(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
B60K 17/04 20060101AFI20241016BHJP
B60K 17/08 20060101ALI20241016BHJP
B60K 17/12 20060101ALI20241016BHJP
B60K 1/02 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
B60K17/04 G
B60K17/08 M
B60K17/12
B60K1/02
(21)【出願番号】P 2023526744
(86)(22)【出願日】2021-06-10
(86)【国際出願番号】 JP2021022055
(87)【国際公開番号】W WO2022259449
(87)【国際公開日】2022-12-15
【審査請求日】2023-02-03
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000154347
【氏名又は名称】株式会社ユニバンス
(74)【代理人】
【識別番号】110000534
【氏名又は名称】弁理士法人真明センチュリー
(72)【発明者】
【氏名】原 智之
【審査官】畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第110605963(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第110366501(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第110217087(CN,A)
【文献】特開2015-085765(JP,A)
【文献】特開2013-108604(JP,A)
【文献】特開2011-033077(JP,A)
【文献】特開2019-056467(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 17/04
B60K 17/08
B60K 17/12
B60K 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つのモータの動力がそれぞれ入力される第1軸および第2軸と、
前記第1軸と異なる軸上に配置される出力軸と、
前記第1軸の回転を複数の経路で前記出力軸に伝達する第1の減速機構と、
前記第2軸の回転を1つの経路で前記出力軸に伝達する第2の減速機構と、を備え、
前記第1の減速機構は、前記複数の経路の変速比が互いに異なり、
前記第2の減速機構の変速比は、前記減速機構の全ての変速比の中で最も小さ
い動力伝達装置。
【請求項2】
前記第1の減速機構に含まれる、前記第1軸を除く軸と、
前記軸と同軸上にある軸であって前記第2の減速機構に含まれる軸と、
前記2つの軸の間のトルクの伝達および遮断を行う第1クラッチと、を備える請求項1記載の動力伝達装置。
【請求項3】
前記第1軸および前記第2軸は同軸上に配置され、
前記第1軸と前記第2軸との間のトルクの伝達および遮断を行う第2クラッチを備える請求項1又は2に記載の動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は動力伝達装置に関し、特に2つのモータの動力を出力軸に伝達する動力伝達装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
2つのモータの動力がそれぞれ入力される第1軸および第2軸と、第1軸および第2軸の回転をそれぞれ出力軸に伝達する減速機構と、を備える動力伝達装置は知られている(特許文献1)。特許文献1に開示された先行技術は、第1軸と出力軸との間に配置された1速ギヤ列および3速ギヤ列が第1軸から出力軸へ回転を伝達し、第2軸と出力軸との間に配置された2速ギヤ列が第2軸から出力軸へ回転を伝達する。先行技術は、第1軸から出力軸へ1速ギヤ列が回転を伝達する1速、第2軸から出力軸へ2速ギヤ列が回転を伝達する2速、第1軸から出力軸へ3速ギヤ列が回転を伝達する3速に、クラッチをつなぎ変えて変速できる。先行技術はクラッチをつなぎ変えるときに2速ギヤ列を介してモータの動力を出力軸へ伝達し続けて、変速動作時の出力軸のトルク低下(いわゆるトルク抜け)を低減する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
