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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】弁装置
(51)【国際特許分類】
   G05D 16/16 20060101AFI20241016BHJP
   F16K 17/30 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
G05D16/16 P
F16K17/30 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020137911
(22)【出願日】2020-08-18
(65)【公開番号】P2022034222
(43)【公開日】2022-03-03
【審査請求日】2023-07-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000137018
【氏名又は名称】株式会社ベン
(74)【復代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100093148
【弁理士】
【氏名又は名称】丸岡 裕作
(72)【発明者】
【氏名】細川 重章
(72)【発明者】
【氏名】盛田 隼人
【審査官】影山 直洋
(56)【参考文献】
【文献】特許第3660339(JP,B2)
【文献】特開2006-099222(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 16/16
F16K 17/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入口及び出口を有し流体が流れる流路を形成した本体を備え、該本体に、上記流路を仕切壁で仕切って形成され上記入口側の一次室及び上記出口側の二次室を設け、上記仕切壁に流体が通過可能な弁口を形成し、上記一次室に上記弁口を開閉する弁体を設け、上記二次室側に一端が上記弁体を支持し他端が作動ダイヤフラムに連係される弁棒を設け、上記本体に、上記弁口に対向する隔壁により上記二次室に対して隔てられ上記作動ダイヤフラムが収納される作動室を設け、該作動室を上記隔壁側の上部室及び上記作動ダイヤフラムで仕切られた下部室から構成し、上記弁棒を上記隔壁に進退動可能に貫通して設け、上記弁棒の近傍に上記二次室と上記作動室の上部室とを連通する狭隘な通路を形成し、上記二次室から上記通路を通して上記作動室の上部室に流入する流体と下部室の流体との圧力差により上記作動ダイヤフラムを介して上記弁棒を進退動させて上記弁体により上記弁口を開閉する弁装置において、
上記二次室内であって上記通路の開口の上側に、上記弁口に対向する傘部を設け、
上記隔壁に、上記弁棒が進退動可能に挿通される挿通孔を有したブッシュを設け、上記傘部を、上記ブッシュの上記二次室側の端部に脚部を介して設け、
上記通路を、上記ブッシュの挿通孔と上記弁棒との間に形成し、上記傘部を、盤状に形成し、該傘部に上記弁棒が挿通される貫通孔を形成し、上記脚部を、上記傘部の裏面と上記ブッシュの端面との間に架設して設け、上記傘部の裏面と上記ブッシュの端面との間に上記通路の開口が臨む凹所を形成したことを特徴とする弁装置。
【請求項2】
上記挿通孔を横断面円形に形成し、上記弁棒の少なくともその進退動時に上記挿通孔の内面に対面する部位を、上記挿通孔の内面を摺接する頂角を有した横断面多角形状に形成したことを特徴とする請求項1記載の弁装置。
【請求項3】
上記頂角に対応する部位を上記挿通孔の内周面に摺接する円弧面に面取り形成したことを特徴とする請求項2記載の弁装置。
【請求項4】
上記弁棒の上記二次室に露出する全部もしくは一部に、周方向に沿う溝を、軸方向に沿って所定間隔で複数形成したことを特徴とする請求項1乃至3何れかに記載の弁装置。
【請求項5】
上記一次室に、上記弁体を上記弁棒の後退方向であって上記弁体が上記弁口を閉にする方向に付勢する弁体スプリングを設け、上記作動ダイヤフラムの作動を制御する制御部を備え、該制御部を、上記一次室と上記作動室の下部室との間に設けられた作動管路と、該作動管路の途中に設けられ上記二次室側のパイロット圧が所定圧力以下になったとき該作動管路を開にし該パイロット圧が所定圧力を超えたとき該作動管路を閉にするパイロット弁とを備えて構成し、
