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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】走行車両
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/38 20060101AFI20241016BHJP
【FI】
F16H61/38
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2024113625
(22)【出願日】2024-07-16
【審査請求日】2024-07-17
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】508150337
【氏名又は名称】イワフジ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161355
【弁理士】
【氏名又は名称】野崎 俊剛
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 慎吾
【審査官】松江川 宗
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-136880(JP,A)
【文献】特開2006-057696(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0082093(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 61/14,61/38-61/64
B62D 9/00-15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノンフィードバック式ポンプから送られた作動油の油圧により左右の走行装置をそれぞれ駆動させて走行する走行車両であって、
動力源となる原動機と、前記原動機の動力により作動油を送る左右の前記ノンフィードバック式ポンプと、左右の前記ノンフィードバック式ポンプから送られた作動油の油圧によりそれぞれ駆動する左右の油圧モータと、左右の前記油圧モータにそれぞれ接続され駆動する左右の前記走行装置と、左右の前記ノンフィードバック式ポンプにそれぞれ接続され圧力により斜板角を制御する左右の油圧制御部と、前記走行車両の前後進、左右カーブ走行、旋回を操作する操作ハンドルと、前記操作ハンドルに接続され前記操作ハンドルのハンドル角を検知するハンドル角検知部と、左右の前記油圧制御部の動作を制御する制御部とを備え、
前記制御部は、前記ハンドル角検知部からのハンドル角の信号を受信して前記走行車両がカーブ走行中であることを検知し、カーブ外側の左右いずれかの前記走行装置を駆動する前記油圧モータに接続された前記ノンフィードバック式ポンプの斜板の制御圧力が前記ハンドル角の大きさ応じて上昇するように前記油圧制御部の動作を制御することを特徴とする走行車両。
【請求項2】
請求項1記載の走行車両であって、
前記制御部は、前記走行車両がカーブ走行中であることを検知し、カーブ外側の前記走行装置を駆動する前記油圧モータに接続された前記ノンフィードバック式ポンプの斜板の制御圧力が、直進時の最大値を超えて制御圧上限まで上昇するように前記油圧制御部の動作を制御することを特徴とする走行車両。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載の走行車両は、
前記走行装置がクローラ式の建設機械、作業アタッチメントを備えた建設機械、または左右の前記走行装置の速度差により旋回する建設機械のいずれかであることを特徴とする走行車両。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノンフィードバック式ポンプから送られた作動油の油圧により左右の走行装置をそれぞれ駆動させて走行する走行車両に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、クローラ式の走行装置を駆動させて走行するフォワーダと呼ばれる走行車両がある。このような走行車両の中にはノンフィードバック式ポンプ(油圧ポンプ)を備えたものがあり、走行車両はエンジンに接続されたノンフィードバック式ポンプから送られた作動油の油圧により左右の走行装置を駆動させて走行する。このようなノンフィードバック式ポンプを備えた走行車両として、特許文献1、2の走行車両に関する技術が知られている。
