(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】燃料電池システム、及び燃料電池システムの制御方法
(51)【国際特許分類】
H01M 8/04746 20160101AFI20241016BHJP
H01M 8/04858 20160101ALI20241016BHJP
H01M 8/04537 20160101ALI20241016BHJP
H01M 8/04664 20160101ALI20241016BHJP
H01M 8/04492 20160101ALI20241016BHJP
【FI】
H01M8/04746
H01M8/04858
H01M8/04537
H01M8/04664
H01M8/04492
(21)【出願番号】P 2021170264
(22)【出願日】2021-10-18
【審査請求日】2024-02-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】中村 健
【審査官】橋本 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-179127(JP,A)
【文献】特開2002-352827(JP,A)
【文献】特開2021-015774(JP,A)
【文献】特開2000-188119(JP,A)
【文献】特開2005-056760(JP,A)
【文献】特開2011-210405(JP,A)
【文献】特開2007-095434(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00-8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料ガスと酸化剤ガスとを反応させることで発電を行う燃料電池と、
前記燃料電池の出力電圧を含む前記燃料電池の状態を検出する燃料電池状態検出部と、
前記燃料電池に前記酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給部と、
前記酸化剤ガスの状態を検出する酸化剤ガス状態検出部と、
前記酸化剤ガス供給部から前記燃料電池に供給される前記酸化剤ガスの流量を検出する酸化剤ガス流量センサと、
前記燃料電池の発電量に対応する前記酸化剤ガスの目標流量に基づき、少なくとも前記酸化剤ガス供給部を制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、
前記酸化剤ガス流量センサの異常を検知する検知部と、
前記検知部が前記酸化剤ガス流量センサの異常を検知した場合に前記酸化剤ガス状態検出部が検出した前記酸化剤ガスの状態に基づき前記酸化剤ガスの流量の推定値である推定流量を導出する流量推定部と、
前記燃料電池の出力電圧が下限電圧未満の場合に前記目標流量又は前記推定流量の補正を行うことで前記燃料電池の出力電圧が前記下限電圧以上となるように前記酸化剤ガスの流量を増加させる流量補正部と、
前記流量補正部による補正が行われた場合に前記推定流量が前記補正後の目標流量となるように前記酸化剤ガス供給部を制御する流量制御部と、を備える、燃料電池システム。
【請求項2】
前記検知部が前記酸化剤ガス流量センサの異常を検知した場合に前記目標流量を所定の制限流量に制限する流量制限部を備え、
前記流量補正部は、前記燃料電池の出力電圧が前記下限電圧未満の場合に前記流量制限部によって制限された前記目標流量の補正を行うことで、前記出力電圧が前記下限電圧以上となるように前記酸化剤ガスの流量を増加させる、請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記燃料電池状態検出部が検出する前記燃料電池の状態は、前記燃料電池の電解質膜の含水量を含み、
前記流量補正部は、前記電解質膜の含水量が所定の下限含水量未満の場合に前記電解質膜の含水量が前記下限含水量以上となるように、前記目標流量又は前記推定流量の補正を行うことで前記酸化剤ガスの流量を減少させる、請求項1又は2に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
燃料ガスと酸化剤ガスとを反応させることで発電を行う燃料電池と、前記燃料電池の出力電圧を含む前記燃料電池の状態を検出する燃料電池状態検出部と、前記燃料電池に前記酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給部と、前記酸化剤ガスの状態を検出する酸化剤ガス状態検出部と、前記酸化剤ガス供給部から前記燃料電池に供給される前記酸化剤ガスの流量を検出する酸化剤ガス流量センサと、を備える燃料電池システムにおいて、前記燃料電池の発電量に対応する前記酸化剤ガスの目標流量に基づき、少なくとも前記酸化剤ガス供給部を制御する、燃料電池システムの制御方法であって、
前記酸化剤ガス流量センサの異常を検知する検知工程と、
前記検知工程にて前記酸化剤ガス流量センサの異常を検知した場合に前記酸化剤ガス状態検出部が検出した前記酸化剤ガスの状態に基づき前記酸化剤ガスの流量の推定値である推定流量を導出する流量推定工程と、
前記燃料電池の出力電圧が下限電圧未満の場合に前記目標流量又は前記推定流量の補正を行うことで前記燃料電池の出力電圧が前記下限電圧以上となるように前記酸化剤ガスの流量を増加させる流量補正工程と、
前記流量補正工程における補正が行われた場合に前記推定流量が前記補正後の目標流量となるように前記酸化剤ガス供給部を制御する流量制御工程と、を含む、燃料電池システムの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システム、及び燃料電池システムの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、燃料ガスと酸化剤ガスとを反応させることで発電を行う燃料電池システムが開示されている。特許文献1に開示の燃料電池システムは、燃料電池と、酸化剤ガス供給部と、酸化剤ガス流量センサと、これらを制御する制御装置と、を備える。酸化剤ガス流量センサは、酸化剤ガス供給部から供給される酸化剤ガスの流量を検出する。制御装置は、酸化剤ガス流量センサの故障等の異常を検知した場合、酸化剤ガスの圧力などを用いて酸化剤ガスの流量を推定して燃料電池システムの制御を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、制御装置によって推定された酸化剤ガスの流量は、酸化剤ガス供給部から燃料電池に至るまでの圧損等によって、酸化剤ガスの実際の流量よりも少ないことがある。