IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ セントロ ド インムノロジア モレキュラーの特許一覧 ▶ ルートヴィッヒ インスティテュート フォー キャンサー リサーチ リミテッドの特許一覧 ▶ サントル オスピタリエ ユニヴェルシテール ヴォドアの特許一覧 ▶ ユニバーシティー オブ ローザンヌの特許一覧

特許7572371養子移入療法(Adoptive transfer therapies)におけるTリンパ球及びNK細胞の拡大増殖及び分化のための方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】養子移入療法(Adoptive transfer therapies)におけるTリンパ球及びNK細胞の拡大増殖及び分化のための方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/10 20060101AFI20241016BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALI20241016BHJP
   C12N 5/02 20060101ALI20241016BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20241016BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
C12N5/10 ZNA
C12N5/0783
C12N5/02
A61K35/17
A61P35/00
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021555590
(86)(22)【出願日】2020-03-09
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-10
(86)【国際出願番号】 CU2020050002
(87)【国際公開番号】W WO2020187340
(87)【国際公開日】2020-09-24
【審査請求日】2023-01-17
(31)【優先権主張番号】CU-2019-0021
(32)【優先日】2019-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CU
(73)【特許権者】
【識別番号】500185689
【氏名又は名称】セントロ ド インムノロジア モレキュラー
(73)【特許権者】
【識別番号】521420129
【氏名又は名称】ルートヴィッヒ インスティテュート フォー キャンサー リサーチ リミテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】518196309
【氏名又は名称】サントル オスピタリエ ユニヴェルシテール ヴォドア
【氏名又は名称原語表記】CENTRE HOSPITALIER UNIVERSITAIRE VAUDOIS
(73)【特許権者】
【識別番号】521420990
【氏名又は名称】ユニバーシティー オブ ローザンヌ
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】レオン モンゾン、カレット
(72)【発明者】
【氏名】モンタルヴォ ベロー、ガリア マジェラ
(72)【発明者】
【氏名】クーコス、ジョルジュ
(72)【発明者】
【氏名】アーヴィング、メリタ
(72)【発明者】
【氏名】クリビオリ、エリザベッタ
(72)【発明者】
【氏名】オルティス ミランダ、ヤケリン
(72)【発明者】
【氏名】コーリア オソリオ、アンゲル デ ヘスス
【審査官】斉藤 貴子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/136818(WO,A2)
【文献】国際公開第2009/053109(WO,A1)
【文献】特表2014-500868(JP,A)
【文献】RAJAGOPALAN, A. et al.,Aptamer-Targeted Attenuation of IL-2 Signaling in CD8+ T Cells Enhances Antitumor Immunity,Molecular Therapy,2017年,Vol. 25, No. 1,P. 54-61,https://doi.org/10.1016/j.ymthe.2016.10.021
【文献】HALLETT, W. H. D. et al.,Combination Therapy Using IL-2 and Anti-CD25 Results in Augmented Natural Killer Cell-Mediated Antitumor Responses,Biology of Blood and Marrow Transplantation,2008年10月,Vol. 14, Iss. 10,P. 1088-1099,https://doi.org/10.1016/j.bbmt.2008.08.001
【文献】BLAESCHKE, F. et al.,Induction of a central memory and stem cell memory phenotype in functionally active CD4+ and CD8+ CAR T cells produced in an automated good manufacturing practice system for the treatment of CD19+ acute lymphoblastic leukemia,Cancer Immunology, Immunotherapy,2018年,Vol. 67, No. 7,P. 1053-1066,DOI: 10.1007/s00262-018-2155-7
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
A61K
A61P
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
養子細胞移入療法(Adoptive cell transfer therapies)において有用なセントラルメモリー表現型を有する、Tリンパ球及びNK細胞の分化及び拡大増殖のための方法であって、つの段階:
i)対象から抽出されたリンパ球系細胞の提供と、
ii)中間親和性IL-2受容体(IL2Rβγ)を介した優先的シグナル伝達を誘導しながらの、さらに遺伝子操作された、Tリンパ球及びNK細胞のインビトロ拡大増殖及び分化と、
含み、
リンパ球系細胞を拡大増殖しながら中間親和性IL2受容体(IL2Rβγ)を介した優先的シグナル伝達を誘導するための戦略が、
中間親和性IL2R(IL2Rβγ)と優先的に相互作用し、中間親和性IL2R(IL2Rβγ)を介して優先的にシグナル伝達する可溶性IL-2変異タンパク質とともにリンパ球系細胞を培養すること、及び
中間親和性IL2Rと優先的に相互作用し、中間親和性IL2Rを介して優先的にシグナル伝達するIL2変異タンパク質を分泌するようにリンパ球系細胞を遺伝子操作することからなる群から選択され、
前記IL-2変異タンパク質が、
配列番号1、
配列番号2、
配列番号3、
配列番号4、
配列番号5、
配列番号6及び
配列番号7、
からなる群から選択される、方法。
【請求項2】
段階(ii)における中間親和性IL-2受容体によるシグナル伝達が、細胞培養の異なる時点で起こり得る、又は該シグナル伝達がインビトロ(in vitro)及びインビボ(in vivo)で維持され得る、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
移入された細胞の持続性並びにより高いインビトロ(in vitro)及びインビボ(in vivo)抗腫瘍効果を延長するための、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
請求項1に記載の培養する工程が、さらに、
IL12、
IL17、
IL15及び
IL21、
からなる群から選択される他のサイトカインと組み合わせて培養することを含む、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
記リンパ球系細胞が、以下のいずれか:T細胞の混合物;精製されたCD4又はCD8 T細胞;NK細胞;NKT細胞であり得る、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
記リンパ球系細胞が、CARを発現し、所望の特異性のTCRを発現し、細胞膜中で目的の他の受容体を発現し、目的の異なるサイトカイン又は可溶性タンパク質を分泌するようにさらに操作され得る、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記リンパ球系細胞が、腫瘍浸潤リンパ球又はキメラ抗原受容体T細胞である、請求項に記載の方法。
【請求項8】
養子細胞移入療法のための治療薬の製造における、請求項1~のいずれか一項に記載の方法により分化及び拡大増殖されたTリンパ球及びNK細胞の使用
【請求項9】
前記養子細胞移入療法が、がんの治療のためのものである、請求項に記載の使用
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオテクノロジー及び免疫腫瘍学の分野に関する。本発明は、所望のセントラルメモリー表現型を有するリンパ球系細胞を得るための方法、及びがん患者における養子細胞移入療法のためのそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
インターロイキン-2(IL2)は、分子的に特性決定されることが発見された最初のサイトカインであった。IL2は、主に、T細胞及びNK細胞の成長及び拡大増殖を支援することが示された(Morganら、1976,Science,193(4257):1007-1008)。IL2は1992年に臨床使用が承認されたが、その受容体の生物学の正確な説明は依然として研究中である(Rosenberg,2014,J.Immunol.,192(12):5451-8;Smith,2006,Medical Immunology,1476(9433):5-3)。高用量でのIL2投与(HD IL2)は、がん免疫療法として使用される。全身性HD IL2治療は、黒色腫及び腎がんがん腫の患者において長期の応答をもたらすが、比較的少ない割合の患者に過ぎない。さらに、全身性HD IL2治療は有意な毒性を誘発し、その臨床的妥当性をさらに制限する(Atkins,2006,Clin.Cancer Res.,12:2353-2358)。
【0003】
IL2は、IL2Rαサブユニット(CD25)のみを含有する低親和性受容体(Kd約10-8M);IL2Rβ及びIL2Rγサブユニット(CD122及びCD132)によって形成される中間親和性受容体(Kd約10-9M);及び3つのサブユニットIL2Rα、IL2Rβ及びIL2Rγを含有する高親和性受容体(Kd約10-11M)というリンパ球系細胞上の3種類の受容体(IL2R)と相互作用する。中間親和性受容体(IL2Rβγ)及び高親和性受容体(IL2Rαβγ)のみが機能的であり、細胞にシグナルを伝達することができる(Stauberら、2005,PNAS,103(8):2788-2793;Wang,2005,Science,310(18):1159-1163)。
【0004】
IL2Rβ及びIL2Rγサブユニットは免疫系のエフェクターリンパ球系細胞上に存在するが、IL2Rαサブユニットの恒常的発現は、制御性T細胞(Treg)に高親和性受容体を与え、したがってインビボにおいてIL2の優先的使用を与える(Malek,2008,Annu.Rev.Immunol.,26:453-79)。今日、がん患者における全身性HD IL2療法の有効性に対する制限の一部は、Tregの優先的なIL2駆動性拡大増殖によるものであり、次いで、これが抗腫瘍免疫を弱めることが知られている(Choo Simら、2014,J.Clin.Invest.,124(1):99-110)。
【0005】
がんに対する全身性HD IL2療法の有効性を改善するために多くの試みがなされてきた。いくつかの研究は、リンパ球系細胞上のIL2受容体サブユニットの差次的発現に基づいて、その生物学的特性の一部を増加又は減少させるように天然のIL2を変異させることが可能であることを示している(Skrombolas and Frelinger,2014,Expert.Rev.Clin.Immunol.,10(2):207-217))。初期の研究は、IL2Rαに対するIL2親和性の増強に集中した(Raoら、2003,Protein Engineering,16(12):1081-1087)。その時点では明らかではなかったが、この戦略はTregの大規模な刺激の結果として、インビボで免疫応答を実際に下方制御することが現在理解されている。より最近になって、Levinらは、中間親和性IL2受容体を過剰発現するエフェクター細胞を優先的に活性化する、IL2Rβサブユニットへの結合が増強されたIL2変異体を1992年に得た(Levinら、2012,Nature,484(7395):529-33)。「スーパーカインH9」と呼ばれるこの変異タンパク質(ムテイン)は、改善されたインビボ抗腫瘍効果及び天然のIL2より低い毒性を示した。Carmenateらは、ヒトIL2中への4つの変異の導入を報告し、これは二量体中間親和性受容体(IL2Rβγ)との相互作用に影響を及ぼすことなくIL2Rαに対する親和性を効率的に低下させた。この変異タンパク質は、インビボで投与された場合、Tregの拡大増殖を回避し、マウスモデルにおいて、天然のIL2より効果的で、より低い毒性をもたらした(Carmenateら、2013,J.Immunol.,190(12):6230-8)。2つの他のIL2変異タンパク質、すなわちF42K及びR38Aも、IL2Rαに対するIL2結合親和性を大幅に低下させ、インビトロ(in vitro)でTregを刺激することにおいてより低い効果を示したが、LAK細胞を効果的に拡大増殖する(Heatonら、1994,Ann.Surg.Oncol.,1(3):198-203).
