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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】ワイヤストレートナ
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/12 20060101AFI20241016BHJP
【FI】
B23K9/12 311
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020138040
(22)【出願日】2020-08-18
(65)【公開番号】P2022034303
(43)【公開日】2022-03-03
【審査請求日】2023-07-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100135389
【弁理士】
【氏名又は名称】臼井 尚
(74)【代理人】
【識別番号】100168044
【弁理士】
【氏名又は名称】小淵 景太
(72)【発明者】
【氏名】脇田 淳一
(72)【発明者】
【氏名】清水 康隆
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-090231(JP,A)
【文献】特開平06-031365(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2個の第1矯正ロールと、
第2矯正ロールと、
モータを有し、かつ、2個の前記第1矯正ロールと前記第2矯正ロールとのいずれか一方を他方に近づける方向に移動させる移動機構と、
前記モータのトルクを検出するセンサと、
前記移動機構にて2個の前記第1矯正ロールと前記第2矯正ロールとの距離を近づけさせ、前記センサによる検出値が、2個の前記第1矯正ロールと前記第2矯正ロールとの間を通過する溶接ワイヤの材質および直径に対応付けられた閾値以上になると、前記移動機構を停止させる制御部と、
を備えているワイヤストレートナ。
【請求項2】
前記移動機構は、
前記モータと、
加圧調整ネジと、
前記第2矯正ロールを支持し、前記加圧調整ネジに螺合して、前記加圧調整ネジの回転に応じて移動する移動部と、
前記モータの回転力を必要なトルクに変換しながら前記加圧調整ネジに伝達するギヤと、
を備え、
前記モータは、前記制御部からの指令に応じて回転駆動する、
請求項1に記載のワイヤストレートナ。
【請求項3】
前記移動部が所定の初期位置にあることを検出する位置センサをさらに備え、
前記移動機構は、前記モータの逆回転によって、前記第2矯正ロールを2個の前記第1矯正ロールから遠ざけるように移動させ、
前記制御部は、開放指令を入力された場合に、前記位置センサによって前記移動部が前記初期位置にあることを検出されるまで、前記モータを逆回転させる、
請求項2に記載のワイヤストレートナ。
【請求項4】
2個の第3矯正ロールと、
第4矯正ロールと、
第2のモータを有し、2個の前記第3矯正ロールと前記第4矯正ロールとのいずれか一方を他方に近づける方向に移動させる第2の移動機構と、
前記第2のモータのトルクを検出する第2のセンサと、
前記第2のセンサによる検出値が、前記閾値になるまで、前記第2の移動機構に両者を近づけさせる制御を行う第2の制御部と、
をさらに備え、
前記溶接ワイヤは、2個の前記第3矯正ロールと前記第4矯正ロールとの間を通過し、
前記移動機構が移動させる方向と、前記第2の移動機構が移動させる方向とがなす角度は90度である、
請求項1ないし3のいずれかに記載のワイヤストレートナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接ワイヤの巻き癖を矯正するワイヤストレートナに関する。
【背景技術】
【0002】
消耗電極型の溶接システムにおいて、ワイヤ送給装置は、例えばワイヤリールに巻回された溶接ワイヤを溶接トーチに送給する。溶接ワイヤに巻き癖がついたままだと、ワイヤ送給装置から溶接トーチに溶接ワイヤを案内するコンジットケーブルなどの内壁に溶接ワイヤが接触しやすく、溶接ワイヤの送給抵抗が大きくなる。また、溶接トーチの先端から突出する溶接ワイヤWの先端部分が湾曲して、アークが不安定になる。これらを抑制するために、溶接ワイヤの巻き癖を矯正するワイヤストレートナが、ワイヤ送給装置の入口側に配置される。特許文献1には、ワイヤストレートナの一例が開示されている。
【0003】
