(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】ステント送達システムおよびステント送達システム用の操作デバイス
(51)【国際特許分類】
A61F 2/966 20130101AFI20241016BHJP
【FI】
A61F2/966
(21)【出願番号】P 2022557977
(86)(22)【出願日】2021-03-05
(86)【国際出願番号】 EP2021055634
(87)【国際公開番号】W WO2021190901
(87)【国際公開日】2021-09-30
【審査請求日】2024-03-05
(32)【優先日】2020-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】508240177
【氏名又は名称】ビー.ブラウン メルズンゲン アーゲー
【氏名又は名称原語表記】B.BRAUN MELSUNGEN AG
【住所又は居所原語表記】Carl-Braun-Str. 1, 34212 Melsungen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ブライアン マーフィー
【審査官】中村 一雄
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0250631(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0036472(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0057739(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/966
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、前記ハウジング内に回転可能に装着されるサムホイールと、前記サムホイールと一緒に回転する巻取りスプールと、を有する、操作デバイスと、
近位端が前記ハウジングに固定されている内側シャフトと、前記内側シャフトに対して同軸に配置されている外側シースと、前記内側シャフトと前記外側シースとの間で半径方向に受け入れられる少なくとも第1のステントと、を有する、カテーテル装置と、
一端で前記外側シースの近位端と係合し、他端で前記巻取りスプールに巻取り可能に保持される可撓性引張部材と、を備え、
少なくとも前記第1のステントの解放のために、近位方向において、前記巻取りスプールに前記可撓性引張部材を巻き取ることによって、前記外側シースが前記内側シャフトに対して変位可能である、ステント送達システムにおいて、
前記巻取りスプールは、前記可撓性引張部材が係合する異なる巻き径を有して、前記外側シースの異なる変位位置において巻取り可能であり、それによって前記サムホイールの回転運動と、前記外側シースの近位変位運動との間の異なる伝達比が得られ、
前記巻取りスプールは、少なくとも、第1の軸方向セクションに配置される第1の巻き径であって、第1の変位位置と第2の変位位置の間の前記外側シースの変位移動中に、前記可撓性引張部材が係合する前記第1の巻き径と、第2の軸方向セクションに配置される第2の巻き径であって、前記第2の変位位置と第3の変位位置の間の前記外側シースの変位移動中に、前記可撓性引張部材が係合する前記第2の巻き径と、を有し、
前記巻取りスプールは、螺旋円周溝を有し、その溝底部が前記第1の巻き径を提供し、前記巻取りスプールは、筒状セクションを有し、その外径が前記第2の巻き径を提供し、前記第1の巻き径は、前記第2の巻き径よりも大きく、
第1の半径方向肩部は、第1の軸方向セクションと第2の軸方向セクションとの間の軸方向に配置され、第1の半径方向肩部は、前記第1の巻き径と前記第2の巻き径との間にステップを形成し、前記可撓性引張部材の巻き取り中に、伝達比
の非連続な移行を生じる、ステント送達システム。
【請求項2】
前記第1の巻き径は、前記内側シャフトの遠位端と前記第1のステントの間の第1の軸方向距離に対応しており、
前記第2の巻き径は、前記第1のステントの第1の長さに対応している、請求項1に記載のステント送達システム。
【請求項3】
前記カテーテル装置は、前記内側シャフトと前記外側シースとの間で半径方向に受け入れられる第2のステントをさらに備え、
