(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】新規なビフィドバクテリウムアニマリスラクティスHEM20-01菌株、及び前記菌株又はその培養物を含むうつ病の治療用組成物
(51)【国際特許分類】
C12N 1/20 20060101AFI20241016BHJP
A23L 33/135 20160101ALI20241016BHJP
A61K 35/745 20150101ALI20241016BHJP
A61P 25/24 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
C12N1/20 A
A23L33/135
A61K35/745
A61P25/24
C12N1/20 E
(21)【出願番号】P 2023538660
(86)(22)【出願日】2021-12-14
(86)【国際出願番号】 KR2021018915
(87)【国際公開番号】W WO2022145807
(87)【国際公開日】2022-07-07
【審査請求日】2023-06-21
(31)【優先権主張番号】10-2020-0184265
(32)【優先日】2020-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【微生物の受託番号】KCTC KCTC14143BP
(73)【特許権者】
【識別番号】522074556
【氏名又は名称】エイチイエム ファーマ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【氏名又は名称】久松 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】パク,ソ ヨン
(72)【発明者】
【氏名】ジ,ヨ セフ
【審査官】鈴木 崇之
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-510311(JP,A)
【文献】Nutrients,2020年03月,Vol. 12, No. 892,pp. 1-17
【文献】Frontires in Immunology,2020年10月,Vol. 11, Article 569104,pp. 1-15
【文献】DARU Journal of Pharmaceutical Science,2020年02月,Vol. 28,pp. 181-189
【文献】Brain, Behavior, and Immunity,2015年,Vol. 48,pp. 258-264
【文献】International Journal of Systematic Evolutionary Microbiology,2004年,Vol. 54,pp. 1137-1143
【文献】Current Neuropharmacology,2016年,Vol. 14,p. 952-958
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-7/08
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビフィドバクテリウムアニマリスラクティス(Bifidobacterium animalis subsp.lactis)HEM20-01菌株(KCTC14143BP)。
【請求項2】
前記菌株は、血中コルティコステロンを低減するものである、請求項1に記載の菌株。
【請求項3】
前記菌株は、血中エンドトキシンを低減するものである、請求項1に記載の菌株。
【請求項4】
前記菌株は、腸管透過性を改善するものである、請求項1に記載の菌株。
【請求項5】
前記菌株は、IL-1β、IL-6、TNF-α及びIFN-γから構成された群より選択された1つ以上の炎症性サイトカインの発現量を低減するものである、請求項1に記載の菌株。
【請求項6】
ビフィドバクテリウムアニマリスラクティス(Bifidobacterium animalis subsp.lactis)HEM20-01菌株(KCTC14143BP)又は
、ビフィドバクテリウムアニマリスラクティス(Bifidobacterium animalis subsp.lactis)HEM20-01菌株(KCTC14143BP)を含む培養物を有効成分として含む、うつ病の予防又は改善用食品組成物。
【請求項7】
ビフィドバクテリウムアニマリスラクティス(Bifidobacterium animalis subsp.lactis)HEM20-01菌株(KCTC14143BP)又は
、ビフィドバクテリウムアニマリスラクティス(Bifidobacterium animalis subsp.lactis)HEM20-01菌株(KCTC14143BP)を含む培養物を有効成分として含む、うつ病の治療又は予防用薬学組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、ビフィドバクテリウムアニマリスラクティス(Bifidobacterium animalis subsp.lactis)HEM20-01菌株(KCTC14143BP)、それを含むうつ病の治療又は予防用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
大うつ病性障害(Major Depressive Disorder、うつ病)は、現在、世界的に障害の主な原因であり、2030年まで心臓疾患をしのいで1位の疾病負担となるものと予想されている(Reddy,2010;Tucci and Moukaddam,2017)。
【0003】
これに係り、最近、腸内微生物叢と大うつ病性障害との間に潜在的因果関係が報告されている。腸内微生物叢が神経系、免疫系、及び内分泌系の間で起こる意思疎通の経路に積極的に関与すると知られており、微生物叢-腸-脳(MGB、Microbiota-gut-brain)という軸(axis)が大うつ病性障害の研究において重要な土台となった((Sherwin et al.,2016;Thursby and Juge,2017;van de Guchte et al.,2018)。
【0004】
先行研究によると、健康な人と比較したとき、大うつ病性障害の患者の腸内微生物叢が異なるプロファイルを有していると報告されている。大うつ病性障害の患者には、Faecalibacterium、Bifidobacterium、Lactobacillus、Dialister属が減少すると知られており、Clostridium、Streptococcus、Klebsiella、Oscillibacter、Allistipes属などが増加すると知られている。また、無菌マウス(Germ-free mice)に大うつ病性障害の患者の糞便微生物菌叢を移植したとき、健康な人の微生物菌叢を移植したときとは異なって、うつ様行動を有意に見せたと報告されている(Kellyetal.,2016;Zheng et al.,2016)。よって、腸内微生物叢に重点をおいて、MGB軸の観点から大うつ病性障害を扱うことが強調されている。