【0006】
全身性HD IL2療法を改善するための別の試みにおいて、いくつかの研究は、IL2のPEG化又は抗体(Ab)のFc部分へのIL2の融合によって半減期を延長することに焦点を当てた。実際、これらの戦略のいくつかは、インビボでのIL2寿命の効果的な増加をもたらし、全体的な抗腫瘍効果にプラスの影響を与えた(Zhuら、2015;Cancer Cell,27:498-501;Charychら、2016,Clin.Cancer Res.,22(3):680-90)。
【0007】
養子細胞移入(ACT)は、ドナーから細胞を回収し、インビトロで培養及び/又は操作し、次いで疾患の治療のために患者に投与する治療方法として定義される。がんの治療のために、ACTはしばしばリンパ球の移入を伴う(Gattinoniら、2006,Nat.Rev.Immun.,6:383-393)。今日、a)エクスビボ(ex vivo)拡大増殖された腫瘍浸潤リンパ球(TIL)の使用;b)腫瘍抗原由来ペプチドに対して高いアフィニティ/アビディティでT細胞受容体(TCR)を発現するように遺伝子操作されたT細胞またNK細胞の使用;c)腫瘍抗原に対して特異的なキメラ抗原受容体(CAR)を発現するように操作されたT細胞又はNK細胞の使用、という3つの主な治療様式が普及している。多くの場合、後者の戦略は、インビボでリンパ球のエフェクター機能を増強するために、移入されたリンパ球のさらなる遺伝子操作、例えば、IL12及びその他のような適切なサイトカインの分泌を操作することと組み合わされる。(Cassian Y.,2018,Curr.Opin.Immunol.,51:197-203。
【0008】
抗腫瘍免疫を誘導する能力にもかかわらず、がんを治療するためのACTの広範な適用は、いくつかの周知の限界を有する。腫瘍反応性Tエフェクター細胞の移入は客観的応答を引き起こし得るが、ヒト及びマウスの両方において、セントラルメモリー表現型を有するT細胞が抗腫瘍応答の優れたメディエーターであることを実証する強固な証拠が存在する(Klebanoffら、2005,PNAS,102(27):9571-6)。セントラルメモリーT細胞は、末梢リンパ節への遊走に必要なCD62L分子を発現する、抗原を経験した細胞(CD44+)である(Ridellら、2014,Cancer J.,20(2):141-144)。抗原に再度遭遇したときに(TCF1+)、増殖し、IL2などのサイトカインを分泌する能力がより大きいためである可能性が最も高いが、セントラルメモリーT細胞はインビボでより長く持続する。対照的に、エフェクターメモリーT細胞は、CD62L分子の有意な下方制御、阻害性受容体(PD1、TIM3、LAG3)の上方制御、及びサイトカイン放出の障害を有する、抗原を経験した細胞である。エフェクターメモリーT細胞は、インビボで次第に疲弊する傾向がある(Kishtonら、2017,Cell.Metab.,26(1):94-109;Klebanoffら、2005,PNAS,102(27):9571-6)。したがって、セントラルメモリー表現型を有する細胞の拡大増殖を促進する培養条件は、より良好なACTがん免疫療法を開発するために非常に望まれている。
【0009】
IL2は、インビトロでT細胞及びNK細胞の活性化及び拡大増殖を促進し、したがって、がんのためのACT療法の開発において主要な役割を果たしてきた。初期の戦略では、IL2は、リンホカイン活性化キラー(LAK)細胞を作製するために使用された。LAKの全身性HD IL2との同時投与は、全身性単独療法の臨床応答を増加させた。他のアプローチでは、腫瘍抽出物から腫瘍浸潤リンパ球(TIL)を主に拡大増殖させるために、高濃度のIL2が使用される。TILは、インビトロにおいて、TCR刺激と組み合わせたIL2の存在下でさらに急速な拡大増殖を経験する。拡大増殖されたTILは、全身性HD IL2レジームとともにがん患者に注入される。全身性HD IL2レジームは、移入された細胞のインビボでの持続性を維持するのに寄与する。全体的な結果として、TIL+HD IL2による治療は、いくつかの印象的な大きな腫瘍退縮をもたらしたが、全身性HD IL2療法の公知の限界を保持した(Rosenberg,2014,J.Immunol.,192(12)5451-8)。ACTに対する補助として、全身性HD IL2の効力を増大させるためのより最近の試みでは、互いに対しては特異的に結合するが、野生型のヒト対応物には結合しない変異体IL2サイトカインと変異体IL2受容体を使用して、受容体-リガンドのオルソゴナル化(orthogonalization)に基づく方法が開発された。この戦略を用いて、著者らは、操作された移入T細胞の選択的拡大増殖のために、オルソゴナルなIL-2サイトカイン-受容体対を使用して、IL2の特異性を操作されたT細胞の方向に向け直すが、オフターゲット活性は限定的で、毒性は無視できる程度である。オルソIL2中で拡大増殖されたオルソIL2R T細胞は、ACTのマウスがんモデルにおいて使用した場合、腫瘍体積を低下させ、生存率を増加させる上で有効であった(Sockoloskyら、2018,Science,359(6379):1037-1042)。
【0010】
ACTに関連するT細胞応答を調節するためのIL2の独特かつ効果的な役割にもかかわらず、メモリーT細胞の拡大増殖/分化に対するIL2の正確な効果(正又は負の)は完全には理解されていない。IL2の存在下においてインビトロで拡大増殖させた細胞は強いエフェクター能力を示し、これも、インビボでの細胞の長期持続性及び生存を短縮する。IL2は、独特の様式でT細胞の活性化及び増殖を促進するが、活性化によって誘発される細胞死も誘導する(Spolskiら、2018,Nat.Rev.Immunol.,(18)648-659)。研究により、インビトロ初回抗原刺激中のIL2シグナル伝達を低下させることは、メモリーCD8+T細胞の発達を促進し得ることが示されている。IL2シグナル伝達の減少は、主に、IL2濃度を低下させることによって又はインビトロ培養中の曝露時間を短縮することによって達成されている。他の著者らは、IL2の使用を共通のγ鎖ファミリーからの他のサイトカインで部分的に置き換えている。インビトロでのT細胞の活性化及び拡大増殖のための多くの戦略は、異なるプロトコルでIL7、IL15又はIL21を使用するが、典型的にはいくらかのIL2と組み合わされる(Hinrichsら、2008;Blood,111(11)5326-5333;Muellerら、2008,Eur.J.Immunol.,38(10)2874-85;Zengら、2005,J.Exp.Med.,201(1)139-48;Markley and Sadelain,2010,Blood,115(17)3508-3519;Zhangら、2015,Clin.Cancer Res.,21(10):2278-88)。したがって、IL2は、ACT免疫療法におけるT細胞の活性化及び拡大増殖のための標準であり続けている。
【0011】
興味深いことに、IL2/IL2R相互作用の複雑さ及びT細胞分化に対するその意義は不明なままである。特に、インビトロでのリンパ球系細胞の拡大増殖/分化に対する、異なるIL2R(高親和性対中間親和性)を介した優先的シグナル伝達の影響は、不明なままである。上記のIL2変異タンパク質はいずれも、ACTのためにインビトロでT細胞を拡大増殖及び分化させるためにこれまで使用されておらず、IL2Rの周知の機能的形態の1つを介してIL2シグナル伝達を優先的に導くためにIL2/IL2R相互作用を合理的に改変する戦略も使用されたことがなかった。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
本出願の発明者らは、驚くべきことに、インビトロでの細胞活性化/拡大増殖中にIL2/IL2Rα相互作用を破壊することによって、中間親和性IL2Rを介するようにIL2シグナルを優先的に誘導する異なる薬剤/戦略を使用するときに、大きな利点を見出した。このような薬剤/戦略は、ある時点で天然のIL2シグナル伝達を使用する従来の培養戦略と比較して、顕著なセントラルメモリー表現型及び巨大抗原特異的な殺滅能力を有する腫瘍特異的細胞の効率的な拡大増殖を誘導する。本発明は、がん患者において養子移入療法に対して使用する前に、インビトロで細胞を拡大増殖/分化するための現在のプロトコルを大幅に改善することを可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】天然のIL2とともに又はIL2Rβγを介して優先的シグナル伝達をするIL2変異タンパク質とともに培養された場合に得られるT細胞表現型の比較である。A)培養生存率、B)メモリー細胞及びエフェクター細胞の割合。
