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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】ラクトン重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/87 20060101AFI20241016BHJP
   C08G 63/08 20060101ALI20241016BHJP
   C08G 18/42 20060101ALI20241016BHJP
   C08G 63/91 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
C08G63/87
C08G63/08
C08G18/42 069
C08G63/91
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020139409
(22)【出願日】2020-08-20
(65)【公開番号】P2021050326
(43)【公開日】2021-04-01
【審査請求日】2023-07-20
(31)【優先権主張番号】P 2019172161
(32)【優先日】2019-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005315
【氏名又は名称】保土谷化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】松本 明洋
(72)【発明者】
【氏名】青木 良和
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 剛
【審査官】内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-196623(JP,A)
【文献】特開平02-043217(JP,A)
【文献】特開平04-089822(JP,A)
【文献】特開平07-292083(JP,A)
【文献】特開昭61-200120(JP,A)
【文献】国際公開第1999/019379(WO,A1)
【文献】特開2000-143781(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G63
C08G18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるラクトン化合物を
100℃以下の反応温度で開環重合することにより得られるラクトン重合体の製造方法であって、
触媒としてヘテロポリ酸を前記ラクトン化合物1molに対し、0.0001~0.1mol使用し、
前記開環重合において開始剤とする活性水素原子含有化合物を使用し、
前記活性水素原子含有化合物の水分含有量を1~500ppmに調整することを特徴とするラクトン重合体の製造方法。
【化1】

[式(1)中、R~Rはそれぞれ独立に水素原子または炭素原子数1~4の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基を表し、nは0~6の整数を表す。]
【請求項2】
前記開環重合する反応温度が90℃以下である、請求項1に記載のラクトン重合体の製造方法。
【請求項3】
前記ラクトン重合体の数平均分子量が1264以上である、請求項1又は2に記載のラクトン重合体の製造方法。
【請求項4】
前記活性水素原子含有化合物が多価アルコールであり、
前記ラクトン化合物1molに対し0.01~10molの多価アルコールを使用することを特徴とする、請求項1~請求項3のいずれか一項に記載のラクトン重合体の製造方法。
【請求項5】
前記開環重合する反応温度が60℃以上であることを特徴とする請求項1~請求項4のいずれか一項に記載のラクトン重合体の製造方法。
【請求項6】
請求項1~請求項5のいずれか一項に記載のラクトン重合体の製造方法により得られたラクトン重合体と、ポリイソシアネート化合物とを反応させてポリウレタンを製造する工程を含むポリウレタンの製造方法。
【請求項7】
請求項1~請求項5のいずれか一項に記載のラクトン重合体の製造方法により得られたラクトン重合体と、ポリオール化合物とを反応させてポリエステルを製造する工程を含むポリエステルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラクトン重合体の製造方法に関する。また、該製造方法により得られたラクトン重合体を用いるポリウレタンまたはポリエステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
