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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】美容器
(51)【国際特許分類】
   A61N 1/32 20060101AFI20241016BHJP
【FI】
A61N1/32
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020076278
(22)【出願日】2020-04-22
(65)【公開番号】P2021171236
(43)【公開日】2021-11-01
【審査請求日】2021-12-24
【審判番号】
【審判請求日】2023-06-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000114628
【氏名又は名称】ヤーマン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000752
【氏名又は名称】弁理士法人朝日特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 岩男
【合議体】
【審判長】佐々木 正章
【審判官】近藤 利充
【審判官】村上 哲
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-55052(JP,A)
【文献】特開2016-202660(JP,A)
【文献】特開2013-78514(JP,A)
【文献】特表2004-525724(JP,A)
【文献】特開2019-176968(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬剤を浸透させるために皮膚と接触するヘッド部において同一面上に配置された第1の電極および第2の電極と、前記同一面上にはない持ち手部に設けられた第3の電極と、
直流パルス列電圧を生成する第1生成手段と、
交流電圧を生成する第2生成手段と、
前記第3の電極と、前記第1の電極および前記第2の電極のうちの少なくともいずれか一方とを用いた直流パルス列電圧の印加と、前記第1の電極および前記第2の電極を用いた前記交流電圧の印加とを、所定の周期で交互に繰返す制御手段と
無接点リレーを備え、前記直流パルス列電圧および前記交流電圧を、前記第1の電極、前記第2の電極、および前記第3の電極に選択的に供給する切替手段と
を備え、
前記第1の電極と前記第2の電極との間隔は1mm~3mmであり、
前記直流パルス列電圧の繰返し周波数は1kHz~3kHzであり、
前記交流電圧の周波数は70kHz~300kHzであり、
前記直流パルス電圧は10Vであり、前記交流電圧は50~300Vであり、
直流パルス列電圧の印加期間および前記交流電圧の印加期間は、それぞれ3秒以上~5秒未満である、
美容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は皮膚へ電圧を印加する美容器に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚に電圧を印加することで、薬剤、化粧品、その他の物質を、非侵襲的に皮膚表面から内部に浸透させる方法が知られている。例えば、パルス電圧を印加することで、細胞の構造を変化させ、特に高分子を取り込みやすくするというエレクトロポレーション(電気穿孔法)や、微弱電流を流すことで美容液等に含まれる有効成分をイオン化してから浸透させるもの(一般的に「イオン導入」と呼ばれる)などが知られている。
特許文献1には、有効成分を効率的に真皮層へ送達すべく、単パルスとパルス群とを印加することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-78514号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
薬剤等の分子量その他の性質(親水性、イオン化傾向等)にもよるが、特許文献1のように単一パルス列とパルス群を交互に印加するだけでは、十分深く浸透しない場合がある。また、一つの極短パルスでエレクトロポレーション効果を得ようとすると、印加電圧を高く設定する必要があり、これは使用者に不快感に繋がる虞ある。また、パルスの次の印加までの間隔が長いと、細胞に空いた“穴”がすぐに閉じてしまって、効果が十分でない場合も考えられる。
