IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社神戸製鋼所の特許一覧

特許7572313積層造形支援装置、積層造形装置、積層造形支援方法、及びプログラム
<>
  • 特許-積層造形支援装置、積層造形装置、積層造形支援方法、及びプログラム 図1
  • 特許-積層造形支援装置、積層造形装置、積層造形支援方法、及びプログラム 図2
  • 特許-積層造形支援装置、積層造形装置、積層造形支援方法、及びプログラム 図3
  • 特許-積層造形支援装置、積層造形装置、積層造形支援方法、及びプログラム 図4
  • 特許-積層造形支援装置、積層造形装置、積層造形支援方法、及びプログラム 図5
  • 特許-積層造形支援装置、積層造形装置、積層造形支援方法、及びプログラム 図6
  • 特許-積層造形支援装置、積層造形装置、積層造形支援方法、及びプログラム 図7
  • 特許-積層造形支援装置、積層造形装置、積層造形支援方法、及びプログラム 図8
  • 特許-積層造形支援装置、積層造形装置、積層造形支援方法、及びプログラム 図9
  • 特許-積層造形支援装置、積層造形装置、積層造形支援方法、及びプログラム 図10
  • 特許-積層造形支援装置、積層造形装置、積層造形支援方法、及びプログラム 図11
  • 特許-積層造形支援装置、積層造形装置、積層造形支援方法、及びプログラム 図12
  • 特許-積層造形支援装置、積層造形装置、積層造形支援方法、及びプログラム 図13
  • 特許-積層造形支援装置、積層造形装置、積層造形支援方法、及びプログラム 図14
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】積層造形支援装置、積層造形装置、積層造形支援方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06F 30/10 20200101AFI20241016BHJP
   B23K 9/04 20060101ALI20241016BHJP
   B23K 9/032 20060101ALI20241016BHJP
   B29C 64/106 20170101ALI20241016BHJP
   B29C 64/393 20170101ALI20241016BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20241016BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20241016BHJP
   B33Y 50/02 20150101ALI20241016BHJP
   G06F 30/23 20200101ALI20241016BHJP
   G06F 113/10 20200101ALN20241016BHJP
【FI】
G06F30/10 100
B23K9/04 G
B23K9/04 Z
B23K9/032 Z
B29C64/106
B29C64/393
B33Y10/00
B33Y30/00
B33Y50/02
G06F30/23
G06F113:10
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021104321
(22)【出願日】2021-06-23
(65)【公開番号】P2023003252
(43)【公開日】2023-01-11
【審査請求日】2023-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】篠崎 貴宏
(72)【発明者】
【氏名】初田 光嶺
【審査官】岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-097193(JP,A)
【文献】特開平09-001376(JP,A)
【文献】特開2020-114677(JP,A)
【文献】特開2021-016988(JP,A)
【文献】特開2020-001059(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/10
B23K 9/04
B23K 9/032
B29C 64/106
B29C 64/393
B33Y 10/00
B33Y 30/00
B33Y 50/02
G06F 30/23
G06F 113/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接材料を溶融及び凝固させた線状の溶着ビードを積層して3次元形状の造形物を造形する際の、前記溶着ビードの形成順を表すビード形成軌道の決定を支援する積層造形支援装置であって、
前記造形物の形状モデルと前記造形物に負荷される荷重条件との情報を取得する造形条件取得部と、
取得された前記形状モデル及び前記荷重条件に基づく応力解析により、前記造形物の各部位に生じる最大主応力方向をそれぞれ求める応力解析部と、
前記最大主応力方向および前記荷重条件に基づいて前記溶着ビードの形成方向を決定する軌道決定部と、
を備える積層造形支援装置。
【請求項2】
前記軌道決定部は、前記造形物の各部位について、前記ビード形成軌道を、前記応力解析により求めた対応する位置の前記最大主応力方向と、前記溶着ビードの形成方向との交差角度が小さくなるようにする、
請求項1に記載の積層造形支援装置。
【請求項3】
溶接材料を溶融及び凝固させた線状の溶着ビードを積層して3次元形状の造形物を造形する際の、前記溶着ビードの形成順を表すビード形成軌道の決定を支援する積層造形支援装置であって、
前記造形物の形状モデルと前記造形物に負荷される荷重条件との情報を取得する造形条件取得部と、
取得された前記形状モデルに基づいて、前記造形物を造形する前記ビード形成軌道を仮設定する軌道仮設定部と、
仮設定された前記ビード形成軌道に応じた前記形状モデル及び前記荷重条件に基づく応力解析により、前記造形物の各部位に生じる最大主応力方向をそれぞれ求める応力解析部と、
仮設定された前記ビード形成軌道と前記応力解析により求めた最大主応力方向とから前記造形物の各部位の疲労限度を求め、求めた前記各部位の予測疲労限度が予め設定された設計疲労限度より小さい場合に、前記各部位の前記ビード形成軌道を、前記応力解析により求めた対応する位置の前記最大主応力方向に応じて決定する軌道決定部と、
を備え
前記軌道決定部は、前記最大主応力方向と、前記溶着ビードの形成方向との交差角度が小さくなるようにする、
積層造形支援装置。
【請求項4】
溶接材料を溶融及び凝固させた線状の溶着ビードを積層して3次元形状の造形物を造形する際の、前記溶着ビードの形成順を表すビード形成軌道の決定を支援する積層造形支援装置であって、