分子量が500~5000のラクトン重合体は、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、人工皮革、コーティング材などの原料として特に有用である。ラクトン重合体は、例えばε-カプロラクトン、δ-バレロラクトンのようなラクトン類を開環重合して得られる。従来のラクトン重合体の製造方法では、オルトチタン酸テトラブチルなどのアニオン開環重合触媒の使用、または、100~200℃の高温での反応により、エステル交換反応などの副反応が併発し、分子量分布が広く(重量平均分子量(M)/数平均分子量(M)=1.5~3.5)、低重合体が多量に含まれるものも得られ、かつ色数が高く、色相が不十分なものであった。
【0003】
ラクトン重合体の分子量分布の改良方法が提案されている(特許文献1、2など)が、得られるラクトン重合体は、M/M=1.2~1.8と分子量分布が広く、かつ色数が高く満足できるものではない。分子量分布が広く、色数が高いラクトン重合体は、それを用いて得られるポリカプロラクトンやポリウレタンなどの各種樹脂の物性(強度、伸び、耐熱性など)が不十分であり、高粘度であり、成形加工性やハンドリングなどの点で実用上問題点が多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭57-155230号公報
【文献】国際公開第2015/60192号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、分子量分布が狭く、色相に優れたラクトン重合体の製造方法を提供することである。また、本発明の製造方法で得られたラクトン重合体を樹脂原料として用いることで、各種樹脂物性、粘度、成形加工性、耐熱性に優れた樹脂材料(ポリウレタン、ポリエステルなど)を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、発明者らは、ラクトン重合体の分子量分布および色数の改良法を鋭意検討した結果、色数が低く色相に優れ、酸価が低く、かつ、分子量分布が単分散に近いラクトン重合体を得る方法を見出した。すなわち本発明は、以下の内容で構成されている。
【0007】
1.下記一般式(1)で表されるラクトン化合物を
開環重合することにより得られるラクトン重合体の製造方法であって、
触媒として非金属ハロゲン化物またはヘテロポリ酸を使用し、
前記開環重合において開始剤とする活性水素原子含有化合物を使用し、
前記活性水素原子含有化合物の水分含有量を調整することを特徴とするラクトン重合体の製造方法。
【0008】
【化1】
【0009】
[式(1)中、R~Rはそれぞれ独立に水素原子または炭素原子数1~4の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基を表し、nは0~6の整数を表す。]
【0010】
2.前記活性水素原子含有化合物が多価アルコールであり、
前記ラクトン化合物1molに対し0.01~10molの多価アルコールを使用することを特徴とする前記ラクトン重合体の製造方法。
【0011】
3.ラクトン化合物1molに対し0.0001~10molの触媒を使用することを特徴とする前記ラクトン重合体の製造方法。
【0012】
4.前記開環重合する反応温度が60~100℃であることを特徴とする前記ラクトン重合体の製造方法。
【0013】
5.前記活性水素原子含有化合物の水分含有量が1~500ppmであることを特徴とする前記ラクトン重合体の製造方法。
【0014】
6.前記ラクトン重合体の製造方法により得られたラクトン重合体と、ポリイソシアネート化合物とを反応させてポリウレタンを製造する工程を含むポリウレタンの製造方法。
【0015】
7.前記ラクトン重合体の製造方法により得られたラクトン重合体と、ポリオール化合物とを反応させてポリエステルを製造する工程を含むポリエステルの製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の製造方法によって、分子量分布が単分散に近く、低重合体も含まず、色数が低く、酸価が低く、粘度が低いラクトン重合体を提供することができる。また、本発明の製造方法により得られるラクトン重合体を原料に用い、樹脂物性、加工性、耐熱性などに優れたポリウレタンやポリエステルなどを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。以下、前記一般式(1)で表されるラクトン化合物について具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0018】
一般式(1)において、R~Rはそれぞれ独立に水素原子または炭素原子数1~4の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基を表し、n個のR、およびn個のRは各々同一であってもよく、異なっていてもよい。nは0~6の整数を表す。nは0~2、4または5の整数が好ましく、4または5がより好ましい。
