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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】増殖礁
(51)【国際特許分類】
   A01K 61/00 20170101AFI20241016BHJP
   A01K 61/73 20170101ALI20241016BHJP
【FI】
A01K61/00 301
A01K61/73
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021038985
(22)【出願日】2021-03-11
(65)【公開番号】P2022138871
(43)【公開日】2022-09-26
【審査請求日】2024-01-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000192615
【氏名又は名称】日鉄神鋼建材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100109058
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 敏郎
(72)【発明者】
【氏名】阪上 正英
【審査官】油原 博
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-069878(JP,A)
【文献】特開2008-141979(JP,A)
【文献】特開2009-077649(JP,A)
【文献】特開2010-011822(JP,A)
【文献】特開2008-017775(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0118413(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2020-0103332(KR,A)
【文献】特開2007-295908(JP,A)
【文献】韓国登録特許第0720124(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 61/00-61/65;61/80-63/10
A01K 61/70-61/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
着生海洋生物が移植されてその移植された移植体からの着生海洋生物の増殖を促す増殖礁であって、
前記移植体が卵、胞子もしくは種子のいずれかである増殖源を放出するのを許容するように前記移植体を保持する移植体保持部と、
上方から見て前記移植体保持部を囲むように配置され、前記移植体保持部によって保持された前記移植体から放出されて前記移植体保持部の周囲で海中を沈下する前記増殖源を受け止める第1増殖源受部と、を備え、
前記第1増殖源受部は、前記移植体保持部から外側へ離れるにつれて高くなる形状をなしていて前記増殖源を受け止める面である第1受部受面を有する、増殖礁。
【請求項2】
前記第1増殖源受部は、前記第1受部受面と反対側を向く第1受部外側面と、前記第1受部受面から前記第1受部外側面へ当該第1増殖源受部を貫通する少なくとも1つの第1受部開口部と、を有する、請求項1に記載の増殖礁。
【請求項3】
前記第1増殖源受部は、上方から見て当該第1増殖源受部の中で最も外側に位置する第1受部外縁部を有し、
前記第1受部開口部は、前記第1受部外縁部において外向きに開口している、請求項2に記載の増殖礁。
【請求項4】
前記少なくとも1つの第1受部開口部は、前記第1増殖源受部の周方向に所定間隔で配置された複数の第1受部開口部を含む、請求項2又は3に記載の増殖礁。
【請求項5】
前記第1増殖源受部は、前記複数の第1受部開口部のうちそれぞれ当該第1増殖源受部の周方向において隣り合うもの同士の間の部分である複数の第1増殖源受片を有し、
前記複数の第1増殖源受片は、それぞれ、前記移植体保持部から外側へ離れるにつれて高くなるように延びる受片本体と、前記受片本体の延び方向に対して直交する前記受片本体の幅方向における前記受片本体の両端からそれぞれ立ち上がる一対の立上部と、を有する、請求項4に記載の増殖礁。
【請求項6】
前記第1受部受面は、上方から見て当該第1受部受面の中で最も外側に位置する第1受部受面外縁を有し、
前記増殖礁は、上方から見て前記第1受部受面外縁から内側に離れた位置において前記移植体保持部を囲むように配置され、前記移植体保持部によって保持された前記移植体から放出されて前記移植体保持部の周囲で海中を沈下する前記増殖源を受け止める第2増殖源受部をさらに備え、
前記第2増殖源受部は、前記第1受部受面との間に隙間が介在する状態でその第1受部受面の上に重なるように配置されている、請求項1~5のいずれか1項に記載の増殖礁。
【請求項7】
前記第2増殖源受部は、前記隙間を介して前記第1受部受面と対向する第2受部外側面を有し、
前記第2受部外側面は、前記移植体保持部から外側へ離れるにつれて高くなる形状を有し、
前記移植体保持部から外側へ離れる方向における前記第2受部外側面の高さの増加率は、前記移植体保持部から外側へ離れる方向における前記第1受部受面の高さの増加率よりも大きい、請求項6に記載の増殖礁。
【請求項8】
前記第2増殖源受部は、前記移植体保持部から外側へ離れるにつれて高くなる形状をなしていて前記増殖源を受け止める面である第2受部受面を有する、請求項6に記載の増殖
礁。
【請求項9】
前記第2増殖源受部は、前記第2受部受面と反対側を向き、前記隙間を介して前記第1受部受面と対向する第2受部外側面と、前記第2受部受面から前記第2受部外側面へ当該第2増殖源受部を貫通する少なくとも1つの第2受部開口部と、を有する、請求項8に記載の増殖礁。
【請求項10】
前記第1受部受面は、上方から見て当該第1受部受面の中で最も外側に位置する第1受部受面外縁を有し、
前記増殖礁は、上方から見て前記第1受部受面外縁から内側に離れた位置において前記移植体保持部を囲むように配置され、前記移植体保持部によって保持された前記移植体から放出されて前記移植体保持部の周囲で海中を沈下する前記増殖源を受け止める第2増殖源受部をさらに備え、
前記第2増殖源受部は、前記第1受部受面との間に隙間が介在する状態でその第1受部受面の上に重なるように配置されており、
前記第2増殖源受部は、前記移植体保持部から外側へ離れるにつれて高くなる形状をなしていて前記増殖源を受け止める面である第2受部受面を有し、
前記第2増殖源受部は、前記第2受部受面と反対側を向き、前記隙間を介して前記第1受部受面と対向する第2受部外側面と、前記第2受部受面から前記第2受部外側面へ当該第2増殖源受部を貫通する少なくとも1つの第2受部開口部と、を有し、
前記第2受部開口部は、上方から見て前記第1受部開口部から外れた位置に配置されている、請求項2~5のいずれか1項に記載の増殖礁。