前記第1の巻き径は、前記第1のステントと
前記第2のステントの間の第2の軸方向距離
に対応しており、
前記第2の巻き径は、前記第2のステントの第2の長さ
に対応している、請求項
1または2に記載のステント送達システム。
【請求項4】
前記螺旋円周溝は、前記外側シースを前記第1のステントの遠位端まで引き込むために、前記外側シースを前記第1の変位位置から前記第2の変位位置まで引き込むためのサムホイール正確な1回転を要する、請求項1から3のいずれか一項に記載のステント送達システム。
【請求項5】
前記
筒状セクションは、前記第1のステントを解放するために、前記第2の変位位置から前記第3の変位位置まで前記外側シースを後退させるための前記サムホイールの正確な1回転を要する、請求項1から4のいずれか一項に記載のステント送達システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステント送達システム、およびステント送達システム用の操作デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
経皮的に送達される血管内人工器官(intravascular endoprostheses)を様々な身体脈管の疾患の治療に用いることはよく知られている。このような血管内人工器官は、一般に「ステント」と呼ばれる。ステントは、可撓性フレームワークを画定する穴またはスロットを有する生体適合性材料の概して縦長の管状デバイスであり、この可撓性フレームワークは、バルーン・カテーテル等によって、あるいは身体脈管内での材料の形状記憶特性による自己拡張によって、ステントの半径方向拡張を可能にする。この可撓性フレームワークは、ステントを小さな外径に圧縮することを可能にするように構成されており、その結果として、ステントをステント送達システムの内側に装着することができる。
【0003】
ステント送達システムは、ステントを身体脈管内部の所望の位置に搬送し、その後、ステントを定位置で解放するために使用される。解放されると、ステントは、より大きな外径に自己拡張することができる。
【0004】
国際公開2019/053508号は、操作デバイスおよびカテーテル装置を有するステント送達システムを開示している。カテーテル装置は、内側シャフト、内側シャフトと同軸に配置された外側シース、および内側シャフトと外側シースとの間で半径方向に受け入れられるステントを備える。カテーテル装置の内側シャフトは、操作デバイスのハウジングに固定された近位端を有する。ステント送達システムは、一端で外側シースの近位端に係合し、他端で操作デバイスの巻取りスプールに保持される、可撓性引張部材をさらに備える。巻取りスプールは、操作デバイスのハウジング内に回転可能に取り付けられたサムホイール(thumbwheel)に動作可能に接続されている。ステントを解放するために、サムホイールを手動で回転させ、それによって巻取りスプールを回転させる。これにより、巻取りスプールに係合している可撓性引張部材が、巻取りスプールに巻き取られて、その結果、外側シースが内側シャフトに対して近位方向に変位する。この外側シースの近位への引込みにより、ステントが解放され、血管内で拡張することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、ステントの解放中の簡略化された操作を可能にする、ステント送達システムを提供することである。本発明のさらなる目的は、そのようなステント送達システムのための操作デバイスを提供することであり、この操作デバイスは、ステントの解放中の簡略化された操作を可能にする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の態様によれば、ステント送達システムであって、ハウジングと、ハウジング内に回転可能に装着されるサムホイールと、サムホイールと一緒に回転する巻取りスプールと、を有する、操作デバイスと、近位端がハウジングに固定されているシャフトと、内側シャフトに対して同軸に配置されている外側シースと、内側シャフトと外側シースとの間で半径方向に受け入れられる少なくとも第1のステントと、を有する、カテーテル装置と、一端で外側シースの近位端と係合し、他端で巻取りスプールに巻取り可能に保持される可撓性引張部材と、を備えるステント送達システムにおいて、少なくとも第1のステントの解放のために、近位方向において、巻取りスプールに可撓性引張部材を巻き取ることによって、外側シースが、内側シャフトに対して変位可能であり;巻取りスプールが、可撓性引張部材がその上に係合する異なる巻き径を有して、外側シースの異なる変位位置において巻取り可能であり、それによってサムホイールの回転運動と、外側シースの近位変位運動との間の異なる伝達比が得られる、ステント送達システムが提供される。