(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】LANケーブルおよびLANケーブル用コネクタ
(51)【国際特許分類】
H04B 3/02 20060101AFI20241016BHJP
H01R 13/66 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
H04B3/02
H01R13/66
(21)【出願番号】P 2024506494
(86)(22)【出願日】2023-10-12
(86)【国際出願番号】 JP2023037035
【審査請求日】2024-02-01
(73)【特許権者】
【識別番号】591181229
【氏名又は名称】カナレ電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102406
【氏名又は名称】黒田 健二
(74)【代理人】
【識別番号】100100240
【氏名又は名称】松本 孝
(72)【発明者】
【氏名】圖師 洋
(72)【発明者】
【氏名】田辺 潤一郎
(72)【発明者】
【氏名】千種 佳樹
(72)【発明者】
【氏名】木下 尚紀
(72)【発明者】
【氏名】小林 久也
【審査官】鴨川 学
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-056727(JP,A)
【文献】特開2010-171581(JP,A)
【文献】実開平5-39026(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2001/0053627(US,A1)
【文献】田所 弘圭 et al.,M12 X code コネクタ付き Cat.6A LAN ケーブルの開発 [online],昭和電線レビュー,vol. 67,2023年06月23日,pp. 17-21,Internet: <URL:https://web.archive.org/web/20230624190534/https://www.swcc.co.jp/jpn/tech/review/67/SP3_67.pdf>,[検索日 2023.11.22]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 3/02
H01R 13/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
LANケーブルであって、
n本(nは4以上の整数。)の不平衡ケーブルをn対の信号線としてシース内に収納してなるLANケーブル本体と、
前記LANケーブル本体の少なくとも一方の端部に設けられる、差動信号でデータ通信を行う伝送システム機器側のコネクタジャックと接続されるコネクタプラグと、
を含み、
前記コネクタプラグは、
n対のコンタクトピンと、
回路基板であって、
前記n本の不平衡ケーブルの個々の導体対と電気的に接続される、n対のケーブル側端子と、
前記n対のコンタクトピンの個々の対のコンタクトピンと電気的に接続される、n対のピン側端子と、
n個の表面実装型の平衡-不平衡変換器と、
前記n対のケーブル側端子の個々の対と、前記n個の表面実装型の平衡-不平衡変換器の個々の変換器と、前記n対のピン側端子の個々の対との間を、1対1で電気的に接続する、電気配線と、
を含む回路基板と、
前記n対のコンタクトピンと前記回路基板とを囲むコネクタ本体と、
を含む、LANケーブル。
【請求項2】
前記コネクタプラグはモジュラコネクタ互換である、請求項1に記載のLANケーブル。
【請求項3】
前記モジュラコネクタは、RJ45である、請求項2に記載のLANケーブル。
【請求項4】
前記コネクタプラグは、産業用Xコードコネクタ互換である、請求項1に記載のLANケーブル。
【請求項5】
前記産業用Xコードコネクタは、M12シリーズXコードコネクタである、請求項4に記載のLANケーブル。
【請求項6】
前記n個の表面実装型の平衡-不平衡変換器のうち、一部が前記回路基板の表面上に実装され、残りが前記回路基板の裏面上に実装される、請求項1に記載のLANケーブル。
