(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】リアクトル損失測定装置及び波形測定装置
(51)【国際特許分類】
G01R 27/26 20060101AFI20241016BHJP
H02M 1/12 20060101ALI20241016BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20241016BHJP
G01R 33/12 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
G01R27/26 T
H02M1/12
H02M7/48 Z
G01R33/12 Z
(21)【出願番号】P 2020175816
(22)【出願日】2020-10-20
【審査請求日】2023-08-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000002037
【氏名又は名称】新電元工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082876
【氏名又は名称】平山 一幸
(74)【代理人】
【氏名又は名称】柿本 恭成
(74)【代理人】
【識別番号】100178906
【氏名又は名称】近藤 充和
(72)【発明者】
【氏名】郭 中為
(72)【発明者】
【氏名】石渡 洋志
【審査官】越川 康弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-122210(JP,A)
【文献】特開2016-133355(JP,A)
【文献】特開平01-285881(JP,A)
【文献】嘉数圭右,清水敏久 ,インダクタ鉄損計測精度の評価,平成22年電気学会全国大会講演論文集(第4分冊)
【文献】山地宏和,清水敏久,高野耕至,石井仁 ,PWMインバータ用フィルタインダクタの鉄損評価,平成21年電気学会全国大会講演論文集(第4分冊)
【文献】香村真輝,松盛裕明,清水敏久,双方向絶縁形DC/DCコンバータにおける外付けインダクタの損失評価,平成30年電気学会全国大会講演論文集
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 27/26
H02M 1/12
H02M 7/48
G01R 33/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波の駆動信号によりスイッチングして電力変換を行うスイッチング回路の出力側又は入力側に設けられたフィルタ用のリアクトルのリアクトル電圧及びリアクトル電流を測定して
時間軸の測定信号を求め、前記測定信号により測定回路の
時間軸の位相誤差を算出し、前記位相誤差の位相調整を行い、リアクトル信号の電力演算にてリアクトル損失を算出するように構成され、 前記リアクトル電圧又は前記リアクトル電流の位相を所定範囲でシフトさせて信号移相処理を行い、前記信号移相処理における
前記時間軸の位相シフト量と電力値演算結果の関係により前記測定回路の
前記時間軸の前記位相誤差を算出する際に、 複数の
前記時間軸の前記位相シフト量と前記電力値演算結果を用いて、前記各位相シフト量に対応した電力量変化率を算出し、 前記電力量変化率の最小値に対応した
前記時間軸の前記位相シフト量を、前記位相誤差と
して算出することを特徴とするリアクトル損失測定装置。
【請求項2】
高周波の駆動信号によりスイッチングして電力変換を行うスイッチング回路の出力側又は入力側に設けられたフィルタ用のリアクトルのリアクトル電圧及びリアクトル電流を測定して測定信号を求め、前記測定信号により測定回路の位相誤差を算出し、前記位相誤差の位相調整を行い、リアクトル信号の電力演算にてリアクトル損失を算出するように構成され、 前記リアクトル電圧又は前記リアクトル電流の位相を所定範囲でシフトさせて信号移相処理を行い、前記信号移相処理における位相シフト量と電力値演算結果の関係により前記測定回路の前記位相誤差を算出する際に、 複数の前記位相シフト量と前記電力値演算結果を用いて、前記各位相シフト量に対応した電力量変化率を算出し、 前記電力量変化率の最小値に対応した前記位相シフト量を、算出された前記位相誤差の値を中心に、複数の前記位相シフト量と前記電力量変化率の値を用いて、前記電力量変化率の2次多項式近似関数
P(t)を下記式により求め、前記位相誤差を、-p2/p1/2として算出することを特徴とするリアクトル損失測定装置。 下記式の2次多項式近似関数
P(t)を求め、位相誤差を、tmin=-p2/p1/2として、時間に換算したものとする。 P(t)=p1*t^2+p2*t+p3
ここで、tは位相シフトの時間換算値t(ns)であり、p1、p2、p3は2次多項式近似関数P(t)の係数である。
【請求項3】
前記リアクトルに測定用の2次巻線を設け、前記リアクトル電圧を測定することを特徴とする請求項1又は2記載のリアクトル損失測定装置。
【請求項4】
前記2次多項式近似関数を求める演算を所定回数まで繰り返し実行することを特徴とする請求項2記載のリアクトル損失測定装置。
【請求項5】
前記位相誤差
を、信号移相処理のパラメータとし、前記駆動信号におけるスイッチング周期毎
のリアクトル高周波鉄損を算出することを特徴とする請求項1又は2記載のリアクトル損失測定装置。
【請求項6】
前記位相誤差
を、信号移相処理のパラメータとし、交流周期
のリアクトル高周波鉄損を算出することを特徴とする請求項1又は2記載のリアクトル損失測定装置。
【請求項7】
前記位相誤差