本発明による解決策のせいで、外側シースの異なる変位位置において、サムホイールの回転運動と、それから生じる外側シースの近位変位運動との間で異なる伝達比が得られる。伝達比に応じて、外側シースは、サムホイールの回転運動に従って、近位方向に、それぞれ、比較的に大まかにまたは細かく、急速または低速で変位させられる。言い換えると、外側シースの変位位置に応じて、外側シースの変位移動の比較的、大まかまたは細かい制御が、サムホイールに用いて達成される。これによって、少なくとも第1のステントの解放中の、簡略化された操作を達成することができる。
【0007】
一実施形態では、巻取りスプールの異なる巻き径は、カテーテル装置の異なる幾何学的性質に一致している。カテーテル装置の異なる幾何学的性質は、特に、カテーテル装置の異なる構成要素および/またはセクション間の軸方向距離寸法とすることができる。代替または追加として、異なる幾何学的性質は、カテーテル装置の異なる構成要素および/またはセクションの軸方向長さ寸法とすることもできる。
【0008】
一実施形態では、異なる幾何学的性質は、内側シャフトの遠位端と第1のステントの間の第1の軸方向距離、第1のステントの第1の長さ、第1のステントと第2のステントとの間の第2の軸方向距離、および/または第2のステントの第2の長さである。例えば、巻取りスプールの第1の巻き径は、内側シャフトの遠位端と第1のステントとの間の第1の軸方向距離に一致させることができ、巻取りスプールの第2の巻き径は、第1のステントの第1の長さに一致させることができる。第1のステントが解放されると、外側シースは最初に第1の軸方向距離に沿って変位し、続いて近位方向に内側シャフトと相対的に、第1の長さに沿って変位する。巻き径の対応する適合により、第1の軸方向距離をブリッジするための近位変位は、第1の長さのブリッジ中よりも、比較的急速に行うことができ、逆もまた同様である。さらに、第2のステントは、内側シャフトと外側シースとの間で半径方向に受け入れられて、第1のステントから近位方向に離間させることができる。代替または追加として、巻取りスプールの異なる巻き径を、第2のステントの第2の軸方向距離および/または第2の長さに一致させることができる。好ましくは、巻取りスプールの異なる巻き径は、外側シースを第1の軸方向距離、第1の長さ、第2の軸方向距離、および/または第2の長さに沿って近位方向に引き込むために、いずれの場合も、サムホイールの正確に1回転が必要とされるように、カテーテル装置の上記の幾何学的性質に一致させられる。好ましくは、第1の軸方向距離は、第1の長さおよび/または第2の軸方向距離および/または第2の長さよりも大きい。この場合には、第1の巻き径は、カテーテルの異なる軸方向距離および/または異なる長さをブリッジするのにサムホイールの同じ量の回転が必要となるように、第2の巻き径よりも大きく構成されている。好ましくは、この回転の量は、正確に360度、すなわち1回転である。言い換えると、この場合に、第1の軸方向距離、第1の長さ、第2の軸方向距離および/または第2の長さをブリッジするのに、いずれの場合にも、同じ1回転のサムホイール回転が必要となる。
【0009】
一実施形態では、異なる巻き径は、巻取りスプールの異なる軸方向セクションに形成される。異なる軸方向セクションは、巻取りスプールの軸方向において互いに隣接している。例えば、第1の軸方向セクションは、第1の巻き径を有し、かつ/または生成することが可能であり、第2の軸方向セクションは、第2の巻き径を有し、かつ/または生成することが可能である。サムホイールを作動させることにより、可撓性引張部材は、最初に第1の巻き径に巻き取られ、その後、第2の巻き径に巻き取られるか、またはその逆である。異なる巻き径間の遷移は、半径方向に連続的または段階的にすることができる。