図2】広範囲の用量で、天然のIL2又は中間親和性受容体IL2Rβγを介して優先的にシグナル伝達するIL2変異タンパク質とともに培養された場合にT細胞上に回収された表現型の比較である。A)培養生存率、B)PD1陽性細胞の割合及びC)セントラルメモリー様表現型を有する細胞の割合。
図3】IL7及びIL15サイトカインと組み合わせて、天然のIL2又は中間親和性受容体IL2Rβγを介して優先的にシグナル伝達するIL2変異タンパク質とともに培養された場合にT細胞上に回収された表現型の比較である A)培養生存率、B)メモリー細胞及びエフェクター細胞の割合。
図4】IL7及びIL15と組み合わせて、広範囲の用量で、天然のIL2又は中間親和性受容体IL2Rβγを介して優先的にシグナル伝達するIL2変異タンパク質とともに培養された場合にT細胞上に回収された表現型の比較である。A)培養生存率、B)PD1陽性細胞の割合、及びC)セントラルメモリー様表現型を有する細胞の割合。
図5】IL2もしくはIL2変異タンパク質のみで、又はIL7及びIL15と組み合わせたIL2もしくはIL2変異タンパク質で刺激された場合にT細胞上に回収された表現型の比較である。
図6A】T細胞におけるIL2又はIL2変異タンパク質に対する形質導入の効率を測定する、eGFP陽性細胞の割合を示すヒストグラムである。
図6B】天然のIL2又はIL2変異タンパク質を産生するためにTリンパ球が形質導入された場合に、培養物中に回収されたセントラルメモリー及びエフェクターメモリー表現型を有する細胞の割合の比較である。
図7A】異なるshRNA構築物による形質導入後のCD25下方制御の効率を示すヒストグラムである。
図7B】Tリンパ球がCD25の発現を低下させた場合のセントラルメモリー及びエフェクターメモリー表現型を有する細胞の割合である。
図8】CD8+T細胞に対して抗CD25抗体を使用した場合のIL2Rβγに偏ったIL2シグナル伝達を提供することの効果の比較である A)培養生存率及びB)メモリー細胞及びエフェクター細胞の割合。
図9】IL2単独、IL2+IL15+IL7、IL2-変異タンパク質単独又はIL2-変異タンパク質+IL15+IL7によるCD8+T細胞の機能的能力である。A)ペプチドSIINFEKLで再刺激されたOTI CD 8+T細胞によるグランザイムβ産生、B)IL2、IL2変異タンパク質単独とともに又はIL7及びIL15と組み合わせて培養されたOT1細胞のB16-OVA細胞に対する腫瘍殺傷能力。
図10】天然のIL2又はIL2変異タンパク質とともに培養されたOT1細胞を受容したMB16OVA腫瘍担持動物における腫瘍体積の測定である。
図11】天然のIL2又は中間親和性受容体IL2Rβγを介して優先的にシグナル伝達するIL2変異タンパク質を産生するように形質導入されたOT1 T細胞の抗腫瘍インビボ効果の比較である。A)腫瘍体積、B)経時的な生存。
図12】IL2又はIL2変異タンパク質とともに培養する前及び後のCD8+TILの特性決定である:A)拡大増殖レベル、B)TILによるKi-67発現割合、及びC)ナイーブT細胞(CD62L+CD44-)、セントラルメモリー(CD62L+CD44+)及び(CD62L-CD44+)の分布。
図13】IL2又はIL2変異タンパク質とともに培養する前及び後のCD8+TILの特性決定である:A)阻害性マーカーの発現の割合、並びにB)IFNγ、TNFα及びグランザイムβ。
図14】IL2又はIL2変異タンパク質とともに培養されたTILにおけるNK細胞の拡大増殖である:A)NK細胞の割合及びB)NK細胞数。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、セントラルメモリー表現型を有するリンパ球の濃縮及び拡大増殖のためのインビトロ又はエクスビボ方法であって、対象から得られた試料中のリンパ球又はこのような試料から単離されたリンパ球を拡大増殖することを含み、拡大増殖することがβ/γ二量体IL-2受容体の活性化を含む、方法を提供する。
【0015】
本発明は、セントラルメモリー表現型を有するリンパ球の濃縮及び拡大増殖のためのインビトロ又はエクスビボ方法であって、対象から得られた試料中のリンパ球又はこのような試料から単離されたリンパ球を拡大増殖することを含み、拡大増殖することがβ/γ二量体IL-2受容体の活性化を含む、方法を提供する。
【0016】
本発明は、養子細胞移入療法において使用するためのセントラルメモリー表現型を有するリンパ球の濃縮及び拡大増殖のための方法であって、拡大増殖することがβ/γ二量体IL-2受容体の活性化を含む、方法を提供する。
【0017】
本発明は、3つの段階を含む、養子細胞移入療法において有用なセントラルメモリー表現型を有するリンパ球系細胞集団の拡大増殖及び/又は分化のための方法に関する。前記段階は、
i)対象からのリンパ球系細胞の抽出、
ii)中間親和性IL-2受容体を介した優先的シグナル伝達(以下では、IL2Rβγに偏ったIL2シグナル伝達と称する)を誘導しながらの、リンパ球系細胞又は必要に応じて、さらに遺伝子操作されたリンパ球系細胞のインビトロ拡大増殖、及び
iii)がんを有する対象中への活性化された/拡大増殖された細胞の移入、
である。
【0018】
特に、この方法は、リンパ球系細胞を活性化/拡大増殖させながら、中間親和性IL2受容体を介した優先的シグナル伝達を誘導する(IL2Rβγに偏ったIL2シグナル伝達を提供する)ための様々な戦略を使用する。これらの戦略は、以下のいずれかとすることができる。
-中間親和性IL2Rを介して優先的にシグナル伝達する可溶性IL-2変異タンパク質とともにリンパ球系細胞を培養すること。
-中間親和性IL2Rを介して優先的にシグナル伝達するIL2変異タンパク質を分泌するためのリンパ球系細胞の遺伝子改変。
-リンパ球系細胞を天然のIL-2とともに培養するが、
a)IL2-IL2Rα相互作用を遮断する薬剤を添加する、又は
b)IL2-IL2Rα相互作用を遮断する可溶性タンパク質を分泌するためのリンパ球系細胞を遺伝子操作すること、又は
c)細胞表面におけるIL2Rα受容体サブユニット(CD25)の発現を減少させるために、リンパ球系細胞を遺伝子操作すること、又は
d)細胞表面における中間親和性IL-2受容体の発現を増加させるために、リンパ球系細胞を遺伝子操作すること。
【0019】
より具体的には、
本方法で使用されるIL-2変異タンパク質は、本発明の配列番号1~6に対応する米国特許第9,206,243号に記載されているもの、本出願の配列番号7に対応するLevinらによって2012年に開示されたSuperkine H9、並びに本発明の配列番号8に対応する国際公開第2017/202786号の配列番号1に記載されたF42変異タンパク質を含む。しかし、これらの分子に限定されるものではない(Levinら:Nature(2012).48:529-535)。
【0020】
IL2-IL2Rα相互作用を遮断する使用される薬剤は、IL2Rα又はIL2のいずれかに結合する抗体又は抗体断片;IL2Rα又はIL2のいずれかに結合するペプチド又は化学的に定義された小分子;IL2Rαの可溶性形態(CD25)又はその改変されたバリアントから選択される。しかし、これらに限定されない。
【0021】
本方法の段階iiにおいて、IL2Rβγに偏ったIL2シグナル伝達は、リンパ球系細胞の培養/拡大増殖の異なる時点で提供され得る。IL2Rβγに偏ったIL2シグナル伝達は、インビトロ培養中のすべての時間に又は一部の時間のみに提供され得る。さらに、IL2Rβγに偏ったIL2シグナル伝達は、細胞のインビボ移入後に維持され得る又は維持され得ない。
【0022】
段階iiでは、リンパ球系細胞の拡大増殖は、他のサイトカイン、例えばIL12、IL17、IL15及びIL21の存在下で行われることができ、又は行われることができない。
【0023】
段階iiiでは、細胞移入は、段階iのドナー対象中に又は異なる対象中に行うことができる。
【0024】
いくつかの実施形態において、セントラルメモリー表現型を有するリンパ球の拡大増殖は、さらなるホルモン、サイトカイン、及びリンパ球拡大増殖のために最適化された培養条件の使用を含む。