を、信号移相処理のパラメータとし、交流周期のリアクトル総損失及び銅損を算出することを特徴とする請求項1又は2記載のリアクトル損失測定装置。
【請求項8】
測定した前記リアクトル電圧及び前記リアクトル電流から高周波信号を除去して前記測定信号を求めることを特徴とする請求項1~7のいずれか1項記載のリアクトル損失測定装置。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項記載のリアクトル損失測定装置の機能を有することを特徴とする波形測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルタ用のリアクトルを有するスイッチング電源装置におけるリアクトル損失測定装置及び波形測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
SiCデバイス、GaNデバイス等の次世代デバイス(半導体素子)を採用した直流/交流変換(DC/AC変換)を行うインバータ、力率改善回路(以下「PFC回路」という。)、DC/DCコンバータ等のスイッチング電源装置においては、デバイス損失が改善されるが、一方で、フィルタ用のACリアクトル等の磁性部品の損失が示す割合が大きくなるため、更なる低損失化を図るために、磁性部品の損失測定が不可欠である。高周波インバータに使用されるリアクトルの高周波皮相電力に対して、損失となる有効電力の測定が低力率条件(例えば、0.05以下)の電力測定であり、僅かの測定回路位相誤差が測定結果に大きな影響を与える。
【0003】
特許文献1には、電力測定装置における電力量の測定結果を調整するキャリブレーションシステムが開示されている。特許文献2には、鉄損測定時における誤差量(絶対値誤差量、位相誤差量)を定量的に把握し、鉄損の計算時にその誤差量の補正を施し、正確な鉄損の測定値を測定する磁性体の鉄損測定装置が開示されている。更に、非特許文献1には、位相誤差の低減を図ったシャント抵抗回路が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-216997号公報
【文献】特開平1-285881号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】IEEJ Journal 1A、8[4](2019)p.669-676
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図17は、従来の課題を説明するためのリアクトル浮遊容量による高周波リンギング波形図である。
図17の上段及び下段の波形図の横軸は時間(s)、上段の波形図の縦軸はリアクトル電圧、及び下段の波形図の縦軸はリアクトル電流である。
【0007】
特許文献1では、力率1の抵抗負荷を利用して、測定器の位相誤差キャリブレーション(調整)を行っているが、抵抗負荷にインダクタンスが含まれているため、位相キャリブレーションの誤差が発生する。特許文献2では、正確な鉄損の測定値を測定するために、鉄損演算の測定信号の移相処理を行っているが、位相シフト量は別途装置で測定する必要がある。非特許文献1では、特殊のシャント抵抗回路を提案し、位相誤差の低減を図っているが、実機回路にシャント抵抗回路を挿入する必要になり、回路動作への影響があるため、実機搭載運転状態では利用できない場合がある。
【0008】
又、
図17に示されるように、リアクトル浮遊容量(コンデンサ成分)の影響により、実機環境の高速スイッチング動作でリアクトル電圧及びリアクトル電流の高周波リンギング(例えば、10MHz)が発生するため、その影響で、僅かの位相誤差で演算結果に大きく影響する問題が確認されている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のリアクトル損失測定装置は、高周波の駆動信号によりスイッチングして電力変換を行うスイッチング回路の出力側又は入力側に設けられたフィルタ用のリアクトルのリアクトル電圧及びリアクトル電流を測定して時間軸の測定信号を求め、前記測定信号により測定回路の時間軸の位相誤差を算出し、前記位相誤差の位相調整を行い、リアクトル信号の電力演算にてリアクトル損失を算出するように構成され、前記リアクトル電圧又は前記リアクトル電流の位相を所定範囲でシフトさせて信号移相処理を行い、前記信号移相処理における前記時間軸の位相シフト量と電力値演算結果の関係により前記測定回路の前記時間軸の前記位相誤差を算出する際に、複数の前記時間軸の前記位相シフト量と前記電力値演算結果を用いて、前記各位相シフト量に対応した電力量変化率を算出し、前記電力量変化率の最小値に対応した前記時間軸の前記位相シフト量を、前記位相誤差として算出することを特徴とする。 本発明の別のリアクトル損失測定装置は、高周波の駆動信号によりスイッチングして電力変換を行うスイッチング回路の出力側又は入力側に設けられたフィルタ用のリアクトルのリアクトル電圧及びリアクトル電流を測定して測定信号を求め、前記測定信号により測定回路の位相誤差を算出し、前記位相誤差の位相調整を行い、リアクトル信号の電力演算にてリアクトル損失を算出するように構成され、前記リアクトル電圧又は前記リアクトル電流の位相を所定範囲でシフトさせて信号移相処理を行い、前記信号移相処理における位相シフト量と電力値演算結果の関係により前記測定回路の前記位相誤差を算出する際に、複数の前記位相シフト量と前記電力値演算結果を用いて、前記各位相シフト量に対応した電力量変化率を算出し、前記電力量変化率の最小値に対応した前記位相シフト量を、算出された前記位相誤差の値を中心に、複数の前記位相シフト量と前記電力量変化率の値を用いて、前記電力量変化率の2次多項式近似関数P(t)を下記式により求め、前記位相誤差を、-p2/p1/2として算出することを特徴とする。 下記式の2次多項式近似関数P(t)を求め、位相誤差を、tmin=-p2/p1/2として時間に換算したものとする。 P(t)=p1*t^2+p2*t+p3 ここで、tは位相シフトの時間換算値t(ns)であり、p1、p2、p3は2次多項式近似関数P(t)の係数である。
