(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】免疫調節性間葉系幹細胞
(51)【国際特許分類】
C12N 5/0775 20100101AFI20241016BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20241016BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20241016BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20241016BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20241016BHJP
A61P 19/04 20060101ALI20241016BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20241016BHJP
A61P 11/06 20060101ALI20241016BHJP
A61K 35/28 20150101ALI20241016BHJP
【FI】
C12N5/0775
A61P29/00
A61P37/02
A61P37/08
A61P17/00
A61P19/04
A61P19/02
A61P11/06
A61P29/00 101
A61K35/28
(21)【出願番号】P 2021553068
(86)(22)【出願日】2020-03-12
(86)【国際出願番号】 EP2020056625
(87)【国際公開番号】W WO2020182935
(87)【国際公開日】2020-09-17
【審査請求日】2023-03-10
(32)【優先日】2019-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】521400224
【氏名又は名称】ベーリンガー インゲルハイム ヴェテリナリー メディスン ベルギー
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100196298
【氏名又は名称】井上 高雄
(72)【発明者】
【氏名】ジャン スパース
(72)【発明者】
【氏名】サラ ブロエックス
【審査官】鈴木 崇之
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-522212(JP,A)
【文献】特表2015-500810(JP,A)
【文献】NATURE BIOMEDICAL ENGINEERING,2019年02月,Vol. 3,p. 90-104
【文献】Int. J. Hematol.,2012年,Vol. 95,p. 34-46
【文献】Stem Cell Research & Therapy,2015年,6: 222,p. 1-11
【文献】Cell. Mol. Life Sci.,2017年,Vol. 74,p. 2345-2360
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-7/08
A61K 35/0-35/768
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a.間葉系マーカーCD29、CD44およびCD90については陽性を示し;
b.MHCクラスII分子については陰性を示
す、
末梢血由来の単離された間葉系幹細胞(MSC)であって、
前記MSCは、末梢血単核細胞(PBMC)の存在下で、免疫調節性プロスタグランジンE2
(PgE2)サイトカインを分泌する
;
前記MSCは、PBMCの非存在下と比較して、PBMCの存在下でIL-6およびIL-10の分泌が増加する;および
前記MSCは、PBMCによるTNF-αおよびIFN-γの分泌を阻害する、
ことを特徴とする、間葉系幹細胞。
【請求項2】
懸濁液直径が10μm~100μmであ
り、
前記懸濁液直径は、懸濁液中の前記MSCの平均直径である
ことを特徴とする、請求項
1に記載の間葉系幹細胞。
【請求項3】
紡錘形の形態を有することを特徴とする、請求項
1または2に記載の間葉系幹細胞。
【請求項4】
更に、前記MSCは、PBMCの非存在下と比較してPBMCの存在下でNOの分泌が増加し、かつ/または、PBMCによるIL-1の分泌を阻害する
ことを特徴とする、請求項1~3の何れか一項に記載の間葉系幹細胞。
【請求項5】
更に、ビメンチン、フィブロネクチン、Ki67、またはそれらの組み合わせについて陽性を示す、請求項1~4の何れか一項に記載の間葉系幹細胞。
【請求項6】
更に、CD45について陰性を示す、請求項1~5の何れか一項に記載の間葉系幹細胞。
【請求項7】
PBMCの存在下で、PgE2を1mLあたり10
3~10
6ピコグラムの濃度で発現することを特徴とする、請求項
1~6の何れか一項に記載の間葉系幹細胞。
【請求項8】
細胞組成物であって、
前記細胞組成物中の細胞の少なくとも60%が請求項1~7の何れか一項に記載の単離されたMSCであり、
前記細胞組成物中の細胞の少なくとも95%は単細胞である、細胞組成物。
【請求項9】
対
象における免疫関連疾患および/または炎症プロセスの治療に使用するための、請求項
8に記載の細胞組成物。
【請求項10】
前記対象は哺乳類対象である、請求項9に記載の使用するための細胞組成物。
【請求項11】
1回の治療につき10
5~10
7個の前記単離されたMSCが投与され
ることを特徴とする、請求項9または10に記載の使用するための細胞組成物。
【請求項12】
前記投与
は、静脈内注射、関節内注射、筋肉内注射、病巣内注射、動脈内注射、局所注射、結膜下注射または局所灌流によって行われることを特徴とする、請求項
11に記載の使用するための細胞組成物。
【請求項13】
前記免疫関連疾患は、自己免疫疾患、アトピー性皮膚炎、アレルギー、関節リウマチ、および関節炎からなる群から選択され、前記炎症プロセスは、変性関節疾患、変形性関節症、発熱、肺喘息、および腱炎からなる群から選択されることを特徴とする、請求項
9~12の何れか一項に記載の細胞組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単離された間葉系幹細胞および前記間葉系幹細胞を含む細胞組成物に関するものである。さらに本発明の細胞組成物は、免疫系を調節するために、免疫関連疾患や炎症プロセスの治療に使用することができる。
