(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】トランケート型フォン・ヴィレブランド因子及び第VIII因子を共発現するベクター
(51)【国際特許分類】
C12N 15/63 20060101AFI20241016BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20241016BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20241016BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20241016BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20241016BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20241016BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20241016BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
C12N15/63 Z ZNA
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/02 C
C12N15/62 Z
C12N15/12
(21)【出願番号】P 2021560484
(86)(22)【出願日】2020-03-27
(86)【国際出願番号】 US2020025475
(87)【国際公開番号】W WO2020205630
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2023-03-07
(32)【優先日】2019-04-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】521441249
【氏名又は名称】ベイジン ネオレティックス バイオロジカル テクノロジー カンパニー,リミティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100196977
【氏名又は名称】上原 路子
(72)【発明者】
【氏名】チー リー
(72)【発明者】
【氏名】ハイロン チャン
【審査官】松田 芳子
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-510581(JP,A)
【文献】特表2017-503509(JP,A)
【文献】特開2010-088332(JP,A)
【文献】特表2015-504679(JP,A)
【文献】特表2019-506166(JP,A)
【文献】特表2015-515482(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)第1のプロモーターに作動可能に連結された、Bドメイン欠失第VIII因子タンパク質(FVIII)をコードする第1のポリヌクレオチド配列、及び
(b)トランケート型フォン・ヴィレブランド因子(vWF)及びトランケート型vWFのC末端に融合した免疫グロブリンFcを含み、第2のプロモーターに作動可能に連結された融合タンパク質をコードする第2のポリヌクレオチド配列を含む、ベクターであって、
前記トランケート型vWFは、336番目及び379番目のアミノ酸残基がシステインでなく、配列番号1のアミノ酸配列、又は配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも95%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、ベクター。
【請求項2】
前記トランケート型vWFは、配列番号1のアミノ酸配列を含む、
請求項1に記載のベクター。
【請求項3】
(a)第1のプロモーターに作動可能に連結された、Bドメイン欠失第VIII因子タンパク質(FVIII)をコードする第1のポリヌクレオチド配列、及び
(b)トランケート型フォン・ヴィレブランド因子(vWF)及びトランケート型vWFのC末端に融合した免疫グロブリンFcを含み、第2のプロモーターに作動可能に連結された融合タンパク質をコードする第2のポリヌクレオチド配列を含む、ベクターであって、
前記トランケート型vWFは、
1077番目及び1020番目のアミノ酸残基がシステインでなく、配列番号2のアミノ酸配列又は
配列番号2のアミノ酸配列と少なくとも95%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、ベクター。
【請求項4】
前記トランケート型vWFは、配列番号2のアミノ酸配列を含む、
請求項3に記載のベクター。
【請求項5】
前記Bドメイン欠失FVIIIは、配列番号6、7、8、9、又は10のアミノ酸配列又は
配列番号6、7、8、9、又は10のアミノ酸配列と少なくとも95%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を有する、請求項1又は3に記載のベクター。
【請求項6】
前記Bドメイン欠失FVIIIは、配列番号6のアミノ酸配列又は
配列番号6のアミノ酸配列と少なくとも95%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を有する、請求項5に記載のベクター。
【請求項7】
前記第1のポリヌクレオチド配列は、第1のシグナル配列をさらに含み、前記第2のポリヌクレオチド配列は、第2のシグナル配列をさらに含む、
請求項1又は3に記載のベクター。
【請求項8】
請求項1又は3に記載のベクターを含む単離された宿主細胞。
【請求項9】
(a)
請求項1又は3に記載のベクターを含むプラスミドで細胞をトランスフェクトする工程、
(b)FVIIIを分泌する細胞を選択する工程、
(c)前記選択した細胞の上清を収集する工程、及び
(d)前記選択した上清からFVIIIを精製する工程、を含む、FVIIIの調製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同一ベクター内にトランケート型フォン・ヴィレブランド(von Willebrand)因子(vWF)‐Fc DNAコンストラクト及びBドメイン欠失FVIII DNAコンストラクトの両方を含む共発現ベクターに関する。
【0002】
配列表、表、又はコンピュータプログラムへの参照
配列表は、EFS‐Webを介してASCII形式のテキストファイルとして明細書と共に同時に送信されている。ファイル名「Sequence Listing.txt」で、作成日は2019年3月28日、サイズは129キロバイトである。EFS‐Webを介して提出された配列表は明細書の一部であり、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
血液凝固は、凝固カスケードと称される相互依存性の生化学反応の複雑で動的な生物学的経路を介して進行する。この経路には、外因性経路、内因性経路、及び共通経路の3つの経路が含まれる。第VIII因子(FVIII)は糖タンパク質であり、血漿中の全長フォン・ヴィレブランド因子(vWF)と1:50の比率で不活性な補因子として循環し、正常な止血を維持するための内因性経路で重要な役割を果たす。全長FVIIIは、重鎖(A1‐A2‐Bドメイン)と軽鎖(A3‐C1‐C2ドメイン)を含む非共有結合ヘテロ二量体である。傷害に応答して、第VIII因子の活性化型はvWFから分離し、活性化血小板によって提供される荷電リン脂質膜上で第IXa因子及び第X因子との複合体(いわゆるXase複合体)を形成する。Xase複合体はさらに第V因子(FV)を活性化してFVaを生成し、FVaは次に、凝固カスケード内の第Xa因子及び他の成分とともにプロトロンビンをトロンビンに活性化して安定した血餅を生成する。
【0004】
血友病Aは、FVIII活性の欠乏を特徴とする先天性X染色体関連出血性疾患である。FVIII活性の低下は、凝固カスケードの正のフィードバックループを阻害し、最終的には持続時間の増加を伴う出血エピソード、広範囲のあざ、自発的な口腔及び鼻出血、関節のこわばり及び慢性的な痛み、並びに重症の場合は内出血及び貧血を引き起こし得る。血友病Aの最も一般的な治療法は、静脈内投与によるヒト血漿由来又は組換えFVIIIのいずれかによる補充療法である。
【0005】
