または、車両がカーブを走行している途中である可能性が高い。このような状況においては、ドライバーは意図的にアクセルペダルを強く操作している。一方、ウインカーのオフ時点から長い時間経過した状況において、踏込速度判定条件E1-1およびE1-2が成立した場合は、誤踏み操作が行われた可能性が高い。こうした理由から、踏込速度判定条件E1-4が設けられている。
【0071】
誤踏み判定条件E2は、自動ブレーキ部13によって自動ブレーキが実施されていないという条件である。自動ブレーキ部13は、自動ブレーキ制御の実施中であるか否かを表す信号である自動ブレーキ作動中判定フラグFを出力している。この自動ブレーキ作動中判定フラグFは、「0」によって自動ブレーキ制御の実施中でないことを表し、「1」によって自動ブレーキ制御の実施中であることを表す。誤踏み判定部16は、この自動ブレーキ作動中判定フラグFを読み込むことによって、誤踏み判定条件E2が成立したか否かについて判定する。
【0072】
誤踏み判定条件E3は、アクセル踏込速度判定が「ON」となってから設定時間内に、アクセル踏込量APがさらに大きくなって閾値APa以上になったか否かを判定する条件である。ドライバーが誤踏み操作した場合には、アクセル踏込速度APVが閾値APVc以上に達した後も(踏込速度判定条件E1-2が成立した後)、アクセル踏込量が増加する。これは、ドライバーがパニック状態に陥り、アクセルペダルを強く踏み込んでしまうためであると考えられる。そこで、この誤踏み判定条件E3は、閾値APbよりも大きな値に設定された閾値APaを用いて、アクセル踏込量APが閾値APa以上であるか否かについて判定する。
【0073】
誤踏み判定部16は、誤踏み操作が発生したと判定した後は、ドライバーのアクセルペダル戻し操作が検知されるまで、その判定結果を維持する。例えば、誤踏み判定部16は、アクセル踏込量APがアクセル戻し判定閾値APend(例えば、アクセル開度10%)以下にまで低下したことを検知すると、誤踏み判定結果を「誤踏み判定:OFF」に戻す。
【0074】
<誤踏み判定ルーチン>
図3は、上述した誤踏み判定部16の処理を具体的にフローチャートで示した誤踏み判定ルーチンを表す。誤踏み判定部16は、誤踏み判定ルーチンを所定の演算周期で実施する。
【0075】
誤踏み判定部16は、ステップS31において、誤踏み判定結果が「誤踏み判定:OFF」であるか否かについて判定し、誤踏み判定結果が「誤踏み判定:OFF」である場合に、ステップS32以降の判定処理を実施する。誤踏み判定結果の初期値は、「誤踏み判定:OFF」である。
【0076】
誤踏み判定部16は、ステップS32~ステップS35において、上述した踏込速度判定条件E1-1,E1-2,E1-3,E1-4が成立するか否かについて判定する。ステップS32は、踏込速度判定条件E1-1の成立の有無を判定する処理であり、ステップS33は、踏込速度判定条件E1-2の成立の有無を判定する処理であり、ステップS34は、踏込速度判定条件E1-3の成立の有無を判定する処理であり、ステップS35は、踏込速度判定条件E1-4の成立の有無を判定する処理である。
【0077】
誤踏み判定部16は、ステップS32~ステップS35において踏込速度判定条件E1-1~E1-4の一つでも成立しない場合は、誤踏み判定ルーチンを一旦終了する。誤踏み判定部16は、誤踏み判定ルーチンを所定の演算周期で繰り返し、踏込速度判定条件E1-1~E1-4の全てが成立した場合、その処理をステップS36に進めて、タイマによる経過時間Tの計測を開始する。
【0078】
続いて、誤踏み判定部16は、ステップS37において、自動ブレーキ作動中判定フラグFが「0」であるか否かについて判定し(誤踏み判定条件E2)、自動ブレーキ作動中判定フラグFが「0」である場合には、ステップS38において、アクセル踏込量APが閾値APa以上であるか否かについて判定する(誤踏み判定条件E3)。
【0079】