上記制御部のパイロット弁が上記作動管路を開にしたとき、上記作動ダイヤフラムが上記弁体スプリングの付勢力に抗して上記弁棒を進出させて上記弁体により上記弁口を開にし、上記一次室から上記弁口を通して二次室側に流体を流出させ、上記制御部のパイロット弁が上記作動管路を閉にしたとき、上記作動ダイヤフラムが上記弁体スプリングの付勢力により上記弁棒を後退させて上記弁体により上記弁口を閉にし、上記一次室から二次室側への流体の流出を停止することを特徴とする請求項1乃至4何れかに記載の弁装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸気等の流体が流通する配管系に設けられる弁装置に係り、特に、ダイヤフラムを備えこのダイヤフラムの両側の圧力差に基づき流路を開閉する例えば減圧弁等の弁装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の弁装置としては、例えば、特許第3660339号公報(特許文献1)に掲載された蒸気用の減圧弁の技術が知られている。図14に示すように、この弁装置Saは、入口101及び出口102を有し蒸気である流体が流れる流路を形成した本体100を備え、この本体100に、流路を仕切壁103で仕切って形成され入口101側の一次室104及び出口102側の二次室105を設け、仕切壁103に流体が通過可能な弁口106を形成し、一次室104側に弁口106を開閉する弁体107を設け、二次室105側に一端が弁体107を支持し他端が作動ダイヤフラム108に連係される弁棒109を設け、本体100に、弁口106に対向する隔壁111により二次室105に対して隔てられ作動ダイヤフラム108が収納される作動室112を設け、この作動室112を隔壁111側の上部室113及び作動ダイヤフラム108で仕切られた下部室114から構成し、弁棒109を隔壁111に進退動可能に貫通して設けてある。弁体107は、弁口106を閉にする方向にコイルスプリング115で付勢されている。また、この弁装置Saおいて、隔壁111に、弁棒109を進退動可能に支持するブッシュ116を設け、弁棒109の近傍であって、ブッシュ116の外側に、二次室105と作動室112の上部室113とを連通する狭隘な通路117を形成し、二次室105から通路117を通して作動室112の上部室113に流入する流体と下部室114の流体との圧力差により作動ダイヤフラム108を介して弁棒109を進退動させて弁体107により弁口106を開閉するように構成されている。
【0003】
この弁装置Saは、作動ダイヤフラム108の作動を制御する制御部120を備え、制御部120は、二次室105側の圧力が低くなって所定圧力以下になったとき、一次室104の流体を作動室112の下部室114の流入口121から流入させて作動ダイヤフラム108がスプリング115の付勢力に抗して弁棒109を進出させ、弁体107により弁口106を開にし、一次室104から弁口106を通して二次室105側に流体を流出させ、二次室105側の圧力が所定圧力を超えたとき、一次室104の流体が作動室112の下部室114に流入することを停止し、作動ダイヤフラム108がスプリング115の付勢力により弁棒109を後退させ、弁体107により弁口106を閉にし、一次室104から二次室105側への流体の流出を停止する。これにより、二次室105側の流体の圧力を、一次室104側の流体圧力より低い所定圧力に保持するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第3660339号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、この従来の弁装置Taにおいては、二次室105側の圧力が所定圧力より低くなったとき、弁体107により弁口106を開にし、一次室104から弁口106を通して二次室105側に流体を流出させるが、このとき、一次室104側の流体が弁口106から二次室105に噴出し、この噴出流が通路117の開口117aに当たって作動室112の上部室113に流入しようとする現象が生じ、その場合には、作動室112の上部室113と下部室114との圧力差の変動が大きくなって作動ダイヤフラム108の作動が不安定になり、所謂ハンチングが生じる要因になるし、小刻みに弁体107が動くので弁体107そのものや弁棒109の摺動部の摩耗が進みやすくなって耐久性を損ねる要因となり、好ましくないという問題があった。
【0006】
