(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】甘味後引きを低減する方法
(51)【国際特許分類】
A23L 27/00 20160101AFI20241016BHJP
A23L 27/30 20160101ALI20241016BHJP
A23L 2/60 20060101ALI20241016BHJP
C07K 16/28 20060101ALN20241016BHJP
【FI】
A23L27/00 F
A23L27/30 A
A23L27/00 101A
A23L27/00 101Z
A23L2/00 C
A23L2/60
C07K16/28
(21)【出願番号】P 2022127194
(22)【出願日】2022-08-09
(62)【分割の表示】P 2019511231の分割
【原出願日】2018-04-02
【審査請求日】2022-09-07
(31)【優先権主張番号】P 2017073828
(32)【優先日】2017-04-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】309007911
【氏名又は名称】サントリーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100176094
【氏名又は名称】箱田 満
(72)【発明者】
【氏名】松嵜 直幸
(72)【発明者】
【氏名】植村 真秀
【審査官】澤田 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-024445(JP,A)
【文献】特表2015-511498(JP,A)
【文献】特表2009-517043(JP,A)
【文献】特開2008-072983(JP,A)
【文献】特開昭53-104771(JP,A)
【文献】国際公開第2012/177727(WO,A1)
【文献】国際公開第98/020753(WO,A1)
【文献】特表2010-535022(JP,A)
【文献】稲葉朱美,エリスリトールと高甘味度甘味料の組み合わせによる効果,食品と開発,日本,2001年04月01日,Vol.36,No.4,p.65-67
【文献】青山佐喜子 他,エリスリトールの甘味質について,大阪女子学園短期大学紀要,第34号,日本,大阪女子学園短期大学,1990年12月30日,p.19-31
【文献】Mark Wareing,Reduced sugar confectionery: no bitter sweet,Confectionery Production,日本,2016年,Vol.82, No.9,p.9-11
【文献】化学と生物,Vol. 52, No. 1,2014年,pp.23-32
【文献】J Pharm Sci,1999年,88(8),pp.830-834
【文献】J Cell Physiol,2006年,207(3),pp.614-627
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
Google
CAplus/FSTA(STN)
JSTplus/JMEDplus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のA、B、C、Dの4種類の部位
(A)味覚受容体のVFT部分
(B)味覚受容体の接続部分
(C)味覚受容体の膜貫通領域
(D)味覚細胞の膜トランスポータータンパク質
から選択される少なくとも1つの部位に高甘味度甘味料が結合することにより生じる甘味の後引きを低減する方法であって、
高甘味度甘味料が結合した部位を除く、A、B、C、Dの部位から選択される少なくとも1つの部位に前記高甘味度甘味料とは異なる甘味料が結合することにより、甘味後引きが低減され、
前記高甘味度甘味料と前記高甘味度甘味料とは異なる甘味料が、約1:10~10:1の甘味強度の割合で用いられ、
前記高甘味度甘味料
がレバウジオシド
Mであり、
前記高甘味度甘味料とは異なる甘味料が
、グルコー
スである、方法。
【請求項2】
(i
)レバウジオシド
Mと
(ii)グルコー
スと
を含み、
レバウジオシドMと
グルコースを約1:10~10:1の甘味強度の割合で含む、
甘味料組成物。
【請求項3】
レバウジオシドM1mgあたり
グルコースを200mg含む、請求項
2に記載の組成物。
【請求項4】
請求項
2または
3に記載の組成物を含む、飲食品。
【請求項5】
飲食品の全量に対し
グルコースを約5~95%の割合で含有する、請求項
4に記載の飲食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高甘味度甘味料により生じる甘味の後引きを低減する方法及び前記方法に用いる組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の健康志向の高まりから、アスパルテーム、ステビア、アセスルファムK、スクラロースなどの低カロリーで高甘味度の甘味料(本明細書中、「高甘味度甘味料」ともいう)を使用した製品が増加している。高甘味度甘味料は、ショ糖の数倍~数万倍の甘味度を有するという優れた性能を持つ反面、ヒトが快適に味覚を感じるショ糖に比べ甘味が必要以上に持続し続けるため、不快感のある甘味の後引きを生じるなどの欠点を有している。
【0003】
高甘味度甘味料の甘味の後引きを改善する方法については、種々の報告がなされている。例えば、特許文献1には、エリトリトールを用いて、無カロリー又は低カロリーの高甘味度甘味料の味を改善し、ショ糖のような香味プロファイルを提供する方法が開示されている。また、特許文献2には、羅漢果抽出物を用いて高甘味度甘味料の味を改善する方法が開示されている。また、特許文献3には、ナリンゲニン、その塩を用いて甘味改質剤の甘味を増強し、かつ甘味改質剤の量を低減する方法が開示されている。特許文献4には、よりショ糖のような経時的プロファイル及び/又は香味プロファイルを含む天然高甘味度甘味料(NHPS組成)が記載される。特許文献5には飲料に含まれる天然甘味料の甘味改善が記載される。
【0004】
しかしながら、これらの文献に開示される方法においても甘味後引き軽減の効果は限定的であり十分な成果をあげているとは言い難い。また、添加物に特有の香味を利用したマスキング効果に頼る甘味の改善であったりするため、添加物に由来する味の悪化や、良好な香味にならないといった課題も残されており、高甘味度甘味料の後味を改善する方法の十分な向上には至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-87350
【文献】特開2012-205598
【文献】特開2015-188450
【文献】特開2015-130875
【文献】WO2008/112991
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のとおり、甘味料の後引きを改善する方法が種々提案されているが、甘味の後引きを十分に低減するものではなかった。また、マスキング効果に頼らない、またはマスキング効果の少ない甘味の後引き改善方法は提供されていない。このような課題に対し、本発明は、マスキング効果に頼らず、高甘味度甘味料により生じる甘味の後引きを低減する方法及び同方法に用いるための組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
即ち、本発明は、以下のとおりである。
[1]
以下のA、B、C、Dの4種類の部位から選択される少なくとも1つの部位に高甘味度甘味料が結合することにより生じる甘味の後引きを低減する方法であって、
高甘味度甘味料が結合した部位を除く、A、B、C、Dの部位から選択される少なくとも1つの部位に甘味後引きを低減するための化合物が結合することにより、甘味後引きが低減される、方法、
(A)味覚受容体のVFT部分
(B)味覚受容体の接続部分
(C)味覚受容体の膜貫通領域