【0003】
特許文献1の技術は、油圧ポンプ及び油圧モータから成る左右別々の油圧式駆動手段にて、走行作業機における左右一対の走行クローラを各々駆動するように構成し、左右各々の油圧モータの回転数を、油圧ポンプに対する電気的アクチェータへの出力信号値の増減により制御して、直進及び左右旋回の操向制御をする走行車両である。この走行車両における操向制御装置は、旋回制御時の左右走行クローラの駆動力の和が、常に一定になるように、旋回内側と外側との油圧ポンプの出力を決定する制御手段を設けたものであり、さらに電気信号で駆動力(回転数)を制御する。
【0004】
特許文献2の技術は、油圧操向方式の作業車両であり、エンジンの動力を少なくともトルクコンバータおよび差動操向手段を介して左右の駆動輪に伝達するとともに、エンジンにより駆動される油圧ポンプからの圧油にて作動される油圧モータの動力を、差動操向手段を介して左右の駆動輪に伝達するように構成されている。作業車両は、トルクコンバータの速度比を演算する速度比演算手段と、この速度比演算手段により算出される速度比に基づいて油圧ポンプの吸収トルクを制御するポンプ吸収トルク制御手段とが設けられている。
【0005】
ところで、ノンフィードバック式ポンプは斜板式のピストンポンプであり、斜板の傾きによりピストンの可動範囲による容積(1往復で押し出される量)を変化させて吐出量を制御しており、ブロック特性と呼ばれる高圧時に容積が減少することでエンジンの負荷を抑制し、いわゆるエンストを防止する。
【0006】
しかし、クローラ式の走行装置においてカーブ走行時には、カーブ外側の走行装置のノンフィードバック式ポンプは高圧になり、カーブ内側の走行装置のノンフィードバック式ポンプは低圧もしくは逆圧になり、エンジン出力のほとんどがカーブ外側の走行装置の駆動のみに消費されるので、エンジン出力に余裕があるものの十分に使用することができず、走行速度の低下につながってしまう。
【0007】
特許文献1の技術では、操向制御装置は、旋回制御時の左右走行クローラの駆動力の和が常に一定になるように旋回内側と外側との油圧ポンプの出力を決定する制御手段を設けているが、駆動力の和が常に一定のため、カーブの大きさに応じたハンドル角が考慮されず、カーブで走行車両の速度は出てもハンドル操作が難しく曲がり難いおそれがある。
【0008】
特許文献2の技術では、作業車両は、トルクコンバータの速度比を演算する速度比演算手段により算出される速度比に基づいて油圧ポンプの吸収トルクを制御するが、カーブの大きさに応じたハンドル角が考慮されず、カーブで走行車両の速度は出てもハンドル操作が難しく曲がり難いおそれがある。また、走行負荷に応じて油圧ポンプの吸収トルクを最適に制御するものの、動力の左右の駆動輪への伝達はトルクコンバータと機械式の差動操向手段を用いており、左右の駆動輪それぞれへの油圧を調整するものではないため、どちらか一方の制御を適切に調整されている訳ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平9-215406号公報
【文献】特開2005-273902号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、以上の点に鑑み、ノンフィードバック式ポンプから送られた作動油の油圧により左右の走行装置をそれぞれ駆動させるのにエンジン出力を無駄なく使用でき、カーブの大きさに応じたハンドル角を考慮し、ハンドル操作が容易でカーブで速度を落とし過ぎずに適切な速度でカーブ走行できる走行車両を提供すること課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の実施例によれば、ノンフィードバック式ポンプから送られた作動油の油圧により左右の走行装置をそれぞれ駆動させて走行する走行車両であって、
動力源となる原動機と、前記原動機の動力により作動油を送る左右の前記ノンフィードバック式ポンプと、左右の前記ノンフィードバック式ポンプから送られた作動油の油圧によりそれぞれ駆動する左右の油圧モータと、左右の前記油圧モータにそれぞれ接続され駆動する左右の前記走行装置と、左右の前記ノンフィードバック式ポンプにそれぞれ接続され圧力により斜板角を制御する左右の油圧制御部と、前記走行車両の前後進、左右カーブ走行、旋回を操作する操作ハンドルと、前記操作ハンドルに接続され前記操作ハンドルのハンドル角を検知するハンドル角検知部と、左右の前記油圧制御部の動作を制御する制御部とを備え、