本発明は上記の問題点に鑑みて為されたもので、弁口から二次室に流出する流体が直接通路に当たらないようにして、作動ダイヤフラムの作動室において上部室と下部室との圧力差の変動を抑制し、作動ダイヤフラムの作動の安定化を図った弁装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的を達成するため、本発明の弁装置は、入口及び出口を有し流体が流れる流路を形成した本体を備え、該本体に、上記流路を仕切壁で仕切って形成され上記入口側の一次室及び上記出口側の二次室を設け、上記仕切壁に流体が通過可能な弁口を形成し、上記一次室に上記弁口を開閉する弁体を設け、上記二次室側に一端が上記弁体を支持し他端が作動ダイヤフラムに連係される弁棒を設け、上記本体に、上記弁口に対向する隔壁により上記二次室に対して隔てられ上記作動ダイヤフラムが収納される作動室を設け、該作動室を上記隔壁側の上部室及び上記作動ダイヤフラムで仕切られた下部室から構成し、上記弁棒を上記隔壁に進退動可能に貫通して設け、上記弁棒の近傍に上記二次室と上記作動室の上部室とを連通する狭隘な通路を形成し、上記二次室から上記通路を通して上記作動室の上部室に流入する流体と下部室の流体との圧力差により上記作動ダイヤフラムを介して上記弁棒を進退動させて上記弁体により上記弁口を開閉する弁装置において、
上記二次室内であって上記通路の開口の上側に、上記弁口に対向する傘部を設けた構成としている。
【0008】
これにより、例えば、流体を作動室の下部室に流入させて作動ダイヤフラムにより弁棒を進出させ、弁体により弁口を開にし、一次室から弁口を通して二次室側に流体を流出させる際、流体が弁口から噴き出すと、流体は通路を覆う傘部に当接するので、流体が通路の開口に当たって作動室の上部室に流入しようとする事態が阻止され、そのため、作動室の上部室と下部室との圧力差に変動を極めて小さくすることができる。その結果、作動ダイヤフラムの作動の安定化を図ることができ、所謂ハンチングが生じる事態を防止することができるとともに、弁体そのものや摺動部の摩耗を進みにくくして耐久性を向上させることができる。この場合、通路の開口の上側に傘部を設けたので、通路による二次室と作動室の上部室との連通状態が確保されることから、通常の作動ダイヤフラムの動作に影響を与えることはない。
【0009】
そして、必要に応じ、上記隔壁に、上記弁棒が進退動可能に挿通される挿通孔を有したブッシュを設け、上記傘部を、上記ブッシュの上記二次室側の端部に脚部を介して設けた構成としている。傘部をブッシュに脚部を介して設けたので、組付けが容易になり、二次室内に設置し易くなる。
【0010】
また、必要に応じ、上記通路を、上記ブッシュの挿通孔と上記弁棒との間に形成し、上記傘部を、盤状に形成し、該傘部に上記弁棒が挿通される貫通孔を形成し、上記脚部を、上記傘部の裏面と上記ブッシュの端面との間に架設して設け、上記傘部の裏面と上記ブッシュの端面との間に上記通路の開口が臨む凹所を形成した構成としている。
【0011】
これにより、弁棒が傘部の貫通孔によっても支持されるので、弁棒の支持が安定する。また、傘部は貫通孔の周囲にあって挿通孔の周囲の上側にあることから、弁口からの流体が通路の開口に確実に当たらないようにすることができる。また、弁口からの流体が貫通孔に侵入することがあっても、流体は凹所に抜けるので、この点でも、流体が通路の開口に確実に当たらないようにすることができる。
【0012】
この場合、上記挿通孔を横断面円形に形成し、上記弁棒の少なくともその進退動時に上記挿通孔の内面に対面する部位を、上記挿通孔の内面を摺接する頂角を有した横断面多角形状に形成した構成としている。弁棒の頂角部分が挿通孔を摺接するので、弁棒の支持が安定する。また、通路を断面多角形状の辺と挿通孔の内面で形成するので、通路が複数形成されることから、通路による二次室と作動室の上部室との連通状態を確実に確保することができ、通常の作動ダイヤフラムの動作を確実に行わせることができる。
【0013】
また、この場合、上記頂角に対応する部位を上記挿通孔の内周面に摺接する円弧面に面取り形成したことが有効である。弁棒の頂角部分の挿通孔に対する摺接を、円滑に行わせることができる。
【0014】
そしてまた、必要に応じ、上記弁棒の上記二次室に露出する全部もしくは一部に、周方向に沿う溝を、軸方向に沿って所定間隔で複数形成した構成としている。これにより、弁棒に溝による段差が形成されることから、弁口から噴出した流体が弁棒に当たるとこの溝による段差によって流体が分散し、より一層、流体が通路の開口に当たって作動室の上部室に流入しようとする事態を阻止することができる。
【0015】
