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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】農園芸植物の細菌病の防除剤
(51)【国際特許分類】
   A01N 47/18 20060101AFI20241016BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
A01N47/18 101A
A01P3/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021006206
(22)【出願日】2021-01-19
(65)【公開番号】P2022110665
(43)【公開日】2022-07-29
【審査請求日】2023-07-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000004307
【氏名又は名称】日本曹達株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109508
【弁理士】
【氏名又は名称】菊間 忠之
(72)【発明者】
【氏名】西村 聡
(72)【発明者】
【氏名】福島 悠介
(72)【発明者】
【氏名】山田 茂雄
【審査官】岩田 行剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-079140(JP,A)
【文献】国際公開第2011/115029(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N
A01P
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピカルブトラゾクスを含有する、農園芸植物におけるかさ枯病の防除剤。
【請求項2】
ピカルブトラゾクスを含有し、
イミダクロプリドおよびその塩、トリフルミゾールおよびその塩、スピノサドおよびその塩、ヒドロキシイソキサゾールおよびその塩、チオファネートメチルおよびその塩、トリシクラゾールおよびその塩、クロチアニジンおよびその塩、ベノミルおよびその塩、アセタミプリドおよびその塩、ピコキシストロビン、フルトラニル、イソプロチオランならびに塩基性硫酸銅をいずれも含有しない、
農園芸植物における軟腐病、かさ枯病および褐条病からなる群から選ばれる少なくとも一つの細菌病の防除剤。
【請求項3】
請求項1に記載の防除剤を農園芸植物に施用することを含む、かさ枯病の防除方法。
【請求項4】
請求項2に記載の防除剤を農園芸植物に施用することを含む、軟腐病、かさ枯病および褐条病からなる群から選ばれる少なくとも一つの細菌病の防除方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農園芸植物の細菌病の防除剤および防除方法に関する。より詳細に、本発明は、細菌に起因する農園芸植物の病害を予防的または治療的に軽減することができる防除剤および防除方法に関する。
【背景技術】
【0002】
農産物などの農園芸植物は、病害虫に起因して病害を引き起こすことがある。また、その病害虫は、カビ(真菌、糸状菌)、細菌(バクテリア)、ウイルス、害虫等に分類することができる。
【0003】
カビの増殖によって引き起こされる病気の例として、うどん粉病、灰色カビ病、べと病などを挙げることができる。カビの菌自体は土などに元々おり、必要な微生物であるが、増えすぎると病害を引き起こす。カビに起因する病害の防除のために殺菌剤または殺カビ剤が使用される。
【0004】
一方、細菌の感染で引き起こされる病気の例として、黄化病、萎縮病、えそモザイク病、青枯病、軟腐病、かさ枯病、褐条病などを挙げることができる。細菌は自分の力だけで野菜の中に侵入することができず、カメムシ、アブラムシ、コナジラミなどの虫が媒介して感染すると言われている。また、雨や風によって運ばれてきたものが農園芸植物の傷口に入り感染することがあるとも言われている。
細菌(バクテリア)に起因する病害の防除のために殺細菌剤が使用される。カビに起因する病害の防除のために使用される殺菌剤または殺カビ剤は、細胞の構造の違いから細菌やウイルスに起因する病害を防除する効果が無い若しくは弱いことが多いと言われている。
【0005】
