(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】ゴム組成物の製造方法およびタイヤの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 3/21 20060101AFI20241016BHJP
【FI】
C08J3/21 CEQ
(21)【出願番号】P 2020211132
(22)【出願日】2020-12-21
【審査請求日】2023-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 晋作
【審査官】清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-034472(JP,A)
【文献】特開2018-123225(JP,A)
【文献】特開2019-093585(JP,A)
【文献】特開2019-112525(JP,A)
【文献】特開2020-100116(JP,A)
【文献】特開2018-123193(JP,A)
【文献】特開2021-015367(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/00-3/28
99/00
B29B 7/00-11/14
13/00-15/06
B29C 31/00-31/10
37/00-37/04
71/00-71/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシングと、前記ケーシング内で回転することが可能な少なくとも2本のローターと、前記ローターの上方に位置するネック部と、前記ネック部内の空間を上下に移動可能なラムとを備えるかみ合式密閉型混練機で、少なくともゴム、
カーボンブラック、シリカおよびシランカップリング剤を混練りする工程を含み、
Black Incorporation Timeを示すよりも前に、前記工程が、混練り温度の上昇を伴う混練りをおこなう第一段階を含み、
前記第一段階では、前記ラムの移動可能範囲のうち最下位置よりも上方の第一位置に前記ラムを維持した状態で混練りをおこない、
前記ラムが前記最下位置にあるときの、前記ラムと前記ケーシングとで囲まれた空間のボリュームを第一有効ボリュームとし、前記ラムが前記第一位置にあるときの、前記ラムと前記ケーシングとで囲まれた空間のボリュームを第二有効ボリュームとしたとき、前記第一段階では、前記第二有効ボリュームが、前記第一有効ボリューム100%に対して105%~120%である、
ゴム組成物の製造方法。
【請求項2】
前記工程は、前記第一段階の後に、前記シリカおよび前記シランカップリング剤のカップリング反応が抑制されるように、前記混練り温度を制御しながら混練りをおこなう第二段階を含み、前記第二段階では、前記混練り温度を目標温度とするためにPID制御で前記ローターの回転速度を制御し、
前記第二段階でも、前記第一位置に前記ラムを維持した状態で混練りをおこない、
前記第二段階でも、前記第二有効ボリュームが、前記第一有効ボリューム100%に対して105%~120%である、
請求項1に記載のゴム組成物の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のゴム組成物の製造方法でゴム組成物を作製する工程と、
前記ゴム組成物を用いて未加硫タイヤを作製する工程とを含む、
タイヤの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物の製造方法およびタイヤの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリカが分散したゴム組成物を作製するために、接線式密閉型混練機や、かみ合式密閉型混練機で、シリカやシランカップリング剤、ゴムなどを混練りすることが知られている。接線式密閉型混練機は、2本のローターの回転円がオーバーラップしないように設計されており、ローターとケーシングの壁面との間でせん断作用が働く。いっぽう、かみ合式密閉型混練機は、2本のローターの回転円が、オーバーラップするように設計されており、ローターとケーシングの壁面との間でせん断作用が働くだけでなく、ローター間でもせん断作用が働く。
【0003】
混練り中は、せん断作用によって練り生地の温度、すなわち混練り温度が上昇するところ、温度が過度に高くなると、たとえばゲルが発生することがあるため、温度が過度に高くならないように混練りする必要がある(たとえば特許文献1参照)。
【0004】
混練りのために使用される、かみ合式密閉型混練機は、一般に、接線式密閉型混練機に比べて冷却性能に優れているため、温度上昇を効果的に抑えることができる。
【0005】
しかしながら、かみ合式密閉型混練機は、一般に、接線式密閉型混練機に比べて噛み込み性に劣る。すなわち、かみ合式密閉型混練機は、一般に、配合剤の取り込み効率が悪い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
仮に、取り込み効率を上げるために、フィルファクターを下げたとすると、材料(すなわち配合剤やゴム)の投入量が少なくなる。つまり生産性が落ちる。また、仮に、フィルファクターを下げなかったとすると、ラムの上に乗る配合剤やゴムの量が増え、その結果、配合剤の取り込み効率が悪くなる。
【0008】
本発明は、かみ合式密閉型混練機を使用する際に、高フィルファクター(たとえば、接線式密閉型混練機で採用されるフィルファクターと、実質的に同程度のフィルファクター)で混練りすることができるゴム組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題を解決するために、本発明のゴム組成物の製造方法は、
ケーシングと、前記ケーシング内で回転することが可能な少なくとも2本のローターと、前記ローターの上方に位置するネック部と、前記ネック部内の空間を上下に移動可能なラムとを備えるかみ合式密閉型混練機で、少なくともゴム、シリカおよびシランカップリング剤を混練りする工程を含み、
