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特許7572387水解性清掃物品の製造方法及び繊維の改質方法
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  • 特許-水解性清掃物品の製造方法及び繊維の改質方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】水解性清掃物品の製造方法及び繊維の改質方法
(51)【国際特許分類】
   D21B 1/08 20060101AFI20241016BHJP
   A47L 13/16 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
D21B1/08
A47L13/16 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022020889
(22)【出願日】2022-02-14
(65)【公開番号】P2023118014
(43)【公開日】2023-08-24
【審査請求日】2023-06-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松永 拓也
【審査官】橋本 憲一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-117821(JP,A)
【文献】特開2003-268699(JP,A)
【文献】特開2000-027083(JP,A)
【文献】特開2015-052194(JP,A)
【文献】特開2006-081883(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0037724(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B 1/00-1/38
D21C 1/00-11/14
D21D 1/00-99/00
D21F 1/00-13/12
D21G 1/00-9/00
D21H 11/00-27/42
D21J 1/00-7/00
A47L 13/00-13/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
古紙由来のセルロース繊維を、水に分散させ次いで加熱乾燥させる処理を2回以上行い原料繊維を製造する工程、
前記原料繊維を用いた湿式抄造によって、該原料繊維及び水溶性バインダを含有する実質的に水分散可能な繊維シートを製造する工程、及び
前記繊維シートに水性薬剤を保持させる工程、を有する水解性清掃物品の製造方法であって、
前記処理にヤンキードライヤーを用い、該ヤンキードライヤーの周面の温度を90℃以上140℃以下に設定して加熱し、且つ、含水率が10質量%以下になるまで乾燥し、
前記処理の各回における各条件は、別の回における各条件と同じであってもよく、あるいは異なっていてもよく、
前記原料繊維の平均繊維長が0.5mm以上1.6mm以下で且つフィブリル度が2.0%未満となるように、前記古紙由来のセルロース繊維に対して前記処理を行う、水解性清掃物品の製造方法。
【請求項2】
前記原料繊維のフィブリル度が1.0以上1.9以下となるように、前記古紙由来のセルロース繊維に対して前記処理を行う、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
古紙由来のセルロース繊維を、水に分散させ次いで加熱乾燥させる処理を2回以上行う、繊維の改質方法であって、
前記処理にヤンキードライヤーを用い、該ヤンキードライヤーの周面の温度を90℃以上140℃以下に設定して加熱し、且つ、含水率が10質量%以下になるまで乾燥し、
前記処理の各回における各条件は、別の回における各条件と同じであってもよく、あるいは異なっていてもよく、
前記繊維の平均繊維長が0.5mm以上1.6mm以下で且つフィブリル度が2.0%未満となるように、前記古紙由来のセルロース繊維に対して前記処理を行う、繊維の改質方法。
【請求項4】
