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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】エアゾール組成物
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/30 20060101AFI20241016BHJP
   A61K 8/02 20060101ALI20241016BHJP
   A61K 8/81 20060101ALI20241016BHJP
   A61K 8/41 20060101ALI20241016BHJP
   A61K 8/34 20060101ALI20241016BHJP
   A61K 8/69 20060101ALI20241016BHJP
   A61Q 5/06 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
C09K3/30 J
C09K3/30 U
C09K3/30 S
A61K8/02
A61K8/81
A61K8/41
A61K8/34
A61K8/69
A61Q5/06
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020123032
(22)【出願日】2020-07-17
(65)【公開番号】P2021025037
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2023-06-06
(31)【優先権主張番号】P 2019141177
(32)【優先日】2019-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】391021031
【氏名又は名称】株式会社ダイゾー
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小谷 康斗
(72)【発明者】
【氏名】樫根 秀
(72)【発明者】
【氏名】菊地 典子
(72)【発明者】
【氏名】松井 和弘
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-261114(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0280178(US,A1)
【文献】特表2013-531039(JP,A)
【文献】特開平10-087446(JP,A)
【文献】特開昭57-169413(JP,A)
【文献】特開2012-017464(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K3/00
C09K3/20-3/32
A61K8/00-8/99
A61Q1/00-90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スタイリング用樹脂と、中和剤と、アルコールと、ハイドロフルオロオレフィンとを含み、
前記中和剤は、OH基を2つ以上もつアミノ化合物を含み、
前記ハイドロフルオロオレフィンは、トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロパ-1-エン、トランス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、シス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンまたは2,3,3,3-テトラフルオロプロパ-1-エンのうち、少なくともいずれか1種を含む、エアゾール組成物。
【請求項2】
前記中和剤は、テトラヒドロキシプロピルエチレンジアミン、トリイソプロパノールアミン、トリエタノールアミン、2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-アミノ-2-エチル-1,3-プロパンジオールおよびジイソプロパノールアミンのうち、少なくともいずれかを含む、請求項1記載のエアゾール組成物。
【請求項3】