前記工程の序盤に、前記工程が、混練り温度の上昇を伴う混練りをおこなう第一段階を含み、
前記第一段階では、前記ラムの移動可能範囲のうち最下位置よりも上方の第一位置に前記ラムを維持した状態で混練りをおこない、
前記ラムが前記最下位置にあるときの、前記ラムと前記ケーシングとで囲まれた空間のボリュームを第一有効ボリュームとし、前記ラムが前記第一位置にあるときの、前記ラムと前記ケーシングとで囲まれた空間のボリュームを第二有効ボリュームとしたとき、前記第一段階では、前記第二有効ボリュームが、前記第一有効ボリューム100%に対して105%~120%である。
【0010】
本発明によれば、かみ合式密閉型混練機で混練りすることによって、ローター間で練り生地に、せん断変形や伸長変形を与えることができる。
【0011】
しかも、本発明では、序盤の第一段階(すなわち、混練り温度の上昇を伴う混練りをおこなう段階)で第一位置(すなわち、最下位置よりも上方の位置)にラムを維持した状態で混練りをおこなうことによって、材料(すなわち配合剤やゴム)がラムの上に乗ることを防止できるため、高フィルファクター(たとえば、接線式密閉型混練機で採用されるフィルファクターと、実質的に同程度またはそれ以上のフィルファクター)で混練りすることができる。
【0012】
しかも、本発明では、材料(すなわち配合剤やゴム)がラムの上に乗ることを防止できるため、配合剤の取り込み効率を向上することができる。つまり、Black Incorporation Time(以下、「BIT」ということがある。)を短くすることができる。その結果、シリカ分散のための混練時間を確保できるため、シリカ分散を向上することができる。したがって、低発熱性や、湿潤路面での制動性(以下、「湿潤路面制動性」という。)を改善することができる。
【0013】
しかも、本発明では、第二有効ボリューム(すなわち、ラムが第一位置にあるときの、ラムとケーシングとで囲まれた空間のボリューム)が、第一有効ボリューム(すなわち、ラムが最下位置にあるときの、ラムとケーシングとで囲まれた空間のボリューム)100%に対して105%以上であることによって、材料(すなわち配合剤やゴム)がラムの上に乗ることを効果的に防止できるので、配合剤の取り込み効率をいっそう向上することができる。つまり、BITをいっそう短くすることができる。
【0014】
そのうえ、本発明では、第二有効ボリューム(すなわち、ラムが第一位置にあるときの空間のボリューム)が、第一有効ボリューム(すなわち、ラムが最下位置にあるときの空間のボリューム)100%に対して120%以下であることによって、練り生地に、せん断を効果的にかけることができるため、第一段階(すなわち、混練り温度の上昇を伴う混練りをおこなう段階)で混練り温度を差支えなく上昇させることができる。
【0015】
本発明のゴム組成物の製造方法は、次の構成を備えることが好ましい。
前記工程は、前記第一段階の後に、前記シリカおよび前記シランカップリング剤のカップリング反応が抑制されるように、前記混練り温度を制御しながら混練りをおこなう第二段階を含み、前記第二段階では、前記混練り温度を目標温度とするためにPID制御で前記ローターの回転速度を制御し、
前記第二段階でも、前記第一位置に前記ラムを維持した状態で混練りをおこない、
前記第二段階でも、前記第二有効ボリュームが、前記第一有効ボリューム100%に対して105%~120%である。
【0016】
この構成によれば、カップリング反応が抑制されるように、混練り温度を制御しながら混練りをおこなうため、カップリング反応が活発にすすむ前に、シリカを効果的に分散させることができる。その結果、低発熱性や、湿潤路面での制動性(湿潤路面制動性)をいっそう改善することができる。
【0017】
しかも、第二段階で第二有効ボリューム(すなわち、ラムが第一位置にあるときの空間のボリューム)が、第一有効ボリューム(すなわち、ラムが最下位置にあるときの空間のボリューム)100%に対して105%以上であることによって、混練り温度を容易く維持することができる。これについて説明する。仮に、第二段階でラムが最下位置にあったとすると、せん断発熱が大きいため、温度上昇を招きやすい。これに対して、本発明では、第二有効ボリューム(すなわち、ラムが第一位置にあるときの空間のボリューム)が、第一有効ボリューム(すなわち、ラムが最下位置にあるときの空間のボリューム)100%に対して105%以上であることによって、すなわち、ラムが適度に位置することによって、せん断発熱が過度に大きくなることを回避できるため、混練り温度を目標温度に容易く維持することができる。
【0018】
そのうえ、第二段階で第二有効ボリューム(すなわち、ラムが第一位置にあるときの空間のボリューム)が、第一有効ボリューム(すなわち、ラムが最下位置にあるときの空間のボリューム)100%に対して120%以下であることによって、混練り温度を差支えなく維持することができる。これについて説明する。仮に、第二段階でラムが過度に上方にあったとすると、せん断発熱が過度に小さくなる。これに対して、本発明では、第二有効ボリューム(すなわち、ラムが第一位置にあるときの空間のボリューム)が、第一有効ボリューム(すなわち、ラムが最下位置にあるときの空間のボリューム)100%に対して120%以下であることによって、すなわち、ラムが適度に位置することによって、せん断発熱が過度に小さくなることを回避できるため、混練り温度を目標温度に差支えなく維持することができる。
【0019】
本発明のタイヤの製造方法は、本発明のゴム組成物の製造方法でゴム組成物を作製する工程と、前記ゴム組成物を用いて未加硫タイヤを作製する工程とを含む。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本実施形態で使用することが可能な、かみ合式密閉型混練機の構成を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0022】
