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特許7572557増加された表面積及び全細孔容積を有する多孔性炭素構造体の製造方法及びそれを用いて製造された多孔性炭素構造体
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  • 特許-増加された表面積及び全細孔容積を有する多孔性炭素構造体の製造方法及びそれを用いて製造された多孔性炭素構造体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】増加された表面積及び全細孔容積を有する多孔性炭素構造体の製造方法及びそれを用いて製造された多孔性炭素構造体
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/05 20170101AFI20241016BHJP
   B01J 20/20 20060101ALI20241016BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20241016BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20241016BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
C01B32/05
B01J20/20 A
B01J20/28 Z
H01M4/86 M
H01M4/86 B
H01M4/88 C
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2023533368
(86)(22)【出願日】2022-03-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-23
(86)【国際出願番号】 KR2022004493
(87)【国際公開番号】W WO2022220451
(87)【国際公開日】2022-10-20
【審査請求日】2023-05-31
(31)【優先権主張番号】10-2021-0048243
(32)【優先日】2021-04-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】518215493
【氏名又は名称】コーロン インダストリーズ インク
(74)【代理人】
【識別番号】100083138
【弁理士】
【氏名又は名称】相田 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100189625
【弁理士】
【氏名又は名称】鄭 元基
(74)【代理人】
【識別番号】100196139
【弁理士】
【氏名又は名称】相田 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100199004
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 洋
(72)【発明者】
【氏名】キム ジョンホ
(72)【発明者】
【氏名】キム ジュンヨン
(72)【発明者】
【氏名】ソン カヨン
(72)【発明者】
【氏名】コン ナコン
(72)【発明者】
【氏名】イ ジュソン
(72)【発明者】
【氏名】ナム キョンシク
(72)【発明者】
【氏名】パク チャンミ
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-517314(JP,A)
【文献】韓国公開特許第2005-0117112(KR,A)
【文献】韓国公開特許第2003-0068765(KR,A)
【文献】WAN Ying et al.,Direct Triblock-Copolymer-Templating Synthesis of Highly Ordered Fluorinated Mesoporous Carbon,Chemistry of Materials,2007年10月31日,Vol. 20,No. 3,p.1012-1018,DOI: 10.1021/cm071490y
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00 - 32/991
B01J 20/20
B01J 20/28
H01M 4/86
H01M 4/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メソポーラスシェル(mesoporous shell)を有する鋳型(template)を用意する段階、