前記制御部は、前記ハンドル角検知部からのハンドル角の信号を受信して前記走行車両がカーブ走行中であることを検知し、カーブ外側の左右いずれかの前記走行装置を駆動する前記油圧モータに接続された前記ノンフィードバック式ポンプの斜板の制御圧力が前記ハンドル角の大きさ応じて上昇するように前記油圧制御部の動作を制御することを特徴とする。
【0012】
かかる構成によれば、走行車両は、原動機の動力により作動油を送る左右のノンフィードバック式ポンプと、左右のノンフィードバック式ポンプから送られた作動油の油圧によりそれぞれ駆動する左右の油圧モータと、左右の走行装置と、左右のノンフィードバック式ポンプにそれぞれ接続され圧力により斜板角を制御する左右の油圧制御部と、操作ハンドルと、操作ハンドルのハンドル角を検知するハンドル角検知部と、左右の油圧制御部の動作を制御する制御部とを備える。制御部は、ハンドル角検知部からのハンドル角の信号を受信して走行車両がカーブ走行中であることを検知し、カーブ外側の左右いずれかの走行装置を駆動する油圧モータに接続されたノンフィードバック式ポンプの斜板の制御圧力がハンドル角の大きさ応じて上昇するように油圧制御部の動作を制御するので、カーブの大きさに応じたハンドル角を考慮し、ハンドル操作が容易でカーブで速度を落とし過ぎずに適切な速度でカーブ走行できる。
【0013】
さらに、走行車両は、左右のノンフィードバック式ポンプから送られた作動油の油圧によりそれぞれ駆動する左右の油圧モータと、左右の走行装置と、左右のノンフィードバック式ポンプにそれぞれ接続され圧力により斜板角を制御する左右の油圧制御部とを備えているので、ノンフィードバック式ポンプから送られた作動油の油圧により左右の走行装置をそれぞれ駆動させるとともにエンジン出力を無駄なく使用できる。
【0014】
好ましくは、前記制御部は、前記走行車両がカーブ走行中であることを検知し、カーブ外側の前記走行装置を駆動する前記油圧モータに接続された前記ノンフィードバック式ポンプの斜板の制御圧力が、直進時の最大値を超えて制御圧上限まで上昇するように前記油圧制御部の動作を制御することを特徴とする。
【0015】
かかる構成によれば、制御部は、走行車両がカーブ走行中であることを検知し、カーブ外側の走行装置を駆動する油圧モータに接続されたノンフィードバック式ポンプの斜板の制御圧力が、直進時の最大値を超えて制御圧上限まで上昇するように油圧制御部の動作を制御するので、ノンフィードバック式ポンプのピストンが可動する容積低下を抑えて、エンジン出力を最大限に無駄なく使用できる。
【0016】
好ましくは、前記走行装置がクローラ式の建設機械、作業アタッチメントを備えた建設機械、または左右の前記走行装置の速度差により旋回する建設機械のいずれかである。
【0017】
かかる構成によれば、走行装置がクローラ式の建設機械、作業アタッチメントを備えた建設機械、または左右の走行装置の速度差により旋回する建設機械のいずれかであるので、油圧モータを駆動させて左右の走行装置により走行する建設機械に好適であり、様々な建設機械において、カーブの大きさに応じたハンドル角を考慮し、ハンドル操作が容易でカーブで速度を落とし過ぎずに適切な速度でカーブ走行できる。
【発明の効果】
【0018】
ノンフィードバック式ポンプから送られた作動油の油圧により左右の走行装置をそれぞれ駆動させるのにエンジン出力を無駄なく使用でき、カーブの大きさに応じたハンドル角を考慮し、ハンドル操作が容易でカーブで速度を落とし過ぎずに適切な速度でカーブ走行できる走行車両を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】(A)は実施例に係る走行車両の平面図である。(B)は実施例に係る走行車両の車両左側の側面図である。
図2】実施例に係る走行車両の主要部分の説明図である。
図3】実施例に係る走行車両が備えた油圧制御システムの回路構成の説明図である。
図4】(A)は比例制御弁のソレノイド電流とノンフィードバック式ポンプの行程容積の関係を示す図である。(B)は実施例に係るノンフィードバック式ポンプのブロック特性を示す図である。