なお、本明細書において、「第一」および「第二」などの概念はすべて、あるものをそれ以外のものと区別する目的のみにおいて記載されるものであり、相対的な順序や技術を示したり示唆したりするものではない。
【0023】
<1.かみ合式密閉型混練機>
まず、本実施形態で使用することが可能な、かみ合式密閉型混練機について説明する。
【0024】
図1に示すように、かみ合式密閉型混練機1は、ケーシング2と、ケーシング2内で回転することが可能な2本のローター3と、ローター3の上方に位置するネック部5と、ネック部5に設けられた投入口6と、ネック部5内の空間を上下に移動可能なラム7と、ケーシング2に設けられた排出口を塞ぐことが可能なドロップドア9とを備える。
【0025】
ケーシング2の上面中央部には、開口部2aが設けられている。開口部2aの上方には、内部に筒状の空間を有するネック部5が設けられている。ネック部5の側面には、ゴムや配合剤を投入可能な投入口6が設けられている。投入口6は2つ以上設けられていてもよい。投入口6から投入されたゴムおよび配合剤は、ネック部5の筒状の空間内を通って、ケーシング2の開口部2aからケーシング2内に投入される。
【0026】
ラム7は、ケーシング2の開口部2aを閉塞可能な形状をなす。ラム7は、その上端に連結されたシャフト8によって、ネック部5の筒状の空間を上下方向に移動することができる。ラム7は、その自重またはシャフト8からの押圧力によって、ケーシング2内に存在する練り生地を押付・加圧することができる。
【0027】
ドロップドア9は開閉可能である。混練中、ドロップドア9が閉じている。すなわち、混練中、ドロップドア9が、ケーシング2に設けられた排出口を塞いでいる。混練終了後にはドロップドア9が開かれる。
【0028】
ローター3を回転させるモーター(不図示)の回転速度は、制御部11からの制御信号に基づいて調整される。制御部11は、温度センサー13から送られる混練室4内の温度情報(具体的には実測温度Tp)に基づき、モーターの回転速度の制御をおこなう。モーターは、制御部11によって回転速度を自在に変化させることができる。モーターは、たとえばインバータモーターであることができる。
【0029】
モーターの回転速度を決定するために、制御部11の内部に設けられたPID演算処理部は、温度センサー13が検出する混練室4内の実測温度Tpと目標温度Tsとの偏差から、比例(P)、積分(I)および微分(D)の演算をおこなう。具体的には、PID演算処理部は、実測温度Tpおよび目標温度Tsの差(偏差e)に比例して制御量を算出する比例(P)動作と、偏差eを時間軸方向に積分した積分値により制御量を算出する積分(I)動作と、偏差eの変化の傾きすなわち微分値より制御量を算出する微分(D)動作とによって得られる各制御量の合算値により、モーターの回転速度を決定する。なお、PIDは、Proportional Integral Differentialの略である。
【0030】
かみ合式密閉型混練機1は、2本のローター3が互いにかみ合うように設計されている。つまり、2本のローター3の回転円、厳密には、2本のローター3の最外部分が描く回転円が、オーバーラップするように設計されている。ここで、最外部分とは、ローター3の回転軸から最も遠い部分である。よって、かみ合式密閉型混練機1は、ローター3とケーシング2の壁面との間でせん断作用が働くだけでなく、ローター3の間でもせん断作用が働く。すなわち、ローター3とケーシング2の壁面との間で、練り生地に、せん断変形や伸長変形を与えることができるだけでなく、ローター3の間でも練り生地に、せん断変形や伸長変形を与えることができる。
【0031】
<2.ゴム組成物の製造方法の各工程>
次に、本実施形態におけるゴム組成物の製造方法が含む工程のいくつかを説明する。
【0032】
本実施形態におけるゴム組成物の製造方法は、ゴム混合物を作製するために、少なくともゴム、シリカおよびシランカップリング剤をかみ合式密閉型混練機1で混練りする工程(以下、「工程S1」という。)と、少なくともゴム混合物および加硫系配合剤を混練りしてゴム組成物を得る工程(以下、「工程S2」という。)とを含む。本実施形態によれば、工程S1にて、かみ合式密閉型混練機1で混練りすることによって、ローター3の間で練り生地に、せん断変形や伸長変形を与えることができる。よって、後述するように、ラム7の移動可能範囲のうち最下位置よりも上方の第一位置にラム7を維持した状態で混練りをおこなうことができる(仮に、接線式密閉型混練機を用いて、ラムの最下位置よりも上方の位置にラムを維持した状態で混練りをおこなったとすると、練り生地がローターの上に滞留するので、そのような状態で混練りをおこなうことは難しい)。これに加えて、練り生地を効果的に冷却することもできる。
【0033】
<2.1.工程S1(ゴム混合物を作製する工程)>
工程S1は、混練り温度の上昇を伴う混練りをおこなう段階(以下、「第一段階」という。)と、シリカおよびシランカップリング剤のカップリング反応が抑制されるように混練り温度を制御しながら混練りをおこなう段階(以下、「第二段階」という。)と、混練り温度のさらなる上昇を伴う混練りをおこなう段階(以下、「第三段階」という。)と、カップリング反応がすすむように混練り温度を制御しながら混練りをおこなう段階(以下、「第四段階」という。)とを含む。
【0034】
第一段階~第四段階は、一つの混練ステージを構成する。混練ステージは、かみ合式密閉型混練機1への材料の投入から排出までのサイクルである。よって、第一段階から第二段階への移行の際に、ゴム、シリカおよびシランカップリング剤といった材料は、かみ合式密閉型混練機1から排出されず、第二段階から第三段階への移行の際、および第三段階から第四段階への移行の際にも、材料は排出されない。
【0035】