【0005】
特に、プロバイオティクスでMGB軸を調節することで大うつ病性障害を治療する研究が前臨床、臨床で多く進行されている。それにより、プロバイオティクスの抗うつ効能メカニズムが数回報告されており、プロバイオティクスの投与による腸由来神経伝達物質の生成、酪酸の生成による腸機能の改善及び腸由来神経ホルモン生成の増進、菌来由タンパク質と免疫の抗炎症作用などが報告されている(Yong et al.,2020)。
【0006】
特に、先行臨床研究において、健康な成人男女40名を対象(対照群20名、試験群20名)に4週間B.animalis spp.lactisを含んだ菌株混合粉末(5×109CFU)を投与した後、悲しい事を思い浮かべるときに感じられる憂鬱感及び不安感の自己報告(Leiden Index of Depression Sensitivity-Revised,LEIDS-R)を実行し、乳酸菌投与群が攻撃性及び反芻が有意に減少することを確認した(Steenbergen et al.,2015)。
【0007】
うつ病の治療のための組成物に対する研究結果として、ビフィドバクテリウム・ビフィドゥムを含む組成物(大韓民国公開特許第10-2017-0129718号)などがあるが、うつ病の治療又は予防と関連して優れた効果を奏する組成物に対する開発及び研究が依然として必要とされている。
【0008】
そこで、本発明者らは、うつ病を治療又は予防できる優れた組成物を開発するために鋭意努力した結果、コルチコステロン、エンドトキシン、及び炎症性サイトカインを低減する新規な菌株を開発して、本発明を完成した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本願は、ビフィドバクテリウムアニマリスラクティス(Bifidobacterium animalis subsp.lactis)HEM20-01菌株(KCTC14143BP)、前記菌株を含むうつ病の治療又は予防用組成物を提供する。
【0010】
しかし、本願が解決しようとする課題は、上記したような課題に限定されるものではなく、言及されていない他の課題は、以下の記載から当業者にとって明確に理解できるはずである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願の第1の側面は、ビフィドバクテリウムアニマリスラクティス(Bifidobacterium animalis subsp.lactis)HEM20-01菌株(KCTC14143BP)を提供する。
【0012】
本願の第2の側面は、ビフィドバクテリウムアニマリスラクティス(Bifidobacterium animalis subsp.lactis)HEM20-01菌株(KCTC14143BP)又はその培養物を有効成分として含む、うつ病の予防又は改善用食品組成物を提供する。
【0013】
本願の第3側面は、ビフィドバクテリウムアニマリスラクティス(Bifidobacterium animalis subsp.lactis)HEM20-01菌株(KCTC14143BP)又はその培養物を有効成分として含む、うつ病の治療又は予防用薬学組成物を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本願の一具現例に係るビフィドバクテリウムアニマリスラクティス(Bifidobacterium animalis subsp.lactis)HEM20-01菌株(KCTC14143BP)は、コルチコステロン、エンドトキシン及び炎症性サイトカインを低減することで、うつ病を治療又は予防することができるところ、前記菌株は、食品組成物、健康機能食品組成物、薬学組成物などに応用されることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】ビフィドバクテリウムアニマリスラクティス(Bifidobacterium animalis subsp.lactis)HEM20-01菌株処理による酪酸の生成促進能を確認するための試験の結果を示す図である。
【
図2】うつ様行動の改善能を確認するための砂糖水嗜好性試験の結果を示す図である。
【
図3】うつ様行動の改善能を確認するための新奇環境摂食抑制試験の結果を示す図である。
【
図4】うつ様行動の改善能を確認するための噴霧試験の結果を示す図である。
【
図5】うつ様行動の改善能を確認するための高架式十字迷路試験の結果を示す図である。
【
図6】うつ様行動の改善能を確認するための尾懸垂試験の結果を示す図である。
【
図7】うつ様行動の改善能を確認するための強制水泳試験の結果を示す図である。
【
図8】ストレスホルモンの改善能を確認するために、血中コルティコステロンを測定した結果を示す図である。
【
図9】血中エンドトキシンを測定した結果を示す図である。
【
図10】腸管透過性の改善能を確認するために、小腸末端と大腸との密着結合タンパク質の発現量を定量的リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(qRT-PCR)を通じて確認した結果を示す図である。
【
図11】炎症指標の改善能を確認するために、小腸末端と大腸において炎症性サイトカイン(IL-1β、IL-6、TNF-α、IFN-γ)の発現量を定量的リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(qRT-PCR)を通じて確認した結果を示す図である。
【
図12】炎症指標の改善能を確認するために、小腸末端と大腸において炎症性サイトカイン(IL-1β、IL-6、TNF-α、IFN-γ)の発現量を定量的リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(qRT-PCR)を通じて確認した結果を示す図である。
【
図13】炎症指標の改善能を確認するために、海馬において炎症性サイトカイン(IL-1β、IL-6、TNF-α、IFN-γ)の発現量を定量的リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(qRT-PCR)を通じて確認した結果を示す図である。
【