図5】(A)は比例制御弁、ノンフィードバック式ポンプの斜板、吐出量の作用の流れを説明する図である。(B)は一般的な走行車両のカーブ走行時のノンフィードバック式ポンプの油圧の変化(エンジンの出力の振分)を説明する模式図である。
図6】一般的な走行車両のカーブ走行時と直線走行時の左右のノンフィードバック式ポンプの油圧の変化を説明する図である。
図7】実施例に係る走行車両の制御フロー図である。
図8】実施例に係る走行車両のカーブ走行時のカーブ外側用の比例制御弁の電流制御を説明する図である。
図9】(A)は比較例の走行車両のカーブ走行時のノンフィードバック式ポンプの油圧の変化(エンジンの出力の振分)を説明する作用図である。(B)は実施例の走行車両のカーブ走行時のノンフィードバック式ポンプの油圧の変化(エンジンの出力の振分)を説明する作用図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、作用図は、走行車両10を概念的(模式的)に示すものとする。
【実施例
【0021】
図1図2に示されるように、走行車両10は、クローラ式の左右の走行装置20L,20R(Lは左、Rは右を示す符号、以下同じ。)を駆動させて走行するフォワーダと呼ばれるものである。走行車両10は、本体11と、本体11に設けられ動力源となる原動機(エンジン)12と、本体11の車両幅方向左右にそれぞれ設けられた左右の走行装置20L,20Rと、本体11の前部に設けられた操作室(キャビン)13と、操作室13に設けられ左右の走行装置20L,20Rを駆動させて走行車両10の前後進、左右カーブ走行、旋回を操作する操作ハンドル14と、本体11の後上部に設けられ木材等の荷物を載置する跳上げ式の荷台15と、を備えている。
【0022】
左右の走行装置20L,20Rは、ゴム製で覆帯状のクローラ21と、動力を得てクローラ21を駆動するスプロケット22と、クローラ21をスムーズに回転させるトラックローラ23と、クローラ21を支持するとともに従動するリヤアイドラ24とを備えている。
【0023】
また、走行車両10は、左右のノンフィードバック式ポンプ31L,31Rからそれぞれ送られた作動油の油圧により左右の走行装置20L,20Rをそれぞれ駆動させて走行するものであり、油圧に関する機器等からなる油圧システム30を備えている。
【0024】
油圧システム30は、原動機(エンジン)12と、原動機12の動力により作動油を送る左右のノンフィードバック式ポンプ(油圧ポンプ)31L,31Rと、左右のノンフィードバック式ポンプ31L,31Rから送られた作動油の油圧によりそれぞれ駆動する左右の油圧モータ32L,32Rと、左右の油圧モータ32L,32Rにそれぞれ接続され駆動する左右の走行装置20L,20Rとを備えている。
【0025】
また、油圧システム30は、左右のノンフィードバック式ポンプ31L,31Rにそれぞれ接続され圧力により斜板角を制御する左右の油圧制御部33L,33Rと、走行車両10の前後進、左右カーブ走行、旋回を操作する操作ハンドル14と、操作ハンドル14に接続され操作ハンドル14のハンドル角を検知するハンドル角検知部14aと、左右の油圧制御部33L,33Rの動作を制御する制御部40とを備えている。
【0026】
制御部40は、ハンドル角検知部14aからのハンドル角の信号を受信して走行車両10がカーブ走行中であることを検知し、カーブ外側の左右いずれかの走行装置20L,20Rを駆動する油圧モータ32L,32Rに接続されたノンフィードバック式ポンプ31L,31Rの斜板の制御圧力がハンドル角の大きさ応じて上昇するように油圧制御部33L,33Rの動作を制御する。
【0027】
また、制御部40は、ハンドル角検知部14aからのハンドル角の信号を受信して走行車両10がカーブ走行中であることを検知し、カーブ外側の走行装置20L,20Rを駆動する油圧モータ32L,32Rに接続されたノンフィードバック式ポンプ31L,31Rの斜板の制御圧力が、直進時の最大値を超えて制御圧上限まで上昇するように油圧制御部33L,33Rの動作を制御する。
【0028】
次に油圧システム30について説明する。なお、図に記載の主要部品についてのみ説明する。また、左右同様の構成については、左の構成のみ説明し、右の構成については符号を振って説明を省略する。
【0029】