フィブリル度が1.0%以上1.6%以下となるように、前記古紙由来のセルロース繊維に対して前記処理を行う、請求項3に記載の改質方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水解性清掃物品の製造方法に関する。また本発明は、繊維の改質方法に関する。
【背景技術】
【0002】
使用後に水に流して廃棄するタイプの水解性清掃物品として、木材パルプ等のセルロース繊維を水溶性バインダで結着させた水解性シートに、水性薬剤を含浸させたウエットタイプの水解性清掃物品が知られている。この種の水解性清掃物品には、多量の水中に投入された場合に速やかに崩壊分散する水解性と、実用上十分な湿潤強度とが要求される。
【0003】
水解性と湿潤強度とのバランスを図る観点から、これまで前記の水解性清掃物品にはバージンパルプが用いられてきた。しかし昨今、企業の経営や成長において、環境・社会・ガバナンスという3つの観点、すなわちESG視点に基づく商品開発の考え方が盛んになってきており、この考えは水解性清掃物品の技術開発にも及んでいる。そこで本出願人は先に、水解性清掃物品を構成する水解性シートの原料繊維として古紙由来のセルロース繊維を用いることを提案した(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2021-069641号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
古紙由来のセルロース繊維はバージンパルプと物性が異なることから、バージンパルプを原料として用いた従来の水解性清掃物品に関する技術をそのまま古紙由来のセルロース繊維に適用しても、水解性と湿潤強度とを両立させることは容易でない。
したがって本発明の課題は、実用上十分な湿潤強度及び水解性を有し、更に、古紙の使用により環境に配慮された水解性清掃物品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、古紙由来のセルロース繊維を、水に分散させ次いで加熱乾燥させる処理を2回以上行い原料繊維を製造する工程、
前記原料繊維を用いた湿式抄造によって、該原料繊維及び水溶性バインダを含有する実質的に水分散可能な繊維シートを製造する工程、及び
前記繊維シートに水性薬剤を保持させる工程、を有する水解性清掃物品の製造方法を提供するものである。
【0007】
また本発明は、古紙由来のセルロース繊維を、水に分散させ次いで加熱乾燥させる処理を2回以上行う、繊維の改質方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法によれば、実用上十分な湿潤強度及び水解性を有し、更に、古紙の使用により環境に配慮された水解性清掃物品が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1(a)ないし(d)は、本発明の水解性清掃物品の製造方法において用いられる原料繊維の製造工程を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明する。
本発明の製造方法においては、水解性清掃物品の原料として、古紙由来のセルロース繊維を用いる。古紙由来のセルロース繊維は、バージンパルプを原料として製造された紙をリサイクルして得られたセルロース繊維、及び古紙をリサイクルして得られたセルロース繊維を含み、バージンパルプそのものは含まない。本発明において水解性清掃物品の原料として古紙由来のセルロース繊維を使用する主な理由は環境負荷の低減であり、古紙由来のセルロース繊維を積極的に使用することで、地球温暖化防止や廃棄物削減などの様々な環境問題の防止・解決に少しでも貢献することを目指したものである。また、古紙由来のセルロース繊維を原料として使用することで、水解性清掃物品の製造コストの低減が期待できる。
【0011】
しかしながら古紙由来のセルロース繊維は、リサイクルに供される前の使用状況が様々に異なり、使用状況によって品質に大きなばらつきがあり、すべてがリサイクルに適しているわけではない。況してや、湿潤強度と水解性とが高いレベルで両立した水解性清掃物品の主原料として古紙由来のセルロース繊維を用いるとなれば、選択可能な古紙由来のセルロース繊維はごく限られたものとなることが予想される。本発明者は斯かる背景の下、フィブリル度という概念に着目し、種々検討した結果、以下の表1に示すとおり、古紙由来のセルロース繊維は、バージンパルプに比べてフィブリル度が高いこと、平均繊維長が短いこと、並びに化学・機械処理及び不純物由来の微細繊維が多く含まれていることを知見した。なお、フィブリル度は、セルロース繊維のフィブリル化(特に外部フィブリル化)の程度を示す指標となるもので、フィブリル度の数値が大きいほど、セルロース繊維のフィブリル化が進行していることを意味している。