図14】炎症指標の改善能を確認するために、海馬において炎症性サイトカイン(IL-1β、IL-6)の数値を酵素免疫測定法(ELISA)を通じて確認した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下では、添付した図面を参照しながら、本願の属する技術分野において通常の知識を有する者が容易に実施できるように本願の実施例を詳しく説明する。ところが、本願は様々な異なる形態に具現されることができ、ここで説明する実施例に限定されるものではない。そして、図面において、本願を明確に説明するために、説明とは関係ない部分は省略しており、明細書全体に亘って類似した部分に対しては類似した図面符号を付けている。
【0017】
本願の明細書全体において、ある部材が他の部材の「上に」位置しているという場合、これは、ある部材が他の部材に接している場合だけでなく、両部材の間にまた他の部材が存在する場合も含む。
【0018】
本願の明細書全体において、ある部分がある構成要素を「含む」という場合、これは、特に反対の記載がない限り、他の構成要素を除くのではなく、他の構成要素をさらに含み得ることを意味する。本願の明細書全体において使用される程度の用語「約」、「実質的に」などは、言及された意味に固有の製造及び物質許容誤差が提示される場合、その数値で、又はその数値に近接した意味として使用され、本願の理解を助けるために正確あるいは絶対的な数値が言及された開示内容を非良心的な侵害者が不当に利用することを防止するために使用される。本願の明細書全体において使用される程度の用語「~(する)ステップ」又は「~のステップ」は、「~のためのステップ」を意味するものではない。
【0019】
本願の明細書全体において、マーカッシュ形式の表現に含まれた「これらの組み合わせ(たち)」の用語は、マーカッシュ形式の表現に記載された構成要素からなる群より選択される1つ以上の混合又は組み合わせを意味するものであり、上記構成要素からなる群より選択される1つ以上を含むことを意味する。
【0020】
本願の明細書全体において、「A及び/又はB」の記載は、「A又はB、あるいはA及びB」を意味する。
【0021】
以下では、添付した図面を参照しながら本願の具現例及び実施例を詳しく説明する。しかし、本願がこのような具現例及び実施例と図面に限定されるものではない。
【0022】
本願の第1の側面は、ビフィドバクテリウムアニマリスラクティス(Bifidobacterium animalis subsp.lactis)HEM20-01菌株(KCTC14143BP)を提供する。
【0023】
本願の一具現例において、前記菌株は、コルティコステロンを低減するものであり得るし、具体的に、基底状態の血中コルティコステロンを低減するものであり得る。
【0024】
本願の明細書全体において使用される用語「コルチコステロン(corticosterone)」は、副腎皮質ホルモンの一種であって、ストレス状況において身体的恒常性が崩れたときに、視床下部-下垂体-副腎軸(HPA axis;Hypothalamus-pituitary-adrenalaxis)の作用で副腎皮質から分泌されるストレスホルモンであり、過多分泌されると免疫系を撹乱させ、ストレス調節回路を損傷させて、うつ病のような精神疾患を引き起こすと知られている。
【0025】
よって、本願のビフィドバクテリウムアニマリスラクティスHEM20-01菌株は、血中コルティコステロンを低減させ、これにより、うつ病の治療効果を奏することが分かる。
【0026】
本願の一具現例において、前記菌株は、エンドトキシンを低減するものであり得るし、具体的に、前記菌株は、血中エンドトキシンを低減するものであり得る。
【0027】
本願の明細書全体において使用される用語「エンドトキシン(endotoxin)」は、グラム陰性菌の外膜成分であって、体内の免疫細胞と反応して炎症反応を引き起こすと知られており、化学的にリポ多糖類(Lipopolysaccharide、LPS)と呼ばれることもある。エンドトキシンに露出されると直ちに免疫反応を開始し、免疫反応の結果、様々な炎症と関連する細胞を感染(露出)された組織に集め、免疫媒介物質(サイトカイン)を分泌する。かかる炎症反応が過度に起こる場合、内毒素血症(Endotoxemia)を誘発して死に至らしめることもある。前臨床及び臨床先行研究によると、このような炎症性指標が大うつ病性障害と強い相関関係があると知られている。
【0028】
よって、本願のビフィドバクテリウムアニマリスラクティスHEM20-01菌株は、血中エンドトキシンを低減させ、これにより、全身に影響を与える炎症関連指標を有意に改善する効果を奏し、これを通じて、うつ病の治療に効果を奏し得ることが分かる。
【0029】
本願の一具現例において、前記菌株は、腸管透過性を改善するものであり得るし、具体的に、前記菌株は、腸内の密着結合を構成するZO-1及びオクルディン(occludin)タンパク質の発現量を増加して腸管透過性を改善するものであり得る。
【0030】
本願の明細書全体において使用される用語「密着結合(tight junction)」は、細胞間結合の一種類であって、繋がっている二つの細胞間の細胞や物質移動を遮断し、隣接した細胞の細胞膜が密着結合タンパク質によって部分的に融合して形成される。腸では、腸管上皮細胞から毒素及び有害な抗原の拡散を防ぐために腸管上皮細胞の頂端部に吸着タンパク質複合体で構成されており、毒素のような外部刺激によって腸管上皮細胞が損傷される場合に、密着結合の変更によって透過性が高くなり、腸壁の結合が離れる。
【0031】
本願の明細書全体において使用される用語「腸管透過性」は、腸壁の物質透過性、つまり、腸管内腔と周辺物との間の腸管上皮内壁によって形成された腸壁の透過性を意味するものであって、必須の栄養素を体内に流入させ、エンドトキシンのような毒性物質は排除させる機能を均衡的に適切に行うに当たり重要である。腸管透過性は、公知された腸管透過性の分析及び/又は接着分子、免疫又は炎症のバイオマーカー、又はエンドトキシンのようなバクテリアマーカーなどの、上皮恒常性に対するマーカー分析を利用して特定され得る。また、腸管透過性は、腸障害、例えば、小腸結腸炎(例えば、壊死性小腸結腸炎)、虚血性結腸炎だけでなく、敗血症及び非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、及び肝硬変(例えば、アルコール性肝硬変)を含む肝疾患の範囲にある様々な疾患と関連し得る。
【0032】
よって、本願のビフィドバクテリウムアニマリスラクティスHEM20-01菌株は、腸管透過性を改善し、これにより、エンドトキシンが血流に流入されることを低減して、炎症関連指標を改善する効果を奏し得ることが分かる。
【0033】
本願の一具現例において、前記菌株は、炎症性サイトカインを低減するものであり得るし、具体的に、前記菌株は、腸と海馬において炎症性サイトカインの発現量を低減するものであり得る。
