(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】ソフトカーボンの製作方法及びリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
C01B 32/05 20170101AFI20241016BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20241016BHJP
H01M 10/0566 20100101ALI20241016BHJP
【FI】
C01B32/05
H01M4/587
H01M10/0566
(21)【出願番号】P 2023077006
(22)【出願日】2023-05-09
【審査請求日】2023-05-09
(32)【優先日】2023-03-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】500447978
【氏名又は名称】台灣中油股▲フン▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】陳彦旭
【審査官】玉井 一輝
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第114597361(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第111825088(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第108448114(CN,A)
【文献】特開2014-103095(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0238039(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第111293309(CN,A)
【文献】特開2022-081372(JP,A)
【文献】特開2011-258421(JP,A)
【文献】特開2018-006271(JP,A)
【文献】特開2015-069818(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00-32/991
H01M 4/00- 4/62
H01M 10/00-10/04
10/06-10/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度が480℃~550℃である条件で重質油を加熱して生コークスになる工程(A)と、
3℃/min~5℃/minの第一昇温速度で850℃~900℃に昇温して4時間以上を維持することにより、前記生コークスを加熱して炭素含有材料を得る工程(B)と、
前記炭素含有材料を粉砕して分級し、粒度分布D
50が8μm~12μmであり、かつ粒子径が5μm以下である粉末の累積量が粉末全体の1.0重量%以下である炭素含有粉末を得る工程(C)と、
3℃/min~10℃/minの第二昇温速度で1030℃~1220℃に昇温して4時間以上を維持することにより、前記炭素含有粉末を加熱して炭素パウダーを得る工程(D)と、
前記炭素パウダーにアスファルトを添加した後、0.90℃/min~1.25℃/minの第三昇温速度で1030℃~1220℃に昇温して5時間以上を維持することにより、ソフトカーボンを得
、前記アスファルトの添加量は、前記炭素パウダーの4~8重量%である工程(E)と、
を含む、ソフトカーボンの製作方法。
【請求項2】
前記工程(E)において、前記アスファルトの添加量は、前記炭素パウダーの5~8重量%である、請求項1に記載のソフトカーボンの製作方法。
【請求項3】
前記工程(C)の前に前記炭素含有材料のBET比表面積を20%以上低減させる平滑化処理、或いは、前記工程(C)の後に前記炭素含有粉末のBET比表面積を20%以上低減させる平滑化処理を実行する工程(F)をさらに含む、請求項1に記載のソフトカーボンの製作方法。
【請求項4】