また、必要に応じ、上記一次室に、上記弁体を上記弁棒の後退方向であって上記弁体が上記弁口を閉にする方向に付勢する弁体スプリングを設け、上記作動ダイヤフラムの作動を制御する制御部を備え、該制御部を、上記一次室と上記作動室の下部室との間に設けられた作動管路と、該作動管路の途中に設けられ上記二次室側のパイロット圧が所定圧力以下になったとき該作動管路を開にし該パイロット圧が所定圧力を超えたとき該作動管路を閉にするパイロット弁とを備えて構成し、
上記制御部のパイロット弁が上記作動管路を開にしたとき、上記作動ダイヤフラムが上記弁体スプリングの付勢力に抗して上記弁棒を進出させて上記弁体により上記弁口を開にし、上記一次室から上記弁口を通して二次室側に流体を流出させ、上記制御部のパイロット弁が上記作動管路を閉にしたとき、上記作動ダイヤフラムが上記弁体スプリングの付勢力により上記弁棒を後退させて上記弁体により上記弁口を閉にし、上記一次室から二次室側への流体の流出を停止する構成としている。パイロット圧により作動する作動ダイヤフラムに対応することができる。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように本発明の弁装置によれば、流体が弁口から噴き出すと、流体は通路を覆う傘部に当接するので、流体が通路の開口に当たって作動室の上部室に流入しようとする事態を阻止することができ、そのため、作動ダイヤフラムの作動室において上部室と下部室との圧力差の変動を抑制し、作動ダイヤフラムの作動の安定化を図ることができ、所謂ハンチングが生じる事態を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施の形態に係る弁装置を示す斜視図である。
図2】本発明の実施の形態に係る弁装置を示す図1中A-A線断面図である。
図3】本発明の実施の形態に係る弁装置を示す図1中B-B線断面図である。
図4】本発明の実施の形態に係る弁装置の要部を示す分解斜視図である。
図5】本発明の実施の形態に係る弁装置のブッシュに設けられた傘部を示し(a)は図4中C-C線断面図、(b)は図4中D-D線断面図である。
図6】本発明の実施の形態に係る弁装置の傘部のある要部を示す拡大断面図である。
図7】本発明の実施の形態に係る弁装置の傘部のある要部を示す図6中E-E線断面図である。
図8】本発明の実施の形態に係る弁装置の傘部のある要部を示す図6中F-F線断面図である。
図9】本発明の実施の形態に係る弁装置の試験例において、比較対象とした比較例に係る弁装置の要部を示す拡大断面図である。
図10】本発明の実施の形態に係る弁装置の試験例において用いた試験装置を示す図である。
図11】本発明の実施の形態に係る弁装置の試験結果を示し、(a)は流量-圧力特性を示すグラフ図、(b)は作動ダイヤフラムの作動室の下部室圧力と上部室圧力との圧力差を示すグラフ図である。
図12】本発明の実施の形態に係る弁装置の試験例において、比較対象とした比較例に係る弁装置の試験結果を示し、(a)は流量-圧力特性を示すグラフ図、(b)は作動ダイヤフラムの作動室の下部室圧力と上部室圧力との圧力差を示すグラフ図である。
図13】本発明の実施の形態に係る弁装置の変形例を示す要部断面図である。
図14】従来の弁装置の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面に基づいて、本発明の実施の形態に係る弁装置について詳細に説明する。
図1乃至図8に示すように、本発明の実施の形態に係る弁装置Sは、蒸気用の減圧弁であり、入口2及び出口3を有し流体が流れる流路を形成した本体1を備えている。本体1は、入口2及び出口3がこれらの軸線が一方向中心線P上に位置するように形成された管体4を備えている。管体4には、一方向中心線Pに直交する他方向中心線Q上に、下開口5及び上開口6が形成されている。下開口5には、下開口5を塞ぐ隔壁7を有しこの隔壁7により隔てて形成される後述の作動ダイヤフラム18の作動室30が設けられる下部体8が取付けられ、上開口6には、後述の制御部50を構成し上開口6を塞ぐベース壁11を有した上部体10が取付けられている。本体1は、管体4,下部体8及び上部体10で構成される。
【0019】
管体4内には、一方向中心線Pを横切り、入口2及び上開口6側と、出口3及び下開口5側とを仕切る仕切壁12が設けられている。これにより、本体1には、流路を仕切壁12で仕切って形成され入口2側の一次室13及び出口3側の二次室14が設けられている。仕切壁12には、他方向中心線Qを軸線とする流体が通過可能な弁口15が形成されている。弁口15は仕切壁12にネジ結合により装着された弁座体16に形成されている。また、一次室13には、弁口15を開閉する弁体17が設けられている。