図2、3に示されるように、油圧システム30は、原動機12により駆動される左のノンフィードバック式ポンプ31Lと、左のノンフィードバック式ポンプ31Lに接続され圧力により斜板角を制御する左右の油圧制御部33Lと、左のノンフィードバック式ポンプ31Lから送られた作動油の油圧によりそれぞれ駆動する左の油圧モータ32Lと、左の油圧モータ32Lに接続され駆動する左のスプロケット22(左の走行装置20L)とを備えている。
【0030】
ノンフィードバック式ポンプ31Lは、可変容量形油圧ポンプであり、斜板の傾斜角度を油圧制御部33Lにより制御することで、吐出ポートから吐出される作動油の流量(吐出流量)を変化させることができる。
【0031】
油圧制御部33Lは、ノンフィードバック式ポンプ31Lに接続され前後進の方向を切り替えるとともに斜板の傾斜角度を調整するアクチュエータ(油圧シリンダ)34Lと、このアクチュエータ34Lの動作を制御する左前の比例制御弁35L及び左後の比例制御弁36Lと、これらの比例制御弁35L,36Lとアクチュエータ34Lとの間に設けられたスロットルチェック弁37Lとを備えている。
【0032】
また、油圧システム30の走行装置20L部分には、左の油圧モータ32Lと、この左の油圧モータ32Lのパーキングを解除するためのアクチュエータ41Lと、パーキングを解除するためのソレノイドバルブ44と、このソレノイドバルブ44に繋がるプレッシャスイッチ45と、左の油圧モータ32Lの高速低速モードを切り替えるモード切替アクチュエータ46Lと、このモード切替アクチュエータ46Lへの作動油の導通を切り替えるモード切替弁47Lと、このモード切替弁47Lへ作動油を送るモード切替用ソレノイドバルブ48と、圧力センサとを備えている。
【0033】
また、油圧システム30の作業装置である跳ね上げ式の荷台15(図1参照)部分には、オイルタンク50からの作動油を吐出するギヤポンプ51と、荷台15の跳ね上げを行うダンプシリンダ52にギヤポンプ51からの作動油の送り戻しを切り替えるダンプ切り替え弁53とを備えている。
【0034】
次に、作動油の流れ及びHSTについて説明する。
ノンフィードバック式ポンプ31Lと走行モータ(油圧モータ)32Lで閉回路(HST:ハイドロスタティックトランスミッション)を構成している。ノンフィードバック式ポンプ31Lから高圧で吐出された作動油は、走行モータ32Lを回した後、低圧となり走行モータ32Lから出てきてノンフィードバック式ポンプ31Lに戻り、再度ノンフィードバック式ポンプ31Lから高圧で吐出される。この回路はギヤポンプ51から吐出された油圧がチャージ用弁を通して一定圧力で常時加圧している。回路内の作動油はフラッシング弁42L、43Lから一定量の作動油をオイルタンク50に戻し、その分の量をギヤポンプ51により清浄な作動油と入れ替えている。
【0035】
また、各弁等への作動油は、オイルタンク50からストレーナ66を介して油通路67を通りギヤポンプ51に送られ、ギヤポンプから油通路68を通りフィルター69や各種バルブ等を介して左前の比例制御弁35L及び左後の比例制御弁36Lへ送られる。また、フィルター69を通過した作動油は、油通路71を通り、一部がパーキング解除用のソレノイドバルブ44から油通路72を通り左のアクチュエータ41Lへ送られ、一部がモード切替用ソレノイドバルブ48から油通路73を通り左のモード切替弁47Lに送られる。なお、左のアクチュエータ41Lに送られた作動油は、油通路72を戻り切り替えられたソレノイドバルブ44を介して油通路74を通りオイルタンク50へ戻る。
【0036】
また、圧力センサ、各弁やスイッチ等は、制御部40に電気的に繋がり(電気配線は不図示)、作動を制御されるものとする。
【0037】
次に、比例制御弁のソレノイド電流とノンフィードバック式ポンプの行程容積の関係を説明する。
図4(A)に示されるように、ソレノイド電流[A]が0を含む一定の範囲でノンフィードバック式ポンプの行程容積[cm/rev]は0であるが、ソレノイド電流が0を含む一定の範囲を超えると、ソレノイド電流の増加に比例して行程容積が増加する。また、ノンフィードバック式ポンプが高圧になるとソレノイド電流が同じでもブロック特性により行程容積が小さくなり、吐出量が減少する。ノンフィードバック式ポンプの吐出量の減少は、走行装置(走行車両)の速度の低下となる。
【0038】
次に、実施例に係るノンフィードバック式ポンプ(ポンプ)のブロック特性を説明する。