殺細菌剤の種類は多くなく、細菌に起因する病害の防除のための薬剤開発が求められている。
例えば、特許文献1は、第一の有効成分化合物Iと第二の有効成分化合物IIとを含有する、殺虫、殺ダニ、殺線虫、殺軟体動物、殺菌又は殺バクテリア組成物を開示している。特許文献1は、第二の有効成分化合物IIとして多数の化合物を開示している。第二の有効成分化合物IIの中の一つの有効成分群Lの一例としてピカルブトラゾクスを示している。ただ、特許文献1は、有効成分群Lの意味を示しておらず、ピカルブトラゾクス自体に殺細菌(殺バクテリア)の作用がある否かについて何も教えていない。
【0006】
ピカルブトラゾクスは公知の殺菌剤である。ピカルブトラゾクスの作用機構は不明であるが、菌糸の伸長を阻害することにより殺菌作用を示すと考えられている。
例えば、特許文献2は、テトラゾイルオキシム誘導体及びこれを有効成分とする農薬を開示している。特許文献2は、テトラゾイルオキシム誘導体の例を多数開示している。その中の一つとしてピカルブトラゾクス(化合物番号(13)-8)を示している。特許文献2によると、ピカルブトラゾクスは、ブドウべと病菌(糸状菌)、トマト疫病菌(糸状菌)に対して防除効果を示すようである。
【0007】
非特許文献1および非特許文献2は、ピカルブトラゾクスが、卵菌類由来の病害に対して優れた効力を示すと、述べている。卵菌類は、造卵器と造精器による有性生殖によって卵胞子を生じる菌類の一群で、クサリツボカビ目,ミズカビ目,フシミズカビ目,ツユカビ目などを含むようである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】WO2016/002790A
【文献】特開2003-137875号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】小堀ら「ピカルブトラゾクスへの道」農薬時代第199号(2018)第14~19頁
【文献】桑原「殺菌剤ピカルブトラゾクスの特長」植物防疫第72巻第3号(2018)第138頁~
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、細菌に起因する農園芸植物の病害を予防的または治療的に軽減することができる防除剤および防除方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために検討した結果、下記の態様を包含する本発明を完成するに至った。
【0012】
〔1〕 ピカルブトラゾクスを含有する、農園芸植物の細菌病の防除剤。
〔2〕 〔1〕に記載の防除剤を施用することを含む、農園芸植物の細菌病の防除方法。
〔3〕 ピカルブトラゾクスを含有する、ハクサイ若しくはシバの細菌病の防除剤。
〔4〕 ピカルブトラゾクスを含有する、軟腐病、かさ枯病および褐条病からなる群から選ばれる少なくとも一つの細菌病の防除剤。
【発明の効果】
【0013】
本発明の防除剤は、細菌に起因する農園芸植物の病害を予防的または治療的に軽減する効果を有する。本発明の防除方法によれば、細菌に起因する農園芸植物の病害を予防的または治療的に軽減できる。なお、「予防的に軽減できる」とは、本発明の防除剤を細菌に感染する前の農園芸植物に施用し、その後、細菌に感染しても、その細菌に起因する病害を軽減できることを意味する。「治療的に軽減できる」とは、本発明の防除剤を細菌に既に感染してしまった農園芸植物に施用し、その細菌に起因する病害を軽減できる若しくは該病害の進行を遅延できることを意味する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の防除剤は、ピカルブトラゾクス(picarbutrazox)を含有するものである。
ピカルブトラゾクスは、式(I)で表される化合物(tert-ブチル=(6-{[(Z)-(1-メチル-1H-5-テトラゾリル)(フェニル)メチレン]アミノオキシメチル}-2-ピリジル)カルバマート〔CAS番号500207-04-5〕)である。
ピカルブトラゾクスの原体は、白色結晶性粉末として、通常、提供される。ピカルブトラゾクスを含有する製品としては、クインテクト(登録商標)顆粒水和剤(20%含有、日本曹達社製)、ピシロック(登録商標)フロアブル(5%含有、日本曹達社製)、ナエファイン(登録商標)粉剤(0.7%含有、日本曹達社製)などを挙げることができる。
【0015】
【0016】