当該ワイヤストレートナは、回転可能に支持された2個の固定矯正ロールと、2個の固定矯正ロールの下方に回転可能かつ上下動可能に配置された可動矯正ロールとの間を通過させることで、溶接ワイヤの矯正を行う。溶接ワイヤを適切に矯正するためには、溶接ワイヤの材質および直径によって、2個の固定矯正ロールと可動矯正ロールとによる溶接ワイヤへの加圧を調整する必要がある。作業者は、加圧調整ハンドルを回して、溶接ワイヤの材質および直径に対応した位置まで可動矯正ロールを移動させることで、溶接ワイヤへの加圧を調整する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-87290号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
作業者は、使用する溶接ワイヤを交換するたびに、溶接ワイヤの材質および直径に対応した位置まで可動矯正ロールを移動させるために、加圧調整ハンドルを手動で回す必要がある。可動矯正ロールの位置は、目盛りをみて調整するので、ワイヤストレートナBの設置場所によっては、溶接ワイヤの交換時の作業性がよくない場合がある。
【0006】
本発明は上記した事情のもとで考え出されたものであって、溶接ワイヤを適切に矯正できるように自動調整を行うワイヤストレートナを提供することをその目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を講じている。
【0008】
本発明のワイヤストレートナは、2個の第1矯正ロールと、第2矯正ロールと、モータを有し、かつ、2個の前記第1矯正ロールと前記第2矯正ロールとのいずれか一方を他方に近づける方向に移動させる移動機構と、前記モータのトルクを検出するセンサと、前記センサによる検出値が、2個の前記第1矯正ロールと前記第2矯正ロールとの間を通過する溶接ワイヤの材質および直径に対応付けられた閾値になるまで、前記移動機構に両者を近づけさせる制御を行う制御部とを備えている。
【0009】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記移動機構は、前記モータと、加圧調整ネジと、前記第2矯正ロールを支持し、前記加圧調整ネジに螺合して、前記加圧調整ネジの回転に応じて移動する移動部と、前記モータの回転力を必要なトルクに変換しながら前記加圧調整ネジに伝達するギヤとを備え、前記モータは、前記制御部からの指令に応じて回転駆動する。
【0010】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記移動部が所定の初期位置にあることを検出する位置センサをさらに備え、前記移動機構は、前記モータの逆回転によって、前記第2矯正ロールを2個の前記第1矯正ロールから遠ざけるように移動させ、前記制御部は、開放指令を入力された場合に、前記位置センサによって前記移動部が前記初期位置にあることを検出されるまで、前記モータを逆回転させる。
【0011】
本発明の好ましい実施の形態においては、2個の第3矯正ロールと、第4矯正ロールと、第2のモータを有し、2個の前記第3矯正ロールと前記第4矯正ロールとのいずれか一方を他方に近づける方向に移動させる第2の移動機構と、前記第2のモータのトルクを検出する第2のセンサと、前記第2のセンサによる検出値が、前記閾値になるまで、前記第2の移動機構に両者を近づけさせる制御を行う第2の制御部とをさらに備え、前記溶接ワイヤは、2個の前記第3矯正ロールと前記第4矯正ロールとの間を通過し、前記移動機構が移動させる方向と、前記第2の移動機構が移動させる方向とがなす角度は90度である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、制御部は、センサによる検出値が、溶接ワイヤの材質および直径に対応付けられた閾値になるまで、2個の前記第1矯正ロールと前記第2矯正ロールとを近づけさせる。2個の前記第1矯正ロールと前記第2矯正ロールとが、溶接ワイヤを適切に矯正できる加圧を行えるときのモータのトルクに応じた値を閾値として設定することで、制御部は、溶接ワイヤを適切に矯正できる加圧に自動調整できる、したがって、作業者は、加圧の調整を手動で行う必要がない。
【0013】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】第1実施形態に係るワイヤストレートナを説明するための図であり、当該ワイヤストレートナを備える溶接システムを示す全体構成図である。
図2】(a)は第1実施形態に係るワイヤストレートナを示す正面図であり、(b)は底面図である。
図3】第1実施形態に係るワイヤストレートナのモータ制御のための構成を示す機能構成図である。
図4】モータ制御部が行うモータの駆動制御処理の一例を示すフローチャートである。
