(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】接触角の測定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 13/00 20060101AFI20241016BHJP
【FI】
G01N13/00
(21)【出願番号】P 2021135402
(22)【出願日】2021-08-23
【審査請求日】2024-01-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000151243
【氏名又は名称】株式会社東レリサーチセンター
(74)【代理人】
【識別番号】100186484
【氏名又は名称】福岡 満
(72)【発明者】
【氏名】大塚 祐二
(72)【発明者】
【氏名】上原 史也
【審査官】野田 華代
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-062242(JP,A)
【文献】特開2003-232712(JP,A)
【文献】特開2004-117108(JP,A)
【文献】特開昭63-032357(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第112858107(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第107764698(CN,A)
【文献】国際公開第2006/27602(WO,A1)
【文献】Maurizio Santini,X-ray computed microtomography for drop shape analysis and contact angle measurement,Journal of Colloid and Interface Science,Vol.409,204頁-210頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 11/00-13/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
材料
内部に液滴を付与する工程と、該液滴を三次元計測する工程を有し、前記三次元計測する工程において液滴の蒸発を抑制するための密閉容器を用いる、接触角の測定方法。
【請求項2】
前記液滴を付与する工程において、ミスト状の液滴を噴霧する、または、飽和水蒸気量の温度差を利用した結露現象を利用する、請求項1に記載の接触角の測定方法。
【請求項3】
前記三次元計測する工程において、1μm以下の空間分解能を有し高感度カメラを有するX線CT装置を用いる、請求項1または2に記載の接触角の測定方法。
【請求項4】
前記液滴を付与する工程において、前記密閉容器中の水分を、加熱と冷却による飽和水蒸気量の差を利用して、材料表面に結露を起こさせる、請求項2または3に記載の接触角の測定方法。
【請求項5】
前記密閉容器が、X線が透過可能な容器である、請求項1~4のいずれかに記載の接触角の測定方法。
【請求項6】
三次元計測した液滴の、任意の断面における二次元画像データを抽出することにより、任意の箇所および任意の方向の接触角を測定することができる、請求項1~5のいずれかに記載の接触角の測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接触角の測定方法に関する。更に詳しくは、固体に液滴を付与し、該液滴を三次元計測する接触角の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体に対する液体の濡れ性を評価する手法として、一般に接触角測定法が用いられる。接触角測定の多くは固体表面上の液滴を側面から光学的映像として捉え、この二次元画像より接触角を直接測定する。最近では、レーザ顕微鏡を用いて試料表面上の液滴の高さを上方から測定し、さらに任意の手段により前記液滴の径を測定すること、あるいは測定する液滴の重量を測定することで接触角を測定する方法(特許文献1)も考案されている。
【0003】
接触角測定において、シリンジもしくは噴霧によって試料表面上に液滴を付着させる方法が一般的である。あるいは、特許文献1では、結露を利用して試料表面上に液滴を付着させる方法が用いられ、液滴の大きさの均一性を高める効果により、接触角測定精度を向上させている。
【0004】
しかしながら、前述する測定例は何れも試料表面上に付着している液滴の接触角測定方法であり、多孔質構造材料等における試料内部の接触角の測定はできない。そこで、試料を透過して撮影できるX線CT装置を用いて、三次元的に接触箇所を計測することで、試料内部における接触角を測定する例が報告されている(非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3)。ただし、非特許文献1, 非特許文献2においては、海水で満たされた多孔質岩石中における超臨界二酸化炭素あるいは油の接触角測定例であり、非特許文献3においては、カーボンペーパー中に水を圧入して測定している。これらの文献は何れも、含水試料中の三次元計測という特徴がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Andrew, M., et al., Pore-scale contact angle measurements at reservoir conditions using X-ray microtomography. Adv. Water Resour. 2014, 68, 24.
【文献】Jha, N.K., et al., In situ Wettability Investigation of Aging of Sandstone Surface in Alkane via X-Ray Microtomography, Energies 2020, 13, 5594.