【0019】
一般式(1)において、R~Rで表される「炭素原子数1~4の直鎖状または分岐状のアルキル基」としては、具体的に、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基があげられる。R~Rは、それぞれ独立に、水素原子またはメチル基が好ましい。
【0020】
一般式(1)で表されるラクトン化合物は、具体的に、β-プロピオラクトン、β-ブチロラクトン、β-バレロラクトン、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、γ-カプリロラクトン、γ-オクタノラクトン、δ-バレロラクトン、β-メチル-δ-バレロラクトン、δ-ステアロラクトン、ε-カプロラクトン、2-メチル-ε-カプロラクトン、4-メチル-ε-カプロラクトン、ε-カプリロラクトン、ε-パルミトラクトンなどがあげられる。
【0021】
本発明は、前記一般式(1)で表されるラクトン化合物を開環重合することにより得られるラクトン重合体の製造方法に関する。また、本発明に係る製造方法は、触媒として非金属ハロゲン化物またはヘテロポリ酸を使用し、前記開環重合において開始剤とする活性水素原子含有化合物を使用し、前記活性水素原子含有化合物の水分含有量を調整することを特徴とするラクトン重合体の製造方法に関する。
【0022】
本発明のラクトン重合体の製造方法における触媒としては、ルイス酸として非金属ハロゲン化物、または、固体酸としてヘテロポリ酸があげられる。非金属ハロゲン化物としては、三フッ化ホウ素(BF)、五フッ化リン(PF)などの非金属ハロゲン化物があげられる。ヘテロポリ酸としては、リンタングステン酸(H(PW1240)・nHO(n≒30)、PWAと略)、ケイタングステン酸(H(SiW1240)・nH0(n≒30))、リンモリブデン酸(H(PMo1240)・nH0(n≒30))、リンモリブデン酸ナトリウム(Na(PMo1240)・nH0(n≒30))、リンタングストモリブデン酸(H(PW12-xMo40)・nH0(0<x<12,n≒30))、リンバナドモリブデン酸(H15-x(PV12-xMo40)・nHO(6<x<12,n≒30))などのヘテロポリ酸などがあげられる。さらにこれらの触媒使用時の形態としては、三フッ化ホウ素(BF)などとジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)などの鎖状および環状エーテルとの錯体(例えば、三フッ化ホウ素テトラヒドロフラン(CO・BF、BFTHFと略))などをあげることができる。
【0023】
本発明のラクトン重合体の製造方法における活性水素原子含有化合物とは、具体的に水酸基(―OH)、アミノ基(―NH、一置換アミノ基、二置換アミノ基)、メルカプト基(チオール基、―SH)を含むものであり、本発明に係る重合反応における反応開始剤(または単に開始剤)として使用される。
水酸基を含む化合物としては具体的に、メタノール、エタノール、プロパノール、n-ブタノール、2-ブタノール、イソブチルアルコール、t-ブチルアルコール、アリルアルコール、メタクリル酸2-ヒドロキシエチルなどの脂肪族アルコール;
ベンジルアルコール、2-メチルベンジルアルコール、フェニルメチルカルビノール(2-フェニル-2-プロパノール)、4-ヒドロキシベンジルアルコール、4-メトキシフェノール、トリフェニルメタノールなどの芳香族アルコールまたは各種フェノール;
シクロヘキサノール、3,3,5-トリメチルシクロヘキサノール、シクロヘキサンエタノールなどの脂環式アルコール;
エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、1,2-シクロヘキサンジオール,1,4-シクロヘキサンジオール、m-キシリレングリコール、p-キシレングリコール、チオジグリコールなどの多価アルコール(またはポリオール);
酢酸、プロパン酸、安息香酸、フタル酸、シュウ酸、フマル酸などの有機カルボン酸;などがあげられる。
アミノ基を含む化合物としては具体的に、メチルアミン、エチルアミン、n-プロピルアミン、イソプロピルアミン、n-ブチルアミン、イソブチルアミン、t-ブチルアミンなどのアルキルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミンなどのジアルキルアミン;
アニリン、o-トルイジン、ジフェニルアミン、シクロヘキシルアミン、ピペリジンなどの芳香族、脂環族および複素環式アミン;
エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、o-、m-もしくはp-フェニレンジアミン、1,4-シクロヘキサンジアミン、ピペラジン、ジエチレントリアミン、4,4’,4’’-メチリダイントリアニリンなどの脂肪族、芳香族、脂環族および複素環式ポリアミンなどがあげられる。