45℃で1か月保管した場合の、20℃において測定される保管前後のpH変化量は、0.7以下である、請求項1または2記載のエアゾール組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアゾール組成物に関する。より詳細には、本発明は、経時的なpHの変動が小さく安定であり、火気に対して安全性の高いエアゾール組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スタイリング用のエアゾール製品が開発されている。特許文献1には、スタイリング用樹脂と、アルコールと、噴射剤(ハイドロフルオロオレフィン)とを含む整髪用エアゾール組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許出願公開第2013/0280178号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的なヘアスプレーでは液化石油ガスおよびジメチルエーテルなどの可燃性の液化ガスが使用される。特許文献1には、火気に対する安全性を改善するために、ハイドロフルオロオレフィンを使用することが記載されている。特許文献1に記載のエアゾール組成物は、スタイリング用樹脂を中和するための中和剤として、OH基が1つのアミノ化合物である、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール(AMP)を含む例が開示されている。しかしながら、このようなエアゾール組成物は、経時的に原液のpHが低下することが本発明者による検討で明らかになった。そのため、たとえばエアゾール組成物を充填するエアゾール容器がブリキ缶等である場合、缶から溶出した錫が、ハイドロフルオロオレフィンに含まれるフッ素と反応して析出物が形成され、噴射孔やバルブの孔で詰まりやすくなるという問題がある。
【0005】
本発明は、このような従来の課題に鑑みてなされたものであり、経時的なpHの変動が小さく安定であり、さらに、火気に対して安全性の高いエアゾール組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する本発明には、以下の構成が主に含まれる。
【0007】
(1)スタイリング用樹脂と、中和剤と、アルコールと、ハイドロフルオロオレフィンとを含み、前記中和剤は、OH基を2つ以上もつアミノ化合物を含む、エアゾール組成物。
【0008】
このような構成によれば、エアゾール組成物は、噴射剤としてハイドロフルオロオレフィンを含んでおり、液化石油ガス等を主に含む場合と比べて、火気に対する安全性が高い。また、エアゾール組成物は、経時的なpHの変動が小さく、長期間にわたって、pHが中性~弱アルカリ性に維持されやすい。その結果、エアゾール組成物は、ハイドロフルオロオレフィンが使用されている場合であっても、析出物が生じにくい。
【0009】
(2)前記中和剤は、テトラヒドロキシプロピルエチレンジアミン、トリイソプロパノールアミン、トリエタノールアミン、2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-アミノ-2-エチル-1,3-プロパンジオールおよびジイソプロパノールアミンのうち、少なくともいずれかを含む、(1)記載のエアゾール組成物。
【0010】
このような構成によれば、エアゾール組成物は、経時的なpHの変動がより小さくより安定である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、経時的なpHの変動が小さく安定であり、火気に対して安全性の高いエアゾール組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<エアゾール組成物>
本発明の一実施形態のエアゾール組成物は、スタイリング用樹脂と、中和剤と、アルコールと、ハイドロフルオロオレフィンとを含む。中和剤は、OH基を2つ以上もつアミノ化合物を含む。以下、それぞれについて説明する。
【0013】
(原液)
原液は、スタイリング用樹脂と中和剤とアルコールとを含む。
【0014】
・スタイリング用樹脂
スタイリング用樹脂は、毛髪をセットするために配合される。
【0015】
スタイリング用樹脂は特に限定されない。一例を挙げると、スタイリング用樹脂は、アクリル酸アルカノールアミンなどのアニオン型樹脂、ジアルキルアミノエチル(メタ)アクリレート-(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体、アクリル酸オクチルアミド-アクリル酸ヒドロキシプロピル-メタクリル酸ブチルアミノエチル共重合体などの両性型樹脂等、中和剤により中和されるものである。スタイリング用樹脂は、併用されてもよい。
【0016】
スタイリング用樹脂は、上記に加え、セット力を調整する等の目的で、ビニルピロリドン-N,N-ジメチルアミノエチルメタクリル酸共重合体硫酸塩、ヒドロキシエチルセルロース・ジメチルジアリルアンモニウムクロリドなどのカチオン型樹脂、アクリル酸アルキル共重合体エマルジョン、アクリル酸アルキル-スチレン共重合体エマルジョンなどのエマルジョン型樹脂、ビニルピロリドン-酢酸ビニル共重合体、アクリル酸ヒドロキシエチル-アクリル酸ブチル-アクリル酸メトキシエチル共重合体などのノニオン型樹脂が併用されてもよい。
