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特許7572426複素環式化合物又はその塩、活物質、電解液並びにレドックスフロー電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】複素環式化合物又はその塩、活物質、電解液並びにレドックスフロー電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/02 20160101AFI20241016BHJP
   H01M 8/18 20060101ALI20241016BHJP
   C07D 241/46 20060101ALI20241016BHJP
   C07C 309/11 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
H01M8/02
H01M8/18
C07D241/46
C07C309/11
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022510520
(86)(22)【出願日】2021-03-23
(86)【国際出願番号】 JP2021011880
(87)【国際公開番号】W WO2021193594
(87)【国際公開日】2021-09-30
【審査請求日】2023-10-26
(31)【優先権主張番号】P 2020052173
(32)【優先日】2020-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020169567
(32)【優先日】2020-10-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021005637
(32)【優先日】2021-01-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021005638
(32)【優先日】2021-01-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】海寳 篤志
(72)【発明者】
【氏名】永塚 真也
(72)【発明者】
【氏名】中島 知也
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-533613(JP,A)
【文献】特開平05-125036(JP,A)
【文献】特表2015-534708(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0370403(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/18
C07D 241/46
C07C 309/11
C07C 50/18
C07C 59/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)、(2)若しくは(3)で表される複素環式化合物又はその塩。
【化1】
(式(1)中、
~Rは、それぞれ独立に、水素原子、酸性基、アルコキシ基、アルキル基、アミノ基、アミド基又は式(a)で表される基であり、R~Rの少なくとも1つは式(a)で表される基であり、
は、酸素原子、硫黄原子又はNYを表し、
は、式(b)で表される基であり、
は、水素原子、アルキル基、カルボニル基、スルホニル基又は式(b)で表される基であり、
及びR10は、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を表し、Zは酸性基であり、
nは1~7の整数であり、
aは、式(1)との結合部位を表し、
bは、式(a)のXとの結合部位を表す);
【化2】
(式(2)中、
は、酸素原子、硫黄原子又はNR11であり、
は、リンカーであり、
は、酸性基であり、
は、1~6の整数であり、
11は、水素原子又はアルキル基であり、
12は、それぞれ独立して、アルキル基又は酸性基であり、
は、0~5の整数である);
【化3】
(式(3)中、
は、酸素原子又は硫黄原子であり、
は、リンカーであり、
は、酸性基であり、
は、3~8の整数であり、
13は、それぞれ独立して、アルキル基又は酸性基であり、
は、0~5の整数である)
【請求項2】
前記式(b)におけるZがスルホ基である、請求項1に記載の複素環式化合物又はその塩。
【請求項3】
前記式(1)におけるR~Rのうち、少なくとも2つが前記式(a)で表される基である、請求項1又は2に記載の複素環式化合物又はその塩。
【請求項4】
前記式(1)におけるR及びRが、前記式(a)で表される基である、請求項1~3のいずれか一項に記載の複素環式化合物又はその塩。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の複素環式化合物又はその塩を少なくとも1つ含む活物質。
【請求項6】
請求項5に記載の活物質を含む電解液。
【請求項7】
前記電解液が、レドックスフロー電池用電解液である、請求項6に記載の電解液。
【請求項8】
前記電解液中に含まれる水の含有量が、1質量%以上99.9質量%以下である請求項6又は7に記載の電解液。
【請求項9】
前記電解液中に含まれる水の含有量が、10質量%以上99質量%以下である請求項8に記載の電解液。
【請求項10】
請求項6~9のいずれか一項に記載の電解液を備えるレドックスフロー電池。
【請求項11】
さらに、電極及び隔膜を含む請求項10に記載のレドックスフロー電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複素環式化合物又はその塩に関する。また、本発明は、該複素環式化合物又はその塩を含む活物質、該活物質を含む電解液及び該電解液を備えるレドックスフロー電池に関する。
【背景技術】
【0002】
再生可能エネルギーによる設備容量の増加に伴い、系統電力安定化のために大型蓄電池の導入が進められている。大型蓄電池として期待されるレドックスフロー電池の電解液には水系と非水系があるが、安全性、コストの面で水系電解液が優れている。そのため、活物質には水への高い溶解度が求められ、且つ高いエネルギー密度を達成するために適切な酸化還元電位を有することが望まれる。
【0003】
また、現在主流のレドックスフロー電池にはバナジウムが活物質として用いられている。しかしながら、バナジウムの使用には資源的制約があり、価格の変動が課題となっている(非特許文献1,2)。そのため、活物質には資源的に豊富な材料を用いることが望まれる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Jan Winsberg et al., Angew. Chem. Int. Ed. 2017, 56, 686-711
【文献】P. Leung et al., Journal of Power Sources 360 (2017) 243-283
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、水系電解液を用いたレドックスフロー電池のエネルギー密度とサイクル特性の向上を可能とする、新規化合物、活物質、電解液及びレドックスフロー電池の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施形態に係る複素環式化合物又はその塩は、下記式(1)、(2)又は(3)で表される。
【化1】
(上記式(1)中、
~Rは、それぞれ独立に、水素原子、酸性基、アルコキシ基、アルキル基、アミノ基、アミド基又は式(a)で表される基であり、R~Rの少なくとも1つは式(a)で表される基であり、
は、酸素原子、硫黄原子又はNYであり、
は、式(b)で表される基であり、
は、水素原子、アルキル基、カルボニル基、スルホニル基又は式(b)で表される基であり、
及びR10は、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を表し、
は酸性基であり、
nは1~7の整数を表し、
aは、式(1)との結合部位を表し、
bは、式(a)のXとの結合部位を表す);
【化2】
(式(2)中、
は、酸素原子、硫黄原子又はNR11であり、
は、リンカーであり、
は、酸性基であり、
は、1~6の整数であり、
11は、水素原子又はアルキル基であり、
12は、それぞれ独立して、アルキル基又は酸性基であり、
は、0~5の整数である);
【化3】
(式(3)中、
