(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】電気化学システム
(51)【国際特許分類】
C25B 15/00 20060101AFI20241016BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20241016BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20241016BHJP
C25B 9/23 20210101ALI20241016BHJP
C25B 9/70 20210101ALI20241016BHJP
C25B 15/023 20210101ALI20241016BHJP
【FI】
C25B15/00 303
C25B1/04
C25B9/00 A
C25B9/23
C25B9/70
C25B15/023
(21)【出願番号】P 2022197749
(22)【出願日】2022-12-12
【審査請求日】2023-07-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077665
【氏名又は名称】千葉 剛宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116676
【氏名又は名称】宮寺 利幸
(74)【代理人】
【識別番号】100191134
【氏名又は名称】千馬 隆之
(74)【代理人】
【識別番号】100136548
【氏名又は名称】仲宗根 康晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136641
【氏名又は名称】坂井 志郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180448
【氏名又は名称】関口 亨祐
(72)【発明者】
【氏名】河野 匠
【審査官】関口 貴夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-131957(JP,A)
【文献】特開2021-46602(JP,A)
【文献】特開2022-83098(JP,A)
【文献】国際公開第2021/181772(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 15/00
C25B 1/00
C25B 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜が第1電極及び第2電極で挟持された膜電極接合体を有する第1スタックと、
前記第1スタックから出力された高圧の第1ガスを貯蔵する第1タンクと、
前記第1スタックと前記第1タンクとを接続する流路に配置された逆止弁と、
前記逆止弁の上流の前記流路に接続された第1圧力センサと、
前記逆止弁の下流の前記流路に接続された第2圧力センサと、
前記第1圧力センサと前記第2圧力センサとの検出圧力により前記電解質膜の損傷の有無を判定する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記第2圧力センサの検出圧力から前記第1圧力センサの検出圧力を減算した差圧が、所定圧力を上回った場合に、前記電解質膜が損傷したと判定する、
電気化学システム。
【請求項2】
請求項1記載の電気化学システムであって、
前記第1スタックから排出された第2ガスを外部に排気可能な排気装置を備え、
前記電解質膜が損傷したと判定した場合に、前記制御部は、前記排気装置を制御して前記第2ガスを排気させる、
電気化学システム。
【請求項3】
請求項2記載の電気化学システムであって、
前記第1スタックは、供給された水を電気分解して、前記第1ガスとして酸素ガスを生成し、前記第2ガスとして水素ガスを生成する水電解スタックであり、
前記第1スタックに供給される水と、前記第1スタックから排出される水素ガスとを分離する気液分離器を有する、
電気化学システム。
【請求項4】
請求項3記載の電気化学システムであって、前記排気装置は、前記気液分離器に設けられている、
電気化学システム。
【請求項5】
請求項3記載の電気化学システムであって、
前記気液分離器で水と分離された水素ガスを昇圧する水素昇圧スタックと、
前記気液分離器から前記水素昇圧スタックへの水素ガスの供給を遮断する遮断弁と、を有し、
前記電解質膜が損傷したと判定した場合に、前記制御部は、前記遮断弁を制御して、前記気液分離器から前記水素昇圧スタックへの水素ガスの供給を遮断する、
電気化学システム。
【請求項6】
請求項5記載の電気化学システムであって、前記遮断弁は、前記気液分離器と前記水素昇圧スタックとに接続される第3流路に設けられる、
電気化学システム。
【請求項7】
請求項5記載の電気化学システムであって、
前記第1スタックから前記水素昇圧スタックに供給される水素ガスから触媒反応により酸素ガスを除去する触媒装置を有する、
電気化学システム。
【請求項8】
請求項7記載の電気化学システムであって、
前記遮断弁は、前記気液分離器と前記水素昇圧スタックとに接続される第3流路に設けられ、前記触媒装置は、前記第3流路の前記遮断弁の下流に設けられる、
電気化学システム。
【請求項9】
請求項7記載の電気化学システムであって、
前記触媒装置は、前記気液分離器において貯留される水と接する部位に配置されている、
電気化学システム。
【請求項10】
請求項5記載の電気化学システムであって、前記水素昇圧スタックから出力されて昇圧された水素ガスを前記水素昇圧スタックに戻す減圧調整部を有し、
前記電解質膜が損傷したと判定した場合に、前記制御部は、前記減圧調整部を制御して水素ガスを前記水素昇圧スタックに戻させる、
電気化学システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学反応によりガスを発生させる電気化学システムに関する。
【背景技術】
【0002】
電解質膜を有するスタックを用いて電気化学的にガスを発生させ、或いは電気化学的にガスを昇圧させる電気化学システムが種々提案されている。例えば、特許文献1には、原料として供給された水を水電解スタックで分解して酸素及び水素を発生させ、圧縮ガスとして酸素ガスタンク及び水素ガスタンクに貯蔵する電気化学システムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のような電気化学システムにおいて、スタックは、電解質膜のアノード側とカソード側とに大きな差圧が生じる条件で使用される場合がある。このようなスタックにおいて電解質膜が損傷すると、高圧側のガスが低圧側に漏洩するため、他の機器にトラブルが発生するおそれがある。
【0005】
本発明は、上述した課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下の開示の一観点は、電解質膜が第1電極及び第2電極で挟持された膜電極接合体を有する第1スタックと、前記第1スタックから出力された高圧の第1ガスを貯蔵する第1タンクと、前記第1スタックと前記第1タンクとを接続する前記流路に配置された逆止弁と、前記逆止弁の上流の前記流路に接続された第1圧力センサと、前記逆止弁の下流の前記流路に接続された第2圧力センサと、前記第1圧力センサと前記第2圧力センサとの検出圧力により前記電解質膜の損傷の有無を検出する制御部と、を備え、前記制御部は、前記第2圧力センサの検出圧力から前記第1圧力センサの検出圧力を減算した差圧が、所定圧力を上回った場合に、前記電解質膜が損傷したと判定する、電気化学システムにある。
【発明の効果】
【0007】
上述観点の電気化学システムは、電解質膜の損傷による第1ガスの漏洩を検出することで、第1スタックに接続された他の機器を保護することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係る電気化学システムの構成を示す図である。
【
図2】
図2は、
図1の電気化学システムの動作を示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、第2実施形態に係る電気化学システムの構成を示す図である。
【
図4】
図4は、第3実施形態に係る電気化学システムの構成を示す図である。
【
図5】
図5は、第4実施形態に係る電気化学システムの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(第1実施形態)