【請求項7】
LANケーブル用コネクタであって、
コネクタプラグを含み、
前記コネクタプラグは、n本(nは4以上の整数。)の不平衡ケーブルをn対の信号線としてシース内に収納してなるLANケーブル本体の少なくとも一方の端部に取り付けることが可能であり、かつ差動信号でデータ通信を行う伝送システム機器側のコネクタジャックと接続可能であり、
前記コネクタプラグは、
n対のコンタクトピンと、
回路基板であって、
前記n本の不平衡ケーブルの個々の導体対と電気的に接続される、n対のケーブル側端子と、
前記n対のコンタクトピンの個々の対のコンタクトピンと電気的に接続される、n対のピン側端子と、
n個の表面実装型の平衡-不平衡変換器と、
前記n対のケーブル側端子の個々の対と、前記n個の表面実装型の平衡-不平衡変換器の個々の変換器と、前記n対のピン側端子の個々の対との間を、1対1で電気的に接続する、電気配線と、
を含む回路基板と、
前記n対のコンタクトピンと前記回路基板とを囲むコネクタ本体と、
を含む、LANケーブル用コネクタ。
【請求項8】
前記コネクタプラグはモジュラコネクタ互換である、請求項7に記載のLANケーブル用コネクタ。
【請求項9】
前記モジュラコネクタはRJ45である、請求項8に記載のLANケーブル用コネクタ。
【請求項10】
前記コネクタプラグは、産業用Xコードコネクタ互換である、請求項7に記載のLANケーブル用コネクタ。
【請求項11】
前記産業用Xコードコネクタは、M12シリーズXコードコネクタである、請求項10に記載のLANケーブル用コネクタ。
【請求項12】
前記n個の表面実装型の平衡-不平衡変換器のうち、一部が前記回路基板の表面上に実装され、残りが前記回路基板の裏面上に実装される、請求項1に記載のLANケーブル用コネクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は概してLANケーブルおよびLANケーブル用コネクタに関し、具体的には、伝送距離が拡張された電気式のLANケーブル、および当該LANケーブルに使用されるコネクタに関する。
【背景技術】
【0002】
データ通信を行う伝送システム機器間を接続するLANケーブルには、種々のタイプがある。このうち、撚り対線(Twisted Pair Wire)の4対をケーブルシース内に収納し、両端に8P8C(eight position, eight conductors)モジュラコネクタ(具体的にはRJ45)を備えたTP型のLANケーブルが、広く使用されている。この種のLANケーブルは、伝送システム機器間で差動信号(differential signal)のデータ通信のための伝送路として機能する。
【0003】
IEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers)802.3iで標準化されたEthernet規格において、1Gbps以上すなわち1000BASE-T以上の通信速度に対応する現行のLANケーブルは、ANSI/TIA/EIA-568(米国規格協会 ANSI:American National Standards Institute、 米国通信工業会 TIA:Telecommunication Industries Association、米国電子工業会 EIA:Electronic Industries Association)において定められたカテゴリ6A、カテゴリ6、およびカテゴリ5e(CAT6A、CAT6、CAT5e)に分類されている。
【0004】
CAT6A、CAT6、およびCAT5eに分類される電気式のLANケーブルであるTP型のLANケーブルは、最長100mの伝送距離として設計されている。換言すれば、現行のTP型のLANケーブルでは、100mを超え200mまでといった長い伝送距離をカバーする設計はされていない。
【0005】
100mを超える長距離伝送には、光ファイバケーブルおよび光モジュールを使用する伝送システムが想定されている。しかし、電気式のLANケーブルを使用する場合に比べて高額な費用を要することが、放送局内等の伝送システム設計を難しくさせていた。実際、放送局等の局内用途には、伝送システム機器間の伝送距離が100mを超えるが200m以下である場合も多い。
