(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体、及び発光装置
(51)【国際特許分類】
C09K 11/64 20060101AFI20241016BHJP
C09K 11/67 20060101ALI20241016BHJP
C09K 11/80 20060101ALI20241016BHJP
H01L 33/50 20100101ALI20241016BHJP
【FI】
C09K11/64
C09K11/67
C09K11/80
H01L33/50
(21)【出願番号】P 2022547588
(86)(22)【出願日】2021-09-06
(86)【国際出願番号】 JP2021032708
(87)【国際公開番号】W WO2022054764
(87)【国際公開日】2022-03-17
【審査請求日】2023-06-14
(31)【優先権主張番号】P 2020152024
(32)【優先日】2020-09-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020152026
(32)【優先日】2020-09-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020152027
(32)【優先日】2020-09-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】酒井 謙嘉
(72)【発明者】
【氏名】近藤 良祐
(72)【発明者】
【氏名】野見山 智宏
(72)【発明者】
【氏名】小林 慶太
【審査官】林 建二
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-519750(JP,A)
【文献】国際公開第2012/023414(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第106281317(CN,A)
【文献】WANG,Hailong et al.,Influence of different aid-sintering additives on the green-emitting β-SiAlON:Eu2+ phosphors,RSC Advances,Vol.7,2017年,pages32982-32988
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/00-11/89
H01L 33/00
H01L 33/48-33/64
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イットリウム、
及びチタ
ンからなる群より選択される少なくとも一種の元素を含有し、前記少なくとも一種の元素の合計の含有量が0ppm超
327.7ppm
以下であ
り、
波長600nmの励起光に対する吸収率が5%以下である、ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体。
【請求項2】
前記少なくとも一種の元素がイットリウムである、請求項1に記載のユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体。
【請求項3】
前記少なくとも一種の元素がチタンである、請求項1に記載のユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体。
【請求項4】
前記少なくとも一種の元素がイットリウム及びチタンである、請求項1に記載のユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体。
【請求項5】
前記少なくとも一種の元素がイットリウム及びチタンの少なくとも一方を含有し、
前記イットリウム及び前記チタンの合計の含有量が0.1~
3.4ppmである、請求項1~4のいずれか一項に記載のユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体。
【請求項6】
ガドリニウムを含有し、前記ガドリニウムの含有量が0.1~300ppmである、ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体。
【請求項7】
波長600nmの励起光に対する吸収率が6%以下である、請求項
6に記載のユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体。
【請求項8】
一次光を発する発光素子と、前記一次光の一部を吸収して、一次光の波長よりも長い波長を有する二次光を発する波長変換体と、を備える発光装置であって、
前記波長変換体が、請求項1~
7のいずれか一項に記載のユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体を含む、発光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体、及び発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
酸窒化物蛍光体は、温度上昇に伴う輝度の低下が小さく、耐久性に優れた蛍光体として知られている。酸窒化物蛍光体の中でも、ユウロピウムを賦活したβ型サイアロンは、紫外光、又は可視光線等によって励起することが可能である緑色蛍光体として知られている。
【0003】
β型サイアロン蛍光体は、例えば、窒化ケイ素粉末、窒化アルミニウム粉末、及び酸化ユウロピウム粉末を含む原料混合物を窒素雰囲気下で加熱することで得られる。β型サイアロン蛍光体の実用化検討の中で、発光効率をより向上させる検討もなされている(例えば、特許文献1)。
【0004】
また、発光輝度を向上させる検討もなされている。例えば、特許文献2には、アルミニウム化合物と第一のユウロピウム化合物と窒化ケイ素とを含む混合物を熱処理して第一の熱処理物を得る第一熱処理工程と、第一の熱処理物と第二のユウロピウム化合物とを希ガス雰囲気中で熱処理して第二の熱処理物を得る第二熱処理工程と、を含むβサイアロン蛍光体の製造方法が記載されている。また特許文献3には、β型サイアロン蛍光体の原料混合物を窒素雰囲気下で1820℃~2200℃の温度で焼成して焼成物を得る焼成工程と、上記焼成物を還元性雰囲気下で1100℃以上の温度でアニールするアニール工程を備えるβ型サイアロン蛍光体の製造方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2013-519750号公報
【文献】特開2017-002278号公報
【文献】国際公開第2010/143590号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示は、内部量子効率に優れるユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一側面は、イットリウム、チタン、及びガドリニウムからなる群より選択される少なくとも一種の元素を含有し、上記少なくとも一種の元素の合計の含有量が0ppm超1000ppm未満である、ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体を提供する。
【0008】
上記ユウロピウム賦活β型サイアロンは、上述の元素を所定量で含有することから内部量子効率に優れる。
【0009】
上記少なくとも一種の元素がイットリウムであってもよく、上記少なくとも一種の元素がチタンであってもよく、上記少なくとも一種の元素がイットリウム及びチタンであってもよい。上記ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体は、イットリウム又はチタンを所定量で含有することによって、内部量子効率により優れる。
【0010】
上記少なくとも一種の元素がイットリウム及びチタンの少なくとも一方を含有し、上記イットリウム及び上記チタンの合計の含有量が0.1~500ppmであってよい。イットリウム及びチタンの合計の含有量が上記範囲内であることで、蛍光体の結晶欠陥をより低減できることから、内部量子効率により優れる。
【0011】
上記少なくとも一種の元素がイットリウム及びチタンの少なくとも一方を含有し、波長600nmの励起光に対する吸収率が5%以下であってよい。
【0012】
上記少なくとも一種の元素がガドリニウムであってもよい。上記ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体は、ガドリニウムを所定量で含有することから、内部量子効率により優れる。
【0013】
上記ガドリニウムの含有量が0.1~300ppmであってよい。ガドリニウムの含有量が上記範囲内であることで、蛍光体の結晶欠陥をより低減できることから内部量子効率により優れる。
【0014】
上記少なくとも一種の元素がガドリニウムであるユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体は、波長600nmの励起光に対する吸収率が6%以下であってよい。
【0015】
本開示の一側面は、アルカリ土類金属元素を含有し、上記アルカリ土類金属元素の合計の含有量が0ppm超1000ppm未満である、ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体を提供する。
【0016】
上記ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体は、アルカリ土類金属元素を所定量で含有することから内部量子効率に優れる。
【0017】
上記アルカリ土類金属元素がマグネシウム又はストロンチウムであってよい。マグネシウム又はストロンチウムを含むことで、蛍光体の結晶欠陥をより低減できることから、内部量子効率により優れる。
【0018】
上記アルカリ土類金属元素の合計の含有量が0.1~500ppmであってよい。アルカリ土類金属元素の含有量が上記範囲内であることで、蛍光体の結晶欠陥をより低減できることから、内部量子効率により優れる。
【0019】
上記アルカリ土類金属元素を含有するユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体は、波長600nmの励起光に対する吸収率が7%以下であってよい。
【0020】
本開示の一側面は、一次光を発する発光素子と、上記一次光の一部を吸収して、一次光の波長よりも長い波長を有する二次光を発する波長変換体と、を備える発光装置であって、上記波長変換体が、上述のユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体を含む、発光装置を提供する。
【0021】
上記発光装置は、波長変換体として上述のユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体を含むことから、発光効率に優れる。
【発明の効果】
【0022】
本開示によれば、内部量子効率に優れるユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本開示の実施形態について説明する。ただし、以下の実施形態は、本開示を説明するための例示であり、本開示を以下の内容に限定する趣旨ではない。