前記工程(C)の前に前記炭素含有材料のBET比表面積を20%以上低減させる平滑化処理、或いは、前記工程(C)の後に前記炭素含有粉末のBET比表面積を20%以上低減させる平滑化処理を実行する工程(F)をさらに含む、請求項2に記載のソフトカーボンの製作方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソフトカーボンの製作方法及びソフトカーボンを負極として含むリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン二次電池は、動作電圧が高く、充放電速度が速く、寿命が長いなどの利点を持ってから、さまざまな電子製品に広く使用されている。一般的に、リチウムイオン二次電池の正極材料はコバルト酸リチウム、リン酸鉄リチウム、三元系リチウム、マンガン酸リチウムなどから、その負極材料はソフトカーボンなどから選択することができる。
【0003】
次に、ソフトカーボンの製作方法について説明すると、主に前工程と後工程が含まれる。前工程とは、重質油を前駆体構造(例えば生コックス)に変換する工程を指し、後工程とは、前駆体構造を仮焼・炭化し、その後、粉砕・分級し、高温で炭化し、改質炭化を実行することにより、最終的にソフトカーボンの完成品を得る過程を指す。
【0004】
ソフトカーボンの製作方法の具体的な内容については、出願人より先の台湾特許出願、即ち出願番号TW111142065を参照されたい。その先の出願の全文は、本案の明細書に組み込まれている。この先の出願では、特定の製作工程により、バッテリーの急速充放電能力とサイクル寿命を向上することができるソフトカーボン負極材料を提供する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者らは、リチウムイオン二次電池の容量維持率および急速充電サイクル寿命などの特性をさらに向上する点で、従来のソフトカーボン製作方法はまだ向上の余地があることを発見した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、
温度が480℃~550℃である条件で重質油を加熱して生コークスになる工程(A)と、
3℃/min~5℃/minの第一昇温速度で850℃~900℃に昇温して4時間以上を維持することにより、前記生コークスを加熱して炭素含有材料を得る工程(B)と、
前記炭素含有材料を粉砕して分級し、粒度分布D50が8μm~12μmであり、かつ粒子径が5μm以下である粉末の累積量が粉末全体の1.0重量%以下である炭素含有粉末を得る工程(C)と、
3℃/min~10℃/minの第二昇温速度で1030℃~1220℃に昇温して4時間以上を維持することにより、前記炭素含有粉末を加熱して炭素パウダーを得る工程(D)と、
前記炭素パウダーにアスファルトを添加した後、0.90℃/min~1.25℃/minの第三昇温速度で1030℃~1220℃に昇温して5時間以上を維持することにより、ソフトカーボンを得る工程(E)と、
を含む、ソフトカーボンの製作方法を提供する。前記ソフトカーボンは、第一型リチウムイオン二次電池の製作に用いられる。
【0007】
本発明の一実施例において、前記工程(E)における前記アスファルトの添加量は、前記炭素パウダーの5~8重量%である。この実施例のソフトカーボンは、第二型リチウムイオン二次電池の製作に用いられる。
【0008】
本発明の一実施例において、前記工程(C)の前に前記炭素含有材料のBET比表面積を20%以上低減させる平滑化処理、或いは、前記工程(C)の後に前記炭素含有粉末のBET比表面積を20%以上低減させる平滑化処理を実行する工程(F)をさらに含む。この実施例のソフトカーボンは、第三型リチウムイオン二次電池の製作に用いられる。
【0009】
又、上記課題を解決するために、本発明は、ケースと、前記ケース内に設置され、前記ソフトカーボンの製作方法により製作されたソフトカーボンを有する負極と、前記ケース内に設置され、前記負極から離れた正極と、前記負極と前記正極との間に設置されるセパレータフィルムと、前記ケース内に充填される電解液と、を含む第一型リチウムイオン二次電池を提供する。
【0010】
本発明の一実施例において、前記第一型リチウムイオン二次電池の第一サイクルの不可逆容量は、40~45mAh/gである。
【0011】
又、上記課題を解決するために、本発明は、ケースと、前記ケース内に設置し、前記ソフトカーボンの製作方法により製作されたソフトカーボンを有する負極と、前記ケース内に設置し、前記負極から離れた正極と、前記負極と前記正極との間に設置するセパレータフィルムと、前記ケース内に充填する電解液と、を含む第二型リチウムイオン二次電池を提供する。
【0012】
