(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】ストレス耐性の判定方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/16 20060101AFI20241016BHJP
A61B 5/01 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
A61B5/16 110
A61B5/01 100
(21)【出願番号】P 2020145916
(22)【出願日】2020-08-31
【審査請求日】2023-08-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000145862
【氏名又は名称】株式会社コーセー
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【氏名又は名称】渡邊 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100147865
【氏名又は名称】井上 美和子
(72)【発明者】
【氏名】杉山 梨奈
(72)【発明者】
【氏名】長野 祐一郎
【審査官】磯野 光司
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-028338(JP,A)
【文献】特表2017-533805(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00- 5/398
A61B 10/00
G16H 10/00-80/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Scopus
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
精神ストレス負荷期及び精神ストレス負荷後のストレス回復期における対象者の皮膚温の経時的な測定データに基づき、対象者のストレス耐性を判定する、コンピュータ又はシステムによるストレス耐性の判定方法であり、
前記ストレス負荷期を、ストレス負荷前期及びストレス負荷後期の2期に分け、
前記測定データが、期ごとの皮膚温の変化量データ及び期ごとの平均皮膚温データであり、
前記皮膚温の変化量データとして、ストレス回復期における皮膚温の変化量データ及びストレス負荷前期における皮膚温の変化量データを少なくとも用い、
前記平均皮膚温データとして、ストレス負荷前期における平均皮膚温データ又はストレス負荷後期における平均皮膚温データのいずれか1つを少なくとも用いる、
前記コンピュータ又はシステムによるストレス耐性の判定方法。
【請求項2】
さらに、以下の<3分類プロトコール>を設定し、
<3分類プロトコール>
(a)ストレス耐性が高いタイプ:〔皮膚温応答性〕負荷前期に皮膚温が当該前期開始時より降下し回復期に皮膚温が当該回復期開始時より上昇する。;
(b)急性ストレスに対するストレス耐性が低いタイプ(急性ストレスタイプ):〔皮膚温応答性〕回復期に皮膚温が当該回復期開始時よりも上昇しにくい。;
(c)慢性ストレスに対するストレス耐性が低いタイプ(慢性ストレスタイプ):〔皮膚温応答性〕負荷前期に皮膚温が当該前期開始時より降下しにくい。かつ、全期における平均皮膚温が全体の平均皮膚温より高い。;
前記対象者の皮膚温の経時的な測定データ及び前記<3分類プロトコール>に基づき、上記(a)~(c)のいずれかのタイプに判定する、又は、上記(a)~(c)のいずれ
かのタイプに判定した後に、上記(a)の場合にはストレス耐性が高い、上記(b)及び
(c)の場合にはストレス耐性が低いと判定する、
請求項1に記載のストレス耐性の判定方法。
【請求項3】
前記対象者の皮膚温の経時的な測定データが、
前記ストレス負荷前期において皮膚温が当該前期開始時より下降し、かつ前記回復期において皮膚温が当該回復期開始時より上昇する場合には、(a)ストレス耐性の高いタイプ、
前記ストレス負荷前期において皮膚温が当該前期開始時より下降し、かつ前記回復期において皮膚温が当該回復期開始時より上昇しにくい場合には、(b)急性ストレスに対するストレス耐性が低いタイプ、又は、
前記ストレス負荷前期において皮膚温が当該前期開始時より下降しにくく、かつ、全期において対象者の平均皮膚温が標準平均皮膚温より高い場合には、(c)慢性ストレスに対するストレス耐性が低いタイプ、と判定する、
請求項1又は2に記載のストレス耐性の判定方法。
【請求項4】
さらに、以下の<5分類プロトコール>を設定し、
<5分類プロトコール>
(d)ストレス耐性が高いタイプ:〔皮膚温応答性〕負荷が持続し、回復する。;
(e)急性ストレスに対するストレス耐性が低いタイプ:〔皮膚温応答性〕負荷が持続し、回復若しくは回復が遅い。;
(f)慢性ストレスに対するストレス耐性が低いタイプ:〔皮膚温応答性〕皮膚温が高く、負荷が不明確である。;
(g)集中力がないタイプ:〔皮膚温応答性〕負荷が不明確である。;
(h)試験でストレスがかからないタイプ:〔皮膚温応答性〕負荷が持続せず、回復が早い;
前記対象者の皮膚温の経時的な測定データ及び前記<5分類プロトコール>に基づき、前記(d)~(h)のいずれかのタイプに判定する、
請求項1に記載のストレス耐性の判定方法。
【請求項5】
前記(d)~(h)の皮膚温応答性は、前記対象者のストレス耐性を判定するために、予め被験者を5分類のストレス耐性のタイプに分類し、分類ごとに被験者の時間ごとの平均皮膚温を算出しプロットして作成された曲線である、請求項4に記載のストレス耐性の判定方法。
【請求項6】
前記対象者の皮膚温の経時的な測定データが、
前記ストレス負荷前期から後期までの間において対象者の皮膚温が当該前期開始時より下降し、前記ストレス回復期において対象者の皮膚温が当該回復期開始時より上昇する場合には、(d)ストレス耐性が高いタイプ(タイプ5)、
前記ストレス負荷前期において対象者の皮膚温が当該前期開始時より下降し、前記ストレス回復期において当該回復期開始時よりも上昇しない場合には、(e)急性ストレスに対するストレス耐性が低いタイプ(タイプ4)、
全期において対象者の平均皮膚温が標準平均皮膚温より高く、かつ前記ストレス負荷前期以降において対象者の皮膚温が当該前期開始時より横ばいの場合には、(f)慢性ストレスに対するストレス耐性が低いタイプ(タイプ3)、
前記ストレス負荷前期以降において対象者の皮膚温が当該前期開始時より横ばいの場合には、(g)集中力がないタイプ(タイプ2)、
前記ストレス負荷前期において対象者の皮膚温が当該前期開始時より下降し、前記ストレス負荷後期において対象者の皮膚温が当該後期開始時よりも上昇する場合には、(h)試験でストレスがかからないタイプ(タイプ1)、
と判定する、請求項1、4又は5に記載のストレス耐性の判定方法。
【請求項7】
前記経時的な測定データとして、
前記ストレス負荷後期における平均皮膚温データ(T2:℃)、
前記ストレス負荷前期における皮膚温の変化量データ(α1:勾配)、
前記ストレス負荷後期における皮膚温の変化量データ(α2:勾配)、及び
前記ストレス回復期における皮膚温の変化量データ(α3:勾配)を、少なくとも指標として用い、
当該4指標に基づき、前記(d)~(h)のいずれかのタイプに判定する、
請求項4~6のいずれか一項に記載のストレス耐性の判定方法。
【請求項8】
前記精神ストレスが、精神負荷課題によるストレスである、及び/又は、前記ストレス回復が、回復課題によるストレス回復である、請求項1~7のいずれか一項に記載のストレス耐性の判定方法。
【請求項9】
前記皮膚温が、末梢皮膚温である、請求項1~8のいずれか一項に記載のストレス耐性の判定方法。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載のコンピュータ又はシステムによるストレス耐性の判定方法
を提供
するコンピュータ又はシステム。
【請求項11】
請求項1~9のいずれか一項に記載のコンピュータ又はシステムによるストレス耐性の判定方法を実行させるためのプログラ
ム。
【請求項12】
精神ストレス負荷期及び精神ストレス負荷後のストレス回復期における対象者の皮膚温の経時的な測定データに基づき、対象者のストレス耐性を判定する、ストレス耐性判定部を含む、ストレス耐性判定装置又はシステムであり、
前記ストレス負荷期を、ストレス負荷前期及びストレス負荷後期の2期に分け、
前記測定データが、期ごとの皮膚温の変化量データ及び期ごとの平均皮膚温データであり、
前記皮膚温の変化量データとして、ストレス回復期における皮膚温の変化量データ及びストレス負荷前期における皮膚温の変化量データを少なくとも用い、
前記平均皮膚温データとして、ストレス負荷前期における平均皮膚温データ又はストレス負荷後期における平均皮膚温データのいずれか1つを少なくとも用いる、
前記ストレス耐性判定装置又はシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ストレス耐性の判定方法に関する。
に関する。
【背景技術】
【0002】
現代の人々は、家庭や労働環境などの日常生活において対人・対社会を主要因とする心理社会的なストレスを感じる機会が、増加している。このようなストレス社会のなかで、その日のストレス状態やストレスに対する適応力(以下、「ストレス耐性」ともいう)を正しく把握し、自身に合ったストレス対処法を身につけることが重要であるといわれている。
【0003】
例えば、特許文献1では、一般的に、人々の集団における人々のストレスレベル及びストレス耐性レベルのプロファイルを生成するシステム及び方法が提案されている。具体的には、特許文献1では、複数の個人のストレスレベルを示すストレスレベル情報を生成する方法において、ネットワークを介して前記複数の個人のそれぞれに対する個別のストレス情報を受信するステップと、処理システムにおいて、前記複数の個人のそれぞれに対する個別のストレス情報を統計的に処理することにより、前記複数の個人のストレスレベルの統計値を生成するステップを含む、方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、日常生活のなかでストレス耐性を評価する方法として、複数の質問の回答結果から個人情報から統計処理によりストレス耐性を判定することが開示されている。しかしながら、対象者が回答した個人情報を複数用いる方法は、時間や手間を必要とし簡便性に欠けており、潜在的なストレスを把握することが困難であった。
【0006】
そこで、本発明は、対象者のストレス耐性をより簡便に判定できる技術を提供することを主な目的とする。
本発明において、「ストレス耐性」とは、ストレスに対する適応力のことをいう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
先行研究から、従来、ストレス耐性に関連づけられる対象者の心理的要因は、人格特性(不変的な被験者自身の内的要因)と数日間の主観的なストレス状態(可変的な対人や対社会環境から受ける外的要因)の両面が存在すると考えた。この人格特性を調べるためにNEO-PI-R人格検査を、主観的なストレス状態を調べるためにGHQ60精神健康調査票を、用いている。しかしながら、これらの試験項目数は、前者で240項目、後者で60項目と多数存在するため、また試験時間も長時間になるため、対象者にとって簡便とはいえなかった。さらに、この項目結果からストレス判定を行うためには専門家の判定が必要でありかつこれを判定するための検討時間も必要であるため、対象者のストレス判定を速やかに行うことも困難であった。
【0008】
さらに、対象者のストレス耐性を評価するために、従来、ホメオスタシス(生体内の恒常性維持)の理論を応用したストレス又はストレスの耐性の判定若しくは評価の検討が行われていた。このホメオスタシスは、身体内部の環境を一定に保つ働きのことである。例えば、ストレスによるコルチゾールや血圧などを測定し、このコルチゾールや血圧などの値に基づき、ストレスの判定が行われていた。しかし、特に慢性ストレスに対するストレス耐性の評価は、長期的な経過観察及び測定を元に評価する必要があるため、場合によっては血液や唾液等の採取を用いた評価であったり、医療や研究などの専門的なスタッフ及び特殊な機器設備をもつ専門的な機関にて行われていた。このため、ストレスに関する判定を受けたい一般者がその判定結果を簡便に得ることが困難であった。
【0009】
そこで、本発明者らは、対象者のストレス耐性(特に、急性ストレス及び慢性ストレスに対するストレス耐性)をより簡便に判定するために、アロスタシス(動的適応能)の理論をストレス耐性の判定又は評価に適用することを試みた。
一般的に、アロスタシスとは、生体がストレス刺激に種々の身体システムを自ら変動させ適用することによって、心身の機能を安定させる働きのことをいう。
本発明者らは、「ストレス事態への適応とは、ストレス刺激に対して応答しないことではなく、適切なタイミングで身体機能を動員し、ストレス負荷後は速やかに回復する」というアロスタシスの理論に基づき、対象者のストレス耐性の判定方法を鋭意検討してみた。
【0010】