【0024】
本明細書において例示する材料は特に断らない限り、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。組成物中の各成分の含有量は、組成物中の各成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。本明細書における「工程」とは、互いに独立した工程であってもよく、同時に行われる工程であってもよい。
【0025】
ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体の一実施形態は、イットリウム、チタン、及びガドリニウムからなる群より選択される少なくとも一種の元素を含有する。ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体は上述の元素のうち、例えば、イットリウム、チタン、及びガドリニウムからなる群より選択される1種、又は2種の元素を含有してよく、イットリウム、チタン、及びガドリニウムからなる群より選択される1種の元素を含有してもよい。上述の少なくとも一種の元素は、例えば、イットリウムであってよく、チタンであってよく、ガドリニウムであってもよい。ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体は上述の元素のうち2種を含む場合、上述の少なくとも一種の元素は、イットリウム及びチタンであってよい。例えば、ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体は、イットリウムを含有する蛍光体であってよく、チタンを含有する蛍光体であってよく、イットリウム及びチタンを含有する蛍光体であってよい。すなわち、ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体は、イットリウム及びチタンの少なくとも一方を含有してよい。ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体はまた、ガドリニウムを含有する蛍光体であってもよい。
【0026】
上記ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体は、β型サイアロンを主結晶として含んでよく、β型サイアロンからなってもよい。ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体は、本開示の趣旨を損なわない範囲で異相を含み得る。ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体は、Si6-ZAlZOZN8-Z:Euの組成式で表される組成を有してもよい。上記組成式中、zは、0.0<z≦4.2であってよく、又は0.0<z≦0.5であってよい。ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体の組成は、当該蛍光体を製造する際の原料組成物の成分及び組成比を変更することで、調整することができる。
【0027】
本実施形態に係るユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体の組成において、窒素原子(N)及び酸素原子(O)の含有量は酸素窒素分析装置によって定量することができ、ユウロピウム(Eu)、ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)、イットリウム(Y)、チタン(Ti)、及びガドリニウム(Gd)の含有量はICP発光分光分析装置を用いて元素の定量分析を行うことによって確認できる。
【0028】
ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体において、上記少なくとも一種の元素の合計の含有量が0ppm超1000ppm未満である。ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体が含む上記元素の種類によって、上記少なくとも一種の元素の合計の含有量は調整し得る。
【0029】
イットリウム及びチタンの合計の含有量は、ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体の全量を基準として、0ppm超1000ppm未満である。本実施形態に係るユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体は内部量子効率により優れるものとなっているが、このような効果が得られる理由として、本発明者らは以下のように推定する。すなわち、本実施形態に係るユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体においては、当該蛍光体の製造において生じる蛍光体中の欠陥となる空孔がイットリウム又はチタンのイオンで補填されることによって欠陥が低減され、内部量子効率に優れたものとなっているものと推定される。
【0030】
上記イットリウムの含有量の下限値は、ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体の全量を基準として、例えば、0.1ppm以上、又は0.2ppm以上であってよい。イットリウムの含有量の下限値が上記範囲内であることで、ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体の内部量子効率をより向上できる。上記イットリウムの含有量の上限値は、ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体の全量を基準として、例えば、800ppm以下、600ppm以下、又は500ppm以下であってよい。イットリウムの含有量の上限値が上記範囲内であることで、過剰に添加されたイットリウム由来の異相の発生を抑制し、非発光成分の生成を抑制できるため、ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体の発光特性の低下を抑制することができる。上記イットリウムの含有量は上述の範囲内で調整してよく、ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体の全量を基準として、例えば、0.1~900ppm、又は0.1~500ppmであってよい。
【0031】
上記チタンの含有量の下限値は、ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体の全量を基準として、例えば、0.1ppm以上、又は0.2ppm以上であってよい。チタンの含有量の下限値が上記範囲内であることで、ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体の内部量子効率をより向上できる。上記チタンの含有量の上限値は、ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体の全量を基準として、例えば、800ppm以下、600ppm以下、又は500ppm以下であってよい。チタンの含有量の上限値が上記範囲内であることで、過剰に添加されたチタン由来の異相の発生を抑制し、非発光成分の生成を抑制できるため、ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体の発光特性の低下を抑制することができる。上記チタンの含有量は上述の範囲内で調整してよく、ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体の全量を基準として、例えば、0.1~900ppm、又は0.1~500ppmであってよい。
【0032】
上記イットリウム及びチタンの合計の含有量の下限値は、ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体の全量を基準として、例えば、0.1ppm以上、又は0.2ppm以上であってよい。イットリウム及びチタンの合計の含有量の下限値が上記範囲内であることで、ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体の内部量子効率をより向上できる。上記イットリウム及びチタンの合計の含有量の上限値は、ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体の全量を基準として、例えば、800ppm以下、600ppm以下、又は500ppm以下であってよい。イットリウム及びチタンの合計の含有量の上限値が上記範囲内であることで、過剰に添加されたイットリウム及びチタン元素由来の異相の発生を抑制し、非発光成分の生成を抑制できるため、ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体の発光特性の低下を抑制することができる。上記イットリウム及びチタンの合計の含有量は上述の範囲内で調整してよく、ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体の全量を基準として、例えば、0.1~900ppm、又は0.1~500ppmであってよい。
【0033】
ガドリニウムの含有量は、ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体の全量を基準として、0ppm超1000ppm未満である。本実施形態に係るユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体は内部量子効率により優れるものとなっているが、このような効果が得られる理由として、本発明者らは以下のように推定する。すなわち、本実施形態に係るユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体においては、当該蛍光体の製造において生じる蛍光体中の欠陥となる空孔がガドリニウムイオンで補填されることによって欠陥が低減され、内部量子効率に優れたものとなっているものと推定される。
【0034】
ガドリニウムの含有量の下限値は、ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体の全量を基準として、例えば、0.1ppm以上、又は0.2ppm以上であってよい。上記ガドリニウムの含有量の下限値が上記範囲内であることで、ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体の内部量子効率をより向上できる。ガドリニウムの含有量の上限値は、ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体の全量を基準として、例えば、800ppm以下、600ppm以下、500ppm以下、又は300ppm以下であってよい。上記ガドリニウムの含有量の上限値が上記範囲内であることで、過剰に添加されたガドリニウム由来の異相の発生を抑制し、非発光成分の生成を抑制できるため、ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体の発光特性の低下を抑制することができる。ガドリニウムの含有量は上述の範囲内で調整してよく、ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体の全量を基準として、例えば、0.1~900ppm、0.1~500ppm、又は0.1~300ppmであってよい。