(D)味覚細胞の膜トランスポータータンパク質。
[1-1]
以下のA、B、C、Dの4種類の部位から選択される少なくとも1つの部位に高甘味度甘味料が結合することにより生じる甘味の後引きを低減する方法であって、
高甘味度甘味料が結合した部位を除く、A、B、C、Dの部位から選択される少なくとも1つの部位に前記高甘味度甘味料とは異なる甘味料が結合することにより、甘味後引きが低減される、方法、
(A)味覚受容体のVFT部分
(B)味覚受容体の接続部分
(C)味覚受容体の膜貫通領域
(D)味覚細胞の膜トランスポータータンパク質。
[2]
前記高甘味度甘味料が、前記Aの部位に結合する、前記[1]または[1-1]に記載の方法。
[3]
前記甘味後引きを低減するための化合物がB、CおよびDからなる群から選択される少なくとも1つの部位に結合する、前記[1]または[2]に記載の方法。
[3-1]
前記高甘味度甘味料とは異なる甘味料がB、CおよびDからなる群から選択される少なくとも1つの部位に結合する、前記[1-1]または[2]に記載の方法。
[4]
前記高甘味度甘味料が、前記Aの部位に結合し、前記甘味後引きを低減するための化合物が前記B又は前記Dの部位に結合する、前記[1]~[3]のいずれか一項に記載の方法。
[4-1]
前記高甘味度甘味料が、前記Aの部位に結合し、前記高甘味度甘味料とは異なる甘味料が前記B又は前記Dの部位に結合する、前記[1-1]~[3-1]のいずれか一項に記載の方法。
[5]
前記高甘味度甘味料がレバウジオシドA、レバウジオシドD、レバウジオシドM、ステビオシド、ネオテーム、アリテーム、カンゾウ抽出物、ショ糖誘導体、アセスルファムKおよびサッカリンからなる群から選択される少なくとも1つである、前記[1]~[4-1]のいずれか一項に記載の方法。
[6]
前記甘味後引きを低減するための化合物が、トレハロース、エリトリトール、グルコース、ラクトース、ガラクトース、キシリトール、スクロース、スクラロース、ソーマチン、ブラゼインおよびサイクラミン酸からなる群から選択される少なくとも1つである、前記[1]~[5]のいずれか一項に記載の方法。
[6-1]
前記高甘味度甘味料とは異なる甘味料が、トレハロース、エリトリトール、グルコース、ラクトース、ガラクトース、キシリトール、スクロース、スクラロース、ソーマチン、ブラゼインおよびサイクラミン酸からなる群から選択される少なくとも1つである、前記[1-1]~[5]のいずれか一項に記載の方法。
[7]
(i)レバウジオシドDおよびレバウジオシドMからなる群から選択される少なくとも1種の高甘味度甘味料と
(ii)グルコース、ラクトース、ガラクトース、キシリトール、ソーマチン、ブラゼインおよびサイクラミン酸からなる群から選択される少なくとも1種である甘味後引きを低減するための化合物と
を含む、甘味料組成物。
[7-1]
(i)レバウジオシドDおよびレバウジオシドMからなる群から選択される少なくとも1種の高甘味度甘味料と
(ii)グルコース、ラクトース、ガラクトース、キシリトール、ソーマチン、ブラゼインおよびサイクラミン酸からなる群から選択される少なくとも1種である前記高甘味度甘味料とは異なる甘味料と
を含む、甘味料組成物。
[8]
高甘味度甘味料:甘味後引きを低減するための化合物を約1:10~10:1の甘味強度で含む、前記[7]に記載の組成物。
[8-1]
高甘味度甘味料:前記高甘味度甘味料とは異なる甘味料を約1:10~10:1の甘味強度で含む、前記[7-1]に記載の組成物。
[9]
前記高甘味度甘味料1mgあたり前記甘味後引きを低減するための化合物を200mg含む、前記[7]または[8]に記載の組成物。
[9-1]
前記高甘味度甘味料1mgあたり前記高甘味度甘味料とは異なる甘味料を200mg含む、前記[7-1]または[8-1]に記載の組成物。
[10]
前記[7]~[9-1]のいずれか一項に記載の組成物を含む、飲食品。
[11]
飲食品の全量に対し前記甘味後引きを低減するための化合物を約5~95%の割合で含有する、前記[10]に記載の飲食品。
[11-1]
飲食品の全量に対し前記高甘味度甘味料とは異なる甘味料を約5~95%の割合で含有する、前記[10]に記載の飲食品。
【発明の効果】
【0008】
本発明の方法により、マスキング効果に頼らず、高甘味度甘味料により生じる甘味の後引きを低減することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をこの実施の形態のみに限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨を逸脱しない限り、様々な形態で実施をすることができる。
【0011】
1.高甘味度甘味料により生じる甘味の後引きを低減する方法
本発明は、第1の態様として以下のA、B、C、Dの4種類の部位から選択される少なくとも1つの部位に高甘味度甘味料が結合することにより生じる甘味の後引きを低減する方法であって、
高甘味度甘味料が結合した部位を除く、A、B、C、Dの部位から選択される少なくとも1つの部位に甘味後引きを低減するための化合物が結合することにより、甘味後引きが低減される、方法を提供する(以下、「本発明の方法1」という)。
(A)味覚受容体のVFT部分
(B)味覚受容体の接続部分
(C)味覚受容体の膜貫通領域
(D)味覚細胞の膜トランスポータータンパク質
【0012】
本発明は、第1-1の態様として以下のA、B、C、Dの4種類の部位から選択される少なくとも1つの部位に高甘味度甘味料が結合することにより生じる甘味の後引きを低減する方法であって、
高甘味度甘味料が結合した部位を除く、A、B、C、Dの部位から選択される少なくとも1つの部位に前記高甘味度甘味料とは異なる甘味料が結合することにより、甘味後引きが低減される、方法を提供する(以下、「本発明の方法1-1」という)。
(A)味覚受容体のVFT部分
(B)味覚受容体の接続部分
(C)味覚受容体の膜貫通領域
(D)味覚細胞の膜トランスポータータンパク質
なお、本発明の方法1と本発明の方法1-1を総称して、「本発明の方法」ということもある。
【0013】
甘味は、味覚受容体に、甘味を生じさせる化合物が結合することにより生じる。
一般に、甘味料を含む飲食品を摂取した際、飲食品を嚥下した後も引き続き口腔内の甘味が感じられるという現象が甘味後引きとして知られている。ショ糖などの甘味料では甘味後引きは少ないが、高甘味度甘味料を摂取した際の甘味後引きは、ショ糖に比べて長く継続し、しばしば味覚の不快感を生じる原因になる(
図1)。甘味後引きについては、DuBois and Prakash(“Non-Caloric Sweeteners, Sweetness Modulators, and Sweetener Enhancers” Annual Reviews of Food Science And Technology, 3, pp.353-380)に記載がある。
【0014】
本発明において「甘味後引き」とは、甘味料(特に高甘味度甘味料)を含む飲食品を一旦口に含んだ後、それを吐き出した後、一定時間経過した時点で残存する甘味を指す。一定時間は特に限定されないが、1秒後、5秒後、10秒後、15秒後、20秒後、25秒後、30秒後、35秒後、40秒後、45秒後、50秒後、55秒後、60秒後等が例として挙げられる。
ここで、甘味後引きは、以下のA、B、C、Dの4種類の部位から選択される少なくとも1つの部位に高甘味度甘味料が結合することにより生じる。
(A)味覚受容体のVFT部分
(B)味覚受容体の接続部分
(C)味覚受容体の膜貫通領域
(D)味覚細胞の膜トランスポータータンパク質
【0015】
本発明において「結合」とは、タンパク質と対象とする化学物質との間に、共有結合または非共有結合(イオン結合、疎水性相互作用、水素結合等)でありえる結合が形成されることを意味する。また、受容体または膜トランスポータータンパク質への結合は、濃度勾配などを利用した物質の輸送(チャネル)、あるいは化学エネルギーや光エネルギー、電気化学ポテンシャル差などを利用した物質の輸送(能動輸送体)といった様式により、化合物と当該タンパク質が相互作用する態様であってもよい。