本発明の一実施例において、5Cで12分間急速充電する場合、前記第二型リチウムイオン二次電池の容量維持率は、前記第一型リチウムイオン二次電池より40%以上である。
【0013】
本発明の一実施例において、8Cで7.5分間急速充電する場合、前記第二型リチウムイオン二次電池の容量維持率は、前記第一型リチウムイオン二次電池より40%以上である。
【0014】
又、上記の課題を解決するために、本発明は、ケースと、前記ケース内に設置され、前記ソフトカーボンの製作方法により製作されたソフトカーボンを有する負極と、前記ケース内に設置し、前記負極から離れた正極と、前記負極と前記正極との間に設置するセパレータフィルムと、前記ケース内に充填する電解液と、を含む第三型リチウムイオン二次電池を提供する。
【0015】
本発明の一実施例において、5Cで12分間急速充電する場合、前記第三型リチウムイオン二次電池の容量維持率は、前記第一型リチウムイオン二次電池又は前記第二型リチウムイオン二次電池より10%以上である。
【0016】
本発明の一実施例において、8Cで7.5分間急速充電する場合、前記第三型リチウムイオン二次電池の容量維持率は、前記第一型リチウムイオン二次電池又は前記第二型リチウムイオン二次電池より20%以上である。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、上述した従来の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、リチウムイオン二次電池の負極に使用されるソフトカーボン材料を提供することである。上記ソフトカーボン材料をリチウムイオン二次電池の負極として使用することにより、リチウムイオン二次電池の容量維持率や急速充電サイクル寿命などの特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明に係るソフトカーボンの製作方法を示すフローチャートである。
【
図2a】容量維持率と充放電サイクルとの関係を示すグラフである。(a)5Cで12分間の急速充電条件での実施例1および比較例1の高出力型半電池のサイクル寿命検出を示す。
【
図2b】容量維持率と充放電サイクルとの関係を示すグラフである。(b)8Cで7.5分間の急速充電条件での前記二つの高出力型半電池のサイクル寿命検出を示す。
【
図3a】容量維持率と充放電サイクルとの関係を示すグラフである。(a)5Cで12分間の急速充電条件での実施例1および比較例1の高エネルギー型半電池のサイクル寿命検出を示す。
【
図3b】容量維持率と充放電サイクルとの関係を示すグラフである。(b)8Cで7.5分間の急速充電条件での前記二つの高エネルギー型半電池のサイクル寿命検出を示す。
【
図4a】容量維持率と充放電サイクルとの関係を示すグラフである。(a)5Cで12分間の急速充電条件での実施例2および比較例1の高出力型半電池のサイクル寿命検出を示す。
【
図4b】容量維持率と充放電サイクルとの関係を示すグラフである。(b)8Cで7.5分間の急速充電条件での前記二つの高出力型半電池のサイクル寿命検出を示す。
【
図5a】容量維持率と充放電サイクルとの関係を示すグラフである。(a)5Cで12分間の急速充電条件での実施例3および比較例2の高出力型半電池のサイクル寿命検出を示す。
【
図5b】容量維持率と充放電サイクルとの関係を示すグラフである。(b)8Cで7.5分間の急速充電条件での前記二つの高出力型半電池のサイクル寿命検出を示す。
【
図6a】容量維持率と充放電サイクルとの関係を示すグラフである。(a)5Cで12分間の急速充電条件での実施例4および比較例1の高エネルギー型半電池のサイクル寿命検出を示す。
【
図6b】容量維持率と充放電サイクルとの関係を示すグラフである。(b)8Cで7.5分間の急速充電条件での前記二つの高エネルギー型半電池のサイクル寿命検出を示す。
【
図7a】容量維持率と充放電サイクルとの関係を示すグラフである。(a)5Cで12分間の急速充電条件での実施例5および実施例4の高エネルギー型半電池のサイクル寿命検出を示す。
【