【請求項11】
前記第2増殖源受部は、上方から見て当該第2増殖源受部の中で最も外側に位置する第2受部外縁部を有し、
前記第2受部開口部は、前記第2受部外縁部において外向きに開口している、請求項9又は10に記載の増殖礁。
【請求項12】
前記少なくとも1つの第2受部開口部は、前記第2増殖源受部の周方向に所定間隔で配置された複数の第2受部開口部を含む、請求項9~11のいずれか1項に記載の増殖礁。
【請求項13】
海中の被固定体に固定され、前記移植体保持部及び前記第1増殖源受部を前記被固定体から上方へ離間させた状態で支持する離間支持部をさらに備える、請求項1~12のいずれか1項に記載の増殖礁。
【請求項14】
前記離間支持部は、前記移植体保持部及び前記第1増殖源受部がその上に設置される台座と、前記台座から下方へ延びて前記被固定体に固定される脚部と、を有し、
前記台座は、前記脚部のうち当該台座に結合された部分の外側へ張り出す張出部を有する、請求項13に記載の増殖礁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、珊瑚、海藻もしくは海草などの着生海洋生物の増殖に用いられる増殖礁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、珊瑚、海藻もしくは海草などの着生海洋生物の増殖のために、その増殖の元となる着生海洋生物が移植されて海中に設置される増殖礁が知られている。下記特許文献1には、そのような増殖礁の一例として、海中で珊瑚を養殖するための珊瑚養殖装置が開示されている。
【0003】
特許文献1に開示された珊瑚養殖装置は、移植体としての珊瑚片が固定される天然石又はコンクリート等からなる人工基質と、その人工基質を海中に設置するための海中定着装置とを有する。海中定着装置は、海底に立設される杭と、その杭に着脱可能に装着されるとともに前記人工基質を海中で保持する定着具とを有する。定着具は、前記杭に嵌合するジョイントパイプと、そのジョイントパイプの頂部に固定されて人工基質を下から受ける基質受け具とを有する。この珊瑚養殖装置が人工基質に珊瑚片が固定された状態で海中に設置されて期間が経過することで、人工基質に固定された珊瑚片が成長して珊瑚が増殖するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-84920号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、着生海洋生物の増殖プロセスの一例として、着生海洋生物が海中において卵、胞子もしくは種子である増殖源を放出し、その放出された増殖源が海中の何らかの物体に付着し、その付着した増殖源から着生海洋生物が生育して着生海洋生物が増殖するというプロセスがある。このプロセスにおいて着生海洋生物から放出される増殖源は、その増殖源を放出した着生海洋生物の周囲において海中を沈下する。
【0006】
しかしながら、前記特許文献1に開示された珊瑚養殖装置を用いて前記増殖プロセスにより着生海洋生物の増殖を図る場合、人工基質に固定された移植体としての珊瑚片から海中に放出される増殖源(卵)は散逸して定着するのが困難であるため、前記増殖プロセスによる着生海洋生物の増殖を促進することが困難である。
【0007】
本発明の目的は、着生海洋生物の移植体から放出されてその移植体の周囲で海中を沈下する増殖源を高い確率で捕獲して着生海洋生物の増殖を促進することが可能な増殖礁を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明により提供される増殖礁は、着生海洋生物が移植されてその移植された移植体からの着生海洋生物の増殖を促すものである。この増殖礁は、前記移植体が卵、胞子もしくは種子のいずれかである増殖源を放出するのを許容するように前記移植体を保持する移植体保持部と、上方から見て前記移植体保持部を囲むように配置され、前記移植体保持部によって保持された前記移植体から放出されて前記移植体保持部の周囲で海中を沈下する前記増殖源を受け止める第1増殖源受部と、を備える。前記第1増殖源受部は、前記移植体保持部から外側へ離れるにつれて高くなる形状をなしていて前記増殖源を受け止める面である第1受部受面を有する。
【0009】
この増殖礁では、移植体保持部に保持された着生海洋生物の移植体から放出される増殖源が移植体の周囲で海中を沈下するときにその沈下する増殖源を第1増殖源受部によって高い確率で受け止めることができるため、移植体から放出されて海中を沈下する増殖源を高い確率で捕獲して着生海洋生物の増殖を促進することができる。
【0010】
具体的には、第1増殖源受部は、上方から見て移植体保持部を囲むように配置されているため、移植体保持部に保持された着生海洋生物の移植体から放出されてその移植体の周囲で海中を沈下する増殖源を高い確率で受け止めることができる。また、第1増殖源受部の第1受部受面は、移植体保持部から外側へ離れるにつれて高くなる形状を有するため、増殖源が海流等の影響を受けて移植体保持部から外側へ離れつつ沈下する場合であっても、そのような増殖源を当該第1受部受面によって効果的に受け止めることができる。よって、当該増殖礁では、移植体保持部に保持された移植体から放出されてその移植体の周囲で海中を沈下する増殖源を高い確率で捕獲してその捕獲した増殖源から着生海洋生物を増殖させることができ、着生海洋生物の増殖を促進することができる。
【0011】
前記第1増殖源受部は、前記第1受部受面と反対側を向く第1受部外側面と、前記第1受部受面から前記第1受部外側面へ当該第1増殖源受部を貫通する少なくとも1つの第1受部開口部と、を有することが好ましい。
【0012】
この構成によれば、増殖源は、第1増殖源受部のうちの第1受部受面に付着するだけでなく、第1受部開口部を通って裏側へ回り込んで第1受部受面と反対側の面である第1受部外側面にも付着することができる。また、第1受部開口部の縁では、平面状に広がる領域に比べて増殖源が引っかかりやすいため、増殖源が定着しやすい。よって、当該構成によれば、第1増殖源受部における増殖源の定着量を増やすことができ、着生海洋生物の増殖をより促進することができる。
【0013】
前記第1増殖源受部は、上方から見て当該第1増殖源受部の中で最も外側に位置する第1受部外縁部を有し、前記第1受部開口部は、前記第1受部外縁部において外向きに開口していることが好ましい。
【0014】
この構成によれば、増殖源が第1受部開口部の外向きの開口から第1受部開口部内に入ることができるため、第1受部開口部の縁に増殖源をより付着させやすくすることができる。このため、第1増殖源受部における増殖源の定着量をより増やすことができる。
【0015】
前記少なくとも1つの第1受部開口部は、前記第1増殖源受部の周方向に所定間隔で配置された複数の第1受部開口部を含むことが好ましい。
【0016】