図5】第2実施形態に係るワイヤストレートナを説明するための図であり、当該ワイヤストレートナを備える溶接システムを示す全体構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して具体的に説明する。
【0016】
〔第1実施形態〕
図1および図2は、第1実施形態に係るワイヤストレートナB1を説明するための図である。図1は、ワイヤストレートナB1を備える溶接システムを示す全体構成図である。図2(a)は、ワイヤストレートナB1を示す正面図である。図2(b)は、ワイヤストレートナB1を示す底面図である。図3は、ワイヤストレートナB1のモータ制御のための構成を示す機能構成図である。
【0017】
図1に示すように、消耗電極型の溶接システムは、ワイヤ送給装置A1、ワイヤストレートナB1、ワイヤリール4、および溶接トーチ5を備えている。なお、実際には、溶接システムは、溶接トーチ5に電力を供給する溶接電源装置や、溶接トーチ5にシールドガスを供給するガスタンクなども備えているが、図1では記載を省略している。以下では、溶接ワイヤWが進行する方向に合わせて、ワイヤリール4側を上流側(図1においては左側)とし、溶接トーチ5側(図1においては右側)を下流側として説明する。
【0018】
ワイヤ送給装置A1は、上流側に配置されたワイヤリール4に巻回された溶接ワイヤWを、下流側に配置された溶接トーチ5まで送給する。図1に示すように、本実施形態では、ワイヤ送給装置A1は、4ロール型のワイヤ送給装置であり、送給ロール21,23、加圧ロール22,24、センタガイド32、およびアウトレットガイド31を備えている。なお、ワイヤ送給装置A1は、4ロール型に限定されず、例えば2ロール型のワイヤ送給装置であってもよい。
【0019】
送給ロール21,23は、図示しない駆動モータの回転力を図示しないギヤによって伝達されて回転する。加圧ロール22(24)は、送給ロール21(23)の鉛直方向上側の位置に配置され、送給ロール21(23)との間で溶接ワイヤWを挟持するように加圧する。溶接ワイヤWは、送給ロール21と加圧ロール22とで挟持され、また、送給ロール23と加圧ロール24とで挟持され、送給ロール21,23が回転することで送給される。
【0020】
センタガイド32およびアウトレットガイド31は、それぞれ、円筒形状をなし、溶接ワイヤWを案内する部材である。センタガイド32は、送給ロール21によって送り出された溶接ワイヤWを送給ロール23まで案内する。アウトレットガイド31は、送給ロール23によって送り出された溶接ワイヤWをワイヤ送給装置A1の外部に案内する。アウトレットガイド31の先端には、図示しないアダプタに接続されたコンジットケーブル52が取り付けられており、コンジットケーブル52は溶接トーチ5まで溶接ワイヤWを案内する。
【0021】
溶接トーチ5は、ワイヤ送給装置A1から溶接ワイヤWを送給されて、先端から溶接ワイヤWの先端を突出させる。溶接ワイヤWは、溶接トーチ5の内部で、図示しない溶接電源装置に接続された給電チップ51に接触して給電される。溶接電源装置は、溶接ワイヤWの先端と母材との間に電圧を印加してアークを発生させる。溶接トーチ5は、当該アークの熱で母材の溶接を行う。
【0022】
ワイヤストレートナB1は、ワイヤ送給装置A1に供給される溶接ワイヤWの巻き癖を矯正する装置であり、ワイヤ送給装置A1の上流側に配置されている。本実施形態では、ワイヤストレートナB1は、インレットガイドの代わりに、ワイヤ送給装置A1の入口に取り付けられており、ワイヤリール4に巻回された溶接ワイヤWを、巻き癖を矯正しつつ、ワイヤ送給装置A1の送給ロール21まで案内する。なお、ワイヤストレートナB1は、ワイヤ送給装置A1に取り付けられるのではなく、ワイヤ送給装置A1から離れて配置されてもよい。
【0023】
ワイヤストレートナB1は、図2に示すように、本体11、インレットガイド111、アウトレットガイド112、固定矯正ロール121,122、可動矯正ロール13、加圧調整ハンドル14、加圧調整ネジ151、移動部152、モータ16、モータ制御部17、ギヤ181,182、電流センサ191、およびマイクロスイッチ192を備えている。
【0024】
本体11は、ワイヤストレートナB1の本体であり、固定矯正ロール121,122および可動矯正ロール13が配置されている。インレットガイド111は、本体11に取り付けられており、ワイヤリール4に巻回された溶接ワイヤWを固定矯正ロール121まで案内するガイド部材である。アウトレットガイド112は、本体11に取り付けられており、溶接ワイヤWを固定矯正ロール122からワイヤ送給装置A1の内部の送給ロール21まで案内するガイド部材である。溶接ワイヤWは、インレットガイド111の上流側の開口から挿入され、固定矯正ロール121,122と可動矯正ロール13との間を通過して、アウトレットガイド112の下流側の開口から送出される。