【0020】
二次室14側には、一端が弁体17を支持し他端が作動ダイヤフラム18に連係され他方向中心線Qを軸線とした弁棒20が設けられている。更に、一次室13には、弁体17を弁棒20の後退方向であって弁体17が弁口15を閉にする方向に付勢するコイルスプリングからなる弁体スプリング21が設けられている。弁体スプリング21は他方向中心線Qを軸線として一端がベース壁11に設けたスプリング保持体22に保持され、他端が弁体17に係止されている。
【0021】
また、本体1を構成する下部体8には、弁口15に対向する下部体8の隔壁7により二次室14に対して隔てられ作動ダイヤフラム18が収納される作動室30が設けられている。作動室30は、隔壁7側の上部室31及び作動ダイヤフラム18で仕切られた下部室32から構成されている。弁棒20は、隔壁7に進退動可能に貫通して設けられている。更に、弁棒20の近傍には、二次室14と作動室30の上部室31とを連通する狭隘な通路Rが形成されている。そして、二次室14から通路Rを通して作動室30の上部室31に流入する流体と下部室32の流体との圧力差により作動ダイヤフラム18を介して弁棒20を進退動させて弁体17により弁口15を開閉するようにしている。
【0022】
詳しくは、隔壁7には、弁棒20が進退動可能に挿通され他方向中心線Qを軸線とした挿通孔34を有したブッシュ35が設けられている。ブッシュ35は、作動室30側の他方向中心線Qを軸線とした雄ネジ部36と二次室14側に突出した基部37とを備えて構成され、挿通孔34は横断面円形の円柱状に形成されている。隔壁7には他方向中心線Qを軸線とした雌ネジ部38が形成されており、ブッシュ35はその雄ネジ部36を雌ネジ部38に螺合することにより隔壁7に取付けられている。通路Rは、ブッシュ35の挿通孔34と弁棒20との間に形成されている。
【0023】
二次室14内であって通路Rの開口の上側には、弁口15に対向する傘部40が設けられている。傘部40は、図2乃至図6に示すように、ブッシュ35の二次室14側の端部に脚部41を介して設けられている。詳しくは、傘部40は、円盤状に形成されており、傘部40の中心には弁棒20が挿通され他方向中心線Qを軸線とした貫通孔42が形成されている。貫通孔42は挿通孔34と同じ内径の横断面円形の円柱状に形成されている。脚部41は、一対設けられ、傘部40の裏面とブッシュ35の上端面との間に互いに対向して架設して設けられている。一対の脚部41の内側面は、挿通孔34及び貫通孔42に連続するこれらと同じ円弧面に形成されている。これにより、傘部40の裏面とブッシュ35の端面との間には、通路Rの開口Raが臨む凹所43が形成される。実施の形態においては、ブッシュ35,脚部41及び傘部40は、一体形成されている。そのため、傘部40をブッシュ35に脚部41を介して一体形成したので、加工が容易であり、また、傘部40の組付けが容易になり、二次室14内に設置し易くなる。
【0024】
弁棒20において、図4図6乃至図8に示すように、少なくともその進退動時に挿通孔34及び貫通孔42の内面に対面する部位は、挿通孔34及び貫通孔42の内面を摺接する頂角を有した横断面多角形状に形成されている。実施の形態では、ブッシュ35の下端面と傘部40の上面間の寸法よりも長い範囲に亘って、横断面正六角形状に形成されている。また、頂角に対応する部位は、挿通孔34及び貫通孔42の内周面に摺接する円弧面に面取り形成されている。これにより、通路Rは、横断面正六角形状の辺と挿通孔34の内面で形成され、等角度間隔で複数形成されることになる。
【0025】
また、弁棒20の二次室14に露出する全部もしくは一部には、周方向に沿う溝45が、軸方向に沿って所定間隔で複数形成されている。実施の形態では、溝45は、弁棒20の横断面正六角形状に形成された部分であって、挿通孔34に僅かに入り込む部分から弁口15側に向けて、4条形成してある。溝45の底面は円周面に形成されている。
【0026】
そして、本装置には、作動ダイヤフラム18の作動を制御する制御部50が備えられている。制御部50は、図2及び図3に示すように、一次室13と作動室30の下部室32との間に設けられた作動管路51と、作動管路51の途中に設けられ二次室14側のパイロット圧が所定圧力以下になったとき作動管路51を開にし、パイロット圧が所定圧力を超えたとき作動管路51を閉にするパイロット弁52と、パイロット弁52よりも下部室32側に設けられ作動管路51内の流体を二次室14に逃す逃し管路53(図1)とを備えて構成されている。