【0016】
甘味の味覚受容体はT1R2-T1R3のヘテロ二量体によって形成される。以下に、T1R2、T1R3それぞれのアミノ酸配列を配列番号1及び2として示す。部位A,B,Cについて、それぞれアミノ酸配列のどの部位に相当するかは後述する(”The cysteine-rich region of T1R3 determines responses to intensely sweet proteins”. Jiang P, Ji Q, Liu Z, Snyder LA, Benard LM, Margolskee RF, Max M. J Biol Chem. 2004, 279(43), pp45068-45075., “Human receptors for sweet and umami taste.”, Li X, Staszewski L, Xu H, Durick K, Zoller M, Adler E. Proc Natl Acad Sci U S A. 2002,99(7), 4692-4696.)。
【0017】
部位A;味覚受容体のVFT部分
甘味の味覚受容体は上記ヘテロ二量体を構成するT1R2サブユニットおよびT1R3サブユニットの細胞外のN末端部分が各々大きな領域を形成していることを特徴とする。この細胞外領域のアミノ酸配列については、T1R2サブユニット(配列番号1)では1-494番目のアミノ酸残基、およびT1R3サブニット(配列番号2)の1-498番目のアミノ酸残基にあたる。この部分を部位Aと呼ぶ。
【0018】
部位B;味覚受容体の接続部分
味覚受容体の接続部分とは、先述の部位Aの部分の下流にあり、部位Aと後述の部位Cの膜貫通領域とを接続している。この部位のアミノ酸配列については、T1R2サブユニット(配列番号1)では495-564番目のアミノ酸残基、およびT1R3サブニット(配列番号2)の499-567番目のアミノ酸残基にあたる。この部位を部位Bと呼ぶ。
【0019】
部位C;味覚受容体の膜貫通領域
味覚受容体の膜貫通領域とは、上記部位Bの下流にある約300アミノ酸残基からなるC末側膜貫通領域のことである。この部位のアミノ酸配列については、T1R2サブユニット(配列番号1)では565-839番目のアミノ酸残基、およびT1R3サブニット(配列番号2)の568-852番目のアミノ酸残基にあたる。この部分を部位Cと呼ぶ。
【0020】
部位D; 味覚細胞の膜トランスポータータンパク質
GLUTsやSGLTsなどの味覚細胞の膜トランスポータータンパク質は、口腔内の細胞膜上に存在する糖輸送体のことを全般的に指す。糖輸送体は一般にグルコーストランスポーターとナトリウム共役型糖輸送体という2つのタイプに分類されるが、いずれであっても糖の輸送に関わっていれば膜トランスポータータンパク質と呼ぶ。これらを総称して部位Dと呼ぶ。
【0021】
本発明のA、B、CまたはDの4種類の部位は、哺乳類、魚類に由来する味覚受容体または膜トランスポータータンパク質の部位であってもよい。好ましくは、ヒトの味覚受容体または膜トランスポータータンパク質の部位であることが好ましい。
【0022】
本発明において「高甘味度甘味料」とは、ショ糖に比べて強い甘味を有する天然甘味料及び合成甘味料化合物を意味し、通常はショ糖に比べて甘味が数倍以上のものを言い、例えば10倍以上、100万倍以下のものが含まれる。
「高甘味度甘味料」は、前記A、B、C、Dの部位に結合可能であり、かつ甘味後引きを生じるものであれば特に限定されないが、具体例としては、アスパルテーム、ネオテームなどのペプチド系甘味料等、例えばスクラロースなどのショ糖誘導体、例えばアセスルファムK、サッカリン等の合成甘味料、例えばソーマチン、モネリンなどの植物から抽出されたタンパク質系甘味料、またはその他の高甘味度甘味料成分を含む植物抽出物、例えばステビア抽出物、カンゾウ抽出物、羅漢果抽出物等や当該抽出物中の甘味料成分、例えばステビア抽出物およびステビアを酵素処理してブドウ糖を付加した酵素処理ステビア等のステビア誘導体などのステビオール配糖体、羅漢果および羅漢果抽出物を処理することで得られるモグロシド配糖体などの植物抽出物から得られる配糖体などが挙げられる。ステビオール配糖体としては、ステビオシド、レバウジオシドA、レバウジオシドB、レバウジオシドC、レバウジオシドD、レバウジオシドN、レバウジオシドO、レバウジオシドMなどが挙げられる。モグロシド配糖体としては、モグロシドVなどが挙げられる。タンパク質と高甘味度甘味料の対応関係は以下の通りである。部位Aに結合するものには、レバウジオシドA、レバウジオシドD、レバウジオシドM、ステビオシド、ステビア抽出物、羅漢果抽出物、カンゾウ抽出物、ネオテーム、アリテーム、ショ糖誘導体、アセスルファムKおよびサッカリンなどが含まれる。部位Bに結合するものにはソーマチン、ブラゼインなどが含まれる。部位Cに結合するものにはサイクラミン酸などが含まれる。
カンゾウ抽出物とは、ウラルカンゾウ、チョウカカンゾウ又はヨウカンゾウの根又は根茎から得られた、グリチルリチン酸を主成分とするものをいう。カンゾウ抽出物の例としてはカンゾウエキス、グリチルリチン、リコリス抽出物が挙げられる。
ショ糖誘導体はショ糖のOH基又はH基を別の置換基で置換して得られるものであり、その例としては、ショ糖のハロゲン誘導体(スクラロース)、オキサチアジノンジオキシド誘導体、糖アルコール、アルドン酸、ウロン酸等が挙げられる。
【0023】
ある態様では高甘味度甘味料はレバウジオシドA、レバウジオシドD、レバウジオシドM、ステビオシド、ネオテーム、アリテーム、カンゾウ抽出物、ショ糖誘導体、アセスルファムKおよびサッカリンからなる群から選択される少なくとも1つである。
【0024】
また、本発明において高甘味度甘味料としてはレバウジオシドDまたはレバウジオシドMを好適に用いることができる。レバウジオシドDまたはレバウジオシドMはステビア抽出物およびステビアを酵素処理して調製することができ、ショ糖(スクロース)の約200倍の甘味を有する。また、レバウジオシドDまたはレバウジオシドMはレバウジオシドAに見られるような収斂味や金属味といったネガティブな香味が少なく、良質な甘味等の特徴を有し、食品、飲料分野での使用が期待されている(日本化学会誌(5)、726~735、“ステビア葉の甘味ジテルペン配糖体―レバウディオシド-A、-D、-Eおよび関連配糖体の合成ならびに甘味と化学構造との相関―、笠井、金田、田中、山崎、坂本、森本、岡田、北畑、古川)。このように、レバウジオシドDまたはレバウジオシドMは単独で用いるとレバウジオシドAに比べ雑味が少なくショ糖に近い甘味を持つと言う点に優れるが、使用形態によっては甘味後引きが課題となる場合がある。
【0025】
本発明において、「甘味後引きを低減するための化合物」は、前記高甘味度甘味料が以下のA、B、C、Dの4種類の部位から選択される少なくとも1つの部位に結合することにより生じる甘味の後引きを低減する機能を有する化合物又はその組み合わせを意味する。例えば、「甘味後引きを低減するための化合物」は「前記高甘味度甘味料とは異なる甘味料」である。
甘味後引きの低減とその確認方法については後述する。
【0026】
前記高甘味度甘味料とは異なる甘味料(甘味後引きを低減するための化合物)としては、レバウジオシドA、レバウジオシドD、レバウジオシドM、ステビオシド、ステビア抽出物、羅漢果抽出物、カンゾウ抽出物、ネオテーム、アリテーム、ショ糖誘導体、アセスルファムKおよびサッカリン、ソーマチン、ブラゼイン、サイクラミン酸、グルコース、トレハロース、エリトリトール(エリトリトールは「エリスリトール」ともいう)、ラクトース、ガラクトース、キシリトール、スクロース、およびスクラロース等が挙げられる。