本実施形態の電気化学システム10は、外部からの電力供給により、水を電気分解する水電解システムである。電気化学システム10は、第1ガス(本実施形態では、酸素ガス)及び第2ガス(本実施形態では、水素ガス)を発生させる。電気化学システム10は、電気化学的なガスの昇圧機能を備えており、第1ガスを圧縮状態で第1タンク12(酸素タンク)に貯蔵し、第2ガスを圧縮状態で第2タンク14(水素タンク)に貯蔵する。電気化学システム10は、例えば、余剰な電気エネルギーを酸素と水素の形で保存するエネルギー貯蔵システムに利用される。以下、電気化学システム10の構成について説明する。
【0010】
電気化学システム10は、第1スタック16と、水素昇圧スタック18と、気液分離器20と、第1タンク12と、第2タンク14と、水タンク22と、制御部24と、を主に備える。制御部24は、CPU及びメモリを備えたコンピュータとして構成される。
【0011】
本実施形態の第1スタック16は、水電解スタック17である。水電解スタック17は、電解質膜26を第1電極(アノード)26aと第2電極(カソード)26cとで挟持した膜電極接合体27を有する。電解質膜26は、例えば水酸化物イオンOH-を輸送するアニオン交換膜である。膜電極接合体27は、セパレータ29によって挟まれることで、単位セル30を構成する。第1スタック16は、その内部に、数十~数百層の単位セル30を積層したセルスタック31を有する。セルスタック31は、積層方向のアノード26a及びカソード26cから供給される電流によって駆動される。
【0012】
各々の単位セル30は、アノード26aから酸素ガスを発生させ、カソード26cから水素ガスを発生させる。カソード26cには、供給流路42を通じて水が供給される。カソード26cは、電気化学反応により、水の一部を水素イオンH+と水酸化物イオンOH-とに分解する。水素イオンH+は、カソード26cの表面で電子を受け取って、水素ガスとなる。カソード26cで発生した水素ガスは、水と共に第2流路46を通じて第1スタック16から排出される。水素ガス及び水は、第2流路46を通じて気液分離器20に流入する。
【0013】
水酸化物イオンOH-は、電解質膜26によってアノード26aに輸送される。水酸化物イオンOH-は、アノード26aの表面で電子を放出して酸素ガスと水を発生させる。酸素ガスは、第1スタック16の内部の流路を通じて集められ、第1スタック16から流出する。酸素ガスは、第1流路44を通じて第1タンク12に貯蔵される。これにより、第1流路44を通じて第1タンク12で貯蔵される酸素ガスの圧力は、第2流路46を通じて気液分離器20に流入する水素ガスの圧力よりも高圧となる。
【0014】
第1流路44には、背圧弁48が配置されている。背圧弁48は、第1流路44の酸素ガスの圧力を、例えば1~100MPaといった所定の圧力に維持する。背圧弁48を通過した酸素ガスは、第1タンク12に貯蔵される。したがって、各単位セル30は、電解質膜26のアノード26aとカソード26cとで高い差圧が生じた状態で使用される。アノード26aで発生した水は、アノード26aとカソード26cとの圧力差により、電解質膜26を通じてカソード26cに戻され、第2流路46に流入する。
【0015】
第1流路44の途上には、逆止弁50が設けられる。逆止弁50は、背圧弁48と第1スタック16との間に位置する。逆止弁50は、第1スタック16から第1タンク12に向かう方向にのみ酸素ガスを通過させ、第1タンク12から第1スタック16への酸素ガスの逆流を阻止する。
【0016】
電気化学システム10は、逆止弁50の上流の第1流路44に接続された第1圧力センサ52と、逆止弁50の下流の第1流路44に接続された第2圧力センサ54とを有する。第1圧力センサ52は、逆止弁50の上流の第1流路44の酸素ガスの圧力を検出する。第2圧力センサ54は、逆止弁50の下流の第1流路44の酸素ガスの圧力を検出する。第1圧力センサ52の検出結果及び第2圧力センサ54の検出結果は、制御部24に入力される。
【0017】
制御部24は、第1圧力センサ52の検出結果及び第2圧力センサ54の検出結果に基づいて、電解質膜26の損傷の有無を検出する。具体的には、制御部24は、第2圧力センサ54によって検出された圧力から第1圧力センサ52によって検出された圧力を減算した差圧ΔPが所定圧力を上回った場合に、電解質膜26が損傷したと判定する。
【0018】