そのため、酸化剤ガス流量センサに異常が生じた場合、酸化剤ガスの実際の流量が燃料電池の発電に必要な流量を下回ることで、酸化剤ガスの不足によって燃料電池の発電が不安定となるおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する燃料電池システムは、燃料ガスと酸化剤ガスとを反応させることで発電を行う燃料電池と、前記燃料電池の出力電圧を含む前記燃料電池の状態を検出する燃料電池状態検出部と、前記燃料電池に前記酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給部と、前記酸化剤ガスの状態を検出する酸化剤ガス状態検出部と、前記酸化剤ガス供給部から前記燃料電池に供給される前記酸化剤ガスの流量を検出する酸化剤ガス流量センサと、前記燃料電池の発電量に対応する前記酸化剤ガスの目標流量に基づき、少なくとも前記酸化剤ガス供給部を制御する制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記酸化剤ガス流量センサの異常を検知する検知部と、前記検知部が前記酸化剤ガス流量センサの異常を検知した場合に前記酸化剤ガス状態検出部が検出した前記酸化剤ガスの状態に基づき前記酸化剤ガスの流量の推定値である推定流量を導出する流量推定部と、前記燃料電池の出力電圧が下限電圧未満の場合に前記目標流量又は前記推定流量の補正を行うことで前記燃料電池の出力電圧が前記下限電圧以上となるように前記酸化剤ガスの流量を増加させる流量補正部と、前記流量補正部による補正が行われた場合に前記推定流量が前記補正後の目標流量となるように前記酸化剤ガス供給部を制御する流量制御部と、を備える。
【0006】
これによれば、制御装置は、検知部が酸化剤ガス流量センサの異常を検知した場合に流量推定部によって導出された推定流量を用いて酸化剤ガス供給部の制御を行う。ここで、実際の流量が推定流量よりも小さいと、燃料電池の出力電圧が低くなり、下限電圧を下回ることがある。
【0007】
そこで、制御装置は、燃料電池の出力電圧が下限電圧より低い場合に目標流量又は推定流量の補正を行うことで、燃料電池の出力電圧を下限電圧以上にする。これにより、制御装置が推定流量と実際の流量との乖離を考慮して酸化剤ガス供給部を制御することで、酸化剤ガスの不足による燃料電池の出力電圧の低下が抑制される。したがって、酸化剤ガス流量センサに異常が生じた場合であっても燃料電池の発電の安定性を向上することができる。
【0008】
上記燃料電池システムは、前記検知部が前記酸化剤ガス流量センサの異常を検知した場合に前記目標流量を所定の制限流量に制限する流量制限部を備え、前記流量補正部は、前記燃料電池の出力電圧が前記下限電圧未満の場合に前記流量制限部によって制限された前記目標流量の補正を行うことで、前記出力電圧が前記下限電圧以上となるように前記酸化剤ガスの流量を増加させる、ものであってもよい。
【0009】
これによれば、検知部が酸化剤ガス流量センサの異常を検知した場合に目標流量を制限流量に制限することで、燃料電池の過剰な発電が抑制される。一方、目標流量を制限流量に制限することにより、燃料電池の出力電圧が下限電圧未満まで低下するおそれがある。
【0010】
そこで、本構成では、流量補正部は、流量制限部によって目標流量が制限流量に制限されている場合であっても出力電圧が下限電圧未満のときには、目標流量の補正を行うことにより、出力電圧を下限電圧以上にする。これにより、燃料電池による過剰な発電の抑制と燃料電池の発電の安定性の向上との両立を図ることができる。
【0011】
上記燃料電池システムでは、前記燃料電池状態検出部が検出する前記燃料電池の状態は、前記燃料電池の電解質膜の含水量を含み、前記流量補正部は、前記電解質膜の含水量が所定の下限含水量未満の場合に前記電解質膜の含水量が前記下限含水量以上となるように、前記目標流量又は前記推定流量の補正を行うことで前記酸化剤ガスの流量を減少させる、ものであってもよい。
【0012】
燃料電池に供給される酸化剤ガスによって電解質膜の乾燥が起こりうる。その結果、電解質膜の含水量が低下する。燃料電池に供給される酸化剤ガスの量が多いほど、電解質膜の含水量は大きく低下しやすい。含水量が下限含水量未満となると、電解質膜のドライアウトが生じているおそれがある。電解質膜のドライアウトが生じている場合に燃料電池が発電を行うと、電解質膜の劣化が進行するおそれがある。
【0013】
そこで、流量補正部は、含水量が下限含水量未満の場合に推定流量又は目標流量の補正を行うことで燃料電池に供給される酸化剤ガスの流量を減少させる。これにより、補正前に比べて電解質膜の含水量の低下が抑制されるため、電解質膜の含水量が下限含水量以上に保たれる。したがって、電解質膜のドライアウトが生じている状態で燃料電池が発電を行うことで電解質膜の劣化が進行することを抑制することができる。
【0014】
上記課題を解決する燃料電池システムの制御方法は、燃料ガスと酸化剤ガスとを反応させることで発電を行う燃料電池と、前記燃料電池の出力電圧を含む前記燃料電池の状態を検出する燃料電池状態検出部と、前記燃料電池に前記酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給部と、前記酸化剤ガスの状態を検出する酸化剤ガス状態検出部と、前記酸化剤ガス供給部から前記燃料電池に供給される前記酸化剤ガスの流量を検出する酸化剤ガス流量センサと、を備える燃料電池システムにおいて、前記燃料電池の発電量に対応する前記酸化剤ガスの目標流量に基づき、少なくとも前記酸化剤ガス供給部を制御する、燃料電池システムの制御方法であって、前記酸化剤ガス流量センサの異常を検知する検知工程と、前記検知工程にて前記酸化剤ガス流量センサの異常を検知した場合に前記酸化剤ガス状態検出部が検出した前記酸化剤ガスの状態に基づき前記酸化剤ガスの流量の推定値である推定流量を導出する流量推定工程と、前記燃料電池の出力電圧が下限電圧未満の場合に前記目標流量又は前記推定流量の補正を行うことで前記燃料電池の出力電圧が前記下限電圧以上となるように前記酸化剤ガスの流量を増加させる流量補正工程と、前記流量補正工程における補正が行われた場合に前記推定流量が前記補正後の目標流量となるように前記酸化剤ガス供給部を制御する流量制御工程と、を含む。
【0015】
これによれば、検知工程において酸化剤ガス流量センサの異常が検知された場合に流量推定工程にて導出された推定流量を用いて酸化剤ガス供給部の制御が行われる。ここで、実際の流量が推定流量よりも小さいと、燃料電池の出力電圧が低くなり、下限電圧を下回ることがある。
【0016】
そこで、流量補正工程では、燃料電池の出力電圧が下限電圧より低い場合に目標流量又は推定流量の補正を行うことで、燃料電池の出力電圧を下限電圧以上にする。これにより、流量制御工程において、制御装置が推定流量と実際の流量との乖離を考慮して酸化剤ガス供給部を制御することで、酸化剤ガスの不足による燃料電池の出力電圧の低下が抑制される。したがって、酸化剤ガス流量センサに異常が生じた場合であっても燃料電池の発電の安定性を向上することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、酸化剤ガス流量センサに異常が生じた場合であっても燃料電池の発電の安定性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【発明を実施するための形態】