図7b】容量維持率と充放電サイクルとの関係を示すグラフである。(b)8Cで7.5分間の急速充電条件での前記二つの高エネルギー型半電池のサイクル寿命検出を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下は、具体的な実施例を通じて本発明の実施方式を説明するものであり、当業者は、本明細書に開示された内容から本発明の他の利点および効果を理解することができる。本発明は、異なる実施例を通じて実施または応用することもでき、本発明の趣旨から逸脱しない限り、本明細書の詳細は、異なる観点および用途に基づいて様々な修正および変更することができる。
【0020】
本文中に格別の記載がない限り、明細書および特許請求の範囲で使用される「A~B」という用語は、「A以上B以下」の意味を含む。例えば、「10~40重量%」という用語は、「10重量%以上40重量%以下」の意味を含む。
【0021】
まず、
図1を参照されたい。
図1は本発明に係るソフトカーボンの製作方法を示すフローチャートである。
図1に示すように、本発明に係るソフトカーボンの製作方法は、工程(A)~工程(E)を含み、図示しない工程(F)を場合によりさらに含んでもよい。以下は、各工程に対し詳細に説明する。
【0022】
「工程(A)」
工程(A)は、温度が480℃~550℃である条件で重質油を加熱して生コークスになるための工程である。具体的には、重質油を反応槽に輸送し、480℃~550℃のコーキング温度、圧力0.2MPa~4MPaで重質油を1~16時間で加熱することにより、重質油がクラッキング反応および重縮合反応を起こさせ、生コークスを生成する。
【0023】
「工程(B)」
工程(B)は、3℃/min~5℃/minの第一昇温速度で850℃~900℃に昇温して4時間以上を維持することにより、工程(A)から得られた生コークスを加熱して炭素含有材料を得るための工程である。工程(B)により、生コークスは、重縮合反応、脱水素反応およびクラッキング反応の少なくとも1つを起こさせることができ、生コークスは、sp2混合軌道を有する炭素含有材料を形成させる傾向が始まる。
【0024】
「工程(C)」
工程(C)は、工程(B)から得られた炭素含有材料を粉砕して分級し、炭素含有粉末を得るための工程である。ここで、前記炭素含有粉末の粒度分布D50が8μm~12μmであり、かつ粒子径が5μm以下である粉末の累積量は前記炭素含有粉末全体の1.0重量%以下である。また、工程(C)の粉砕は、高圧空気粉砕機、衝突板粉砕機、衝撃粉砕機等を用いることができ、工程(C)の分級は、サイクロン分級機、振動分級機等を用いることができ、特に限定されない。
【0025】
従来技術と比較して、本発明の第1の技術的な特徴は、工程(C)により、炭素含有粉末中の微粉末(メジアン粒径が5μm以下の粉末)の割合を低減させるため、本発明のソフトカーボン材料は、その後のリチウムイオン二次電池の負極の製作において、負極の表面に形成される固体電解質膜(SEI)の重量を低減できることである。それにより、リチウムイオン二次電池の容量維持率と急速充電サイクル寿命を向上することができる。
【0026】
「工程(D)」
工程(D)は、3℃/min~10℃/minの第二昇温速度で1030℃~1220℃に昇温して4時間以上を維持することにより、工程(C)から得られた炭素含有粉末を加熱して炭素パウダーを得るための工程である。工程(D)により、炭素含有粉末に残った生コークスは、重縮合反応、クラッキング反応および脱水素反応の少なくとも1つを起こさせることができ、残った生コークスの炭素をsp2混合軌道に再配置させ、炭素パウダーになる。
【0027】
「工程(E)」
工程(E)は、工程(D)から得られた炭素パウダーにアスファルトを添加した後、0.90℃/min~1.25℃/minの第三昇温速度で1030℃~1220℃に昇温して5時間以上を維持することにより、ソフトカーボンを得るための工程である。工程(E)により、アスファルトの軟化点を利用して、アスファルトが添加されたカーボン粉末は、前記工程(E)の昇温過程でアスファルトの軟化点の温度に到達することにより、アスファルトの粘度を低下させる。粘度が低下されたアスファルトは、炭素パウダーの表面の微細孔を修飾することができると共に、炭素パウダーの比表面積を低減させることにより、本発明のソフトカーボンが得られる。
【0028】
従来技術と比較して、本発明の第2の技術的な特徴は、工程(E)におけるアスファルトの添加量が炭素パウダーの5~8重量%とすることである。一般に、前述のようにアスファルトを添加することに伴って、炭素パウダーの比表面積が低減し、リチウムイオン二次電池の単位時間あたりの充電容量が低下する。しかしながら、本発明者らは、工程(E)におけるアスファルトの量が炭素パウダーの5~8重量%(特に5重量%)とする場合、4重量%のアスファルトの添加量と比較して、充電容量が減少せずに増加すると共に、リチウムイオン二次電池の容量維持率と急速充電サイクル寿命を向上できることを発見した。