さらに、本発明者らは、斯かる実情に鑑み、後記〔実施例〕に示すように、心理的要因、ストレス耐性及び皮膚温応答性の関係を種々検討した結果、ストレス負荷期及び精神負荷後のストレス回復期における、対象者の皮膚温の経時的な測定データに基づき、より簡便にストレス耐性を判定することができる技術を新たに見出した。
すなわち、本発明は、以下の通りである。
【0011】
[1]
精神ストレス負荷期及び精神ストレス負荷後のストレス回復期における対象者の皮膚温の経時的な測定データに基づき、対象者のストレス耐性を判定する、ストレス耐性の判定方法。
[2]
前記ストレス負荷期を2期以上に分ける、前記[1]に記載のストレス耐性の判定方法。
[3]
前記測定データは、期ごとの皮膚温の変化量データ及び期ごとの平均皮膚温データである、前記[1]又は[2]に記載のストレス耐性の判定方法。
[4]
前記ストレス負荷期を、ストレス負荷前期及びストレス負荷後期の2期に分け、
前記測定データが、期ごとの皮膚温の変化量データ及び期ごとの平均皮膚温データであり、
前記皮膚温の変化量データとして、ストレス回復期における皮膚温の変化量データ及びストレス負荷前期における皮膚温の変化量データを少なくとも用い、
前記平均皮膚温データとして、ストレス負荷前期における平均皮膚温データ又はストレス負荷後期における平均皮膚温データのいずれか1つを少なくとも用いる、
前記[1]~[3]のいずれか一つに記載のストレス耐性の判定方法。
[5]
前記ストレス耐性を、以下の3分類及び皮膚温応答性による分類基準に設定し、
(a)ストレス耐性が高いタイプ:負荷前期に皮膚温が当該前期開始時より降下し回復期に皮膚温が当該回復期開始時より上昇する。;
(b)急性ストレスに対するストレス耐性が低いタイプ(急性ストレスタイプ):回復期に皮膚温が当該期開始時よりも上昇しにくい。;
(c)慢性ストレスに対するストレス耐性が低いタイプ(慢性ストレスタイプ):負荷前期に皮膚温が当該前期開始時より降下しにくい。かつ、全期における平均皮膚温が全体の平均皮膚温より高い。;
前記対象者の皮膚温の経時的な測定データに基づき、ストレス耐性が高い若しくは低い、又は、上記(a)~(c)のいずれかのタイプに判定する、
前記[1]~[4]のいずれか一つに記載のストレス耐性の判定方法。
[6]
前記3分類及び前記分類基準は、心理的要因、ストレス耐性のタイプ及び皮膚温応答性の関係に基づき作成されたものである、前記[5]に記載のストレス耐性の判定方法。
[7]
前記ストレス負荷前期において皮膚温が当該前期開始時より下降し、かつ前記回復期において皮膚温が当該回復期開始時より上昇する場合には、前記(a)ストレス耐性の高いタイプ、
前記ストレス負荷前期において皮膚温が当該前期開始時より下降し、かつ前記回復期において皮膚温が当該回復期開始時より上昇しにくい場合には、前記(b)急性ストレスに対するストレス耐性が低いタイプ、又は、
前記ストレス負荷前期において皮膚温が当該前期開始時より下降しにくく、かつ、全期において対象者の平均皮膚温が標準平均皮膚温より高い場合には、前記(c)慢性ストレスに対するストレス耐性が低いタイプ、と判定する、
前記[5]又は[6]に記載のストレス耐性の判定方法。
[8]
前記ストレス耐性を、以下の5分類及び皮膚温応答性による分類基準に設定し、
(d)ストレス耐性が高いタイプ:負荷が持続し、回復する。;
(e)急性ストレスに対するストレス耐性が低いタイプ:負荷が持続し、回復若しくは回復が遅い。;
(f)慢性ストレスに対するストレス耐性が低いタイプ:皮膚温が高く、負荷が不明確である。;
(g)集中力がないタイプ:負荷が不明確である。;
(h)試験でストレスがかからないタイプ:負荷が持続せず、回復が早い;
前記対象者の皮膚温の経時的な測定データに基づき、当該(d)~(h)のいずれかのタイプに判定する、
前記[1]~[4]のいずれか一つに記載のストレス耐性の判定方法。
[9]
前記5分類及び前記分類基準は、心理的要因、ストレス耐性のタイプ及び皮膚温応答性の関係に基づき作成されたものである、前記[8]に記載のストレス耐性の判定方法。
[10]
前記皮膚温応答性は、被験者を5分類のストレス耐性のタイプに分類し、分類ごとに被験者の時間ごとの平均皮膚温を算出しプロットして作成された曲線である、前記[9]に記載のストレス耐性の判定方法。
[11]
前記ストレス負荷前期から後期までの間において対象者の皮膚温が当該前期開始時より下降し、前記ストレス回復期において対象者の皮膚温が当該回復期開始時より上昇する場合には、前記(d)ストレス耐性が高いタイプ(タイプ5)、
前記ストレス負荷前期において対象者の皮膚温が当該前期開始時より下降し、前記ストレス回復期において当該回復期開始時よりも上昇しない場合には、前記(e)急性ストレスに対するストレス耐性が低いタイプ(タイプ4)、
全期において対象者の平均皮膚温が標準平均皮膚温より高く、かつ前記ストレス負荷前期以降において対象者の皮膚温が当該前期開始時より横ばいの場合には、前記(f)慢性ストレスに対するストレス耐性が低いタイプ(タイプ3)、
前記ストレス負荷前期以降において対象者の皮膚温が当該前期開始時より横ばいの場合には、前記(g)集中力がないタイプ(タイプ2)、
前記ストレス負荷前期において対象者の皮膚温が当該前期開始時より下降し、前記ストレス負荷後期において対象者の皮膚温が当該後期開始時よりも上昇する場合には、前記(h)試験でストレスがかからないタイプ(タイプ1)、
と判定する、前記[8]~[10]のいずれか一つに記載のストレス耐性の判定方法。
[12]
前記経時的な測定データとして、
前記ストレス負荷後期における平均皮膚温データ(T2:℃)、
前記ストレス負荷前期における皮膚温の変化量データ(α1:勾配)、
前記ストレス負荷後期における皮膚温の変化量データ(α2:勾配)、及び
前記ストレス回復期における皮膚温の変化量データ(α3:勾配)を、少なくとも指標として用い、
当該4指標に基づき、前記(d)~(h)のいずれかのタイプに判定する、
前記[8]~[11]のいずれか一つに記載のストレス耐性の判定方法。
[13]
前記精神ストレスが、精神負荷課題によるストレスである、及び/又は、前記ストレス回復が、回復課題によるストレス回復である、前記[1]~[12]のいずれか一つに記載のストレス耐性の判定方法。
[14]
前記皮膚温が、末梢皮膚温である、前記[1]~[13]のいずれか一つに記載のストレス耐性の判定方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、対象者のストレス耐性をより簡便に判定できる技術を提供することができる。なお、本発明の効果は、ここに記載された効果に必ずしも限定されるものではなく、本明細書中に記載されたいずれかの効果であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明のストレス耐性の判定方法の一例を示すフローチャートである。
【
図2】本発明のストレス耐性の判定方法(5分類)の一例を示すフローチャートである。
【
図3】
図3Aは、全被験者の3分間の平均皮膚温変化を示す図である(n=62)。
図3Bは、開放性の3群の平均皮膚温の変化の比較を示す図である(負の変化量α
1:I<II,正の変化量α
3:III>II,
*p<0.05,n=62)。
図3Cは、誠実性の3群の平均皮膚温の変化の比較を示す図である(負の変化量α
1:I<II,正の変化量α
3:I<IIとIII<II
*p<0.05,n=62)。
図3Dは、GHQ22「いつもより何かするのに余計に時間がかかること」の2群の平均皮膚温変化の比較を示す図である(負の変化量α
1:I>II,温度T
1:I<II,温度 T
2:I<II
*p<0.05,温度T
3:I<II
+p<0.1,n=62(I:50,II:12).)。
図3Eは、社会的活動障害の2群の平均皮膚温の変化の比較を示す図である温度T
2:I<II,温度 T
3:I<II
*p<0.05,温度T
1:I<II
**p<0.01,n=62(I:38, II:24).)。
図3Fは、神経症傾向の3群の平均皮膚温の変化の比較を示す図である(温度T
3:II<I,
*p<0.05,n=62.)。
【
図4】図中の5つの曲線は、被験者のストレスタイプを5分類し、分類ごとに被験者の時間(1秒)ごとの平均皮膚温を算出しプロットして作成された曲線である。ストレス耐性判定に適用する5分類プロトコールに含まれる皮膚温適応性の分類基準の一例であり、当該皮膚温適応性の分類基準が5つの曲線である場合の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が限定されて解釈されることはない。なお、数値における上限値と下限値は、所望により、任意に組み合わせることができる。
【0015】
1.ストレス耐性の判定方法
本発明は、精神ストレス負荷期及び精神ストレス負荷後のストレス回復期における対象者の皮膚温の経時的な測定データに基づき、対象者のストレス耐性を判定する、ストレス耐性の判定方法又はこれを補助する方法を提供することができる。これにより、対象者のストレス耐性をより簡便に判定できる技術を提供することができる。
【0016】
また、本発明は、精神ストレス負荷期及び精神ストレス負荷後のストレス回復期における対象者の皮膚温の経時的な測定データに基づき、対象者のストレス判定を判定する判定工程を含むストレス耐性の判定方法又はこれを補助する方法を提供することができる。また、本発明の方法は、コンピュータに実行させてもよいし、当該方法の手順をコンピュータに実行させるためのソフトウエア又はその手順を実行するコンピュータ若しくはシステムに適用してもよい。
また、本発明のストレス耐性判定方法は、対象者の経時的な皮膚温を測定する測定工程と、当該対象者の複音の経時的な測定データに基づき、対象者のストレス判定を判定する判定工程を含んでもよい。
【0017】
さらに、本発明のストレス耐性の判定方法において、対象者の皮膚温の経時的な測定データは、精神ストレス負荷期及びストレス回復期の皮膚温の経時的な測定データが好適である。当該精神ストレスが、精神負荷課題によるストレスであること、及び/又は、当該ストレス回復が、回復課題によるストレス回復であることがより好適である。
さらに、本発明の方法において、皮膚温は、末梢皮膚温が好適である。
【0018】
これにより、本発明は、より簡便により精度よく、対象者のストレス負荷及びストレス回復に対する適応力を測ることができ、対象者のストレス耐性をより簡便により精度良く判定することができる。さらに、本発明は、一般消費者向けの店頭サービスを想定したストレス判定システムの開発、そして種々のストレス耐性のタイプに応じて、パーソナライズされたストレスに関するアドバイスや予防若しくは改善方法(例えば、パーソナライズされたストレスコントロール方法の提案など)を提供することができる。
【0019】
なお、本発明のストレス耐性の判定方法は、特殊な高価な測定機器を用いずとも、また、従来のストレス耐性の判定方法は、対象者に対する試験の拘束時間が長いが、これに対し、本発明のストレス耐性の判定方法では20分以内に結果を得ることもできるため、遥かに短時間で行うことができる。
【0020】
また、本発明のストレス耐性の方法は、医師の直接的な医療行為ではなく、非治療目的に使用することが主な目的であるが、その判定結果を最終的に治療目的に役立てることも可能である。ここで、「非治療目的」とは、医療行為、すなわち、治療による人体への処置行為を含まない概念であり、非治療目的とは、例えば、ストレスの予防又は改善のための商品若しくはアドバイスの提供等が挙げられる。
本発明において、「予防」とは、適用対象における症状若しくは疾患の発症の防止若しくは発症の遅延、又は適用対象における症状若しくは疾患の発症の危険性を低下させること等をいう。本技術において、「改善」とは、適用対象における疾患、症状又は状態の好転又は維持;悪化の防止又は遅延;進行の逆転、防止又は遅延をいう。
【0021】
1-1.対象者
対象者は、特に限定されず、ヒトが好適であり、老若男女を問わない。なお、本明細書において、「対象者」とは、本発明のストレス耐性の判定方法を用いて、ストレス耐性の判定を受ける者をいう。
【0022】
1-2.対象者の経時的な皮膚温の測定工程
対象者の経時的な皮膚温の測定工程において、皮膚温測定機器を用いて、対象者の皮膚温を一定期間経時的に測定することができ、その測定データを取得してもよい。このとき、本発明では、皮膚温測定機器を用いて、課題に対して応答する対象者の皮膚温を一定期間経時的に測定することが好適である。当該測定工程は、測定方法として適用してもよい。
なお、本発明の判定方法には、判定工程の前に、測定工程を含んでもよいし、判定工程の前に、予め測定され、記憶されている対象者の測定データ又はこれより算出されたデータを判定工程にて用いてもよい。
【0023】
<皮膚温の測定機器>
本発明に用いられる皮膚温の測定機器は、対象者の皮膚温を一定期間経時的に測定することができる機器であることが好適であり、市販品の皮膚温測定機器を用いることができる。当該測定機器は、25~40℃の範囲で±1℃の精度を持つものが望ましい。皮膚温測定機器は、接触式又は非接触式のいずれでもよいが、接触式が、精度の観点から好ましい。接触式として、温度センサー(例えば、集積回路、抵抗測温体、熱電対など)を備える測定機器などが挙げられるが、これらに限定されない。非接触式として、例えば、放熱温度計(例えば、赤外線強度測定など)などを備える測定機器などが挙げられるが、これらに限定されない。また、これら温度センサー又は放熱温度計を備えるプローブを用いた測定機器であってもよい。より具体的な構成として、集積回路温度センサーを皮膚表面上に直接接触させた状態(例えば、貼付など)で皮膚温を測定できる皮膚温測定機器が、より継続的な測定がより簡便化でき、より精度が良好である観点から、好ましい。
