(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】耐プラズマ積層体、その製造方法、ならびにプラズマ処理装置
(51)【国際特許分類】
H05H 1/00 20060101AFI20241016BHJP
H05H 1/24 20060101ALI20241016BHJP
C23C 14/06 20060101ALI20241016BHJP
C23C 16/44 20060101ALI20241016BHJP
H01L 21/31 20060101ALN20241016BHJP
【FI】
H05H1/00 A
H05H1/24
C23C14/06 N
C23C16/44 Z
H01L21/31 C
H01L21/31 D
(21)【出願番号】P 2023545655
(86)(22)【出願日】2022-08-31
(86)【国際出願番号】 JP2022032839
(87)【国際公開番号】W WO2023033067
(87)【国際公開日】2023-03-09
【審査請求日】2024-02-27
(31)【優先権主張番号】P 2021141949
(32)【優先日】2021-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003029
【氏名又は名称】弁理士法人ブナ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】梅原 幹裕
(72)【発明者】
【氏名】藤田 航
(72)【発明者】
【氏名】石川 和洋
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-001865(JP,A)
【文献】特開2002-356387(JP,A)
【文献】特開2016-216332(JP,A)
【文献】特開2011-228386(JP,A)
【文献】特開2007-073309(JP,A)
【文献】特開2003-318115(JP,A)
【文献】国際公開第2011/150311(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第104241183(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05H 1/00
H05H 1/24
C23C 14/06
C23C 16/44
H01L 21/31
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体と、前記基体上に位置する膜電極と、前記膜電極上に位置する誘電体層とを備えた耐プラズマ積層体であって、
前記基体は、サファイアを含み、
前記誘電体層は、イットリウムを含む酸化物を含み、
前記膜電極は、活性金属、または前記基体もしくは前記誘電体層の構成元素、またはそれらの積層からなる、耐プラズマ積層体。
【請求項2】
前記膜電極は、前記基体上の前記活性金属と、前記活性金属上のイットリウムの積層である、請求項1に記載の耐プラズマ積層体。
【請求項3】
前記膜電極は厚みが5μm以下であり、前記誘電体層は前記膜電極の表面からの厚みが5μm以下で、面積が1000mm
2以上である、請求項1または2に記載の耐プラズマ積層体。
【請求項4】
静電容量が1nF以上である、請求項1または2に記載の耐プラズマ積層体。
【請求項5】
前記膜電極が、チタン、イットリウム、またはそれらの積層からなる、請求項1 に記載の耐プラズマ積層体。
【請求項6】
前記膜電極が、前記基体上に形成されたチタン上にイットリウムを積層してなる、請求項5に記載の耐プラズマ積層体。
【請求項7】
前記誘電体層の厚み方向に垂直で互いに直交する2方向の応力σ11、σ22がともに圧縮応力であり、σ22/σ11が0.5以上2以下である、請求項1または2に記載の耐プラズマ積層体。
【請求項8】
前記σ22/σ11が0.8以上1.2以下である、請求項7に記載の耐プラズマ積層体。
【請求項9】
前記誘電体層の厚み方向に垂直で互いに直交する2方向の応力σ11、σ22の平均値σ1が200MPa以上1000MPa以下の圧縮応力である、請求項7に記載の耐プラズマ積層体。