【0010】
一実施形態では、巻取りスプールは、少なくとも、可撓性引張部材が、第1の変位位置と第2の変位位置との間の外側シースの変位移動中に係合する、第1の巻き径と、第2の変位位置と第3の変位位置の間での外側シースの変位移動中に可撓性引張部材がそれに係合する、第2の巻き径とを有する。少なくとも第1のステントを解放するために、外側シースは、内側シャフトに対して近位方向に第1の変位位置から始まり第2の変位位置へ、続いてさらに第3の変位位置へと移動される。その文脈において、可撓性引張部材は、最初に、巻き取りスプールの第1の巻き取り直径と協働する。すなわち、第1の変位位置から始まり第2の変位位置への変位移動中に、可撓性引張部材は第1の巻き径に巻き取られる。その結果、それぞれサムホイールまたはサムホイールと一緒に回転する巻取りスプールの回転運動と、外側シースの変位運動との間の第1の伝達比が得られる。第2の変位位置から始まり第3の変位位置へのさらなる近位変位の際に、可撓性引張部材は、第2の巻き径と協働し、その上に巻き取られる。その結果、対応する第2の伝達比が得られる。これらの異なる伝達比のせいで、外側シースは、サムホイール、したがって巻取りスプールの一定の回転運動中には、第2の変位位置と第3の変位位置の間よりも第1の変位位置と第2の変位位置の間で比較的急速に変位するか、またはその逆である。好ましくは、第1と第2の位置の間の第1の軸方向距離、および第2と第3の位置の間の第2の軸方向距離は、第1および第2の軸方向距離に沿って外側シースを引き込むのに同じ量のサムホイールの回転、好ましくは正確に1回転が必要となるように、第1の巻き径および第2の巻き径に一致させられる。
【0011】
一実施形態では、巻取りスプールは、螺旋円周溝を有し、その溝底が第1の巻き径を提供する。第1の巻き径での巻取り中、可撓性引張部材は、螺旋円周溝内で案内される。好ましくは、螺旋円周溝は、巻取りスプールの円周に沿って360°にわたって延びる。本発明のこの実施形態では、第1の巻き径は、第2の巻き径よりも大きいことが好ましい。螺旋円周溝は、好ましくは、巻取りスプールの第1の軸方向セクションに配置される。好ましくは、螺旋円周溝は、ステント送達システムおよび/またはカテーテル装置の送達状態から始まり第1のステントの遠位端まで外側シースを最初に引き込むのにサムホイールを正確に1回転させる必要があるように構成される。
【0012】
一実施形態では、巻取りスプールは筒状セクションを有し、その外径が第2の巻き径を提供する。筒状セクションは、好ましくは円筒状の設計を有する。本発明のこの実施形態では、第2の巻き径は、好ましくは、第1の巻き径よりも小さい。筒状セクションは、好ましくは、巻取りスプールの第2の軸方向セクションに配置される。好ましくは、筒状セクションは、第1のステントの遠位端から始まり、外側シースをさらに引込み、第1のステントを解放し、さらなるステントが提供される場合には、それぞれのさらなるステントを解放するのに、サムホイールを正確に1回転させる必要があるように構成される。
【0013】
第2の態様によれば、ステント送達システム用の操作デバイスが提供され、この操作デバイスは、ハウジングと、回転可能にハウジング内に装着されたサムホイールと、サムホイールと一緒に回転する巻取りスプールと、を有し、巻取りスプールは異なる巻き径を有する。繰り返しを避けるために、第1の態様およびその実施形態によるステント送達システムの説明を照会し、明示的に参照する。そこで与えられる説明は、第2の態様による操作デバイスに対応して適用される。
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。以下の図面全体を通して、同一の要素には同一の符号が付されている。図面は以下を概略的に示す。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明による操作デバイスの一実施形態と、複数のステントを備えたカテーテル装置とを含む、本発明によるステント送達システムの一実施形態のアイソメトリック図であって、カテーテル装置は部分断面図で示されている。
【
図2】操作デバイスの領域における、
図1に示すステント送達システムの別のアイソメトリック図である。
【
図3】