本発明の防除剤は、ピカルブトラゾクスの原体そのもの若しくはピカルブトラゾクスの原体を用いて製剤化したものであってもよいし、ピカルブトラゾクスを含有する製品として提供されているもの若しくはそれを用いて製剤化したものであってもよい。
【0017】
製剤は、通常の農園芸用薬のとり得る形態であることができる。剤型としては、例えば、粉剤(DP、Dustable Powder)、水和剤(WP、Wattable Powder)、乳剤(EC、Emulsifiable Concentrate)、フロアブル剤(FL、flowable)、懸濁剤(SC、Suspension Concentrate)、水溶剤(SP、Water Soluble Powder)、顆粒水和剤(WG、Water Dispersible Granule)、錠剤(Tablet)、粒剤(GR、Granule)、SE剤(Suspo Emulsion)、OD剤(Oil Dispersion)、EW剤(Emulsion oil in water)等を挙げることができる。
【0018】
製剤化は、特にその手法や手順によって制限されず、公知の手法や手順によって行うことができる。
製剤化において、担体、溶剤、補助剤、添加剤などの製剤副資材;殺菌剤、殺虫剤、殺ダニ剤、殺線虫剤、殺土壌害虫剤、駆虫剤、除草剤、植物成長調整剤、肥料などの他の農園芸用成分などを製剤に含有させることができる。
【0019】
製剤に含有させ得る担体、溶剤および補助剤は、本発明の目的を阻害しない限り、特に制限されない。担体および補助剤の具体例は、WO03/016303Aに列挙されるものを引用して、本願明細書に記載したものとする。溶剤としては、水または有機溶媒を用いることができる。製剤に含有させる場合における担体または補助剤の質量は、本発明の目的を阻害しない限り、特に制限されない。
【0020】
製剤に含有させ得る添加剤としては、例えば、界面活性剤、分散剤、酸化防止剤、着色剤、滑剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、防腐剤、pH調整剤、消泡剤、比重調整剤、ドリフト防止剤、混用改良材、保湿剤、拡展剤、固着剤、キレート剤、香料などを挙げることができる。界面活性剤の具体例は、WO2019/221089Aに列挙されるものを引用して、本願明細書に記載したものとする。製剤に含有させる場合における各添加剤の質量は、本発明の目的を阻害しない限り、特に制限されない。
【0021】
製剤に含有させ得る殺菌剤、殺虫剤、殺ダニ剤、殺線虫剤、殺土壌害虫剤、駆虫剤、除草剤、植物成長調整剤および肥料は、本発明の目的を阻害しない限り、特に制限されない。製剤に含有させる場合におけるこれらの質量は、特に制限されないが、ピカルブトラゾクスの質量に対して、好ましくは1/1000~1000/1、より好ましくは、1/100~100/1である。
殺菌剤、殺虫剤、殺ダニ剤、殺線虫剤および殺土壌害虫剤の具体例は、WO2009/119072Aに列挙されるものを引用して、本願明細書に記載したものとする。除草剤(除草活性成分)の具体例は、WO2019/221089Aに列挙されるものを引用して、本願明細書に記載したものとする。
【0022】
本発明の農園芸植物の細菌病の防除方法は、本発明の防除剤を施用することを含む。施用の対象は、植物体(葉、茎、柄、花、蕾、果実、種子、スプラウト、根、塊茎、塊根、苗条、挿し木など)、土壌または水耕地などである。
【0023】
本発明の農園芸植物の細菌病の防除方法においては、剤型に応じて、本発明の防除剤をそのまま施用してもよいし、水などで希釈して施用してもよい。本発明の農園芸植物の細菌病の防除方法においては、本発明の防除剤と他の農園芸薬剤とを併せて若しくは混ぜ合わせて施用してもよい。
【0024】
水和剤、乳剤、またはフロアブル剤の場合には水で所定の濃度に希釈して懸濁液または乳濁液の状態にて施用することができる。
粒剤または粉剤の場合にはそのままの状態にて施用することができる。粒剤または粉剤は、種子処理、茎葉散布、土壌施用または水面施用に好ましく用いることができる。
【0025】
本発明の防除剤の栽培土壌への施用は、植物を植える前に行ってもよいし、植物を植えた後に行ってもよい。
【0026】
本発明の防除剤の土壌施用または水面施用は、ピカルブトラゾクスが1ヘクタール当たり0.1g以上の量となるように行うことができる。