味覚受容体の部位又は膜トランスポータータンパク質と前記高甘味度甘味料とは異なる甘味料(甘味後引きを低減するための化合物)が結合する対応関係は、以下のとおりである。部位Aに結合するものには、レバウジオシドA、レバウジオシドD、レバウジオシドM、ステビオシド、ステビア抽出物、羅漢果抽出物、カンゾウ抽出物、ネオテーム、アリテーム、ショ糖誘導体、アセスルファムKおよびサッカリンなどが含まれる。部位Bに結合するものにはソーマチン、ブラゼインなどが含まれる。部位Cに結合するものにはサイクラミン酸などが含まれる。部位Dに結合するものにはグルコースなどが含まれる。
前記高甘味度甘味料とは異なる甘味料(甘味後引きを低減するための化合物)としては、前記高甘味度甘味料の例として挙げた化合物から選択することもできる。ただし、本発明の方法1に用いる場合、高甘味度甘味料と甘味後引きを低減するための化合物とは異なる化合物である。両者はそれぞれA、B、C、Dのうち異なる部位に結合する必要があるからである。
【0027】
本発明における「甘味後引き」は、すでに述べたとおりである。甘味後引きの低減とは、高甘味度甘味料を含む飲食品を一旦口に含んだ後、それを吐き出した後、一定時間経過した時点で残存する甘味について、本発明の前記高甘味度甘味料とは異なる甘味料(甘味後引きを低減するための化合物)が存在する場合と不存在の場合とを比較して、本発明の前記高甘味度甘味料とは異なる甘味料(甘味後引きを低減するための化合物)が存在する場合に前記残存する甘味が少ないことを意味する。あるいは、本発明の前記高甘味度甘味料とは異なる甘味料(甘味後引きを低減するための化合物)が存在する場合と不存在の場合とを比較して、本発明の前記高甘味度甘味料とは異なる甘味料(甘味後引きを低減するための化合物)が存在する場合に甘味がより短時間に感受されなくなるか又は短時間で減少することを意味する。あるいは、本発明の前記高甘味度甘味料とは異なる甘味料(甘味後引きを低減するための化合物)が存在する場合と不存在の場合とを比較して、本発明の前記高甘味度甘味料とは異なる甘味料(甘味後引きを低減するための化合物)が存在する場合に甘味の減少幅がより大きいことを意味する。甘味後引き及び甘味後引きの低減は後述のVAS法を含む公知の方法で測定することができる。
【0028】
甘味の後引きは、経時的な甘味強度の変化として、公知の方法で測定することができる。例えば、Visual Analogue Scaleを用いた甘味強度評定を複数回実施することによって測定することが可能である(VAS法)。VAS法については、顎機能誌20 pp.115-129 (“4基本味における味覚機能のスクリーニング検査法の構築”豊田ら)の文献などを参照することができる。具体的な甘味強度のVAS法による測定では、例えば、評価者は、甘味の強度を、下端が「全く甘くない」とし、上端を「これ以上甘いものは考えられない」と定め、甘みの強度を直線上に表した垂直線が描かれた紙を用いて、その時に感じられる甘味強度を直線上の位置で表すことによって評価する。具体的には、甘味料を含む飲食品を摂取した後に複数回、時間間隔をあけてVAS法による甘味強度評定を行い、摂取後からの継時的な甘味強度の変化を測定する。この方法は、経時的な香味の変化の特性を測定・検知するTime Intensity法の一つと考えることができる。後引きの測定については、例えば、Journal of Food Science 80 pp.S2944-S2949 “Chocolate Milk with Chia Oil: Ideal Sweetness, Sweeteners Equivalence, and Dynamic Sensory Evaluation Using a Time-Intensity Methodology” Rodrigues, Paixao, Cruz, Boliniの文献を参照することができる。Time Intensity法については、例えば、新食感事典(サイエンスフォーラム、p420-421)を参照することができる。
【0029】
ある実施態様では高甘味度甘味料は前記Aの部位に結合する。この際、前記高甘味度甘味料とは異なる甘味料(甘味後引きを低減するための化合物)は、高甘味度甘味料が結合した部位(この実施態様では「A」)を除く、A、B、C、Dの部位から選択される少なくとも1つの部位に結合することになる(この実施態様では「B、C、Dの部位から選択される少なくとも1つの部位」)。
【0030】
さらなる実施態様では、高甘味度甘味料がAの部位に結合し、前記高甘味度甘味料とは異なる甘味料(前記甘味後引きを低減するための化合物)がB、C又はDの部位に結合する。例えば、実施態様では、高甘味度甘味料がAの部位に結合し、前記高甘味度甘味料とは異なる甘味料(前記甘味後引きを低減するための化合物)がB又はDの部位に結合する。
別の実施形態では、高甘味度甘味料が部位Aに結合して前記高甘味度甘味料とは異なる甘味料(前記甘味後引きを低減するための化合物)が部位Bに結合するか、又は高甘味度甘味料が部位Aに結合して前記高甘味度甘味料とは異なる甘味料(甘味後引きを低減するための化合物)が部位Cに結合するか、あるいは高甘味度甘味料が部位Aに結合して前記高甘味度甘味料とは異なる甘味料(甘味後引きを低減するための化合物)が部位Dに結合する。
【0031】
あるいは、高甘味度甘味料が部位Bに結合し、前記高甘味度甘味料とは異なる甘味料(前記甘味後引きを低減するための化合物)が部位C、D又はAに結合する。
さらなる実施形態では、高甘味度甘味料が部位Bに結合して前記高甘味度甘味料とは異なる甘味料(前記甘味後引きを低減するための化合物)が部位Cに結合するか、又は高甘味度甘味料が部位Bに結合して前記高甘味度甘味料とは異なる甘味料(甘味後引きを低減するための化合物)が部位Dに結合するか、あるいは高甘味度甘味料が部位Bに結合して前記高甘味度甘味料とは異なる甘味料(甘味後引きを低減するための化合物)が部位Aに結合する。
【0032】
または、高甘味度甘味料が部位Cに結合し、前記高甘味度甘味料とは異なる甘味料(前記甘味後引きを低減するための化合物)が部位A、B又はDに結合する。
別の実施形態では、高甘味度甘味料が部位Cに結合して前記高甘味度甘味料とは異なる甘味料(前記甘味後引きを低減するための化合物)が部位Aに結合するか、又は高甘味度甘味料が部位Cに結合して前記高甘味度甘味料とは異なる甘味料(甘味後引きを低減するための化合物)が部位Bに結合するか、あるいは高甘味度甘味料が部位Cに結合して前記高甘味度甘味料とは異なる甘味料(甘味後引きを低減するための化合物)が部位Dに結合する。
【0033】
さらには、高甘味度甘味料が部位Dに結合し、前記高甘味度甘味料とは異なる甘味料(前記甘味後引きを低減するための化合物)が部位A、B又はCに結合する。
また別の実施形態では、高甘味度甘味料が部位Dに結合して前記高甘味度甘味料とは異なる甘味料(前記甘味後引きを低減するための化合物)が部位Aに結合するか、又は高甘味度甘味料が部位Dに結合して前記高甘味度甘味料とは異なる甘味料(甘味後引きを低減するための化合物)が部位Bに結合するか、あるいは高甘味度甘味料が部位Dに結合して前記高甘味度甘味料とは異なる甘味料(甘味後引きを低減するための化合物)が部位Cに結合する。
【0034】
また、本発明では、上記の態様が同時に組み合わさることも想定されている。例えば、2種類の高甘味度甘味料がA、B、C、Dからなる群より選択される2つの部位に結合し、前記高甘味度甘味料とは異なる甘味料(前記甘味後引きを低減するための化合物)が前記2つの部位以外の部位に結合する態様である。
【0035】
本発明の方法において、高甘味度甘味料:前記高甘味度甘味料とは異なる甘味料(甘味後引きを低減するための化合物)は、甘味強度の比が約1:9~9:1、約3:7~7:3、約4:5~5:4、約1:1~5:4、または約1:1となる割合で用いられてもよい。ここで甘味強度とは、前記のVAS法を用いた甘味強度の評定の手段により測定される。