【0027】
詳しくは、上部体10には、パイロット弁52が収納されベース壁11で一次室13と仕切られた弁室54が設けられており、ベース壁11には一次室13と弁室54とを連通する連通路55(図3)が形成されている。本体1の外部には、弁室54と作動室30の下部室32の流入口32aとの間に配管された第1パイプ56(図1及び図3)と、第1パイプ56の途中から分岐されて管体4の二次室14に配管された第2パイプ57が設けられており、作動管路51は、連通路55-弁室54-第1パイプ56で形成される通路で構成され、逃し管路53は、第2パイプ57で形成される通路で構成される。
【0028】
制御部50において、弁室54には他方向中心線Qを軸心とするパイロット弁口58が形成されており、パイロット弁52は、連通路55側に設けられ、ベース壁11のスプリング保持体22に一端が支持されたコイルスプリングからなる第1スプリング59の他端に保持され、この第1スプリング59により常時パイロット弁口58を閉じる方向に付勢されている。上部体10のパイロット弁52よりも上側には、パイロット弁52を開閉する駆動部60が設けられている。駆動部60は、パイロット弁52の上側に設けられた軸受体61に摺動可能に設けられ常時先端がパイロット弁52に当接する他方向中心線Qを軸線とするロッド62を備えている。
【0029】
また、駆動部60は、ロッド62の基端に当接し二次室14側のパイロット圧によりロッド62を押圧及び押圧解除する制御ダイヤフラム63を備えている。制御ダイヤフラム63は、上部体10の軸受体61の上側に設けた動作室64に収納されており、動作室64は、二次室14側のパイロット圧を受ける受圧室65と、制御ダイヤフラム63によって仕切られ制御ダイヤフラム63を常時所定の付勢力で押圧するコイルスプリングからなる第2スプリング67を収納したスプリング室66とから構成されている。68は第2スプリング67の付勢力を調整し、パイロット圧を所定圧力に設定する調整部である。図2中、符号69は、二次室14側であって出口3より後流側の管路からのパイロット圧を受圧室65に供給するパイロット管である。
【0030】
これにより、パイロット圧が、設定した所定圧力以下になると、第2スプリング67の付勢力により制御ダイヤフラム63がロッド62を押圧し、ロッド62はパイロット弁52を押圧し、パイロット弁52はパイロット弁口58を開き、作動管路51を開にする。作動管路51が開になると、一次室13の流体が作動管路51(連通路55→弁室54→第1パイプ56)を通して作動ダイヤフラム18の作動室30の下部室32に供給される。作動室30の下部室32に流体が供給されると、作動ダイヤフラム18が弁体スプリング21の付勢力に抗して弁棒20を進出させて弁体17により弁口15を開にし、一次室13から弁口15を通して二次室14側に流体を流出させる。
【0031】
一方、パイロット圧が、設定した所定圧力を超えると、第2スプリング67の付勢力に抗して制御ダイヤフラム63が押し上げられ、ロッド62の押圧が解除されるので、第1スプリング59の付勢力によりパイロット弁52はロッド62を押し上げながらパイロット弁口58を閉じ、作動管路51を閉にする。作動管路51が閉になると、一次室13の流体の供給が停止され、作動ダイヤフラム18の作動室30の下部室32の流体は逃し管路53(第2パイプ57)を通して二次室14に逃される。これにより、作動ダイヤフラム18が弁体スプリング21の付勢力により弁棒20を後退させて弁体17により弁口15を閉にし、一次室13から二次室14側への流体の流出を停止する。
【0032】
従って、この実施の形態に係る弁装置Sによれば、パイロット圧が、設定した所定圧力以下になると、制御部50が、作動管路51を開にし、一次室13の流体が作動管路51を通して作動ダイヤフラム18の作動室30の下部室32に供給され、作動ダイヤフラム18が弁体スプリング21の付勢力に抗して弁棒20を進出させて弁体17により弁口15を開にし、一次室13から弁口15を通して二次室14側に流体を流出させる。一方、パイロット圧が、設定した所定圧力を超えると、制御部50が、作動管路51を閉にし、一次室13の流体の供給が停止され、作動ダイヤフラム18が弁体スプリング21の付勢力により弁棒20を後退させて弁体17により弁口15を閉にし、一次室13から二次室14側への流体の流出を停止する。これにより、二次室14側の流体の圧力は、一次室13側の流体圧力より低い所定圧力に保持される。
【0033】