供給流路42は、気液分離器20の水貯留部20wと第1スタック16とを接続する。水貯留部20wは、気液分離器20のうち水が貯留される部分である。供給流路42は、気液分離器20の水貯留部20wに貯留された水を、第1スタック16に供給する。必要に応じて、供給流路42には水を第1スタック16に送り込むポンプが配置されてもよい。第2流路46は、気液分離器20と第1スタック16とを接続し、第1スタック16から排出された水と水素ガスとを含んだ流体を気液分離器20に導く。
【0019】
気液分離器20は、第2流路46を流入した流体を水素ガスと液体状の水とに分離する。気液分離器20は、重力又は遠心力によって水素ガスから水を分離する。気液分離器20で分離された水は水貯留部20wに貯留される、水素ガスはガス回収部20gに集められる。
【0020】
水貯留部20wに貯留された水は、供給流路42を通じて第1スタック16に戻される。水は、第2流路46及び供給流路42を通じて気液分離器20と第1スタック16との間を循環する。気液分離器20と第1スタック16との間を循環する水の量は、第1スタック16の電気化学反応が進むにつれて減少する。減少した水を補うために、電気化学システム10は、水タンク22を有する。水タンク22は気液分離器20の水貯留部20wに水を供給することで、水貯留部20wの水位を一定に保つ。
【0021】
排気装置56は、第2流路46及び気液分離器20の内部のガスを排出する装置である。排気装置56は、制御部24による制御にしたがって第2流路46及び気液分離器20の内部のガスを排出する。第1圧力センサ52によって検出された圧力と第2圧力センサ54によって検出された圧力との差圧ΔPが所定圧力を上回った場合、つまり、電解質膜26の損傷が検出された場合、制御部24は、排気装置56を制御してガスの排出を行う。外部環境が真空である場合には、排気装置56は、排気路58と、排気路58を開閉する排気弁60とで構成できる。なお、電気化学システム10が大気中又は水中に配置される場合には、排気装置56は、ポンプ及びバルブを組み合わせて構成できる。
【0022】
気液分離器20には、第2背圧弁62が接続されている。第2背圧弁62は、第2流路46を、第1流路44よりも低い所定の圧力に維持する。
【0023】
気液分離器20で水が分離された水素ガスは、第3流路64を通じて水素昇圧スタック18に導かれる。電気化学システム10は、第3流路64の途上に、遮断弁66と、触媒装置68と、を有する。遮断弁66は、第3流路64において触媒装置68の上流に位置する。遮断弁66は、第3流路64を閉塞可能な弁であり、制御部24による制御にしたがって開閉動作を行う。電解質膜26の損傷が検出された場合に、制御部24は、遮断弁66を制御して第3流路64を閉塞する。
【0024】
触媒装置68は、例えば貴金属等(例えば白金)の触媒を含む。触媒は、水素ガスと酸素ガスとを反応させることで、水素ガスに微量に混入する酸素ガスを水に変換して除去する。第3流路64に混入する酸素ガスは、第1スタック16に由来する。すなわち、第1スタック16は、電解質膜26が損傷していない状態であっても、アノード26aとカソード26cとの圧力差によって、微量ながら酸素ガスを透過させる。電解質膜26を透過した酸素ガスは、第3流路64を含む水素ガスの循環経路21に蓄積される。
【0025】
電解質膜26の損傷により、酸素ガス濃度が高い混合ガスが触媒装置68に供給されると触媒装置68で激しく反応してしまい、反応熱により触媒装置68の温度が非常に上がってしまう。水素ガス中の酸素ガスの濃度の上昇と、触媒装置68の高温という2つの条件が揃うと、混合ガスを構成する水素ガスと酸素ガスとが電気化学システム10の内部の機器を損傷させるおそれがある。そこで、本実施形態の電気化学システム10は、電解質膜26の損傷が検出された場合に、排気装置56と遮断弁66とで触媒装置68への混合ガスの供給を阻止する。
【0026】
なお、特に図示はしないが、第3流路64は、水素ガスを水素昇圧スタック18に送り込むポンプを備えてもよい。
【0027】
水素昇圧スタック18は、第3流路64の下流の端部に接続される。水素昇圧スタック18は、複数の単位セル32を積層した構造を有する。各々の単位セル32は、電解質膜28と電解質膜28を挟むカソード28c及びアノード28aとを有する。本実施形態の水素昇圧スタック18は、電解質膜28として、プロトンH+を輸送する水素イオン伝導膜である。電解質膜28は、アノード28aに供給された水素ガスを、プロトンH+に変換する。電解質膜28は、アノード28aとカソード28cとの電位差によってプロトンH+をカソード28cに向けて移動させる。プロトンH+の移動は、電解質膜28の両側の圧力差に抗して進む。プロトンH+はカソード28cで電子を受け取って水素ガスとして放出される。電解質膜28は、このようにしてカソード28cに昇圧された水素ガスを発生させる。