【0011】
本発明の波形測定装置は、前記リアクトル損失測定装置の機能を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、リアクトル電圧及びリアクトル電流の測定信号により、測定回路の位相誤差キャリブレーションと、リアクトル損失演算を行っているので、計測回路の位相誤差に影響されずに、リアクトル損失を高精度に測定可能なリアクトル損失測定装置を提供でき、専用励磁電源回路や位相誤差測定装置が不要で、実機運転状態にて測定可能である。そのため、三相インバータ、単相インバータ、DC/DCコンバータやPFC回路等のリアクトル損失測定への適用が可能である。具体的には、以下のような効果がある。
【0013】
(a) 磁性ヒステリシス特性及びリアクトル浮遊容量特性を利用した位相誤差キャリブレーションが行える。
(b) 測定対象のリアクトル電圧及びリアクトル電流により自動キャリブレーションを行うため、高精度で、操作が簡単である。
(c) 実機搭載状態にて測定が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施例1におけるスイッチング電源装置(例えば、三相インバータ)の構成例を示す回路図
【
図2】
図1中の鉄損電力演算部45の構成例を示す回路図
【
図3】
図1中の鉄損電力演算部46の構成例を示す回路図
【
図4】位相誤差キャリブレーション電力演算装置の機能ブロック図
【
図5】
図4中の鉄損位相特性演算処理を示すフローチャート
【
図6】
図4中の位相誤差キャリブレーション演算処理を示すフローチャート
【
図7】浮遊容量による高周波リンギングが発生しない場合の鉄損位相特性演算結果例を示す波形図
【
図8】
図17に示す高周波リンギングが発生する場合の鉄損位相特性演算結果例を示す波形図
【
図9】
図4の位相誤差キャリブレーション処理の全体を示すフローチャート
【
図10】
図9を含めたリアクトル損失演算処理を示すフローチャート
【
図11】本発明の実施例2におけるスイッチング電源装置(例えば、三相インバータ)の構成例を示す回路図
【
図12】位相誤差キャリブレーション電力演算装置の機能ブロック図
【
図17】リアクトル浮遊容量による高周波リンギング波形図
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明を実施するための形態は、以下の好ましい実施例の説明を添付図面と照らし合わせて読むと、明らかになるであろう。但し、図面はもっぱら解説のためのものであって、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例1】
【0016】
(実施例1の構成)
図1(a),(b)は、本発明の実施例1におけるスイッチング電源装置(例えば、三相インバータ)の構成例を示す回路図であり、同図(a)は三相インバータの全体図、及び同図(b)はその(a)中のリアクトル損失測定装置の図である。
図1(a)において、DC電源1には、三相のDC/AC変換を行う三相インバータ2が接続され、その三相インバータ2から出力される三相AC電力が、負荷3に供給されるようになっている。なお、三相インバータ2の出力側には、負荷3に代えて、系統電源を接続しても良い。
【0017】
三相インバータ2は、DC電源1から供給されるDC電力を三相AC電力に変換するスイッチング回路10を有し、そのスイッチング回路10の出力側に、出力フィルタ20を介して、負荷3が接続されている。スイッチング回路10は、図示しない制御部から供給される高周波の駆動信号(例えば、複数の駆動パルス)S1~S6によりオン/オフ動作する複数のスイッチ11~16を有し、それらがブリッジ接続されている。各スイッチ11~16は、SiCデバイス、GaNデバイス等の次世代デバイス(例えば、絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT)等の半導体素子)により構成されている。各スイッチ11~16には、帰還用のダイオード11a~16aがそれぞれ逆並列に接続されている。出力フィルタ20は、三相のリアクトル21~23と、それに分岐接続された三相のコンデンサ24~26と、からなるLCフィルタにより構成されている。リアクトル21には、測定用の2次巻線27が追加され、その2次巻線27にリアクトル損失測定装置30が接続されている。リアクトル21と2次巻線27とは、所定の電圧変換比(例えば、1:1)を有している。
【0018】
リアクトル損失測定装置30は、2次巻線27を介して、リアクトル21のリアクトル鉄損を測定する装置であり、演算機能を有するオシロスコープ等の波形測定装置により構成されている。このリアクトル損失測定装置30は、リアクトル21の両端に印加されるリアクトル電圧vlを、2次巻線27を介して測定する電圧測定器31と、リアクトル21に流れるリアクトル電流ilを測定する電流測定器32と、を有している。電圧測定器31は、例えば、オシロスコープ用の電圧プローブ等により構成されている。電流測定器32は、例えば、オシロスコープ用の電流プローブや、シャント抵抗測定回路等により構成されている。電圧測定器31で測定されたリアクトル電圧vlの測定信号(例えば、電圧測定信号)S31と、電流測定器32で測定されたリアクトル電流ilの測定信号(例えば、電流測定信号)S32と、は測定記録装置33へ与えられる。測定記録装置33は、入力された電圧測定信号S31及び電流測定信号S32を記録する装置であり、オシロスコープ等で構成され、その出力側に、演算装置34が接続されている。演算装置34は、演算によりリアクトル鉄損を求める装置であり、例えば、オシロスコープ内の演算機能や、パーソナルコンピュータ等により、構成されている。
