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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】電気化学測定装置及び電気化学測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/416 20060101AFI20241016BHJP
   G01N 27/28 20060101ALI20241016BHJP
   G01N 27/38 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
G01N27/416 316Z
G01N27/28 H
G01N27/28 321F
G01N27/38
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021099730
(22)【出願日】2021-06-15
(65)【公開番号】P2022114416
(43)【公開日】2022-08-05
【審査請求日】2023-12-21
(31)【優先権主張番号】P 2021010524
(32)【優先日】2021-01-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】592187534
【氏名又は名称】株式会社 堀場アドバンスドテクノ
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 治子
(72)【発明者】
【氏名】宮村 和宏
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-053746(JP,A)
【文献】特開2001-091495(JP,A)
【文献】特開2020-034408(JP,A)
【文献】国際公開第2018/230660(WO,A1)
【文献】特開2005-331337(JP,A)
【文献】特開2000-298114(JP,A)
【文献】特開平11-333460(JP,A)
【文献】特開平10-185871(JP,A)
【文献】堀 正,ベンゾトリアゾールの性状と用途および使用方法,防蝕技術,1969年,18巻9号,393-398頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/26 - 27/49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電荷を有する測定対象物質と、前記測定対象物質と同質の電荷を有し且つ前記測定対象物質よりも試料溶液中での移動速度が遅い妨害物質とを含有する試料溶液に含まれる前記測定対象物質の濃度を電気化学的に測定する電気化学測定装置であって、
前記試料溶液と接するように配置されて前記測定対象物質を検出するセンサ面を有する電極と、
前記電極に印加する電圧を制御する電圧制御部とを備え、
前記電圧制御部が、前記電極に対して前記センサ面に付着した前記妨害物質を前記センサ面から引き離すための負の除去電圧を前記電極に印加した直後に正の測定電圧を印加するものであり、
前記電圧制御部が、前記電極に負の電荷を印加し、それに続いて前記除去電圧を印加するものであることを特徴とする電気化学測定装置。
【請求項2】
前記電極が、ダイヤモンド電極、又はダイヤモンドライクカーボン電極である、請求項1に記載の電気化学測定装置。
【請求項3】
前記試料溶液を導入する導入口と前記試料溶液を導出する導出口とを有し、これら導入口と導出口との間に形成された内部流路に前記試料溶液を収容する測定セルをさらに備え、
前記センサ面が、前記試料溶液に接するように前記内部流路内に配置されている、請求項1又は2に記載の電気化学測定装置。
【請求項4】
前記センサ面が、前記内部流路を流れる前記試料溶液の流れに対して垂直又は斜めに配置されている、請求項に記載の電気化学測定装置。
【請求項5】
前記導入口が、前記センサ面よりも下側に配置されており、前記導出口が前記センサ面よりも上側に配置されている、請求項又はに記載の電気化学測定装置。
【請求項6】
電荷を有する測定対象物質と、前記測定対象物質と同質の電荷を有し且つ前記測定対象物質よりも試料溶液中での移動速度が遅い妨害物質とを含有する試料溶液に含まれる前記測定対象物質の濃度を電気化学的に測定する電気化学測定装置であって、
前記試料溶液と接するように配置されて前記測定対象物質を検出するセンサ面を有する電極と、
前記電極に印加する電圧を制御する電圧制御部とを備え、
前記電圧制御部が、前記電極に対して前記センサ面に付着した前記妨害物質を前記センサ面から引き離すための除去電圧を前記電極に印加した直後に、測定電圧を印加するものであり、
前記試料溶液を導入する導入口と前記試料溶液を導出する導出口とを有し、これら導入口と導出口との間に形成された内部流路に前記試料溶液を収容する測定セルと、
前記測定セルに前記試料溶液を供給する流路と、
前記流路上に設けられて、前記測定セルに供給される前記試料溶液の流量を制御する流量制御部とをさらに備え、
前記センサ面が、前記試料溶液に接するように前記内部流路内に配置されており、
前記流量制御部が前記流量を減らした又はゼロにした後に、前記電圧制御部が前記電極に前記除去電圧及び前記測定電圧を印加する、電気化学測定装置。
【請求項7】