この構成によれば、第1受部開口部による増殖源の定着量の増加効果を第1増殖源受部の周方向における広い範囲に及ぼすことができる。このため、第1増殖源受部の周方向の広い範囲における着生海洋生物の増殖を促進することができる。
【0017】
前記第1増殖源受部は、前記複数の第1受部開口部のうちそれぞれ当該第1増殖源受部の周方向において隣り合うもの同士の間の部分である複数の第1増殖源受片を有し、前記複数の第1増殖源受片は、それぞれ、前記移植体受部から外側へ離れるにつれて高くなるように延びる受片本体と、前記受片本体の延び方向に対して直交する前記受片本体の幅方向における前記受片本体の両端からそれぞれ立ち上がる一対の立上部と、を有することが好ましい。
【0018】
この構成によれば、各第1増殖源受片の受片本体上に沈下する増殖源がその受片本体の幅方向の両側へ流れた場合にその増殖源が流れる向きを各立上部によって内側上向きに変えることができる。このため、第1受部開口部を通ってこぼれ落ちて散逸する増殖源を低減することができる。また、立上部のような突出する部分には増殖源が定着しやすいため、第1増殖源受部における増殖源の定着量を増やすことができる。
【0019】
前記第1受部受面は、上方から見て当該第1受部受面の中で最も外側に位置する第1受部受面外縁を有し、前記増殖礁は、上方から見て前記第1受部受面外縁から内側に離れた位置において前記移植体保持部を囲むように配置され、前記移植体保持部によって保持された前記移植体から放出されて前記移植体保持部の周囲で海中を沈下する前記増殖源を受け止める第2増殖源受部をさらに備え、前記第2増殖源受部は、前記第1受部受面との間に隙間が介在する状態でその第1受部受面の上に重なるように配置されていることが好ましい。
【0020】
この構成によれば、前記隙間において増殖源から着生海洋生物を生育させてその着生海洋生物の食害を抑制できる。具体的には、この構成では、第2増殖源受部は、上方から見て第1受部受面の中で最も外側に位置する第1受部受面外縁から内側に離れた位置で移植体保持部を囲むように配置されているとともに、第1受部受面との間に隙間が介在する状態でその第1受部受面の上に重なるように配置されているため、上方から見て第2増殖源受部の外側で第1受部受面上に沈下した増殖源が、第1受部受面の傾斜に沿ってその第1受部受面と第2増殖源受部との間の隙間に滑り込んで第1受部受面と第2受部外側面のうちその隙間に面する領域のいずれかの箇所に定着し、着生海洋生物へと生育することができる。前記隙間内で生育した着生海洋生物は、第1増殖源受部と第2増殖源受部とによって守られて捕食者から捕食されにくいため、当該着生海洋生物の食害を抑制できる。
【0021】
前記第2増殖源受部は、前記隙間を介して前記第1受部受面と対向する第2受部外側面を有し、前記第2受部外側面は、前記移植体保持部から外側へ離れるにつれて高くなる形状を有し、前記移植体保持部から外側へ離れる方向における前記第2受部外側面の高さの増加率は、前記移植体保持部から外側へ離れる方向における前記第1受部受面の高さの増加率よりも大きいことが好ましい。
【0022】
この構成によれば、第1受部受面と第2受部外側面との間の前記隙間が、外側では広く、内側へ向かうにつれて狭くなる。このため、第2増殖源受部の外側において第1受部受面上に沈下する増殖源を前記隙間に入りやすくすることができるとともに、その隙間に入って内側の奥に進入した増殖源から生育した着生海洋生物を捕食者からより捕食されにくくすることができる。このため、前記隙間内での着生海洋生物の増殖を促進しつつ、その隙間内で生育した着生海洋生物の食害をより有効に抑制できる。
【0023】
前記第2増殖源受部は、前記移植体保持部から外側へ離れるにつれて高くなる形状をなしていて前記増殖源を受け止める面である第2受部受面を有することが好ましい。
【0024】
この構成によれば、増殖源が海流等の影響を受けて移植体保持部から外側へ離れつつ沈下する場合であっても、そのような増殖源を移植体保持部から外側へ離れるにつれて高くなる形状をなす第2受部受面によって効果的に受け止めることができる。
【0025】
前記第2増殖源受部は、前記第2受部受面と反対側を向き、前記隙間を介して前記第1受部受面と対向する第2受部外側面と、前記第2受部受面から前記第2受部外側面へ当該第2増殖源受部を貫通する少なくとも1つの第2受部開口部と、を有することが好ましい。
【0026】
この構成によれば、増殖源は、第2増殖源受部のうちの第2受部受面に付着するだけでなく、第2受部開口部を通って裏側へ回り込んで第2受部受面と反対側の面である第2受部外側面にも付着することができる。また、第2受部開口部の縁では、平面状に広がる領域に比べて増殖源が引っかかりやすいため、増殖源が定着しやすい。よって、当該構成によれば、第2増殖源受部における増殖源の定着量を増やすことができ、着生海洋生物の増殖をより促進することができる。
【0027】
前記第2受部開口部は、上方から見て前記第1受部開口部から外れた位置に配置されていることが好ましい。
【0028】
この構成によれば、第2増殖源受部の上方から沈下する増殖源が第2受部開口部を通ってさらに沈下した場合に、第1増殖源受部によって受け止められることなく第1受部開口部を通ってさらに沈下して散逸するのを防ぐことができる。
【0029】
前記第2増殖源受部は、上方から見て当該第2増殖源受部の中で最も外側に位置する第2受部外縁部を有し、前記第2受部開口部は、前記第2受部外縁部において外向きに開口していることが好ましい。
【0030】
この構成によれば、増殖源が第2受部開口部の外向きの開口から第2受部開口部内に入ることができるため、第2受部開口部の縁に増殖源をより付着させやすくすることができる。このため、第2増殖源受部における増殖源の定着量をより増やすことができる。
【0031】
前記少なくとも1つの第2受部開口部は、前記第2増殖源受部の周方向に所定間隔で配置された複数の第2受部開口部を含むことが好ましい。
【0032】
この構成によれば、第2受部開口部による増殖源の定着量の増加効果を第2増殖源受部の周方向における広い範囲に及ぼすことができる。このため、第2増殖源受部の周方向の広い範囲における着生海洋生物の増殖を促進することができる。
【0033】
前記増殖礁は、海中の被固定体に固定され、前記移植体保持部及び前記第1増殖源受部を前記被固定体から上方へ離間させた状態で支持する離間支持部をさらに備えることが好ましい。
【0034】
この構成によれば、離間支持部により移植体保持部及び第1増殖源受部を海中の被固定体から上方へ離間した位置に保持できる。このため、被固定体に付着して棲息する捕食者から移植体保持部及び第1増殖源受部を遠ざけることができ、移植体保持部に保持された着生海洋生物の移植体及び第1増殖源受部において増殖した着生海洋生物が食害を受けにくくなる。
【0035】
前記離間支持部は、前記移植体保持部及び前記第1増殖源受部がその上に設置される台座と、前記台座から下方へ延びて前記被固定体に固定される脚部と、を有し、前記台座は、前記脚部のうち当該台座に結合された部分の外側へ張り出す張出部を有することが好ましい。