前記造形物の形状モデルと前記造形物に負荷される荷重条件との情報を取得する造形条件取得部と、
取得された前記形状モデル及び前記荷重条件に基づく応力解析により、前記造形物の各部位に生じる最大主応力方向をそれぞれ求める応力解析部と、
前記最大主応力方向および前記荷重条件に基づいて前記溶着ビードの形成方向を決定する軌道決定部と、
前記溶着ビードの形成方向と当該溶着ビードに発生する応力の作用方向との交差角度に対して、前記溶着ビードの疲労限度を関係付けたデータベースとを備え、
前記軌道決定部は、前記ビード形成軌道における前記溶着ビードの形成方向を、前記データベースを参照して、予め設定された設計疲労限度以上となる前記交差角度の範囲に決定し、
さらに、
前記軌道決定部が決定した前記ビード形成軌道に対応する前記疲労限度が予め設定された設計疲労限度より小さい低強度部位が存在する場合に、前記疲労限度が増加するように前記低強度部位における前記ビード形成軌道を修正する軌道修正部と、
前記軌道修正部が修正した前記ビード形成軌道に対応する前記疲労限度が予め設定された設計疲労限度より小さい低強度部位が存在する場合に、前記疲労限度が増加するように前記形状モデルを変更する形状変更部とを備え、
前記形状変更部は、前記形状モデルが有する一部の構造を、該構造に対する応力集中係数が小さくなる形状モデルに変更し、変更後の前記形状モデルを前記造形条件取得部に出力する、
積層造形支援装置。
【請求項5】
前記応力解析部は、前記造形物の応力分布を求め、周囲よりも高い応力集中係数を有する応力集中部位を抽出する機能をさらに有し、
前記軌道決定部は、抽出された前記応力集中部位にのみ前記ビード形成軌道を前記最大主応力方向に応じて決定する、
請求項1~のいずれか1項に記載の積層造形支援装置。
【請求項6】
溶接材料を溶融及び凝固させた線状の溶着ビードを積層して3次元形状の造形物を造形する際の、前記溶着ビードの形成順を表すビード形成軌道の決定を支援する積層造形支援方法であって、
前記造形物の形状モデルと前記造形物に負荷される荷重条件との情報を取得する造形条件取得工程と、
取得された前記形状モデル及び前記荷重条件に基づく応力解析により、前記造形物の各部位に生じる最大主応力方向をそれぞれ求める応力解析工程と、
前記最大主応力方向および前記荷重条件に基づいて前記溶着ビードの形成方向を決定する軌道決定工程と、
を備える積層造形支援方法。
【請求項7】
溶接材料を溶融及び凝固させた線状の溶着ビードを積層して3次元形状の造形物を造形する際の、前記溶着ビードの形成順を表すビード形成軌道の決定を支援する積層造形支援手順をコンピュータに実行させるプログラムであって、
前記造形物の形状モデルと前記造形物に負荷される荷重条件との情報を取得する機能と、
取得された前記形状モデル及び前記荷重条件に基づく応力解析により、前記造形物の各部位に生じる最大主応力方向をそれぞれ求める機能と、
前記最大主応力方向および前記荷重条件に基づいて前記溶着ビードの形成方向を決定する機能と、
を実現させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層造形支援装置、積層造形装置、積層造形支援方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
設計データ(CADデータ)に基づいて、造形材料を順次に積層して3次元造形物を造形する積層造形方法が知られている。例えば特許文献1には、設計データに基づいて応力解析を行った結果から疲労寿命を予測し、得られた疲労寿命と設計寿命とを比較して、造形条件の適否を最終的に判定する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-167565号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような積層造形方法には、アーク放電により溶接ワイヤを溶融及び凝固させて溶着ビードを形成し、この溶着ビードを積層することで所望の形状の造形物を製造する方式がある。しかし、溶着ビードの積層によって部品を造形した場合、部品の表面には溶着ビードによる凹凸が生じる。内部空間を形成した部品の場合、外側表面の凹凸は後加工によって平滑化できるが、部品の内側表面の凹凸については、内部空間にエンドミル等のツールを挿入することができず、凹凸の除去が困難な場合がある。この凹凸を残存させると、凹凸による応力集中が生じて疲労強度が低下するおそれがある。
【0005】
そこで本発明は、応力集中の発生を抑制して、疲労強度が向上するビード形成軌道で溶着ビードを形成できる積層造形支援装置、積層造形装置、積層造形支援方法、及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は下記の構成からなる。
(1) 溶接材料を溶融及び凝固させた線状の溶着ビードを積層して3次元形状の造形物を造形する際の、前記溶着ビードの形成順を表すビード形成軌道の決定を支援する積層造形支援装置であって、
前記造形物の形状モデルと前記造形物に負荷される荷重条件との情報を取得する造形条件取得部と、
取得された前記形状モデル及び前記荷重条件に基づく応力解析により、前記造形物の各部位に生じる最大主応力方向をそれぞれ求める応力解析部と、
前記最大主応力方向および前記荷重条件に基づいて前記溶着ビード同士の並び方向を決定する軌道決定部と、
を備える積層造形支援装置。
(2) 溶接材料を溶融及び凝固させた線状の溶着ビードを積層して3次元形状の造形物を造形する際の、前記溶着ビードの形成順を表すビード形成軌道の決定を支援する積層造形支援装置であって、
前記造形物の形状モデルと前記造形物に負荷される荷重条件との情報を取得する造形条件取得部と、
取得された前記形状モデルに基づいて、前記造形物を造形する前記ビード形成軌道を仮設定する軌道仮設定部と、
仮設定された前記ビード形成軌道に応じた前記形状モデル及び前記荷重条件に基づく応力解析により、前記造形物の各部位に生じる最大主応力方向をそれぞれ求める応力解析部と、
仮設定された前記ビード形成軌道と前記応力解析により求めた最大主応力方向とから前記造形物の各部位の疲労限度を求め、求めた前記各部位の予測疲労限度が予め設定された設計疲労限度より小さい場合に、前記各部位の前記ビード形成軌道を、前記応力解析により求めた対応する位置の前記最大主応力方向に応じて決定する軌道決定部と、
を備える積層造形支援装置。
(3) (1)又は(2)に記載の積層造形支援装置により決定された前記ビード形成軌道に沿って、前記溶着ビードを形成する積層造形装置。