前記電極の還元側での検出感度と酸化側での検出感度との比を用いて、前記電極によって測定された還元側での電流値と酸化側での電流値との合算電流値から、試料溶液中の次亜塩素酸と次亜塩素酸イオンとの合計濃度を算出する、請求項1~の何れか一項に記載の電気化学測定装置。
【請求項8】
前記電極として、作用極と対極と参照電極とを備えていることを特徴とする請求項1~のいずれか一項に記載の電気化学測定装置。
【請求項9】
電荷を有する測定対象物質と、前記測定対象物質と同質の電荷を有し且つ前記測定対象物質よりも試料溶液中での移動速度が遅い妨害物質とを含有する試料溶液に含まれる前記測定対象物質の濃度を電気化学的に測定する電気化学測定方法であって、
前記試料溶液と接するように配置されて前記測定対象物質を検出するセンサ面を有する電極に対して、負の電圧を印加し、それに続いて前記センサ面に付着した前記妨害物質を前記センサ面から引き離すための負の除去電圧を印加した直後に、測定電圧を印加することを特徴とする電気化学測定方法。
【請求項10】
前記測定対象物質が無機物であり、前記妨害物質が有機物である、請求項記載の電気化学測定方法。
【請求項11】
前記試料溶液がアルカリ性の水溶液であり、前記有機物がアミノ酸である又はアミノ酸を含有する物質である、請求項10に記載の電気化学測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学測定装置及び電気化学測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、食品を洗浄・殺菌する工程においては、殺菌が適正に行われる塩素濃度範囲に厳密にコントロールする必要がある。
そこで、食品を洗浄した洗浄液中の塩素濃度を精度よく測定することが求められている。
【0003】
洗浄液中の塩素濃度を精度よく測定する方法としては、電極に所定の電圧を印加することにより試料溶液中の塩素濃度を測定するボルタンメトリー式等の電気化学的な測定方法を挙げることが出来るが、電極を長時間洗浄液中に浸漬させた場合には、電極に汚れが付着してしまうことがある。電極が汚れると、測定精度が低下してしまうため、測定精度を高く維持するためには電極を定期的に洗浄することが求められる。
【0004】
前記電極の洗浄方法としては、例えば、特許文献1に示すように、電極に測定電圧とは正負が逆の逆電圧を印加して該電極を洗浄する電解研磨という方法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2020-034408号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、たとえば、試料溶液中に測定対象物質と同質の電荷を有する妨害物質が含まれている場合には、特許文献1にしめすような従来の電解研磨をしたとしても、電極に測定電圧を印加した際に測定対象物質だけでなく妨害物質も検出されてしまう、もしくは妨害物質が電極近傍に引き寄せられてしまうため測定対象物質の測定が阻害されてしまうという問題がある。
本発明は、このような課題を解決するために鋭意検討した本発明者が、測定対象物質と同質の電荷を有する妨害物質が存在する場合であっても、測定対象物質と妨害物質との試料溶液中での移動速度の違いを利用することによって測定対象物質のみを精度よく検出することができることに気が付いて初めて完成されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明に係る電気化学測定装置は、電荷を有する測定対象物質と、前記測定対象物質と同質の電荷を有し且つ前記測定対象物質よりも試料溶液中での移動速度が遅い妨害物質とを含有する試料溶液中の前記測定対象物質の濃度を電気化学的に測定する電気化学測定装置であって、前記試料溶液と接するように配置されて前記測定対象物質を検出するセンサ面を備えた電極と、前記電極に印加する電圧を制御する制御部とを備え、前記制御部が、前記電極に対して前記センサ面に付着した前記妨害物質を前記センサ面から引き離すための除去電圧を前記電極に印加した後、電極から引き離された前記妨害物質が前記センサ面に戻る前に測定電圧を印加するものであることを特徴とするものである。
【0008】
このように構成した電気化学測定装置によれば、除去電圧を印加することによって電極から引き離された妨害物質が、拡散等によりセンサ面の近くに戻って来る前に測定電圧を印加するので、測定対象物質よりも移動速度が遅い妨害物質が電極のセンサ面に到達する前に測定対象物質のみによる電位変化を検出することができる。その結果、測定対象物質の濃度をより精度よく測定することができる。
【0009】
本発明の具体的な実施態様としては、前記制御部が、前記電極に前記除去電圧を印加した直後に前記測定電圧を印加するものであるものを挙げることができる。
【0010】
前述したように、食品を洗浄した後の洗浄液中に含まれる残留塩素濃度を測定するような場合には、前記除去電圧が負の電圧であり、前記測定電圧が正の電圧となる。
【0011】
前記電極が、ダイヤモンド電極、又はダイヤモンドライクカーボン電極であるものであれば、電圧に対する耐久性が高いので、電解研磨時により高い電圧を印加して洗浄をおこなうことができるので好ましい。
【0012】