【0024】
皮膚温を測定する部位は、例えば、鼻、手、足等の末梢部が挙げられ、このうち、手指はより簡便でより精度良く測定できる観点から、好適である。
本発明では、末梢部の末梢皮膚温が、対象者のストレス耐性をより簡便により精度良く判定できる観点から、好適である。この末梢部のうち、指がより好適であり、当該指は第一指から第五指のうちのいずれでもよいが、より簡便でより精度良く測定できる観点から、指の腹(指紋のある部分)が好適である。
【0025】
なお、皮膚温を測定する場所の室温は、特に限定されないが、10~30℃程度が好適であり、20~30℃がより好適である。外部環境にとの差が大きいこと(例えば室温との差が±5℃の範囲外の場合など)によって測定する部位の皮膚温が大きく変化するような場合には、一定期間、測定部位に布を巻くことなどによって馴化させることが好適である。一定期間として、例えば1~20分程度でもよく、より好適には5~15分程度である。
【0026】
<測定条件>
本発明の測定工程において、皮膚温測定機器を用いて、課題に対して応答する対象者の皮膚温を一定期間経時的に測定し、これにより測定データを取得することができる。当該課題の提供元は、操作者、判定者、アドバイザーなどの第三者;コンピュータなどが挙げられるがこれらに限定されない。
課題は、特に限定されないが、精神ストレスの負荷を与えるための精神負荷課題及び当該精神ストレス負荷後にこのストレスを回復させるための回復課題が好適である。
本発明において、対象者が精神ストレス負荷課題を行う又は行った期間を、精神ストレス負荷期(以下、「ストレス負荷期」又は「負荷期」ともいう)といい、対象者が当該ストレス負荷後のストレス回復課題を行う又は行った期間を、ストレス負荷後のストレス回復期(以下、「ストレス回復期」又は「回復期」ともいう)という。
【0027】
従来、ストレスに関する判定方法では、ストレス負荷の前に安静期を設ける必要があるとされていた。しかしながら、後記〔実施例〕に示すように、本発明におけるストレス耐性の判定方法では、安静期を設けなくともストレス負荷期とストレス回復期の双方の応答性が観察された点から、安静期を設けなくてもよい。本発明において、対象者の安静期を設けないことで対象者の測定期間が短くなることでより短時間にでき、安定期の測定データを処理しないことで測定データを活用するときの操作者の手間を軽減できるのでより簡便に、ストレス耐性の判定を行うことができる。
【0028】
精神ストレスの負荷を与える精神負荷課題は、対人的及び/又は対社会的なストレスの負荷がかかるような課題が好適である。
対人的及び対社会的なストレスとして、例えば、仕事などでのストレス(例えば、競争、スピーチ演説、打ち合わせ、上司や同僚との見解の不一致又は不和など)、学校や地域社会などでのストレス(集団生活、共同生活など)、情報化社会などでのストレス(SNSでのコミュニケーション、誹謗中傷など)などが挙げられるが、これらに特に限定されず、またこれらから1種又は2種以上を選択することができる。
【0029】
本発明で判定するストレス耐性として、パワーハラスメントやセクシャルハラスメントといった強度のストレスというよりも、中軽度のストレスの方が、より精度良くストレス耐性を判定することができる。中軽度のストレス下では、注意集中状態になっていると解する。よって、本発明では、このような精神ストレス負荷を与えるような精神負荷課題が好適であり、公知の精神負荷課題を採用してもよい。
【0030】
より好適な精神ストレス負荷の課題として、例えば、計算課題(例えば、暗算課題など)、スピーチ課題、クレペリン課題、記憶課題(例えば、文字を覚えさせた後に順唱や逆唱など)などが挙げられるが、これらに限定されない(例えば、長野祐一郎、評価的観察が精神課題遂行中の心臓血管反応に与える影響、心理学研究76巻3号、p 252-259、2005年)。これらから1種又は2種以上を選択し使用しても良く、これら精神ストレス負荷の課題は既知の課題を、本発明に採用してもよい。また、注意集中状態になるような精神ストレス負荷の課題であってもよい。このうち、計算課題が、短期間で、対人及び社会的ストレスに近い状態である観点から、好適であり、当該計算課題として、例えば、2桁×2桁の足し算又は引き算など小学生中学年レベルの計算課題がより好適である。
【0031】
ストレスを回復のための回復課題は、特に限定されないが、例えば、一般的に緊張を和らげることができる課題若しくは技術などが好適である。回復課題として、例えば、リラックス(例えば、閉眼や深呼吸などによる安静など)、瞑想(例えば、ヨガ、座禅など)などが挙げられるがこれらに限定されない。これらから1種又は2種以上を選択して使用してもよく、これらストレス回復の課題は、既知のストレス回復の課題を採用してもよい。このうち、リラックス(より好適には閉眼)が、短期間で精神ストレス負荷からの回復を評価しやすい観点から、好適である。
【0032】
対象者の皮膚温の測定期間は、特に限定されないが、精神ストレス負荷期から当該ストレス負荷後のストレス回復期までの期間が好適であり、精神ストレス負荷期及びストレス回復期を1セットとし、これら期間を連続して測定することがより好適である。
ストレス負荷期:ストレス回復期の比率は、特に限定されないが、好ましくは1~5:5~1、より好ましくは1~5:3~1、さらに好ましくは1~3:1、よりさらに好ましくは2:1である。
なお、対象者の皮膚温の測定期間は、後述する合計測定時間と同じであることが好適であり、より好適な態様として、精神ストレス負荷期の開始時を、皮膚温の測定開始時とし、ストレス負荷後のストレス回復期の終了時を、皮膚温の測定終了時とすることである。
【0033】
対象者の皮膚温の合計測定時間は、特に限定されず、この好適な下限値として好ましくは0.5分以上、より好ましくは1分以上、さらに好ましくは2分以上であり、また、この好適な上限値として好ましくは30分間以下、より好ましくは20分以下、さらに好ましくは10分以下、よりさらに好ましくは5分以下であり、より好ましくは4分以下である。当該好適には数値範囲として、測定データの処理をより簡便にでき、より精度も良好である観点から、好ましくは2~4分、さらに好ましくは3分である。
なお、対象者の皮膚温の合計測定時間は、皮膚温の測定開始時から測定終了時までの時間である。
【0034】
対象者の皮膚温の測定間隔は、特に限定されず、この好適な下限値として好ましくは0.1秒以上、より好ましくは0.5秒以上ごとの測定であり、この好適な上限値として好ましくは5秒以下、より好ましくは3秒以下、さらに好ましくは2秒以下、よりさらに好ましくは1.5秒以下ごとの測定である。当該好適な数値範囲は、測定データの処理をより簡便にでき、かつ、より精度良く判定できる観点から、より好ましくは0.1~2秒ごと、さらに好適には1秒ごとに、皮膚温を1回測定することが好適であり、等間隔に皮膚温を測定することがより好適であり、よりさらに好ましくは1秒ごとの測定である。
【0035】
1-3.対象者のストレス耐性を判定する判定工程
対象者のストレス耐性を判定する判定工程において、対象者の皮膚温の経時的な測定データ(以下、「対象者の測定データ」ともいう)に基づき、対象者のストレス耐性を判定することができる。当該判定工程は、判定方法として適用してもよい。これにより、ストレス耐性の判定をより簡便に精度良く行うことができる。
このとき、本発明では、上記測定工程にて取得された測定データを用いてもよいし、既に測定された対象者の測定データを、内部又は外部に備える、例えば記憶部、入出力部などから取得してもよい。当該内部又は外部は、例えば、コンピュータ、データベース、クラウドシステム、ネットワークシステムなどであってもよい。
【0036】
本発明の判定工程において、対象者の測定データは、期ごとの皮膚温の変化量データ及び期ごとの平均皮膚温データであることが好適であり、これらを判定の指標として用いることができる。
本発明の判定工程において、ストレス耐性判定モデル(例えば、ストレス耐性を分類するための分類プロトコールなど)を用いることが好適であり、これを分類基準として用いることができる。
【0037】
好ましい態様として、本発明の判定工程において、対象者の経時的な皮膚温の測定データ及びストレス耐性判定モデル(より好適には分類プロトコール)に基づき、対象者のストレス耐性を判定することである。さらに好ましくは、対象者の測定データを判定の指標とし、ストレス耐性判定モデルを分類基準とし、当該判定の指標を、当該分類基準に、適用することで、対象者のストレス耐性を判定することである。
【0038】
分類プロトコールには、ストレス耐性タイプの分類及び皮膚温応答性による分類基準が含まれていることが好適である。プロトコールは、3分類プロトコール又は5分類プロトコールが好適である。当該分類プロトコールは、被験者の心理的要因、ストレス耐性及び皮膚温応答性の関係に基づき作成されたものであることが好適である。また、分類プロトコールは、分類ごとに被験者の時間ごとの平均皮膚温を算出しプロットして作成された曲線(例えば、
図3及び4)を含んでもよい。
【0039】
なお、本「1-3.対象者のストレス耐性を判定する判定工程」の説明において、上記「1-1.」、「1-2.」などの構成と重複する、ストレス負荷期、ストレス回復期などの各構成などの説明については適宜省略するが、当該「1-1.」、「1-2.」などの説明が、本実施形態にも当てはまり、当該説明を適宜採用することができる。
【0040】
<判定の指標>
本発明では、対象者の皮膚温の経時的な測定データを処理することで、例えば、全期における対象者の経時的な皮膚温の曲線、期ごとの対象者の皮膚温の変化量データ、期ごとの対象者の平均皮膚温データなどを作成することができ、これらから選択される1種又は2種以上を判定の指標としてもよい。本発明の判定工程では、これらを判定の指標として用いることで、ストレス耐性の判定をより簡便により精度良く行うことができるので、好適である。さらに、本発明では、上記測定工程において安静期を設けなくとも、精度良くストレス耐性の判定を行うことができるので、安静期の測定工程を省略することで、より短時間化にでき、より簡便に判定を行うことができる。
【0041】
なお、対象者の皮膚温の変化量データや平均皮膚温データは、公知の統計学的方法(例えば、回帰直線の傾き、平均値など)にて作成することができ、例えば、後述する実施例など(例えば、被験者、測定条件、測定結果などに関する情報(例えば、成人、女性、アジア系など))を参照して取得することができる。
本発明における「期の皮膚温の変化量」とは、ある期の期間開始時から期間終了時までの対象者の経時的な皮膚温の測定データ(皮膚温とそれに対応する測定時間のプロット)の合計から、回帰直線を用いて得られた期の「傾き」(1秒当たりの皮膚温上昇値(℃))である。
また、本発明における「期の平均皮膚温」とは、ある期の期間開始時から終了時までの対象者の皮膚温の測定データの合計を平均して得られた平均皮膚温(合計皮膚温(℃)/測定プロット数)である。
【0042】
本発明の判定工程において、対象者の経時的な皮膚温の測定データの期を2期以上に分けることが好適であり、より好適には3期又はそれ以上であり、さらに好適には3期である。
対象者の皮膚温の経時的な測定データを、期ごとに分け、当該期ごとの皮膚温の経時的な測定データに基づき、対象者のストレス耐性の判定を行うことが好適であり、これにより、より簡便により精度良くストレス耐性を判定することができる。
【0043】
本発明における「全期」とは、課題(負荷課題及び回復課題)に対して応答する対象者の皮膚温の測定開始時から測定終了時までの全ての期間をいい、より好適には、精神ストレス負荷期の開始時からストレス回復期の終了時までの期間をいう。
【0044】
本発明の判定工程において、ストレス負荷期を少なくとも2期又は3期以上に分け、当該期を指標とすることが好適である。ストレス負荷期は、ストレス負荷前期及びストレス負荷後期の2期にすることがより好適である。当該ストレス負荷期を分ける数が、複数の場合、各期を均等に分けることが望ましい。
また、本発明の判定工程において、ストレス回復期を1期又は2期以上に分け、当該期を指標とすることが好適であり、より好適には1期である。
このように、対象者の測定データを期ごとに分けることで、適宜、期ごとの皮膚温の変化量データ及び期ごとの平均皮膚温データを取得することもでき、期ごとの各種データを用いることで、より簡便により精度良くストレス耐性を判定することができる。当該「期ごと」として、例えば、「ストレス負荷期及びストレス回復期」、「ストレス負荷前期、ストレス負荷後期、及びストレス回復期」などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0045】
