(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】超音波センサ
(51)【国際特許分類】
G01N 29/24 20060101AFI20241016BHJP
H04R 1/44 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
G01N29/24
H04R1/44 330K
(21)【出願番号】P 2021072151
(22)【出願日】2021-04-21
【審査請求日】2024-02-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】溝田 裕久
【審査官】村田 顕一郎
(56)【参考文献】
【文献】実開昭52-007988(JP,U)
【文献】特開平09-298795(JP,A)
【文献】実開平01-151275(JP,U)
【文献】特開昭59-040846(JP,A)
【文献】国際公開第2019/170884(WO,A1)
【文献】特開2000-342583(JP,A)
【文献】特開平07-039549(JP,A)
【文献】特開2019-023590(JP,A)
【文献】Shefeng Yan et al.,Optimal array pattern synthesis for broadband arrays,The Journal of the Acoustical Society of America,Volume 122, Issue 5,2007年11月01日,p.2686-2696
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00-29/52
H04R 1/44
G01B 17/00-17/08
G01V 1/00-1/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波を送信する発振器と、前記発振器を中心とした円周上に配置され、超音波を受信する複数の受振器とを備えた超音波センサにおいて、
前記複数の受振器の周囲にそれぞれ配置され、前記複数の受振器にそれぞれ向かって超音波を収束させる複数の回転楕円弧形状の集音壁を備え、
前記複数の集音壁は、前記集音壁の中心軸と前記発振器の側面の間の間隔d1が前記集音壁の開口最大半径rより小さくなるように且つ隣り合う前記集音壁の中心軸の間の間隔d2が前記集音壁の開口最大半径rの2倍より小さくなるように配置されて、前記集音壁と前記発振器の干渉及び隣り合う前記集音壁の干渉を回避するようにトリミングされた構造であることを特徴とする超音波センサ。
【請求項2】
請求項1に記載の超音波センサにおいて、
前記発振器の超音波送信面は、前記複数の集音壁よりも超音波の送信先側に位置することを特徴とする超音波センサ。
【請求項3】
請求項1に記載の超音波センサにおいて、
前記発振器と前記複数の集音壁の間に配置された遮音材を備えたことを特徴とする超音波センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発振器及び複数の受振器を備えた超音波センサに関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1は、超音波を送信する発振器と、発振器を中心とした円周上に配置され、超音波(詳細には、反乱波や散乱波など)を受信する複数の受振器(詳細には、水中で使用されるハイドロフォン)とを備えた超音波センサを開示する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Yan, et al., “Optimal array pattern synthesis for broadband arrays”, The Journal of the Acoustical Society of America, 2007, Vol.122, No.5, p.2686-2696
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
海洋調査では、光や電波と比べて超音波が水中を伝播しやすいことから、超音波センサを用いた計測技術が発展している。この計測技術により、海底下構造の可視化や、水中の障害物又は構造物の探知を可能とする。
【0005】
超音波センサから遠距離の範囲を計測するためには、超音波センサの受信感度を高める必要がある。非特許文献1の超音波センサを用いて海底下構造の可視化を行う場合を例にとって説明する。一般的に、発振器より送信された超音波は、最初は平面波として伝播するが、近距離音場限界距離を目安として、それ以遠では、球面波として距離に応じて拡散していく。超音波は水中を伝播し、海底の岩盤上に堆積された堆積物の表面にて反射波と透過波に分かれる。透過波は、堆積物中の砂の粒子やその他の埋設物で散乱されつつ伝播し、岩盤の表面にて反射波と透過波に分かれる。このように超音波が遠方へ伝播すればするほど、球面波としての距離に応じた拡散や、反射、透過、及び散乱などの影響を受ける。そのため、超音波センサから遠距離にある物体で反射されて超音波センサの受振器に到達した超音波は、微弱になる。したがって、超音波センサの受信感度を高める必要がある。
【0006】
超音波センサの受信感度を高める方法の一つとして、受振器のサイズを大きくするか、若しくは、受振器の個数を増やすことが考えられるものの、コストが増加する。
【0007】