工程S1において、フィルファクターは68%以上が好ましく、70%以上がより好ましい。本実施形態によれば、後述するように、材料(すなわち配合剤やゴム)がラム7の上に乗ることを防止できるため、68%以上といったフィルファクターで混練りすることができる。工程S1のフィルファクターは80%以下が好ましく、78%以下がより好ましい。80%以下であると、シリカを容易に分散させることができる。
【0036】
フィルファクターは、次の式で算出される。
フィルファクター=(ゴム混合物の体積/第一有効ボリューム)×100
この式において、ゴム混合物の体積とは、かみ合式密閉型混練機1から排出されるゴム混合物の体積である。第一有効ボリュームとは、後述するように、ラム7が最下位置にあるときの、ラム7とケーシング2とで囲まれた空間のボリュームである。この式において、ゴム混合物の体積と、第一有効ボリュームとの両者は、リットル(L)で表されることができる。
【0037】
なお、工程S1では、掃除のために(たとえば、ラム7の上に乗った配合剤やゴムを落とすために)、任意のタイミングでラム7を上下動させてもよい。たとえば、第一段階から第二段階への移行の際に、ラム7を上下動させてもよく、第二段階から第三段階への移行の際に、ラム7を上下動させてもよく、第三段階から第四段階への移行の際に、ラム7を上下動させてもよい。任意の段階(たとえば第一段階)における任意のタイミングでラム7を上下動させてもよい。
【0038】
<2.1.1.第一段階(混練り温度の上昇を伴う混練りをおこなう段階)>
第一段階では、少なくともゴム、シリカおよびシランカップリング剤をかみ合式密閉型混練機1に投入し、これらを混練りする。第一段階の混練りは、せん断発熱による混練り温度の上昇を伴う。
【0039】
ゴムとして、たとえば、天然ゴム、ポリイソプレンゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリブタジエンゴム(BR)、ニトリルゴム、クロロプレンゴムなどを挙げることができる。これらから、一つまたは任意の組み合わせを選択して、使用することができる。ゴムは、ジエン系ゴムであることが好ましい。
【0040】
ゴムとして、変性ゴムを使用してもよい。変性ゴムとして、変性SBR、変性BRを挙げることができる。変性ゴムは、ヘテロ原子を含む官能基を有することができる。官能基は、ポリマー鎖の末端に導入されてもよく、ポリマー鎖中に導入されてもよいが、好ましくは末端に導入されることである。官能基としては、アミノ基、アルコキシル基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、エポキシ基、シアノ基、ハロゲン基などが挙げられる。なかでも、アミノ基、アルコキシル基、ヒドロキシル基、カルボキシル基が好ましい。変性ゴムは、例示した官能基のうち少なくとも1種を有することができる。アミノ基としては、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基などが挙げられる。アルコキシル基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基などが挙げられる。例示した官能基は、シリカのシラノール基(Si-OH)と相互作用する。ここで、相互作用とは、たとえば、シリカのシラノール基との間で化学反応による化学結合または水素結合することを意味する。第一段階で使用するゴム100質量%中の変性ゴムの量は、10質量%以上であってもよく、20質量%以上であってもよく、30質量%以上であってもよい。第一段階で使用するゴム100質量%中の変性ゴムの量は、90質量%以下であってもよく、80質量%以下であってもよく、70質量%以下であってもよい。
【0041】
シリカとして、たとえば、湿式シリカ、乾式シリカを挙げることができる。なかでも、湿式シリカが好ましい。湿式シリカとして、沈降法シリカを挙げることができる。シリカの窒素吸着法による比表面積は、たとえば、80m2/g以上であってもよく、120m2/g以上であってもよく、140m2/g以上であってもよく、160m2/g以上であってもよい。シリカの比表面積は、たとえば、300m2/g以下であってもよく、280m2/g以下であってもよく、260m2/g以下であってもよく、250m2/g以下であってもよい。ここで、シリカの比表面積は、JIS K-6430に記載の多点窒素吸着法(BET法)に準じて測定される。
【0042】
第一段階において、シリカの量は、ゴム100質量部に対して、好ましくは10質量部以上、より好ましくは30質量部以上、さらに好ましくは50質量部以上、さらに好ましくは70質量部以上、さらに好ましくは80質量部以上である。シリカの量は、ゴム100質量部に対して、好ましくは150質量部以下、より好ましくは140質量部以下、さらに好ましくは130質量部以下、さらに好ましくは120質量部以下である。
【0043】
シランカップリング剤として、たとえば、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4-トリエキトシシリルブチル)ジスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2-トリメトキシシリルエチル)ジスルフィドなどのスルフィドシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、メルカプトプロピルジメチルメトキシシラン、メルカプトエチルトリエトキシシランなどのメルカプトシラン、3-オクタノイルチオ-1-プロピルトリエトキシシラン、3-プロピオニルチオプロピルトリメトキシシランなどの保護化メルカプトシランを挙げることができる。これらから、一つまたは任意の組み合わせを選択して、使用することができる。
【0044】
第一段階において、シランカップリング剤の量は、シリカ100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは3質量部以上、さらに好ましくは5質量部以上である。シランカップリング剤量の上限は、シリカ100質量部に対して、たとえば20質量部、15質量部である。