あるいは、本発明の方法において「高甘味度甘味料:前記高甘味度甘味料とは異なる甘味料(甘味後引きを低減するための化合物)」の比率は、モル比で約1:10~1:200000、約1:100~1:20000、約1:500~1:4000、または約1:1000~1:2000となる割合で用いられてもよい。
【0036】
本発明の方法において、高甘味度甘味料及び前記高甘味度甘味料とは異なる甘味料(甘味後引きを低減するための化合物)は、高甘味度甘味料1gに対し前記高甘味度甘味料とは異なる甘味料(甘味後引きを低減するための化合物)が約1mg~200gになる割合、または高甘味度甘味料1gに対し前記高甘味度甘味料とは異なる甘味料(甘味後引きを低減するための化合物)が約10mg~20gとなる割合で用いられてもよい。
【0037】
本発明の一実施形態では、高甘味度甘味料としてレバウジオシドDを、前記高甘味度甘味料とは異なる甘味料(甘味後引きを低減するための化合物)としてグルコースを用いる。レバウジオシドD1g(0.89ミリモル)に対し、グルコースが、約2~200g(0.01モル~1.1モル)となる割合で用いられてもよい。また、レバウジオシドD1gに対し、グルコースが約5~100g(0.03モル~0.56モル)又は約15~25g(0.08~0.14モル)となる割合で用いられる。一実施形態において、レバウジオシドD1gに対し、グルコースが約20g(0.1モル)となる割合で用いられてもよい。
【0038】
本発明の別の実施形態では、高甘味度甘味料としてレバウジオシドDを、前記高甘味度甘味料とは異なる甘味料(甘味後引きを低減するための化合物)としてソーマチンを用いる。レバウジオシドD1gに対し、ソーマチンが約2~200mg(0.09マイクロモル~9マイクロモル)となる割合で用いられてもよい。また、好ましくは、レバウジオシドD1gに対し、ソーマチンが約5~100mg(0.23マイクロモル~4.5マイクロモル)、約10~25mg(0.45マイクロモル~1.1マイクロモル)となる割合で用いられてもよい。一実施形態において、レバウジオシドD1gに対し、ソーマチンが約17mg(0.77マイクロモル)となる割合で用いられてもよい。
【0039】
本発明のさらなる実施形態では、高甘味度甘味料としてソーマチンを、前記高甘味度甘味料とは異なる甘味料(甘味後引きを低減するための化合物)としてグルコースを用いる。ソーマチン1mg(0.045マイクロモル)に対し、グルコースが約12g(0.07モル)となる割合で用いられてもよい。
【0040】
2.高甘味度甘味料(第一成分)および前記高甘味度甘味料とは異なる甘味料(甘味後引きを低減するための化合物)(第二成分)を含む、組成物
本発明は上記の高甘味度甘味料(第一成分)および前記高甘味度甘味料とは異なる甘味料(甘味後引きを低減するための化合物)(第二成分)を含む、組成物(以下、「本発明の組成物」という)を提供する。
【0041】
本発明の一実施形態において、当該組成物は、
(i)レバウジオシドDおよびレバウジオシドMからなる群から選択される少なくとも1種の高甘味度甘味料と
(ii)グルコース、ラクトース、ガラクトース、キシリトール、ソーマチン、ブラゼインおよびサイクラミン酸からなる群から選択される少なくとも1種である甘味後引きを低減するための化合物と
を含む、甘味料組成物である。
本発明の一実施形態において、当該組成物は、
(i)レバウジオシドDおよびレバウジオシドMからなる群から選択される少なくとも1種の高甘味度甘味料と
(ii)グルコース、ラクトース、ガラクトース、キシリトール、ソーマチン、ブラゼインおよびサイクラミン酸からなる群から選択される少なくとも1種である前記高甘味度甘味料とは異なる甘味料と
を含む、甘味料組成物である。
前記甘味料組成物は、一実施態様において、前記高甘味度甘味料が以下のA、B、C、Dの4種類の部位から選択される少なくとも1つの部位に結合することにより生じる甘味の後引きを低減する。
(A)味覚受容体のVFT部分
(B)味覚受容体の接続部分
(C)味覚受容体の膜貫通領域
(D)味覚細胞の膜トランスポータータンパク質
当該実施態様では、前記甘味の後引きの低減は、前記高甘味度甘味料が結合した部位を除く、A、B、C、Dの部位から選択される少なくとも1つの部位に前記高甘味度甘味料とは異なる甘味料(甘味後引きを低減するための化合物)が結合することにより行われる。
【0042】
本発明において「結合」はすでに述べたとおりである。
また、部位A、B、C、Dについても上記で定義したとおりである。
【0043】
本発明において「甘味後引き」及びその測定方法は上記のとおりである。
【0044】
「高甘味度甘味料」は上記で定義したとおりであるが、本発明の組成物のある実施態様では(i)レバウジオシドDおよびレバウジオシドMからなる群から選択される少なくとも1種である。レバウジオシドDおよびレバウジオシドMは部位Aに結合する。しかし、別の態様では、高甘味度甘味料はレバウジオシドA、レバウジオシドD、レバウジオシドM、ステビオシド、ネオテーム、アリテーム、カンゾウ抽出物、ショ糖誘導体、アセスルファムKおよびサッカリンからなる群から選択される少なくとも1つであってもよく、さらには、高甘味度甘味料は本発明の方法に関して記載された「高甘味度甘味料」の具体例から選択されるいずれであってもよい。
【0045】
「甘味後引きを低減するための化合物」および「前記高甘味度甘味料とは異なる甘味料」は上記で定義したとおりであるが、本発明の組成物のある実施態様では(ii)グルコース、ラクトース、ガラクトース、キシリトール、ソーマチン、ブラゼインおよびサイクラミン酸からなる群から選択される少なくとも1種である。しかし、別の態様では、前記高甘味度甘味料とは異なる甘味料(甘味後引きを低減するための化合物)はトレハロース、エリトリトール、グルコース、ラクトース、ガラクトース、キシリトール、スクロース、スクラロース、ソーマチン、ブラゼインおよびサイクラミン酸からなる群から選択される少なくとも1つであってもよく、さらには、前記高甘味度甘味料とは異なる甘味料(甘味後引きを低減するための化合物)は本発明の方法に関して記載された「甘味後引きを低減するための化合物」の具体例から選択されるいずれであってもよい。
【0046】
ある実施態様では高甘味度甘味料は前記Aの部位に結合する。この際、前記高甘味度甘味料とは異なる甘味料(甘味後引きを低減するための化合物)は、高甘味度甘味料が結合した部位(この実施態様では「A」)を除く、A、B、C、Dの部位から選択される少なくとも1つの部位に結合することになる(この実施態様では「B、C、Dの部位から選択される少なくとも1つの部位」)。
【0047】
さらなる実施態様では、高甘味度甘味料がAの部位に結合し、前記高甘味度甘味料とは異なる甘味料(前記甘味後引きを低減するための化合物)がB、C又はDの部位に結合する。例えば、実施態様では、高甘味度甘味料がAの部位に結合し、前記高甘味度甘味料とは異なる甘味料(前記甘味後引きを低減するための化合物)がB又はDの部位に結合する。
別の実施形態では、高甘味度甘味料が部位Aに結合して前記高甘味度甘味料とは異なる甘味料(前記甘味後引きを低減するための化合物)が部位Bに結合するか、又は高甘味度甘味料が部位Aに結合して前記高甘味度甘味料とは異なる甘味料(甘味後引きを低減するための化合物)が部位Cに結合するか、あるいは高甘味度甘味料が部位Aに結合して前記高甘味度甘味料とは異なる甘味料(甘味後引きを低減するための化合物)が部位Dに結合する。
【0048】
あるいは、高甘味度甘味料が部位Bに結合し、前記高甘味度甘味料とは異なる甘味料(前記甘味後引きを低減するための化合物)が部位C、D又はAに結合する。
さらなる実施形態では、高甘味度甘味料が部位Bに結合して前記高甘味度甘味料とは異なる甘味料(前記甘味後引きを低減するための化合物)が部位Cに結合するか、又は高甘味度甘味料が部位Bに結合して前記高甘味度甘味料とは異なる甘味料(甘味後引きを低減するための化合物)が部位Dに結合するか、あるいは高甘味度甘味料が部位Bに結合して前記高甘味度甘味料とは異なる甘味料(甘味後引きを低減するための化合物)が部位Aに結合する。