(4) 溶接材料を溶融及び凝固させた線状の溶着ビードを積層して3次元形状の造形物を造形する際の、前記溶着ビードの形成順を表すビード形成軌道の決定を支援する積層造形支援方法であって、
前記造形物の形状モデルと前記造形物に負荷される荷重条件との情報を取得する造形条件取得工程と、
取得された前記形状モデル及び前記荷重条件に基づく応力解析により、前記造形物の各部位に生じる最大主応力方向をそれぞれ求める応力解析工程と、
前記最大主応力方向および前記荷重条件に基づいて前記溶着ビード同士の並び方向を決定する軌道決定工程と、
を備える積層造形支援方法。
(5) 溶接材料を溶融及び凝固させた線状の溶着ビードを積層して3次元形状の造形物を造形する際の、前記溶着ビードの形成順を表すビード形成軌道の決定を支援する積層造形支援方法であって、
前記造形物の形状モデルと前記造形物に負荷される荷重条件との情報を取得する造形条件取得工程と、
取得された前記形状モデルに基づいて、前記造形物を造形する前記ビード形成軌道を仮設定する軌道仮設定工程と、
仮設定された前記ビード形成軌道に応じた前記形状モデル及び前記荷重条件に基づく応力解析により、前記造形物の各部位に生じる最大主応力方向をそれぞれ求める応力解析工程と、
仮設定された前記ビード形成軌道と前記応力解析により求めた最大主応力方向とから前記造形物の各部位の疲労限度を求め、求めた前記各部位の予測疲労限度が予め設定された設計疲労限度より小さい場合に、前記各部位の前記ビード形成軌道を、前記応力解析により求めた対応する位置の前記最大主応力方向に応じて決定する軌道決定工程と、
を備える積層造形支援方法。
(6) 溶接材料を溶融及び凝固させた線状の溶着ビードを積層して3次元形状の造形物を造形する際の、前記溶着ビードの形成順を表すビード形成軌道の決定を支援する積層造形支援手順をコンピュータに実行させるプログラムであって、
前記造形物の形状モデルと前記造形物に負荷される荷重条件との情報を取得する機能と、
取得された前記形状モデル及び前記荷重条件に基づく応力解析により、前記造形物の各部位に生じる最大主応力方向をそれぞれ求める機能と、
前記最大主応力方向および前記荷重条件に基づいて前記溶着ビード同士の並び方向を決定する機能と、
を実現させるプログラム。
(7) 溶接材料を溶融及び凝固させた線状の溶着ビードを積層して3次元形状の造形物を造形する際の、前記溶着ビードの形成順を表すビード形成軌道の決定を支援する積層造形支援手順をコンピュータに実行させるプログラムであって、
前記造形物の形状モデルと前記造形物に負荷される荷重条件との情報を取得する機能と、
取得された前記形状モデルに基づいて、前記造形物を造形する前記ビード形成軌道を仮設定する機能と、
仮設定された前記ビード形成軌道に応じた前記形状モデル及び前記荷重条件に基づく応力解析により、前記造形物の各部位に生じる最大主応力方向をそれぞれ求める機能と、
仮設定された前記ビード形成軌道と前記応力解析により求めた最大主応力方向とから前記造形物の各部位の疲労限度を求め、求めた前記各部位の予測疲労限度が予め設定された設計疲労限度より小さい場合に、前記各部位の前記ビード形成軌道を、前記応力解析により求めた対応する位置の前記最大主応力方向に応じて決定する機能と、
を実現させるプログラム。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、応力集中の発生を抑制して、疲労強度が向上するビード形成軌道で溶着ビードを形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、積層造形装置の全体構成図である。
図2図2は、制御部の概略的な機能ブロック図である。
図3図3は、積層造形物Wを形成する溶着ビードの形成方向と、応力解析により求めた積層造形物の最大主応力方向とを示す説明図である。
図4図4は、積層造形を行う造形プログラムの作成手順を示すフローチャートである。
図5図5は、形状モデルの一例を示す概略図で、(A)は斜視図、(B)は(A)のV-V線に沿った断面図である。
図6図6は、形状モデルの応力解析により得られた最大主応力方向を示す説明図である。
図7図7は、ビード形成方向がそれぞれ異なる試験片に繰り返し応力を負荷した場合に、試験片が破断するまでの応力負荷の繰り返し数が、応力の負荷方向とビード形成方向との交差角度によって変化する様子を模式的に示すグラフである。
図8図8は、ビード形成方向が異なる3種類の試験片を(A),(B),(C)で示す試験片の説明図である。
図9図9は、交差角度と疲労強度との関係を模式的に示すグラフである。
図10図10は、最大主応力方向に応じてビード形成軌道を決定した形状モデルにおける溶着ビードを示す概略図で、(A)は斜視図、(B)は(A)に示すX-X線に沿った断面図である。
図11図11は、第2の積層造形支援方法での制御部の概略的な機能ブロック図である。
図12図12は、積層造形を行う造形プログラムの作成手順を示すフローチャートである。
図13図13は、応力集中を生じる形状モデルの模式的な説明図である。
図14図14は、片持ち曲げの場合の板厚及び隅部の曲率の大きさに対する、応力集中係数の変化特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
ここでは、アーク放電により溶加材を溶融及び凝固させて形成する溶着ビードを、所望の形状に積層して3次元形状の積層造形物を製造する場合を例に説明するが、造形方式及び造形装置の構成はこれに限らない。
【0010】
<積層造形装置の構成>
図1は、積層造形装置100の全体構成図である。積層造形装置100は、溶着ビードBを形成する造形部11と、造形部11を制御する制御部13とを備える。
造形部11は、先端軸に溶接トーチ15を有する溶接ヘッドが設けられた溶接ロボット17と、溶接ロボット17を駆動するロボット駆動部21と、溶接トーチ15へ溶加材(溶接ワイヤ)Mを供給する溶加材供給部23と、溶接電流を供給する溶接電源部25と、を備える。
【0011】
(造形部)
溶接ロボット17は、多関節ロボットであり、ロボットアームの先端軸に取り付けた溶接トーチ15の先端には、連続供給される溶加材Mが支持される。溶接トーチ15の位置及び姿勢は、ロボット駆動部21からの指令により、ロボットアームの自由度の範囲で3次元的に任意に設定可能になっている。
【0012】
溶接トーチ15は、不図示のシールドノズルを有し、シールドノズルからシールドガスが供給されるガスメタルアーク溶接用のトーチである。アーク溶接法としては、被覆アーク溶接又は炭酸ガスアーク溶接等の消耗電極式、TIG溶接又はプラズマアーク溶接等の非消耗電極式のいずれであってもよく、作製する積層造形物に応じて適宜選定される。例えば、消耗電極式の場合、シールドノズルの内部にはコンタクトチップが配置され、溶融電流が給電される溶加材Mがコンタクトチップに保持される。溶接トーチ15は、溶加材Mを保持しつつ、シールドガス雰囲気で溶加材Mの先端からアークを発生する。