前記試料溶液を導入する導入口と前記試料溶液を導出する導出口とを有し、これら導入口と導出口との間に形成された内部流路に前記試料溶液を収容する測定セルをさらに備え、前記センサ面が、前記内部流路に収容される前記試料溶液に接する位置に、前記内部流路を流れる前記試料溶液の流れに対して垂直又は斜めに配置されていれば、前記試料溶液の流れが前記センサ面にぶつかって乱流となりやすい。そのため、前記除去電圧を印加することによって前記センサ面に気泡が生じた場合であっても、前記試料溶液の流れによって気泡が前記センサ面から除去されやすいので好ましい。
【0013】
前記導入口が、前記センサ面よりも下側に配置されており、前記導出口が前記センサ面よりも上側に配置されているものであれば、前記導入口から侵入した気泡や前記センサ面で発生した気泡を前記導出口から外部へ排出しやすい。その結果、前記センサ面付近に気泡が滞留することを防ぐことができるので、測定精度をより向上させることができる。
【0014】
前記測定セルに前記試料溶液を供給する流路と、前記流路上に設けられて、前記測定セルへの前記試料溶液の流入量を制御する流量制御部とを備え、前記流量制御部が前記測定セルへの前記試料溶液の流入量を減らした又はゼロにした後に、前記制御部が前記電極に前記除去電圧及び前記測定電圧を印加するものであれば、前記除去電圧によって妨害物質が除去された後に測定セル内に新たに供給される妨害物質の量を減らすことができるので、測定精度をさらに向上させることができる。
【0015】
本発明は、電荷を有する測定対象物質と、前記測定対象物質と同質の電荷を有し且つ前記測定対象物質よりも試料溶液中での移動速度が遅い妨害物質とを含有する試料溶液中の前記測定対象物質の濃度を電気化学的に測定する電気化学測定装置であって、前記試料溶液と接するように配置されて前記測定対象物質を検出する電極と、前記電極に印加する電圧を制御する制御部とを備え、前記制御部が、前記電極に対して前記電極の表面に付着した前記妨害物質を前記電極の表面から引き離すための除去電圧を前記電極に印加した後、前記電極から引き離された前記妨害物質が前記センサ面に戻る前に測定電圧を印加するものであることを特徴とする電気化学測定方法をも含む。
【0016】
本発明の具体的な実施態様としては、前記測定対象物質が無機物であり、前記妨害物質が有機物である電気化学測定方法を挙げることができる。より具体的な例としては、例えば、前記試料溶液がアルカリ性の水溶液であり、前記有機物がアミノ酸である又はアミノ酸を含有する物質である場合を挙げることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、測定対象物質と同質の電荷を有する妨害物質が含まれる試料溶液を測定する場合であっても、測定対象物質の濃度を精度よく測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態に係る電気化学測定装置全体の摸式図。
図2】本実施形態に係る電気化学測定装置の機能ブロック図。
図3】本実施形態に係る電気化学測定装置の測定セルの構造を示す模式図。
図4】本実施形態に係る電気化学測定装置の酸化側測定シークエンスの手順を示す模式図。
図5】本実施形態に係る電気化学測定装置を用いた洗浄及び測定工程における測定対象物質と妨害物質との挙動を説明する模式図。
図6】アルカリ性の試料溶液について、本実施形態に係る電気化学測定装置による残留塩素濃度測定の結果と比色法による残留塩素濃度測定の結果とを比較するグラフ。
図7】酸性の試料溶液について、本実施形態に係る電気化学測定装置による残留塩素濃度測定の結果と比色法による残留塩素濃度測定の結果とを比較するグラフ。
図8】本発明の他の実施形態に係る電気化学測定装置の測定セルの構造を示す模式図。
図9】本発明の他の実施形態に係る電気化学測定装置の測定セルの構造を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の一実施形態に係る電気化学測定装置100について図を参照しながら説明する。
<本実施形態に係る電気化学測定装置の構成>
本実施形態に係る電気化学測定装置100は、例えば、電解質溶液である試料溶液に電圧を印加することにより試料を分析する3極式ボルタンメトリー測定を行うフローインジェクション方式の電気化学測定装置100である。その基本構成は、図1及び図2に示すように、内部に試料溶液が流れる流路1が形成された流通管2と、流路1内を流通する試料溶液の流量を制御する流量制御部と、流路1上に設けられたセンサ部3と、センサ部3からの信号を取り出すための測定回路4と、測定回路4により得られた電圧、電流等に基づいて試料中の成分の濃度等を算出する情報処理装置5とを備えるものである。
【0020】
このような電気化学測定装置100は、様々な用途に使用することができるが、本実施形態では、一例として、野菜などの食品を洗浄した洗浄液中に含まれる残留塩素濃度測定をするものについて説明する。
【0021】
残留塩素とは、水溶液中に含有されている全ての有効塩素のことを示している。
有効塩素とは、次亜塩素酸(HClO)、次亜塩素酸イオン(ClO)、溶存塩素(Cl)などの遊離塩素や、モノクロルアミン(NHCl)、ジクロルアミン(NHCl)、トリクロルアミン(NCl)などの結合塩素からなるものである。
【0022】
流路1は、試料溶液である洗浄液が流れるメイン流路11と、メイン流路11から分岐してセンサ部3に接続されている分岐流路12とを備えている。