【0019】
<構成>
以下、燃料電池システム、及び燃料電池システムの制御方法の実施形態について説明する。本実施形態の燃料電池システムは車両に用いられる。
【0020】
<車両Ve1>
図1に示すように、車両Ve1は燃料電池車両である。車両Ve1は、負荷R1と、燃料電池システム10と、を備える。
【0021】
<負荷R1>
負荷R1は、例えば車両Ve1を駆動させるモータや各種電装品を含む。
<燃料電池システム10>
燃料電池システム10は、負荷R1に電力を供給する。燃料電池システム10は、燃料電池20と、DC/DCコンバータ30と、バッテリ31と、BMS32と、燃料電池状態検出部33と、燃料ガスタンク40と、燃料ガスバルブ41と、酸化剤ガス供給ユニット50と、制御装置70と、を備える。
【0022】
<燃料電池20>
燃料電池20は、燃料ガスG1と酸化剤ガスG2とを反応させることで発電を行う。燃料電池20は、複数の燃料電池セル21を積層することによって構成されている。燃料ガスG1は、少なくとも所定分圧以上の水素ガスを含む。酸化剤ガスG2は、少なくとも所定分圧以上の酸素ガスを含む。本実施形態では、酸化剤ガスG2は空気である。
【0023】
<燃料電池セル21、アノード極22、カソード極23>
各燃料電池セル21は、燃料ガスG1が供給されるアノード極22と、酸化剤ガスG2が供給されるカソード極23と、アノード極22とカソード極23との間に配置されている電解質膜24と、を備える。
【0024】
<電解質膜24>
電解質膜24は、湿潤状態で良好なプロトン伝導性を示すイオン交換膜である。電解質膜24の具体的態様は任意である。電解質膜24の湿潤状態を保つために、電解質膜24には、図示しない貯水タンクから水分が供給される。
【0025】
燃料電池20が発電を行うに際し、アノード極22には燃料ガスG1が供給され、カソード極23には酸化剤ガスG2が供給される。燃料電池20に供給される燃料ガスG1及び酸化剤ガスG2は、図示しない燃料電池セル21内の流路を介して、スタックされた複数の燃料電池セル21のそれぞれに供給される。このとき、燃料ガスG1及び酸化剤ガスG2は、それぞれ、これらの流路の上流に位置する燃料電池セル21から下流に位置する燃料電池セル21に向かって順に供給される。以下、説明の便宜上、スタックされている燃料電池セル21のうち、燃料ガスG1の流路上の最上流のもの、及び酸化剤ガスG2の流路上の最上流のものを、総称して最外層の燃料電池セル21という。アノード極22での触媒反応により発生した水素イオンは、電解質膜24を通過してカソード極23まで移動する。そして、カソード極23で酸化剤ガスG2に含まれる酸素と電気化学反応を起こることで、燃料電池20が発電を行う。当該発電により、燃料電池20は、出力電圧V1で電力を出力する。燃料電池20では、燃料ガスG1と酸化剤ガスG2とが反応することにより水が生成される。
【0026】
<含水量M1>
電解質膜24の湿潤状態は、電解質膜24の含水量M1で表される。含水量M1は、電解質膜24に含まれる水分の量でもある。含水量M1は、燃料電池20に供給される酸化剤ガスG2の量に応じて変動し得る。特に、酸化剤ガスG2に含まれる水分量が少ない場合、酸化剤ガスG2によって電解質膜24が乾燥されるため、電解質膜24の含水量M1が減少することとなる。含水量M1が所定の下限含水量M1inf未満となると、電解質膜24のドライアウトが発生する。電解質膜24のドライアウトが発生している場合に燃料電池20の発電を行うと、電解質膜24の劣化が進行するおそれがある。したがって、含水量M1が下限含水量M1inf以上に保たれることが好ましい。なお、下限含水量M1infは、燃料電池20の仕様、用途、使用環境に応じて設定されればよい。
【0027】
<DC/DCコンバータ30>
DC/DCコンバータ30は、燃料電池20が発電した電力を変換して負荷R1に出力する。DC/DCコンバータ30の具体的態様は任意であり、チョッパ回路、SEPICコンバータ、CuKコンバータ、DABコンバータ等任意である。
【0028】
<バッテリ31>
バッテリ31は、充放電可能な二次電池である。バッテリ31の具体的態様は、例えば鉛蓄電池、ニッケル水素蓄電池、リチウムイオン蓄電池、リチウムイオンキャパシタなど任意である。バッテリ31は、負荷R1に対して並列に接続されている。バッテリ31は、負荷R1と燃料電池20との間に接続されている。詳細には、バッテリ31は、負荷R1とDC/DCコンバータ30との間に接続されている。バッテリ31は、DC/DCコンバータ30とともに負荷R1に電力を供給可能に構成されている。バッテリ31は、DC/DCコンバータ30から出力される電力によって充電可能に構成されている。
【0029】
<BMS32>
BMS32は、バッテリ31の状態を監視するBattery Management Systemである。バッテリ31の状態は、例えばバッテリ31の出力電圧、入出力電流、SOC:State of Charge、SOH:State of Healthを含む。
【0030】
<燃料電池状態検出部33>
燃料電池状態検出部33は、燃料電池20の出力電圧V1を含む燃料電池20の状態を検出する。燃料電池状態検出部33が検出する燃料電池20の状態は、燃料電池20の電解質膜24の含水量M1を含む。本実施形態の燃料電池状態検出部33は、含水量センサ34と、電圧センサ35と、を含む。
【0031】
<含水量センサ34>
含水量センサ34は、電解質膜24の含水量M1を検出する。本実施形態の含水量センサ34は、燃料電池20のインピーダンスを測定することによって含水量M1を検出する。含水量M1が減少することに伴い、電解質膜24のインピーダンスが増加する。これに伴い燃料電池20全体のインピーダンスが増加することとなる。含水量センサ34は、このようなインピーダンスの増減を含水量M1の増減との対応関係を用いて、燃料電池20のインピーダンスから含水量M1を検出することができる。なお、ここで検出する含水量M1は1つの電解質膜24の含水量に限られず、複数の電解質膜24の含水量であってもよい。複数の電解質膜24の含水量とは、複数の電解質膜24の含水量の平均でもよいし、合計でもよい。特に含水量M1は、最外層の燃料電池セル21の含水量の寄与を含むことが好ましい。複数の燃料電池セル21のうち、最外層の燃料電池セル21が最も乾燥しやすいため、最外層の燃料電池セル21の含水量を考慮することによって、含水量M1からドライアウトの有無を検出しやすくなるからである。
【0032】