哺乳類細胞における組換えFVIII(rFVIII)の高生産は困難であることが判明している。このタンパク質の高分子量(約300kDa)、必要な翻訳後修飾の複雑さ(例えば、多数のグリコシル化及びチロシン硫酸化部位)、及び発現要素の制限(mRNAの不安定性など)により、rFVIIIの高産生が課題となっている。中央のBドメインを除去すると、rFVIII産生が大幅に改善されたが、rFVIIIの商業生産レベルは、通常20~50IU/mLの範囲である。哺乳類細胞における組換えFVIIIの低発現レベルに寄与する更なる可能性のある要因には、特異的又は非特異的に、発現細胞膜への結合およびFVIII不安定性が含まれ得る(Kaufman, 1989, Mol. Cell. Biol., vol. 3, pp. 1233‐1242、米国特許第8,759,293号)。
【0006】
米国特許第8,759,293号には、FVIIIの調製方法が開示されている。米国特許第8,759,293号の
図6は、(i)成熟vWF又はトランケート型vWFドメイン‐Fc融合ポリペプチド及び(ii)独立したプロモーターからのプロペプチド配列を発現する1番目のプラスミド発現ベクター、並びに(iii)異なる選択マーカーを使用してヒトFVIIIを発現する2番目の異なるプラスミド発現ベクターを説明している。1番目と2番目のプラスミドをコトランスフェクトし、選択中の哺乳類細胞に取り込み、(i)vWF又はvWF‐Fc、(ii)vWFプロペプチド、及び(iii)FVIIIを発現する安定した細胞株を作成する。この方法の問題は、選択された各細胞トランスフェクタントが、哺乳類細胞へのFVIIIプラスミド及びvWF‐Fcプラスミドの独立した別々の侵入によって得られることである。選択された細胞は、各プラスミドの比率が異なる場合がある。トランスフェクトしたプラスミドの比率が不明な場合、タンパク質の一貫した発現で確実かつ再現性よく細胞を取得することは困難であり、したがって、発現されたタンパク質の絶対的なレベルは時間とともに変化する。例えば、連続トランスフェクションによって生成された一次細胞トランスフェクタントは、10コピーのFVIIIと30コピーのvWF‐Fcとを有する場合がある。FVIIIを超えるvWF‐Fcの過剰発現は、FVIIIと比較して過剰な量のvWF‐Fcをもたらし、したがってFVIIIの下流精製を困難にする。さらに、2つのプラスミドの比率が時間経過とともに変化する場合、一定数のvWFプラスミドを維持しながら、FVIIIプラスミドの減少により細胞が望ましくなくなる可能性がある。あるプラスミドが別のプラスミドと比較して喪失すると、発現レベルのバランスが崩れる可能性があり、その結果、精製シナリオが困難になる。
【0007】
患者が利用できる組換えFVIIIの質及び量を改善する必要がある。FVIIIの発現を改善し、精製後の発現されたFVIIIの収率を改善する必要がある。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1A~
図1Cは、ヒトFVIII及びトランケート型vWF‐Fc cDNA、場合によっては、変異型のvWF‐Fc cDNAの両方が同一発現ベクターに並置されてサブクローン化される二重発現ベクターの構築を示す図である。(
図1A)サイトメガロウイルス(CMV)プロモーターの制御下にあるFVIIIバリアント遺伝子配列及びvWF‐Fcバリアント遺伝子配列を含む二重発現ベクターの一般的な説明。(
図1B)FVIIIとトランケート型vWF(vWFプロペプチドドメインの有無に関わらず)との共発現及び免疫グロブリンFcドメインへの融合(Pro‐D’D3‐Fcにはプロペプチドドメインが含まれるが、Del‐D’D3‐Fcには含まれない)の説明。(
図1C)FVIIIとトランケート型及び変異型vWFとの共発現(HGVS番号付け規則に従って完全な野生型vWF配列のアミノ酸C1099及びC1142で、vWFプロペプチドドメインの有無に関わらず)及びヒトIgG1由来の免疫グロブリンFcドメインへの融合の説明。他のプラスミドエレメントも図示する。
【
図2】
図2A~
図2Dは、D’D3ドメインとヒトIgG
1のFcヒンジドメインとの融合によって作成された、トランケート型のヒトvWF‐Fcタンパク質の誘導の概略図を示す図である。(
図2A)分泌されたフォン・ヴィレブランド因子ポリペプチドのドメイン構造(シグナル配列は示さず)。D1及びD2はvWFプロペプチド配列を表す。D’D3には、名目上の第VIII因子結合部位が含まれる。CKは野生型vWFの末端二量体化ドメインである。(
図2B1)Pro‐D’D3‐Fcは、プロペプチド(D1D2ドメイン)及びFcドメインに融合したD’D3ドメインからなるトランケート型vWFタンパク質である。(
図2B2)この代替形式では、D1D2ドメインがvWFから物理的に除去され、D’D3‐Fc配列のN末端のシグナル配列に直接融合して、Del‐D’D3‐Fcが生じる。(
図2C)D1D2の存在の有無に関わらず、成熟したトランケート型生成物のD’D3‐Fc。(
図2D)野生型D’D3ドメインの多量体は、ジスルフィド架橋を介して形成されるが、D’D3の二量体化は、C末端のFc融合ドメインの相互作用によって媒介される。
【
図3】
図3A~
図3Dは、アミノ酸位置C1099及びC1142に変異を有する、トランケート型ヒトvWF‐Fcタンパク質の概略図を示す図である。(
図3A)変異型の分泌されたフォン・ヴィレブランド因子ポリペプチドのドメイン構造(シグナル配列は示さず)。D1D2はプロペプチドドメインである。D’D3には、名目上の第VIII因子結合部位が含まれているが、アミノ酸C1099及びC1142(D3ドメインの垂直線)での変異が含まれる。(
図3B1)Pro‐D’D3mut‐Fcは、上記Pro‐D’D3‐Fcと同様であるが、C1099及びC1142の位置に変異を含む。(
図3B2)この代替形式では、D1D2ドメインがvWFから物理的に除去され、D’D3‐Fc配列(C1099及びC1142に変異を有する配列)のN末端のシグナル配列に直接融合して、Del‐D’D3mut‐Fcが生じる。(
図3C)D1D2の存在の有無に関わらず、成熟したトランケート型生成物のD’D3mut‐Fc。(
図3D)野生型D’D3ドメインの多量体の形成は、C1099変異及びC1142変異(アスタリスク)によってブロックされるが、D’D3の二量体化は、C末端のFc融合ドメインの相互作用によって媒介される。
【
図4】
図4A~
図4Bは、D’D3‐Fcタンパク質及びD’D3mut‐Fcタンパク質とFVIIIとの集合の説明を示す図である。(
図4A)D’D3‐Fc(導入変異なし)は、
図3に記載されるように、多量体集合及び二量体化をもたらす。例として、FVIIIへの結合は、多量体化したD’D3‐Fc分子の2つの部位で示されている。(
図4B)D’D3mut‐Fc融合タンパク質は、導入された変異C1099及びC1142(アスタリスクとして示す)により、多量体ではなく二量体の集合をもたらすと予想される。
【
図5】
図5A~
図5Bは、未変異D’D3バリアント及び変異D’D3バリアントの差異による、FVIII/トランケート型vWF‐Fc複合体の捕捉及び回収の可能性の差異、及び結果として生じる第VIII因子の第VIII因子親和性マトリックスを介した精製の結果を示す図である。(
図5A)FVIIIに結合する多量体D’D3‐Fcが示されている。FVIIIは、親和性リガンドへの結合相互作用を介して精製マトリックスに結合し、D’D3‐Fcと共にカラムに保持される。このようなカラムから溶出されたFVIIIは、おそらくD’D3‐Fcでひどく汚染されているため、[FVIII]<[D’D3‐Fc]となる。(
図5B)D’D3mut‐Fcの二量体形態は第VIII因子に結合することが示されている。多量体化がないため、個々のFVIII/D’D3‐Fc複合体は、抗FVIII親和性マトリックスに効率的に結合し、[FVIII]>>[D’D3mut‐Fc]であるFVIIIの非常に純粋な集団を生成すると予想される。
【
図6】
図6A~6Bは、FVIII‐vWF‐Fc複合体の捕捉及び回収における差異、並びに
図5と同様に、結果として生じる第VIII因子のvWF‐Fc捕捉マトリックスを介した精製の結果を示す図である。(
図6A)FVIIIに結合する多量体D’D3‐Fcが示されている。D’D3‐Fcが豊富に共発現している場合、これによりFVIIIの回収率が低下する可能性がある。さらに、D’D3‐Fcの濃度及び近接性が高まるため、アフィニティーカラムからのFVIIIの溶出が不十分になる可能性があり、[FVIII]<<[D’D3‐Fc]となる。(
図6B)D’D3mut‐Fcの二量体形態は、FVIIIに結合しすること及び第VIII因子に結合することが示されている。多量体化がないため、FVIII/D’D3mut‐Fc複合体は、凝集体を形成することなく抗Fc親和性マトリックスに結合し、vWF‐Fcに1:1の比率で結合するFVIIIの濃縮集団を生成すると予想される。
【
図7】
図7A~
図7Bは、Del‐D’D3mut‐Fcで発現され、アフィニティークロマトグラフィーで精製されたFVIIIの純度を示す図である。(
図7A)精製によって得られた組換え発現FVIIIのゲルエレクトロフェログラム、及び(
図7A)のタンパク質レーンの対応するウエスタンブロット(