【0006】
もし、最大伝送距離が200mまでの、伝送距離が拡張された電気式のLANケーブルを使用することができれば、高価な光ファイバケーブルおよび光モジュールを使わずに済む。また、そのような伝送距離が拡張された電気式のLANケーブルがあれば、局内用途の80%超を、電気式のLANケーブルでカバーできる可能性がある。
【0007】
一般に100mを超える長距離伝送には、別途電源が必要となるという問題がある。一例として、光ファイバケーブルおよび光モジュールを使用して信号伝送する場合、光モジュールに電力を供給するための電源が必要となる。他の例として、従来の電気式のLANケーブルで100mを超える距離を信号伝送するためには、別途リピータ等のアクティブ機器をLANケーブル間に配置して動作させることが必要となる。アクティブ機器用の電源が必要となることにより、伝送システムの設計を複雑化させ、運用コストを増大させるという問題がある。
【0008】
他方、差動信号でデータ通信を行うのではなく、シングルエンド信号でデータ通信を行う伝送システム機器を、不平衡ケーブル(同軸ケーブル)を介して接続する技術が知られている。例えば、10BASE-5または10BASE-2の規格によれば、N型コネクタと50Ω同軸ケーブルを使用して最大500m、またはBNCコネクタ付き50Ω同軸ケーブルを使用して最大185mの伝送が可能とされている。
【0009】
ところで、差動信号でデータ通信を行う伝送システム機器を、平衡ケーブルと不平衡ケーブルとを混在して使用するネットワーク環境において接続する技術が知られている(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3。)。
【0010】
特許文献1および特許文献2は、平衡信号によって通信する情報配線システムと、この情報配線システムを伝送経路として使用する不平衡信号通信システムとを接続するための平衡-不平衡変換器(「バラン(Balun)」とも呼ばれる。)において、使用する伝送媒体のコネクタ本体に平衡-不平衡変換器を内蔵した、コネクタ内蔵型の平衡-不平衡変換器を開示する。撚り対線の平衡ケーブルの一端にモジュラコネクタが、他端にBNCコネクタが設けられている。トロイダルコアを用いたトランスで構成された平衡-不平衡変換器が、BNCコネクタ本体に内蔵される。
【0011】
特許文献3は、同軸ケーブルまたは平衡対ケーブルの一端に、平衡-不平衡変換器を接続した変換機ひもを開示する。平衡-不平衡変換器は、コアを用いたトランスとこのトランスの巻線にインダクタおよびコンデンサを規定次数における定数にて接続するよう構成される。変換機ひもの一例において、平衡ケーブルの一端にモジュラプラグが設けられ、平衡ケーブルの他端に平衡-不平衡変換器が設けられている。平衡-不平衡変換器にはBNCコネクタが設けられ、当該BNCコネクタを介して同軸ケーブルに接続できるように構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開平05-174903号公報
【文献】特開平05-152997号公報
【文献】実開平05-039026号公報および全文明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記した特許文献は、いずれも、平衡ケーブルと不平衡ケーブルとを混在して使用するネットワーク環境を前提とした、ケーブル付き平衡-不平衡変換器を開示している。したがって、差動信号でデータ通信を行う伝送システム機器間を接続する場合、各伝送システム機器に、モジュラプラグで平衡ケーブル付き平衡-不平衡変換器を接続し、これら2つの平衡ケーブル付き平衡-不平衡変換器のBNCコネクタに、不平衡ケーブルを接続することが必要となる。加えて、単一の撚り対線ケーブルのコネクタに、トロイダルコアを用いた単一のトランスを組み込むことは可能であるとしても、4組の撚り対線ケーブルのコネクタに4つのトランスを組み込むことは、コネクタの大型化と重量の増大を招くという問題がある。
【0014】