メルカプト基(チオール基)含有化合物の例としてはメチルメルカプタン(メタンチオール)、エチルメルカプタン(エタンチオール)、プロピルメルカプタン(プロパンチオール)、n-ブチルメルカプタン(1-ブタンチオール)などの脂肪族メルカプタン;
ベンジルメルカプタン、トリフェニルメタンチオールなどの芳香族メルカプタン;
エチレンジチオグリコール、1,4-ベンゼンジメタンチオール、キシリレンジメルカプタン、2-メルカプトエタノール、ビス(2-メルカプトエチル)エーテルなどがあげられる。
【0024】
本発明のラクトン重合体の製造方法を具体的に説明する。反応容器に前記一般式(1)で表されるラクトン化合物と、前記した活性水素原子含有化合物とをそれぞれ適量で混合し、適当な触媒を適量添加し、適当な温度で加熱し、適当な時間反応させることによって、本発明のラクトン重合体を含有する反応混合物が得られる。このようにして得られた反応混合物は、適当な溶媒および適当な精製装置などを用いた公知の方法によって、ラクトン重合体の生成物を精製することができる。
【0025】
本発明で用いる活性水素原子含有化合物は、水分含有量を調整されたものであることを特徴とする。水分含有量の調整された活性水素原子含有化合物は、市販品を使用してもよく、精製前の市販品や生成物について脱水操作を行うことが好ましく、具体的には、蒸留装置を用いた精製、モレキュラーシーブなどを使用した脱水操作などがあげられるがこれらに限定されない。精製した活性水素原子含有化合物は、水分計などを使用して水分含有量が測定されたものを使用することが好ましい。また、開環重合を行う際に、外気中の水分が混入することを防ぐために、開環重合反応は嫌気下で行うことが好ましく、窒素または不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。本発明を実施する上で好ましい活性水素原子含有化合物の水分含有量は、1~500ppmであるのが好ましく、1~200ppmがより好ましい。水分含有量が500ppmを超える場合、オリゴマー成分の生成によりMw/Mnが大きくなり過ぎることがある。
【0026】
本発明のラクトン重合体の製造方法における開始剤として用いる活性水素原子含有化合物は、多価アルコールであることが好ましい。本発明の製造方法においては、ラクトン化合物1molに対し、好ましくは0.01~10mol、より好ましくは0.1~1.0molの多価アルコールを使用する。ラクトン化合物1molあたりの開始剤の使用量が10molを超える場合、生成物の分子量が小さくなり過ぎ、十分な高分子量の重合体が生成しにくいことがある。
【0027】
本発明のラクトン重合体の製造方法において使用するルイス酸または固体酸の触媒の使用量については、ラクトン化合物1molに対し、好ましくは0.0001~10mol、より好ましくは0.0001~1mol、特に好ましくは0.0001~0.1molの触媒を使用する。触媒の使用量がラクトン化合物に対して極少量のため、その除去も容易になる。触媒の使用量が10モルを超える場合、発熱が顕著となり、生成物の分子量分布が極端に広がることがあるほか、副反応に基づく品質劣化、例えば着色が著しいことがある。また、触媒の除去にコストがかかり過ぎることがあり、好ましくない。
【0028】
本発明のラクトン重合体の製造方法における開環重合の反応温度の範囲は、60~100℃であることが好ましく、60~90℃であることがより好ましく、最適温度は開始剤の種類、使用量、目的とする重合体の品質、分子量などによって決められ、通常は60~80℃であることがさらに好ましい。重合反応は不活性有機溶媒下においても実施できる。比較的低温度における塊状重合では重合の進行と共に結晶化が起こり易くなるため、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの不活性有機溶媒下で実施するのが好ましい。100℃を越える温度では生成物の分子量分布が極端に広がることがあるほか、副反応に基づく品質劣化、たとえば着色が著しいことがある。一方、重合反応時間は反応速度と関係し、温度、開始剤の種類、使用量などによって適宜調節することができ、2~10時間もしくはそれ以上の反応時間を選択することができる。本発明の製造方法においては、未反応のラクトン化合物が消失するまで重合反応を行うことがラクトン重合体の精製操作の簡略化、品質向上のため好ましく、その場合には熟成を十分に行うことが推奨される。
【0029】