【0025】
固定矯正ロール121,122および可動矯正ロール13は、固定矯正ロール121,122と可動矯正ロール13との間を通過する溶接ワイヤWに加圧することで、溶接ワイヤWの巻き癖を矯正する。固定矯正ロール121および固定矯正ロール122は、溶接ワイヤWが送給される方向に平行に並んで配置されており、それぞれ、本体11に対して回転可能に支持されている。固定矯正ロール121は、固定矯正ロール122の上流側に配置されている。なお、以下では、固定矯正ロール121と固定矯正ロール122とを区別しない場合は、固定矯正ロール12と記載する場合がある。可動矯正ロール13は、溶接ワイヤWに対して固定矯正ロール121および固定矯正ロール122とは反対側に、固定矯正ロール121および固定矯正ロール122に対して近づく方向(図2(a)矢印参照)に移動可能、かつ回転可能に配置されている。本実施形態では、溶接ワイヤWが水平方向に進行するようにワイヤストレートナB1が配置される。この状態において、固定矯正ロール121および固定矯正ロール122は、水平方向に並んで配置され、可動矯正ロール13は、固定矯正ロール121および固定矯正ロール122の鉛直方向下方に、上下動可能に配置されている。なお、溶接ワイヤWに対する、固定矯正ロール121,122と可動矯正ロール13との配置は反対であってもよい。本実施形態では、固定矯正ロール121,122は本発明の「第1矯正ロール」に相当し、可動矯正ロール13は本発明の「第2矯正ロール」に相当する。
【0026】
加圧調整ネジ151は、軸方向(図2(a)においては上下方向)を中心として回転可能に、本体11に配置されている。移動部152は、加圧調整ネジ151に螺合して、加圧調整ネジ151の回転に応じて、加圧調整ネジ151の軸方向に移動する。可動矯正ロール13は、移動部152に対して回転可能に支持されており、移動部152とともに移動する。したがって、可動矯正ロール13は、加圧調整ネジ151の回転に応じて、加圧調整ネジ151の軸方向に移動する。
【0027】
加圧調整ハンドル14は、加圧調整ネジ151の一方の端部に固定されており、作業者が操作するためのものである。作業者は、加圧調整ハンドル14を回転させることで加圧調整ネジ151を回転させ、可動矯正ロール13を移動させて、溶接ワイヤWへの加圧を調整する。溶接ワイヤWを適切に矯正するためには、溶接ワイヤWの材質および直径によって溶接ワイヤWへの加圧を調整する必要がある。作業者は、溶接ワイヤWの材質および直径に対応した目盛りの位置まで可動矯正ロール13を移動させるように、加圧調整ハンドル14を回転操作する。ワイヤストレートナB1は、作業者による加圧調整ハンドル14の操作を省略可能とするために、溶接ワイヤWへの加圧を自動調整する機構を備えている。
【0028】
モータ16は、例えばギヤードモータであり、モータ制御部17からの指令に応じて回転駆動する。モータ16の回転力は、ギヤ181,182によって、加圧に必要なトルクが発生する速度に減速されつつ、加圧調整ネジ151に伝達される。これにより、モータ16の回転駆動に応じて加圧調整ネジ151が回転し、移動部152の移動に伴って可動矯正ロール13が移動する。モータ16は、両方向に回転可能であり、第1方向に回転(以下では、「正回転」とする)することで可動矯正ロール13を固定矯正ロール121,122に近づけるように移動させ、第1方向とは反対側の第2方向に回転(以下では、「逆回転」とする)することで可動矯正ロール13を固定矯正ロール121,122から遠ざけるように移動させる。加圧調整ネジ151、移動部152、およびモータ16が、本発明の「移動機構」に相当する。なお、可動矯正ロール13を移動させるための移動機構は限定されない。例えば、モータ16の回転駆動に応じて、加圧調整ネジ151が螺進し、加圧調整ネジ151の先端(またはこれに当接するリンク部材)が当接することで移動部152が移動する構造であってもよい。
【0029】
電流センサ191は、モータ16を流れる負荷電流を検出するセンサである。モータ16のトルクはモータ16を流れる負荷電流に比例するので、本実施形態では、電流センサ191でモータ16を流れる負荷電流を検出することで、モータ16のトルクを検出している。本実施形態では、電流センサ191は、モータ16に直列接続されたシャント抵抗の端子間電圧を検出することで、モータ16を流れる負荷電流を検出する。なお、電流センサ191による電流の検出方法は限定されない。例えば、電流センサ191は、ホール素子や変流器などを用いて、電流を検出してもよい。電流センサ191は、検出した負荷電流に応じた信号をモータ制御部17に出力する。
【0030】