【0012】
【表1】
【0013】
平均繊維長が短く、フィブリル度が高く、且つ微細繊維を多く含むという、バージンパルプとは特性が全く異なる繊維である古紙由来のセルロース繊維は、それらの特性に起因して繊維どうしの絡み合いの程度が低く、その結果、紙の強度が低下しやすい。また、フィブリル化した繊維が密な構造をとることに起因して、紙への水浸透性が低く、それによって水解性が悪化しやすい。
詳細には、相対的にフィブリル度が大きいセルロース繊維は、相対的にフィブリル度が小さいセルロース繊維に比べて、外部フィブリル化が進行しており、繊維の外側のフィブリルが毛羽立っていて比表面積が増大しているため、フィブリルによる物理的絡み合いが促進され、繊維どうしの結合が強まる結果、紙の水解性が低下してしまい、多量の水中に投入しても崩壊分散し難い紙となってしまう。
【0014】
以上のとおり、バージンパルプとは特性が全く相違する繊維である、古紙由来のセルロース繊維を、水解性清掃物品の原料として用いるようにするために本発明者が鋭意検討したところ、古紙由来のセルロース繊維を、(i)水に分散させること、及び(ii)加熱乾燥させることの2つの工程を一連の処理として、この処理を2回以上繰り返し行うと、繊維の表面がより滑らかな状態に近づき、繊維のフィブリル度が低下することを見出した。
【0015】
詳細には、図1(a)に示すとおり、古紙由来のセルロース繊維を水に分散させてスラリー10となす。このスラリー10を図1(b)及び(c)に示すとおり脱水・プレスして湿潤状態の紙匹11を製造する。この紙匹11を図1(d)に示すとおり乾燥させて紙12を得る。この一連の操作を1セットとし、このセットを2回以上繰り返す。最後のセットにおいて図1(d)に示す操作を行って紙12を得た後に、その紙12を水中で離解させることで、本発明の製造の対象となる水解性清掃物品の原料であるセルロース繊維が得られる。
【0016】
図1(a)に示す操作において、水に分散させるセルロース繊維は古紙由来のものである。古紙由来のセルロース繊維の意味については先に述べたとおりである。
スラリー10は、古紙由来のセルロース繊維と水とを含むことを基本組成とし、必要に応じ任意成分を添加することができる。任意成分としては例えば天然多糖類、多糖誘導体、合成高分子などが挙げられる。天然多糖類としては、例えば、アルギン酸ナトリウム、トラントガム、グアーガム、キサンタンガム、アラビアゴム、カラギーナン、ガラクトマンナン、ゼラチン、カゼイン、アルブミン、プルプランが挙げられる。多糖誘導体としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、カルボキシメチル化デンブン又はその塩、デンプン、メチルセルロース、エチルセルロースが挙げられる。合成高分子としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコール誘導体、不飽和カルボン酸の重合体又は共重合体の塩、不飽和カルボン酸と該不飽和カルボン酸と共重合可能な単量体との共重合体の塩が挙げられる。また、不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、無水マレイン酸、マレイン酸、フマール酸が挙げられる。
【0017】
スラリー10の調製においては、撹拌翼を用いた撹拌装置を用い、古紙由来のセルロース繊維を水に十分に分散させる。古紙由来のセルロース繊維の性状によっては、ビーターやリファイナーなど、一般的な湿式抄造方法で用いられる装置による処理を併用してもよい。
【0018】
以上のようにしてスラリー10が調製できたら、図1(b)及び(c)に示すとおり、このスラリー10を脱水・プレスして紙匹11を得る。紙匹11におけるセルロース繊維の坪量は20g/m以上60g/m以下に設定することが、紙の強度と水解性の両立という物性の点、及び紙の風合いの点から好ましい。