【背景技術】
【0002】
間葉系幹細胞(MSC)は、自己再生、クローン細胞集団の生成、多分化を特徴とする多能性幹細胞である。MSCはほぼ全ての組織に存在し、組織の修復や再生に重要な役割を果たしている。さらに、MSCは自然免疫系および適応免疫系の両方の免疫細胞との相互作用を介して、様々なエフェクター機能の免疫抑制をもたらす幅広い免疫調節特性を有している。MSCの免疫調節機能は、細胞間の直接的な接触、サイトカインの分泌、および/またはその両機序の組み合わせによって発揮される。
【0003】
MSCが免疫反応と相互作用する機序は多因子的であり、細胞間の直接的な接触、サイトカインの分泌、および/またはその両機序の組み合わせによって発揮される。MSCは、B細胞、T細胞、樹状細胞(DC)、ナチュラルキラー(NK)細胞、好中球、およびマクロファージなど、多くの種類の免疫細胞と相互作用する能力を持っている。一方、細胞間の接触機能に依存した相互作用は、MSCが制御する免疫抑制を誘導する可溶性免疫因子の分泌に依存している。これらの特異的な調節物質には、多数の免疫調節因子、サイトカイン、および成長因子が含まれ、炎症反応を調節し、免疫プロファイルのバランスをとる。
【0004】
MSC、特に同種間のMSCは、様々な疾患の細胞治療に大きな可能性を持っているが、宿主の免疫反応が該細胞を拒絶するため、組織の治癒および/または疾患の転帰に対する有効性は保証されていない。例えば、特定のMSCを選択することにより、MSCの免疫抑制能を改善し、移植期間を延長するための様々な努力がなされてきた。
【0005】
米国特許出願公開第20110311496号明細書(特許文献1)は、創傷治癒または骨折治癒を促進するためのMSCの組成物、および有効量のMSCを投与するステップを含む創傷治癒または骨折治癒を促進する方法を提供する。
【0006】
米国特許出願公開第20140017787号明細書(特許文献2)は、選択的に炎症を促進または抑制する、単離され、刺激されたMSCを提供するとともに、それを製造および使用する方法を提供する。US' 787は、MSCの免疫調節反応に影響を与える特定のToll様受容体の刺激を利用して、幹細胞ベースの治療法の改善のために均一な細胞調製物を提供する。
【0007】
欧州特許出願公開第3429360号明細書(特許文献3)は、1つまたは複数のマーカーの発現に基づいて、増強された効能を有するMSCを選択する方法、およびMSCが増強された効能を有するドナーを選択する方法を提供する。
【0008】
欧州特許出願公開第1066052号明細書(特許文献4)は、宿主の移植拒絶を低減または阻害するのに有効な量のMSCでレシピエントを処理することにより、該レシピエントの移植に対する免疫反応を低減する方法を開示している。EP '052は、同種抗原に対するT細胞の反応を抑制することに焦点を当てている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】米国特許出願公開第20110311496号明細書
【文献】米国特許出願公開第20140017787号明細書
【文献】欧州特許出願公開第3429360号明細書
【文献】欧州特許出願公開第1066052号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、当技術分野では、治療上の安全性と有効性に優れた改良型の免疫調節用MSCが必要とされている。
【0011】
本発明は、代表的な炎症環境において特異的な免疫関連特性を特徴とする単離されたMSCを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、請求項1に記載の単離されたMSCを提供するものである。
【0013】
第2の態様では、本発明は、単離されたMSCを含む、請求項7に記載の細胞組成物を提供する。
【0014】
最後の態様では、本発明は、請求項12に記載の免疫関連疾患および炎症プロセスの治療に使用するための細胞組成物を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】MSCおよびPBMCによるPgE2の分泌の増加を評価した、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)の実験を示すグラフ表示である。
【
図2】MSCによるTGF-βの発現増加が記録されている、ELISA実験のグラフ表示である。
【
図3】MSCやPBMCによるIL-6の分泌の増加を評価した、ELISA実験のグラフ表示である。
【
図4】PBMCによるTNF-αの発現低下が視覚化されている、ELISA実験のグラフ表示である。
【
図5】馬から単離したMSCにMHCクラスII分子が存在しないことを視覚化した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、特定の免疫調節特徴を有する単離されたMSCに関するものである。より詳細には、本発明は、前記単離されたMSCを含む細胞組成物、および免疫関連疾患および炎症プロセスの治療のためのその使用に関する。
【0017】
本発明の単離されたMSCは、免疫調整特性を有しており、そのため宿主の免疫原性反応が回避されることから、細胞移植に好ましいものである。
【0018】
特に定義されていない限り、技術的および科学的な用語を含む、本発明の開示に使用されるすべての用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解される意味を有する。さらなる指針として、本発明の教示をよりよく理解するために、用語の定義が含まれる。
【0019】
本明細書では、以下の用語が次のような意味を持つ。
【0020】
本明細書で使用される「1つ(a)」、「1つ(an)」、および「その(the)」は、文脈が明らかに他を指示しない限り、単数および複数の指示物を指す。例として、"1つのコンパートメント」は、1つまたは複数のコンパートメントを指す。
【0021】
本明細書で使用される、パラメータ、量、時間的持続性などの測定可能な値を指す「約」は、そのような変動が開示された発明で実行するのに適切である限り、特定された値の+/-20%以下、好ましくは+/-10%以下、より好ましくは+/-5%以下、さらに好ましくは+/-1%以下、さらに好ましくは+/-0.1%以下の変動を包含することを意味する。ただし、「約」という修飾語が参照する値自体も具体的に開示されていることを理解されたい。
