(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】水素遠心圧縮機
(51)【国際特許分類】
F04D 29/44 20060101AFI20241016BHJP
F04D 17/12 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
F04D29/44 S
F04D17/12
(21)【出願番号】P 2023519914
(86)(22)【出願日】2021-09-21
(86)【国際出願番号】 US2021051193
(87)【国際公開番号】W WO2022093434
(87)【国際公開日】2022-05-05
【審査請求日】2023-03-30
(32)【優先日】2020-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】392032409
【氏名又は名称】プラクスエア・テクノロジー・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アブドゥルワッハーブ、アフマド、エフ.
(72)【発明者】
【氏名】アブラハミアン、デイヴィッド、ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】シュヴァルツ、カール、エル.
(72)【発明者】
【氏名】シュイ、カン
【審査官】中村 大輔
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第05152661(US,A)
【文献】特表2010-540817(JP,A)
【文献】特開2011-089460(JP,A)
【文献】国際公開第2019/160550(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/095507(WO,A1)
【文献】特開平02-275097(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0011857(US,A1)
【文献】特表2009-504974(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 29/44
F04D 17/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多段遠心高純度水素圧縮機であって、各段が、
ディフューザを含み、前記
ディフューザが、
少なくとも2つの列に円周方向に配列された複数の
ベーンを含み、第1の列が第1の数のベーンを含み、第2の列が第2の数のベーンを含む、
ディフューザを含み、
前記第1の列の前記複数のベーンの各々が1以上のソリディティ値を有し、
前記第2の列の前記複数のベーンの各々が1以上のソリディティ値を有
し、
前記ソリディティ値は、
【数1】
と数学的に表され、N
vane
は前記ベーンの数であり、r
1
は前記ディフューザの入口半径であり、r
2
は前記ディフューザの出口半径であり、θは前記ベーンの食違い角であり、
前記ソリディティ値は、半径方向のベーン列が直交座標系にマッピングされるときに前記ベーンの食違い角θを考慮して前記ソリディティ値を計算するように実行される等角写像変換である、
多段遠心高純度水素圧縮機。
【請求項2】
前記
ディフューザが、ハブプレートと、前記多段遠心
高純度水素圧縮機の段のシュラウドとの間に画定されたディフューザ流路領域によって形成されている、請求項1に記載の多段遠心
高純度水素圧縮機。
【請求項3】
前記第1の数のベーン及び前記第2の数の
ベーンが、互いに半径方向に変位している、請求項1に記載の多段遠心
高純度水素圧縮機。
【請求項4】
前記第1の数のベーンのカウントが、前記第2の数の
ベーンとは異なる、請求項1に記載の多段遠心
高純度水素圧縮機。
【請求項5】
前記第1の数のベーンの
カウントが、前記第2の数のベーンよりも大きい、請求項1に記載の多段遠心
高純度水素圧縮機。
【請求項6】
前記第1の数のベーンの
カウントが、前記第2の数のベーンよりも小さい、請求項1に記載の多段遠心
高純度水素圧縮機。
【請求項7】
前記第1の数のベーンの
カウントが、前記第2の数のベーンと同じである、請求項1に記載の多段遠心
高純度水素圧縮機。
【請求項8】
前記第1の数のベーンが、ねじれ構成のベーンを含む、請求項1に記載の多段遠心
高純度水素圧縮機。
【請求項9】
前記第2の数のベーンが、非ねじれ構成のベーンを含む、請求項8に記載の多段遠心
高純度水素圧縮機。
【請求項10】
前記第2の数のベーンが、前記ねじれ構成のベーンを含む、請求項8に記載の多段遠心
高純度水素圧縮機。
【請求項11】
前記第1の数のベーンが、非ねじれ構成のベーンを含む、請求項1に記載の多段遠心
高純度水素圧縮機。
【請求項12】
前記第2の数のベーンが、ねじれ構成のベーンを含む、請求項11に記載の多段遠心
高純度水素圧縮機。
【請求項13】
前記第2の数のベーンが、前記非ねじれ構成のベーンを含む、請求項11に記載の多段遠心
高純度水素圧縮機。
【請求項14】
前記ねじれ構成が、各
ベーンの空力中心を通過するスタッキング方向に概ね延在する線を中心とするねじれによって画定されている、
前記第1の数のベーンを利用する、請求項8に記載の多段遠心
高純度水素圧縮機。
【請求項15】
前記ねじれ構成が、各
ベーンの空力中心を通過しないスタッキング方向に概ね延在する線を中心とするねじれによって画定されている、
前記第1の数のベーンを利用する、請求項8に記載の多段遠心
高純度水素圧縮機。
【請求項16】
前記第1の列の各ベーンの前縁部が、
回転インペラの後縁部