【0028】
電解質膜28のカソード28cは第4流路70と連通する。第4流路70は、水素昇圧スタック18と第2タンク14を接続する。電解質膜28で昇圧された水素ガスは、第4流路70を通じて第2タンク14に貯蔵される。
【0029】
一方、電解質膜28のアノード28aには、第3流路64を通じて気液分離器20から排出された水素ガスが供給される。水素ガスは、アノード28aの電気化学反応で使用される。電気化学反応に使用されなかった水素ガスは、第5流路72を通じて気液分離器20に戻される。第5流路72は、第3流路64と共に、気液分離器20と水素昇圧スタック18のアノード28aとの間で水素ガスを循環させる循環経路21を形成する。
【0030】
本実施形態の電気化学システム10は、以上のように構成される。以下、電気化学システム10の動作について説明する。
【0031】
図2に示されるように、電気化学システム10は、水の電気分解を開始すると、所定の起動処理の後に、ステップS10に進む。制御部24は、第1スタック16、及び水素昇圧スタック18に所定の電力を供給する。これにより、第1スタック16によって水電解処理が行われ、高圧の酸素ガスが第1タンク12に貯蔵される共に、水素昇圧スタック18によって昇圧処理が行われ、高圧の水素ガスが第2タンク14に貯蔵される。
【0032】
次に、ステップS20において、制御部24は、第2圧力センサ54の検出圧力から第1圧力センサ52の検出圧力を減算した差圧ΔP(絶対値)を求める。
【0033】
次に、ステップS30において、制御部24は、差圧ΔPが所定値よりも大きいか否かを判定する。通常の動作において、
図1に示す第1流路44は、逆止弁50の順方向に酸素ガスを流す。順方向の流れでは、逆止弁50の上流と下流との圧力差は、わずかであるため、差圧ΔPは、所定圧力以下となる。したがって、差圧ΔPが所定圧力以下の場合には、制御部24は、電解質膜26が損傷していない(NO)と判定する。
【0034】
ステップS30において制御部24がNOと判定した場合には、処理はステップS40に進む。ステップS40において、制御部24はタイマーを所定値に設定する。ステップS40で設定されるタイマーの所定値は、電解質膜26の損傷の有無を判定するための待ち時間を反映している。
【0035】
その後、処理はステップS50に進む。ステップS50において、制御部24は、電解質膜26が損傷した旨の判定(フラグ)の有無を検出する。電解質膜26の損傷の有無の判定は、後述するステップS90で行われる。差圧ΔPの値が所定圧力を下回っている通常の動作では、ステップS50において、制御部24は、電解質膜26の損傷の判定はないと判断する(NO)。
【0036】
一方、
図1の第1スタック16において、電解質膜26が損傷した場合には、高圧のアノード26aから低圧のカソード26cに向けて酸素ガスの漏洩が発生する。そのため、酸素ガスは、第1流路44を逆方向に流れようとし、逆止弁50が第1流路44の酸素ガスの流通を阻止する。その結果、逆止弁50の上流と下流との間に、大きな差圧ΔPが発生する。差圧ΔPの値がステップS30の所定圧力を上回ると、制御部24は、ステップS30においてYESと判定する。
【0037】
ステップS30において、制御部24がYESと判定した場合には、差圧ΔPが所定圧力を上回る検出結果が、所定の待ち時間継続したか否かを判定するために、処理はステップS70に移行する。ステップS70において、制御部24は、タイマーの値が0か否かを判定する。ステップS70でタイマーの値が0でない場合(NO)には、制御部24は、所定の待ち時間が経過していないと判断して処理をステップS80に進める。ステップS80において、制御部24は、タイマーの値を1減算し、ステップS50に移行する。タイマーの値は、ステップS40で設定された所定値から、ステップS80を経る毎に、1ずつ減少する。ステップS70及びステップS80の処理は、タイマーの値が0になるまで繰り返される。その間、電気化学システム10は、電解処理を継続する。
【0038】