は、酸素原子又は硫黄原子であり、
は、リンカーであり、
は、酸性基であり、
は、3~8の整数であり、
13は、それぞれ独立して、アルキル基又は酸性基であり、
は、0~5の整数である)
【0007】
本発明の一実施態様において、前記式(b)におけるZがスルホ基である。
【0008】
本発明の一実施態様において、前記式(1)におけるR~Rのうち、少なくとも2つが前記式(a)で表される基である。
【0009】
本発明の一実施態様において、前記式(1)におけるR及びRが、前記式(a)で表される基である。
【0010】
本発明の実施形態に係る活物質は、上記複素環式化合物又はその塩を少なくとも1つ含む。
【0011】
本発明の実施形態に係る電解液は、上記活物質を含む。
【0012】
本発明の一実施態様において、前記電解液がレドックスフロー電池用電解液である。
【0013】
本発明の一実施形態において、前記電解液中に含まれる水の含有量が、1質量%以上99.99質量%以下である。
【0014】
本発明の一実施態様において、前記電解液中に含まれる水の含有量が、10質量%以上99質量%以下である。
【0015】
本発明の実施形態に係るレドックスフロー電池は、上記電解液を備える。
【0016】
本発明の一実施態様において、前記レドックスフロー電池は、さらに、電極及び隔膜を含む。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、水系電解液を用いたレドックスフロー電池のエネルギー密度とサイクル特性の向上を可能とする、新規化合物、活物質、電解液及びレドックスフロー電池を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施例4で作製したレドックスフロー電池1が示す充放電曲線図である。
図2】実施例5で作製したレドックスフロー電池2が示す充放電曲線図である。
図3】実施例6で作製したレドックスフロー電池3が示す充放電曲線図である。
図4】実施例9で作製したレドックスフロー電池4が示す充放電曲線図である。
図5】実施例12で作製したレドックスフロー電池5が示す充放電曲線図である。
図6】実施例13で作製したレドックスフロー電池6が示す充放電曲線図である。
図7】実施例15で作製したレドックスフロー電池7が示す充放電曲線図である。
図8】実施例22で作製したレドックスフロー電池8が示す充放電曲線図である。
図9】実施例23で作製したレドックスフロー電池9が示す充放電曲線図である。
図10】実施例24で作製したレドックスフロー電池10が示す充放電曲線図である。
図11】実施例25で作製したレドックスフロー電池11が示す充放電曲線図である。
図12】実施例26で作製したレドックスフロー電池12が示す充放電曲線図である。
図13】実施例27で作製したレドックスフロー電池13が示す充放電曲線図である。
図14】比較例1で作製したレドックスフロー電池14が示す充放電曲線図である。
図15】比較例2で作製したレドックスフロー電池15が示す充放電曲線図である。
図16】比較例3で作製したレドックスフロー電池16が示す充放電曲線図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明について詳細に説明する。本明細書においては実施例等を含めて、特に言及されない限り「部」及び「%」は、いずれも質量基準である。また、煩雑さを避けるため、便宜上「化合物又はその塩」の記載は、単に「化合物」とする場合がある。
【0020】
<複素環式化合物>
本実施形態に係る複素環式化合物は、下記式(1)、(2)又は(3)で表される。すなわち、複素環式化合物は、下記式(1)で表されるフェナジン系化合物、下記式(2)で表されるナフトキノン系化合物及び式(3)で表されるアントラキノン系化合物からなる群から選択される。このような複素環式化合物を、活物質としてレドックスフロー電池用の水系電解液に含ませることにより、レドックスフロー電池のエネルギー密度とサイクル特性を向上させることができる。これらの化合物が塩を形成する場合、例えば、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩等のアンモニウム塩等であってもよい。また、式(1)、式(2)又は式(3)で表される化合物が、酸性基を複数有する場合、それらは、全て遊離酸、全て塩、一部が遊離酸(一部が塩)であってもよい。これらの化合物において、複数の塩が存在する場合、それらの塩は同じ種類の塩であってもよく、異なる種類の塩であってもよい。
【0021】
【化4】
【0022】
【化5】
【0023】
【化6】
【0024】
[式(1)で表されるフェナジン系化合物]
式(1)において、R~Rは、それぞれ独立に、水素原子、酸性基、アルコキシ基、アルキル基、アミノ基、アミド基又は式(a)で表される基であり、R~Rの少なくとも1つは式(a)で表される基である。式(a)におけるXは酸素原子、硫黄原子又はNYであり、Yは式(b)で表される基である。Yは水素原子、アルキル基、カルボニル基、スルホニル基又は式(b)で表される基である。式(b)におけるR及びR10は、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を表し、Zは酸性基であり、nは1~7の整数である。式(a)中のaは、式(1)との結合部位を表し、式(b)中のbは、式(a)のXとの結合部位を表す。
【0025】
酸性基としては、例えば、スルホ基、カルボキシ基、リン酸基、水酸基等が挙げられ、スルホ基であることが好ましい。また、これら酸性基は、遊離酸であっても、塩を形成していてもよい。
【0026】
アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、t-ブトキシ基等が挙げられる。
【0027】
アミノ基としては、例えば、アミノ基(-NH)、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、エチルアミノ基、ジエチルアミノ基などが挙げられ、アミノ基等が好ましい。
【0028】
アミド基としては、例えば、ホルムアミド基、アセトアミド基、ベンズアミド基、ピバルアミド等が挙げられ、アセトアミド基等が好ましい。
【0029】
アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基等が挙げられる。
【0030】
カルボニル基としては、例えば、アセチル基、ピバロイル基、ベンゾイル基等が挙げられ、アセチル等が好ましい。
【0031】
スルホニル基としては、例えば、メタンスルホニル基、p-トルエンスルホニル基、o-ニトロベンゼンスルホニル基、トリフルオロメタンスルホニル基等が挙げられる。
【0032】
置換基としては、例えば、アルキル基等が挙げられる。
【0033】
nは1~6であることが好ましく、1~3であることがより好ましく、1又は2であることがさらに好ましく、2であることが特に好ましい。
【0034】
式(1)におけるR~Rのうち、少なくとも2つが上記式(a)で表される基であることが好ましく、R及びRが上記式(a)で表される基であることがさらに好ましい。また、式(b)におけるZがスルホ基であることが好ましい。
【0035】
式(1)で表されるフェナジン系化合物の具体的な態様として、Rが上記式(a)で表される基であり、Rが上記式(a)で表される基又は酸性基であり、Rが、水素原子、アミド基、アミノ基又は酸性基であり、R、R、R、R及びRがそれぞれ水素原子であり、式(a)におけるXが酸素原子であり、式(b)におけるR及びR10がそれぞれ水素原子であり、nが2であることが好ましい。
【0036】
式(1)で表されるフェナジン系化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組合せて用いてもよい。2種以上を組合せて用いる場合は任意の割合で併用することができる。
【0037】
[式(2)で表されるナフトキノン系化合物]
式(2)において、Xは、酸素原子、硫黄原子又はNR11であり、Yはリンカーであり、Zは酸性基である。nは、1~6の整数であり、R11は、水素原子又はアルキル基である。R12は、それぞれ独立して、アルキル基又は酸性基であり、nは、0~5の整数である。
【0038】
アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ヘキシル基等が挙げられ、これらアルキル基は、さらにヒドロキシ基、チオール基、アルコキシ基、アミノ基、ニトリル基等の置換基を有していてもよい。