【0025】
方法の対象となるリンパ球系細胞は、以下のいずれでもあり得る:T細胞の混合物、精製されたCD4又はCD8 T細胞、NK細胞、NKT細胞。リンパ球系細胞は、末梢血単核球、腫瘍排出リンパ節又は腫瘍浸潤物から段階iにおいて取得することができる。
【0026】
本方法におけるリンパ球系細胞は、CARを発現し、所望の特異性のTCRを発現し、細胞膜中で関心対象の他の受容体を発現し、関心対象の異なるサイトカイン又は可溶性タンパク質を分泌するようにさらに操作された可能性があり、又は可能性がない。
【0027】
全体として、本発明の方法は、移入された細胞の持続性及びより高い抗腫瘍効果をエクスビボ、インビトロ及びインビボで延長することを可能にする。
【0028】
特定の実施形態において、試料は、排出リンパ節から得られる。他の実施形態において、試料は、処理されていない腫瘍断片、酵素処理された腫瘍断片、解離された/懸濁された腫瘍細胞、リンパ節試料又は体液(例えば、血液、腹水、又はリンパ)試料である。
【0029】
特定の実施形態において、対象はヒトである。
【0030】
別の態様では、腫瘍を治療することを必要とする対象において腫瘍を治療する方法であって、本明細書中に開示されている方法によって作製されたリンパ球の有効量を対象に投与する工程を含む、方法が本明細書中に記載されている。特定の実施形態では、腫瘍は固形腫瘍である。特定の実施形態では、腫瘍は液性腫瘍である。
【0031】
本発明の別の主題は、養子細胞移入療法における、具体的には腫瘍浸潤リンパ球又はキメラ抗原受容体Tを取得することにおける、より具体的にはがんの治療における前記方法の使用である。
【0032】
本発明の方法によって取得された細胞も本発明の主題である。
【0033】
発明の詳細な説明
本発明は、セントラルメモリー表現型を有するリンパ球の濃縮及び拡大増殖のためのエクスビボ方法であって、対象から得られた試料中のリンパ球又はこのような試料から単離されたリンパ球を拡大増殖することを含み、拡大増殖することがβ/γ二量体IL-2受容体の活性化を含む、方法を提供する。
【0034】
本発明は、セントラルメモリー表現型を有するリンパ球の濃縮及び拡大増殖のためのインビトロ方法であって、対象から得られた試料中のリンパ球又はこのような試料から単離されたリンパ球を拡大増殖することを含み、拡大増殖することがβ/γ二量体IL-2受容体の活性化を含む、方法を提供する。
【0035】
本発明は、養子細胞移入療法において使用するためのセントラルメモリー表現型を有するリンパ球の濃縮及び拡大増殖のための方法であって、拡大増殖することがβγ二量体IL-2受容体の活性化を含む、方法を提供する。
【0036】
本発明は、ACT療法におけるその使用のために、エクスビボ、インビトロ及びインビボで、Tリンパ球上のIL2受容体を介したシグナル伝達を変化させることに依存する。本発明は、リンパ球系細胞のインビボでの移入前に、リンパ球系細胞のインビトロでの活性化及び拡大増殖のために使用される天然のIL2(及びその天然由来シグナル)を、中間親和性IL-2受容体を介した優先的シグナル伝達を誘導する(IL2Rβγに偏ったIL2シグナルを誘導する)IL2様代替物で置換することを主に提案する。換言すれば、IL2様代替物は、IL2-二量体受容体(IL2Rβγ)と優先的に相互作用し、IL2-二量体受容体を介してシグナル伝達するように指示される。このような代替物には、以下のものが含まれるが、これらに限定されない:
-中間親和性IL2R(IL2Rβγ)を介して優先的に相互作用及びシグナル伝達する可溶性IL-2変異タンパク質を用いてリンパ球系細胞を培養すること。
-中間親和性IL2Rを介して優先的にシグナル伝達するIL2変異タンパク質を分泌するためのリンパ球系細胞の遺伝子操作。
-リンパ球系細胞を天然のIL-2の存在下で培養するが、
a)IL2-IL2Rα相互作用を遮断する薬剤を添加する、又は
b)IL2-IL2Rα相互作用を遮断する可溶性タンパク質を分泌するためにリンパ球系細胞を遺伝子操作すること、又は
c)細胞表面におけるIL2Rα受容体サブユニット(CD25)の発現を減少させるために、リンパ球系細胞を遺伝子操作すること、又は
d)細胞表面における中間親和性IL-2受容体の発現を増加させるために、リンパ球系細胞を遺伝子操作すること。
【0037】
本明細書に開示される方法は、インビボで移入された場合に腫瘍制御に非常に有効な、セントラルメモリー表現型を有する活性化されたリンパ球系細胞を生成/拡大増殖させるための戦略を提供する。本発明は、ACT療法のための現在の戦略の実質的な改善に相当する。
【0038】
本発明の方法によるリンパ球系細胞の培養は、免疫細胞のインビトロ培養のための適切な培養培地を使用し、適切な環境条件下で行うことができる。リンパ球系細胞の拡大増殖は、他のサイトカイン、例えばIL12、IL17、IL15及びIL21の存在下で行うこともできる。リンパ球系細胞の拡大増殖は、ACTに関して報告されたプロトコルのいずれにも従うことができる。天然のIL2がこれらのプロトコルにおいて使用される培養段階では、天然のIL2によって提供されるシグナルを置換するために、本明細書に詳細に記載されているIL2様代替物のいずれもが使用される。
【0039】
本方法におけるリンパ球系細胞は、CARを発現し、所望の特異性のTCRを発現し、細胞膜中で関心対象の他の受容体を発現し、関心対象の異なるサイトカイン又は可溶性タンパク質を分泌するようにさらに操作された可能性があり、又は可能性がない。
【0040】
方法の対象となるリンパ球系細胞は、以下のいずれでもあり得る:T細胞の混合物、精製されたCD4又はCD8 T細胞、NK細胞、NKT細胞。リンパ球系細胞は、PBMC、腫瘍排出リンパ節又は腫瘍浸潤物から得ることができるであろう。
【0041】
「IL2変異タンパク質」、「noα-変異タンパク質」、「noα-IL2-変異タンパク質」、「IL-2変異タンパク質」、「部分アゴニストIL2」又は「変異体IL2」という用語は、本明細書で互換的に使用され、変異されたインターロイキン2タンパク質又は改変されたインターロイキン2タンパク質を指し、変異は、β/γ二量体IL-2受容体の活性化を誘導し、IL2二量体受容体(IL2Rβγ)と優先的に相互作用し、IL2Rβγに偏ったIL2シグナルを誘導し、IL2Rαに対して低下した親和性を有し、又はβ/γIL2受容体に対してより高い親和性を有する。これらの変異された又は修飾されたIL2変異タンパク質の非限定的な例は、配列1~7である。
【0042】
「リンパ球」又は「リンパ球系細胞」という用語は、本明細書では互換的に使用され、リンパ球、リンパ芽球及び形質細胞を含む、動物の免疫を媒介する任意の細胞を指す。本発明のいくつかの実施形態において、この用語は、抗原に対する可変の細胞表面受容体を有し、適応免疫応答を担う白血球のクラスを指す。リンパ球は、自然免疫応答及び適応免疫応答を媒介することができる。リンパ球は体液性及び細胞性免疫を媒介することができる。
【0043】
本発明において提案される戦略は、がん治療のためのACT療法における治療目的のために使用することができる。
【0044】
本発明は、腫瘍を治療することを必要とする対象において腫瘍を治療する方法であって、本明細書中に開示される方法によって得られたセントラルメモリー表現型を有するリンパ球の集団の有効量を対象に投与することを含む方法を提供する。特定の実施形態において、腫瘍は固形腫瘍(例えば、卵巣腫瘍、黒色腫、肺腫瘍、胃腸腫瘍、乳房腫瘍)である。特定の実施形態において、腫瘍は液性腫瘍(例えば、白血病又はリンパ腫)である。特定の実施形態において、腫瘍は、腫瘍抗原を含む少なくとも1つのペプチドと一致する変異を発現する。特定の実施形態において、対象はヒトである。
【0045】
中間親和性IL2R(IL2Rβγ)と優先的に相互作用し、したがって中間親和性IL2R(IL2Rβγ)を介してシグナル伝達する、IL2由来の操作されたサイトカインの使用。