【0029】
また、工程(E)において、アスファルトを炭素パウダーの含有量の5~8重量%で添加し、毎分1.22℃の昇温速度で1100℃に昇温して5時間以上を維持することが好ましい。
【0030】
「工程(F)」
従来技術と比較して、本発明の第3の技術的な特徴は、さらに工程(F)を含むことである。前記工程(F)は、前記工程(C)の前に前記炭素含有材料のBET比表面積を20%以上低下させる平滑化処理、或いは、前記工程(C)の後に前記炭素含有粉末のBET比表面積を20%以上低下させる平滑化処理を実行する。
【0031】
具体的に、工程(F)は、ジェットミル(SEISHIN製、STJ200)を使用することで、炭素含有材料または炭素含有粉末を粉砕して、炭素含有材料または炭素含有粉末の表面を平滑化すると共に、それらのBET比表面積を20%以上低減する。また、工程(F)は、工程(C)を5~10回繰り返すことにより、炭素含有材料または炭素含有粉体を粉砕機および/または分級機の壁面に繰り返して衝突させ、或いは、炭素含有材料同士または炭素含有粉体同士を衝突させることにより、それらのBET比表面積を20%以上低減し、平滑化処理の効果を実現してもよい。
【0032】
工程(F)により、リチウムイオン二次電池の容量維持率および急速充電サイクル寿命をさらに向上することができる。
【実施例】
【0033】
以下は、実施例及び比較例を通じて本発明をさらに説明するが、本発明はこれらの実施例及び比較例に限定するためではない。
【0034】
<比較例1及び実施例1~2>
上記工程(A)~工程(E)に従い、下記表1に示す条件に基づき、比較例1及び実施例1~2のソフトカーボンを製作する。また、比較例1および実施例1~2の工程(C)において、高圧空気粉砕機及びサイクロン分級機を使用する。
【0035】
【0036】
<比較例2及び実施例3>
比較例2は、衝突板研磨機を使用すること以外、比較例1と同じである。実施例3は、衝突板研磨機を用いること以外、実施例2と同じである。このようにして、比較例2及び実施例3のソフトカーボンを製作する。
【0037】
<実施例4~5>
実施例4は、工程(C)の後に工程(F)として工程(C)をまた5回繰り返して実施すること以外、比較例1と同じである。実施例5は粒子径が5μm以下の粉末の累積量を0.75重量%に低減すること以外、実施例4と同じである。このようにして、実施例4~5のソフトカーボンを製作する。
【0038】
<ソフトカーボン負極の製作>
従来技術に従いソフトカーボン負極を製作する。具体的には、台湾特許出願番号TW111142065に開示される方法を参照してソフトカーボン負極の製作を行うことができる。まず、上記ソフトカーボンのそれぞれを解砕機を用いて解砕した後、篩(目開き:38μm)でふるうことにより、ソフトカーボン負極材料を得る。次に、ソフトカーボン負極材料9.1g、PVDF0.5g、導電性カーボンブラック0.4g、N-メチルピロリドン(NMP)12g~15gを均一に混合して混合溶液を形成し、この混合溶液を厚さ14μmの銅箔に塗布する。その後、85℃で0.5時間乾燥させてNMPと水分を除去することにより、比較例1~2及び実施例1~5のソフトカーボン負極を形成する。
【0039】
前記ソフトカーボン負極は、銅箔と、銅箔に形成された導電膜とを含む。また、導電膜の厚さが20~30μmである場合、高出力型半電池として使用可能な高出力型負極であり、導電膜の厚さが50μmである場合、高エネルギー型半電池として使用可能な高エネルギー型負極である。
【0040】
<半電池の製作>
従来技術に従い半電池を製作する。具体的には、台湾特許出願番号TW111142065に開示される方法を参照して半電池の製作を行うことができる。まず、比較例1~2および実施例1~5におけるソフトカーボン負極(以下、比較例1~2及び実施例1~5の負極と簡称する)、正極としてのリチウム金属シート、電解液及びセパレータフィルム[メーカー:セルガード、材質:ポリプロピレン(PP)とポリエチレン(PE)]を組み合わせて半電池とする(以下、比較例1~2及び実施例1~5の半電池と簡称する)。前記電解液は、99wt%の1M LiPF6溶液と1wt%のビニレンカーボネート(vinylene carbonate)とを含む。前記LiPF6溶液は、LiPF6、エチレンカーボネート(EC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、及びジメチルカーボネート(DMC)を含み、且つEC:EMC:DMCの体積比は、1:1:1である。
