(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】位置検出装置および位置検出の精度向上方法
(51)【国際特許分類】
G01D 5/20 20060101AFI20241016BHJP
【FI】
G01D5/20 A
(21)【出願番号】P 2021101825
(22)【出願日】2021-06-18
【審査請求日】2024-03-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000000516
【氏名又は名称】曙ブレーキ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 春仁
(72)【発明者】
【氏名】池内 亮
【審査官】榮永 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】特開平7-332910(JP,A)
【文献】特開2012-215542(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01D 5/20
G01D 5/22
G01B 7/00
G01R 27/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイルと前記コイルの内側を移動可能な磁性体コアとを含む位置センサと、前記コイルと前記磁性体コアとの相対位置の変化に応じた信号を出力する信号処理部とを有する位置検出装置であって、
前記コイルに印加される矩形波電圧を生成する矩形波電圧発生部と、
前記コイルに流れる電流に応じて電圧に変換する電圧検出部と、
前記矩形波電圧の波形の立ち上がり又は立ち下がりのタイミングt0に同期して、所定時間Td後に前記電圧検出部が出力する電圧をサンプリングして得られる電圧計測値Vsを取得するサンプリング部と、
を備え、前記コイルのインダクタンスが最小になる位置で、前記電圧計測値Vsが前記矩形波電圧の最大値に対して40%以上、99.999%以内の範囲に規制されるように前記所定時間Tdを定める、
ことを特徴とする位置検出装置。
【請求項2】
前記電圧計測値Vsから直流成分を検出するローパスフィルタと、
前記電圧計測値Vsから交流成分を検出するバンドパスフィルタと、
を更に備える請求項1に記載の位置検出装置。
【請求項3】
前記電圧計測値Vsを位置情報に変換する位置情報変換部、
を更に備える請求項1又は請求項2に記載の位置検出装置。
【請求項4】
コイルと前記コイルの内側を移動可能な磁性体コアとを含む位置センサを用いて、前記コイルと前記磁性体コアとの相対位置の変化を把握するための位置検出の精度向上方法であって、
生成した矩形波電圧を前記コイルに印加し、
前記コイルに流れる電流に応じた電圧を検出し、
前記矩形波電圧の波形の立ち上がり又は立ち下がりのタイミングt0に同期して、所定時間Td後に前記電圧をサンプリングして得られる電圧計測値Vsを取得し、
前記コイルのインダクタンスが最小になる位置で、前記電圧計測値Vsが前記矩形波電圧の最大値に対して40%以上、99.999%以内の範囲に規制されるように前記所定時間Tdを定める、
位置検出の精度向上方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続した変位や移動などの検出に利用可能な位置検出装置および位置検出の精度向上方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気コイル(以下、コイルと記載)とその内側を移動可能な磁性体コアを利用して連続した変位や移動などを検知することができる。すなわち、コイルと磁性体コアの相対的な位置関係が変化するとコイルのインダクタンスが変化するので、インダクタンスの計測により位置の変化を検出する位置センサを構成できる。
【0003】
しかし、単一のコイルを用いた単純な構造の位置センサは、一般的に広い範囲で高い検出精度が得られない。そこで、高い検出精度が必要とされる用途では、LVDT(Linear Variable Differential Transformer:線形可変差動変圧器)が一般的に用いられている。