本発明は、薬剤等の肌への浸透力の向上を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、一の態様において、同一面上に配置された第1の電極および第2の電極と、前記同一面上にはない第3の電極と、直流パルス列を生成する第1生成手段と、交流を生成する第2生成手段と、前記第3の電極と、前記第1の電極および第2の電極のうちの少なくともいずれか一方とを用いた直流パルス列の印加と、前記第1の電極および前記第2の電極を用いた前記交流の印加とを、所定の周期で交互に繰返す制御手段とを有する美容器を提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、薬剤等の肌への浸透が促進される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】美容器10の外観図(正面側)。
図2】美容器10の外観図(背面側)。
図3】当接部の模式図。
図4】美容器10の機能ブロック図。
図5】印加電圧の波形例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<実施例>
図1は、美容器10の外観図(正面側)、図2は外観図(背面側)図である。美容器10は、電圧を印加することで、使用者の皮膚(肌)表面から内部へ、薬剤や化粧水等の物質を浸透させる作用を少なくとも有する機器である。すなわち、筋肉への刺激作用、温熱作用が発揮されても構わない。使用者は、筐体190を手で握り、第1電極111および第2電極112が設けられているヘッド部を、予め浸透させたい物質を塗ってある部位(例えば顔であるが、足など、握っている手以外の部位であれば使用者の体のどの部位でも構わない)へ押し当てて使用する。
【0009】
美容器10は、略丸棒状の筐体190と、筐体190表面において、正面側には第1電極111、第2電極112、スイッチ121および122を有し、背面側には第3電極113および電源端子130を有する。スイッチ121および122は、使用者によって操作され、電源のON/OFFや各種動作の設定、実行、中断等の命令を入力する。
【0010】
筐体190は、使用者に握られる部分(いわゆる持ち手部分)を含む。第1電極111および第2電極112は、電圧を印加したい(換言すると、物質を浸透させたい)部位と当接させる部分である。第1電極111および第2電極112は、略同一面上に(換言すると、それぞれの筐体190からの高さ(厚み)が略等しくなるように)配置される。これにより、ヘッド部を対象の部位に自然に押し当てると、第1電極111および第2電極112は、ともに当該部位に接触する当接部を形成する。
【0011】
筐体190の背面側にある第3電極113は、使用状態において、使用者の手と接触する。第3電極113は、必ずしも背面側にある必要なく、使用者の手と接触する位置に設けられてればよい。第3電極113は、第1電極111や第2電極112(つまり対象部位)から離れた位置にあることが好ましく、少なくとも、第1電極111および第2電極112と同一面上になければよい。また、図2において、第3電極113は略方形であるが、その形状、大きさ、位置、厚みは、任意である。要するに、第3電極113は使用者へ電圧を印加するための電極の一方として機能すればよい。
【0012】
第1電極111および第2電極112は、それぞれ環状(この例では略円環状)であって、第2電極112が外側になるように同心円状に配置される。
【0013】
図3は、肌と当接する部分を拡大した模式図である。第1電極111および第2電極112の幅は、それぞれw1、w2である。第1電極111および第2電極112は、径方向において距離d1だけ離れて同心円上に配置されている。好ましくは、d1は1mm(ミリメートル)~3mm、w1=w2=3mmである。
【0014】
筐体190の内部には、後述する機能ブロック図で説明する電圧印加機構が内蔵される。
【0015】
図4は、美容器10の機能ブロック図である。なお、本件発明に直接関係のない要素については捨象されている。
美容器10は、電源160、第1電源回路161、第2電源回路162、第3電源回路163、直流パルス列発生部152、交流発生部153、第1電極111、第2電極112、第3電極113、第1切替部171、第2切替部172、第3切替部173、第4切替部174を有する。
【0016】