【0022】
本明細書で使用される「含む(comprise)」、「含み(comprising)」、および「~から構成される(comprising of)」は、「含む(include)」、「含む(includes)」、または「含有する(contain)」、「含有し(containing)」、「含有する(contains)」と同義であり、包括的またはオープンエンドの用語であり、これは、例えば構成要素などの後に続くものの存在を特定するものであり、当技術分野で知られている、またはそこに開示されている、追加の、記載されていない構成要素、特徴、要素、部材、ステップの存在を除外または排除するものではない。
【0023】
終点による数値範囲の記載は、記載された終点とともに、その範囲に包含されるすべての数値および分数を含む。
【0024】
定義
用語「単離された」とは、細胞培養物や血液などの生物学的サンプルから細胞を物理的に特定して分離することであり、細胞培養物の検査や基準に対応する細胞の特徴づけ(可能であれば物理的に分離)か、または、抗原の有無および/もしくは細胞の大きさ(FACSなどによる)に応じた細胞の自動選別に基づいた、適切な細胞生物学の技術を適用することにより実施することができる。いくつかの実施形態では、用語「単離した」または「単離」は、特にフローサイトメトリーを実施することによる、細胞の物理的分離および/または定量化というさらなるステップを含んでいてもよい。
【0025】
用語「間葉系幹細胞」または「MSC」は、特定の表面抗原のセットを発現し、in vitroで培養した場合、またはin vivoで存在する場合、限定するわけではないが、脂肪細胞、軟骨細胞、および骨細胞を含む様々な細胞タイプに分化することができる多能性の自己再生細胞を指す。
【0026】
本明細書で使用する場合、「炎症環境」または「炎症状態」とは、(i)少なくとも1つの炎症促進性免疫細胞、炎症性サイトカイン、または炎症促進性ケモカインの増加;および(ii)少なくとも1つの抗炎症性免疫細胞、抗炎症性サイトカイン、または抗炎症性ケモカインの減少を特徴とする状態または状況のことをいう。好ましくは、本明細書で使用される「炎症環境」または「炎症状態」は、少なくとも15%の増殖Tリンパ球を含み、前記リンパ球は、少なくともTヘルパー(Th)1細胞およびTh2細胞を含み、少なくとも7pg/mLのTNF-αおよび/または13pg/mLのTGF-βを産生する。
【0027】
用語「抗炎症性の」、「抗炎症」、「免疫抑制」、および「免疫抑制剤」とは、局所的な炎症の少なくとも1つの兆候(熱、痛み、腫れ、赤み、機能低下などだが、これらに限定されない)が減少することを特徴とするあらゆる状態もしくは状況、ならびに/または、(i)少なくとも1つの炎症促進性免疫細胞、炎症性サイトカイン、もしくは炎症促進性ケモカインの減少;および(ii)少なくとも1つの抗炎症性免疫細胞、抗炎症性サイトカイン、もしくは抗炎症性ケモカインの増加を特徴とする全身状態の変化を指す。
【0028】
本発明の用語「末梢血単核細胞」または「PBMC」には、リンパ球(Tリンパ球、Bリンパ球、ナチュラルキラー(NK)細胞)および単球である任意の末梢血細胞が含まれる。好ましくは、本発明では、前記Tリンパ球の少なくとも20.5%がCD3について陽性であり、および/または、前記Bリンパ球の少なくとも19.8%がCD138について陽性である。
【0029】
本明細書で使用される用語「陽性」は、細胞の表面上の、細胞内の、および/または分泌された生物学的活性および/または生物学的マーカーの存在を意味する。好ましくは、本発明の細胞または細胞組成物は、生物学的活性および/またはマーカーについて、それぞれ少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99%、または60%~99%、または70%~90%で陽性を測定する。
【0030】
本明細書で使用される用語「陰性」は、細胞の表面上の、細胞内の、および/または分泌された生物学的活性および/または生物学的マーカーがないことを意味する。好ましくは、本発明の細胞または細胞組成物は、生物学的活性および/またはマーカーについて、それぞれ20%未満、15%未満、10%未満、5%未満、または2%未満の陰性を測定する。
【0031】
本発明の「集団倍加時間」または「PDT」は、以下の式で計算されることになっている。
PDT = ln(Nf/Ni)/ln(2)
式中、Nfは細胞剥離後の最終的な細胞数であり、Niはゼロ時点での初期の細胞数である。
【0032】
用語「抗凝固剤」は、血液の凝固を抑制できる組成物を意味する。本発明で使用される抗凝固剤の例としては、EDTAまたはヘパリンが挙げられる。
【0033】
本発明の用語「バフィーコート」とは、非凝固血液の画分と理解されるべきであり、好ましくは密度勾配遠心分離によって得られ、それによって白血球と血小板が濃縮された画分である。
【0034】
用語「血液間相(blood-inter-phase)」とは、主に赤血球と多形核細胞からなる下部画分と、主に血漿からなる上部画分の間に位置する、好ましくは密度勾配を用いて得られる血液の画分と理解されるべきである。血液間相は、単球、リンパ球、MSCを含む血液単核細胞(BMC)の供給源となる。
【0035】
本明細書で使用される用語「懸濁液直径」は、懸濁液中にある細胞の平均直径として理解されるべきである。直径を測定する方法は、当技術分野で既知である。可能な方法は、フローサイトメトリー、共焦点顕微鏡、イメージサイトメーター、または当技術分野で既知の他の方法である。
【0036】
用語「患者」、「対象」、「動物」、または「哺乳類」は、互換的に使用され、治療される哺乳類対象を指す。
【0037】
用語「誘導する」または「誘発された」は、多分化能細胞または多能性細胞において細胞種特異的な遺伝子または分子が活性化され、それによって、斯かる細胞がより定義された、特化された、または分化した細胞系統または細胞種へ至るプロセスとして理解されるべきである。
【0038】
用語「治療上有効な量」とは、病気の症状を軽減したり、状態を改善したりするのに有効な、化合物または組成物の最小量または最小濃度のことである。