先行技術では2速ギヤ列によって変速動作時の出力軸のトルクを補うので、2速から3速へ変速するときは、出力軸の回転速度が大きいと、3速ギヤ列の変速比によるが、モータの最大回転速度に達するまでモータを運転しても2速ギヤ列の回転速度に追いつけないことがある。2速ギヤ列の回転速度にモータの回転速度が追いつかないと出力軸のトルクを補完できない。また、先行技術では1速ギヤ列は3速ギヤ列と同じ軸に配置されているので、大きなトルクが必要なときに、変速比が最も大きい1速ギヤ列によって出力軸のトルクを補完できない。
【0005】
本発明はこの問題点を解決するためになされたものであり、所望の変速動作時の出力軸のトルクを補完できる動力伝達装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するために本発明の動力伝達装置は、2つのモータの動力がそれぞれ入力される第1軸および第2軸と、第1軸と異なる軸上に配置される出力軸と、第1軸の回転を複数の経路で出力軸に伝達する第1の減速機構と、第2軸の回転を1つの経路で出力軸に伝達する第2の減速機構と、を備え、第1の減速機構は、複数の経路の変速比が互いに異なり、第2の減速機構の変速比は、減速機構の全ての変速比の中で最も小さい又は最も大きい。
【発明の効果】
【0007】
第1の態様によれば、第1軸および第2軸は、2つのモータの動力がそれぞれ入力される。第1の減速機構は、第1軸と異なる軸上に配置される出力軸に、第1軸の回転を複数の経路で伝達する。第1の減速機構は、複数の経路の変速比が互いに異なる。第2の減速機構は、第2軸の回転を1つの経路で出力軸に伝達する。第2の減速機構の変速比は、減速機構の全ての変速比の中で最も小さい又は最も大きい。これにより第2の減速機構によって所望の変速動作時の出力軸のトルクを補完できる。
【0008】
第2の態様によれば、第1の態様において、第1の減速機構に含まれる、第1軸を除く軸、及び、軸と同軸上にある軸であって第2の減速機構に含まれる軸の間のトルクの伝達および遮断を行う第1クラッチを備える。第1クラッチによって2つのモータ間に動力を伝達する経路をつないだり切ったりできる。
【0009】
第3の態様によれば、第1又は第2の態様において、第1軸および第2軸は同軸上に配置され、第1軸と第2軸との間のトルクの伝達および遮断を行う第2クラッチを備える。第2クラッチをつないで2つのモータの合力を出力軸に伝達できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1実施の形態における動力伝達装置のスケルトン図である。
【
図2】第2実施の形態における動力伝達装置のスケルトン図である。
【
図3】第3実施の形態における動力伝達装置のスケルトン図である。
【
図4】第4実施の形態における動力伝達装置のスケルトン図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の好ましい実施の形態について添付図面を参照して説明する。
図1を参照して第1実施の形態における動力伝達装置10を説明する。
図1は第1実施の形態における動力伝達装置10のスケルトン図である。動力伝達装置10は車両に搭載される(
図2から
図4においても同じ)。
【0012】
動力伝達装置10は、第1のモータ11の動力が入力される第1軸13と、第2のモータ12の動力が入力される第2軸14と、第1軸13と異なる軸上に配置される出力軸15と、第1軸13の回転を出力軸15に伝達する第1の減速機構21と、第2軸14の回転を出力軸15に第3軸16を介して伝達する第2の減速機構24と、を備えている。
【0013】
第1のモータ11及び第2のモータ12は、例えば発電機としても機能する電動機である。第1のモータ11は、第2のモータ12に比べ、低速時のトルクが大きい低速用モータである。第2のモータ12は、第1のモータ11に比べ、定格回転速度が大きい高速用モータである。第1のモータ11及び第2のモータ12を同一仕様の電動機とすることは当然可能である。
【0014】
第1のモータ11の回転軸と第1軸13とを一体化したり、第1のモータ11の回転軸と第1軸13との間に歯車対やチェーンなどの伝達要素を介在させたりできる。同様に第2のモータ12の回転軸と第2軸14とを一体化したり、第2のモータ12の回転軸と第2軸14との間に歯車対やチェーンなどの伝達要素を介在させたりできる。第1軸13及び第2軸14は同軸上に配置されている。出力軸15は第1軸13と平行に配置されている。第3軸16は出力軸15と同軸上に配置されている。
【0015】