図7B)。抗ヒトFVIII抗体を使用して、ウエスタンブロットでタンパク質を検出した。レーン1:分子量マーカー(MW)、レーン2:細胞上清からの出発物質、レーン3:プロテインAクロマトグラフィー後のフロースルー材料、レーン4:プロテインAアフィニティーカラムからの0.3M CaCl
2溶出画分、レーン5:FVIIISelectアフィニティー樹脂カラムからの材料の50%エチレングリコール溶出、レーン6:市販のタンパク質BDD‐FVIII(Xyntha(登録商標))。矢印は、約170、90、及び80キロダルトン(kD)に対応する3つの予想されるBDD‐FVIIIタンパク質バンドを示している。
【
図8】
図8は、トランケート型vWF‐Fc二量体及び多量体の発現を示す図である。Pro‐D’D3‐Fcを含むプロテインA精製トランケート型vWF‐Fcバリアント(レーン2)、Del‐D’D3‐Fc(レーン3)、Pro‐D’D3mut‐Fc(レーン4)、及びDel‐D’D3mut‐Fc(レーン5)を、非還元PAGEによって血漿由来完全長vWFタンパク質(レーン6)と比較した。レーン2及びレーン3の高分子量バンド(>180kD、矢印)は、トランケート型vWF‐Fc多量体を表す。C1099及びC1142の変異は多量体形成を妨げるため、Pro‐D’D3mut‐Fc(レーン4)及びDel‐D’D3mut‐Fc(レーン5)は二量体のみを形成した(約160kD、矢印)。
【
図9】
図9は、組換えFVIIIタンパク質発現に対するトランケート型vWF‐Fc融合タンパク質の保護効果を示す図である。野生型Pro‐D’D3‐Fcタンパク質、Del‐D’D3‐Fcタンパク質、Pro‐D’D3mut‐Fcタンパク質、及びDel‐D’D3mut‐Fcタンパク質などのトランケート型vWF‐Fc融合タンパク質、並びに血漿由来vWF(ネガティブコントロールタンパク質、ヒト血清アルブミン(HSA))は、FVIIIを単独発現する細胞に等モル量のバリアント(又はHSA)を添加することによって試験した。FVIII活性は、1段階凝固アッセイを使用して測定し、0~8時間の時間間隔で試料を取り出して試験した。
【
図10】
図10は、トランケート型vWF‐FcとFVIIIとの共発現が、細胞培養におけるFVIIIのインビトロ安定性を著しく改善したことを示す図である。FVIII又はFVIII/Del‐D’D3mut‐Fc複合体のいずれかを含む細胞培養培地の試料を、0、4、8、及び24時間でサンプリングしながら、24時間にわたって室温で維持した。安定性は、一段階凝固アッセイでFVIII活性の関数として評価した。
【
図11】
図11は、トランケート型vWF‐FcとFVIIIとの共発現が、溶媒洗浄剤ウイルス不活化手順中の組換えFVIII安定性を改善したことを示す図である。組換えBDD‐FVIII単独、又はDel‐D’D3mut‐Fc vWFバリアントと共発現したBDD‐FVIIIのいずれかを発現する細胞培養物を、ウイルス不活化試薬(すなわち、TNBP及びTriton‐X‐100)で24時間処理し、FVIII凝固活性は、0、4、8、及び24時間の時点で1段階凝固アッセイによってモニターした。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、ヒト組換え凝固第VIII因子の精製及び産生における現在の問題の多くに対する解決策、すなわち、単一の選択可能なマーカー遺伝子を用いて、同一発現ベクター上で2つの独立したプロモーターからFVIII及びトランケート型vWF‐Fc発現カセットの両方を共発現させることを提供する。発現されたタンパク質の絶対発現レベルは変化し得るが、FVIII:vWF‐Fc発現の望ましい1:1の比率が確立され、それによって、精製中にvWFがFVIIIを大幅に上回り、FVIIIの回収が問題になる可能性を最小限に抑える。
【0010】
発現遺伝子とそのタンパク質との相対比を制御することに加えて、FVIII:vWF複合体の回収率を改善する方法が開発された。これは、免疫グロブリンFc領域をヒトrec‐vWFのトランケートされた領域のC末端、具体的にはFVIIIに結合するD’D3領域(約アミノ酸776‐1241)に融合することによって行われる。さらに、しかしながら、vWF‐Fcドメインは、効率的な処理を促進するためにシグナル配列への直接融合によって作成され、さらに、FVIII:vWF複合体のより高い比率を促進するために特定の変異で修飾されている。Fcとの融合により、固体マトリックスに固定化されたブドウ球菌由来プロテインA、抗Fc抗体などに結合するFc領域の能力により、細胞上清の大部分からFVIII‐vWF複合体を選択する簡単な方法が提供される。当然、他の方法を使用して同様の結果を得ることも可能であるが、FVIII結合に重要なトランケート型vWFフラグメントの二量体化も促進することから、好ましいC末端融合パートナーは免疫グロブリンFcである(Chiu et al., 2015, Blood, vol. 126, pp. 935‐938及びYee et al., 2015, Blood, vol. 126, pp. 939‐942)。野生型トランケート型vWF‐Fcの発現に関する潜在的な問題は、トランケート型vWF‐Fcタンパク質が、Fcドメインの二量体化と同様に、D’D3ドメインの1又は2つの特定のシステイン残基を介して通常の頭‐頭及び尾‐尾多量体化に関与することである。したがって、組換えvWF‐Fcポリマーは、50ポリペプチド単位の長さの長い分子を生成し、共有結合し得る。典型的には、それらは約20~25ポリペプチド単位のサイズ範囲内にある。このようなサイズ範囲は、500万~1000万ダルトン以上の分子量を表し、特に商業規模でタンパク質を調製するために通常使用される大規模なカラム精製では問題となる。このような複合体のサイズが大きいと、濃縮体や凝集体が生じ、カラムの流れが妨げられ、過度の背圧が生じ、目的タンパク質の回収が困難になることがある。
【0011】
本発明は、D’D3ドメインの特定のシステインアミノ酸、具体的には、vWFポリペプチドのアミノ酸C1099及びC1142に変異を含めることによって、この問題を解決する。これらのアミノ酸は、D’D3二量体間の分子間ジスルフィド架橋を駆動するのに重要であるように見えるが、FVIII結合には重要ではないと見られる。そのため、vWF‐FcのD’D3ドメインに導入された変異を使用すると、多量体集合が防止され、特に高濃度の発現タンパク質では、D’D3ドメインのサイズが単量体又は二量体に制限される。これは、大規模なカラム精製や深層ろ過カラム、アフィニティーカラムなどの目詰まりの防止に理想的であり、FVIIIの回収率と純度が向上する。
【0012】
本発明に開示される追加の改変は、発現及び精製(トランケート型vWF‐Fcをコードする発現カセットからのvWFプロペプチドドメインを含む遺伝子配列の排除)の両方をさらに増強し得る。このプロペプチドは通常、ゴルジ装置での切断およびゴルジ装置からの通過後、vWFと結合したままであり、フォールディングに役立つ。これは、細胞系での哺乳類vWFタンパク質の発現に含まれる。しかしながら、哺乳類系で発現する大量のvWFは、哺乳類細胞に存在する(又は不十分に存在する)フューリン/Kex2様プロテアーゼによって非効率的に処理される。結果として、「成熟した」vWFタンパク質にまだ付着している未処理のプロペプチド、又はトランケート型フラグメントは、形成される可能性のある大きなサイズのvWF多量体をさらに複雑にし、精製を困難にし得る。
【0013】
本発明は、vWF発現カセットからプロペプチド配列を除去し、フューリン/Kex2様タンパク質の必要性を排除することによってこの問題を解決する。成熟ドメインは、そのシグナルペプチドからのプレタンパク質の切断によって直接発現される。vWFドメインのフォールディングにはプロペプチドが存在しないにもかかわらず、融合したFcドメインは、FVIIIに結合するD’D3配列の二量体化を促進するのに十分なフォールディングを提供する。プロペプチド配列の除去は、発現ベクターのカセットサイズをさらに縮小し、哺乳類細胞でのより良い発現を可能にする。
【0014】
本発明は、組換えFVIIIのDNAコンストラクト及びその改変された結合パートナータンパク質、すなわち、トランケート型組換えフォン・ヴィレブランド因子(vWF)、を含む単一のDNA発現ベクターを使用して、FVIIIの非常に高い発現レベルで、哺乳類細胞において2つのタンパク質を共発現する。
【0015】