炭素前駆体(carbon precursor)を前記鋳型に注入する段階-前記炭素前駆体は、高分子前駆体(polymer precursor)及び架橋剤(crosslinking agent)を含み、前記高分子前駆体は、ハロゲン官能基を有する第1成分及びハロゲン官能基を有しない第2成分を含み、前記高分子前駆体中の前記第1成分の含量は20~80重量%である-、
前記高分子前駆体を重合させて高分子を形成する段階、
前記高分子を炭化させることにより、鋳型-炭素複合体を得る段階、及び
前記鋳型-炭素複合体から前記鋳型を除去する段階
を含む、
多孔性炭素構造体の製造方法。
【請求項2】
前記第1成分はハロゲン化モノマー(halogenated monomer)又はNH4Fである、
請求項1に記載の多孔性炭素構造体の製造方法。
【請求項3】
前記ハロゲン化モノマーはフッ素化モノマー(fluorinated monomer)である、
請求項2に記載の多孔性炭素構造体の製造方法。
【請求項4】
前記第1成分はフルオロフェノールであり、
前記第2成分はフェノールであり、
前記架橋剤はパラホルムアルデヒドである、
請求項1に記載の多孔性炭素構造体の製造方法。
【請求項5】
前記フルオロフェノールは4-フルオロフェノールである、
請求項4に記載の多孔性炭素構造体の製造方法。
【請求項6】
前記第1成分はNH4Fであり、
前記第2成分はフェノールであり、
前記架橋剤はパラホルムアルデヒドである、
請求項1に記載の多孔性炭素構造体の製造方法。
【請求項7】
前記炭素前駆体注入段階の前に、酸(acid)で前記鋳型を処理する段階をさらに含む、
請求項1~6のいずれか1項に記載の多孔性炭素構造体の製造方法。
【請求項8】
前記酸はAlCl3を含む、
請求項7に記載の多孔性炭素構造体の製造方法。
【請求項9】
3,100~5,000m2/gのBET表面積(BET surface area)と5.0~7.2cm3/gの全細孔容積(total pore volume)を有する多孔性炭素構造体。
【請求項10】
前記多孔性炭素構造体は、3,400~5,000m2/gのBET表面積と5.7~7.2cm3 /gの全細孔容積を有する、
請求項9に記載の多孔性炭素構造体。
【請求項11】
前記多孔性炭素構造体は中空型構造体(hollow structure)である、
請求項9~10のいずれか1項に記載の多孔性炭素構造体。
【請求項12】
請求項9~10のいずれか1項による前記多孔性炭素構造体を含む吸着剤。
【請求項13】
請求項9~10のいずれか1項による前記多孔性炭素構造体を含む電気化学装置用電極。
【請求項14】
アノード、
カソード、及び
前記アノードと前記カソードと間の電解質膜
を含み、
前記アノードと前記カソードからなる群から選択される少なくとも1つの電極は、
請求項9~10のいずれか1項による前記多孔性炭素構造体、及び
前記多孔性炭素構造体上に分散している触媒金属粒子
を含む、
膜電極アセンブリ。
【請求項15】
請求項14による前記膜電極アセンブリを含む燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、増加された表面積及び全細孔容積を有する多孔性炭素構造体の製造方法及びそれを用いて製造された多孔性炭素構造体に関し、より詳しくは、多孔性炭素構造体の表面積及び全細孔容積を画期的に増加させることができる多孔性炭素構造体の製造方法及びそれを用いて製造された多孔性炭素構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
多孔性炭素構造体は、その高い表面積、高い細孔容積、優れた伝導性、優れた化学的安定性により、(i)吸着剤分野、(ii)燃料電池、二次電池、キャパシター 等のような電気化学分野等の様々な技術分野で用いられている。
多孔性炭素構造体の微細構造を精密に制御し、その表面積及び全細孔容積をさらに増加させるための努力の一環として、前記多孔性炭素構造体は、鋳型(template)を用いて製造されることが一般的である。例えば、球形(sphere shape)の無機粒子(inorganic particle)とその上に形成されたメソポーラスシェル(mesoporous shell)を有する鋳型に炭素前駆体(例えば、モノマー)を注入した後、重合(polymerization)及び炭化(carbonization)を順次に行うことにより、鋳型-炭素複合体(template-carbon complex)を製造する。続いて、前記鋳型-炭素複合体から前記鋳型を除去することにより、中空タイプ(hollow type)の多孔性炭素構造体を製造することができる。