図2に対応する視野における、
図1および
図2に示すステント送達システムの図であって、操作デバイスの個々の構成要素および/またはセクションが図面において隠されている。
【
図4】サムホイールと、サムホイールに動作可能に接続された巻取りスプールと、の領域における、
図3に示す視点の詳細拡大図である。
【
図5】
図6に示す巻取りスプールのV-V縦断面図である。
【
図7】一端でカテーテル装置に係合し、他端で巻取りスプールに巻取り可能に保持される可撓性引張部材を追加で示す、
図3と類似の別のアイソメトリック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1に示すように、ステント送達システム1は、操作デバイス2およびカテーテル装置3を備える。ステント送達システム1は、血管における狭窄症(stenosis)の治療に使用することを意図している。
【0017】
操作デバイス2は、ハウジング4内に回転可能に取り付けられたサムホイール5を有するハウジング4と、サムホイール5と一緒に回転する巻取りスプール6と、を有する(
図3、
図4)。カテーテル装置3は、内側シャフト7と、内側シャフト7と同軸に配置された外側シース9と、を有する。内側シャフト7の近位端8は、公知の方法でハウジング4に少なくとも間接的に固定される。さらに、カテーテル装置3は、少なくとも第1のステント10を有し、この第1のステントは、図面にさらなる詳細は示されていない、カテーテル装置の一状態において、内側シャフト7と外側シース9との間で半径方向に受け入れられる。さらに、ステント送達システム1は、一端で外側シース9の近位端12に係合し、他端で巻取りスプール6に巻取り可能に保持される、可撓性引張部材11(
図7)を含む。少なくとも第1のステント10を解放するために、外側シース9は、巻取りスプール6に可撓性引張部材11を巻き取ることによって、内側シャフト7に対して近位方向に変位可能である。上述の解放は、図面にはさらなる詳細は示されていない、外側シース9の変位位置から始まって行われ、外側シース9の遠位端13は、内側シャフトの遠位端14と本質的に同一平面である。この状態では、第1のステント10は、内側シャフト7の外部シェル表面と外側シース9の内部シェル表面との間で半径方向に圧縮される。上述の外側シース9の近位方向への引込みに続いて、第1のステント10が半径方向に解放され、それによって半径方向に拡張することができる。
図1を参照すると、第1のステント10の、対応する、解放されて拡張された状態が示されている。
【0018】
特に
図5および
図6を参照して示されるように、巻取りスプール6は、可撓性引張部材11がそれと係合する異なる巻き径W1、W2を有して、外側シース9の異なる変位位置において巻取り可能であり、それによって、サムホイール5の回転運動と、外側シース9の近位変位運動との間に異なる伝達比が生ずる。
【0019】
図示された実施形態では、巻取りスプール6は、2つの異なる巻き径W1、W2、すなわち、第1の巻き径W1および第2の巻き径W2を有する。
【0020】
第1のステント10を解放するために、外側シース9は、第1の変位位置P1から始まり近位方向に第2の変位位置P2まで、内側シャフト7に対して移動され、その後さらに近位方向に少なくとも1つの第3の変位位置P3まで移動される。変位位置P1、P2、P3について、
図1を参照して概略的に説明する。図示された実施形態では、第1の変位位置P1と第2の変位位置P2の間での外側シース9の変位中に、可撓性引張部材11は、第1の巻き径W1と協働する。すなわち、可撓性引張部材11は、最初に第1の巻き径W1に係合し、その上に巻取られる。第2の変位位置P2から始まり第3の変位位置P3への外側シース9のさらなる変位の間、可撓性引張部材11は、第2の巻き径W2と協働する。すなわち、可撓性引張部材11は、第2の巻き径W2と係合して、その上に巻取られる。その結果、前述の異なる伝達比、すなわち、第1の変位位置P1と第2の変位位置P2との間の変位中の第1の伝達比、および第2の変位位置P2と第3の変位位置P3の間のさらなる変位中の第2の伝達比、が得られる。
【0021】