マイクロスイッチ192は、移動部152(これに支持された可動矯正ロール13)が所定の初期位置にあることを検出するための位置センサである。本実施形態では、図2(a)に示すように、マイクロスイッチ192は、移動部152の上流側に配置されており、移動部152から上流側に突出する突出部152aがマイクロスイッチ192のアクチュエータを押下して接点をオンにしたときに検出信号をモータ制御部17に出力する。なお、マイクロスイッチ192の配置位置は限定されず、移動部152が初期位置まで移動したことを検出できればよい。また、ワイヤストレートナB1は、マイクロスイッチ192の代わりに、他の位置センサ(例えばフォトセンサや磁気センサなど)を備えてもよい。
【0031】
操作部193は、モータ制御部17に操作信号を入力するための操作ボタンを備える。操作部193は、ワイヤストレートナB1の本体11に配置されてもよいし、ワイヤ送給装置A1、溶接トーチ5、溶接電源装置、またはリモコンに配置されている操作部であってもよい。本実施形態では、溶接電源装置が備える操作部を操作部193として用いる場合を例として説明する。操作部193は、作業者による操作ボタンの操作に応じて、操作信号をモータ制御部17に入力する。操作ボタンには、溶接ワイヤWを加圧するか開放するかを選択し、加圧する場合には溶接ワイヤWの材質および直径を選択するための選択ボタン、および、モータ16を駆動させるスタートボタンが含まれている。本実施形態では、溶接ワイヤWの材質および直径に対応する条件No.が設定されており、作業者は条件No.を選択する。なお、作業者が溶接ワイヤWの材質を選択し、直径を選択する(または入力する)ことで、対応する条件No.が自動的に選択されてもよい。また、本実施形態では、インチングボタンがスタートボタンを兼用している。したがって、インチングボタンが押下されたときに、溶接ワイヤWの送給が開始され、かつ、モータ16の駆動が開始される。なお、スタートボタンはインチングボタンとは別のボタンを用いてもよい。
【0032】
モータ制御部17は、図3に示すように、操作部193から入力される操作信号、電流センサ191から入力される信号、および、マイクロスイッチ192から入力される信号に基づいて、モータ16の駆動を制御する。モータ制御部17は、操作部193から条件No.を選択した操作信号が入力されて、スタートボタン(インチングボタン)の操作信号が入力された場合、モータ16を正回転させる。一方、モータ制御部17は、溶接ワイヤWの開放を選択した操作信号(開放指令)が入力されて、スタートボタン(インチングボタン)の操作信号が入力された場合、モータ16を逆回転させる。モータ制御部17は、モータ16に流す電流の向きによって、モータ16の回転する方向を制御する。
【0033】
モータ制御部17は、モータ16を正回転させた際には、電流センサ191から入力される信号に基づいて、モータ16の駆動を停止させる。モータ16は、正回転することで、可動矯正ロール13を固定矯正ロール121,122に近づける。可動矯正ロール13が固定矯正ロール121,122に近づくほど、固定矯正ロール121,122と可動矯正ロール13との間にある溶接ワイヤWへの加圧が増加するので、モータ16のトルクが大きくなる。トルクの大きさは、モータ16を流れる負荷電流に比例する。つまり、溶接ワイヤWへの加圧が大きいほど、当該負荷電流は大きくなる。溶接ワイヤWを適切に矯正するための加圧の大きさは、当該溶接ワイヤWの材質および直径によって異なる。モータ制御部17は、溶接ワイヤWの材質および直径に対応する条件No.ごとに、当該溶接ワイヤWを適切に矯正できるように加圧をしたときの負荷電流の電流値をあらかじめ測定し、閾値として対応付けてメモリに記憶している。モータ制御部17は、操作部193から入力された条件No.に基づいて、対応付けられた閾値をメモリから読み出し、電流センサ191から入力される信号に応じた電流値が条件No.に対応する閾値になったときに、モータ16の駆動を停止させる。これにより、可動矯正ロール13は、溶接ワイヤWに適切な加圧を行える位置まで移動する。本実施形態では、上記したように、インチングボタンがスタートボタンを兼用しており、モータ16の駆動と溶接ワイヤWの送給が同時に開始されるので、電流センサ191は、溶接ワイヤWが送給されている状態での負荷電流を検出する。したがって、メモリには、溶接ワイヤWが送給されている状態で加圧して検出した負荷電流の電流値が記憶されている。
【0034】