本発明の判定工程において、より好ましい態様として、ストレス負荷期を前期及び後期の2期とし、ストレス回復期は1期とし、これら3つの期を判定の指標にすることであり、これにより、より簡便により精度良くストレス耐性を判定することができる。
【0046】
本発明の判定工程において、ストレス負荷期:ストレス回復期の比率は、上述した「1-2.」(上記測定工程)のストレス負荷期:ストレス回復期の比率構成と同じであることが好適であり、例えば、ストレス負荷期 2:ストレス回復期 1を採用することができ、より好ましくはストレス負荷前期 1:ストレス負荷後期 1:ストレス回復期 1であり、ストレス耐性の判定をより簡便により精度良く行うことができる。
【0047】
本発明の判定工程において、ストレス負荷期におけるストレス負荷前期及びストレス負荷後期の期間比率は、特に限定されないが、上述した「1-2.」(上記測定工程)のストレス負荷前期:ストレス負荷後期の比率構成と同じであることが好適であり、ストレス負荷前期:ストレス負荷後期は、好ましくはそれぞれ1~3:3~1、より好ましくはそれぞれ1~2:2~1であり、さらに好ましくはそれぞれ1:1であり、これにより、より簡便により精度良くストレス耐性を判定することができる。
【0048】
本発明の判定工程において、全期における「対象者の皮膚温の経時的な測定データ」を、ストレス負荷期及びストレス回復期の2期に分け、これら期ごとの皮膚温の変化量データ及び期ごとの平均皮膚温データを作成し、これらを判定の指標として、少なくとも用いることが、より好適である。
【0049】
本発明の判定工程において、ストレス負荷期及びストレス回復期における「対象者の皮膚温の経時的な測定データ」を、ストレス負荷前期、ストレス負荷後期、及びストレス回復期の3期に分け、これらの期ごとの皮膚温の変化量データ及びこれらの期ごとの平均皮膚温データを作成し、これらを判定の指標として、少なくとも用いることが、より好適である。
【0050】
好ましいより具体的な態様として、対象者の皮膚温の経時的な測定データとして、
ストレス負荷前期における皮膚温の変化量データ(α1:勾配);
ストレス負荷後期における皮膚温の変化量データ(α2:勾配);
ストレス回復期における皮膚温の変化量データ(α3:勾配);
ストレス負荷前期における皮膚温の変化量データ(T1:℃);
ストレス負荷後期における平均皮膚温データ(T2:℃);及び
ストレス回復期における皮膚温の変化量データ(T3:℃);
から1種、2種又は3種以上を選択して、判定の指標とすることである。さらに、このうち、より好ましくは5種以下、よりさらに好ましくは4種以下を選択することが、望ましい。より良好な指標の選択数によって、より簡便により精度良くストレス耐性の判定ができ、測定期間の短時間化も可能である。
【0051】
さらに対象者の皮膚温の変化量データのうち、回復期における皮膚温の変化量データ(α3)及び負荷前期における皮膚温の変化量データ(α1)を少なくとも、判定の指標として用いることが好適であり、さらに好ましくは、負荷前期における皮膚温の変化量データ(α1)、負荷後期における皮膚温の変化量データ(α2)、及び回復期における皮膚温の変化量データ(α3)の3つを判定の指標とすることである。これにより、より簡便により精度良くストレス耐性の判定ができ、さらに測定期間の短時間化も可能である。
【0052】
さらに対象者の平均皮膚温データのうち、負荷前期における平均皮膚温データ(T1)及び負荷後期における平均皮膚温データ(T2)のいずれか1つを少なくとも、判定の指標として用いることが好適であり、さらに好ましくは、負荷後期における平均皮膚温データ(T2)の1つを判定の指標とすることである。これにより、より簡便により精度良くストレス耐性の判定ができ、さらに測定期間の短時間化も可能である。
【0053】
上述した、対象者の皮膚温の変化量データの選択と、対象者の平均皮膚温データの選択とを、適宜組み合わせてもよい。
本発明の判定工程における対象者の測定データとして、特に好ましくは、負荷前期における皮膚温の変化量データ(α1)、負荷後期における皮膚温の変化量データ(α2)、及び回復期における皮膚温の変化量データ(α3)の3つと、負荷後期における平均皮膚温データ(T2)の1つとを選択し、これら4つを判定の指標とすることである。これにより、より簡便により精度良くストレス耐性の判定ができ、さらに測定期間の短時間化も可能である。
【0054】
<ストレス耐性判定モデル(分類プロトコール)>
本発明の判定工程において、ストレス耐性判定モデルを、分類基準として用いることが、ストレス耐性の判定をより簡便により精度良く行うことができるので、好適である。
さらに、本発明の判定工程において、対象者の経時的な皮膚温の測定データ(判定の指標)及びストレス耐性判定モデル(分類基準)に基づき、対象者のストレス耐性を判定することが、より好適である。
【0055】
より好ましい具体的な態様として、対象者の測定データと、ストレス耐性の判定モデルに含まれている皮膚温応答性による分類基準データとを対比し、当該測定データに近似又は類似する皮膚温応答性を選択する。選択された皮膚温応答性に対応するストレス耐性のタイプを、対象者のストレス耐性のタイプと判定することができる。
これにより、このストレス耐性判定モデルのなかに含まれるストレス耐性のタイプから、対象者の測定データに適合したストレス耐性のタイプを、対象者のストレス耐性として選択し、判定することができる。これにより、より簡便により精度良くストレス耐性の判定ができ、測定期間の短時間化も可能である。
【0056】
ストレス耐性判定モデルは、少なくとも、皮膚温応答性データとストレス耐性のタイプデータを少なくとも分類基準として含むものが好適である。
ストレス耐性判定モデルには、ストレス耐性のタイプごとに、期ごとの皮膚温の変化量データ及び期ごとの平均皮膚温データなどが、皮膚温応答性による分類基準として、含まれていることが好適である。当該皮膚温応答性による分類基準は、ストレス耐性タイプごとに、分類プロトコールに含まれていることがより好適である。なお、上記<判定の指標>は、ストレス耐性判定モデル(分類プロトコール)の構成(特に、皮膚温応答性の分類基準)の説明にも当てはまり、当該説明を適宜採用することができるため、上記<判定の指標>などの構成と重複する、「皮膚温適用性の分類基準」における期、皮膚温の変化量データ、平均皮膚温データなどの各構成などの説明については適宜省略する。
【0057】
ストレス耐性判定モデルは、分類プロトコールであることがより好適である。
分類プロトコールには、以下のような、本発明で規定するような皮膚温応答性による分類基準を含むことが好適である。当該皮膚温応答性の分類基準のデータには、期ごとの皮膚温の変化量データ及び期ごとの平均皮膚温データが含まれていることが好適である。これにより、対象者の測定データを、分類基準のデータに適用することで、より簡便により精度良くストレス耐性の判定を行うことができる。
皮膚温応答性の分類基準のデータとして、負荷前期における皮膚温の変化量データ(α1:勾配)、負荷後期における皮膚温の変化量データ(α2:勾配)、回復期における皮膚温の変化量データ(α3:勾配)、負荷前期における皮膚温の変化量データ(T1:℃)、負荷後期における平均皮膚温データ(T2:℃)、及び回復期における皮膚温の変化量データ(T3:℃)から1種、2種又は3種以上を選択して含まれることが好適であり、5種以下又は4種以下がより好適である。
このとき、皮膚温応答性の分類基準のデータには、皮膚温の変化量データとして回復期における皮膚温の変化量データ及び負荷前期における皮膚温の変化量データと、並びに、前記平均皮膚温データとして負荷前期における平均皮膚温データ又は負荷後期における平均皮膚温データとが、少なくとも含まれることが好適である。
【0058】
ストレス耐性判定モデルには、ストレス耐性のタイプごとの皮膚温応答性の曲線データが含まれることがより好適であり、これにより、これら皮膚温応答性の曲線データと、対象者の測定データとを対比することができる。当該皮膚温反応性の曲線データは、ストレス耐性のタイプごとに設けることが好適である、例えば、ストレス耐性のタイプが3分類である場合には、それぞれのタイプに対応する3つの皮膚温応答性の曲線、5分類である場合には、それぞれのタイプに対応する5つの皮膚温応答性の曲前などが挙げられるが、これらに限定されない。これにより、両者の曲線同士でも、両者の特徴的な部分を対比検討することができるので、より簡便により精度良く、当該測定データに近似する皮膚温応答性を選択することができ、選択された皮膚温応答性に対応するストレス耐性のタイプを、対象者のストレス耐性のタイプとして、より簡便により精度良く判定することができる。
【0059】
さらに、分類プロトコールには、ストレス耐性のタイプごとに対応する項目を単数又は複数設けてもよく、当該項目ごとには、種々の分類基準を設けることができ、さらに分類基準以外のストレス耐性などに関する情報などを組み込んでもよい。例えば、分類プロトコールのストレス耐性のタイプ及び項目は、表の形式や階層構造の形式などで管理してもよく、当該管理の形式は特に限定されない。例えば、ストレス耐性のタイプごとに、皮膚温適応性などの分類基準、心理的要因などの情報などの項目を設け、これによりこれらとストレス耐性のタイプとを紐付けてもよい。また、例えば、分類プロトコールに、さらに心理的要因を含ませることで、対象者のストレス耐性タイプを判定すると共に、対象者の心理的要因に関する情報を提供することもできる。
【0060】
また、分類プロトコールは、心理的要因、ストレス耐性のタイプ及び皮膚温適応性の関係に基づき作成されたものであることが、より簡便により精度良く判定する観点から、好適である。
さらに、分類プロトコールは、ストレス耐性のタイプが3分類である3分類プロトコール、及び、ストレス耐性のタイプが5分類である5分類プロトコールが好適である。
【0061】
さらに、分類プロトコールには、以下の皮膚温応答性の分類基準を含むことが好適である。対象者の測定データを、当該分類基準に適用することで、より簡便により精度良くストレス耐性の判定を行うことができる。
【0062】
<ストレス耐性の判定に関するフロー例>
ストレス耐性の判定に関するフローの一例として、ストレス耐性のタイプが3種類の場合を挙げる。
図1を参照して、本発明のストレス耐性判定装置又はシステムの一例を用いて、ストレス耐性の判定(判定工程)に関するフローの一例を説明するが、これに特に限定されない。
本発明のストレス耐性の判定方法に関するプログラムを実行可能なストレス耐性判定装置又はシステム(例えば、タブレット型端末又はスマートフォンなど)は、本発明のストレス耐性の判定工程を含む手順を実行し、対象者に対して、ストレス耐性の判定結果を、音声又は画像などにて、表示することができる。また、当該装置又はシステムは、本発明の対象者の経時的な皮膚温の測定工程を含む手順を実行してもよく、当該測定工程を実行するための測定部を含んでもよく、当該測定部を制御するように無線又は有線にて接続されていてもよい。このとき、当該装置又はシステムには、本発明のストレス耐性の判定方法を実行するためのストレス耐性を判定する判定部又は当該判定部を含む制御部が含まれていることが好適である。
【0063】
本発明のストレス耐性の判定工程について、ストレス耐性を判定する判定部が、対象者の測定データに基づき、期ごとの皮膚温の変化量データ及び期ごとの平均皮膚温データを判定指標として取得する(ステップ101)。判定部が、対象者の期ごとの皮膚温の変化量データ及び期ごとの平均皮膚温データを、ストレス耐性のタイプ1の分類基準である期ごとの皮膚温の変化量データ及び期ごとの平均皮膚温データと対比する(ステップ102)。判定部が、ストレス耐性のタイプ1の分類基準に適合した場合には、ストレス耐性のタイプ1を選択し、これと判定する(ステップ103)。
【0064】
判定部は、ストレス耐性のタイプ1に適合しなかった場合には、ストレス耐性のタイプ2の分類基準である期ごとの皮膚温の変化量データ及び期ごとの平均皮膚温データと対比する(ステップ102)。判定部は、ストレス耐性のタイプ2の分類基準に適合した場合には、ストレス耐性のタイプ2を選択し、これと判定する(ステップ103)。
【0065】
判定部は、ストレス耐性のタイプ2に適合しなかった場合には、ストレス耐性のタイプ3の分類基準である期ごとの皮膚温の変化量データ及び期ごとの平均皮膚温データと対比する(ステップ102)。判定部は、ストレス耐性のタイプ3の分類基準に適合した場合には、ストレス耐性のタイプ3を選択し、これと判定する(ステップ103)。
【0066】
分類の数(n)と、繰り返しの数(n)が一致した場合には、終了する。例えば、3分類の場合には繰り返しは3回で終了し、5分類の場合には繰り返しは5回で終了する。
また、順次行い、ストレス耐性のタイプ3に適合しなかった場合には、対象者の測定データに最も近似するストレス耐性のタイプを選択し、それと判定し、終了してもよいし、一旦終了し、再度、対象者の測定工程を行い、対象者の測定データを再取得し、再度ストレス耐性のタイプ1から判定を行ってもよい。
判定部は、終了時に、対象者のストレス耐性のタイプを、音声又は画像などにて表示してもよい。
なお、上述したステップは、タイプ1、タイプ2、及びタイプ3の順番での判定手順であるが、これに限定されず、順不同であってもよく、例えばタイプ2、タイプ1、及びタイプ3の順番の判定手順であってもよい。