【請求項10】
前記誘電体層は厚み方向に垂直な方向に圧縮応力を有し、前記基体表面がサファイアのc面である、請求項1または2に記載の耐プラズマ積層体。
【請求項11】
前記誘電体層は厚み方向に垂直な方向に圧縮応力を有し、前記基体の形状が長い方向と短い方向とを有し、前記長い方向とサファイアのc軸とが平行である、請求項1または2に記載の耐プラズマ積層体。
【請求項12】
前記基体は、前記膜電極と電気的に接続するビア電極を有し、前記ビア電極と前記基体との段差が1.0μm以下である、請求項1または2に記載の耐プラズマ積層体。
【請求項13】
請求項1または2に記載の耐プラズマ積層体の製造方法であって、
前記基体の表面を算術平均高さ(Sa)が10nm以下となるように研磨する工程と、
前記基体上に前記膜電極を形成する工程と、
前記誘電体層を、金属材料の製膜と酸化とを繰り返して形成する工程と、
を含む、耐プラズマ積層体の製造方法。
【請求項14】
前記膜電極の厚みが5μm以下であり、前記誘電体層の厚みが5μm以下である、請求項13に記載の耐プラズマ積層体の製造方法。
【請求項15】
請求項1または2に記載の耐プラズマ積層体を含むプラズマセンサーをプラズマ処理室内に取り付けたプラズマ処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、耐プラズマ積層体、その製造方法、ならびにプラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造分野において、プラズマCVD(化学気相成長法)、アッシング、エッチング、スパッタリング、その他の表面処理等を目的として、半導体基板等の被処理体にプラズマ放電を用いてプラズマ処理する方法が広く用いられている。
【0003】
プラズマ処置を施すプラズマ処理工程において、高電圧または高周波電源の高周波電圧を印加する際に、異常放電が発生する等、プラズマの安定性の不良により被処理体の電子素子特性の劣化を引き起こす問題がある。この様な問題に対処するためにプラズマ処理室内のプラズマ状態を的確に検出することが求められている。
【0004】
プラズマ状態を検出するプラズマ計測器としては、プラズマ中に先端部を露出させた探針状の電極を挿入し、電圧を印加して得られた電流-電圧特性から空間電位などのプラズマ状態を計測するラングミュアプローブ、電極を絶縁物で覆い静電容量から空間電位などのプラズマ状態を計測する、キャパシティブプローブなどが知られている。
【0005】
従来提案されたプラズマ計測器としては、例えば、特許文献1~3に開示のようなものがある。すなわち、特許文献1には、窓型プローブを用いたプラズマ監視装置が提案されている。特許文献2には、プラズマ処理装置において、プラズマの異常放電発生を事前に捕らえる予兆信号を検出する信号検出部と、この予兆信号に基づいてESCリーク電流を制御する制御部と、を備えることが提案されている。
【0006】
特許文献3には、プラズマ処理装置において、処理室の側壁にプローブ基盤が設置され、この基盤にパルス化したバイアス電力を掛け、コンデンサの電圧変化を解析することにより、処理室内壁状態とプラズマの内部状態をリアルタイムでモニタし、そのデータ値からプラズマ処理装置の処理方法を制御することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2003-318115号公報
【文献】特開2007-73309号公報
【文献】特開2011-228386号公報
【発明の概要】
【0008】
本開示の耐プラズマ積層体は、基体と、基体上に形成された膜電極と、膜電極上に形成された誘電体層とを備え、基体はサファイアを含み、誘電体層は、イットリウムを含む酸化物を含み、膜電極は、活性金属、または基体もしくは誘電体層の構成元素、またはそれらの積層からなる。
【0009】
本開示の耐プラズマ積層体の製造方法は、基体の表面を算術平均高さ(Sa)が0.01μm以下となるように研磨する工程と、基体上に膜電極を形成する工程と、誘電体層を、金属材料の製膜と酸化とを繰り返して形成する工程と、を含む。
【0010】