【0004】
但し、LVDTは複数のコイルを内蔵しているので、センサの構造が複雑になり、部品のコストや信号処理回路のコストが高くなる傾向がある。
例えば、車両上で各車輪のブレーキ装置における部品の摩耗量や移動方向などを検知する用途では、車輪の数だけセンサ及び信号処理回路を用意する必要があるので、LVDTを使用することなく安価なセンサで精度の高い位置検出ができることが望まれている。
【0005】
一方、例えば特許文献1のインダクタンス測定装置は、コイル(被測定インダクタンス)にステップ状の電圧を印加すると共にタイマーをスタートし、t秒後に電流値を測定し、インダクタンスの値を算出することを示している。また、時間tが0の近辺における過渡電流波形の傾きを接線として求め、この傾きからインダクタンスを算出することを開示している。更に、時間Δtが小さいほど、インダクタンスを精度高く測定できること、及び測定時間が短縮されることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の技術はインダクタンス測定だけを目的としているので、上記のような位置センサにおける信号処理には不向きである可能性が高い。例えば、保護などの目的で位置センサのコイルの外側を金属ケースで覆った場合には、過渡電流波形の接線の傾きが大きく変化するので、インダクタンスの計算結果に大きな影響が現れる。また、時間tの設定しだいで、コイルと直列に接続した抵抗器の影響が現れて大きな誤差が発生する可能性がある。更に、その誤差を解決することが難しい。
【0008】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、単一のコイルで構成される簡易な構成の位置センサを利用する場合に、広い範囲に亘って連続して精度の高い位置検出が可能な位置検出装置および位置検出の精度向上方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述した目的を達成するために、本発明に係る位置検出装置および位置検出の精度向上方法は、下記(1)~(4)を特徴としている。
(1) コイルと前記コイルの内側を移動可能な磁性体コアとを含む位置センサと、前記コイルと前記磁性体コアとの相対位置の変化に応じた信号を出力する信号処理部とを有する位置検出装置であって、
前記コイルに印加される矩形波電圧を生成する矩形波電圧発生部と、
前記コイルに流れる電流に応じて電圧に変換する電圧検出部と、
前記矩形波電圧の波形の立ち上がり又は立ち下がりのタイミングt0に同期して、所定時間Td後に前記電圧検出部が出力する電圧をサンプリングして得られる電圧計測値Vsを取得するサンプリング部と、
を備え、前記コイルのインダクタンスが最小になる位置で、前記電圧計測値Vsが前記矩形波電圧の最大値に対して40%以上、99.999%以内の範囲に規制されるように前記所定時間Tdを定める、
ことを特徴とする位置検出装置。
【0010】
(2) 前記電圧計測値Vsから直流成分を検出するローパスフィルタと、
前記電圧計測値Vsから交流成分を検出するバンドパスフィルタと、
を更に備える上記(1)に記載の位置検出装置。
【0011】
(3) 前記電圧計測値Vsを位置情報に変換する位置情報変換部、
を更に備える上記(1)又は(2)に記載の位置検出装置。
【0012】
(4) コイルと前記コイルの内側を移動可能な磁性体コアとを含む位置センサを用いて、前記コイルと前記磁性体コアとの相対位置の変化を把握するための位置検出の精度向上方法であって、
生成した矩形波電圧を前記コイルに印加し、
前記コイルに流れる電流に応じた電圧を検出し、
前記矩形波電圧の波形の立ち上がり又は立ち下がりのタイミングt0に同期して、所定時間Td後に前記電圧をサンプリングして得られる電圧計測値Vsを取得し、
前記コイルのインダクタンスが最小になる位置で、前記電圧計測値Vsが前記矩形波電圧の最大値に対して40%以上、且つ99.999%以内の範囲に規制されるように前記所定時間Tdを定める、
位置検出の精度向上方法。
【0013】