【0039】
用語「治療」とは、病的な状態や障害を軽減または予防するための治療的、予防的、または防止的な措置の両方を意味する。
【0040】
本明細書で使用される用語「in vitro」は、体外にあること、または体の外側にあることを示す。本明細書で使用される用語「in vitro」は、「ex vivo」を含むと理解されるべきである。用語「ex vivo」は、典型的には、組織または細胞が身体から取り出され、身体の外、例えば、培養容器またはバイオリアクター内で維持または増殖されることを意味する。
【0041】
説明
本発明は、特定のタイプのMSC、斯かるMSCを含む組成物、およびその臨床的使用に関するものである。
【0042】
第1の態様では、本発明は、単離されたMSCを提供し、前記細胞は、間葉系マーカーCD29、CD44およびCD90については陽性を示し、MHCクラスII分子については陰性を示す。前記細胞は、炎症環境または炎症状態に存在する場合に免疫調節性PgE2サイトカインを分泌する。
【0043】
炎症環境または炎症状態は、血液中の免疫細胞の動員によって特徴づけられる。炎症性メディエーターには、プロスタグランジン、IL-1β、TNF-α、IL-6、IL-15などの炎症性サイトカイン、IL-8などのケモカイン、TNF-α、IFN-γなどの他の炎症性タンパク質が含まれる。これらのメディエーターは、主に単球、マクロファージ、T細胞、B細胞によって産生され、炎症部位に白血球を集め、その後、刺激性と抑制性の複雑な相互作用のネットワークを刺激して、炎症プロセスから組織を破壊すると同時に治癒させる。
【0044】
プロスタグランジンE2(PgE2)は、プロスタグランジンファミリーのサブタイプである。PgE2は、膜のリン脂質から放出されたアラキドン酸(AA)から、連続した酵素反応によって合成される。プロスタグランジンエンドペルオキシダーゼ合成酵素として知られるシクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)がAAをプロスタグランジンH2(PgH2)に変換し、PgE2合成酵素がPgH2をPgE2に異性化する。COX-2は律速酵素として、成長因子、炎症性サイトカイン、腫瘍促進剤よる刺激を含む生理的条件に応じてPgE2の合成を制御する。
【0045】
特定の実施形態では、炎症環境に存在する前記MSCは、可溶性免疫因子であるプロスタグランジンE2(PgE2)を1mLあたり103~106ピコグラムの範囲の濃度で分泌して、MSCが制御する免疫抑制を誘導する。
【0046】
これらの特定の濃度範囲でMSCが分泌するPgE2は、in vitroでの抗炎症プロセスを刺激し、また、MSCは適切な細胞タイプに分化する能力を有することから、MSCは細胞移植に適している。
【0047】
本発明の単離されたMSCは、間葉系マーカーCD29、CD44およびCD90の存在によって特徴付づけられる。後者によって、得られたMSCの純度を分析し、MSCであることができる割合を決定することができる。
【0048】
CD29は、インテグリンβ1遺伝子にコードされる細胞表面の受容体で、該受容体はリガンドの結合により他のタンパク質と複合体を形成し、生理的な活動を制御する。CD44抗原は、細胞と細胞の相互作用、細胞の接着や移動に関与する細胞表面の糖タンパク質である。さらに、CD44はヒアルロン酸の受容体であり、オステオポンチン、コラーゲン、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)などの他のリガンドとも相互作用することができる。CD90抗原は、保存された細胞表面タンパク質であり、MSCのような幹細胞のマーカーとして考えられている。本発明の単離されたMSCは、CD29/CD44/CD90について三重で陽性であるため、当業者はMSCを迅速かつ明確に選択することができ、さらに下流の用途の対象となるMSCの生物学的特性を提供する。
【0049】
具体的な実施形態では、本発明のMSCは、典型的なMSCマーカーであるビメンチン、フィブロネクチン、Ki67、またはそれらの組み合わせについて陽性を示す。
【0050】
さらに、本発明の単離されたMSCは、主要組織適合複合体(MHC)クラスII分子、好ましくは現在知られているすべてのMHCクラスII分子が存在しないことを特徴としており、ウマの細胞治療など、哺乳類の細胞治療に使用できる細胞として分類されるものである。単離されたMSCが部分的に分化している場合でも、MSCはMHCクラスII分子について陰性のままである。
【0051】
一般的にMSCは、その表面にMHCクラスI抗原を発現しているが、MHCクラスIIの量は限られている。特定の実施形態では、本発明の単離されたMSCは、MHCクラスIマーカーについても陰性を示す。最も好ましい実施形態では、前記MSCは、MHCクラスIおよびIIマーカーについて陰性を示し、該細胞は、極めて低い免疫原性表現型を示す。
【0052】
このようなMSCの免疫学的特性は、細胞移植後にレシピエントの免疫系が細胞、好ましくは同種の細胞を認識し、拒絶する能力を制限する。MSCは、免疫反応を調節する因子を産生して、局所的な刺激により適切な細胞タイプに分化する能力を持つことから、細胞治療に望ましい幹細胞である。
【0053】
別のさらなる実施形態では、MSCは造血細胞のマーカーであるCD45抗原について陰性である。
【0054】
最も好ましい実施形態では、単離されたMSCは:
-間葉系マーカーであるCD29、CD44、CD90について陽性を示し;
-ビメンチン、フィブロネクチン、Ki67、またはそれらの組み合わせからなるグループに含まれる1つまたは複数のマーカーについて陽性を示し;
-MHCクラスIおよび/またはII分子について陰性を示し;
-造血性マーカーCD45について陰性を示し、
前記細胞は、炎症環境または炎症状態に存在する場合、免疫調節性PgE2サイトカインを1mLあたり103~106ピコグラムの濃度で分泌する。
【0055】