【0049】
または、高甘味度甘味料が部位Cに結合し、前記高甘味度甘味料とは異なる甘味料(前記甘味後引きを低減するための化合物)が部位A、B又はDに結合する。
別の実施形態では、高甘味度甘味料が部位Cに結合して前記高甘味度甘味料とは異なる甘味料(前記甘味後引きを低減するための化合物)が部位Aに結合するか、又は高甘味度甘味料が部位Cに結合して前記高甘味度甘味料とは異なる甘味料(甘味後引きを低減するための化合物)が部位Bに結合するか、あるいは高甘味度甘味料が部位Cに結合して前記高甘味度甘味料とは異なる甘味料(甘味後引きを低減するための化合物)が部位Dに結合する。
【0050】
さらには、高甘味度甘味料が部位Dに結合し、前記高甘味度甘味料とは異なる甘味料(前記甘味後引きを低減するための化合物)が部位A、B又はCに結合する。
また別の実施形態では、高甘味度甘味料が部位Dに結合して前記高甘味度甘味料とは異なる甘味料(前記甘味後引きを低減するための化合物)が部位Aに結合するか、又は高甘味度甘味料が部位Dに結合して前記高甘味度甘味料とは異なる甘味料(甘味後引きを低減するための化合物)が部位Bに結合するか、あるいは高甘味度甘味料が部位Dに結合して前記高甘味度甘味料とは異なる甘味料(甘味後引きを低減するための化合物)が部位Cに結合する。
【0051】
また、本発明では、上記の態様が同時に組み合わさることも想定されている。例えば、2種類の高甘味度甘味料がA、B、C、Dからなる群より選択される2つの部位に結合し、前記高甘味度甘味料とは異なる甘味料(前記甘味後引きを低減するための化合物)が前記2つの部位以外の部位に結合する態様である。
【0052】
本発明の組成物において、高甘味度甘味料:前記高甘味度甘味料とは異なる甘味料(甘味後引きを低減するための化合物)は、甘味強度の比が約1:10~10:1、約1:9~9:1、約2:8~8:2、約3:7~7:3、約4:6~6:4、約4:5~5:4、約1:1~5:4、または約1:1となる割合で含まれていてもよい。ここで甘味強度とは、前記のVAS法を用いた甘味強度の評定の手段により測定される。
あるいは、本発明の組成物において高甘味度甘味料と前記高甘味度甘味料とは異なる甘味料(甘味後引きを低減するための化合物)は、モル比で約10~200000、約100~20000、約500~4000、または約1000~2000となる割合で含まれていてもよい。
【0053】
本発明の組成物において、高甘味度甘味料及び前記高甘味度甘味料とは異なる甘味料(甘味後引きを低減するための化合物)は、高甘味度甘味料1gに対し前記高甘味度甘味料とは異なる甘味料(甘味後引きを低減するための化合物)が約1mg~200gになる割合、または高甘味度甘味料1gに対し前記高甘味度甘味料とは異なる甘味料(甘味後引きを低減するための化合物)が約10mg~20gとなる割合で含まれていてもよい。
【0054】
本発明の一実施形態では、高甘味度甘味料としてレバウジオシドDを、前記高甘味度甘味料とは異なる甘味料(甘味後引きを低減するための化合物)としてグルコースを用いる。レバウジオシドD1g(0.89ミリモル)に対し、グルコースが、約2~200g(0.01モル~1.1モル)となる割合で含まれていてもよい。また、レバウジオシドD1gに対し、グルコースが約5~100g(0.03モル~0.56モル)又は約15~25g(0.08~0.14モル)となる割合で含まれていてもよい。一実施形態において、レバウジオシドD1gに対し、グルコースが約20g(0.1モル)となる割合で含まれていてもよい。
【0055】
本発明の別の実施形態では、高甘味度甘味料としてレバウジオシドDを、前記高甘味度甘味料とは異なる甘味料(甘味後引きを低減するための化合物)としてソーマチンを用いる。レバウジオシドD1gに対し、ソーマチンが約2~200mg(0.09マイクロモル~9マイクロモル)となる割合で含まれていてもよい。また、好ましくは、レバウジオシドD1gに対し、ソーマチンが約5~100mg(0.23マイクロモル~4.5マイクロモル)、約10~25mg(0.45マイクロモル~1.1マイクロモル)となる割合で含まれていてもよい。一実施形態において、レバウジオシドD1gに対し、ソーマチンが約17mg(0.77マイクロモル)となる割合で含まれていてもよい。
【0056】
本発明のさらなる実施形態では、高甘味度甘味料としてソーマチンを、前記高甘味度甘味料とは異なる甘味料(甘味後引きを低減するための化合物)としてグルコースを用いる。ソーマチン1mg(0.045マイクロモル)に対し、グルコースが約12g(0.07モル)となる割合で含まれていてもよい。
【0057】
(組成物を含む飲食品)
本発明は、さらに別の実施態様として、本発明の組成物を含む飲食品を提供する(以下、「本発明の飲食品」という)。本発明において、「飲食品」には固体、流動体、及び液体、並びにそれらの混合物であって、経口摂食可能なものの総称である。本発明の飲食品の例としては、栄養補助飲食品、健康飲食品、機能性飲食品、幼児用飲食品、乳児用調製乳、未熟児用調製乳、老人用飲食品等が挙げられる。
【0058】
栄養補助飲食品とは、特定の栄養成分が強化されている飲食品をいう。健康飲食品とは、健康的な又は健康によいとされる飲食品をいい、栄養補助飲食品、自然飲食品、ダイエット飲食品等を含む。機能性飲食品とは、体の調節機能を果たす栄養成分を補給するための飲食品をいい、特定保健用途食品と同義である。幼児用飲食品とは、約6歳までの子供に与えるための飲食品をいう。老人用飲食品とは、無処理の飲食品と比較して消化及び吸収が容易であるように処理された飲食品をいう。乳児用調製乳とは、約1歳までの子供に与えるための調製乳をいう。未熟児用調製乳とは、未熟児が生後約6ヶ月になるまで与えるための調製乳をいう。
【0059】
飲食品の形態は特に限定されず、種々の形態とすることができる。このような形態の例としては、例えば、飲料、菓子類、サプリメント等が挙げられる。飲料は、アルコール飲料ノンアルコール飲料のいずれであってもよい。ノンアルコール飲料として、例えば、ノンアルコールビール、麦芽飲料、乳酸菌飲料、ココア、スポーツドリンク、栄養ドリンク、茶系飲料、コーヒー飲料、炭酸飲料、機能性飲料、果実・野菜系飲料、乳性飲料、豆乳飲料、フレーバーウォーター等が挙げられるがこれに限定されるものではない。
【0060】
本明細書におけるノンアルコールビールとは、ビール様の風味をもつ炭酸飲料を意味し、非発酵のノンアルコールタイプのものであり、これはアルコールを実質的に含まない。ここで、ノンアルコールビールは、検出できない程度の極く微量のアルコールを含有する飲料を除くものではない。
【0061】
本発明の組成物が茶系飲料である場合、紅茶飲料又は無糖茶飲料であることが好ましい。無糖茶飲料として、緑茶飲料、ウーロン茶飲料、麦茶飲料、玄米茶飲料、ハト麦茶飲料、無糖の紅茶飲料等が挙げられる。コーヒー飲料は容器詰コーヒー又はリキッドコーヒーのいずれであってもよい。
【0062】
炭酸飲料の形態には、コーラフレーバー飲料、透明炭酸飲料、ジンジャエール、果汁系炭酸飲料、乳類入炭酸飲料又は無糖炭酸飲料であることが好ましい。機能性飲料には、スポーツドリンク、エナジードリンク、健康サポート飲料及びパウチゼリー飲料が含まれる。
【0063】
果実・野菜系飲料としては、100%果実飲料、果実入飲料、低果汁入清涼飲料、果粒含有果実飲料又は果肉飲料が挙げられる。乳性飲料には牛乳、ドリンクヨーグルト、乳酸菌飲料又は乳類入清涼飲料が含まれ、豆乳飲料には豆乳又は大豆飲料が含まれる。
【0064】
アルコール飲料として、例えば、ビール、チューハイ、スピリッツ類(例えばジン、ウォッカ、ラム、テキーラ、ニュースピリッツ等のスピリッツ、及び原料用アルコール等)、リキュール類、ウイスキー類(例えばウイスキー、ブランデー等)又は焼酎等、清酒、ワイン、紹興酒、白酒及びマッコリ等の醸造酒等が挙げられる。ここでアルコール飲料は、検出可能な程度のアルコールを含むものであればよく、例えば、1体積%以上、2体積%以上、3体積%以上、4体積%以上、5体積%以上のアルコールを含む。