以上のように、規格上最大100mとされていた伝送距離を超えて、差動信号でデータ通信を行う伝送システム機器間のデータ通信を可能とする、電源を必要としないパッシブな、電気式のLANケーブルの開発が求められている。
【0015】
また、平衡ケーブルと不平衡ケーブルとを混在して使用するネットワーク環境を必要としない、シンプルな構成の、電気式のLANケーブルの開発が求められている。
【0016】
したがって、本発明の一つの目的は、規格上最大100mとされていた伝送距離を超えて、差動信号でデータ通信を行う伝送システム機器間のデータ通信を可能とする、電気式のLANケーブルおよびLANケーブル用コネクタを提供することにある。
【0017】
本発明のもう一つの目的は、電源を必要することなく、100mを超える伝送距離の伝送をすることができる、パッシブな電気式のLANケーブルおよびLANケーブル用コネクタを提供することにある。
【0018】
本発明のさらにもう一つの目的は、平衡ケーブルと不平衡ケーブルとを混在して使用するネットワーク環境を必要としない、シンプルな構成の、電気式のLANケーブルおよびLANケーブル用コネクタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の一つの局面において、LANケーブルは以下の構成を有する。
LANケーブルは、n本(nは4以上の整数。)の不平衡ケーブルをn対の信号線としてシース内に収納してなるLANケーブル本体と、LANケーブル本体の少なくとも一方の端部に設けられる、差動信号でデータ通信を行う伝送システム機器側のコネクタジャックと接続されるコネクタプラグとを含む。コネクタプラグは、n対のコンタクトピンと、回路基板と、n対のコンタクトピンと回路基板とを囲むコネクタ本体とを含む。回路基板は、n本の不平衡ケーブルの個々の導体対と電気的に接続される、n対のケーブル側端子と、n対のコンタクトピンの個々の対のコンタクトピンと電気的に接続される、n対のピン側端子と、n個の表面実装型の平衡-不平衡変換器と、ケーブル側端子の個々の対と、表面実装型の平衡-不平衡変換器の個々の変換器と、ピン側端子の個々の対との間を、1対1で電気的に接続する、電気配線とを含む。
を含む回路基板と、
前記n対のコンタクトピンと前記回路基板とを囲むコネクタ本体と、
を含む。
【0020】
本発明に係るLANケーブルの好ましい実施の形態において、コネクタプラグはモジュラコネクタであるとよい。
【0021】
また、本発明に係るLANケーブルの好ましい実施の形態において、モジュラコネクタはRJ45であるとよい。
【0022】
さらに、本発明に係るLANケーブルの好ましい実施の形態において、コネクタプラグは産業用Xコードコネクタであるとよい。
【0023】
また、本発明に係るLANケーブルの好ましい実施の形態において、産業用XコードコネクタはM12シリーズXコードコネクタであるとよい。
【0024】
本発明のもう一つの局面において、LANケーブル用コネクタは以下の構成を有する。
LANケーブル用コネクタは、n本(nは4以上の整数。)の不平衡ケーブルをn対の信号線としてシース内に収納してなるLANケーブル本体の少なくとも一方の端部に取り付けることが可能であり、差動信号でデータ通信を行う伝送システム機器側のコネクタジャックと接続可能なコネクタプラグを含む。コネクタプラグは、n対のコンタクトピンと、回路基板と、n対のコンタクトピンと回路基板とを囲むコネクタ本体とを含む。回路基板は、n本の不平衡ケーブルの個々の導体対と電気的に接続される、n対のケーブル側端子と、n対のコンタクトピンの個々の対のコンタクトピンと電気的に接続される、n対のピン側端子と、n個の表面実装型の平衡-不平衡変換器と、n対のケーブル側端子の個々の対と、n個の表面実装型の平衡-不平衡変換器の個々の変換器と、n対のピン側端子の個々の対との間を、1対1で電気的に接続する、電気配線とを含む。
【0025】
本発明に係るLANケーブル用コネクタの好ましい実施の形態において、コネクタプラグはモジュラコネクタ互換であるとよい。
【0026】
また、本発明に係るLANケーブル用コネクタの好ましい実施の形態において、モジュラコネクタはRJ45であるとよい。