【0036】
この構成によれば、仮に捕食者が被固定体から脚部を伝って登ってきた場合であっても、台座の張出部によりその捕食者が台座よりも上へあがるのを阻止することができる。このため、移植体保持部に保持された着生海洋生物の移植体及び第1増殖源受部において増殖した着生海洋生物が食害を受けるのを防ぐことができる。
【発明の効果】
【0037】
以上説明したように、本発明によれば、着生海洋生物の移植体から放出されてその移植体の周囲で海中を沈下する増殖源を高い確率で捕獲して着生海洋生物の増殖を促進することが可能な増殖礁が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】本発明の一実施形態による増殖礁の平面図(上面図)である。
図2】本発明の一実施形態による増殖礁の図1中のII-II位置における断面図である。
図3図1に示した増殖礁のうちの移植体保持部及び中央脚部の正面図である。
図4図3に示した移植体保持部の平面図(上面図)である。
図5図1に示した増殖礁のうちの第1増殖源受部の平面図(上面図)である。
図6図5に示した第1増殖源受部のうちの1つの第1増殖源受片をその先端側から見た図である。
図7図1に示した増殖礁のうちの第2増殖源受部の平面図(上面図)である。
図8】本発明の第1の変形例による増殖礁の図2に対応する断面図である。
図9図8に示した第1の変形例による増殖礁のうちの移植体保持部の正面図である。
図10】本発明の第2の変形例による増殖礁の図2に対応する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明の実施形態について図1図7を参照しながら説明する。
【0040】
本発明の一実施形態による増殖礁1は、海中に設置され、当該増殖礁1に移植された珊瑚、海藻もしくは海草などの着生海洋生物の移植体からの着生海洋生物の増殖を促すものである。前記移植体は、着生海洋生物の増殖の源となる増殖源を放出する能力を有する着生海洋生物である。例えば、着生海洋生物が珊瑚である場合には、増殖源としての卵を放出する能力を有する母珊瑚が移植体として採用され、着生海洋生物が海藻である場合には、増殖源としての胞子を放出する能力を有する母藻が移植体として採用され、着生海洋生物が海草である場合には、増殖源としての種子を放出する能力を有する母草が移植体として採用される。着生海洋生物の移植体は、海中で上向きに増殖源を放出する性質を有する。
【0041】
本実施形態による増殖礁1は、図1及び図2に示されるように、離間支持部2と、移植体保持部6と、第1増殖源受部8と、第2増殖源受部10と、を備える。これらの離間支持部2、移植体保持部6、第1増殖源受部8、及び、第2増殖源受部10は、全て鋼鉄製である。
【0042】
離間支持部2(図2参照)は、海中の被固定体(図略)に固定され、移植体保持部6、第1増殖源受部8及び第2増殖源受部10を海中の被固定体から上方に離間した状態で支持するものである。被固定体は、例えば、砂地や岩場などの海底、もしくは、漁礁などの海中に沈められた構造物である。離間支持部2は、台座3と、脚部4と、を有する。
【0043】
台座3は、平面視で矩形状をなす板体からなり、海中において水平姿勢で配置される。この台座3は、その上に移植体保持部6、第1増殖源受部8及び第2増殖源受部10が設置されるものである。台座3は、当該台座3をその板厚方向(上下方向)にそれぞれ貫通する1つの中央孔12及び4つの周辺部取付孔13を有する。中央孔12は、平面視で台座3の中央に設けられている。4つの周辺部取付孔13は、台座3の外縁寄りの位置であって平面視で台座3の4つの頂点からそれぞれ台座3の中央へ向かって所定距離だけ入った各位置に設けられている。4つの周辺部取付孔13には脚部4の後述の4つの傾斜脚部15が挿嵌され、その状態で脚部4が台座3に結合される。台座3は、上方から見て脚部4のうち当該台座3に結合された部分の外側へ張り出した張出部3aを有する。張出部3aは、台座3のうち上方から見て4つの周辺部取付孔13よりも当該台座3の外縁寄りに位置する部分である。
【0044】
脚部4は、台座3から下方へ延びて海中の被固定体に固定され、台座3を被固定体から上方へ離間させた状態で支持するものである。脚部4は、台座3に略水平姿勢をとらせるように台座3を支える。脚部4は、中央脚部14と、4つの傾斜脚部15と、を有する。
【0045】
中央脚部14は、上方から見て台座3の中央の位置で台座3を支えるものである。この中央脚部14は、直棒状をなし、台座3に対して垂直に上下方向に延びている。この中央脚部14の上端付近の部分が、台座3の中央孔12に挿通されて台座3に固定されている。また、中央脚部14の下端部が被固定体に固定される。
【0046】
4つの傾斜脚部15は、台座3の4つの頂点付近の部分を支えるものである。4つの傾斜脚部15は、それぞれ直棒状をなしている。各傾斜脚部15の上端部は、台座3の4つの周辺部取付孔13の対応するものに挿通されて台座3に固定されている。各傾斜脚部15は、その上端部から下方へ向かうにつれて中央脚部14へ近づくように台座3及び中央脚部14に対して斜めに延び、当該各傾斜脚部15の下端部が中央脚部14のうち台座3とその中央脚部14の下端部との間の中間部分に固定されている。台座3の前記張出部3aは、台座3に結合された各傾斜脚部15の上端付近の部分よりも外側へ張り出している。
【0047】
移植体保持部6は、増殖礁1に移植される着生海洋生物の移植体が増殖源を放出するのを許容するように当該移植体を保持するものである。移植体保持部6は、図3に示されるように中央脚部14の上端部に設けられ、中央脚部14と一体に形成されている。移植体保持部6は、図2に示されるように、台座3、第1増殖源受部8の後述の第1受部基板部18及び第2増殖源受部10の第2受部基板部24よりも上側に配置されている。移植体保持部6は、図4に示されるように、4つの保持片16を有する。
【0048】
4つの保持片16は、着生海洋生物の移植体を下から受けて保持する部分であり、上方から見て放射状に広がるように配置されている。各保持片16は、上方へ向かうにつれて中央脚部14の径方向外側へ向かうように中央脚部14の軸方向に対して斜めに延びている。中央脚部14の周方向において互いに隣り合う保持片16同士の間には、間隙が形成されている。移植体は、4つの保持片16の上方から当該4つの保持片16によって囲まれる空間に挿入されて当該4つの保持片16によって保持される。
【0049】
移植体保持部6と中央脚部14とが一体となった部材は、直棒状の外周面にリブ状の多数の突起が形成された異形棒鋼を加工することによって形成されている。具体的には、異形棒鋼の軸方向における一端部を周方向に四分割するように当該一端部に十字に切り込みが入れられ、その四分割された各部分を異形棒鋼の径方向外側へ開くように変形させることによって前記4つの保持片16が形成され、異形棒鋼のうち4つの保持片16に加工された部分以外の部分が前記中央脚部14とされる。