この弁装置Sにおいて、二次室14側の圧力が所定圧力より低くなったとき、弁体17により弁口15を開にし、一次室13から弁口15を通して二次室14側に流体を流出させるが、このとき、一次室13側の流体が弁口15から二次室14に噴出すると、図6に示すように、流体は通路Rを覆う傘部40に当接するので、流体が通路Rの開口Raに当たって作動室30の上部室31に流入しようとする事態を阻止することができる。また、傘部40は貫通孔42の周囲にあって挿通孔34の周囲の上側にあることから、弁口15からの流体が通路Rの開口Raに確実に当たらないようにすることができる。弁口15からの流体が貫通孔42に侵入することがあっても、流体は凹所43に抜けるので、この点でも、流体が通路Rの開口Raに確実に当たらないようにすることができる。
【0034】
特に、弁棒20の二次室14に露出する一部に、周方向に沿う溝45を、軸方向に沿って所定間隔で複数形成したので、弁棒20に溝45による段差が形成されることから、弁口15から噴出した流体が弁棒20に当たるとこの溝45による段差によって流体が分散し、より一層、流体が通路Rの開口Raに当たって作動室30の上部室31に流入しようとする事態を阻止することができる。そのため、作動室30の上部室31と下部室32との圧力差の変動を極めて小さくすることができる。その結果、作動ダイヤフラム18の作動の安定化を図ることができ、所謂ハンチングが生じる事態を防止することができるとともに、弁体17そのものや摺動部の摩耗を進みにくくして耐久性を向上させることができる。
【0035】
この場合、通路Rの開口Raの上側に傘部40を設けたので、通路Rによる二次室14と作動室30の上部室31との連通状態が確保されることから、通常の作動ダイヤフラム18の動作に影響を与えることはない。特に、通路Rを断面多角形状の辺と挿通孔34の内面で形成するので、通路Rが複数形成されることから、通路Rによる二次室14と作動室30の上部室31との連通状態を確実に確保することができ、通常の作動ダイヤフラム18の動作を確実に行わせることができる。
【0036】
また、弁棒20の進退動においては、弁棒20が傘部40の貫通孔42によっても支持されるので、弁棒20の支持を安定化させることができる。また、弁棒20の頂角部分が挿通孔34及び貫通孔42を摺接するので、弁棒20の支持をより一層安定化させることができる。更に、頂角に対応する部位を挿通孔34及び貫通孔42の内周面に摺接する円弧面に面取り形成したので、弁棒20の頂角部分の挿通孔34及び貫通孔42に対する摺接を、円滑に行わせることができ、この点でも弁棒20の支持をより一層安定化させることができる。
【0037】
<試験例>
次に試験例について説明する。
実施の形態に係る弁装置Sについて、作動ダイヤフラム18の作動室30において上部室31と下部室32との圧力差の変動について試験した。試験は、比較例に係る弁装置Sbについても行い、これと比較した。図9に示すように、比較例に係る弁装置Sbは、傘部40及び脚部41を切除したブッシュ35のみとするとともに、弁棒20を溝45のない横断面正六角形状で頂角に対応する部位を面取り形成した構成とし、他は実施の形態に係る弁装置Sと同様に構成した。これにより、比較例においては、通路Rの開口Raが弁口に対向して二次室14内で露出することになる。
【0038】
また、試験は、図10に示す試験装置70を用いた。試験装置70は、ボイラ(図示せず)で生成された蒸気を蒸気ヘッダー71に貯留し、この蒸気ヘッダー71に接続した蒸気管72の途中に弁装置S,Sbを介装した。また、蒸気管72には弁装置S,Sbより上流側に第1開閉弁73及び流量計74を介装し、弁装置S,Sbより下流側に第2開閉弁75を介装した。弁装置S,Sbより下流側の管路と制御ダイヤフラム63の動作室64の受圧室65とをパイロット管路76で接続し、弁装置S,Sbより下流側の管路からパイロット圧を取るように構成した。図2も参照し、弁装置S,Sbより上流側の一次側圧力(設定値)をP1、パイロット圧(設定値)をP2a、二次室14圧力をP2b、作動ダイヤフラム18の作動室30における下部室32の圧力をP3、上部室31の圧力をP4とし、P1=1.0MPa、P2a=0.2MPaに設定した。
【0039】
この条件で、第1開閉弁73を全開にして、第2開閉弁75を閉状態から徐々に開き、所要時間(例えば2分間)で蒸気管の流量を0Kg/hから3100Kg/hに変化させ、デジタル圧力計により、各圧力(パイロット圧P2a、二次室14圧力P2b、下部室32圧力P3、上部室31圧力P4)を測定した。