【0027】
さらに、本発明に係るLANケーブル用コネクタの好ましい実施の形態において、コネクタプラグは産業用Xコードコネクタ互換であるとよい。
【0028】
また、本発明に係るLANケーブル用コネクタの好ましい実施の形態において、産業用XコードコネクタはM12シリーズXコードコネクタであるとよい。
【発明の効果】
【0029】
n本の不平衡ケーブルをn対の信号線としてシース内に収納してなる電気式のLANケーブルを使用して、規格上最大100mとされていた伝送距離を超えて、差動信号でデータ通信を行う伝送システム機器間のデータ通信を実現することができる。
【0030】
また、電気式のLANケーブルにおいて、nチャンネルの信号を、電源を必要することなく、100mを超える伝送距離の伝送をすることができる、
【0031】
さらに、平衡ケーブルと不平衡ケーブルとを混在して使用するネットワーク環境を必要としない、シンプルな構成のネットワーク環境を実現することができる。
【0032】
上記した本発明の目的及び利点並びに他の目的及び利点は、以下の実施の形態の説明を通じてより明確に理解される。もっとも、以下に記述する実施の形態は例示であって、本発明はこれに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図3】LANケーブルの一例におけるコネクタの内部構造を示す模式平面図である。
【
図4】LANケーブルの一例におけるコネクタの内部構造を示す模式正面図である。
【
図5】ケーブル本体とコネクタとの電気的接続を示す回路図である。
【
図6】LANケーブルの他の例におけるコネクタの内部構造を示す模式平面図である。
【
図7】LANケーブルの他の例におけるコネクタの内部構造を示す模式正面図である。
【
図8】LANケーブルの他の例におけるコネクタの内部構造を示す模式平面図である。
【
図9】LANケーブルの他の例におけるコネクタの内部構造を示す模式正面図である。
【
図10】LANケーブルの他の例を示す部分斜視図である。
【
図11】LANケーブルの他の例におけるコネクタの内部構造を示す模式平面図である。
【
図12】LANケーブルの他の例におけるコネクタの内部構造を示す模式正面図である。
【
図13】LANケーブルの他の例におけるコネクタの内部構造を示す模式平面図である。
【
図14】LANケーブルの他の例におけるコネクタの内部構造を示す模式正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明に係る同軸コネクタ装置の好ましい実施の形態を、図面に基づいて詳細に説明する。
【0035】
図1は、本発明を適用したLANケーブルの一例を示す模式図、
図2は、同軸コネクタ装置の斜視図、
図3は、LANケーブルの一例におけるコネクタの内部構造を示す模式平面図、そして
図4は、LANケーブルの一例におけるコネクタの内部構造を示す模式正面図である。
【0036】
以下に説明する本実施の形態に係るLANケーブルおよびLANケーブル用コネクタは、ANSI/TIA/EIA-568に定めるCAT6A、CAT6、およびCAT5eに分類される電気式のLANケーブルとして使用できる例である。なお、これは一例であって、本発明はこれに限定されるものではない。
【0037】
図1を参照して、LANケーブル1は、ケーブル本体10とコネクタ20とを含む。ケーブル本体10は、4本の不平衡ケーブルを4対の信号線としてシース内に収納してなるLANケーブルであり、その断面は
図2に示してある。コネクタ20は、ケーブル本体10の両方の端部に取り付けられてよい。この例において、コネクタ20は、差動信号でデータ通信を行う伝送システム機器側のRJ45コネクタジャックと接続可能な、RJ45互換なコネクタプラグである。
【0038】