【0013】
溶加材供給部23は、溶加材Mが巻回されたリール27を備える。溶加材Mは、溶加材供給部23からロボットアーム等に取り付けられた繰り出し機構(不図示)に送られ、必要に応じて繰り出し機構により正逆送給されながら溶接トーチ15へ送給される。
【0014】
溶加材Mとしては、あらゆる市販の溶接ワイヤを用いることができる。例えば、軟鋼,高張力鋼及び低温用鋼用のマグ溶接及びミグ溶接ソリッドワイヤ(JIS Z 3312)、軟鋼,高張力鋼及び低温用鋼用アーク溶接フラックス入りワイヤ(JIS Z 3313)等で規定される溶接ワイヤが利用可能である。さらに、アルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、ニッケル基合金等の溶加材Mを、求められる特性に応じて使用することができる。
【0015】
ロボット駆動部21は、溶接ロボット17を駆動して溶接トーチ15を移動させるとともに、連続供給される溶加材Mを溶接電源部25から供給される溶接電流及び溶接電圧によって溶融させる。
【0016】
ロボット駆動部21には、作製しようとする積層造形物に応じた造形プログラムが制御部13から送信されてくる。造形プログラムは、多数の命令コードにより構成され、積層造形物の形状データ(CADデータ等)、材質、入熱量等の諸条件に応じて、適宜なアルゴリズムに基づいて作成される。
【0017】
ロボット駆動部21は、受信した造形プログラムを実行して、溶接ロボット17、溶加材供給部23及び溶接電源部25等を駆動し、造形プログラムに応じて溶着ビードを形成する。つまり、ロボット駆動部21は、溶接ロボット19を駆動して、造形プログラムに設定された溶接トーチ15の軌道(ビード形成軌道)に沿って溶接トーチ15を移動させる。これとともに、造形プログラムが指示する溶接条件に応じて溶加材供給部23及び溶接電源部25を駆動して、溶接トーチ15の先端の溶加材Mをアークによって溶融、凝固させる。これにより、ベースプレート29上に線状の溶着ビードBが形成される。溶着ビードBは、互いに隣接して形成された溶着ビード層を形成し、この溶着ビード層の上に次層の溶着ビード層が積層されることで、所望の3次元形状の積層造形物Wが造形される。
【0018】
(制御部)
図2は、制御部13の概略的な機能ブロック図である。
制御部13は、入力された造形条件に応じて積層造形物を造形するための溶着ビードの形成順序を表すビード形成軌道を決定し、前述した造形プログラムを生成する。また、本構成の制御部13は、ビード形成軌道の決定を支援する積層造形支援装置としても機能する。
【0019】
制御部13は、図示を省略するが、CPU等のプロセッサと、ROM、RAM等のメモリと、HD(ハードディスクドライブ)、SSD(ソリッドステートドライブ)等の記憶部とを含むコンピュータ装置により構成される。この制御部13は、それぞれの詳細を後述する、造形条件取得部31、応力解析部33、軌道決定部35及びデータベース37を備える。上記した各構成要素は、それぞれCPUの指令によって動作して、それぞれの機能を発揮する。
【0020】
また、制御部13は、造形部11と離隔して配置され、ネットワーク等の通信手段を介して遠隔地から造形部11に接続される構成であってもよい。造形プログラムは、制御部13で作成される以外にも、他の装置で作成され、通信又は記憶媒体を介して制御部13に入力されたものであってもよい。つまり、積層造形支援装置は、積層造形装置100に付随した形態に限らず、積層造形装置100とは別体に、他の位置に設けられていてもよい。
【0021】
(積層造形支援方法及び造形プログラムの生成)
次に、制御部13が造形プログラムを生成する具体的な手順を説明する。
図3は、積層造形物Wを形成する溶着ビードBのビード形成方向Dと、応力解析により求めた積層造形物Wの最大主応力方向DPSとを示す説明図である。
積層造形物Wの表面には複数列の溶着ビードBによる凹凸が生じるが、この凹凸を機械加工等により平坦化できない場合、表面に残存する凹凸による応力集中の発生が避けられない。図3の(A)に示すように、溶着ビードBのビード形成方向Dと積層造形物Wの最大主応力方向DPSとが平行である場合には、溶着ビードBによる凹凸は、応力集中が生じにくく、積層造形物Wの疲労限度に及ぼす影響は少ない。一方、図3の(B)に示すように、溶着ビードBのビード形成方向Dと積層造形物Wの最大主応力方向DPSとが交差(図3の(B)では直交)する場合には、溶着ビードBによる凹凸が応力集中を発生させて、積層造形物Wの疲労限度に大きく影響を及ぼす。
【0022】
つまり、溶着ビードBのビード形成方向Dと最大主応力方向DPSとのなす角が小さいほど、応力集中が生じにくくなり、積層造形物Wの疲労限度が大きくなる。そのため、積層造形物Wを造形する際のビード形成軌道を、造形後の積層造形物Wにおける互いに隣接した溶着ビードB同士のビード並び方向DBPが、最大主応力方向DPSからずれるようにする。好ましいずれ量は、±5°以上、より好ましくは±10°以上、さらに好ましくは20°以上、とりわけ好ましくは±30°以上、±40°以上であってもよい。
【0023】
構造部材に用いられる金属材料においては、金属疲労による破壊が主要な破壊要因となることが多く、金属疲労による破壊を考慮した疲労設計が望まれている。疲労設計は、材料の疲労特性に基づいて行われる。疲労特性は、材料単体の疲労限度を長期間の各種負荷の耐久試験により取得できる。この耐久試験は、材料単体の基本的な疲労特性では、軸荷重の引張圧縮疲労限度の評価で求められる。そこで本明細書では、この引張圧縮疲労限度を「疲労限度」と呼ぶことにする。
【0024】
<第1の積層造形支援方法の手順>
図4は、積層造形を行う造形プログラムの作成手順を示すフローチャートである。
ここで示す造形プログラムの作成手順は、溶着ビードを形成するビード形成軌道を決定する積層造形支援方法の手順でもある。
まず、作業者によって図2に示す制御部13の造形条件取得部31に、製造しようとする積層造形物の物性、形状、溶接条件等の情報、及び積層造形物に付加される荷重条件の情報を入力する(S11)。造形条件取得部31は、取得された情報に基づいて、積層造形物の3次元形状を表す形状モデルを生成する(S12)。
【0025】