本開示のプラズマ処理装置は、上記の耐プラズマ積層体を含むキャパシティブプローブ型のプラズマセンサーをプラズマ処理室内に取り付けたものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本開示の一実施形態に係る耐プラズマ積層体を示す概略断面図である。
【
図2】耐プラズマ積層体を製造するためのスパッタ装置を示す模式図である。
【
図3A】サファイアを用いて成膜した基体のレーザー顕微鏡写真(倍率:1200倍)である。
【
図3B】比較のためアルミナを用いて成膜した基体のレーザー顕微鏡写真(倍率:1200倍)である。
【
図4A】中央部における膜電極と誘電体層との界面部分を示す走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
【
図4B】外周部における膜電極と誘電体層との界面部分を示す走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の一実施形態に係る耐プラズマ積層体を説明する。
図1は本実施形態に係る耐プラズマ積層体1を示す概略断面図である。この耐プラズマ積層体1は、キャパシティブプローブ型のプラズマセンサーとして機能するものである。
【0013】
耐プラズマ積層体1は、
図1に示すように、基体2と、基体2上に形成された膜電極3と、膜電極3上に形成された誘電体層4とを備える。
【0014】
基体2はサファイアを含み、誘電体層4は、イットリウムを含む酸化物を含む。サファイアは耐プラズマ性と機械的強度に優れる。また、イットリウムの酸化物であるイットリア(Y2O3)は、サファイアよりもさらに耐プラズマ性に優れる。
【0015】
さらに、サファイアは単結晶であるので、表面を平滑に加工でき、そのため薄くボイド等の欠陥の少ない膜電極3および誘電体層4を形成でき、その結果、(面積×誘電率/厚み)から求められる静電容量を大きくすることができる。
【0016】
40℃~400℃における平均線熱膨張率(10-6/K)は、誘電体層4を構成するイットリアが7.2であるのに対して、基体2を構成するサファイアがc軸に平行な方向で7.7、c軸に垂直な方向で7.0である。そのため、誘電体層4と基体2との熱膨張差が小さく、熱応力によるはがれやクラックが生じにくくなる。
【0017】
膜電極3は、活性金属、または基体2もしくは誘電体層4の構成元素、またはそれらの積層からなる。活性金属とは、銅、銀、金などの不活性金属と比べて、基体2を構成する酸化物の酸素原子と結合しやすく、密着力が高くなる金属である。アルカリ土類金属、希土類金属、周期表第4族~第6族元素金属、第13族~第14族元素金属が代表的な活性金属である。特に、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、クロムはサファイアとの密着力が高く、熱膨張率も金属としては比較的サファイアとの差が小さい。イットリウムは誘電体層4を構成するイットリアの構成元素であり、イットリウムの表面を酸化することで誘電体層4を連続して形成できるので、誘電体層4との密着力の向上が期待できる。アルミニウムは基体2を構成するサファイアの構成元素であり、熱処理によるアルミニウム原子の拡散を利用した基体2との密着力の向上が期待できる。膜電極3が基体2上に形成された活性金属と、活性金属上に形成されたイットリウムの積層であるのが、基体2との密着性、および誘電体層4との密着性がともに高くなるので、特に好ましい。
【0018】
膜電極3は厚みが0.5μm以上5μm以下であり、誘電体層4は膜電極3の表面からの厚みが0.5μm以上5μm以下で、面積が1000mm2以上であるのがよい。このように膜電極3が薄いので、薄い誘電体層4で被覆でき、静電容量(面積×誘電率/厚み)を大きくすることができる。具体的には、本実施形態の耐プラズマ積層体は、静電容量が1nF以上であるのがよい。
【0019】
基体2の表面がサファイアのc面であるのがよい。基体2は、膜電極3や誘電体層4と比べて厚いので、基体2の変形や応力は耐プラズマ積層体1の変形や応力に大きな影響を与える。c面は熱膨張率やヤング率の異方性がないので温度変化時などの変形が小さいというという利点がある。
【0020】