本発明の製造方法によって得られたラクトン重合体を含有する反応混合物は、公知の方法によってラクトン重合体の生成物を精製することができるが、以下に具体例を説明する。適量のトルエンなどの有機溶媒(その他、具体的に、アルコール、アセトン、酢酸エチル、酢酸-n-ブチルなどのエステル類;ジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)、エチレングリコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)などのエーテル類;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)などのエーテルエステル類;アセトン、シクロヘキサノンなどのケトン類;メタノール、エタノール、2-プロパノールなどのアルコール類;ジアセトンアルコール(DAA)など;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N-メチルピロリドン(NMP)などのアミド類;ジメチルスルホキシド(DMSO)など)、および、適当量のイオン交換樹脂などを用いて、溶解または分散させ、適温で適した時間撹拌し、この反応混合物をろ過し、溶媒を減圧蒸留などの方法で除去することにより生成されたラクトン重合体を得ることができる。イオン交換樹脂は、重合で使用した原料、重合条件により適したイオン交換樹脂を選択することができる。
【0030】
本発明の製造方法で使用する物質および生成物の水分含有量は、カールフィッシャー容量滴定法による水分計などで測定することができる。
【0031】
本発明のラクトン重合体の分子量分布については、数平均分子量(M)、数平均分子量(M)、M/Mを、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定することができる。本発明のラクトン重合体のM/Mは、1.3未満であることが好ましい。
【0032】
本発明のラクトン重合体の酸価は、日本産業規格(JIS K 0070-1992「化学製品の酸価,けん化価,エステル価,よう素価,水酸基価及び不けん化物の試験方法」)により求めることができる。酸価は、0.1~1.5mgKОH/gが好ましく、0.1~1.0mgKОH/gがより好ましい。
【0033】
本発明における色数は、日本産業規格(JIS K 4101-1993「有機中間物一般試験方法 13.色数試験方法」、ハーゼン単位色数試験、APHA)により求めることができる。色数は、10~40が好ましく、10~20がより好ましい。
【0034】
本発明で得られたラクトン重合体を使用して、ポリウレタン樹脂またはポリエステル樹脂などを製造することができる。これらの樹脂の製造方法は特に限定されず、公知の方法で製造できる。例えばポリウレタンの製造方法の場合、ラクトン重合体、ポリオール、鎖延長剤、有機金属触媒中にポリイソシアネート成分を一括して仕込んで反応させてもよいし、ポリオールとポリイソシアネート成分とを反応させてイソシアネート基末端のプレポリマーを得た後、鎖伸長剤を添加して伸長反応を行ってもよい。また、ポリエステルの製造方法の場合も同様に公知の方法で、ラクトン重合体と、ポリオールとを脱水縮合するなどの方法で合成してもよい。
【0035】
ポリイソシアネート化合物としては、イソシアネート基を2以上有する、芳香族系、脂環族系、脂肪族系等のポリイソシアネートなどがあげられる。具体的には、トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート(MDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)などのポリイソシアネートなどがあげられる。これらの中でも、入手および水酸基との反応制御が容易である点から、MDIが好ましい。
【0036】
鎖延長剤としては、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオールなどの低分子量の二価アルコールがあげられる。
【0037】
有機金属触媒としては、特に限定されないが、具体的に、ジブチル錫オキサイド、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジクロライド、ジオクチル錫ジラウレートなどの有機スズ触媒;オクチル酸ニッケル、ナフテン酸ニッケル;オクチル酸コバルト、ナフテン酸コバルト;オクチル酸ビスマス、ナフテン酸ビスマス、などがあげられる。これらの有機金属触媒のうち、有機スズ触媒が好ましく、ジブチル錫ジラウレート(ジラウリン酸ジブチルすず)がより好ましい。
【0038】
本発明のポリウレタンの製造方法における前記有機金属触媒の使用量は、ポリオール100重量部に対して、0.0001~5重量部が好ましく、0.001~3重量部がより好ましい。
【0039】