それぞれがトランケート型vWF‐Fc融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列を有する4つの異なるトランケート型vWF‐FcDNAカセットは、発現プラスミドベクターに挿入され、トランケート型vWF‐Fcコンストラクトは、以下のように定義される。(a)Pro‐D’D3‐Fcは、vWFプロペプチドドメイン(D1D2、野生型vWF分子のアミノ酸+1‐741)及びC末端でヒトIgG1由来の免疫グロブリンFcドメイン(例えば、UniProtKB 01857、アミノ酸104‐330を含む)と融合したドメインD’D3(野生型vWF分子のアミノ酸742‐1247を含む)を含むコンストラクトを表す。(b)Del‐D’D3‐Fcは、C末端でヒトIgG1(例えば、UniProtKB 01857、アミノ酸104‐330を含む)の免疫グロブリンFcドメインと融合したvWFドメインD’D3(野生型vWF分子のアミノ酸742‐1247を含む)を含むコンストラクトを表し、上記のコンストラクト(a)とは対照的に、このコンストラクトではプロペプチドドメイン(D1D2)を欠失している。(c)Pro‐D’D3mut‐Fcは、vWFプロペプチドドメイン(D1D2、野生型vWF分子のアミノ酸+1‐741を含む)及び野生型vWF分子のアミノ酸であるが完全なvWF分子(そのシグナル配列を含む、番号付けはHGVS(Human Genome Variant Society)の番号付け規則に従う)のC1099及びC1142に変異を有する、C末端でヒトIgG1(例えば、UniProtKB 01857、アミノ酸104‐330を含む)の免疫グロブリンFcドメインと融合したドメインD’D3を含むコンストラクトを表す。(d)Del‐D’D3mut‐Fcは、が完全なvWF分子(そのシグナル配列を含む、番号付けはHGVS番号付け規則に従う)のC1099及びC1142に変異を有する、C末端でヒトIgG1(例えば、UniProtKB 01857、アミノ酸104‐330を含む)の免疫グロブリンFcドメインと融合したvWFドメインD’D3(野生型vWF分子のアミノ酸742‐1247を含む)を含むコンストラクトを表し、上記のコンストラクト(c)とは対照的に、このコンストラクトではプロペプチドドメイン(D1D2)を欠失している。
【0016】
ヒト及び非ヒト(例えば、霊長類、イヌ、ネコ、ウマ、ブタ、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ウシ、その他の脊椎動物)由来のvWFポリペプチド及びFVIIIポリペプチドは、天然、合成、及び組換えタンパク質を含む、本発明によって企図されている。また、本発明の範囲内にあるのは、野生型タンパク質、又はそれらの変異体、バリアント、及び/又はトランケート型に対応するvWF及びFVIIIポリペプチドである。
【0017】
ヒト野生型vWFアミノ酸配列及びvWFをコードする核酸配列は、例えば、GenBankアクセッション番号NP_000543及びNM_000552によって開示されている。ヒトvWFは、22アミノ酸のシグナルペプチド及び反復機能ドメインA、B、C、D、及びCKを含む2813アミノ酸のポリペプチドであり、アミノ末端からD1、D2、D’、D3、A1、A2、A3、D4、B1、B2、B3、C1、C2、及びCKの順序で分布している(
図2A)。「成熟した」vWFサブユニットは、N末端からC末端の順に、ドメインD’‐D3‐A1‐A2‐A3‐D4‐B1‐B2‐B3‐C1‐C2‐CKで構成されている。ドメインD1D2(プロペプチド)は野生型vWFタンパク質のアミノ酸+1‐741であり、ドメインD’D3は野生型vWFタンパク質のアミノ酸+742‐1247である。(+はN末端でのシグナル配列の除去を指す。すなわち、+1はシグナル配列のない野生型vWFタンパク質の最初のアミノ酸である)。D’D3ドメインは、FVIIIの結合部位として認識されている。
【0018】
ヒトFVIIIは、約300kDaの一本鎖分子として合成され、構造ドメインA1‐A2‐B‐A3‐C1‐C2で構成されている。多くの場合、分泌中にBドメイン内で切断され、フォン・ヴィレブランド因子(vWF)に結合したヘテロ二量体として血中を循環する。分子量170kDの最小の活性FVIIIは、A1‐A2ドメインを含む1つの90kD重鎖からなり、高度にグリコシル化されたBドメイン(Ser741~Arg1648)の大部分を欠いており、A3‐C1ドメイン及びC2ドメインを含む1つの80kD軽鎖である。高分子量の形態と同程度にトロンビンで活性化され得る。FVIIIのBドメインは、FVIIIの凝固活性に必要ではないが、Bドメインを欠失させることにより、FVIIIは、インビトロ又はインビボの機能を損なうことなく、異種系からの発現レベルが大幅に高くなることがわかった。本発明は、Bドメイン欠失(BDD)‐FVIIIを利用し、FVIIIの2つの鎖は、リンカー(SFSQNPPVLKRHQR)によって結合されている。ヒトBDDFVIII配列は、GenBankタンパク質アクセッション番号ABV90867に示されている。
【0019】
本発明者らは、2つの独立したプロモーター下でFVIII及びトランケート型vWF‐Fc遺伝子の両方を共発現させる二重発現カセットを含むDNAベクターを設計した。発現されたタンパク質の絶対発現レベルは変化し得るが、本発明のDNAベクターは、FVIIIとトランケート型vWF‐Fc発現との一定かつ望ましい1:1の比率を達成し得、これにより、トランケート型vWF‐Fcタンパク質のレベルが、精製中にFVIIIタンパク質のレベルを大幅に上回らないことが保証され、したがって、FVIIIの回収が制御される。1つの発現ベクターにおけるFVIIIとトランケート型vWF‐Fcの共発現によって産生されるFVIIIの発現レベルは、他の既知の方法によって産生されるものよりも有意に高い。
【0020】
本発明は、(a)第1のプロモーターに作動可能に連結された、Bドメイン欠失FVIIIタンパク質(FVIII)をコードする第1のポリヌクレオチド配列、及び(b)トランケート型フォン・ヴィレブランド因子(vWF)及びトランケート型vWFのC末端に融合した免疫グロブリンFcを含み、第2のプロモーターに作動可能に連結された融合タンパク質をコードする第2のポリヌクレオチド配列を含む、ベクターであって、前記トランケート型vWFは、配列番号1[D’/D3+変異又はDel‐D’D3mut]、配列番号2[D1/D2/D’/D3+変異又はPro‐D’D3mut]、配列番号3[D’/D3又はDel‐D’D3]、又は配列番号4[D1/D2/D’/D3又はPro‐D’D3]のアミノ酸配列又はその95%のアミノ酸配列相同性を有するアミノ酸配列を含む、前記ベクターに関する。第1のプロモーター及び第2のプロモーターは、同じであっても異なっていてもよい。一実施形態では、第1のプロモーター及び第2のプロモーターは同じであり、例えば、サイトメガロウイルスプロモーターである。
【0021】
本発明のベクターにおいて、第1のポリヌクレオチド配列は、Bドメイン欠失FVIII(BDD‐FVIII)又はその少なくとも95%、96%、97%、98%、又はは99%の配列相同性を有するアミノ酸をコードする。アミノ酸の変化は、好ましくは、FVIIIのフォールディング又は結合能力に有意に影響を及ぼさない保存的アミノ酸置換などの小さな変化である。
【0022】
本発明のベクターにおいて、第2のポリヌクレオチド配列は、トランケート型vWF及び当該トランケート型vWFのC末端に融合した免疫グロブリンFcを含む融合タンパク質、又はその少なくとも95%、96%、97%、98%、又は99%の配列相同性を有するアミノ酸をコードする。アミノ酸の変化は、好ましくは、vWFのFVIIIへの結合活性に有意に影響を及ぼさない、又はvWFの多量体化を引き起こさない保存的アミノ酸置換などの小さな変化である。前記トランケート型vWFがD’D3+変異である場合、アミノ酸置換には、アミノ酸残基1099又は1142(HGVS番号付け規則に従って番号付け)の変化、あるいは同等に、変異を無効にする336又は379(D’のN末端からカウント)のシステインへの変化は含まれない。前記トランケート型vWFがD1/D2/D’/D3+変異である場合、アミノ酸置換には、アミノ酸残基1099又は1042の変化、あるいは同等に、変異を無効にする336又は379(D’のN末端からカウント)のシステインへの変化は含まれない。
【0023】
精製中のFVIII‐vWF複合体の回収率を改善するため、本発明は、免疫グロブリンFc領域を、ヒト組換えvWFのトランケートされた領域のC末端、具体的には、D’D3領域(野生型vWFタンパク質のアミノ酸+742‐1247)に融合する。本発明に適した免疫グロブリンFcには、プロテインAまたはプロテインGまたは他の同様のFc結合マトリックスに高い親和性で結合することができるものが含まれ、鎖間ジスルフィド結合の形成を促進するために少なくともヒンジ領域を含むヒトIgG、マウスIgG、又はそれらのフラグメントのFc領域が含まれる。好ましいFcは、ヒトIgG1又はヒトIgG4である。例えば、好ましいFc配列は、配列番号5に示され、ヒトIgG1のアミノ酸104‐330である。
【0024】