一般的に、特定の細胞タイプの細胞マーカー(間葉系、肝系、造血系、上皮系、内皮系マーカーなど)か、または、特定の局在性(細胞内、細胞表面、または分泌されたなど)を有する細胞マーカーを同定および特徴づけするための技術で、文献に掲載されているものであれば、MSCの特徴付けに適していると考えられる。斯かる技術は、分析中に細胞の完全性を維持することを可能にする技術と、斯かる細胞を用いて生成された抽出物(タンパク質、核酸、膜などを含む)に基づく技術の2つのカテゴリーに分類することができる。このようなマーカーを同定し、それが陽性または陰性であることを測定する技術の中でも、免疫細胞化学や細胞培養液の分析は、少量の細胞であっても、(ウェスタンブロットやフローサイトメトリーの場合のように)細胞を破壊することなくマーカーを検出できるため、好ましい。
【0056】
単離されたMSCの関連する生物学的特徴は、フローサイトメトリー、免疫細胞化学、質量分析、ゲル電気泳動、免疫測定(イムノブロット、ウェスタンブロット、免疫沈降、ELISAなど)、核酸増幅(リアルタイムRT-PCRなど)、酵素活性、オミックス技術(プロテオミクス、リピドミクス、グリコミクス、トランスクリプトミクス、メタボロミクス)、および/またはその他の生物学的活性などの技術を用いて同定することができる。
【0057】
好ましい実施形態では、MSCは、炎症環境または炎症状態に存在する場合に、IL-6、IL-10、TGF-β、NO、またはそれらの組み合わせから選ばれる分子のうち少なくとも1つの分泌は多く、IL-1の分泌は少ない。比較は、上に提示したのと同じ特徴を有するが前記炎症環境または炎症状態にさらされていない間葉系幹細胞を用いて行うことができる。
【0058】
好ましくは、MSCは、上述の因子のうち2つ以上と組み合わせて、PgE2の分泌が多い。
【0059】
PgE2、IL-6、IL-10、TGF-B、NOは、T細胞やB細胞のような主要な免疫細胞集団の増殖や機能を抑制するのに役立つ。さらに、MSCはその表面に低レベルのMHCクラスI分子を発現しているか、および/またはMHCクラスII分子が陰性であるため、免疫原性反応から逃れることができる。さらに、本発明の単離されたMSCは、上記の因子の分泌を増加させることによって、白血球の増殖を抑制することができ、またも宿主の免疫原性反応を回避するのに役立つ。
【0060】
本発明のMSCは、骨髄、脂肪、筋肉、臍帯血、末梢血、肝臓、胎盤、皮膚、羊水など、様々な組織や体液に由来するものであるが、これらに限定されるものではない。好ましくは、MSCは血液に由来するものであり、より好ましくは末梢血に由来するものである。本発明のMSCは、当技術分野で既知である任意の標準的なプロトコルによって誘導することができる。
【0061】
一実施形態では、前記MSCは、血液または血液相(blood phase)からMSCを単離し、前記細胞を低グルコース培地で培養して増殖させる方法により得ることができる。
【0062】
一実施形態では、斯かる方法は以下の:
a.ドナーから1つまたは複数の血液サンプルを、抗凝固剤を塗布したサンプルバイアルに採取するステップと;
b.前記血液サンプルを遠心分離して、血漿相、バフィーコート相、赤血球相の3相分布を得るステップと;
c.前記バフィーコートを集め、密度勾配に載せるステップと;
d.ステップc)の密度勾配から得られた血液間相を集めるステップと;
e.遠心分離により前記血液間相からMSCを単離するステップと;
f.2.5×105/cm2から5×105/cm2のMSCを培養液に播種し、デキサメタゾン、抗生物質、および血清を補充した低グルコース増殖培地中で維持するステップとを含み得る。
【0063】
播種の数は、最終的に純粋で生存可能な集団MSCを許容可能な濃度で得るために非常に重要である。高密度すぎる播種は、増殖中に大量の細胞死を招き、MSCは非均質な集団となる。また、散在しすぎる播種は、MSCのコロニー形成がほとんど、あるいは全く行われず、そのため増殖が全くもしくはほとんどできないか、または時間がかかりすぎることになる。いずれの場合も、細胞の生存率に悪影響を及ぼすだろう。
【0064】
本発明の好ましい実施形態では、単離されたMSCは、高い細胞生存率を有しており、前記細胞のうち、少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは100%が生存している。
【0065】
血液間相は、単球、リンパ球、MSCを含む血液単核細胞(BMC)の供給源である。好みによりリンパ球は37℃で洗い流され、同時に単球は生かすために必要なサイトカインがないと2週間で死滅する。こうしてMSCは精製される。血液間相からのMSCの単離は、好ましくは血液間相の遠心分離によって行われ、その後、細胞ペレットはリン酸緩衝液などの適切な緩衝液で少なくとも1回洗浄される。
【0066】
さらなる実施形態では、本発明の単離されたMSCは、単球およびマクロファージがいずれも0%から7.5%の範囲内で陰性である。
【0067】
特に、間葉系細胞は、成長培地中で少なくとも2週間保持される。好ましくは、1%のデキサメタゾンを有する成長培地が使用される。これは、単離されたMSCの特定の特性が該培地で保たれるためである。
【0068】
最低でも2週間(14日)、好ましくは3週間(21日)の期間を経て、MSCのコロニーが培養瓶の中に見えるようになる。続くステップg)では、MSCを増殖させる目的で、少なくとも6×103個の幹細胞/cm2を、低グルコース、血清および抗生物質を含む増殖培地に移す。好ましくは、MSCの増殖は最小5回の細胞継代で行われる。このようにして、十分な細胞を得ることができる。好ましくは、細胞は70%から80%のコンフルエントで分割される。MSCは、培養液において50継代まで維持することができる。それ以降は、生命力の低下、老化、または突然変異の形成などのリスクが生じる。
【0069】
さらなる実施形態では、単離されたMSCの増殖中の各継代間の集団倍加時間(PDT)は、トリプシン化後0.7日~3日であるべきである。
【0070】
前記PDTは、単離されたMSCの増殖中の各継代の間で、トリプシン化後0.7日~2.5日であることが好ましい。
【0071】
好ましい実施形態では、単離されたMSCは、紡錘形の形態を有している。
【0072】
本発明の単離されたMSCの形態学的特徴により、この細胞は細長い繊維芽細胞のような紡錘形の細胞として分類される。このタイプの細胞は、主に三角形または星形の細胞形状を示す小さな自己再生細胞を有するMSCの他の集団や、顕著な核を有する大きな立方状または扁平なパターンを有するMSCの集団とは異なる。生物学的マーカーとともに、この特定の形態的特徴を有するMSCを選択することにより、当業者が本発明のMSCを単離することが可能となる。細胞の形態学的分析は、位相差顕微鏡を用いて当業者が容易に行うことができる。その上、MSCのサイズと粒度は、フローサイトメトリーにおける前方散乱図と側方散乱図、または当業者に既知である他の技術を用いて評価することができる。