【0039】
リンカーとは、式(2)におけるXとZとの間を連結する部位を表し、例えば、アルキレン部位、「(アルキレン-酸素原子)-アルキレン連結部位」等が挙げられる。
【0040】
アルキレン部位としては、例えば、メチレン部位(-CH-)、エチレン部位(-CHCH-)、プロピレン部位(-CHCHCH-)、ブチレン部位(-CHCHCHCH-)、イソプロピレン部位(-CH(CH)CH-)等が挙げられ、プロピレン部位であることが好ましい。
【0041】
「(アルキレン-酸素原子)-アルキレン連結部位」(mは1~5の整数であり、アルキレン及びアルキレン連結部位は、上記アルキレン部位の例示から選択され得る)としては、例えば、エトキシエチル部位(-CHCHOCHCH-)、メトキシエチル部位(-CHOCHCH-)、-CHCHO-CHCHO-CHCH-等が挙げられる。
【0042】
酸性基としては、例えば、スルホ基、カルボキシ基、リン酸基、水酸基等が挙げられ、スルホ基、カルボキシ基であることが好ましい。また、これら酸性基は、遊離酸であっても、塩を形成していてもよい。
【0043】
は1~4であることが好ましく、1~2であることがさらに好ましく、2であることが特に好ましい。また、nが2以上の場合、各X、各Y、各Zは、それぞれ独立に同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0044】
は0~3であることが好ましく、0~1であることがさらに好ましく、0であることが特に好ましい。また、nが2以上の場合、各R12は、それぞれ独立に同じ又は異なっていてもよい。
【0045】
式(2)で表されるナフトキノン系化合物としては、式(2)におけるXが硫黄原子であり、Yがプロピレン部位であり、Zが酸性基であり、nが2であり、nが0であることが好ましい。すなわち、式(2)において、ナフトキノン骨格中のベンゼン環上には置換基を有さないことが好ましい。
【0046】
式(2)で表されるナフトキノン系化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組合せて用いてもよい。2種以上を組合せて用いる場合は任意の割合で併用することができる。
【0047】
[式(3)で表されるアントラキノン系化合物]
式(3)において、Xは、酸素原子又は硫黄原子であり、Yはリンカーであり、Zは酸性基である。nは、3~8の整数である。R13は、それぞれ独立して、アルキル基又は酸性基であり、nは、0~5の整数である。式(3)中、リンカー、酸性基及びアルキル基はそれぞれ上記式(2)で定義されたものと同じである。
【0048】
は酸素原子であることが好ましく、nは3~6であることが好ましい。また、各X、各Y、各Zは、それぞれ独立に同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0049】
式(3)で表されるアントラキノン系化合物として、Xが酸素原子であり、Yがメチレン部位、プロピレン部位又は-CHCHO-CHCHO-CHCH-であり、Zがスルホ基、カルボキシ基又は水酸基であり、nが3、4又は6であり、nが0であることが好ましい。より具体的には、式(3)におけるXが酸素原子であり、Yがプロピレン部位であり、Zがスルホ基であり、nが3であり、nが0であり、アントラキノン骨格の1位、2位、3位にそれぞれXが置換している化合物;式(3)におけるXが酸素原子であり、Yがプロピレン部位であり、Zがスルホ基であり、nが6であり、nが0であり、アントラキノン骨格の1位、2位、3位、5位、6位、7位にそれぞれXが置換している化合物;式(3)におけるXが酸素原子であり、Yがメチレン部位であり、Zがカルボキシ基であり、nが6であり、nが0であり、アントラキノン骨格の1位、2位、3位、5位、6位、7位にそれぞれXが置換している化合物;及び、式(3)におけるXが酸素原子であり、Yがプロピレン部位であり、Zがスルホ基であり、nが4であり、nが0であり、アントラキノン骨格の1位、3位、5位、7位にそれぞれXが置換している化合物が好ましい。
【0050】
式(3)で表されるアントラキノン系化合物は、置換基としてさらにR13を有していてもよい。R13は、酸性基であることが好ましく、水酸基であることがより好ましい。nは、nの数とnの数の和が8以下になるように設定されていればよく、1~2であることが好ましく、2であることが特に好ましい。
【0051】
より具体的には、式(3)におけるXが酸素原子であり、Yが-CHCHO-CHCHO-CHCH-であり、Zが水酸基であり、nが4であり、R13が水酸基であり、nが0であり、アントラキノン骨格の1位、3位、5位、7位にそれぞれXが置換され、2位及び6位にそれぞれR13が置換されている化合物が特に好ましい。このような化合物は、下記式(3’)で表される。
【0052】
【化7】
【0053】
式(3)で表されるアントラキノン系化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組合せて用いてもよい。2種以上を組合せて用いる場合は任意の割合で併用することができる。
【0054】
<活物質>
本実施形態に係る活物質は、上記式(1)、(2)又は(3)で表される複素環式化合物又はその塩を少なくとも1つ含む。このような活物質をレドックスフロー電池用の水系電解液に含ませることにより、レドックスフロー電池のエネルギー密度とサイクル特性を向上させることができる。活物質として、これらの複素環式化合物のうち、いずれか1つが含まれていてもよく、2種以上が含まれていてもよい。
【0055】
活物質は、水系電解液用活物質であることが好ましく、水系電解液用活物質としてレドックスフロー電池用電解液に使用されることが特に好ましい。また、電解液に含まれる活物質は正極活物質及び負極活物質のいずれであってもよいが、負極活物質であることが好ましい。
【0056】
<電解液>
本実施形態に係る電解液は、上述の活物質を含んでいる。本実施形態に係る活物質は、水系電解液を用いたレドックスフロー電池のエネルギー密度とサイクル特性の向上を可能とするため、電解液がレドックスフロー電池用電解液であることが好ましい。電解液中、活物質として、上記式(1)、(2)及び(3)で表される各複素環式化合物は、1種単独で含まれていてもよく、2種以上が含まれていてもよい。2種以上の活物質を組合せて用いる場合は、これは任意の割合で配合することができる。電解液中に含まれる活物質の含有量は、1質量%以上99質量%以下であることが好ましく、3質量%以上70質量%以下であることがより好ましい。
【0057】
電解液は、上記式(1)、(2)及び(3)で表される複素環式化合物以外に、本発明により奏される効果を損なわない範囲において、任意に他の化合物をさらに含んでいてもよい。
【0058】
電解液は水を含んでいてもよい。このような水として、イオン交換水、ミリポア水等を用いることが可能であり、ミリポア水であることが好ましい。
【0059】
上記電解液中における水の含有量は任意に設定可能であるが、1質量以上99.9質量%以下であることが好ましく、10質量%以上99質量%以下であることがさらに好ましく、75質量%以上95質量%以下であることが特に好ましい。
【0060】
電解液が、活物質として、上記式(2)で表されるナフトキノン系化合物及び/又は(3)で表されるアントラキノン系化合物、すなわち、キノン系化合物を含む場合、水への溶解度が0.07mol/Lを超えるキノン系化合物を含むことが好ましく、水への溶解度が0.1mol/L以上5.0mol/L以下であることがより好ましく、0.15mol/L以上4.0mol/L以下であることがさらに好ましく、0.18mol/L以上3.0mol/L以下であることが特に好ましい。
【0061】
電解液は、さらに消泡剤を含んでいてもよい。消泡剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコール類等、あるいは各種市販の消泡剤が挙げられる。これらの中でも、消泡剤はアルコール類であることが好ましく、エタノールであることが特に好ましい。電解液中に含まれる消泡剤の含有量は特に限定されるものではないが、電解液中に含まれる水の量に対し、0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上8質量%以下であることがより好ましい。
【0062】
<レドックスフロー電池>