上記(1)の構成の位置検出装置によれば、単一のコイルで構成される簡易な構成の位置センサを利用して、非線形誤差の小さい位置情報を電圧計測値Vsに基づいて把握できる。特に、コイルのインダクタンスが最小になる位置では非線形誤差が生じやすい状態になるが、電圧計測値Vsが前記矩形波電圧の最大値に対して40%以上、且つ99.999%以内の範囲に規制されるように所定時間Tdを定めることで、誤差の増大を避けることができる。
【0014】
上記(2)の構成の位置検出装置によれば、位置センサが検出した位置の情報を、電圧計測値Vsの直流成分としてローパスフィルタで取得できる。また、位置センサが検出した移動の有無や移動方向などの情報を電圧計測値Vsの交流成分としてバンドパスフィルタで取得できる。
【0015】
上記(3)の構成の位置検出装置によれば、例えば金属ケースなどの影響により位置センサのインダクタンス特性が変化したような場合でも、特性の変化分を補正する機能を位置情報変換部に持たせることで位置情報を正しく校正することが可能になる。
【0016】
上記(4)の構成の位置検出の精度向上方法によれば、単一のコイル(例えば、ソレノイドコイル)で構成される簡易な構成の位置センサを利用して、非線形誤差の小さい位置情報を電圧計測値Vsに基づいて把握できる。特に、コイルのインダクタンスが最小になる位置では非線形誤差が生じやすい状態になるが、電圧計測値Vsが矩形波電圧の最大値に対して40%以上、且つ99.999%以内の範囲に規制されるように所定時間Tdを定めることで、誤差の増大を避けることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の位置検出装置および位置検出の精度向上方法によれば、単一のコイル(例えば、ソレノイドコイル)で構成される簡易な構成の位置センサを利用する場合に、広い範囲に亘って精度の高い位置検出が可能になるので部品コスト等の削減が容易になる。
【0018】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための形態(以下、「実施形態」という。)を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る位置検出装置の主要部を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、
図1の回路における主要な信号の例を示すタイミングチャートである。
【
図3】
図3は、
図2における時間軸を拡大した状態を示すタイミングチャートである。
【
図4】
図4は、本発明の実施形態に係る位置検出装置の実測特性の例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に関する具体的な実施形態について、各図を参照しながら以下に説明する。
【0021】
<位置検出装置の構成>
図1は、本発明の実施形態に係る位置検出装置の主要部を示すブロック図である。
本実施形態の位置検出装置は、図示しない位置センサと、
図1に示した信号処理部10とで構成される。この位置センサは、
図1に示したセンサーコイル11と、その内側に配置され、コイルの長手方向に移動可能な磁性体コアとを備えている。磁性体コアは、例えば鉄やフェライトのような強磁性体により構成される。
【0022】
センサーコイル11のインダクタンスは、センサーコイル11と磁性体コアとの相対位置に応じて変化する。したがって、例えばブレーキ装置における摩耗量を検出可能な箇所にこの位置センサを取り付けると、摩耗量の変化に応じてセンサーコイル11と磁性体コアとの相対位置が変化するので、摩耗量に応じた移動量をインダクタンスの変化として検出できる。
【0023】
図1に示した信号処理部10は、発振器13、スイッチング回路14、サンプリングパルス発生回路15、サンプリング回路16、電圧バッファ回路17、ローパスフィルタ(LPF)18、バンドパスフィルタ(BPF)19、及び位置情報変換部22を備えている。
【0024】
なお、信号処理部10の各構成要素については、個別の電気部品を組み合わせたアナログ電気回路、又はデジタル電気回路、あるいはマイクロコンピュータのハードウェアとソフトウェアとを組み合わせた電子回路のいずれを用いても実現できる。
【0025】