【文献】Christopher, P., Liu, et al., Measurement of Contact Angles at Carbon Fiber-Water-Air Triple-Phase Boundaries Inside Gas Diffusion Layers Using X-ray Computed Tomography. ACS Appl. Mater. Interfaces. 2021, 13, 20002.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
各種材料において、濡れ性評価の対象となる箇所は材料表面に限らない。材料内部の濡れ性も、その材料の特性を支配する重要な因子となり得る。しかしながら、従来の接触角測定方法の多くは、二次元画像から接触角を読み取るため、材料表面の濡れ性評価に限定される場合が多く、材料内部の接触角測定は難しい。
【0008】
X線CTを用いた接触角測定法を用いると、材料表面に限らず、内部の接触角についても測定することができる。ただし、従来の接触角測定よりも撮像に比較的時間を要するため、測定試料が含水されている等、計測中における液滴の蒸発の影響が無視あるいは抑制される特殊な環境でなければ、撮影中の液滴の変形により良好な三次元再構成像を取得できず、正確な接触角測定ができない。
【0009】
更に、ミスト状の液滴を噴霧することにより材料に液滴を付与させる場合、内部まで液滴が付着せず、内部の濡れ性を評価できないこともある。また、試料に液体を圧入する場合は、特殊な実験設備が必要になる。
【0010】
本発明はこれらの課題を解消することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、材料に液滴を付与する工程と、該液滴を三次元計測する工程を有し、前記三次元計測する工程において液滴の蒸発を抑制するための密閉容器を用いることを特徴とする接触角測定方法である。
【0012】
本発明の第二の態様は、前記液滴を付与する工程において、ミスト状の液滴を噴霧する、または、飽和水蒸気量の温度差を利用した結露現象を利用することを特徴とする接触角測定方法である。
【0013】
本発明の第三の態様は、前記三次元計測する工程において、1μm以下の空間分解能を有し高感度カメラを有するX線CT装置を用いることを特徴とする接触角測定方法である。
【0014】
本発明の第四の態様は、前記液滴を付与する工程において、前記密閉容器中の水分を加熱と冷却による飽和水蒸気量の差を利用して、材料表面に結露を起こさせることを特徴とする接触角測定方法である。
【0015】
本発明の第五の態様は、前記密閉容器が、X線が透過可能な容器であることを特徴とする接触角測定方法である。
【0016】
本発明の第六の態様は、三次元計測した液滴の、任意の断面における二次元画像データを抽出することにより、任意の箇所および任意の方向の接触角を得ることができることを特徴とする接触角測定方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によって、従来技術では困難であった各種材料内部における接触角測定が可能となる。ただし、本発明は、材料内部に限定されることはなく、材料表面や曲面においても接触角を測定することができる。
【0018】
また、測定試料が含水されている等の特殊な実験環境等でない場合においても、液滴の蒸発を抑制するための密閉可能な容器を用いることで、X線CTを用いた接触角測定法を適用することができる。
【0019】
更に、各種材料内部に水滴を付着させる工程において、試料周辺に結露を起こさせる密閉可能な容器を用いることで、材料内部まで液滴を付着させることが可能となり、材料内部の接触角を測定することができる。
【0020】
加えて、三次元計測した液滴の、任意の断面における二次元画像データを抽出することにより、任意箇所および任意方向の接触角を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】密閉容器中の試料について、X線CT装置を用いて接触角測定を行う概要図である。
【
図2】材料に液滴を付与し、該液滴を三次元計測する間に液滴の蒸発を抑制するための密閉容器の模式図である。
【
図3】三次元再構成されたハスの葉上の水滴の俯瞰図である。
【
図4】得られた三次元データから抽出した、液滴の中心を含み、ハスの葉表面に垂直方向である断面スライス画像である。
【
図5】結露前の乾燥状態でX線CT測定した不織布マスクの断面スライス画像と、結露発生後、X線CT測定して、ほぼ同位置のスライス画像を抽出した結果を示す。
【
図6】不織布マスクにおいて、高い接触角を有する水滴が多数付着している様子を示す。