【0050】
第1増殖源受部8は、図1及び図2に示されるように、台座3上に設置されるとともに上方から見て移植体保持部6を囲むように配置され、移植体保持部6によって保持された着生海洋生物の移植体から上向きに放出されて移植体保持部6の周囲で海中を沈下する増殖源を受け止めるものである。当該第1増殖源受部8によって受け止められた増殖源は、当該第1増殖源受部8のうちのいずれかの箇所で定着して着生海洋生物へと生育する。第1増殖源受部8は、上方から見て台座3の外縁の内側に収まっている。第1増殖源受部8は、第1受部基板部18と、第1受部受面19と、第1受部外側面20と、第1受部外縁部21と、複数(本実施形態では6つ)の第1受部開口部22と、を有する。
【0051】
第1受部基板部18は、平板状をなし、台座3の上面に沿うようにその台座3の上面上に配置されて当該台座3に固定されている。第1受部基板部18は、上方から見て多角形状(本実施形態では六角形状)の外形を有する。上方から見て第1受部基板部18の中央には、当該第1受部基板部18をその板厚方向(上下方向)に貫通する第1挿通孔18aが設けられている。第1挿通孔18aは、上方から見て台座3の中央孔12と同心となるように配置されている。第1受部基板部18は、その第1挿通孔18aに前記中央脚部14の上端部が挿通された状態でその中央脚部14に固定されている。
【0052】
第1受部受面19は、前記移植体から放出されて海中を沈下する増殖源を受け止める面である。第1受部受面19は、移植体保持部6から外側へ離れるにつれて高くなる形状をなしている。第1受部受面19は、移植体保持部6側を向くように傾斜している。具体的には、第1受部受面19は、第1受部基板部18の上面の外縁から外側へ延びており、その外側へ向かうにつれて高くなるように第1受部基板部18の上面に対して傾斜している。第1受部受面19は、上方から見て当該第1受部受面19の中で最も外側に位置する第1受部受面外縁19aを有する。
【0053】
第1受部外側面20は、第1受部受面19と反対側を向く面である。第1受部外側面20は、第1受部受面19と同様、移植体保持部6から外側へ離れるにつれて高くなる形状をなしている。具体的には、第1受部外側面20は、第1受部基板部18の下面の外縁から外側へ延びており、その外側へ向かうにつれて高くなるように第1受部基板部18の下面に対して傾斜している。
【0054】
第1受部外縁部21は、上方から見て第1増殖源受部8の中で最も外側に位置する部分である。
【0055】
複数の第1受部開口部22(図5参照)は、それぞれ、第1受部受面19から第1受部外側面20へ第1増殖源受部8を貫通する開口部である。当該複数の第1受部開口部22は、第1増殖源受部8を上方から見た場合のその第1増殖源受部8の周方向において等しい所定間隔で配置されている。また、複数の第1受部開口部22は、それぞれ、第1受部外縁部21において外向きに開口している。この複数の第1受部開口部22により、第1増殖源受部8のうち第1受部基板部18の外側に位置する部分は、第1増殖源受部8の周方向において複数(本実施形態では6つ)の第1増殖源受片23に分割されている。換言すれば、第1増殖源受部8は、複数の第1受部開口部22のうちそれぞれ当該第1増殖源受部8の周方向において隣り合うもの同士の間の部分である複数の第1増殖源受片23を有する。
【0056】
複数の第1増殖源受片23は、上方から見て第1受部基板部18の外縁から放射状に第1受部基板部18の外側へ突出している。具体的には、複数の第1増殖源受片23は、上方から見て多角形状の第1受部基板部18の外縁をなす当該第1受部基板部18の複数の辺からそれぞれ外側へ突出している。各第1増殖源受片23は、第1受部基板部18から外側へ向かうにつれて高くなる形状を有する。各第1増殖源受片23は、受片本体23aと、一対の立上部23bと、を有する。
【0057】
受片本体23aは、第1受部基板部18の外縁の対応する辺から連続して外側へ延びる部分である。第1受片本体23aは、第1受部基板部18と等しい板厚の平板状をなし、移植体保持部6から外側へ離れるにつれて高くなるように第1受部基板部18に対して斜めに延びている。第1受片本体23aは、第1受部基板部18の外縁の位置で第1受部基板部18に対して曲げ起こされることによって形成されている。
【0058】
一対の立上部23bは、第1受片本体23aの延び方向に対して直交する当該第1受片本体23aの幅方向における両端からそれぞれ立ち上がる部分である。各立上部23bは、図6に示されるように、第1受片本体23aと等しい板厚の平板状をなし、第1受片本体23aの幅方向外側へ向かうにつれて上方へ向かうように第1受片本体23aに対して傾斜している。各立上部23bは、第1受片本体23aの幅方向における端縁の位置で第1受片本体23aに対して曲げ起こされることによって形成されている。
【0059】
第2増殖源受部10は、図1及び図2に示されるように、第1増殖源受部8上に設置されるとともに、上方から見て第1増殖源受部8の第1受部受面外縁19aから内側に離れた位置において移植体保持部6を囲むように配置され、移植体保持部6によって保持された着生海洋生物の移植体から上向きに放出されて移植体保持部6の周囲で海中を沈下する増殖源を受け止めるものである。すなわち、第2増殖源受部10は、第1増殖源受部8の内側において沈下する増殖源、具体的には移植体保持部6近傍において沈下する増殖源を受け止めるものである。当該第2増殖源受部10によって受け止められた増殖源は、当該第2増殖源受部10のうちのいずれかの箇所で定着して着生海洋生物へと生育する。第2増殖源受部10は、第1受部受面19との間に隙間30が介在する状態でその第1受部受面19の上に重なるように配置されている。第2増殖源受部10は、第2受部基板部24と、第2受部受面25と、第2受部外側面26と、第2受部外縁部27と、複数(本実施形態では6つ)の第2受部開口部28と、を有する。
【0060】
第2受部基板部24は、平板状をなし、第1増殖源受部8の第1受部基板部18の上面に沿うようにその第1受部基板部18の上面上に配置されている。換言すれば、第2受部基板部24は、台座3の上方において台座3と平行になるように略水平に配置されている。第2受部基板部24は、上方から見て、第1受部基板部18と同数の頂点を有する多角形状(本実施形態では六角形状)の外形を有する。第2受部基板部24は、第1受部基板部18よりも小さい外形を有する。第2受部基板部24は、上方から見て第1受部基板部18と同心となるように配置されている。第2受部基板部24は、上方から見て当該第2受部基板部24の各頂点が第1受部基板部18の外縁の各辺の中点とその第1受部基板部18の中心とを結ぶ直線上に位置するように配置されている。上方から見て第2受部基板部24の中央には、当該第2受部基板部24をその板厚方向(上下方向)に貫通する第2挿通孔24aが設けられている。第2挿通孔24aは、上方から見て第1受部基板部18の第1挿通孔18a及び台座3の中央孔12と同心となるように配置されている。第2受部基板部24は、その第2挿通孔24aに前記中央脚部14の上端部が挿通された状態でその中央脚部14に固定されている。