一方、モータ制御部17は、モータ16を逆回転させた際には、マイクロスイッチ192から入力される信号に基づいて、モータ16の駆動を停止させる。モータ16は、逆回転することで、可動矯正ロール13を固定矯正ロール121,122から遠ざける。モータ制御部17は、マイクロスイッチ192から検出信号を入力されたときに、モータ16の駆動を停止させる。これにより、可動矯正ロール13は、初期位置まで移動したときに停止する。モータ制御部17は、例えばマイクロコンピュータなどによってデジタル回路として実現されてもよいし、オペアンプなどを用いたアナログ回路として実現されてもよい。また、モータ制御部17は、本体11の内部に配置されてもよいし、本体11の外部に制御装置として配置されてもよい。
【0035】
図4は、モータ制御部17が行うモータ16の駆動制御処理の一例を示すフローチャートである。当該駆動制御処理は、溶接開始前に、溶接ワイヤWをワイヤ送給装置A1にセットアップする際に実行される。
【0036】
まず、作業者によって開放が選択されたか否かが判別される(S1)。具体的は、モータ制御部17は、操作部193から開放を選択した操作信号が入力されたか否かを判別する。作業者は、溶接ワイヤWをセットする際に可動矯正ロール13が初期位置に位置していない場合や、溶接ワイヤWを交換するために可動矯正ロール13を初期位置に移動させる場合に、開放を選択する。開放が選択されていない場合(S1:NO)、作業者によって条件No.が入力されたか否かが判別される(S2)。具体的は、モータ制御部17は、操作部193から条件No.を選択した操作信号が入力されたか否かを判別する。条件No.が入力されていない場合(S2:NO)、ステップS1に戻って、ステップS1,S2の判別が繰り返される。
【0037】
ステップS1において、開放が選択された場合(S1:YES)、作業者によってスタートが指示されたか否かが判別される(S9)。具体的は、モータ制御部17は、操作部193からスタートボタン(インチングボタン)の操作信号が入力されたか否かを判別する。スタートが指示されていない場合(S9:NO)、ステップS9に戻ってステップS9の判別が繰り返される。つまり、スタートが指示されるまで処理を待機する。スタートが指示された場合(S9:YES)、モータ16の逆回転の駆動が開始される(S10)。具体的には、モータ制御部17は、モータ16に逆回転の駆動信号を出力することで、モータ16を逆回転させる。
【0038】
次に、マイクロスイッチ192がONになったか否かが判別される(S11)。具体的には、モータ制御部17は、マイクロスイッチ192から検出信号を入力されたか否かを判別する。マイクロスイッチ192がONになっていない場合(S11:NO)、ステップS11に戻ってステップS11の判別が繰り返される。つまり、マイクロスイッチ192がONになるまで処理を待機する。この間もモータ16は回転駆動しているので、可動矯正ロール13は固定矯正ロール121,122から遠ざかるように移動する。マイクロスイッチ192がONになった場合(S11:YES)、可動矯正ロール13が初期位置まで移動したとして、モータ16の駆動が停止され(S8)、ステップS1に戻る。これにより、可動矯正ロール13が初期位置まで自動的に移動する。
【0039】
ステップS2において、条件No.が入力された場合(S2:YES)、作業者によってスタートが指示されたか否かが判別される(S3)。具体的は、モータ制御部17は、操作部193からスタートボタン(インチングボタン)の操作信号が入力されたか否かを判別する。スタートが指示されていない場合(S3:NO)、ステップS3に戻ってステップS3の判別が繰り返される。つまり、スタートが指示されるまで処理を待機する。スタートが指示された場合(S3:YES)、条件No.に対応付けられた閾値がメモリから読み出され(S4)、モータ16の正回転の駆動が開始される(S5)。具体的には、モータ制御部17は、モータ16に正回転の駆動信号を出力することで、モータ16を正回転させる。操作部193からのスタートボタン(インチングボタン)の操作信号は、ワイヤ送給装置A1にも入力され、ワイヤ送給装置A1は、溶接ワイヤWの送給を開始する。
【0040】
次に、モータ16の負荷電流が検出される(S6)。具体的には、モータ制御部17は、電流センサ191から入力される信号に応じた負荷電流の電流値を取得する。次に、負荷電流の電流値が閾値以上になったか否かが判別される(S7)。具体的には、モータ制御部17は、取得した負荷電流の電流値と、読み出した閾値とを比較し、負荷電流の電流値が閾値以上になったか否かを判別する。負荷電流の電流値が閾値未満の場合(S7:NO)、ステップS6に戻って、ステップS6、S7の処理が繰り返される。つまり、負荷電流の電流値が閾値以上になるまで処理を待機する。この間もモータ16は回転駆動しているので、可動矯正ロール13は固定矯正ロール121,122に近づくように移動する。負荷電流の電流値が閾値以上になった場合(S7:YES)、溶接ワイヤWが適切に矯正される加圧になったとして、モータ16の駆動が停止され(S8)、ステップS1に戻る。これにより、可動矯正ロール13が溶接ワイヤWに適切な加圧を行える位置まで自動的に移動する。