動力伝達装置10の出力軸15と異なる軸上に車軸17が配置されている。車軸17の両端に車輪18が配置されている。車軸17の中央に差動装置19が配置されている。出力軸15と差動装置19との間に配置された出力ギヤ列20は、出力軸15の回転を差動装置19に伝達する。差動装置19は車軸17に出力軸15のトルクを分配する。
【0016】
第1の減速機構21は1速ギヤ列22及び2速ギヤ列23を含む。第2の減速機構24は3速ギヤ列を構成する。1速ギヤ列22及び2速ギヤ列23は、第1軸13と出力軸15との間に配置されている。第2の減速機構24は、第2軸14と第3軸16との間に配置されている。変速比は、1速ギヤ列22、2速ギヤ列23、第2の減速機構24(3速ギヤ列)の順に小さい。
【0017】
出力軸15には切換装置25が配置されている。切換装置25は、第1軸13の回転を出力軸15に伝達する経路(1速ギヤ列22又は2速ギヤ列23)の切替えを行う。アクチュエータ(図示せず)を作動して切換装置25により経路を切替える。切換装置25はクラッチやブレーキが例示される。クラッチは機械クラッチや電磁クラッチが例示される。機械クラッチはツースクラッチやドッグクラッチ等のかみあいクラッチ、ディスククラッチや円すいクラッチ等の摩擦クラッチが例示される。ブレーキは機械ブレーキ、電磁ブレーキが例示される。
【0018】
第1クラッチ26は出力軸15と第3軸16との間のトルクの伝達および遮断を行う。第1クラッチ26は、ツースクラッチやドッグクラッチ等のかみあいクラッチ、ディスククラッチや円すいクラッチ等の摩擦クラッチ、ワンウェイクラッチが例示される。第1クラッチ26がかみあいクラッチや摩擦クラッチ等の場合、アクチュエータ(図示せず)を作動してクラッチをつないだり切ったりする。
【0019】
第1クラッチ26がワンウェイクラッチの場合、第3軸16の回転速度が出力軸15の回転速度よりも大きいときに、第1クラッチ26は第3軸16のトルクを出力軸15へ伝達する。出力軸15の回転速度が第3軸16の回転速度よりも小さいときに、第1クラッチ26は出力軸15と第3軸16との間のトルクの伝達を遮断する。第1クラッチ26がワンウェイクラッチの場合、クラッチをつないだり切ったりするアクチュエータが無くても、出力軸15と第3軸16との相対回転によってクラッチの動作を切替えられる。
【0020】
第2クラッチ27は第1軸13と第2軸14との間のトルクの伝達および遮断を行う。第2クラッチ27は、ツースクラッチやドッグクラッチ等のかみあいクラッチ、ディスククラッチや円すいクラッチ等の摩擦クラッチが例示される。アクチュエータ(図示せず)を作動して第2クラッチ27をつないだり切ったりする。
【0021】
動力伝達装置10の変速の動作を説明する。1速のときは、第1のモータ11は運転し、第2のモータ12は停止する。第2クラッチ27は切る。切換装置25を作動し、1速ギヤ列22を介して第1軸13から出力軸15に回転を伝達する。第1クラッチ26をつなぐと、出力軸15の回転に伴い第2のモータ12が回転するので、第2のモータ12の回生エネルギーを利用できる。第1クラッチ26を切ると第2のモータ12の連れ回りがなくなるので、第2のモータ12を保護したり、第2のモータ12の回生エネルギーによる電池(図示せず)の過充電を防止したりできる。
【0022】
1速から2速への変速動作時は、1速の状態を維持したまま、第2のモータ12を運転し第1クラッチ26をつなげる。第2のモータ12の出力による第2軸14のトルクが、第2の減速機構24を介して第3軸16に伝達される。第1クラッチ26がつながると、切換装置25を作動して回転の伝達経路を1速ギヤ列22から2速ギヤ列23へ変更する間、第3軸16から出力軸15にトルクが伝達される。よって変速動作時の出力軸15のトルクを補完できる。
【0023】
1速において、第1クラッチ26を切り、第2クラッチ27をつなぎ、第1のモータ11と共に第2のモータ12を運転しても良い。これにより1速ギヤ列22を介して第1のモータ11及び第2のモータ12の合力を出力軸15に伝達できる。
【0024】
2速のときは、第1のモータ11は運転し、第2のモータ12は停止する。第2クラッチ27は切る。切換装置25を作動し、2速ギヤ列23を介して第1軸13から出力軸15に回転を伝達する。第1クラッチ26を切ると、第2のモータ12の連れ回りがなくなる。第1クラッチ26をつなぐと、第2のモータ12の回生エネルギーを利用できる。
【0025】