流量制御部は、例えば、流路1上に設けられたバルブ14又はポンプなどを備えるものである。本実施形態では、前記流路1上には、メイン流路11から分岐流路12への試料等の流入を制御するバルブ14を設け、このバルブ14を開けるとメイン流路11から分岐流路12に試料などの液体が流れ、このバルブ14を閉じるとメイン流路11から分岐流路12への液体の送液が止まるようにしてある。
【0023】
センサ部3は、分岐流路12のバルブ14よりも下流側に接続されて、内部に試料溶液を収容する測定セル31と、測定セル31の内部に収容された試料と接触するように測定セル31に取り付けられた作用電極32と、参照電極33と、対向電極34とを備えている。
【0024】
作用電極32は、試料溶液に接して電圧を印加し測定対象物を検出するためのセンサ面321を備えたものであり、例えば、前記センサ面321がホウ素を高濃度に添加することにより導電性を有するボロンドープダイヤモンドで形成されたダイヤモンド電極である。
【0025】
参照電極33は、作用電極32の電位の基準となる電極であり、本実施形態では、銀/塩化銀電極を用いている。
【0026】
対向電極34は、作用電極32にある電位を設定する場合に、作用電極32に電流が支障なく流れるようにするものである。本実施形態では、作用電極32同様、ボロンドープダイヤモンド電極を用いている。
【0027】
測定セル31は、例えば、図3に示すようなブロック状のものであり、前記試料溶液を導入する導入口311と前記試料溶液を導出する導出口312とを有し、これら導入口311と導出口312との間に形成された内部流路313に前記試料溶液を収容するものである。
【0028】
前述した作用電極32、参照電極33及び対向電極34は、それぞれが内部流路313に収容された試料溶液と接するように配置されている。特に作用電極32は、そのセンサ面321が内部流路313を流れる試料溶液の流れに対して斜め又は垂直になる姿勢で配置されている。具体的には、図3に示すように、内部流路313が、作用電極32のセンサ面321に向かって流れる試料溶液を垂直又は垂直に近い角度でセンサ面321にぶつかるように誘導する形状のものとしてある。内部流路313をこのような形状にすることによって、作用電極32のセンサ面321にぶつかった試料溶液の流れが乱流となり、該センサ面321で発生した気泡を効率よく押し流すことができる。その結果、測定精度をより向上させることができる。
【0029】
さらに、本実施形態に係る測定セル31は、導入口311が、センサ面321よりも下側に配置されており、導出口312がセンサ面321よりも上側に配置されているので、導入口311から試料溶液とともに混入した気泡や、作用電極32のセンサ面321で発生した気泡を導出口312から測定セル31の外部へ排出しやすい。
【0030】
測定回路4は、作用電極32、参照電極33及び対向電極34に電圧を印加し、当該印加電圧における電流値を検出するものであり、例えば、ポテンショスタットを含むものである。
【0031】
情報処理装置5は、測定回路4に印加する電圧を制御する電圧制御部51と、測定回路4から出力される電圧信号及び電流信号に基づいて電流-電圧曲線を求め、この電流-電圧曲線に基づいて試料中の残留塩素の濃度を算出する算出部52と、流路1に設けられたバルブ14の開閉を制御する流体制御部であるバルブ制御部53とを備えるものである。
【0032】
情報処理装置5の具体的な構成は、CPU、メモリ、A/Dコンバータ、D/Aコンバータ等を備えたものであり、前記メモリの所定領域に格納されたプログラムに従ってCPUや周辺機器が協働することにより電圧制御部51、算出部52、バルブ制御部53としての機能を発揮するようにしてある。また、情報処理装置5は、図2に示すように、センサ部3から出力される電位、測定回路4によって得られた電位差又は算出部52によって算出された算出値等を記録する記録部や、これらの値を表示する表示部等を備えるものであっても良い。情報処理装置5は、前述したような値を、例えば、記録媒体などに出力する出力部をさらに備えていても良い。該出力部から出力された出力値を外部の表示部に表示させるようにしても良いし、例えば汎用のPC等に取り込ませてさらに演算処理などをさせるものとしても良い。
【0033】
<本実施形態に係る電気化学測定装置を用いた電気化学測定方法>
以上に説明したような電気化学測定装置100を用いて、試料溶液中の残留塩素濃度を測定する方法及び手順を以下に説明する。
【0034】
(測定シークエンスの選択)
試料溶液に含まれる測定対象物質の状態は、試料溶液のpHによって変化するので、測定シークエンスを開始する前に、例えば、電圧制御部51が測定試料のpHを判断し、電極に印加する電圧の測定シークエンスを選択するようにしてある。
【0035】
電圧制御部51が試料溶液のpHを7以下であると判断した場合には、後述する還元側測定シークエンスを選択し実行する。
制御部が試料溶液のpH8以上であると判断した場合には、後述する酸化側測定シークエンスを選択し実行する。
制御部が試料溶液のpHを7より大きく8より小さいと判断した場合には、還元側測定シークエンスと酸化側測定シークエンスの両方を実行する。
【0036】
(還元側測定シークエンス)
電圧制御部51によって還元側シークエンスが選択された場合には、まず、前処理工程として、作用電極32に、例えば、±2.5Vの電圧が掃引される。この前処理工程の手順は、例えば、以下のようなものである。