一方、ステップS70において、タイマーの値が0である場合には、制御部24は、所定圧力を上回る検出結果が、所定の待ち時間継続したと判定(YES)し、処理はステップS90に進む。ステップS90において、制御部24は、電解質膜26が損傷したと判定する。その後、処理はステップS50に進む。
【0039】
なお、ステップS70~80は、第1圧力センサ52及び第2圧力センサ54のノイズによる誤検出を防ぐための一例であり、本実施形態はこの例に限定されない。第1圧力センサ52及び第2圧力センサ54のノイズを防ぐ別の方法が採用される場合には、ステップS70~80は省略され得る。
【0040】
上述のステップS90で制御部24が、電解質膜26が損傷したと判定した場合には、ステップS50において制御部24は(YES)と判定し、処理をステップS100に進める。
【0041】
ステップS100において、制御部24は、第1スタック16及び水素昇圧スタック18への電力の供給を停止する。また、ステップS110において、制御部24は
図1の遮断弁66を閉塞させて第3流路64を遮断する。第3流路64の遮断により、酸素ガスを多量に含む混合ガスの触媒装置68への供給が阻止される。その結果、電気化学システム10は、触媒装置68の過熱と水素ガスと酸素ガスとの混合ガスの着火を防止できる。また、遮断弁66は、水素昇圧スタック18への酸素ガスの流入を防止して、水素昇圧スタック18の電極に使用される触媒(例えば、白金)の劣化を防止する。
【0042】
その後、ステップS120において制御部24は、排気装置56を作動させて、第2流路46及び気液分離器20の混合ガスを排気する。排気装置56は、第2流路46及び気液分離器20の混合ガスの濃度を、爆発範囲を下回るまで減少させることで、機器の損傷を防止する。
【0043】
なお、ステップS100~S120の処理は、図示の順序に限定されず、任意の順序で行われてよく、又は全ての処理が同時に行われてもよい。
【0044】
一方、ステップS50において、制御部24が電解質膜26の損傷の判定がないと判断(NO)した場合には、制御部24は、処理をステップS60に進める。ステップS60では、電解処理が継続される。すなわち、第1スタック16及び水素昇圧スタック18への電力の供給が継続される。その後、処理はステップS20に戻る。
【0045】
(第2実施形態)
図3に示す本実施形態の電気化学システム10Aは、
図1の電気化学システム10の触媒装置68の配置を変更した例である。なお、電気化学システム10A(
図3)の説明において、電気化学システム10(
図1)と同様の構成には同一の符号を付してその詳細な説明は省略される。
【0046】
電気化学システム10Aでは、触媒装置68が第2流路46の下流に接続されている。本実施形態の触媒装置68は、気液分離器20の内部に突出するように配置されている。触媒装置68は、水貯留部20wの水に接する位置に配置される。
【0047】
また、電気化学システム10Aは、供給流路42に熱交換器71を有する。熱交換器71は、水の温度を下げることで、触媒装置68で発生した熱を外部に逃がす。
【0048】
このような触媒装置68は、酸素ガスと水素ガスとの混合ガスに接した際に発生した熱を、水貯留部20wの水に速やかに逃がすことができる。そのため、本実施形態の電気化学システム10Aは、触媒装置68の温度上昇を抑制でき、触媒装置68による水素ガスと酸素ガスとの混合ガスの発火を防止できる。
【0049】
また、熱交換器71は、気液分離器20と第1スタック16との間を循環する水の温度を下げることで、気液分離器20の水貯留部20wに貯留される水の蒸発を防止できる。
【0050】
(第3実施形態)
図4に示す電気化学システム10Bは、
図1の電気化学システム10に対して水素ガスを第3流路64に供給可能な減圧調整部76を追加した変形例である。なお、電気化学システム10B(
図4)の説明において、電気化学システム10(
図1)で説明済みの構成には同一符号を付してその詳細な説明は省略される。
【0051】