【0034】
よって、本願のビフィドバクテリウムアニマリスラクティスHEM20-01菌株は、腸と海馬において炎症性サイトカインを低減することで全身に影響を与え、大うつ病性障害と強い相関のある炎症関連指標を改善させ、これにより、うつ病の治療又は予防効果を奏し得ることが分かる。
【0035】
本願の一具現例において、前記菌株は、うつ病を治療、予防又は改善するものである得るし、具体的に、前記菌株は、腸内環境改善用又は腸疾患治療用の薬学組成物、食品組成物、健康機能食品組成物などの様々な組成物に含まれ得る。
【0036】
本願の第2の側面は、ビフィドバクテリウムアニマリスラクティス(Bifidobacterium animalis subsp.lactis)HEM20-01菌株(KCTC14143BP)又はその培養物を有効成分として含む、うつ病の予防又は改善用食品組成物を提供する。第1の側面と重複する内容は、第2の側面の食品組成物にも共に適用される。
【0037】
本願の明細書全体において使用される用語「改善」は、前記組成物の投与によって腸内環境が好転されるか、よくなるように変更される全ての行為を意味する。
【0038】
本願の一具現例において、前記組成物は、うつ病を予防又は改善するものであり得るし、具体的に、コルチコステロン、エンドトキシン及び炎症性サイトカインを低減することでうつ病を予防又は改善するものであり得る。
【0039】
本願の一具現例において、前記組成物は、ビフィドバクテリウムアニマリスラクティスHEM20-01菌株、その生菌体、その死菌体、その培養液、その破砕物及び/又はその抽出物を含んでいても良い。
【0040】
本願の明細書全体において使用される用語「死菌体」は、生菌の反対概念であり、醗酵により得られた生菌と代謝産物を熱処理などによって菌を成長できなくした形態を意味する。死菌体は、細胞質(cytoplasm)、細胞壁(cell wall)、バクテリオシン(bacteriocin)などの抗菌活性物質、多糖類(polysaccharide)、有機酸などを含んでいても良い。前記死菌体を利用した製品は、生菌製品と比べて安全性が高く、特に耐熱性に優れており、外部環境に対する安全性が高く、既存の生菌製品よりも保管が容易で、流通期間を延ばすことができるという長所がある。また、抗生剤の使用に対する規制が強化されているため、代替品としての活用性と、まだ死菌体製品の生産に本格的に参入した会社が数えるほどしかないため、市場性と成長可能性が非常に高い。
【0041】
本願の明細書全体において使用される用語「培養液」は、本願の菌株を公知になった液体培地又は固体培地で培養させることにより得られたモノを意味し、「培養物」と混用して使用されても良い。
【0042】
本願の明細書全体において使用される用語「食品」は、肉類、ソーセージ、パン、チョコレート、キャンディ類、スナック類、菓子類、ピザ、ラーメン、その他の麺類、ガム類、アイスクリーム類を含む酪農製品、各種スープ、飲料、お茶、ドリンク剤、アルコール飲料、ビタミン複合剤、健康機能食品及び健康食品などがあり、通常の意味での食品を全て含む。
【0043】
本願の明細書全体において使用される用語「健康機能食品」は、健康機能食品に関する法律第6727号による人体に有用な機能性を持つ原料や成分を使用して製造及び加工した食品を意味し、「機能性」というのは、人体の構造及び機能に対し栄養素を調節することや生理学的作用などのような保健用途に有用な効果を得ることを意味する。
【0044】
本願の食品は、当業界において通常使用される方法により製造可能であり、上記製造の際は、当業界において通常添加する原料及び成分を添加して製造しても良い。また、上記食品の剤形も、食品として認められる剤形であれば制限なしに製造されても良い。本発明の食品用組成物は、様々な形態の剤形に製造されても良く、一般薬品とは異なり食品を原料としているので、薬品の長期服用時に生じ得る副作用などがないという長所があり、携帯性に優れているので、本発明の食品は、腸内環境改善の効果を増進させるための補助剤として摂取可能である。
【0045】
前記健康食品(health food)は、一般食品に比べて積極的な健康維持や増進効果を有する食品を意味し、健康補助食品(health supplement food)は、健康補助目的の食品を意味する。場合によって、健康機能食品、健康食品、健康補助食品の用語は混用され得る。具体的に、前記健康機能食品は、本願のビフィドバクテリウムアニマリスラクティスHEM20-01菌株を飲料、茶類、香辛料、ガム、菓子類などの食品素材に添加したり、カプセル化、粉末化、懸濁液などに製造した食品であり、これを摂取する場合に健康上特定の効果をもたらすものを意味するが、一般薬品とは異なり食品を原料としているので、薬品の長期服用時に生じ得る副作用がないという長所がある。
【0046】
本願の食品組成物は、日常的に摂取することが可能であるため、うつ病の改善について高い効果が期待できるので、非常に有用に使用されることができる。
【0047】
前記食品組成物は、生理学的に許容可能な担体をさらに含んでいても良いが、担体の種類は特に限定されるものではなく、当該技術分野において通常使用されている担体であれば何でも使用することができる。
【0048】
また、前記食品組成物は、食品組成物に通常使用され、匂い、味、視覚などを向上させることのできる追加成分を含んでいても良い。例えば、ビタミンA、C、D、E、B1、B2、B6、B12、ナイアシン(niacin)、ビオチン(biotin)、葉酸(folate)、パントテン酸(panthotenic acid)などを含んでいても良い。また、亜鉛(Zn)、鉄(Fe)、カルシウム(Ca)、クロム(Cr)、マグネシウム(Mg)、マンガン(Mn)、銅(Cu)、クリュム(Cr)などのミネラルを含んでいても良い。また、リジン、トリプトファン、システイン、バリンなどのアミノ酸を含んでいても良い。
【0049】
また、前記食品組成物は、防腐剤(ソルビン酸カリウム、安息香酸ナトリウム、サリチル酸、デヒドロ酢酸ナトリウムなど)、殺菌剤(さらし粉と高度さらし粉、次亜塩素酸ナトリウムなど)、酸化防止剤(ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)など)、着色剤(タール色素など)、発色剤(亜窒酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウムなど)、漂白剤(亜硫酸ナトリウム)、調味料(MSGグルタミン酸ナトリウムなど)、甘味料(ズルチン、シクラメート、サッカリン、ナトリウムなど)、香料(バニリン、ラクトン類など)、膨張剤(ミョウバン、D-酒石酸水素カリウムなど)、強化剤、乳化剤、増粘剤(糊料)、被膜剤、ガム基礎剤、泡止め剤、溶剤、改良剤などの食品添加物(food additives)を含んでいても良い。前記添加物は、食品の種類によって選別され、適切な量で使用しても良い。