ステップS37あるいはステップS38の判定が「No」である場合、誤踏み判定部16は、その処理をステップS39に進めて、タイマにより計測された経過時間Tが設定時間Tover(例えば、0.5秒)を超えたか否かについて判定する。誤踏み判定部16は、経過時間Tが設定時間Tover以下であれば、その処理をステップS37に戻して上述した処理を繰り返す。
【0080】
こうした処理が繰り返されて、経過時間Tが設定時間Toverに到達するまでに誤踏み判定条件E2および誤踏み判定条件E3が成立すると(S37:Yes,S38:Yes)、誤踏み判定部16は、ステップS40において、経過時間Tの計測を終了し、続くステップS41において、誤踏み判定結果を「誤踏み判定:ON」に設定して、誤踏み判定ルーチンを終了する。
【0081】
一方、誤踏み判定条件E2あるいは誤踏み判定条件E3が成立しないまま経過時間Tが設定時間Toverを超えた場合(S39:Yes)、誤踏み判定部16は、ステップS42において、経過時間Tの計測を終了した後、誤踏み判定ルーチンを終了する。
【0082】
<誤踏み判定解除ルーチン>
誤踏み判定部16は、
図4に示す誤踏み判定解除ルーチンを実施することによって、誤踏み判定結果を「誤踏み判定:ON」から「誤踏み判定:OFF」に戻す処理を実施する。誤踏み判定解除ルーチンは、誤踏み判定ルーチン(
図3)と並行して、所定の演算周期で実施される。
【0083】
誤踏み判定部16は、誤踏み判定解除ルーチンを開始すると、ステップS51において、誤踏み判定結果が「誤踏み判定:ON」であるか否かについて判定する。誤踏み判定部16は、誤踏み判定結果が「誤踏み判定:OFF」である場合には、誤踏み判定解除ルーチンを一旦終了する。誤踏み判定結果が「誤踏み判定:ON」である場合、誤踏み判定部16は、ステップS52において、誤踏み判定終了条件が成立したか否かについて判定する。この場合、誤踏み判定部16は、アクセル踏込量APがアクセル戻し判定閾値APend(例えば、アクセル開度10%)以下にまで低下したか否かについて判定する。アクセル踏込量APがアクセル戻し判定閾値APendにまで低下していない状況であれば、誤踏み判定部16は、誤踏み判定解除ルーチンを一旦終了する。誤踏み判定部16は、こうした処理を繰り返し、アクセル踏込量APがアクセル戻し判定閾値APendにまで低下したと判定すると(S52:Yes)、ステップS53において、誤踏み判定結果を「誤踏み判定:OFF」に戻して、誤踏み判定解除ルーチンを終了する。
【0084】
<駆動力抑制部>
駆動力抑制部17は、停止保持解除条件が成立した時に、誤踏み判定部16から供給される誤踏み判定結果を読み込み、誤踏み判定結果が「誤踏み判定:ON」であり、かつ、アクセル踏込量APが閾値APa以上である(AP≧APa)場合に、出力制限指令をエンジンECU30に送信する。この出力制限指令は、エンジン32で発生させる駆動力をドライバー要求駆動力よりも低い駆動力に制限する指令である。以下、停止保持解除条件が成立した時に、誤踏み判定結果が「誤踏み判定:ON」であって、アクセル踏込量APが閾値APa以上である状況を「特定状況」と呼ぶ。また、特定状況が検知されたときに、駆動力抑制部17がエンジンECU30に送信する出力制限指令を、特定状況出力制限指令と呼ぶ。
【0085】
エンジンECU30は、通常時においては、車速Vごとにアクセル操作量AP(アクセル開度)とドライバー要求駆動力Fdとの関係を規定したドライバー要求駆動力マップを参照して、エンジン32で発生させる目標駆動力F*を算出する。
図5は、車速Vがゼロ(V=0)のときのドライバー要求駆動力マップMPの一例を表す。実線がドライバー要求駆動力マップMPを表している。例えば、アクセル操作量APがAP1であれば、ドライバー要求駆動力FdはFd1に設定される。
【0086】
駆動力抑制部17は、特定状況が検知された場合、例えば、アクセル開度0%相当の目標駆動力F*を指定した特定状況出力制限指令をエンジンECU30に送信する。この場合、
図5に破線で示すように、目標駆動力F*は、アクセル操作量APに関係なく、一定の駆動力Fcが設定される。この駆動力Fcは、クリープ走行用の駆動力である。
【0087】