図4に示されるように、電気化学システム10Bは、減圧調整部76を有する。減圧調整部76は、第6流路78と第7流路80とを有する。第6流路78は、第4流路70と第3流路64とを接続する流路である。第6流路78の一端は、3方弁82を介して第4流路70に接続され、第6流路78の他端は遮断弁66の下流の第3流路64に接続されている。第6流路78は、その途上に、第2遮断弁84と、減圧弁86とを有する。第2遮断弁84は、制御部24が制御することで開閉する。電気化学システム10Bの通常処理において、第2遮断弁84は、第6流路78の水素ガスの流通を遮断する。第2遮断弁84は、制御部24が電解質膜26の損傷を検出した場合に、第6流路78を開通させる。減圧弁86は、第6流路78を流れる高圧の水素ガスの圧力を減圧して、第3流路64に供給する。
【0052】
第7流路80は、第5流路72と第3流路64とを接続する流路である。第7流路80の一端は、3方弁88を介して第5流路72に接続され、第7流路80の他端は遮断弁66の下流の第3流路64に接続される。第7流路80は、その途上に第2逆止弁90を有する。第2逆止弁90は、第5流路72から第3流路64に向かう方向にのみ、ガスを流通させる。
【0053】
なお、
図4の第3流路64において、触媒装置68(
図1参照)の図示は省略されている。また、第3流路64には、水素昇圧スタック18に向けて水素ガスを送り込むポンプ92が設けられている。
【0054】
本実施形態の電気化学システム10Bは、以上のように構成される。以下、電気化学システム10Bの動作について説明する。
【0055】
電気化学システム10Bにおいて、第1スタック16の電解質膜26の損傷が検出された場合には、第3流路64の遮断弁66が閉塞すると共に、排気装置56を通じて気液分離器20から水素ガスと酸素ガスとを含む混合ガスが排出される。そのため、水素昇圧スタック18のアノード28a(
図1参照)の圧力が急速に低下する。水素昇圧スタック18のアノード28aの急減圧は、電解質膜28の内部の水を突沸させ、電解質膜28の内部に気孔による損傷を発生させる。したがって、水素昇圧スタック18は、徐々に減圧させることが求められる。
【0056】
そこで、本実施形態の電気化学システム10Bは、第3流路64の遮断弁66が閉塞し、排気装置56による排気が開始されると、制御部24が減圧調整部76を制御することにより第6流路78及び第7流路80を通じて第3流路64に水素ガスを供給して、水素昇圧スタック18のアノード28aの急減圧を防止する動作を開始する。
【0057】
第3流路64の遮断弁66が閉塞すると、制御部24は、第6流路78の3方弁82を回動させて、第4流路70と第6流路78とを連通させると共に、第2遮断弁84を開通させる。その結果、第4流路70の水素ガスが、第6流路78を通じて、第3流路64に供給される。
【0058】
また、制御部24は、第7流路80の3方弁88を回動させて、第5流路72と第7流路80とを連通させる。その結果、第5流路72の水素ガスが第7流路80を通じて第3流路64に供給される。
【0059】
このようにして、本実施形態の電気化学システム10Bは、第3流路64の遮断弁66が閉塞した後に、第6流路78及び第7流路80を通じて第3流路64に水素ガスが供給されるため、水素昇圧スタック18のアノード28aの圧力の急低下を防ぐことができる。
【0060】
(第4実施形態)
図5に示す本実施形態の電気化学システム10Cは、第1スタック16Dとして、水素昇圧スタック18を有する。水素昇圧スタック18は、電解質膜28を有し、流入した水素ガスを電気化学的に昇圧する。水素昇圧スタック18は、第1流路44を通じて第1タンク12と接続されている。第1流路44は、逆止弁50と、逆止弁50の上流に接続された第1圧力センサ52と、逆止弁50の下流に接続された第2圧力センサ54とを有する。
【0061】
第1スタック16Dからは、第2ガスとして、未反応の水素ガスが第2流路46を通じて排出される。すなわち、本実施形態において、第1ガス及び第2ガスは、いずれも水素ガスである。
【0062】
制御部24は、第1圧力センサ52と第2圧力センサ54との差圧ΔPから、第1スタック16Dの電解質膜28の損傷の有無を判定する。制御部24は、電解質膜28が損傷したと判定したときに、第2流路46に接続された図示しない遮断弁又は排気装置を作動させて、水素ガスの漏洩によるトラブルを防止できる。
【0063】
以上の開示は、以下のようにまとめられる。
【0064】