【0067】
<対象者の測定データの取得(測定)に関するフロー例>
対象者の測定データ取得(測定工程)に関するフローの一例を挙げる(図示なし)が、これに特に限定されない。
本発明のストレス耐性の判定方法に関するプログラムを実行可能なストレス耐性判定装置又はシステム(例えば、タブレット型端末又はスマートフォンなど)は、皮膚温測定機器を無線又は有線にて接続していてもよく、対象者に対する指示(例えば、開始、終了、課題内容など)などを、音声又は画像などにて表示することができる。当該フロー例の説明において、上記<ストレス耐性の判定に関するフロー例>などの構成と重複する各構成などの説明については適宜省略するが、当該<ストレス耐性の判定に関するフロー例>などの説明が、本実施形態にも当てはまり、当該説明を適宜採用することができる。
【0068】
判定部は、対象者に対して、負荷課題(2分間)次いで回復課題(1分間)に対して応答する皮膚温(指裏)の測定を開始することを、画像などにて表示する。
判定部は、測定開始時から測定終了時まで、負荷課題及び回復課題に対して応答する対象者の皮膚温の経時的な測定データ(1秒ごとの皮膚温:℃)を皮膚温測定機器から取得する。
判定部は、計算問題などの負荷課題を、対象者の回答ペースに応じて、合計2分間、画像などにて、順次、提供する。
判定部は、負荷課題終了後に、対象者に対してストレス回復をするように回復課題(例えば、深呼吸など)を、画像などにて、合計1分間、提供する。
判定部は、ストレス回復課題に応答する皮膚温の測定を終了し、これを画像などにて表示する。
【0069】
なお、判定部は、全期の測定された対象者の皮膚温の経時的な測定データを取得し、これらを期ごとの皮膚温の変化量データ、期ごとの平均的な皮膚温データなどに算出することができる。算出後、変化量データ及び皮膚温データは、内部又は外部にある、記憶部などにて記憶されてもよい。また、判定部又は当該判定部を含む制御部は、測定部、記憶部などの各部とアクセス可能であり、適宜これら各部と間でデータの送受信が可能であり、必要なデータを取得又は送信することができる。
また、本発明のストレス耐性の判定方法、及び装置若しくはシステムの動作において、<対象者の測定データの取得に関するフロー例>及び<ストレス耐性の判定に関するフロー例>を適宜組み合わせてもよい。
【0070】
<3分類プロトコール>
3分類プロトコールは、以下の(a)~(c)の3分類及び皮膚温応答性による分類基準にて設定されていることが好適である。3分類プロトコールを用いることで、対象者の皮膚温の経時的な測定データに基づき、ストレス耐性が高い若しくは低い、又は、上記(a)~(c)のいずれかのタイプに判定することができる。3分類プロトコールには、表1に示すように、心理的要因を含むことがより好適であり、これにより対象者にさらにストレス耐性に関する情報を提供することもできる。なお、3分類プロトコールは、被験者の心理的要因、ストレス耐性の3タイプ及び皮膚温応答性の関係に基づき作成されたものが好適である。
判定の指標となる、対象者の皮膚温の経時的な測定データは、期ごとの皮膚温の変化量データ及び期ごとの平均皮膚温データが好適である。ストレス回復期における皮膚温の変化量データ及びストレス負荷前期における皮膚温の変化量データを少なくとも用い、前記平均皮膚温データとして、ストレス負荷前期における平均皮膚温データ又はストレス負荷後期における平均皮膚温データのいずれか1つを少なくとも用いることが好適である。
【0071】
(a)ストレス耐性が高いタイプ:負荷前期に皮膚温が当該期開始時より降下し回復期に皮膚温が当該期開始時より上昇する。;
(b)急性ストレスに対するストレス耐性が低いタイプ(急性ストレスタイプ):回復期に皮膚温が当該期開始時よりも上昇しにくい。;
(c)慢性ストレスに対するストレス耐性が低いタイプ(慢性ストレスタイプ):負荷前期に皮膚温が当該期開始時より降下しにくい。全期における平均皮膚温が全体の平均皮膚温より高い。
【0072】
【0073】
<5分類プロトコール>
5分類プロトコールは、以下の(d)~(h)の5分類及び皮膚温応答性による分類基準にて設定されていることが好適である。5分類プロトコールを用いることで、対象者の皮膚温の経時的な測定データに基づき、当該(d)~(h)のいずれかのタイプに判定することができる。当該5分類プロトコールは、被験者の心理的要因、ストレス耐性の5タイプ及び皮膚温応答性の関係に基づき作成されたものが好適である。
5分類プロトコールには、ストレス耐性のタイプごとの5つの曲線が、皮膚温応答性の分類基準として含まれることが好適であり、これにより、対象者の測定データとの比較検討が行いやすい。当該皮膚温応答性は、被験者を5分類のストレスタイプに分類し、分類ごとに被験者の時間ごとの平均皮膚温を算出し、プロットして作成された曲線であることが、より好適である。
判定の指標となる、対象者の皮膚温の経時的な測定データは、期ごとの皮膚温の変化量データ及び期ごとの平均皮膚温データが好適である。ストレス回復期における皮膚温の変化量データ及びストレス負荷前期における皮膚温の変化量データを少なくとも用い、前記平均皮膚温データとして、ストレス負荷前期における平均皮膚温データ又はストレス負荷後期における平均皮膚温データのいずれか1つを少なくとも用いることが好適である。
【0074】
(d)ストレス耐性が高いタイプ:負荷が持続し、回復する。;
(e)急性ストレスに対するストレス耐性が低いタイプ:負荷が持続し、回復若しくは回復が遅い。;
(f)慢性ストレスに対するストレス耐性が低いタイプ:皮膚温が高く、負荷が不明確である。;
(g)集中力がないタイプ:負荷が不明確である。;
(h)試験でストレスがかからないタイプ:負荷が持続せず、回復が早い。
【0075】
判定の指標及び5分類のプロトコールに基づく、より好適な態様のストレス耐性の判定方法は、
ストレス負荷前期から後期までの間において対象者の皮膚温が当該前期開始時より下降し、ストレス回復期において対象者の皮膚温が当該回復期開始時より上昇する場合には、(d)ストレス耐性が高いタイプ(タイプ5);
ストレス負荷前期において対象者の皮膚温が当該前期開始時より下降し、ストレス回復期において当該回復期開始時よりも上昇しない場合には、(e)急性ストレスに対するストレス耐性が低いタイプ(タイプ4);
全期において対象者の平均皮膚温が標準平均皮膚温より高く、かつストレス負荷前期以降において対象者の皮膚温が当該前期開始時より横ばいの場合には、(f)慢性ストレスに対するストレス耐性が低いタイプ(タイプ3);
ストレス負荷前期以降において対象者の皮膚温が当該前期開始時より横ばいの場合には、(g)集中力がないタイプ(タイプ2);及び
ストレス負荷前期において対象者の皮膚温が当該前期開始時より下降し、ストレス負荷後期において対象者の皮膚温が当該後期開始時よりも上昇する場合には、(h)試験でストレスがかからないタイプ(タイプ1);
と判定することである。
【0076】
【0077】
5分類プロトコールには、さらに、心理的要因を含むことがより好適である。これにより、判定されたストレス耐性のタイプに応じて、対象者に、心理的要因に関する情報を提供することができる。さらに、以下のような、より具体的なコメントを提供することも可能である。
【0078】
具体的なコメントの例として、例えば、タイプ5と判定された場合には「ストレス耐性が高く、ストレスを受けても、切り替えてリラックスできるストレスのコントロール力があるといえます。」、タイプ4と判定された場合には「常に真面目に取り組む姿勢が返って緊張状態を高めてしまっているようです。時々肩の力を抜いて、リラックスすると良いでしょう。」、タイプ3と判定された場合には「自分自身の気づかない間に少し疲れがたまっている可能性があります。疲れを癒す時間をとることを心がけると良いでしょう。」、タイプ2と判定された場合には「ストレス耐性は高い方ですが、時々集中力が続かないことがある可能性があります。気分転換を図り、リズムを整えてみましょう。」、タイプ1と判定された場合には「ストレス耐性が比較的高いといえます。ストレスに対して、対人環境が変化しても比較的上手く付き合っていけるようです。」などが挙げられるが、心理的要因の沿ったコメントの内容であればこれらに限定されない。
【0079】
さらに、5分類プロトコールにおいて、皮膚温応答性の分類基準として、ストレス負荷前期における皮膚温の変化量データ(α1)、ストレス負荷後期における皮膚温の変化量データ(α2)、及びストレス回復期における皮膚温の変化量データ(α3)及び、ストレス負荷後期における平均皮膚温データ(T2)の4つを指標とすることが、特に好適である。
これにより、より簡便により精度良くストレス耐性の判定ができ、測定期間の短時間化も可能である。
さらに、各皮膚温応答性の分類基準について、以下の<皮膚温応答性の分類基準の例>ような、しきい値を設定してもよい。
【0080】
<皮膚温応答性の分類基準(しきい値)の例>
以下に、対象者の測定データを適用するための、皮膚温応答性の分類基準(しきい値)を以下に示すが、これらに限定されない。皮膚温応答性の分類基準(しきい値)を用いることにより、より簡便により精度良くストレス耐性の判定を行うことができる。
【0081】
(d)ストレス耐性が高いタイプ(タイプ5) :T2< 33.55, かつ α1<-0.005及びα2<0, かつ α3≧0.006。
(e)急性ストレスに対するストレス耐性が低いタイプ(タイプ4) :T2< 33.55, かつ α1<-0.005及びα2<0, かつ α3<0.006。
(f)慢性ストレスに対するストレス耐性が低いタイプ(タイプ3): T2≧33.55。
(g)集中力がないタイプ(タイプ2): T2< 33.55, かつ α1≧-0.005又はα2≧0, かつα2<0.006。
(h)試験でストレスがかからないタイプ(タイプ1): T2< 33.55, かつ α1≧-0.005又はα2≧0, かつ α2≧0.006。
【0082】
ストレス負荷前期における皮膚温の変化量データ(α1)は、-0.0009~0の間であることが望ましく、これにより、タイプ1~3と、タイプ4及び5とをより明確に分類することができる。
ストレス負荷後期における皮膚温の変化量データ(α2)は、-0.004~0の間であることが望ましく、これにより、タイプ1~3と、タイプ4及び5とをより明確に分類することができる。
ストレス負荷前期における皮膚温の変化量データ(α2)は、0.001~0.01の間であることが望ましく、これにより、タイプ1と、タイプ2とをより明確に分類することができる。
ストレス回復期における皮膚温の変化量データ(α3)は、0.004~0.01の間にあることが望ましく、これにより、タイプ4と、タイプ5とをより明確に分類することができる。
ストレス負荷後期における平均皮膚温データ(T2)は、33.0~33.9℃の間にあることが望ましく、これにより、タイプ3と、これ以外のタイプとをより明確に分類することができる。
【0083】
<ストレス耐性判定モデル(分類プロトコール)の作成方法>
本発明のストレス耐性の判定方法に用いる、ストレス耐性判定モデル(分類プロトコール)は、後述する〔実施例〕の試験例及び上述した記載などを参考にして、被験者、心理的要因に関する試験(NEO-PI-R人格検査、GHQ60精神健康調査票など)、皮膚温測定機器、提供課題などを用いて作成することができる。
【0084】
また、データの解析手法としては、公知の解析手法を用いることができる。当該解析手法などとしては、例えば、階層型クラスター解析(ウォード法、群平均法、最短距離法などのクラスター間の距離測定方法など)、判別分析(線形判別分析、二次判別分析、混合判別分析等)、主成分分析、因子分析、数量化理論(1~3類)、回帰分析(MLR、PLS、PCR、ロジスティックなど)、多次元尺度法、教師ありクラスター、ニューラルネット、アンサンブル学習などが挙げられるが、これらに限定されない。当該解析方法のソフトウエアとして、市販品或いはフリーソフトなど既知のソフトウエア(例えばJMP統計解析ソフトなど)を用いることができる。
【0085】
なお、本発明のストレス耐性の判定方法における、対象者の性別及び年齢層、測定条件、提供課題などは、ストレス耐性判定モデルを作成したときの試験条件により近い条件にすることが、より精度良くストレス判定を行う観点から、望ましい。
【0086】
2.本発明に関するストレス耐性の判定方法の適用例
2-1.ストレス耐性の判定装置及び判定システム
本発明のストレス耐性の判定装置及び判定システムの説明において、上記「1.」、後述する「2-2.」「3.」などの構成と重複する、測定機器、測定工程、判定工程などの各構成などの説明については適宜省略するが、当該「1.」、「2-2.」、「3.」などの説明が、本実施形態にも当てはまり、当該説明を適宜採用することができる。
【0087】
本発明のストレス耐性の判定方法を、例えば、コンピュータなどのCPUを備える装置又はCPUなどを含む制御部などによって実現させることも可能である。当該装置として、例えば、ストレス耐性判定装置又はストレス耐性判定システムなどが挙げられるが、これらに特に限定されない。例えば、本発明は、コンピュータに、本発明に関するストレス耐性の判定方法(ストレス耐性判定モデル、判定手順又はステップ、プログラムなど)を実行させて、コンピュータによるストレス耐性の判定方法であってもよい。