【0035】
ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体の別の実施形態は、アルカリ土類金属元素を含有する。上記ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体は、β型サイアロンを主結晶として含んでよく、β型サイアロンからなってもよい。ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体は、本開示の趣旨を損なわない範囲で異相を含み得る。ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体は、Si6-ZAlZOZN8-Z:Euの組成式で表される組成を有してもよい。上記組成式中、zは、0.0<z≦4.2であってよく、又は0.0<z≦0.5であってよい。ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体の組成は、当該蛍光体を製造する際の原料組成物の成分及び組成比を変更することで、調整することができる。
【0036】
本実施形態に係るユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体の組成において、マグネシウム(Mg)及びストロンチウム(Sr)等のアルカリ土類金属元素の含有量はICP発光分光分析装置を用いて元素の定量分析を行うことによって確認できる。
【0037】
アルカリ土類金属は、IUPACが公表している周期表において第II族元素として知られるものであってよい。上記アルカリ土類金属元素としては、例えば、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、及びバリウムからなる群より選択される少なくとも一種を含んでよく、好ましくはマグネシウム又はストロンチウムを含む。
【0038】
上記アルカリ土類金属元素の合計の含有量は、ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体の全量を基準として、0ppm超1000ppm未満である。本実施形態に係るユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体は内部量子効率に優れるものとなっているが、このような効果が得られる理由として、本発明者らは以下のように推定する。すなわち、本実施形態に係るユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体においては、当該蛍光体の製造において生じる蛍光体中の欠陥となる空孔がアルカリ土類金属に属する元素のイオンで補填されることによって欠陥が低減され、内部量子効率に優れたものとなっているものと推定される。
【0039】
上記アルカリ土類金属元素の合計の含有量の下限値は、ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体の全量を基準として、例えば、0.1ppm以上、又は0.2ppm以上であってよい。アルカリ土類金属元素の合計の含有量の下限値が上記範囲内であることで、ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体の内部量子効率をより向上できる。上記アルカリ土類金属元素の合計の含有量の上限値は、ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体の全量を基準として、例えば、800ppm以下、600ppm以下、500ppm以下、又は300ppm以下であってよい。アルカリ土類金属元素の合計の含有量の上限値が上記範囲内であることで、過剰に添加されたアルカリ土類金属元素由来の異相の発生を抑制し、非発光成分の生成を抑制できるため、ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体の発光特性の低下を抑制することができる。上記アルカリ土類金属元素の合計の含有量は上述の範囲内で調整してよく、ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体の全量を基準として、例えば、0.1~900ppm、0.1~500ppm、又は0.1~300ppmであってよい。
【0040】
本開示に係るユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体の体積基準の累積粒度分布における50%累積径(D50)は、蛍光体の用途等に応じて調整してよい。ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体の体積基準の累積粒度分布における50%累積径(D50)は、例えば、0.1~50μm、3~40μm、又は6~30μmであってよい。D50は、例えば、蛍光体製造の際の加熱温度及び加熱時間等の条件を調整すること、並びに分級等によって制御できる。
【0041】
本明細書におけるD50は、レーザ回折・散乱法によって測定される体積基準の粒子径の分布曲線において、小粒径からの積算値が全体の50%に達した時の粒子径をいう。蛍光体の粒子径に関する分布曲線は、JIS R 1629:1997「ファインセラミックス原料のレーザ回折・散乱法による粒子径分布測定方法」に記載のレーザ回折・散乱法による粒子径分布測定方法に準拠して行う。測定には粒子径分布測定装置を用いることができる。具体的には、まず、測定対象となる蛍光体0.1gをイオン交換水100mLに投入し、ヘキサメタリン酸Naを少量添加し、超音波ホモジナイザーを用いて3分間、分散処理を行ったものを測定サンプルとし、粒子径分布測定装置を用いて粒度を測定して、得られた粒度分布からD50を決定する。D50は、メディアン径とも呼ばれ、対象となる粒子の平均粒径を意味する。なお、粒子径分布測定装置としては、例えば、マイクロトラック・ベル株式会社製の「Microtrac MT3300EX II」(製品名)を使用できる。超音波ホモジナイザーとしては、例えば、株式会社日本精機製作所製の「Ultrasonic Homogenizer US-150E」(製品名、チップサイズ:φ20、Amplitude:100%、発振周波数:19.5KHz、振幅:約31μm)を使用できる。
【0042】
本開示に係るユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体は、600nmの波長の光に対する吸収率が抑制されている。600nmの波長の光に対する上記蛍光体中のユウロピウムの吸収は小さく、上記蛍光体から生じる蛍光の影響も少ない波長である。このため、600nmの波長の光に対する吸収率が高い場合、欠陥や非発光成分である異相による吸収であると考えられる。本開示に係るユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体では、例えば、波長600nmの励起光に対する吸収率が、7%以下、6.8%以下、6.0%以下、5.0%以下、4.8%以下、4.5%以下、又は4.0%以下とすることができる。当該ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体は、波長600nmの励起光に対する吸収が抑制されており、欠陥や非発光成分である異相の影響が少ないため、内部量子効率により優れたものとなり得る。
【0043】
ユウロピウム賦活βサイアロン蛍光体がイットリウム及びチタンの少なくとも一方を含有する場合、600nmの波長の光に対する吸収率は、例えば、5.0%以下、4.8%以下、4.5%以下、又は4.0%以下とすることができる。ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体がガドリニウムを含有する場合、600nmの波長の光に対する吸収率は、例えば、6.0%以下、5.5%以下、又は5%以下とすることができる。
【0044】
ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体がアルカリ土類金属元素を含有する場合、600nmの波長の光に対する吸収率は、例えば、7%以下、6%以下、又は5%以下とすることができる。
【0045】
本開示に係るユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体は内部量子効率に優れるが、その内部量子効率は、例えば、80%超、81%以上、82%以上、83%以上、又は84%以上とすることができる。
【0046】
本明細書における光の吸収率及び内部量子効率は、特に断りのある場合を除き、波長が455nmの近紫外光を用いて蛍光体を励起した場合に得られる量子効率を意味する。内部量子効率は、具体的には本明細書の実施例に記載の方法で測定して求める。
【0047】
本開示に係るユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体は、例えば、以下のような方法によって製造することができる。ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体の製造方法の一例としては、一以上の加熱処理によって、ケイ素源、アルミニウム源、及びユウロピウム源を含有し、それらのうちの少なくとも1種を窒化物として含む原料組成物からβ型サイアロンを含む焼成体を得る焼成工程と、希ガス、還元性ガス、及び不活性ガスからなる群より選択される少なくとも一種を含む雰囲気下で、一以上のアニール処理によって、上記焼成体と、イットリウム、チタン、及びガドリニウムからなる群より選択される少なくとも一種の元素の供給源、又は、アルカリ土類金属単体、及びアルカリ土類金属元素を構成元素として有する化合物の少なくとも一方と、を含む混合物からアニール処理体を得るアニール工程と、を有する方法であってよい。イットリウム、チタン、及びガドリニウムからなる群より選択される少なくとも一種の元素の供給源としては、例えば、イットリウム単体、チタン単体、イットリウムを構成元素として有する化合物、及びチタンを構成元素として有する化合物からなる群より選択される少なくとも一種、並びに、ガドリニウム単体、又はガドリニウムを構成元素として有する化合物の少なくとも一方等を上げることができる。以下、この例について説明する。
【0048】
原料組成物は、ユウロピウム賦活β型サイアロンの構成元素となる元素を有する化合物を含み、少なくとも、ケイ素源、アルミニウム源、及びユウロピウム源を含有する。原料組成物において、ケイ素源、アルミニウム源、及びユウロピウム源の少なくとも一種は窒化物である。当該窒化物は、ユウロピウム賦活β型サイアロンの構成元素となる窒素を有することから窒素源でもある。
【0049】
ケイ素源とは、ケイ素を構成元素とする化合物又は単体を意味し、アルミニウム源とは、アルミニウムを構成元素とする化合物又は単体を意味し、ユウロピウム源とは、ユウロピウムを構成元素とする化合物又は単体を意味する。本明細書では、ケイ素を構成元素とする化合物をケイ素化合物ともいい、アルミニウムを構成元素とする化合物をアルミニウム化合物ともいい、ユウロピウムを構成元素とする化合物をユウロピウム化合物ともいう。