【0017】
スタイリング用樹脂の含有量(固形分)は、特に限定されない。一例を挙げると、スタイリング用樹脂の含有量(固形分)は、原液中、3質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましい。また、スタイリング用樹脂の含有量(固形分)は、原液中、20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましい。スタイリング用樹脂の含有量(固形分)が上記範囲内であることにより、エアゾール組成物は、優れたセット力を示しやすい。
【0018】
・中和剤
中和剤は、スタイリング用樹脂に水溶性を付与し、シャンプー等で洗い流しやすくなるようpHを調節するために配合される。
【0019】
中和剤は、OH基を2つ以上もつアミノ化合物を含む。一例を挙げると、中和剤は、テトラヒドロキシプロピルエチレンジアミン(OH基が4つ);トリイソプロパノールアミン(TIPA、OH基が3つ);トリエタノールアミン(TEA、OH基が3つ);2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオール(AMPD、OH基が2つ);2-アミノ-2-エチル-1,3-プロパンジオール(AEPD、OH基が2つ);ジイソプロパノールアミン(DIPA、OH基が2つ)等を含む。中和剤は、併用されてもよい。これらの中でも、中和剤は、OH基を3つ以上もつ化合物であるテトラヒドロキシプロピルエチレンジアミン、トリイソプロパノールアミン、トリエタノールアミンを含むことがより好ましい。これにより、エアゾール組成物は、経時的なpHの変動が小さく、長期間にわたって、pHが中性~弱アルカリ性に維持されやすい。その結果、エアゾール組成物は、ハイドロフルオロオレフィンが使用されている場合であっても、析出物が形成されにくい。
【0020】
中和剤の含有量は、特に限定されない。一例を挙げると、中和剤の含有量は、原液中、0.5質量%以上であることが好ましく、0.8質量%以上であることがより好ましい。また、中和剤の含有量は、原液中、8質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。中和剤の含有量が上記範囲内であることにより、中和度は70~110%に調整されることが好ましく、75~105%に調整されることがより好ましい。原液は、pHが中性~弱アルカリ性となるよう調整されやすい。そのため、エアゾール組成物は、析出物が形成されにくい。
【0021】
・アルコール
アルコールは、前述のスタイリング用樹脂やハイドロフルオロオレフィンを安定に溶解し、均一なエアゾール組成物を形成するための溶媒として配合される。また、アルコールは、噴射されたエアゾール組成物によって形成される皮膜の伸縮性等を調整するために配合される。
【0022】
アルコールは特に限定されない。一例を挙げると、アルコールは、エタノール、イソプロパノール等の炭素数が2~3個の1価アルコールである。
【0023】
アルコールの含有量は特に限定されない。一例を挙げると、アルコールの含有量は、原液中、70質量%以上であることが好ましく、75質量%以上であることがより好ましい。また、アルコールの含有量は、原液中、92質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましい。アルコールの含有量が上記範囲内であることにより、均一なエアゾール組成物が形成されやすい。
【0024】
・任意成分
本実施形態のエアゾール組成物は、上記したスタリング用樹脂、中和剤およびアルコールに加え、任意成分として、適宜有効成分を含んでもよい。有効成分は特に限定されない。一例を挙げると、有効成分は、ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシル、パラメトキシケイ皮酸2-エチルヘキシル、エチルヘキシルトリアゾン、オキシベンゼン、ヒドロキシベンゾフェノンスルホン酸、ジヒドロキシベンゾフェノンスルホン酸ナトリウム、ジヒドロキシベンゾフェノンなどの紫外線吸収剤、酸化亜鉛、酸化チタン、オクチルトリメトキシシラン被覆酸化チタンなどの紫外線散乱剤、レチノール、酢酸レチノール、パルミチン酸レチノール、パントテン酸カルシウム、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、dl-α-トコフェロール、酢酸トコフェロール、トコフェロール、ニコチン酸トコフェロール、ジベンゾイルチアミン、リボフラビンおよびこれらの混合物などのビタミン類、センブリ抽出液やローズマリー抽出液などの各種抽出物、グリセリン、1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、ヘキシレングリコール、ジプロピレングリコール、ジグリセリン、ヒアルロン酸などの保湿剤、フローラル、グリーン、シトラスグリーン、グリーンフローラル、シトラス、ローズ、ローズウッド、ハーバルウッド、レモン、ペパーミントなどの香料、アルミニウム粉末、シリカ、酸化鉄などの顔料、黄色4号、黄色5号、黄色202号、黄色203号、赤色2号、赤色3号、青色1号、青色2号などの染料、ポリソルベート、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルなどの界面活性剤、エデト酸二ナトリウムなどのキレート剤、パラベンやフェノキシエタノールなどの防腐剤、炭化水素、シリコーンなどの各種オイル成分などである。
【0025】
有効成分が配合される場合、有効成分の含有量は特に限定されない。一例を挙げると、有効成分の含有量は、原液中、0.1質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましい。また、有効成分の含有量は、原液中、20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましい。有効成分の含有量が上記範囲内であることにより、得られるエアゾール組成物は、有効成分を配合することによる所望の効果が得られやすい。
【0026】
原液の含有量は特に限定されない。一例を挙げると、原液の含有量は、エアゾール組成物中、30質量%以上であることが好ましく、35質量%以上であることがより好ましい。また、原液の含有量は、エアゾール組成物中、85質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましい。原液の含有量が上記範囲内であることにより、エアゾール組成物は、噴射された際の粒子が適切な大きさとなるよう調整されやすい。その結果、エアゾール組成物は、使用感がよく、頭髪等に付着しやすい。
【0027】
(ハイドロフルオロオレフィン)
ハイドロフルオロオレフィンは、エアゾール容器内において、加圧された液体として液相を構成するとともに、一部が気体として気相を構成する。また、ハイドロフルオロオレフィンは、噴射剤としても作用し、原液を溶解し、均一なエアゾール組成物を形成する。ハイドロフルオロオレフィンは、大気中に噴射されることにより気化し、原液を微細化して細かな粒子を形成する。さらに、ハイドロフルオロオレフィンは、噴射物の燃焼性を抑え、エアゾール組成物の、火気に対する安全性を高める。
【0028】
ハイドロフルオロオレフィンは特に限定されない。一例を挙げると、ハイドロフルオロオレフィンは、トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロパ-1-エン、トランス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、シス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、2,3,3,3-テトラフルオロプロパ-1-エン等である。また、これらは混合して用いても良い。
【0029】
ハイドロフルオロオレフィンの含有量は特に限定されない。一例を挙げると、ハイドロフルオロオレフィンの含有量は、エアゾール組成物中、15質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましい。また、ハイドロフルオロオレフィンの含有量は、エアゾール組成物中、70質量%以下であることが好ましく、65質量%以下であることがより好ましい。ハイドロフルオロオレフィンの含有量が上記範囲内であることにより、エアゾール組成物は、火気に対する安全性が高く、噴射された際の粒子の大きさが適切であり、使用感がよく、頭髪等に付着しやすい。
【0030】
なお、本実施形態のエアゾール組成物は、ハイドロフルオロオレフィンのほか、噴射剤として、他の液化ガスが併用されてもよい。他の液化ガスは特に限定されない。一例を挙げると、他の液化ガスは、プロパン、ノルマルブタン、イソブタンおよびこれらの混合物である液化石油ガス、ジメチルエーテルおよびこれらの混合物等である。
【0031】
(圧縮ガス)
原液を加圧して外部に噴霧する噴射剤として圧縮ガスが配合されてもよい。
【0032】
圧縮ガスは特に限定されない。一例を挙げると、圧縮ガスは、窒素、空気、酸素、水素、二酸化炭素、亜酸化窒素等である。
【0033】