【0088】
また、本発明の方法を、記録媒体(不揮発性メモリ(USBメモリ等)、SSD(Solid State Drive)、HDD(Hard Disk Drive)、CD、DVD、ブルーレイディスク、サーバ、ネットワークサーバ、クラウドサービス等)等を備えるハードウエア資源にプログラムとして格納し、ストレス耐性の判定を行う装置又は判定部若しくは判定部を含む制御部によって実現させることも可能である。又は、当該装置又は判定部若しくは判定部を含む制御部を備えること又は用いることによって、ストレス耐性判定システム若しくは装置、対象者のストレス耐性に対応した商品提供、商品探索若しくはカウンセリングなどのシステム又はこれらの装置を提供することも可能である。当該システムは、ネットワークシステムであってもよい。
【0089】
さらに、前記ストレス耐性判定に関する装置又はシステムは、キーボード、タッチパネルなどの入力部、ネットワークなどの通信部、ディスプレイ、タッチパネルなどの出力部、SSD、HDDなどの記憶部、上述した皮膚温測定機器など経時的な皮膚温の測定を行う測定部などを備えることができる。
【0090】
よって、本発明のストレス耐性の判定装置又はシステムは、本発明のストレス耐性の判定方法を実行可能なように構成されている判定部又は当該判定部を含む制御部を少なくとも備える。さらに、当該装置又はシステムは、入力部、出力部、記憶部を備えることが好ましく、さらに通信部及び/又は測定部を備えることが好ましく、これら各部は、判定装置の外部又は内部に備えてもよく、有線又は無線にてアクセス可能であってもよい。
【0091】
前記入力部は、ストレス耐性判定方法を用いる操作者(例えば、対象者、カウンセラーなど)によって、ユーザ操作を受け付けることができる。当該入力部は、例えばマウス及び/又はキーボードなどを含むことができる。また、表示装置のディスプレイ面がタッチ操作を受け付ける入力部として構成されてもよい。
前記出力部は、得られたストレス耐性の判定及びストレス耐性の判定方法に関連する種々の情報(例えば、説明文、課題、表、図、結果通知、提供する商品情報など)などを出力することができる。当該出力部は、例えば、画像を表示する表示装置、音を出力するスピーカー、紙などの印刷媒体に印刷する印刷装置などを挙げることができるが、これらに限定されない。また、出力部は、課題を対象者に対して、例えば画像、音声などで、提供してもよい。
前記記憶部は、操作者が入力したデータ、予めストレス耐性の判定のために設定されているデータ(例えば、ストレス耐性判定モデル、分類プロトコール、当該分類プロトコールに対応したアドバイスなど)又はこれらを含むデータベースを記憶することができる。当該記憶部は、例えば記録媒体を含んでよい。
【0092】
前記ストレス耐性判定装置の具体例として、CPUを備えるものであれば特に限定されないが、例えば、モバイル端末(例えば、ノートパソコン、スマートフォン、タブレット型端末など)、デスクトップ型パソコン、サーバ、クラウトコンピューティングなどが挙げられるが、これらに限定されない。ストレス耐性判定装置は、皮膚温の測定が可能な測定部をさらに備える装置が好ましく、例えば、皮膚に貼付して用いる温度センサーを備えた接触式の皮膚温測定機器が脱着可能なモバイル端末、カメラ(例えば、Webカメラ)付きのモバイル端末が好ましい。脱着可能とはUSB接続可能であってもよい。カメラとは放熱温度を測定可能できるカメラであってもよい。
【0093】
また、本発明のストレス耐性の判定方法に関するプログラム、ストレス耐性の判定モデル、分類プロトコール、及び当該ストレス耐性の判定方法によって得られたストレス耐性の判定結果、本発明の各ステップを実行するためのデータなどのストレス耐性の判定に関するデータは、前記ストレス耐性判定に関する装置の内部、又は、当該装置の外部にある記憶部若しくはサーバ上に記憶されていてもよい。
【0094】
本発明のストレス耐性判定に対する商品提供若しくはアドバイス提供の装置又はシステムの説明において、上記「1.」「2-1.」、後述する「2-2.」「3.」などの構成と重複する、測定機器、測定工程、判定工程などの各構成などの説明については適宜省略するが、当該「1.」、「2.」「3.」などの説明が、本実施形態にも当てはまり、当該説明を適宜採用することができる。
【0095】
<判定装置又はシステムの動作例1>
本発明のストレス耐性の判定装置又はシステムは、動作例1として、精神ストレス負荷期及びストレス回復期における対象者の皮膚温の経時的な測定データに基づき、対象者のストレスを判定することができるが、これに限定されない(例えば
図1参照)。
ステップ101において、判定部は、判定の指標を、精神ストレス負荷期間及びストレス回復期における対象者における皮膚温の経時的な測定データは、曲線として作成可能であり、この曲線を判定の指標と設定する。このときの全期は、ストレス負荷前期、ストレス負荷後期、及びストレス回復期の3つである。
一方、判定部は、
図4に示すような、ストレス耐性のタイプごとの皮膚温の経時的な曲線を皮膚温応答性の分類基準として含まれている分類プロトコールを、外部又は内部の記憶部などに記憶しており、アクセス可能な状態となっている。また、期ごとの皮膚温の変化量、期ごとの平均皮膚温などを算出可能である。このときの全期は、ストレス負荷前期、ストレス負荷後期、及びストレス回復期の3つである。
ステップ102において、判定部は、対象者の判定指標の曲線と、ストレス耐性のタイプごとの皮膚温応答性の判定基準の曲線とを対比する。このとき、対象の期ごとの皮膚温の変化量及び期ごとの平均皮膚温と、ストレス耐性タイプごとの期ごとの皮膚温の変化量及び期ごとの平均皮膚温との対比を行うことが望ましい。
ステップ103において、判定部は、対象者の期ごとの皮膚温の変化量及び期ごとの平均皮膚温に、最も近似する皮膚温応答性の曲線を選択する。選択された皮膚温応答性にリンクしているストレス耐性のタイプを選択する。選択した後に、画像又は音声で表示することができる。
【0096】
<判定装置又はシステムの動作例2>
本発明のストレス耐性の判定装置又はシステムは、動作例2として、精神ストレス負荷期及びストレス回復期における対象者の皮膚温の経時的な測定データに基づき、負荷後期の平均皮膚温(T
2)、負荷前期の皮膚温の変化量(α
1)、負荷後期の皮膚温の変化量(α
2)、ストレス回復期の皮膚温の変化量(α
3)を作成する。これら4つを判定の指標として用いて、当該指標に基づき、5分類プロトコールに示すストレス耐性のタイプのいずれかのタイプに判定することができる(例えば
図2参照)が、これに限定されない。
判定部は、α
1のA値、α
2のB値、α
3のC値、T
2のD値が含まれている分類プロトコールを、外部又は内部の記憶部などに記憶しており、アクセス可能な状態となっている。
ステップ1において、対象者の測定データが、α
1<A値及びα
2<B値の場合、ステップ2-1に移行する。また、α
1<A値及びα
2<B値でない場合、ステップ2-2に移行する。
ステップ2-1において、対象者の測定データが、α
3≧C値の場合、対象者のストレス耐性のタイプをタイプ5と判定する。又は、α
3<C値の場合、対象者のストレス耐性のタイプをタイプ4と判定する。
ステップ2-2において、対象者の測定データが、α
3≧C値の場合、対象者のストレス耐性のタイプをタイプ1と判定する。又は、α
3<C値の場合、ステップ3に移行する。
ステップ3において、対象者の測定データが、T
1≧D値の場合、対象者のストレス耐性のタイプをタイプ3と判定する、又は、T
1<D値の場合、対象者のストレス耐性のタイプをタイプ2と判定する。
なお、動作例2は上記ステップ1~3の手順又は順番を適宜、変更することも可能である。
【0097】
2-2.本発明に係るストレス耐性判定に対する商品提供若しくはアドバイス提供の装置又はシステム
本発明のストレス耐性判定に対する商品提供若しくはアドバイス提供の装置又はシステムの説明において、上記「1.」「2-1.」、後述する「3.」などの構成と重複する、測定機器、測定工程、判定工程などの各構成などの説明については適宜省略するが、当該「1.」、「2.」、「3.」などの説明が、本実施形態にも当てはまり、当該説明を適宜採用することができる。
【0098】
本発明は、本発明のストレス耐性の判定方法を用いて判定されたストレス耐性判定に対する対応手段に基づく、商品提供若しくはアドバイス提供の装置又はシステムを提供することができる。
ストレス耐性判定に対する対応手段とは、ストレスがない又はほとんどないと判定された場合には、ストレスの予防的な商品を提供する、又はストレスの予防方法などのアドバイスを提供する。また、ストレスに弱いかつ急性又は弱いかつ慢性と判定された場合、ストレス軽減の商品を提供する、又はストレスの軽減方法などのアドバイスを提供する。商品又はアドバイスの提供において、タッチパネル(例えば、スマホ、タブレットなど)を用いた、商品リスト又はアドバイスなどが表示される画像表示、アドバイスなどの音声表示などでの提供であってもよい。また、得られたストレス耐性判定結果に関して、操作者又はアドバイザーなどが、商品提供又はアドバイスなどに関して説明してもよい。
【0099】
3.ストレス耐性判定モデルに関するプログラム
本発明のストレス耐性の判定装置及び判定システムの説明において、上記「1.」、「2.」などの構成と重複する、測定機器、測定工程、判定工程などの各構成などの説明については適宜省略するが、当該「1.」、「2.」などの説明が、本実施形態にも当てはまり、当該説明を適宜採用することができる。
【0100】
本発明は、対象者の皮膚温の経時的な測定データを入力する機能と、
当該皮膚温の経時的な測定データに基づき、対象者のストレス耐性を判定する機能と、を、コンピュータに実現させるストレス耐性の判定プログラムを提供することができる。
また、本発明のプログラムは、精神ストレス負荷期及び精神ストレス負荷後のストレス回復期における対象者の皮膚温の経時的な測定データに基づき、対象者のストレス耐性を判定する機能を、コンピュータに実現させてもよい。
【0101】
また、本発明のプログラムは、前記測定データは、期ごとの皮膚温の変化量データ及び期ごとの平均皮膚温データであることが好適である。
また、本発明のプログラムは、前記測定データを、分類及び皮膚温応答性による分類基準を含むプロトコールに適用して、対象者のストレス耐性を分類して判定することが好適である。
前記プロトコールは、3分類プロトコール又は5分類プロトコールが好適である。当該プロトコールは、被験者の心理的要因、ストレス耐性及び皮膚温応答性の関係に基づき作成されたものであることが好適である。当該プロトコールは、分類ごとに被験者の時間ごとの平均皮膚温を算出しプロットして作成された曲線であってもよい。
【実施例】
【0102】
以下の試験例、実施例などを挙げて、本発明の実施形態について説明をする。なお、本発明の範囲は試験例、実施例などに限定されるものではない。
【0103】
<試験例1:試験方法>
本発明者らは、ストレス耐性に関連づけられる被験者の心理的要因は、先行研究から人格特性(不変的な被験者自身の内的要因)と数日間の主観的なストレス状態(可変的な対人や対社会環境から受ける外的要因)の両面が存在すると考えた。本発明者らは、人格特性を調べるためにNEO-PI-R人格検査(BIG5 Personality Inventory)を、主観的なストレス状態を調べるためにGHQ60精神健康調査票(The General Health Questionnaire)を用いることとした。本発明者らは、人格特性、主観的なストレス状態の結果と、皮膚温の応答性の関係を明らかにすることで、皮膚温応答性による(I.急性ストレス、II.慢性ストレス)に対するストレス耐性評価の可能性を検討した。
【0104】
<被験者>
20~60代の成人女性(アジア系)62名(20代:11名、30代:21名、40代:12名、50代、12名、60代:6名)を被験者とした。試験は、室温(25±2℃)の部屋にて行った。
<測定機器による測定方法>
対象者の末梢部の左手人差し指(腹部分)に皮膚温測定装置の温度センサーが接触するように、サージカルテープ(スリーエムヘルスケア社製)を用いて皮膚温測定装置の温度センサーを固定した。温度センサー(集積回路温度デバイス:LM35 高精度摂氏直読温度センサー(TEXAS INSTRUMENTS))は約5mmφの円板型の接触面を有するものを用い、この温度センサーの接触面が皮膚と接触して皮膚温を測定できるタイプの皮膚温測定装置(25~40℃の範囲で±1℃の精度での測定可能)を用いた。
【0105】
試験の手続きとして、外部環境の影響を緩和するために試験前に10分間右手にタオルを巻いて馴化した。
ストレス負荷課題は、パソコン上での成績フィードバック付きの計算課題を用いた。その際、被験者の動機づけが下がらないように、素早く回答するほど順位が上がり、1位を目指して実施するように教示した。計算課題は、例えば、2桁×2桁の足し算の小学生中学年レベルであった。
回復期は、計算課題終了後に、閉眼でリラックスすることを求めた。店頭での実施を想定し、試験をなるべく短時間で実施できるように安静期を設けず、ストレス負荷課題は2分間、回復課題は1分、合計3分間の測定を行い、1秒ごとの皮膚温変化のデータを取得した。