脱水・プレスには一般的な湿式抄造方法で用いられる抄紙機、例えば丸網抄紙機や長網抄紙機を用いることができる。
脱水によって形成された紙匹は、例えば80質量%ないし90質量%の水を含んでいる。
プレスは、例えば脱水によって形成された紙匹11をその両面から圧縮することで行われる。紙匹11の圧縮には例えば厚手のフェルトを用いることができる。プレスによって紙匹11に含まれる水の割合を40質量%ないし70質量%まで低下させることができる。
【0019】
プレスによって得られた紙匹11は図1(d)に示すとおり乾燥工程に付される。紙匹11の乾燥は例えばヤンキードライヤなど、一般的な湿式抄造方法で用いられる加熱乾燥装置を用いることができる。加熱乾燥の条件としては、例えばヤンキードライヤを用いる場合には、周面の温度を90℃以上140℃以下に設定することが好ましい。紙匹11の乾燥によって紙12が得られる。得られた紙12の含水率は好ましくは10質量%以下であることが好ましい。
なお、一般的な紙の製造では、紙匹の乾燥によって得られた紙に対して後工程としてカレンダ加工が施されることが多いが、本発明においてはカレンダ加工は行わない。
【0020】
以上で、図1(a)ないし(d)に示す一連の処理が完了する。この処理によって得られた紙を水中に離解させて、再び図1(a)ないし(d)に示す一連の処理を1回又は2回以上行う。合計で2回以上の処理を施す理由は、図1(a)ないし(d)に示す1セットの処理のみでは、古紙由来のセルロース繊維のフィブリル度を十分に低下させることができないからである。この観点から、図1(a)ないし(d)に示す一連の処理を少なくとも2回以上繰り返し行うことが好ましく、更に好ましくは3回以上、一層好ましくは5回以上繰り返し行う。処理を繰り返す回数を多くすればするほど、セルロース繊維のフィブリル度は低下し、且つ、微細繊維の含有割合が低下する。これらの結果、以上の処理を2回以上繰り返して得られるセルロース繊維を原料として水解性清掃物品を製造すると水解性が向上する。繰り返し回数の上限は、経済性の観点及びシートの強度の観点から5回とすることが好ましい。なお、図1(a)ないし(d)に示す一連の処理を複数回繰り返しても、セルロース繊維の平均繊維長に大きな変化が観察されないことを本発明者は確認している。
【0021】
図1(a)ないし(d)に示す一連の処理を複数回繰り返す場合、各回における各条件は、別の回における各条件と同じであってもよく、あるいは異なっていてもよい。
【0022】
図1(a)ないし(d)に示す一連の処理は、セルロース繊維のフィブリル度が、好ましくは2.0%未満、更に好ましくは1.9%以下となるように2回以上繰り返すことが好ましい。このような処理が施された原料繊維を用いることで、湿潤強度と水解性とが高いレベルで両立した水解性清掃物品を製造することができる。フィブリル度は、好ましくは1.2%以上、更に好ましくは1.3%以上、一層好ましくは1.5%以上である。
【0023】
また、図1(a)ないし(d)に示す一連の処理は、セルロース繊維の平均繊維長が、好ましくは0.5mm以上1.6mm以下、更に好ましくは0・6mm以上1.4mm以下、一層好ましくは0.65mm以上1.2mm以下となるように2回以上繰り返すことが好ましい。これによっても湿潤強度と水解性とが高いレベルで両立した水解性清掃物品を製造することができる。
【0024】
セルロース繊維のフィブリル度及び平均繊維長の測定方法は以下のとおりである。
フィブリル度は、繊維画像分析アナライザーを用いて測定する。具体的には、市販の繊維画像分析アナライザー(バルメットオートメーション製ValmetFS5)を用い、そのマニュアルに従って測定する。測定原理は、測定対象の繊維の水分散液を調製し、この水分散液を内径0.5mmの管に注入して一方向に流し、その流れる様子を光源の存在下でCCDカメラ等の撮像手段によって撮像し、得られた画像に基づき、各繊維について、繊維のフィブリル部分と、それ以外の部分とに識別する。そして、「繊維の全体面積に対する、フィブリル部分の面積の割合」(以下、「フィブリル面積率」ともいう。)を測定するというものである。このフィブリル面積率がフィブリル度である。フィブリル度が小さいということは、フィブリル面積率が小さい、すなわち、外部フィブリル化があまり進行していないことを意味する。