【0041】
溶接ワイヤWのセットアップが終了すると、駆動制御処理は終了される。なお、図4のフローチャートに示す処理は一例であって、モータ制御部17が行う駆動制御処理は上述したものに限定されない。
【0042】
作業者は、溶接開始前に、溶接ワイヤWをワイヤ送給装置A1にセットアップする。まず、作業者は、可動矯正ロール13が初期位置にない場合、開放を選択してスタートボタンを操作することで、可動矯正ロール13を初期位置に移動させる。次に、作業者は、ワイヤリール4に巻回されている溶接ワイヤWの先端を、ワイヤストレートナB1のインレットガイド111から挿入して、固定矯正ロール121,122と可動矯正ロール13との間、アウトレットガイド112、およびワイヤ送給装置A1に通す。次に、作業者は、溶接ワイヤWの材質および直径に対応する条件No.を選択して、スタートボタン(インチングボタン)を操作する。これにより、ワイヤ送給装置A1は溶接ワイヤWの送給を開始し、ワイヤストレートナB1のモータ16が正回転を開始する。そして、モータ16の負荷電流が条件No.に対応付けられた閾値以上になったときにモータ16が停止され、可動矯正ロール13が溶接ワイヤWに適切な加圧を行える位置まで自動的に移動する。作業者は、溶接ワイヤWが溶接トーチ5の先端から突出したときに、インチングボタンを操作することで、溶接ワイヤWの送給を停止させる。
【0043】
次に、本実施形態に係るワイヤストレートナB1の作用効果について説明する。
【0044】
本実施形態によると、モータ制御部17は、条件No.が選択された場合、モータ16を正回転させることで、可動矯正ロール13を固定矯正ロール121,122に近づけるように移動させる。そして、モータ制御部17は、モータ16の負荷電流が条件No.に対応する閾値以上になったときにモータ16の駆動を停止させる。閾値は、溶接ワイヤWの材質および直径に対応する条件No.ごとに、可動矯正ロール13と固定矯正ロール121,122とが当該溶接ワイヤWを適切に矯正できるように加圧をしたときの負荷電流の電流値が対応付けて記憶されている。これにより、モータ制御部17は、可動矯正ロール13を、溶接ワイヤWに適切な加圧を行える位置まで自動的に移動させることができる。したがって、作業者は、加圧の調整を手動で行う必要がない。
【0045】
また、本実施形態によると、モータ制御部17は、開放が選択された場合、モータ16を逆回転させることで、可動矯正ロール13を固定矯正ロール121,122から遠ざけるように移動させる。マイクロスイッチ192は、可動矯正ロール13が初期位置まで移動したときに、検出信号を出力する。モータ制御部17は、マイクロスイッチ192から検出信号を入力されたときに、モータ16の駆動を停止させる。これにより、可動矯正ロール13は、初期位置まで移動したときに自動的に停止する。したがって、作業者は、溶接ワイヤWの交換時などに、加圧調整ハンドル14を手動で操作することなく、可動矯正ロール13を初期位置まで自動的に移動させることができる。
【0046】
また、本実施形態によると、インチングボタンがスタートボタンを兼用している。したがって、操作部193に配置されるボタンの数が削減される。また、インチングボタンとは別にスタートボタンを操作する場合と比較して、作業者の操作を簡略化できる。また、溶接ワイヤWが送給されている状態で負荷電流が検出されるので、実際の溶接時と同様の状態での検出が可能である。したがって、溶接ワイヤWが停止した状態で負荷電流を検出する場合と比較して、より適切に加圧の調整を行うことができる。
【0047】
また、本実施形態によると、加圧調整ネジ151は、ギヤ181,182を介して、加圧に必要なトルクが発生する速度に減速されて伝達されたモータ16の回転力によって回転する。可動矯正ロール13を支持する移動部152は、加圧調整ネジ151の回転に応じて、加圧調整ネジ151の軸方向に移動する。これにより、モータ制御部17は、モータ16を駆動させることで、可動矯正ロール13を固定矯正ロール121,122に対して近づけたり遠ざけたりできる。
【0048】
また、本実施形態によると、ワイヤストレートナB1は、インレットガイドの代わりに、ワイヤ送給装置A1の入口に取り付けられている。これにより、ワイヤストレートナB1は、溶接ワイヤWの巻き癖を矯正しつつ、ワイヤ送給装置A1の送給ロール21まで溶接ワイヤWを案内できる。
【0049】