エンジン出力≧ポンプを回転させる動力=回路圧力×吐出流量、回路圧力と流量のどちらかが一定でどちらかが大きくなると、ポンプを回転させる動力がエンジン出力を上回りエンジンが停止してしまう。ポンプを回転させる最大動力を100とした場合、エンジンの停止を防ぐため回路圧力が大きくなってきたら吐出流量を少なくし、ポンプを回転させる動力を100以上に大きくならない様にすることをブロック制御という。ノンフィードバック式ポンプは、回路圧が高圧になると斜板が圧力に押され吐出量が少なくなる方向に戻される特性を利用し上記の制御をしている。
【0039】
次に、比例制御弁、ノンフィードバック式ポンプの斜板、吐出量の作用の流れを説明する。
図5(A)に示されるように、ノンフィードバック式ポンプでは、STEP1(図ではSTEPをSと示す)で制御部40の電流により比例制御弁が作動し、STEP2でノンフィードバック式ポンプの斜板制御圧(斜板を傾転させる圧力)が決まり、STEP3でポンプ傾転角が作動油の吐出量を決め、この吐出量により走行装置(走行車両)の速度が決まる。
【0040】
次に、一般的な走行車両のカーブ走行時のノンフィードバック式ポンプの油圧の変化(エンジンの出力の振分)を説明する。
図5(B)に示されるように、一般的な走行車両100は、走行路の直線部分を走行する際、左の走行装置20Lのノンフィードバック式ポンプの圧力PLと、右の走行装置20Rのノンフィードバック式ポンプの圧力PRは、共に大きい(圧大)。
【0041】
一般的な走行車両100が右の走行装置20Rの速度を下げカーブ走行になると、カーブ外側の走行装置20Lのノンフィードバック式ポンプの圧力PLは大きい(圧大)が、カーブ内側の走行装置20Rのノンフィードバック式ポンプの圧力PRは小さくなるか(圧小)、マイナスの圧力となり(逆圧)。これにより、外側の走行装置20Lと内側の走行装置20Rの合成速度が下がり、走行車両100全体としても速度が遅くなる。
【0042】
次に、一般的な走行車両のカーブ走行時と直線走行時の左右のノンフィードバック式ポンプの油圧の変化を説明する。
図6に示されるように、一般的な走行車両がカーブ走行に入ると、ノンフィードバック式ポンプの圧力は、カーブ外側が高圧、カーブ内側が低圧もしくは逆圧となり、原動機(エンジン)の出力は、ほぼ外側の駆動のみに消費され、出力に余裕ができる。このとき、走行抵抗により外側の回路圧力が高くなるとブロック特性によりエンジン出力には余裕があっても外側のポンプの容積が減少し、走行車両の速度低下を招く。また走行車両が直線走行に入ると、内側の速度が上がり走行車両100全体の速度が最高速に回復する。
【0043】
次に、実施例に係る走行車両の制御フローを説明する。
図7に示されるように、実施例の走行車両10では、操作ハンドル14のレバー入力が検知されると(STEP4)、走行車両10がカーブ走行か否かを判断し(STEP5)、NOであれば左右のノンフィードバック式ポンプ31L,31Rの制御圧力は定常値であり(STEP6)、YESであればカーブ外側の油圧モータ32L,32Rを駆動するノンフィードバック式ポンプ31L,31Rの許容制御圧力を増加する(STEP7)。
【0044】
次に、実施例に係る走行車両のカーブ走行時のカーブ外側用の比例制御弁の電流制御を説明する。
図8に示されるように、図下側はポンプ圧力を示しており、走行車両がカーブ走行に入ると、ノンフィードバック式ポンプの圧力は、カーブ外側が高圧、カーブ内側が低圧もしくは逆圧となる。このとき、カーブ外側のノンフィードバック式ポンプ31L,31Rの作動につながる比例制御弁35,36の電流値を直進時よりも増加させる。これにより、カーブ外側のノンフィードバック式ポンプ31L,31Rの容積低下を抑制し、走行速度の低下を防ぐ。すなわち、操作ハンドル14のレバー入力から走行車両10がカーブ走行中であることを検知し、カーブ外側のノンフィードバック式ポンプ31L,31Rの作動につながる比例制御弁35,36の電流値を直進時よりも増加させ、高圧時の容積低下を抑制して走行速度の低下を防ぐ。
【0045】
次に、比較例の走行車両100のカーブ走行時のノンフィードバック式ポンプの油圧の変化(エンジンの出力の振分)を作用とともに説明する。
図9(A)に示されるように、比較例の走行車両100が走行路80を直線走行しているときは、左の走行装置20Lの油圧PLは100(割合を示す数値)であり、右の走行装置20Rの油圧PRは100であり、その合計は200となり、エンジンの出力を最大限使用している。