図示された実施形態では、外側シース9、内側シャフト7、および第1のステント10は、以下のように、外側シース9の異なる変位位置において相互に関係して位置決めされる。第1の変位位置P1において、外側シース9の遠位端13は、内側シャフト7の遠位端14と同一平面に配向されている。第2の変位位置P2においては、外側シース9の遠位端13は、内側シャフト7の遠位端14に対して近位方向に引き込まれて、第1のステント10の遠位端15と本質的に同一平面である。第3の変位位置P3においては、第2の変位位置P2から始まる遠位端13は、近位方向にさらに引き込まれ、第1のステント10の近位端16と本質的に同一平面にある。それに対応して、第1のステント10は、第1の変位位置P1および第2の変位位置P2の両方において、内側シャフト7と外側シース9との間で半径方向に受け入れられる。対照的に、第3の変位位置P3では、第1のステント10が解放される。
【0022】
図示された実施形態では、巻取りスプール6の異なる巻き径W1、W2が、カテーテル装置3の異なる幾何学的性質と一致している。
【0023】
カテーテル装置3のこれらの幾何学的性質は、図示された実施形態では、第1の軸方向距離A1および第1の長さL1である。第1の軸方向距離A1は、内側シャフト7の遠位端14と、第1のステント10、より正確にはその遠位端15との間で、軸方向に延びる。この場合、第1の長さL1は、第1のステント10の長さである。ここで、第1の巻き径W1は第1の軸方向距離A1に対応し、第2の巻き径W2は第1の長さL1に対応する。この場合、この対応によって、外側シース9を第1の軸方向距離A1に沿って変位させ、第1の長さL1をブリッジするために、それぞれの場合においてサムホイール5の正確に1回転、したがって巻取りスプール6の正確に1回転、が必要となる。この目的で、第1の巻き径W1は、軸方向距離A1に対応する周長を有し、第2の巻き径W2は、第1のステント10の第1の長さL1に対応する周長を有する。
【0024】
図示された実施形態では、カテーテル装置3は、第1のステント10に加えて、さらなるステント10’、10’’、すなわち第2のステント10’および第3のステント10’’を有する。もちろん、そのような構成は必須ではない。第2のステント10’および第3のステント10’’は、ここでは図示されていないが、第1のステント10に対応する方法で、半径方向において内側シャフト7と外側シース9との間に受け入れられ、外側シース9の変位が近位方向に第3の変位位置P3を超えて通過することによって、解放可能である。
【0025】
図示されていない実施形態では、代替または追加として、巻取りスプールの異なる巻き径が、第1のステント10と第2のステント10’との間の第2の軸方向距離A2および/または第2のステント10’の第2の長さL2に対応している。
【0026】
操作デバイス2およびカテーテル装置3のさらなる具体的な構成を論じる前に、特に
図5および
図6を参照して、巻取りスプール6のさらなる特徴を説明する。
【0027】
これらの図は、異なる巻き径W1、W2が、巻取りスプール6の異なる軸方向セクションX1、X2に設けられていることを示している。第1の巻き径W1は、巻取りスプール6の第1の軸方向セクションX1に形成され、第2の巻き径W2は、巻取りスプール6の第2の軸方向セクションX2に形成されている。軸方向セクションX1、X2は、巻取りスプール6の軸方向において互いに隣接して配置されている。この場合、第1の変位位置P1から始まる、外側シース9の近位変位の間、可撓性引張部材11は、最初に第1の軸方向セクションX1と協働する。続いて、すなわち、外側シース9の第2の変位位置P2に到達した後、可撓性引張部材11は、第2の軸方向セクションX2と協働する。換言すれば、可撓性引張部材11は、最初に、第1の軸方向セクションX1の第1の巻き径W1に巻き取られ、次いで、外側シース9の第2の変位位置P2に到達した後、第2の軸方向セクションX2に入り、そこで第2の巻き径W2に巻き取られる。
【0028】
さらに、巻取りスプール6は、螺旋円周溝17を有し、その溝底18が、第1の巻き径W1を提供する。円周溝17は、第1の軸方向セクションX1の円周に沿って延び、巻取りスプール6の軸方向に配向されたピッチを有し、その結果、円周溝17の前述の螺旋形状が得られる。この構成により、特に、第1の巻き径W1への巻取り中に、可撓性引張部材11を正確に案内することが可能になる。
【0029】