なお、本実施形態では、モータ制御部17が、電流センサ191が検出した負荷電流に基づいてモータ16の駆動を停止させる場合について説明したが、これに限れない。ワイヤストレートナB1は、その他の方法でモータ16のトルクを検出して、モータ制御部17が、検出されたトルクに基づいて、モータ16の駆動を停止させてもよい。
【0050】
また、本実施形態では、ワイヤストレートナB1が2個の固定矯正ロール12と1個の可動矯正ロール13とを備える場合について説明したが、固定矯正ロール12および可動矯正ロール13の数は限定されない。例えば、ワイヤストレートナB1は、さらに可動矯正ロール13を備えてもよいし、さらに固定矯正ロール12を備えてもよい。また、ワイヤストレートナB1は、1個の固定矯正ロール12と2個の可動矯正ロール13とを備えてもよい。この場合、固定矯正ロール12が本発明の「第2矯正ロール」に相当し、可動矯正ロール13が本発明の「第1矯正ロール」に相当する。
【0051】
また、本実施形態では、溶接システムがワイヤリール4に巻回された溶接ワイヤWを使用する場合について説明したが、これに限られない。溶接ワイヤWは、例えばペールパックなどの他のワイヤ供給源から供給されてもよい。
【0052】
〔第2実施形態〕
図5は、第2実施形態に係るワイヤストレートナB2を説明するための図である。同図は、ワイヤストレートナB2を備える溶接システムを示す全体構成図であり、図1に対応する図である。図5において、第1実施形態に係る溶接システム(図1参照)と同一または類似の要素には同一の符号を付して、重複する説明を省略する。なお、図5においては、ワイヤ送給装置A1の大部分および溶接トーチ5の記載を省略している。本実施形態に係るワイヤストレートナB2は、第1実施形態に係るワイヤストレートナB1と構成が異なる。
【0053】
本実施形態に係る溶接システムは、ワイヤ供給源として、ワイヤリール4の代わりに、ペールパック45を備えている。ペールパック45は、溶接ワイヤWがコイル状に巻かれた状態でコイル面が鉛直方向を向くようにして収容されており、溶接ワイヤWは、ペールパック45の上方から排出される。したがって、ペールパック45の溶接ワイヤWは、巻き癖の向きが一定しない状態で供給される。
【0054】
ワイヤストレートナB2は、第1実施形態に係るワイヤストレートナB1と、ワイヤストレートナB1と同様のワイヤストレートナB1’とを組み合わせたものである。ワイヤストレートナB1は、ワイヤ送給装置A1のインレットガイドの代わりに、ワイヤ送給装置A1の入口に取り付けられている。ワイヤストレートナB1’は、ワイヤストレートナB1の上流側に配置され、アウトレットガイド112の代わりに、ワイヤストレートナB1のインレットガイド111が、出口に取り付けられている。ワイヤストレートナB1’は、溶接ワイヤWの送給軸(溶接ワイヤWが送給される方向に延びる軸)を中心軸として、ワイヤストレートナB1を90度回転させた姿勢になっている。したがって、ワイヤストレートナB1の可動矯正ロール13が移動する方向と、ワイヤストレートナB1’の可動矯正ロール13が移動する方向とがなす角度は、90度である。
【0055】
操作部193は、ワイヤストレートナB1のモータ制御部17およびワイヤストレートナB1’のモータ制御部17に操作信号を入力する。
【0056】
本実施形態においても、ワイヤストレートナB2は、溶接ワイヤWを適切に矯正できるように自動調整を行う。ワイヤストレートナB2のうちワイヤストレートナB1の部分は溶接ワイヤWの送給方向(図5における左右方向(水平方向))に直交する第1方向(図5における上下方向(鉛直方向))の巻き癖を矯正し、ワイヤストレートナB1’の部分は溶接ワイヤWの送給方向および第1方向に直交する第2方向(図5における紙面の前後方向(水平方向))の巻き癖を矯正する。したがって、ワイヤストレートナB2は、ペールパック45から巻き癖の向きが一定しない状態で供給される溶接ワイヤWを、適切に矯正できる。また、本実施形態においても、ワイヤストレートナB2は、溶接ワイヤWの交換時などに、各可動矯正ロール13をそれぞれの初期位置まで自動的に移動させることができる。
【0057】
本発明に係るワイヤストレートナは、上述した実施形態に限定されるものではない。本発明に係るワイヤストレートナの各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。
【符号の説明】
【0058】
A1:ワイヤ送給装置、B1,B1’,B2:ワイヤストレートナ、121,122:固定矯正ロール、13:可動矯正ロール、151:加圧調整ネジ、152:移動部16:モータ、17:モータ制御部、181,182:ギヤ、191:電流センサ、192:マイクロスイッチ
図1
図2
図3
図4
図5