【0003】
しかし、前述した従来の方法によって製造される多孔性炭素構造体は、その表面積及び全細孔容積が、当業界において要求されるレベル(例えば、2,000m2/g以上のBET表面積及び2.0cm3/g以上の全細孔容積)を満たすには不十分である。
さらに、一部の技術分野では、多孔性炭素構造体に要求されるBET表面積と全細孔容積のレベルがますます高くなっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明は、前記のような関連技術の制限及び欠点に起因する問題点を防止することができる多孔性炭素構造体の製造方法及びそれを用いて製造された多孔性炭素構造体に関する。
【0005】
本発明の一態様は、画期的に増加された表面積(surface area)及び全細孔容積(total pore volume)を有する多孔性炭素構造体を製造できる方法を提供することである。
本発明の他の態様は、画期的に増加された表面積及び全細孔容積を有する多孔性炭素構造体を提供することである。
本発明の他の態様は、画期的に増加された表面積及び全細孔容積を有する多孔性炭素構造を含むことにより、優れた性能を有する吸着剤を提供することである。
本発明の他の態様は、画期的に増加された表面積及び全細孔容積を有する多孔性炭素構造体を含むことにより、優れた性能を有する電気化学装置用電極を提供することである。
本発明の他の態様は、画期的に増加された表面積及び全細孔容積を有する多孔性炭素構造体をアノード及び/又はカソードに含むことにより、優れた性能を有する膜電極アセンブリを提供することである。
本発明の他の態様は、前記膜電極アセンブリを含むことにより、優れた性能を有する燃料電池を提供することである。
前述した本発明の態様の外にも、本発明の他の特徴及び利点は以下に説明されるか、またはその説明によって本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者にとって明確に理解できるだろう。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記のような本発明の一態様により、メソポーラスシェル(mesoporous shell)を有する鋳型(template)を用意する段階、炭素前駆体(carbon precursor)を前記鋳型に注入する段階-前記炭素前駆体は、高分子前駆体(polymer precursor)及び架橋剤(crosslinking agent)を含み、前記高分子前駆体は、ハロゲン官能基を有する第1成分及びハロゲン官能基を有しない第2成分を含み、前記高分子前駆体中の前記第1成分の含量は20~80重量%である-、前記高分子前駆体を重合させて高分子を形成する段階、前記高分子を炭化させることにより鋳型-炭素複合体を得る段階、及び前記鋳型-炭素複合体から前記鋳型を除去する段階を含む、多孔性炭素構造体の製造方法が提供される。
【0007】
前記第1成分は、ハロゲン化モノマー(halogenated monomer)又はNH4Fであってもよい。
前記ハロゲン化モノマーはフッ素化モノマー(fluorinated monomer)であってもよい。
前記第1成分はフルオロフェノールであってもよく、前記第2成分はフェノールであってもよく、前記架橋剤はパラホルムアルデヒドであってもよい。
前記フルオロフェノールは4-フルオロフェノールであってもよい。
前記第1成分はNH4Fであってもよく、前記第2成分はフェノールであってもよく、前記架橋剤はパラホルムアルデヒドであってもよい。
前記方法は、前記炭素前駆体注入段階の前に、酸(acid)で前記鋳型を処理する段階をさらに含んでもよい。
前記酸はAlCl3を含んでもよい。
【0008】
本発明の他の態様により、2,000~5,000m2/gのBET表面積(BET surface area)および2.0~7.2cm3 /gの全細孔容積(total pore volume)を有する多孔性炭素構造体が提供される。
前記多孔性炭素構造体は、2,300~5,000m2/gのBET表面積と2.8~7.2 cm3/gの全細孔容積を有してもよい。
前記多孔性炭素構造体は、3,100~5,000m2/gのBET表面積と5.0~7.2 cm3/gの全細孔容積を有してもよい。