試料溶液が測定セル31内に収容されて、作用電極32のセンサ面321が試料に接触した状態で、電圧制御部51からの指令を受けた測定回路4により作用電極32に+2.5Vの電圧が5秒間印加される。
次に、分岐流路12上に設けられたバルブ14がバルブ制御部53からの信号によって1秒間開状態にされることで、分岐流路12を通って測定セル31に試料溶液が流れ込み、測定セル31内の液置換が行われる。
バルブ14が閉じられた後、電圧制御部51からの指令を受けた測定回路4により作用電極32に-2.5Vの電圧が5秒間印加される。
分岐流路12上に設けられたバルブ14がバルブ制御部53からの信号によって1秒間開状態にされることで、分岐流路12を通って測定セル31に試料溶液が流れ込み、液置換が行われる。この液置換までが前処理工程となる。
【0037】
前述した前処理工程の後、測定工程が開始される。測定工程は、例えば、以下のような手順で行われる。
前処理工程が終わり再度バルブ14が閉じられて測定セル31に流れ込む試料溶液の流量がゼロになった後、電圧制御部51からの指令を受けた測定回路4により作用電極32、参照電極33及び対向電極34に-0.8Vの測定電圧が2秒間印加される。このとき作用電極32の表面で、印加電圧に応じた電気化学反応が起こり、この時に生じた電気信号が測定回路4によって検出されて算出部52に送られて解析され、試料中の残留塩素濃度が算出される。測定工程は、作用電極32、参照電極33及び対向電極34に印加される電圧が0Vに戻されることによって終了する。
【0038】
(酸化側測定シークエンス)
電圧制御部51によって酸化側測定シークエンスが選択された場合には、まず、前処理工程として、作用電極に±5Vの電圧が掃引される。この前処理工程の具体的な手順は、例えば、以下のようなものである。
試料溶液が測定セル31内に収容されて、作用電極32のセンサ面321が試料に接触した状態で、電圧制御部51からの指令を受けた測定回路4により作用電極32に+5Vの電圧が30秒間印加される。
次に、分岐流路12上に設けられたバルブ14がバルブ制御部53からの信号によって5秒間開状態にされることで、分岐流路12を通って測定セル31に試料溶液が流れ込み、測定セル31内の液置換が行われる。
バルブ14が閉じられた後、電圧制御部51からの指令を受けた測定回路4により作用電極32に-5Vの電圧が30秒間印加される。
分岐流路12上に設けられたバルブ14がバルブ制御部53からの信号によって5秒間開状態にされることで、分岐流路12を通って測定セル31に試料溶液が流れ込み、液置換が行われる。この液置換までが前処理工程となる。
【0039】
前述した前処理工程の後、測定工程が開始される。測定工程は、例えば、以下のような手順で行われる。
前処理工程が終了し、再度バルブ14が閉じられて測定セル31に流れ込む試料溶液の流量がゼロになった後、電圧制御部51からの指令を受けた測定回路4により作用電極32、参照電極33及び対向電極34に1.5Vの測定電圧が3秒間印加される。このとき作用電極32の表面で、印加電圧に応じた電気化学反応が起こり、この時に生じた電気信号が測定回路4によって検出されて算出部52に送られて解析され、試料中の残留塩素濃度が算出される。測定工程は、作用電極32、参照電極33及び対向電極34に印加される電圧が0Vに戻されることによって終了する。
【0040】
(電解研磨)
測定シークエンスが終了すると、電解研磨制御部512は、例えば、作用電極32に印加する電圧を、+5Vから-5Vの間で反復的に掃印して作用電極32を電解研磨する。
【0041】
この電解研磨は、例えば、電気化学測定装置100の電源を入れてから初めての測定を行う場合や、所定回数以上の測定シークエンスが繰り返されたときに、例えば、4回繰りかえすようにし、その他の場合は、1回の測定シークエンスが終了するたびに1回行うように設定してある。
【0042】
<本実施形態に係る電気化学測定方法の特徴点>
本実施形態に係る電気化学測定装置100及び電気化学測定方法においては、試料溶液中に存在するClOの濃度を、例えば、野菜などの食品から溶出するカルボン酸であるペプチドやタンパク質などのアミノ酸を含有する妨害物質による影響を抑えて測定するために、前述した酸化側測定シークエンスについて、以下のように工夫している。
以下に、本実施形態に係る酸化側測定シークエンスについて、図4を用いて説明する。
【0043】
本実施形態に係る酸化側測定シークエンスにおいては、電圧制御部51は、作用電極32に対して、測定電圧を印加する直前に、作用電極32のセンサ面321に付着し妨害物質を引き離すための除去電圧を、例えば、3秒程度印加する。本実施形態における測定電圧は前述したように1.5Vであるので、この場合の除去電圧は測定対象物質と同質の電荷を有する妨害物質を作用電極の表面から引き離すために十分な逆電圧、例えば-1.3V等とすることが好ましい。
【0044】
本実施形態のように野菜などの食品を洗浄した後の洗浄液などを試料溶液とする場合には、酸化側(アルカリ性)の試料溶液中において、測定対象であるClOと同じく負電荷を有するタンパク質などが食品から流出し、これらがClOを測定する際の妨害物質となる可能性が高い。前述したペプチドやタンパク質などの有機物は、カルボン酸であるので、アルカリ性の使用溶液中でClOと同じく負電荷を有しているけれども、分子量が比較的大きく試料溶液中での移動速度がClO等に比べて遅いので、図5に示すように、作用電極32に除去電圧を印加して妨害物質を作用電極32のセンサ面321から引き離した後に測定電圧を印加すれば、妨害物質が作用電極32のセンサ面321に到達するまでの間にClOのみを検出することができる。そのため、本実施形態に係る電気化学測定装置100又は電気化学測定方法によれば、妨害物質の影響を避けて残留塩素濃度を精度良く測定できる。