【0019】
図1(b)には、
図1(a)の測定記録装置33及び演算装置34により構成される測定装置本体40の機能ブロック図が示されている。
測定装置本体40は、電圧測定信号S31及び電流測定信号S32により、電圧測定器31及び電流測定器32で構成される測定回路の位相誤差を算出して位相調整(キャリブレーション)を行い、リアクトル電圧信号S41及びリアクトル電流信号S42の電力演算(=S41×S42)にてリアクトル鉄損S45,S46を測定等するものである。この測定装置本体40は、電圧測定器31で測定された電圧測定信号S31を入力する信号移相処理部41と、電流測定器32で測定された電流測定信号S32を入力する信号移相処理部42及びスイッチング周波数算出部43と、を有している。
【0020】
信号移相処理部41は、移相パラメータps1に基づき、入力された電圧測定信号S31の位相を変化(シフト)させ、電流測定信号S32の位相に一致させるような処理を行ってリアクトル電圧信号S41を出力するものである。信号移相処理部42は、移相パラメータps2に基づき、入力された電流測定信号S32の位相を変化(シフト)させ、電圧測定信号S31の位相に一致させるような処理を行ってリアクトル電流信号S42を出力するものである。スイッチング周波数算出部43は、入力された電流測定信号S32を、高速フーリエ変換(以下「FFT」という。)解析して、スイッチング周波数fswを算出するものであり、この出力側に、スイッチング周期算出部44が接続されている。スイッチング周期算出部44は、1/fswから、スイッチング周期Tswを算出するものである。
【0021】
各信号移相処理部41,42には、2つの鉄損電力演算部45,46が接続されている。一方の鉄損電力演算部45は、交流周期Tacに基づき、リアクトル電圧信号S41とリアクトル電流信号S42との電力演算(=S41×S42)にてリアクトル鉄損S45を算出するものであり、この出力側に、演算結果記録部47が接続されている。他方の鉄損電力演算部46は、スイッチング周期Tswに基づき、リアクトル電圧信号S41とリアクトル電流信号S42との電力演算(=S41×S42)にてリアクトル高周波鉄損S46を算出するものであり、この出力側に、演算結果記録部47が接続されている。演算結果記録部47は、算出されたリアクトル鉄損S45,S46を記録するメモリやレジスタ等で構成されている。
【0022】
図2は、
図1中の鉄損電力演算部45の構成例を示す回路図である。
鉄損電力演算部45は、リアクトル電圧信号S41である電圧信号V(t)とリアクトル電流信号S42である電流信号i(t)とを乗算する乗算器45aと、この出力側に接続された平均演算部45bと、により構成されている。平均演算部45bは、乗算器45aの乗算結果を入力し、次式(1)に従い、指定周期Tの平均演算を行い、リアクトル鉄損S45である電力値Pを求める回路である。
【数1】
但し、T;計算期間であって、交流周期Tac又はその倍数。
【0023】
図3は、
図1中の鉄損電力演算部46の構成例を示す回路図である。
鉄損電力演算部46は、リアクトル電圧信号S41である電圧信号V(t)とリアクトル電流信号S42である電流信号i(t)とを乗算する乗算器46aと、この出力側に接続された平均演算部46bと、により構成されている。平均演算部46bは、乗算器46aの乗算結果を入力し、次式(2)に従い、指定周期Tの平均演算を行い、リアクトル鉄損S46である電力値Pを求める回路である。
【数2】
但し、T;計算期間であって、スイッチング周期Tsw又はその倍数。
【0024】
(実施例1の三相インバータの動作)
図1(a)において、図示しない制御部により、例えば、パルス幅変調(以下「PWM」という。)によって定電圧制御用の三相の駆動パルスS1~S6が生成され、スイッチング回路10内の複数のスイッチ11~16が交互にオン/オフ動作する。すると、DC電源1から供給されたDC電圧が、スイッチングされて三相AC電圧に変換される。変換された三相AC電圧は、出力フィルタ20内のリアクトル21~23及びコンデンサ24~26により、高調波成分が除去され、負荷3へ供給される。負荷3へ供給される三相出力電圧が変動すると、制御部により、その変動が抑制されるように、駆動パルスS1~S6のパルス幅が変化し、三相出力電圧が目標電圧に維持される。
実回路環境において、リアクトル損失測定装置30を用いた位相誤差キャリブレーション方法及びリアクトル損失測定方法が、以下のようにして実行される。
【0025】
(実施例1の位相誤差キャリブレーション方法)
図4は、
図1(b)の測定装置本体40を用いた位相誤差キャリブレーション方法を実行するための位相誤差キャリブレーション電力演算装置の機能ブロック図である。