【0050】
ケイ素化合物、アルミニウム化合物及びユウロピウム化合物はそれぞれ、窒化物、酸化物、酸窒化物、及び水酸化物のいずれかであってよい。また、原料組成物は、β型サイアロン又はユウロピウム賦活β型サイアロンを更に含有してもよい。ここで、β型サイアロン又はユウロピウム賦活β型サイアロンは、骨材又は核となる材料である。
【0051】
ケイ素化合物は、例えば、窒化ケイ素(Si3N4)、及び酸化ケイ素(SiO2)等が挙げられる。窒化ケイ素としては、α分率の高いものを用いることが好ましい。窒化ケイ素のα分率は、例えば、80質量%以上、90質量%以上、又は95質量%以上であってよい。窒化ケイ素のα分率が上記範囲内であると、一次粒子成長を促進することができる。窒化ケイ素としては、酸素含有量の小さなものを用いることが好ましい。窒化ケイ素の酸素含有量は、例えば、3.0質量%以下、又は1.3質量%以下であってよい。窒化ケイ素の酸素含有量が上記範囲内であると、β型サイアロンの結晶における欠陥の発生を抑制できる。
【0052】
アルミニウム化合物は、例えば、窒化アルミニウム(AlN)、酸化アルミニウム(Al2O3)、及び水酸化アルミニウム(Al(OH)3)等が挙げられる。
【0053】
ユウロピウム化合物は、例えば、ユウロピウムの酸化物(酸化ユウロピウム)、ユウロピウムの窒化物(窒化ユウロピウム)、及びユウロピウムのハロゲン化物等が挙げられる。ユウロピウムのハロゲン化物は、例えば、フッ化ユウロピウム、塩化ユウロピウム、臭化ユウロピウム、及びヨウ化ユウロピウム等が挙げられる。ユウロピウムの化合物は、好ましくは酸化ユウロピウムを含む。ユウロピウムの化物におけるユウロピウムの価数は、2価又は3価であってよく、好ましくは2価である。
【0054】
原料混合物は、各化合物を秤量し、混合することによって調製できる。混合には、乾式混合法又は湿式混合法を用いてもよい。乾式混合法は、例えば、V型混合機等を用いて各成分を混合する方法であってよい。湿式混合法は、例えば、水等の溶媒又は分散媒を加えて溶液又はスラリーを調製し各成分を混合して、その後、溶媒又は分散媒を除去する方法であってよい。
【0055】
焼成工程における加熱温度は、例えば、1800~2500℃、1800~2400℃、1850~2100℃、1900~2100℃、1900~2050℃、又は1920~2050℃であってよい。焼成工程における加熱温度を1800℃以上とすることによって、β型サイアロンの粒子成長を促進するとともに、ユウロピウムの固溶量をより十分なものとすることができる。焼成工程における加熱温度を2500℃以下とすることによって、β型サイアロンの結晶が分解されることを十分に抑制することができる。
【0056】
焼成工程における加熱時間は、β型サイアロンの一次粒子成長を促進する観点では長い方がよいが、加熱時間が長過ぎると結晶欠陥が増加し得るため、例えば、1~30時間、3~25時間、又は5~20時間であってよい。
【0057】
焼成工程における原料混合物の加熱は、例えば、窒素雰囲気下で行ってもよい。窒素分圧が高い条件で加熱することによって高温時の窒化ケイ素の分解が抑制できる。また高温で処理することで粒子成長が促進できる。焼成工程における原料混合物の加熱は、例えば、加圧下で行ってもよい。この際の圧力は、例えば、0.01~200MPaG、0.02~200MPaG、0.1~200MPaG、0.1~100MPaG、0.1~50MPaG、0.1~15MPaG、又は0.1~5MPaGであってよい。
【0058】
焼成工程における加熱処理の回数は、1回であってもよいが、例えば、2回以上であってよく、2~5回、又は2~4回であってよい。複数回の加熱処理を行うことによって、より発光強度に優れるユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体を得ることができる。
【0059】
焼成工程では一以上の加熱処理を行うが、複数回の加熱処理を行う場合、順次、第一加熱処理、第二加熱処理等といい、各加熱処理を行う工程を、順次、第一焼成工程、第二焼成工程等といってよい。例えば、上述の製造方法が、焼成工程において2回の加熱処理を行う場合、当該焼成工程は、窒化物を含む原料組成物を第一加熱処理して第一の加熱処理体を得る工程と、上記第一の加熱処理体を第二加熱処理して第二の加熱処理体を得る第二焼成工程とを含むともいう。そして、この場合、第二の加熱処理体が、β型サイアロンを含む焼成体に該当する。複数回の加熱処理を行う前に、ケイ素源、アルミニウム源、及びユウロピウム源を更に混合して、加熱処理を行ってもよい。
【0060】
焼成工程が2以上の加熱処理を行う場合、第一焼成工程の加熱温度、加熱時間、加熱の際の雰囲気、及び加熱の際の圧力は上述の加熱工程における加熱温度、加熱時間、加熱の際の雰囲気、及び加熱の際の圧力をそれぞれ適用できる。そして、第二焼成工程以降の加熱温度、加熱時間、加熱の際の雰囲気、及び加熱の際の圧力は、第一焼成工程と同じであってよく、異なってもよい。ただし、第二焼成工程以降における加熱温度、加熱時間、加熱の際の雰囲気、及び加熱の際の圧力が第一焼成工程と異なる場合であっても、上述の加熱工程に関して示した条件の範囲内であるものとする。
【0061】
焼成工程において得られる焼成体は、β型サイアロンの結晶を有し、その一部に発光中心となる元素が固溶した固溶体であり、それ自体が蛍光を発し得るものである。焼成工程によって得られる焼成体は、塊状となる場合があり、アニール工程に先んじて、解砕等によって粒度を調整してもよい。
【0062】
次にアニール工程を行う。本例の製造方法におけるアニール工程とは、上述の焼成工程で得られた焼成体と、イットリウム、チタン、及びガドリニウムからなる群より選択される少なくとも一種の元素の供給源、又は、アルカリ土類金属単体、及びアルカリ土類金属元素を構成元素として有する化合物の少なくとも一方と、を含む混合物からアニール処理体を得る工程を意味する。上述の工程は、例えば、上述の焼成工程で得られた焼成体と、イットリウム単体、チタン単体、イットリウムを構成元素として有する化合物、及びチタンを構成元素として有する化合物からなる群より選択される少なくとも一種と、を含む混合物をアニール処理する工程、又は、上述の焼成工程で得られた焼成体と、ガドリニウム単体、若しくはガドリニウムを構成元素として有する化合物の少なくとも一方と、を含む混合物をアニール処理する工程、又は、上述の焼成工程で得られた焼成体と、アルカリ土類金属単体、及びアルカリ土類金属元素を構成元素として有する化合物の少なくとも一方、とを含む混合物をアニール処理する工程であってよい。アニール工程において、一以上の加熱処理によって混合物からアニール処理体が得られる。
【0063】
イットリウムを構成元素として有する化合物、及びチタンを構成元素として有する化合物は、例えば、酸化物、窒化物、及び水酸化物等であってよいが、好ましくは酸化物である。イットリウムを構成元素として有する化合物、及びチタンを構成元素として有する化合物は、例えば、酸化イットリウム(Y2O3)、及び酸化チタン(Ti2O3)などであってよい。
【0064】
イットリウム単体、チタン単体、イットリウムを構成元素として有する化合物、及びチタンを構成元素として有する化合物の合計の配合量は、上記混合物の全量に対して、例えば、0.01~4質量%、0.05~3質量%、又は0.1~3質量%であってよい。上記配合量を0.01質量%以上とすることで、イットリウム及びチタンの少なくとも一方を蛍光体により容易に導入することができ、得られるユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体の内部量子効率をより向上させることができる。上記配合量を4質量%以下とすることで、得られるユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体の発光特性の低下を抑制できる。
【0065】
ガドリニウムを構成元素として有する化合物は、例えば、酸化物、窒化物、及び水酸化物等であってよいが、好ましくは酸化物である。ガドリニウムを構成元素として有する化合物は、例えば、酸化ガドリニウム(Gd2O3)などであってよい。
【0066】
ガドリニウム単体、及びガドリニウムを構成元素として有する化合物の合計の配合量は、上記混合物の全量に対して、例えば、0.01~4質量%、0.05~3質量%、又は0.1~3質量%であってよい。ガドリニウム単体、及びガドリニウムを構成元素として有する化合物の合計の配合量を0.01質量%以上とすることで、ガドリニウムを蛍光体に導入することが容易となり、得られるユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体の内部量子効率をより向上させることができる。ガドリニウム単体、及びガドリニウムを構成元素として有する化合物の合計の配合量を4質量%以下とすることで、過剰に添加されたガドリニウム由来の異相が抑制され、得られるユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体の発光特性の低下を抑制できる。
【0067】
アルカリ土類金属元素を構成元素として有する化合物は、例えば、酸化物、炭酸塩、窒化物、及び水酸化物等であってよいが、好ましくは酸化物又は炭酸塩である。アルカリ土類金属元素は、ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体の構成成分として例示したアルカリ土類金属元素であってよい。アルカリ土類金属元素を構成元素として有する化合物は、例えば、酸化マグネシウム(MgO)、及び炭酸ストロンチウム(SrCO3)、窒化ストロンチウム(Sr2N3)、及び酸化ストロンチウム(SrO)などであってよい。
【0068】
アルカリ土類金属単体、及びアルカリ土類金属元素を構成元素として有する化合物の合計の配合量は、上記混合物の全量に対して、例えば、0.01~4質量%、0.05~3質量%、0.1~3質量%、又は0.1~1.5質量%であってよい。アルカリ土類金属単体、及びアルカリ土類金属元素を構成元素として有する化合物の合計の配合量を0.01質量%以上とすることで、アルカリ土類金属元素を蛍光体に導入することが容易となり、得られるユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体の内部量子効率をより向上させることができる。アルカリ土類金属単体、及びアルカリ土類金属元素を構成元素として有する化合物の合計の配合量を4質量%以下とすることで、過剰に添加されたアルカリ土類金属元素由来の異相が抑制され、得られるユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体の発光特性の低下を抑制できる。
【0069】
アニール工程は、希ガス、還元性ガス、及び不活性ガスからなる群より選択される少なくとも一種を含む雰囲気下でアニール処理を行う。アニール処理を希ガス、還元性ガス又は不活性ガスを含む雰囲気下で行うことによって、固溶体中のユウロピウムにおける2価のユウロピウムの割合を高めることができる。
【0070】