そして、造形条件取得部31は、生成した形状モデルの情報、物性及び荷重条件等の情報を応力解析部33に出力する。応力解析部33は、主に、取得された形状モデル、物性及び荷重条件に基づいて応力解析を行い、積層造形物が実際に使用される状況下で想定される外力の負荷状態で、積層造形物の各部位に生じる最大主応力方向をそれぞれ求める(S13)。
【0026】
図5は、形状モデルの一例を示す概略図で、(A)は斜視図、(B)は(A)のV-V線に沿った断面図である。
ここでは単純な直方体の形状モデルを用いて説明するが、形状モデルは、実際に作製しようとする積層造形物の形状となる。
図5の(A),(B)に示すように、例示する形状モデルMDは、底板部51及び天板部53と、底板部51と天板部53との間に設けられる4つの側板部55a,55b,55c,55dとを有する中空の直方体である。この形状モデルMDに、取得した荷重条件に基づいて応力解析を行う。応力解析は、例えば、有限要素法FEM(Finite Element Method)等の公知の手法を利用できる。FEMによって応力分布を取得する際、設計上注意すべき箇所が予め判明している場合、その箇所に対応するメッシュを細かくする等、メッシュサイズを場所に応じて調整することが好ましい。FEMによる応力解析の他にも、3次元の積層造形物の部分形状に応じた応力解析結果を予め保存した応力解析データベースを用意しておき、この応力解析データベースを参照して形状モデルMDに生じる応力分布を求めてもよい。
【0027】
荷重条件としては、実際に積層造形物に作用することが想定される方向から所定の外力を負荷する条件としてもよいが、例えば長手方向に沿って引張荷重又は圧縮荷重を負荷してもよく、長手方向両端に曲げモーメントを負荷してもよい。このような応力解析により求めた形状モデルの各部の応力分布から、応力の集中する部位を抽出するとともに、最大主応力とその方向を取得する。
【0028】
図6は、形状モデルMDの応力解析により得られた最大主応力方向を示す説明図である
上記した荷重条件のいずれかで形状モデルMDを変形させた場合、形状モデルMDの天板部53に生じる最大主応力が、矢印で示すように長手方向に沿った最大主応力方向DPSとなったとする。
【0029】
図2に示す軌道決定部35は、得られた最大主応力と応力集中部位との情報を考慮して、適正なビード形成方向を決定する。ここでは、溶着ビードの並び方向と疲労限度の特性との関係を予め求めておき、その関係を参照して、最大主応力方向に応じて良好な疲労特性が得られるビード形成方向を決定する(S14)。
【0030】
具体的には、ビード形成方向を次のような手順で決定する。
図7は、ビード形成方向がそれぞれ異なる試験片に繰り返し応力を負荷した場合に、試験片が破断するまでの応力負荷の繰り返し数が、応力の負荷方向とビード形成方向との交差角度によって変化する様子を模式的に示すグラフである。図8は、ビード形成方向が異なる3種類の試験片を(A),(B),(C)で示す試験片の説明図である。
【0031】
図8の(A)は、ビード形成方向Dが試験片の長手方向(応力負荷方向)と一致する(交差角度:0°)の試験片、(B)は、ビード形成方向Dが試験片の長手方向から傾斜する(交差角度:45°)試験片、(C)は、ビード形成方向Dが試験片の長手方向と直交する(交差角度:90°)試験片である。これら3種類の試験片に対し、長手方向に引張荷重を繰り返し負荷して破断強度を求めた結果が図7に示すグラフである。図7に模式的に示すように、交差角度が小さいほど、大きく応力振幅を負荷することができ、疲労限度が向上する。
【0032】
図9は、交差角度と疲労強度との関係を模式的に示すグラフである。
図9に示すように、交差角度と疲労強度とは明らかな相関関係を有している。そこで、上記した交差角度に対する、溶着ビードの疲労限度を関係付けたデータベース37(図2)を用意しておく。軌道決定部35は、応力解析部33から入力される最大主応力方向DPSの情報からデータベース37を参照して、要求される設計疲労限度に応じた交差角度の範囲を求める。このようにして、最大主応力方向DPSとビード形成方向Dとの交差角度が小さくなるように、つまり、ビード並び方向が最大主応力方向DPSからずれるようにビード形成軌道を決定する。
【0033】
図10は、最大主応力方向に応じてビード形成軌道を決定した形状モデルにおける溶着ビードを示す概略図で、(A)は斜視図、(B)は(A)に示すX-X線に沿った断面図である。
図10の(A)に示すように、形状モデルMDの天板部53では、最大主応力方向DPSにビード形成方向Dを一致させて溶着ビードBを形成しており、互いに隣接した溶着ビードB同士のビード並び方向DBPが最大主応力方向DPSと直交している。また、図示はしないが、底板部51及び長手方向に沿った側板部55b,55dも同様に、形状モデルMDの長手方向が最大主応力方向DPSとなり、溶着ビードB同士のビード並び方向DBPが最大主応力方向DPSと直交している。
【0034】
なお、形状モデルMDの側板部55a,55cについては、応力解析の結果、側板部55a,55cにおける最大主応力が水平方向となった場合には、溶着ビードBが水平方向の最大主応力方向に沿って形成される。
【0035】
また、ビード形成軌道の決定は、形状モデルを特定方向に溶着ビードの厚さ毎にスライスして、層状化された各スライス層内でビード形成軌道を決定するが、スライスする方向を含めて層内のビード形成軌道を調整することが好ましい。
【0036】
以上のスライス方向とビード形成軌道を決定した後、溶着ビードのサイズ、積層に必要な溶接条件等を適宜決定する。なお、ビード形成軌道は、要求される設計疲労限度以上の疲労限度を生じさせればよいので、必ずしも最大主応力方向DPSとビード形成方向Dとを平行(交差角度:0°)にする必要はない。また、積層造形物の外表面を平坦状に後加工しない部位(例えば、積層造形物の内部空間等)に対しては、特に最大主応力方向DPSとビード並び方向DBPとがなす角度を、より厳密に設定することが望ましい。
【0037】
このようにして軌道決定部35が決定したビード形成軌道と、溶接条件等の情報に基づいて、制御部13は、前述した造形プログラムを生成する(S15)。生成された造形プログラムは、図1に示すロボット駆動部21に送られる。ロボット駆動部21は、作業者の操作に応じて、送られてきた造形プログラムを実行して、目的の積層造形物を造形する。
【0038】
なお、応力解析した結果、最も疲労限度が低下する交差角度が90度の部品であっても、強度が十分に担保できる部品として成立する場合は、あえて主応力方向とビード並び方向をずらす必要はない。
【0039】