本発明は、上記事柄に鑑みてなされたものであり、その目的は、コストの低減を図りながら、受信感度を高めることができる超音波センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、超音波を送信する発振器と、前記発振器を中心とした円周上に配置され、超音波を受信する複数の受振器とを備えた超音波センサにおいて、前記複数の受振器の周囲にそれぞれ配置され、前記複数の受振器にそれぞれ向かって超音波を収束させる複数の回転楕円弧形状の集音壁を備え、前記複数の集音壁は、前記集音壁の中心軸と前記発振器の側面の間の間隔d1が前記集音壁の開口最大半径rより小さくなるように且つ隣り合う前記集音壁の中心軸の間の間隔d2が前記集音壁の開口最大半径rの2倍より小さくなるように配置されて、前記集音壁と前記発振器の干渉及び隣り合う前記集音壁の干渉を回避するようにトリミングされた構造である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、コストの低減を図りながら、超音波センサの受信感度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態における海洋調査方法を表す図である。
【
図2】本発明の一実施形態における超音波計測装置の構成を表すブロック図である。
【
図3】本発明の一実施形態における超音波センサの構造を表す側面図である。
【
図4】本発明の一実施形態における超音波センサの構造を表す下面図である。
【
図5】本発明の一実施形態における超音波センサの集音壁の断面形状を表す図である。
【
図6】第1及び第2の比較例における超音波センサの構造を表す下面図である。
【
図7】本発明の一実施形態における超音波センサの受信感度を、第1及び第2の比較例における超音波センサの受信感度と共に表す図である。
【
図8】本発明の一変形例における超音波センサの構造を表す下面図である。
【
図9】本発明の他の変形例における超音波センサの集音壁の断面形状を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
超音波計測装置を用いて海底下構造の可視化を行う場合を例にとり、本発明の一実施形態を、図面を参照しつつ説明する。
【0012】
図1は、本実施形態における海洋調査方法を表す図である。
図2は、本実施形態における超音波計測装置の構成を表すブロック図である。
【0013】
本実施形態の超音波計測装置は、超音波センサ1、送信制御装置2、受信処理装置3、コンピュータ4、及び表示装置5を備える。
【0014】
送信制御装置2、受信処理装置3、コンピュータ4、及び表示装置5は、例えば海上の船100に搭載されている。コンピュータ4は、ケーブルを介し送信制御装置2及び受信処理装置3に接続されている。コンピュータ4は、プログラムに基づいて処理を実行するプロセッサと、プログラムやデータを記憶するメモリとを有する。
【0015】
超音波センサ1は、水中に配置されると共に、ケーブルを介し送信制御装置2及び受信処理装置3に接続されている。超音波センサ1は、発振器6と、複数(
図2では、便宜上、2つのみ示す)の受振器7を備える。受振器7は、例えば、水中で使用されるハイドロフォンである。
【0016】
送信制御装置2は、コンピュータ4からの指令に応じてパルス信号を出力するパルサ8と、パルス信号を増幅する増幅器9と、超音波センサ1の発振器6と増幅器9のインピーダンスを整合する整合回路10とを備える。パルサ8からのパルス信号は、増幅器9及び整合回路10を介し超音波センサ1の発振器6へ出力される。超音波センサ1の発振器6は、圧電素子を有する。この圧電素子は、パルス信号によって発振し、水中へ超音波を送信する。
【0017】
超音波センサ1の発振器6より送信された超音波は、最初は平面波として伝播するが、近距離音場限界距離を目安として、それ以遠では、球面波として距離に応じて拡散していく。超音波は水中を伝播し、海底の岩盤101上に堆積された堆積物102の表面にて反射波と透過波に分かれる。透過波は、堆積物102中の砂の粒子やその他の埋設物で散乱されつつ伝播し、岩盤101の表面にて反射波と透過波に分かれる。
【0018】
超音波センサ1の各受振器7は、圧電素子を有する。この圧電素子は、例えば岩盤101の表面にて反射された反射波などを受信し、波形信号に変換して受信処理装置3へ出力する。受信処理装置3は、複数の受振器7にそれぞれ対応する複数組の増幅器11及びA/D変換器12を備える。各増幅器11は、波形信号を増幅する。各A/D変換器12は、波形信号(アナログ信号)をデジタル信号に変換してコンピュータ4へ出力する。
【0019】
コンピュータ4は、各受振器7の識別番号と関連付けて、各受振器7の波形信号を保存する。コンピュータ4は、例えば、複数の受振器7の波形信号に基づいて岩盤101の表面位置を演算する。そして、岩盤101の表面位置を示す画像を生成し、表示装置5(例えばディスプレイ)に表示させる。
【0020】
次に、本実施形態の要部である超音波センサ1の構造について説明する。
【0021】
図3は、本実施形態における超音波センサの構造を表す側面図である。
図4は、本実施形態における超音波センサの構造を表す下面図である。
図5は、本実施形態における超音波センサの集音壁の断面形状を表す図である。
【0022】
本実施形態の超音波センサ1は、発振器6と、発振器6の中心軸O1を中心とした円周上に等間隔で配置された複数(本実施形態では6つ)の受振器7と、複数の受振器7の周囲にそれぞれ配置された複数の集音壁13とを備える。