上記希ガスは、例えば、アルゴン、及びヘリウム等を含有してよく、アルゴンを含有してよく、アルゴンからなってもよい。上記還元性ガスは、例えば、アンモニア、炭化水素、一酸化炭素、及び水素等を含有してよく、水素を含有してよく、水素からなってもよい。不活性ガスは、例えば、窒素等を含有してよく、窒素からなってもよい。アニール工程の雰囲気は、上記希ガス、上記還元性ガス、及び不活性ガスの2種以上の混合ガスであってもよい。アニール工程の雰囲気を上記混合ガスとする場合、上記還元性ガスの含有量は、混合ガスの全体積を基準として、例えば、1~50体積%、又は4~20体積%であってよい。上記不活性ガスの含有量は、混合ガスの全体積を基準として、例えば、1~50体積%、又は4~20体積%であってよい。
【0071】
アニール処理の際の圧力は、焼成工程における圧力と同じであってもよいが、好ましくは焼成工程における圧力条件よりも低く、より好ましくは大気圧である。
【0072】
アニール処理の温度は、焼成工程における加熱温度よりも低く設定する必要がある。アニール処理の温度の上限値は、例えば、1700℃以下、又は1680℃以下であってよい。アニール処理の温度の上限値を上記範囲内とすることで、焼成体中で更なる粒子成長が進行し固溶体間で凝集、二次粒子の形成などが生じ粒子が粗大化することを抑制できる。アニール処理の温度の下限値は、例えば、1000℃以上、1100℃以上、1200℃以上、1300℃以上、又は1400℃以上であってよい。アニール処理の温度の下限値を上記範囲内とすることで、アニール処理体に含まれるβ型サイアロンの結晶欠陥密度を減少させ、内部量子効率をより向上させることができる。アニール処理の温度は上述の範囲内で調整することができ、例えば、1000~1700℃、又は1100~1680℃であってよい。
【0073】
アニール処理における加熱時間は、アニール処理体に含まれる蛍光体における結晶欠陥をより減少させる観点から、例えば、1~30時間、2~25時間、又は3~20時間であってよい。
【0074】
アニール工程では一以上のアニール処理を行うが、複数回のアニール処理を行う場合、順次、第一アニール処理、第二アニール処理等といい、各アニール処理を行う工程を、順次、第一アニール工程、第二アニール工程等といってよい。例えば、上述の製造方法が、アニール工程において2回のアニール処理を行う場合、当該アニール工程は、焼成体を第一アニール処理して第一のアニール処理体を得る工程と、上記第一のアニール処理体を第二アニール処理して第二のアニール処理体を得る第二アニール工程とを含むともいう。そして、この場合、第二のアニール処理体が、上述のアニール処理体に該当する。
【0075】
アニール工程が2以上のアニール処理を行う場合、第一アニール工程のアニール処理の温度、加熱時間、及び加熱の際の圧力は上述のアニール工程におけるアニール処理の温度、加熱時間、及び加熱の際の圧力をそれぞれ適用できる。そして、第二アニール工程以降のアニール処理の温度、加熱時間、及び加熱の際の圧力は、第一アニール工程と同じであってよく、異なってもよい。ただし、第二アニール工程以降におけるアニール処理の温度、加熱時間、及び加熱の際の圧力が第一アニール工程と異なる場合であっても、上述のアニール工程に関して示した条件の範囲内であるものとする。
【0076】
アニール工程におけるアニール処理の回数は、1回であってもよいが、例えば、2回以上であってよく、2~5回、又は2~4回であってよい。複数回のアニール処理を行うことによって、アニール処理体に含まれるβ型サイアロンの結晶欠陥密度を減少させ、より内部量子効率に優れるユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体を得ることができる。
【0077】
アニール工程においてアニール処理を複数回行う場合、上述のイットリウム、チタン、及びガドリニウムからなる群より選択される少なくとも一種の元素の供給源(例えば、上述のイットリウム単体、チタン単体、イットリウムを構成元素として有する化合物、及びチタンを構成元素として有する化合物、又は、ガドリニウム単体、及びガドリニウムを構成元素として有する化合物等)、又は、アルカリ土類金属単体、及びアルカリ土類金属元素を構成元素として有する化合物の少なくとも一方は、第一アニール工程において一括して配合してもよく、また複数回のアニール工程に分割して配合してもよいが、好ましくは第一アニール工程において一括して配合する。なお、これらの化合物等を分割して配合する場合、上述のイットリウム、チタン、及びガドリニウムからなる群より選択される少なくとも一種の元素の供給源、又は、アルカリ土類金属単体、及びアルカリ土類金属元素を構成元素として有する化合物の少なくとも一方の合計の配合量に関する説明は、複数のアニール工程において配合する上述のイットリウム、チタン、及びガドリニウムからなる群より選択される少なくとも一種の元素の供給源、又は、アルカリ土類金属単体、及びアルカリ土類金属元素を構成元素として有する化合物の少なくとも一方の総量として読み替えて適用するものとする。
【0078】
ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体の製造方法は、焼成工程及びアニール工程に加えて、その他の工程を有していてもよい。その他の工程としては、例えば、アニール工程において得られるアニール処理体を酸及びアルカリの少なくともいずれか一方で処理する工程、アニール処理体若しくは酸処理等を経たアニール処理体の粒度を調整する分級工程等を有してもよい。アニール処理体を酸で処理する工程を酸処理工程といい、アニール処理体をアルカリで処理する工程をアルカリ処理工程という。
【0079】
酸処理工程又はアルカリ処理工程によって、例えば、アニール処理体に含まれる蛍光体における結晶欠陥密度の更なる減少、β型サイアロンの熱分解等によって生成した固溶体表面に存在するケイ素の除去、及び第一焼成体の調製時に副生した窒化アルミニウム(AlN)の疑似多形であるAlNポリタイポイド等の除去ができる。酸は、例えば、フッ化水素酸及び硝酸等を含んでよい。酸はフッ化水素酸及び硝酸の混酸であってよい。アルカリは、例えば、水酸化ナトリウム等を含んでよい。
【0080】
分級工程は、例えば、湿式分級法及び乾式分級法のいずれで行ってもよい。湿式分級としては、例えば、アニール処理体をイオン交換水及び分散剤(例えば、ヘキサメタリン酸ナトリウム等)を含む混合溶媒、又はイオン交換水及びアンモニア水を含む混合溶媒中に加えて撹拌した後に静置することで粒子径が小さい粒子を除去する水簸分級法等を挙げることができる。
【0081】
本開示に係るユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体は、単独で用いてもよく、その他の蛍光体と組み合わせて用いることもできる。本開示に係るユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体は内部量子効率に優れることから、例えば、LED等の発光装置に好適に使用できる。蛍光体を硬化樹脂中に分散させて使用してもよい。硬化樹脂は、特に制限されず、例えば、発光装置等の封止樹脂として使用される樹脂等を用いることができる。
【0082】
発光装置の一実施形態は、一次光を発する発光素子と、上記一次光の一部を吸収して、一次光の波長よりも長い波長を有する二次光を発する波長変換体と、を備える発光装置である。上記波長変換体が、上述のユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体を含む。一次光を発する発光素子は、例えば、InGaN青色LED等であってよい。上記発光素子及び波長変換体は、封止樹脂等に分散されていてもよい。
【0083】
以上、幾つかの実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に何ら限定されるものではない。また、上述した実施形態についての説明内容は、互いに適用することができる。
【実施例】
【0084】
以下、実施例及び比較例を参照して本開示の内容をより詳細に説明する。ただし、本開示は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0085】
(比較例I-1)
[ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体の調製]
容器に、窒化ケイ素(Si3N4)が96.0質量%、窒化アルミニウム(AlN)が2.8質量%、酸化アルミニウム(Al2O3)が0.5質量%、及び酸化ユウロピウム(Eu2O3)が0.7質量%となるように各原材料を測り取り、V型混合機(筒井理化学機械株式会社製)によって混合し、混合物を得た。得られた混合物を目開き250μmの篩を全通させ凝集物を取り除くことで、原料組成物を得た。篩を通らない凝集物は粉砕し、篩を通るように粒径を調整した。
【0086】
蓋付き円筒型窒化ホウ素容器(デンカ株式会社製、窒化ホウ素(商品名:デンカ ボロンナイトライド N-1)を主成分とする成型品、内径:10cm、高さ:10cm)に、上述のとおり調製した原料組成物を200g測り取った。その後、この容器を、カーボンヒーターを備える電気炉中に配置し、窒素ガス雰囲気下(圧力:0.90MPaG)で2020℃まで昇温し、2020℃の加熱温度で、8時間加熱を行った(焼成工程)。加熱後、上記容器内で、緩く凝集した塊状となった試料を乳鉢に採り解砕した。解砕後、目開きが250μmの篩に通して粉末状の第一焼成体を得た。
【0087】
次に、上記第一焼成体を円筒型窒化ホウ素容器に充填して、この容器を、カーボンヒーターを備える電気炉内に配置した。アルゴンガス雰囲気下(圧力:0.025MPaG)で1450℃まで昇温し、1450℃の加熱温度で、3時間加熱を行った(アニール工程)。加熱後、上記容器内で粒子が緩く凝集した塊状物を乳鉢で解砕し、250μmの篩に通すことによって粉体を得た。
【0088】
次に、得られた粉体を、フッ化水素酸(濃度:50質量%)及び硝酸(濃度:70質量%)の混酸(フッ化水素酸と硝酸とを体積比で1:1となるように混合したもの)に添加し、75℃の温度下で撹拌させながら30分間酸処理を行った。酸処理後、撹拌を終了し粉体を沈殿させて、上澄み及び酸処理で精製した微粉を除去した。その後、蒸留水を更に加え再度撹拌した。撹拌を終了し粉体を沈殿させ上澄み及び微粉を除去した。かかる操作を水溶液のpHが8以下で、上澄み液が透明になるまで繰り返し、得られた沈殿物をろ過、乾燥することで、ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体を得た。
【0089】
(比較例I-2)
アニール工程における雰囲気をアルゴンガス雰囲気から水素ガス雰囲気に変更し、金属ヒーターを備える電気炉内でアニール工程における処理温度を1650℃に変更したこと以外は、比較例I-1と同様にして、ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体を得た。
【0090】
(実施例I-1)
アニール工程において、第一焼成体と酸化イットリウムの合計量100質量%に対して、酸化イットリウムの配合量が0.1質量%となるようにして、混合物を調整したうえで、これを水素ガス雰囲気下で加熱したこと以外は、比較例I-2と同様にして、ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体を得た。
【0091】
(実施例I-2)