ケーブル本体10は、4芯(4チャンネル)同軸マルチケーブルであり、例えばポリ塩化ビニルのシース11内に、バインディングテープ12により束ねられた4本の同軸ケーブル13-1、13-2、13-3、13-4を含む。同軸ケーブル13-1、13-2、13-3、13-4は、それぞれ、内部導体15-1、15-2、15-3、15-4と、外部導体16-1、16-2、16-3、16-4とを含む。内部導体と外部導体の間は、例えば発泡ポリエチレンの絶縁体で絶縁され、外部導体の周囲は、例えばポリ塩化ビニルのシースで覆われている。これら同軸ケーブルは不平衡ケーブルに、個々の同軸ケーブルの内部導体および外部導体は不平衡ケーブルの個々の導体対に相当する。
【0039】
図3および
図4を参照して、LANケーブルの一例におけるコネクタの内部構造を説明する。LANケーブル1のコネクタ20は、4対の合計8個のコンタクトピン21-1、22-1、21-2、22-2、21-3、22-3、21-4、22-4と、回路基板25と、4対のコンタクトピンと回路基板とを囲むコネクタ本体29とを含む。
【0040】
コンタクトピン21-1、22-1、21-2、22-2、21-3、22-3、21-4、22-4は、伝送システム機器側のRJ45コネクタジャック(8P8Cモジュラコネクタジャック)に嵌合したとき、コネクタジャック側の個々のコンタクトと電気的に接続される。
【0041】
回路基板25は、4本の同軸ケーブルの個々の導体対15-1、16-1、15-2、16-2、15-3、16-3、15-4、16-4と電気的に接続される、4対のケーブル側端子27-1、28-1、27-2、28-2、27-3、28-3、27-4、28-4、4対のピン側端子23-1、24-1、23-2、24-2、23-3、24-3、23-4、24-4と、4個の表面実装型の平衡-不平衡変換器26-1、26-2、26-3、26-4とを含む。4対のピン側端子23-1、24-1、23-2、24-2、23-3、24-3、23-4、24-4は、4対のコンタクトピン21-1、22-1、21-2、22-2、21-3、22-3、21-4、22-4の個々の対のコンタクトピンと電気的に接続される。
【0042】
この例において、4対のケーブル側端子および4個の表面実装型の平衡-不平衡変換器のうち、2対のケーブル側端子27-1、28-1、27-2、28-2および2個の平衡-不平衡変換器26-1、26-2が、回路基板25の表面に実装され、残りの2対のケーブル側端子27-3、28-3、27-4、28-4、および残りの2個の平衡-不平衡変換器26-3、26-4が回路基板25の表面に実装されている。
【0043】
ケーブル側端子の個々の対は、同軸ケーブル13-1、13-2、13-3、13-4の内部導体15-1、15-2、15-3、15-4の先端をはんだ付けする導電性パッド27-1、27-2、27-3、27-4と、外部導体16-1、16-2、16-3、16-4の周囲を両側から挟む導電性ターミナル28-1、28-2、28-3、28-4の対でよい。また、個々の同軸ケーブル13-1、13-2、13-3、13-4のシースは、ケーブルクランプ30-1、30-2、30-3、30-4によって基板に機械的に固定されてよい。なお、内部導体を導電性パッドにはんだ付けすることに代えて、導電性ターミナルに圧接またはねじ締めすることでもよい。他方、外部導体を導電性ターミナルで挟むことに代えて、はんだ付けすることまたはねじ締めすることでもよい。
【0044】
表面実装型の平衡-不平衡変換器26-1、26-2、26-3、26-4の一例は、MACOM Technology Solutions Inc.の1:1.33, Transmission Line Balun Transformerでよく、この変換器は、特性インピーダンスが100Ωの平衡線路と75Ωの不平衡線路との間の平衡-不平衡変換器として機能する。従来のトロイダルコアを用いた平衡-不平衡変換器とは対照的に、上記した一例の表面実装型の平衡-不平衡変換器は、縦横約4mm角、高さ約3mmの小サイズで低背の電子部品である。複数個の表面実装型の平衡-不平衡変換器を、基板の両面に実装してもなお、これらを囲むコネクタ本体のサイズ(特に高さ)を大きくしなくて済む。なお、上記した具体例はあくまでも一例であって、表面実装に適合するよう設計された他の平衡-不平衡変換器を使用してもよいことは勿論である。
【0045】