さらに、巻取りスプール6は筒状セクション19を有し、その外径は第2の巻き径W2を提供する。筒状セクション19は、この場合、真っ直ぐな円筒形状を有する。
【0030】
図示された実施形態では、第1の巻き径W1は、第2の巻き径W2よりも大きい。それとは別に、詳細には説明されていないが、サムホイール5の外径は、第1の巻き径W1よりも大きい。
【0031】
この場合、第1の半径方向肩部20は、軸方向において第1の軸方向セクションX1と第2の軸方向セクションX2との間に配置される。第1の半径方向肩部20は、可撓性引張部材11の巻き取り中に、伝達比の連続的な変化ではなく、準急激な移行が生じるように、第1の巻き径W1と第2の巻き径W2との間にステップを形成する。
【0032】
さらに、この場合、巻取りスプール6は第2の半径方向肩部21を有し、これは、第2の軸方向セクションX2の軸方向境界を形成し、したがって筒状セクション19の軸方向境界も形成する。この点で、第2の軸方向セクションX2は、軸方向において2つの肩部20、21の間に延びる。
【0033】
この場合、巻取りスプール6は、さらに、巻取りスプール6をサムホイール5にトルク伝達締結するために設けられた締結セクション22を有し、詳細には図示されていないが、サムホイール5の相補的締結セクションと協働する。締結セクション22は、第1の巻き径W1とは反対に面する、巻取りスプール6の前端領域に配置されている。
【0034】
操作デバイス2およびカテーテル装置3の構成のさらなる詳細は以下で論じられるが、本発明の観点においては必須の特徴とみなすべきではない。
【0035】
この場合、ハウジング4は、2つのハウジング半体4a、4b、すなわち、第1のハウジング半体4a(
図1)および第2のハウジング半体4bを有する。
図1および
図2を参照して示される、ステント送達システム1の使用準備完了状態において、ハウジング半体4a、4bは、周知の方法で接合されている。この場合、ハウジング4は、寸法的に安定した合成材料から製造される。
図1および
図2を参照してさらに明らかなように、このハウジング4は、ハンドルを提供し、このハンドルは、サムホイール5を回転作動させるためにそれぞれの手の親指がハウジング4の上側の領域に置かれるように、手で握ることができる。
【0036】
サムホイール5は、回転軸D(
図4)のまわりに回転可能にハウジング4内に装着されて、サムホイール5の半径方向に、詳細には説明しないハウジング4の凹部から突出している。その結果、サムホイール5は、上述の仕方により手動で操作可能である。回転軸Dは、図示された実施形態では、外側シース9の近位変位方向と直角であり、図示された実施形態では、従来式の操作中は、ほぼ水平向きである。
【0037】
巻取りスプール6は、サムホイール5と同軸に配向され、締結セクション22(
図5)によってトルク伝達方式でサムホイール5に接続される。その結果、巻取りスプール6は、回転軸Dのまわりにサムホイール5と一緒に回転可能である。図示されていない実施形態では、巻取りスプール6は、サムホイール5と一体的に設けることができる。図示された実施形態では、巻取りスプール6は、完全にハウジング4の内側に配置されている。
【0038】
カテーテル装置3は、操作デバイス2において、ハウジング4の遠位端と近位端との間で近位端内の領域に延びる。内側シャフト7は管腔を含み、この管腔は、より詳細は明らかではないが、近位端8と遠位端14との間に延びる。近位端8の領域では、管腔は、周知の方法でハウジング4の近位端に固定されたルアー・ポート(Luer port)23に通じている。その遠位端14に、内側シャフト7はカテーテル・チップ24を含む。内側シャフト7は、可撓性の設計がされている。外側シース9は、編組材料から製造され、その近位端12(
図7)の領域で、引張力を転移させるために、可撓性引張部材11に接続されている。図示された実施形態では、第1のステント10は、当業者に公知の方法で製造および設計された自己拡張型ステントである。同じことが、第2のステント10’および第3のステント10’’にも当てはまる。
【0039】
さらに、この場合には、操作デバイス2は、ハウジング4の遠位端に配置され、ハウジング半体4a、4bの間に保持される、ガイド・チップ25を含む。カテーテル装置3は、ハウジング4の遠位端の領域において、ガイド・チップ25を通って軸方向に延びる。