酸化イットリウムの配合量を0.5質量%に変更したこと以外は実施例I-1と同様にして、ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体を得た。
【0092】
(実施例I-3)
酸化イットリウムの配合量を1質量%に変更したこと以外は実施例I-1と同様にして、ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体を得た。
【0093】
(比較例I-3)
酸化イットリウムの配合量を5質量%に変更したこと以外は実施例I-1と同様にして、ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体を得た。
【0094】
(実施例I-4)
アニール工程において、第一焼成体と酸化イットリウムの合計量100質量%に対して、酸化イットリウムの配合量が0.5質量%となるようにして、混合物を調整したうえで、これをアルゴンガス雰囲気下で加熱したこと以外は、比較例I-1と同様にして、ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体を得た。
【0095】
(実施例I-5)
アニール工程において、第一焼成体と酸化チタンの合計量100質量%に対して、酸化チタンの配合量が0.1質量%となるようにして、混合物を調整したうえで、これをアルゴンガス雰囲気下で加熱したこと以外は、比較例I-1と同様にして、ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体を得た。
【0096】
(実施例I-6)
酸化チタンの配合量を0.5質量%に変更したこと以外は実施例I-5と同様にして、ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体を得た。
【0097】
(実施例I-7)
酸化チタンの配合量を1質量%に変更したこと以外は実施例I-5と同様にして、ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体を得た。
【0098】
(比較例I-4)
酸化チタンの配合量を5質量%に変更したこと以外は実施例I-5と同様にして、ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体を得た。
【0099】
(比較例I-5)
アニール工程において、第一焼成体と酸化ジルコニウムの合計量100質量%に対して、酸化ジルコニウムの配合量が0.1質量%となるようにして、混合物を調整したうえで、これをアルゴンガス雰囲気下で加熱したこと以外は、比較例I-1と同様にして、ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体を得た。
【0100】
(比較例I-6)
酸化ジルコニウムの配合量を0.5質量%に変更したこと以外は比較例I-5と同様にして、ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体を得た。
【0101】
(比較例I-7)
アニール工程において、第一焼成体と酸化亜鉛の合計量100質量%に対して、酸化亜鉛の配合量が0.1質量%となるようにして、混合物を調整したうえで、これをアルゴンガス雰囲気下で加熱したこと以外は、比較例I-1と同様にして、ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体を得た。
【0102】
(比較例I-8)
酸化亜鉛の配合量を0.5質量%に変更したこと以外は比較例I-7と同様にして、ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体を得た。
【0103】
(比較例I-9)
β型サイアロン蛍光体の標準試料(株式会社サイアロン製、NIMS Standard Green lot No.NSG1301)を比較例I-9の蛍光体とした。
【0104】
<イットリウム、チタン、ジルコニウム及び亜鉛のそれぞれの含有量の測定>
実施例I-1~I-7、及び比較例I-1~I-8で調製した各ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体について、イットリウム、チタン、ジルコニウム及び亜鉛のそれぞれの含有量を以下に示す測定した。結果を表1に示す。
【0105】
<イットリウム、チタン、ジルコニウム及び亜鉛の含有量>
ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体中のイットリウム、チタン、ジルコニウム及び亜鉛の含有量は、以下の手順で測定した。加圧酸分解法によって上記蛍光体を溶解させ、試料溶液を調製した。得られた試料溶液についてICP発光分光分析装置(株式会社リガク製、商品名:CIROS-120)を用いて元素の定量分析を行うことによって測定した。なお、イットリウム(Y)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)及び亜鉛(Zn)の検出下限はそれぞれ100ppbであった。
【0106】
[ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体の評価]
実施例I-1~I-7、及び比較例I-1~I-9で調製した各ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体について、波長455nmの励起光を照射した場合の吸収率、内部量子効率、及び外部量子効率、色度X、並びに波長600nmの励起光を照射した場合の吸収率を、後述する方法で評価した。結果を表1に示す。
【0107】
<吸収率、内部量子効率、及び外部量子効率>
波長455nmの励起光を照射した場合の蛍光体の吸収率(励起光吸収率)、内部量子効率、及び外部量子効率は、以下の手順で算出した。まず、測定対象である蛍光体を、凹型セルに表面が平滑になるように充填し、積分球の開口部に取り付けた。発光光源であるXeランプから455nmの波長に分光した単色光を、光ファイバーを用いて蛍光体の励起光として上記積分球内に導入した。この励起光である単色光を測定対象である蛍光体に照射し、蛍光スペクトルを測定した。測定には、分光光度計(大塚電子株式会社製、商品名:MCPD-7000)を用いた。
【0108】
得られた蛍光スペクトルのデータから、蛍光体の発光強度を決定した。また得られた蛍光スペクトルのデータから、励起反射光フォトン数(Qref)及び蛍光フォトン数(Qem)を算出した。励起反射光フォトン数は、励起光フォトン数と同じ波長範囲で、蛍光フォトン数は465~800nmの範囲で算出した。また同じ装置を用い、積分球の開口部に反射率が99%の標準反射板(Labsphere社製、スペクトラロン(登録商標))を取り付けて、波長が455nmの励起光のスペクトルを測定した。その際、450~465nmの波長範囲のスペクトルから励起光フォトン数(Qex)を算出した。
【0109】
上述の算出結果から、以下に示す計算式に基づいて、測定対象である蛍光体の455nmの励起光の吸収率、内部量子効率、及び外部量子効率を求めた。
455nmの励起光の吸収率=((Qex-Qref)/Qex)×100
内部量子効率=(Qem/(Qex-Qref))×100
外部量子効率=(Qem/Qex)×100
なお、上記式から外部量子効率と、455nmの励起光の吸収率、及び内部量子効率との関係式は以下のように表すことができる。
外部量子効率=455nm光吸収率×内部量子効率
【0110】
<色度X>
色度Xは、蛍光スペクトルの465~780nmの範囲の波長域におけるスペクトルデータから、JIS Z8781-3:2016で規定されるXYZ表色系におけるCIE色度座標x値(色度X)をJIS Z8724:2015に準じ算出することで求めた。
【0111】
<600nm光吸収率>
積分球の側面開口部に反射率が99%の標準反射板(Labsphere社製スペクトラロン(登録商標))をセットした。この積分球に、発光光源(Xeランプ)から600nmの波長に分光した単色光を光ファイバーにより導入し、反射光スペクトルを分光光度計(大塚電子株式会社製MCPD-7000)により測定した。その際、590~610nmの波長範囲のスペクトルから入射光フォトン数(Qex(600))を算出した。
【0112】
次に、凹型のセルに表面が平滑になるようにβ型サイアロン蛍光体を充填して積分球の開口部にセットした後、波長600nmの単色光を照射し、入射反射光スペクトルを分光光度計により測定した。得られたスペクトルデータから入射反射光フォトン数(Qref(600))を算出した。入射反射光フォトン数(Qref(600))は入射光フォトン数(Qex(600))と同じ波長範囲で算出した。得られた二種類のフォトン数から下記の式に基づいて600nm光吸収率を算出した。
600nm光吸収率=((Qex(600)-Qref(600))/Qex(600))×100
【0113】
蛍光体の吸収率、内部量子効率、外部量子効率、及び色度Xに関する各測定値は、測定装置のメーカー、製造ロットナンバーなどが変わると値が変動する場合がある。したがって、各種測定値としては、本明細書に記載の測定方法によって測定する値を採用する。しかし、測定装置のメーカー、製造ロットナンバー等を変更する場合は、上述したβ型サイアロン蛍光体の標準試料による測定値を基準値として、各測定値の補正を行うこともできる。基準値を得るための標準試料としては、上記比較例I-9として挙げたβ型サイアロン蛍光体の標準試料を用いることができる。
【0114】
【0115】
(比較例II-1)
[ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体の調製]
容器に、窒化ケイ素(Si3N4)が96.0質量%、窒化アルミニウム(AlN)が2.8質量%、酸化アルミニウム(Al2O3)が0.5質量%、及び酸化ユウロピウム(Eu2O3)が0.7質量%となるように各原材料を測り取り、V型混合機(筒井理化学機械株式会社製)によって混合し、混合物を得た。得られた混合物を目開き250μmの篩を全通させ凝集物を取り除くことで、原料組成物を得た。篩を通らない凝集物は粉砕し、篩を通るように粒径を調整した。
【0116】
蓋付き円筒型窒化ホウ素容器(デンカ株式会社製、窒化ホウ素(商品名:デンカ ボロンナイトライド N-1)を主成分とする成型品、内径:10cm、高さ:10cm)に、上述のとおり調製した原料組成物を200g測り取った。その後、この容器を、カーボンヒーターを備える電気炉中に配置し、窒素ガス雰囲気下(圧力:0.90MPaG)で2020℃まで昇温し、2020℃の加熱温度で、8時間加熱を行った(焼成工程)。加熱後、上記容器内で、緩く凝集した塊状となった試料を乳鉢に採り解砕した。解砕後、目開きが250μmの篩に通して粉末状の第一焼成体を得た。
【0117】
次に、上記第一焼成体を円筒型窒化ホウ素容器に充填して、この容器を、カーボンヒーターを備える電気炉内に配置した。アルゴンガス雰囲気下(圧力:0.025MPaG)で1450℃まで昇温し、1450℃の加熱温度で、3時間加熱を行った(アニール工程)。加熱後、上記容器内で粒子が緩く凝集した塊状物を乳鉢で解砕し、250μmの篩に通すことによって粉体を得た。
【0118】