なお、含水量センサ34が含水量M1を検出する具体的態様はこれに限られず任意である。例えば、含水量センサ34は、燃料電池20への燃料ガスG1及び酸化剤ガスG2の供給量、燃料電池20の出力電力、及び含水量M1との対応関係を示すマップを予め取得しておき、当該マップに基づき含水量M1を検出してもよい。当該マップは、例えば輸送現象の解析シミュレーションや試験を行うことによって取得可能である。
【0033】
<電圧センサ35>
電圧センサ35は、燃料電池20の出力電圧V1を検出する。電圧センサ35は、燃料電池20に対して並列に接続されている。本実施形態では、電圧センサ35は、各燃料電池セル21の出力電圧V1を検出する。なお、電圧センサ35は、各燃料電池セル21の電圧をそれぞれ検出してもよいし、複数の燃料電池セル21の電圧を測定してもよい。本実施形態の電圧センサ35では、少なくとも最外層の燃料電池セル21の電圧は、1つの燃料電池セル21の電圧として検出されている。
【0034】
<燃料ガスタンク40>
燃料ガスタンク40は、燃料ガスG1を貯蔵する。燃料ガスタンク40は、燃料電池20に接続されている。
【0035】
<燃料ガスバルブ41>
燃料ガスバルブ41は、燃料ガスタンク40と燃料電池セル21との間に設けられている。燃料ガスバルブ41を開くことによって、燃料ガスタンク40に貯蔵されている燃料ガスG1が燃料電池20に供給される。燃料ガスタンク40から燃料電池20に供給される燃料ガスG1の量は、例えば燃料ガスタンク40に貯蔵されている燃料ガスG1の圧力を考慮して燃料ガスバルブ41の開度や開時間を制御することによって調整することができる。
【0036】
<酸化剤ガス供給ユニット50>
酸化剤ガス供給ユニット50は、酸化剤ガス供給部51と、酸化剤ガス吸入口52と、フィルタ53と、酸化剤ガス流量センサ54と、インタークーラ55と、酸化剤ガス状態検出部56と、を備える。
【0037】
<酸化剤ガス供給部51>
酸化剤ガス供給部51は、燃料電池20に酸化剤ガスG2を供給する。詳細には、酸化剤ガス供給部51は、酸化剤ガス吸入口52から供給される酸化剤ガスG2を圧縮して燃料電池20に供給する。酸化剤ガス供給部51は、例えばエアコンプレッサである。酸化剤ガス供給部51は、モータMを備える。モータMは、図示しないインバータ回路からの交流電力を用いて回転することで、酸化剤ガス吸入口52から供給される酸化剤ガスG2を圧縮する。酸化剤ガス供給部51によって圧縮された酸化剤ガスG2は、燃料電池20の各燃料電池セル21のカソード極23に向けて吐出される。酸化剤ガス供給部51から燃料電池20への酸化剤ガスG2の供給量は、酸化剤ガス供給部51から燃料電池20に吐出される酸化剤ガスG2の圧力に対応する。酸化剤ガス供給部51の圧縮率は、モータMの回転数N1と相関がある。そのため、モータMの回転数N1を制御することにより、酸化剤ガス供給部51から燃料電池20への酸化剤ガスG2の供給量を制御することが可能である。酸化剤ガス供給部51は酸化剤ガスG2を断熱圧縮するため、圧縮後の酸化剤ガスG2の温度は、圧縮前の酸化剤ガスG2の温度に比べて高くなる。
【0038】
なお、酸化剤ガス供給部51から燃料電池20に供給された酸化剤ガスG2は、図示しない排出流路から外部に排出される。当該排出流路には、図示しない排出バルブが設けられていてもよい。この場合、酸化剤ガスG2の排出量は、当該排出バルブの開度や開時間によっても調整可能である。
【0039】
<酸化剤ガス吸入口52>
酸化剤ガス吸入口52は、燃料電池システム10に酸化剤ガスG2を吸入するための吸入口である。本実施形態の酸化剤ガス吸入口52は、空気を吸入可能に構成されている。なお、酸化剤ガス吸入口52の具体的態様は任意であり、酸化剤ガスG2を貯蔵するガスボンベ等に接続されていてもよい。
【0040】
<フィルタ53>
フィルタ53は、酸化剤ガスG2を透過可能なフィルタであって、酸化剤ガスG2に含まれる不純物を取り除くためのフィルタである。酸化剤ガスG2に含まれる不純物とは、例えば空気中に漂うホコリや灰である。フィルタ53は、酸化剤ガス吸入口52と酸化剤ガス供給部51との間に設けられている。
【0041】
<酸化剤ガス流量センサ54>
酸化剤ガス流量センサ54は、酸化剤ガス吸入口52から酸化剤ガス供給部51に向かう酸化剤ガスG2の流量を検出する。以下、説明の便宜上、酸化剤ガス流量センサ54によって検出される流量を「供給流量Q1」という。供給流量Q1は、酸化剤ガス供給部51から燃料電池20に向かう実際の流量を表す。本実施形態では、供給流量Q1は、酸化剤ガスG2の質量流量である。質量流量としての供給流量Q1は、酸化剤ガス供給部51が吐出する酸化剤ガスG2の質量流量と等しい。そのため、供給流量Q1は、酸化剤ガス供給部51から燃料電池20に供給される流量と等しい。したがって、酸化剤ガス流量センサ54は、酸化剤ガス供給部51から燃料電池20に供給される酸化剤ガスG2の流量を検出する。本実施形態では、酸化剤ガス流量センサ54によって検出された供給流量Q1は、例えば周波数信号として表現されるが、その表現形式は任意である。例えば、供給流量Q1は、電圧の大きさとして表現されてもよいし、供給流量Q1の値そのものとして表現されてもよい。
【0042】
<インタークーラ55>
インタークーラ55は、酸化剤ガス供給部51によって圧縮された酸化剤ガスG2を冷却する。インタークーラ55は、酸化剤ガス供給部51と燃料電池20との間に設けられている。インタークーラ55の具体的態様は任意であるが、例えば図示しない冷却回路を循環する冷媒に酸化剤ガスG2との熱交換を行わせることで酸化剤ガスG2を冷却する。これにより、燃料電池20に供給される酸化剤ガスG2の温度が燃料電池20の発電に適した範囲内に保たれる。
【0043】
<酸化剤ガス状態検出部56>
酸化剤ガス状態検出部56は、燃料電池20に供給される酸化剤ガスG2の状態を検出する。酸化剤ガスG2の状態は、酸化剤ガスG2の圧力に関する情報を含む。酸化剤ガス状態検出部56は、第1圧力センサ60と、第2圧力センサ61と、を含む。
【0044】
<第1圧力センサ60>
第1圧力センサ60は、酸化剤ガス供給部51に吸入される酸化剤ガスG2の圧力を検出する。本実施形態の第1圧力センサ60は、大気圧P1を検出する。第1圧力センサ60の具体的構成や設置箇所は任意である。
【0045】
<第2圧力センサ61>
第2圧力センサ61は、酸化剤ガス供給部51から燃料電池20に供給される酸化剤ガスG2の圧力P2を検出する。以下、説明の便宜上、酸化剤ガス供給部51から燃料電池20に供給される酸化剤ガスG2の圧力P2を「供給圧力P2」という。第2圧力センサ61は、酸化剤ガス供給部51と燃料電池20との間に設けられている。本実施形態では、第2圧力センサ61は、インタークーラ55と燃料電池20との間に設けられている。そのため、第2圧力センサ61が圧力を検出する酸化剤ガスG2は、インタークーラ55によって冷却されている。これにより、酸化剤ガス供給部51から燃料電池20に向かうまでの酸化剤ガスG2の温度変化が供給圧力P2に与える影響を低減することができる。