電源160は、電源端子130を介して供給された電力を蓄電するバッテリーである。電源160から供給された電力は、第1電源回路161、第2電源回路162および第3電源回路163へ分配される。第1電源回路161、第2電源回路162、第3電源回路163は、整流回路、振幅、周波数、位相等を変調する回路等を備え、それぞれ入力電気信号を、制御部151、直流パルス列発生部152、交流発生部153を作動させるために適した電気信号に変換して出力する。
【0017】
直流パルス列発生部152は、制御部151から供給されるS1に従い、直流(単極性)パルス列を発生させて、第3電極113、第1切替部171および172に供給する。
交流発生部153は、制御部151から供給されるS2に従い、交流電圧を発生させて、第3切替部173および第4切替部174に供給する。
【0018】
第1切替部171~第4切替部174は、それぞれ、制御部151から供給される制御信号に従い、前記直流パルス列および前記交流を、第1電極111、第2電極112、第3電極113へ選択的に印加する。
具体的には、第1切替部171は、制御部151から供給されるS3に従って、直流パルス列発生部152から供給された電圧を第1電極111へ印加する。第2切替部172は制御部151から供給されるS4に従って、直流パルス列発生部152から供給された電圧を第2電極112へ印加する。第3切替部173は制御部151から供給されるS5に従って、交流発生部153から供給された電圧を第1電極111へ印加する。第4切替部174は制御部151から供給されるS6に従って、交流発生部153から供給された電圧を第2電極112へ印加する。
【0019】
すなわち、直流パルス列発生部152で生成された直流パルス列は、第1電極111および第2電極112を共通の(等電位の)一方の電極として、第3電極113を他方の電極として、印加される。交流発生部153で生成された交流電圧は、第1電極111を正極(または負極)として、第2電極112を負極(または正極)として、印加される。
なお、本明細書における「直流パルス列」とは、鋭いピークを有する波形だけでなく、単極性の任意の波形(例えば矩形波や三角波)が規則的に繰返されてなる波形を含む意味である。また、本明細書における「交流」とは、正弦波であるだけでなく、双極性であれば他の波形であってもよい。
【0020】
制御部151は、上述の直流パルス列の印加と交流の印加とが、所定の周期で交互に繰返されるように、制御信号S1~S6を生成して直流パルス列発生部152、交流発生部153、第1切替部171~第4切替部174に出力する。
具体的には、制御部151は、制御信号S1、S3、S4をON信号とする一方、S2、S5、S6をOFF信号とすることで直流パルス列が印加される第1状態を第1期間だけ維持し、続いて制御信号S1、S3、S4をOFF信号とする一方、S2、S5、S6へON信号を供給することで交流を印加する第2状態を第2期間維持し、以後これを繰返す。なお、直流パルス列の印加時において、第1電極111および第2電極112のいずれか一方を正極または負極として機能させて、他方は絶縁させてもよい。
【0021】
好ましくは、制御部151、直流パルス列発生部152、交流発生部153は、任意の波形を生成する機能を有する信号処理プロセッサやモジュールとして実装される。ただし、制御部151、直流パルス列発生部152、交流発生部153、第1切替部171、第2切替部172、第3切替部173、第4切替部174の機能は、それぞれ独立した、直流パルス列印加用の回路および交流回印加用の回路を切替えるためのリレーやスイッチ素子とによって実現されてもよい。好ましくは、MOS EFT等の半導体を用いた無接点リレーが用いられる。
【0022】
図5は、印加される電圧の波形例の模式図である。横軸は時間、縦軸は電圧(振幅)を示す。なお、縦横方向の縮尺は、説明の便宜上、実際の値とは異なっている。この例では、電圧V1、矩形の直流パルス列を繰返し周波数F1で印加期間T1に亘って連続して印加し、その後すぐに振幅V2、周波数F2の正弦波形の交流を印加期間T2に亘って連側的に印加し、さらにその後すぐに、再度電圧V1、矩形の直流パルス列を繰返し周波数F1で印加期間T1に亘って連続して印加し、というように、所定の波形プロファイルの直流パルス列と、所定の波形プロファイルの交流の印加が繰返される。
【0023】
ここで、印加期間T1およびT2は、例えばそれぞれ0.1秒~10秒であり、好ましくは3秒~6秒である。なお、印加期間T1およびT2は異なっていてもよいが、浸透効果や使用者の体感の観点から、0.5<T1/T2<2であることが好ましく、最も好適にはT1=T2であることを、本件発明者は見出した。