エンジンECU30は、特定状況出力制限指令を受信すると、エンジン32にて目標駆動力Fcが発生するようにエンジンアクチュエータ31の作動を制御する。このように、特定状況が検知されたときに、目標駆動力F*を通常のドライバー要求駆動力Fdよりも低い駆動力に制限して実施される駆動力制御を駆動力抑制制御と呼ぶ。駆動力抑制制御で使用される目標駆動力F*を、特定状況目標駆動力Fsと呼ぶ。
【0088】
特定状況目標駆動力Fsは、クリープ走行用の駆動力Fcに限るものでは無く、例えば、
図6に示すように、Fcよりも低い一定値(例えば、ゼロ)であってもよく、ドライバー要求駆動力Fd以下の大きさとなる範囲で任意に設定できる。また、特定状況目標駆動力Fsは、他の車速においても、同様に、通常のドライバー要求駆動力Fdよりも低い駆動力に制限されている。
【0089】
駆動力抑制部17は、抑制制御終了条件が成立した時に、駆動力抑制制御を終了させる。抑制制御終了条件は、以下の条件D1,D2,D3の何れか一つでも成立した場合(OR条件)に成立する。
D1.アクセル操作量APがアクセル戻し判定閾値APend以下である(AP≦APend)
D2.ブレーキ操作が検知された(ブレーキスイッチがオンした)。
D3.障害物が検知されなくなった。
【0090】
駆動力抑制部17は、抑制制御終了条件が成立した時に、エンジンECU30に出力制限解除指令を送信する。エンジンECU30は、出力制限解除指令を受信すると、駆動力抑制制御を終了して、通常の駆動力制御、つまり、アクセル操作量および車速に応じたドライバー要求駆動力を発生させる駆動力制御を実施する。これにより、自車両は、通常の状態に戻されて、アクセルペダル操作およびブレーキペダル操作に応じた加減速運動が可能な状態となる。
【0091】
<PCS制御ルーチン>
次に、運転支援ECU10の上述した各機能部が連携して実施するPCS制御処理について説明する。
図2は、運転支援ECU10が実施するPCS制御ルーチンを表す。
【0092】
PCS制御ルーチンは、自車両が障害物と衝突する可能性が高いと判定されたとき(即ち、衝突予測時間TTCが作動用閾値TTCa以下に達したとき)に開始される。また、PCS制御ルーチンの実施中においても、PCS制御ルーチンと並行して誤踏み判定ルーチンおよび誤踏み判定解除ルーチンが実施されている。
【0093】
PCS制御ルーチンが開始されると、運転支援ECU10は、ステップS11において、自動ブレーキ制御を開始する。続いて、運転支援ECU10は、ステップS12において、自車両と障害物との衝突を回避できたか否かについて判定する。この場合、運転支援ECU10は、衝突予測時間TTCが終了閾値TTCbよりも大きくなったか(TTC>TTCb)否かについて判定する。
【0094】
運転支援ECU10は、自車両と障害物との衝突を回避できたと判定するまで自動ブレーキ制御を実施する。運転支援ECU10は、こうした処理を繰り返して、自車両と障害物との衝突を回避できたと判定すると、その処理をステップS13に進めて、自車両が停止したか否かについて判定する。運転支援ECU10は、自車両が停止せずに、衝突予測時間TTCが終了閾値TTCbよりも大きくなって障害物との衝突を回避できた場合には、PCS制御ルーチンを終了する。
【0095】
一方、自動ブレーキ制御によって自車両が停止した場合(S13:Yes)には、運転支援ECU10は、その処理をステップS14に進めて、停止保持制御を開始する。これにより、自車両が停止状態に保持される。続いて、運転支援ECU10は、ステップS15において、停止保持の解除条件が成立したか否かについて判定する。本実施形態においては、停止保持制御の実施されている継続時間tが設定時間tref(2秒)に到達したか否かについて判定される。
【0096】
運転支援ECU10は、設定時間trefのあいだ停止保持制御を実施すると(S15:Yes)、ステップS16において、停止保持制御を終了する。続いて、運転支援ECU10は、ステップS17において、誤踏み判定結果が「誤踏み判定:ON」であり、かつ、アクセル踏込量APが閾値APa以上であるか否かについて判定する。この閾値APaは、誤踏み判定条件E3で用いた閾値と同一の値であるが、必ずしも、その値に設定する必要は無く、ドライバーが深くアクセルペダルを踏み込んでいることを判定できる値であればよい。