前記多孔性炭素構造体は、3,400~5,000m2/gのBET表面積と5.7~7.2 cm3/gの全細孔容積を有してもよい。
前記多孔性炭素構造体は中空型構造体(hollow structure)であってもよい。
本発明の他の態様によって、前記多孔性炭素構造体を含む吸着剤が提供される。
本発明の他の態様によって、前記多孔性炭素構造体を含む電気化学装置用電極が提供される。
【0009】
本発明の他の態様によって、アノード、カソード、及び前記アノードと前記カソードとの間の電解質膜を含み、前記アノードと前記カソードからなる群から選択される少なくとも1つの電極は、前記多孔性炭素構造体、及び前記多孔性炭素構造体上に分散している触媒金属粒子を含む、膜電極アセンブリが提供される。
本発明の他の態様によって、前記膜電極アセンブリを含む燃料電池が提供される。
前記のような本発明に関する一般的な記述は、本発明を例示又は説明するためのものであり、本発明の権利範囲を限定しない。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、従来技術が有していた限界を超え、画期的に増加された表面積及び全細孔容積を有する多孔性炭素構造体を提供することができる。したがって、本発明は、関連分野の技術発展によるより高いレベルの表面積及び全細孔容積の多孔性炭素構造体に対する要求に応えることができる。
また、本発明の多孔性炭素構造体は、それを含む吸着剤の性能を向上させることができるだけでなく、それを含む電気化学装置(例えば、燃料電池、二次電池、キャパシター等)の性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
添付した図面は、本発明の理解を助け、本明細書の一部を構成するためのものであって、本発明の実施例を例示し、発明の詳細な説明と共に本発明の原理を説明する。
図1】本発明の一実施例による多孔性炭素構造体の製造方法を示す概略図(schematic diagram)である。
図2】本発明の「ハロゲン官能基を有する成分」を含む炭素前駆体と、従来の炭素前駆体の重合及び炭化によりそれぞれ得られた炭素構造体のBET吸脱着等温曲線(BET adsorption/desorption isotherm curves)である。
図3a】製造例2の鋳型の透過電子顕微鏡(transmission electron microscope:TEM)写真である。
図3b】比較例2aの多孔性炭素構造体のTEM写真である。
図3c】実施例2aの多孔性炭素構造体のTEM写真である。
図3d】実施例2bの多孔性炭素構造体のTEM写真である。
図3e】実施例2cの多孔性炭素構造体のTEM写真である。
図3f】比較例2bの多孔性炭素構造体のTEM写真である。
図4】実施例1a~1cの多孔性炭素構造体と比較例1a及び1bの多孔性炭素構造体のBET吸脱着等温曲線である。
図5】実施例2a~2cの多孔性炭素構造体と比較例2a及び2bの多孔性炭素構造体のBET吸脱着等温曲線である。
【発明の実施のための形態】
【0012】
以下、添付の図面を参照して、本発明の実施例を詳細に説明する。ただし、以下に説明する実施例は、本発明の明確な理解を助けるための例示的な目的で提示されるものであり、本発明の範囲を限定しない。
図1は、本発明の一実施例による多孔性炭素構造体の製造方法を示す概略図である。
図1に示すように、本発明の方法は、メソポーラスシェル(12)を有する鋳型(10)を用意する段階、炭素前駆体(20)を前記鋳型(10)に注入する段階、前記炭素前駆体(20)を重合させて高分子を形成する段階、前記高分子を炭化させて鋳型-炭素複合体(template-carbon complex)を得る段階、及び前記鋳型-炭素複合体から前記鋳型(10)を除去する段階を含む。
【0013】
前記鋳型(10)用意段階は、球形(sphere shape)の無機粒子(11)上にメソポーラスシェル(12)を形成する段階を含むことができる。
前記無機粒子(11)は、ジルコニア、アルミナ、チタニア、シリカ、及びセリアなどの無機酸化物を含んでもよい。例えば、10nm~1000nmの直径を有する商業的に購入可能なシリカ粒子が前記無機粒子(11)として使用されてもよい。あるいは、前記シリカ粒子は、アンモニア水溶液、エタノールおよび脱イオン水の混合溶液にテトラエチルオルトシリケート(tetraethyl orthosilicate) (TEOS)(「テトラエトキシシラン」とも呼ばれる)を添加し、十分な時間攪拌することによって調製されてもよい。