【0050】
本願のビフィドバクテリウムアニマリスラクティスHEM20-01菌株は、そのまま添加するか、他の食品又は食品成分と共に使用しても良く、通常の方法により適切に使用しても良い。有効成分の混合量は、その使用目的(予防、健康又は治療的処置)に応じて適合に決定しても良い。一般的に、食品又は飲料の製造時に、本発明の食品組成物は、食品又は飲料に対して50重量部以下、具体的に、20重量部以下の量で添加しても良い。しかし、健康及び衛生を目的に長期間取る場合は上記範囲以下の含量を含んでいても良く、安全性の面で何の問題もないため、有効成分は上記範囲以上の量で使用しても良い。
【0051】
本願の食品組成物の一例に、健康飲料組成物として使用しても良く、この場合、通常の飲料のように様々な香味剤又は天然炭水化物などを追加成分として含有していても良い。上述した天然炭水化物は、ブドウ糖、果糖のようなモノサッカライド;マルトース、スクロースのようなジサッカライド;デキストリン、シクロデキストリンのようなポリサッカライド;キシリトール、ソルビトール、エリトリトールなどの糖アルコールであっても良い。甘味剤は、ソーマチン、ステビア抽出物のような天然甘味剤;サッカリン、アスパルテームのような合成甘味剤などを使用しても良い。前記天然炭水化物の割合は、本発明の健康飲料組成物100mL当たり一般的に約0.01~0.04g、具体的に、約0.02~0.03gであっても良い。
【0052】
上記した他にも、健康飲料組成物は、様々な栄養剤、ビタミン、電解質、風味剤、着色剤、ペクチン酸、ペクチン酸の塩、アルギン酸、アルギン酸の塩、有機酸、保護性コロイド増粘剤、pH調節剤、安定化剤、防腐剤、グリセリン、アルコール又は炭酸化剤などを含有していても良い。その他に、天然フルーツジュース、フルーツジュース飲料、又は野菜飲料を製造するための果肉を含有していても良い。このような成分は、独立に又は混合して使用しても良い。このような添加剤の割合は特に重要ではないが、本発明の健康飲料組成物100重量部当たり0.01~0.1重量部の範囲で選択されるのが一般的である。
【0053】
本願の食品組成物は、腸内環境改善の効果を奏することさえできれば本願のビフィドバクテリウムアニマリスラクティスHEM20-01菌株を様々な重量%で含んでいても良く、具体的に、本願のビフィドバクテリウムアニマリスラクティスHEM20-01菌株を食品組成物の総重量に対して0.00001~100重量%又は0.01~80重量%で含んでいても良いが、これに限定されるものではない。
【0054】
本願の一具現例において、前記食品組成物は、健康機能食品組成物であっても良い。
【0055】
本願の第3側面は、ビフィドバクテリウムアニマリスラクティス(Bifidobacterium animalis subsp.lactis)HEM20-01菌株(KCTC14143BP)又はその培養物を有効成分として含む、うつ病の治療又は予防用薬学組成物を提供する。第1の側面及び第2の側面と重複する内容は、第3の側面の薬学組成物にも共に適用される。
【0056】
本願の一具現例において、前記組成物は、ビフィドバクテリウムアニマリスラクティスHEM20-01菌株、その生菌体、その死菌体、その培養液、その破砕物及び/又はその抽出物を含んでいても良い。
【0057】
本願の明細書全体において使用される用語「治療」は、本願のビフィドバクテリウムアニマリスラクティスHEM20-01菌株を有効成分として含む薬学組成物をうつ病が発病した個体に投与することで、うつ病の症状を好転させるか、良くなるようにする全ての行為を意味する。
【0058】
本願の一具現例において、前記組成物は、うつ病を治療又は予防するものであり得るし、具体的に、コルチコステロン、エンドトキシン及び炎症性サイトカインを低減することでうつ病を治療又は予防するものであり得る。
【0059】
本願の一具現例において、前記薬学組成物は、それぞれ通常の方法により散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、懸濁液、エマルジョン、シロップ、エアロゾルなどの経口型剤形、外用剤、坐剤又は滅菌注射溶液の形態に製剤化して使用しても良いが、これに限定されるものではない。
【0060】
本願の一具現例において、前記薬学組成物を製剤化する場合、一般的に使用する充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩解剤、又は界面活性剤などの希釈剤又は賦形剤を使用して調剤されても良いが、これに限定されるものではない。
【0061】
本願の一具現例において、経口投与のための固形製剤には、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、又はカプセル剤などが含まれ、このような固形製剤は、前記菌株の死菌体に少なくとも1つ以上の賦形剤、例えば、澱粉、炭酸カルシウム(calcium carbonate)、スクロース(sucrose)、ラクトース(lactose)、又はゼラチンなどを交ぜて調剤されても良い。また、例えば、単なる賦形剤の他にも、ステアリン酸マグネシウム、タルクのような潤滑剤を使用しても良いが、これに限定されるものではない。
【0062】
本願の一具現例において、経口投与のための液状製剤には、懸濁剤、内用液剤、乳剤、シロップ剤などが当たり、良く使用される単なる希釈剤である水、リキッドパラフィンの他に様々な賦形剤、例えば、湿潤剤、甘味剤、芳香剤、保存剤などが含まれても良いが、これに限定されるものではない。
【0063】
本願の一具現例において、非経口投与のための製剤としては、滅菌された水溶液、非水性溶剤、懸濁剤、乳剤、凍結乾燥製剤及び坐剤が含まれても良いが、これに限定されるものではない。例えば、前記非水性溶剤又は懸濁剤としては、プロピレングリコール(propylene glycol)、ポリエチレングリコール、オリーブオイルのような植物性油、オレイン酸エチルのような注射可能なエステルなどが使用されても良いが、これに限定されるものではない。例えば、前記坐剤としては、ウイテプゾール(witepsol)、マクロゴール、ツイーン(tween)61、カカオ脂、ラウリン脂、グリセロゼラチンなどが使用されても良いが、これに限定されるものではない。
【0064】
本願の一具現例に係る薬学組成物は、医薬品組成物又は医薬部外品組成物であっても良い。
【0065】