【0106】
<試験例2 ストレスに対する皮膚温の応答性の測定方法の検討>
<応答性評価方法>
負荷及び回復期間について、1分ずつ(1)負荷前期、(2)負荷後期、(3)回復期と3期間(合計3分間)に分けた。
被験者ごとに皮膚温の変化量お及び平均皮膚温(℃)を算出し、6つの皮膚温パラメーター(表3)を指標としてストレス負荷時及び回復時の皮膚温の応答性評価に用いた。
なお、「皮膚温の変化量」とは、ある期の期間開始時から期間終了時までの対象者の経時的な皮膚温の測定データ(皮膚温とそれに対応する測定時間のプロット)の合計から、回帰直線を用いて得られた各期の「傾き」(1秒当たりの皮膚温上昇値(℃))である。
また、「平均皮膚温」とは、ある期の期間開始時から終了時までの対象者の皮膚温の測定データの合計を平均して得られた平均皮膚温(合計皮膚温(℃)/測定プロット数)である。
【0107】
【0108】
<試験例3 心理的要因とストレス負荷時及び回復時の皮膚温の応答性との相関の検討>
(1) NEO-PI-R:被験者が240項目の質問に対して5件法(0全くそうでない、1そうでない、2どちらでもない、3そうだ、4非常にそうだ)を用いて回答した。被験者の人格特性5因子(N:神経症傾向、E:外向性、O:開放性、A:調和性、C:誠実性)は、240項目のうち各5因子の下位尺度の合計得点を各々算出した。
62名の被験者を層別解析するために、各被験者の5因子の得点をもとに5因子の人格特性がI.低い群(21名)、II.中間群(22名)、III.高い群(21名)の3群に分けた。
【0109】
(2) GHQ60:被験者が2~3週間前から現在までの状態をもとに、60項目の質問に対して4 件法を用いて回答した。
採点はGHQ採点法をもとに、1又は2の精神健康状態が良い回答を選んだ場合は得点0とし、3又は4の精神健康度が悪い回答を選んだ場合は得点1とした。次にGHQの開発者Goldbergらが定義する4要素スケール(身体的症状、不安と不眠、うつ傾向、社会的活動障害)は、関連する各下位尺度の7つの質問の合計得点を各々算出した。
62名の被験者を層別解析するために、身体的症状と不安不眠は、合計得点を低い順から精神健康度が、I.良い群(31名)と、II.悪い群(31名)との2群に分けた。うつ病と社会的活動障害は0点の被験者が多くみられたため、うつ傾向の0点をI.良い群(36名)と、1点以上をII.悪い群(26名)の2群に分け、社会的活動障害の0点をI.良い群(38名)と1点以上をII.悪い群(24名)との2群に分けた。下位尺度の60項目は、各々精神健康度が0点をI.良い群と、1点をII.悪い群との2群に分けた。
【0110】
(3) 解析方法:独立変数をNEO-PIR又はGHQ60、従属変数を各皮膚温パラメーターとし、各期間ごとに一元配置の分散分析と多重比較検定(Holm法)を行った。
【0111】
<試験例4 皮膚温評価指標と人格特性及び主観的ストレス状態の関係の検討>
本発明者らは、アロスタシス理論に基づく仮説としてストレス耐性が高い人ほど、皮膚温がストレス負荷時に降下、回復時に上昇し、ストレスに対する応答性が高いと考えた。
【0112】
<試験例4-1. ストレスに対する皮膚温の応答性の検討>
被験者62名の3分間の平均皮膚温変化を示す(
図3A)。被験者全体の皮膚温変化の平均をみると、負荷時に皮膚温が下降し、回復時に上昇した。よって今回の試験方法は、短時間であるがストレス負荷時及び回復時に応じた皮膚温の応答を捉えることができたといえる。
【0113】
<試験例4-2. 心理的要因とストレス負荷時及び回復時の皮膚温の応答性との関係の検討>
(1) 皮膚温変化量の分析
人格特性の開放性の3群の皮膚温変化を示す(
図3B)。負荷前期において、開放性が低い群と中間群に有意差があり、低い群は中間群よりも負の変化量が小さく皮膚温が下降しなかった(α
1:I<II)。一方、回復期において、開放性が高い群と中間群に有意差があり、高い群は中間群よりも正の変化量が大きく皮膚温が著しく上昇した(α
3:III>II)。
人格特性の誠実性の3群の皮膚温変化を示す(
図3C)。負荷前期において、誠実性が低い群と中間群に有意差があり、低い群は中間群よりも負の変化量が小さく皮膚温が下降しなかった(α
1:I<II)。一方、回復期において、誠実性が低い群と中間群に有意差があり、低い群は中間群よりも正の変化量が小さく皮膚温が上昇しなかった(α
3:I<II)。また、誠実性が高い群と中間群に有意差があり、高い群は中間群よりも正の変化量が小さく、皮膚温が上昇しなかった(α
3:III<II)。
主観的なストレス状態の社会的活動障害の下位尺度GHQ22「いつもより何かするのに余計な時間がかかることがある」の2群の皮膚温変化を示す(
図3D)。負荷前期において、精神健康度GHQ22が良い群と悪い群に有意差があり、良い群は悪い群よりも負の変化量が大きく、皮膚温が下降した(α
1:I>II)。
人格特性の神経症傾向、調和性、外向性及び主観的なストレス状態の4要素スケールの項目は、各群と皮膚温の変化量の間には有意な関係性がみられなかった。
【0114】
(2) 平均皮膚温の分析
主観的なストレス状態の社会的活動障害の2群の皮膚温変化を示す(
図3E)。社会的活動障害が悪い群は、良い群よりも各期間の平均皮膚温が有意に高かった(T
1,T
2,T
3:I<II)。また下位尺度GHQ22も同様に(
図3D)、GHQ22が悪い群は、良い群よりも各期間の平均皮膚温が有意に高かった(T
1,T
2,T
3:I<II)。
人格特性の神経症傾向の3群の皮膚温変化を示す(
図3F)。神経症傾向が低い群は中間群よりも回復期の平均皮膚温が有意に高かった(T
3:I<II)。
人格特性の開放性、誠実性、調和性、外向性及び主観的なストレス状態の身体的症状、不安と不眠、うつ傾向の項目は、各群と平均皮膚温の間には有意な関係がみられなかった。
【0115】
<試験例4-3.皮膚温変化量及び平均皮膚温の検討>
(1) 皮膚温変化量の分析
まず、各期間の皮膚温の変化量が大きかった項目(表4)、変化量が小さかった項目(表5)と各々心理的要因の関係を示す。
【0116】
皮膚温の変化量は、エクセルのSLOPE関数を用いて求めた値(傾き)である。このSLPOE関数は、既知のyと既知のxのデータ要素を通じて回帰直線(y=ax+b)の傾き(b)を返し、この傾き(b)とは、直線上の2点の垂直方向の距離を水平方向の距離で除算した値で、回帰直線の変化率に対応している。回帰直線の傾きは、次の式(ここで、xは標本平均AVERAGE(既知のx)、yは標本平均AVERAGE(既知のy)である。)で表される。
【0117】
【0118】
皮膚温の変化量は、各期の開始時~終了時までの皮膚温(1秒毎)から算出されたものである。平均皮膚温(℃)は、各期の開始時~終了時までの皮膚温(1秒毎)の平均である。例えば、試験例1では、1秒ごとに皮膚温を180秒間測定しているが、各期は、60秒間、すなわち60個の皮膚温の経時的測定データがあるので、当該経時的測定データ(60個+60個+60個)に基づき、各期の皮膚温の変化量及び各期の平均皮膚温を算出することができる。
【0119】
【0120】
【0121】
負荷前期で開放性が低い群では皮膚温が下降しにくく、課題への集中が持続していない可能性が考えられる。一方回復期では、開放性が高い群では皮膚温が上昇しやすく、ストレスからの迅速な回復が示唆された。開放性人格傾向が高い個人は、新しい課題に好奇心を持ってと取り組むことができ、ネガティブ及びポジティブな情動を鋭く感じやすいと言われる(下仲順子ら,日本版NEO-PI-R NEO-FFI使用マニュアル-改訂増補版-(成人・大学生用),東京心理株式会社,p.19-26,2011)。開放性低群において、課題時に皮膚温が下降しないのは、課題への好奇心の不足や、感受性の鈍さを反映している可能性がある。開放性高群における迅速な回復は、急性ストレスからの開放というポジティブな情動が身体変化により明確に表れた結果と本発明者らは考えられた。これらの結果は、実験室ストレスに対する心臓血管反応から、開放性の高さがストレス耐性と関連するとの結論を導き出したWilliamsらの報告(Williams, P. G.et al.,. Journal of Research in Personality, 43(5), p.777-784, 2009.)も概ね整合するものである。以上より、開放性の高い個人は本研究で定義した、ストレス耐性の高い個人の特徴を備えていると考えられた。
【0122】
負荷前期で誠実性が低い群では皮膚温が下降しにくかった。一方回復期では誠実性が低い群及び誠実性が高い群は、皮膚温が上昇しにくかった。誠実性人格傾向が高い個人は課題に対して頑張り、よく考えて行動する傾向があると言われる(下仲順子ら,日本版NEO-PI-R NEO-FFI使用マニュアル-改訂増補版-(成人・大学生用),東京心理株式会社,p.19-26,2011)。
よって、誠実性低群は、課題に対して取り組む真面目さが低く、計算課題による急性ストレスを受けないため、負荷前期の皮膚温が下降しにくく、結果として回復期の皮膚温も上昇しにくいと考えられた。
【0123】
一方、誠実性高群は、ポジティブな面では物事の達成への意志が高いが、ネガティブな面では几帳面で注意深く考え、慎重で高い目標を志すことからワーカホリックにつながるリスク(下仲順子ら,日本版NEO-PI-R NEO-FFI使用マニュアル-改訂増補版-(成人・大学生用),東京心理株式会社,p.19-26,2011)(黒川博文ら,長時間労働者の特性と働き方改革の効果,行動経済学,10,p.50-66,2017)が一般的に知られている。
よって、誠実性高群は、負荷課題をひきずることや達成感が得られないことによって、負荷課題後すぐにリラックスする状態に移れない可能性があり、急性ストレスによりストレス耐性が低いことが考えられた。
また、誠実性中間群は、誠実性低群又は高群よりも性格特性からみてもストレス耐性が高く、生体反応としても本研究で定義した、ストレス耐性の高い個人の特徴を備えていると考えられた。
【0124】
GHQ22のいつもより何かするのに余計な時間がかかることが少ない質問について、負荷前期に精神健康度が良い群が皮膚温が下降した。GHQ22は、社会的活動障害の下位尺度であり、集中力があるかどうかを問う質問である。集中力が欠如している人の背景には、多忙を要し疲労が蓄積している慢性ストレスの状態が推察される。先行研究では慢性ストレスの症状の1つに課題のパフォーマンスの低下があること(菅生貴之ら,生理的指標を利用したアスリートに対するストレス研究-内分泌指標の研究への適用-ストレス化学研究,34,p.9-17,2019,慢性ストレスにより心臓血管反応性が低下する可能性があること(澤田幸展,血圧回復性,心理学評論,47(4),p.421-437,2004.)が報告されている。
【0125】
さらにGHQは2~3週間から現在までの自覚を元に評価していることも合わせると、GHQ22の精神健康度が悪い群は慢性ストレスによりストレス耐性が低下している可能性が考えられた。一方、良い群は慢性ストレスの状態でないため、ストレス耐性が高く、生体反応としても、本研究で定義した、ストレス耐性の高い個人の特徴を備えていると考えられた。
【0126】
(2) 平均皮膚温の分析
心理的要因と各期間の平均皮膚温の関係をみると、社会的活動障害又はその下位尺度のGHQ22が高い群は各期間の平均皮膚温が高く、神経症傾向の低い群は回復期の平均皮膚温が高いことがわかった。神経症傾向が低い個人は、精神的に安定していてストレス状況下にも慌てず対処できる傾向があるといわれる(下仲順子ら,日本版NEO-PI-R NEO-FFI使用マニュアル-改訂増補版-(成人・大学生用),東京心理株式会社,p.19-26,2011)。平均皮膚温が高い理由は、計算課題によるストレスを受けないため負荷を受けずにいた可能性が考えられた。一方、社会的活動障害が高い個人も、同様に負荷を受けずにいた可能性も考えられるが、GHQは人格特性を排除し健常な精神的機能が持続できているかを確認する質問紙であることが定義されており([15] 中川泰彬,大坊郁夫,日本版GHQ精神健康調査票手引(増補版),日本文化科学社,p.3,20)、このことから慢性ストレスが原因で心臓血管反応性が低下し(澤田幸展,血圧回復性,心理学評論,47(4),p.421-437,2004.)計算課題に対する応答が乏しくなり(結果として皮膚温を低下させることができなくなり)、高い皮膚温を維持している可能性が考えられた。
【0127】
<試験例4-4. ストレス耐性評価の指標の検討>
以上より、開放性が高いこと、誠実性が中間であること、何かするのに余計に時間がかからないことは、ストレス耐性が高い個人の特徴であり、ストレス耐性が高いと負荷時に皮膚温が下降し、回復時に皮膚温が上昇するといった生体反応が現れ、皮膚温応答性が高い可能性が示唆された。一方、誠実性が高いことは、急性ストレスに対するストレス耐性が低い個人の特徴である可能性があり、負荷課題後すぐにリラックスする状態に移れないために回復時に皮膚温が上昇しにくいといった生体反応が現れる可能性が考えられた。また、何かするのに余計に時間がかかることは、慢性ストレスに対するストレス耐性が低い個人の特徴である可能性があり、平均皮膚温が高く、負荷前期に皮膚温が下降しないといった生体反応が現れる可能性が考えられた。