上記した積層造形支援方法及び造形プログラムの生成手順によれば、設計で要求される疲労限度を満足しつつ、作業者による積層造形計画を支援できる。また、交差角度に対する、溶着ビードの疲労限度を関係付けたデータベースを用いることで、設定可能なビード形成方向の許容範囲が明確となり、ビード形成軌道を決定する作業の効率を向上できる。これにより、正確かつ迅速に、より適切な造形計画(造形プログラム)を作成できるようになる。
【0040】
<第2の積層造形支援方法の手順>
前述した第1の積層造形支援方法の手順では、入力された形状モデルを応力解析して求めた最大主応力方向に応じてビード形成軌道を決定した。一方、以下に説明する第2の積層造形支援方法の手順では、最初に、入力された形状モデルを、生産性及び造形性を重視した軌道計画によりビード形成軌道を決定する。その後、形状モデルの最大主応力方向を求め、これにより推定される推定疲労限度が、要求される設計疲労限度以上であるかを判断し、設計疲労限度以上の疲労限度が得られるまでビード形成軌道を修正する。
【0041】
図11は、第2の積層造形支援方法での制御部13Aの概略的な機能ブロック図である。
制御部13Aは、前述した造形条件取得部31、応力解析部33、軌道決定部35及びデータベース37を備えるとともに、詳細を後述する軌道仮設定部32、軌道修正部39及び形状変更部41をさらに備える。各構成要素は、それぞれCPUの指令によって動作して、それぞれの機能を発揮する。
【0042】
図12は、積層造形を行う造形プログラムの作成手順を示すフローチャートである。
造形条件の取得(S21)と、取得された情報に基づいて、積層造形物の3次元形状を表す形状モデルを生成する(S22)までは、前述のS11とS12と同様である。
【0043】
そして、造形条件取得部31は、生成した形状モデルの情報を軌道仮設定部32に出力する。軌道仮設定部32は、取得された形状モデルに基づいて生産性及び造形性が高いビード形成軌道を決定する。即ち、形状モデルを特定方向に溶着ビードの厚さ毎にスライスして、層状化された各スライス層内でビード形成軌道を決定する。ここでも、スライスする方向を含めて層内のビード形成軌道を調整することが好ましい。
【0044】
次に、軌道仮設定部32は、このビード形成軌道により形成される積層造形物の形状モデルの情報、物性及び荷重条件の情報等を応力解析部33に出力する。応力解析部33は、取得された形状モデル、物性及び荷重条件に基づいて応力解析を行い、積層造形物の各部位に生じる最大主応力方向をそれぞれ求める(S24)。そして、軌道決定部35は、求めた最大主応力方向に応じて、前述したようにビード形成軌道を決定する(S25)。S24とS25の処理は、図4のS13とS14の処理と同様である。
【0045】
そして、軌道決定部35は、決定したビード形成軌道により積層造形物を造形した場合に、データベース37を参照して求められる予測疲労限度が、要求される設計疲労限度以上であるかを判断する(S26)。例えば、前述した図9に示す交差角度と疲労限度との関係を参照して、疲労破壊が予見される低強度部位におけるビード形成方向と最大主応力方向の交差角度が、設計疲労限度以上の強度を得られる角度であるかを判断する。設計疲労限度以上である場合には、この決定したビード形成軌道に基づいて造形プログラムを作成する(S27)。
【0046】
積層造形物の予測疲労限度が、設計疲労限度より小さい場合には、軌道修正部39がビード形成軌道を、応力集中を抑えて疲労限度が増加する方向に変更する(S28)。そして、変更したビード形成軌道により造形される積層造形物の予測疲労限度が設計疲労限度以上であるかを判断して(S29)、設計疲労限度以上である場合には、修正したビード形成軌道に基づいて造形プログラムを作成する(S27)
【0047】
ここで、応力解析部33は、造形物の応力分布を求め、周囲よりも高い応力集中係数を有する応力集中部位を抽出する機能を有していてもよい。その場合、軌道決定部35は、抽出された応力集中部位にのみビード形成軌道を最大主応力方向に応じて決定してもよい。これによれば、造形物全体のビード形成方向を修正する場合よりも効率のよい修正が行える。
【0048】
変更後の積層造形物でも予測疲労限度が設計疲労限度より小さい場合には、形状変更部41は元の形状モデルを変更する(S30)。例えば、形状モデルの空洞部分、複雑な部分等について、形状の簡易化、角部へのラウンド形状の付与等を行い、応力集中を緩和して予測疲労限度を向上させる。そして、形状変更部41は、変更後の形状モデルの情報を造形条件取得部31に入力し、造形条件取得部31から再び軌道仮設定部32に軌道計画を行わせる(S23)。つまり、ビード形成軌道の決定と、応力解析と、修正との工程を繰り返して、設計疲労限度以上となる造形条件を探索する。
【0049】
ここで、形状モデルの具体的な変更例について説明する。
図13は、応力集中を生じる形状モデルMDの模式的な説明図である。
応力集中が発生する場所としては、例えば、空洞部61、切り欠き部63、隅部65、断面が急激に変化した部分67等が挙げられる。疲労限度を向上させるには、空洞部61及び切り欠き部63が存在しない形状に変更し、隅部65には十分なラウンド形状を付けて表面を滑らかにし、断面が急激に変化した部分67は徐々に変化する形状に変更するとよい。
【0050】
図14は、片持ち曲げの場合の板厚及び隅部の曲率の大きさに対する、応力集中係数の変化特性を示すグラフである。
断面L字形に屈曲した板状部の付け根部分に荷重Pが負荷したとき、板状部の付け根部分における隅部の曲率半径Rが小さい場合、また、板状部の板厚tが薄い場合には、応力集中係数が大きくなる。しかし、板状部の板厚tが十分に厚い場合には、隅部の曲率半径Rを小さくしても応力集中係数の変化量は少ない。図14に示した、板厚tに対する曲率半径Rの比R/tと応力集中係数との関係からすると、比R/tが1未満の小さな値であれば応力集中係数の変化が大きいが、比R/tが1以上であれば応力集中係数の変化が少ない。そのため、疲労限度を増加させるために、隅部の曲率半径Rを不必要に大きくする必要はなく、板厚tに応じて適宜に設定すればよい。
【0051】
上記した積層造形支援方法及び造形プログラムの生成手順によれば、最初に入力された形状モデルに基づいて生産性及び造形性を重視してビード形成軌道を求め、これにより造形される積層造形物の予測疲労限度が、要求される設計疲労限度より小さい場合に、ビード形成軌道を修正、又は形状モデルを修正する。そのため、最初に設定したビード形成軌道で十分な疲労限度を確保できる場合には、ビード形成軌道の修正を省略する。これによれば、全体の軌道計画の修正範囲を最小限に留められ、且つ、無駄に生産性及び造形性の低下を招くことがなくなる。また、要求される疲労限度を得るための修正が、ビード形成方向の修正だけでは対処できない場合でも、一部の構造に対して形状を変更することで対処が可能となり、軌道計画の自由度が向上する。