【0041】
比較例1及び実施例1においては、高出力型半電池と高エネルギー型半電池を、比較例2においては、高出力型半電池を、実施例2~3においては、高出力型半電池を、実施例4~5においては、高エネルギー型半電池を、それぞれ製作する。
【0042】
<半電池の性能試験>
充放電機(メーカー:アービン、型式:BT2043)を用いて、比較例1~2及び実施例1、4~5における半電池の第一サイクルの充電容量及び第一サイクルの放電容量を測定し、測定条件は、温度25℃、充放電レート(C-rate)0.2C、充電終止電圧0V、放電終止電圧1.8Vである。半電池の第一サイクルの不可逆容量は、第一サイクルの不可逆容量=(第一サイクルの充電容量-第一サイクルの放電容量)の式によって算出される。また、上記測定結果を以下の表2にまとめる。
【0043】
<BET比表面積>
BET比表面積測定器(型式:ASAP2020plus、ブランド:Micromeritics)を用いて、比較例1~2及び実施例1、4~5におけるソフトカーボンのBET比表面積を測定し、測定結果を以下の表2にまとめる。
【0044】
【0045】
<熱重量分析(TGA)試験>
比較例1の高エネルギー型半電池及び実施例1の高エネルギー型半電池に対してTGA試験を行う。具体的には、比較例1の半電池と実施例1の半電池それぞれのサイクル寿命を経た後、比較例1における半電池の電極シートの負極材料と実施例1における半電池の電極シートの負極材料をそれぞれ7.76mg、10.58mg削り取ってTGA試験を行い、上記負極材料を酸素雰囲気中1100℃で1時間加熱して炭素を焼却させる。以下の表3から、TGA試験後の比較例1の残り重量(すなわち、SEIの重量)は、0.29mgであったのに対して、試験後の実施例1の残り重量(すなわち、SEIの重量)は、0.20mgであったことが分かる。このことから、工程(C)における粒子径が5μm以下である粉末の累積量を炭素含有粉末全体の1.0重量%以下とすることで、高抵抗のSEIの重量を低減させると共に、急速充電サイクルの寿命を向上させることがわかる。
【0046】
【0047】
<急速充電性能試験>
充放電機(メーカー:Maccor、型式:Series 4000)を用いて、比較例1~2、実施例1、4~5における半電池の充電率/放電率が5C/5C(充放電時間は12分)及び8C/8C(充放電時間は7.5分)である場合、異なる充放電サイクルに対する容量維持率をそれぞれ測定する。また、充電率/放電率が5C/5C、且つ充放電時間が12分である場合は、「5Cの12分急速充電」と略称し、充電率/放電率が8C/8C、且つ充放電時間が7.5分である場合は、「8Cの7.5分急速充電」と略称する。上記比較例1~2および実施例1、4~5における半電池の急速充電性能の試験結果を
図2~
図7に示す。
【0048】
<実験結果の比較>
「実施例1と比較例1」
まず、
図2を参照されたい。
図2(a)に示すように、5Cの12分急速充電の条件で、実施例1の高出力型半電池(負極の導電膜の厚さは20~30μm)の充放電サイクル数が100回である場合、容量維持率は依然として約90%であったことに対して、同じ条件で比較例1の高出力型半電池の容量維持率は約40%に過ぎない。このことから、比較例1の高出力型半電池と比較して、実施例1の高出力型半電池の容量維持率は約50%向上していることが分かる。
【0049】
次に、
図2(a)に示すように、容量維持率が80%以上に維持している状態を急速充電サイクル寿命の基準とする場合、比較例1の充放電サイクル数が約60サイクルである時、容量維持率は80%以下に低下することに対して、実施例1の充放電サイクル数が100サイクルである時、容量維持率は80%以上に維持している。つまり、比較例1と比較して、実施例1の急速充電サイクル寿命は60%以上向上している(100/60=約67%の向上)。
【0050】
次に、