一観点の電気化学システム10、10A~10Cは、電解質膜26が第1電極26a及び第2電極26cで挟持された膜電極接合体27を有する第1スタック16、16Dと、前記第1スタックから出力された高圧の第1ガスを貯蔵する第1タンク12と、前記第1スタックと前記第1タンクとを接続する流路44に配置された逆止弁50と、前記逆止弁の上流の前記流路に接続された第1圧力センサ52と、前記逆止弁の下流の前記流路に接続された第2圧力センサ54と、前記第1圧力センサと前記第2圧力センサとの検出圧力により前記電解質膜の損傷の有無を検出する制御部24と、を備え、前記制御部は、前記第2圧力センサの検出圧力から前記第1圧力センサの検出圧力を減算した差圧ΔPが、所定圧力を上回った場合に、前記電解質膜が損傷したと判定する。
【0065】
上述の電気化学システムは、第1流路の逆止弁の上流と下流との差圧から、電解質膜の損傷の有無を判定することで、第1ガスの漏洩によるトラブルを防止できる。
【0066】
上述の電気化学システムにおいて、前記第1スタックから排出された第2ガスを外部に排気可能な排気装置56を備え、前記電解質膜が損傷したと判定した場合に、前記制御部は、前記排気装置を制御して第2ガスを排気させてもよい。この電気化学システムは、漏洩した第1ガスを第2ガスと共に排気することで、第1ガスと第2ガスとの混合ガスによるトラブルを防止できる。
【0067】
上述の電気化学システムにおいて、前記第1スタックは、供給された水を電気分解して、前記第1ガスとして酸素ガスを生成し、前記第2ガスとして水素ガスを生成する水電解スタック17であり、前記第1スタックに供給される水と、前記第1スタックから出力される水素ガスとを分離する気液分離器20を有してもよい。この電気化学システムは、水素と酸素との混合ガスによるトラブルを防止できる。
【0068】
上述の電気化学システムにおいて、前記排気装置は、前記気液分離器に設けられてもよい。この電気化学システムは、ガスのみを排出できるため、水の損失を抑制できる。
【0069】
上述の電気化学システムであって、前記気液分離器で水と分離された水素ガスを昇圧する水素昇圧スタック18と、前記気液分離器から前記水素昇圧スタックへの水素ガスの供給を遮断する遮断弁66と、を有し、前記電解質膜が損傷したと判定した場合に、前記制御部は、前記遮断弁を制御して、前記気液分離器から前記水素昇圧スタックへの水素ガスの供給を遮断してもよい。この電気化学システムは、水素と酸素との混合ガスの水素昇圧スタックへの流入を防ぐことができ、水素昇圧スタックの触媒の劣化を防止できる。
【0070】
上述の電気化学システムにおいて、前記遮断弁は、前記気液分離器と前記水素昇圧スタックとに接続される第3流路64に設けられてもよい。
【0071】
上述の電気化学システムにおいて、前記第1スタックから前記水素昇圧スタックに供給される水素ガスから触媒反応により酸素ガスを除去する触媒装置68を有してもよい。この電気化学システムは、触媒装置による水素ガスと酸素ガスとの混合ガスの着火を防止できる。
【0072】
上述の電気化学システムにおいて、前記遮断弁は、前記気液分離器と前記水素昇圧スタックとに接続される第3流路に設けられ、前記触媒装置は、前記第3流路の前記遮断弁の下流に設けられてもよい。この電気化学システムは、遮断弁で触媒装置への水素と酸素との混合ガスの流入を防止できる。
【0073】
上述の電気化学システムにおいて、前記触媒装置は、前記気液分離器において貯留される水と接する部位に配置されてもよい。この電気化学システムは、触媒装置で発生する熱を水に逃がすことで水素ガスと酸素ガスとの混合ガスの着火を防止できる。
【0074】
上述の電気化学システムにおいて、前記水素昇圧スタックから出力されて昇圧された水素ガスを前記水素昇圧スタックに戻す減圧調整部76を有し、前記電解質膜が損傷したと判定した場合に、前記制御部は、前記減圧調整部を制御して水素ガスを前記水素昇圧スタックに戻させてもよい。この電気化学システムは、排気装置の作動又は遮断弁の閉塞による水素昇圧スタックの急減圧を防止して、電解質膜の損傷を防止できる。
【0075】
なお、本発明は、上述した開示に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得る。
【符号の説明】
【0076】
10、10A、10B、10C…電気化学システム
12…第1タンク 16、16D…第1スタック
17…水電解スタック 18…水素昇圧スタック
20…気液分離器 24…制御部
26、28…電解質膜 50…逆止弁
52…第1圧力センサ 54…第2圧力センサ
56…排気装置 66…遮断弁
68…触媒装置 76…減圧調整部