セルロース繊維の平均繊維長は、前述のフィブリル度の測定で用いた測定機器(ValmetFS5)を用い、そのマニュアルに従って測定することができる。
【0025】
前述したとおり、水解性清掃物品の原料となるセルロース繊維は古紙由来のものである。古紙としては、製紙原料として回収されたものを用いることができる。我が国では、資源有効利用促進法(平成3年10月25日施行)運用通達で、古紙を以下のように定義している。本発明では以下の定義に当てはまる古紙を用いることができる。
古紙の定義:紙、紙製品、書籍等その全部又は一部が紙である物品であって、一度使用され、又は使用されずに収集されたもの、又は廃棄されたもののうち、有用なものであって、紙の原料として利用することができるもの(収集された後に輸入されたものも含む。)又はその可能性があるもの。ただし、紙製造事業者の工場又は事業場(以下「工場等」という。)における製紙工程で生じるもの及び紙製造事業者の工場等において加工等を行う場合(当該紙製造事業者が、製品を出荷する前に委託により、他の事業者に加工を行わせる場合を含む)に生じるものであって、商品として出荷されずに当該紙製造事業者により紙の原材料として利用されているものは除く。
【0026】
本発明で使用可能な古紙として、例えば、新聞、雑誌、段ボール、「上白・カード」(例えば、上白、クリーム上白、罫白)、特白、中白、「模造・色上」(例えば、模造、色上、ケント、白アート、チラシ、飲料用紙パック、オフィスペーパー)、「切符・中更反古」(例えば、特上切、別上切、中更反古)、茶模造紙(例えば、切茶・無地茶、雑袋、クラフト段ボール)、「台紙・地券・ボール」(例えば、ワンプ、上台紙、台紙、雑がみ)等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの古紙の中でも、水解性清掃物品に所望の性能(水解性、湿潤強度)を確実に付与する観点から、「模造・色上」(インキのついている上質紙や飲料用紙パック)が好ましく、牛乳パックなどの飲料用紙パックがより好ましい。
【0027】
古紙由来のセルロース繊維は、天然セルロース繊維でもよく、非天然セルロース繊維でもよい。天然セルロース繊維としては、例えば、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)に代表される針葉樹由来のパルプや広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)に代表される広葉樹由来のパルプ等の木材パルプ;綿パルプや麻パルプ等の非木材パルプが挙げられる。非天然セルロース繊維としては、例えば、カチオン化パルプ、マーセル化パルプ等の変性パルプ;キュプラ、レーヨン等の再生セルロース繊維が挙げられる。古紙由来のセルロース繊維は、典型的には、木材パルプ(NBKP、LBKPなど)である。
【0028】
図1(a)ないし(d)に示す一連の処理を2回以上繰り返して得られたセルロース繊維(以下「原料繊維」ともいう。)を用いて水解性清掃物品を製造するには、以下の工程を行うことが好ましい。
例えば、原料繊維を含む分散液から公知の湿式抄造方法により湿潤状態のシートを製造し、該シートにプレス脱水処理及び/又は熱風吹き付け等の加熱処理を施して乾燥ないし半乾燥状態とした後、該シートの片面に水溶性バインダを噴霧又は塗布する等して付与し、更に乾燥することで、原料繊維及び水溶性バインダを含有する実質的に水分散可能な繊維シートを製造することができる。
【0029】
原料繊維を含む分散液には、該原料繊維以外の他の繊維を含有させてもよい。他の繊維としては、例えば、古紙由来ではないセルロース繊維;ポリ乳酸等からなる生分解性繊維;ポリプロピレン繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリエステル繊維、ポリアクリロニトリル繊維等の合成繊維等が挙げられる。これらの繊維は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
前記繊維シートに含有されるすべての繊維に占める、原料繊維以外の他の繊維の割合は、好ましくは50質量%以下、より好ましくは20質量%以下である。