【0061】
第2受部受面25は、前記移植体から放出されて海中を沈下する増殖源を受け止める面である。第2受部受面25は、移植体保持部6から外側へ離れるにつれて高くなる形状をなしている。第2受部受面25は、移植体保持部6側を向くように傾斜している。具体的には、第2受部受面25は、第2受部基板部24の上面の外縁から外側へ延びており、その外側へ向かうにつれて高くなるように第2受部基板部24の上面に対して傾斜している。
【0062】
第2受部外側面26は、第2受部受面25と反対側を向く面であり、前記隙間30を介して第1受部受面19と対向している。第2受部外側面26は、第2受部受面25と同様、移植体保持部6から外側へ離れるにつれて高くなる形状をなしている。具体的には、第2受部外側面26は、第2受部基板部24の下面の外縁から外側へ延びており、その外側へ向かうにつれて高くなるように第2受部基板部24の下面に対して傾斜している。移植体保持部6から外側へ離れる方向における第2受部外側面26の高さの増加率は、移植体保持部6から外側へ離れる方向における第1受部受面19の高さの増加率よりも大きい。換言すれば、第2受部外側面26の傾斜角は、第1受部受面19の傾斜角よりも大きい。具体的には、第2受部外側面26の傾斜角は、第1受部受面19の傾斜角の約2倍の大きさになっている。第2受部外側面26の以上のような構成により、第1受部受面19と第2受部外側面26との間の前記隙間30は、移植体保持部6側(内側)へ向かうにつれて狭くなっている。
【0063】
第2受部外縁部27は、上方から見て第2増殖源受部10の中で最も外側に位置する部分である。
【0064】
複数の第2受部開口部28(図7参照)は、それぞれ、第2受部受面25から第2受部外側面26へ第2増殖源受部10を貫通する開口部である。当該複数の第2受部開口部28は、第2増殖源受部10を上方から見た場合のその第2増殖源受部10の周方向において等しい所定間隔で配置されている。複数の第2受部開口部28は、それぞれ、上方から見て第2増殖源受部10の周方向において前記複数の第1受部開口部22から外れた位置に配置されている(図1参照)。換言すれば、上方から見て、各第2受部開口部28の下側に第1増殖源受部8の第1受部受面19が重なっており、各第2受部開口部28の下側に第1増殖源受片23の第1受片本体23aが重なっている。また、複数の第2受部開口部28は、それぞれ、第2受部外縁部27において外向きに開口している。この複数の第2受部開口部28により、第2増殖源受部10のうち第2受部基板部24の外側に位置する部分は、第2増殖源受部10の周方向において複数(本実施形態では6つ)の第2増殖源受片29に分割されている。換言すれば、第2増殖源受部10は、複数の第2受部開口部28のうちそれぞれ当該第2増殖源受部10の周方向において隣り合うもの同士の間の部分である複数の第2増殖源受片29を有する。
【0065】
複数の第2増殖源受片29は、上方から見て第2受部基板部24の外縁から放射状に第2受部基板部24の外側へ突出している。具体的には、複数の第2増殖源受片29は、上方から見て多角形状の第2受部基板部24の外縁をなす当該第2受部基板部24の複数の辺のそれぞれから連続して外側へ延びている。各第2増殖源受片29は、第2受部基板部24と等しい板厚の平板状をなし、移植体保持部6から外側へ離れるにつれて高くなるように第2受部基板部24に対して斜めに延びている。各第2増殖源受片29は、第2受部基板部24の外縁の位置で第2受部基板部24に対して曲げ起こされることによって形成されている。また、第2受部基板部24の外縁からの各第2増殖源受片29の突出方向における先端までの長さは、第1受部基板部18の外縁からの各第1増殖源受片23の突出方向における先端までの長さよりも小さい。
【0066】
本実施形態による増殖礁1では、移植体保持部6に保持された着生海洋生物の移植体から放出される増殖源が移植体の周囲(移植体保持部6の周囲)で海中を沈下するときにその沈下する増殖源を第1増殖源受部8によって高い確率で受け止めることができるため、移植体から放出されて海中を沈下する増殖源を高い確率で捕獲して着生海洋生物の増殖を促進することができる。
【0067】
具体的には、第1増殖源受部8は、上方から見て移植体保持部6の周囲に配置されているため、移植体保持部6に保持された着生海洋生物の移植体から放出されてその移植体の周囲で海中を沈下する増殖源を高い確率で受け止めることができる。また、第1増殖源受部8の第1受部受面19は、移植体保持部6から外側へ離れるにつれて高くなる形状を有するため、増殖源が海流等の影響を受けて移植体保持部6から外側へ離れつつ沈下する場合であっても、そのような増殖源を当該第1受部受面19によって効果的に受け止めることができる。よって、本実施形態による増殖礁1では、移植体保持部6に保持された移植体から放出されてその移植体の周囲で海中を沈下する増殖源を高い確率で捕獲してその捕獲した増殖源から着生海洋生物を増殖させることができ、着生海洋生物の増殖を促進することができる。
【0068】
また、本実施形態による増殖礁1では、第1増殖源受部8は、第1受部受面19から第1受部外側面20へ当該第1増殖源受部8を貫通する複数の第1受部開口部22を有する。このため、増殖源は、第1増殖源受部8のうちの第1受部受面19に付着するだけでなく、第1受部開口部22を通って裏側へ回り込んで第1受部受面19と反対側の面である第1受部外側面20にも付着することができる。また、第1受部開口部22の縁では、平面状に広がる領域に比べて増殖源が引っかかりやすいため、増殖源が定着しやすい。よって、第1増殖源受部8における増殖源の定着量を増やすことができ、着生海洋生物の増殖をより促進することができる。
【0069】
また、複数の第1受部開口部22は、それぞれ、上方から見て第1増殖源受部8の中で最も外側に位置する第1受部外縁部21において外向きに開口しているため、増殖源が各第1受部開口部22の外向きの開口からその各第1受部開口部22内に入ることができる。このため、第1受部開口部22の縁に増殖源をより付着させやすくすることができる。このため、第1増殖源受部8における増殖源の定着量をより増やすことができる。
【0070】
また、本実施形態による増殖礁1では、複数の第1受部開口部22が第1増殖源受部8の周方向に所定間隔で配置されているため、第1受部開口部22による増殖源の定着量の増加効果を第1増殖源受部8の周方向における広い範囲へ及ぼすことができる。このため、第1増殖源受部8の周方向の広い範囲における着生海洋生物の増殖を促進することができる。