発振器13は、周波数が一定の安定した基準信号Voを発生する。この基準信号Voは矩形波の二値信号であり、オンオフデューティーは例えば50%である。
スイッチング回路14は、基準信号Voを電流増幅して矩形波信号Vreを生成する。したがって、矩形波信号Vreの波形、周期、デューティ等のタイミングは基準信号Voと同一である。矩形波信号Vreの電圧は、オンの時に例えば5[V]になり、オフの時にほぼ0[V]になる。
【0026】
スイッチング回路14の生成した矩形波信号Vreは、センサーコイル11に印加され、センサーコイル11に電流icが流れる。この電流icを電圧として検出可能にするために、センサーコイル11と直列に抵抗器12が接続されている。つまり、抵抗器12の抵抗値と電流icとの積に応じた電圧が、検出信号SGxとして得られる。なお、抵抗器12の値はセンサーコイル11の内部シリーズ抵抗値よりも十分に(例えば5倍以上)大きな値に設定している。
【0027】
サンプリングパルス発生回路15は、発振器13が出力する基準信号Voに基づいてサンプリングパルス信号SPを生成する。したがって、このサンプリングパルス信号SPと矩形波信号Vreとは互いにタイミングが同期している。
【0028】
実際には、サンプリングパルス発生回路15は、矩形波信号Vreがオフからオンに立ち上がるタイミングから一定の遅延時間Tdの後で、サンプリングパルス信号SPとして時間幅の非常に小さいパルスを発生する。あるいは、矩形波信号Vreがオンからオフに立ち下がるタイミングから一定の遅延時間Tdの後で、サンプリングパルス信号SPのパルスを発生する。
【0029】
サンプリング回路16は、センサーコイル11の出力からサンプリング回路16に入力される検出信号SGxの電圧を、サンプリングパルス信号SPのパルスが発生したタイミングでサンプリングして、その電圧の瞬時値をコンデンサC1によりホールドする。
【0030】
したがって、サンプリング回路16がサンプリングした電圧計測値Vsがサンプリング回路16の出力に得られる。この電圧計測値Vsは、サンプリングパルス信号SPに次のパルスが現れた時に、サンプリング回路16のサンプリング動作により更新される。このサンプリング動作は、基準信号Voと同じ一定の周期で繰り返される。
【0031】
電圧バッファ回路17は、ハイインピーダンスの入力回路を有し、入力電流がほとんど流れないので、電圧計測値Vsに対してほとんど影響を与えないようになっている。そして、電圧バッファ回路17は電圧計測値Vsと同じ信号を出力する。
【0032】
ローパスフィルタ18は、電圧バッファ回路17の出力に現れる電圧計測値Vsから直流成分の電圧を抽出し、直流(DC)出力21として位置情報変換部22の入力に与える。すなわち、位置センサのセンサーコイル11と磁性体コアとの相対位置に対応する直流電圧が直流出力21として得られる。
【0033】
バンドパスフィルタ19は、電圧バッファ回路17の出力に現れる電圧計測値Vsからノイズ以外の比較的周波数が低い交流成分を抽出し、その電圧を交流出力20に出力する。例えば、位置センサの検出対象部位において、移動や振動などが発生している時には、電圧計測値Vsに時系列の変動が発生するので、その変動分がバンドパスフィルタ19で抽出されて交流出力20に現れる。したがって、検出対象部位における移動の有無や移動方向を交流出力20の電圧から把握できる。
【0034】
位置情報変換部22は、直流出力21の電圧を位置情報や移動量に変換して出力する。また、実際に使用している位置センサの固有の特性やケースなどの使用環境の影響に起因する誤差が発生するような場合に、その誤差を補正するための処理を実施する。
【0035】
<信号の具体例>
図2は、
図1の信号処理部10における主要な信号の例を示すタイミングチャートである。
図3は、
図2における時間軸を拡大した状態を示すタイミングチャートである。
図2及び
図3において、横軸は時間t[ms]を表し、縦軸は各信号の電圧[V]を表している。
【0036】
図2に示すように、検出信号SGxは、0.6[V]程度の低電圧の状態と、4.0[V]程度の高電圧の状態とを交互に繰り返す矩形波に近い形状であり、繰り返し周期は1.7[ms]程度になっている。