の半径の2%~約35%の距離で、前記回転インペラの前記後縁部から半径方向に離間されている、請求項1に記載の多段遠心
高純度水素圧縮機。
【請求項17】
前記第1の列の各ベーンの後縁部が、前記第1の列の
ベーンの前記後縁部
の半径の-20%~約20%の距離で、前記第2の列の各ベーンの前縁部から半径方向に離間されている、請求項1に記載の多段遠心
高純度水素圧縮機。
【請求項18】
前記第1の列の前記ベーンの各々が、約0度~約75度の絶対傾き角を有する、請求項1に記載の多段遠心
高純度水素圧縮機。
【請求項19】
前記第2の列の前記ベーンの各々が、約0度~約75度の絶対傾き角を有する、請求項1に記載の多段遠心
高純度水素圧縮機。
【請求項20】
前記第1の列の各ベーンの翼弦長と前記第2の列の隣接するベーンの翼弦長とが、同じである、又は異なる、請求項1に記載の多段遠心
高純度水素圧縮機。
【請求項21】
前記第1の列の前記ベーンの前記ソリディティ値と前記第2の列の前記ベーンの前記ソリディティ値とが実質的に同じである、請求項1に記載の多段遠心
高純度水素圧縮機。
【請求項22】
前記第1の列及び/又は前記第2の列の前記ベーンの前記ソリディティ値が、1よりも大きく約5までである、請求項1に記載の多段遠心
高純度水素圧縮機。
【請求項23】
各段における前記
ディフューザが、ディフューザ列当たり5度~約25度
に渦を減らす、請求項1に記載の多段遠心
高純度水素圧縮機。
【請求項24】
互いに流体連通している2~8個の段を含む、請求項1に記載の多段遠心
高純度水素圧縮機。
【請求項25】
前記
多段遠心高純度水素圧縮機が、圧縮される水素に対して1.2よりも大きい圧力増加比を提供するように構成されている、請求項1に記載の多段遠心
高純度水素圧縮機。
【請求項26】
各段が、インペラを更に含む、請求項1に記載の多段遠心
高純度水素圧縮機。
【請求項27】
前記インペラが、後方傾斜インペラである、請求項
26に記載の多段遠心
高純度水素圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、低分子量流体を圧縮するための遠心圧縮機に関する。より詳細には、本発明は、高圧水素ガスの製造及び高圧水素ガスパイプラインへの供給に使用するための遠心圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
容積式圧縮機は、水素を圧縮するために一般的に使用されてきた。高圧で水素を提供するために使用される最高容量の市販されている容積式圧縮機のいくつかは、往復圧縮機である。これらの圧縮機は高価であり、おおがかりな基礎を必要とし、保守コストが高く、ターンダウンが非効率である。
【0003】
遠心圧縮機は、往復圧縮機よりも高い流量を有するが、それらの設計上の技術的課題と、その開発を正当化するような大きい市場規模がないことに起因して、まだ商業利用されていない。例えば、往復圧縮機とは異なり、遠心圧縮機は、流体の角運動量変化の原理で動作し、低分子量ガスの場合、非常に高い回転速度を必要とするため、遠心力が非常に高くなり、圧縮要素に対してストレスがかかる。技術的課題は、回転圧縮機要素(すなわち、インペラ)に、水素脆化の影響を受けにくい高強度材料を使用する必要性から生じる。
【0004】
過去には、水素ガス用の多段圧縮機を製造するためのいくつかの試みがなされてきた。例えば、Beckerらの米国特許第9,316,228号は、1,000psigを超える圧力で約200,000kg/日の水素ガスを送達するために、直列に配列された6台の高速(約60,000rpm)遠心圧縮機を利用する多段圧縮システムに関する。各遠心圧縮機のインペラ/シャフトアセンブリは、異なる材料を使用するように設計されている。この特許に記載されている6台の遠心圧縮機は、ギアボックスを介して駆動され、それぞれが、通常動作中に少なくとも1.20の圧力増加比を提供するように構成されている。しかし、米国特許第9,316,228号に記載されている多段圧縮機は、水素ガスの十分な製造を提供しない。
【0005】
水素インフラストラクチャの将来のニーズを満たすために、当該技術分野における問題を克服する高度な高効率圧縮機が必要である。したがって、大量の加圧された水素ガス、特に低分子量ガスを効率的に送達できる水素圧縮機が依然として必要である。依然として、過酷な動作条件に耐えることができる水素圧縮機が更に必要である。また、少なくとも2つの列の複数のブレードを有するベーン付きディフューザを各段が含む多段高純度遠心水素圧縮機を提供する必要がある。これらのニーズ及び他のニーズは少なくとも部分的に本発明によって満たされる。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、水素などの低分子量流体を圧縮するために、角運動量変化の原理を利用する遠心ガス圧縮機に関する。
【0007】
特定の態様では、本明細書には、多段遠心水素圧縮機が記載されており、各段は、少なくとも2つの列で円周方向に配列された複数のディフューザベーン(以下、「ベーン」)を含むエアフォイルディフューザを含み、第1の列は第1の数のベーンを含み、第2の列は第2の数のベーンを含み、第1の列の複数のベーンの各々は、1以上のソリディティ値を有し、第2の列の複数のベーンの各々は、1以上のソリディティ値を有する。更に別の態様では、本明細書に記載の多段遠心水素圧縮機は、互いに流体連通している2~8個の段を含む。
【0008】
本明細書には、システムも開示される。特定の態様では、開示されたシステムは、複数の一連の段を形成するために互いに流体的に相互接続された複数の遠心圧縮機を含む水素ガス圧縮機を含み、複数の遠心圧縮機の各々は、本発明のエアフォイルディフューザ及びインペラを含み、システムは、段当たり約1.05~1.25の圧力増加比を提供するように構成されている。更に別の態様では、本明細書は、本発明の多段遠心水素圧縮機において圧縮水素ガスを生成する方法が開示される。