【0045】
除去電圧によって作用電極32のセンサ面321から引き離された妨害物質が、測定電圧を印加する前に測定セル31内の試料溶液中で均一に拡散してしまうと、測定電圧を印加した際に、作用電極32のセンサ面321付近に存在する妨害物質がすぐにセンサ面321に到達してしまうと考えられるので、作用電極32に除去電圧を印加した後、妨害物質が試料溶液中で均一に拡散してしまう前に作用電極32に測定電極を印加する必要がある。そこで、作用電極32に除去電圧を印加した直後に測定電圧を印加することが好ましい。ここで、直後とは妨害物質が試料溶液中に均一に拡散する等によってセンサ面321の近くに妨害物質が戻って来るまでに必要な時間が経過するまでの期間を意味する。妨害物質が均一に拡散するまでに必要な時間は測定セル31の内部流路313の容量や測定セル31に流れ込む試料溶液の流量等によって変化すると考えらえるが、本実施形態の場合には5秒以内であることが好ましく、3秒以内であることがより好ましく、1秒以内であることが特に好ましい。
【0046】
<本実施形態の効果>
本実施形態に係る電気化学測定装置100又は電気化学測定方法によれば、前述したように、試料溶液中に含まれる妨害物質の影響をできるだけ避けて測定対象物質の濃度を精度よく測定することができる。
また、前述したように測定セル31の形状及び作用電極32の配置が作用電極32のセンサ面321の付近に気泡が滞留しにくい形状及び配置となっているので、電圧制御部51が作用電極32に対して除去電圧を印加することによって発生する気泡の影響についても低減することができる。
【0047】
さらに、作用電極32及び対向電極34がボロンドープダイヤモンド電極であるので、電位窓が広く(酸化電位及び還元電位が広い)、また、他の電極材料と比較してバックグラウンド電流が低く、更に、化学的耐性、耐久性、電気伝導度、耐腐食性等にも優れるといった利点を有しているので好適である。 ダイヤモンド電極であれば、電圧に対する耐久性が高いので、他の素材の電極よりも高い電圧を印加することができ、かつ電極の交換頻度を抑えることができる。
【0048】
作用電極32、参照電極33、対向電極34を使用した3電極方式のボルタンメトリー測定を採用しているので、特別な試薬が不要、電位窓の影響を抑えて正確かつ容易に残留塩素濃度測定を行うことができる。
【0049】
電気化学測定装置100が、メイン流路11と分岐流路12とを備えており、分岐流路12上にセンサ部3が設けられているので、バルブ14の開閉に伴う送液の応答時間を短くすることができる。
【0050】
バルブ14が測定セル31の上流に配置されているので、バルブ14を閉めてから分岐流路12から測定セル31に流れ込む試料による測定セル31内の試料溶液の流動の流れが止まるまでの時間をより短くすることができる。
【0051】
<本発明に係る電気化学測定装置のその他の変形実施形態>
本発明は前記実施形態に限られたものではない。
例えば、算出部が次亜塩素酸濃度と次亜塩素酸イオン濃度とを個別に測定するのではなく、還元側電流値と酸化側電流値とから、次亜塩素酸濃度と次亜塩素酸イオン濃度とを合算した合計濃度である総残留塩素濃度を直接算出するものとしても良い。この算出方法は、センサ部が、前述したようなボルタンメトリー測定を行う装置構成の場合に、センサ部の還元側電流と酸化側電流との間の比が一定となることに基づいて本発明者が新たに考え出した残留塩素濃度算出方法であり、具体的には以下のようなものである。この場合に使用される装置構成としては、前記実施形態で説明したように作用極と対極と参照電極とを備えた3極式以上の電気化学測定装置であることが好ましい。また、この算出方法おいても、前記実施形態で説明した酸化側測定シークエンスを採用することが好ましいが、必ずしも必須ではない。
【0052】
まず、次亜塩素酸を検出する還元側電流と次亜塩素酸イオンを検出する酸化側電流とに対するセンサ部の検出感度をそれぞれ求める。例えば、3極式のボルタンメトリー測定を行う場合には、濃度が既知の次亜塩素酸濃度と次亜塩素酸イオン濃度を使用することによって、センサ部について、例えば、還元側電流と酸化側電流との間の比である感度係数aを求めることができる。この感度係数aは、例えば、(酸化側電流に対する感度)/(還元側電流に対する感度)等である。
【0053】
次に、以下の式(1)に示すように、総残留塩素濃度が既知の試料溶液を測定し、還元側電流値と酸化側電流値とを合算して合算電流値を求める。この合算の際に、前述したようにして求めた感度係数aを、例えば、酸化側電流値にかけておく。
【0054】
Is=a×Io+Ir・・・(1)
( 式(1)中のIsは合算電流値を、aは感度係数を、Ioは酸化側電流値を、Irは還元側電流値をそれぞれ表す。)
【0055】
同じ試料溶液について、比色法等の別の手法によって測定した残留塩素濃度を求め、この残留塩素濃度と合算電流値との検量線を作る。検量線としては、例えば、以下の式(2)ようなものを挙げることができる。