【0046】
比較例の走行車両100がカーブ81に入ると、カーブ外側である左の走行装置20Lの油圧PLは100のままであるが、カーブ内側の右の走行装置20Rの油圧PRは50となり、その合計は150となり、エンジンの出力を使い切らない状態(余力を残す状態)となるが、走行抵抗が大きくなり油圧PLが100を超えるとブロック特性により走行装置20Lの速度が下がり、走行車両100の走行速度が遅くなる。
【0047】
次に、実施例の走行車両10のカーブ走行時のノンフィードバック式ポンプの油圧の変化(エンジンの出力の振分)を作用とともに説明する。
図9(B)に示されるように、実施例の走行車両10が走行路80を直線走行しているときは、左の走行装置20Lの油圧PLは100(割合を示す数値)であり、右の走行装置20Rの油圧PRは100であり、その合計は200となり、エンジンの出力を最大限使用している。
【0048】
実施例の走行車両10がカーブ81に入ると、カーブ内側の右の走行装置20Rの油圧PRは50となって余力が発生する。走行車両10がカーブ走行中であることを検知し、カーブ外側の走行装置20Lを駆動する油圧モータ32Lに接続されたノンフィードバック式ポンプ31Lの油圧が、直進時の最大値100を超えてもブロック特性を抑え、余力25をカーブ外側の走行装置20Lで使えるように制御する。
【0049】
なお、カーブ外側の走行装置20Lを駆動する油圧モータ32Lに接続されたノンフィードバック式ポンプ31Lの斜板の制御圧力を直進時の最大値より上昇させて、外側と内側の合計の油圧がエンジン出力上限200まで上昇するように制御してもよい。これにより、エンジンの出力を有効に使用でき、走行車両10の走行速度の低下を抑制することができる。
【0050】
次に以上に述べた実施例の走行装置10の作用、効果を説明する。
本発明の実施例は、走行車両10は、原動機12の動力により作動油を送る左右のノンフィードバック式ポンプ31L,31Rと、左右のノンフィードバック式ポンプ31L,31Rから送られた作動油の油圧によりそれぞれ駆動する左右の油圧モータ32L,32Rと、左右の走行装置20L,20Rと、左右のノンフィードバック式ポンプ31L,31Rにそれぞれ接続され圧力により斜板角を制御する左右の油圧制御部33L,33Rと、操作ハンドル14と、操作ハンドル14のハンドル角を検知するハンドル角検知部14aと、左右の油圧制御部33L,33Rの動作を制御する制御部40とを備える。制御部40は、ハンドル角検知部14aからのハンドル角の信号を受信して走行車両10がカーブ走行中であることを検知し、カーブ外側の左右いずれかの走行装置20L,20Rを駆動する油圧モータ32L,32Rに接続されたノンフィードバック式ポンプ31L,31Rの油圧がハンドル角の大きさに応じて上昇するように油圧制御部33L,33Rの動作を制御するので、カーブの大きさに応じたハンドル角を考慮し、ハンドル操作が容易でカーブで速度を落とし過ぎずに適切な速度でカーブ走行できる。
【0051】
さらに、走行車両10は、左右のノンフィードバック式ポンプ31L,31Rから送られた作動油の油圧によりそれぞれ駆動する左右の油圧モータ32L,32Rと、左右の走行装置20L,20Rと、左右のノンフィードバック式ポンプ31L,31Rにそれぞれ接続され圧力により斜板角を制御する左右の油圧制御部33L,33Rとを備えているので、ノンフィードバック式ポンプ31L,31Rから送られた作動油の油圧により左右の走行装置20L,20Rをそれぞれ駆動させるとともにエンジン出力を無駄なく使用できる。
【0052】
さらに、制御部40は、走行車両10がカーブ走行中であることを検知し、カーブ外側の走行装置20L,20Rを駆動する油圧モータ32L,32Rに接続されたノンフィードバック式ポンプ31L,31Rの斜板の制御圧力が、直進時の最大値を超えて制御圧上限まで上昇するように油圧制御部33L,33Rの動作を制御するので、ノンフィードバック式ポンプ31L,31Rのピストンが可動する容積低下を抑えて、エンジン出力を最大限に無駄なく使用できる。
【0053】
