(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】ノイズ測定方法、及びノイズ印加回路
(51)【国際特許分類】
H04L 25/02 20060101AFI20241016BHJP
H04B 3/46 20150101ALI20241016BHJP
H04B 3/50 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
H04L25/02 V
H04L25/02 303Z
H04B3/46
H04B3/50
(21)【出願番号】P 2020161256
(22)【出願日】2020-09-25
【審査請求日】2023-03-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】溝口 幸
(72)【発明者】
【氏名】小谷 安弘
(72)【発明者】
【氏名】池田 哲平
(72)【発明者】
【氏名】安田 孝
(72)【発明者】
【氏名】後藤 英樹
【審査官】北村 智彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-130917(JP,A)
【文献】特開平11-252023(JP,A)
【文献】特開2010-135891(JP,A)
【文献】米国特許第05191294(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04L 25/02
H04B 3/46
H04B 3/50
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の通信線(100、102、110、112、120、122)で接続されて差動通信かつ全二重通信を行う通信装置(20)に対し、前記通信線にノイズを印加して前記通信装置の通信IC(24)における電圧を測定するノイズ測定方法であって、
それぞれに、異なる前記通信装置に至る前記通信線が接続される第1ポート(32)及び第2ポート(34)と、それぞれに、ノイズ印加装置(50)からノイズが印加される第3ポート(40)及び第4ポート(42)とを有するノイズ印加回路(30)を用いて、前記通信装置が前記通信線により通信している状態でノイズ印加装置(50)から前記通信線にノイズを印加し、
前記差動通信が正常状態からエラー状態に移行する限界を示す前記ノイズの上限値が前記ノイズ印加装置から
前記第3ポート及び前記第4ポートに印加されるときの前記通信ICにおける電圧を測定し、
前記ノイズ印加回路は、前記第1ポートと前記第2ポートとの間に接続される第1方向性回路(36)及び第2方向性回路(38)を備え、
前記第1方向性回路は、前記第3ポートから前記第1ポートに向かう信号の電圧の低下を抑制すると共に、前記第3ポートから前記第2ポートに向かう信号の電圧を低下させるようにインピーダンスが設定され、
前記第2方向性回路は、前記第4ポートから前記第2ポートに向かう信号の電圧の低下を抑制すると共に、前記第4ポートから前記第1ポートに向かう信号の電圧を低下させるようにインピーダンスが設定されている、
ノイズ測定方法。
【請求項2】
請求項1に記載のノイズ測定方法であって、
前記ノイズ印加装置と
前記第3ポート及び前記第4ポートとは電気的に等しい長さの配線(130、132)で接続されている、
ノイズ測定方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のノイズ測定方法であって、
前記ノイズ印加装置から一対の前記通信線に
前記第3ポート及び前記第4ポートを介して差動ノイズを印加し、前記通信ICにおける差動電圧と同相電圧との少なくとも一方を測定する、
ノイズ測定方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載のノイズ測定方法であって、
前記ノイズ印加装置から一対の前記通信線に
前記第3ポート及び前記第4ポートを介して同相ノイズを印加し、前記通信ICにおける差動電圧と同相電圧との少なくとも一方を測定する、
ノイズ測定方法。
【請求項5】
差動通信かつ全二重通信を行う通信装置(20)間を接続する一対の通信線(100、102、110、112、120、122)にノイズを印加するために前記通信線に接続されるノイズ印加回路(30)であって、
それぞれに、異なる前記通信装置に至る前記通信線が接続される第1ポート(32)及び第2ポート(34)と、
それぞれに、ノイズ印加装置(50)からノイズが印加される第3ポート(40)及び第4ポート(42)と、
前記第1ポートと前記第2ポートとの間に接続される第1方向性回路(36)及び第2方向性回路(38)と、
を備え、
前記第1方向性回路は、前記第3ポートから前記第1ポートに向かう信号の電圧の低下を抑制すると共に、前記第3ポートから前記第2ポートに向かう信号の電圧を低下させるようにインピーダンスが設定され、