本願の明細書全体において使用される用語「医薬部外品」は、ヒトや動物の疾病を診断、治療、改善、軽減、処置又は予防する目的で使用される物品のうち、医薬品よりも作用が軽微な物品を意味するものであり、例えば、薬事法によると、医薬部外品とは、医薬品の用途で使用される物品を除くものであり、ヒト・動物の疾病の治療や予防に使用される製品、人体への作用が軽微であるか、直接作用しない製品などが含まれる。
【0066】
本願の前記医薬部外品組成物は、ボディクレンザー、消毒清潔剤、洗浄剤、キッチン用洗浄剤、掃除用洗浄剤、歯磨き粉、うがい剤、ウェットティッシュ、洗剤、石鹸、ハンドウォッシュ、ヘア洗浄剤、ヘア柔軟剤、加湿器充填剤、マスク、軟膏剤及びフィルタ充填剤からなる群より選択される剤形に製造しても良いが、これに限定されるものではない。
【0067】
本願の一具現例において、前記薬学組成物は、薬剤学的に有効な量で投与されても良いが、本願の用語「薬剤学的に有効な量」とは、医学的治療又は予防に適用可能な合理的な受恵/危険率で疾患を治療又は予防するのに十分な量を意味し、有効用量の水準は、疾患の重症度、薬物の活性、患者の年齢、体重、健康、性別、患者の薬物感受性、使用された本発明の組成物の投与時間、投与経路及び排出割合、治療期間、使用された本発明の組成物と配合又は同時に使用される薬物を含む要素及びその他の医学分野において良く知られた要素によって決定しても良い。本願の薬学組成物は、単独で投与するか、公知になった腸疾患に対して治療効果を奏すると知られている成分と併用して投与しても良い。上記要素を全て考慮し、副作用なく最小限の量で最大の効果が得られる量を投与することが重要である。
【0068】
本願の一具現例において、前記薬学組成物の投与量は、使用目的、疾患の中毒度、患者の年齢、体重、性別、既往歴、又は有効成分として使用される物質の種類などを考慮して当業者が決定しても良い。例えば、本発明の薬学組成物は、成人1人当たり約0.1ng~約1,000mg/kg、好ましくは1ng~約100mg/kgで投与しても良く、本願の組成物の投与頻度は、特にこれに限定されるものではないが、1日1回投与するか、あるいは用量を分割して数回投与しても良い。上記投与量又は投与回数は、どのような面からも本願の範囲を限定するものではない。
【0069】
本願の薬学組成物は、特にこれに限定されるものではないが、目的とするところによって腹腔内投与、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、皮内投与、経皮パッチ投与、経口投与、鼻内投与、肺内投与、直腸内投与などの経路を通じて投与しても良い。但し、経口投与の際は、剤形化されていない形態で投与しても良く、胃酸によって前記ビフィドバクテリウムアニマリスラクティスHEM20-01菌株が変性又は分解され得るため、経口用組成物は、活性薬剤をコーティングするか、胃での分解から保護されるように剤形化された形態又は経口用パッチ形態で口腔内に投与しても良い。また、前記組成物は、活性物質が標的細胞に移動できる任意の装置によって投与されても良い。
【0070】
以下、本願の実施例を参照しながら本発明をより詳しく説明するが、下記実施例は本願の理解を助けるために例示するだけであり、本願の内容が下記実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0071】
実施例1:ビフィドバクテリウムアニマリスラクティスHEM20-01の短鎖脂肪酸の生成促進能の確認
本願の新規な菌株であるビフィドバクテリウムアニマリスラクティスHEM20-01(Bifidobacterium animalis subsp.lactis HEM20-01、寄託機関:韓国生物資源センター、受託番号:KCTC14143BP、受託日:2020年2月21日)の短鎖脂肪酸の生成促進能を確認するために、下記のような試験を行った。
【0072】
実施例1-1:短鎖脂肪酸の生成量分析のための体外条件培養
本願の菌株による短鎖脂肪酸の生成量を体外条件で確認するために、下記のような方法によって菌株の培養を行った。
【0073】
先ず、下記組成の腸環境に類似した培地を準備した後、嫌気チャンバ(whitley A95 anaerobic workstation)において24時間置換して、培地を嫌気(anaerobic)の状態に作った。
【0074】
-腸環境に類似した培地:NaC l60mM、NaHCO3 40mM、KCl 10mM、Hemin 5x10-5g/L、mucin 0.5%(w/v)、L-cysteine HCl 0.05%(w/v)
【0075】
96ウェルプレートの各ウェルに、試験群(HEM20-01)には5x107CFU/ml濃度に当たる菌株30ul、腸環境に類似した培地180ul、ヒトの糞便サンプル15mgを分注し、菌を処理していない対照群(NC、Negative control)のウェルには腸環境に類似した培地210ul、ヒトの糞便サンプル15mgを分注した。前記試験群菌株HEM20-01は、ビフィドバクテリウムアニマリスラクティスHEM20-01(Bifidobacterium animalis subsp.lactis HEM20-01)のことを意味する。
【0076】
次に、前記試験群が分注された96ウェル-プレートを18時間嫌気チャンバ(whitley A95 anaerobic workstation)において撹拌器(DLAB mx-m)を利用して撹拌しながら培養し、培養した後に3800rpmで10分間遠心分離して各ウェルの上等液100ulを96-ウェル細胞培養プレートに移した。次に、96個のGC(Gas chromatography)用バイアルに代謝体抽出のためのGC抽出溶液100ul[GC抽出溶液の組成:DW 10ml、NaCl 3.3g、Phosphoric acid 50ul、2-ethyl butyric acid 0.5ul]と、DW 50ul及び前記96-ウェル細胞培養プレートの上等液とを50ulずつ分注し、気体クロマトグラフィー(Gas chromatography)分析法を活用して微生物代謝体である酢酸、プロパン酸、酪酸及びイソ酪酸を分析した(
図1)。
【0077】
実施例1-2:酪酸(Butyrate)の生成促進能の確認
上記実施例1-1において行った気体クロマトグラフィー分析法を利用して、新規な菌株処理による酪酸の定量変化を確認した。
【0078】
前記酪酸の増減を確認した結果、HEM20-01菌株を単独で培養した場合は、酪酸が生成されなかったが、腸環境に類似した培地とヒトの糞便とを共に処理した場合は、酪酸の割合が有意に増加することが確認された(
図1)。
【0079】
上記の結果に基づき、本願のHEM20-01菌株は、自らは酪酸を生成することができないが、腸内環境(腸菌叢)において酪酸の生成を促進する機能を果たすことが分かった。