【0046】
<制御装置70>
制御装置70は、処理部71と、記憶部72と、を備える。記憶部72は、RAM(Random Access Memory)、及びROM(Read Only Memory)を含む。記憶部72は、処理を処理部71に実行させるように構成されたプログラムコードまたは指令を格納している。記憶部72、即ち、コンピュータ可読媒体は、汎用または専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。制御装置70は、ASICやFPGA等のハードウェア回路によって構成されていてもよい。処理回路である制御装置70は、コンピュータプログラムに従って動作する1つ以上のプロセッサ、ASICやFPGA等の1つ以上のハードウェア回路、或いは、それらの組み合わせを含み得る。
【0047】
制御装置70は、供給流量Q1を調整することにより燃料電池20の発電を制御する発電制御を行う。発電制御において制御装置70は、燃料電池20の発電量に対応する酸化剤ガスG2の目標流量Qtに基づき、少なくとも酸化剤ガス供給部51を制御する。本実施形態の制御装置70は、燃料ガスバルブ41及び酸化剤ガス供給部51を制御する。制御装置70は排出バルブを制御してもよい。
【0048】
<発電制御>
以下、発電制御の一例について説明する。以下で説明する発電制御は、車両Ve1が起動している場合に繰り返し行われるものである。
【0049】
<ステップS10>
図2に示すように、まずステップS10において、制御装置70は、バッテリ31のSOCを取得し、当該SOCに基づいて目標出力電力を設定する。目標出力電力とは、燃料電池20が発電する電力の目標値である。例えば、制御装置70は、BMS32から取得したバッテリ31のSOCが低いほど、大きい目標出力電力を設定する。具体的には、制御装置70は、予め定められた複数の基準値と、当該基準値のそれぞれに対応する目標出力電力と、を記憶部72に記憶しており、当該SOCが基準値を下回っているか否かを判定する。当該SOCが基準値を下回っていると判定された場合、制御装置70は、当該SOCが下回った基準値に対応する目標出力電力を設定する。制御装置70は、SOCの変化に対して段階的に目標出力電力を設定する。このような目標出力電力のうち0より大きい最小の値を、最小発電電力という。最小発電電力は、燃料電池20の発電が安定する最小の電力以上であれば任意に設定可能である。
【0050】
<ステップS11>
次にステップS11に進み、制御装置70は、酸化剤ガス流量センサ54から供給流量Q1を取得する。制御装置70は、例えば酸化剤ガス流量センサ54で検出された信号の周波数を供給流量Q1に変換することで、供給流量Q1を取得する。
【0051】
<ステップS12>
次にステップS12に進み、制御装置70は、酸化剤ガス流量センサ54に異常が生じているか否かの判定を行う。言い換えれば、ステップS12において、制御装置70は、酸化剤ガス流量センサ54の異常を検知する。酸化剤ガス流量センサ54の異常とは、例えば酸化剤ガス流量センサ54の一時的な動作不良や酸化剤ガス流量センサ54の故障を含むものである。ステップS12の処理が本実施形態の検知工程に相当する。また、ステップS12の処理を行う制御装置70が本実施形態の検知部に相当する。酸化剤ガス流量センサ54の異常とは、例えば、制御装置70が酸化剤ガス流量センサ54から供給流量Q1を取得することができない状況が生じていることをいう。このような状況としては、例えば図示しない電力源から酸化剤ガス流量センサ54への電力の供給がなされていない状況が挙げられる。このような場合、酸化剤ガス流量センサ54から出力される信号の周波数の主成分が、0に偏る。このような酸化剤ガス流量センサ54の信号の異常に基づいて、制御装置70は、酸化剤ガス流量センサ54に異常が生じているか否かを判定する。例えば酸化剤ガス流量センサ54から出力される信号の周波数の主成分が既定値未満の場合、ステップS12の判定結果が肯定となり、制御装置70は酸化剤ガス流量センサ54に異常が生じていると判定する。一方、酸化剤ガス流量センサ54から出力される信号の周波数の主成分が既定値以上の場合、ステップS12の判定結果が否定となり、制御装置70は酸化剤ガス流量センサ54に異常が生じていないと判定する。なお、ステップS12の判定方法はこれに限らず任意である。例えば、制御装置70は、酸化剤ガス流量センサ54からの信号が一定期間受信できない場合に、酸化剤ガス流量センサ54に異常が生じていると判定してもよい。また、酸化剤ガス流量センサ54が自身の異常を通知する信号を送信する場合、制御装置70は、当該信号を受信した場合に酸化剤ガス流量センサ54に異常が生じていると判定してもよい。
【0052】
<ステップS12の判定結果が否定の場合>
<ステップS13>
ステップS12の判定結果が否定の場合、すなわち酸化剤ガス流量センサ54の異常が生じていないと判定された場合、ステップS13に進み、制御装置70は、ステップS10で設定された目標出力電力に基づき、目標流量Qtを設定する。目標流量Qtとは、燃料電池20が目標出力電力の発電を行うために必要な供給流量Q1である。目標流量Qtの設定方法は任意であるが、制御装置70は、例えば予め定められた目標出力電力と供給流量Q1との対応関係に基づき目標流量Qtを設定すればよい。
【0053】
<ステップS14>
次にステップS14に進み、制御装置70は、ステップS11で取得した供給流量Q1がステップS14で設定された目標流量Qtと一致するように、酸化剤ガス供給部51を制御する。酸化剤ガス供給部51の制御には、例えばモータMの回転数N1を制御することが挙げられる。供給流量Q1が目標流量Qtより小さい場合、制御装置70はモータMの回転数N1を上げる。供給流量Q1が目標流量Qtより大きい場合、制御装置70はモータMの回転数N1を下げる。このとき、制御装置70は、供給流量Q1にあわせて燃料ガスバルブ41の開度や開時間を制御することで燃料ガスG1の供給量を調整する。これにより、燃料電池20は、燃料ガスG1及び酸化剤ガスG2を反応させることで発電を行い、負荷R1に電力を供給する。その後、制御装置70は、発電制御を終了する。
【0054】
<ステップS12での判定結果が肯定の場合>
<ステップS21>
一方、ステップS12での判定結果が肯定の場合、すなわち酸化剤ガス供給部51に異常が生じていると判定された場合、ステップS21に進み、制御装置70は、ステップS10で設定された目標出力電力を制限電力に制限する。制限電力は、ステップS10で設定された目標出力電力以下の電力であれば任意である。詳細には、制限電力は、目標出力電力以下の電力であって、且つ、燃料電池20の発電が安定する最小の電力以上であれば任意に設定可能である。本実施形態の制限電力は、最小発電電力と等しい。
【0055】
<ステップS22>