誘電体層4は、形成方法によっては厚み方向に垂直な方向に圧縮応力を有する。厚み方向に垂直な方向とは、誘電体層4の表面に平行な方向である。例えば、後述するように、後酸化スパッタ法では、酸化膜(誘電体層4)は金属(イットリウム)の成膜と酸化の繰り返しで形成されるので、酸化時に原子間距離が伸びる。その際、厚み方向に垂直な方向は基体2によって拘束されているために誘電体層4に圧縮応力が生じると考えられる。
【0021】
誘電体層4の厚み方向に垂直な方向の応力は、X線回折装置を用いて測定できる。表面に平行で互いに直交する2方向の応力を面内で複数点(例えば5点)評価し、それぞれの平均値をσ11、σ22とする。誘電体層4は厚みが小さいので、厚み方向に垂直な方向の引張応力が加わるとクラックが発生しやすい。そのため応力σ11と応力σ22の平均値であるσ1が圧縮応力であるとよい。このとき、σ11とσ22のいずれもが圧縮応力であると特によい。σ11とσ22の差が大きい場合もひずみが生じやすいので、σ22/σ11が0.5以上2以下、好ましくは0.8以上1.2以下であるとよい。
【0022】
応力σ11、σ22の平均値σ1が200MPa以上で1000MPa以下であってもよい。σ1が200MPa以上であると、硬度が維持され、パーティク、クラック等の発生が低減できる。一方、σ1が大きすぎると、変形やクラックの発生しやすく、接合強度も低下しやすいので、σ1は1000MPa以下であるとよい。
【0023】
先に記載したように、サファイアの熱膨張率は、c軸に平行な方向ではイットリアよりも大きく、c軸に垂直な方向ではイットリアよりも小さい。そこで、基体2として用いるサファイアの結晶方位の選択により、σ1の調整が可能となる。例えば、本発明の実施形態のように、σ1が圧縮応力となる場合は、基体2の誘電体4と対抗する面をc軸に垂直な面(c面)のサファイアとし、誘電体層4の成膜時よりも低温環境下で使用すると、基体2と誘電体層4との熱膨張差によって、σ1が緩和される(σ1が大きくなりすぎない)ので、好ましい。また、例えば、基体2の形状が長方形のように長い(長辺)方向と短い(短辺)方向とがあるなど、σ11とσ22の差が生じる場合は、基体2の誘電体4と対抗する面をc軸に平行な面(a面、m面など)のサファイアとし、大きな圧縮応力になりやすい方向(例えば長方形の長辺側)がc軸に垂直な方向となるようにサファイアの方位を選択するとよい。c軸と垂直、平行とは、完全な垂直、平行である必要はなく、例えば±15°以内であればよい。
【0024】
また、誘電体層4は厚み方向に長い柱状粒子で形成されるのがよい。厚み方向の粒子の長さが誘電体層4の厚みとほぼ同じであると特によい。誘電体層4の表面の平均粒径は0.01μm~0.5μm、粒子の平均アスペクト比(長軸/短軸)が2以上であるのがよい。最もプラズマに曝される誘電体層4の表面において、平均粒径が0.01μm以上であると、結晶粒界の比率が小さくなり、耐プラズマ性が向上する。また、厚み方向に長い柱状粒子であれば、電界方向を横切る結晶粒界が少なくなり、測定精度が向上する。これにより、高い誘電体性能と耐プラズマ性が得られる。柱状粒子からなる誘電体層4は、例えば後酸化スパッタ装置を用いて形成することができる。粒子の平均粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)等を用い、例えば9×12μmの範囲の表面観察画像を得、任意の点を中心にして放射状に同じ長さ、例えば、6μmの直線を6本引き、この6本の直線の長さの合計をこれらの直線上に存在する結晶個数の合計で除すことで平均粒径を求めることができる。
【0025】
また、誘電体層4は、厚み方向に沿って切断した断面を観察したときに、厚み方向の長さが、厚み方向に直交する方向の長さよりも長い縦長の気孔を有していてもよい。このように縦長の気孔を有している場合、誘電体層4を厚み方向に見たときの気孔の占有面積率を小さくでき、気孔による静電容量の低下を小さくして測定精度を高めることができる。さらに、誘電体層4の厚み方向における静電容量を適度に維持して測定の精度を高くしながら、誘電体層4に生じる応力を気孔によって有効に緩和することができる。厚み方向に縦長の気孔を有する誘電体層4は、例えば後酸化スパッタ装置を用いて複数回、膜形成を繰り返すことで形成することができる。縦長の気孔を有する誘電体層4の、厚み方向に沿って切断した断面における気孔の占有面積率は、0.05面積%~8面積%であってもよい。