本発明の一実施形態は、IL2変異タンパク質を使用して、T細胞活性化及び拡大増殖プロトコルの間に中間親和性二量体IL2受容体-IL2Rβγ-を介したIL2シグナル伝達を特異的に誘導することに関する。IL2変異タンパク質には、低下したIL2Rα相互作用親和性を有するバリアント、例えば米国特許第9,206,243号に記載されているもの;増加したIL2Rβ相互作用親和性を有するバリアント、例えば、Levinら、2012に記載されているスーパーカインH9;又は両方の組み合わせを有するバリアント(より少ないIL2Rα、より多いIL2Rβ相互作用親和性)が含まれるが、これらに限定されない。リンパ球は、特異的TCRシグナル伝達、CD3/CD28活性化及び/又は他の生存サイトカインと組み合わせたこれらの変異タンパク質で活性化される。このIL2様シグナルは、培養全体にわたって維持することができ、又は培養の特定の段階で使用することができ、優先的には最初の活性化時点の間に提供されるべきである。変異タンパク質は、1ng/ml~1mg/mlの濃度範囲で使用することができる。
【0046】
リンパ球系細胞の拡大増殖は、ACTに関して報告されたプロトコルのいずれにも従うことができる。しかし、元のプロトコルにおいて天然のIL2が使用される培養段階では、代わりにIL2変異タンパク質が添加される。例えば、これは、抗体抗CD3/CD28及びIL2変異タンパク質とともに細胞を培養することにのみ基づくプロトコルであり得、又はIL2変異タンパク質をIL7、IL15、IL12及びIL21などの他のサイトカインと組み合わせることができる。
【0047】
中間親和性IL2R(IL2Rβγ)を介して優先的にシグナル伝達するIL2変異タンパク質を分泌させるためにリンパ球系細胞を遺伝子操作する。
本発明の他の実施形態は、本発明で言及されるIL2変異タンパク質のいずれかを分泌するようにリンパ球系細胞を遺伝子改変することに関する。リンパ球系細胞の改変は、ACT技術との関連で広く使用されている十分に記載された形質移入又は形質導入方法のいずれをも用いて行うことができる。例えば、これは、変異タンパク質の遺伝子を有する構築物をT細胞上に導入するためにゲノム編集技術又はウイルスベクターを使用して達成することができる。構築物は、形質導入有効性を容易に追跡するためのレポータータンパク質及び形質導入された画分を濃縮するための抗生物質耐性遺伝子も含み得る。
【0048】
形質移入/形質導入の効率は高くすべきである。少なくとも、インビトロ拡大増殖中にリンパ球系細胞が自己分泌性のIL2Rβγに偏ったIL2シグナルを自己に与えることを許容するのに十分に高い。この特定の手順は、インビボでの移入後にIL2Rβγに偏ったIL2シグナルの利用可能性をリンパ球系細胞に与えることができ、細胞の持続性及び抗腫瘍能にさらに寄与する。
【0049】
操作されたリンパ球系細胞の細胞拡大増殖は、ACTに関連して報告されたプロトコルのいずれにも従うことができるが、培養物に天然のIL2は一切添加しない。例えば、リンパ球系細胞は、特異的TCRシグナル伝達、CD3/CD28活性化単独で、及び/又はIL7、IL15及びIL21のような生存サイトカインを補充して活性化され得る。
【0050】
IL2-IL2Rα相互作用を破壊する薬剤をリンパ球系細胞培養物中に添加すること。
本発明の他の実施形態は、天然のIL2がACTのためのインビトロリンパ球系細胞拡大増殖において使用される間に、IL2/IL2Rα相互作用を薬理学的に破壊する様々な方法に関する。このような薬剤の添加は、高親和性三量体IL2RへのIL2のアクセスを遮断することによって、天然のIL2のシグナルをIL2Rβγに偏ったIL2シグナルに変える。
【0051】
活性化/拡大増殖プロトコルは、特異的TCRシグナル伝達、CD3/CD28活性化及び他の関心対象のサイトカインを組み合わせることができる。薬剤及びIL2は、常に一緒に使用され、同時に培養時に添加されるべきである。得られたIL2Rβγに偏ったIL2シグナルは、培養全体にわたって維持することができ、又は培養の特定の段階で使用することができ、優先的には最初の活性化期間の間に提供されるべきである。薬剤は、その遮断能力を強化するために過剰に使用されるべきである。具体的な量は、IL2のCD25への結合を遮断する能力を確認しながら、個別的に較正されるべきである。
【0052】
IL2-IL2Rα相互作用を遮断するために使用される薬剤には、本発明において、IL2Rα又はIL2のいずれかに結合する抗体又は抗体断片;IL2Rα又はIL2のいずれかに結合するペプチド又は化学的に定義された小分子;IL2Rαの可溶性形態(CD25)又はその改変されたバリアントが含まれるが、これらに限定されない。
【0053】
IL2に結合する薬剤の場合には、IL2に結合する薬剤は、IL2Rβγを介した結合及びシグナル伝達に影響を及ぼすことなく、IL2Rαとの相互作用のみを遮断する能力について検証されるべきである。これらの薬剤は、培養物中のIL2に別々に添加することができるが、所望の複合体の形成を促進するために予めIL2と混合することもできる。
【0054】
この実施形態におけるリンパ球系細胞の拡大増殖は、ACTに関して報告されたプロトコルのいずれにも従うことができる。しかし、天然のIL2が元のプロトコルで使用される培養段階では、薬剤も添加される。例えば、これは、抗CD3/CD28 mAb及びIL2+遮断剤とともに細胞を培養することのみに基づくプロトコルであり得、又はIL2+遮断剤をIL7、IL15、IL12及びIL21などの他のサイトカインと組み合わせることができる。
【0055】
IL2とIL2Rαの間の相互作用を遮断する可溶性タンパク質を分泌するためのリンパ球系細胞の遺伝子操作。
本発明の他の実施形態は、IL2とIL2Rαの間の相互作用を特異的に遮断する可溶性タンパク質を分泌するようにリンパ球系細胞を遺伝子改変することに関する。リンパ球系細胞の改変は、ACT技術との関連で広く使用されている十分に記載された形質移入又は形質導入方法のいずれをも用いて行うことができる。例えば、これは、所望のタンパク質の遺伝子を有する構築物をT細胞上に導入するためにゲノム編集技術又はウイルスベクターを使用して達成することができる。形質移入/形質導入の効率は高くすべきである。少なくとも、リンパ球系細胞がIL2-IL2Rα相互作用を有意に遮断するのに十分な可溶性タンパク質を産生することを許容するのに十分な高さであり、インビトロ拡大増殖中にIL2Rβγに偏ったIL2シグナルをリンパ球系細胞自身に付与する。
【0056】
本発明においてIL2-IL2Rα相互作用を遮断するために使用され得るタンパク質には、IL2Rα又はIL2のいずれかに結合する抗体又は抗体断片;可溶性形態のIL2Rα(CD25)又は任意の改変されたバリアントが含まれるが、これらに限定されない。
【0057】
この実施形態におけるリンパ球系細胞の拡大増殖は、ACTに関して報告されたプロトコルのいずれにも従うことができる。この場合には、いかなる変形もないが、細胞を操作するために厳密に必要なものである。例えば、抗体抗CD3/CD28及びIL2とともに細胞を培養する際に、又はIL2をIL7、IL15、IL12及びIL21などの他のサイトカインと組み合わせることができる。
【0058】
リンパ球系細胞を遺伝子操作して、細胞表面におけるIL2Rα受容体サブユニット(CD25)の発現を減少させること。
本発明の別の実施形態は、細胞表面におけるIL2Rαの発現を低下させるためのリンパ球系細胞の遺伝子改変に関する。細胞工学のために、干渉RNA、ゲノム編集技術及びノックアウト戦略を含むがこれらに限定されないいくつかの戦略を使用することができる。リンパ球系細胞の改変は、ACT技術に関して広く使用されているよく記載された形質移入又は形質導入方法のいずれによっても行うことができる。例えば、リンパ球系細胞上のCD25発現の低下又は完全な抑制は、CD25の遺伝子を標的とするshRNAを有する構築物を細胞上に導入するためにウイルスベクターを使用して達成することができる。
【0059】
この実施形態におけるリンパ球系細胞の拡大増殖は、ACTに関して報告されたプロトコルのいずれにも従うことができる。この場合には、いかなる変形もないが、細胞を遺伝子操作するために厳密に必要なものである。例えば、操作された細胞は、抗体抗CD3/CD28及びIL2とともに培養することができ、又はIL2をIL7、IL15、IL12及びIL21などの他のサイトカインと組み合わせることができる。
【0060】
リンパ球系細胞を遺伝子操作して、細胞表面での中間親和性IL-2受容体の発現を増加させる