図2(b)に示すように、8Cの7.5分間の急速充電条件で、充放電サイクル数が100サイクルである時、実施例1の高出力型半電池の容量維持率は依然として約90%であることに対して、同じ条件で比較例1の高出力型半電池の容量維持率は約40%に過ぎない。このことから、比較例1の高出力型半電池と比較して、実施例1の高出力型半電池の容量維持率は約50%向上していることが分かる。
【0051】
上記の内容から見ると、5Cの12分間の急速充電または8Cの7.5分間の急速充電のいずれの条件においても、本発明の第1の技術的な特徴である「工程(C)により、炭素含有粉末においてD50が5μm以下である粉末の累積量は炭素含有粉末全体の1.0重量%以下に低減させる」ことは、リチウムイオン二次電池の容量維持率と急速充電サイクル寿命を向上させることができる。
【0052】
さらに、
図3を参照されたい。本発明のソフトカーボンが高エネルギー型半電池(負極の導電膜の厚さが50μm)に適用されても、
図2と同じの比較が行う場合、
図3(a)と
図3(b)から下記のことが分かる。
【0053】
(1)5Cの12分の急速充電の条件で、充放電サイクル数が100回である場合、比較例1と比較して、実施例1は、容量維持率が20%以上向上し、急速充電サイクル寿命が約20%向上する。
【0054】
(2)8Cの7.5分の急速充電の条件で、充放電サイクル数が100回である場合、比較例1と比較して、実施例1は、容量維持率が30%以上向上し、急速充電サイクル寿命が約100%向上する。
【0055】
なお、実施例1の高エネルギー型半電池の第一サイクルの不可逆容量は43mAh/gであり、これは依然として許容範囲内(40~45mAh/g)である。また、
図2~
図3の結果から、本発明のソフトカーボンは、様々な種類の半電池に適用する場合、容量維持率および急速充電サイクル寿命を向上する効果があることが分かる。即ち、実施例1は、他の特性を維持したまま(たとえば、第一サイクルの不可逆容量が40~45mAh/gの範囲内にある場合)、容量維持率と急速充電サイクル寿命を向上する効果が得られる。
【0056】
「実施例2及び比較例1」
まず、実施例2は比較例1との違いが、工程(E)におけるアスファルトの添加量が炭素パウダーの4重量%から炭素パウダーの5重量%に増加することである(本発明の第2の技術的な特徴)。次に、
図4を参照されたい。
図2と同じの比較が行う場合、
図4(a)と
図4(b)から下記のことが分かる。
【0057】
(1)5Cの12分の急速充電の条件で、充放電サイクル数が100回である場合、比較例1と比較して、実施例2は、容量維持率が40%以上向上し、急速充電サイクル寿命が約80%向上する。
【0058】
(2)8Cの7.5分の急速充電の条件で、充放電サイクル数が100回である場合、比較例1と比較して、実施例2は、容量維持率が40%以上向上し、急速充電サイクル寿命が約80%向上する。
【0059】
また、比較例1の単位時間当たりの充電容量は59%(5C急速充電)及び50%(8C急速充電)であり、実施例2の単位時間当たりの充電容量は60%(5C急速充電)及び50%(8C急速充電)である。このことから、本発明の第2の技術的な特徴により、充電容量を低下させることなく、リチウムイオン二次電池の容量維持率および急速充電サイクル寿命をさらに向上できることがわかる。
【0060】
「実施例3及び比較例2」
実施例3および比較例2は、本発明の方法(例えば、第2の技術的な特徴)が、特性が劣化したソフトカーボン材料にも適用できることを示すものである。まず、表2に示すように、比較例2の第一のサイクルの不可逆容量は51mAh/gであり、許容範囲(40~45mAh/g)より若干高い。次に、
図5を参照されたい。
図2と同じの比較が行う場合、
図5(a)と
図5(b)から下記のことが分かる。
【0061】
(1)5Cの12分の急速充電の条件で、充放電サイクル数が100回である場合、比較例2と比較して、実施例3は、容量維持率が10%以上向上する。
【0062】
(2)8Cの7.5分の急速充電の条件で、充放電サイクル数が100回である場合、比較例2と比較して、実施例3は、容量維持率が20%以上向上する。
【0063】
また、比較例2の単位時間当たりの充電容量は62%(5C急速充電)及び58%(8C急速充電)であり、実施例3の単位時間当たりの充電容量は65%(5C急速充電)及び62%(8C急速充電)である。このことから、ソフトカーボン材料の特性が劣化しても、本発明により、リチウムイオン二次電池の容量維持率を向上できることがわかる。