次にステップS22に進み、制御装置70は、ステップS21にて目標出力電力が制限電力に制限されたことに伴い、目標流量Qtを制限流量Q3に制限する。すなわち、制御装置70は、ステップS12にて酸化剤ガス流量センサ54の異常を検知した場合にステップS22において目標流量Qtを所定の制限流量Q3に制限する。ステップS22の処理が本実施形態の流量制限工程に相当する。また、ステップS22の処理を行う制御装置70が本実施形態の流量制限部に相当する。
【0056】
制限流量Q3は、制限電力に対応する供給流量Q1の値である。本実施形態の制限流量Q3は、最小発電電力に対応する供給流量Q1の値である。制御装置70はステップS13と同様に、予め定められた目標出力電力と供給流量Q1との対応関係に基づき制限流量Q3を決定すればよい。
【0057】
<ステップS23>
次にステップS23に進み、制御装置70は、酸化剤ガス状態検出部56の検出結果に基づいて燃料電池20に供給される酸化剤ガスG2の状態を把握する。本実施形態では、制御装置70は、第1圧力センサ60から大気圧P1を、第2圧力センサ61から供給圧力P2を、酸化剤ガス供給部51からモータMの回転数N1を、それぞれ取得する。
【0058】
<ステップS24>
次にステップS24に進み、制御装置70は、酸化剤ガス状態検出部56が検出した酸化剤ガスG2の状態に基づき推定流量Q2を導出する。推定流量Q2は、燃料電池20に供給される酸化剤ガスG2の流量、すなわち供給流量Q1の推定値である。ステップS24の処理が本実施形態の流量推定工程に相当する。また、ステップS24の処理を実行する制御装置70が本実施形態の流量推定部に相当する。制御装置70は、ステップS23で取得した大気圧P1及び供給圧力P2から、酸化剤ガス供給部51の圧縮比を導出し、当該圧縮比と回転数N1とに基づき推定流量Q2を導出する。推定流量Q2の導出方法は任意であるが、例えば圧縮比及び回転数N1に対する推定流量Q2の対応関係を用いて導出すればよい。対応関係は、例えば試験やシミュレーション等によって導出すればよい。対応関係の表現形式は任意であり、関数として表されていても、マップとして表されていてもよい。
【0059】
<ステップS25>
次にステップS25に進み、制御装置70は、ステップS22で制限された目標流量Qt及びステップS24で導出された推定流量Q2に基づき、酸化剤ガス供給部51を制御する。詳細には、制御装置70は、ステップS24で導出した推定流量Q2がステップS22で制限された目標流量Qtとなるように、酸化剤ガス供給部51を制御する。例えば、制御装置70は、目標流量Qtに対応する目標回転数を導出する。そして制御装置70は、酸化剤ガス供給部51のモータMの回転数N1が当該目標回転数となるように、酸化剤ガス供給部51を制御する。なお、酸化剤ガス供給部51の制御態様はこれに限らず任意であり、目標流量Qtに対する推定流量Q2の差分を用いたフィードバック制御を行うことにより、酸化剤ガス供給部51を制御してもよい。
【0060】
なお、制御装置70は、ステップS13の処理と同様に、燃料ガスバルブ41の開度や開時間を制御することで、燃料ガスG1を燃料電池20に供給する。これにより、燃料電池20は、燃料ガスG1及び酸化剤ガスG2を反応させることで発電を行い、負荷R1に電力を供給する。このときに燃料電池20の発電によって各燃料電池セル21から生じる電圧が、出力電圧V1として電圧センサ35に検出される。
【0061】
<ステップS26>
次にステップS26に進み、制御装置70は、燃料電池状態検出部33の検出結果に基づいて、燃料電池20の状態を把握する。具体的には、制御装置70は、含水量センサ34から含水量M1を、電圧センサ35から出力電圧V1を、それぞれ取得する。制御装置70は、含水量センサ34から燃料電池20のインピーダンスを取得し、当該インピーダンスから含水量M1を導出してもよい。
【0062】
<ステップS27>
次にステップS27に進み、制御装置70は、ステップS26で取得した出力電圧V1が下限電圧V1inf未満であるか否かを判定する。出力電圧V1が下限電圧V1inf未満であるとは、供給流量Q1が制限流量Q3未満であることを示す。これは、酸化剤ガス吸入口52から燃料電池20に至るまでに酸化剤ガスG2の圧力損失が生じること等により、推定流量Q2が供給流量Q1より下がることに起因する。
【0063】
<ステップS27の判定結果が肯定の場合>
<ステップS28>
ステップS27の判定結果が肯定の場合、すなわち燃料電池20の出力電圧V1が下限電圧V1inf未満の場合、ステップS28に進み、ステップS22にて制限流量Q3に制限された目標流量Qtの補正を行う。ステップS28での補正により、制限流量Q3に制限された目標流量Qtが増加する。ステップS28における補正の具体的態様は任意であり、例えば燃料電池20の仕様、用途、使用条件等により予め定められたものを用いて実現されてもよいし、ステップS26で得られた出力電圧V1と下限電圧V1infとの間の差分に基づくフィードバック制御によって実現されてもよい。燃料電池20の出力電圧V1が下限電圧V1inf未満の場合とは、燃料電池20に供給される酸化剤ガスG2が不足していることにより、出力電圧V1が低下している場合に対応する。
【0064】
<ステップS29>
次にステップS29に進み、制御装置70は、補正後の目標流量Qt及び推定流量Q2に基づき、酸化剤ガス供給部51を制御する。制御装置70は、推定流量Q2が補正後の目標流量Qtとなるように酸化剤ガス供給部51を制御する。ステップS29の処理の具体的態様は、例えばステップS25と同様である。ステップS29の処理が本実施形態の流量制御工程に相当する。また、ステップS29の処理を行う制御装置70が本実施形態の流量制御部に相当する。
【0065】
ステップS28を経てステップS29の処理が行われるとき、すなわち燃料電池20の出力電圧V1が下限電圧V1inf未満の場合において目標流量Qtの補正が行われるとき、目標流量Qtは、制限流量Q3よりもステップS28で補正された分だけ制限流量Q3より大きい。そのため、制御装置70は、補正によって増加した目標流量Qtと推定流量Q2とを一致させるために、モータMの回転数N1を上げる。これに伴い供給流量Q1及び推定流量Q2が増加する。推定流量Q2が補正後の目標流量Qtに一致しているとき、供給流量Q1が制限流量Q3に一致する。したがって、出力電圧V1が下限電圧V1inf以上となる。以上より、制御装置70は、ステップS29において、出力電圧V1が下限電圧V1inf以上となるように供給流量Q1を増加させる。ステップS29の処理が本実施形態の流量補正工程に相当する。また、ステップS29の処理を行う制御装置70が本実施形態の流量補正部に相当する。
【0066】
<ステップS30>