以下、説明の便宜上、シリカ粒子を前記無機粒子(11)として含む鋳型(10)の調製方法を具体的に説明する。
まず、シリカ粒子(11)を分散媒(例えば、エタノールと水の混合分散媒)に投入して得られた分散液にTEOSとオクタデシルトリメトキシシラン(octadecyltrimethoxysilane)(C18-TMS)を添加し、十分な時間攪拌する。ここで、前記C18-TMSはシランカップリング剤としての機能を果たす。C18-TMSに対するTEOSのモル比を調節することにより、下記焼成(calcination)工程を通じて形成される前記メソポーラスシェル(12)の細孔(pore)サイズを2~50nmの範囲内で調節することができるが、例えば、前記モル比は3~50であってもよい。前記C18-TMSに対する前記TEOSのモル比が大きいほど、メソポーラスシェル(12)の細孔サイズが小さくなる傾向がある。
【0014】
続いて、シリカ粒子(11)を、例えば、遠心分離により前記分散液から分離した後、炉(furnace)に投入し、500℃~600℃(例えば、約550℃)で5~7時間焼成を行う。このような焼成工程により、前記シランカップリング剤(すなわち、C18-TMS)の有機官能基が除去されることにより、前記メソポーラスシェル(12)を前記シリカ粒子(11)上に形成することができる。
選択的工程(optional process)として、このようにして得られた鋳型(10)を酸(acid)で処理することができる。例えば、AlCl3を含有する酸溶液に前記鋳型(10)を浸漬した後、乾燥し、引き続き500℃~600℃(例えば、約550℃)で2~4時間焼成を行うことにより、アルミノシリカ(aluminosilica)メソポーラスシェル(12)を有する鋳型(10)を用意することができる。このような酸処理を通じて前記鋳型(10)の表面に酸点(acid sites)を提供することで表面反応を誘導することができ、その結果、前記鋳型(10)を通じて製造される多孔性炭素構造体(100)の表面積及び全細孔容積を最大化することができる。
続いて、図1に示すように、炭素前駆体(20)を前記鋳型(10)に注入する。前記炭素前駆体(20)の注入方法は、本発明において特に限定されない。例えば、前記炭素前駆体(20)は、真空-充填(vacuum-filling)などの方法により、前記鋳型(10)のメソ細孔(mesopores)に注入されてもよい。
【0015】
本発明によれば、前記炭素前駆体(20)は、高分子前駆体及び架橋剤を含み、前記高分子前駆体は、ハロゲン官能基を有する第1成分及びハロゲン官能基を有しない第2成分を含む。前記第1及び第2成分のそれぞれは、モノマーであってもよい。あるいは、前記第1成分はハロゲン化剤(halogenating agent)であり、前記第2成分のみがモノマー成分であってもよい。場合によっては、前記炭素前駆体(20)は、前記モノマー成分(ら)の重合のための開始剤をさらに含んでもよい。
前記モノマー成分(ら)は、縮合重合(condensation polymerization)または付加重合(addition polymerization)を通じて高分子を形成することができる。例えば、前記炭素前駆体(20)は、縮合重合を通じてフェノール系樹脂(phenolic resin)を形成することができるフェノール系モノマー(ら)をモノマー成分(ら)として含み、パラホルムアルデヒドを架橋剤として含んでもよい。
ハロゲン官能基を有する前記第1成分は、ハロゲン化モノマー(halogenated monomer)及び/又はNH4Fであってもよい。前記ハロゲン化モノマーは、前記第2成分と同じモノマーがハロゲン官能基で置換されたものであって、フッ素化モノマー(fluorinated monomer)、塩化モノマー(chlorinated monomer)、臭素化モノマー(brominated monomer)、またはヨウ素化モノマー(iodinated monomer)であってもよく、好ましくはフッ素化モノマーであってもよい。
【0016】
例えば、前記炭素前駆体(20)が、前記第2成分としてフェノールを含み、パラホルムアルデヒドを前記架橋剤として含む場合、前記第1成分は、フルオロフェノール(fluorophenol)、クロロフェノール(chlorophenol)、ブロモフェノール(bromophenol)、およびヨードフェノール(iodophenol)のようなハロゲン化フェノール(halogenated phenol)であってもよく、好ましくはフルオロフェノール、さらに好ましくは4-フルオロフェノールであってもよい。すなわち、本発明の一実施例による前記炭素前駆体(20)は、4-フルオロフェノール、フェノール、およびパラホルムアルデヒドを含んでもよい。