本発明の実施形態に係るレドックスフロー電池は、上述の電解液を備えている。レドックスフロー電池は、さらに、電極及び隔膜を含むことが好ましい。
【0063】
電極としては、電極として機能するものであれば任意で選択し用いることができるが、例えば、カーボンフェルト、カーボンペーパー、カーボンクロスを用いることが好ましく、カーボンフェルトであることがさらに好ましい。
【0064】
隔膜としては、電極間の隔膜として機能するものであれば任意で選択し用いることができるが、例えば、イオン交換膜、多孔質膜等を用いることが好ましく、イオン交換膜を用いることがさらに好ましい。
【0065】
レドックスフロー電池において、正極と負極とで同じ電解液を用いてもよく、異なる電解液を用いてもよい。正極と負極とで異なる電解液を用いる場合、本実施形態に係る電解液と対電解液とを組合せて用いる。
【0066】
レドックスフロー電池において、正極と負極とで異なる電解液を用いる場合、本実施形態に係る電解液を負極側、対電解液を正極側にそれぞれ用いること、すなわち、本実施形態に係る電解液を負極電解液、対電解液を正極電解液としてそれぞれ用いることが好ましい。
【0067】
レドックスフロー電池に用いる電解液及び対電解液の一方又は両方には、さらに電解質を含まれていてもよい。電解質としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化アンモニウム、硫酸、酢酸、ギ酸、塩酸などを用いることができ、好ましくは水酸化カリウム、又は塩化ナトリウムであり、特に好ましくは塩化ナトリウムである。
【0068】
対電解液としては、正極として機能するものであれば特に限定されるものではないが、例えば、フェロシアン化カリウム、フェロシアン化ナトリウム、フェロシアン化アンモニウム、フェロセン、TEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル)、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化アンモニウム、バナジウム等を用いることが可能であり、フェロシアン化カリウム又はヨウ化ナトリウム水溶液であることが好ましく、ヨウ化ナトリウム水溶液であることが特に好ましい。
【0069】
レドックスフロー電池は、電解液及び任意に含まれる対電解液、電極、隔膜等の部材を含み、これら部材を電池として構成するために、必要に応じて、容器、シール剤、ねじ、双極板等の組み立て部材をさらに含んでいてもよい。
【0070】
本実施形態に係る電解液及びそれを備えるレドックスフロー電池は、上述の活物質を含むため、エネルギー密度が高く、サイクル特性にも優れる。特に、水系電解液を用いたレドックスフロー電池として高いエネルギー密度を得ることが可能であり、また、有機溶剤等を電解液の溶媒として用いた非水系電解液と比較し、安全性が高く、レドックスフロー電池作製時、電解液交換時等における作業性、メンテナンス性に優れている。
【実施例
【0071】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。また、特に言及がない限り、室温とは20℃±5℃の範囲内であるとする。
【0072】
[合成例1]
1,2-フェニレンジアミン17.6部と2,5-ジヒドロキシ-1,4-ベンゾキノン25部を水3000部中で攪拌しながら5時間30分加熱還流させた後、室温まで冷却してさらに一晩攪拌した。得られた懸濁液からろ過分離によって黒色のウェットケーキを得て、水で洗浄した。このウェットケーキを80℃で減圧乾燥させることにより下記式(4)で表される化合物0.163モルが含まれるウェットケーキ103.2部を得た。
【0073】
【化8】
【0074】
[実施例1]
合成例1で得られた式(4)で表される化合物0.0808モルが含まれるウェットケーキ51.2部と1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデカ-7-エン36.6部をジメチルホルムアミド410部に溶解させ、1,3-プロパンスルトン30.2部を加えてから120℃まで昇温して3時間攪拌した。その後室温まで冷却し、過剰量の25%水酸化ナトリウム水溶液を加えて30分間攪拌した。得られた反応液をアセトン3.0Lに注ぎ込み、析出した固体をろ過分離することでウェットケーキを得た。これを水70部に溶解させてから25%水酸化ナトリウム水溶液10部を加えた後、エタノール1.5Lに注ぎ入れ、析出した固体をろ過分離して赤色のウェットケーキを得た。このウェットケーキを80℃で減圧乾燥させることにより下記式(1-1)で表される本発明の複素環式化合物34.8部を得た。
【0075】
【化9】
【0076】
[合成例2]
2-ニトロ-1,4-フェニレンジアミン20部をトルエン230部に溶解し、溶液を得た。この溶液に炭酸カリウム9部を加え、60℃まで昇温し、60℃を保ったまま無水酢酸14.7部を45分で加え、1時間攪拌した。この溶液を25℃まで冷却し、溶液から析出した固体をろ過分離することによりウェットケーキ35部を得た。このウェットケーキを80℃の熱風乾燥機で乾燥することにより下記式(5)で表される化合物23.9部を得た。
【0077】
【化10】
【0078】
[合成例3]
合成例2で得られた式(5)で表される化合物23.9部をエタノール250部中で30分攪拌し、懸濁液を得た。この懸濁液に東京化成工業社製パラジウム/炭素(Pd10%、約55%水湿潤品)0.5部を加え、混合液を耐圧容器に移した。耐圧容器内に水素ガスを注入し、容器内の圧力を0.95MPaに調整し、容器内の温度を65℃まで加熱した。容器内の温度を65℃に保ったまま、圧力が0.95MPaとなるように水素ガスを注入し、4時間反応を行った。反応終了後、圧力を常圧まで戻し、反応液をろ過分離し、エタノールを減圧留去することで、下記式(6)で表される化合物19.2部を得た。
【0079】
【化11】
【0080】
[合成例4]
合成例3で得られた式(6)で表される化合物全量と2,5-ジヒドロキシ-1,4-ベンゾキノン19.7部を400部の水中で加熱還流させながら、反応が停止するまで合計13時間攪拌した。得られた懸濁液を室温まで冷却し、析出した固体をろ過分離してからエタノールで3回洗浄することにより紫色のウェットケーキを得た。このウェットケーキを80℃で減圧乾燥させることにより下記式(7)で表される化合物0.116モルが含まれるウェットケーキ44.8部を得た。
【0081】
【化12】
【0082】
[実施例2]
合成例4で得られた式(7)で表される化合物が含まれるウェットケーキ全量と1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデカ-7-エン59.6部をジメチルホルムアミド530部に溶解させ、1,3-プロパンスルトン48.2部を加えてから120℃まで昇温して3時間攪拌した。その後室温まで冷却し、25%水酸化ナトリウム水溶液50部を加えて30分間攪拌した。得られた反応液をアセトン2.0Lに注ぎ込んで析出した固体をろ過分離することでウェットケーキを得た。これを水300部に溶解させた後、エタノール2.0Lに注ぎ入れ、析出した固体をろ過分離して紫色のウェットケーキを得た。このウェットケーキを70℃で減圧乾燥させることにより下記式(1-2)で表される本発明の複素環式化合物42.9部を得た。
【0083】
【化13】
【0084】
[実施例3]
実施例2で得られた式(1-2)で表される複素環式化合物5.6部を25%水酸化ナトリウム水溶液50部に溶解させ、攪拌しながら3時間加熱還流した後、室温まで冷却して一晩攪拌した。次に、ロータリーエバポレーターによって得られた反応液から溶媒を留去することで黒色の固体を得た。この固体を30部の水に溶解させ、エタノール800部に注ぎ込んでから析出した固体をろ過分離してエタノールで洗浄した。前述の操作を2回繰り返し、最後に得られたウェットケーキをアセトンで洗浄し、80℃にて減圧乾燥させることによって下記式(1-3)で表される本発明の複素環式化合物3.7部を得た。
【0085】
【化14】
【0086】
[実施例4]
式(1-1)で表される複素環式化合物を0.1mol/Lになるよう塩化ナトリウム(東京化成工業社製、純度>99.5%)水溶液(1.0mol/L)に溶解し、負極電解液1を作製した。一方、フェロシアン化ナトリウム(富士フイルム和光純薬社製、含有量95%以上)を0.2mol/Lになるよう塩化ナトリウム(東京化成工業社製、純度>99.5%)の水溶液(1.0mol/L)で溶解し、正極電解液1を作製した。