【0009】
本発明の追加的態様は、部分的に、以下の詳細な説明、図、及び特許請求の範囲に記載され、それらは、詳細な説明から導かれる、又は本発明の実施によって習得され得る。前述の一般的な説明及び以下の詳細な説明は両方とも、例示的かつ説明的なものにすぎず、開示される本発明を限定するものではないことを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1A】一態様における例示的なエアフォイルディフューザの側面図(
図1A)、及び別の態様におけるエアフォイルディフューザの部分的な正面図(
図1B)の全般的な概略図である。
【
図1B】一態様における例示的なエアフォイルディフューザの側面図(
図1A)、及び別の態様におけるエアフォイルディフューザの部分的な正面図(
図1B)の全般的な概略図である。
【
図2】ソリディティ値が1未満のベーンの第1の列、及びソリディティ値が1よりも大きいベーンの第2の列を有する従来の2列ディフューザを示す。
【
図3A】1つの態様で使用されるような、ソリディティ値が1よりも大きいブレードの第1の列、及びソリディティ値が1よりも大きいブレードの第2の列を有する例示的な2列ディフューザの概略図(
図3A)、及び例示的なベーンの向きの拡大図(
図3B)を示す。
【
図3B】1つの態様で使用されるような、ソリディティ値が1よりも大きいブレードの第1の列、及びソリディティ値が1よりも大きいブレードの第2の列を有する例示的な2列ディフューザの概略図(
図3A)、及び例示的なベーンの向きの拡大図(
図3B)を示す。
【
図4】単列ディフューザ(a)並びに2列ディフューザ(b)及び(c)の表面上の圧力分布を示すグラフを示す。
【
図5】2列ディフューザに対する測定された揚程係数(1)及び等エントロピー効率(2)の例示的なデータを示す。
【
図6】単列ディフューザ(1、4)及び2列ディフューザ(2、3)に対して測定された揚程係数及び等エントロピー効率の例示的なデータを示す。
【
図7】一態様で使用される後方傾斜インペラを示す。
【
図8】異なる入口圧力での8段H
2圧縮機の吐出圧力とブレーキ馬力とに関する例示的な全体的な性能曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、以下の詳細な説明、実施例、図面、及び特許請求の範囲、並びにそれらの先の及び以下の説明を参照することによって、より容易に理解することができる。しかし、本発明の物品、システム、及び/又は方法が開示及び説明される前に、本発明は、特に指定されない限り、開示された物品、システム、及び/又は方法の特定の又は例示的な態様には限定されず、したがって、当然ながら変動し得ることを理解されたい。本明細書で使用される用語は、特定の態様のみを説明することを目的とし、限定することを意図するものではないことも理解されたい。
【0012】
本発明の以下の説明は、現在知られているその最良の実施形態(単数又は複数)における本発明の開示を可能にするものとして提供される。この目的のために、当業者は、本発明の有益な結果を依然として取得しながら、本明細書に記載の本発明の様々な態様に対して多くの変更を行うことができることを認識し理解するであろう。また、本発明の所望の利点のいくつかは、他の特徴を利用することなく、本発明の特徴のいくつかを選択することによって得ることができることも明らかであろう。したがって、当業者は、本発明に対する多くの修正及び適合が可能であり、特定の状況では望ましい場合さえあり、かつ、本発明の一部であることを認識するであろう。したがって、以下の説明は、本発明の原理の例示として再び提供され、それらを限定するものではない。
定義
【0013】
本明細書及び以下の特許請求の範囲では、いくつかの用語が参照され、これらは、以下の意味を有すると定義されるものとする。
【0014】
本明細書の説明及び特許請求の範囲を通して、単語「含む(comprise)」、並びに「含む(comprising)」及び「含む(comprises)」などの単語の他の形態は、例えば、他の添加物、構成要素、整数、又はステップを含むが、これらに限定されないことを意味し、またこれらを除外することを意図していない。更に、開示された発明の様々な態様、要素、及び特徴に関連するので、「含む(comprise,comprising及びcomprises)」という用語は、「から本質的になる(consisting essentially of)」、及び「からなる(consisting of)」のより限定的な態様も含むことを理解されたい。
【0015】
本明細書で使用される場合、単数形「a(1つの)」、「an(1つの)」、及び「the(その)」は、文脈上特に明確に指示されない限り、複数の指示対象を含む。したがって、例えば、「(1つの)ベーン(a vane)」への言及は、文脈が特に明確に示さない限り、1つのベーンだけでなく2つ以上のベーンも有する態様を含む。
【0016】
本明細書において範囲は、「約」1つの特定の値から「約」別の特定の値までとして表す場合がある。そのような範囲を表す場合、別の態様は、1つの特定の値から他の特定の値までを含む。同様に、値が近似値として表される場合、先行詞「約」を使用することによって、特定の値が別の態様を形成することが理解されるであろう。範囲の各々の端点は、他の端点と関係しても、他の端点と独立しても重要であることを更に理解するべきである。
【0017】
本明細書で利用される場合、「高純度水素」は、4.0未満、好ましくは2.25未満の分子量を有する水素ガス混合物である。
【0018】