あるいは、ハロゲン化モノマーの代わりに、又はそれに加えて、本発明の前記炭素前駆体(20)は、ハロゲン官能基を有する前記第1成分としてNH4Fを含んでもよい。例えば、本発明の一実施例による前記炭素前駆体(20)は、NH4F、フェノール、およびパラホルムアルデヒドを含んでもよい。
本発明の発明者らは、前記炭素前駆体(20)内に含有されている前記「ハロゲン官能基を有する第1成分」が、前記炭素前駆体(20)の重合及び炭化によって得られる炭素構造体の表面積を顕著に増加させることを見出した。
図2は、本発明の「ハロゲン官能基を有する第1成分」を含む炭素前駆体と、従来の炭素前駆体の重合及び炭化によってそれぞれ得られた炭素構造体のBET吸脱着等温曲線(BET adsorption/desorption isotherm curves)である。
【0017】
具体的には、図2のグラフは、(i)フェノール及びパラホルムアルデヒドと共に4-フルオロフェノールを含む炭素前駆体(フェノール:0.2g、4-フルオロフェノール:0.2g)を160℃で6時間加熱して重合させた後、Ar雰囲気下で、1000℃で6時間炭化させて得られた第1炭素前駆体のBET吸脱着等温曲線、(ii)フェノール及びパラホルムアルデヒドと共にNH4Fを含む炭素前駆体(フェノール:0.3g、NH4F:0.1g)を160℃で6時間加熱して重合させた後、Ar雰囲気下で、1000℃で6時間炭化させて得られた第2炭素前駆体のBET吸脱着等温曲線、及び(iii)フェノール及びパラホルムアルデヒドを含む炭素前駆体(フェノール:0.4g)を160℃で6時間加熱して重合させた後、Ar雰囲気下で、1000℃で6時間炭化させて得られた第3炭素前駆体のBET吸脱着等温曲線をそれぞれ示す。
図2によって立証されるように、モノマーである第2成分に加えて、4-フルオロフェノール又はNH4Fのような「ハロゲン官能基を有する第1成分」をさらに含む本発明の炭素前駆体(20)から得られる炭素構造体(すなわち、第1及び第2炭素構造体)は、前記モノマー成分である第2成分のみを含み、いかなる「ハロゲン官能基を有する成分」も含まない炭素前駆体から得られる炭素構造体(すなわち、第3炭素構造体)と比較して、はるかに大きな表面積を有する。
【0018】
本発明の一実施例によれば、前記第1及び第2成分を含む高分子前駆体におけるハロゲン官能基を有する前記第1成分の含量は、20~80重量%、より好ましくは25~75重量%である。ハロゲン官能基を有する前記第1成分の前記高分子前駆体中の含量が20重量%未満であると、本発明によって意図される炭素構造体の表面積増大効果が微々たることがある。一方、ハロゲン官能基を有する前記第1成分の前記高分子前駆体中の含量が80重量%を超えると、炭素構造体の構造崩壊が引き起こされ、その表面積がむしろ減少する結果が生じる。
再び図1を参照すると、炭素前駆体(20)を金型(10)に注入した後、前記炭素前駆体(20)(より具体的には、高分子前駆体、さらに具体的には、モノマー成分(ら))を重合させて高分子を形成する。前記重合反応の温度及び時間は、前記炭素前駆体(20)を構成する成分によって決定することができる。例えば、前記炭素前駆体(20)がフェノール系モノマー(ら)及びパラホルムアルデヒドを含む場合、前記重合反応は150~200℃の温度で5~7時間行うことができる。
【0019】
続いて、前記炭素前駆体(20)の重合により形成された前記高分子を炭化させることにより、鋳型-炭素複合体を得る。前記炭化工程は、Ar、N2などの非反応性ガスの存在下で、800~1200℃の温度で5~7時間行うことができる。
続いて、前記鋳型-炭素複合体から前記鋳型(10)を除去することにより、本発明の多孔性炭素構造体(100)を得ることができる。例えば、強塩基(例えば、NaOH、KOHなど)または強酸(例えば、HF)で前記鋳型(10)を溶解し、エタノール、水、またはこれらの混合液で残留構造体を洗浄し、前記洗浄液の沸点以上で十分な時間乾燥させることにより、前記多孔性炭素構造体(100)を得ることができる。
【0020】
前述した方法により得られる本発明の多孔性炭素構造体(100)は、2,000~5,000m2/g、より好ましくは2,300~5,000m2/gの高いBET表面積(BET surface area)及び2.0~7.2cm3/g、さらに好ましくは2.8~7.2cm3/gの高い全細孔容積(total pore volume)を有する。