【0087】
隔膜としてイオン交換膜(シグマ アルドリッチ ジャパン合同会社製、Nafion(登録商標)NRE-212)、電極としてカーボンフェルト(東洋紡社製、AAF304ZS、10mm×50mm×4mm)を用いた。シリコン製ガスケット(厚さ3mm)の10mm×50mmの穴に上記のカーボンフェルトを入れ、集電板/電極/隔膜/電極/集電板の順になるよう組合せた。電解液として、作製した負極電解液1及び正極電解液1をそれぞれ使用し、レドックスフロー電池1を作製した。
【0088】
レドックスフロー電池1の正極電解液1及び負極電解液1を該電池外部に配管接続したペリスタポンプで循環させ、マルチ電気化学計測システム(北斗電工社製、HZ-Pro)にて試験を行った。正極電解液1及び負極電解液1の液量はそれぞれ20ml、6mlとし、105mAの一定電流で、上限電圧1.6V、下限電圧0.5Vとし充放電試験を行った。図1にレドックスフロー電池1の5サイクルまでの充放電曲線を示す。5サイクル目のクーロン効率は92%、電圧効率89%、エネルギー密度は0.90Wh/Lであり、良好なサイクル特性が得られた。
【0089】
[実施例5]
式(1-2)で表される複素環式化合物を0.1mol/Lになるよう塩化ナトリウム(東京化成工業社製、純度>99.5%)水溶液(1.0mol/L)に溶解し、負極電解液2を作製した。一方、フェロシアン化ナトリウム(富士フイルム和光純薬社製、含有量95%以上)を0.2mol/Lになるよう塩化ナトリウム(東京化成工業社製、純度>99.5%)の水溶液(1.0mol/L)で溶解し、正極電解液2を作製した。
【0090】
隔膜としてイオン交換膜(シグマ アルドリッチ ジャパン合同会社製、Nafion(登録商標)NRE-212)、電極としてカーボンフェルト(東洋紡社製、AAF304ZS、10mm×50mm×4mm)を用いた。シリコン製ガスケット(厚さ3mm)の10mm×50mmの穴に上記のカーボンフェルトを入れ、集電板/電極/隔膜/電極/集電板の順になるよう組合せた。電解液として、作製した負極電解液2及び正極電解液2をそれぞれ使用し、レドックスフロー電池2を作製した。
【0091】
レドックスフロー電池2の正極電解液2及び負極電解液2を該電池外部に配管接続したペリスタポンプで循環させ、マルチ電気化学計測システム(北斗電工社製、HZ-Pro)にて試験を行った。正極電解液2及び負極電解液2の液量はそれぞれ20ml、6mlとし、105mAの一定電流で、上限電圧1.6V、下限電圧0.5Vとし充放電試験を行った。図2にレドックスフロー電池2の5サイクルまでの充放電曲線を示す。5サイクル目のクーロン効率は96%、電圧効率89%、エネルギー密度は1.02Wh/Lであり、良好なサイクル特性が得られた。
【0092】
[実施例6]
式(1-3)で表される複素環式化合物を0.1mol/Lになるよう塩化ナトリウム(東京化成工業社製、純度>99.5%)水溶液(1.0mol/L)に溶解し、負極電解液3を作製した。一方、フェロシアン化ナトリウム(富士フイルム和光純薬社製、含有量95%以上)を0.2mol/Lになるよう塩化ナトリウム(東京化成工業社製、純度>99.5%)の水溶液(1.0mol/L)で溶解し、正極電解液3を作製した。
【0093】
隔膜としてイオン交換膜(シグマ アルドリッチ ジャパン合同会社製、Nafion(登録商標)NRE-212)、電極としてカーボンフェルト(東洋紡社製、AAF304ZS、10mm×50mm×4mm)を用いた。シリコン製ガスケット(厚さ3mm)の10mm×50mmの穴に上記のカーボンフェルトを入れ、集電板/電極/隔膜/電極/集電板の順になるよう組合せた。電解液として、作製した負極電解液3及び正極電解液3をそれぞれ使用し、レドックスフロー電池3を作製した。
【0094】
レドックスフロー電池3の正極電解液3及び負極電解液3を該電池外部に配管接続したペリスタポンプで循環させ、マルチ電気化学計測システム(北斗電工社製、HZ-Pro)にて試験を行った。正極電解液3及び負極電解液3の液量はそれぞれ20ml、6mlとし、105mAの一定電流で、上限電圧1.5V、下限電圧0.6Vとし充放電試験を行った。図3にレドックスフロー電池3の5サイクルまでの充放電曲線を示す。5サイクル目のクーロン効率は98%、電圧効率88%、エネルギー密度は0.57Wh/Lであり、良好なサイクル特性が得られた。
【0095】
【表1】
【0096】
[実施例7-8]
実施例1で得られた式(1-1)で表される複素環式化合物2.5gを10mLメスフラスコにはかり取り、消泡剤が含まれる水溶液で10mlとなるように希釈した。得られた電解液6mlを容量20mlのねじ口瓶(外径27mm、高さ55mm、SV-20、日電理化硝子社製)に移した。電解液が入ったねじ口瓶に蓋をし、30秒間、上下幅15cmになるよう110回/30秒のペースで振り、5分間静置後、壁面の液面からの気泡の高さの最小値を測定した。表2に示すように消泡剤を添加しない場合(実施例8)は気泡が残るのが、消泡剤を添加することで気泡が消失した。なお、表2中のハイフン「-」は、気泡が無く、気泡の高さを測定できなかったことを示す。
【0097】
【表2】
【0098】
[実施例9]
式(1-1)で表される複素環式化合物を0.5mol/Lになるよう6wt%のエタノール水溶液に溶解し、負極電解液4を作製した。一方、ヨウ化ナトリウム(純正化学社製、1級)を2.0mol/Lになるよう6wt%のエタノール水溶液で溶解し、正極電解液4を作製した。
【0099】
隔膜としてイオン交換膜(シグマ アルドリッチ ジャパン合同会社製、Nafion(登録商標)NRE-212)、電極としてカーボンフェルト(東洋紡社製、AAF304ZS、10mm×50mm×4mm)を用いた。シリコン製ガスケット(厚さ3mm)の10mm×50mmの穴に上記のカーボンフェルトを入れ、集電板/電極/隔膜/電極/集電板の順になるよう組合せた。電解液として、作製した負極電解液4及び正極電解液4をそれぞれ使用し、レドックスフロー電池4を作製した。
【0100】
上記で得たレドックスフロー電池4の正極電解液4及び負極電解液4を該電池外部に配管接続したペリスタポンプで循環させ、マルチ電気化学計測システム(北斗電工社製、HZ-Pro)にて試験を行った。正極電解液4及び負極電解液4の液量はそれぞれ6mlとし、420mAの一定電流で、上限電圧1.7V、下限電圧0.3Vとし充放電試験を行った。図4にレドックスフロー電池4の2サイクルまでの充放電曲線を示す。2サイクル目のクーロン効率は97%、電圧効率66%、エネルギー密度は8.92Wh/Lであり、良好なサイクル特性が得られた。
【0101】
【表3】
【0102】
[実施例10]
実施例1で得られた式(1-1)で表される複素環式化合物2.12部と炭酸カリウム8.31部、ヨウ化カリウム0.17部にジメチルホルムアミド50部を加え、ここにブロモ酢酸3.51部を滴下して室温で20時間攪拌した。この反応液をアセトン500mLに注ぎ込み、ろ過分離によって赤色のウェットケーキを得て、多量のアセトンで洗浄した。このウェットケーキを水40部に溶解させ、2N塩酸を滴下してpHを1.0に調整した。再びろ過分離によって黒色のウェットケーキを得て、水とメタノールで洗浄し、80℃で減圧乾燥することにより下記式(1-4)で表される本発明の複素環式化合物2.2部を得た。
【0103】
【化15】
【0104】
[合成例5]
3,4-ジアミノ安息香酸2.52部と2,5-ジヒドロキシ-1,4-ベンゾキノン2.56部を水110部中で攪拌しながら3時間分加熱還流させた後、室温まで冷却してさらに一晩攪拌した。得られた懸濁液からろ過分離によって赤色のウェットケーキを得て、アセトン及び水で洗浄した。このウェットケーキを80℃で減圧乾燥させることにより下記式(8)で表される化合物4.3部を得た。
【0105】
【化16】
【0106】
[実施例11]
合成例5で得られた式(8)で表される化合物2.58部と1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデカ-7-エン4.90部をジメチルホルムアミド50部に溶解させ、1,3-プロパンスルトン3.81部を加えてから120℃まで昇温して1時間攪拌した。その後さらに1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデカ-7-エン2.28部と1,3-プロパンスルトン1.82部を加えて120℃で6時間攪拌した。反応液を室温まで冷却し、25%水酸化ナトリウム水溶液9.6部を滴下して1時間攪拌した後、アセトン500mLに注ぎ入れた。ろ過分離によって赤色のウェットケーキを得て、アセトンで洗浄した。このウェットケーキを水80部に溶解させ、エタノール1.0Lに注ぎ込んでから析出した固体をろ別、エタノール洗浄して褐色のウェットケーキを得て、さらに80℃で減圧乾燥することにより下記式(1-5)表される本発明の複素環式化合物2.7部を得た。