本発明の別の実施形態は、細胞表面上の二量体受容体IL2Rβγの発現を増加させるために、リンパ球系細胞を遺伝子改変することに関する。これは、恒常的発現プロモーター下でCD122(IL2Rβ鎖)遺伝子(gen)又はCD132(IL2Rγ鎖)遺伝子(gen)を有する構築物をT細胞上に導入するためにウイルスベクターを使用して達成することができる。あるいは、この戦略のために、T細胞は、天然のCD122の代わりに増加したIL2親和性を有する変異されたCD122(IL2Rβ鎖)を発現するように改変することができる。これは、変異された又は野生型のCD122の遺伝子(gen)を有する構築物をリンパ球系細胞上に導入するためにゲノム編集技術又はウイルスベクターを使用して達成することができる。
【0061】
記載された戦略では、構築物は、形質導入有効性を容易に追跡するためのレポータータンパク質及び形質導入された画分を濃縮するための抗生物質耐性遺伝子(gen)も含有し得る。
【0062】
この実施形態におけるリンパ球系細胞の拡大増殖は、ACTに関して報告されたプロトコルのいずれにも従うことができる。この場合には、いかなる変形もないが、細胞を遺伝子操作するために厳密に必要なものである。例えば、操作された細胞は、抗体抗CD3/CD28及びIL2とともに培養することができ、又はIL2をIL7、IL15、IL12及びIL21などの他のサイトカインと組み合わせることができる。
【0063】
治療方法
関連する態様では、腫瘍を治療することを必要とする対象において腫瘍を治療する方法であって、本明細書に開示されている方法によって作製されたリンパ球の集団の有効量を対象に投与することを含む、方法が本明細書に開示される。特定の実施形態では、腫瘍は固形腫瘍である。特定の実施形態では、腫瘍は液性腫瘍(例えば、血液がん)である。
【実施例
【0064】

例1.IL2Rβγを介して優先的にシグナル伝達するIL2変異タンパク質による天然のIL2の置換は、リンパ球の生存性を維持し、セントラルメモリー様表現型を付与する。
ナイーブOT1マウス脾臓からCD8+T細胞を単離する。抗CD3/抗CD28でコーティングされたビーズをTCR刺激として7日間、天然のIL2又はIL2変異タンパク質とともに10日間使用し、IL2変異タンパク質は分子免疫学センターにおいて得られ(バッチ1201602)、米国特許第9,206,243号の配列番号6に開示されている。2日ごとに培養物を拡大増殖させて密度を1×10に保ち、サイトカインを新鮮な培地とともに添加する。多数のT細胞の拡大増殖の成功は、両方の培養条件において達成され、細胞数の同様の増加倍数が観察される。図1Aは、IL2変異タンパク質を使用した場合、天然のIL2と比較して培養物中の生存率が改善されることを示す(p<0.0001)。さらに、メモリー細胞の量及び阻害マーカーの発現をフローサイトメトリーによって測定した。IL2変異タンパク質を使用した場合、天然のIL2と比較して、セントラルメモリー様表現型(CD62L+/CD44+によって定義される)を有する細胞の有意に高い割合が細胞において観察された(図1B)。PD-1、Lag-3、Tim-3及びTigitマーカーの表現型分析は、IL2-変異タンパク質活性化された細胞が免疫チェックポイントリガンド(PD-1、Lag-3、Tim-3、Tigit)の発現を抑制することを示した(表1)。
【0065】
【表1】
【0066】
生存率(図2A)、PD1発現(図2B)及びCD62L発現(図2C)に関して記載された効果は、天然のIL2及びIL2変異タンパク質の両方について広範囲の用量で一貫している。
【0067】
総合すると、これらの結果は、優先的なIL2Rβγ刺激を有するIL2変異タンパク質による天然のIL2の置換が、天然のIL2によって誘導される十分に記載されたエフェクター表現型ではなく、セントラルメモリー表現型を促進することを示している。IL2変異タンパク質は、インビボ移入のためにより望ましい表現型であるリンパ系再循環(より多くのCD62L発現)及び疲弊に対する耐性(より少ないPD1発現)の可能性を天然のIL2よりも多く付与する。
【0068】
例2.IL2Rβγを介して優先的にシグナル伝達するIL2変異タンパク質による天然のIL2の置換は、IL7及びIL15を用いる組み合わせ培養プロトコルにおいてセントラルメモリー表現型を促進する。
他の著者らによって以前に記載されたように、IL7及びIL15のIL2との組み合わせは、IL2単独と比較された場合、T細胞の適応性を改善する(Redeker and Arens,2016,Front Immunol.6(7):345)。本発明者らの実験では、OT-I T細胞活性化/拡大増殖プロトコルのために、天然のIL2又はIL2変異タンパク質をIL7及びIL15と培養中で組み合わせた。
【0069】
この戦略では、例1に記載したのと同じTCR刺激を使用した。天然のIL2又はIL2変異タンパク質を培養開始時に5日目まで添加し、次いで細胞をIL7/IL15中に10日間維持する。このシナリオでは、両培養条件は、培養中に類似の細胞密度、高い生存率を与え(図3A)、エフェクター細胞よりむしろメモリー細胞の優勢を促進する。しかしながら、IL2変異タンパク質の使用は、図3Bに示されているように、天然のIL2と比較して、培養におけるより高い割合のセントラルメモリー細胞を示した(p<0.0015)。
【0070】
同時に、変異タンパク質とともに培養された細胞は、表2に示されているように疲弊マーカーのより少ない発現を示した。
【0071】
【表2】
【0072】
IL7/IL15と組み合わされた天然のIL2及びIL2変異タンパク質の両方について、培養での異なる濃度の評価は、記載された効果が、生存率(図4A)、PD1発現(図4B)及びセントラルメモリー様表現型(図4C)に関して、広範囲の用量において一貫していることを実証する。
【0073】
IL7及びIL15との天然のIL2の組み合わせは、天然のIL2単独と比較された場合に培養条件を改善するが、IL2変異タンパク質単独はT細胞生存率を保存する上で及びセントラルメモリー表現型を誘導する上で極めて有効であるので、組み合わせプロトコルを使用する場合において、IL2変異タンパク質に関しては、改善は観察されない。さらに、IL2-変異タンパク質単独は、活性化されたT細胞に対してセントラルメモリー表現型様を誘導する上で、IL2、IL7及びIL15の組み合わせと同程度に有効である(図5)。
【0074】
例3.IL2Rβγを介して優先的にシグナル伝達するIL2変異タンパク質を産生する遺伝子操作されたT細胞は、セントラルメモリー表現型を獲得する。
インビトロ及びインビボの両方において継続的なサイトカイン支持源を生成するために、本発明者らは、T細胞を遺伝子操作して、中間親和性IL2受容体を優先的に活性化するIL2変異タンパク質を産生させた。増強された緑色蛍光タンパク質(eGFP)及び天然のIL2又はIL2変異タンパク質をコードするレトロウイルス構築物を使用する。形質導入手順は、抗CD3/抗CD28コーティングされたビーズ及び天然のIL2又はIL2変異タンパク質で、単離された直後のナイーブOT-I T細胞を刺激することによって開始される。細胞を加えたレトロネクチンがコーティングされたプレートに、濃縮されたレトロウイルスベクター上清を24時間及び48時間で加える。形質導入後、IL7及びIL15とともに10日間、抗CD3/抗CD28コーティングされたビーズによるTCR刺激を7日間維持する。形質導入効率は、eGFP発現によって確認され、両構築物について80%より高かった(図6A)。分泌された分子をELISA(天然のIL2又はIL2変異タンパク質)によって検出した。
【0075】
OT1 T細胞を可溶性IL2変異タンパク質とともに培養したときに観察された様式と同様の様式で、IL2変異タンパク質を産生するように操作された細胞は、主にエフェクター細胞である、天然のIL2を産生するように操作された細胞と比較した場合、より高い割合でメモリー表現型を有していた(p<0.0001)(図6B)。また、IL2-変異タンパク質を産生するように操作された細胞は、天然のIL2を産生するように操作された細胞と比較して、疲弊マーカーの発現がより少なかった(表3)。
【0076】
【表3】
【0077】
総合すると、これらの結果は、IL2様シグナル伝達が一定かつ持続的である場合、IL2変異タンパク質によるIL2Rβγを介した刺激が、この新しい培養方法によるセントラルメモリー分化を促進するという仮説を確認する。
【0078】
例4.CD25発現を下方制御する遺伝子操作は、天然のIL2とともに拡大増殖されたT細胞上のセントラルメモリー表現型を促進する。