【0045】
第一段階では、ゴム、シリカおよびシランカップリング剤とともに、カーボンブラック、老化防止剤、ステアリン酸、ワックス、酸化亜鉛、オイルなどを混練りすることができる。これらから、一つまたは任意の組み合わせを選択して、使用することができる。
【0046】
カーボンブラックとしては、たとえばSAF、ISAF、HAF、FEF、GPFなどのファーネスブラックのほか、アセチレンブラックやケッチェンブラックなどの導電性カーボンブラックを使用することができる。カーボンブラックは、そのハンドリング性を考慮して造粒された、造粒カーボンブラックであってもよく、未造粒カーボンブラックであってもよい。これらのうち一種または二種以上を使用することができる。
【0047】
老化防止剤として、芳香族アミン系老化防止剤、アミン-ケトン系老化防止剤、モノフェノール系老化防止剤、ビスフェノール系老化防止剤、ポリフェノール系老化防止剤、ジチオカルバミン酸塩系老化防止剤、チオウレア系老化防止剤などを挙げることができる。老化防止剤は、これらから、一つまたは任意の組み合わせを選択して、使用することができる。
【0048】
第一段階では、ラム7の移動可能範囲のうち最下位置よりも上方の第一位置にラム7を維持した状態で混練りをおこなう。これによって、材料(すなわち配合剤やゴム)がラム7の上に乗ることを防止できるため、高フィルファクター(たとえば、接線式密閉型混練機で採用されるフィルファクターと、実質的に同程度またはそれ以上のフィルファクター)で混練りすることができる。しかも、材料(すなわち配合剤やゴム)がラム7の上に乗ることを防止できるため、配合剤の取り込み効率を向上することができる。つまり、BITを短くすることができる。その結果、シリカ分散のための混練時間を確保できるため、シリカ分散を向上することができる。したがって、低発熱性や、湿潤路面制動性を改善することができる。
【0049】
ラム7が最下位置にあるときの、ラム7とケーシング2とで囲まれた空間のボリュームを第一有効ボリュームとし、ラム7が第一位置にあるときの、ラム7とケーシング2とで囲まれた空間のボリュームを第二有効ボリュームとしたとき、第一段階では、第二有効ボリュームが、第一有効ボリューム100%に対して105%以上であり、好ましくは108%以上であり、より好ましくは110%以上であり、さらに好ましくは112%以上であり、さらに好ましくは114%以上である。105%以上であることによって、材料(すなわち配合剤やゴム)がラム7の上に乗ることを効果的に防止できるので、配合剤の取り込み効率をいっそう向上することができる。つまり、BITをいっそう短くすることができる。
【0050】
第一段階では、第二有効ボリュームが、第一有効ボリューム100%に対して120%以下であり、好ましくは119%以下であり、より好ましくは118%以下である。120%以下であることによって、練り生地に、せん断を効果的にかけることができるため、第一段階(すなわち、混練り温度の上昇を伴う混練りをおこなう段階)で混練り温度を差支えなく上昇させることができる。
【0051】
ここで、第一および第二の「有効ボリューム」とは、ラム7と、ケーシング2とで囲まれた空間のボリュームである。これらの有効ボリュームは、ラム7と、ケーシング2とで囲まれた空間のボリュームから、ローター3のボリュームが取り除かれた値ではない。
【0052】
第一段階のフィルファクターの説明は、上述した工程S1のフィルファクターの説明と重複するため省略する。よって、工程S1のフィルファクターの説明を、第一段階のフィルファクターの説明としても扱うことができる。
【0053】
<2.1.2.第二段階(カップリング反応が抑制されるように混練りをおこなう段階)>
第二段階では、カップリング反応(シリカおよびシランカップリング剤の反応)が抑制されるように、混練り温度を制御しながら混練りをおこなう。これによって、カップリング反応が活発にすすむ前に、シリカを効果的に分散させることができる。その結果、低発熱性や、湿潤路面での制動性(湿潤路面制動性)をいっそう改善することができる。
【0054】
第二段階では、混練り温度が、一定に保持されるように混練りする。「混練り温度が、一定に保持される」とは、混練り温度が、一定の範囲内に保持されることを含む。第二段階では、具体的には、実測温度Tpが、目標温度Tsに保持されるように混練りする。このとき、実測温度Tpが、目標温度Tsのプラスマイナス5℃内に保持され得る。目標温度Tsは、140℃未満であってもよく、138℃以下であってもよく、135℃以下であってもよく、132℃以下であってもよく、130℃以下であってもよい。目標温度Tsは、100℃以上が好ましく、110℃以上がより好ましく、115℃以上がさらに好ましく、120℃以上がさらに好ましい。これが低すぎると、シリカを分散させるために時間がかかる傾向がある。なお、目標温度Tsは、配合を考慮して、特にシランカップ剤の種類を考慮して適宜設定することができる。
【0055】
第二段階では、10秒以上、混練り温度が一定の範囲内に保持されるように混練りする。これは、20秒以上が好ましく、30秒以上がより好ましく、40秒以上がさらに好ましく、50秒以上がさらに好ましい。これは、1000秒以下であってもよく、800秒以下であってもよく、600秒以下であってもよく、400秒以下であってもよく、200秒以下であってもよく、100秒以下であってもよい。
【0056】
混練り温度の保持は、ローター3の回転速度の調整によっておこなわれる。具体的には、ローター3の回転速度が、PID制御で調整されることによって、混練り温度の保持がおこなわれる。ここでは、ローター3の回転速度が、実測温度Tpを目標温度TsとするためのPID制御で調整される。PID制御は、混練りの当初から開始してもよく、実測温度Tpが、所定の温度に到達することをもって、開始してもよい。
【0057】