この位相誤差キャリブレーション電力演算装置40Aは、電圧測定信号S31を入力する信号移相処理部41と、電流測定信号S32を入力する信号移相処理部42と、を有している。一方の信号移相処理部41は、鉄損位相特性演算部48から供給される移相パラメータps1に基づき、電圧測定信号S31をシフトして電流測定信号S32へ同期(即ち、電圧測定信号S31の位相をシフトして電流測定信号S32の位相に一致)させる処理を行い、リアクトル電圧信号S41を求めるものであり、この出力側に、鉄損電力演算部45が接続されている。他方の信号移相処理部42は、鉄損位相特性演算部48から供給される移相パラメータps2に基づき、電流測定信号S32をシフトして電圧測定信号S31へ同期させる処理を行い、リアクトル電流信号S42を求めるものであり、この出力側に、鉄損電力演算部45が接続されている。鉄損位相特性演算部48は、位相を変化させて鉄損を繰り返し演算し、2つの移相パラメータps1,ps2を求めて2つの信号移相処理部41,42へそれぞれ与えるものである。
【0026】
ここで、2つの信号移相処理部41,42は、パワーアナライザ等で利用されているデスキュー機能と同等な処理であって、電圧測定信号S31と電流測定信号S32との位相を同期させるために、その電圧測定信号S31又は電流測定信号S32のいずれか一方の位相を進み又は遅れ方向にシフトさせている。又、周波数が一定で、角度パラメータが時間に換算することができるし、変調方式の影響で、2つのスイッチング周波数成分が存在する場合があるため、角度で表すことができない場合がある。そこで、本実施例1の移相処理では、位相誤差を時間単位に換算したものとする。
【0027】
鉄損電力演算部45は、交流周期Tacに基づき、入力されたリアクトル電圧信号S41とリアクトル電流信号S42とを乗算してリアクトル鉄損S45を算出するものであり、この出力側に、演算結果記録部47及び位相誤差キャリブレーション演算部49が接続されている。演算結果記録部47は、後段の位相誤差キャリブレーション演算に必要なデータを記録するために、算出されたリアクトル鉄損S45等を記録するものである。位相誤差キャリブレーション演算部49は、記録されたリアクトル鉄損S45等により、位相誤差のキャリブレーション演算を行い、位相誤差キャリブレーション結果S49を出力するものである。
【0028】
図5は、
図4中の鉄損位相特性演算部48における鉄損位相特性演算処理を示すフローチャートである。
鉄損位相特性演算部48における鉄損位相特性演算処理では、位相を変化(シフト)させて鉄損を繰り返し演算し、最終の鉄損演算を行うための移相パラメータps1,ps2を求める。この鉄損位相特性演算処理では、一定(変化ステップΔT)の刻みで、電圧測定信号S31及び電流測定信号S32を所定位相範囲で変化させて(つまり、位相(時間換算値)をt1~t2の範囲で変化させて)、各位相値に対応した鉄損の演算を行う。
【0029】
例えば、鉄損位相特性演算処理が開始されると、ステップST1において、位相シフト量(Tshift)を初期値(t1)に設定する(Tshift=t1)。ここで、初期値(t1)は、負の値であって、電圧測定信号S31に対して電流測定信号S32を進ませる方向である。初期値設定後、ステップST2において、高周波鉄損演算を行い、次のステップST3において、演算結果(即ち、位相シフト量に対する高周波鉄損演算結果)を記録する。
【0030】
記録後、ステップST4において、位相シフト量(Tshift)を変化させ(Tshift=Tshift前回値+ΔT、但し、ΔTは変化ステップ)、ステップST5へ進む。ステップST5において、位相シフト量(Tshift)の変化範囲の計算が完了したか否かの判定を行い(Tshif>t2?)、その計算が未完了の場合(No)、ステップST2へ戻り、その計算が完了している場合(Yes)、鉄損位相特性演算処理を終了する。
【0031】
図6は、
図4中の位相誤差キャリブレーション演算部49における位相誤差キャリブレーション演算処理を示すフローチャートである。
図7(a),(b)は、浮遊容量による高周波リンギングが発生しない場合の鉄損位相特性演算結果例を示す波形図であり、同図(a)は、
図5のフローチャートの処理結果の鉄損演算値をグラフ化した例を示す波形図、及び、同図(b)は、
図6のフローチャートの処理結果の変化率演算値をグラフ化した例を示す波形図である。
図7(a),(b)の横軸は、位相シフトの時間換算値t(ns)(但し、正;電流信号を遅延させる。負;電圧信号を遅延させる。)である。
図7(a)の縦軸は鉄損演算結果(電力Pの損失Ploss)、更に、
図7(b)の縦軸は演算結果変化率(単位時間(1ns、5ns等)に対応した電力変化ΔPの損失ΔPloss)である。
【0032】
図8(a),(b)は、
図17に示す高周波リンギングが発生する場合の鉄損位相特性演算結果例を示す波形図であり、同図(a)は、
図5のフローチャートの演算結果をグラフ化した例を示す波形図、及び、同図(b)は、
図6のフローチャートの演算結果をグラフ化した例を示す波形図である。
図8(a),(b)の横軸は、位相シフトの時間換算値t(ns)である。
図8(a)の縦軸は鉄損演算結果(電力Pの損失Ploss)、更に、
図8(b)の縦軸は演算結果変化率(単位時間(1ns、5ns等)に対応した電力変化ΔPの損失ΔPloss)である。
【0033】
図6に示すように、位相誤差キャリブレーション演算部49における位相誤差キャリブレーション演算処理では、
図5の鉄損位相特性演算処理結果より、各位相値の変化率を算出し、変化率の最小値に対応した位相値を測定回路の位相誤差とする。更に、高精度且つ安定なキャリブレーション結果を算出するために、
図7及び
図8の最小値近接部分のデータ(太い線に示す部分)の2次多項式近似関数を求め、その近似関数の係数により位相誤差の算出を行う。
【0034】
図8(a),(b)に、リンギング動作が発生する条件における鉄損位相特性演算結果例が示されている。この