【0080】
うつ病の動物モデルの選定
BALB/cマウスが遺伝的に他種のマウスに比べて不安関連行動を有し、うつ様行動の試験において最も一貫して反応すると報告されている(Crawly,2008;Jacobson and Cryan,2007;Satori et al.,2011)。よって、BALB/cマウスをうつ病の動物モデルとして選定した。7-8週齢27匹(雌:14匹、雄:13匹)を利用して、ストレス対照群14匹(雌:7匹、雄:7匹)、乳酸菌投与群13匹(雌:7匹、雄:6匹)を下記[表1]のように区分して試験を進行した。
【0081】
【0082】
1週間の経口投与適応期を経て総3週間B.lactis HEM20-01を投与し、一週間うつ様行動試験を進行した後、5週目に動物を犠牲にした(表2)。
【0083】
【0084】
組織分析
動物を犠牲にするとき、感情と記憶とを担当する海馬を摘出し、定量的リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(qRT-PCR)及び酵素免疫測定法(ELISA)により憂鬱感に関連する免疫指標の発現量とタンパク質量とを確認した。また、腸内免疫を担当する大腸(colon)と小腸末端(distalileum)とを摘出し、qRT-PCRにより免疫指標を確認した。血液を採取してELISAによりストレスに関連するホルモンの数値を確認し、エンドトキシンの変化を観察した。
【0085】
実施例2:ビフィドバクテリウムアニマリスラクティスHEM20-01のうつ様行動の改善の確認
本願の新規な菌株であるビフィドバクテリウムアニマリスラクティスHEM20-01(Bifidobacterium animalis subsp.lactis HEM20-01、寄託機関:韓国生物資源センター、受託番号:KCTC14143BP、受託日:2020年05月18日)のうつ病の治療効果を確認するために、下記のような試験を行った(表3)。
【0086】
【0087】
実施例2-1:砂糖水嗜好性試験
大うつ病性障害の診断のための憂鬱に関連する様々な症状のうち無快感症を測定するために、健康なマウスは甘いものを好み、憂鬱なマウスは甘いものに対する嗜好度が減少することを利用した砂糖水嗜好性試験を行った。
【0088】
2本の給水瓶のうち1本には1%の砂糖水、他の一本には普通の水を入れて2日間24時間を基準に給水瓶の位置を交差する訓練期間を経た後、24時間給水瓶の全てを除去して渇きを誘導した。試験当日に給水瓶と砂糖水の給水瓶を与え、昼間の最初5時間、昼間の全時間、夜中の全時間の摂水量を測定し、ストレス対照群とB.lactis HEM20-01投与群との間の砂糖水摂水量を比較した。
【0089】
その結果、ストレス対照群に比べて、B.lactis HEM20-01を投与したグループにおいて、昼間の最初5時間の砂糖水の摂水量が有意に増加したことを確認した。このような有意な増加は昼間の全時間(light cycle)観察され、マウスが活発に活動する時間である夜中には、二つのグループ間に有意な差異がなかったが、24時間測定した結果では、B.lactis HEM20-01を投与したグループの砂糖水摂水量が有意に改善したことを確認した(
図2)。
【0090】
上記の結果に基づき、本願のB.lactis HEM20-01菌株は、無快感症の改善に効果があることが分かる。
【0091】
実施例2-2:新奇環境摂食抑制試験
大うつ病性障害の診断のための憂鬱に関連する様々な症状のうち無快感症を測定するために、憂鬱なマウスが健康なマウスに比べてエサへの到逹が遅く、エサの摂取量が少ないことを利用した新奇環境摂食抑制試験を行った。
【0092】
24時間エサを与えずに、新奇環境(novel arena)の真ん中にエサを1つ置いたとき、マウスが不安、警戒を乗り越えて真ん中に置かれているエサまでどれほど速く到逹するか(latency for food)、一定時間の間にエサをどれほど摂取するか(food pallet consumption)を測定した。
【0093】
その結果、ストレス対照群に比べて、B.lactis HEM20-01を投与したグループが新奇環境においてエサに近付くまでの時間(latency for food)が有意に短くかかり、エサの摂取量(fed pellet weight)が有意に増加することを確認した(
図3)。
【0094】
上記の結果に基づき、本願のB.lactis HEM20-01菌株は、無快感症の改善に効果があることが分かる。
【0095】
実施例2-3:噴霧試験
大うつ病性障害の診断のための憂鬱に関連する様々な症状のうち自己管理行動を測定するために、憂鬱なマウスが健康なマウスに比べて体毛を手入れし且つ舐め始めるまでの時間(latency for grooming)が長くかかり、持続時間(grooming duration)が短いことを利用した噴霧試験を行った。
【0096】
10%の砂糖水をマウスに噴霧し、その後、自分の体毛をどれほど良く手入れするのか(grooming)を5分間観察した。
【0097】
その結果、B.lactis HEM20-01を投与したグループが有意に速い時間内にグルーミング(latencyto grooming)をすることが観察され、グルーミングの持続時間(grooming duration)が有意に増加することを確認した(
図4)。
【0098】
上記の結果に基づき、本願のB.lactis HEM20-01菌株は、自己管理行動の改善に効果があることが分かる。
【0099】
実施例2-4:高架式十字迷路試験
【0100】
大うつ病性障害の診断のための憂鬱に関連する様々な症状のうち不安症状を測定するために、高架式十字迷路試験を行った。十字迷路は、床面から50cmの高さに位置し、2つのオープンアーム(open arm)、二つのクローズドアーム(closed arm)及び中央(center)からなっている。十字迷路の中央にマウスを置いて5分間観察したとき、健康なマウスは不安感よりは好奇心が強く、オープンアーム(open arm)に比較的長く留まるのに対し、憂鬱なマウスはクローズドアーム(closed arm)に留まる時間が長いと知られている。
【0101】
試験の結果、B.lactis HEM20-01投与グループがストレス対照群に比べてオープンアーム(open arm)に留まった時間が増加する傾向性を見せ、中央(center)に留まる時間は有意に増加することを観察し、クローズドアーム(closed arm)に有意に少ない時間留まることを確認した(
図5)。
【0102】
上記の結果に基づき、本願のB.lactis HEM20-01菌株は、不安症状の改善に効果があることが分かる。
【0103】
実施例2-5:尾懸垂試験