第二段階でも、ラム7の移動可能範囲のうち最下位置よりも上方の第一位置にラム7を維持した状態で混練りをおこなう。
【0058】
第二段階では、第二有効ボリューム(すなわち、ラム7が第一位置にあるときの、ラム7とケーシング2とで囲まれた空間のボリューム)が、第一有効ボリューム(すなわち、ラム7が最下位置にあるときの、ラム7とケーシング2とで囲まれた空間のボリューム)100%に対して好ましくは105%以上であり、より好ましくは108%以上であり、さらに好ましくは110%以上であり、さらに好ましくは112%以上であり、さらに好ましくは114%以上である。105%以上であることによって、混練り温度を容易く維持することができる。これについて説明する。仮に、第二段階でラム7が最下位置にあったとすると、せん断発熱が大きいため、温度上昇を招きやすい。これに対して、本実施形態では、第二有効ボリュームが、第一有効ボリューム100%に対して105%以上であることによって、すなわち、ラム7が適度に位置することによって、せん断発熱が過度に大きくなることを回避できるため、混練り温度を目標温度Tsに容易く維持することができる。
【0059】
第二段階では、第二有効ボリュームが、第一有効ボリューム100%に対して好ましくは120%以下であり、より好ましくは119%以下であり、さらに好ましくは118%以下である。120%以下であることによって、混練り温度を差支えなく維持することができる。これについて説明する。仮に、第二段階でラム7が過度に上方にあったとすると、せん断発熱が過度に小さくなる。これに対して、本実施形態では、第二有効ボリュームが、第一有効ボリューム100%に対して120%以下であることによって、すなわち、ラム7が適度に位置することによって、せん断発熱が過度に小さくなることを回避できるため、混練り温度を目標温度Tsに差支えなく維持することができる。
【0060】
なお、第二段階の第二有効ボリュームは、第一段階の第二有効ボリュームと同じである必要はない。つまり、第二段階の第二有効ボリュームは、第一段階の第二有効ボリュームと同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0061】
<2.1.3.第三段階(混練り温度のさらなる上昇を伴う混練りをおこなう段階)>
第三段階では、混練り温度のさらなる上昇を伴う混練りをおこなう。第三段階では、混練り温度を、カップリング反応が活発にすすむ温度(たとえば140℃以上)まで上昇させる。具体的には、混練り温度を、第四段階の目標温度Tsまで上昇させる。
【0062】
第三段階では、ラム7の移動可能範囲のうち最下位置にラム7を維持した状態で混練りをおこなってもよく、ラム7の最下位置よりも上方の第一位置にラム7を維持した状態で混練りをおこなってもよい。
【0063】
<2.1.4.第四段階(カップリング反応がすすむように混練りをおこなう段階)>
第四段階では、カップリング反応(シリカおよびシランカップリング剤の反応)がすすむように、混練り温度を制御しながら混練りをおこなう。これによって、カップリング反応を活発にすすめることができるので、カップリング反応の効率を上げることが可能であり、その結果、シリカの凝集力を効果的に低下させることができる。したがって、シリカの分散を効果的に高めることが可能であるので、タイヤの低発熱性や湿潤路面制動性を改善することができる。
【0064】
第四段階では、ラム7の移動可能範囲のうち最下位置にラム7を維持した状態で混練りをおこなってもよく、ラム7の最下位置よりも上方の第一位置にラム7を維持した状態で混練りをおこなってもよい。
【0065】
第四段階では、混練り温度が、一定に保持されるように混練りする。「混練り温度が、一定に保持される」とは、混練り温度が、一定の範囲内に保持されることを含む。第四段階では、具体的には、実測温度Tpが、目標温度Tsに保持されるように混練りする。このとき、実測温度Tpが、目標温度Tsのプラスマイナス5℃内に保持され得る。目標温度Tsは、140℃以上であってもよく、142℃以上であってもよく、145℃以上であってもよく、148℃以上であってもよく、150℃以上であってもよい。これが低すぎると、カップリング反応をすすめるために時間がかかり過ぎる傾向がある。目標温度Tsは、170℃以下が好ましく、165℃以下がより好ましく、160℃以下がさらに好ましく、155℃以下がさらに好ましく、153℃以下がさらに好ましい。これが高すぎると、ゲルが発生することがある。
【0066】
第四段階では、20秒以上、混練り温度が一定の範囲内に保持されるように混練りする。これは、40秒以上が好ましく、60秒以上がより好ましく、80秒以上がさらに好ましく、100秒以上がさらに好ましい。これは、2000秒以下であってもよく、1500秒以下であってもよく、1000秒以下であってもよく、500秒以下であってもよく、300秒以下であってもよく、200秒以下であってもよい。
【0067】
なお、混練り温度の保持は、第二段階と同じように、ローター3の回転速度の調整によっておこなわれる。
【0068】
その後、必要に応じて、所定の排出温度まで混練りを続け、ドロップドア9を開け、ゴム混合物を排出する。
【0069】
<2.1.5.そのほか>
必要に応じて、シリカの分散性向上や、ムーニー粘度の低減のために、ゴム混合物をさらに混練りすることができる。つまり、再練りすることができる。
【0070】
以上のような手順で、ゴム混合物を得ることができる。
【0071】
<2.2.工程S2(ゴム混合物および加硫系配合剤を混練りしてゴム組成物を得る工程)>