さらに、走行装置10がクローラ式の建設機械、作業アタッチメントを備えた建設機械、または左右の走行装置の速度差により旋回する建設機械のいずれかであるので、油圧モータ32L,32Rを駆動させて左右の走行装置により走行する建設機械に好適であり、様々な建設機械において、カーブの大きさに応じたハンドル角を考慮し、ハンドル操作が容易でカーブで速度を落とし過ぎずに適切な速度でカーブ走行できる。
【0054】
尚、実施例では、走行車両10をクローラ式の走行装置を駆動させて走行するフォワーダとしたが、これに限定されず、走行車両10を走行装置がクローラ式の建設機械、作業アタッチメントを備えた建設機械、または左右の前記走行装置の速度差により旋回する建設機械としてもよい。
【0055】
また、実施例では、走行装置20L,20Rは、ゴム製のクローラ式としているが、これに限定されず、鋼板を帯状にしてつなぎ合わせ輪にして前後のスプロケットとリヤアイドラに掛け渡したものとしてもよい。
【0056】
また、実施例では、走行車両10がカーブ81に入ると、カーブ内側の右の走行装置20Rの油圧PRは50(割合を示す数値)とし、余力25をカーブ外側である左の走行装置20Lで使いカーブ外側の走行装置20Lの油圧PLを125とし、その合計は175としたが、これに限定されず、カーブ外側の走行装置20Lを駆動する油圧モータ32Lに接続されたノンフィードバック式ポンプ31Lの斜板の制御圧力を、直進時の最大値を超えるように制御できれば、外側と内側の合計の油圧がエンジン出力上限200まで間の値に上昇するように制御してもよい。
【0057】
また、実施例では、制御部40は、カーブ外側のノンフィードバック式ポンプ31L,31Rの斜板の制御圧力がハンドル角の大きさに比例して上昇するように油圧制御部の動作を制御したが、これに限定されず、カーブ外側のノンフィードバック式ポンプ31L,31Rの斜板の制御圧力がハンドル角の大きさの範囲に応じて段階的に上昇するように油圧制御部の動作を制御してもよく、運転者が走行車両10の速度低下を感じずに快適にカーブ走行できれば、ハンドル角の大きさに応じてカーブ外側の油圧制御部の油圧の上昇方法は他の方法であってもよい。
【0058】
また、実施例では、ノンフィードバック式ポンプ31L,31Rを、斜板式の容積可変の油圧ポンプとしたが、これに限定されず、容積を可変できれば、他の形式の一般的な容積可変の油圧ポンプとしてもよい。また、実施例では、油圧制御部33L,33Rを、アクチュエータ34L,34Rと比例制御弁35L,35R,36L,36Rで構成したが、これに限定されず、ノンフィードバック式ポンプ31L,31Rの斜板角を調整できれば一般的なアクチュエータ等他の形式の機構であってもよい。
【0059】
即ち、本発明の作用及び効果を奏する限りにおいて、本発明は、実施例に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の技術は、ノンフィードバック式ポンプから送られた作動油の油圧により左右の走行装置をそれぞれ駆動させて走行する走行車両に好適である。
【符号の説明】
【0061】
10…走行車両(フォワーダ、油圧ショベル、建設機械)、12…原動機(エンジン、モータ)、14…操作ハンドル(操作レバー)、14a…ハンドル角検知部(角度センサ)、20L,20R…走行装置、21…クローラ、22…スプロケット、30…油圧システム、31L,31R…ノンフィードバック式ポンプ(油圧ポンプ)、32L,32R…油圧モータ、33L,33R…油圧制御部、34L,34R…アクチュエータ、35L,35R…前の比例制御弁、36L,36R…後の比例制御弁、40…制御部、41L,41R…アクチュエータ、80…走行路、81…カーブ。
【要約】
【課題】ノンフィードバック式ポンプから送られた作動油の油圧により左右の走行装置をそれぞれ駆動させるのにエンジン出力を無駄なく使用でき、カーブの大きさに応じたハンドル角を考慮し、ハンドル操作が容易でカーブで速度を落とし過ぎずに適切な速度でカーブ走行できる走行車両を提供すること。
【解決手段】制御部40は、ハンドル角検知部14aからのハンドル角の信号を受信して走行車両10がカーブ走行中であることを検知し、カーブ外側の左右いずれかの走行装置20L,20Rを駆動する油圧モータ32L,32Rに接続されたノンフィードバック式ポンプ31L,31Rの斜板の制御圧力がハンドル角の大きさ応じて上昇するように油圧制御部33L,33Rの動作を制御する。
【選択図】図2

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