【0056】
Cl=A×Is+B・・・(2)
(式(2)中のClは総残留塩素濃度を、Aは以下の式(3)を、Bは以下の式(4)を表す。)
B=-A×Is0・・・(4)
(式(3)及び(4)中のIs0はゼロ校正時の合算電流値を、IsSはスパン校正時の合算電流値を、それぞれ表す。)
【0057】
この検量線を一度作っておけば、同じセンサ部を用いる限りにおいて、前述した合算電流値から次亜塩素酸と次亜塩素酸イオンとを両方含む総残留塩素濃度を直接算出することができる。
【0058】
また、前述した感度係数aと検量線とを用いれば、校正液として次亜塩素酸と次亜塩素酸イオンとを両方含む総残留塩素濃度のみが既知の校正液を使用して、センサ部を還元側及び酸化側の両方で校正することも可能である。
【0059】
従来は、校正時の温度と測定時の温度との差による測定誤差を補正する温度補正係数として、還元側電流値及び酸化側電流値に共通のものを使用している。この温度補正係数についても、前述した感度係数aを考慮して、還元側電流値と酸化側電流値のそれぞれに対して個別に用意することによって、試料溶液中の残留塩素濃度をより精度よく算出することができる。この温度補正係数を用いた総残留塩素濃度の算出式としては、例えば、以下の式(5)ようなものを挙げることができる。
【0060】
(式(5)中の、ClOは次亜塩素酸イオンの存在比を、HClOは次亜塩素酸の存在比を、Tは測定時の温度を、Tcalは校正時の温度を、To1は酸化側1次温度補正係数を、To2は酸化側2次温度補正係数を、Tr1は還元側1次温度補正係数を、Tr2は還元側2次温度補正係数をそれぞれ表す。)
【0061】
なお、還元側電流値及び酸化側電流値のそれぞれに対する温度補正係数は、総残留塩素濃度、校正時の温度、測定時の温度、センサの感度係数a及び前述した検量線を用いて、それぞれ求めることができる。
また、式中の次亜塩素酸及び次亜塩素酸イオンの存在比については、例えば、以下のような式(6)、(7)で求めることができる。
【0062】
電気化学測定装置が、前述した検量線又はテーブル、感度係数、還元側電流値の温度補正係数、酸化側電流値の温度補正係数、およびこれらを算出するための算出式等のうち少なくとも1つを記憶する記憶部をさらに備えるものとしてもよい。
【0063】
測定対象物質は、前述した残留塩素に限られず、例えば、オゾンや臭素等の他の無機物であっても良い。
前記実施形態では、前記妨害物質として、アルカリ性の試料溶液中で残留塩素と同じく、負の電荷を有するカルボン酸、より具体的にはアミノ酸、又はアミノ酸を含有するタンパク質やペプチドなどを想定していたが、これに限られず、妨害物質は試料溶液中において測定対象物質と同質の電荷(測定対象物と正負が同じ電荷)を有し、電極に測定電圧を印加した際の試料溶液中での移動速度が測定対象物質よりも遅い物質であれば良い。
本発明に係る電気化学測定装置又は電気化学測定方法は、食品分野だけではなく、水道水、飲料水、河川や沼湖の水、工業廃水、産業廃液、実験試薬など様々な試料溶液に対して使用可能である。
【0064】
本発明に係る電気化学測定装置全体の大きさは特に限定されないが、食品工場における食品製造ラインなどの現場に簡単に設置して、その場で測定できるように、持ち運びができるサイズのものであることが好ましい。
【0065】
流路を形成する配管や、測定セル、電極等の素材は、特に限定されないが、前述したように食品の製造工程などに組み込まれる電気化学測定装置とする場合には、食品衛生法に対応している素材を使用することが好ましい。例えば、測定用セルの素材としてポリメチルペンテン(PMP)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリ塩化ビニル(PVC)などの食品衛生法の認証を得ている材料を使用することが考えられる。
【0066】
作用電極に印加される前処理時の印加電圧や除去電圧、測定電圧は、前述したものに限らず、試料溶液の種類や検出したい測定対象物質等によって適宜変更することができる。またこれら電圧を印加する時間や液置換を行う時間の長さについても、適宜変更可能である。
【0067】
前述した実施形態では、電圧制御部が、実際に測定したpH値に基づいて測定シークエンスを選択するものとしたが、ユーザが試料溶液のpHに応じて測定シークエンスを指定するものとしても良い。
【0068】
電気化学測定装置は、前述したような3極式のものに限らず、2極式や4極式、6極式のものとしても良い。
【0069】
作用電極はボロンドープダイヤモンド電極に限らず、窒素、リン等の13族又は15族の元素をドープした導電性ダイヤモンド電極であっても良いし、さらにダイヤモンド電極に限らずカーボン電極、グラッシーカーボン電極、ダイヤモンドライクカーボン電極等の炭素を含有する炭素電極などや、金、白金など貴金属や、これら貴金属を含有する合金を使用した電極等であってもよい。 参照電極は、前述した銀/塩化銀電極に限らず、例えば、標準水素電極、水銀/塩化水銀電極、水素パラジウム電極等を用いることもできる。
さらに、対向電極についても、ダイヤモンド電極に限らず、例えば炭素、ステンレス、金、銀、塩化銀、白金、SnO等の電極を用いることができる。
【0070】
バルブは、測定セル31への試料溶液の流れを制御できれば良く、測定セル31の下流に配置されていても良いし、測定セルの上流側と下流側の両方に設けられていても良い。