【0107】
【化17】
【0108】
[実施例12]
式(1-4)で表される複素環式化合物を0.1mol/Lになるよう水酸化ナトリウム(国産化学社製、含有量≧97.0%)水溶液(1.0mol/L)に溶解し、負極電解液5を作製した。一方、フェロシアン化ナトリウム(富士フイルム和光純薬社製、含有量95%以上)を0.2mol/Lになるよう水酸化ナトリウム(国産化学社製、含有量≧97.0%)の水溶液(1.0mol/L)で溶解し、正極電解液5を作製した。
【0109】
隔膜としてイオン交換膜(シグマ アルドリッチ ジャパン合同会社製、Nafion(登録商標)NRE-212)、電極としてカーボンフェルト(東洋紡社製、AAF304ZS、10mm×50mm×4mm)を用いた。シリコン製ガスケット(厚さ3mm)の10mm×50mmの穴に上記のカーボンフェルトを入れ、集電板/電極/隔膜/電極/集電板の順になるよう組合せた。電解液として、作製した負極電解液5及び正極電解液5をそれぞれ使用し、レドックスフロー電池5を作製した。
【0110】
レドックスフロー電池5の正極電解液5及び負極電解液5を該電池外部に配管接続したペリスタポンプで循環させ、マルチ電気化学計測システム(北斗電工社製、HZ-Pro)にて試験を行った。正極電解液5及び負極電解液5の液量はそれぞれ20ml、6mlとし、105mAの一定電流で、上限電圧1.6V、下限電圧0.5Vとし充放電試験を行った。図5にレドックスフロー電池5の5サイクルまでの充放電曲線を示す。5サイクル目のクーロン効率は81%、電圧効率88%、エネルギー密度は0.59Wh/Lであり、良好なサイクル特性が得られた。
【0111】
[実施例13]
式(1-5)で表される複素環式化合物を0.1mol/Lになるよう塩化ナトリウム(東京化成工業社製、純度>99.5%)水溶液(1.0mol/L)に溶解し、負極電解液6を作製した。一方、フェロシアン化ナトリウム(富士フイルム和光純薬社製、含有量95%以上)を0.2mol/Lになるよう塩化ナトリウム(東京化成工業社製、純度>99.5%)の水溶液(1.0mol/L)で溶解し、正極電解液6を作製した。
【0112】
隔膜としてイオン交換膜(シグマ アルドリッチ ジャパン合同会社製、Nafion(登録商標)NRE-212)、電極としてカーボンフェルト(東洋紡社製、AAF304ZS、10mm×50mm×4mm)を用いた。シリコン製ガスケット(厚さ3mm)の10mm×50mmの穴に上記のカーボンフェルトを入れ、集電板/電極/隔膜/電極/集電板の順になるよう組合せた。電解液として、作製した負極電解液6及び正極電解液6をそれぞれ使用し、レドックスフロー電池6を作製した。
【0113】
レドックスフロー電池6の正極電解液6及び負極電解液6を該電池外部に配管接続したペリスタポンプで循環させ、マルチ電気化学計測システム(北斗電工社製、HZ-Pro)にて試験を行った。正極電解液6及び負極電解液6の液量はそれぞれ20ml、6mlとし、105mAの一定電流で、上限電圧1.5V、下限電圧0.5Vとし充放電試験を行った。図6にレドックスフロー電池6の5サイクルまでの充放電曲線を示す。5サイクル目のクーロン効率は89%、電圧効率81%、エネルギー密度は0.98Wh/Lであり、良好なサイクル特性が得られた。
【0114】
【表4】
【0115】
[実施例14]
合成例1で得られた式(4)で表される化合物3.03部と1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデカ-7-エン1.60部をジメチルホルムアミド100部に溶解させ、1,3-プロパンスルトン1.28部を加えてから50℃まで昇温して2時間攪拌した。反応液を室温まで冷却し、25%水酸化ナトリウム水溶液8.0部を滴下して1時間攪拌した後、アセトン500mLに注ぎ入れた。ろ過分離によって褐色のウェットケーキを得て、アセトンで洗浄した。このウェットケーキを水50部に溶解させ、2-プロパノール500mLに注ぎ込んでから析出した固体をろ別、エタノール洗浄によって褐色のウェットケーキを得て、80℃で減圧乾燥することにより下記式(1-6)で表される本発明の複素環式化合物を含む褐色の粉末1.4部を得た。
【0116】
【化18】
【0117】
[実施例15]
式(1-6)で示される複素環式化合物を0.1mol/Lになるよう水酸化ナトリウム(国産化学社製、含有量≧97.0%)水溶液(1.0mol/L)に溶解し、負極電解液7を作製した。一方、フェロシアン化ナトリウム(富士フイルム和光純薬社製、含量 95%以上)を0.2mol/Lになるよう水酸化ナトリウム(国産化学社製、含有量≧97.0%)の水溶液(1.0mol/L)で溶解し、正極電解液7を作製した。
【0118】
隔膜としてイオン交換膜(シグマ アルドリッチ ジャパン合同会社製、Nafion(登録商標)NRE-212)、電極としてカーボンフェルト(東洋紡社製、AAF304ZS、10mm×50mm×4mm)を用いた。シリコン製ガスケット(厚さ3mm)の10mm×50mmの穴に上記のカーボンフェルトを入れ、集電板/電極/隔膜/電極/集電板の順になるよう組合せた。電解液として、上記、負極電解液7、正極電解液7をそれぞれ使用し、レドックスフロー電池7を作製した。
【0119】
レドックスフロー電池7の正極電解液7及び負極電解液7を該電池外部に配管接続したペリスタポンプで循環させ、マルチ電気化学計測システム(北斗電工社製、HZ-Pro)にて試験を行った。正極電解液7及び負極電解液7の液量はそれぞれ20ml、6mlとし、105mAの一定電流で、上限電圧1.6V、下限電圧0.5Vとし充放電試験を行った。図7に5サイクルまでの充放電曲線を示す。5サイクル目のクーロン効率は86%、電圧効率91%、エネルギー密度は0.83Wh/Lであり、良好なサイクル特性が得られた。
【0120】
【表5】
【0121】
上記表1、3、4、5及び図1~7に示されるように、実施例4~6、9、12~13、15で作製したレドックスフロー電池1~7は、高い平均放電電圧(V)とエネルギー密度を有し、かつ、良好なサイクル特性を有していることがわかる。また、電解液中に消泡剤としてエタノールを添加した実施例7では、気泡の発生が起こらず、取り扱い性に優れた電解液であることが確認できた。
【0122】
[合成例6]
60部の硫酸に没食子酸20部を入れて攪拌し、105℃で3時間攪拌した。反応液を50℃まで冷却し、氷水150部に空け、得られた懸濁液を1時間攪拌した。攪拌後、懸濁液をろ過分離することによりウェットケーキを得た。このウェットケーキを150部の冷水中に加え、30分攪拌後、懸濁液を濾過分離することによりウェットケーキを得た。このウェットケーキを5%の炭酸水素ナトリウム水溶液150部中に少しずつ加え、1時間攪拌後、懸濁液をろ過分離することにより、ウェットケーキを得た。このウェットケーキを80℃の熱風乾燥機で乾燥することにより下記式(9)で表される化合物を12.4部得た。
【0123】
【化19】
【0124】
[実施例16]
45部の水に式(9)で表される化合物5部を入れて攪拌し、25%の水酸化ナトリウム水溶液にて溶液のpHを9.5~10.0に調整し、60℃まで昇温した。溶液中に20部のプロパンスルトンを2時間かけて滴下し、滴下終了後60℃で4時間攪拌した。この間、溶液のpHは25%の水酸化ナトリウム水溶液によってpH10.0~10.5を維持した。得られた反応液に500部のメタノールを加え、20~25℃で2時間攪拌した。攪拌後、析出固体をろ過分離することによりウェットケーキ40.8部を得た。このウェットケーキを80℃の熱風乾燥機で乾燥することにより、下記式(3-1)で表される本発明の複素環式化合物9.2部を得た。
【0125】
【化20】
【0126】
[実施例17]
20部のプロパンスルトンの代わりに20.5部のブロモ酢酸、水酸化ナトリウムの代わりに水酸化カリウムを使用した以外は実施例15と同様の操作を行い、下記式(3-2)で表される本発明の複素環式化合物7.9部を得た。
【0127】
【化21】
【0128】
[合成例7]