IL2α鎖遺伝子(gen)(CD25)の発現を遮断する目的で、eGFP及びil2raを標的とする低分子ヘアピン型RNA(shRNA)をコードするベクターを使用した。形質導入手順は、抗CD3/抗CD28コーティングされたビーズ及び天然のIL2で、単離された直後のナイーブOT1 T細胞を刺激することによって開始される。shRNAのための3つの異なる構築物を使用し、CD25の表面発現に基づいて可変のノックダウン効率を得た。スクランブルshRNAを含有するレンチウイルスによる形質導入を対照として使用する。2回の形質導入の後、天然のIL2(50U/ml)とともに5日間、細胞を培養下に維持する。異なる構築物による形質導入後のCD25表面発現の減少を、フローサイトメトリーによって評価した(図7A)。より良好なCD25下方制御が達成されるときに、5日間の天然のIL2刺激後のセントラルメモリー細胞の割合は優れている(図7B)。
【0079】
T細胞上のCD25の下方制御は、培養下で天然のIL2を使用して、中間親和性受容体IL2Rβγを優先的に刺激するためのシナリオを提供する。これらの条件下では、CD8+Tのセントラルメモリー様表現型への分化が促進される。
【0080】
例5.細胞が天然のIL2で刺激されるが、CD25相互作用が、培養物に対して同時に加えられた薬剤によって遮断される場合に、セントラルメモリー表現型が得られる。
中間親和性受容体IL2Rβγを介した天然のIL2シグナル伝達を優先的に指示するための別の試みでは、インビトロでのT細胞活性化中に天然のIL2とともに薬剤を培養に添加する。薬剤は、遮断効果を保証するために高濃度で添加される。抗CD3/抗CD28コーティングされたビーズ、50IU/mlのIL2及び10μg/mlの抗CD25モノクローナル抗体(BioLegendクローン3C7)とともに、OT-I T細胞を培養する。抗CD25は0日目から添加され、天然のIL2を加えた新鮮な培地を2日ごとに添加したときに新しくなる。無関係な特異性を有する抗体をアイソタイプ対照として使用する。10日間の培養後の細胞の表現型決定により、天然のIL2活性化中に抗CD25を添加することは、アイソタイプ対照と比較した場合に、細胞生存率(図8A)及びセントラルメモリー様集団(図8B)を増加させることが明らかとなった(p<0.0001)。さらに、CD25との天然のIL2の相互作用が抗体で破壊されると、疲弊マーカーの発現の減少が得られる(表4)。
【0081】
【表4】
【0082】
総合すると、これらの結果は、CD25との相互作用が損なわれることによってIL2Rβγを介した天然のIL2シグナル伝達を指示することにより、細胞が、養子細胞療法により適したセントラルメモリー表現型に向けられることを示唆している。
【0083】
例6.二量体受容体IL2Rβγを介して優先的な活性化を受けるOT-I T細胞は多機能性であり、効率的なT細胞抗原特異的細胞傷害性をインビトロにおいて示す。
IL2Rβγを介して活性化されたセントラルメモリーT細胞の機能的能力を評価するために、細胞傷害性アッセイを行った。例1、3に記載されているとおりに活性化されたOT1細胞を同族ペプチドSIINFEKLで16時間刺激し、フローサイトメトリー解析を行って、グランザイムβの産生量を測定した。OT-I T細胞の殺滅能力を評価するために、OVAノミナル抗原を1:1の割合で表面に発現するように形質導入されたB16黒色腫細胞(B16-OVA)とともにOT-I T細胞を共培養した。非形質導入B16黒色腫細胞を対照として使用した。IncuCyteCytotox試薬を添加し、60時間の間、2時間ごとに殺滅能力を評価した。対照細胞では溶解が観察されなかったため、標的細胞の溶解は抗原特異的であった。
【0084】
IL2Rβγを介して優先的にシグナル伝達するIL2変異タンパク質で活性化されたOT1細胞は、エクスビボで有効な直接溶解活性を示し、IL2Rβγを介してシグナルが与えられると、細胞が強力な殺滅細胞に分化することを示した。(図9A及び図9B
【0085】
例7.二量体受容体IL2Rβγを介して優先的活性化を受けるT細胞は、黒色腫モデルにおいてACTのために使用した場合に、より良好な抗腫瘍活性を示す。
B16/OVA腫瘍細胞株と合わせたOT1モデルは、最も使用されているモデルの1つであり、ACTの妥当な前臨床的近似に相当する。C57BL/6レシピエントマウスは、腫瘍細胞接種後0日目及び10日目に1×10個のOVA発現黒色腫細胞の皮下注射を受けた;マウスに致死量以下の放射線照射(5Gy)を行った。
群1:処置を受けなかった(対照群)。
群2:天然のIL2で活性化されたOT1 T細胞を与えられた(例1と同様)。
群3:IL2-変異タンパク質で活性化されたOT1 T細胞を与えられた(例1と同様)。
群4:天然のIL2+IL7+IL15で活性化されたOT1 T細胞を与えられた(例2と同様)。
【0086】
図10に示されているように、IL2-変異タンパク質で刺激された細胞を用いたACTは、天然のIL2で活性化された細胞と比較して腫瘍増殖をより良好に制御した。総合すると、これらの結果は、IL2-変異タンパク質活性化を用いて得られた低疲弊マーカー発現を伴う最初に誘導されたメモリー表現型が、インビボでの腫瘍制御のための有効な組み合わせであったことを示している。
【0087】
例8.IL2Rβγを介して優先的にシグナル伝達するIL2変異タンパク質を分泌するように操作されたT細胞は、ACTのために使用した場合に強固な抗腫瘍活性を示した。
ACTの有効性を改善するために、本発明者らは、IL2変異タンパク質を産生するようにT細胞を遺伝子操作した。遺伝子(gen)の挿入は、インビトロだけでなくインビボにおいてもT細胞上の継続的かつ持続的なIL2変異タンパク質シグナルを可能にする。C57BL/6レシピエントマウスは、腫瘍細胞接種後0日目及び10日目に1×10個のOVA発現黒色腫細胞の皮下注射を受けた;マウスに致死量以下の放射線照射(5Gy)を行った。動物を3つの処置群に分け、11日及び15日目に、以下のようにOT1マウスからの1×10個のT細胞の静脈内移入を受けた:
群1:処置を受けなかった(対照)。
群2:天然のIL2_操作されたOT1 T細胞を与えられた(例3に記載の形質導入プロトコルのとおりに)
群3:IL2変異タンパク質_操作されたOT1 T細胞を与えられた(例3に記載の形質導入プロトコルのとおりに)。
【0088】
図11に示されているように、IL2-変異タンパク質産生のために操作されたOT1 T細胞を与えられたマウスは、確立された腫瘍の良好な制御を経験し(図11A)、より高い生存率を経験した(図11B)。
【0089】
例9.IL2-変異タンパク質を使用したTILの生成。
ACT療法はTILを使用して実施することができるので、本発明者らは、TIL拡大増殖に対するIL2変異タンパク質の効果を評価した。腫瘍浸潤リンパ球におけるβ/γ二量体IL2受容体の活性化の役割を研究するために、腫瘍細胞接種後19~21日目の間にC57BL/6マウスからMC38腫瘍を単離した。腫瘍を機械的に解離させ、IL2又はIL2-変異タンパク質の存在下で14~16日間培養した。本発明者らは、IL2-変異タンパク質を培養条件で使用した場合に、TILの拡大増殖がより高いことを見出した。一貫して、IL2-変異タンパク質は、Ki67マーカーに関してTILの増殖速度を増加させた(図12A及び図12B)。さらに、IL2-変異タンパク質とともにエクスビボで培養されたTILは、対照と比較して、セントラルメモリー様T細胞の有意な拡大増殖を示した(図12C)。全体として、これらのデータは、IL2-変異タンパク質が、セントラルメモリー分化表現型を促進するCD8+TIL拡大増殖を誘導することを示す。
【0090】
例10.変異体IL-2によって拡大増殖されたTILは多機能性であり、活性化マーカー及び疲弊マーカーの減少を示す。
例9の方法で得られたTILを、拡大増殖前に機能的及び表現型的に特徴付け、抗CD3及び抗CD2抗体の存在下で4時間刺激した。
【0091】
本発明者らは、阻害性受容体PD-1、Lag-3及びTim-3が、天然のIL2で拡大増殖されたTILと比較して、IL2変異タンパク質で拡大増殖されたTILにおいて劇的に減少することを見出した(図13A)。TILはそれらの機能性についても分析された。(図13B)。まとめると、これらのデータは、IL2変異タンパク質がTILを拡大増殖させ、TILの機能性を損なうことなく、セントラルメモリー様表現型についてTILを濃縮する能力を示す。