【0071】
メイン流路と分岐流路を使用せず、メイン流路に測定セルを設けてバルブがメイン流路の流れを制御するようにしてもよい。
また、流体制御部が、バルブではなく、メイン流路や分岐流路に設けられたポンプを制御するものとしても良い。このようにバルブではなく、ポンプを備える場合には、流体制御部がポンプを作動させることによって試料溶液などの流体が測定セルに供給され、ポンプを停止することによって測定セルへの流体の供給が止まるようにしてもよい。
液置換時にメイン流路、分岐流路及び測定セルに流れる液体は、前述した試料溶液だけでなく、測定対象物質を含まない校正液や測定セル用洗浄液などであってもよい。
【0072】
前記バルブ制御部は、作用電極に電圧が印加されていない間にのみバルブを開状態とするものに限らず、常にバルブを開状態にしておくものとしても良いし、作用電極に所定値以上の電圧が印加されている場合における測定セルに流入する試料溶液の流量を、作用電極に前記所定値よりも小さい電圧が印加されている場合に比べて小さく制御するものとしても良い。
【0073】
前記測定セルとしては、前述したように導入口よりもセンサ面が上側にあり、さらにセンサ面よりも導出口が上側にあるものに限らず、例えば、図8及び図9に示すような様々な形状のものを採用することが可能である。また、測定セルに形成されている内部流路の形状についても、例えば、気泡が発生しにくい試料溶液などを測定する場合には、前述したように作用電極のセンサ面に対して試料溶液の流れが垂直又は斜めに衝突するような形状のものでなくても良い。また、前記実施形態においては、内部流路における作用電極、参照電極及び対向電極の配置順番が、導入口に近い方から参照電極、作用電極、対向電極の順に並んでいるものを記載したが、これら電極の配置順番はこれに限られず、適宜変更が可能である。また内部流路における各電極の配置場所についても、適宜変更可能である。
なお、前述した実施形態では、電気化学測定装置がフローインジェクション方式のものである場合について説明したが、ビーカーなどにセンサ部を浸して測定するバッチ式の電気化学測定装置であってもよい。
その他、本発明の趣旨に反しない限りにおいて、種々の変形や実施形態の組合せを行ってもかまわない。
【実施例
【0074】
以下に本発明の実施例について説明するが、本発明は、この実施例に限定されるものではない。
【0075】
前記実施形態で説明した新たな電気化学測定方法の手順で、野菜を洗浄した後の洗浄液中に含まれる残留塩素濃度を測定した。
この実施例では、NaClO濃度200ppmの洗浄液1Lに対して、キャベツの千切り60gを投入した場合の洗浄液中のNaClO濃度を測定した。この実施例で測定する試料溶液のpHは8よりも大きいことが良くされたため、前記実施形態において説明した酸化側測定シークエンスを用いてClOを検出することによってNaClO濃度を測定した。
【0076】
本実施例においては、前処理工程において負の電圧を印加する時間を4秒間、正の電圧を印加する時間を1秒間、液置換の時間を1秒とした以外は、実施形態で説明した酸化側測定シークエンスとほぼ同じ条件とした。本実施例では、前処理工程と測定工程を120分間連続的に繰り返して、連続的に試料溶液中の塩素濃度を測定した。
【0077】
各測定時点での洗浄液を一部採取し、ヨウ素試薬による吸光光度法によってNaClO濃度を測定した結果との比較を行った結果を図6に示す。
【0078】
<実験結果の考察>
この図6の結果から、本発明に係る電気化学測定方法を用いたNaClO濃度の測定結果は、比色法を用いて測定した結果との差が20ppm以下であり、pH値で補正した測定結果によれば前記差が10ppm以下となった。
一方で、従来の測定方法(測定電圧を印加する直前に除去電圧を印加しないそくてい方法)によって、同じく野菜の洗浄液中のNaClO濃度を測定した場合には、吸光光度法との差が50ppm以上乖離する結果となった。
この結果から、本実施形態に係る測定方法によれば、野菜から溶出するタンパク質などのアルカリ性溶液中でClOと同じく負電荷を有する妨害物質が存在する試料溶液であっても、測定対象物質であるClOを精度よく検出することが出来たことを示す。
【0079】
<その他の実施例>
図7には、前記実施形態において説明した還元側測定シークエンスを用いて、微酸性側の試料溶液中のHClO濃度を測定した場合の結果を示す。この実験における試料溶液としては、塩素濃度80ppm、pH6の電解水1.5Lに対して、キャベツ、ニンジン、ネギ、ゴボウ、白菜などの各野菜を刻んだものを10分間攪拌しながら浸漬した洗浄液を使用した。
【0080】
図7に示すように、前記実施形態で説明した還元側測定シークエンスの手順で測定を行った結果、吸光光度法で測定した結果と非常によく一致した結果が得られていることが分かる。この結果から、本実施形態に係る電気化学測定装置及び電気化学測定方法によれば、前述した酸化側測定シークエンスだけではなく、還元側測定シークエンスにおいても、高い測定精度を実現することができることが確認できた。
【符号の説明】
【0081】
100・・・電気化学測定装置
31 ・・・測定セル
311・・・導入口
312・・・導出口
313・・・内部流路
32 ・・・作用電極
321・・・センサ面
51 ・・・電圧制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9