【0097】
このステップS17の判定は、現時点が特定状況であるか否かについての判定である。特定状況でない場合は、停止保持制御が解除されても自車両は急発進しないが、特定状況であれば停止保持制御が解除されると自車両が急発進してしまう。そこで、運転支援ECU10は、特定状況である場合(S17:Yes)、その処理をステップS18に進めて、駆動力抑制制御を実施する。これにより、目標駆動力F*がドライバー要求駆動力Fdよりも低い特定状況目標駆動力Fsに設定されるため、停止保持制御が解除されても自車両は急発進しない。
【0098】
一方、特定状況でない場合(S17:No)、運転支援ECU10は、PCS制御ルーチンを終了する。
【0099】
運転支援ECU10は、駆動力抑制制御を開始すると、その処理をステップS19に進めて、抑制制御終了条件が成立したか否かについて判定する。この抑制制御終了条件は、上述した条件D1,D2,D3の何れか一つでも成立した場合に成立する。
【0100】
運転支援ECU10は、抑制制御終了条件が成立しない間(S19:No)は、駆動力抑制制御を継続し、抑制制御終了条件が成立すると、PCS制御ルーチンを終了する。
【0101】
以上説明した本実施形態の運転支援装置によれば、停止保持解除条件が成立した時に、誤踏み判定結果が「誤踏み判定:ON」であり、かつ、アクセル踏込量APが閾値APa以上である(AP≧APa)場合に、駆動力抑制制御が実施される。従って、ドライバーがアクセルペダルを深く踏み込んだ状態で停止保持解除条件が成立しても、目標駆動力F*がドライバー要求駆動力Fdよりも低い駆動力Fsに制限される。これにより、自車両の急発進を防止することができる。
【0102】
以上、本実施形態に係る運転支援装置について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0103】
例えば、本実施形態は、PCS制御を実施する運転支援装置に適用されるが、必ずしも、PCS制御を実施する運転支援装置に適用される必要はない。例えば、前方センサによって得られた交通インフラ情報(信号機および道路標識の示している情報)に基づいて、法規上において自車両を停止させる必要があるにも関わらず、ドライバーが所定の停止位置で自車両を停止させない(例えば、信号機の見落としあり)と推定される場合に自動ブレーキ制御を実施する運転支援装置に適用してもよい。また、交通インフラ情報については、必ずしも、前方カメラセンサ50から取得する必要は無い。例えば、路側機などから無線送信される交通インフラ情報を、車載通信装置を介して取得する構成であってもよい。
【0104】
また、本実施形態においては、自車両を停止状態に保持する場合、ブレーキアクチュエータ21を制御して、停止保持用に設定された油圧を左右前後輪の摩擦ブレーキ機構22のホイールシリンダに供給するが、例えば、図示しない電動パーキングブレーキを作動させてもよい。
【0105】
また、本実施形態においては、駆動力抑制制御を実施するための条件として、誤踏み判定結果が「誤踏み判定:ON」であり、かつ、アクセル踏込量APが閾値APa以上である(AP≧APa)ことが規定されているが、必ずしも、このような条件に規定する必要は無く、少なくとも、誤踏み判定結果が「誤踏み判定:ON」であるという条件が含まれていればよい。
【符号の説明】
【0106】
10…運転支援ECU、11…衝突判定部、12…報知部、13…自動ブレーキ部、14…停止保持部、15…停止保持解除部、16…誤踏み判定部、17…駆動力抑制部、20…ブレーキECU、21…ブレーキアクチュエータ、22…摩擦ブレーキ機構、30…エンジンECU、31…エンジンアクチュエータ、32…エンジン、40…メータECU、41…表示器、50…前方カメラセンサ、60…前方レーダセンサ、70…車両状態センサ、80…操作状態センサ、90…ブザー。