本明細書で使用される場合、用語「実質的に」は、量を特徴づける、若しくは定量化するために実質的に使用される、記載された特性、構成要素、組成、又は他の条件の少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約91%、少なくとも約92%、少なくとも約93%、少なくとも約94%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、少なくとも約99%、又は約100%を指す。
【0019】
本明細書で使用される場合、用語「ソリディティ値」は、翼弦線距離、すなわち、言い換えると、複数のブレードの各々の前縁部と後縁部を分離する距離を、ブレードの前縁部におけるブレードの円周方向間隔で割った比を指す。円周方向間隔及び翼弦線距離は、測定を行う特定のスパン方向の位置で決定され、その位置で、ハブプレート、及びスパン方向のシュラウドプレートの外側部分における測定が行われる。
圧縮機
【0020】
遠心圧縮機は、角運動量変化の原理を使用して流体を圧縮する。特定の態様では、遠心圧縮機は、回転インペラに回転流れ場を与えることによって動作し、それによって、流体に運動エネルギ及び圧力エネルギの両方を加える。次に、この流れ場をディフューザ内で渦除去し、ボリュート又はコレクタに収集して、生成された運動エネルギを圧力エネルギに変換する。
図1Aは、動力源、典型的には電気モータによって駆動されるインペラ102などの遠心圧縮機100の主要構成要素の側面図の概略図を示す。インペラ102は、ハブプレートの内側環状領域内で、シュラウドに隣接して回転する。
【0021】
インペラ102は、シュラウドを通して圧縮される流体を引き込み、その流れを高い旋回速度及び圧力で、インペラの回転方向に対して概ね半径方向に方向転換させる、回転ブレード付き要素である。ディフューザ104は、渦除去し、圧縮されている流体の速度を低下させることによって、流体内の圧力を更に回復するために、ハブプレートとシュラウドの外側部分との間に画定されたディフューザ流路領域内のインペラの下流に配置されている。その結果として得られた加圧流体は、ボリュート106又はコレクタを通して圧縮機の排気口に向かって方向付けられる。
【0022】
流体のエンタルピー及び圧力の変化が体積変化を介して行われる往復圧縮機とは異なり、遠心圧縮機におけるエンタルピー及び圧力の変化は、回転インペラによる流体の角運動量変化を介して達成される。流体の角運動量の変化と圧縮機段を介したエンタルピー変化との関係は、オイラーターボ機関の方程式(式1)で記述することができる。
【数1】
ここで、Uはインペラ速度、V
θは取得した流体角速度であり、下付き文字1、2は、インペラの入口(眼(eye))及び出口(先端)位置を示す。理想気体におけるエンタルピー上昇と温度上昇との関係は、以下のように記述することができる。
【数2】
更に、理想気体における温度上昇は、次のように圧力上昇に直接関連し得る。
【数3】
ここで、γは断熱指数、Tは温度、Pは圧力、Rは式4に従って表される気体定数である。
【数4】
ここで、R
universalは一般気体定数、ωは、特定の流体の分子量である。
【0023】
上記の式に基づいて、遠心圧縮機における総エンタルピー上昇(つまり総圧力上昇)は、回転インペラの先端速度の2乗に比例することが理解される。しかし、同じエンタルピー上昇でも、流体の分子量が減少すると(水素の場合など)、気体定数「R」とガスの比熱「Cp」が増加するため、圧縮機段の温度及び圧力の上昇は低下する。結果として、二乗の法則の関係に起因して、水素の場合、圧縮流体が機械的強度の限界を押し上げるので、大きな圧力上昇を達成するために、回転インペラの必要な先端速度を実質的に上昇させることになる。
【0024】
水素、特に高純度水素の低分子量に起因する別の課題は、段当たりのエンタルピー上昇が高いにもかかわらず、ヘッド圧力の対応する上昇が、より重いモル重量ガス(例えば、空気)と比較して小さいことである。その結果、従来の高分子量ガス圧縮機よりも全体的な圧力比を下げるためには、圧縮機段の数を増やす必要がある。各圧縮機段は、
図1Aに示すように、インペラ、ディフューザ、及びボリュート/コレクタを含む。
【0025】
水素を使用した場合、全体的な圧力比3:1は、一般的に10~12段の圧縮で達成できるが、空気を使用した場合、1~2段で同じ圧力比を達成できる。
【0026】
遠心圧縮機は、一般に、往復圧縮機よりも高い流量を有するが、それらの設計上の技術的課題と、その開発を正当化するような大きい市場規模がないこととに起因して、このような圧縮機を水素圧縮で商業利用に適合させるには依然として大きな課題がある。
【0027】
特定の態様では、本発明は、直列に配列された遠心圧縮機段を使用して、高純度水素生成物を高圧力比で圧縮できる多段遠心圧縮機を目的とする。更なる例示的な態様では、開示された多段遠心圧縮機は、8つの直列に配列された遠心圧縮機段を使用して高純度水素生成物を送達することができる。
【0028】
いかなる特定の理論にも束縛されることを望むものではないが、圧縮機の個々の段の空力効率を増加させること、つまり段当たりのヘッド(圧力上昇)容量を改善することによって段数を減らすことが達成されると考えられる。本発明の例示的な態様では、遠心圧縮機の各段内に新規タイプのディフューザを採用し、低分子量流体(例えば、水素)を圧縮して、その空力効率を改善する。
【0029】
更に他の態様では、開示される多段遠心水素圧縮機は、(