【0037】
実際には、検出信号SGxの波形は、センサーコイル11におけるインダクタンスとその内部抵抗と抵抗器12とで定まる時定数に応じた過渡応答の分だけ、矩形波信号Vreと比べて波形の立ち上がり及び立ち下がりが緩やかになっている。つまり、位置センサの検出位置に応じたセンサーコイル11のインダクタンスが、検出信号SGxの立ち上がり及び立ち下がり波形の変化として反映される。
【0038】
図2及び
図3においては、互いにセンサーコイル11の検出位置、及びそのインダクタンスが異なる複数種類の状態における検出信号SGxの波形を合成し重ね合わせた状態で示してある。つまり、
図3に示した検出信号SGx1、SGx2、SGx3、・・・、及びSGxMは、それぞれ互いにインダクタンスが異なる状態の検出信号SGxを示している。また、検出信号SGx1は、インダクタンスが最小の場合の波形を表し、検出信号SGxMはインダクタンスが最大の場合の波形を表している。
【0039】
一方、サンプリングパルス信号SPのパルスが発生するタイミングは、矩形波信号Vreの波形のオンオフに同期しており、
図3に示すように検出信号SGxの波形が立ち上がる時刻t0から一定の遅延時間Tdを経過した時刻t1にサンプリングパルス信号SPのパルスが現れる。そして、その時刻t1に検出信号SGxの電圧が電圧計測値Vsとしてサンプリング回路16でサンプリングされる。なお、
図3の例では遅延時間Tdが15[μs]に定めてある。
【0040】
したがって、
図3に示した各検出信号SGx1~SGxMのようにセンサーコイル11のインダクタンスに応じて波形が変化する場合には、サンプリングパルスの時刻t1でサンプリングされる電圧計測値Vsが波形に応じて変化する。つまり、位置センサの検出位置及びセンサーコイル11のインダクタンスが、電圧計測値Vsに反映される。
【0041】
したがって、
図1に示した信号処理部10の直流出力21の電圧により、位置センサの検出位置を把握できる。また、交流出力20の電圧に基づいて位置センサが検出する箇所における移動の有無や移動方向を把握できる。コアの絶対位置は直流出力21の出力電圧値により判断でき、コアがどちらに移動しているかは同じく直流出力21の出力電圧が高い方に電圧が推移しているか、低い方に電圧が推移しているかで判断できる。
【0042】
<位置検出装置の特性の具体例>
図4は、本発明の実施形態に係る位置検出装置の実測特性の例を示すグラフである。
図4において、横軸は位置センサのセンサーコイル11に対する磁性体コアの移動距離[mm]を表している。また、
図4の縦軸は電圧[V]及び誤差を表している。
【0043】
図4に示した実測値曲線C41は、信号処理部10の直流出力21で検出した実測値を表す。また、誤差特性曲線C43は、実測値曲線C41の各位置の実測値と理想直線C42との誤差を表している。
【0044】
図4に示すように、この位置検出装置は広い範囲に亘ってリニアリティが良好な検出特性を有している。特に、磁性体コアの移動距離が0~65[mm]の範囲では、実測値曲線C41と理想直線C42とがほぼ重なっており、誤差が±1%以内であるので、単純な構造の位置センサを利用した簡易な装置により高精度の位置検出を実現できる。
【0045】
<遅延時間Tdの制限>
但し、遅延時間Tdが適切でない場合には、この位置検出装置の検出誤差が大きくなる可能性がある。例えば、遅延時間Tdが大きすぎる場合は、
図3中に示したインダクタンスが最小の検出信号SGx1の波形をサンプリングする時刻t1において、検出信号SGx1の電圧が飽和点である電圧最大値Vmaxに近づくため、電圧の変化が小さくなり誤差が増大する。したがって、位置センサのインダクタンスが最小になる位置で、検出信号SGx1の電圧をサンプリングして得られる電圧計測値Vsが電圧最大値Vmaxの99.999%以内に規制されるように、遅延時間Tdの上限を定める。
【0046】
一方、遅延時間Tdが小さすぎる場合は、