【0064】
「実施例4及び比較例1」
まず、実施例4は比較例1との違いが、平滑化処理である工程(F)をさらに実行する(本発明の第3の技術的な特徴)ことである。また、表2に示すように、比較例1のBET比表面積は2.3m
2/gであることに対して、実施例4のBET比表面積は1.5m
2/gであり、即ち、平滑化処理によって比較例1のBET比表面積を約30%低減させた。次に、
図6を参照されたい。
図2と同じの比較が行う場合、
図6(a)と
図6(b)から下記のことが分かる。
【0065】
(1)5Cの12分の急速充電の条件で、充放電サイクル数が100回である場合、比較例1と比較して、実施例4は、容量維持率が10%以上向上し、急速充電サイクル寿命が約10%向上する。
【0066】
(2)8Cの7.5分の急速充電の条件で、充放電サイクル数が100回である場合、比較例1と比較して、実施例4は、容量維持率が20%以上向上し、急速充電サイクル寿命が約100%向上する。
【0067】
このことから、本発明の第3の技術的な特徴によっても、リチウムイオン二次電池の容量維持率および急速充電サイクル寿命をさらに向上できることがわかる。
【0068】
「実施例5及び実施例4」
まず、実施例5と実施例4との違いは、実施例5が実施例4の基礎で、粒子径が5μm以下である粉末の累積量は0.75重量%以下とするように粉砕・分級を実行する(本発明の第1の技術的な特徴)ことである。即ち、実施例5は本発明の第1と第3の技術的な特徴を実行することに対して、実施例4は第3の技術的な特徴のみを実行することである。次に、
図7を参照されたい。
図2と同じの比較が行う場合、
図7(a)と
図7(b)から下記のことが分かる。
【0069】
(1)5Cの12分の急速充電の条件で、充放電サイクル数が100回である場合、実施例4と比較して、実施例5は、容量維持率が25%以上向上する。
【0070】
(2)8Cの7.5分の急速充電の条件で、充放電サイクル数が100回である場合、実施例4と比較して、実施例5は、容量維持率が45%以上向上する。
【0071】
前述
図3に対して説明したように、高エネルギー型半電池において、本発明の第1の技術的な特徴により、5Cの12分間の急速充電条件の場合、比較例1と比較して、実施例1は、容量維持率が20%以上向上したことが分かる。一方、8Cの7.5分の急速充電の条件の場合、比較例1と比較して、実施例1は、容量維持率が30%以上向上したことが分かる。このことから、2つの急速充電条件で、比較例1と比較して実施例1の容量維持率の向上効果は、2つの急速充電条件で、実施例4と比較して実施例5の容量維持率の向上効果に近いことが分かる。
【0072】
言い換えると、本発明の技術的な特徴の1つがすでに実行された場合(実施例4)に、他の技術的な特徴をさらに実行された(実施例5)ときは、「本発明の技術的な特徴が実行されなかった場合(比較例1)より本発明の技術的な特徴の一つを実行された(実施例1)時の容量維持率の向上効果」と同じの容量維持率の向上効果が得られる。
【0073】
上記をまとめると、本発明は、高出力型リチウム電池または高エネルギー型リチウム電池などの様々なリチウムイオン二次電子に適用でき、特性が劣化したソフトカーボン材料にも適用できる。また、本発明の各技術的な特徴は、容量維持率及び急速充電サイクル寿命を向上する効果を有し、本発明の技術的な特徴の1つをすでに実行した場合に、他の技術的な特徴をさらに実行するときには、より一層の容量維持率の向上効果を得ることができる。
【0074】
本発明の製造方法によれば、リチウムイオン二次電池の負極に使用されるソフトカーボン材料を提供できる。また、リチウムイオン二次電池の負極として前記ソフトカーボン材料を用いることにより、リチウムイオン二次電池の容量維持率や急速充電サイクル寿命を向上できる。
【0075】
本発明は、上記各実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内で様々な変更を行うことができ、異なる実施形態で開示される技術的手段を適切に組み合わせることによって得られる実施形態も本発明の技術範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0076】
(A)~(E) 工程