図8に示すように)一定の吐出圧力で測定して、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、又は少なくとも35%の効率的なターンダウンを示す。更に別の態様では、開示された多段遠心水素圧縮機は、約10%、約15%、又は約20%のサージへの圧力上昇(pressure-rise-to-surge)を示す。更に他の態様では、開示された多段圧縮機は、段当たり最大1.05及び1.25の段当たり最大にわたる圧力増加比を示す。本明細書で定義される圧力増加比は、多段圧縮機の吐出圧力と多段圧縮機の吸込圧力との比を指すと理解される。いかなる特定の理論にも束縛されることを望むものではないが、開示された多段圧縮機によって示される開示された特性は、圧縮機の空力設計の結果であると考えられる。更に別の態様では、そのような例示的な特性は、開示されたエアフォイルディフューザ及びインペラの設計から結果として生じ得ることが理解される。
【0030】
更に別の態様では、開示された多段圧縮機の使用は、現場作業に必要な時間を低減することによって、資本コスト及び保守コストを大幅に削減することができる。開示された圧縮機はまた、最小限の基礎で済むことと、往復圧縮機設置より潜在的な電力節約をもたらす漸増的なターンダウンを可能にすることとによってコストを低減することができる。市販の容積式往復圧縮機と比較すると、開示された多段遠心圧縮機は、より高い信頼性を示し、予備機の設置を必要としないことが理解される。
A.ディフューザ
【0031】
特定の態様では、本明細書には、多段遠心水素圧縮機が記載されており、各段は、少なくとも2つの列に円周方向に配列された複数のベーンを含むエアフォイルディフューザを含み、第1の列は第1の数のベーンを含み、第2の列は第2の数のベーンを含み、第1の列の複数のベーンの各々は1以上のソリディティ値を有し、第2の列の複数のベーンの各々は1以上のソリディティ値を有する。
【0032】
本開示の態様では、
図1Bのディフューザ108は、ディフューザ流路領域114と、ディフューザ流路内に配置された複数の列に配列された複数のディフューザベーンとによって形成されていることが理解される。ディフューザ流路領域は、多段遠心水素圧縮機の段のハブプレート110とシュラウド112との間に画定される。ハブプレート110及びシュラウド112は、遠心圧縮機の一部を形成し、各々が、遠心圧縮機のインペラがその内側環状領域内で回転することが可能になるように概ね環状の構成を有する。複数のディフューザベーン116は、ハブプレート110と、シュラウド118の外側部分との間のディフューザ流路領域114内に円形配列で配置され、ハブプレート又はシュラウドの外側部分に接続される(
図1B)。
【0033】
更に別の態様では、本明細書に記載のエアフォイルディフューザは、
図3A~
図3Bに示すように、少なくとも2つの列に円周方向に配列された複数のベーンを含む。更に別の態様では、第1の数のベーン及び第2の数のベーンは、互いに半径方向に変位している。任意の数のベーンを使用して、両方の列で1よりも大きいソリディティ値を得ることができることが理解される。特定の態様では、第1の数のベーンは、第2の数のベーンと異なる。更に別の態様では、第1の列に位置する第1の数のベーンは、第2の列に位置する第2の数のベーンよりも大きい。更に他の態様では、第1の列に位置する第1の数のベーンは、第2の列に位置する第2の数のベーンよりも小さい。
【0034】
更に別の態様では、いずれかの列のベーンは、ねじれ構成(3次元構成とも呼ばれる)であっても、又は非ねじれ構成(2次元構成とも呼ばれる)であってもよい。特定の態様では、第1の数のベーンは、ねじれ構成のベーンを含むことができる。更に他の態様では、第1の数のベーンは、非ねじれ構成のベーンを含むことができる。更に別の態様では、第2の数のベーンは、ねじれ構成のベーンを含むことができる。更に他の態様では、第2の数のベーンは、非ねじれ構成のベーンを含むことができる。第1の数のベーンがねじれ構成のベーンを含む場合、第2の数のベーンは、ねじれ構成又は非ねじれ構成のいずれかのベーンを含むことができることが理解される。更に別の態様では、第1の数のベーンが非ねじれ構成のベーンを含む場合、第2の数のベーンは、ねじれ構成又は非ねじれ構成のいずれかのベーンを含むことができる。
図3A及び
図3Bは、複数のベーンを有する2つの列を有する例示的なエアフォイルディフューザを示し、第1の列の第1の数のベーン及び第2の列の第2の数のベーンの両方は、非ねじれ構成で表されている。
【0035】
特定の態様では、各列の複数のベーンの各ブレードは、前縁部304a及び304(
図3B)、後縁部302a及び302(
図3B)を有する。いくつかの例示的な態様では、ねじれ構成は、ハブプレートとシュラウドの外側部分との間でスタッキング方向であってもよく、それによって、ベーンの各々について、ブレード入口角は、ハブプレートからシュラウドの外側部分へ減少し、ハブプレートで測定された各ディフューザベーンの傾き角は、インペラ回転方向に見て、前縁部で負の値、後縁部で正の値になることが理解される。本明細書で使用される場合、用語「スタッキング方向」は、各列の複数のベーンの各々のスパン方向を指し、それに沿って、任意の数のエアフォイル部がハブプレートからシュラウドの外側部分までスタックされる。用語「ブレード入口角」は、前縁部に沿った測定点、例えばハブプレート及びシュラウドの外側部分にて、ベーンを通過する円弧に対する接線と、その前縁部を通過するディフューザブレードのキャンバ線に対する接線との間で測定される角度を意味する。ブレードの例示的なねじれ構成は、その全体が本明細書に組み込まれる米国特許第8,016,557号の
図5~
図7に見ることができる。
【0036】