図3中に示したインダクタンスが最小の検出信号SGx1の波形をサンプリングする時刻t1において、検出信号SGx1の電圧変化(傾き)が急峻であるため、僅かな時間のずれが電圧計測値Vsに大きな変化を及ぼすことになり、位置検出装置の検出誤差が増大する可能性がある。したがって、位置センサのインダクタンスが最小になる位置で、検出信号SGx1の電圧をサンプリングして得られる電圧計測値Vsが電圧最大値Vmaxの40%以上に規制されるように、遅延時間Tdの下限を定める。
【0047】
図1に示した信号処理部10のような構成を有する位置検出装置においては、LVDTのようなセンサを利用する必要がなく、コイルが1つだけの位置センサを用いて、簡便な方法で高精度の位置検出が可能である。特に、遅延時間Tdの下限及び上限を規制することで検出誤差を減らすことが可能になる。また、センサ部はソレノイドコイル、鉄コア、鉄ケースであり、受動部品しかなく、温度的にも、振動的にも極めて環境性能が高い部品で構成されているのも大きな特徴である。
【0048】
なお、
図2及び
図3においては、検出信号SGxの波形の立ち上がりの区間にサンプリングパルス信号SPでサンプリングして電圧計測値Vsを得る場合を示してあるが、検出信号SGxの波形の立ち下がり区間にサンプリングした電圧計測値Vsを利用する場合にも高精度の位置検出が可能である。
【0049】
ここで、上述した本発明の実施形態に係る位置検出装置および位置検出の精度向上方法の特徴をそれぞれ以下[1]~[4]に簡潔に纏めて列記する。
[1] コイル(センサーコイル11)と前記コイルの内側を移動可能な磁性体コアとを含む位置センサと、前記コイルと前記磁性体コアとの相対位置の変化に応じた信号を出力する信号処理部(10)とを有する位置検出装置であって、
前記コイルに印加される矩形波電圧を生成する矩形波電圧発生部(スイッチング回路14)と、
前記コイルに流れる電流に応じて電圧に変換する電圧検出部(抵抗器12)と、
前記矩形波電圧の波形の立ち上がり又は立ち下がりのタイミングt0に同期して、所定時間Td後に前記電圧検出部が出力する電圧(検出信号SGx)をサンプリングして得られる電圧計測値Vsを取得するサンプリング部(サンプリング回路16)と、
を備え、前記コイルのインダクタンスが最小になる位置(検出信号SGx1)で、前記電圧計測値Vsが前記矩形波電圧の最大値(電圧最大値Vmax)に対して40%以上、99.999%以内の範囲に規制されるように前記所定時間Tdを定める、
ことを特徴とする位置検出装置。
【0050】
[2] 前記電圧計測値Vsから直流成分を検出するローパスフィルタ(18)と、
前記電圧計測値Vsから交流成分を検出するバンドパスフィルタ(19)と、
を更に備える上記[1]に記載の位置検出装置。
【0051】
[3] 前記電圧計測値Vsを位置情報に変換する位置情報変換部(22)、
を更に備える上記[1]又は[2]に記載の位置検出装置。
【0052】
[4] コイル(センサーコイル11)と前記コイルの内側を移動可能な磁性体コアとを含む位置センサを用いて、前記コイルと前記磁性体コアとの相対位置の変化を把握するための位置検出の精度向上方法であって、
生成した矩形波電圧(矩形波信号Vre)を前記コイルに印加し、
前記コイルに流れる電流に応じた電圧(検出信号SGx)を検出し、
前記矩形波電圧の波形の立ち上がり又は立ち下がりのタイミングt0に同期して、所定時間Td後に前記電圧をサンプリングして得られる電圧計測値Vsを取得し、
前記コイルのインダクタンスが最小になる位置(検出信号SGx1)で、前記電圧計測値Vsが前記矩形波電圧の最大値(電圧最大値Vmax)に対して40%以上、99.999%以内の範囲に規制されるように前記所定時間Tdを定める、
位置検出の精度向上方法。
【符号の説明】
【0053】
10 信号処理部
11 センサーコイル
12 抵抗器
13 発振器
14 スイッチング回路
15 サンプリングパルス発生回路
16 サンプリング回路
17 電圧バッファ回路
18 ローパスフィルタ
19 バンドパスフィルタ
20 交流出力
21 直流出力
22 位置情報変換部
C1 コンデンサ
C41 実測値曲線
C42 理想直線
C43 誤差特性曲線
SGx,SGx1,SGx2,SGx3,SGx4,SGxM 検出信号
SP サンプリングパルス信号
Td 遅延時間
Vmax 電圧最大値
Vo 基準信号
Vre 矩形波信号
Vs 電圧計測値