【0071】
また、本実施形態による増殖礁1では、前記隙間30において増殖源から着生海洋生物を生育させてその着生海洋生物の食害を抑制できる。
【0072】
具体的には、本実施形態による増殖礁1では、第2増殖源受部10は、上方から見て第1受部受面19の中で最も外側に位置する第1受部受面外縁19aから内側に離れた位置で移植体保持部6を囲むように配置されているとともに、第1受部受面19との間に隙間30が介在する状態でその第1受部受面19の上に重なるように配置されているため、上方から見て第2増殖源受部10の外側で第1受部受面19上に沈下した増殖源が、第1受部受面19の傾斜に沿ってその第1受部受面19と第2増殖源受部10との間の隙間30に滑り込んで第1受部受面19と第2受部外側面26のうちその隙間30に面する領域のいずれかの箇所に定着し、着生海洋生物への生育することができる。前記隙間30内の着生海洋生物は、第1増殖源受部8と第2増殖源受部10とによって守られて捕食者から捕食されにくいため、当該着生海洋生物の食害を抑制できる。なお、着生海洋生物が珊瑚である場合には、捕食者は例えばオニヒトデ等のヒトデ類であり、着生海洋生物が海藻もしくは海草である場合には、捕食者は例えばウニである。
【0073】
また、本実施形態による増殖礁1では、移植体保持部6から外側へ離れる方向における第2受部外側面26の高さの増加率は、移植体保持部6から外側へ離れる方向における第1受部受面19の高さの増加率よりも大きいため、第1受部受面19と第2受部外側面26との間の隙間30が内側へ向かうにつれて狭くなっている。このため、この隙間の内側の奥に入り込んだ増殖源から生育した着生海洋生物が捕食者からより捕食されにくくなり、その結果、隙間30内で生育した着生海洋生物の食害をより有効に抑制できる。
【0074】
また、本実施形態による増殖礁1では、第2増殖源受部10は、移植体保持部6から外側へ離れるにつれて高くなる形状をなす第2受部受面25を有する。このため、増殖源が海流等の影響を受けて移植体保持部6から外側へ離れつつ沈下する場合であっても、そのような増殖源を第2受部受面25によって効果的に受け止めることができる。
【0075】
また、本実施形態による増殖礁1では、第2増殖源受部10は、第2受部受面25から第2受部外側面26へ当該第2増殖源受部10を貫通する複数の第2受部開口部28を有する。このため、増殖源は、第2増殖源受部10のうちの第2受部受面25に付着するだけでなく、第2受部開口部28を通って裏側へ回り込んで第2受部受面25と反対側の面である第2受部外側面26にも付着することができる。また、第2受部開口部28の縁では、平面状に広がる領域に比べて増殖源が引っかかりやすいため、増殖源が定着しやすい。よって、第2増殖源受部10における増殖源の定着量を増やすことができ、着生海洋生物の増殖をより促進することができる。
【0076】
また、本実施形態による増殖礁1では、各第2受部開口部28は、上方から見て第1受部開口部22から外れた位置に配置されている。このため、第2増殖源受部10の上方から沈下する増殖源が各第2受部開口部28を通ってさらに沈下した場合に、第1増殖源受部8によって受け止められることなく第1受部開口部22を通ってさらに沈下して散逸するのを防ぐことができる。
【0077】
また、各第2受部開口部28は、上方から見て第2増殖源受部10の中で最も外側に位置する第2受部外縁部27において外向きに開口しているため、増殖源が各第2受部開口部28の外向きの開口からその各第2受部開口部28内に入ることができる。このため、第2受部開口部28の縁に増殖源をより付着させやすくすることができる。このため、第2増殖源受部10における増殖源の定着量をより増やすことができる。
【0078】
また、本実施形態による増殖礁1では、複数の第2受部開口部28が第2増殖源受部10の周方向に所定間隔で配置されているため、第2受部開口部28による増殖源の定着量の増加効果を第2増殖源受部10の周方向における広い範囲へ及ぼすことができる。このため、第2増殖源受部10の周方向の広い範囲における着生海洋生物の増殖を促進することができる。
【0079】
また、本実施形態による増殖礁1では、第1増殖源受部8は、複数の第1受部開口部22のうちそれぞれ当該第1増殖源受部8の周方向において隣り合うもの同士の間の部分である複数の第1増殖源受片23を有し、複数の第1増殖源受片23は、それぞれ、移植体受部6から外側へ離れるにつれて高くなるように延びる受片本体23aと、受片本体23aの延び方向に対して直交する受片本体23aの幅方向における両端からそれぞれ立ち上がる一対の立上部23bと、を有する。このため、各第1増殖源受片23の受片本体23a上に沈下する増殖源がその受片本体23aの幅方向の両側へ流れた場合にその増殖源が流れる向きを各立上部23bによって内側上向きに変えることができる。このため、各第1受部開口部22を通ってこぼれ落ちて散逸する増殖源を低減することができる。また、立上部23bのような突出する部分には増殖源が定着しやすいため、第1増殖源受部8における増殖源の定着量を増やすことができる。
【0080】
また、本実施形態による増殖礁1は、移植体保持部6、第1増殖源受部8及び第2増殖源受部10を海中の被固定体から上方へ離間させた状態で支持する離間支持部2を備える。このため、この離間支持部2により、被固定体に付着して棲息する捕食者から移植体保持部6、第1増殖源受部8及び第2増殖源受部10を遠ざけることができ、移植体保持部6に保持された着生海洋生物の移植体、及び、第1増殖源受部8と第2増殖源受部10において増殖した着生海洋生物が食害を受けにくくなる。
【0081】
また、本実施形態による増殖礁1では、離間支持部2は、移植体保持部6、第1増殖源受部8及び第2増殖源受部10がその上に設置される台座3と、台座3から下方へ延びて被固定体に固定される脚部4と、を有し、台座3は、脚部4のうち当該台座3に結合された部分の外側へ張り出す張出部3aを有する。このため、仮に捕食者が被固定体から脚部4を伝って登ってきた場合であっても、台座3の張出部3aによりその捕食者が台座3よりも上へあがるのを阻止することができる。このため、移植体保持部6に保持された着生海洋生物の移植体、及び、第1増殖源受部8と第2増殖源受部10において増殖した着生海洋生物が食害を受けるのを防ぐことができる。
【0082】
(変形例)
本発明による増殖礁は、前記のようなものに必ずしも限定されない。例えば、本発明による増殖礁に以下のような構成を採用可能である。
【0083】
(1)本発明における第1増殖源受部は、第1受部開口部を必ずしも有していなくてもよく、周方向全体に亘って連続したものであってもよい。この場合、第1増殖源受部は、周方向全体に亘って連続するとともに移植体保持部から外側へ離れるにつれて高くなる椀状のものであってもよい。
【0084】