【0073】
所望であれば、単離したMSCを成体細胞に誘導または分化させることができる。誘導または分化は、好ましくは、特定の成長因子および/または他の分化因子および/または誘導因子を細胞の培地に加えることによって行われる。これらの因子の性質は、分化および所望の成体細胞タイプに決定的に依存する。好ましい実施形態では、本発明のMSCは、テノサイト、軟骨細胞、骨細胞、筋細胞、脂肪細胞、または線維芽細胞に分化することができる。In vitroでの分化では、MHCクラスIおよびIIの発現が増加する。したがって、我々の分化プロトコルでは、これらのマーカーの増加が見られなかったことは重要である。MHCクラスIIの発現はMSCでは全く見られなかったが、MHCクラスIはMSCで低レベルで発現していた。
【0074】
より好ましい実施形態では、MSCは、10μm~100μmの懸濁液直径を有する。
【0075】
本発明の単離されたMSCは、サイズ/懸濁液直径に基づいて選択されている。好ましくは、MSCは、10~100μm、より好ましくは15~80μm、より好ましくは20~75μm、より好ましくは25~50μmの細胞サイズを有している。好ましくは、細胞サイズに基づく細胞の選択は、ろ過ステップによって行われる。例えば、1mLあたり104~107個の範囲の細胞濃度を有する単離されたMSCは、好ましくは低グルコースDMEM培地において希釈され、フィルターシステムによってサイズによって選択され、ここで細胞は40μmのフィルターを用いた二重濾過ステップを経る。二重または複数のろ過ステップが好ましい。後者は、単一細胞の高い集団を提供し、細胞凝集体の存在を回避する。斯かる細胞凝集体は、凍結による細胞の保存中に細胞死を引き起こす可能性があり、また、細胞のさらなる下流の用途に影響を与える可能性がある。例えば、細胞凝集体は、静脈内に投与された際に毛細血管塞栓症の発生リスクを高める可能性がある。
【0076】
さらなる実施形態では、単離されたMSCは、PBMCにおいて、PgE2、IL-6、IL-10、NO、もしくはそれらの組み合わせの分泌を誘導し、および/または、TNF-α、IFN-γ、IL-1、もしくはそれらの組み合わせの分泌を阻害する。
【0077】
炎症環境下では、MSCは宿主の免疫反応を調節する複数の因子を分泌する。さらに、MSCは、PgE2、IL-6、IL-10、NO、またはそれらの組み合わせからなる群から選択される1つまたは複数の因子の分泌を誘導する刺激効果を有する。MSCは、炎症環境下のPBMCに対する刺激効果の次に、PBMCの分泌を抑制する効果も有しており、その結果、TNF-α、IFN-γ、IL-1、またはそれらの組み合わせからなる群から選択される1つまたは複数の因子が減少する。MSCは、炎症環境において調節作用を有するため、あらゆる種類の疾患、特に免疫系の障害の治療に有用である。
【0078】
好ましい実施形態では、炎症環境におけるMSCの免疫調節活性は、MSCとPBMCが1:0.001~1:1000の比率で存在する場合に最適となる。特に好ましいMSCとPBMCの比率は、1:500、より好ましくは1:100、より好ましくは1:10である。
【0079】
特定の好ましい実施形態では、MSCは血液、好ましくは末梢血から単離される。血液は、MSCの最適な供給源であると思われる。血液は、非侵襲的で痛みを伴わない供給源であるだけでなく、収集するのが容易で安全であり、その結果、容易にアクセス可能である。血液は、すべての哺乳類、特に馬、ヒト、猫、犬、げっ歯類などに由来するものであってもよい。好ましくは、前記由来はウマである。
【0080】
第2の側面では、本発明は、本発明の単離されたMSCを少なくとも60%含み、前記細胞の少なくとも95%が単細胞である細胞組成物を提供する。
【0081】
好ましくは、本発明による前記組成物は、少なくとも90%のMSCを含む。より好ましくは、前記細胞組成物は、少なくとも95%、より好ましくは少なくとも99%のMSCを含む。実施形態では、前記細胞組成物は、本発明によるMSCを100%含む、純粋な組成物である。
【0082】
好ましい実施形態では、前記組成物は、少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、さらに好ましくは少なくとも85%、最も好ましくは少なくとも90%の単細胞を含む。好ましくは、前記細胞は、10μm~100μmの懸濁液直径を有し、細胞の単細胞性および細胞の直径は、細胞治療のような下流の任意の用途、および細胞の生命力のために重要である。
【0083】
本組成物のより好ましい実施形態では、単離されたMSCは、CD29については95%~100%の範囲で、CD90については95%~100%の範囲で、CD44については80%~100%の範囲で、より好ましくは90%~100%の範囲で、最も好ましくは95%~100%の範囲で陽性を示し、MHCクラスII分子については0%~5%の範囲で、より好ましくは0%~2%の範囲で陰性を示す。さらに、MSCは、0%~60%、より好ましくは0%~50%、より好ましくは0%~45%の範囲で、MHCクラスI分子について陰性を示す。本組成物のさらなる実施形態では、MSCは、0%から7.5%の範囲でCD45について陰性を示す。
【0084】
より好ましい実施形態では、本組成物で構成されるMSCは、少なくとも90%、より好ましくは95%、より好ましくは99%、より好ましくは100%の細胞生存率を有する。
【0085】
本発明の別の実施形態は、前記実施形態のいずれかに記載のMSC組成物を分化させることにより得られる細胞組成物に関するものであり、前記細胞組成物の細胞は、テノサイト、軟骨細胞、骨細胞、筋細胞、脂肪細胞、ケラチノサイト、神経細胞または線維芽細胞である。
【0086】
好ましい実施形態では、細胞組成物は、治療上有効な量の単離されたMSCを含み、好ましくは、前記組成物は、1mLあたり105~107個の前記単離されたMSCを含む。
【0087】