一方、前記繊維シートに含有されるすべての繊維に占める、原料繊維の割合は好ましくは50質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更により好ましくは100%質量%である。
【0030】
繊維シートは、その坪量が、柔らかさと十分な湿潤強度とのバランスの点から、好ましくは20g/m以上、より好ましくは40g/m以上、そして、好ましくは120g/m以下、より好ましくは60g/m以下である。
【0031】
このようにして得られた繊維シートに対し、必要に応じ、水が添加されて、嵩高エンボスによる凹凸賦形が施されると同時、あるいはその直後に乾燥が施されて、多数の凹凸部を有する嵩高な繊維シートを得る。このような製法は、例えば、特開2006-81883号公報の図4に示すような嵩高凹凸賦形と同時に乾燥ができるヒートエンボス装置によって行われる。
【0032】
このようにして得られた繊維シートに水性薬剤を保持させることで、目的とする水解性清掃物品が得られる。この水解性清掃物品は、水性薬剤が含浸されている程度では水解しないが、大量の水中に廃棄されると速やかに且つ繊維レベルでばらばらに崩壊する。水解性清掃物品1の水解の程度は、JIS P 4501-1993(トイレットペーパー)に規定されるほぐれやすさで表され、この値が低いほど水解性が良好であることを意味する。ほぐれやすさの目安として100秒以下が好ましく、更に好ましくは60秒以下が好ましい。
【0033】
上述の水解性清掃物品の製造方法に用いられる水溶性バインダは、湿潤状態の繊維シートの湿潤強度の発現に寄与する他、繊維シートの水解性に影響を及ぼし得る。
【0034】
繊維シートに含有される水溶性バインダとしては、繊維シートが水性薬剤を保持して湿潤状態にあるときに、該バインダが一時的に不溶化することで、繊維シートの構成繊維どうしの結合を維持する結合剤として機能し、水解性清掃物品の使用時の強度維持の役割を果たすものが好ましく、このような機能を有する水溶性バインダとして、天然多糖類、多糖誘導体、合成高分子を例示できる。なお、前記の「水溶性バインダの一時的な不溶化」は、典型的には、繊維シートの保持される水性薬剤中のバインダ不溶化成分(例えばバインダの架橋剤)の作用によって起こる。
【0035】
天然多糖類としては、例えば、アルギン酸ナトリウム、トラントガム、グアーガム、キサンタンガム、アラビアゴム、カラギーナン、ガラクトマンナン、ゼラチン、カゼイン、アルブミン、プルプランが挙げられる。
多糖誘導体としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、カルボキシメチル化デンブン又はその塩、デンプン、メチルセルロース、エチルセルロースが挙げられる。
合成高分子としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコール誘導体、不飽和カルボン酸の重合体又は共重合体の塩、不飽和カルボン酸と該不飽和カルボン酸と共重合可能な単量体との共重合体の塩が挙げられる。また、不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、無水マレイン酸、マレイン酸、フマール酸が挙げられる。
【0036】
前述した水溶性バインダの中でも、カルボキシル基を有する水溶性バインダが、バインダとしての性能が良好となる点、及び後述する架橋剤との親和性が良好である点から好ましい。カルボキシル基を有する水溶性バインダとしては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、カルボキシエチルセルロース又はそれらの塩を例示できる。
【0037】