Fcとの融合により、固体マトリックスに固定化されたブドウ球菌由来プロテインA、抗Fc抗体などの結合パートナーに結合するFc領域の能力により、細胞上清の大部分からFVIII‐vWF複合体を選択する簡単な方法が提供される。トランケート型vWFは二量体化のためのCKドメインを欠いているため、vWF‐Fc融合タンパク質のFc部分は、Fcドメインのシステインを介したトランケート型vWF‐Fcの自己二量体化の手段も提供する。
【0025】
一実施形態では、変異は、トランケート型ヒトvWFに実装され、野生型vWFと比較してより小さな結合複合体を作成する。これにより、組換えFVIII‐vWF‐Fc複合体の全体的な精製が強化され、インビトロでの安定性が向上する。分泌中に、vWF多量体化は、D3ドメイン(C1099及びC1142)のジスルフィド結合を介して形成され、大きな、非常に大きなvWF分子、通常は20~25個のvWF分子(又は20~25量体、最大で50量体)の多量体の形成に至る。これらのサイズ範囲は、少なくとも500万~1000万ダルトンの分子量を表しており、FVIIIの大規模カラム精製では問題となる。これは、このような複合体のサイズが大きいと、濃縮体や凝集体が生じ、カラムの流れが妨げられ、目的のタンパク質の回収が困難又は不可能になる一方で、全体的な純度に影響を与えるおそれがあるためである。アミノ酸C1099及びC1142(HGVS番号付け)は、D’D3ドメイン間の分子間ジスルフィド架橋を駆動するための2つの重要な残基であるが、FVIIIへの結合には重要ではない。vWF‐FcのD’D3ドメインのC1099及びC1142をA1099及びA1142に変換することにより、多量体化が防止され、FVIII‐vWF複合体からのFVIIIの精製とタンパク質の質が劇的に向上する。ドメインD’D3のシステイン変異は、システインの置換が、結果として生じるvWFがFVIIIに結合する能力に有意な影響を与えない限り、配列番号1に示すようにアラニンに変更可能であり、あるいはロイシン、グリシン、バリン、イソロイシン、フェニルアラニン、セリン、スレオニン、ヒスチジン、メチオニン、おそらくアルギニン、リジン、グルタミン、アスパラギン、グルタミン酸、アスパラギン酸、トリプトファン、及びチロシンなどであるがプロリンではない他のアミノ酸に変更可能である。
【0026】
一実施形態では、vWFのプロペプチドドメインは、vWF‐Fcをコードする発現カセットからプロペプチドを包含する遺伝子配列を除去することによって欠失される。プロペプチドの機能の1つは、vWFのN末端の多量体化を補助することであり、その後、プロペプチドは血中に放出されるとフューリンによって切断される。ただし、フューリン/Kex‐2様プロテアーゼは細胞内で制限されることが多いため、哺乳類系で大量のvWFが発現されると、フューリン/Kex2様プロテアーゼによって非効率的に処理され、切断されていないプロペプチドがvWFに付着したままとなり得る。これにより、結果として得られるvWF分子の分子量が大幅に増加し、適切なドメインの関連付けが制限される。vWF発現カセットからプロペプチド配列を除去することにより、成熟ドメインはそのシグナルペプチドから直接発現され、vWF発現の有意な増加をもたらし、FVIII‐vWF複合体の形成をもたらす。プロペプチドが存在しないにもかかわらず、融合Fcドメインは、単量体D’D3よりもFVIIIに対して高い親和性を持つD’D3の二量体化を促進するのに十分なフォールディングを提供する。プロペプチドドメインを排除すると、発現ベクターの遺伝子サイズがさらに小さくなり、タンパク質発現が向上する。
【0027】
本発明のための好ましいBドメイン欠失FVIIIポリペプチドは、ヒトBDD‐FVIII(GenBankタンパク質アクセッション番号ABV90867、配列番号6)、合成ブタBDD‐FVIIIを含むブタBDD‐FVIII(GenBankタンパク質アクセッション番号AGV79859.1、OBIZUR(登録商標)、配列番号7)、GenBankヌクレオチドアクセッション番号NM_214167.2に由来する配列であるが、ブタFVIII完全長Bドメイン(配列番号8)を置換するように設計されたヒトFVIIIBドメインに由来する人工の14アミノ酸リンカーを有するブタBDD‐FVIIIバリアント、GenBankヌクレオチドアクセッション番号U49517に由来する配列であるが、ブタFVIII完全長Bドメイン(配列番号9)を置換するように設計されたヒトFVIIIBドメインに由来する人工の14アミノ酸リンカーを有するブタBDD‐FVIII、及びGenBankヌクレオチドアクセッション番号AF049489.1に由来するイヌBDD‐FVIII配列であるが、ヒトBドメインに由来し、イヌFVIII完全長Bドメイン(配列番号10)を置換するように設計された人工の14アミノ酸リンカーを有する配列、を含む。本明細書では、ブタ及びイヌ(並びにヒトに加えて他の哺乳類のFVIII)の使用が検討されている。ブタFVIIIは現在、後天性血友病Aの患者の治療として使用されている。ブタ及びイヌのFVIII分子、又はそれらのハイブリッドは、先天性血友病又は阻害剤を伴う血友病の患者の代替治療として評価及び検討されている。ブタ又はイヌのFVIIIをコードする発現カセットを作成することにより、野生型、トランケート型、及び/又は変異型vWFの存在下で短縮Bドメインリンカーを用いて、本発明による大量のFVIII産物を生成することが可能であり、さらに、そのようなブタ及びイヌのFVIII、又はそれらのハイブリッドは、より高い触媒活性を有し得る、したがって、治療シナリオにおいて必要とされるFVIIIが少量となり得る。
【0028】
本発明は、発現FVIII及びトランケート型vWF‐Fcのための組換え発現ベクター、及び発現ベクターで形質転換された宿主細胞を提供する。任意の適切な発現系が使用され得る。ベクターは、哺乳類、微生物、ウイルス、又は昆虫の遺伝子に由来するものなど、適切な転写または翻訳調節ヌクレオチド配列にそれぞれ作動可能に連結された、FVIII及びトランケート型vWF‐Fcタンパク質をコードする第1のDNA配列及び第2のDNA配列を含む。調節配列の例には、転写プロモーター、オペレーター、又はエンハンサー、mRNAリボソーム結合部位、並びに転写及び翻訳の開始及び終了を制御する適切な配列が含まれる。調節配列がコード化DNA配列に機能的に関連している場合、ヌクレオチド配列は作動可能に連結されている。したがって、プロモーターヌクレオチド配列がコード化DNA配列の転写を制御する場合、プロモーターヌクレオチド配列は、コード化DNA配列に作動可能に連結される。通常複製起点によって付与される所望の宿主細胞で複製する能力、及び形質転換体を同定するための選択遺伝子を、発現ベクターにさらに組み込んでもよい。
【0029】
一実施形態では、FVIII又はvWFに対して天然であるかそうでない場合もある適切なシグナルペプチドをコードするDNA配列を発現ベクターに組み込んでもよい。シグナルペプチド(リーダーペプチド又はシグナル配列としても公知)は、分泌経路に向かう新たに合成されたタンパク質のN末端に存在する短いペプチド(通常は16~30アミノ酸長)である。例えば、シグナルペプチド(分泌リーダー)のDNA配列は、発現されたポリペプチドが最初にシグナルペプチドを含む融合タンパク質として翻訳されるように、第1の配列にインフレームで提供され得る。意図された宿主細胞で機能するシグナルペプチドは、ポリペプチドの細胞外分泌を増強する。いくつかの実施形態において、シグナルペプチドは、細胞からのポリペプチドの分泌時にポリペプチドから切断される。アミノ酸配列に対して天然であるか又は天然ではない適切なシグナルペプチドもまた、本発明において使用され得る。
【0030】
ヒトFVIIIタンパク質の分泌を改善するために、第1のポリヌクレオチドは、好ましくは、FVIII配列の前にシグナル配列を含む。FVIIIの分泌を促進する任意のシグナル配列が本発明に適している。例えば、シグナル配列は、野生型ヒトFVIIIシグナル配列MQIELSTCFFLCLLRFCFS(配列番号11)である。
【0031】
ブタFVIIIタンパク質の分泌を改善するために、第1のポリヌクレオチドは、好ましくは、FVIII配列の前にシグナル配列を含む。FVIIIの分泌を促進する任意のシグナル配列が本発明に適している。例えば、シグナル配列は、野生型ブタVFIIIシグナル配列MQLELSTCVFLCLLPLGFS(配列番号12)である。
【0032】
イヌFVIIIタンパク質の分泌を改善するために、第1のポリヌクレオチドは、好ましくは、FVIII配列の前にシグナル配列を含む。FVIIIの分泌を促進する任意のシグナル配列が本発明に適している。例えば、シグナル配列は、野生型イヌVFIIIシグナル配列MQVELYTCCFLCLLPFSLS(配列番号13)である。
【0033】
トランケート型vWF‐Fcタンパク質の分泌を改善するために、第2のポリヌクレオチドは、好ましくは、vWF配列の前にシグナル配列を含む。トランケート型vWF‐Fcの分泌を促進する任意のシグナル配列が本発明に適している。例えば、シグナル配列は、野生型ヒトvWFシグナル配列MIPARFAGVLLALALILPGTLC(配列番号14)である。