次に、得られた粉体を、フッ化水素酸(濃度:50質量%)及び硝酸(濃度:70質量%)の混酸(フッ化水素酸と硝酸とを体積比で1:1となるように混合したもの)に添加し、75℃の温度下で撹拌させながら30分間酸処理を行った。酸処理後、撹拌を終了し粉体を沈殿させて、上澄み及び酸処理で精製した微粉を除去した。その後、蒸留水を更に加え再度撹拌した。撹拌を終了し粉体を沈殿させ上澄み及び微粉を除去した。かかる操作を水溶液のpHが8以下で、上澄み液が透明になるまで繰り返し、得られた沈殿物をろ過、乾燥することで、ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体を得た。
【0119】
(比較例II-2)
アニール工程において、第一焼成体と酸化セリウムの合計量100質量%に対して、酸化セリウムの配合量が0.1質量%となるようにして、混合物を調整したうえで、これをアルゴンガス雰囲気下で加熱したこと以外は、比較例II-1と同様にして、ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体を得た。
【0120】
(比較例II-3)
アニール工程において、第一焼成体と酸化セリウムの合計量100質量%に対して、酸化セリウムの配合量が0.5質量%となるようにして、混合物を調整したうえで、これをアルゴンガス雰囲気下で加熱したこと以外は、比較例II-1と同様にして、ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体を得た。
【0121】
(比較例II-4)
アニール工程において、第一焼成体と酸化ランタンの合計量100質量%に対して、酸化ランタンの配合量が0.1質量%となるようにして、混合物を調整したうえで、これをアルゴンガス雰囲気下で加熱したこと以外は、比較例II-1と同様にして、ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体を得た。
【0122】
(比較例II-5)
アニール工程において、第一焼成体と酸化ランタンの合計量100質量%に対して、酸化ランタンの配合量が0.5質量%となるようにして、混合物を調整したうえで、これをアルゴンガス雰囲気下で加熱したこと以外は、比較例II-1と同様にして、ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体を得た。
【0123】
(実施例II-1)
アニール工程において、第一焼成体と酸化ガドリニウムの合計量100質量%に対して、酸化ガドリニウムの配合量が0.1質量%となるようにして、混合物を調整したうえで、これをアルゴンガス雰囲気下で加熱したこと以外は、比較例II-1と同様にして、ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体を得た。
【0124】
(実施例II-2)
アニール工程において、第一焼成体と酸化ガドリニウムの合計量100質量%に対して、酸化ガドリニウムの配合量が0.5質量%となるようにして、混合物を調整したうえで、これをアルゴンガス雰囲気下で加熱したこと以外は、比較例II-1と同様にして、ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体を得た。
【0125】
(実施例II-3)
アニール工程において、第一焼成体と酸化ガドリニウムの合計量100質量%に対して、酸化ガドリニウムの配合量が1質量%となるようにして、混合物を調整したうえで、これをアルゴンガス雰囲気下で加熱したこと以外は、比較例II-1と同様にして、ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体を得た。
【0126】
(比較例II-6)
アニール工程において、第一焼成体と酸化ガドリニウムの合計量100質量%に対して、酸化ガドリニウムの配合量が5質量%となるようにして、混合物を調整したうえで、これをアルゴンガス雰囲気下で加熱したこと以外は、比較例II-1と同様にして、ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体を得た。
【0127】
(比較例II-7)
β型サイアロン蛍光体の標準試料(株式会社サイアロン製、NIMS Standard Green lot No.NSG1301)を比較例II-7の蛍光体とした。
【0128】
<ガドリニウム、セリウム、及びランタンのそれぞれの含有量の測定>
実施例II-1~II-3、及び比較例II-1~II-7で調製した各ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体について、ガドリニウム、セリウム、及びランタンのそれぞれの含有量を以下の方法で測定した。結果を表2に示す。
【0129】
<ガドリニウム、セリウム、ランタンの含有量>
ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体中のガドリニウム、セリウム、及びランタンの含有量は、以下の手順で測定した。加圧酸分解法によって上記蛍光体を溶解させ、試料溶液を調製した。得られた試料溶液についてICP発光分光分析装置(株式会社リガク製、商品名:CIROS-120)を用いて元素の定量分析を行うことによって測定した。なおガドリニウム(Gd)、セリウム(Ce)、及びランタン(La)の検出下限はそれぞれ100ppbであった。
【0130】
[ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体の評価]
実施例II-1~II-3、及び比較例II-1~II-7で調製した各ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体について、波長455nmの励起光を照射した場合の吸収率、内部量子効率、及び外部量子効率、色度X、色度Y、並びに波長600nmの励起光を照射した場合の吸収率を、後述する方法で評価した。結果を表2に示す。
【0131】
<吸収率、内部量子効率、及び外部量子効率>
波長455nmの励起光を照射した場合の蛍光体の吸収率(励起光吸収率)、内部量子効率、及び外部量子効率は、以下の手順で算出した。まず、測定対象である蛍光体を、凹型セルに表面が平滑になるように充填し、積分球の開口部に取り付けた。発光光源であるXeランプから455nmの波長に分光した単色光を、光ファイバーを用いて蛍光体の励起光として上記積分球内に導入した。この励起光である単色光を測定対象である蛍光体に照射し、蛍光スペクトルを測定した。測定には、分光光度計(大塚電子株式会社製、商品名:MCPD-7000)を用いた。
【0132】
得られた蛍光スペクトルのデータから、蛍光体の発光強度を決定した。また得られた蛍光スペクトルのデータから、励起反射光フォトン数(Qref)及び蛍光フォトン数(Qem)を算出した。励起反射光フォトン数は、励起光フォトン数と同じ波長範囲で、蛍光フォトン数は465~800nmの範囲で算出した。また同じ装置を用い、積分球の開口部に反射率が99%の標準反射板(Labsphere社製、スペクトラロン(登録商標))を取り付けて、波長が455nmの励起光のスペクトルを測定した。その際、450~465nmの波長範囲のスペクトルから励起光フォトン数(Qex)を算出した。
【0133】
上述の算出結果から、以下に示す計算式に基づいて、測定対象である蛍光体の455nmの励起光の吸収率、内部量子効率、及び外部量子効率を求めた。
455nmの励起光の吸収率=((Qex-Qref)/Qex)×100
内部量子効率=(Qem/(Qex-Qref))×100
外部量子効率=(Qem/Qex)×100
なお、上記式から外部量子効率と、455nmの励起光の吸収率、及び内部量子効率との関係式は以下のように表すことができる。
外部量子効率=455nm光吸収率×内部量子効率
【0134】
<色度X及びY>
色度X及びYは、蛍光スペクトルの465~780nmの範囲の波長域におけるスペクトルデータから、JIS Z8781-3:2016で規定されるXYZ表色系におけるCIE色度座標のx値(色度X)、及びCIE色度座標のy値(色度Y)をJIS Z8724:2015に準じ算出することで求めた。
【0135】
<600nm光吸収率>
積分球の側面開口部に反射率が99%の標準反射板(Labsphere社製スペクトラロン(登録商標))をセットした。この積分球に、発光光源(Xeランプ)から600nmの波長に分光した単色光を光ファイバーにより導入し、反射光スペクトルを分光光度計(大塚電子株式会社製MCPD-7000)により測定した。その際、590~610nmの波長範囲のスペクトルから入射光フォトン数(Qex(600))を算出した。
【0136】
次に、凹型のセルに表面が平滑になるようにβ型サイアロン蛍光体を充填して積分球の開口部にセットした後、波長600nmの単色光を照射し、入射反射光スペクトルを分光光度計により測定した。得られたスペクトルデータから入射反射光フォトン数(Qref(600))を算出した。入射反射光フォトン数(Qref(600))は入射光フォトン数(Qex(600))と同じ波長範囲で算出した。得られた二種類のフォトン数から下記の式に基づいて600nm光吸収率を算出した。
600nm光吸収率=((Qex(600)-Qref(600))/Qex(600))×100
【0137】
蛍光体の吸収率、内部量子効率、外部量子効率、色度X及び色度Yに関する各測定値は、測定装置のメーカー、製造ロットナンバーなどが変わると値が変動する場合がある。したがって、各種測定値としては、本明細書に記載の測定方法によって測定する値を採用する。しかし、測定装置のメーカー、製造ロットナンバー等を変更する場合は、上述したβ型サイアロン蛍光体の標準試料による測定値を基準値として、各測定値の補正を行うこともできる。基準値を得るための標準試料としては、上記比較例II-7として挙げたβ型サイアロン蛍光体の標準試料を用いることができる。
【0138】
【0139】
(比較例III-1)
[ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体の調製]
容器に、窒化ケイ素(Si3N4)が96.0質量%、窒化アルミニウム(AlN)が2.8質量%、酸化アルミニウム(Al2O3)が0.5質量%、及び酸化ユウロピウム(Eu2O3)が0.7質量%となるように各原材料を測り取り、V型混合機(筒井理化学機械株式会社製)によって混合し、混合物を得た。得られた混合物を目開き250μmの篩を全通させ凝集物を取り除くことで、原料組成物を得た。篩を通らない凝集物は粉砕し、篩を通るように粒径を調整した。
【0140】
蓋付き円筒型窒化ホウ素容器(デンカ株式会社製、窒化ホウ素(商品名:デンカ ボロンナイトライド N-1)を主成分とする成型品、内径:10cm、高さ:10cm)に、上述のとおり調製した原料組成物を200g測り取った。その後、この容器を、カーボンヒーターを備える電気炉中に配置し、窒素ガス雰囲気下(圧力:0.90MPaG)で2020℃まで昇温し、2020℃の加熱温度で、8時間加熱を行った(焼成工程)。加熱後、上記容器内で、緩く凝集した塊状となった試料を乳鉢に採り解砕した。解砕後、目開きが250μmの篩に通して粉末状の第一焼成体を得た。
【0141】
次に、上記第一焼成体を円筒型窒化ホウ素容器に充填して、この容器を、カーボンヒーターを備える電気炉内に配置した。アルゴンガス雰囲気下(圧力:0.025MPaG)で1450℃まで昇温し、1450℃の加熱温度で、3時間加熱を行った(アニール工程)。加熱後、上記容器内で粒子が緩く凝集した塊状物を乳鉢で解砕し、250μmの篩に通すことによって粉体を得た。