2速から3速への変速動作時は、2速の状態を維持したまま、第2のモータ12を運転し第1クラッチ26をつなげる。第2のモータ12の出力による第2軸14のトルクが、第2の減速機構24を介して第3軸16に伝達される。第1クラッチ26がつながると、切換装置25を作動して2速ギヤ列23が空転する状態になっても、第3軸16から出力軸15にトルクが伝達される。よって変速動作時の出力軸15のトルクを補完できる。
【0026】
2速において、第1クラッチ26を切り、第2クラッチ27をつなぎ、第1のモータ11と共に第2のモータ12を運転しても良い。これにより2速ギヤ列23を介して第1のモータ11及び第2のモータ12の合力を出力軸15に伝達できる。
【0027】
3速のときは、第1のモータ11は停止し、第2のモータ12は運転する。第1クラッチ26はつなぎ、第2クラッチ27は切る。切換装置25を作動し、1速ギヤ列22及び2速ギヤ列23は空転させる。第2のモータ12の出力による第2軸14のトルクが、第2の減速機構24を介して第3軸16、第2クラッチ27及び出力軸15に伝達される。なお、第1のモータ11を運転しても良い。
【0028】
3速において、第1クラッチ26及び第2クラッチ27をつなぎ、第1のモータ11と共に第2のモータ12を運転しても良い。これにより第2の減速機構24を介して第1のモータ11及び第2のモータ12の合力を出力軸15に伝達できる。
【0029】
動力伝達装置10は、第2の減速機構24が、第2軸14の回転を1つの経路で出力軸15に伝達する。第2の減速機構24の変速比は、減速機構21,24の全ての変速比の中で最も小さい。1速から2速への変速動作時および2速から3速への変速動作時に、第2の減速機構24を介して第2のモータ12のトルクを出力軸15に伝達できるので、変速動作時の出力軸15のトルクを補完できる。特に高速走行中の変速動作時のトルクの補完に好適である。さらに車両の走行条件に応じモータ11,12の効率の良い領域を利用できるので、電力消費を低減しつつ車両の走行性能を向上できる。
【0030】
第1のモータ11が故障したときは、第1クラッチ26をつなぎ、第2クラッチ27を切り、切換装置25を作動し、1速ギヤ列22及び2速ギヤ列23は空転させる。これにより第2のモータ12を運転して出力軸15を駆動できる。第2のモータ12が故障したときは、第1クラッチ26及び第2クラッチ27を切る。これにより第1のモータ11を運転して出力軸15を駆動できる。
【0031】
図2を参照して第2実施の形態における動力伝達装置30を説明する。第1実施形態では、第1軸13と第2軸14とが同軸上に配置される場合について説明した。これに対し第2実施形態では、第1軸13と第2軸31とが異なる軸上に配置される場合について説明する。第1実施形態で説明した部分と同一の部分は、同一の符号を付して以下の説明を省略する。
図2は第2実施の形態における動力伝達装置30のスケルトン図である。
【0032】
動力伝達装置30は、第1軸13と、第2のモータ12の動力が入力される第2軸31と、出力軸15と、第1の減速機構21と、第2軸31の回転を出力軸15に伝達する第2の減速機構32と、を備えている。第2のモータ12の回転軸と第2軸31とを一体化したり、第2のモータ12の回転軸と第2軸31との間に歯車対やチェーンなどの伝達要素を介在させたりできる。出力軸15及び第2軸31は同軸上に配置されている。
【0033】
第2の減速機構32は3速ギヤ列を構成する。第2の減速機構32は、第2軸31の回転をそのまま出力軸15へ伝える。変速比は、1速ギヤ列22、2速ギヤ列23、第2の減速機構32(3速ギヤ列)の順に小さい。
【0034】
第1クラッチ33は出力軸15と第2軸31との間のトルクの伝達および遮断を行う。第1クラッチ33は、ツースクラッチやドッグクラッチ等のかみあいクラッチ、ディスククラッチや円すいクラッチ等の摩擦クラッチ、ワンウェイクラッチが例示される。
【0035】
動力伝達装置30の変速の動作は、第1実施形態における動力伝達装置10の変速の動作のうち第2クラッチ27が関与する動作を除くものと同様なので、説明を省略する。
【0036】
図3を参照して第3実施の形態における動力伝達装置40を説明する。第1実施形態および第2実施形態では、第2の減速機構24,32の変速比が、減速機構の全ての変速比の中で最も小さい場合について説明した。これに対し第3実施形態では、第2の減速機構46の変速比が、減速機構の全ての変速比の中で最も大きい場合について説明する。第1実施形態で説明した部分と同一の部分は、同一の符号を付して以下の説明を省略する。
図3は第3実施の形態における動力伝達装置40のスケルトン図である。
【0037】