図5を参照して、ケーブル本体とコネクタとの電気的接続を、回路図により説明する。回路基板25は、電気配線31-1、32-1、31-2、32-2、31-3、32-3、31-4、31-4、33-1、33-2、33-3、33-4を含む。電気配線31-1、32-1、31-2、32-2、31-3、32-3、31-4、31-4は、表面実装型の平衡-不平衡変換器26-1、26-2、26-3、26-4の個々の変換器の平衡対と、ピン側端子23-1、24-1、23-2、24-2、23-3、24-3、23-4、24-4の個々の対との間を、1対1で電気的に接続する。電気配線33-1、33-2、33-3、33-4は、表面実装型の平衡-不平衡変換器26-1、26-2、26-3、26-4の個々の変換器のシングルエンドと、ケーブル側端子27-1、27-2、27-3、27-4(導電性パッド)との間を、1対1で電気的に接続する。なお、
図5において接地線は図示していないが、接地線は、個々の変換器の接地側とケーブル側端子28-1、28-2、28-3、28-4(導電性ターミナル。
図3、
図4参照)との間を電気的に接続する。
【0046】
LANケーブルおよびコネクタには種々の変更が可能である。
図6および
図7を参照して、LANケーブルの他の例におけるコネクタの内部構造を説明する。LANケーブル2のコネクタ20の構成のうち、
図3および
図4に示したLANケーブル1のコネクタ20の構成と異なる点は、コネクタ本体29に囲まれる回路基板25に実装される表面実装型の平衡-不平衡変換器26-1、26-2、26-3、26-4の配置にある。すなわち、LANケーブル2のコネクタ20において、回路基板25の表面に4個の変換器が、縦2列に実装されている。上記したように表面実装型の平衡-不平衡変換器は小サイズで低背の電子部品であるので、このような配置関係に変更しても、コネクタ本体29の長さの僅かな延長が必要となるだけである。
【0047】
次に、
図8および
図9を参照して、LANケーブルのさらに他の例におけるコネクタの内部構造を説明する。LANケーブル3のコネクタ20の構成のうち、
図6および
図7に示したLANケーブル2のコネクタ20の構成と異なる点は、LANケーブル3のコネクタ20において、回路基板25の表面に4個の表面実装型の平衡-不平衡変換器26-1、26-2、26-3、26-4が、横1列に実装されている点である。このような配置関係に変更すると、コネクタ本体29の幅は約2倍になるが、それでも、変換器は低背の電子部品であるので、コネクタ本体29のサイズは、従来のトロイダルコアを用いた変換器を同様に実装し配置した場合に想定されるコネクタのサイズよりも小さくできる。
【0048】
以上の例において、LANケーブルのケーブル本体にモジュラコネクタ特にRJ45互換のコネクタを取り付ける例を説明したが、異なる形式のコネクタを取り付けてもよい。一例として、産業用Xコードコネクタ互換のコネクタを取り付けてよい。
【0049】
産業用Xコードコネクタは、CAT6Aに分類される10Gbpsの通信速度に対応する産業用のコネクタである。産業用Xコードコネクタの一例は、M12シリーズXコードコネクタであり、4チャンネル8芯のコンタクトピンを有する。そこで、LANケーブルのさらに他の例において、
図10に示すように、LANケーブル4は、モジュラコネクタ互換のコネクタに代替して、4チャンネル8芯のコンタクトピン41-1、42-1、41-2、42-2、41-3、42-3、41-4、42-4を有する、M12シリーズXコードコネクタ互換のコネクタ40を、4芯(4チャンネル)同軸マルチケーブルのケーブル本体10に取り付けてよい。
【0050】
図11および
図12は、LANケーブルの他の例におけるコネクタの内部構造を示している。LANケーブル4のコネクタ40が、M12シリーズXコードコネクタ用のコンタクトピンを備える点、およびスリーブ型のコネクタ本体49の構成を有する点で、RJ45互換のコネクタプラグとは異なる。しかし、コネクタ40の内部構造は、
図3および
図4に示したLANケーブル1のコネクタ20の内部構造と同様であるので、ここでの詳しい説明を省略する。
【0051】
図13および