【0026】
プラズマ発生部には様々な波長の光が発生する。波長400nm以下の光を紫外光、波長700nm以上の光を赤外光と呼ぶ。赤外光は物質に吸収されると発熱(格子振動の増加)の原因となる。誘電体層 4が加熱されると、キャリア(電子)の熱生成による抵抗率の変化などで誘電体層4を用いた素子の特性が変化することが懸念される。紫外光は高分子などの各種物質の変質の原因となる。誘電体層4が紫外光を吸収すると一部は他の波長の光に変化されるなどして紫外光の反射、透過は低減するので、紫外光の反射率が高い場合と比べて周囲の部材への紫外光の影響が低減する。そのため誘電体層4は、波長400nm以下の光の反射率が50%以下、好ましくは30%以上であるとよい。また、誘電体層4は、波長700nm以上の光の反射率が50%以上、好ましくは60%以上であるとよい。波長400nm以下の光の反射率が50%以下、好ましくは30%以上であれば、紫外光の反射率が低いため、装置内外でプラズマ光にさらされる他の部品、特に紫外光による劣化が懸念される有機物系の部品の劣化が低減できる。波長700nm以上の光の反射率が50%以上、好ましくは60%以上であれば、赤外線の反射率が高いため、膜表面の温度上昇が抑制され、プラズマ照射による素子感度の変化が小さくなる。
【0027】
基体2は、
図1に示すように、支持体層5の表面に形成される。支持体層5としては、例えばアルミナセラミック等が使用可能である。アルミナセラミックはサファイアと同じ材料なので熱膨張率などの物性の違いが小さく、また、サファイアよりも安価に作成できる。基体2と支持体層5との接合には、例えばエポキシ系接着剤、シリコーン系接着剤等を使用してもよいし、拡散接合などによる直接接合としてもよい。支持体層5には、給電、計測用の給電端子7が設けられる。なお、支持体層5は必要に応じて設ければよく、またサファイアを用いて基体2と支持体層5とを一体に形成してもよい。
【0028】
基体2は、膜電極3と電気的に接続する複数のビア電極6を有する。ビア電極6は、基体2に設けた貫通孔内に銅メッキ等を施すことにより形成することができる。また、ビア電極6の径は30μm以上200μm以下であるのがよい。
【0029】
ビア電極6と基体2との間に段差があると、膜電極3との電気的接続が損なわれる(断線する)恐れがある。そのため、本実施形態では、表面研磨によってビア電極6と基体2との段差は1.0μm以下、好ましくは0.2μm以下になるように調整するのがよい。これにより、表面の平滑性、及び誘電体層4の膜厚分布をバラツキ無く、非常に高精度に保つことが出来る。
【0030】
膜電極3は、ビア電極6を介して、支持体層5の給電端子7と電気的に接続される。これにより、膜電極3がプラズマ測定用のプローブとなって、プラズマ状態を示す空間電位を測定することができる。
【0031】
次に、本開示の耐プラズマ積層体の製造方法を説明する。本開示の耐プラズマ積層体は以下に例示する工程によって製造することができる。
<基体2の研磨工程>
サファイアを含む基体2の表面を算術平均高さ(Sa)が0.1μm以下、好ましくは10nm以下となるように研磨する。基体2には、あらかじめ前記した複数のビア電極6が形成されている。研磨は、例えば、ダイヤモンド砥粒と定盤とを用いたラッピング加工とコロイダルシリカ砥粒とアルカリ性スラリーを用いた化学機械研磨(CMP)を行えばよい。
【0032】
算術平均高さ(Sa)は、ISO25178-6:2010に規定された表面性状のパラメータであり、線の算術平均粗さRaを面に拡張したパラメータである。具体的には、算術平均高さ(Sa)は、測定対象の面の平均面に対して対象の面における各点の高さの差の絶対値の平均を表している。Saは、測定対象の面の平均面に対して対象の面における各点の高さの差の絶対値の平均を表している。
【0033】