圧縮ガスは、25℃における容器内の圧力が0.3MPaとなるように充填されることが好ましく、0.4MPa以上となるように充填されることがより好ましい。また、圧縮ガスは、25℃における容器内の圧力が0.7MPa以下となるように充填されることが好ましく、0.65MPa以下となるように充填されることがより好ましい。圧力が上記範囲内になるよう圧縮ガスが充填されることにより、エアゾール組成物は、適量が噴霧されやすい。
【0034】
エアゾール組成物全体の説明に戻り、本実施形態のエアゾール組成物を製造する方法は特に限定されない。一例を挙げると、エアゾール組成物は、エアゾール容器内に原液を充填し、エアゾール容器の開口部にエアゾールバルブを取り付け、エアゾールバルブからハイドロフルオロオレフィンを充填し、容器内で混合することにより調製することができる。また、エアゾールバルブのステムに噴射部材を取り付けることにより、エアゾール製品が製造され得る。
【0035】
本実施形態のエアゾール組成物を充填したエアゾール製品は、エアゾール組成物が充填されたエアゾール容器と、エアゾール容器に取り付けられたエアゾールバルブとを主に備える。
【0036】
(エアゾール容器)
エアゾール容器は、エアゾール組成物が充填される容器であり、有底筒状である。エアゾール容器の開口部には、エアゾールバルブが取り付けられる。
【0037】
エアゾール容器の材質は特に限定されない。一例を挙げると、エアゾール容器の材質は、アルミニウム、ブリキ等の金属、各種合成樹脂、耐圧ガラス等である。本実施形態のエアゾール組成物は、エアゾール容器の材質がブリキ等の金属製である場合に好適に使用される。すなわち、エアゾール容器がブリキ製である場合、エアゾール容器は、原液が低pHとなると、缶から溶出した錫がハイドロフルオロオレフィンに含まれるフッ素と反応して析出物が形成され、噴射孔やバルブの孔で詰まりやすくなる。しかしながら、本実施形態のエアゾール組成物は、長期間にわたって原液のpHが中性~弱アルカリ性に維持され得る。その結果、エアゾール組成物は、エアゾール容器の材質がブリキ製である場合であっても、析出物の発生が抑えられ、安定である。
【0038】
(エアゾールバルブ)
エアゾールバルブは、エアゾール容器の開口部を閉止して密封するための部材である。また、エアゾールバルブは、ハウジングと、エアゾール容器の内外を連通するステム孔が形成されたステムと、ステム孔の周囲に取り付けられ、ステム孔を閉止するためのステムラバーとを主に備える。ハウジングは、ステムを収容する。ステムは、略円筒状の部位であり、噴射時にハウジング内に取り込まれたエアゾール組成物が通過するステム内通路が形成されている。ステム内通路の下端近傍には、ハウジング内の空間とステム内通路とを連通するステム孔が形成されている。ステムの上端には、エアゾール組成物を噴射するための噴射部材が取り付けられる。ステムラバーは、ステム孔の周囲に取り付けられ、ハウジングの内部空間と外部とを適宜遮断するための部材である。ステムラバーは、円盤状の部材であり、非噴射時において、内周面をステムのステム孔が形成された外周面と密着させて、ステム孔を閉止する。
【0039】
(噴射部材)
噴射部材は、エアゾールバルブの開閉を操作してエアゾール組成物を噴射するための部材であり、ステムの上端に取り付けられる。噴射部材は、噴射孔が形成されたノズル部と、使用者が指等により操作する操作部とを主に備える。噴射孔からは、エアゾール組成物が噴射される。噴射孔の数および形状は特に限定されない。噴射孔は、複数であってもよい。また、噴射孔の形状は、略円形状、略角形状等であってもよい。
【0040】
本実施形態の噴射製品は、噴射部材が押し下げられると、エアゾールバルブのステムが下方に押し下げられる。これにより、ステムラバーが下方に撓み、ステム孔が開放される。その結果、エアゾール容器内と外部とが連通する。エアゾール容器内と外部とが連通すると、エアゾール容器内の圧力と外部との圧力差によって、エアゾール組成物がハウジング内に取り込まれ、次いで、ステム孔、ステム内通路を通過し、噴射部材に送られ、その後、噴射孔から噴射される。
【0041】
以上、本実施形態のエアゾール組成物は、噴射剤としてハイドロフルオロオレフィンを含んでおり、液化石油ガス等を主に含む場合と比べて、火気に対する安全性が高い。また、エアゾール組成物は、経時的なpHの変動が小さく、長期間にわたって、pHが中性~弱アルカリ性に維持されやすい。具体的には、本実施形態のエアゾール組成物は、調製直後のpHと45℃保存1か月後のpHとのpH変化量が、たとえば、0.8以内となるよう維持し得る。その結果、エアゾール組成物は、ハイドロフルオロオレフィンが使用されている場合であっても、析出物が生じにくく、噴射孔やバルブの孔で詰まりを生じにくい。