本発明のポリウレタンの製造方法により得られたポリウレタンの物性として、物理的性質、熱的性質、電気的性質、化学的性質を評価することができる。本発明においては、引張試験機を用いた物理的性質として破断点における破断強度(破断応力)(MPa)、破断伸び(%)を測定することにより評価してもよい。また、熱的性質/化学的性質としては、熱重量測定-示差熱分析(TG-DTA)による熱分解温度(℃)により評価してもよい。
【実施例
【0040】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。なお、実施例において、開始剤(エチレングリコールなど)の水分(ppm)は、下記の水分計を用いてカールフィッシャー容量滴定法により測定した。
装置名:容量法自動水分測定装置
型式:KF-31(三菱ケミカルアナリテック株式会社製)、検出器:RI
GPC測定は、高速GPC装置(型式:HLC-8320GPC、東ソー株式会社製)およびカラム(型式:TSKgelG4000H+G2500H、東ソー株式会社製)を用い、下記条件で測定した。
溶離液:テトラヒドロフラン 標準物質:ポリテトラメチレンエーテルグリコール
注入量:100μL 流速:1.0mL/min 測定温度:40℃ 検出器:RI
【0041】
[実施例1]ポリカプロラクトンの合成
窒素置換した500mL反応容器にε-カプロラクトン(CLと略)114.0g(1.00mol、東京化成工業株式会社製)、エチレングリコール(EG)3.2g(0.05mol、水分含有量200ppm、キシダ化学株式会社製)を入れ、リンタングステン酸(PWA)1.0g(0.0003モル、日本新金属株式会社製)を添加し、70℃で5時間撹拌した。反応混合物にトルエン100mL、イオン交換樹脂IRA-96SB 50g(オルガノ株式会社製)を加えて室温で2時間撹拌した。撹拌後、反応混合物を濾過し、濾液から溶媒を減圧蒸留にて除去し、重合体を無色固体(常温)(107g,収率94%)として得た。得られたラクトン重合体(ポリカプロラクトン)のGPC測定結果(M、M/M)、酸価(mgKOH/g)および色数(APHA)の分析結果を表1に示す。
【0042】
[実施例2]ポリカプロラクトンの合成
実施例1のエチレングリコールを2-メチル-1,3-プロパンジオール(MPD)5.0g(0.06mol、水分含有量200ppm、キシダ化学株式会社製)とした以外は実施例1と同様の方法で、ラクトン重合体を無色固体(常温)(108g,収率95%)として得た。得られた重合体について実施例1と同様に測定した分析結果を表1にまとめて示す。
【0043】
[実施例3]ポリカプロラクトンの合成
実施例1のエチレングリコールをトリメチロールプロパン(TMP)10.0g(0.07mol、水分含有量200ppm、キシダ化学株式会社製)とした以外は実施例1と同様の方法で、ラクトン重合体を無色固体(常温)(107g,収率94%)として得た。得られた重合体について実施例1と同様に測定した分析結果を表1にまとめて示す。
【0044】
[実施例4]ポリカプロラクトンの合成
実施例1のエチレングリコールをペンタエリスリトール(PEN)13.6g(0.10mol、水分含有量200ppm、キシダ化学株式会社製)とした以外は実施例1と同様の方法で、ラクトン重合体を無色固体(常温)(104g,収率91%)として得た。得られた重合体について実施例1と同様に測定した分析結果を表1にまとめて示す。
【0045】
[実施例5]ポリカプロラクトンの合成
実施例1のリンタングステン酸を三フッ化ホウ素テトラヒドロフラン(BFTHF)4.0g(0.03mol、シグマアルドリッチジャパン製)とした以外は実施例1と同様の方法で、ラクトン重合体を無色固体(常温)(109g,収率96%)として得た。得られた重合体について実施例1と同様に測定した分析結果を表1にまとめて示す。
【0046】
[実施例6]ポリウレタンの合成
200mL反応容器に実施例1で合成したラクトン重合体(ポリカプロラクトン、PCL)100.0g(0.04mol)を入れ、70℃に加温し、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)34.6g(0.14mol、東ソー株式会社製)を添加し、80℃で3時間撹拌した。容器を減圧して反応液を脱泡後、1,4-ブタンジオールを8.2g(0.09mol、キシダ化学株式会社製)を添加し、85~90℃で3分間撹拌した。その後、ガラス板の型に注型し、乾燥機内にて110℃で3時間熟成し、放冷後(ポリ)ウレタンシート(厚さ2mm)を得た。
【0047】
[実施例7]ポリウレタンの合成
200mL反応容器に実施例2で合成したラクトン重合体(ポリカプロラクトン、PCL)100.0g(0.04mol)を入れ、70℃に加温し、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)35.3g(0.14mol、東ソー株式会社製)を添加し、80℃で3時間撹拌した。容器を減圧して反応液を脱泡後、1,4-ブタンジオールを8.2g(0.09mol、キシダ化学株式会社製)を添加し、85~90℃で3分間撹拌した。その後、ガラス板の型に注型し、乾燥機内にて110℃で3時間熟成し、放冷後(ポリ)ウレタンシート(厚さ2mm)を得た。