【0034】
本発明のポリペプチドの共発現に適した宿主細胞には、原核生物、酵母、糸状菌、又は高等真核細胞が含まれる。細菌、真菌、酵母、及び哺乳類の細胞宿主で使用するための適切なクローニング及び発現ベクターは、例えば、Pouwels et al. in Cloning Vectors: A Laboratory Manual, Elsevier, New York, (1985)に記載されているように周知である。
【0035】
哺乳類の発現に適した真核生物のプロモーターには、CMV前初期プロモーター、HSVチミジンキナーゼプロモーター、初期及び後期SV40プロモーター、ラウス肉腫ウイルス(RSV)などのレトロウイルスLTRのプロモーター、及びマウスメタロチオネイン‐Iプロモーターなどのメタロチオネインプロモーターが含まれる。
【0036】
いくつかの実施形態において、ベクターコンストラクトは、リン酸カルシウムトランスフェクション、DEAE‐デキストラン媒介トランスフェクション、カチオン性脂質媒介トランスフェクション、エレクトロポレーション、形質導入、感染、又は他の方法によって培養宿主細胞に導入され得る。このような方法は、多くの標準的な実験マニュアルに記載されている。
【0037】
哺乳類宿主細胞発現ベクターの転写及び翻訳制御配列は、ウイルスゲノムに由来し得る。本発明に適したプロモーター配列及びエンハンサー配列は、サイトメガロウイルス(CMV)、ポリオーマウイルス、アデノウイルス2、シミアンウイルス40(SV40)に由来し得る。SV40ウイルスゲノムに由来するDNA配列、例えば、SV40起源、初期及び後期プロモーター、エンハンサー、スプライス、並びにポリアデニル化部位を使用して、哺乳類宿主細胞における構造遺伝子配列の発現のための他の遺伝子要素を提供し得る。ウイルスの初期及び後期プロモーターは、ウイルスの複製起点も含む可能性のあるフラグメントとしてウイルスゲノムから容易に得られるため、特に有用である。
【0038】
選択可能なマーカーをコードする配列を、DNAコンストラクトに含めてもよい。哺乳類細胞の選択可能なマーカーは当技術分野で公知であり、これには、グルタミンシンテターゼ、チミジンキナーゼ、ジヒドロ葉酸レダクターゼ、アミノグリコシドホスホトランスフェラーゼ、ハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ、アスパラギンシンテターゼ、アデノシンデアミナーゼ、メタロチオネイン、及びネオマイシンなどの抗生物質耐性遺伝子が含まれる。
【0039】
本発明は、組換えヒトFVIII及びその修飾された結合パートナータンパク質、この場合、哺乳類細胞におけるトランケート型組換えヒトフォン・ヴィレブランド因子(vWF)の高発現及び精製に関連する4つの主要な改良を含む。すなわち、1)単一の哺乳動物発現ベクター上での独立したプロモーターからのrec‐FVIII及びトランケート型vWF‐Fcの共発現により、これら2つの分子の最適な発現比の制御を通じて両方のタンパク質の高レベルの発現が得られる。2)野生型形態(多量体)と比較してより小さな(すなわち、単量体、二量体、又は短いオリゴマー)結合複合体を作成することにより、組換えFVIII‐vWF‐Fc複合体の精製を強化するためのトランケート型ヒトvWFのバリアントへの変異の実装3)変異型フォン・ヴィレブランド分子の実質的な修飾、すなわち、プロペプチド領域の欠失の導入であり、特定の制限的な内因性プロテアーゼによる切断の必要性を排除することにより、その発現を大幅に増加させる。4)細胞培養、インビトロでの保存、及び哺乳類ウイルスの不活化を達成する方法におけるFVIII分子の安定化。
【0040】
上記の要素の組み合わせにより、FVIIIの発現が大幅に改善され、材料の損失が少なく発現タンパク質の精製が向上し、最終産物において、また潜在的に存在するウイルスの不活化中の溶媒/界面活性剤工程でも、宿主細胞タンパク質が減少する。これらの組み合わされた要素は、患者が利用できる組換えFVIIIの質及び量を大幅に改善する。
【0041】
本発明の合成、集合、又はプロセスの全体的な方法は、以下に概説される。FVIII及びトランケート型vWF‐Fc変異体は、哺乳類プロモーターによって駆動され、哺乳類ポリアデニル化シグナルで終結する2つの独立した発現カセットを含む単一の発現ベクターにタンデムで合成及びクローン化される(
図1)。トランスフェクトされた細胞は、抗生物質(例えば、ジェネティシン(Geneticin))又は代謝遺伝子(例えば、グルタミンシンテターゼ)産物を使用して選択され、さらに選択され、最適なFVIII及びvWF発現について分析される。
【0042】
Pro‐D’D3‐Fc、Pro‐D’D3mut‐Fcなどのトランケート型vWF‐Fcバリアント、及び変異の有無に関わらずプロペプチドドメインを特異的に欠く同等の形態、すなわち、Del‐D’D3‐Fc及びDel‐D’D3mut‐Fcの作成は、目的のDNAセグメントの遺伝子合成によって行われる。
【0043】
FVIII‐vWF複合体は、電荷マトリックスへの吸収を含む従来のクロマトグラフィー法によって、及び/又はアフィニティー若しくは疑似アフィニティークロマトグラフィー、例えばプロテインAクロマトグラフィーによって培地から除去され得る。次に、FVIIISelectクロマトグラフィー樹脂及び選択的洗浄工程を使用して、FVIIIをFVIII‐vWF複合体からさらに精製し、vWFによる汚染を最小限に抑えたFVIII分子の濃縮集団を生成する。
【0044】
FVIIIを調製するための全体的な方法は、以下のように要約される。
1)BDD‐FVIII及び変異/修飾D’D3vWF‐Fc遺伝子カセットを含む共発現プラスミドによる細胞のトランスフェクション。
2)FVIIIを最適に発現する細胞の同定。
3)培地から細胞塊を分離することによる分泌細胞上清の回収。
4)FVIII‐vWF‐Fc複合体(例えば、固定化プロテインAカラム(推奨)、抗vWFアフィニティーマトリックス、又はイオン交換カラムへの結合)を選択するカラムマトリックスに適用するための所望のバッファーへの回収細胞培地の調製。
5)保持又は溶出されたFVIIIを、2番目のカラム(例えば、ラクダ科動物の抗FVIII抗体カラム、アフィニティーリガンド、又はその他のアフィニティーマトリックス)でさらに精製して、工程4で除去されなかった残留vWF‐Fc及び細胞タンパク質を除去する。直接(抗FVIIIを介して)又は間接(抗vWF又はvWF‐Fcを介して)結合マトリックスを利用して、必要に応じて、除去の順序を逆にする(工程4及び工程5)ことが可能であることは明らかである。
6)FVIIIは、イオン交換カラムやナノろ過など、必要に応じて追加のクロマトグラフィー工程でさらに精製及び研磨してもよい。
【0045】
対応するコード化されたアミノ酸配列の配列識別子を表1に示す。
【0046】
【0047】
以下の実施例により、本発明をさらに説明する。これらの実施例は、単に本発明を例示することを意図しており、限定的であると解釈されるべきではない。
【実施例】
【0048】
実施例1 トランケート型vWF‐Fc及びFVIIIポリペプチドの共発現ベクターの構築
それぞれがトランケート型vWF‐Fc融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列を有する4つのトランケート型vWF‐FcDNAカセットを商業的に合成した(GenScript社、ニュージャージー州ピスカタウェイ)。4つのトランケート型vWF‐FcDNAカセットは次のように定義される。
【0049】
(a)Pro‐D’D3‐Fc(D1/D2/D’/D3‐Fc)は、vWFプロペプチドドメイン(D1D2、野生型vWF分子のアミノ酸+1‐741、GenBank NM_000552)及びドメインD’D3(野生型vWF分子のアミノ酸742‐1247)を含む、C末端でヒトIgG1由来の免疫グロブリンFcドメイン(例えば、UniProtKB 01857、アミノ酸104‐330)と融合したコンストラクトを表す。
【0050】
(b)Del‐D’D3‐Fc(D’/D3‐Fc)は、vWFドメインD’D3を含む、C末端で免疫グロブリンFcドメインと融合したコンストラクトを表し、コンストラクト(a)とは対照的に、プロペプチドドメイン(D1D2)は欠失している。
【0051】
(c)Pro‐D’D3mut‐Fc(D1/D2/D’/D3+変異‐Fc)は、完全なvWF分子(そのシグナル配列を含む)のC1099及びC1142に変異を有することを除いて、(a)と同様のコンストラクトを示す。C1099及びC1142は、HGVSの従来から認められている命名規則に基づいている。アミノ酸のカウントは、完全なvWF分子のシグナル配列から始まるD’ドメインからカウントを開始する場合、同等の変異はC336及びC379である。