対象に治療上の利益をもたらす最小治療有効量は、1mLあたり少なくとも105個の単離されたMSCである。前記MSCは、細胞組成物中で希釈されていてもよい。好ましくは、細胞組成物は、1mLあたり105~5×105個の単離されたMSCを含む。
【0088】
別の実施形態では、細胞組成物は、多血小板血漿(PRP)、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸をベースにした組成物、グリコサミノグリカン、またはグリコサミノグリカンをベースにした組成物からなる群から選択される成分を用いて補完することができる。組成物と斯かる担体物質を混合することは、場合によっては、組成物の有効性を高めたり、相乗効果を生み出すために望ましいことがある。例えば、前記担体物質は、細胞組成物中のMSCのホーミング能力や免疫調節効果を助ける。
【0089】
細胞組成物のさらなる実施形態では、単離されたMSCは、PBMCが存在する場合、PgE2、IL-6、IL-10、TGF-β、NOまたはそれらの組み合わせを発現する。
【0090】
細胞組成物の好ましい実施形態では、単離されたMSCは、PMCが存在する場合、PBMCにおいて、pgE2、IL-6、IL-10、NO、もしくはそれらの組み合わせの発現を誘導し、および/または、PBMCにおいて、TNF-α、IFN-γ、IL-1、もしくはそれらの組み合わせの分泌を阻害する。
【0091】
単離されたMSCは、PBMCの存在下でも、免疫調節因子を分泌する生物学的能力を維持する。PgE2またはその他の因子の分泌など、MSCの刺激効果の後にPBMCにより仲介される免疫反応は、MSCがさらに免疫抑制作用を発揮するために重要である。
【0092】
さらに、MSCとPBMCの比率は重要な要素である。したがって、細胞組成物のより好ましい実施形態は、1:0.001~1:1000の比率でMSCとPBMCが存在することに関するものである。MSCとPBMCの前記比率は、好ましくは1:500、より好ましくは1:100、より好ましくは1:10である。
【0093】
In vitro試験では、これらの比率が炎症環境下でのMSCの効率的な免疫調節につながることが示されている。in vivoでも同様の結果が得られ、効率的で安全な細胞治療がもたらされることが期待される。
【0094】
別のさらなる実施形態では、細胞組成物は、PBMCが存在する場合に、PgE2を1mLあたり103~106ピコグラムの濃度で発現する。
【0095】
前記細胞組成物中にPBMCが存在する場合、1mLあたり105~107、より好ましくは105~106の濃度の単離されたMSCは、免疫抑制因子PgE2を分泌することを特徴とし、前記量の細胞は1mLあたり103から106ピコグラムの範囲でPgE2を分泌する。好ましくは、1mLあたりから105ピコグラムのPgE2が、細胞組成物中のMSCによって分泌されて、免疫担当細胞を十分に抑制する。
【0096】
好ましい実施形態では、本発明の細胞組成物は、静脈内注射、関節内注射、筋肉内注射、病巣内注射、動脈内注射、局所注射、結膜下注射または局所灌流によって対象に投与するために処方される。
【0097】
特定の実施形態では、上述の組成物は、対象への同種投与に使用することができる。同種の使用は、異なるドナーをスクリーニングし、最適なドナーを選択することができるため、MSCの品質をよりよく制御することができる。機能的なMSCを調製するという観点からは、後者が不可欠である。これは、MSCの自家使用とは対照的で、この場合、細胞の品質が確保できないからである。
【0098】
例えば、血液のMSCを単離する際には、後にその単離したMSCのレシピエントともなるドナーの血液を使用した。別の実施形態では、ドナーの血液から単離されたMSCのレシピエントと、ドナーが好ましくは同じ家族、性別、または人種であるドナーの血液が使用される。特に、これらのドナーは、幹細胞を介したこれらの病理または疾患の水平感染のリスクを回避するために、一般的な現在の感染可能な疾患または病理について検査される。好ましくは、ドナー動物は隔離された状態で保管される。ドナーの馬を使用する際には、例えば以下のような病原体、ウイルス、寄生虫:馬伝染性貧血(EIA)、馬鼻腔炎(EHV-1、EHV-4)、馬ウイルス性動脈炎(EVA)、西ナイルウイルス(WNV)、アフリカ馬疫(AHS)、ドーリン(トリパノソーマ)、馬ピロプラズマ症、鼻疽(槌骨、鼻疽)、馬インフルエンザ、ライムボレリア症(LB)(ライム病ボレリア、ライム病)について、検査を行うことができる。
【0099】
本発明の組成物は、好ましくは、組成物の長期間の保存を可能にするために凍結される。好ましくは、該組成物は、-20℃未満の温度など、低温かつ一定の温度で凍結される。これらの条件は、組成物の保存を可能にし、組成物中の細胞が、その生物学的および形態学的特性、ならびに保存中および解凍後の高い細胞生存率を維持することを可能にする。
【0100】
より好ましい実施形態では、細胞組成物は、最高温度-80℃で、任意に液体窒素中で、少なくとも6ヶ月間保存することができる。
【0101】
MSCの凍結において重要な因子は、低温貯蔵培地の組成、特にDMSOの濃度である。DMSOは、凍結プロセス中に培地中で氷晶が形成されるのを防ぐが、高濃度の場合は細胞に毒性がある可能性がある。好ましい実施形態では、DMSOの濃度は最大で20%、より好ましくは最大で15%、より好ましくは寒剤中のDMSOの濃度は10%である。低温貯蔵培地は、低グルコースDMEM(ダルベッコ変法イーグル培地)などの低グルコース培地をさらに含む。
【0102】
その後、細胞組成物を、室温付近の温度、好ましくは20℃~37℃の温度、より好ましくは25℃~37℃の温度で、最大20分、好ましくは最大10分、より好ましくは最大5分のタイムスパンで、投与前に解凍することが好ましい。
【0103】
さらに、組成物の活力を保護するために、解凍後2分以内に投与する。
【0104】
好ましくは、本発明は、獣医学分野にその用途がある。本組成物は対象に投与することができ、前記対象は哺乳類、好ましくはイヌ、ネコ、ウマ、またはサルである。
【0105】
第3の態様では、本発明は、対象、好ましくは哺乳類対象における免疫関連疾患および/または炎症プロセスの治療に使用するための、本発明の細胞組成物を提供する。
【0106】
特に、前記免疫関連疾患は、自己免疫疾患、アトピー性皮膚炎、アレルギー、関節リウマチ、および関節炎からなる群から選択され、前記炎症プロセスは、変性関節疾患、変形性関節症、発熱、肺喘息、および腱炎からなる群から選択される。