図8(a),(b)は、リアクトル電圧及びリアクトル電流の位相差を疑似的に変化させた時のリアクトル損失演算結果及びその変化率を示す波形図である。理想的であるならば、リアクトル損失が位相差に比例して変化するが、磁性部品のヒステリシス特性、及び浮遊容量によるリンギング動作は、演算結果の変化特性に影響する。本実施例1では、このような物理現象を利用し、図の太い線の低い値に対応した時間(位相)を求めることにより、測定回路の位相誤差を求めている。
【0035】
例えば、
図6の位相誤差キャリブレーション演算処理が開始されると、ステップST11において、次式の単位時間演算結果変化率を求める。
変化率(n)=(鉄損(n-1)-鉄損(n+1))/2
但し、n:データのインデックス番号
そして、ステップST12において、変化率最小値に対応する位相シフト量を位相誤差の初期値とする。
このステップST11,ST12の処理(A)では、複数の位相シフト量と電力値演算結果を用いて、各位相シフト量に対応した電力量変化率を算出し、その電力量変化率の最小値に対応した位相シフト量を位相誤差としている。
【0036】
次に、ステップST13において、xは位相シフト量、yは単位時間変化率とし、位相シフト量範囲tmin-T~tmin+T範囲のデータを利用し、位相シフト量に対して、次式のような、変化率の2次多項式近似関数を求める。
P(t)=p1*t^2+p2*t+p3
そして、ステップST14において、位相誤差を更新する(tmin=-p2/p1/2)。
このステップST13及びST14の処理(B)では、算出された位相誤差の値を中心に、複数の位相シフト量と電力量変化率の値を用いて、電力量変化率の2次多項式近似関数を求めることにより、位相誤差を算出している。
【0037】
ステップST14後のステップST15において、繰り返し演算は、所定回数以上行われたか否かを判定し、所定回数行われていなければ(No)、ステップST13へ戻り、所定回数以上行われている場合には(Yes)、ステップST16へ進む。ステップST15における繰り返し演算にて、計算精度を高めることができる。
このステップST15の処理(C)では、2次多項式近似関数を求める演算を所定回数まで繰り返し実行している。
その後、ステップST16において、位相誤差キャリブレーション結果を確定した後(tmin)、位相誤差キャリブレーション演算処理を終了する。
【0038】
図8(a),(b)に、リンギング動作が発生する条件における鉄損位相特性演算結果例が示されている。演算結果の高周波電力変動は配線インダクタンスとリアクトル浮遊容量との共振動作によるものであり、電力変動のゼロクロスを求めることにより測定回路の位相誤差を算出することができる。前記ゼロクロスに対応する変化率も最小値になるため、
図6のフローチャートはどちらのケースも対応できる。
【0039】
図9は、
図4の位相誤差キャリブレーション電力演算装置40Aにおける位相誤差キャリブレーション処理の全体を示すフローチャートである。
この
図9の位相誤差キャリブレーション処理では、ステップST21において、電圧測定器31及び電流測定器32により、リアクトル電圧vl及びリアクトル電流ilを測定し、電圧測定信号S31及び電流測定信号S32を取得する。なお、他の波形測定装置で測定し、通信又はデータコピーで電圧測定信号及び電流測定信号を取得しても良い。
【0040】
次に、ステップST22において、
図5の鉄損位相特性演算処理を行い、次のステップST23において、
図6の位相誤差キャリブレーション演算処理を行う。その後、ステップST24において、位相誤差キャリブレーション結果S49を出力し、記録及び表示を行って、位相誤差キャリブレーション処理を終了する。
【0041】
(実施例1のリアクトル損失測定方法)
図10は、
図9の位相誤差キャリブレーション処理を含めたリアクトル損失演算処理を示すフローチャートである。
このリアクトル損失演算処理では、ステップST21において、電圧測定器31及び電流測定器32により、リアクトル電圧vl及びリアクトル電流ilを測定し、電圧測定信号S31及び電流測定信号S32を取得する。なお、他の波形測定装置で測定し、通信又はデータコピーで電圧測定信号及び電流測定信号を取得しても良い。
【0042】
次に、ステップST22において、
図5の鉄損位相特性演算処理を行い、次のステップST23において、
図6の位相誤差キャリブレーション演算処理を行う。更に、ステップST25において、位相誤差キャリブレーション演算結果を、
図1(b)の移相パラメータps1,ps2とし、リアクトル損失演算処理を行う。その後、ステップST26において、リアクトル損失演算結果を出力し、記録及び表示を行って、リアクトル損失演算処理を終了する。
【0043】
(実施例1の効果)
本実施例1のリアクトル損失測定は、低力率条件(例えば、0.05以下)の電力測定であり、僅かの測定回路位相誤差が測定結果に大きな影響を与える。理想的なリアクトル動作として、位相誤差(Δφ)に比例した電力演算誤差が発生するが、ACリアクトル磁気ヒステリシス特性と高周波リンギング波形の影響により、
図7(a),(b)と
図8(a),(b)に示す演算誤差特性が確認されている。
図7(a),(b)と
図8(a),(b)の横軸は位相誤差に相当の時間換算値であり、正の場合は信号の移相処理にてリアクトル電流を遅らせて、負の場合は移相処理にてリアクトル電流を進ませている(リアクトル電圧を遅らせても良い)。
図7(a),(b)と
図8(a),(b)は、それぞれ信号位相を変化させた時のリアクトル損失演算結果とその変化率を示す。
図7(a),(b)はリンギング波形がない場合の演算結果例、