【0040】
実施の形態に係る弁装置Sについての結果を図11(a)、比較例に係る弁装置Sbについての結果を図12(a)に示す。この結果、パイロット圧P2aと二次室14圧力P2bとは略等しい値を示し、実施の形態に係る弁装置S及び比較例に係る弁装置Sbともに減圧弁として有効に機能していることが分かる。しかし、下部室32の圧力P3及び上部室31の圧力P4において、比較例に係る弁装置Sbでは、小刻みに変動しており、そのため、流量が700Kg/h付近で、所謂ハンチングの現象が生じていることが分かる(図12(a)のX視部分)。これに対して、実施の形態に係る弁装置Sでは、変動が極めて少なく安定していることが分る。
【0041】
そして、作動ダイヤフラム18の作動室30における下部室32の圧力P3と上部室31の圧力P4との差圧ΔP(=P3-P4)を算出した。実施の形態に係る弁装置Sについての結果を図11(b)、比較例に係る弁装置Sbについての結果を図12(b)に示す。この結果、下部室32の圧力P3と上部室31の圧力P4との差圧ΔPは、比較例に係る弁装置Sbでは、小刻みに大きく変動し、これに対して、実施の形態に係る弁装置Sでは、変動が極めて少なく安定していることが分かった。この結果、通路Rの開口Raの上側に傘部40を設け、弁棒20に溝45を形成することが極めて有効であることが分かった。
【0042】
尚、上記実施の形態では、通路Rをブッシュ35の挿通孔34と弁棒20との間に形成し、傘部40を円盤状に形成してその中心に弁棒20が挿通される貫通孔42を形成して脚部41で支持したが、本発明の開発過程では、図13に示すように、従来例で示した弁装置S(図14)のように、通路Rをブッシュ35と隔壁7との間に形成し、傘部40をこの通路Rの開口Raの上側に位置させてブッシュ35に脚部41で支持するように設けた構成のものも提案されたので、参考に示しておく。また、図13に示すように、このタイプにおいても弁棒20に周方向に沿う溝45を軸方向に沿って所定間隔で複数形成することは有効である。また、上記実施の形態では、傘部40を脚部41を介してブッシュ35に支持したが、本発明の開発過程では、二次室14を構成する壁部や弁棒20に設ける構成のものも提案されたので、参考に示しておく。
【0043】
また、上記実施の形態では、本発明を減圧弁に適用した例を示したが、必ずしもこれに限定されるものではなく、作動ダイヤフラム18に連係される弁棒20により弁体17を作動させ、弁棒20の近傍に通路Rを形成して作動ダイヤフラム18を作動するタイプの弁装置であれば、どのような弁装置においても本発明を適用できることが勿論である。また、蒸気用の弁装置に限らず、蒸気用以外の流体用の弁装置に本発明を適用してよいことは勿論である。要するに、当業者は、本発明の新規な教示及び効果から実質的に離れることなく、これら例示である実施の形態に多くの変更を加えることが容易であり、これらの多くの変更は本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0044】
S 弁装置
1 本体
2 入口
3 出口
P 一方向中心線
Q 他方向中心線
4 管体
5 下開口
6 上開口
7 隔壁
8 下部体
10 上部体
11 ベース壁
12 仕切壁
13 一次室
14 二次室
15 弁口
16 弁座体
17 弁体
18 作動ダイヤフラム
20 弁棒
21 弁体スプリング
22 スプリング保持体
30 作動室
31 上部室
32 下部室
32a 流入口
R 通路
Ra 開口
34 挿通孔
35 ブッシュ
36 雄ネジ部
37 基部
38 雌ネジ部
40 傘部
41 脚部
42 貫通孔
43 凹所
45 溝
50 制御部
51 作動管路
52 パイロット弁
53 逃し管路
54 弁室
55 連通路
56 第1パイプ
57 第2パイプ
58 パイロット弁口
59 第1スプリング
60 駆動部
61 軸受体
62 ロッド
63 制御ダイヤフラム
64 動作室
65 受圧室
66 スプリング室
67 第2スプリング
68 調整部
69 パイロット管
Sb 比較例に係る弁装置
70 試験装置
71 蒸気ヘッダー
72 蒸気管
73 第1開閉弁
74 流量計
75 第2開閉弁
76 パイロット管路
P1 一次側圧力(設定値)
P2a パイロット圧(設定値)
P2b 二次室の圧力
P3 下部室の圧力
P4 上部室の圧力
ΔP 下部室の圧力と上部室の圧力との差圧(P3-P4)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14