【0052】
上記した第1及び第2の積層造形支援方法における造形プログラムを生成する一連の手順は、コンピュータ(例えば積層造形支援装置)に実行させるプログラムとして作成しておいてもよい。その場合、このプログラムをコンピュータ上で適宜に実行することで、作業者は、より適切な造形プログラムを、簡単な作業で生成できるようになる。
【0053】
図11に示した軌道決定部35に接続される軌道修正部39及び形状変更部41は、第1の積層造形支援方法における図2の軌道決定部35に設けてもよい。その場合、形状モデルの一部に、設計疲労限度より小さい部位が仮に生じても、軌道修正部39がビード形成軌道を修正し、形状変更部41が形状モデルを変更することで、形状モデルの全体を設計疲労限度以上にできる。
【0054】
このように、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせること、及び明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
上記では、アークにより溶融、凝固させた溶着ビードの積層により積層造形物を造形する方式であるが、これに限らず、例えば、粉末床溶融結合方式のレーザ溶融法による積層造形方式等の他の造形方式であってもよい。
【0055】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 溶接材料を溶融及び凝固させた線状の溶着ビードを積層して3次元形状の造形物を造形する際の、前記溶着ビードの形成順を表すビード形成軌道の決定を支援する積層造形支援装置であって、
前記造形物の形状モデルと前記造形物に負荷される荷重条件との情報を取得する造形条件取得部と、
取得された前記形状モデル及び前記荷重条件に基づく応力解析により、前記造形物の各部位に生じる最大主応力方向をそれぞれ求める応力解析部と、
前記最大主応力方向および前記荷重条件に基づいて前記溶着ビード同士の並び方向を決定する軌道決定部と、
を備える積層造形支援装置。
この積層造形支援装置によれば、形状モデルと荷重条件との情報に基づいて、造形物の部位に生じる応力分布を求め、これにより得られる最大主応力方向に応じてビード形成軌道を決定できる。
【0056】
(2) 前記軌道決定部は、前記造形物の各部位について、前記ビード形成軌道を、前記応力解析により求めた対応する位置の前記最大主応力方向に応じて決定して、造形後の前記造形物における互いに隣接した前記溶着ビード同士の並び方向が、前記最大主応力方向からずれるように設定する、(1)に記載の積層造形支援装置。
この積層造形支援装置によれば、造形後の造形物における互いに隣接した溶着ビード同士の並び方向が、最大主応力方向からずれ、その結果、応力集中の発生が抑制され、造形物の疲労限度を向上できる。
【0057】
(3) 溶接材料を溶融及び凝固させた線状の溶着ビードを積層して3次元形状の造形物を造形する際の、前記溶着ビードの形成順を表すビード形成軌道の決定を支援する積層造形支援装置であって、
前記造形物の形状モデルと前記造形物に負荷される荷重条件との情報を取得する造形条件取得部と、
取得された前記形状モデルに基づいて、前記造形物を造形する前記ビード形成軌道を仮設定する軌道仮設定部と、
仮設定された前記ビード形成軌道に応じた前記形状モデル及び前記荷重条件に基づく応力解析により、前記造形物の各部位に生じる最大主応力方向をそれぞれ求める応力解析部と、
仮設定された前記ビード形成軌道と前記応力解析により求めた最大主応力方向とから前記造形物の各部位の疲労限度を求め、求めた前記各部位の予測疲労限度が予め設定された設計疲労限度より小さい場合に、前記各部位の前記ビード形成軌道を、前記応力解析により求めた対応する位置の前記最大主応力方向に応じて決定する軌道決定部と、
を備える積層造形支援装置。
この積層造形支援装置によれば、最初に形状モデルと荷重条件との情報に基づいて、生産性及び造形性を重視したビード形成軌道が仮設定される。この仮設定されたビード形成軌道による形状モデルと荷重条件とから、造形物の各部位に生じる最大主応力方向を求め、これと仮設定されたビード形成軌道とから求められる造形物の予測疲労限度が予め設定された設計疲労限度より小さい場合に、ビード形成軌道を最大主応力方向に応じて決定できる。
【0058】
(4) 前記軌道決定部は、造形後の前記造形物における互いに隣接した前記溶着ビード同士の並び方向が、前記最大主応力方向からずれるようにする、(3)に記載の積層造形支援装置。
この積層造形支援装置によれば、無駄に生産性及び造形性を低下させることがなく、全体の軌道計画の修正範囲を最小限に留められる。
【0059】
(5) 前記溶着ビードの形成方向と当該溶着ビードに発生する応力の作用方向との交差角度に対して、前記溶着ビードの疲労限度を関係付けたデータベースをさらに備え、
前記軌道決定部は、前記ビード形成軌道における前記溶着ビードの形成方向を、前記データベースを参照して、予め設定された設計疲労限度以上となる前記交差角度の範囲に決定する、(1)~(4)のいずれか1つに記載の積層造形支援装置。
この積層造形支援装置によれば、ビード形成方向の設定可能な許容範囲が明確となり、ビード形成軌道を決定する作業効率を向上できる。これにより、正確かつ迅速に、より適切な造形計画を作成できるようになる。
【0060】
(6) 前記軌道決定部が決定した前記ビード形成軌道に対応する前記疲労限度が予め設定された設計疲労限度より小さい低強度部位が存在する場合に、前記疲労限度が増加するように前記低強度部位における前記ビード形成軌道を修正する軌道修正部をさらに備える、(5)に記載の積層造形支援装置。
この積層造形支援装置によれば、低強度部位のみを選択的に修正するため、効率のよいビード形成軌道の修正が行える。
【0061】
(7) 前記軌道修正部が修正した前記ビード形成軌道に対応する前記疲労限度が予め設定された設計疲労限度より小さい低強度部位が存在する場合に、前記疲労限度が増加するように前記形状モデルを変更する形状変更部をさらに備える、(6)に記載の積層造形支援装置。
この積層造形支援装置によれば、要求される設計疲労限度を得るための修正が、ビード形成方向の修正だけでは対処できない場合でも、一部の構造に対して形状を変更することで対処が可能となり、軌道計画の自由度を向上できる。
【0062】
(8) 前記形状変更部は、前記形状モデルが有する一部の構造を、該構造に対する応力集中係数が小さくなる形状モデルに変更し、変更後の前記形状モデルを前記造形条件取得部に出力する、(7)に記載の積層造形支援装置。