【0052】
(d)Del‐D’D3mut‐Fc(D’/D3+変異)は、完全なvWF分子(そのシグナル配列を含む、HGVS番号付け規則に従った命名法))のC1099及びC1142に変異を有することを除いて、(b)と同様のコンストラクトを示す。
【0053】
ヒトFVIIIBドメイン欠失タンパク質(BDD FVIII)をコードするDNAも商業的に合成した(Genewiz社、ニュージャージー州サウス・プレインフィールド)。
【0054】
表1に列挙した各タンパク質をコードするヌクレオチド配列は、強化された異種発現チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞を説明するアルゴリズムを使用してコドン最適化した。各タンパク質のシグナルペプチドをコードするDNA配列もコドン最適化した。
【0055】
プラスミド上のクローニングサイトBsiWIおよびFspIを介してトランケート型vWF‐Fc及びBDD FVIIIのcDNAをそれぞれDNAプラスミド発現ベクターにサブクローニングした(
図1)。ここで、「CMV」はサイトメガロウイルスプロモーター配列であり、FVIIIの場合は白い波線、vWF‐Fcの場合は黒い波線で表す。「FVIII」はFVIII遺伝子配列(BDD FVIII)である。「vWF‐Fc」は、Pro‐D’D3‐Fc、Del‐D’D3‐Fc、Pro‐D’D3mut‐Fc、Del‐D’D3mut‐Fcなど、各上記vWF‐Fcバリアントの一般名である。「ampR」はアンピシリン耐性遺伝子である。「選択可能なマーカー」は、目的のプラスミド(例えば、グルタミンシンテターゼ、G418)を保持する細胞を特異的に単離するための選択可能なマーカーである。「SV40 ori」は、複製起点(哺乳類細胞での複製用)を含む哺乳類シミアンウイルスの配列である。「f1 ori」は、複製起点を含むバクテリオファージf1の配列である(細菌細胞での複製用)。
【0056】
vWFフラグメントの二量体化はFVIIIとの相互作用にとって重要であるため、FcフラグメントをコードするDNA配列を、トランケート型vWFフラグメントのC末端に導入して、トランケート型vWFダイマーの形成を指示した。また、高度に発現された野生型vWFは、本発明ではトランケートされているという事実にもかかわらず、その広範な多量体化によって凝集体を形成する場合があり、よってFVIII及び精製を複雑にすることから、アミノ酸位置C1099及びC1142(シグナル配列を含む、HGVS番号付け規則)又はC336及びC379(vWF D’D3ドメインのD’からカウント開始)に、2つの変異を導入した。これらの2つの部位はvWF多量体形成に関与しているため、これらの部位に変異を導入すると、vWF多量体形成が阻止され、精製が簡素化され、現行の方法よりも優れた品質のFVIIIが生成される。
【0057】
実施例2 CHO哺乳類細胞株におけるヒトBDDFVIII及びトランケート型vWF‐Fcの共発現
CHO細胞をCD‐CHO培地(Thermo Fisher Scientific社、マサチューセッツ州ウォルサム)で培養し、エレクトロポレーション用に調製した。細胞をE125(125mL)シェーカーフラスコ(SF)に0.3×106細胞/mLで播種し、CO2シェーカーインキュベーターでインキュベートした。細胞密度が1.5~3.0×106細胞/mLに達した時点で、3細胞継代目(P3)で細胞を継代培養し、エレクトロポレーションを行った。エレクトロポレーション実施日に、実施例1の直線化した発現ベクター5μgを含む100μLのトランスフェクション溶液(Nucleofector Kit V Solution、Lonza社、メリーランド州ウォーカーズビル)を使用して、3×106細胞を懸濁した(初期対数期)。次に、細胞/DNA混合物をNucleofector 2bエレクトロポレーションデバイスのキュベットに移し、プログラムU‐24(Lonza社)を使用してDNAを細胞にエレクトロポレーションした。エレクトロポレーション後、細胞を直ちに予熱したCD‐CHO培地(薬剤選択なし)を含む24ウェルプレートに移し、5%CO2を含む37℃の加湿環境でインキュベートした。24時間インキュベーションした後、エレクトロポレーション後の細胞を、25μM L‐メチオニンスルホキシミン(MSX)を含むCD‐CHO培地で3000細胞/ウェルの密度で96ウェルマイクロプレートに播種し、湿度95%、5%CO2、37℃で2~3週間インキュベートした。トランスフェクトに成功した細胞コロニーは2~3週間のインキュベーション後に見られ、FVIII発現細胞は上清の1段階凝固アッセイを使用して選択した。次に、選択した細胞プールを96ウェルプレートから6ウェルプレートに徐々に拡大し、最終的には懸濁培養用のシェーカーフラスコに拡張した。次に、選択した細胞プールを、0.3細胞/ウェルの細胞密度で限定希釈クローニングに供した。1L振とうフラスコで1000IU/mLを超えるFVIII発現レベルを、1段階凝固アッセイで測定した。
【0058】
実施例3 FVIIIタンパク質の発現及び精製
FVIII発現細胞プールを得て、FVIII発現レベルを流加培養で試験した。FVIII変異体及びトランケート型vWF‐Fc変異体の両方を発現する細胞を、最初にActiPro培地(Hyclone社、ユタ州ソルトレイクシティ)に適合させ、1×106/mLの細胞密度で播種した。細胞密度が6×106細胞/mLに達した時点で、製造元の推奨に従って、Cell Boost 7a/7bサプリメント(Hyclone社)を1日おきに添加した。細胞密度及びFVIII活性を定期的にチェックして、細胞増殖及びFVIII発現をモニターした。14日後、流加培養を終了し、細胞培養培地を100×gで遠心分離して細胞培養上清を回収し、‐80℃の冷凍庫に保存した。
【0059】
FVIII精製では、清澄化した上清をさらに高速遠心分離で処理した後、0.45μmフィルターでろ過した。上清を等量の希釈バッファー(40mM Tris‐HCl、pH7.0、150mM NaCl)と混合した。AKTA Pureクロマトグラフィーシステムを使用して、希釈した上清をHiTrap MabSelect PrismAカラムにロードし、カラムを10カラム容量(CV)の洗浄バッファー(20mM Tris‐HCl、pH7.0、150mM NaCl)で洗浄した。FVIIISelectアフィニティーリガンドカラム(GE Healthcare社)をプロテインAカラム出口と直列に接続した。溶出バッファー(20mM Tris‐HCl、pH7.0、0.3M CaCl2)をプロテインAカラムにアプライして、結合したvWF‐Fc融合複合体からFVIIIを分離した。洗浄後、接続したカラム列を分離し、FVIII溶出バッファー(20mM ヒスチジン、20mM CaCl2、1.5M NaCl、及び50%エチレングリコール中0.02%Tween‐80、pH6.5)を使用してFVIIISelectカラムからFVIIIを溶出した。次に、精製したBDD‐FVIIIを、0.3%(w/v)スクロース、2.2%(w/v)グリシン、20mM ヒスチジン、220mM NaCl、25mM CaCl2、及び0.008%Tween‐80(pH6.9)にバッファー交換し、タンパク質の特性評価を行った。
【0060】
FVIII精製中間体及び最終生成物は、SDS‐PAGEゲル(
図7A)及び対応するウエスタンブロット(
図7B)のレーン4~6に示されている。
【0061】
実施例4 トランケート型vWF‐Fcダイマー及び多量体形態分析
非還元4%SDS‐PAGEゲルでの電気泳動分析により、4つの組換えトランケート型vWF‐Fcポリペプチドコンストラクトを二量体又は高分子量複合体(すなわち、多量体)を形成する能力について評価した。電気泳動後、ゲルをクマシーブリリアントブルーで染色した(
図8)。結果は、vWF‐FcバリアントであるPro‐D’D3‐Fc(レーン2)及びDel‐D’D3‐Fc(レーン3)の両方は、約160kDの二量体及び多量体(>180kD)を形成したが、変異を含むvWF‐FcバリアントであるPro‐D’D3mut‐Fc(レーン4)及びDel‐D’D3mut‐Fc(レーン5)は、多量体形成を阻止する変異であったため、約160kDの二量体のみを形成したことを示した。
【0062】
実施例5 Bドメイン欠失(BDD)‐FVIIIへのトランケート型vWF‐Fcポリペプチド結合親和性の特性評価