動力伝達装置40は、第1のモータ41の動力が入力される第1軸43と、第2のモータ42の動力が入力される第2軸44と、第1軸43と異なる軸上に配置される出力軸45と、第1軸43の回転を出力軸45に伝達する第1の減速機構47と、第2軸44の回転を出力軸45に伝達する第2の減速機構46と、を備えている。動力伝達装置40は車両のうち、大きな低速トルクが要求される建設機械や農業機械などに搭載されるのが好ましい。
【0038】
第1のモータ41及び第2のモータ42は、例えば発電機としても機能する電動機である。第1のモータ41は、第2のモータ42に比べ、定格回転速度が大きい高速用モータである。第2のモータ42は、第1のモータ41に比べ、低速時のトルクが大きい低速用モータである。第1のモータ41及び第2のモータ42を同一仕様の電動機とすることは当然可能である。
【0039】
第1のモータ41の回転軸と第1軸43とを一体化したり、第1のモータ41の回転軸と第1軸43との間に歯車対やチェーンなどの伝達要素を介在させたりできる。同様に第2のモータ42の回転軸と第2軸44とを一体化したり、第2のモータ42の回転軸と第2軸44との間に歯車対やチェーンなどの伝達要素を介在させたりできる。第1軸43及び第2軸44は同軸上に配置されている。出力軸45は第1軸43と平行に配置されている。
【0040】
第1の減速機構47は2速ギヤ列48及び3速ギヤ列49を含む。第2の減速機構46は1速ギヤ列を構成する。2速ギヤ列48及び3速ギヤ列49は、第1軸43と出力軸45との間に配置されている。第2の減速機構46は、第2軸44と出力軸45との間に配置されている。変速比は、3速ギヤ列49、2速ギヤ列48、第2の減速機構46(1速ギヤ列)の順に大きい。
【0041】
第2のモータ42の最大回転速度は、第2の減速機構46(1速ギヤ列)の変速比を3速ギヤ列49の変速比で除した値を、第1のモータ41の最大回転速度に乗じた値以上にすることが望ましい。第2のモータ42によって出力軸45のトルクを補完するためである。
【0042】
出力軸45には切換装置50が配置されている。切換装置50は、第1軸43の回転を出力軸45に伝達する経路(2速ギヤ列48又は3速ギヤ列49)の切替えを行う。アクチュエータ(図示せず)を作動して切換装置50により経路を切替える。切換装置50はクラッチやブレーキが例示される。
【0043】
第2クラッチ51は第1軸43と第2軸44との間のトルクの伝達および遮断を行う。第2クラッチ51は、ツースクラッチやドッグクラッチ等のかみあいクラッチ、ディスククラッチや円すいクラッチ等の摩擦クラッチが例示される。
【0044】
動力伝達装置40の変速の動作を説明する。1速のときは、第1のモータ41は停止し、第2のモータ42は運転する。第2クラッチ51は切る。切換装置50を作動し、2速ギヤ列48及び3速ギヤ列49は空転させる。第2のモータ42の出力による第2軸44のトルクが、第2の減速機構46を介して出力軸45に伝達される。なお、第1のモータ41を運転しても良い。
【0045】
1速から2速への変速動作時は、1速の状態を維持したまま、第1のモータ41を運転し、切換装置50を作動して2速ギヤ列48を介して第1軸43のトルクを出力軸45に伝達する。1速のときに空転していた2速ギヤ列48によって第1軸43のトルクが出力軸45に伝達されるまでの間、第2の減速機構46によって第2軸44のトルクが出力軸45に伝達される。よって変速動作時の出力軸45のトルクを補完できる。
【0046】
1速において、第2クラッチ51をつなぎ、第1のモータ41と共に第2のモータ42を運転しても良い。これにより第2の減速機構24を介して第1のモータ41及び第2のモータ42の合力を出力軸45に伝達できる。
【0047】
2速のときは、第1のモータ41は運転し、第2のモータ42は停止する。切換装置50を作動して2速ギヤ列48を介して第1軸43から出力軸45に回転を伝達する。出力軸45の回転は第2の減速機構46を介して第2のモータ42へ伝達される。よって第2のモータ42の回生エネルギーを利用できる。
【0048】
2速から3速への変速動作時は、2速の状態を維持したまま、第2のモータ42を運転する。切換装置50を作動して2速ギヤ列48から3速ギヤ列49へ回転の伝達経路を変更する間、第2のモータ42の出力による第2軸44のトルクが、第2の減速機構46を介して出力軸45に伝達される。よって変速動作時の出力軸15のトルクを補完できる。
【0049】
3速のときは、第1のモータ41は運転し、第2のモータ42は停止する。3速ギヤ列49を介して第1軸43から出力軸45に回転を伝達する。出力軸45の回転は第2の減速機構46を介して第2のモータ42へ伝達される。よって第2のモータ42の回生エネルギーを利用できる。