【0065】
加工食品の例としては、穀類、魚介及び肉類の加工食品(パン、麺類、トルティーヤ、パスタ、ハム、ベーコン、ソーセージ、かまぼこ、揚げ天、はんぺん等)が挙げられる。
乳製品の例としてはバター、チーズ、ヨーグルト、ギイ等が挙げられる。
菓子類の例としては、飴、ジャム、チューインガム、アイスクリーム、スナック菓子、クッキー、ビスケット、ケーキ、ウェハース、菓子パン、チョコレート、和菓子等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0066】
本発明の飲食品はまた、細粒剤、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤(ソフトカプセル剤、ハードカプセル剤を含む)、チュアブル剤、シロップ剤等の医薬品又は医薬部外品の形態にあってもよく、又はタンパク質、糖類、脂肪、微量元素、ビタミン類、乳化剤、香料等に本発明の組成物が配合された自然流動食、半消化態栄養食、及び成分栄養食、ドリンク剤、経腸栄養剤等の加工形態であってもよい。
【0067】
本発明の飲食品は、本発明の組成物の第一成分及び第二成分の両者が含まれた形態にあってもよい。あるいは本発明の飲食品は、第一成分だけを含んだ状態にあり、かつ摂取直前に第二成分を添加する形態にあってもよい。さらにまた、本発明の飲食品は、第二成分だけを含んだ状態にあり、かつ摂取直前に第一成分を添加する形態にあってもよい。さらには、第一成分と第二成分とを別々に配合したものを包含した形態であってもよい。
【0068】
本発明の飲食品において、その全量に対し約0.001%~99%好ましくは、約0・01%~95重量%、約0.1%~90%、約1~85重量%、約10~80重量%、約25~75重量%、または、約30重量%~70重量%の割合で本発明の組成物を含有させることができる。
本発明の飲食品は、(1)飲食品の原料、(2)中間生産物又は(3)最終形態である飲食品に、本発明の組成物の第一成分及び第二成分を添加する工程を経ることにより製造することができる。この際、第一成分と第二成分は同時に添加してもよく、あるいは異なる製造過程で添加してもよい。
同時に添加する場合、第一成分と第二成分は飲食品の原料、中間生産物又は最終形態である飲食品のいずれに添加してもよい。
第一成分と第二成分を異なる製造過程で添加する場合、例えば、第一成分を飲食品の原料に添加し、第二成分を飲食品の中間生産物に添加してもよく、又は第一成分を飲食品の中間生成物に添加し、第二成分を最終形態である飲食品に添加してもよく、又は第一成分を最終形態である飲食品に添加し、第二成分を飲食品の原料に添加してもよい。あるいは、第二成分を飲食品の原料に添加し、第一成分を飲食品の中間生産物に添加してもよく、又は第二成分を飲食品の中間生成物に添加し、第一成分を最終形態である飲食品に添加してもよく、又は第二成分を最終形態である飲食品に添加し、第一成分を飲食品の原料に添加してもよい。
【0069】
本願において、「少なくとも」との文言は、特定の項目の数が、挙げられた数以上であってよいことを意味する。また、本願内において、「約」との文言は、主体が「約」に続く数値の±25%、±10%、±5%、±3%、±2%または±1%の範囲に存在することを意味する。例えば「約10」は、7.5~12.5の範囲を意味する。
【実施例】
【0070】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。
甘味後引きの評価方法
(1)基準溶液α(甘味料としては、高甘味度甘味料のみを含む飲料)、基準溶液β(他の甘味料を含む基準溶液αと甘味強度が等しい飲料)および試料溶液γ(試料溶液である、基準溶液αとβを混合した一定の割合を含めた飲料)を各自別個のカップに準備する。
(2)口の中を水で良くゆすぎ、吐き出す。このゆすぎ作業を4回繰り返す。
(3)規定量(10ml)の上記基準溶液α、βあるいは試料溶液γを一気に口に含み、5秒後に吐き出す。
(4)吐き出し直後の甘味強度についてVAS法により甘味強度評定値を得る。
(5)吐き出しから45秒後の甘味強度についてVAS法により甘味強度評定値を得る。
甘味後引きの大きさは、吐き出し直後の甘味強度評定値から45秒後の甘味強度評定値への減少量を指標として表される。この値が小さいほど、甘味の時間による低下が少なく、甘味後引きが大きいと判断される。
【0071】
本発明による甘味後引き防止効果の評価方法
等甘味強度に調整された基準溶液αと基準溶液β、およびそれらからなる試料溶液γという三種類の溶液について、上記方法によりそれぞれの甘味後引きを測定した。測定の順序は、評価者毎にランダムに決定した。次に、基準溶液αと基準溶液βの配合割合(ア:イ)から試料溶液γの甘味後引きの理論値を求めた。ここで試料溶液γの甘味後引きは、基準溶液αと基準溶液βの配合割合によって変動すると考えられる。従って、試料溶液γの甘味後引きの理論値として、基準溶液αとβの配合割合に応じて重みづけした甘味後引きの重みづけ平均値((アx基準溶液αの甘味後引き+イx基準溶液βの甘味後引き)/(ア+イ))を算出した。また、重みづけ平均値を1とした場合の試料溶液γの甘味後引きの実測値の比率(試料溶液γの甘味後引き/理論値)から1を引いた値を甘味後引き低減効果の指標とした。
また、以下の実施例では、この値を100倍し、パーセントとして表示したものをこの指標が10未満の場合には甘味後引き防止効果がないと判断され、この値が10以上であれば甘味後引き防止効果があると判断される。
【0072】
部位Aに結合する高甘味度甘味料によってもたらされる甘味後引きについて、前記高甘味度甘味料とは異なる甘味料(甘味後引きを防止する化合物)の結合部位の違いによる効果の差異を検討した。部位Aに結合する高甘味度甘味料として、レバウジオシドDを、前記高甘味度甘味料とは異なる甘味料(甘味後引きを防止する化合物)として、グルコース、ソーマチン、フルクトースを用いた例を示す。
【0073】
〔実施例1〕
レバウジオシドD溶液とグルコース溶液を用いて試験を実施した。
甘味後引きのある高甘味度甘味料としてレバウジオシドDを用いた。レバウジオシドDは、味覚受容体のVFT部分(部位A)と結合する。一方、グルコースは、受容体外のグルコーストランスポーター部分(部位D)と結合することが知られている。
基準溶液α1として、レバウジオシドDを重量濃度593ppmで脱イオン水に溶解した溶液を調製した。基準溶液β1として、基準溶液α1と等甘味強度となるようにグルコースを重量濃度12.3%で脱イオン水に溶解した溶液を調製した。試料溶液γ1として、基準溶液α1と基準溶液βを1:1の配合で混合した溶液を調製した。
官能評価に熟練した官能パネル(N=4)が評価に参加した。
各パネルはそれぞれ基準溶液α1、β1、および試料溶液γ1について上記方法により甘味後引きを評価した。基準溶液α1、β1、試料溶液γ1のそれぞれについて、4名の平均値を算出し、各溶液の甘味後引き指標値とした。
表1は、各溶液の甘味後引き指標値を表している。これらの値を用いて、上記方法によりグルコースによる甘味後引き低減効果を算出したところ、46%(51/34.8-1)となった。部位Aに結合する高甘味度甘味料レバウジオシドDに対して部位Dに結合する甘味料グルコースには甘味後引き防止効果があることが示された。
【表1】
【0074】
〔実施例2〕
レバウジオシドD溶液とソーマチン溶液を用いて試験を実施した。レバウジオシドDは、味覚受容体のVFT部分(部位A)と結合する。ソーマチンは味覚受容体の接続部分(部位B)と結合することが知られている。
基準溶液α1として、レバウジオシドDを593ppmの重量濃度で脱イオン水に溶解した。基準溶液β2として、それと等甘味強度となるようにソーマチンを9.77ppmの重量濃度で脱イオン水に溶解した。試料溶液γ2として、基準溶液α1と基準溶液β2を1:1の配合で混合した溶液を調製した。