【0048】
[実施例8]ポリウレタンの合成
200mL反応容器に実施例4で合成したラクトン重合体(ポリカプロラクトン、PCL)100.0g(0.08mol)を入れ、70℃に加温し、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)45.8g(0.18mol、東ソー株式会社製)を添加し、80℃で3時間撹拌した。容器を減圧して反応液を脱泡後、1,4-ブタンジオールを8.9g(0.10mol、キシダ化学株式会社製)を添加し、85~90℃で3分間撹拌した。その後、ガラス板の型に注型し、乾燥機内にて110℃で3時間熟成し、放冷後(ポリ)ウレタンシート(厚さ2mm)を得た。
【0049】
[ポリウレタンの破断強度、破断伸び測定]
上記のように作製した厚さ2mmのウレタンシートを3号ダンベル形に切り抜き、23℃、湿度50%RH下で5日間養生したものを引張試験用評価サンプルとした。当サンプルを23℃、50%RH下において、テンシロン引張試験器(株式会社島津製作所製、型式:AG-1)を用いて、チャック間20mm、引張速度500mm/分で引張、破断強度(MPa)、破断伸び(%)を求めた。3回測定し、その平均値を算出した。得られたポリウレタンの各物性の測定結果を表2に示す。
【0050】
[ポリウレタンの熱分解温度測定]
ポリウレタンの熱分解温度の測定には以下の機器を使用した。
装置名:熱重量測定-示差熱分析装置(TG-DTA)(株式会社マックサイエンス製、型式:DSC 3100S型)
サンプル量:10mg
昇温条件:20~500℃、昇温速度:20℃/分
熱分解温度は、1%重量変化時の温度を測定した。得られたポリウレタンの熱分解温度(℃)の測定結果を表2にまとめて示す。
【0051】
[比較例1]:ポリカプロラクトンの合成
実施例1のエチレングリコールを2-メチル-1,3-プロパンジオール5.0g(0.05モル、水分値600ppm)とした以外は実施例1と同条件、同操作によって重合体を無色固体(常温)(106g,収率93%)として得た。得られた重合体について実施例1と同様に測定した分析結果を表1にまとめて示す。
【0052】
[比較例2]ポリカプロラクトンの合成
実施例1のエチレングリコールを水分含有量800ppmのものとした以外は実施例1と同様の方法で、ラクトン重合体を無色固体(常温)(108g,収率95%)として得た。得られた重合体について実施例1と同様に測定した分析結果を表1にまとめて示す。
【0053】
[比較例3]ポリカプロラクトンの合成
実施例1の反応温度を120℃とした以外は実施例1と同様の方法で、重合体を褐色固体(常温)(112g,収率98%)として得た。得られた重合体について実施例1と同様に測定した分析結果を表1にまとめて示す。
【0054】
[比較例4]ポリウレタンの合成
200mL反応容器に比較例2で合成したポリカプロラクトン100.0g(0.05mol)を入れ、70℃に加温し、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)36.6g(0.15mol)を添加し、80℃で3時間撹拌した。容器を減圧して脱泡後、1,4-ブタンジオールを8.3g(0.09mol)を添加し、85~90℃で3分間撹拌した。その後、ガラス板に注型し、乾燥機内にて110℃で3時間熟成し、放冷後(ポリ)ウレタンシート(厚さ2mm)を得た。得られたポリウレタンについて実施例6と同様に測定した各物性の測定結果を表2にまとめて示す。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【0057】
以上のように、本発明の実施例のウレタン重合体は、分子量分布M/Mが1.08~1.23であり単分散に近く、色数、酸価も低く、比較例のウレタン重合体よりも優れている。また、本発明の実施例のラクトン重合体を用いて製造したポリウレタンは、破断強度、破断伸び、かつ、熱分解温度が比較例よりも高く、優れている。これらのことにより、ポリウレタンやポリエステル等の原料として従来のラクトン重合体が有していた問題点である物性、加工性、ハンドリング、耐熱性などの改善が可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明のラクトン重合体の製造方法によって、分子量分布が単分散に近く、色数が低く、酸価が低いラクトン重合体を提供することができる。また、本発明の製造方法により得られるラクトン重合体を原料に用い、樹脂物性、加工性、耐熱性などに優れたポリウレタンやポリエステルを製造することができる。