図8(a),(b)はリンギング波形が発生している状態の演算結果例を示す。測定回路の位相誤差がない場合は、移相処理のシフト量が零でその変化率が最小になる。逆に、その変化率が最小になる位相シフト量が測定回路の位相誤差と見なすことができる。
【0044】
つまり、
図7(a),(b)と
図8(a),(b)は、リアクトル電圧vl及びリアクトル電流ilの位相差を疑似的に変化させた時のリアクトル損失演算結果及びその変化率を示す波形図である。理想的であるならば、リアクトル損失が位相差に比例して変化するが、磁性部品のヒステリシス特性、浮遊容量によるリンギング動作は、演算結果の変化特性に影響する。本実施例1は、このような物理現象を利用し、図の太い線の低い値に対応した時間(位相)を求めることにより、測定回路の位相誤差を求めている。
【0045】
このように、本実施例1によれば、リアクトル電圧vl及びリアクトル電流ilの測定信号により、測定回路の位相誤差キャリブレーションと、リアクトル損失演算を行っているので、リアクトル鉄損を高精度に測定可能なリアクトル損失測定装置を提供でき、専用励磁電源回路や位相誤差測定装置が不要で、実機運転状態にて測定可能である。そのため、三相インバータ、単相インバータ、DC/DCコンバータやPFC回路等のリアクトル損失測定への適用が可能である。具体的には、以下のような効果がある。
【0046】
(a) 磁性ヒステリシス特性及びリアクトル浮遊容量特性を利用した位相誤差キャリブレーションが行える。
(b) 測定対象のリアクトル電圧vl及びリアクトル電流ilにより自動キャリブレーションを行うため、高精度で、操作が簡単である。
(c) 実機搭載状態にて測定が可能である。
【実施例2】
【0047】
(実施例2の構成)
図11(a),(b)は、本発明の実施例2におけるスイッチング電源装置(例えば、三相インバータ)の構成例を示す回路図であり、同図(a)は三相インバータの全体図、及び同図(b)はその(a)中のリアクトル損失測定装置の図である。なお、
図11(a),(b)では、実施例1を示す
図1(a),(b)中の要素と共通の要素には共通の符号が付されている。
【0048】
図11(a)に示すように、本実施例2のリアクトル損失測定装置30Aでは、実施例1のリアクトル21に設けられた測定用の2次巻線27が省略され、電圧測定器31により、そのリアクトル21の両端から直接、リアクトル電圧vlを測定する構成になっている。
更に、
図11(b)に示すように、本実施例2のリアクトル損失測定装置30Aを構成する測定装置本体40Bの構成が、実施例1の測定装置本体40の構成と少し異なっている。本実施例2の測定装置本体40Bでは、実施例1の測定装置本体40に対して、2つのスイッチング周波数高周波成分抽出部51,52、総損失電力演算部53、及び減算部54が追加されている。
【0049】
一方のスイッチング周波数高周波成分抽出部51は、スイッチング周期Tswに基づき、信号移相処理部41から出力されたリアクトル電圧信号S41から、スイッチング周波数高周波成分を抽出し、その高周波成分が抽出されたスイッチング成分電圧信号S51を、2つの鉄損電力演算部45,46へ与えるものである。他方のスイッチング周波数高周波成分抽出部52は、スイッチング周期Tswに基づき、信号移相処理部42から出力されたリアクトル電流信号S42から、スイッチング周波数高周波成分を抽出し、その高周波成分が抽出されたスイッチング成分電流信号S52を、2つの鉄損電力演算部45,46へ与えるものである。
【0050】
総損失電力演算部53は、交流周期Tacに基づき、信号移相処理部41から出力されたリアクトル電圧信号S41と、信号移相処理部42から出力されたリアクトル電流信号S42と、を乗算して総損失S53を求めるものであり、その出力側に、減算器54が接続されている。減算器54は、総損失S53と、鉄損電力演算部45から出力されるリアクトル高周波鉄損S45と、を入力し、その総損失S53からリアクトル高周波鉄損S45を減算して銅損S54を求め、演算結果記録部47へ与えるものである。演算結果記録部47は、与えられたリアクトル高周波鉄損S45,S46及び銅損S54を記録するメモリやレジスタ等で構成されている。
【0051】
(実施例2の三相インバータの動作)
図11(a)の三相インバータ2は、
図1(a)に示される実施例1の三相インバータ2と同様の動作を行う。
実回路環境において、リアクトル損失測定装置30Aを用いた位相誤差キャリブレーション方法及びリアクトル損失測定方法が、以下のようにして実行される。
【0052】
(実施例2の位相誤差キャリブレーション方法)
図12は、
図11(b)の測定装置本体40Bを用いた位相誤差キャリブレーション方法を実行するための位相誤差キャリブレーション電力演算装置の機能ブロック図である。
この位相誤差キャリブレーション電力演算装置40Cでは、
図4に示された実施例1の位相誤差キャリブレーション電力演算装置40Aに対して、2つのスイッチング周波数高周波成分抽出部51,52が追加されている。
【0053】
本実施例2の位相誤差キャリブレーション電力演算装置40Cを用いた位相誤差キャリブレーション処理では、電圧測定器31及び電流測定器32により、リアクトル電圧vl及びリアクトル電流ilを測定し、電圧測定信号S31及び電流測定信号S32を取得する。なお、他の波形測定装置で測定し、通信又はデータコピーで電圧測定信号及び電流測定信号を取得しても良い。
【0054】