次に、ステップS30に進み、制御装置70は、車両Ve1に退避走行を行わせる。退避走行とは、車両Ve1の走行中に酸化剤ガス流量センサ54の異常等が生じた場合に車両Ve1を安全な場所に移動させるための走行である。安全な場所とは、例えば、非常駐車帯や道路脇などである。その後、制御装置70は発電制御を終了する。
【0067】
<ステップS27の判定結果が否定の場合>
<ステップS31>
一方、ステップS27の判定結果が否定の場合、すなわち、出力電圧V1が下限電圧V1inf以上である場合、ステップS31に進み、制御装置70は、ステップS26で取得した含水量M1が下限含水量M1inf未満であるか否かを判定する。含水量M1が下限含水量M1inf未満である場合、電解質膜24のドライアウトが生じている可能性がある。ドライアウトの原因の一つとして、燃料電池20への酸化剤ガスG2の過剰な供給が挙げられる。酸化剤ガスG2が乾燥している場合、燃料電池20に供給される酸化剤ガスG2が電解質膜24の水分を奪う。酸化剤ガスG2に奪われる電解質膜24の水分量が電解質膜24への水分の供給量を上回ると、電解質膜24の含水量M1が低下する。その結果、電解質膜24の含水量M1が下限含水量M1inf未満となり、電解質膜24のドライアウトが生じる。
【0068】
<ステップS31の判定結果が肯定の場合>
ステップS31の判定結果が肯定の場合、すなわち電解質膜24の含水量M1が下限含水量M1inf未満の場合、ステップS32に進み、制御装置70は、ステップS22にて制限流量Q3に制限された目標流量Qtの補正を行う。本実施形態では、ステップS32での補正により、ステップS22にて制限流量Q3に制限された目標流量Qtが減少する。ステップS32における補正の具体的態様は、ステップS28における補正と同様に任意であり、例えば燃料電池20の仕様、用途、使用条件等により予め定められたものを用いても行われてもよいし、ステップS26で得られた含水量M1と下限含水量M1infとの間の差分を用いたフィードバック制御によって行われてもよい。燃料電池20の含水量M1が下限含水量M1inf未満の場合とは、供給流量Q1が過剰であることにより、電解質膜24の含水量M1のドライアウトが生じている可能性がある場合に対応する。
【0069】
次に、ステップS29に進み、制御装置70は、補正後の目標流量Qt及び推定流量Q2に基づき、酸化剤ガス供給部51を制御する。例えば、制御装置70は、推定流量Q2が補正後の目標流量Qtとなるように酸化剤ガス供給部51を制御する。
【0070】
ステップS32を経てステップS29の処理が行われるとき、すなわち燃料電池20の含水量M1が下限含水量M1inf未満の場合において目標流量Qtの補正が行われるとき、目標流量Qtは、制限流量Q3よりもステップS28で補正された分だけ制限流量Q3より小さい。そのため、制御装置70は、補正によって減少した目標流量Qtと推定流量Q2とを一致させるために、モータMの回転数N1を下げる。これに伴い供給流量Q1及び推定流量Q2が減少する。これにより、酸化剤ガスG2の供給による電解質膜24の乾燥を抑制することで、含水量M1の減少が抑制されるとともに電解質膜24の湿潤が行われる。その結果、含水量M1がステップS26において取得された値から増加するため、含水量M1が下限含水量M1inf以上の状態に至る。以上より、制御装置70は、ステップS29において、含水量M1が下限含水量M1inf以上となるように供給流量Q1を減少させる。なお、ステップS31の判定結果が肯定となる場合は供給流量Q1が過剰であることから、このような目標流量Qtの補正によって回転数N1を下げたとしても、出力電圧V1が下限電圧V1inf未満となる可能性は低い。
【0071】
次にステップS30に進み、制御装置70は、車両Ve1に退避走行を行わせる。その後、制御装置70は発電制御を終了する。
<ステップS31の判定結果が否定の場合>
一方、ステップS31の判定結果が否定の場合、すなわち出力電圧V1が下限電圧V1inf以上であり且つ含水量M1が下限含水量M1inf以上である場合、ステップS32及びステップS29の処理を省略し、発電処理を終了する。この場合、制御装置70は、ステップS25の処理を継続することで、燃料電池20に酸化剤ガスG2を供給している。次にステップS30に進み、制御装置70は、車両Ve1に退避走行を行わせる。その後、制御装置70は発電制御を終了する。
【0072】
以上の発電制御にて行われる処理の一部又は全部が、本実施形態の燃料電池システム10の制御方法に相当する。
<作用>
以下、本実施形態の作用について説明する。
【0073】
制御装置70は、燃料電池20の出力電圧V1が下限電圧V1infより低い場合に目標流量Qtの補正を行うことで、燃料電池20の出力電圧V1が下限電圧V1inf以上にする。これにより、制御装置70が推定流量Q2と供給流量Q1との乖離を考慮して酸化剤ガス供給部51を制御することができる。その結果、酸化剤ガスG2の不足による燃料電池20の出力電圧V1の低下が抑制される。
【0074】
<効果>
以下、本実施形態の効果について説明する。
(1)燃料電池システム10が備える制御装置70は、酸化剤ガス流量センサ54の異常を検知するステップS12の処理と、ステップS12において酸化剤ガス流量センサ54の異常が検知された場合に酸化剤ガス状態検出部56が検出した酸化剤ガスG2の状態に基づき推定流量Q2を導出するステップS24の処理と、燃料電池20の出力電圧V1が下限電圧V1inf未満の場合に目標流量Qtの補正を行うことで出力電圧V1が下限電圧V1inf以上となるように酸化剤ガスG2の流量を増加させるステップS28の処理と、推定流量Q2がステップS28での補正後の目標流量Qtとなるように酸化剤ガス供給部51を制御するステップS29の処理と、を実行する。
【0075】
これによれば、制御装置70は、ステップS12において酸化剤ガス流量センサ54の異常が検知された場合にステップS24にて導出された推定流量Q2を用いて酸化剤ガス供給部51の制御を行う。ここで、供給流量Q1が推定流量Q2よりも小さいと、燃料電池20の出力電圧V1が低くなり、下限電圧V1infを下回ることがある。
【0076】
そこで、制御装置70は、燃料電池20の出力電圧V1が下限電圧V1infより低い場合に目標流量Qtの補正を行うことで、燃料電池20の出力電圧V1を下限電圧V1inf以上にする。これにより、制御装置70が推定流量Q2と供給流量Q1との乖離を考慮して酸化剤ガス供給部51を制御することで、酸化剤ガスG2の不足による燃料電池20の出力電圧V1の低下が抑制される。したがって、酸化剤ガス流量センサ54に異常が生じた場合であっても燃料電池20の発電の安定性を向上することができる。
【0077】
(2)制御装置70は、ステップS12において酸化剤ガス流量センサ54の異常が検知された場合に目標流量Qtを所定の制限流量Q3に制限するステップS21の処理を実行する。そして、制御装置70は、燃料電池20の出力電圧V1が下限電圧V1inf未満の場合にステップS21にて制限された目標流量Qtの補正を行うことで、出力電圧V1が下限電圧V1inf以上となるように供給流量Q1を増加させるステップS28の処理を実行する。