【0027】
本発明の防除剤による種子処理は、ピカルブトラゾクスが種子重100kg当たり0.1g以上の量となるように行うことができる。なお、種子処理は、例えば、種子若しくは塊茎に本発明の防除剤のコーティング若しくは粉衣をすることによって、または種子若しくは塊茎を本発明の防除剤に浸漬することによって行うことができる。また、植物苗の根部を本発明の防除剤に浸漬する方法を採用することもできる。
【0028】
本発明の防除剤による茎葉処理は、ピカルブトラゾクスが1ヘクタール当たり0.1g以上の量となるように行うことができる。
【0029】
本発明の防除剤の散布は、スプレーガン、薬剤散布器、無人航空機(ドローン、ラジコンヘリ、ラジコン飛行機など)、有人航空機(ヘリコプター、軽飛行機など)、送風装置(ブラワーなど)などを用いて行うことができる。本発明の防除剤の散布量は、気象条件、施用時期、施用方法、施用機材などに応じて適宜設定でき、例えば、ピカルブトラゾクスが、10アール当たり、好ましくは1~500,000g、より好ましくは10~100,000g、さらに好ましくは100~10,000gとなる量に設定することができる。
【0030】
本発明の防除剤および防除方法によって防除できる細菌病としては、例えば、
青枯病細菌(Ralstonia solanacearumなど)に起因する青枯病(トマト、イチゴ、カブ、カボチャ、キュウリ、シソ、ジャガイモ、シュンギク、ダイコン、トウガラシ、ナス、ピーマンなど)、
桿状細菌(Erwinia carotovora subsp.carotovora、Pectobacterium carotovorumなど)に起因する軟腐病(カブ、キャベツ、キュウリ、サトイモ、ジャガイモ、セルリー、ダイコン、タマネギ、トウガラシ、トマト、ナス、ニラ、ニンジン、ハクサイ、パセリ、ピーマン、ブロッコリー、ラッキョウ、レタスなど)、
放射菌(Streptomyces spp.など)に起因するそうか病(ジャガイモ)、
褐条病細菌(Acidovorax avenae subsp.avenaeなど)に起因する褐条病(イネ、シバなど)、
かさ枯病細菌(Pseudomonas syringae pv. Atropurpreaなど)に起因するかさ枯病[ハローブライト](シバなど)、
桿状細菌(Xanthomonas axonopodis pv. Glycinesなど)に起因する葉焼病(インゲンなど)
細菌(Xanthomonas campestris pv. graminis = Xanthomonas translucens など)に起因する葉枯細菌病[バクテリアルリーフブライト](シバなど)
細菌(Pseudomonas fuscovaginaeなど)に起因する葉鞘腐敗病[シースブラウンスポット](シバなど)
細菌(Acidovolax avenae supsp. Avenaeなど)に起因する褐条病[ブラウンストライプ](シバなど)
細菌(Burkholderia plantariiなど)に起因する株枯細菌病[バクテリアルフットブライト](シバなど)
細菌に起因する葉白化症[ミルキーリーフ](シバなど)
桿状細菌(Pseudomonas syringae pv. lachrymansなど)に起因する斑点細菌病(キュウリ、ダイズ、レタス、ピーマンなど)
などを挙げることができる。なお、丸括弧内は対象農園芸植物の一例である。
【0031】
本発明の防除剤および防除方法が対象としうる農園芸植物は、細菌に起因する病害を発生しうるものであれば、特に限定されない。例えば、
トマト(Solanum lycopersicum)、ナス(Solanum melongena)、ジャガイモ(Solanum tuberosum)、トウガラシ(Capsicum annuum)、ピーマンなどのナス科(Solanaceae)の植物;
ダイコン(Raphanus sativus)、ハクサイ(Brassica rapa var. pekinensis)、キャベツ(Brassica oleracea var. capitata)、カブ(Brassica rapa var. glabra)、ブロッコリー(Brassica oleracea var. italica)、コマツナ(Brassica rapa var. perviridis)、カリフラワー(Brassica oleracea var. botrytis)などのアブラナ科(Brassicaceae)の植物;