図14は、LANケーブルの他の例におけるコネクタの内部構造を示している。M12シリーズXコードコネクタ互換のLANケーブル4のコネクタ40の内部構造は、
図6および
図7に示したLANケーブル2のコネクタ20の内部構造と同様であるので、ここでの詳しい説明を省略する。
【0052】
本発明のLANケーブルの一例に従い、ケーブル本体長が100mを超えるLANケーブルを製作し、ケーブル特性特に減衰量を測定した結果を、次に実施例として説明する。
【0053】
[実施例]
カナレ電気株式会社の75Ω同軸マルチケーブル「V4-2.5CHW」150mと、MACOM Technology Solutions Inc.の1:1.33, Transmission Line Balun Transformer「MABA-009092-CT1A40」4個を使用して、
図1~
図5に示すような構成のLANケーブルを製作した。このLANケーブルの減衰量は、40.8dB(500MHz)であり、CAT6A、CAT6、CAT5eに分類されるLANケーブルの規格を満足するものであった。つまり、100mを超えて200m以下の伝送距離を伝送することができる、電気式のLANケーブルを実現することができた。
【0054】
以上の複数の例に基づく本実施の形態の説明において、ケーブル本体が75Ωの同軸マルチケーブル、および100Ωの平衡-75Ωの不平衡変換器を用いる例を記載したが、特性インピーダンスが50Ωの同軸マルチケーブル、および100Ωの平衡-50Ωの不平衡変換器を用いてもよい。また、8P8Cモジュラコネクタ(RJ45)に適合する4芯4チャンネルのLANケーブルは一例にすぎず、将来の5芯5チャンネル以上の多芯多チャンネルのLANケーブルにも本発明を適用できることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、差動信号でデータ通信を行う伝送システム機器を、100mを超える伝送距離で相互接続するためのLANケーブルに広く適用することができる。
【符号の説明】
【0056】
1、2、3、4 LANケーブル
10 ケーブル本体
11 シース
12 バインディングテープ
13-1、13-2、13-3、13-4 同軸ケーブル
15-1、15-2、15-3、15-4 内部導体
16-1、16-2、16-3、16-4 外部導体
20、40 コネクタ
21-1、22-1、21-2、22-2、21-3、22-3、21-4、22-4、41-1、42-1、41-2、42-2、41-3、42-3、41-4、42-4
コンタクトピン
23-1、24-1、23-2、24-2、23-3、24-3、23-4、24-4
ピン側端子
25 回路基板
26-1、26-2、26-3、26-4 表面実装型の平衡-不平衡変換器
27-1、27-2、27-3、27-4 導電性パッド(ケーブル側端子)
28-1、28-2、28-3、28-4 導電性ターミナル(ケーブル側端子)
29、49 コネクタ本体
30-1、30-2、30-3、30-4 ケーブルクランプ
31-1、32-1、31-2、32-2、31-3、32-3、31-4、31-4、33-1、33-2、33-3、33-4 電気配線
【要約】
規格上最大100mとされている伝送距離を超えて、差動信号でデータ通信を行う伝送システム機器間のデータ通信を可能とする。LANケーブルは、n本(nは4以上の整数。)の不平衡ケーブルをn対の信号線としてシース内に収納してなるLANケーブル本体と、LANケーブル本体の少なくとも一方の端部に設けられるコネクタプラグとを含む。コネクタプラグは、n対のコンタクトピンと、回路基板と、これらを囲むコネクタ本体を含む。
回路基板は、不平衡ケーブルの個々の導体対と電気的に接続される、n対の信号線側端子と、n対のコンタクトピンの個々の対のコンタクトピンと電気的に接続される、n対のピン側端子と、n個の表面実装型の平衡-不平衡変換器と、n対の信号線側端子の個々の対と、前記n個の表面実装型の平衡-不平衡変換器の個々の変換器と、前記n対のピン側端子の個々の対との間を、1対1で電気的に接続する、電気配線とを含む。
【選択図】
図4