特に、前記炭素前駆体(20)を前記鋳型(10)に注入する前に、前記鋳型(10)が酸処理(acid treatment)(例えば、AlCl3を用いて)及び焼成を経る場合、最終的に得られる多孔性炭素構造体(100)は、3,100~5,000m2/g、より好ましくは3,400~5,000m2/gのより高いBET表面積及び5.0~7.2cm3/g、さらに好ましくは5.7~7.2cm3/gのより高い全細孔容積を有するようになる。
本発明の多孔性炭素構造体(100)は、図1に示したような中空型構造体であってもよい。
本発明の多孔性炭素構造体(100)は、吸着剤及び/又は電気化学装置用電極の製造に使用することにより、それらの性能を向上させることができる。
例えば、本発明の多孔性炭素構造体(100)は、燃料電池用の膜電極アセンブリの製造に用いられることができる。すなわち、アノード、カソード、および前記アノードとカソードとの間の電解質膜を含む膜電極アセンブリにおいて、前記アノードと前記カソードからなる群から選択される少なくとも一つの電極が、本発明の多孔性炭素構造体(100)及び前記多孔性炭素構造体(100)上に分散している触媒金属粒子を含むことができる。
以下、製造例、実施例及び比較例を通じて本発明を具体的に説明する。ただし、下記製造例及び実施例は、本発明の理解を助けるためのものであり、これによって本発明の権利範囲が限定されてはならない。
【0021】
[鋳型製造]
製造例1
市販のシリカナノ粒子をエタノールと水の混合分散媒に分散させて混合物を得た。前記混合物にTEOS及びC18-TMSを添加し、4時間攪拌した。続いて、遠心分離により前記混合物から分離したシリカナノ粒子を550℃で6時間焼成することにより、前記シリカナノ粒子のそれぞれにメソポーラスシェルが形成された鋳型を製造した。
製造例2
製造例1で得られた鋳型を0.2gのAlCl3-含有溶液に浸漬した後、乾燥し、550℃で3時間焼成を行うことにより、アルミノシリカ(aluminosilica)メソポーラスシェルを有する鋳型を製造した。
【0022】
[製造例1の鋳型を用いた多孔性炭素構造体の製造]
実施例1a
製造例1で得られた鋳型のメソ細孔に、炭素前駆体を真空-充填法により注入した。前記炭素前駆体は、高分子前駆体(4-フルオロフェノール+フェノール)及び架橋剤(パラホルムアルデヒド)を含む。前記高分子前駆体における4-フルオロフェノールとフェノールの量はそれぞれ0.1gと0.3gであった。続いて、前記炭素前駆体が注入された鋳型を160℃で6時間加熱し、前記炭素前駆体の重合を行った。続いて、Ar雰囲気下で、1000℃で6時間前記高分子を炭化させることにより、鋳型-炭素複合体を得た。続いて、前記鋳型-炭素複合体から前記鋳型(10)をHFで溶解させて除去し、残留構造体を洗浄及び乾燥することにより、多孔性炭素構造体を完成した。
実施例1b
前記高分子前駆体中の4-フルオロフェノールとフェノールの量がいずれも0.2gであったことを除いて、前記実施例1aと同じ方法で多孔性炭素構造体を完成した。
実施例1c
前記高分子前駆体中の4-フルオロフェノールとフェノールの量がそれぞれ0.3gと0.1gであったことを除いて、前記実施例1aと同じ方法で多孔性炭素構造体を完成した。
比較例1a
前記高分子前駆体がフェノール(0.4g)のみを含み、4-フルオロフェノールは含まないことを除いて、前記実施例1aと同じ方法で多孔性炭素構造体を完成した。
比較例1b
前記高分子前駆体が4-フルオロフェノール(0.4g)のみを含み、フェノールは含まないことを除いて、前記実施例1aと同じ方法で多孔性炭素構造体を完成した。
【0023】
[製造例2の鋳型を用いた多孔性炭素構造体の製造]
実施例2a
製造例1の鋳型の代わりに製造例2の鋳型を用いたことを除いて、前記実施例1aと同じ方法で多孔性炭素構造体を完成した。
実施例2b
前記高分子前駆体中の4-フルオロフェノールとフェノールの量がいずれも0.2gであったことを除いて、前記実施例2aと同じ方法で多孔性炭素構造体を完成した。
実施例2c
前記高分子前駆体中の4-フルオロフェノールとフェノールの量がそれぞれ0.3gと0.1gであったことを除いて、前記実施例2aと同じ方法で多孔性炭素構造体を完成した。
比較例2a
前記高分子前駆体がフェノール(0.4g)のみを含み、4-フルオロフェノールは含まないことを除いて、前記実施例2aと同じ方法で多孔性炭素構造体を完成した。
比較例2b