次に、鉄損位相特性演算部48により、実施例1と同様の鉄損位相特性演算処理を行い、位相パラメータps1,ps2を求める。信号移相処理部41,42は、位相パラメータps1,ps2に基づき、電圧測定信号S31及び電流測定信号S32に対して位相処理を行い、リアクトル電圧信号S41及びリアクトル電流信号S42を出力する。スイッチング周波数高周波成分抽出部51,52により、リアクトル電圧信号S41及びリアクトル電流信号S42から、スイッチング周波数高周波成分が抽出される。高周波成分が抽出されたスイッチング成分電圧信号S51及びスイッチング成分電流信号S52は、鉄損電力演算部45により乗算されてリアクトル高周波鉄損S45が求められ、演算結果記録部47に記録される。その後、位相誤差キャリブレーション演算部49により、位相誤差キャリブレーション演算処理が行われ、その位相誤差キャリブレーション結果S49が出力され、記録及び表示が行われて、位相誤差キャリブレーション処理が終了する。
【0055】
(実施例2のリアクトル損失測定方法)
本実施例2のリアクトル損失測定方法では、上記の位相誤差キャリブレーション処理が行われた後、リアクトル損失演算処理が行われる。そして、リアクトル損失演算結果が出力され、記録及び表示が行われて、リアクトル損失演算処理が終了する。
【0056】
(実施例2の入力フィルタ)
図13は、電圧測定器31及び電流測定器32と信号移相処理部41,42との間に設けられる入力フィルタ55,56の説明図である。
電圧測定器31で測定された電圧測定信号S31に対し、入力フィルタ55で、浮遊容量による高周波信号を除去した後、信号移相処理部41に入力すると共に、電流測定器32で測定された電流測定信号S32に対し、入力フィルタ56で、浮遊容量による高周波信号を除去した後、信号移相処理部42に入力する構成にしても良い。これにより、演算精度が向上する。
【0057】
(実施例2の効果)
本実施例2では、実施例1と略同様の効果がある。
【0058】
(実施例1,2の変形例)
(i)
図11(b)の測定装置本体40B及び
図12の位相誤差キャリブレーション電力演算装置40Cは、
図1(a)の三相インバータ2に対しても適用が可能である。
(ii)
図1(b)の測定装置本体40、
図11(b)の測定装置本体40B、
図4の位相誤差キャリブレーション電力演算装置40A、及び
図12の位相誤差キャリブレーション電力演算装置40Cは、図示以外の構成に変更しても良い。
(iii)
図13の入力フィルタ55,56は、
図1中の電圧測定器31及び電流測定器32の出力側に設けても良い。
【産業上の利用可能性】
【0059】
上記実施例1,2では、測定対象回路として三相インバータ2について説明したが、本発明のリアクトル損失測定装置は、測定対象回路として単相インバータ、三相PFC回路、単相PFC回路等の種々の回路に適用できる。
例えば、
図14は、単相インバータ2Aの構成例を示す回路図である。この単相インバータ2Aでは、DC電源1のDC電力を、複数のスイッチ11~14を有するスイッチング回路10AによりスイッチングしてAC電力に変換する。そして、スイッチング回路10Aの出力側に、リアクトル21及びコンデンサ24からなる出力フィルタ20Aを介して、負荷3又は系統電源が接続されている。このような単相インバータ2Aにおいて、リアクトル21の両端に印加されるリアクトル電圧vlと、リアクトル21に流れるリアクトル電流ilと、を
図1のリアクトル損失測定装置30又は
図11のリアクトル損失測定装置30Aにより測定して、リアクトル鉄損を算出できる。
【0060】
図15は、三相PFC回路2Bの構成例を示す回路図である。この三相PFC回路2Bでは、三相AC電源1Aの三相AC電力を、リアクトル21~23及びコンデンサ24~26からなる入力フィルタ20Bを介して入力し、複数のスイッチ11~16からなるスイッチング回路10BによりDC電力に変換する。そして、力率が改善されたDC電力を負荷3に供給している。このような三相PFC回路2Bにおいて、リアクトル21の両端に印加されるリアクトル電圧vlと、リアクトル21に流れるリアクトル電流ilと、を
図1のリアクトル損失測定装置30又は
図11のリアクトル損失測定装置30Aにより測定して、リアクトル鉄損を算出できる。
【0061】
図16は、単相PFC回路2Cの構成例を示す回路図である。この単相PFC回路2Cでは、AC電源1BのAC電力を、リアクトル21及びコンデンサ24からなる入力フィルタ20Cを介して入力し、複数のスイッチ11~14からなるスイッチング回路10CによりDC電力に変換する。そして、力率が改善されたDC電力を負荷3に供給している。このような単相PFC回路2Cにおいて、リアクトル21の両端に印加されるリアクトル電圧vlと、リアクトル21に流れるリアクトル電流ilと、を
図1のリアクトル損失測定装置30又は
図11のリアクトル損失測定装置30Aにより測定して、リアクトル鉄損を算出できる。
【符号の説明】
【0062】
2 三相インバータ
2A 単相インバータ
2B 三相PFC回路
2C 単相PFC回路
10,10A,10B,10C スイッチング回路
11~16 スイッチ
20,20A 出力フィルタ
20B,20C,55,56 入力フィルタ
21~23 リアクトル
24~26 コンデンサ
27 2次巻線
30,30A リアクトル損失測定装置
31 電圧測定器
32 電流測定器
33 測定記録装置
34 演算装置
40,40B 測定装置本体
40A,40C 位相誤差キャリブレーション電力演算装置
41,42 信号移相処理部
43 スイッチング周波数算出部
44 スイッチング周期算出部
45,46 鉄損電力演算部
47 演算結果記録部
48 鉄損位相特性演算部
49 位相誤差キャリブレーション演算部
51,52 スイッチング周波数高周波成分抽出部
53 総損失電力演算部