【0142】
次に、得られた粉体を、フッ化水素酸(濃度:50質量%)及び硝酸(濃度:70質量%)の混酸(フッ化水素酸と硝酸とを体積比で1:1となるように混合したもの)に添加し、75℃の温度下で撹拌させながら30分間酸処理を行った。酸処理後、撹拌を終了し粉体を沈殿させて、上澄み及び酸処理で精製した微粉を除去した。その後、蒸留水を更に加え再度撹拌した。撹拌を終了し粉体を沈殿させ上澄み及び微粉を除去した。かかる操作を水溶液のpHが8以下で、上澄み液が透明になるまで繰り返し、得られた沈殿物をろ過、乾燥することで、ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体を得た。
【0143】
(実施例III-1)
アニール工程において、第一焼成体と酸化マグネシウムの合計量100質量%に対して、酸化マグネシウムの配合量が0.1質量%となるようにして、混合物を調整したうえで、これをアルゴンガス雰囲気下で加熱したこと以外は、比較例III-1と同様にして、ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体を得た。
【0144】
(実施例III-2)
アニール工程において、第一焼成体と酸化マグネシウムの合計量100質量%に対して、酸化マグネシウムの配合量が0.5質量%となるようにして、混合物を調整したうえで、これをアルゴンガス雰囲気下で加熱したこと以外は、比較例III-1と同様にして、ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体を得た。
【0145】
(実施例III-3)
アニール工程において、第一焼成体と酸化マグネシウムの合計量100質量%に対して、酸化マグネシウムの配合量が1質量%となるようにして、混合物を調整したうえで、これをアルゴンガス雰囲気下で加熱したこと以外は、比較例III-1と同様にして、ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体を得た。
【0146】
(比較例III-2)
アニール工程において、第一焼成体と酸化マグネシウムの合計量100質量%に対して、酸化マグネシウムの配合量が5質量%となるようにして、混合物を調整したうえで、これをアルゴンガス雰囲気下で加熱したこと以外は、比較例III-1と同様にして、ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体を得た。
【0147】
(実施例III-4)
アニール工程において、第一焼成体と炭酸ストロンチウムの合計量100質量%に対して、炭酸ストロンチウムの配合量が0.1質量%となるようにして、混合物を調整したうえで、これをアルゴンガス雰囲気下で加熱したこと以外は、比較例III-1と同様にして、ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体を得た。
【0148】
(実施例III-5)
アニール工程において、第一焼成体と炭酸ストロンチウムの合計量100質量%に対して、炭酸ストロンチウムの配合量が0.5質量%となるようにして、混合物を調整したうえで、これをアルゴンガス雰囲気下で加熱したこと以外は、比較例III-1と同様にして、ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体を得た。
【0149】
(実施例III-6)
アニール工程において、第一焼成体と炭酸ストロンチウムの合計量100質量%に対して、炭酸ストロンチウムの配合量が1質量%となるようにして、混合物を調整したうえで、これをアルゴンガス雰囲気下で加熱したこと以外は、比較例III-1と同様にして、ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体を得た。
【0150】
(実施例III-7)
アニール工程において、第一焼成体と炭酸ストロンチウムの合計量100質量%に対して、炭酸ストロンチウムの配合量が1.5質量%となるようにして、混合物を調整したうえで、これをアルゴンガス雰囲気下で加熱したこと以外は、比較例III-1と同様にして、ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体を得た。
【0151】
(比較例III-3)
アニール工程において、第一焼成体と炭酸ストロンチウムの合計量100質量%に対して、炭酸ストロンチウムの配合量が5質量%となるようにして、混合物を調整したうえで、これをアルゴンガス雰囲気下で加熱したこと以外は、比較例III-1と同様にして、ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体を得た。
【0152】
(比較例III-4)
アニール工程において、第一焼成体と炭酸リチウムの合計量100質量%に対して、炭酸リチウムの配合量が0.5質量%となるようにして、混合物を調整したうえで、これをアルゴンガス雰囲気下で加熱したこと以外は、比較例III-1と同様にして、ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体を得た。
【0153】
(比較例III-5)
β型サイアロン蛍光体の標準試料(株式会社サイアロン製、NIMS Standard Green lot No.NSG1301)を比較例III-5の蛍光体とした。
【0154】
<アルカリ土類金属元素(マグネシウム、ストロンチウム及びリチウム)の含有量の測定>
実施例III-1~III-7、及び比較例III-1~III-5で調製した各ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体について、アルカリ土類金属元素(マグネシウム、ストロンチウム及びリチウム)の含有量を以下の方法で測定した。結果を表3に示す。
【0155】
<マグネシウム、ストロンチウム及びリチウムの含有量>
ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体中のマグネシウム、ストロンチウム及びリチウムの含有量は、以下の手順で測定した。加圧酸分解法によって上記蛍光体を溶解させ、試料溶液を調製した。得られた試料溶液についてICP発光分光分析装置(株式会社リガク製、商品名:CIROS-120)を用いて元素の定量分析を行うことによって測定した。なおマグネシウム(Mg)、ストロンチウム(Sr)及びリチウム(Li)の検出下限はそれぞれ100ppbであった。
【0156】
[ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体の評価]
実施例III-1~III-7、及び比較例III-1~III-5で調製した各ユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体について、波長455nmの励起光を照射した場合の吸収率、及び内部量子効率、色度X、色度Y、並びに波長600nmの励起光を照射した場合の吸収率を、後述する方法で評価した。結果を表3に示す。
【0157】
<吸収率、及び内部量子効率>
波長455nmの励起光を照射した場合の蛍光体の吸収率(励起光吸収率)、及び内部量子効率は、以下の手順で算出した。まず、測定対象である蛍光体を、凹型セルに表面が平滑になるように充填し、積分球の開口部に取り付けた。発光光源であるXeランプから455nmの波長に分光した単色光を、光ファイバーを用いて蛍光体の励起光として上記積分球内に導入した。この励起光である単色光を測定対象である蛍光体に照射し、蛍光スペクトルを測定した。測定には、分光光度計(大塚電子株式会社製、商品名:MCPD-7000)を用いた。
【0158】
得られた蛍光スペクトルのデータから、蛍光体の発光強度を決定した。また得られた蛍光スペクトルのデータから、励起反射光フォトン数(Qref)及び蛍光フォトン数(Qem)を算出した。励起反射光フォトン数は、励起光フォトン数と同じ波長範囲で、蛍光フォトン数は465~800nmの範囲で算出した。また同じ装置を用い、積分球の開口部に反射率が99%の標準反射板(Labsphere社製、スペクトラロン(登録商標))を取り付けて、波長が455nmの励起光のスペクトルを測定した。その際、450~465nmの波長範囲のスペクトルから励起光フォトン数(Qex)を算出した。
【0159】
上述の算出結果から、以下に示す計算式に基づいて、測定対象である蛍光体の455nmの励起光の吸収率、内部量子効率、及び外部量子効率を求めた。
455nmの励起光の吸収率=((Qex-Qref)/Qex)×100
内部量子効率=(Qem/(Qex-Qref))×100
外部量子効率=(Qem/Qex)×100
なお、上記式から外部量子効率と、455nmの励起光の吸収率、及び内部量子効率との関係式は以下のように表すことができる。
外部量子効率=455nm光吸収率×内部量子効率
【0160】
<色度X及びY>
色度X及びYは、蛍光スペクトルの465~780nmの範囲の波長域におけるスペクトルデータから、JIS Z8781-3:2016で規定されるXYZ表色系におけるCIE色度座標のx値(色度X)、及びCIE色度座標のy値(色度Y)をJIS Z8724:2015に準じ算出することで求めた。
【0161】
<600nm光吸収率>
積分球の側面開口部に反射率が99%の標準反射板(Labsphere社製スペクトラロン(登録商標))をセットした。この積分球に、発光光源(Xeランプ)から600nmの波長に分光した単色光を光ファイバーにより導入し、反射光スペクトルを分光光度計(大塚電子株式会社製MCPD-7000)により測定した。その際、590~610nmの波長範囲のスペクトルから入射光フォトン数(Qex(600))を算出した。
【0162】
次に、凹型のセルに表面が平滑になるようにβ型サイアロン蛍光体を充填して積分球の開口部にセットした後、波長600nmの単色光を照射し、入射反射光スペクトルを分光光度計により測定した。得られたスペクトルデータから入射反射光フォトン数(Qref(600))を算出した。入射反射光フォトン数(Qref(600))は入射光フォトン数(Qex(600))と同じ波長範囲で算出した。得られた二種類のフォトン数から下記の式に基づいて600nm光吸収率を算出した。
600nm光吸収率=((Qex(600)-Qref(600))/Qex(600))×100
【0163】
蛍光体の吸収率、内部量子効率、外部量子効率、蛍光のピーク波長及び半値幅、色度X及び色度Yに関する各測定値は、測定装置のメーカー、製造ロットナンバーなどが変わると値が変動する場合がある。したがって、各種測定値としては、本明細書に記載の測定方法によって測定する値を採用する。しかし、測定装置のメーカー、製造ロットナンバー等を変更する場合は、上述したβ型サイアロン蛍光体の標準試料による測定値を基準値として、各測定値の補正を行うこともできる。基準値を得るための標準試料としては、上記比較例III-5として挙げたβ型サイアロン蛍光体の標準試料を用いることができる。
【0164】
【産業上の利用可能性】
【0165】
本開示によれば、内部量子効率に優れるユウロピウム賦活β型サイアロン蛍光体を提供できる。