キュウリ(Cucumis sativus L.)、カボチャ(Cucurbita)、スイカ、ズッキーニなどのウリ科(Cucurbitaceae)の植物;
ダイズ(Glycine max)、ドライビーンズ、インゲンなどのマメ科(Fabaceae syn. Leguminosae)の植物;
リンゴ、ナシ、モモ、バラ、イチゴなどのバラ科 (Rosaceae)の植物;
シソ(Perilla frutescens var. crispa)などのシソ科(Lamiaceae)の植物;
シュンギク(Glebionis coronaria)、レタス(Lactuca sativa)、キク(C. morifolium)、ヒマワリ(H. annuus)などのキク科(Asterales)の植物;
サトイモ(Colocasia esculenta (L.) Schott)などのサトイモ科(Araceae)の植物;
セロリ(Apium graveolens var. dulce)、ニンジン(Daucus carota subsp. sativus)、パセリ(Petroselinum crispum)、ミツバ(Cryptotaenia canadensis)などのセリ科(Apiaceae)の植物;
タマネギ(Allium cepa)、ネギ(Allium fistulosum L)ニラ(Allium tuberosum)、ラッキョウ(Allium chinense)、わけぎ(Allium cepa var. proliferum)などのヒガンバナ科(Amaryllidaceae)の植物;
オクラ(Abelmoschus esculentus)などのアオイ科(Malvaceae)の植物;
アスパラガス(Asparagus)などのキジカクシ科 (Asparagaceae)の植物;
テンサイ(Beta vulgaris ssp. vulgaris)、ホウレンソウなどのヒユ科 (Amaranthaceae)の植物;
ショウガ、ミョウガなどのショウガ科 (Zingiberaceae)の植物;
ウンシュウミカンなどのミカン科(Rutaceae)の植物;
ブドウなどのブドウ科(Vitaceae)の植物;
バナナなどのバショウ科(Musaceae)の植物;
カキノキなどのカキノキ科 (Ebenaceae)の植物;
エンバク(Avena sativa)、ハトムギ(Coix lacryma-jobi var. ma-yuen)、オーチャードグラス(Dactylis glomerata)、オオムギ(Hordeum vulgare)、イネ(Oryza sativa)、チモシー(Phleum pratense)、サトウキビ(Saccharum officinarum)、ライムギ(Secale cereale)、アワ(Setaria italica)、パンコムギ(Triticum aestivum)、トウモロコシ(Zea mays)、シバ(Zoysia spp.)などのイネ科(Gramineae)の植物;
などを挙げることができる。
本発明の防除剤および防除方法が対象としうる農園芸植物は、これら植物類の改良品種・変種、栽培品種、さらには突然変異体、ハイブリッド体、遺伝子組み換え体(GMO)であってもよい。
【0032】
以下、試験例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。但し、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0033】
本試験例で使用した細菌は以下のとおりである。
細菌1:Pectobacterium carotovorum(軟腐病菌)
細菌2:Pseudomonas syringae(かさ枯病菌)
細菌3:Acidovorax avenae(褐条病菌)
【0034】
試験例1 (ハクサイ軟腐病の評価試験)
市販のピシロックフロアブル(ピカルブトラゾクス 5%含有、日本曹達株式会社製)を水で1000倍に希釈し、薬液1を作成した。
温室内に、1区画(4.2m2)あたりに14株のハクサイ(品種:無双)を移植した。これを0.5mの距離を離して6区画分設けた。6区画の内、3区画を試験区画(区画1~区画3)、残り3区画を無処理区画(区画4~6)とした。
試験区画に、1区画あたりに833mlの薬液1を噴霧にて散布した。無処理区画には何も行わなかった。