【
図7】不織布マスクにおいて、得られた三次元データから抽出した、液滴の中心を含み、繊維表面に垂直方向である断面スライス画像である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、材料に液滴を付与する工程と、該液滴を三次元計測する工程を有し、計測する間に液滴の蒸発を抑制するために密閉容器を用いる、接触角の測定方法である。
図1に示すように、本測定は、X線CT装置内の回転試料台(13)に、試料容器(12)を固定し、全方向からの投影シリーズを得ることで行われる。三次元計測する工程として、1μm以下の空間分解能を有し、高感度検出器(sCMOS検出器)を有するX線CT装置(例えばRIGAKU製Nano3DX)を用いる方法が好ましい。
【0023】
図2には、液滴を付与し、X線CT測定の間に液滴の蒸発を抑制するための密閉容器の詳細図を示す。容器(21)は、X線が透過しやすいポリプロピレンなどの材質からなり、液体の乾燥を防ぐように密閉できる蓋(22)を有する。X線CT測定を実施する際の金属製試料回転ロッド(23)は、容器内部に貫通している構造が望ましく最上部には試料固定のための台(24)を有するが、測定試料(25)の材質やサイズに応じて同部は両面テープなどを用いてもよい。
図2に示す(26)は結露現象を利用する場合に導入する液体である。
【0024】
材料に液滴を付与する方法としては、(1)ミスト状の液滴を噴霧する方法、(2)飽和水蒸気量の温度差を利用した結露現象を利用する方法が好ましく例示される。
【0025】
材料表面の微小部への液滴の付与においては、ミスト状の液滴を噴霧する方法が好ましい。また、複雑に入り組んだ試料内部などへの液滴の付与においては、飽和水蒸気量の温度差を利用した結露現象を利用する方法が好ましい。ミスト状の液滴の付与においては、市販のミストスプレイを、容器のふたを開けた状態で噴霧し、その後密閉する。
【0026】
飽和水蒸気量の温度差を利用した結露現象を利用する方法においては、あらかじめ
図2(26)のように容器中に液体をピペットなどで注入し、試料を設置したのち密閉した容器を準備する。該試料容器を加温し、容器内の液体を十分気化させたのち、冷却することで容器内に結露を発生させる。この際、
図2(23)に示す金属ロッド部分を十分冷却した水に浸漬するなどの方法を用いて、試料周辺を積極的に冷却することで、結露を
図2(24)(25)周辺に積極的に発生させることが可能となる。
【0027】
三次元計測した液滴は、任意の断面における二次元画像データを抽出することにより、任意箇所および任意方向の接触角を測定することができる。
【実施例】
【0028】
実施例1
[噴霧法を用いたハスの葉表面の接触角測定]
ハスの葉には微細な凹凸構造が存在し、撥水機能があることが知られており、この構造を模した食品包装フィルムなどの開発も行われている。新鮮なハスの葉を3mm角程度に切り出し、容器に導入後、ミストスプレイを用いて表面に微細な水滴を付与したのち、容器を封じ、X線CT測定を実施した。
【0029】
図3は、三次元再構成されたハスの葉上の水滴の俯瞰図であり、液滴を乾燥及び振動させずに撮影できている。
【0030】
図4は、得られた三次元データから抽出した、液滴の中心を含み、ハスの葉表面に垂直方向である断面スライス画像である。この画像から、接触角の測定を実施することができた。
【0031】
実施例2
[結露法を用いた不織布マスク内部の接触角測定]
マスク着用時の内部の結露(蒸れ)状態を観察し、内部の濡れ性を評価することを目的として、結露法を用いた水滴付与を実施した。
【0032】
市販の不織布マスクを数mm角に切り出し、両面テープを用いて測定用容器内の金属ロッド上に固定し、容器内に蒸留水約200mgを注入後、封止した。その後、恒温器を用いて60℃に約30分保持し、容器内を水蒸気で満たしてから取り出し、金属ロッドを冷水に浸漬する要領で冷却し、試料周辺への結露を生じさせた。
【0033】
図5には、結露前の乾燥状態でX線CT測定した不織布マスクの断面スライス画像と、結露発生後、X線CT測定して、ほぼ同位置のスライス画像を抽出した結果を示す。
【0034】
不織布マスクは、比較的太い繊維からなる表面層と、緻密な極細繊維からなる内部のフィルター層からなっているが、表面層では繊維を繋ぐような結露形態を示すのに対し、フィルター層では特に圧着(エンボス)部を中心に、高い接触角を有する水滴が多数付着している様子を観察することができた(
図6, 7)。
【符号の説明】
【0035】
11:X線源
12:試料容器
13:試料回転ロッド
14:レンズ
15:sCMOS検出器
21:容器
22:蓋
23:試料回転ロッド
24:試料固定のための台
25:測定試料
26:液体