上述した水溶性バインダを含む繊維シートに施される水性薬剤は、典型的には、繊維シートが含有する水溶性バインダを不溶化させるバインダ不溶化成分を含有する。その理由は以下のとおりである。すなわち、繊維シートは水解性を有するため、これに水性薬剤の如き水性液を含浸させると容易に崩壊してしまうおそれがあるので、繊維シートの保形性を向上し、少量の水の存在下では繊維シートが崩壊しないようにするために、繊維シートに保持される水性薬剤中にバインダ不溶化成分を含有させ、繊維シートに含有されている水溶性バインダの不溶化を促進するのである。例えば、繊維シートが保持する水性薬剤中にバインダ不溶化成分として架橋剤を含有させた場合には、その架橋剤によって水溶性バインダが架橋して不溶化するため、少量の水では水溶性バインダが溶解しなくなり、その結果、繊維シートの保形性が向上し、繊維シートに少量の水がかかっても崩壊し難くなる。しかし、繊維シートを多量の水中に投入した場合には、不溶化が一時的に抑制されていた水溶性バインダが再び水に溶解するようになるため、繊維シートは速やかに且つ繊維レベルでばらばらに崩壊し得る。
【0038】
架橋剤(バインダ不溶化成分)としては、使用する水溶性バインダの種類等に応じて適切なものを選択すればよく、特に制限されないが、例えば前述したCMCなどの、カルボキシル基を有する水溶性バインダを繊維シートに含有させる場合には、その架橋剤として多価金属イオンを用いることが好ましい。特にアルカリ土類金属、マンガン、亜鉛、コバルト及びニッケルからなる群から選択される1種又は2種以上の二価の金属イオンを用いることが、繊維シートにおいて繊維間が十分に結合されて使用に耐え得る強度が発現する点、及び繊維シートの水解性が十分になる点から好ましい。これらの二価の金属イオンのうち、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、亜鉛、コバルト、ニッケルのイオンを用いることが特に好ましい。二価の金属イオンは、水酸化物、塩化物、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、ギ酸塩、酢酸塩などの水溶性金属塩の形で水性薬剤に添加される。
【0039】
水性薬剤は、バインダ不溶化成分としての架橋剤に加えて更に、水溶性有機溶剤を含有することが好ましい。これにより、水溶性バインダと架橋剤との架橋コンプレックスの生成が著しく増大し、そのコンプレックスが不溶化した状態で存在するので、繊維シートが保持する水性薬剤中の水性液の量が多くても、使用に耐え得る十分な強度が発現し得る。水溶性有機溶剤としては、例えば、エタノール、メタノール、イソプロピルアルコール等の一価アルコール;エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキシレングリコール等のグリコール類;前記グリコール類とメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の低級アルコールとのモノ又はジエーテル;前記グリコール類と低級脂肪酸とのエステル;グリセリンやソルビトール等の多価アルコール等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0040】
本発明の製造方法で得られた水解性清掃物品は、例えば対物用としてトイレ、洗面所、台所など水回りの清掃、対人用としては、おしり拭き、介護用からだ拭き、メーク落とし用シートとしても好適に用いられる。使用後の水解性清掃物品1はそのまま水に流して廃棄すればよく、水に流すと速やかに水解するので排水管を詰まらせることはない。
具体的には、本発明の製造方法で得られた水解性清掃物品は、後述する実施例で述べる方法によって測定される水解時間が好ましくは100秒以下である。水解時間が100秒以下の水解性清掃物品であれば、多量の水中に投入した場合に速やかに崩壊分散し得るからである。
また本発明の製造方法で得られた水解性清掃物品は、後述する実施例で述べる方法によって測定される湿潤引張強度が好ましくは300cN/25mm以上である。湿潤引張強度が300cN/25mm以上の水解性清掃物品であれば、通常の清掃又は清拭作業で破損し難く実用上問題ないからである。
【0041】
本発明によれば、上述した水解性清掃物品の製造方法に加え、古紙由来のセルロース繊維の改質方法も提供される。この改質方法は、古紙由来のセルロース繊維を、水に分散させ次いで加熱乾燥させる処理を2回以上行うものである。この方法を採用することによって、フィブリル度が高い古紙由来のセルロース繊維の該フィブリル度を低下させて、繊維の表面を滑らかな状態に近づけることができる。本改質方法において行われる工程は、上述した水解性清掃物品の製造に用いられる繊維の製造方法と同じであるので、ここでの重ねての説明は省略する。