(2)また、第1増殖源受部が第1受部開口部を有する場合であっても、その第1受部開口部は、第1受部外縁部において外向きに開口しておらず、単に第1受部受面から第1受部外側面へ第1増殖源受部を貫通する孔であってもよい。
【0085】
(3)本発明における第2増殖源受部は、第2受部開口部を必ずしも有していなくてもよく、周方向全体に亘って連続したものであってもよい。この場合、第2増殖源受部は、周方向全体に亘って連続するとともに移植体保持部から外側へ離れるにつれて高くなる椀状のものであってもよい。
【0086】
(4)また、第2増殖源受部が第2受部開口部を有する場合であっても、その第2受部開口部は、第2受部外縁部において外向きに開口しておらず、単に第2受部受面から第2受部外側面へ第2増殖源受部を貫通する孔であってもよい。
【0087】
(5)また、第2受部開口部の少なくとも一部が、上方から見て第1受部開口部と重なっていてもよい。
【0088】
(6)また、移植体保持部から外側へ離れる方向における第2受部外側面の高さの増加率は、移植体保持部から外側へ離れる方向における第1受部受面の高さの増加率と等しくてもよい。すなわち、第1受部受面と第2受部外側面との間の間隔に相当するその第1受部受面と第2受部外側面との間の隙間の大きさが均一であってもよい。
【0089】
(7)また、本発明による増殖礁は、第2増殖源受部を必ずしも備えていなくてもよい。すなわち、本発明による増殖礁は、移植体保持部に保持された着生海洋生物の移植体から放出されて海中を沈下する増殖源を受け止めるものとして第1増殖源受部のみを備えていてもよい。
【0090】
(8)また、本発明による増殖礁は、海中を沈下する増殖源を受け止めるものとして、第1増殖源受部の外側もしくは第2増殖源受部の内側において移植体保持部を囲むように配置されるさらに別の増殖源受部を備えていてもよい。
【0091】
(9)本発明における移植体保持部は、前記実施形態における移植体保持部6のように放射状に配置された複数の保持片16を有するものに必ずしも限定されない。例えば、本発明における移植体保持部は、周方向全体に亘って連続した椀状のもので着生海洋生物の移植体を受けて保持可能な形状を有するものであってもよい。
【0092】
(10)本発明における脚部の構造として、前記実施形態における脚部4の構造以外に、例えば、図8に示される本発明の第1の変形例による増殖礁1の脚部4の構造、もしくは、図10に示される本発明の第2の変形例による増殖礁1の脚部4の構造を採用可能である。
【0093】
具体的に、本発明の第1の変形例による増殖礁1(図8参照)では、脚部4は、台座3の4つの周辺部取付孔13(図示せず)にそれぞれ挿通されて台座3に固定された4つの支持脚部31と、それらの4つの支持脚部31の隣り合うもの同士を連結する複数の横桟32と、を有する。なお、図8は、図1におけるIIーII位置に対応する位置での当該第1の変形例による増殖礁1の断面を示すものであるため、4つの支持脚部31のうち紙面奥側の2つの支持脚部31のみが表れている。
【0094】
4つの支持脚部31は、それらの上端部が台座3の4つの周辺部取付孔13(図示せず)にそれぞれ挿通されて台座3に固定され、その上端部から台座3に対して垂直に台座3の下方へ延びている。そして、4つの支持脚部31のそれぞれの下端部が海中の被固定体に固定される。4つの支持脚部31の隣り合うもの同士の間には、それぞれ2つの横桟32が上下に間隔をあけて配置され、この2つの横桟32は、支持脚部31と直交する方向に延びて隣り合う2つの支持脚部31同士を繋いでいる。
【0095】
また、この第1の変形例では、台座3の中央に、前記実施形態で台座3に設けられた中央孔12は設けられておらず、移植体保持部6は、台座3の中央部の上に立設されて当該台座3に固定されている。具体的に、この第1の変形例では、移植体保持部6は、短い直棒状の受部基部34(図9参照)と、その受部基部34の上端部に設けられた4つの保持片16とを有する。受部基部34は、その軸方向が台座3に対して垂直となるように台座3の中央部の上に設置されている。この受部基部34は、第1増殖源受部8の第1受部基板部18の第1挿通孔18aと第2増殖源受部10の第2受部基板部24の第2挿通孔24aとに挿通され、第1受部基板部18及び第2受部基板部24に固定されている。4つの保持片16は、前記実施形態における移植体保持部6の4つの保持片16と同様のものである。
【0096】
第1の変形例による増殖礁1の以上の構成以外の構成は、前記実施形態による増殖礁1と同様である。
【0097】
この第1の変形例による増殖礁1の構成では、台座3の4つの頂点付近の各部分に結合されて台座3を支える4つの支持脚部31が被固定体に固定されるため、増殖礁1の海中での設置の安定性を向上できる。
【0098】
(11)本発明の第2の変形例による増殖礁1(図10参照)では、脚部4の4つの支持脚部31が台座3から下方へ向かうにつれて互いに遠ざかるように斜めに延びている。具体的に、この第2の変形例では、脚部4は、台座3の4つの周辺部取付孔13(図示せず)にそれぞれ挿通されて台座3に固定された4つの支持脚部31と、それらの4つの支持脚部31の隣り合うもの同士を連結する複数の横桟32と、を有する。なお、図10は、図1におけるII-II位置に対応する位置での当該第2の変形例による増殖礁1の断面を示すものであるため、4つの支持脚部31のうち紙面奥側の2つの支持脚部31のみが表れている。
【0099】
4つの支持脚部31は、それらの上端部が台座3の4つの周辺部取付孔(図示せず)にそれぞれ挿通されて台座3に固定され、その上端部から台座3に対して傾斜して台座3の下方へ延びている。そして、この4つの支持脚部31のそれぞれの下端部が被固定体に固定される。4つの支持脚部31の隣り合うもの同士の間には、それぞれ1つの横桟32が配置され、この横桟32は、支持脚部31と交差する方向に延びて隣り合う2つの支持脚部31同士を繋いでいる。
【0100】
第2の変形例による増殖礁1の以上の構成以外の構成は、前記第1の変形例による増殖礁1と同様である。
【0101】
この第2の変形例による増殖礁1の構成では、台座3の4つの頂点付近の各部分に結合されて台座3を支える4つの支持脚部31が下方へ向かうにつれて外側へ広がるように延びているため、前記第1の変形例の構成よりも増殖礁1の海中での設置の安定性をさらに向上できる。
【符号の説明】
【0102】
1 増殖礁
2 離間支持部
3 台座
3a 張出部
4 脚部
6 移植体保持部
8 第1増殖源受部
10 第2増殖源受部
19 第1受部受面
19a 第1受部受面外縁
20 第1受部外側面
21 第1受部外縁部
22 第1受部開口部
23 第1増殖源受片
23a 第1受片本体
23b 立上部
25 第2受部受面
26 第2受部外側面
27 第2受部外縁部
28 第2受部開口部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10