トランケート型vWF‐Fcバリアントのそれぞれに対応する組換えタンパク質コンストラクトをCHO‐K1細胞で発現させ、プロテインAアフィニティークロマトグラフィーを使用して上清からタンパク質を精製した。それぞれのFVIII結合親和性を特性評価するために、等モル量のvWF‐FcバリアントをTBSTバッファー(20mM Tris、pH7.6、150mM NaCl、0.1%Tween‐20)で調製し、96ウェルマイクロプレートに4℃で一晩直接コーティングした。コーティング後、プレートをTBST‐3%ウシ血清アルブミン(BSA)バッファーで室温(RT)で2時間ブロックし、組換えFVIII(Prospec Bio社、ニュージャージー州イーストブランズウィック)の濃度を上げながら(0~4000pM)室温(RT)で1時間インキュベートした。平衡化及び洗浄後、結合したFVIIIをヒツジ抗FVIIIポリクローナル抗体で検出し、続いてそれ自体が西洋ワサビペルオキシダーゼに結合したヒツジIgGに対する二次抗体で検出した。吸光度測定値からブランク値を差し引いた。アッセイは3連で行った。結合アッセイの分析は、4つ全てのvWF‐Fcフラグメントが、完全長血漿由来vWFのBDD‐FVIIIへの結合親和性に相当する同様の見かけの親和性定数(約500pM)で組換えBDD‐FVIIIに結合することを示した(Shiltagh et al., Blood, vol. 123, p. 4143‐4151, 2014)。
【0063】
実施例6 vWFバリアントD’D3mut‐Fcは、FVIII精製回収率を改善する
上記のように、成熟した野生型Pro‐D’D3‐Fc融合タンパク質は、D3ドメインによって媒介されるN末端ジスルフィド結合及びFcドメインによって媒介されるC末端二量体化を介して、多量体形成、及びおそらくタンパク質凝集をもたらす。このような凝集は、プロテインAのようなFc親和性マトリックスへのvWF‐Fcの結合を妨害し、さらに、FVIII/vWF‐Fc複合体からのFVIII溶出は、凝集体の形成によって損なわれる。アミノ酸C1099及びC1142に変異を導入することにより、二量体形成が促進される一方で、多量体集合が中断され、均一なvWF‐Fc二量体の形成がもたらされる。したがって、プロテインAマトリックスでのFVIII捕捉(FVIII/vWF‐Fc複合体の形態で)及びFVIII溶出(捕捉されたFVIII/vWF‐Fc複合体からの)の両方が改善される。
【0064】
FVIIIとPro‐D’D3‐Fc又はDel‐D’D3mut‐Fcのいずれかを共発現するトランスフェクト細胞からの細胞培養培地を、プロテインAクロマトグラフィーを用いて精製した。FVIII‐vWF精製回収率を表2にまとめた。結果は、FVIIIがPro‐D’D3‐Fc融合と共発現されるよりもFVIIIがDel‐D’D3mut‐Fcと共発現される場合、FVIII‐vWF精製回収率が著しく高いことを示している(87%対64%)。さらに、Pro‐D’D3‐Fcバリアントを使用したFVIII精製中に、おそらく多数の高分子量多量体が存在するために、高いカラム背圧が一貫して観察された。
【0065】
【0066】
実施例7 組換えトランケート型vWF‐Fcバリアントは、可溶性FVIII発現を増強する
BDD‐FVIIIが細胞系で単独で発現される場合、BDD‐FVIIIの90%が細胞膜に結合することが示唆されるが、この理由は不明である(Kolind et al, J. Biotech., 2011, 151, pp. 357‐362)。この現象は、FVIII分子が血漿中のvWFと非共有結合複合体で存在し、循環し、細胞膜とのFVIII相互作用をブロックしたため、必然的に説明され得る。
【0067】
トランケート型vWF‐Fc融合タンパク質の共発現が組換えFVIII発現を増加させることが可能かどうかを試験するために、4つの精製vWF‐Fcバリアント(Pro‐D’D3‐Fcタンパク質、Pro‐D’D3muts‐Fcタンパク質、Del‐D’D3mut‐Fcタンパク質、及びDel‐D’D3‐Fcタンパク質)、血漿vWF、及びネガティブコントロールタンパク質(HSA)をアッセイに含めた。
【0068】
4つのトランケート型組換えvWF‐Fcバリアントを、CHO細胞で発現し、プロテインAクロマトグラフィーで精製した。BDD‐FVIIIと共発現するトランケート型vWF‐Fcバリアントは、BDD‐FVIIIを細胞結合から保護することにより、細胞培養におけるBDD‐FVIIIの収率を増加させ得ることを実証するために、BDD‐FVIIIを単独発現する細胞株の上清に、4つの組換えトランケート型vWF‐Fcバリアントのそれぞれの等量、並びに完全長血漿由来vWF(FL‐vWF)を添加した。ネガティブコントロールとしてヒト血清アルブミン(HSA)を添加した。細胞培養上清のFVIII活性は、各試料の1段階凝固アッセイを使用して2時間ごとに試験した。結果は、4つ全てのトランケート型vWF‐Fcバリアント、及び血漿由来の完全長vWFが、細胞培養におけるFVIII収率を大幅に増加させる可能性があることを示した。予想外に、Del‐D’D3mut‐Fc融合は、FVIII発現に対して最も高い効果を示した(
図9)。FVIIIを単独発現する細胞又はHSAを添加した細胞培養物は、FVIII活性の検出可能な増加を示さなかった。
【0069】
実施例8 トランケート型vWF‐Fcフラグメント(Del‐D’D3mut‐Fc)とヒトFVIIIとの共発現は、細胞膜へのFVIIIの結合を完全にブロックした
Bドメイン欠失FVIIIは、組換えタンパク質の生産中に細胞膜と有意に相互作用し、それによって細胞培養におけるその見かけの発現を低下させることが認識されている。
【0070】
この観察を確認するために、ヒトBDD‐FVIIIを単独発現する細胞からの細胞培養培地を、室温で5分間、0.5M NaCl(塩イオンは、非特異的タンパク質‐表面相互作用を調節するために、荷電タンパク質上に電荷遮蔽/電気二重層を付与する)で処理し、次に遠心分離して上清を回収した。FVIII凝固活性は、NaCl処理及び未処理の両方の上清に対して1段階凝固アッセイを使用して測定した。結果は、分泌されたBDD‐FVIIIの90%が細胞に結合したことを示した。対照的に、FVIIIがvWF‐FcバリアントDel‐D’D3mut‐Fcと共発現する場合、NaClの添加は細胞培養上清のFVIII活性を増加させなかった。Del‐D’D3mut‐Fcは、細胞膜へのFVIII結合を完全にブロックし、ほぼ100%分泌された組換えBDD‐FVIIIが細胞培養上清に放出されたことを示唆している。
【0071】
実施例9 組換えトランケート型vWF‐Fcバリアント(Del‐D’D3mut‐Fc)は、細胞培養におけるFVIIIのインビトロ安定性を強化した
文献によると、組換えBDD‐FVIIIは、室温(RT)の細胞培養培地でのインビトロ安定性が低いことが示されている。
【0072】
vWFとの共発現が細胞培養におけるFVIIIの安定性を高める得るかどうかを判断するために、細胞培養で単独で発現するか、Del‐D’D3mut‐Fcバリアントと共発現するFVIIIの安定性を評価した。FVIII又はFVIII‐Del‐D’D3mut‐Fc複合体のいずれかを含む細胞培養培地の試料を室温で試験し、各試料のFVIII活性を、時間間隔(0、4、8、及び24時間)で1段階凝固アッセイを使用して測定した。結果は、予想外に、Del‐D’D3mut‐Fc vWFバリアントと共発現したFVIIIが、室温で少なくとも24時間、その活性を変化させずに維持し得ることを示した(
図10)。このvWF‐Fcバリアントとの共発現がなければ、FVIIIは安定せず、その活性のほぼ90%が24時間で失われた(
図10)。
【0073】
実施例10 トランケート型vWF‐Fcバリアント(Del‐D’D3mut‐Fc)の共発現は、ウイルス不活化手順中に組換えFVIIIを安定化した
組換えBDD‐FVIIIを単独発現する細胞培養物、及びDel‐D’D3mut‐Fc vWFバリアントと共発現するBDD‐FVIIIを含む細胞培養物を、ウイルス不活化試薬(1%Triton X‐100及び0.3%リン酸トリ(n‐ブチル))で24時間処理した。FVIII凝固活性は、各試料について一定の間隔(不活化試薬で処理してから0、4、8、及び24時間後)で1段階凝固アッセイを使用してモニターした。結果は、FVIIIを単独発現する細胞培養物は、8時間のウイルス不活化処理後にその活性のほぼ90%を失ったことを示した。対照的に、FVIII‐vWF‐Fcを発現する細胞培養のFVIII活性は、同じ期間に約40%しか失われなかった。結果は、共発現されたvWF‐Fcバリアントがウイルス不活化プロセス中にFVIII活性化を実質的に安定化したことを示した(
図11)。これは、Del‐D’D3mut‐Fcバリアントがこれらの条件下で非常に安定していることを示している。
【0074】
本発明、ならびにそれを作成及び使用する方法及びプロセスは、現在、それが関係する当業者が同じものを作成及び使用することを可能にするような完全、明確、簡潔且つ正確な用語で説明されている。前述のことは、本発明の好ましい実施形態を説明し、特許請求の範囲に記載されている本発明の範囲から逸脱することなく、本発明の中で修正を行うことができることを理解されたい。発明とみなされる対象を特に指摘し、明確に主張するために、以下の特許請求の範囲は明細書を結論付ける。
【配列表】