前記高分子前駆体が4-フルオロフェノール(0.4g)のみを含み、フェノールは含まないことを除いて、前記実施例2aと同じ方法で多孔性炭素構造体を完成した。
【0024】
[電子透過顕微鏡(TEM)分析]
アルミノシリカメソポーラスシェルを有する製造例2の鋳型、および実施例2a~2cと比較例2aおよび2bの多孔性炭素構造体の透過電子顕微鏡写真を図3に示した。図3aは製造例2の鋳型のTEM写真であり、図3bは炭素前駆体中の4-フルオロフェノールの含量が0重量%であった比較例2aの多孔性炭素構造体のTEM写真であり、図3cは炭素前駆体中の4-フルオロフェノールとフェノールの重量比が1:3であった実施例2aの多孔性炭素構造体のTEM写真であり、図3dは炭素前駆体中の4-フルオロフェノールとフェノールの重量比が1:1であった実施例2bの多孔性炭素構造体のTEM写真であり、図3eは炭素前駆体中の4-フルオロフェノールとフェノールの重量比が3:1であった実施例2cの多孔性炭素構造体のTEM写真であり、図3fは炭素前駆体中のフェノールの含量が0重量%であった比較例2bの多孔性炭素構造体のTEM写真である。
図3b図3eは、ハロゲン官能基を有する成分(すなわち、4-フルオロフェノール)の高分子前駆体中の含量(または、ハロゲン官能基を有しない第2成分に対するハロゲン官能基を有する第1成分の重量比)が増加するほど、中空型炭素構造体のメソポーラスシェルの気孔度(porosity)が増加することを示す。一方、図3fから分かるように、ハロゲン官能基を有する成分(すなわち、4-フルオロフェノール)の高分子前駆体中の含量が過度に高い場合、炭素構造体の構造において崩壊が引き起こされた。
【0025】
[BET(Brunauer-Emmett-Teller)表面積分析]
BET分析器(Micromeritics、ASAP-2020)を用いて実施例と比較例の多孔性炭素構造体のBET吸脱着等温曲線を得た。図4は実施例1a~1cの多孔性炭素構造体と比較例1a及び1bの多孔性炭素構造体のBET吸脱着等温曲線であり、図5は実施例2a~2cの多孔性炭素構造体と比較例2a及び2bの多孔性炭素構造体のBET吸脱着等温曲線である。
ハロゲン官能基を有する成分(すなわち、4-フルオロフェノール)を適切な量で含む炭素前駆体を用いて製造された本発明の実施例の多孔性炭素構造体が、前記ハロゲン官能基を有する成分を含まない炭素前駆体を用いて製造された比較例1a及び2aの多孔性炭素構造体に比べて、はるかに大きな表面積を有することが図4及び図5から確認された。
一方、ハロゲン官能基を有する成分を過度に多く含む炭素前駆体で多孔性炭素構造体を製造する場合、前記炭素構造体の構造において崩壊が引き起こされ、その表面積がむしろ減少するという事実を比較例1b及び2bのBET吸脱着等温曲線から確認することができる。
また、BET分析器(Micromeritics、ASAP-2020)を用いて、製造例の鋳型と実施例及び比較例の多孔性炭素構造体のBET表面積(SBET)、マイクロ細孔容積(VMICRO)、メソ細孔容積(VMESO)、全細孔容積(VTOTAL)、及び細孔サイズ(pore size)をそれぞれ測定した。具体的には、ランダムに5つのサンプルを取り、前記物理的特性をそれぞれ測定し、各物理的特性別にその測定値の平均を計算して下記の表1に示した。
【表1】
【0026】
表1から分かるように、比較例の多孔性炭素構造体が1500m2/g未満の比較的低いBET表面積(SBET)と2.0cm3/g未満の比較的低い全細孔容積(VTOTAL )を有することに対し、本発明の実施例の多孔性炭素構造体は、2,000~4,400m2/g、より具体的には2,300~4,400m2/gの高いBET表面積(SBET)及び2.0~6.8cm3 /g、さらに具体的には2.8~6.8 cm3/gの高い全細孔容積(VTOTAL )を有する。
特に、製造例1の鋳型を、AlCl3を含む酸溶液に浸漬した後、乾燥及び焼成を行うことによって得られた製造例2の鋳型を用いてそれぞれ製造された実施例2a~2cの多孔性炭素構造体は、3,100~4,400m2/g、より具体的には3,400~4,400m2/gの顕著に高いBET表面積(SBET)及び5.0~6.8cm3/g、さらに具体的には5.7~6.8cm3/gのはるかに高い全細孔容積(VTOTAL)を有することが確認できる。
一方、実施例2a~2cは、2つの細孔サイズの値をそれぞれ示したが、これはこれらの炭素構造体の気孔がバイモーダル(bimodal)形態を有することを意味する。
図1
図2
図3
図4
図5