【0078】
これによれば、ステップS12において酸化剤ガス流量センサ54の異常が検知された場合に目標流量Qtを制限流量Q3に制限するステップS21の処理を実行することで、燃料電池20の過剰な発電が抑制される。一方、目標流量Qtを制限流量Q3に制限することにより、燃料電池20の出力電圧V1が下限電圧V1inf未満まで低下するおそれがある。
【0079】
そこで、本実施形態では、制御装置70は、ステップS21にて目標流量Qtが制限流量Q3に制限されている場合であっても出力電圧V1が下限電圧V1inf未満の場合には、ステップS28にて目標流量Qtの補正を行うことにより、出力電圧V1を下限電圧V1inf以上にする。これにより、燃料電池20による過剰な発電の抑制と燃料電池20の発電の安定性の向上との両立を図ることができる。
【0080】
(3)燃料電池状態検出部33が検出する燃料電池20の状態は、電解質膜24の含水量M1を含む。
そして、制御装置70は、含水量M1が所定の下限含水量M1inf未満の場合に含水量M1が下限含水量M1inf以上となるように、目標流量Qtの補正を行うことで供給流量Q1を減少させるステップS32の処理を実行する。
【0081】
燃料電池20に供給される酸化剤ガスG2によって電解質膜24の乾燥が起こりうる。その結果、電解質膜24の含水量M1が低下する。酸化剤ガス供給部51から供給される酸化剤ガスG2の量が多いほど、電解質膜24の含水量M1は大きく低下しやすい。含水量M1が下限含水量M1inf未満となると、電解質膜24のドライアウトが生じているおそれがある。電解質膜24のドライアウトが生じている場合に燃料電池20が発電を行うと、電解質膜24の劣化が進行するおそれがある。
【0082】
そこで、制御装置70は、含水量M1が下限含水量M1inf未満の場合にステップS32において目標流量Qtの補正を行うことで、燃料電池20に供給される供給流量Q1を減少させる。これにより、補正前に比べて含水量M1の低下が抑制されるため、含水量M1が下限含水量M1inf以上に保たれる。したがって、電解質膜24のドライアウトが生じている状態で燃料電池20が発電を行うことで電解質膜24の劣化が進行することを抑制することができる。
【0083】
<変形例>
実施形態は以下のように変更して実施することができる。実施形態及び以下の変形例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0084】
・制御装置70は、ステップS31及びステップS32の処理を省略してもよい。言い換えれば、制御装置70は、含水量M1に基づく目標流量Qtの補正を行わなくてもよい。
【0085】
・制御装置70は、ステップS21において、目標出力電力を制限電力に制限しなくてもよい。これに伴い、制御装置70は、ステップS22において、目標流量Qtを制限流量Q3に制限しなくてもよい。この場合、制御装置70は、ステップS23の処理を行う前に、ステップS10で設定された目標出力電力に基づいて目標流量Qtを設定すればよい。
【0086】
・酸化剤ガス状態検出部56が検出する酸化剤ガスG2の状態は、酸化剤ガスG2の温度を含んでいてもよい。また、酸化剤ガス状態検出部56は、酸化剤ガスG2の温度を測定する温度センサを備えている。温度センサは、例えばインタークーラ55と燃料電池20との間に設けられている。酸化剤ガスG2の温度を用いた推定流量Q2の導出方法としては、例えば、酸化剤ガスG2の温度、圧力P1,P2、及びモータMの回転数N1を適宜組み合わせたパラメータに基づいて、気体の状態方程式を用いて推定流量Q2を導出すればよい。
【0087】
・制御装置70はステップS28において推定流量Q2の補正を行ってもよい。この場合、制御装置70は、ステップS28において、推定流量Q2を小さくする補正を行えばよい。これにより、制御装置70は、ステップS29において、推定流量Q2を目標流量Qtと一致させるために、酸化剤ガス供給部51のモータMの回転数N1を上げる。これに伴い、供給流量Q1が増加する。このように、供給流量Q1及び推定流量Q2を増加させることで、制御装置70は出力電圧V1を下限電圧V1inf以上にする。また、制御装置70は、ステップS28において、推定流量Q2及び目標流量Qtの補正をともに行ってもよい。
【0088】
・制御装置70はステップS32において推定流量Q2の補正を行ってもよい。この場合、制御装置70は、ステップS28において、推定流量Q2を大きくする補正を行えばよい。これにより、制御装置70は、ステップS29において、推定流量Q2を目標流量Qtと一致させるために、酸化剤ガス供給部51のモータMの回転数N1を下げる。これに伴い、供給流量Q1が減少する。このように、供給流量Q1及び推定流量Q2を減少させることで、制御装置70は含水量M1を下限含水量M1inf以上にする。また、制御装置70は、ステップS29において、推定流量Q2及び目標流量Qtの補正をともに行ってもよい。
【0089】
・目標出力電力の設定方法は任意である。例えば制御装置70は、SOCと目標出力電力との対応関係を示す関係式を用いて、SOCに基づいて目標出力電力を設定してもよい。また、制御装置70は、SOCに基づいて目標出力電力を設定しなくてもよく、例えば負荷R1の要求電力に基づいて目標出力電力を設定してもよい。この場合、燃料電池システム10は、バッテリ31及びBMS32を備えていなくてもよい。
【0090】
・酸化剤ガス流量センサ54は、酸化剤ガスG2の質量流量を検出するものに限られず、酸化剤ガスG2の体積流量を検出するものであってもよい。酸化剤ガスG2の流量として体積流量を採用する場合、空気の平均分子量及び大気圧P1を用いて質量流量を導出することにより、酸化剤ガスG2の流量と燃料電池20の発電量とを対応付けることができる。
【0091】
・酸化剤ガス供給部51の具体的態様はエアコンプレッサに限られず、空気を燃料電池20に供給可能であれば任意である。例えば酸化剤ガス供給部51は、ターボチャージャーであってもよい。
【0092】
・燃料電池システム10は車両Ve1に用いられるものに限られず、その用途は任意である。燃料電池システム10は、例えば定置型の発電機として適用されていても、非常用電源として適用されていてもよい。
【符号の説明】
【0093】
10…燃料電池システム、20…燃料電池、24…電解質膜、33…燃料電池状態検出部、34…含水量センサ、35…電圧センサ、51…酸化剤ガス供給部、54…酸化剤ガス流量センサ、56…酸化剤ガス状態検出部、70…制御装置、G1…燃料ガス、G2…酸化剤ガス、M1…含水量、M1inf…下限含水量、Q1…供給流量、Q2…推定流量、Q3…制限流量、V1…出力電圧、V1inf…下限電圧。