【0050】
動力伝達装置40は、第2の減速機構46が、第2軸44の回転を1つの経路で出力軸45に伝達する。第2の減速機構46の変速比は、減速機構46,47の全ての変速比の中で最も大きい。1速から2速への変速動作時および2速から3速への変速動作時に、第2の減速機構46を介して第2のモータ42のトルクを出力軸45に伝達できるので、変速動作時の出力軸45のトルクを補完できる。特に低速走行中の変速動作時のトルクの補完に好適である。さらに車両の走行条件に応じモータ41,42の効率の良い領域を利用できるので、電力消費を低減しつつ車両の走行性能を向上できる。
【0051】
動力伝達装置40は、車両の走行条件に応じモータ41,42の効率の良い領域を利用できるので、電力消費を低減しつつ車両の走行性能を向上できる。特に低速走行の変速動作時のトルク抜けを低減できる。
【0052】
図4を参照して第4実施の形態における動力伝達装置60を説明する。第3実施形態では、第2の減速機構46を介して第2軸44のトルクが出力軸45に直接伝達される場合について説明した。これに対し第4実施形態では、出力軸45と第2の減速機構46との間に第1クラッチ63が介在する場合について説明する。第1実施形態および第3実施形態で説明した部分と同一の部分は、同一の符号を付して以下の説明を省略する。
図4は第4実施の形態における動力伝達装置60のスケルトン図である。
【0053】
動力伝達装置60は、第1軸43、第2軸44、第1軸43と異なる軸上に配置される出力軸61、第1の減速機構47、及び、第2軸44の回転を出力軸61に第3軸62を介して伝達する第2の減速機構46を備えている。出力軸61は第1軸43と平行に配置されている。第3軸62は出力軸61と同軸上に配置されている。動力伝達装置60は車両のうち、大きな低速トルクが要求される建設機械や農業機械などに搭載されるのが好ましい。
【0054】
第1クラッチ63は出力軸61と第3軸62との間のトルクの伝達および遮断を行う。第1クラッチ63は、ツースクラッチやドッグクラッチ等のかみあいクラッチ、ディスククラッチや円すいクラッチ等の摩擦クラッチ、ワンウェイクラッチが例示される。
【0055】
動力伝達装置60の変速の動作を説明する。1速のときは、第1のモータ41は停止し、第2のモータ42は運転する。第1クラッチ63はつなぐ。第2のモータ42の出力による第2軸44のトルクが、第2の減速機構46を介して第3軸62、第1クラッチ63及び出力軸61に伝達される。切換装置50を作動して2速ギヤ列48及び3速ギヤ列49を空転させると、第1のモータ41の連れ回りをなくすことができる。切換装置50を作動して2速ギヤ列48又は3速ギヤ列49を介して、出力軸61の回転を第1軸43に伝達しても良い。第1のモータ41の回生エネルギーを利用するためである。
【0056】
1速から2速への変速動作時は、1速の状態を維持したまま、第1のモータ41を運転し、切換装置50を作動して2速ギヤ列48を介して第1軸43のトルクを出力軸61に伝達する。1速のときに空転していた2速ギヤ列48によって第1軸43のトルクが出力軸61に伝達されるまでの間、第2の減速機構46によって第2軸44のトルクが出力軸61に伝達される。よって変速動作時の出力軸61のトルクを補完できる。
【0057】
2速のときは、第1のモータ41は運転し、第2のモータ42は停止する。切換装置50を作動して2速ギヤ列48を介して第1軸43から出力軸61に回転を伝達する。第1クラッチ63をつなぐと、出力軸61の回転は第2の減速機構46を介して第2のモータ42へ伝達される。よって第2のモータ42の回生エネルギーを利用できる。第1クラッチ63を切ると、第2のモータ42の連れ回りがなくなる。
【0058】
2速から3速への変速動作時は、2速の状態を維持したまま、第1クラッチ63をつなぎ、第2のモータ42を運転する。切換装置50を作動して2速ギヤ列48から3速ギヤ列49へ回転の伝達経路を変更する間、第2のモータ42の出力による第2軸44のトルクが、第2の減速機構46を介して出力軸61に伝達される。よって変速動作時の出力軸61のトルクを補完できる。
【0059】
3速のときは、第1のモータ41は運転し、第2のモータ42は停止する。3速ギヤ列49を介して第1軸43から出力軸61に回転を伝達する。第1クラッチ63をつなぐと、出力軸61の回転は第2の減速機構46を介して第2のモータ42へ伝達される。よって第2のモータ42の回生エネルギーを利用できる。第1クラッチ63を切ると、第2のモータ42の連れ回りがなくなる。