前記第2方向性回路は、前記第4ポートから前記第2ポートに向かう信号の電圧の低下を抑制すると共に、前記第4ポートから前記第1ポートに向かう信号の電圧を低下させるようにインピーダンスが設定されている、
ノイズ印加回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、差動通信を行う通信装置のノイズを測定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
差動通信を行う通信装置に信号発生器等のノイズ印加装置からノイズを印加し、通信装置の通信ICにおける電圧を測定して差動通信が正常に行われるか否かを判定する技術が知られている。
【0003】
例えば、下記の特許文献1には、通信ICに接続する通信線とノイズ印加装置の配線とを接続し、ノイズ印加装置からノイズを印加する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されている技術では、通信ICに接続する通信線とノイズを発生するノイズ印加装置の配線とを接続するので、線同士をはんだ等で接続する必要がある。線同士をはんだで接続すると、線同士をはんだで接続するたびに、接続箇所のインピーダンスが想定している値と異なることがある。
【0006】
発明者の詳細な検討の結果、はんだで接続するたびに線同士の接続箇所のインピーダンスが想定している値と異なると、通信装置が線同士の接続箇所を通って通信する通信の品質が低下するという課題が見出された。
【0007】
さらに、はんだで接続するたびに線同士の接続箇所のインピーダンスが想定している値と異なると、ノイズ印加装置から通信ICの通信線に印加するノイズのレベルが変化するので、ノイズ測定の再現性を保てないという課題が見出された。
【0008】
本開示の1つの局面は、通信品質の低下を抑制し、ノイズ測定の再現性を保つ技術を提供することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の1つの態様によるノイズ測定方法は、一対の通信線(100、102、110、112、120、122)で接続されて差動通信を行う通信装置(20)に対し、通信線にノイズを印加して通信装置の通信IC(24)における電圧を測定するノイズ測定方法であって、ノイズ印加部(40、42)を有するノイズ印加回路(30)を通信線に接続し、通信装置が通信線により通信している状態でノイズ印加装置からノイズ印加部にノイズを印加し、差動通信が正常状態からエラー状態に移行する限界を示すノイズの上限値がノイズ印加装置(50)からノイズ印加部に印加されるときの通信ICにおける電圧を測定する。
【0010】
このように、予め用意されたノイズ印加回路のノイズ印加部にノイズ印加装置からノイズを印加するので、ノイズ印加部とノイズ印加装置との接続箇所のインピーダンスを一定にすることができる。
【0011】
これにより接続箇所を通って通信線で通信される通信装置による通信の品質が低下することを抑制できる。
さらに、ノイズ印加装置から接続箇所を介して印加するノイズのレベルが変化することを抑制できるので、ノイズが印加されるときに通信ICにおいて測定される電圧の再現性を保つことができる。通信ICにおいて測定される電圧の再現性を保つとは、異なる通信装置を通信線に接続しても、ノイズ印加装置から同じレベルのノイズを印加すると、通信ICに接続される通信線に印加されるノイズのレベルが変化しないことを表している。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら、本開示の実施形態を説明する。
[1.構成]
図1に示すノイズ測定システム10は、通信装置20と、印加基板30と、信号発生器50と、オシロスコープ60と、を備える。
【0014】
通信装置20は、コネクタ22と、通信IC24と、コネクタ22と通信IC24とを接続する通信線100、102とを備えている。通信IC24は、信号の送受信を行うトランシーバと、トランシーバを駆動するドライバと、トランシーバによる信号の送受信を制御するコントローラと、などを備えている。
【0015】
通信IC24は、通信線100、102により、それぞれ逆位相の信号を送信および受信する差動通信を行う。差動通信のプロトコルとして、例えばイーサネット(登録商標)を使用してもよい。また、通信IC24は、それぞれの通信線100、102において、例えば送信した信号の出力値を受信処理において差し引くことにより、相手側から送信された信号を検出して全二重通信を行っている。
【0016】
印加基板30は、コネクタ32、34と、方向性結合器36、38と、コネクタ40、42と、通信線120、122と、を備えている。通信線120はコネクタ32、34を介して通信線110と接続し、通信線122はコネクタ32、34を介して通信線112と接続している。
【0017】
図2に示すように、2個の方向性結合器36はそれぞれ、通信線120、122の途中に設置されているとともに、コネクタ40と接続している。2個の方向性結合器38はそれぞれ、通信線120、122の途中に設置されているとともに、コネクタ42と接続している。つまり、2個の方向性結合器36、38が、通信線120、122のそれぞれに対して2箇所ずつ設置されている。