基体2はサファイア単結晶を含む。基体2の表面はサファイアのc面であるのが誘電体層4との熱膨張の差を小さくするうえで好ましい。基体2の厚みは耐プラズマ積層体1が機械的強度を満足するように設計され、例えば、基体2の直径が50mm(2インチ)程度であれば、100μm以上であるのがよい。
【0034】
<膜電極3および誘電体層4を形成する工程>
基体2上に厚みが5μm以下の膜電極3を形成し、この膜電極3の表面上に厚みが5μm以下の誘電体層4を形成するのがよい。膜電極3は、チタン、イットリウム等の活性金属、または基体2もしくは誘電体層4の構成元素が用いられるが、以下の説明ではイットリウムを用いた場合を例に挙げて説明する。
【0035】
膜電極3および誘電体層4の形成方法を、
図2を用いて説明する。
図2は、スパッタ装置20を示す模式図であり、スパッタ装置20は、チャンバ15と、チャンバ15内に繋がるガス供給源13と、チャンバ15内に位置する陽極14および陰極12、さらに、陰極12側に接続されるターゲット11を備える。
【0036】
膜電極3および誘電体層4は、スパッタとプラズマ処理が可能なスパッタ装置20で連続形成することができる。まず、上述した方法で得られた基体2をチャンバ15内の陽極14側に設置する。チャンバ15内の反対側にある陰極12側に、純度が4N(99.99%)以上の金属イットリウムのターゲット11を設置する。この状態で、排気ポンプによりチャンバ15内を減圧状態にして、ガス供給源13からガスGとしてアルゴンおよび酸素を供給する。例えば、アルゴンガスの圧力は0.1Pa以上2Pa以下とし、酸素ガスの圧力は1Pa以上5Pa以下とする。ここで、厚み方向に垂直で互いに直交する2方向の応力σ11、σ22の平均値σ1が200MPa以上1000MPa以下である誘電体層4を得るには、アルゴンガスの圧力は0.1Pa以上1Pa以下とし、酸素ガスの圧力は1Pa以上5Pa以下とすればよい。
【0037】
次に、アルゴンリッチな雰囲気下で、電源により陽極14と陰極12との間に電界を印加し、プラズマPを発生させてスパッタリングすることにより、基体2の表面に金属イットリウム膜を形成して、厚みが5μm以下の膜電極3を形成する。電源から投入する電力は、高周波電力および直流電力のいずれでもよい。チタンとイットリウムのように複数の金属を積層した膜電極3を形成する場合は、スパッタ装置20内に複数のターゲット11を配置して、ターゲット11の切り替えによって製膜する金属を切り替えればよい。
【0038】
膜電極3を形成後、後酸化スパッタ法で誘電体層4を形成する。すなわち、膜電極3の表面にスパッタによる金属イットリウム膜の形成と酸素プラズマによる酸化を繰り返して誘電体層4となるイットリア膜を形成する。1回のイットリウム膜形成における厚みはおよそ1nm以下である。そして、誘電体層4の厚みの合計が5μm以下となるように、イットリウム膜の形成と、酸化工程とを交互に行って積層することにより、イットリアを含む、厚みが5μm以下の誘電体層4が得られる。かくして、本開示の耐プラズマ積層体1を得ることができる。膜電極3の表面がイットリウムであれば、誘電体層4との接続部分は、膜電極3の酸化により形成できるので、密着性が高く、安定した誘電体層4が得られる。このようなイットリウム層と酸化イットリウムの境界面は不明瞭で、連続的に酸素比率が上昇する領域が存在する。
【0039】
金属イットリウム膜を形成するスパッタ工程と、酸化工程とを交互に行うためのスパッタ装置20には、スパッタ領域と酸化領域とを空間で分け、両領域間を基体2が移動するタイプと、スパッタ時と酸化時とを時間で分け、同じ領域でスパッタと酸化を交互に行うタイプとがある。
図2は後者のタイプを示している。
【0040】
前者のタイプでは、装置内にスパッタ領域と酸化領域を設けており、それらの領域間を基体2が移動する。各領域は隔壁で囲われていて、スパッタ領域ではAr分圧を高くし、イオンを磁場(または電場)で加速してターゲットに衝突させる。一方、酸化領域では酸素分圧を高くする。
【0041】
後者のタイプでは、基体2は同じ場所に留まり、チャンバ15内に供給するガス種を切り替えて、金属成膜と酸化を繰り返す。
【0042】
いずれの場合も、スパッタ領域(スパッタ時)ではアルゴンリッチなプラズマをターゲットに照射してスパッタを行い、酸化領域(酸化時)では酸素リッチなプラズマを基体2および誘電体層4の膜に照射して酸化を行う。