大うつ病性障害の診断のための憂鬱に関連する様々な症状のうち絶望、自暴自棄の症状を測定するために、尾懸垂試験を行った。
【0104】
実験台に50cm高さのスタンドを立たせてテープを利用してマウスの尾をスタンドに吊るして6分間マウスの動きを観察したとき、健康なマウスであるほどその状況から脱するために暴れるが、憂鬱なマウスは相対的に暴れずに無動となる時間(immobility time)が長いと知られている。
【0105】
試験の結果、B.lactis HEM20-01投与グループがストレス対照群に比べて動きを停止した状態(immobility)が有意に減少することを確認した(
図6)。
【0106】
上記の結果に基づき、本願のB.lactis HEM20-01菌株は、絶望、自暴自棄症状の改善に効果があることが分かる。
【0107】
実施例2-6:強制水泳試験
大うつ病性障害の診断のための憂鬱に関連する様々な症状のうち絶望、自暴自棄の症状を測定するために、強制水泳試験を行った。
【0108】
高さ30cm、直径15cmの透明シリンダーに25℃程度の水を18cmほど満たしてマウスを水に落とし6分間の動きを観察したとき、健康なマウスは先天的に水泳をして脱出を試みるが、憂鬱なマウスであるほど脱出しようとする動きはなく(immobility)、水面に浮いていると知られている。
【0109】
試験の結果、B.lactis HEM20-01投与グループがストレス対照群に比べて暴れるのを止めるまでの時間(latency to abandon)が長くかかることが確認された(
図7)。
【0110】
上記の結果に基づき、本願のB.lactis HEM20-01菌株は、絶望、自暴自棄症状の改善に効果があることが分かる。
【0111】
実施例3:ストレスホルモンの改善能の確認
コルティコステロンは、ストレスの状況において身体的恒常性が崩れたとき、視床下部-下垂体-副腎軸(HPA axis;Hypothalamus-pituitary-adrenal axis)の作用によって副腎皮質から分泌されるストレスホルモンであって、本願のB.lactis HEM20-01菌株のストレスホルモンの改善能の確認のために、5週目に動物を犠牲にしたときに採取した血液を利用して、酵素免疫測定法(ELISA)によって血中コルティコステロンを測定した。その結果、B.lactis HEM20-01投与グループがストレス対照群に比べて血中コルティコステロンが有意に減少することを確認した(
図8)。
【0112】
実施例4:血中エンドトキシン及び腸管透過性の改善能の確認
グラム陰性菌の外膜成分として知られているエンドトキシン(endotoxin or LPS)は、体内の免疫細胞と反応して炎症反応を引き起こすと知られている。B.lactis HEM20-01の投与により、ストレス対照群と比較して血中エンドトキシンの数値が有意に減少したことを確認した(
図9)。腸細胞を通じた透過がエンドトキシンの主な血液流入経路であるため、小腸末端と大腸との密着結合タンパク質(tight junction protein)である、ZO-1とオクルディン(occludin)との発現量を定量的リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(qRT-PCR)を通じて確認したとき、B.lactis HEM20-01投与によって有意に増加することを確認した(
図10)。
【0113】
上記の結果に基づき、B.lactis HEM20-01の投与により腸管透過性が改善され、全身に影響を与える炎症関連指標が有意に改善することが確認できた。
【0114】
実施例5:炎症指標の改善能の確認
前臨床及び臨床先行研究によれば、大うつ病性障害と炎症性指標が強い正の相関があると知られている。また、乳酸菌の投与は、腸内抗炎症性反応を引き起こすと知られている。B.lactis HEM20-01の投与による小腸末端及び大腸の炎症性サイトカイン(pro-inflammatory cytokines)の発現量の変化を定量的リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(qRT-PCR)から見たとき、小腸末端(distal ileum)において炎症性サイトカインと知られているIL-1β、IL-6、TNF-α、and IFN-γの発現量がストレス対照群に比べて有意に減少することが確認できた(
図11)。また、このような傾向性は大腸においても同様に観察された(
図12)。よって、プロバイオティクス候補菌B.lactis HEM20-01の投与によって腸内炎症反応が有意に改善することが確認できた。
【0115】
憂鬱に関連する炎症指標の発現は、腸だけでなく、海馬においても報告されている。海馬で定量的リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(qRT-PCR)を通じて同一の炎症性サイトカインの発現量を確認したとき、B.lactis HEM20-01の投与がストレス対照群に比べて海馬の炎症性サイトカインの発現を有意に減少することを確認した(
図13)。また、酵素免疫測定法(ELISA)によって海馬組織内の炎症性サイトカインIL-1β、IL-6タンパク質の数値を確認したとき、B.lactis HEM20-01の摂取により海馬内の炎症性サイトカインがストレス対照群に比べて有意に減少することが確認できた(
図14)。
【0116】
したがって、B.lactis HEM20-01の投与によって全身ストレスホルモンの数値、炎症関連指標及びうつ様行動の改善をBALB/cモデルを通じて観察し、これを通じて、B.lactis HEM20-01が抗うつに関連して効能があることが確認できた。
【0117】
上述した本願の説明は例示のためのものであり、本願の属する技術分野において通常の知識を有する者であれば、本願の技術的思想や必須の特徴を変更せずに他の具体的な形態に容易に変形可能であるということを理解できるはずである。それゆえ、上記した実施例は全ての面において例示的なものであり、限定的なものではないと理解すべきである。例えば、単一型で説明されている各構成要素は分散して実施されても良く、同様に、分散したものと説明されている構成要素も結合された形態で実施されても良い。
【0118】
本願の範囲は、上記詳細な説明よりは後述する特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲の意味及び範囲、並びにその均等概念から導出される全ての変更又は変形された形態が本願の範囲に含まれると解釈されなければならない。
【受託番号】
【0119】
寄託機関名:韓国生命工学研究院
受託番号:KCTC14143BP
受託日:20200221