工程S2では、少なくともゴム混合物および加硫系配合剤を混練りしてゴム組成物を得る。加硫系配合剤として硫黄、有機過酸化物などの加硫剤、加硫促進剤、加硫促進助剤、加硫遅延剤などを挙げることができる。加硫系配合剤は、これらから、一つまたは任意の組み合わせを選択して、使用することができる。硫黄として粉末硫黄、沈降硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄などを挙げることができる。硫黄は、これらから、一つまたは任意の組み合わせを選択して、使用することができる。加硫促進剤としてスルフェンアミド系加硫促進剤、チウラム系加硫促進剤、チアゾール系加硫促進剤、チオウレア系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤、ジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤などを挙げることができる。加硫促進剤は、これらから、一つまたは任意の組み合わせを選択して、使用することができる。混練りは、混練機でおこなうことができる。混練機として密閉式混練機、オープンロールなどを挙げることができる。密閉式混練機として、かみ合式密閉型混練機、接線式密閉型混練機などを挙げることができる。
【0072】
ゴム組成物において、シリカの量は、ゴム100質量部に対して、好ましくは10質量部以上、より好ましくは30質量部以上、さらに好ましくは50質量部以上、さらに好ましくは70質量部以上、さらに好ましくは80質量部以上である。シリカの量は、ゴム100質量部に対して、好ましくは150質量部以下、より好ましくは140質量部以下、さらに好ましくは130質量部以下、さらに好ましくは120質量部以下である。
【0073】
ゴム組成物において、シランカップリング剤の量は、シリカ100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは3質量部以上、さらに好ましくは5質量部以上である。シランカップリング剤量の上限は、シリカ100質量部に対して、たとえば20質量部、15質量部である。
【0074】
ゴム組成物は、カーボンブラック、老化防止剤、ステアリン酸、ワックス、酸化亜鉛、オイル、硫黄、加硫促進剤などをさらに含むことができる。これらのうち、一つまたは任意の組み合わせをゴム組成物は含むことができる。硫黄の量は、ゴム100質量部に対して、硫黄分換算で好ましくは0.5質量部~5質量部である。加硫促進剤の量は、ゴム100質量部に対して、好ましくは0.1質量部~5質量部である。
【0075】
ゴム組成物は、タイヤの作製に使用できる。具体的には、タイヤを構成するタイヤ部材の作製に使用可能である。たとえば、トレッドゴム、サイドウォールゴム、チェーハーゴム、ビードフィラーゴムなどの作製にゴム組成物を使用できる。これらのタイヤ部材のうち、一つまたは任意の組み合わせを作製するためにゴム組成物を使用できる。
【0076】
<3.タイヤの製造方法の各工程>
次に、本実施形態におけるタイヤの製造方法が含む工程のいくつかを説明する。なお、これらの工程のうち、ゴム組成物の作製工程はすでに説明した。
【0077】
本実施形態におけるタイヤの製造方法は、ゴム組成物を用いて未加硫タイヤを作製する工程を含む。この工程は、ゴム組成物を含むタイヤ部材を作製すること、およびタイヤ部材を備える未加硫タイヤを作製することを含む。タイヤ部材として、たとえば、トレッドゴム、サイドウォールゴム、チェーハーゴム、ビードフィラーゴムを挙げることができる。なかでも、トレッドゴムが好ましい。
【0078】
本実施形態におけるタイヤの製造方法は、未加硫タイヤを加硫成型する工程をさらに含むことができる。本実施形態の方法で得られたタイヤは、空気入りタイヤであることができる。
【0079】
<上述の実施形態には種々の変更を加えることができる>
上述の実施形態には、種々の変更を加えることができる。たとえば、以下の変形例から、一つまたは複数を選択して、上述の実施形態に変更を加えることができる。
【0080】
上述の実施形態では、第一段階から第四段階を含む混練ステージでシリカ全量を投入する、という構成を説明した。しかしながら、上述の実施形態は、この構成に限定されない。たとえば、シリカを、複数の混練ステージに分けて投入してもよい。
【0081】
上述の実施形態では、第二段階(すなわち、カップリング反応が抑制されるように混練りをおこなう段階)にて混練り温度を制御する、という構成を説明した。しかしながら、上述の実施形態は、この構成に限定されない。たとえば、第二段階にて混練り温度を制御しなくてもよい。
【0082】
上述の実施形態では、第一段階だけでなく第二段階(すなわち、カップリング反応が抑制されるように混練りをおこなう段階)でも、第一位置(すなわち、ラム7の移動可能範囲のうち最下位置よりも上方の位置)にラム7を維持した状態で混練りをおこなう、という構成を説明した。しかしながら、上述の実施形態は、この構成に限定されない。
【0083】
上述の実施形態では、第四段階(すなわち、カップリング反応がすすむように混練りをおこなう段階)にて混練り温度を制御する、という構成を説明した。しかしながら、上述の実施形態は、この構成に限定されない。たとえば、第四段階にて混練り温度を制御しなくてもよい。
【0084】
上述の実施形態では、ゴム混合物および加硫系配合剤を混練りしてゴム組成物を得る、という構成を説明した。しかしながら、上述の実施形態は、この構成に限定されない。たとえば、ゴム混合物をゴム組成物とみなしてもよい。
【実施例】
【0085】
以下に、本発明の実施例を説明する。
【0086】
実施例で使用した原料および薬品を次に示す。
SBR1 「SBR1502」JSR社製
SBR2 「SBR1723」(油含量37.5質量%)JSR社製
NR RSS#3
カーボンブラック 「シーストKH」東海カーボン社製
シリカ 「VN3」(BET=180m2/g)エボニック社製
オイル 「プロセスNC‐140」JX日鉱日石エネルギー社製
シランカップリング剤 「Si75」デグッサ社製
酸化亜鉛 「酸化亜鉛2種」三井金属鉱業社製
ワックス 「OZOACE0355」日本精蝋社製
ステアリン酸 「工業用ステアリン酸」花王社製
硫黄 「5%油処理粉末硫黄」鶴見化学工業社製
加硫促進剤 「ノクセラーNS-P」大内新興化学工業社製