【0023】
超音波センサ1の発振器6は、その超音波送信面(
図3の下側の端面)から超音波を送信する。例えば岩盤101の表面で反射された超音波は、超音波センサ1に戻ってくる。超音波センサ1の各集音壁13は、各受振器7の中心軸と同じである中心軸O2を有し、中心軸O2の回りに楕円弧を360度回転して形成された回転楕円弧形状(本実施形態では、楕円球冠形状)である。これにより、各受振器7の超音波受信面(
図3及び
図5の上側の端面)に向かって超音波を収束させる。各受振器7は、各集音壁13で収束された超音波を受信する。これにより、超音波受信面の面積を疑似的に拡大することができる。したがって、受振器7のサイズを大きくするか若しくは受振器7の個数を増やすことなく、すなわち、コストの低減を図りながら、受信感度を高めることができる。
【0024】
複数の集音壁13は、集音壁13の中心軸O2と発振器6の側面の間の間隔d1が、集音壁13の中心軸O2を中心とした集音壁13の開口最大半径rより小さくなるように、且つ、隣り合う集音壁13の中心軸O2の間の間隔d2が、集音壁13の開口最大半径rの2倍より小さくなるように配置されている。そして、集音壁13と発振器6の干渉及び隣り合う集音壁13の干渉を回避するようにトリミングされた構造である。その効果を、比較例を用いて説明する。
【0025】
図6(a)は、第1の比較例における超音波センサの構造を表す下面図であり、
図6(b)は、第2の比較例における超音波センサの構造を表す下面図である。
図7は、本実施形態における超音波センサの受信感度を、第1及び第2の比較例における超音波センサの受信感度と共に表す図である。
図7の横軸は、集音壁の中心軸と発振器の側面の間の間隔であり、縦軸は、受信感度である。
【0026】
第1の比較例の超音波センサは、本実施形態の超音波センサ1と同様、発振器6、複数の受振器7、及び複数の集音壁13を備える。そして、本実施形態の超音波センサ1に対して、発振器6、受振器7、及び集音壁13のサイズが同じであるものの、受振器7及び集音壁13の配置が異なっている。詳細には、
図6(a)で示すように、集音壁13の中心軸O2と発振器6の側面の間の間隔d1が、集音壁13の開口最大半径rより大きくなるように、且つ、隣り合う集音壁13の中心軸O2の間の間隔d2が、集音壁13の開口最大半径rの2倍より大きくなるように配置されている。
【0027】
第2の比較例の超音波センサは、本実施形態の超音波センサ1と同様、発振器6、複数の受振器7、及び複数の集音壁13を備える。そして、本実施形態の超音波センサ1に対して、発振器6、受振器7、及び集音壁13のサイズが同じであるものの、受振器7及び集音壁13の配置が異なっている。詳細には、
図6(b)で示すように、集音壁13の中心軸O2と発振器6の側面の間の間隔d1が、集音壁13の開口最大半径rと同じになるように、且つ、隣り合う集音壁13の中心軸O2の間の間隔d2が、集音壁13の開口最大半径rの2倍とほぼ同じになるように配置されている。
【0028】
これに対し、本実施形態の超音波センサ1は、集音壁13の中心軸O2と発振器6の側面の間の間隔d1が、集音壁13の開口最大半径rより小さくなるように、且つ、隣り合う集音壁13の中心軸O2の間の間隔d2が、集音壁13の開口最大半径rの2倍より小さくなるように配置されている。ここで、超音波センサ1に戻ってくる反射波は、発振器6に近いほど強く、発振器6から離れるほど弱い。そのため、
図7で示すように、本実施形態の超音波センサ1の受信感度Sは、第1の比較例の超音波センサの受信感度S’及び第2の比較例の超音波センサの受信感度S”と比べ、高めることができる。また、本実施形態の超音波センサ1は、第1の比較例の超音波センサ及び第2の比較例の超音波センサと比べ、小型化を図ることができる。
【0029】
また、本実施形態の超音波センサ1は、発振器6の超音波送信面が複数の集音壁13よりも超音波の送信先側(
図3の下側)に位置するので、発振器6からの超音波が集音壁13へ直接伝播するのを防ぐことができる。これにより、波形信号の近距離ノイズを低減することができる。なお、例えば
図8で示す変形例のように、発振器6と複数の集音壁13の間に円筒状の遮音材14を設けることにより、発振器6からの超音波が集音壁13へ直接伝播するのを防いでもよい。
【0030】
なお、上記一実施形態において、集音壁13の回転楕円弧形状は、楕円球冠形状(詳細には、楕円球面を1つの平面で切り取った部分の形状)である場合を例にとって説明したが、これに限られない。例えば、集音壁13の回転楕円弧形状は、楕円球帯形状(詳細には、楕円球面を平行な2つの平面で切り取った部分の形状)でもよい。あるいは、例えば
図9で示すように、中心軸O2の回りに楕円弧を180度以上360度未満回転して形成される回転楕円弧形状でもよい。
【0031】
また、上記一実施形態において、超音波センサ1は、水中で使用される場合を例にとって説明したが、これに限られず、気中で使用されてもよい。すなわち、超音波センサ1の受振器7は、水中で使用されるハイドロフォンに代えて、気中で使用されるものでもよい。また、上記一実施形態において、超音波センサ1の発振器6は、圧電方式である場合を例にとって説明したが、これに限られず、ピストン方式、磁歪方式、放電方式、又は化学的な爆発による方式などでもよい。
【符号の説明】
【0032】
1 超音波センサ
6 発振器
7 受振器
13 集音壁
14 遮音材