この積層造形支援装置によれば、形状モデルを変更してビード形成軌道を決定する処理を繰り返すことで、設計疲労限度以上の強度が確実に得られる。
【0063】
(9) 前記応力解析部は、前記造形物の応力分布を求め、周囲よりも高い応力集中係数を有する応力集中部位を抽出する機能をさらに有し、
前記軌道決定部は、抽出された前記応力集中部位にのみ前記ビード形成軌道を前記最大主応力方向に応じて決定する、(1)~(8)のいずれか1つに記載の積層造形支援装置。
この積層造形支援装置によれば、効率よくビード形成軌道を修正できる。
【0064】
(10) (1)~(9)のいずれか1つに記載の積層造形支援装置により決定された前記ビード形成軌道に沿って、前記溶着ビードを形成する積層造形装置。
この積層造形装置によれば、設計疲労限度以上の強度を有する積層造形物が得られる。
【0065】
(11) 溶加材が先端部に供給される溶接トーチが前記ビード形成軌道に沿って移動しながら、供給された前記溶加材をアークにより溶融及び凝固させて前記溶着ビードを形成する、(10)に記載の積層造形装置。
この積層造形装置によれば、アークにより形成される溶着ビードによって積層造形物を造形できる。
【0066】
(12) 溶接材料を溶融及び凝固させた線状の溶着ビードを積層して3次元形状の造形物を造形する際の、前記溶着ビードの形成順を表すビード形成軌道の決定を支援する積層造形支援方法であって、
前記造形物の形状モデルと前記造形物に負荷される荷重条件との情報を取得する造形条件取得工程と、
取得された前記形状モデル及び前記荷重条件に基づく応力解析により、前記造形物の各部位に生じる最大主応力方向をそれぞれ求める応力解析工程と、
前記最大主応力方向および前記荷重条件に基づいて前記溶着ビード同士の並び方向を決定する軌道決定工程と、
を備える積層造形支援方法。
この積層造形支援方法によれば、形状モデルと荷重条件との情報に基づいて、造形物の部位に生じる応力分布を求め、これにより得られる最大主応力方向に応じてビード形成軌道を決定できる。
【0067】
(13) 溶接材料を溶融及び凝固させた線状の溶着ビードを積層して3次元形状の造形物を造形する際の、前記溶着ビードの形成順を表すビード形成軌道の決定を支援する積層造形支援方法であって、
前記造形物の形状モデルと前記造形物に負荷される荷重条件との情報を取得する造形条件取得工程と、
取得された前記形状モデルに基づいて、前記造形物を造形する前記ビード形成軌道を仮設定する軌道仮設定工程と、
仮設定された前記ビード形成軌道に応じた前記形状モデル及び前記荷重条件に基づく応力解析により、前記造形物の各部位に生じる最大主応力方向をそれぞれ求める応力解析工程と、
仮設定された前記ビード形成軌道と前記応力解析により求めた最大主応力方向とから前記造形物の各部位の疲労限度を求め、求めた前記各部位の予測疲労限度が予め設定された設計疲労限度より小さい場合に、前記各部位の前記ビード形成軌道を、前記応力解析により求めた対応する位置の前記最大主応力方向に応じて決定する軌道決定工程と、
を備える積層造形支援方法。
この積層造形支援方法によれば、最初に形状モデルと荷重条件との情報に基づいて、生産性及び造形性を重視したビード形成軌道が仮設定される。この仮設定されたビード形成軌道による形状モデルと荷重条件とから、造形物の各部位に生じる最大主応力方向を求め、これと仮設定されたビード形成軌道とから求められる造形物の予測疲労限度が予め設定された設計疲労限度より小さい場合に、ビード形成軌道を最大主応力方向に応じて決定できる。
【0068】
(15) 溶接材料を溶融及び凝固させた線状の溶着ビードを積層して3次元形状の造形物を造形する際の、前記溶着ビードの形成順を表すビード形成軌道の決定を支援する積層造形支援手順をコンピュータに実行させるプログラムであって、
前記造形物の形状モデルと前記造形物に負荷される荷重条件との情報を取得する機能と、
取得された前記形状モデル及び前記荷重条件に基づく応力解析により、前記造形物の各部位に生じる最大主応力方向をそれぞれ求める機能と、
前記最大主応力方向および前記荷重条件に基づいて前記溶着ビード同士の並び方向を決定する機能と、
を実現させるプログラム。
このプログラムによれば、形状モデルと荷重条件との情報に基づいて、造形物の部位に生じる応力分布を求め、これにより得られる最大主応力方向に応じてビード形成軌道を決定できる。
【0069】
(16) 溶接材料を溶融及び凝固させた線状の溶着ビードを積層して3次元形状の造形物を造形する際の、前記溶着ビードの形成順を表すビード形成軌道の決定を支援する積層造形支援手順をコンピュータに実行させるプログラムであって、
前記造形物の形状モデルと前記造形物に負荷される荷重条件との情報を取得する機能と、
取得された前記形状モデルに基づいて、前記造形物を造形する前記ビード形成軌道を仮設定する機能と、
仮設定された前記ビード形成軌道に応じた前記形状モデル及び前記荷重条件に基づく応力解析により、前記造形物の各部位に生じる最大主応力方向をそれぞれ求める機能と、
仮設定された前記ビード形成軌道と前記応力解析により求めた最大主応力方向とから前記造形物の各部位の疲労限度を求め、求めた前記各部位の予測疲労限度が予め設定された設計疲労限度より小さい場合に、前記各部位の前記ビード形成軌道を、前記応力解析により求めた対応する位置の前記最大主応力方向に応じて決定する機能と、
を実現させるプログラム。
このプログラムによれば、最初に形状モデルと荷重条件との情報に基づいて、生産性及び造形性を重視したビード形成軌道が仮設定される。この仮設定されたビード形成軌道による形状モデルと荷重条件とから、造形物の各部位に生じる最大主応力方向を求め、これと仮設定されたビード形成軌道とから求められる造形物の予測疲労限度が予め設定された設計疲労限度より小さい場合に、ビード形成軌道を最大主応力方向に応じて決定できる。
【符号の説明】
【0070】
11 造形部
13 制御部
13A 制御部
15 溶接トーチ
17 溶接ロボット
21 ロボット駆動部
23 溶加材供給部
25 溶接電源部
27 リール
29 ベースプレート
31 造形条件取得部
32 軌道仮設定部
33 応力解析部
35 軌道決定部
37 データベース
39 軌道修正部
41 形状変更部
51 底板部
53 天板部
55a,55b,55c,55d 側板部
61 空洞部
63切り欠き部
65 隅部
67 断面が急激に変化した部分
100 積層造形装置
M 溶加材
B 溶着ビード
W 積層造形物
ビード形成方向
PS 最大主応力方向
BP ビード並び方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14