なお、後述の表1において、SBR2の質量部は、正味のゴム量に基づいて示す。すなわち、後述の表1においてSBR2が30質量部である場合、その30質量部の中に、油の量は計上されていない。
また、Si75は、130℃ではシリカとの反応がほとんどすすまず、150℃ではシリカとの反応がすすむシランカップリング剤である。
【0087】
比較例1における未加硫ゴムの作製
表1にしたがってゴムと配合剤とを接線式密閉型混練機に投入し、PID制御なしで混練りし、160℃で混合物を排出した。この混練り中は、掃除のためのラム上下動を除き、ラムを最下位置に維持した。混合物と硫黄と加硫促進剤とを混練りし、未加硫ゴムを得た。
【0088】
比較例2における未加硫ゴムの作製
表1にしたがってゴムと配合剤とを、かみ合式密閉型混練機に投入し、PID制御なしで混練りし、160℃で混合物を排出した。この混練り中は、掃除のためのラム上下動を除き、ラムを最下位置に維持した。混合物と硫黄と加硫促進剤とを混練りし、未加硫ゴムを得た。
【0089】
比較例3における未加硫ゴムの作製
表1にしたがってゴムと配合剤とを、かみ合式密閉型混練機に投入し、二段階のPID制御で混練りし、160℃で混合物を排出した。すなわち、一段階目は、目標温度130℃、60秒で混練りし、二段階目は、目標温度150℃、120秒で混練りし、160℃で混合物を排出した。この混練り中は、掃除のためのラム上下動を除き、ラムを最下位置に維持した。混合物と硫黄と加硫促進剤とを混練りし、未加硫ゴムを得た。
【0090】
実施例1および2における未加硫ゴムの作製
表1にしたがってゴムと配合剤とを、かみ合式密閉型混練機に投入し、二段階のPID制御で混練りし、160℃で混合物を排出した。すなわち、一段階目は、目標温度130℃、60秒で混練りし、二段階目は、目標温度150℃、120秒で混練りし、160℃で混合物を排出した。この混練り中は、掃除のためのラム上下動を除き、ラムを最下位置よりも上方の位置に維持した。つまり、この混練り中、ラムアップ状態を維持した。混合物と硫黄と加硫促進剤とを混練りし、未加硫ゴムを得た。
【0091】
実施例3における未加硫ゴムの作製
表1にしたがってゴムと配合剤とを、かみ合式密閉型混練機に投入し、二段階のPID制御で混練りし、165℃で混合物を排出した。すなわち、一段階目は、目標温度120℃、80秒で混練りし、二段階目は、目標温度150℃、120秒で混練りし、165℃で混合物を排出した。この混練り中は、掃除のためのラム上下動を除き、ラムを最下位置よりも上方の位置に維持した。つまり、この混練り中、ラムアップ状態を維持した。混合物と硫黄と加硫促進剤とを混練りし、未加硫ゴムを得た。
【0092】
加硫ゴムの作製
未加硫ゴムを150℃、30分間で加硫し、加硫ゴムを得た。
【0093】
Black Incorporation Time(BIT)
混練時間とトルクとに基づいて、BITを求めた。
【0094】
一段階目の制御(すなわち第一制御)における温度の安定性
一段階目の制御(すなわち第一制御)において、実測温度Tpが、目標温度Tsのプラスマイナス3℃内に保持された場合は◎と判定し、プラスマイナス3℃~5℃に保持された場合は〇と判定し、プラスマイナス5℃~10℃に保持された場合は×と判定した。
【0095】
未加硫ゴムシートの状態
未加硫ゴムをロールでシート状に成形し、その状態を観察した。シート切れおよびシート表面の気泡がいずれも無い場合は〇と判定し、シート切れがないもののシート表面に気泡が有る場合は△と判定し、シート切れおよびシート表面の気泡がいずれも有る場合は×と判定した。「〇」のものほど、未加硫ゴム中のシリカの分散性に優れることを意味する。
【0096】
生産性
生産性は、排出量に関する指数である。比較例1の排出量を100とした指数で、各例の排出量を、表1の生産性の欄に示す。指数が大きいほど排出量が多い。つまり、生産性に優れる。
【0097】
低燃費性
加硫ゴムのtanδを、東洋精機製作所製の粘弾性試験機を使用し、JIS K-6394に準じて測定した。tanδは、周波数10Hz、動歪み1.0%、温度60℃、静歪み(初期歪み)10%の条件で測定した。比較例1のtanδを100とした指数で、各例のtanδを表1に示す。指数が小さいほどtanδが低く、低燃費性に優れる。
【0098】
湿潤路面制動性
リュプケ式反発弾性試験機を使用し、23℃の条件でJIS K6255に準じて、反発弾性(%)を測定した。比較例1における反発弾性の逆数を100とした指数で、各例の逆数(反発弾性の逆数)を表1に示す。指数が大きいほど湿潤路面制動性に優れる。
【0099】
【0100】
なお、表1において、二段階のPID制御は、実測温度が目標温度に到達した時点で開始されるPID制御を意味する。このPID制御では、ローターの回転速度が制御される。
【0101】
かみ合式密閉型混練機で混練する際のフィルファクターとして、接線式密閉型混練機で採用したフィルファクターよりも小さい値を採用することによって、かみ合式密閉型混練機で混練する際のBITが、接線式密閉型混練機のそれと、おおよそ同程度になった(比較例1および比較例2参照)。
【0102】
接線式密閉型混練機で採用したフィルファクターと、実質的に同程度のフィルファクターで混練りしたところ、ラムアップ状態の混練りによって、BITを短くすることができた(比較例3および実施例1~3参照)。これに加えて、ラムアップ状態の混練りによって、未加硫ゴムシートの状態を向上することもできた(比較例3および実施例1~3参照)。つまり、シリカの分散性を向上することができた。さらにいえば、ラムアップ状態の混練りによって、低発熱性、湿潤路面制動性を改善することもできた(比較例3および実施例1~3参照)。
【符号の説明】
【0103】
1…かみ合式密閉型混練機、2…ケーシング、2a…開口部、3…ローター、4…混練室、5…ネック部、6…投入口、7…ラム、8…シャフト、9…ドロップドア、11…制御部、13…温度センサー