60部の硫酸に安息香酸10部を入れて攪拌し、120℃まで昇温した。得られた溶液に没食子酸13.9部を少しずつ加えで7時間攪拌した。反応液を50℃まで冷却し、氷水150部に加え、得られた懸濁液を1時間攪拌した。攪拌後、懸濁液をろ過分離することによりウェットケーキを得た。このウェットケーキを150部の冷水中に加え、30分攪拌後、懸濁液をろ過分離することによりウェットケーキを得た。このウェットケーキを5%の炭酸水素ナトリウム水溶液150部中に少しずつ加え、1時間攪拌後、懸濁液をろ過分離することによりウェットケーキを得た。このウェットケーキを80℃の熱風乾燥機で乾燥することにより下記式(10)で表される化合物13.1部を得た。
【0129】
【化22】
【0130】
[実施例18]
45部の水に式(10)で表される化合物5部を入れて攪拌し、25%の水酸化ナトリウム水溶液にて溶液のpHを9.5~10.0に調整し、60℃まで昇温した。溶液中に11.9部のプロパンスルトンを2時間かけて滴下し、滴下終了後60℃で4時間攪拌した。この間、溶液のpHは25%の水酸化ナトリウム水溶液によってpH10.0~10.5を維持した。得られた反応液に500部のメタノールを加え、20~25℃で2時間攪拌した。析出固体をろ過分離することによりウェットケーキ30.7部を得た。このウェットケーキを80℃の熱風乾燥機で乾燥することにより、下記式(3-3)で表される本発明の複素環式化合物10.8部を得た。
【0131】
【化23】
【0132】
[実施例19]
2,3-ジクロロ-1,4-ナフトキノン10部をN,N-ジメチルホルムアミド200部に溶解させ、3-メルカプト-1-プロパンスルホン酸17部と炭酸カリウム18部を加え、室温で12時間攪拌した。得られた析出個体をろ過分離し、エタノールで洗浄し赤色固体を得た。得られた固体を水で溶解し、1規定の塩酸水溶液を炭酸ガスが発生しなくなるまで加えた。得られた反応液にイソプロパノールを加え、析出固体をろ過分離することによりウェットケーキを得た。このウェットケーキを80℃の熱風乾燥機で乾燥することにより、下記式(2-1)で表される本発明の複素環式化合物23部を得た。
【0133】
【化24】
【0134】
[合成例8]
120部の濃硫酸を120℃まで加熱攪拌し、ここに3,5-ジヒドロキシ安息香酸40部を加えて5時間攪拌した。反応液を室温まで冷却し、氷500部に加え、得られた懸濁液を攪拌しながら25%水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpH7.5に調整した。得られた懸濁液を濾過分離し、氷水で洗浄することにより下記式(11)で表される化合物を含むウェットケーキを得た。
【0135】
【化25】
【0136】
[実施例20]
合成例8にて得られた式(11)で示される化合物を含むウェットケーキを水240mLに溶解させ、全量の3/4を1Lのビーカーに移した。この水溶液に25%水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHを10.0~10.2に調整して60℃まで加熱した。溶液中に計7等量のプロパンスルトンを滴下し、60℃で6時間攪拌した。この間、溶液のpHは25%の水酸化ナトリウム水溶液によってpH10.0~10.2を維持した。得られた反応液を800mLのメタノールに注ぎ、析出個体をろ過分離することでウェットケーキを得た。このウェットケーキを25%水酸化ナトリウム水溶液100部に溶解させ、800mLのメタノールに注ぎ入れ、析出個体をろ過分離してウェットケーキを得た。この操作を計2回行った。得られたウェットケーキを水100部に溶解させ、35%塩酸を用いてpH10.0に調整し、60℃まで昇温した。ここにプロパンスルトン4等量を滴下し、60℃で5時間攪拌した。得られた反応液を800mLのメタノールに注ぎ、析出個体をろ過分離することでウェットケーキを得た。このウェットケーキを80℃の熱風乾燥機で乾燥することにより、下記式(3-4)で表される本発明の複素環式化合物56.6部を得た。
【0137】
【化26】
【0138】
[実施例21]
45部のアセトニトリルに上記式(9)で表される化合物5部、炭酸カリウム9.1部、ヨウ化カリウム2.7部を入れて攪拌し、80℃まで昇温した。溶液中に16.4部のエチレングリコールモノ-2-クロロエチルエーテルを30分かけて滴下し、滴下終了後80℃で36時間攪拌した。得られた反応液の溶媒を減圧留去し、水20部を加え、Waters社製SEP-PACK(WATO043345)を使用して褐色のフラクションを分取した。この水溶液を80℃の熱風乾燥機で乾燥することにより、下記式(3-5)で表される本発明の複素環式化合物8.4部を得た。
【0139】
【化27】
【0140】
上記実施例16~21において得られた各複素環式化合物(活物質)の水に対する溶解度を吸光度から算出した。吸光度の測定には紫外可視分光光度計(UV-1700、島津製作所社製)を使用した。濃度既知のサンプル溶液を標準緩衝液(富士フイルム和光純薬社製、中性リン酸塩pH標準液,pH6.86(25℃)を用いて調整し、上記の紫外可視分光光度計で波長領域300nm~550nmとして最大吸収波長の吸光度を測定した。得られた吸光度と濃度から検量線を作製した。続いて、水を用いてサンプルの飽和溶液を調整し、上記の標準緩衝液を用いて希釈した。最大吸収波長の吸光度を測定し、検量線から溶解度(%)を算出した。また、溶液の密度を1.0g/cmと仮定して、溶解度(mol/L)を算出した。その結果を表6に示す。尚、表6において、従来公知のアントラキノン系活物質の溶解度(mol/L)を参考として示している。
【0141】
【表6】
【0142】
[実施例22]
式(3-1)で表される複素環式化合物を0.1mol/Lになるよう塩化ナトリウム(東京化成工業社製、純度>99.5%)水溶液(1.0mol/L)に溶解し、負極電解液8を作製した。一方、ヨウ化ナトリウム(純正化学社製、1級)を0.2mol/Lになるよう塩化ナトリウム(東京化成工業社製、純度>99.5%)の水溶液(1.0mol/L)で溶解し、正極電解液8を作製した。
【0143】
隔膜としてイオン交換膜(シグマ アルドリッチ ジャパン合同会社製、Nafion(登録商標)NRE-212)、電極としてカーボンフェルト(東洋紡社製、AAF304ZS、10mm×50mm×4mm)を用いた。シリコン製ガスケット(厚さ3mm)の10mm×50mmの穴に上記のカーボンフェルトを入れ、集電板/電極/隔膜/電極/集電板の順になるよう組合せた。電解液として、作製した負極電解液8及び正極電解液8をそれぞれ使用し、レドックスフロー電池8を作製した。
【0144】
レドックスフロー電池8の正極電解液8及び負極電解液8を該電池外部に配管接続したペリスタポンプで循環させ、マルチ電気化学計測システム(北斗電工社製、HZ-Pro)にて試験を行った。正極電解液7及び負極電解液7の液量はそれぞれ20ml、6mlとし、105mAの一定電流で、上限電圧1.5V、下限電圧0.7Vとし充放電試験を行った。図8にレドックスフロー電池7の5サイクルまでの充放電曲線を示す。5サイクル目のクーロン効率は84%、電圧効率92%、エネルギー密度は1.04Wh/Lであり、良好なサイクル特性が得られた。
【0145】
[実施例23]
式(3-2)で表される複素環式化合物を0.1mol/Lになるよう塩化カリウム(純正化学社製、特級)水溶液(1.0mol/L)に溶解し、負極電解液9を作製した。一方、ヨウ化カリウム(純正化学社製、特級)を0.2mol/Lになるよう塩化カリウム(純正化学社製、特級)の水溶液(1.0mol/L)で溶解し、正極電解液9を作製した。
【0146】
実施例22における負極電解液8及び正極電解液8を、それぞれ、負極電解液9及び正極電解液9に変更すること以外は実施例22と同様にして、レドックスフロー電池9を作製した。該レドックスフロー電池9を用い、実施例22と同様の操作で充放電試験を行った。正極電解液9及び負極電解液9の液量はそれぞれ20ml、6mlとし、105mAの一定電流で、上限電圧1.5V、下限電圧0.7Vとし充放電試験を行った。図9にレドックスフロー電池8の5サイクルまでの充放電曲線を示す。5サイクル目のクーロン効率は87%、電圧効率88%、エネルギー密度は1.08Wh/Lであった。
【0147】
[実施例24]
式(3-3)で表される複素環式化合物を0.1mol/Lになるよう塩化ナトリウム(東京化成工業社製、純度>99.5%)水溶液(1.0mol/L)に溶解し、負極電解液10を作製した。一方、ヨウ化ナトリウム(純正化学社製、1級)を0.2mol/Lになるよう塩化ナトリウム(東京化成工業社製、純度>99.5%)の水溶液(1.0mol/L)で溶解し、正極電解液10を作製した。