【実施例
【0042】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明は斯かる実施例に限定されるものではない。特に断らない限り「%」は「質量%」を意味する。
【0043】
〔実施例1〕
汎用古紙(フィブリル度1.97%、平均繊維長0.762mm)を水に分散させ、手漉きにより紙匹を得た。この紙匹を、130℃に加熱されたヤンキードライヤで乾燥させ、坪量40g/mの紙を得た。この紙を水中に離解させ、同様の操作を更に1回繰り返し(合計2回)、それによって得られた紙を水に離解させて、原料繊維とした。原料繊維のフィブリル度及び平均繊維長は以下の表2に示すとおりであった。
【0044】
原料繊維を水に分散させたスラリー(繊維濃度約0.3%)に、水溶性バインダとしてCMCを所定量添加し、該スラリーを常法に従って湿式抄造することにより、坪量40g/mの繊維シートを得た。得られた繊維シートは、原料繊維の含有量が95%、CMCの含有量が固形分換算で5%であった。
この繊維シートを水性薬剤中に浸漬することにより、該繊維シートに該水性薬剤を保持させた。水性薬剤としては以下の処方の水性薬剤を用いた。繊維シートにおける水性薬剤の保持量(含浸量)は210%であった。こうして、繊維シートと水性薬剤とを含む水解性清掃物品を製造した。
〔水性薬剤の処方〕
・アルキルグルコシド 0.2%
・硫酸亜鉛 3%
・プロピレングリコールモノメチルエーテル 13%
・1,2-プロパンジオール 7%
・水 バランス(合計100%)
【0045】
〔実施例2〕
実施例1において汎用古紙を水に分散させてから加熱乾燥させるまでの処理を合計3回行った。それ以外は実施例1と同様にして水解性清掃物品を製造した。
【0046】
〔実施例3〕
実施例1において汎用古紙を水に分散させてから加熱乾燥させるまでの処理を合計5回行った。それ以外は実施例1と同様にして水解性清掃物品を製造した。
【0047】
〔比較例1〕
実施例1で用いた汎用古紙をそのまま用いた以外は実施例1と同様にして水解性清掃物品を製造した。
【0048】
〔評価〕
実施例及び比較例で得られた水解性清掃物品について、以下の方法で湿潤引張強度及び水解時間を測定した。それらの結果を以下の表2に示す。
【0049】
<湿潤引張強度の測定方法>
JIS P8113に基づき、水解性清掃物品について、その製造時の流れ方向の湿潤引張強度を測定する。水解性清掃物品から、流れ方向に70mm、幅方向に25mmの平面視長方形形状を切り出し、試験片とする。この試験片を、該試験片の流れ方向が引張方向となるように引張試験機(島津製作所製オートグラフAG-1kN)のチャックに無張力で取り付ける。チャック間距離は50mmとする。チャックに取り付けられた試験片を300mm/分の引張速度で引っ張り、該試験片が破断するまでの最大強度(単位:cN/25mm)を測定する。以上の測定を1種類の水解性清掃物品につき10回行い、それらの測定値の平均を当該水解性清掃物品の湿潤引張強度とする。湿潤引張強度の数値が大きいほど、湿潤強度が強く通常の使用では破れにくいと評価される。
【0050】
<水解時間の測定方法>
水300ml(水温20±5℃)及び回転子(直径35mm、厚さ12mmの円盤状)が入った容量300mlのビーカーをマグネチックスターラーに載せ、該回転子の回転数を600±10回転/分に設定する。このビーカーの中に、70mm×60mmの平面視四角形形状の水解性清掃物品を投入し、ストップウォッチを押す。回転子の回転数は、水中に存在する試験片の抵抗によって一旦は約500回転に減少するが、試験片の崩壊分散が進行するに従って増加する。回転子の回転数が540回転まで回復した時点でストップウォッチを止め、その時間を1秒単位で測定する。以上の測定を1種類の水解性清掃物品につき5回行い、それらの測定値の平均を当該水解性清掃物品の水解時間とする。水解時間が短いほど、水解性に優れ水中で容易に崩壊分散しやすいと評価される。
【0051】
【表2】
【0052】
表2に示す結果から明らかなとおり、各実施例で得られた水解性清掃物品は、比較例の水解性清掃物品に比べて水解時間が短く且つ湿潤引張強度が高いものであることが分かる。
【符号の説明】
【0053】
10 スラリー
11 紙匹
12 紙
図1