【0018】
方向性結合器36、38は、特定の信号伝搬方向に対するインピーダンスが高くなるように設定されることにより、信号発生器50からコネクタ40、42に加わるノイズが特定の信号伝搬方向に加わることを抑制している。信号が伝搬する方向性結合器36、38の方向性、つまり信号の通過特性については後述する。
【0019】
信号発生器50は、配線130、132の先端のコネクタにより印加基板30のコネクタ40、42と接続し、コネクタ40、42と方向性結合器36、38と通信線120、122とコネクタ32、34とを介して、通信線110、112から通信装置20の通信線100、102にノイズを印加する。
【0020】
配線130、132は、信号発生器50とコネクタ40、42とを電気的に等しい長さで接続する。尚、電気的に等しい長さとは、それぞれの配線130、132の長さに拘わらず、配線130、132のインピーダンスが等しいことを表している。
【0021】
信号発生器50は、想定される通信エラー原因に応じて、通信線100、102、110、112、120、122に対し、コネクタ40、42から差動ノイズと同相ノイズとのそれぞれを印加できる。通信エラーは、通信装置20同士の差動通信の位相差により生じると考えられる。また、信号発生器50は、印加するノイズの電圧と周波数とを調整する。
【0022】
オシロスコープ60は、通信装置20の通信線100、102とプローブ等で接続し、通信線100、102の電圧を測定する。また、オシロスコープ60は、通信線100、102の差動電圧と同相電圧とを測定する。
【0023】
ノイズ測定において、信号発生器50は、コネクタ40、42から通信線100、102、110、112、120、122に印加するノイズの周波数と電圧とを変化させる。オシロスコープ60は、現在のノイズの周波数において、通信装置20による差動通信が正常状態からエラー状態に移行する限界を示すノイズの上限値が信号発生器50からコネクタ40、42に印加されるときの通信IC24における電圧を測定する。
【0024】
[2.方向性結合器36、38の方向性]
前述した方向性結合器36、38の方向性を説明するために、コネクタ32をポート1、コネクタ34をポート2、コネクタ40をポート3、コネクタ42をポート4とする。そして、Snmを、mポートからnポートに向かう信号のSパラメータとする。SパラメータはScattering パラメータの略である。
【0025】
図3のS21、S12、S13、S23、S14、S24、S34、S43が示す信号の通過特性を
図4~
図7に示す。
図4に、S21、S12の通過特性200、202を示す。S21、S12は、2個の通信装置20が互いに送受信する通常の通信経路のSパラメータである。
図4のS21、S12のSパラメータ値が示すように、方向性結合器36、38は、通信線120、122の途中に設置されても、通信線120、122を通る通信装置20同士の通常の通信方向に対して、信号の電圧の低下を抑制している。
【0026】
図5に、S13、S23の通過特性210、212を示す。S13は、ノイズが印加されるポート3からポート1に対する方向性結合器36による信号の通過特性を表している。S23は、ノイズが印加されるポート3からポート2に対する方向性結合器36による信号の通過特性を表している。
【0027】
以下、印加基板30に対し、コネクタ32側の通信装置20を一方の通信装置20、コネクタ34側の通信装置20を他方の通信装置20とも言う。
図5のS13のSパラメータ値が示すように、方向性結合器36は、ノイズが印加されるポート3から一方の通信装置20側のポート1に向かう信号の電圧の低下を抑制している。つまり、信号発生器50からコネクタ40に印加されたノイズは、電圧の低下を抑制されてコネクタ32から一方の通信装置20に印加される。
【0028】
これに対し、
図5のS23のSパラメータ値が示すように、方向性結合器36は、ノイズが印加されるポート3から他方の通信装置20側のポート2に向かう信号の電圧を低下させる。つまり、信号発生器50からコネクタ40に印加されたノイズは、コネクタ34から他方の通信装置20に印加されることを抑制される。
【0029】
図6に、S24、S14の通過特性220、222を示す。S24は、ノイズが印加されるポート4からポート2に対する方向性結合器38による信号の通過特性を表している。S14は、ノイズが印加されるポート4からポート1に対する方向性結合器38による信号の通過特性を表している。
【0030】
図6のS24のSパラメータ値が示すように、方向性結合器38は、ノイズが印加されるポート4から他方の通信装置20側のポート2に向かう信号の電圧の低下を抑制している。つまり、信号発生器50からコネクタ42に印加されたノイズは、電圧の低下を抑制されてコネクタ34から他方の通信装置20に印加される。
【0031】