【0128】
アロスタシス理論に基づくストレス耐性の仮説の通り、ストレスに対する負荷前期及び回復期の皮膚温の応答性が高い人はストレス耐性が高いことを、人格特性と主観的なストレス状態の2つの心理的要因から裏付けることができた。人格特性は誠実性など因子によっては、人格傾向が高いほどストレス耐性が高いわけではないことがわかった。
【0129】
以上より、負荷前期及び回復期の皮膚温の変化量と各期間の平均皮膚温をストレス耐性評価の指標に用いることで、急性及び慢性ストレスの双方に対するストレス耐性を、3分間というごく短い時間での試験により予測できる可能性がある。このストレス耐性評価の試みにより、一般消費者向けの店頭サービスを想定したストレス判定システムの開発、そして各々のストレス耐性タイプに応じてパーソナライズされたストレスコントロール方法の提案や化粧品の提供することが期待できる。
皮膚温の応答性と急性ストレス及び慢性ストレス双方に対するストレス耐性の関係を人格特性及び主観的なストレス状態の結果から裏付けることができた(表6)。
【0130】
以上の検討結果より、6つの皮膚温評価指標と性格特性及び主観的ストレス状態の相関を比較し、その結果を表6に示した。
【0131】
【0132】
<試験例4-5.ストレス耐性の分類(2又は3分類)の検討>
皮膚温応答性に基づき、ストレス耐性が高いと、ストレス耐性が低いに分類することができた。さらに、皮膚温応答性に基づき、ストレス耐性が高い、ストレス耐性が低い(急性ストレス)、ストレス耐性が低い(慢性ストレス)に分類することができた。
ここで、ストレス耐性が高いとは、負荷前期に皮膚温が当該前期開始時より降下し回復期に皮膚温が当該回復期開始時より上昇することであることがわかった。アロスタシス理論による仮説と合致していた。また、急性ストレスに対するストレス耐性が低い場合は回復期の皮膚温が当該回復期開始時よりも上昇しにくかった。急性ストレスがかかった後も交感神経が過活動していることが考えられる。慢性ストレスに対するストレス耐性が低い場合は負荷前期に皮膚温が当該前期開始時より下降しにくく、かつ平均皮膚温が全被験者の平均皮膚温よりも高いことがわかった。慢性ストレスにより交感神経の働きが鈍くなっていることが考えられる。
従来は試験の拘束時間が長かったが、本発明の試験例1では、測定時間が3分と短く、従来の評価方法よりも、非常に短期間でも、ストレス耐性の判定を行うことができる利点がある。また、従来の人格検査及び精神健康調査票は確認項目が非常に多く、被験者の負荷も多く、得られる膨大なデータを加工し、この膨大なデータからストレス耐性を検討する処作業理も非常に手間がかかる。本発明の試験例1であれば、ストレス耐性の判定を望む対象者の負担も少なく、データの処理作業を行う作業者の作業も簡便に行うことができ、しかも判定の精度もより良好である。
【0133】
<試験例4-6.ストレス耐性の分類(5分類の検討)>
さらに、皮膚温の変化は、性格特性と主観的ストレス状態と双方に相関関係がみられた項目があった。性格特性の結果から皮膚温評価指標は急性ストレスに対するストレス耐性の高さの指標になる可能性が示唆され、さらに主観的ストレス状態の結果から皮膚温評価指標は慢性ストレスや集中力の有無に対するストレス耐性の高さの指標にもなる可能性が示唆された。
【0134】
以上より、本発明者らは、ストレス耐性判定システムのなかで、I.急性ストレスに対する評価、II.慢性ストレスに対する評価、III.集中力に対する評価の3つが可能と考え、下記のような5つのタイプに分類できないかと考えた。
(d) ストレス耐性が高いタイプ
(e) 急性ストレスに対するストレス耐性が低いタイプ
(f) 慢性ストレスに対する耐性が低いタイプ
(g) 集中力がないタイプ
(h) 試験でストレスがかからないタイプ
本発明者らは、種々の研究結果に基づき、5つのタイプに分類することが最適と考え、5つのタイプに分類できるストレス判定方法をさらに検討することとした。
【0135】
<試験例4-6-1. 5つの皮膚温評価指標を用いたクラスター解析によるストレス耐性判定指標の選定>
5つの皮膚温評価指標を用いて、ストレス耐性判定における3つの要素(I.急性ストレスに対する評価、II.慢性ストレスに対する評価、III.集中力に対する評価)を評価する皮膚温評価指標を最低1つずつ含むことが重要であると本発明者らは考えた。そこで、本発明者らは下記の妥当な組み合わせを検討した。
I.急性ストレスに対する評価・・・回復期の皮膚温変化量(α3)を含む。
II.慢性ストレスに対する評価・・・負荷前期の皮膚温変化量(α1)又は平均皮膚温(T1、T2、T3)を含む。
III.集中力の有無に対する評価・・・負荷前期(α1)又は負荷後期(α2)の皮膚温変化量を含む
なお、回復期の平均皮膚温を用いることは、慢性ストレス、交感神経が負荷時に働くかどうかの判断として、適していないと考え削除した。
【0136】
<解析手法>
JMP統計解析ソフト(JMP15)を用いて、62名の皮膚温データをもとに、皮膚温のパラメーターを任意で選択し、階層型クラスター解析、Ward法で評価した。クラスター数は5つに設定した。そこから(1)クラスター間の距離、(2)人数比を下記基準でクラスター解析として問題はないかを判断した。試験例4-1~4-6(表7)と試験例4-7~4-9(表8)を以下に示す。
【0137】
さらに、このうち、試験例4-1及び試験例4-2に示す皮膚温評価指標及びその組み合わせ、具体的には、ストレス耐性の判定指標として、負荷前期の変化量(α1)、負荷後期の皮膚温の変化量(α2)及び回復期の皮膚温の変化量(α3)を用いることと、平均皮膚温(T1)又は平均皮膚温(T2)のいずれかを用いることがより簡便により精度良くストレス耐性の判定を行うことができ、これら4つを少なくともストレス耐性の判定指標とすることがより望ましい。
さらに、試験例4-1に示す皮膚温評価指標及びその組み合わせ、具体的には、負荷前期の変化量(α1)、負荷後期の皮膚温の変化量(α2)及び回復期の皮膚温の変化量(α3)、及び、平均皮膚温(T2)のこれら4つのみをストレス耐性の判定指標とすることにより、よりさらに簡便によりさらに精度良くストレス耐性を判定することができる。
以上の検討結果より、試験例4-1の皮膚温評価指標(α1、α2、α3及びT2)を、ストレス耐性の判定指標とすることが、最適にストレス耐性の判定を行うことができ、より簡便でかつ最も精度がよい。
【0138】
(1)クラスター間の距離の評価
距離8.5以上・・・〇(優)
距離8.0以上~8.5未満・・・△(良)
距離7.9未満・・・×(不可)
(2)人数比の評価
5つとも各5人以上の人が分類された・・・〇(優)
1つのみ5人未満の人が分類された・・・△(良)
2つ以上5人未満の人が分類された・・・×(不可)
【0139】
【0140】
【0141】
<試験例4-6-2. 試験例1-1の皮膚温評価指標(α1、α2、α3及びT2)を用いた際の望ましい範囲の検討>
試験例4-1における4つの皮膚温評価指標(α1、α2、α3及びT2)を用いて、より精度良くストレス耐性の判定を行うための検討を行った。
試験例4-1の4つの皮膚温評価指標の平均値を下記に示す。
負荷前期の変化量α1 -0.007
負荷後期の変化量α2 0.000
回復期の変化量α3 0.006
負荷後期の平均皮膚温T2 31.87℃
ここで、試験例4-1における4つの皮膚温評価指標(α1、α2、α3及びT2)を用いた際、各皮膚温評価指標を縦軸にし、ストレス耐性の5つのタイプ(クラスター)ごとを横軸にし、分布図を作成した。
そして、タイプ1、2、3(負の変化量小さい)とタイプ4、5(負の変化量大きい)との2群に分けることができる皮膚温評価指標ごとの好ましい判定基準を算出した。
【0142】
<負荷前期の変化量(α1)の好適な判定基準>
試験例4-1における4つの皮膚温評価指標(α1、α2、α3及びT2)を用いた際、タイプ1、2、3と、タイプ4、5との2群に分ける場合、負荷前期の変化量(α1)の2群の判定基準は-0.009~0が望ましかった(表9参照)。
【0143】
【0144】
<負荷後期の変化量(α2)の好適な判定基準>
試験例4-1における4つの皮膚温評価指標(α1、α2、α3及びT2)を用いた際、タイプ1、2、3と、タイプ4、5との2群に分ける場合、負荷後期の変化量(α2)のこの2群の判定基準は-0.004~0が望ましかった。また、
タイプ1と、タイプ2との2群に分ける場合には、負荷後期の変化量(α2)のこの2群(タイプ1とタイプ2)の判定基準は0.001~0.01の間が望ましい(表10参照)。
【0145】
【0146】
<回復期の変化量(α3)の好適な判定基準>
試験例4-1における4つの皮膚温評価指標(α1、α2、α3及びT2)を用いた際、タイプ4と、タイプ5との2群に分ける場合、回復期の変化量(α3)のこの2群の判定基準は0.004~0.01が望ましかった(表11参照)。
【0147】
【0148】
<負荷後期の平均皮膚温(T2)の好適な判定基準>
試験例4-1における4つの皮膚温評価指標(α1、α2、α3及びT2)を用いた際、タイプ3と、これ以外のタイプ(1,2,4,5)との2群に分ける場合、負荷後期の平均皮膚温(T2)のこの2群の判定基準は、下側95%の33.0℃~上側95%の33.9℃の間が望ましかった(表12参照)。
【0149】
【0150】
<4つの皮膚温評価指標(α
1、α
2、α
3及びT
2)の好適な判定基準>
4つの皮膚温評価指標(α
1、α
2、α
3及びT
2)を用いた際、以下のストレス耐性判定基準及びこれによる判定方法を提供することができる。
そして、4つの皮膚温評価指標(α
1、α
2、α
3及びT
2)を用いた際、本試験例におけるストレス耐性は、高い(ストレスに強い):5>1>2>4(急性ストレスに弱い)>3(慢性ストレスに弱い):低い(弱い)の順位が考えられる。
このとき、表13に、各ストレス耐性タイプ、タイプごとの皮膚温適用性、及びタイプごとの4つの皮膚温評価指標の平均値を示す。
さらに、
図2に、ストレス耐性タイプ(5分類)に分類したときのタイプごとの皮膚温の変化(皮膚適応性)の図を示す。
そして、表14に、皮膚温適応性、ストレス耐性タイプ(5分類)、心理的要因との関連性を示す。
さらに、ストレス耐性タイプを判定する場合の4つの皮膚温評価指標を用いる場合の好適な基準値を下記に示す。4つの皮膚温評価指標である、負荷前期の変化量(α
1)、負荷後期の変化量(α
2)、回復期の変化量(α
3)、負荷後期の平均皮膚温(T
2)を適用する順番は、特に限定されない。
【0151】
【0152】
〔タイプ1〕 T2<33.55、かつα1≧-0.005又はα2≧0、かつα2≧0.006
〔タイプ2〕 T2<33.55、かつα1≧-0.005又はα2≧0、かつα2<0.006
〔タイプ3〕 T2≧33.55
〔タイプ4〕 T2<33.55、かつα1<-0.005及びα2<0、かつα3<0.006
〔タイプ5〕 T2<33.55、かつα1<-0.005及びα2<0、かつα3≧0.006
【0153】
<対象者によるストレス耐性判定方法の例>
本試験例によって被験者に基づき得られたストレス耐性モデル(例えば、
図3又は
図4のようなグラフ、分類プロトコール、各分類基準値など)を格納したコンピュータ(例えば、スマートフォン、携帯タブレット、ノートパソコン、サーバ、クラウドなど)に、対象者の測定データを入力する。
さらに、コンピュータに、精神負荷課題及び回復課題、並びにストレス耐性試験の手順を、対象者に提供するためのプログラムを格納していてもよい。また、皮膚温測定装置と、コンピュータとがアクセス可能な状態にしておいてもよい。
そして、対象者は、精神負荷課題2分間及び回復課題1分間を行い、その間(1秒毎)、接触式温度センサーを用いて対象者の皮膚温を測定する。これによって、対象者又はオペレータが対象者の経時的な測定データを取得することができる。この測定データの4つの皮膚温パラメーター(α
1、α
2、α
3及びT
2)に基づいて、各基準を用いてストレス耐性タイプを判定することができる。
このとき、対象者又はオペレータなどのヒトが直接入力又は、測定機器の送信などによる自動入力によって、コンピュータに、この測定データを入力することで、ストレス耐性を判定することができる。
【0154】
判定する際には、例えば、対象者の経時的な皮膚温のグラフの曲線に最も近似する曲線を、
図3又は
図4に示すようなストレス耐性の各タイプのグラフのなかから選択し、選択されたグラフから対象者のタイプを判定してもよい。また、表14のような分類プロトコールにおける皮膚温応答性の分類基準に適合するものを、対象者のタイプと判定してもよい。上記タイプ別の基準値による仕分けに基づいたフロー判定に従って、対象者のタイプを判定してもよい。
ストレス耐性に分類された対象者に対して、ストレス耐性に対するカウンセリングをしてもよいし、ストレス耐性のタイプごとにあった商品(例えば、化粧品、飲食品など)を提案又は提供(例えば、販売など)してもよい。このとき、コンピュータには、カウンセリング内容、提案の商品などを表示できるように構成されていてもよく、この表示方法としては、音声表示、画像表示などが挙げられる。
【0155】