【実施例
【0042】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。本発明は、これら実施例に何ら限定されない。
【0043】
(実施例1)
以下の表1に記載の処方(単位:質量%)に従って、原液1を調製し、ブリキ製のエアゾール容器に80g充填した。次いで、エアゾールバルブをエアゾール容器の開口部に固着して密閉し、ステムから35.7gのハイドロフルオロオレフィン(トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロパ-1-エン)を充填し、原液とハイドロフルオロオレフィンを混合した。さらに、ステムから窒素ガスを充填して容器内の圧力を0.6MPa(25℃)に加圧した。
【0044】
【表1】
【0045】
(実施例2~7、比較例1~4)
原液の処方を表1に記載の処方に変更した以外は、実施例1と同様の方法により、原液を調製し、表2に記載の処方に従ってエアゾール組成物を調製し、エアゾール容器に充填し、エアゾール製品を作製した。
【0046】
(実施例8~11)
表1に記載の処方の原液を調製し、ブリキ製のエアゾール容器に40.0g充填した。次いで、エアゾールバルブをエアゾール容器の開口部に固着して密閉し、ステムから60.0gのハイドロフルオロオレフィン(トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロパ-1-エン)を充填し、原液とハイドロフルオロオレフィンを混合し、エアゾール製品を作製した。
【0047】
(実施例12、比較例5)
表1に記載の処方の原液を調製し、ブリキ製のエアゾール容器に50g充填した。次いで、エアゾールバルブをエアゾール容器の開口部に固着して密閉し、ステムから25.0gのハイドロフルオロオレフィン(トランス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン)と、25.0gのハイドロフルオロオレフィン(トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロパ-1-エン)を充填し、原液とハイドロフルオロオレフィンを混合し、エアゾール製品を作製した。
【0048】
実施例1~12および比較例1~5において調製したエアゾール製品を用いて、以下の評価方法により、調製直後および45℃保存1か月後におけるpHを測定した。結果を表2に示す。
【0049】
<pH測定>
調製直後のエアゾール製品からエアゾール組成物を噴射して原液を回収した。回収した原液を希釈して50%水溶液を調製し、20℃に調整し、pHを測定した(卓上型pHメーター、(株)堀場製作所製)。次いで、エアゾール製品を、45℃の恒温室で1か月間保管した。その後、エアゾール組成物を噴射して原液を回収し、同様の方法によりpHを測定した。
【0050】
<低温溶解性>
透明な耐圧ガラス製エアゾール容器にエアゾール組成物を充填した。エアゾール製品を-20℃の冷凍庫に24時間保管し、低温溶解性を以下の評価基準に従って評価した。
(評価基準)
○:異常がなかった。
×:樹脂の析出物があった。
【0051】
<析出物の有無>
45℃の恒温室で3か月間保管したエアゾール製品からエアゾール組成物を透明な耐圧ガラス製エアゾール容器に移充填して析出物の有無を以下の評価基準に従って評価した。
(評価基準)
〇:析出物がなかった。
×:析出物があった。
××:保存1か月間で析出物があった。
-:低温溶解性試験で析出物が発生したため評価しなかった。
【0052】
【表2】
【0053】
表2に示されるように、実施例1~12のエアゾール組成物は、45℃保存1か月後におけるpH変化量が0.1~0.7であり、安定性が高かった。そのため、このようなエアゾール組成物は、析出物が生じにくく、安全性が優れていると考えられた。また、中和度を90%、80%にした実施例9、実施例10のエアゾール組成物でも、析出物が無く、安定性が高く、さらに、中和度が100%である実施例8のエアゾール組成物と比較して被膜が硬くなり、セット力が上がった。
【0054】
一方、比較例1~3のエアゾール組成物は、45℃保存1か月後におけるpH変化量が1.0より大きかった。また、45℃保存で1か月もしくは3か月で、これらのエアゾール組成物は、析出物ができ、詰まりを起こすおそれがあった。また、比較例4のエアゾール組成物は、溶解性が悪く樹脂の析出物ができ、詰まりを起こすおそれがあった。また、比較例5のエアゾール組成物は、45℃保存1か月後におけるpH変化量は0.9であり、45℃保存3か月で、エアゾール組成物は、析出物ができ、詰まりを起こすおそれがあった。