【0040】
さらに、操作デバイス2は、方向転換/引張デバイス26を含み、方向転換/引張デバイス26は、カテーテル装置3の軸方向において、サムホイール5と、したがって巻取りスプール6と、内側シャフト7の近位端8との間に配置されている。方向転換/張力デバイス26は、可撓性引張部材11を方向転換させること、および張力付与することを目的としている(
図7)。さらに、サムホイール5、ひいては巻取りスプール6の回転可動性をロックおよびロック解除するための、ロック/アンロック機構27が設けられている。方向転換/引張デバイス26もロック/アンロック機構27も必須ではないので、簡略化のために、それらのさらに詳細な説明は省略する。
本明細書に開示の技術の特徴を列挙する。
(項目1)
ハウジング(4)と、前記ハウジング(4)内に回転可能に装着されるサムホイール(5)と、前記サムホイール(5)と一緒に回転する巻取りスプール(6)と、を有する、操作デバイス(2)と、
近位端(8)が前記ハウジング(4)に固定されている内側シャフト(7)と、前記内側シャフト(7)に対して同軸に配置されている外側シース(9)と、前記内側シャフト(7)と前記外側シース(9)との間で半径方向に受け入れられる少なくとも第1のステント(10)と、を有する、カテーテル装置(3)と、
一端で前記外側シース(9)の近位端(12)と係合し、他端で前記巻取りスプール(6)に巻取り可能に保持される可撓性引張部材(11)と、を備え、
少なくとも前記第1のステント(10)の解放のために、近位方向において、前記巻取りスプール(6)に前記可撓性引張部材(11)を巻き取ることによって、前記外側シース(9)が前記内側シャフト(7)に対して変位可能である、ステント送達システム(1)において、
前記巻取りスプール(6)は、前記可撓性引張部材(11)が係合する異なる巻き径(W1、W2)を有して、前記外側シース(9)の異なる変位位置(P1、P2、P3)において巻取り可能であり、それによって前記サムホイール(5)の回転運動と、前記外側シース(9)の近位変位運動との間の異なる伝達比が得られる、ステント送達システム(1)。
(項目2)
前記巻取りスプール(6)の前記異なる巻き径(W1、W2)は、前記カテーテル装置(3)の異なる幾何学的性質(A1、A2、L1、L2)に対応している、項目1に記載のステント送達システム(1)。
(項目3)
前記異なる幾何学的性質は、前記内側シャフト(7)の遠位端(14)と前記第1のステント(10)の間の第1の軸方向距離(A1)、前記第1のステント(10)の第1の長さ(L1)、前記第1のステント(10)と第2のステント(10’)の間の第2の軸方向距離、および/または前記第2のステント(10’)の第2の長さ(L2)である、項目2に記載のステント送達システム(1)。
(項目4)
前記異なる巻き径(W1、W2)は、前記巻取りスプール(6)の異なる軸方向セクション(X1、X2)に形成されている、項目1から3のいずれか一項に記載のステント送達システム(1)。
(項目5)
前記巻取りスプール(6)は、少なくとも、第1の変位位置(P1)と第2の変位位置(P2)の間の前記外側シース(9)の変位移動中に、前記可撓性引張部材(11)が係合する第1の巻き径(W1)と、前記第2の変位位置(P2)と第3の変位位置(P3)の間の前記外側シース(9)の変位移動中に、前記可撓性引張部材(11)が係合する第2の巻き径(W2)と、を有する、項目1から4のいずれか一項に記載のステント送達システム(1)。
(項目6)
前記巻取りスプール(6)は、螺旋円周溝(17)を有し、その溝底部(18)が前記第1の巻き径(W1)を提供する、項目5に記載のステント送達システム(1)。
(項目7)
前記巻取りスプール(6)は、筒状セクション(19)を有し、その外径が前記第2の巻き径(W2)を提供する、項目5または6に記載のステント送達システム(1)。
(項目8)
項目1から7のいずれか一項に記載のステント送達システム(1)用の操作デバイス(2)であって、ハウジング(4)と、前記ハウジング(4)内に回転可能に装着されたサムホイール(5)と、および前記サムホイール(5)と一緒に回転する巻取りスプール(6)と、を有し、前記巻取りスプール(6)は、異なる巻き径(W1、W2)を有する、操作デバイス(2)。