実施例1と同様の方法で、パネリストによる評価の集計からより次の結果が得られた(表2)。
これらの値を用いて、上記方法によりソーマチンによる甘味後引き低減効果を算出したところ、43%(38.5/27.0-1)となった。部位Aに結合する高甘味度甘味料レバウジオシドDに対して部位Bに結合する甘味料ソーマチンには甘味後引き低減効果があることが示された。
【表2】
【0075】
〔比較例1〕
レバウジオシドD溶液とフルクトース溶液を用いて試験を実施した。レバウジオシドDは、味覚受容体のVFT部分(部位A)と結合し、フルクトースはレバウジオシドDと同じ味覚受容体のVFT部分(部位A)と結合することが知られている。
基準溶液α1として、レバウジオシドDを593ppmの重量濃度で脱イオン水に溶解した。基準溶液β3として、それと等甘味強度となるようにフルクトースを5.8%の重量濃度で脱イオン水に溶解した。試料溶液γ3として、基準溶液α1と基準溶液β3を1:1の配合で混合した溶液を調製した。
実施例1と同様の方法で、パネリストによる評価の集計より次の結果が得られた(表3)。
これらの値を用いて、上記方法によりフルクトースによる甘味後引き防止効果を算出したところ、7%(38/35.4-1)となった。部位Aに結合する高甘味度甘味料レバウジオシドDに対して、それと同じく部位Aに結合する甘味料フルクトースには甘味後引き防止効果は極めて低いことが示された。
【表3】
【0076】
〔実施例3〕
甘味後引きのある高甘味度甘味料としてソーマチンを用いた。甘味後引きを低減する成分としてグルコースを選択した。ソーマチンは、味覚受容体の接続部分(部位B)と結合する。一方、グルコースは、受容体外のグルコーストランスポーター部分(部位D)と結合することが知られている。
基準溶液α2として、ソーマチンを9.77ppmの濃度で脱イオン水に溶解した。基準溶液β1として、それと等甘味強度となるようにグルコースを12.3%の濃度で脱イオン水に溶解した。試料溶液γ4として、基準溶液α2と基準溶液β1を1:1の配合で混合した溶液を調製した。
実施例1と同様の方法で、パネルより次の結果が得られた。
これらの値を用いて、上記方法によりグルコースによるソーマチンの甘味後引き防止効果を算出したところ、17%(37.6/32.1-1)となった。部位Bに結合する高甘味度甘味料ソーマチンに対して部位Dに結合する甘味料グルコースには甘味後引き防止効果があることが示された。
【表4】
【0077】
以上の結果から、各部位に結合する甘味料の組合せパターンについて甘味後引き低減効果を表にまとめたものが下表である。
【表5】
同じ部位を同時刺激する試験(部位A+部位A)では後引き低減効果がなかったのに対して、異なる部位を同時刺激する試験(部位A+部位D、部位A+部位Bおよび、部位B+部位D)の場合には後引き低減効果があった。
従って、異なる部位を同時刺激することで甘味後引きが防止されることが確認された。
【0078】
〔実施例4〕
部位Aと結合する高甘味度甘味料と、その甘味後引きを減少させる後引き改善成分である部位B、C、あるいはDに結合する甘味料との至適配合量を確認することを目的として、以下の試験を実施した。甘味強度の等しい、レバウジオシドD水溶液(高甘味度甘味料)とグルコース水溶液(後引きを低減させる化合物)を準備し、レバウジオシドD水溶液:グルコース水溶液の配合比率を9:1に設定して甘味後引き減少効果を検討した。
基準溶液α1と基準溶液β1の配合比率を基準溶液α1:基準溶液β1が9:1となる比率で混合した場合について、実施例1と同じ手順で評価を行った。試料溶液γ5として、基準溶液α1と基準溶液β1を9:1の配合で混合した溶液を調製した。
パネリスト(N=3)による評価の集計から次の結果が得られた。これらの値を用いて、上記方法により基準溶液α1と基準溶液β1の比率が9:1の場合の甘味後引き低減効果を算出したところ、11%(23.6/21.3-1)となった。比率が9:1の場合でもレバウジオシドDに対してグルコースが甘味後引き防止効果を十分に有することが示された。
【表6】
【0079】
〔実施例5〕
次に甘味強度の等しい、レバウジオシドD水溶液(高甘味度甘味料)とグルコース水溶液(後引きを低減させる化合物)を準備し、レバウジオシドD水溶液:グルコース水溶液の配合比率を5:4に設定して甘味後引き減少効果を検討した。
基準溶液α3として、レバウジオシドDを373ppmの濃度で脱イオン水に溶解した。基準溶液β4として、それと等甘味強度となるようにグルコースを7.8%の濃度で脱イオン水に溶解した。試料溶液γ6として、基準溶液α3と基準溶液β4を5:4の配合で混合した溶液を調製した。
パネリスト(N=4)による評価の集計から次の結果が得られた。これらの値を用いて、上記方法により基準溶液α3と基準溶液β4の比率が5:4の場合の甘味後引き防止効果を算出したところ、37.3%(40.3/29.4-1)となった。比率が5:4の場合でもレバウジオシドDに対してグルコースが甘味後引き防止効果を十分に有することが示された。
【表7】
【0080】
また、基準溶液α3と基準溶液β4の比率が1:9の場合についても、少数のパネリストによる評価で甘味後引き防止の効果が10%以上となる結果が得られた。
上記実施例1、5および6の結果をもとに、甘味後引き防止の効果が10%以上の場合には後引き防止効果がある“○”とし、10%未満の場合には後引き防止効果がない “×”として、レバウジオシドD溶液とグルコース溶液との配合比率と甘味後引きの低減効果との関係についてまとめたのが下表である。グルコース溶液との混合によりレバウジオシドD溶液の甘味後引の防止が奏される。また、この効果は、レバウジオシドD溶液:グルコース溶液が9:1~1:9の範囲で幅広く観察される。
【表8】
甘味後引き低減効果が10%未満のもの ×
甘味後引き低減効果が10%以上のもの ○
【0081】
[実施例6]
実施例5と同様に、基準溶液α3として、レバウジオシドDを373ppmの濃度で脱イオン水に溶解したものと、基準溶液β4として、それと等甘味強度となるようにグルコースを7.8%の濃度で脱イオン水に溶解したものを用意した。試料溶液として、基準溶液α3と基準溶液β4を、10:0、9:1、7:3、5:4、4:5、3:7、1:9、0:10の配合で混合した溶液を調製した。
官能評価試験をより正確に行う目的で、少数の訓練された感度の高いパネリスト(N=2)により評価を行った。すなわち、標準的な甘味料であるスクロース、フルクトース、グルコースに対する摂取直後の甘味強度評定値の標準偏差を算出し、評定値が安定している2名のパネリストが評価をした。上記の各試料溶液の甘味後引き防止効果についてデータを取り、各試料溶液について甘味後引き防止効果を評価した。基準溶液α3と基準溶液β4を、5:4と9:1とした試験の結果をそれぞれ表9および表10に示す。
【表9】
【表10】
【0082】
上記表9と表10と同様にして、基準溶液α3と基準溶液β4を、10:0、7:3、4:5、3:7、1:9、0:10とした試料についても甘味後引き指標値を評価した。その結果を表11に示す。この結果から、レバウジオシドDに対するグルコースの甘味後引き防止効果は、両者の比率が9:1~1:9の範囲で幅広く観察されることが示され、実施例1、5および6の結果と同様の傾向が確認された。
【表11】
甘味後引き低減効果が10%未満のもの ×
甘味後引き低減効果が10%以上のもの ○
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明により、高甘味度甘味料による甘味後引きを低減することが可能である。また、本発明により、高甘味度甘味料による甘味後引きを低減するための組成物及び高甘味度甘味料による甘味後引きが低減した飲食品が提供される。本発明は、マスキング効果により甘味後引きを改善する方法における欠点である味の変質を生じることなく、高甘味度甘味料による甘味後引きを低減することが可能である。
【配列表】