【0060】
第1のモータ41が故障したときは、第1クラッチ63をつなぎ、切換装置50を作動し、2速ギヤ列48及び3速ギヤ列49は空転させる。これにより第2のモータ42を運転して出力軸61を駆動できる。第2のモータ42が故障したときは、第1クラッチ63を切る。これにより第1のモータ41を運転して出力軸61を駆動できる。
【0061】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
【0062】
実施形態では、第1の減速機構および第2の減速機構の伝達要素がギヤの場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。第1の減速機構および第2の減速機構に他の伝達要素を採用することは当然可能である。他の伝達要素は、チェーンとスプロケット、ベルトとプーリーが例示される。
【0063】
実施形態では説明を省略したが、第1軸13,43と出力軸15,45,61との間に1本または複数本の中間軸を配置し、第1の減速機構を構成する伝達要素を中間軸に配置することは当然可能である。また、第2軸14,44と第3軸16,62との間や、第2軸44と出力軸45との間に1本または複数本の中間軸を配置し、第2の減速機構を構成する伝達要素を中間軸に配置することは当然可能である。第1の減速機構に含まれる中間軸と第2の減速機構に含まれる中間軸との間に第1クラッチを配置することは当然可能である。
【0064】
実施形態では説明を省略したが、動力伝達装置10,30,40,60が車両に搭載される場合には、前輪、後輪のいずれかを2つのモータで駆動し、残りの車輪をエンジンで駆動する4輪駆動車に適用することが可能である。前輪または後輪を2つのモータで駆動する2輪駆動車に適用したり、前輪および後輪を2つのモータで駆動する4輪駆動車に適用したりすることは当然可能である。
【0065】
実施形態では、3段の減速機構をもつ動力伝達装置10,30,40,60について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。動力伝達装置が4段以上の減速機構をもつことは当然可能である。動力伝達装置が4段以上の減速機構をもつ場合、第2の減速機構は1段の動力伝達経路をもち、第1の減速機構は3段以上の動力伝達経路をもつ。実施形態と同様に、第2の減速機構の変速比は、減速機構の全ての変速比の中で最も大きい又は小さい。
【0066】
実施形態では、第1の減速機構21,47の経路を切替える切換装置25,50が出力軸15,45,61に配置される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。第1軸13,43に切換装置25,50を配置することは当然可能である。第1軸13,43と出力軸15,45,61との間に中間軸が配置され、第1の減速機構を構成する伝達要素が中間軸に配置される場合には、中間軸に切換装置25,50を配置することは当然可能である。
【0067】
第1実施形態では、出力軸15と第3軸16との間に第1クラッチ26が配置され、第1軸13と第2軸14との間に第2クラッチ27が配置される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。第1クラッチ26及び第2クラッチ27の少なくとも一方を省略することは当然可能である。
【0068】
第3実施形態では、第1軸43と第2軸44との間に第2クラッチ51が配置される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。第2クラッチ51を省略することは当然可能である。
【0069】
第4実施形態では、出力軸61と第3軸62との間に第1クラッチ63が配置される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。第1クラッチ63を省略して、出力軸61と第3軸62とを結合することは当然可能である。
【符号の説明】
【0070】
10,30,40,60 動力伝達装置
11,12,41,42 モータ
13,43 第1軸
14,44 第2軸
15,45,61 出力軸(第1の減速機構に含まれる軸)
16,62 第3軸(第2の減速機構に含まれる軸)
21,47 第1の減速機構
24,32,46 第2の減速機構
26,33,63 第1クラッチ
27,51 第2クラッチ
31 第2軸(第2の減速機構に含まれる軸)