特定の態様では、入口角は、スタッキング方向に対して線形関係で変動することができる。特定の態様では、ブレード入口角は、ハブプレートにおいて測定でき、約20度、約25度、約30度、約35度、約40度、及び約45度の例示的な値を含む、約15度~約50度である。更に他の態様では、ブレード入口角は、シュラウドの外側部分において測定でき、約10度、約15度、及び約20度の例示的な値を含む、約5度~約25度であり得る。更に別の態様では、第1の列のベーンの各々は、約5度~約75度未満の絶対値を有する傾き角を有する。その全体が本明細書に組み込まれる米国特許第8,016,557号の
図7に示されるように、ねじれディフューザの場合、傾き角は、ディフューザの前縁部から後縁部まで、すなわち同じ列に対して変化する。同様に、更に他の態様では、第2の列のベーン各々は、約5度~約75度未満の絶対値を有する傾き角を有する。特定の態様では、両方の列における傾き角の絶対値は、約75度未満、約70度未満、約65度未満、約60度未満、約50度未満、約40度未満、約30度未満、約20度未満、約10度未満であり、又は非ねじれディフューザの場合は0度でさえである。更に別の態様では、傾き角の絶対値は、0度から非ねじれ構成まで、約5度、約10度、約15度、約20度、約25度、約30度、約35度、約40度、約45度、約50度、約55度、約60度、約65度、又は約70度までである。更に別の態様では、複数のディフューザ列は、重複することがあり、又はギャップを有することがある。本発明の特定の実施形態では、第1の列の各ベーンの前縁部は、回転インペラの後縁部の半径の2%~約35%の距離で、回転インペラの後縁部から半径方向に離間される。
【0037】
更に別の態様では、第1の列のブレードの前縁部304aは、ハブプレートの内周から312の一定のオフセット距離に配置され得る。更に別の態様では、オフセット距離308は、インペラ半径の約-20%~+20%の範囲の絶対値を有する。
【0038】
更に別の態様では、開示されたエアフォイルディフューザの第1の数のベーン及び第2の数のベーンは、1よりも大きいソリディティ値を有する。上で開示したように、ソリディティ値は、任意の2つの連続するベーンの間隔に対するブレード翼弦長の比として測定される。更に、ソリディティ値は、直交座標系において、軸方向のブレード列に対して、翼弦長(前縁部と後縁部の直線距離)と2つの連続するベーンの間隔(直線距離)との比として定義される用語である。半径方向のブレード列を使用する場合、等角写像変換を数学的に実行し、半径方向のブレード列が直交座標系にマッピングされるときに、すなわち、等価の翼弦長と連続する2つのベーンの間隔との比として、ソリディティを計算する。ソリディティ値は、式5に従って数学的に表すことができる。
【数5】
ここで、N
bladeはベーンの数であり、r
1はディフューザ入口半径であり、r
2は、ディフューザ出口半径であり、θは、ブレードの食違い角である。本明細書に記載されるように、食違い角は、その全体が本明細書に組み込まれる米国特許第7,448,852号の
図1に示されている。
【0039】
水素などの流体の低分子量に起因して、インペラを出る動水頭(運動エネルギ)の、単列ディフューザによってもたらされる圧力エネルギへの変換が非常に低いことが理解される。ディフューザのソリディティの過剰な増加、及び楔形ディフューザなどの本質的に非常に高いソリディティ値を有するディフューザの使用は、空気力学的損失の増加及び効率の低下をもたらすおそれがある。ソリディティ値は、エアフォイルベースではない楔形ディフューザなどの他のタイプのディフューザには適用されないことが理解される。更にいくつかの態様では、楔形ディフューザと等価のエアフォイルディフューザの等価のソリディティ値は、実質的に1より大きく、例えば、4又は5である。いかなる特定の理論にも束縛されることを望むものではないが、効率的な圧力回復、そしてその結果として効率的な圧縮機段効率を確保するために、十分な運動エネルギをディフューザ内の圧力エネルギに効率に変換する必要があることが理解される。繰り返すが、いかなる特定の理論にも束縛されることを望むものではないが、インペラの吐出運動エネルギがディフューザ内で効率的に回復されない場合、段間及び後段の配管及び冷却器において消散(廃熱に変換)され、圧縮機の圧力上昇能力を低減すると仮定される。
【0040】
更に別の態様では、第1の列及び第2の列のベーンのソリディティ値は実質的に同じである。更に他の態様では、第1の列及び第2の列のベーンのソリディティ値は異なる。更に別の態様では、第1の列のベーンのソリディティ値は、1~約5であり、約2、約3、及び約4のソリディティ値を含む。更に別の態様では、第2の列のベーンのソリディティ値は、1~約5であり、約2、約3、及び約4のソリディティ値を含む。
【0041】
図4は、同じ渦除去レベル及び同じ入口条件で設計された2種類のディフューザのブレードの表面圧力分布の比較を示す図である。
図4の線(a)は、約4のソリディティ値を有する単一のディフューザ内の圧力分布である。線(b)及び(c)は、約2のソリディティ値を有する2列ディフューザ内の圧力分布である。ブレードの表面圧力分布は、例えば、ディフューザ圧力表面に沿った圧力分布(曲線の高圧側)及びディフューザの吸込表面に沿った圧力分布(曲線の低圧側)として更に説明することができる。空気力学的負荷は、流体にディフューザによって実行される拡散の量の尺度であり、圧力上昇及び空力損失、ひいては効率に直接関連し、各閉ループ曲線内(内側)の面積を計算することによって評価される。
図4に示すように、2列ディフューザの空気力学的負荷(閉曲線内の面積)は単列ディフューザよりも低い。繰り返すが、いかなる特定の理論にも束縛されることを望むものではないが、複数のベーンの2つ以上の列を有するディフューザにおける空気力学的負荷の減少は、それらがエアフォイルタイプ又は任意の他のタイプ、例えば楔形ディフューザであるかどうかに関わらず、従来の単列ディフューザと比較して効率の増加をもたらすことが理解される。