【0092】
例11.変異体IL-2を使用したTILからのNK細胞の生成。
拡大増殖された総TIL中のNK細胞の割合におけるβ/γ二量体IL2受容体の活性化の役割を研究するために、腫瘍細胞接種後19~21日の間にC57BL/6マウスからMC38腫瘍を単離した。腫瘍を機械的に解離させ、天然のIL2又はIL2-変異タンパク質の存在下で14~16日間培養した。IL2-変異タンパク質とともにエクスビボで培養されたTILは、合計からの割合に関して(図14A)及び絶対数に関して(図14B)、天然のIL2と比較してNK細胞の有意な拡大増殖を示した。
本発明には以下の好ましい態様が含まれる。
(1)養子細胞移入療法(Adoptive cell transfer therapies)において有用なセントラルメモリー表現型を有する、Tリンパ球及びNK細胞の分化及び拡大増殖のための方法であって、3つの段階:
i)対象からのリンパ球系細胞の抽出と、
ii)中間親和性IL-2受容体(IL2Rβγ)を介した優先的シグナル伝達を誘導しながらの、さらに遺伝子操作された、Tリンパ球及びNK細胞のインビトロ拡大増殖及び分化と、
iii)がんを有する対象への活性化された細胞の移入と、
を含む、上記方法。
(2)リンパ球系細胞を拡大増殖しながら中間親和性IL2受容体(IL2Rβγ)を介した優先的シグナル伝達を誘導するための戦略が、
-中間親和性IL2R(IL2Rβγ)と優先的に相互作用し、中間親和性IL2R(IL2Rβγ)を介して優先的にシグナル伝達する可溶性IL-2変異タンパク質とともにリンパ球系細胞を培養すること、
-中間親和性IL2Rと優先的に相互作用し、中間親和性IL2Rを介して優先的にシグナル伝達するIL2変異タンパク質を分泌するようにリンパ球系細胞を遺伝子操作すること、
-天然のIL-2及びIL2-IL2Rα相互作用を遮断する薬剤の存在下で、Tリンパ球及びNK細胞を培養すること、
-天然のIL-2の存在下でTリンパ球及びNK細胞を培養すること、並びにIL2-IL2Rα相互作用を遮断する可溶性タンパク質を分泌するようにこのような細胞を遺伝子操作すること、
-天然のIL-2の存在下でTリンパ球及びNK細胞を培養すること、並びに細胞表面でのIL2Rα受容体サブユニットの発現を減少するようにこのような細胞を遺伝子操作すること、
-天然のIL-2の存在下でTリンパ球及びNK細胞を培養すること、並びに細胞表面での中間親和性IL-2受容体の発現を増加するようにこのような細胞を遺伝子操作すること、
を含む群から選択される、(1)に記載の方法。
(3)IL-2変異タンパク質が、
配列番号1、
列番号2、
配列番号3、
配列番号4、
配列番号5、
配列番号6及び
配列番号7、
を含む群から選択される、(2)に記載の方法。
(4)IL2-IL2Rα相互作用を遮断する薬剤が、
IL2Rα又はIL2のいずれかに結合する抗体又は抗体断片
IL2Rα又はIL2のいずれかに結合するペプチド又は化学的に定義された小分子、
L2Rαの可溶性形態又はその改変されたバリアントバリアント、
を含む群から選択される、(2)に記載の方法。
(5)段階(iii)が、同じドナーにおいて又は異なるドナーにおいて行われ得る、(1)に記載の方法。
(6)段階iiにおける中間親和性IL-2受容体によるシグナル伝達が、細胞培養の異なる時点で起こり得る、又はシグナル伝達がインビトロ(in vitro)及びインビボ(in vivo)で維持され得る、(2)に記載の方法。
(7)移入された細胞の持続性並びにより高いインビトロ(in vitro)及びインビボ(in vivo)抗腫瘍効果を延長するための、(1)~(6)のいずれかに記載の方法。
(8)L12、
L17、
L15及び
IL21、
を含む群から選択される他のサイトカインと組み合わせた、(1)~(6)のいずれかに記載の方法。
(9)前記方法の対象となるリンパ球系細胞が、以下のいずれか:T細胞の混合物;精製されたCD4又はCD8 T細胞;NK細胞;NKT細胞であり得る、(1)に記載の方法。
(10)Tリンパ球及びNK細胞が、末梢血単核球、腫瘍排出リンパ節又は腫瘍浸潤物のいずれかから、段階iにおいて取得されることができる、(1)に記載の方法。
(11)前記方法におけるリンパ球系細胞が、CARを発現し、所望の特異性のTCRを発現し、細胞膜中で関心の対象の他の受容体を発現し、関心の対象の異なるサイトカイン又は可溶性タンパク質を分泌するようにさらに操作され得る、(1)に記載の方法。
(12)養子細胞移入療法のための、(1)~(11)のいずれかに記載の方法の使用。
(13)腫瘍浸潤リンパ球又はキメラ抗原受容体Tを得るための、(9)に記載の使用。
(14)がんの治療のための、(11)又は(12)に記載の使用。
(15)(1)~(6)のいずれかに記載の方法によって得られる細胞。
(16)セントラルメモリー表現型を有するリンパ球のエクスビボ(ex vivo)での濃縮及び拡大増殖のための方法であって、
a.対象からリンパ球の集団を取得することと、
b.β/γ二量体IL-2受容体を活性化する条件で細胞を培養するリンパ球を拡大増殖することと、
を含む、上記方法。
(17)工程(b)が、少なくとも1つのIL2変異タンパク質を使用することによって行われる、(16)に記載の方法。
(18)工程(b)が、IL-2受容体の少なくとも1つのサブユニットの発現を調節することによって行われる、(16)に記載の方法。
(19)IL-2受容体のサブユニットがα(CD25)、β又はγサブユニットである、(18)に記載の方法。
(20)工程(b)が、IL-2受容体とその同族タンパク質との相互作用を阻害することによって行われる、(16)に記載の方法。
(21)IL-2受容体とその同族タンパク質との相互作用の阻害が、IL-2受容体のαサブユニットを下方制御することによって、又はβ及びγサブユニットを上方制御することによって起こる、(20)に記載の方法。
(22)IL-2受容体とその同族タンパク質との相互作用の阻害が、抗CD25抗体とともに細胞をインキュベートすることによって起こる、(20)に記載の方法。
(23)工程(b)が、変異体IL-2配列の発現及び分泌をコードする核酸でリンパ球を形質導入することによって行われる、(16)に記載の方法。
(24)(16)~(23)のいずれかによって得られる細胞の組成物。
(25)がんの治療を必要とする対象においてがんを治療する方法であって、セントラルメモリー表現型を有するリンパ球を投与することを含み、
a.対象からリンパ球の集団を取得することと;
b.該リンパ球中でβ/γ二量体IL-2受容体を活性化することによってリンパ球集団を拡大増殖させることと;
c.治療有効投与量の、工程(b)からのリンパ球を対象に投与することと;
を含む、上記方法。
(26)β/γ二量体IL-2受容体を活性化することが、該リンパ球を変異体IL-2とともにインキュベートすることを含む、(25)に記載の方法。
(27)β/γ二量体IL-2受容体を活性化することが、変異体IL-2をコードするヌクレオチド配列を該リンパ球中に導入することを含む、(25)に記載の方法。
(28)β/γ二量体IL-2受容体を活性化することが、IL-2受容体のサブユニットβ/γの発現を上方制御するためのヌクレオチド配列を該リンパ球中に導入することと、野生型IL-2とともに該リンパ球をインキュベートすることとを含む、(25)に記載の方法。
(29)β/γ二量体IL-2受容体を活性化することが、IL-2受容体のαサブユニットの発現を下方制御するためのヌクレオチド配列を該リンパ球中に導入することと、野生型IL-2とともに該リンパ球をインキュベートすることとを含む、(25)に記載の方法。
(30)β/γ二量体IL-2受容体を活性化することが、該リンパ球を野生型IL-2及び抗CD25抗体とともにインキュベートすることを含む、(25)に記載の方法。
【配列表フリーテキスト】
【0093】
配列表1~7 <223>DNA組換え技術による
図1A
図1B
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図4A
図4B
図4C
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図9
図10
図11A
図11B
図12
図13
図14
【配列表】
0007572371000001.app