【0148】
実施例22における負極電解液8及び正極電解液8を、それぞれ、負極電解液10及び正極電解液10に変更すること以外は実施例22と同様として、レドックスフロー電池10を作製した。該レドックスフロー電池10を用い、実施例22と同様の操作で充放電試験を行った。正極電解液10及び負極電解液10の液量はそれぞれ20ml、6mlとし、105mAの一定電流で、上限電圧1.4V、下限電圧0.5Vとし充放電試験を行った。図10にレドックスフロー電池9の5サイクルまでの充放電曲線を示す。5サイクル目のクーロン効率は84%、電圧効率82%、エネルギー密度は0.46Wh/Lであった。
【0149】
[実施例25]
式(2-1)で表される複素環式化合物を0.1mol/Lになるよう水酸化カリウム(純正化学社製、特級)水溶液(1.0mol/L)に溶解し、負極電解液11を作製した。一方、フェロシアン化カリウム(関東化学社製、特級)を0.2mol/Lになるよう水酸化カリウム(純正化学社製)の水溶液(1.0mol/L)で溶解し、正極電解液11を作製した。
【0150】
実施例22における負極電解液8及び正極電解液8を、それぞれ、負極電解液11及び正極電解液11に変更すること以外は実施例22と同様として、レドックスフロー電池11を作製した。該レドックスフロー電池11を用い、実施例22と同様の操作で充放電試験を行った。正極電解液11及び負極電解液11の液量はそれぞれ20ml、6mlとし、105mAの一定電流で、上限電圧1.3V、下限電圧0.7Vとし充放電試験を行った。図11にレドックスフロー電池10の5サイクルまでの充放電曲線を示す。5サイクル目のクーロン効率は88%、電圧効率92%、エネルギー密度は0.81Wh/Lであった。
【0151】
[実施例26]
式(3-4)で示される複素環式化合物を0.1mol/Lになるよう塩化ナトリウム(東京化成工業社製、純度>99.5%)水溶液(1.0mol/L)に溶解し、負極電解液12を作製した。一方、ヨウ化ナトリウム(純正化学社製、1級)を0.2mol/Lになるよう塩化ナトリウム(東京化成工業社製、純度>99.5%)の水溶液(1.0mol/L)で溶解し、正極電解液12を作製した。
【0152】
実施例22における負極電解液8及び正極電解液8を、それぞれ、負極電解液12及び正極電解液12に変更すること以外は実施例22と同様として、レドックスフロー電池12を作製した。該レドックスフロー電池12を用い、実施例22と同様の操作で充放電試験を行った。正極電解液12及び負極電解液12の液量はそれぞれ20ml、6mlとし、105mAの一定電流で、上限電圧1.6V、下限電圧0.5Vとし充放電試験を行った。図12にレドックスフロー電池11の5サイクルまでの充放電曲線を示す。5サイクル目のクーロン効率は87%、電圧効率91%、エネルギー密度は0.85Wh/Lであった。
【0153】
[実施例27]
式(3-5)で表される複素環式化合物を0.1mol/Lになるよう塩化ナトリウム(東京化成工業社製、純度>99.5%)水溶液(1.0mol/L)に溶解し、負極電解液13を作製した。一方、ヨウ化ナトリウム(純正化学社製、1級)を0.2mol/Lになるよう塩化ナトリウム(東京化成工業社製、純度>99.5%)の水溶液(1.0mol/L)で溶解し、正極電解液13を作製した。
【0154】
実施例22における負極電解液8及び正極電解液8を、それぞれ、負極電解液13及び正極電解液13に変更すること以外は実施例22と同様として、レドックスフロー電池13を作製した。該レドックスフロー電池13を用い、実施例22と同様の操作で充放電試験を行った。正極電解液13及び負極電解液13の液量はそれぞれ20ml、6mlとし、105mAの一定電流で、上限電圧1.6V、下限電圧0.5Vとし充放電試験を行った。図13にレドックスフロー電池12の5サイクルまでの充放電曲線を示す。5サイクル目のクーロン効率は90%、電圧効率86%、エネルギー密度は0.94Wh/Lであった。
【0155】
[比較例1]
9,10-アントラキノン-2-スルホン酸ナトリウムを0.1mol/Lになるよう塩化ナトリウム(東京化成工業社製、純度>99.5%)水溶液(1.0mol/L)に溶解し、負極電解液14を作製した。一方、ヨウ化ナトリウム(純正化学社製、1級)を0.2mol/Lになるよう塩化ナトリウム(東京化成工業社製、純度>99.5%)の水溶液(1.0mol/L)で溶解し、正極電解液14を作製した。
【0156】
実施例22における負極電解液8及び正極電解液8を、それぞれ、負極電解液14及び正極電解液14に変更すること以外は実施例22と同様として、レドックスフロー電池14を作製した。該レドックスフロー電池14を用い、実施例22と同様の操作で充放電試験を行った。正極電解液14及び負極電解液14の液量はそれぞれ20ml、6mlとし、105mAの一定電流で、上限電圧1.5V、下限電圧0.5Vとし充放電試験を行った。図14にレドックスフロー電池14の5サイクルまでの充放電曲線を示す。レドックスフロー電池14では、活物質濃度が不十分であり、良好な充放電特性を得ることができなかった。
【0157】
[比較例2]
9,10-アントラキノン-1,5-ジスルホン酸ナトリウムを0.1mol/Lになるよう塩化ナトリウム(東京化成工業社製、純度>99.5%)水溶液(1.0mol/L)に溶解し、負極電解液15を作製した。一方、ヨウ化ナトリウム(純正化学社製、1級)を0.2mol/Lになるよう塩化ナトリウム(東京化成工業社製、純度>99.5%)の水溶液(1.0mol/L)で溶解し、正極電解液15を作製した。
【0158】
実施例22における負極電解液8及び正極電解液8を、それぞれ、負極電解液15及び正極電解液15に変更すること以外は実施例22と同様として、レドックスフロー電池15を作製した。該レドックスフロー電池15を用い、実施例22と同様の操作で充放電試験を行った。正極電解液15及び負極電解液15の液量はそれぞれ20ml、6mlとし、105mAの一定電流で、上限電圧1.5V、下限電圧0.5Vとし充放電試験を行った。図15にレドックスフロー電池15の5サイクルまでの充放電曲線を示す。5サイクル目のクーロン効率は71%、電圧効率76%、エネルギー密度は0.01Wh/Lであった。レドックスフロー電池15では、他の実施例で作成したレドックスフロー電池と比較してサイクル特性及びエネルギー密度に劣っていた。
【0159】
[比較例3]
9,10-アントラキノン-1,8-ジスルホン酸カリウムを0.1mol/Lになるよう塩化カリウム(純正化学社製、特級)水溶液(1.0mol/L)に溶解し、負極電解液16を作製した。一方、ヨウ化カリウム(純正化学社製、特級)を0.2mol/Lになるよう塩化カリウム(純正化学社製、特級)の水溶液(1.0mol/L)で溶解し、正極電解液16を作製した。
【0160】
実施例22における負極電解液8及び正極電解液8を、それぞれ、負極電解液16及び正極電解液16に変更すること以外は実施例22と同様として、レドックスフロー電池16を作製した。該レドックスフロー電池16を用い、実施例22と同様の操作で充放電試験を行った。正極電解液16及び負極電解液16の液量はそれぞれ20ml、6mlとし、105mAの一定電流で、上限電圧1.5V、下限電圧0.7Vとし充放電試験を行った。図16にレドックスフロー電池16の5サイクルまでの充放電曲線を示す。レドックスフロー電池16では、活物質濃度が不十分であり、良好な充放電特性を得ることができなかった。
【0161】
【表7】
【0162】
表7及び図8~13に示されるように、実施例22~27で作製したレドックスフロー電池8~13は、高い平均放電電圧(V)とエネルギー密度を有し、かつ、良好なサイクル特性を有していることがわかる。尚、上記表7中、「N/A」とは、測定値が取得不可であったことを表す。
【産業上の利用可能性】
【0163】
本発明の複素環式化合物を含む活物質、該活物質を含む電解液及びレドックスフロー電池は、レドックスフロー電池において、高いエネルギー密度を有し、かつ、良好なサイクル特性を提供し得る。また、本発明の電解液は水系電解液であるため、有機溶剤系電解液と比べ、安全かつ取り扱いが容易であり、広範な用途への応用も可能となる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16