図4から分かるように、単列ディフューザは、空気力学的負荷の増加、ひいては効率の低下に起因して、2列ディフューザと同じ渦除去レベルに設計されたにもかかわらず、同じ圧力回復(出口圧力レベル)を達成できない。
【0042】
更に別の態様では、複数のベーンの少なくとも2つの列を有する開示されたディフューザは、段効率又は動作範囲に実質的に影響を与えることなく、単列ディフューザで起こり得る渦除去(運動エネルギの圧力エネルギへの変換)の量の実質的な増加を示す。更に別の態様では、本開示のエアフォイルディフューザは、ディフューザ列当たり約6度、約7度、約8度、約9度、約10度、約11度、約12度、約13度、約14度、約15度、約16度、約17度、約18度、約19度、約20度、約21度、約22度、約23度、及び約24度の例示的な値を含む、ディフューザ列当たり約5度~約25度の渦除去容量を示すことができる。
【0043】
関連技術では多列ディフューザが採用されてきたが、これには、圧縮機段の動作範囲に影響を与えないようにする(例えば、ディフューザの流れが詰まらないようにする)低いソリディティ値(すなわち、1未満のソリディティ値)のベーンの第1の列、段内で必要な高い圧力回復レベルを達成するための高いソリディティ値のベーンの第2の列とが常に含まれてきた。ベーンの第1の列が1未満のソリディティ値を示し、ベーンの第2の列が1よりも大きいソリディティ値を示す例示的なディフューザを
図2に示す。いかなる特定の理論にも束縛されることを望むものではないが、第1の列において高ソリディティ値のベーンを使用することによって、圧縮ガスの低分子量を利用し、それによって、インペラを離れるマッハ数が非常に低くなるため、詰まりの可能性を最小限にし、入射角の影響、すなわちベーン前縁部での流れの分離の可能性を低減し、したがって動作範囲に対するその影響を最小限にすると考えられる。更に別の態様では、繰り返すが、いかなる特定の理論にも束縛されることを望むものではないが、低分子量流体の固有の態様によって、第1の列において高ソリディティのディフューザを使用することが可能になり、したがって、高い動作範囲を維持しながら、低ソリディティ及び高ソリディティをそれぞれ有する従来の2列ディフューザよりも、圧縮機段の圧力回復及び効率を高められると考えられる。更に他の態様では、本開示のエアフォイルディフューザは、渦除去能力の増加(運動エネルギの圧力エネルギへの変換)によって、低ソリディティ値及び高ソリディティ値を有する従来の2列ディフューザよりも、優れた圧力回復(したがって高効率)を提供することができる。更に別の態様では、本開示のエアフォイルディフューザは、増加した渦除去スケジュールを1つではなく2つの列に分散させることにより、単列ディフューザよりも優れた性能を提供する(
図4)。更に別の態様では、水素などの低分子量用途で2つの高ソリディティ値のディフューザ列を使用しても、圧縮機段の動作範囲に影響を与えない。繰り返すが、いかなる特定の理論にも束縛されることを望むものではないが、圧縮機段の効率的な動作範囲は、そのような低分子量流体での極めて高い音速、すなわち、高ソリディティディフューザに大きな動作範囲を与える流体の低いマッハ数に起因しており、これは、2列高ソリディティディフューザ設計の空気力学的負荷の改善と組み合わせて、高い圧力回復能力、ひいては圧縮機段の高効率をもたらし得る。
【0044】
図5は、水素修正速度での2列高ソリディティディフューザ段試験の無次元化性能テスト曲線を示す図である。
【0045】
図6は、単列ディフューザ及び2列ディフューザの両方の例示的な圧縮機段の例示的な研究室試験データを示す図である。縦軸は、揚程係数及び等エントロピー効率を表す。揚程係数は、インペラ先端速度Uによって無次元化された圧縮機段の圧力上昇を表す。理想気体の場合、これは、式6によって表すことができる。
【数6】
縦軸はまた、圧縮機段の等エントロピー効率を表す。理想気体の場合、等エントロピー効率は次のように表される。
【数7】
等エントロピー効率は、圧縮機段の入口圧力及び吐出圧力と温度とを測定し、次に、各測定フローポイント(phi)で上式7を適用することによって得られる。
横軸は、正規化された流れ係数(phi/phi設計)を表し、ここで、phiは、式8で示されるインペラ先端速度Uによって無次元化された圧縮機段の入口体積流量である。
【数8】
ここで、Q及びAは、それぞれ、インペラインデューサ/入口での体積流量及び断面積である。このタイプの曲線を使用して、ピーク効率ポイントからのターンダウン範囲(サージポイントまで)に関する、並びに動作流量範囲(phi)に関するターンアップ範囲(最低測定可能揚程係数まで)に関する圧縮機段の動作範囲を示す。
【0046】
特定の態様では、本明細書に記載されるように、低分子量用途で高ソリディティディフューザを使用しても、例えば、約25%などのターンダウンを示す圧縮機段の動作範囲及び実質的なターンアップ範囲に影響を与えない。更に別の態様では、2列高ソリディティディフューザは、ヘッド及び効率の両方で、単列高ソリディティディフューザよりも優れた性能を示す。更に例示的な態様では、記載された設計の流れ条件での効率改善は、約1%ポイント、約2%ポイント、約3%ポイント、約4%ポイント、約5%ポイント、更には約10%ポイントである。更に他の態様では、流れ係数が高い(流れが多い)ほど、実質的に性能が向上する。いかなる特定の理論にも束縛されることを望むものではないが、より高い流れ係数での性能の改善は、2列ディフューザが、圧縮機ヘッドを増加させる単列ディフューザよりも高い圧力回復能力を維持でき、それによって、単列高ソリディティディフューザよりも効率を高めることができることに主に起因すると考えられる。
【0047】