薬液1の散布から4日経過した後に、各区画の両端に羅病したハクサイ片(ハクサイに細菌1を噴霧し、約5cm角に切断したもの)2枚をそれぞれ置いた。
薬液1の散布から7日経過した後に、試験区画および無処理区画のそれぞれに1000個/mlの細菌1の懸濁液1000mlを散布した。
薬液1の散布から8日経過した後に、それぞれ、以下の評価指標を用いて、株数を計測した。3区画分の株数から平均発病度を式(A)にて算出した。防除価を式(B)にて算出した。
それらの結果を表1に示す。本発明の防除剤は、ハクサイ軟腐病を予防的に軽減する効果があることがわかる。

平均発病度[%]=(指数1の株数×1+指数2の株数×2+指数3の株数×3)
/(調査株数×3)×100 (A)

防除価[%]=100-[(試験区画の平均発病度)
/(無処理区画の平均発病度)×100] (B)

ハクサイ軟腐病の評価指標:
指数0:病斑なし
指数1:外葉の一部のみに発病
指数2:外葉と結球葉の一部に発病
指数3:結球葉の大部分が発病、或いはそれ以上の被害があるもの
【0035】
【表1】
【0036】
試験例2 (シバかさ枯病のポット評価試験)
市販のクインテクト顆粒水和剤(ピカルブトラゾクス 20%含有、日本曹達株式会社製)を水で200倍に希釈し、薬液2を作成した。
ポット(縦7cm×横7cm×高さ3cm)にシバ(品種:ベントグラス、播種18日後のもの)を移植した。これを4つ作成し、温室内に置いた。4つの内、2つを試験ポット(ポット1およびポット2)、残り2つを無処理ポット(ポット3およびポット4)とした。
100,000,000個/mlの細菌2(かさ枯病菌)を付着させたハサミを用いて、シバの長さが約1cm程度になるように、各ポットのシバを刈ってシバに細菌を付着させた。各ポットをビニールシートで覆った。
2日経過した後に、1m2の枠内(縦1m、横1m)に2つの試験ポットを置き、200mlの薬液2を枠内に噴霧にて均一散布した。無処理ポットには何も行わなかった。
薬液2の散布から7日経過した後、最大長さが2mm以上ある病斑の数をカウント(以後、このカウント数を発病個体数と呼ぶ。)した。防除価を式(C)にて算出した。
その結果を表2に示す。本発明の防除剤は、シバかさ枯病を治療的に軽減する効果があることがわかる。

防除価[%]=100-[(試験ポットの発病個体数)
/(無処理ポットの発病個体数)]×100 (C)
【0037】
【表2】
【0038】
試験例3 (シバ褐条病のポット評価試験)
細菌2(かさ枯病菌)に代えて、細菌3(褐条病菌)を用いた以外は、試験例1と同じ方法で、防除価を算出した。
その結果を表3に示す。本発明の防除剤は、シバ褐条病を治療的に軽減する効果があることがわかる。
【0039】
【表3】
【0040】
試験例4 (シバ褐条病の圃場評価試験)
市販のクインテクト顆粒水和剤(ピカルブトラゾクス 20%含有、日本曹達株式会社製)を水で1000倍に希釈し、薬液3を作成した。
シバの圃場(品種:ベントグラス)を一区画1m×1mで6区画分を設けた。6区画の内、3区画を試験区画(区画1~区画3)、残り3区画を無処理区画(区画4~6)とした。
試験区画に、1区画あたりに500mlの薬液3を噴霧にて散布した。
薬液3の散布から1日経過した後、各区画全体を芝刈り機で高さ4mmになるようにシバを刈った。次いで、区画1~6のそれぞれに、20cm×20cmの接種区画を3つ設けた。各接種区画に10,000,000個/mlの細菌3(褐条病菌)の懸濁液20mlを噴霧にて均一散布して、細菌3をシバに接種した。接種区画を白寒冷紗(白の遮光ネット、または日よけネット)で覆って2日間放置した。
薬液散布から11日経過した後、各区画内に発生した褐変部分(褐条病の症状[葉脈に沿って葉が褐色になる])の面積を計測し、1区画に対する褐変部分の面積の百分率を算出した。この値を発病面積率(%)と呼ぶ。防除価を式(D)にて算出した。
その結果を表4に示す。本発明の防除剤は、シバ褐条病を予防的に軽減する効果があることがわかる。

防除価[%]=100-[(試験区画の発病面積率)
/(無処理区画の発病面積率)]×100 (D)
【0041】
【表4】
【0042】
以上のとおり、本発明の防除剤は、細菌に起因する農園芸植物の病害を予防的または治療的に軽減する効果を有し、本発明の防除方法によれば、細菌に起因する農園芸植物の病害を予防的または治療的に軽減できることがわかる。