【0024】
(繰返し)周波数Fは、好ましくはF1<F2であり、より好ましくはF1=1kHz(キロヘルツ)~3kHz(繰返し周期は0.3~1ms)で、F2=70kHz~300kHz(周期は3~14μs)である。印加電圧は、好ましくはV1<V2であり、より好ましくはV1=10V(ボルト)、V2=50V~300Vである。
【0025】
上述した印加電圧(の振幅)、印加期間、周波数(繰返し周波数)の数値は、一例であって、浸透させたい薬剤の分子量その他の性質、使用者の肌の抵抗値、使用者に与える体感(不快感を含む)、その他の目的(温熱効果を得る目的、筋肉振動を与える目的)等を考慮して設定することができる。
【0026】
本願発明者は、上記実施例のように、直流パルス列と交流という、異なる2つの波形を有する電圧の印加を規則的に繰返すことで、直流パルス列の印加によって生じるエレクトロポレーション効果と、交流の印加によるいわゆるイオン導入効果とを共存させることができることを見出した。これは、単パルスではなくパルス列を所定期間印加することで、穴がすぐには閉じずに開いた状態がある期間維持され、この期間に交流電圧を印加することで、物質が効率的に移動していると考えられる。また、好ましい態様において数秒程度の期間に渡って直流パルス列を印加するため、短パルスよりもエレクトロポレーション効果を得るために比較的低い電圧で足りる。これにより、使用者への負担(不快感等)が少なくなる。
【0027】
また、上記実施例の電極配置および電圧印加方法によれば、3つある電極のうち、印加電圧の切替えに連動して、使用する電極が切り変わる。すなわち、交流の印加に際して使用者に与える不快感を鑑みて好適である、比較的に近い距離にある第1電極111および第2電極112を電極対として使用する一方、直流パルス列の印加時に際しては、直流の印加に適した距離にある、比較的距離が離れた第1電極111(および第2電極112)と第3電極113とを電極対として使用する。この際、第1電極111、第2電極112を一つの電極として機能させることで電極の実効面積が増加し、その結果薬剤の浸透効果が増大する。
【0028】
加えて、直流パルス列と交流の切替えを半導体素子等の無接点リレーを用いて実行することで、ハードウェアを用いて行う場合に比べて素早い切替えが実現される。好適な態様において数秒間隔という頻度で切替えを行うことになるが、切替え用の素子を用いた場合は当該素子に負荷がかかることが予想されるが、無接点リレーを用いて行う場合は、そのような虞がなく、機器の耐久性や信頼性が向上する。
【0029】
<その他の実施例>
第1電極111および第2電極112は、真円でなくても楕円や涙型(雨粒型)、多角形、矩形、その他いかなる環状の形状であってもよい。例えば、円環の外周または内周面に突起物が形成されてもよい。換言すると、環状とは、中空部を有するいかなる図形をいう。ただし、電極間の距離はできるだけ一定であることが好ましい。また、第1電極111の内側または第2電極112の外側に、さらに他の円環電極を設けてもよい。また、第1電極111は円板等の中空でない形状であってもよい。あるいは、第1電極111および第2電極112は、それぞれ一つの環でなく、例えば半円弧環を2つ組み合わせ離して配置し、あるいは四分の一円弧環を4つ組み合わせて互いに離して配置することで、全体として一の環状形状みなせるような構成であってもよい。
【0030】
要するに、本発明の美容器は、同一面上に配置された第1の電極および第2の電極と、前記同一面上にはない第3の電極と、第1の波形の電圧(例えば直流パルス列電圧)を生成する第1生成手段と、第2の波形の電圧(例えば交流電圧)を生成する第2生成手段と、前記第3の電極と、前記第1の電極および第2の電極の内の少なくともいずれか一方とを用いた第1の波形の電圧の印加と、前記第1の電極および前記第2の電極を用いた前記交流電圧の印加とを、所定の周期で交互に繰返す制御手段とを有していればよい。
【符号の説明】
【0031】
10・・・美容器、111・・・第1電極、112・・・第2電極、113・・・第3電極、121・・・スイッチ、122・・・スイッチ、190・・・筐体、130・・・電源端子、160・・・外部電源、161・・・第1電源回路、162・・・第2電源回路、163・・・第3電源回路、151・・・制御部、152・・・直流パルス列発生部、153・・・交流発生部、171・・・第1切替部、172・・・第2切替部、173・・・第3切替部、174・・・第4切替部
図1
図2
図3
図4
図5