広範囲な分析によって、発明者らは、単列高ソリディティディフューザ、2列ディフューザのソリディティと組み合わせた等価のソリディティを有する、又は本質的に高ソリディティディフューザの使用が、この2列高ソリディティ値のディフューザと同じレベルの効率を達成しなかったことを実証した(
図2及び
図3)。繰り返すが、いかなる特定の理論にも束縛されることを望むものではないが、開示されたディフューザの高効率は、部分的には、水素圧縮機で高圧力回復を達成するために必要とされる渦除去の量に起因するであることが理解される。ディフューザの実質的な圧力回復(運動エネルギの圧力への変換)に影響を与えるために必要な総渦除去量は、約25度、約30度、約35度、約40度、及び約45度の渦の例示的な値を含む、約20~50度の渦除去である。これは、単一のディフューザで効率的に達成できなかった。
【0048】
図6に示すように、全体的な等エントロピー効率は、同じ全体的な渦除去角度及び同じインペラ用に設計された、単列高ソリディティディフューザ及び複列高ソリディティディフューザの両方について測定される。このプロットは、単列ディフューザに対する本発明で提案された複列高ソリディティディフューザの優位性を明確に示している。特定の態様では、本開示は、圧縮ガスの低分子量の性質を利用して、両方の列で高ソリディティ値ディフューザ(1よりも高いソリディティ)の使用により非常に高い渦除去容量を有する2列ディフューザを使用し、それにより、ディフューザの空力効率に影響を与えることなく高圧力回復を提供し、したがって、圧縮機段の全体的な性能を改善することができる。
B.インペラ
【0049】
更に別の態様では、開示された多段遠心水素圧縮機は、インペラを含む。更に別の態様では、多段圧縮機の各段は、インペラを含む。そのような例示的な態様では、インペラは、固定ハウジング内に位置する回転可能シャフトに取り付けることができる。
【0050】
更に別の態様では、
図7に示すように、インペラは後方傾斜している。後方傾斜インペラの使用により、軽量ガス(H
2)に対して適切なサージ圧力への上昇(rise-to-surge pressure)を達成できる。従来の半径方向の設計のインペラでは、低分子量ガスは、段当たりの圧力比が低いため、必要なサージ圧力への上昇を提供しないことが理解される。更に別の態様では、インペラは、シャフトに取り付けられ、インペラは、入口部分から排気部分へのガス流路の第1の縁部を有し、入口部分はシャフトに対して軸方向に配向され、当該排気部分はシャフトに対して半径方向に配向される。特定の態様では、入口部分のインペラの複数のインデューサブレードであって、インデューサブレードは、シャフトに対して半径方向に沿ってスタックされ、水素流体に作用するように配向され、それを接線方向に偏向させることによって流路を通ってルーティングされ、したがってその角度運動量を変化させる。更に他の態様では、流路を通過する流体を加速することによってその流体に作用するために、シャフトに対して軸方向に沿ってスタックされ、かつ半径方向に対して後方傾斜した角度で接線方向に分散されている、出口ブレードの排気部分のインペラの複数の出口ブレードと、出口ブレードと、インデューサブレード及び出口ブレードの両方に近接し、かつ、ガス流路の第2の縁部を画定する、シュラウド。
方法
【0051】
更に別の態様では、本明細書には、開示された多段水素圧縮機において圧縮高純度水素ガスを生成する方法が記載されている。開示された方法は、開示された多段高純度水素圧縮機のうちのいずれかの使用を含み得ることが理解される。更に別の態様では、本明細書に開示された方法は、圧縮される水素の段当たり約1.05~1.25の圧力増加比を提供する。本明細書で定義される圧力増加比は、吐出圧力と吸込圧力との比を指すと理解される。
【0052】
更に別の態様では、本開示の方法は、開示された部品のうちのいずれかを含む圧縮機を含む。特定の態様では、本開示で使用される多段圧縮機は、3つ以上段を含み、各段は、少なくとも2つの列に円周方向に配列された複数のベーンを含むエアフォイルディフューザを含み、第1の列は、第1の数のベーンを含み、第2の列は第2の数のベーンを含み、第1の列の複数のベーンの各々は1以上のソリディティ値を有し、第2の列の複数のベーンの各々は、1以上のソリディティ値を有する。
【0053】
上記の明細書は、例示的実施形態の構造及び使用の完全な説明を提供する。特定の実施形態は、特定の程度の特殊性と共に、又は1つ以上の個々の実施形態を参照して上述されてきたが、当業者は、本発明の範囲から逸脱することなく、開示された実施形態に対する多数の変更を行うことができる。したがって、デバイスの様々な例示的実施形態は、開示された特定の形態に限定されることを意図するものではない。むしろ、それらは、特許請求の範囲の範囲内にある全ての修正形態及び代替形態を含み、かつ示されるもの以外の実施形態が、図示された実施形態の特徴のうちのいくつか又は全てを含み得る。例えば、構成要素は、省略されても、又は一体的な構造として組み合わされてもよく、及び/又は接続に置換してもよい。更に、適切な場合、上記の実施例のうちのいずれかの態様は、同等の又は異なる特性を有する更なる例を形成し、同じ又は異なる問題に対処するために記載された他の実施例のいずれかの態様と組み合わせることができる。同様に、上記の利点及び利点は、一実施形態に関連し得る、又はいくつかの実施形態に関連し得ることが理解されるであろう。
【0054】
特許請求の範囲は、それぞれ、語句「手段」又は「ステップ」を使用して、そのような限定が所与の請求項に明示的に列挙されていない限り、ミーンズ・プラス・ファンクション(means-plus-function)又はステップ・プラス・ファンクション(step-plus-function)の制限を含むことを意図するものではない。