【0043】
図1に示すように、誘電体層4は膜電極3の表面および側面を被覆するように形成されている。このように膜電極3を露出させないのは膜電極3をプラズマから保護するためである。
【0044】
サファイアの基体2に形成された誘電体
層4の表面を観察したレーザー顕微鏡写真(倍率:1200倍)を
図3Aに示す。また、比較のために、同様にしてアルミナセラミックの基体に形成された誘電体
層4の表面を観察したレーザー顕微鏡写真(倍率:1200倍)を
図3Bに示す。なお、研磨後のサファイア基体2の算術平均高さSaは10nm以下、アルミナの基体の算術平均高さSaは30nm以下であった。
【0045】
図3Bに示すアルミナの基体の誘電体
層4の表面には、ボイド、スクラッチなどが表れているのに対して、
図3Aに示すサファイアの基体2の誘電体
層4の表面には、ボイド、スクラッチなどが認められない。
【0046】
また、アルミナの基体の誘電体層4の表面は算術平均高さ(Sa)が0.199μmであるのに対して、サファイアの基体2の誘電体層4の表面は算術平均高さ(Sa)が0.032μmであり、表面が平滑であった。そのため、サファイアの基体2を使用することにより、厚みが薄くボイド等のない膜電極3および誘電体層4を形成することができる。
【0047】
図4A、Bは、形成された膜電極3と誘電体層4との積層状態の一例を示す走査電子顕微鏡(SEM)写真であり、中央部および外周部における界面部分をそれぞれ示している。
図4A、Bに示す耐プラズマ積層体1は、サファイアからなる基体2上に形成した、厚さ約2μmのイットリウム(Y)からなる膜電極3上に、厚さ約2μmのイットリア(Y
2O
3)からなる誘電体層4を形成したものである。
【0048】
図4A、Bから、膜電極3と誘電体層4とは、全面にわたって均一に積層されていることがわかる。また、イットリウムからなる膜電極3上とイットリアからなる誘電体層4との間には、アモルファス的な中間層が存在している。中間層はイットリアとイットリウムの中間の組成を有し、膜電極3と誘電体層4との密着力向上に寄与する。
【0049】
支持体層5は、スパッタ時に先立って、基体2にあらかじめ接合していてもよく、スパッタ終了後に接合していてもよい。
【0050】
本開示の耐プラズマ積層体1は、キャパシティブプローブ型のプラズマセンサーとして使用される。すなわち、プラズマCVD、アッシング、エッチング、スパッタリング等のように、半導体基板等の被処理体にプラズマ放電を用いてプラズマ処理するプラズマ処理装置において、上記プラズマセンサーの1つまたは複数をプラズマ処理室内の壁面に取り付けて使用される。耐プラズマ積層体1の他の用途としては、静電チャックなどが挙げられる。
【0051】
本実施形態の耐プラズマ積層体1は、基体2がサファイアを、誘電体層4がイットリウムの酸化物(イットリア)を含んでいるので、耐プラズマ性に優れる。また、サファイアとイットリアは熱膨張差が小さいので、熱応力によるはがれやクラックが生じにくい。さらに、サファイアは機械的強度にも優れる。従って、本実施形態の耐プラズマ積層体1は、プラズマ処理装置におけるプラズマ計測器に好適に使用することができる。
【0052】
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示の耐プラズマ積層体は、上記実施形態に限定されるものではなく、本開示の範囲内で種々の変更や改善が可能である。例えば、基体2は、その特性を損なわない範囲で、サファイアに光の透過率を調整するための添加物や酸素欠陥、例えば紫外光などの周囲に有害な光を吸収するような添加物や欠陥等を含んでいてもよい。また、誘電体層4は、その特性を損なわない範囲で、イットリウムに加えてアルミニウム等の他の酸化物を含んでいてもよいし、イットリウムアルミニウムガーネット等の複合酸化物を含んでいてもよい。
【符号の説明】
【0053】
1 耐プラズマ積層体
2 基体
3 膜電極
4 誘電体層
5 支持体層
6 ビア電極
7 給電端子
11 ターゲット
12 陰極
13 ガス供給源
14 陽極
15 チャンバ
20 スパッタ装置