【0107】
本発明の特に好ましい実施形態では、細胞組成物は、上記に挙げた治療に使用され、1回の治療につき105~107個の前記単離されたMSCが投与され、前記投与は、好ましくは、静脈内注射、関節内注射、筋肉内注射、病巣内注射、動脈内注射、局所注射、結膜下注射または局所灌流によって行われる。
【0108】
本発明は、本発明をさらに説明する以下の非限定的な実施例によって説明され、本発明の範囲を限定することを意図しておらず、またそのように解釈されるべきでもない。
【実施例】
【0109】
本発明は、先に述べたどのような実現形態にも限定されず、添付の特許請求の範囲を見直すことなく、提示された製作例にいくつかの変更を加えることができると考えられる。
【0110】
実施例1:単離したMSCによるPgE2の分泌の免疫測定法ELISAでの定量化
ウマの末梢血単核細胞(ePBMC)を、腱に慢性炎症を起こした馬の末梢血50mLを、抗凝固剤としてエチレンジアミン四酢酸(EDTA)を入れたチューブに採取することにより得た。EDTAチューブを20分間遠心分離した後、バフィーコートを15mLの滅菌チューブに採取した。このバフィーコートをリン酸緩衝液(1x PBS)で2倍に希釈した。続いて、この溶液をPercoll(1.35g/mL)で処理し、15分間遠心分離した。次に、間相を回収し、8分間の遠心分離で1x PBSを洗浄し、これを2回繰り返した。ペレットを再懸濁し、細胞を数えた。数えた後のPBMCは、まず標識し、96ウェルプレートに播種し、ベータメルカプトエタノールを含む増殖培地で、MSCの存在下または非存在下で増殖させた。フラスコ(T75フラスコ)あたり25×106個のePBMCを、MSCと特定の比率で播種した。ここでは、MSCとPBMCの前記比率は1:10である。96時間のインキュベーション後にMSCとPBMCの上澄み液を得て、免疫測定に使用した。刺激したPBMCとMSCを含むテストサンプルの次に、ポジティブコントロールとネガティブコントロールを、PgE2分泌の発現について評価した。
【0111】
PgE2の分泌を、酵素結合免疫吸着法ELISAキット、競合ELISA(Enzo Life Sciences, Farmingdale, NY, USA)を用いて定量化した。ELISAプレートを抗ウマPgE2モノクローナル抗体で一晩コーティングし、洗浄し、サンプル、テストサンプルおよびコントロールサンプルとともにインキュベートした。プレートを再度洗浄し、抗ウマPgE2ビオチン標識モノクローナル抗体とインキュベートし、洗浄し、アビジン、西洋ワサビペルオキシダーゼとインキュベートし、再度洗浄し、ペルオキシダーゼ基質とインキュベートし、プレートリーダーで405nmで読み取った。
【0112】
図1に示すように、500,000pg/mL超の細胞の増加が評価されることから、MSCにおけるPgE2の分泌は炎症環境下で誘導される。
【0113】
実施例2:ELISAによるMSCとPBMCのTGF-βとIL-6の分泌の定量化
TGF-βおよびIL-6の分泌を、競合ELISAキット(Cusabio, USA)を用いて定量化した。競合阻害酵素免疫測定法は、先に例1で説明したPgE2競合ELISAキットと同じ原理である。
【0114】
MSCによるTGF-βとIL-6の分泌の増加と、PBMCにおけるIL-6の分泌の増加が観察された。
図2は、TGF-βの濃度がほぼ2倍になり、MSCによりTGF-βの分泌が増加していることを可視化したものである。
図3に可視化されているように、MSCおよびPBMCによるIL-6の分泌は、ネガティブコントロールのほぼ18倍である。
【0115】
実施例3:ELISAによるPBMCのTNF-α発現の定量化
TNF-αの発現を、競合ELISAキット(Invitrogen, USA)を用いて測定した。ELISAプレートを抗ウマTNF-αモノクローナル抗体で一晩コーティングし、洗浄し、サンプル、テストサンプル、コントロールサンプルとともにインキュベートした。プレートを再度洗浄し、抗ウマPgE2ビオチン標識モノクローナル抗体とともにインキュベートし、洗浄し、ストレプトアビジン-西洋ワサビペルオキシダーゼとともにインキュベートし、再度洗浄し、ペルオキシダーゼ基質とともにインキュベートし、プレートリーダーで405nmで読み取った。
【0116】
MSCの存在下では、PBMCによるTNF-αの分泌が減少することが定量的に示された。MSCの調節効果により、
図4で可視化されているように、PBMCのTNF-α分泌が3分の1に抑制され、231pg/mLから77pg/mLに減少したことが定量化された。
【0117】
実施例4:フローサイトメトリーによるMSCの免疫表現型の特徴づけ
フローサイトメトリーにより、いくつかの幹細胞マーカーの発現を評価し、MSCを免疫表現型で特徴づけた。典型的な拒絶反応タンパク質である主要組織適合複合体(MHC)クラスIIの発現を、天然MSCと炎症環境下のMSCで評価した。1シリーズにつき4×105個の細胞を使用し、一次抗体のマウス抗ウマMHCクラスII IgG1(Abd Serotec、1:50)で標識した。細胞を暗所の氷上で15分間一次抗体とともにインキュベートし、1%ウシ血清アルブミン(BSA)を含むDMEMからなる洗浄バッファーで2回洗浄した。暗所の氷上で15分間インキュベートした後、二次ウサギ抗マウス-FITC(Abcam,1:100)抗体を用いて陽性細胞を特定した。最後に,すべての細胞を洗浄バッファーで3回洗浄し,少なくとも103個の細胞を、488nmの固体レーザーと633nmのHeNeレーザーを備えた蛍光活性化セルソーター(FACS)Cantoフローサイトメーター(Becton Dickinson Immunocytometry systems)を用いて評価し、その後、これらのデータをFACS Divaソフトウェアで解析した。すべての解析は、バックグラウンドシグナルを確立するために、(i)自家蛍光、および(ii)アイソタイプ特異的IgGでインキュベートしたコントロール細胞に基づいて行った。すべてのアイソタイプは、免疫グロブリンのサブタイプと一致させ、対応する抗体と同じタンパク質濃度で使用した。
【0118】
天然(データ非表示)MSCと炎症環境下のMSC(
図5参照)は、MHCクラスII分子について陰性である。