これに対し、
図6のS14のSパラメータ値が示すように、方向性結合器38は、ノイズが印加されるポート4から一方の通信装置20側のポート1に向かう信号の電圧を低下させる。つまり、信号発生器50からコネクタ42に印加されたノイズは、コネクタ32から一方の通信装置20に印加されることを抑制される。
【0032】
つまり、信号発生器50から一方の通信装置20にノイズを印加したい場合には、信号発生器50からポート3であるコネクタ40にノイズを印加する。この場合、他方の通信装置20にノイズが印加されることが抑制される。
【0033】
また、信号発生器50から他方の通信装置20にノイズを印加したい場合には、信号発生器50からポート4であるコネクタ42にノイズを印加する。この場合、一方の通信装置20にノイズが印加されることが抑制される。
【0034】
次に、
図7に、S34、S43の特性230、232を示す。S34は、ノイズが印加されるポート4からノイズが印加されるポート3に対する方向性結合器36、38の方向性を表している。S43は、ノイズが印加されるポート3からノイズが印加されるポート4に対する方向性結合器36、38による信号の通過特性を表している。
【0035】
図7のS34、S43のSパラメータ値が示すように、方向性結合器36、38は、ノイズが印加されるポート3、4の間で伝搬する信号の電圧を低下させる。つまり、信号発生器50からコネクタ40、42にそれぞれ印加されるノイズは、信号発生器50側に戻ることを抑制される。
【0036】
尚、上記実施形態において、印加基板30が印加回路に対応し、方向性結合器36、38が方向性回路に対応し、コネクタ40、42がノイズ印加部に対応し、信号発生器50がノイズ印加装置に対応する。
【0037】
[3.効果]
以上説明した上記実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)予め用意された印加基板30のコネクタ40、42に信号発生器50からノイズを印加するので、コネクタ40、42と信号発生器50のコネクタとの接続箇所のインピーダンスを一定にすることができる。これにより接続箇所を通って通信線100、102、110、112、120、122を介して通信装置20で通信される通信の品質が低下することを抑制できる。
【0038】
(2)コネクタ40、42と信号発生器50のコネクタとの接続箇所のインピーダンスを一定にすることができるので、コネクタ40、42と信号発生器50のコネクタとの接続箇所を介して印加するノイズのレベルが変化することを抑制できる。これにより、ノイズが印加されるときに通信IC24において測定される電圧の再現性を保つことができる。
【0039】
(3)印加基板30の通信線120、122の途中に、信号の伝搬方向に応じて異なるインピーダンスを有する方向性結合器36、38を設置したので、通信線100、102、110、112、120、122における通常の通信方向の伝搬を阻害することなく、信号発生器50から所望の通信方向にノイズを印加することができる。
【0040】
[4.他の実施形態]
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されることなく、種々変形して実施することができる。
【0041】
(1)上記実施形態では、通信装置20が全二重通信を行ったが、差動通信を行うのであれば、通信装置は半二重通信を行ってもよい。半二重通信のプロトコルとして、例えばCAN(登録商標)を使用してもよい。CANは、Controller Area Networkの略である。
【0042】
(2)上記実施形態では、信号発生器50は差動ノイズと同相ノイズとの両方を印加したが、想定される通信エラーに応じて、差動ノイズまたは同相ノイズの一方だけを印加してもよい。
【0043】
(3)上記実施形態では、オシロスコープ60は、差動電圧と同相電圧との両方を測定したが、想定される通信エラーに応じて、差動電圧または同相電圧の一方だけを測定してもよい。
【0044】
(4)上記実施形態における1つの構成要素が有する複数の機能を、複数の構成要素によって実現したり、1つの構成要素が有する1つの機能を、複数の構成要素によって実現したりしてもよい。また、複数の構成要素が有する複数の機能を、1つの構成要素によって実現したり、複数の構成要素によって実現される1つの機能を、1つの構成要素によって実現したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。
【0045】
(5)上述したノイズ測定方法の他、当該ノイズ測定方法を用いるノイズ測定システムなど、種々の形態で本開示を実現することもできる。
【符号の説明】
【0046】
10:ノイズ測定システム、20通信装置、24:通信IC、30:印加基板(ノイズ印加回路)、36、38:方向性結合器(方向性回路)、40、42:コネクタ(ノイズ印加部)、50:信号発生器(ノイズ印加装置)、100、102、110、112、120、122:通信線、130、132:配線